(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】血液回路用圧力測定器具
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20240611BHJP
A61M 1/14 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61M1/36 105
A61M1/36 100
A61M1/14
(21)【出願番号】P 2020105592
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-529126(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0089484(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液回路を流れる血液の圧力を測定するために前記血液回路に介在して配置されている血液回路用圧力測定器具であって、
前記血液が導入される入口ポート及び前記血液が排出される出口ポートが設けられている下部ハウジング、及び、圧力測定ポートを有する上部ハウジングを含むハウジングと、
前記ハウジングの内部空間であるチャンバについて前記入口ポートから導入され前記出口ポートから排出される前記血液が通過する第一室、及び、圧力測定用の流体が存在する第二室に仕切る可撓性膜であって、前記第一室及び前記第二室の内圧に応じて変位する可撓性膜と、
血流撹拌用リブと、を備
え、
前記入口ポートと前記出口ポートとを結ぶ方向と、前記下部ハウジングと前記上部ハウジングとを結ぶ方向とに互いに直交する方向における前記血流撹拌用リブの長さは、前記入口ポートと前記出口ポートとを結ぶ方向における前記血流撹拌用リブの長さよりも長い、血液回路用圧力測定器具。
【請求項2】
前記血流撹拌用リブは、前記下部ハウジングの底面から前記上部ハウジング側及び前記出口ポート側に向かって傾斜して延びている前側斜面を有している、請求項1に記載の血液回路用圧力測定器具。
【請求項3】
前記血流撹拌用リブは、頂部から前記下部ハウジング側及び前記出口ポート側に向かって傾斜して延びている後側斜面を有している、請求項2に記載の血液回路用圧力測定器具。
【請求項4】
前記下部ハウジングの前記入口ポートから見た左右側壁間の長さは、上方向側に向かって長くなっている、請求項1に記載の血液回路用圧力測定器具。
【請求項5】
前記血流撹拌用リブの頂部は、前記入口ポートの上端より下方向側に位置している、請求項1に記載の血液回路用圧力測定器具。
【請求項6】
前記血流撹拌用リブは、前記入口ポート
と前記出口ポートとを結ぶ方向に対し傾斜する方向に延伸している、請求項1に記載の血液回路用圧力測定器具。
【請求項7】
血液回路を流れる血液の圧力を測定するために前記血液回路に介在して配置されている血液回路用圧力測定器具であって、
前記血液が導入される入口ポート及び前記血液が排出される出口ポートが設けられている下部ハウジング、及び、圧力測定ポートを有する上部ハウジングを含むハウジングと、
前記ハウジングの内部空間であるチャンバについて前記入口ポートから導入され前記出口ポートから排出される前記血液が通過する第一室、及び、圧力測定用の流体が存在する第二室に仕切る可撓性膜であって、前記第一室及び前記第二室の内圧に応じて変位する可撓性膜と、
前記下部ハウジングの底面から
前記上部ハウジング側に向かって延びる血流撹拌用リブと、
を備え、
前記血流撹拌用リブは、前記入口ポート
と前記出口ポートとを結ぶ方向に複数個配置されている、血液回路用圧力測定器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液回路用圧力測定器具に係り、特に、可撓性膜を用いて血液室と空気室を仕切り、血液室の内圧と空気室の内圧に応じた可撓性膜の変位を血液回路の圧力測定に用いる血液回路用圧力測定器具に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体内から血液を取り出し、透析装置等の血液処理装置を用いて血液の対外処理を行い、処理された血液を体内に戻す体外循環療法においては、血液を循環させる血液回路と、血液ポンプと、血液処理装置を含んで構成される。
【0003】
特許文献1には、ハウジングの内部に血液室と空気室を区画するダイアフラム膜を設けた圧力測定部が開示されている。当該圧力測定部であれば、空気室の圧力を測定することで、血圧を間接的に測定できる。また、圧力測定部内の血液がダイアフラム膜により空気に接触せず、血栓が生じる事態が低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧力測定具において、滞留が生じると、血栓が生じてしまう可能性がある。そこで、従来技術に比して血流が滞留しにくい構成の血液回路用圧力測定器具が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具は、血液回路を流れる血液の圧力を測定するために血液回路に介在して配置されている血液回路用圧力測定器具であって、血液が導入される入口ポート及び血液が排出される出口ポートが設けられている下部ハウジング、及び、圧力測定ポートを有する上部ハウジングを含むハウジングと、ハウジングの内部空間であるチャンバについて入口ポートから導入され出口ポートから排出される血液が通過する第一室、及び、圧力測定用の流体が存在する第二室に仕切る可撓性膜であって、第一室及び第二室の内圧に応じて変位する可撓性膜と、入口ポートから流入する血液の流れる方向に対し交差する方向に延伸する血流撹拌用リブと、を備える。
