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  • 特許-難燃性樹脂組成物、及び構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、及び構造体
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/00 20060101AFI20240611BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240611BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20240611BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08G59/00
C08L63/00 Z
C08K5/3492
C08K3/22
H01L23/30 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020095957
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187981
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西川 佳樹
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-165495(JP,A)
【文献】特開2000-309679(JP,A)
【文献】特開平10-008060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00
C08L 63/00
C08K 5/3492
C08K 3/22
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
窒素系難燃剤(ただし、数平均分子量が300~1500でかつ重量平均分子量が650~10000である、フェノール性水酸基を有する化合物とトリアジン誘導体とアルデヒド基を有する化合物との重縮合物を除く)と、を含む、25℃で固形状の難燃性樹脂組成物であって、
前記窒素系難燃剤が、メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物からなる群から選ばれる一または二以上を含み、
前記メチロールメラミン化合物及び/またはその縮合物の含有量が、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、0.1質量%以上10質量%以下であり、
パワーデバイスを構成する部品を封止するために用いられる、難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の難燃性樹脂組成物であって、
当該難燃性樹脂組成物の硬化物における、25℃、1GHzで測定された誘電正接が0.110以下である、難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物であって、
ASTM法によるCTI値が、550V以上である、難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
下記の手順に基づいて求められる、500℃における残留分比が、1.05以上である、難燃性樹脂組成物。
(手順)
当該難燃性樹脂組成物をサンプルA、前記窒素系難燃剤を含まない当該難燃性樹脂組成物をサンプルBとし、これらについて、TGDTAを用いて、窒素雰囲気下で30℃~500℃まで20℃/分で昇温させ、500℃に達した直後の重量残存量を、残留分(重量%)として測定する。
得られた前記サンプルAの残留分A、前記サンプルBの残留分Bを用いて、残留分比を残留分B/残留分Aに基づいて算出する。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記窒素系難燃剤が、粒子状の前記縮合物を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
無機系難燃剤を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記無機系難燃剤が、水酸化アルミニウムを含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、及び構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで難燃性樹脂組成物について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、エポキシ樹脂、メラミン又はメラミンリン酸塩の窒素含有難燃剤を含む、難燃性樹脂組成物が記載されている(特許文献1の請求項、段落0016など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-012837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の難燃性樹脂組成物において、難燃性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、有機系難燃剤及び無機系難燃剤として新たに使用可能な成分を広範囲に探索した結果、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む難燃性樹脂組成物において、有機系難燃剤の一つである窒素系難燃剤として、所定のメチロールメラミン系化合物を用いることによって、その硬化物における難燃性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
窒素系難燃剤と、を含む、25℃で固形状の難燃性樹脂組成物であって、
