(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20240611BHJP
H01T 13/32 20060101ALI20240611BHJP
H01T 13/54 20060101ALI20240611BHJP
H01T 13/08 20060101ALI20240611BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20240611BHJP
F02B 23/08 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/32
H01T13/54
H01T13/08
F02B19/12 B
F02B23/08 L
(21)【出願番号】P 2020100407
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 大祐
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-72104(JP,A)
【文献】特開2012-38524(JP,A)
【文献】特開2020-53225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 13/32
H01T 13/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出する先端突出部(41)を有する中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記先端突出部が配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室を外部に連通させる噴孔(51)が設けられており、
上記ハウジングと上記プラグカバーとには、互いにプラグ周方向の位置決めを行う位置決め部(7)が設けて
あり、
上記位置決め部は、上記ハウジングの先端部および上記プラグカバーの基端部の少なくとも一方に設けた嵌合凹部(71)と、上記ハウジングおよび上記プラグカバーのうち上記嵌合凹部が設けられた部品と反対側の部品に接合された接合部材(72)とが、互いに嵌合されることにより構成されており、
上記接合部材と上記嵌合凹部との間は、密閉されており、
上記中心電極の上記先端突出部の外周側に、放電ギャップ(G)が形成されている、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
【請求項2】
上記接合部材は、接地電極を構成する部材である、請求項
1に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項3】
上記嵌合凹部は、上記プラグカバーの基端部に設けてある、請求項
1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
上記嵌合凹部は、上記ハウジングの先端部に設けてある、請求項
1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項5】
上記嵌合凹部は、上記ハウジングの先端部と上記プラグカバーの基端部との双方に設けてあり、上記接合部材は、上記ハウジングの上記嵌合凹部と上記プラグカバーの上記嵌合凹部との双方に嵌合している、請求項
1~4のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
ハウジングの先端部にプラグカバーを設けて副燃焼室を形成したスパークプラグがある。プラグカバーには、副燃焼室を外部に連通させる噴孔が形成されている。副燃焼室にて着火した火炎は、噴孔から主燃焼室へ噴出することで、主燃焼室に燃焼が拡がる。ここで、噴孔から噴出する火炎がピストンやシリンダーヘッドに当たると、熱が引かれて熱損失が発生する。この熱損失を防ぐべく、噴孔の中心軸線の方向が所定の方向となるように規定した技術が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたスパークプラグにおいては、プラグ周方向における噴孔の向きについては、何ら考慮されていない。