【0007】
上記構成によれば、血流撹拌用リブによって、入口ポートから流入した血流に対し、左右方向成分を加えることができ、ハウジングの周縁部近傍に血流が到達しやすくできる。
【0008】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具において、血流撹拌用リブは、下部ハウジングの底面から上部ハウジング側及び出口ポート側に向かって傾斜して延びている前側斜面を有することが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、入口ポートから流入した血液が血流撹拌用リブに衝突した際に直進方向の流れ成分が維持されやすく、血液の勢いが損なわれてしまうことを防止する。結果、血液室内の血液の流動性が向上し、血液の滞留を生じにくくできる。
【0010】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具において、血流撹拌用リブは、頂部から下部ハウジング側及び出口ポート側に向かって傾斜して延びている後側斜面を有することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、血流撹拌用リブの後側における滞留を生じにくくできる。即ち、血流撹拌用リブにより旋回する血流が血流撹拌用リブの後側に流動した際に、血液の流動性が大きく損なわれてしまうことを防止する。
【0012】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具において、下部ハウジングの入口ポートから見た左右側壁間の長さは、上方向側に向かって長くなることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、血流撹拌用リブによって左右方向に流れた血流を効率的に収束させることができ、ハウジングの周縁部における滞留を生じにくくできる。
【0014】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具において、血流撹拌用リブの頂部は、入口ポートの上端より下方向側に位置することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、血流撹拌用リブ上方向側における血液の滞留を生じにくくできる。
【0016】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具において、血流撹拌用リブは、入口ポートから流入する血液の流れ方向に対し傾斜する方向に延伸していることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、血流に向かいあう長さを長くすることができるため、意図した血流を生じさせやすく、意図しない滞留を生じにくくできる。
【0018】
本開示に係る血液回路用圧力測定器具は、血液回路を流れる血液の圧力を測定するために血液回路に介在して配置されている血液回路用圧力測定器具であって、血液が導入される入口ポート及び血液が排出される出口ポートが設けられている下部ハウジング、及び、圧力測定ポートを有する上部ハウジングを含むハウジングと、ハウジングの内部空間であるチャンバについて入口ポートから導入され出口ポートから排出される血液が通過する第一室、及び、圧力測定用の流体が存在する第二室に仕切る可撓性膜であって、第一室及び第二室の内圧に応じて変位する可撓性膜と、下部ハウジングの底面から上部ハウジング側に向かって延びる血流撹拌用リブを備え、血流撹拌用リブは入口ポートから流入する血液の流れ方向に複数個配置されていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、入口ポートから流入した血流は複数個の血流撹拌用リブにより流れが変更されやすく、血流の撹拌を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
上記構成の血液回路用圧力測定器具によれば、従来技術に比して血流が滞留しにくい構成とできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具が適用される血液回路の構成図の例である。
【
図2】
図1における3つの圧力測定部位の1つについての構成図である。
【
図3】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具の上面図である。
【