前記窒素系難燃剤が、メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物からなる群から選ばれる一または二以上を含む、難燃性樹脂組成物が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える、構造体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性に優れた難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る電子装置の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の難燃性樹脂組成物を概説する。
【0012】
難燃性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒素系難燃剤と、を含む、25℃で固形状の難燃性樹脂組成物であって、窒素系難燃剤が、メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物からなる群から選ばれる一または二以上を含むものである。
【0013】
本発明者の知見によれば、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む難燃性樹脂組成物において、窒素系難燃剤として、メチロールメラミン系化合物(メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物をメチロールメラミン系化合物の総称とする)を用いることによって、難燃性樹脂組成物の硬化物における難燃性を向上できることが見出された。
【0014】
詳細なメカニズムは定かでないが、上記のメチロールメラミン系化合物は、エポキシ樹脂などの樹脂成分に適度に相溶し、エポキシ樹脂中に残存する水酸基やエポキシ基が開環して生成する水酸基、また硬化剤としてフェノール樹脂を用いる場合は、フェノール樹脂の水酸基等と架橋反応することによって、高温環境下においても揮発せずに残存し、窒素原子を含む残留分が比較的多いため、これを添加した難燃性樹脂組成物中における難燃性を高められる、と考えられる。
【0015】
一般的に、難燃性樹脂組成物における難燃性を向上させる手段として、水酸化アルミニウムなどの無機系難燃剤を添加することが行われている。しかしながら、水酸化アルミニウムなどの水和金属化合物の添加量を高くすると、反対に誘電率が上昇する恐れがある。また、水酸化アルミニウムに代えてホウ酸亜鉛を用いた場合は耐トラッキング性が低下する恐れがある。
【0016】
これに対して、本実施形態の難燃性樹脂組成物は、窒素系難燃剤としてメチロールメラミン系化合物を含むことによって、水酸化アルミニウムなどの水和金属化合物の添加量を低減させる、又は、水和金属化合物を含まないように構成することが可能である。すなわち、難燃性樹脂組成物の一つの態様は、無機系難燃剤としての水和金属化合物を含まないか、水和金属化合物の含有量が当該難燃性樹脂組成物100質量%に対して5質量%以下となるように構成されてもよい。
【0017】
このような構成とすることによって、25℃、1GHzで測定された誘電正接を、例えば、0.110以下に抑えつつも、難燃性を有する難燃性樹脂組成物を実現することが可能である。
【0018】
本実施形態の難燃性樹脂組成物は、例えば、電子部品の、封止材料、基板材料、放熱材料、絶縁材料等として用いることが可能である。
【0019】
封止材料は、例えば、電子部品パッケージやウェハレベルパッケージを形成する等に用いる封止材、電子部品と基板との間隙に充填する等に用いるモールドアンダーフィル材等が挙げられる。
【0020】
基板材料としては、例えば、難燃性樹脂組成物からなる樹脂シート;難燃性樹脂組成物の硬化物で構成される樹脂基板;難燃性樹脂組成物を繊維基材に含浸させてなるプリプレグ、プリプレグの硬化物で構成される積層板;樹脂シート、樹脂基板及び積層板のいずれかの少なくとも一面に銅層が形成された銅張積層板、銅張積層板の銅層に回路加工されてなる回路基板;等が挙げられる。
【0021】
電子部品は、たとえば、通常の半導体装置(電子部品として半導体素子を備える電子装置)やパワーモジュール(電子部品としてパワー半導体素子を備える電子装置)等を用いることができる。パワー半導体素子は、SiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドのようなワイドバンドギャップ材料を使用したものであり、高電圧・大電流で使用されるように設計されているため、通常のシリコンチップ(半導体素子)よりも発熱量が大きくなるので、さらに高温の環境下で動作することになる。パワー半導体素子には、たとえば、200℃以上や250℃以上等の高温の動作環境下で、長時間の使用が要求される。パワー半導体素子の具体例としては、たとえば、整流ダイオード、パワートランジスタ、パワーMOSFET、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(GTO)、トライアック等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の難燃性樹脂組成物によれば、パワーデバイスを構成する部品(電子部品など)を封止するために用いる封止材料を提供することができる。
【0023】
以下、本実施形態の難燃性樹脂組成物を詳述する。
【0024】
難燃性樹脂組成物は、エポキシ樹脂を一または二以上含む熱硬化性樹脂組成物である。
【0025】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、1分子内に2以上のエポキシ基を有する化合物であり、モノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂,縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
エポキシ樹脂の含有量の下限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。これによって、成形時の難燃性樹脂組成物の流動性を適切に制御できる。一方、エポキシ樹脂の含有量の上限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることが更に好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の線膨張係数を適切な範囲内とすることができる。したがって、高温保管特性を向上することができる。
【0028】