ピストンの進退方向から見たときの主燃焼室に対する火炎ジェットの噴射方向は、主燃焼室における燃焼の拡がり方に影響しうる。それゆえ、プラグ周方向における噴孔の向きについて考慮されていないスパークプラグは、主燃焼室における燃焼速度の向上の余地があり、燃費向上の余地があるといえる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、燃費向上を図ることができる内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出する先端突出部(41)を有する中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記先端突出部が配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室を外部に連通させる噴孔(51)が設けられており、
上記ハウジングと上記プラグカバーとには、互いにプラグ周方向の位置決めを行う位置決め部(7)が設けてあり、
上記位置決め部は、上記ハウジングの先端部および上記プラグカバーの基端部の少なくとも一方に設けた嵌合凹部(71)と、上記ハウジングおよび上記プラグカバーのうち上記嵌合凹部が設けられた部品と反対側の部品に接合された接合部材(72)とが、互いに嵌合されることにより構成されており、
上記接合部材と上記嵌合凹部との間は、密閉されており、
上記中心電極の上記先端突出部の外周側に、放電ギャップ(G)が形成されている、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
上記内燃機関用のスパークプラグにおいて、上記ハウジングと上記プラグカバーとには、上記位置決め部が設けてある。これにより、プラグカバーに設けられた噴孔の、ハウジングに対するプラグ周方向の位置を決めることができる。それゆえ、内燃機関に対するハウジングの取り付け姿勢が所定の取り付け姿勢となるようにすれば、プラグ周方向における、主燃焼室に対する噴孔の向きを所望の向きに向けることができる。その結果、噴孔から噴射する火炎ジェットの向きを、主燃焼室に対して所望の向きに制御することができ、燃費向上を図ることができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、燃費向上を図ることができる内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図4】実施形態1における、内燃機関に取り付けられたスパークプラグの正面図。
【
図5】実施形態1における、接合前のハウジング及びプラグカバーの正面図。
【
図8】実施形態1における、主燃焼室の天井面の概形を示す斜視図。
【
図9】実施形態1における、主燃焼室を先端側から見た平面図であって、姿勢Aの状態を示す説明図。
【
図10】実施形態1における、主燃焼室を先端側から見た平面図であって、姿勢Bの状態を示す説明図。
【
図11】実施形態1における、スパークプラグの取り付け姿勢による燃焼状態を比較した試験結果を示す線図。
【
図12】実施形態2における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図14】実施形態2における、接合前のハウジング及びプラグカバーの正面図。
【
図15】実施形態3における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図17】実施形態3における、接合前のハウジング及びプラグカバーの正面図。
【
図18】実施形態3の変形例における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図19】
参考形態4における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図20】
参考形態5における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図21】実施形態6における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図22】実施形態7における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図23】実施形態8における、接合部材を貴金属にて構成したスパークプラグの断面図。
【
図24】実施形態8における、中心電極の先端部を貴金属にて構成したスパークプラグの断面図。
【
図25】実施形態8における、中心電極及び接合部材に貴金属チップを設けたスパークプラグの断面図。
【
図26】実施形態8における、貴金属チップの形状の一例を示す平面図。
【
図27】実施形態8における、貴金属チップの形状の他の一例を示す平面図。
【
図28】実施形態8における、放電ギャップの形状の更に他の一例を示す平面図。
【
図29】実施形態9における、接合部材が傾斜したスパークプラグの一例の断面図。
【
図30】実施形態9における、接合部材が傾斜したスパークプラグの一例の断面図。