図7】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具について、
図4のB-B線で切断した断面図である。
【
図8】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具について、上部ハウジングと可撓性膜を取り外して見た下部ハウジングの斜視図である。
【
図9】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における血流撹拌用リブと血液(白抜矢印)について、下部ハウジングの上面図を用いて示す図である。
【
図10】
図9のB-B線に沿った下部ハウジングの正面断面図である。
【
図11】
図9のC-C線に沿った下部ハウジングの側面断面図である。
【
図12】別の実施の形態の血液回路用圧力測定器具の正面図である。
【
図15】
図12の血液回路用圧力測定器具について、
図12のB-B線で切断した断面図である。
【
図16】
図12の血液回路用圧力測定器具について、上部ハウジングと可撓性膜を取り外して見た下部ハウジングの斜視図である。
【
図17】
図12の血液回路用圧力測定器具における血流撹拌用リブ対と血液(白抜矢印)について、下部ハウジングの上面図を用いて示す図である。
【
図18】
図17に対応する下部ハウジングの正面断面図である。
【
図19】他の実施の形態の血液回路用圧力測定器具の正面図である。
【
図21】
図19の血液回路用圧力測定器具について、上部ハウジングと可撓性膜を取り外して見た下部ハウジングの斜視図である。
【
図22】
図19の血液回路用圧力測定器具における血流撹拌用リブ対と血液(白抜矢印)について、下部ハウジングの上面図を用いて示す模式図である。
【
図23】比較例として、血流撹拌用リブを備えない従来技術の血液回路用圧力測定器具の正面図である。
【
図25】
図23の血液回路用圧力測定器具について、上部ハウジングと可撓性膜を取り外して見た下部ハウジングの斜視図である。
【
図26】血液回路用圧力測定器具における空気齢の計算方法及び表示方法を示す図である。
【
図27】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における空気齢の計算結果を示す図である。
【
図28】他の実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における空気齢の計算結果を示す図である。
【
図29】別の実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における空気齢の計算結果を示す図である。
【
図30】従来技術の血液回路用圧力測定器具における空気齢の計算結果を示す図である。
【
図31】実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における血液流の計算結果を示す図である。
【
図32】他の実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における血液流の計算結果を示す図である。
【
図33】別の実施の形態に係る血液回路用圧力測定器具における血液流の計算結果を示す図である。
【
図34】従来技術の血液回路用圧力測定器具における血液流の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を用いて本開示に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下において、血液回路用圧力測定器具が適用される血液回路として、透析装置について体外循環用の血液回路を述べるが、これは説明のための例示で、透析装置以外の血液浄化装置についての血液回路にも適用可能である。
【0023】
以下に述べる形状、材料、材質、個数、角度等は、説明のための例示であって、血液回路用圧力測定器具の仕様等により、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、透析装置4についての体外循環用の血液回路10の構成図である。血液回路10は、血液8が流れる可撓性のチューブ11に、血液回路用の器具等を接続し、患者と透析装置4を結んで、患者の体外で血液8を流す血液循環回路である。
【0025】
血液回路10は、図示しない患者の動脈から血液8を導入する血液導入口12と、患者の静脈に血液8を戻す血液導出口14と、血液回路10において血液8を上流側の血液導入口12から下流の血液導出口14に向かって血液8を流す血液ポンプ16とを有する。
【0026】
透析装置4は、ダイアライザー(Dialyzer)と呼ばれる透析部6と、透析装置本体部7とを含む。透析部6は、透析膜を介して血液8と透析液との間で物質交換や溶質除去を行う装置である。透析部6は、血液回路10から血液8が導入される透析導入部6aと、透析装置4で浄化した血液8を血液回路10に導出する透析導出部6bとを有する。透析装置本体部7は、透析部6に透析液を供給し、透析部6で物質交換や溶質除去を行った後の廃液を排出する装置である。