なお、本実施形態において、難燃性樹脂組成物の固形分とは、難燃性樹脂組成物に含まれる成分のうち、溶媒を除く成分の合計のことを示す。
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限と下限を含むことを表す。
【0029】
難燃性樹脂組成物は、エポキシ樹脂の他に、他の熱硬化性樹脂を含んでもよいが、含まなくてもよい。
他の熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、アクリル樹脂、またフェノール誘導体これらの誘導体等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1分子内に反応性官能基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(硬化剤)
上記難燃性樹脂組成物は、硬化剤を含む。
上記硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。硬化剤としては、具体的には、重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、および縮合型の硬化剤などが挙げられる。
【0031】
上記重付加型の硬化剤としては、具体的には、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミン;ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどのポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物;無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などの酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール、アラルキル型フェノール樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。重付加型の硬化剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記触媒型の硬化剤としては、具体的には、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。触媒型の硬化剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記縮合型の硬化剤としては、具体的には、レゾール型フェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂などの尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂などのメラミン樹脂などが挙げられる。縮合型の硬化剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
硬化剤としては、上記具体例のうち、フェノール樹脂系硬化剤を含んでもよい。
上記フェノール樹脂系硬化剤としては、フェノール樹脂を用いることができ、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック樹脂、トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、ノボラック型フェノール樹脂を用いることができる。
【0035】
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂の含有量に応じて適切に設定できる。
【0036】
(窒素系難燃剤)
難燃性樹脂組成物は、メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物からなる群から選ばれる一または二以上を含む。この中でも、メチロールメラミン化合物及び/又はその縮合物を用いることが好ましい。
【0037】
本実施形態によれば、適当な窒素系難燃剤の種類や含有量を選択することによって、難燃性樹脂組成物における難燃性を高められる。また、成形時の流動性、成形後の機械特性など封止材としての物性を向上させることが可能になる。
また既存の難燃剤として使用される水酸化アルミニウムやホウ酸亜鉛の一部または全部に置き換えて上記の窒素系難燃剤を使用することによって、誘電特性や耐トラッキング性を優れたものとすることが可能になる。
【0038】
メチロールメラミン化合物は、1分子内に1個~6個のメチロール基を有するメチロールメラミン、すなわち、メラミン-ホルムアルデヒド初期縮合物を一または二以上含む。
メチロールメラミン化合物は、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、及びヘキサメチロールメラミンからなるメチロールメラミン類から選ばれるは二以上を含む混合物でもよい。
メチロールメラミン化合物は、25℃において粉末状で構成されてもよい。
【0039】
メチロールメラミンは、メラミン中の1~3個のアミノ基に1~6個のホルムアルデヒドが付加反応して、少なくなくとも1個以上の-NHのHを-CHOHに置き換えること、すなわち、メラミンのメチロール化により得られる。
【0040】
窒素系難燃剤としてメラミン単体を使用した場合、ブリードが発生し、成形金型に汚れが生じる恐れがある。
これに対して、メチロール基などのエポキシ樹脂と架橋反応する官能基を備えるメチロールメラミン化合物やその縮合物を用いることによって、このような金型汚れを抑制できる。
【0041】
メチロールメラミン化合物の誘導体は、メラミンがメチロール基以外の官能基を有してもよく、例えば、メチロール基にアルコールが付加してなるアルキルエーテル基を有するものが挙げられる。
【0042】
メチロールメラミン化合物の縮合物は、1種又は2種以上のメチロールメラミン類(メラミン-ホルムアルデヒド初期縮合物)とホルムアルデヒドとの重縮合反応により得られるメラミン-ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。
【0043】
メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物は、メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物の単体で構成されてもよく、他の材料との複合化物で構成されてもよい。
複合化物の一例として、例えば、シリカなどの無機材料が挙げられる。
例えば、メチロールメラミン化合物の縮合物(メラミン樹脂)とシリカとの複合化物は、粒子状であってもよい。複合化物粒子中、その表層の一部又は全体がメチロールメラミン化合物の縮合物で構成されてもよい。
【0044】
メチロールメラミン化合物の縮合物は、25℃において粒子状に構成されてもよい。
粒子状の縮合物は、平均粒子径が、例えば、0.1μm~50μm、好ましくは0.1μm~10μmで構成されてもよい。
【0045】
メチロールメラミン化合物及び/またはその縮合物の含有量の下限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。これによって、難燃性樹脂組成物の難燃性を向上できる。
一方、メチロールメラミン化合物及び/またはその縮合物の含有量の上限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることが更に好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の諸物性のバランスを図ることができる。
【0046】
上記難燃性樹脂組成物は、充填材を含んでもよい。
充填材としては、無機粒子及び/又は有機粒子が用いられる。
無機粒子として、例えば、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ、2次凝集シリカ等のシリカ;アルミナ;チタンホワイト;水酸化アルミニウム;タルク;クレー;マイカ;ガラス繊維等が挙げられる。
【0047】
充填材又は無機粒子の含有量の下限は、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、50質量%以上であることが好ましく、60量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の硬化物における機械的特性を高められる。
一方、充填材又は無機粒子の含有量の上限は、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、93質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の硬化物における難燃性等の諸特性のバランスを図ることができる。
【0048】
(その他の成分)
難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、カップリング剤、流動性付与剤、離型剤、イオン捕捉剤、硬化促進剤、低応力剤、有機充填材、着色剤及び難燃剤等の各種添加剤のうち1種または2種以上を適宜配合することができる。
【0049】
(カップリング剤)
難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、カップリング剤を含んでもよい。
カップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニルシラン;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシシラン;p-スチリルトリメトキシシランなどのスチリルシラン;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリルシラン;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリルシラン;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン;イソシアヌレートシラン;アルキルシラン;3-ウレイドプロピルトリアルコキシシランなどのウレイドシラン;3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン;チタン系化合物;アルミニウムキレート類;アルミニウム/ジルコニウム系化合物などが挙げられる。カップリング剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0050】
(流動性付与剤)
流動性付与剤は、リン原子含有硬化促進剤などの潜伏性を有さない硬化促進剤が、樹脂組成物の溶融混練時に反応することを抑制できる。これにより、難燃性樹脂組成物の生産性を向上できる。
【0051】
(離型剤)
離型剤としては、具体的には、カルナバワックスなどの天然ワックス;モンタン酸エステルワックス、酸化ポリエチレンワックスなどの合成ワックス;ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩;パラフィン;エルカ酸アミドなどのカルボン酸アミドなどが挙げられる。離型剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0052】
(イオン捕捉剤)
上記イオン捕捉剤は、具体的には、ハイドロタルサイト、ハイドロタルサイト状物質などのハイドロタルサイト類;マグネシウム、アルミニウム、ビスマス、チタン、ジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物などが挙げられる。イオン捕捉剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0053】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、たとえば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、上記アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。これらの中でも、硬化性を向上させる観点からはリン原子含有化合物を含むことがより好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0054】
(低応力剤)