【
図31】実施形態9における、接合部材が屈曲したスパークプラグの一例の断面図。
【
図32】実施形態9における、接合部材が屈曲したスパークプラグの一例の断面図。
【
図33】実施形態10における、スパークプラグの断面図であって、
図34のXXXIII-XXXIII線矢視断面図。
【
図34】実施形態10における、スパークプラグの断面図であって、
図33のXXXIV-XXXIV線矢視断面図。
【
図35】接合部材の長手方向に直交する断面形状の一例を示す断面図。
【
図36】接合部材の長手方向に直交する断面形状の他の一例を示す断面図。
【
図37】接合部材の長手方向に直交する断面形状の更に他の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグに係る実施形態について、
図1~
図7を参照して説明する。
本形態の内燃機関用のスパークプラグ1は、
図1、
図2に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、プラグカバー5とを有する。
【0011】
中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持される。また、中心電極4は、絶縁碍子3から先端側に突出する先端突出部41を有する。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持する。プラグカバー5は、先端突出部41が配される副燃焼室50を覆うようハウジング2の先端部に設けられている。
【0012】
プラグカバー5には、副燃焼室50を外部に連通させる噴孔51が設けられている。
図1~
図3に示すごとく、ハウジング2とプラグカバー5とには、互いにプラグ周方向の位置決めを行う位置決め部7が設けてある。
【0013】
位置決め部7は、嵌合凹部71と接合部材72とが、互いに嵌合されることにより構成されている。嵌合凹部71は、ハウジング2の先端部およびプラグカバー5の基端部の少なくとも一方に設けてある。接合部材72は、ハウジング2およびプラグカバー5のうち嵌合凹部71が設けられた部品と反対側の部品に接合されている。
【0014】
本形態において、嵌合凹部71は、
図1、
図2、
図5、
図7に示すごとく、プラグカバー5の基端部に設けてある。そして、接合部材72は、
図1、
図2、
図5、
図6に示すごとく、ハウジング2の先端部に接合されている。
また、接合部材72は、接地電極を構成する部材である。つまり、
図1、
図3に示すごとく、接合部材72における、ハウジング2に接合された側と反対側の端部が、中心電極4に対向するように配設されている。そして、この接地電極となる接合部材72と中心電極4との間に、放電ギャップGが形成されている。
【0015】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。そして、
図4に示すごとく、スパークプラグ1の軸方向Zの一端を、内燃機関の燃焼室に配置する。この内燃機関の燃焼室を、上述の「副燃焼室50」に対して、「主燃焼室11」という。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室11に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。また、軸方向Zに沿うスパークプラグ1の中心軸をプラグ中心軸という。プラグ中心軸を中心とする円の周方向をプラグ周方向という。
【0016】
プラグカバー5は、ハウジング2の先端部に溶接等によって接合されている。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態において、プラグカバー5は、副燃焼室50を主燃焼室11と区画している。
図1、
図2に示すごとく、本形態において、プラグカバー5には、複数の噴孔51が形成されている。副燃焼室50にて生じた火炎は、噴孔51から主燃焼室11へ噴出する。
【0017】
本形態において、プラグカバー5は、噴孔51として、一つの軸方向噴孔511と、複数の側方噴孔516とを有する。側方噴孔516は、軸方向噴孔511の外周側に形成され、先端側へ向かうほど外周側へ向かうように傾斜している。本形態において、側方噴孔516は、6個設けられており、プラグ周方向に等間隔に形成されている。
【0018】
軸方向噴孔511は、軸方向Zに開口している。軸方向噴孔511は、中心電極4と軸方向Zに重なる位置に形成されている。軸方向噴孔511は、副燃焼室50側の開口端に、面取り部512を有する。面取り部512は、基端側へ向かうにつれて軸方向噴孔511が拡径するようなテーパ状に形成されている。