【0027】
血液ポンプ16は、患者の動脈の血液8を、血液導入口12を介して血液回路10の流路に脱血し、脱血した血液8を透析装置4に送り込み、透析装置4で浄化した血液8について血液導出口14を介して患者の静脈に返血する流体ポンプである。
【0028】
血液導入口12から透析装置4の間の血液回路10には、脱血圧測定部位18、血液ポンプ16、PD圧測定部位20がこの順に配置され、透析装置4から血液導出口14までの血液回路10には、返血圧測定部位22が設けられる。
【0029】
脱血圧測定部位18、PD圧測定部位20、返血圧測定部位22は、血液回路10を流れる血液8の圧力を監視するために血液回路10中に介在して設けられる。脱血圧測定部位18は、血液導入口12に接続され、脱血状態の血液8の圧力を測定する部位である。脱血圧測定部位18は、血液ポンプ16の上流側なので、血液8の圧力は陰圧となるが、陰圧が強すぎると溶血する恐れがある。PD圧測定部位20は、血液ポンプ16の下流側で透析部6の直前(Pre-Dialyzer)の部位で、血液8の圧力は陽圧であるが、陽圧が強すぎると、血液8の血球がつぶれる恐れがある。返血圧測定部位22は、透析装置4の下流側の部位で、血液8の圧力は陽圧であるが、陽圧が不十分の場合に溶血が生じる恐れがある。
【0030】
圧力トランスデューサ24,26,28は、それぞれ、接続部30を介して、脱血圧測定部位18、PD圧測定部位20、返血圧測定部位22における血液8の圧力を測定する圧力トランスデューサである。
【0031】
血液回路10に介在して設けられる脱血圧測定部位18、PD圧測定部位20、返血圧測定部位22の3つの圧力測定部位の少なくとも1つに、血液回路用圧力測定器具40が設けられる。以下では、特に断らない限り、血液回路用圧力測定器具40を圧力測定器具40と呼ぶ。
【0032】
図2は、血液回路10に介在して配置される3つの圧力測定部位の1つとして、圧力測定器具40が設けられるPD圧測定部位20の構成を示す図である。PD圧測定部位20には、接続部30と、3つのポートを有する圧力測定器具40とが配置される。3つのポートは、下流側の可撓性のチューブ11、上流側の可撓性のチューブ11、圧力トランスデューサ26のそれぞれと接続するためのポートである。
【0033】
接続部30は、圧力トランスデューサ26と圧力測定器具40の1つのポートとを接続する圧力測定用の可撓性のチューブ32と、チューブ32の一端部に設けられたトランスデューサコネクタ34とを備える。接続部30は、さらに、可撓性のチューブ32を閉塞させることができるクリップ36を備える。
【0034】
圧力測定器具40は、ハウジング42と、可撓性膜44とを含んで構成される。ハウジング42は、長軸及び短軸を有し、略回転楕円体の外形を有する。ハウジング42は、下部ハウジング50と、下部ハウジング50に嵌め合わされる上部ハウジング70とを含む分割構造で構成される。可撓性膜44は、ハウジング42の内部空間であるチャンバ46を、血液8が流れずに圧力測定用の空気がある空気室80と、血液8が流れる血液室82(
図7参照)とに仕切る膜体である。可撓性膜44は、第一室としての血液室82の内圧と第二室としての空気室80の内圧に応じて変位する可撓性の膜である。
【0035】
下部ハウジング50には、血液8が導入される入口ポート52、血液8が排出される出口ポート54を有する。入口ポート52は、血液回路10における上流側の可撓性のチューブ11に接続されるポートである。出口ポート54は、下流側の可撓性のチューブ11に接続されるポートである。下部ハウジング50の底面側には、下部ハウジング50の内面から突出する血流撹拌用リブ90が設けられる。血流撹拌用リブ90の構成と作用については後述する。
【0036】
上部ハウジング70には、チャンバ46の空気室80に連通し、可撓性膜44の変位に応じて空気室80の容積が変化することで生じる圧力変化が出力される圧力測定ポート72を有する。圧力測定ポート72は、接続部30の可撓性のチューブ32を介して、圧力トランスデューサ26に接続されるポートである。なお、可撓性のチューブ32を設けずともよい。
【0037】
圧力測定器具40について、
図3以下において、直交する3方向として、流れ軸方向、上下方向、左右方向を示す。流れ軸方向は、血液8の流れる方向に平行な方向である。圧力測定器具40の外形は略回転楕円体であるので、下部ハウジング50と上部ハウジング70が嵌め合わされる嵌め合い面は楕円形状となるが、嵌め合い面の楕円長軸方向が流れ軸方向である。流れ軸方向の2方向を区別する場合は、下部ハウジング50の入口ポート52側を向く方向を一方側、入口ポート52側と反対側を他方側と呼ぶ。上下方向は、下部ハウジング50と上部ハウジング70とを結ぶ方向で、上下方向の2方向を区別する場合は、下部ハウジング50側を向く方向を下方向、上部ハウジング70側を向く方向を上方向と呼ぶ。左右方向は、下部ハウジング50と上部ハウジング70の嵌め合い面の楕円形状における楕円短軸方向である。左右方向の2方向を区別する場合は、流れ軸方向の一方側から見て右手方向が右側で、左手方向が左側である。
【0038】