低応力剤としては、具体的には、シリコーンオイル、シリコーンゴムなどのシリコーン化合物;ポリブタジエン化合物;アクリロニトリル-カルボキシル基末端ブタジエン共重合化合物などのアクリロニトリル-ブタジエン共重合化合物などを挙げることができる。低応力剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0055】
(着色剤)
着色剤としては、具体的には、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタンなどを挙げることができる。着色剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0056】
(難燃剤)
難燃剤としては、無機系難燃剤を含んでもよい。
無機系難燃剤の具体例は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼン、カーボンブラックなどを挙げることができる。難燃剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0057】
水酸化アルミニウムを含む場合の、メチロールメラミン化合物及び/またはその縮合物の含有量の下限は、例えば、メチロールメラミン化合物、その縮合物、及び水酸化アルミニウムの合計100質量%中、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。これによって、難燃性樹脂組成物の難燃性を向上、誘電率を低減できる。
一方、水酸化アルミニウムを含む場合の、メチロールメラミン化合物及び/またはその縮合物の含有量の上限は、例えば、メチロールメラミン化合物、その縮合物、及び水酸化アルミニウムの合計100質量%中、90質量%以下でもよく、80質量%以下でもよく、70質量%以下でもよい。これにより、難燃性樹脂組成物の諸物性のバランスを図ることができる。
【0058】
なお、水酸化アルミニウムやホウ酸亜鉛などの無機系難燃剤を含まない場合、メチロールメラミン系化合物の含有量は、難燃性樹脂組成物100質量%中、例えば、4.5質量%以上、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上であり、一方、10質量%以下でもよい。メチロールメラミン系化合物の含有量を上記下限値以上とすることにより、難燃性を高められる。
【0059】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物の製造方法について説明する。
難燃性樹脂組成物の製造方法は、例えば、上述の原料成分、を混合する混合工程を含む。
【0060】
混合工程は、原料成分を混合し、混合物を作製工程である。混合する方法は限定されず、用いられる成分に応じて、公知の方法を用いることができる。
混合工程としては、具体的には、上述した難燃性樹脂組成物が含む原料成分を、ミキサーなどを用いて均一に混合する。次いで、ロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、混合物を作製する。
【0061】
難燃性樹脂組成物の製造方法は、得られた混合物を成形する成形工程を含んでもよい。
【0062】
成形する方法としては限定されず、難燃性樹脂組成物の形状に応じて、公知の方法を用いることができる。難燃性樹脂組成物の形状としては限定されず、例えば、顆粒形状、粉末形状、タブレット形状、シート形状などが挙げられる。半導体封止用の難燃性樹脂組成物として、例えば、顆粒状、またはタブレット状であってもよい。
【0063】
難燃性樹脂組成物の形状は、成形方法に応じて選択できる。
顆粒形状とした難燃性樹脂組成物を作製する成形工程としては、例えば、溶融混練後、冷却した混合物を粉砕する工程が挙げられる。なお、例えば、顆粒形状とした難燃性樹脂組成物をふるい分けして、顆粒の大きさを調節してもよい。また、例えば、顆粒形状とした難燃性樹脂組成物を、遠心製粉法またはホットカット法などの方法で処理し、分散度または流動性などを調製してもよい。
また、粉末形状とした難燃性樹脂組成物を作製する成形工程としては、例えば、混合物を粉砕し顆粒形状の難燃性樹脂組成物とした後、該顆粒形状の難燃性樹脂組成物をさらに粉砕する工程が挙げられる。
また、タブレット形状とした難燃性樹脂組成物を作製する成形工程としては、例えば、混合物を粉砕し顆粒形状の難燃性樹脂組成物とした後、該顆粒形状の難燃性樹脂組成物を打錠成型する工程が挙げられる。
【0064】
以下、難燃性樹脂組成物の特性について説明する。
【0065】
難燃性樹脂組成物の硬化物の、25℃、1GHzで測定された誘電正接が、例えば、0.110以下、好ましくは0.090以下、より好ましくは0.085以下である。これにより、誘電率を低減させることが可能になる。これにより、封止材に好適な誘電特性を実現できる。
【0066】
難燃性樹脂組成物の硬化物の、ASTM法によるCTI値が、例えば、550V以上、好ましくは560V以上、より好ましくは570V以上である。これにより、耐トラッキング性を高められる。
【0067】
下記の手順に基づいて求められる、難燃性樹脂組成物の500℃における残留分比が、例えば、1.05以上、好ましくは1.10上、より好ましくは1.15以上である。これにより、難燃性を高められる。
【0068】
(手順)
当該難燃性樹脂組成物をサンプルA、前記環状尿素化合物を含まない当該難燃性樹脂組成物をサンプルBとして準備する。サンプルAの一例は、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を90質量%、環状尿素化合物を10質量%含むものを用いてもよい。
サンプルA、Bについて、TGDTAを用いて、窒素雰囲気下で30℃~500℃まで20℃/分で昇温させ、500℃に達した時の残存重量を残留分(重量%)として測定する。
重量残存量は(重量%)、式:「測定前のサンプルの重量-測定後のサンプルの重量/測定前のサンプルの重量」×100%から算出する。
得られたサンプルAの残留分A、サンプルBの残留分Bを用いて、残留分比について、残留分B/残留分Aに基づいて算出する。
【0069】