【0019】
接合部材72は、ハウジング2の先端面に接合されている。そして、接合部材72は、ハウジング2から、中心電極4の先端部に向かって突出している。接合部材72でもある接地電極が、中心電極4の先端突出部41の外周面に、外周側から対向している。これにより、中心電極4の先端突出部41の外周側に、放電ギャップGが形成されている。
【0020】
プラグカバー5及び接合部材72は、例えばニッケル基合金等にて構成することができる。ハウジング2は、例えば、低炭素鋼等にて構成することができる。また、中心電極4は、耐熱性に優れた金属又は合金からなる母材42と、その内側に配された熱伝導性に優れた金属又は合金からなる芯材43とを有する。母材42は、例えば、ニッケル基合金からなる。芯材43は、例えば、銅又は銅合金からなる。
【0021】
ハウジング2は、
図1、
図4に示すごとく、外周面に取付ネジ部23を有する。
図4に示すごとく、取付ネジ部23が内燃機関のエンジンヘッド等に設けられたプラグホール12の雌ネジ部に螺合することで、内燃機関にスパークプラグ1が取り付けられる。スパークプラグ1は、先端側の一部を主燃焼室11に露出させた状態にて、内燃機関に取り付けられる。
【0022】
プラグ周方向における、プラグホール12に対するスパークプラグ1の取り付け姿勢は、取付ネジ部23の切られ方と、プラグホール12の雌ネジの切られ方とによって決まる。取付ネジ部23は、ハウジング2の外周面に螺旋状に形成されたネジ山及びネジ溝によって構成される。そして、スパークプラグ1の先端側のネジ山及びネジ溝の端部のプラグ周方向の位置によって、プラグホール12に対するスパークプラグ1の取り付け姿勢が決まる。つまり、主燃焼室11に対するスパークプラグ1のプラグ周方向の姿勢が決まる。これは、スパークプラグ1をプラグホール12に取り付ける際には、所定の締め付けトルクにて、取付ネジ部23をプラグホール12の雌ネジに螺合させるためである。
【0023】
そこで、この取付ネジ部23を基準にして、所定のプラグ周方向の位置に噴孔51が配されるように、ハウジング2及びプラグカバー5に位置決め部7を設ける。そうすると、ハウジング2の取付ネジ部23においてスパークプラグ1をプラグホール12に取り付けたとき、プラグカバー5に設けた噴孔51(特に、側方噴孔516)のプラグ周方向の位置及び向きが、主燃焼室11に対して、所定の位置及び向きとなる。
【0024】
本形態において、スパークプラグ1を組み立てるにあたっては、プラグカバー5をハウジング2に固定する前に、
図5、
図6に示すごとく、ハウジング2の先端面21に接合部材72を接合しておく。ハウジング2への接合部材72の接合は、例えば、抵抗溶接、レーザー溶接等にて行うことができる。
【0025】
一方、
図5、
図7に示すごとく、プラグカバー5の基端部には、嵌合凹部71を形成しておく。嵌合凹部71は、例えば、切削加工等にて形成することができる。嵌合凹部71は、基端側に開口するとともに、プラグ径方向の両側にも開口している。ここで、プラグ径方向は、プラグ中心軸に直交する方向である。
【0026】
そして、
図2、
図3に示すごとく、ハウジング2の先端面21に、プラグカバー5の基端面52を当接させる。このとき、嵌合凹部71が形成された部位を除く、プラグカバー5の基端面52の全周を、ハウジング2の先端面21に当接させる。そして、嵌合凹部71を接合部材72に嵌合させる。この状態において、プラグカバー5の基端部とハウジング2の先端部との当接部分を、溶接等にて接合する。さらに、接合部材72と嵌合凹部71の内面とを接合することもできる。
【0027】
このように、ハウジング2にプラグカバー5を取り付けることにより、プラグ周方向における、ハウジング2とプラグカバー5との相対位置関係は、所定の位置関係に決まることとなる。つまり、仮に、位置決め部7がないとすると、すなわち嵌合凹部71及び接合部材72がないとすると、ハウジング2に対するプラグカバー5の、プラグ周方向における位置関係は、任意の位置関係にて取り付けられることとなる。これに対し、位置決め部7(すなわち嵌合凹部71及び接合部材72)を設けることで、予め定めておいた位置関係にて、ハウジング2とプラグカバー5とが正確に固定される。
【0028】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記内燃機関用のスパークプラグ1において、ハウジング2とプラグカバー5とには、位置決め部7が設けてある。これにより、プラグカバー5に設けられた噴孔51の、ハウジング2に対するプラグ周方向の位置を決めることができる。それゆえ、内燃機関に対するハウジング2の取り付け姿勢が所定の取り付け姿勢となるようにすれば、プラグ周方向における、主燃焼室11に対する噴孔51の向きを所望の向きに向けることができる。その結果、噴孔51から噴射する火炎ジェットの向きを、主燃焼室11に対して所望の向きに制御することができ、燃費向上を図ることができる。