上部ハウジング70は、
図3、
図4、
図6、
図7に示すように、上方側に凸、下方側に凹のドーム形状を有する。ドーム形状は、入口ポート52と出口ポート54を結ぶB-B線に沿って長い非球面形状で、ほぼ一様の肉厚t70を有し、断面形状で見ると、上凸、下凹の曲面形状で、下凹の内部空間46Uを形成する。ドーム形状の下方端には、楕円環状のフランジ74が設けられる。
【0039】
圧力測定ポート72は、ドーム形状のB-B線上で、入口ポート52と出口ポート54の間の中間位置よりも入口ポート52側に配置され、B-B線に対し直交して上方側に延出するパイプ部分である。圧力測定ポート72であるパイプ部分の下方端は、上部ハウジング70の下凹の曲面形状の肉厚t70を貫通する開口部となる。直交して延出する構造は説明のための例示であり、圧力測定ポート72の延出方向は、ドーム形状の外周面からB-B線に対し平行な方向でもよく、適当に傾斜しても構わない。場合によっては、圧力測定ポート72は、ドーム形状の外周面からB-B線に対し直交して上方側に延出した後、B-B線に対して平行に延出してもよい。
【0040】
下部ハウジング50は、
図3から8に示すように、下方側に凸、上方側に凹のドーム形状を有し、下部ハウジング50の入口ポート52から見た左右側壁間の長さは、上方側に向かって長くなっている。ドーム形状は、入口ポート52と出口ポート54を結ぶB-B線に沿って長い非球面形状で、入口ポート52側、出口ポート54側及び血流撹拌用リブ90の付近を除き、ほぼ一様の肉厚t50を有する。ドーム形状を断面形状で見ると、下凸、上凹の曲面形状で、上凹の内部空間46Dを形成する。上凹の内部空間46Dの底面は、血液室82の底面でもあるので、血液室底面83と呼ぶと、血流撹拌用リブ90の部分は、血液室底面83から上方側に突出する。
【0041】
下部ハウジング50のドーム形状の上方端には、楕円環状のフランジ56が設けられる。下部ハウジング50のフランジ56と上部ハウジング70のフランジ74とが対向する面は、合わせ面48である。フランジ56には、嵌め込み溝58が設けられる。嵌め込み溝58の溝底面60は、可撓性膜44のフランジ(図示せず)が収容されて、下部ハウジング50に取り付けられる取付面である。
【0042】
入口ポート52は、上凹の内部空間46Dの一方側に接続されるパイプ部分であり、出口ポート54は、上凹の内部空間46Dの他方側に接続されるパイプ部分である。入口ポート52であるパイプ部分の他方側の端部は、下部ハウジング50の上凹の曲面形状の肉厚t50を貫通する入口側開口部となる。出口ポート54であるパイプ部分の一方側の端部は、下部ハウジング50の上凹の曲面形状の肉厚t50を貫通する出口側開口部となる。
【0043】
かかる上部ハウジング70、下部ハウジング50の材質としては、血液温度、外気温度、外圧等によってほとんど形状変形を生じない硬質で、さらに血液8に直接的、間接的に触れるため、生体適合性を有する必要がある。かかる硬質の材質としては、塩化ビニル、ポリカーボネイト、ポリプロピレン等の硬質プラスチックを用いることができる。
【0044】
可撓性膜44は、上部ハウジング70の上凸、下凹の曲面形状に合わせた上凸、下凹の曲面形状で、ほぼ一様の厚さt44を有する可撓性の膜状部材である。曲面形状の下方端には、下部ハウジング50の嵌め込み溝58に嵌め込まれる楕円環状のフランジが設けられる。
【0045】
かかる可撓性膜44の材質としては、圧力に対し柔軟に変形する軟質な材質で、さらに血液8に直接的、間接的に触れるため、生体適合性を有する必要がある。かかる軟質の材質としては、塩化ビニル、シリコン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーコンパウンド等を用いることができる。
【0046】
ハウジング42と可撓性膜44とを含む圧力測定器具40の組み立て方は、以下のようにして行われる。すなわち、下部ハウジング50の嵌め込み溝58に、可撓性膜44のフランジを収容し、適当な一体化手段を用いて一体化する。
【0047】
一体化手段としては、一般的な合成樹脂の接合手段としての熱溶融接合や、接着を用いることができる。熱溶融接合としては、高周波溶接、誘導加熱溶接、超音波溶接、摩擦溶接、スピン溶接、熱板溶接、熱線溶接等を用いることができる。接着剤としては、シアノアクリレート系、エポキシ系、ポリウレタン系、合成ゴム系、紫外線硬化型、変性アクリル樹脂系、ホットメルトタイプ等を用いることができる。
【0048】
可撓性膜44が配置された圧力測定器具40においては、可撓性膜44は、ハウジング42の内部空間であるチャンバ46について、空気室80と血液室82とに仕切る。空気室80は、圧力測定用の空気が存在する空間で、上部ハウジング70において肉厚t70を有して下凹の曲面形状を有する外殻の下方側の壁面と、可撓性膜44の上方側の表面との間に形成される空間である。血液室82は、入口ポート52から導入され出口ポート54から排出される血液8が通過する空間で、上部ハウジング70及び下部ハウジング50の双方にまたがっている。
【0049】