本実施形態では、たとえば難燃性樹脂組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、難燃性樹脂組成物の調製方法等を適切に選択することにより、上記誘電正接、CTI値、及び残留分比を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、窒素系難燃剤であるメチロールメラミン系化合物の種類や含有量、水酸化アルミニウム等の水和金属化合物の添加量を適切に調整すること等が、上記誘電正接、CTI値、及び残留分比を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0070】
次に、本実施形態の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える構造体の一例として、電子装置について説明する。
【0071】
本実施形態の電子装置において、難燃性樹脂組成物は、電子部品を封止する封止材(封止樹脂層)を形成するために用いることができる。
封止樹脂層に用いられる。封止樹脂層を形成する方法は限定されないが、例えば、トランスファー成形法、圧縮成形法、インジェクション成形などが挙げられる。これらの方法により、難燃性樹脂組成物を、成形し、硬化させることにより封止用樹脂層を形成することができる。
【0072】
電子部品としては、限定されるものではないが、半導体素子が好ましい。
半導体素子としては、限定されるものではないが、たとえば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子が挙げられる。
これらの中でも、本実施形態の難燃性樹脂組成物が有用な半導体素子としては、金属部分が露出している半導体素子である。これにより、該金属部分の腐食を抑制できる。このような金属部分が露出している半導体素子としてはトランジスタが挙げられる。トランジスタの中でも、ゲート電極が露出しているMISトランジスタの封止に、本実施形態の難燃性樹脂組成物は有効に用いることができる。
【0073】
基材としては、限定されるものではないが、例えば、インターポーザ等の配線基板、リードフレーム等が挙げられる。
【0074】
電子部品と、基材との電気的な接続が必要な場合、適宜接続してもよい。電気的に接続する方法は、限定されるものではないが、例えば、ワイヤボンディング、フリップチップ接続などが挙げられる。これらの中でも、本実施形態の難燃性樹脂組成物が有用な半導体素子としては、金属部分が露出している半導体素子である。これにより、該金属部分の腐食を抑制できる。このような金属部分が露出している電気的接続方法としてはワイヤボンディングが挙げられる。
【0075】
難燃性樹脂組成物によって電子部品を封止する封止樹脂層を形成することで、電子装置が得られる。電子装置としては、限定されるものではないが、半導体素子をモールドすることにより得られる半導体装置が好ましい。
半導体装置の種類としてしては、具体的には、MAP(Mold Array Package)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、CSP(Chip Size Package)、QFN(Quad Flat Non-leaded Package)、SON(Small Outline Non-leaded Package)、BGA(Ball Grid Array)、LF-BGA(Lead Flame BGA)、FCBGA(Flip Chip BGA)、MAPBGA(Molded Array Process BGA)、eWLB(Embedded Wafer-Level BGA)、Fan-In型eWLB、Fan-Out型eWLBなどの種類が挙げられる。
【0076】
以下に、本実施形態に係る難燃性樹脂組成物を用いた電子装置の一例について説明する。
図1は本実施形態に係る電子装置100を示す断面図である。
【0077】
図1の電子装置100は、基材30と、基材30上に設けられた電子部品20と、電子部品20を封止する封止材(封止樹脂層50)と、を備える。
封止樹脂層50は、前述の難燃性樹脂組成物の硬化物により構成される。
電子部品20は、ボンディングワイヤ40によって外部と電気的に接続されてもよい。
【0078】
具体的には、電子部品20は、基材30上にダイアタッチ材10を介して固定されており、電子装置100は、電子部品20上に設けられた図示しない電極パッドからボンディングワイヤ40を介して接続されるアウターリード34を有する。ボンディングワイヤ40は用いられる電子部品20等を勘案しながら設定することができるが、たとえばCuワイヤを用いることができる。
【0079】
以下に、本実施形態に係る難燃性樹脂組成物を用いた電子装置の製造方法について説明する。
本実施形態に係る電子装置の製造方法は、例えば、上述した難燃性樹脂組成物の製造方法により、難燃性樹脂組成物を得る製造工程と、基板上に電子部品を搭載する工程と、前記難燃性樹脂組成物を用いて、前記電子部品を封止する工程と、を備える。
【0080】
電子装置100は、例えば、以下の方法で形成される。
まず、基板上に電子部品を搭載する。具体的には、ダイアタッチ材10を用いてダイパッド32(基板30)上に電子部品20を固定し、ボンディングワイヤ40によりリードフレームであるダイパッド32(基材30)を接続する。これにより、被封止物を形成する。
この被封止物を、難燃性樹脂組成物を用いて封止し、封止樹脂層50を形成することにより、電子装置100が製造される。
電子部品20が封止された電子装置100は、必要に応じて、80℃から200℃程度の温度で10分から10時間程度の時間をかけて難燃性樹脂組成物を硬化させた後、電子機器等に搭載される。
【0081】
電子装置100は、前述の難燃性樹脂組成物を封止樹脂50として用いており、封止樹脂層50と電子部品20、ボンディングワイヤ40、電極パッド22等との間の密着性が十分であり、高温保管特性にも優れる。ボンディングワイヤ40にCuワイヤを用いた場合であっても、十分な高温保管特性等を発揮することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
[1]
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
窒素系難燃剤と、を含む、25℃で固形状の難燃性樹脂組成物であって、
前記窒素系難燃剤が、メチロールメラミン化合物、その誘導体、及びこれらの縮合物からなる群から選ばれる一または二以上を含む、難燃性樹脂組成物。