【0029】
主燃焼室11に対する噴孔51の向きを適切に制御することが、燃費向上につながるメカニズムにつき、以下に説明する。
上述したように、ピストンの進退方向から見たときの主燃焼室11に対する火炎ジェットの噴射方向は、主燃焼室11における燃焼の拡がり方に影響しうる。この要因の一つとしては、主燃焼室11の形状が挙げられる。すなわち、主燃焼室11の形状は、必ずしも、プラグ中心軸を中心とした一様な回転体形状となっているわけではない。
【0030】
ここで、主燃焼室11におけるピストンと反対側の天井面13が、
図8に示すごとく、いわゆるペントルーフ形状となっている場合を想定する。この場合、例えば、
図9に示すごとく、ペントルーフ型の天井面13の稜線131を挟んで互いに傾斜した2つの傾斜面132に、それぞれ2個の吸気口133と2個の排気口134とが形成されている。これらの吸気口133と排気口134に囲まれた位置であって、稜線131上に、スパークプラグ1が取り付けられている。
【0031】
ここで、
図9のように、噴孔51の一部が、稜線131に沿う向きに配されていることで、そこから噴射される火炎ジェットJaの向きは、稜線131に沿うこととなる。そうすると、少なくともこれらの火炎ジェットJaは、主燃焼室11の天井面111に衝突し難く、主燃焼室11に広がりやすいといえる。したがって、主燃焼室11における燃焼速度を高くすることができる。この
図9に示すスパークプラグ1の取り付け姿勢を、以下において、姿勢Aという。
【0032】
一方、
図10にように、稜線131に沿う向きに噴孔51が配置されない状態で、スパークプラグ1を内燃機関に取り付けた場合には、稜線131に沿う火炎ジェットが得られない。それゆえ、火炎ジェットJbは、天井面111に衝突しやすく、主燃焼室11における燃焼速度を高くし難い。この
図10に示すスパークプラグ1の取り付け姿勢を、以下において、姿勢Bという。
【0033】
それゆえ、姿勢Bとするよりも、姿勢Aとすることで、燃焼速度を高くし、燃費向上を図ることができると考えられる。
【0034】
上述の姿勢Aと姿勢Bとで、実際に内燃機関を、回転数2000rpm、トルク280Nmに相当する条件にて運転して、試験を行った。試験においては、ATDC点火による燃焼にて、燃焼質量割合50%時期(以下において、「MFB50%時期」という。)を、ピストンの上死点にどの程度近づけることができるかにて、比較した。一般に、燃焼重心を進角させるほど、ノックが発生しやすくなるが、ノックを抑制し燃焼重心を所望位置まで進角できれば燃費は向上する。したがって、ノックを抑制しつつMFB50%時期を進角できることが燃費の観点から望ましい。
【0035】
試験の結果を、
図11に示す。同図は、横軸が、MFB50%時期を示し、左側ほど、上死点に近い、すなわち進角側である。つまり、左側ほど、燃焼重心が進角側ということとなる。縦軸は、ノック指標であり、上側ほどノッキング頻度が高い。
【0036】
同図に示すごとく、姿勢Bが、燃焼重心が比較的遅い段階で、ノック頻度が増加するのに対し、姿勢Aは燃焼重心を進角しても、ノック頻度が増加せず、姿勢Bよりもノックを抑制できる。この実験結果から、上述の考察通り、姿勢Bよりも姿勢Aとしたほうが、燃費向上を図りやすいことがわかる。
【0037】
そして、このことは、軸方向Zから見た主燃焼室11に対する噴孔51の向きを制御することで、燃費向上を図ることができることを示している。
また、適切な噴孔51の向きは、主燃焼室11の形状によって変わりうるし、主燃焼室11の形状以外の要因によっても適切な噴孔51の向きは、変わりうる。しかし、いずれにしても、適切な噴孔51の向きがある場合において、噴孔51の向きを制御することができることは、上述の考察及び試験結果からも、重要であることがわかる。そして、本形態のスパークプラグ1によれば、位置決め部7を設けることで、主燃焼室11に対する噴孔51の向きを制御することが可能となり、燃費向上を図ることができる。
【0038】
また、位置決め部7は、嵌合凹部71と接合部材72とが、互いに嵌合されることにより構成されている。これにより、位置決め部7を容易に形成することができる。
【0039】
また、嵌合凹部71はプラグカバー5の基端部に設けてある。これにより、嵌合凹部71の形成を容易に行いやすい。