可撓性膜44の初期状態の形状を、上部ハウジング70の曲面形状に合わせた曲面形状とすると、可撓性膜44は、下部ハウジング50に設けられる嵌め込み溝58の溝底面60を取付面とするので、初期状態の可撓性膜44は、合わせ面48よりも上方側にある。したがって、初期状態の可撓性膜44は、上部ハウジング70の内部空間46Uを空気室80と、上部ハウジング70における血液室82Uとに仕切る。初期状態の可撓性膜44は、下部ハウジング50の内部空間46Dには配置されないので、空気室80は、合わせ面48の上方側にのみあり、下部ハウジング50の内部空間46Dは、全体が下部ハウジング50における血液室82Dとなる。
【0050】
可撓性膜44は、ハウジング42の内部空間であるチャンバ46を血液室82と空気室80に仕切り、圧力に対し柔軟に変形する膜体であるので、血液室82の内圧、及び空気室80の内圧に応じて、初期状態から変位する。即ち、血液室82が陰圧になる場合、可撓性膜44は血液室82と空気室80との内圧が均衡状態になるまで下方に変位する。
【0051】
上記の可撓性膜44の初期状態の形状は、説明のための例示であって、測定しようとする血液8の圧力範囲や、圧力測定器具40の仕様等によって適宜変更が可能である。例えば、可撓性膜44の初期状態の形状が上に凸の場合、測定できる陰圧の範囲が広いため、陰圧が想定される箇所での圧力測定に適する。一方、可撓性膜44の初期状態の形状が下に凸の場合、測定できる陽圧の範囲が広いため、陽圧が想定される箇所での圧力測定に適する。なお、可撓性膜44の形状は平面形状としてもよい。
【0052】
上記構成の圧力測定器具40によれば、血液室82の形状が略回転楕円体で、流れ軸方向が楕円体の長軸であるので、血液室82の内壁面の曲率半径が入口ポート52及び出口ポート54付近で共に最小になる。これにより、入口ポート52から血液室82に血液8が流入した際の血液8の拡散幅を小さくでき、出口ポート54付近でも血流の幅を狭くできるので、血液8の滞留が生じにくい。
【0053】
血流撹拌用リブ90は、血液室82内での血液8の滞留を抑制するために設けられる部材である。血流撹拌用リブ90は、下部ハウジング50の上凹のドーム形状の外殻の底面側に、幅方向に一本配置された梁状部材である。以下では、特に断らない限り、血流撹拌用リブ90を、リブ90と呼ぶ。
【0054】
リブ90は、下部ハウジング50に一本配置され、延伸する方向は、入口ポート52から流入する血液8の流れに交差している。より具体的には、リブ90は、入口ポート52の流れ方向に対して、垂直、且つ、左右方向に平行であり、延伸する方向に垂直な断面の形状は略三角形である。略三角形断面の三つの面の一つは、上下方向に垂直なリブ底面92で、他の二つはリブ底面92に対し所定の傾斜角度で傾斜する斜面94,96で、二つの斜面94,96の交点である頂部95は、リブ底面92に対し上方側にある。圧力測定器具40の正面図である
図4には、リブ90の略三角形の断面形状を構成するリブ底面92、斜面94,96、頂部95が現れ、底面図である
図5には、リブ90のリブ底面92が現れる。リブ90の中心線として、底面の長手方向の中心線C90-C90を用いると、リブ90の中心線C90-C90は、下部ハウジング50において、入口ポート52の一方端面と出口ポート54の他方端面のちょうど中間の位置に配置される。換言すれば、リブ90は、入口ポート52及び出口ポート54から等距離の位置で、流れ軸方向に対し中心線C90-C90が垂直になるように、配置される。リブ90の左右方向の長さは流れ軸方向の長さに比して長く形成されている。
【0055】
リブ90は、2つの斜面94,96を有する。斜面94は、下部ハウジング50の内部空間46Dの底面で血液室82の底面でもある血液室底面83から上部ハウジング70側及び出口ポート54側に向かって傾斜して延びる前側斜面である。以下では、特に断らない限り、斜面94を前側斜面94と呼ぶ。斜面96は、前側斜面94の頂部95から下部ハウジング側及び出口ポート54側に向かって傾斜して延びる後側斜面である。以下では、特に断らない限り、斜面96を後側斜面96と呼ぶ。リブ90の材質は、下部ハウジング50と同じ材質で形成されている。なお、リブ90が別途形成されて組み付けられてもよい。また、リブ90には溝や貫通孔が形成されておらず、血液8の流れの方向を変更させやすくしているが、流路が膜により閉塞されにくいように溝や貫通孔をリブ90に形成してもよい。また、リブ90以外の部位に溝を形成して流路が膜により閉塞されにくくしてもよい。
【0056】
圧力測定器具40において、入口ポート52から導入され、ハウジング42の内部空間であるチャンバ46を通って出口ポート54から排出される血液8は、最短距離である入口ポート52と出口ポート54に向って流れる直進成分を有する。血液8の流れは、直進成分の他に、チャンバ46の外殻を形成する曲面形状の内壁面側を流れる壁面流成分を有する。直進成分に比較すれば壁面流は通常流速が遅く、血液8の滞留が生じやすい。
【0057】
リブ90は、二点鎖線で示す領域9近辺の血液8の流れを撹拌して、血液8の滞留を抑制するために設けられる。
図9から