[2]
[1]に記載の難燃性樹脂組成物であって、
当該難燃性樹脂組成物の硬化物における、25℃、1GHzで測定された誘電正接が0.110以下である、難燃性樹脂組成物。
[3]
[1]又は[2]に記載の難燃性樹脂組成物であって、
ASTM法によるCTI値が、550V以上である、難燃性樹脂組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物であって、
下記の手順に基づいて求められる、500℃における残留分比が、1.05以上である、難燃性樹脂組成物。
(手順)
当該難燃性樹脂組成物をサンプルA、前記窒素系難燃剤を含まない当該難燃性樹脂組成物をサンプルBとし、これらについて、TGDTAを用いて、窒素雰囲気下で30℃~500℃まで20℃/分で昇温させ、500℃に達した直後の重量残存量を、残留分(重量%)として測定する。
得られた前記サンプルAの残留分A、前記サンプルBの残留分Bを用いて、残留分比を残留分B/残留分Aに基づいて算出する。
[5]
[1]~[4]のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記窒素系難燃剤が、粒子状の前記縮合物を含む、難燃性樹脂組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物であって、
無機系難燃剤を含む、難燃性樹脂組成物。
[7]
[6]に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記無機系難燃剤が、水酸化アルミニウムを含む、難燃性樹脂組成物。
[8]
[1]~[7]のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物であって、
パワーデバイスを構成する部品を封止するために用いられる、難燃性樹脂組成物。
[9]
[1]~[8]のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える、構造体。
【実施例
【0083】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0084】
(難燃性樹脂組成物)
表1に示す配合割合に従い、各原料成分をミキサーで混合し、10~100℃で加熱しながら混錬し、冷却後粉砕し、打錠して、タブレット状の難燃性樹脂組成物を作製した。
【0085】
以下、表1中の原料成分の情報を示す。
(無機粒子)
・シリカ1:溶融球状シリカ(マイクロン社製、平均粒子径(d50):24μm)
・シリカ2:溶融球状シリカ(デンカ社製、平均粒子径(d50):10.8μm)
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(長春人造樹脂社製、CNE-195LL)
(硬化剤)
・フェノール樹脂1:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト社製、PR-HF-3)
(硬化促進剤)
・有機ホスフィン1:トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成社製、PP-360)
(水酸化アルミニウム)
・水酸化アルミニウム1:水酸化アルミニウム粉末(住友化学社製、CL-303)
【0086】
(窒素系難燃剤)
・メチロールメラミン1:水溶性メチロールメラミン(日本カーバイド工業社製、R-176、粉末状)
・メチロールメラミン2:水溶性メチロールメラミン(日本カーバイド工業社製、R-260、粉末状)
【0087】
・メチロールメラミンの縮合物1:下記の手順で製造された粉末状のメラミン樹脂
(メチロールメラミンの縮合物1の製造手順)
メラミンとホルムアルデヒドとを、中性~弱アルカリ性下、メラミンに対するホルムアルデヒドの反応モル比((ホルムアルデヒドのモル量)/(メラミンのモル量)が1.4として反応させ、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、標準物質:ポリスチレン換算)で測定される重量平均分子量が350でメラミン樹脂を含む水溶液を、室温放置し、メラミン樹脂の粉末を析出させる。析出物を濾過、乾燥して、粉末化し、粉末状のメラミン樹脂を得た。
【0088】
・メチロールメラミンの縮合物2:メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、エポスターFS、微小フィラー、平均粒子径(d50):0.2μm)
・メチロールメラミンの縮合物3:メラミン樹脂・シリカ複合粒子(日産化学社製、オプトビーズ2000M、平均粒子径:2.0μm)
【0089】
(添加剤)
・着色剤(カーボンブラック、三菱ケミカル社製、カーボン#5)、カップリング剤1(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、チッソ社製、GPS-M)、カップリング剤2(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チッソ社製、S810)、離型剤(モンタン酸エステルワックス、クラリアントケミカルズ社製、WE-4)、イオンキャッチャー(マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート、協和化学工業社製、DHT-4H)、低応力剤(アクリロニトリルブタジエンゴム、宇部興産社製、CTBN1008SP)、及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、FZ3730)
【0090】
【表1】
【0091】
表1中、「-」は、未評価であることを表す。
【0092】
得られた難燃性樹脂組成物について、以下の評価項目を評価した。
【0093】
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で、得られた難燃性樹脂組成物を注入し、スパイラルフロー(単位:cm)を測定した。
【0094】
(ゲルタイム)
175℃に加熱した熱板上で、得られた難燃性樹脂組成物を溶融後、へらで練りながら硬化するまでの時間、すなわちゲルタイム(単位:秒)を測定した。