また、接合部材72は、接地電極を構成する部材である。この場合、接地電極が接合部材72としての機能を兼ねることとなる。それゆえ、部品点数の増加を招くことなく、位置決め部7を形成することができる。
【0040】
以上のごとく、本形態によれば、燃費向上を図ることができる内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
【0041】
(実施形態2)
本形態は、
図12~
図14に示すごとく、嵌合凹部71が、ハウジング2の先端部に設けてある、スパークプラグ1の形態である。
本形態において、プラグカバー5の基端部に、接合部材72が接合されている。そして、プラグカバー5に接合された接合部材72とハウジング2に設けられた嵌合凹部71とが嵌合して、位置決め部7が構成されている。
【0042】
本形態において、スパークプラグ1を組み立てるにあたっては、プラグカバー5をハウジング2に固定する前に、
図14に示すごとく、プラグカバー5の基端面52に接合部材72を接合しておく。プラグカバー5への接合部材72の接合は、例えば、抵抗溶接、レーザー溶接等にて行うことができる。
【0043】
一方、
図14に示すごとく、ハウジング2の先端部には、嵌合凹部71を形成しておく。嵌合凹部71は、例えば、切削加工等にて形成することができる。嵌合凹部71は、先端側に開口するとともに、プラグ径方向の両側にも開口している。
【0044】
そして、
図13に示すごとく、ハウジング2の先端面21に、プラグカバー5の基端面52を当接させる。このとき、嵌合凹部71が形成された部位を除く、プラグカバー5の基端面52の全周を、ハウジング2の先端面21に当接させる。そして、嵌合凹部71を接合部材72に嵌合させる。この状態において、プラグカバー5の基端部とハウジング2の先端部との当接部分を、溶接等にて接合する。さらに、接合部材72と嵌合凹部71の内面とを接合することもできる。
【0045】
その他は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0046】
本形態においては、接地電極となる接合部材72を、副燃焼室50における、より基端側の位置に設けやすくなる。それゆえ、放電ギャップGの位置を、副燃焼室50における、より基端側の位置に設けやすくなる。そのため、放電ギャップG付近に生じる初期火炎を、副燃焼室50内において成長させた後に噴孔51から火炎を噴出させることができる。その結果、噴孔51から主燃焼室11へ向かう火炎ジェットを強化しやすい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0047】
(実施形態3)
本形態は、
図15~
図18に示すごとく、嵌合凹部71が、ハウジング2の先端部とプラグカバー5の基端部との双方に設けてある形態である。
そして、接合部材72は、ハウジング2の嵌合凹部71とプラグカバー5の嵌合凹部71との双方に嵌合している。
【0048】
また、本形態においては、
図15に示すごとく、接合部材72の形状を略L字形状としている。すなわち、接合部材72は、嵌合凹部71に嵌入する嵌入部721と、嵌入部721から中心電極4側へ突出した内側突出部722とを有する。
図15に示す構成では、内側突出部722は、嵌入部721の基端側の一部から中心電極4側へ突出している。ただし、
図18に示すごとく、内側突出部722が嵌入部721の先端側の一部から中心電極4側へ突出した構成とすることもできる。
【0049】
また、本形態においては、接合部材72と中心電極4との双方が、放電ギャップGに面する部位に、貴金属チップ74、44を設けている。
【0050】
本形態において、スパークプラグ1を組み立てるにあたっては、プラグカバー5をハウジング2に固定する前に、
図17に示すごとく、ハウジング2の先端部およびプラグカバー5の基端部との双方に、それぞれ嵌合凹部71を形成しておく。そして、ハウジング2の嵌合凹部71に接合部材72を嵌め込むとともに接合しておく。
【0051】
そして、
図16に示すごとく、ハウジング2の先端面21に、プラグカバー5の基端面52を当接させる。そして、プラグカバー5の嵌合凹部71を接合部材72に嵌合させる。この状態において、プラグカバー5の基端部とハウジング2の先端部との当接部分を、溶接等にて接合する。さらに、接合部材72とプラグカバー5の嵌合凹部71の内面とを接合することもできる。
【0052】
なお、上記の組み立て手順は、先にハウジング2の嵌合凹部71に接合部材72を嵌め込む場合について説明したが、先にプラグカバー5の嵌合凹部71に接合部材72を嵌め込むこともできる。
その他は、実施形態1と同様である。