図11において、リブ90と血液8(白抜矢印)とを示す。
【0058】
入口ポート52から導入された血液8はリブ90の前側斜面94に突き当たり、流れの方向に左右方向成分及び上方向成分が加わる。血液8の一部はリブ90によって左右方向にガイドされてハウジングの周縁の方向に流れた後にハウジングの壁面に沿って旋回し、血液8の別の一部はリブ90の壁面に沿って上方向に旋回し、入口ポート52から流入する血流に合流する。即ち、リブ90により血流に左右方向の成分が生じ、全体を撹拌するような流れを生じさせる。リブ90の後側斜面96は出口ポート54に流入できなかったリブ90と出口ポート54の間を流動する血液8を上昇させて、出口ポート54へ向かう血流と合流させる。
【0059】
上記において、リブ90は、下部ハウジング50の内部空間46D内において入口ポート52と出口ポート54との間の中間位置に配置される中心線C90-C90が入口ポート52の流れ軸方向に垂直である。これに代えて、リブ90の中心線C90-C90を流れ軸方向に対し所定の角度を有するように配置してもよい。リブ90の中心線C90-C90を流れ軸方向に対し垂直以外の所定の角度を有するように配置することで、中心線C90-C90を流れ軸方向に垂直に配置する場合に比べ、下部ハウジング50の内部空間46D内におけるリブ90の延伸する長さを長くできる。なお、中心線C90-C90が入口ポート52の流れ軸方向に対して交差するように延びつつリブ90の一方側から他方側へも延びていてもよい。また、リブ90は入口ポート52の流れ軸方向や左右方向に断続的に形成されるように複数配置してもよい。また、リブ90は、下部ハウジング50における一方側と他方側のちょうど中間の位置に配置されなくともよく、例えば、入口ポート52側に配置してもよい。
【0060】
図12から
図16に示す圧力測定器具100は、圧力測定器具40における1つのリブ90に代えて、リブ対110として、2個のリブ112,114を、入口ポート52と出口ポート54との間に配置する例を示す図である。
【0061】
圧力測定器具100において、
図12、
図13、
図14は、それぞれ、リブ90を用いる圧力測定器具40における
図4、
図5、
図6に対応する正面図、底面図、側面図である。
図15は、圧力測定器具40における
図7に対応する断面図であり、
図16は、圧力測定器具40における
図8に対応する斜視図である。圧力測定器具100と圧力測定器具40とは、リブ90とリブ対110の違いがあるのみで、他の構成は同じである。例えば、圧力測定器具100の上部ハウジング70は、圧力測定器具40の上部ハウジング70と同じであるので、圧力測定器具100の上面図は省略した。以下では、主に、リブ対110に関連する箇所の説明を行うことにして、圧力測定器具40と同様の構成要素であるチャンバ138、血液室120等についての詳細な説明を省略する。
【0062】
リブ対110を構成する2個のリブ112,114は、リブ90と同様に、延伸する方向に垂直な断面の形状は略三角形である。リブ112の断面における略三角形は、リブ底面122、前側斜面124、後側斜面126、頂部125を有する。リブ114の断面における略三角形は、リブ底面132、前側斜面134、後側斜面136、頂部135を有する。
【0063】
2つのリブ112,114のそれぞれのリブ底面122,132の中心線C112-C112,C114-C114は、流れ軸方向に対し共に同じ所定の角度+θ1を有して配置される。傾斜の角度の符号は、流れ軸方向の一方側から、中心線C112-C112,C114-C114の右側延伸方向へ向かって測る角度をプラス(+)とする。所定の角度の一例を挙げると、+θ1=約+110度である。
【0064】
2つのリブ112,114は、下部ハウジング118における血液室底面83上で、流れ軸方向B-Bに沿って、リブ112,114の間の距離が所定の間隔S1に設定される。そして、所定の間隔S1の下で、入口ポート52側の端部53からリブ112までの距離と、出口ポート54側の端部55とリブ114までの距離とが同じとなるように、配置される。所定の間隔S1は適宜設定してよく、本実施の形態においては一方側と他方側の中間の位置を挟むように2つのリブ112,114が形成されている。
【0065】
図17と
図18は、リブ対110の血流撹拌作用を示す図で、1つのリブ90を用いる圧力測定器具40における
図9と
図10に対応する図である。なお、圧力測定器具40における
図11は、リブ90の中心線C90-C90線に沿った断面図であるが、リブ対110における2つのリブ112,114についての中心線C112-C112及びC114-C114に沿った断面図は、
図11とほぼ同じとなる。したがって、圧力測定器具100においては、圧力測定器具40における
図11に対応する図面を省略した。
図17、
図18において、リブ112,114と血液8(白抜矢印)とを示す。
【0066】