【0095】
(Tg:ガラス転移温度)
得られた難燃性樹脂組成物を用いて175℃、3分、10MPaで成形し、180℃、4時間の加熱処理を行い、硬化物を得た。この硬化物を用いてガラス転移温度(Tg)を、DMA(動的粘弾性測定)により昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件で測定した。
【0096】
(CTE:線膨張係数)
得られた難燃性樹脂組成物を用いて175℃、4時間の加熱処理を行い、4mm□×20mmの試験片を作製した。得られた試験片について、線膨張係数を測定した。TMA(Thermal Mechanical Analyzer)試験装置(セイコーインスツメルツ社製TMA/SS6100)を用いて、昇温速度5℃/分、荷重0.05N、引張モード、測定温度範囲30~320℃の条件で、熱機械分析(TMA)を2サイクル測定した。得られた結果から、50℃~100℃の範囲におけるZ軸方向の線膨張係数α1の平均値を算出した。なお、線膨脹係数(ppm/℃)は、2サイクル目の値を採用した。
【0097】
(誘電正接、誘電率)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-30」)を用いて、金型に、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で、上記難燃性樹脂組成物を注入成形することにより難燃性樹脂組成物の硬化体を得た。この硬化体は、直径50mm、厚さ3mmであった。
次いで、得られた硬化体について、YOKOGAWA-HEWLETT PACKARD社製Q-METER 4342Aにより、1GHz、室温(25℃)における誘電正接、誘電率を測定した。
【0098】
水酸化アルミニウムを4質量%含む比較例1の誘電率が3.66、誘電正接が0.0101であった。
比較例1中のシリカの一部を水酸化アルミニウムに置き換えて、水酸化アルミニウム8.5%質量含む参考例1の誘電率が3.80、誘電正接が0.0101であった。参考例1の難燃性は比較例1と比べてやや向上するものの、誘電率が上昇する結果が示された。
これに対して、実施例1~3は、誘電率及び誘電正接が参考例1よりも小さく、誘電特性に優れる結果を示した。
【0099】
(CTI:ASTM法)
得られた難燃性樹脂組成物を用いて175℃、4時間の加熱処理を行い、硬化物を作成した。
得られた硬化物を切り出し、125mm×13mm×3.0mmtのサイズの試験片を作成した。得られた試験片について、ASTM(米国材料試験協会)D3638規定により測定する。
試験片の表面に0.1重量%濃度のNHCl水溶液を30秒間隔で1滴ずつ50滴を落として、炭化が発生しないときの最大電圧(CTI(ComparativeTrackingindex))を測定する。CTI値が高いほど電気的特性に優れていることが分かる。
【0100】
水酸化アルミニウムを4質量%含む比較例1のCTI値が600Vあった。
比較例1中のシリカの一部をホウ酸亜鉛に置き換えて、ホウ酸亜鉛8%質量含む参考例2のCTI値が525Vであった。
これに対して、実施例2~4,6は、CTI値が参考例2よりも大きく、耐トラッキング性に優れる結果を示した。
【0101】
(TGDTA)
エポキシ樹脂(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱化学社製、XY-4000)5.62部、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト社製、PR-55617)3.12部、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン、ケイ・アイ化成社製、PP-360))0.32部を混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物90質量%に対して、下記の窒素系難燃剤をそれぞれ10質量%を添加して、評価用組成物1~5を調製した。なお、樹脂組成物そのものを評価用組成物0とした。
窒素系難燃剤として、表1に示すメチロールメラミン1、2、メチロールメラミンの縮合物1~3を使用した。
得られた評価用組成物を、180℃、4h硬化させた後、Nガス雰囲気下、20℃/minの昇温速度で、30℃~500℃まで昇温させ、TGDTA測定(EXSTAR6000 セイコーインスツルメンツ)を行った。
TGDTA測定前、500℃に達した直後のTGDTA測定後において評価用組成物の重量を測定し、TGDTA後の残留分について、式:「測定前の評価用組成物の重量-測定後の評価用組成物の重量/測定前の評価用組成物の重量」×100%から算出した。
評価用組成物0~5の残留分は、それぞれ、25.11重量%、33.21重量%、33.50重量%、31.31重量%、31.01重量%、36.63重量%であった。
評価用組成物0に対する評価用組成物1~4の残留分比は、それぞれ、1.32、1.33、1.24、1.23、1.74であった。
【0102】
(難燃性)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、長さ5inch、幅1/2inch、厚さ1/8inchの試験片を成形し、ポストキュアとして175℃、4時間加熱処理した後、23℃、相対湿度50%の環境下で48時間処理し、UL-94垂直試験に準拠して測定した。
難燃性(V-0)の判定:Fmax 10秒以下
ΣF 50秒以下
2回目接炎後グローの消滅30秒以下
滴下物による綿の着火不可
難燃性(V-1)の判定:Fmax 30秒以下
ΣF 250秒以下
2回目接炎後グローの消滅60秒以下
滴下物による綿の着火不可
難燃性(-)の判定:上記に当てはまらないもの
但し、ΣF:フレーミング時間の合計(秒)
Fmax:フレーミング時間の最大値(秒)
【0103】
実施例1~7の難燃性樹脂組成物は、比較例1と比べて、難燃性や成形特性に優れる結果を示した。このような実施例の難燃性樹脂組成物は、封止材料に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
100 電子装置
10 ダイアタッチ材
20 電子素子
30 基材
32 ダイパッド
34 アウターリード
40 ボンディングワイヤ
50 封止樹脂層
図1