【0053】
本形態においては、ハウジング2の嵌合凹部71とプラグカバー5の嵌合凹部71との双方に、接合部材72を嵌合させるため、プラグ周方向におけるハウジング2とプラグカバー5との位置ずれをより確実に防ぐことができる。
【0054】
また、接合部材72の嵌入部721を、軸方向Zに長くしやすいため、軸方向Zにおける、副燃焼室50に対する内側突出部722の位置を調整しやすい。それゆえ、放電ギャップGの位置を調整しやすい。すなわち、例えば、
図15に示すごとく、内側突出部722を嵌入部721の基端部から突出させた場合には、噴孔51から遠い位置に、放電ギャップGを形成することができる。一方、例えば、
図18に示すごとく、内側突出部722を嵌入部721の先端部から突出させた場合には、噴孔51に近い位置に、放電ギャップGを形成することができる。
【0055】
前者の場合、副燃焼室50における火炎成長を促し、噴孔51からの火炎ジェットを強化しやすい。後者の場合、噴孔51を通過する気流によって、放電ギャップGにおける放電の伸長を促しやすい。このように、得たい性能等に応じて、放電ギャップGの軸方向Zの位置を調整しやすい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0056】
なお、図示を省略するが、接合部材72の形状として、内側突出部722が、嵌入部721の基端部と先端部との中間の部位から中心電極4側へ突出した形状とすることもできる。
【0057】
(
参考形態4)
本形態は、
図19に示すごとく、接合部材72に接地電極の機能を特に持たせていない形態である。
本形態において、接合部材72は、プラグ径方向の長さが、プラグカバー5の厚みと実質的に同等となっている。つまり、接合部材72は、実施形態1(
図1参照)とは異なり、実質的に副燃焼室50に突出していない。
本形態においては、プラグカバー5に設けた嵌合凹部71と、ハウジング2に接合した接合部材72とによって、位置決め部7が形成されている。
【0058】
本形態において、放電ギャップGは、中心電極4とプラグカバー5の一部との間に形成されている。具体的には、プラグカバー5における軸方向噴孔511の内周端縁の一部が、中心電極4の先端に対向する。そして、軸方向噴孔511の内周端縁の一部と、中心電極4の先端との間に、放電ギャップGが形成される。したがって、プラグカバー5における、軸方向噴孔511の内周端縁の一部が、接地電極の役割を果たす。
その他は、実施形態1と同様である。本形態の場合にも、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
(
参考形態5)
本形態も、
図20に示すごとく、接合部材72に接地電極の機能を特に持たせていない形態である。
本形態において、接合部材72は、プラグ径方向の長さが、ハウジング2の先端部の厚みと実質的に同等となっている。本形態においては、ハウジング2に設けた嵌合凹部71と、プラグカバー5に接合した接合部材72とによって、位置決め部7が形成されている。
その他は、
参考形態4と同様である。本形態の場合にも、
参考形態4と同様の作用効果を得ることができる。
【0060】
(実施形態6)
本形態は、
図21に示すごとく、プラグカバー5の先端から副燃焼室50側へ突出した突出筒状体53を有するスパークプラグ1の形態である。
突出筒状体53は、軸方向Zにおいて、先端部から基端側へ向かうほど縮径するような略円錐形状を有すると共に、Z方向に貫通している。この突出筒状体53の内側の貫通空間が、軸方向噴孔511となる。
その他は、実施形態3と同様である。
【0061】
本形態においては、噴孔51からの火炎ジェットを強化しつつ、放電の引き伸ばしを促しやすい。
その他、実施形態3と同様の作用効果を奏する。
【0062】
(実施形態7)
本形態は、
図22に示すごとく、ハウジング2に設けた嵌合凹部71を、取付ネジ部23が形成された軸方向Zの一部の位置にまで形成した形態である。
すなわち、取付ネジ部23の先端側の一部の内周側の位置に、嵌合凹部71の一部が形成されている。
その他は、実施形態6と同様である。
【0063】
本形態においては、副燃焼室50における、より基端側の位置に、接合部材72を配置することができる。それゆえ、放電ギャップGを、より基端側の位置に形成することができる。これにより、噴孔51からの火炎ジェットをより強化しやすくなる。
その他、実施形態6と同様の作用効果を奏する。
【0064】
(実施形態8)
本形態は、
図23に示すごとく、接合部材72を貴金属740にて構成した形態である。
接地電極としても機能する接合部材72を貴金属740にて構成することで、放電による消耗に対する耐久性を向上させることができる。
貴金属としては、例えば、白金、イリジウム等の金属または合金とすることができる。
【0065】
図23に示す構成においては、中心電極4における、放電ギャップGに面する部位に、貴金属チップ44を設けている。
また、
図24に示すように、接合部材72における、放電ギャップGに面する部位に貴金属チップ74を配置することもできる。また、同図に示すように、中心電極4の先端部の所定長さ分を、貴金属440にて構成することもできる。
【0066】
なお、放電ギャップGに面する部位に、貴金属を配設することで、上記の効果を得ることができる。それゆえ、
図25に示すように、接合部材72と中心電極4における、放電ギャップGに面する部位に、それぞれ貴金属チップ74、44を接合することもできる。
この場合、
図26~
図28に示すように、放電ギャップG側から見た貴金属チップ74、44の形状は、輪郭の全周又は一部を曲線状とした形状とすることもできる。この場合には、耐消耗性を向上させ、放電ギャップGの拡大を抑制することができる。
図示を省略するが、貴金属チップ74、44の輪郭は、長方形状とすることもできる。
その他の構成及び作用効果は、実施形態1と同様である。
【0067】
(実施形態9)
本形態は、
図29~
図32に示すように、接地電極を構成する接合部材72について、放電ギャップG側と、嵌入部721側とで、Z方向の位置を異ならせた形態である。
すなわち、
図29に示すように、接合部材72の長手方向を軸方向Zに対して傾斜させ、放電ギャップG側を基端側に配置した構成とすることができる。また、
図30に示すように、接合部材72の長手方向を軸方向Zに対して傾斜させ、放電ギャップG側を先端側に配置した構成とすることもできる。
【0068】
また、
図31、
図32に示すように、接合部材72を屈曲させた構成とすることもできる。すなわち、接合部材72における嵌入部721と放電ギャップG側の端部との間の中継部723を、嵌入部721に対して基端側、もしくは先端側へ屈曲させた構成とすることもできる。
その他は、実施形態8と同様である。
本形態においても、得たい性能等に応じて、放電ギャップGの軸方向Zの位置を調整しやすい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0069】
(実施形態10)
本形態は、
図33、
図34に示すごとく、接地電極を構成する接合部材72の長手方向を、軸方向Zに直交する方向であって、プラグ径方向とは異なる方向とした形態である。
すなわち、接合部材72の長手方向を、軸方向Zに直交する方向であるとともに、放電ギャップGを挟んだ中心電極4と接地電極との対向方向にも直交する方向としている。
【0070】
本形態において、接合部材72は、ハウジング2の先端部に接合されているとともに、プラグカバー5に形成した嵌合凹部71と嵌合している。
その他は、実施形態1と同様である。
【0071】
本形態においては、接合部材72における長手方向に直交する面に、放電面を設けることができる。それゆえ、放電面積を大きくしやすく、長寿命化を図ることができる。また、副燃焼室50に対する接合部材72の突出量が多少変動しても、放電ギャップGの大きさが変わらないようにすることができる。それゆえ、放電ギャップGの管理を容易に行うことができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0072】
上記実施形態以外にも、種々の形態が考えられる。接合部材72の形状も、種々の形状が考えられる。接合部材72の長手方向に直交する断面形状としては、長方形状の他にも、例えば、
図35に示すような五角形状、
図36に示すような台形状、
図37に示すように曲線輪郭を有する形状等、種々の形状が考えられる。
図35、
図36に示す形状の場合、例えば、内燃機関の膨張行程にて放電を生じさせる場合に、放電を安定させやすい。また、
図37に示す形状の場合、接合部材72の比表面積を小さくし、高温化を防ぎやすいため、プレイグイッションの発生を抑制しやすい。
【0073】
また、位置決め部は、接合部材72を用いずに形成することもできる。例えば、ハウジング及びプラグカバーの一方と他方とに設けた凸部と凹部とを互いに係合することにより、位置決め部を構成することもできる。
【0074】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…スパークプラグ、2…ハウジング、3…絶縁碍子、4…中心電極、41…先端突出部、5…プラグカバー、50…副燃焼室、51…噴孔、7…位置決め部