入口ポート52から導入された血液8は、リブ対110の内の一方側に配置されるリブ112の前側斜面124に突き当たる。リブ112は角度を有して延存しており、本実施の形態ではリブ112やリブ114に当たった血流には右側方向成分や上方向成分が強く加わる。リブ112の上方向側を通過した血液8はリブ114によっても右側方向にガイドされ、リブ112により右側方向に変更された流れと合流して出口ポート54に向かう。出口ポート54に流入できなかった血液8はハウジングの壁面に沿って左側に流動し、壁面に沿って入口ポート52側へ向かい、入口ポート52から流入する血流に合流するか、そのまま壁面に沿って再び右側の流れに合流するように旋回する。リブ112の後側斜面126及びリブ114の後側斜面136はリブ112とリブ114の間やリブ114と出口ポート54の間を流動する血液8を上昇させつつ右側へ導き、再び右側を流れる強い血流等の出口ポート54に向かう流れに合流させる。
【0067】
リブ対110における2つのリブ112,114は角度をもって延びており、血流の撹拌範囲を大きくすることができる。リブ対110における2つのリブ112,114における所定の角度θ1と、所定の間隔S1は、圧力測定器具100における血栓抑制仕様等に基づき、リブ対110による適度な撹拌効果を確保する観点から適宜設定されうる。なお、2つのリブ112,114の角度θが互いに異なるようにしてもよい。
【0068】
圧力測定器具140において、
図19、
図20は、それぞれ、リブ対110を用いる圧力測定器具100における
図12、
図13に対応する正面図、底面図である。圧力測定器具100における
図14は側面図であるが、リブ対150を用いる圧力測定器具140における側面図は
図14とほとんど同じであるので、圧力測定器具140における側面図は省略した。また、圧力測定器具100における
図15は、流れ軸方向であるB-B線に沿った断面図であるが、リブ対150を用いる圧力測定器具140におけるB-B線に沿った断面図は、
図15とほとんど同じである。そこで、圧力測定器具140におけるB-B線に沿った断面図は省略した。
図21は、圧力測定器具100における
図16に対応する斜視図である。
【0069】
圧力測定器具140と圧力測定器具100とは、リブ対150とリブ対110の違いがあるのみで、他の構成は同じである。例えば、圧力測定器具140のハウジング156を構成する上部ハウジング70は、圧力測定器具100の上部ハウジング70と同じであるので、圧力測定器具140の上面図は省略した。以下では、主に、下部ハウジング158におけるリブ対150に関連する箇所の説明を行うことにして、圧力測定器具100と同様の構成要素についての詳細な説明を省略する。
【0070】
リブ対150を構成する2個のリブ152,154は、リブ対110と同様に、延伸する方向に垂直な断面の形状は略三角形である。リブ152の断面における略三角形は、リブ底面162、前側斜面164、後側斜面166、頂部165を有する。リブ154の断面における略三角形は、リブ底面172、前側斜面174、後側斜面176、頂部175を有する。
【0071】
2つのリブ152,154のそれぞれのリブ底面162,172の中心線C152-C152,C154-C154は、流れ軸方向に対し、互いに異なる所定の角度+θ2,-θ2を有して配置される。角度の符号は、流れ軸方向の一方側から、中心線C152-C152,C154-C154の右側延伸方向へ向かって測る角度をプラス(+)とし、中心線C152-C152,C154-C154の左側延伸方向へ向かって測る角度をマイナス(-)とする。リブ152の所定の角度は、-θ2に設定され、リブ154の所定の角度は、+θ2に設定される。
【0072】
本実施の形態では、2つのリブ152,154は、下部ハウジング158における血液室底面83上で、流れ軸方向B-Bに沿って、リブ152,154の間の距離を所定の間隔S2に設定される。そして、所定の間隔S2の下で、入口ポート52側の端部53からリブ152までの距離と、出口ポート54側の端部55とリブ154までの距離が同じとなるように、配置される。
【0073】
所定の角度±θ2と、所定の間隔S2は、圧力測定器具140における血栓抑制仕様等に基づき、リブ対150による適度な撹拌効果を確保する観点から設定される。所定の角度+θ2,-θ2の絶対値は、圧力測定器具100における所定の角度+θ1の絶対値と同じに設定してもよい。その場合は、リブ152の所定の角度(-θ2)=(約-110度)、リブ154の所定の角度(+θ2)=(約+110度)である。また、所定の間隔S2は、圧力測定器具100の所定の間隔S1と同じにしてもよい。なお、2つのリブ152,154の角度θは異ならせてもよく、互いの間隔も適宜変更することができる。
【0074】
図22は、リブ対150と血液8(白抜矢印)とを示す図で、圧力測定器具100における
図17に対応する図である。
【0075】
入口ポート52から導入された血液8は、リブ対150の内の一方側に配置されるリブ152の前側斜面164に突き当たる。リブ152は角度を有して延存しており、本実施の形態ではリブ152に当たった血流には左側方向成分や上方向成分が強く加わる。リブ154はリブ152と交差する方向に延在しており、リブ154に当たった血流には右側方向成分や上方向成分が強く加わる。リブ152により左側に導かれた血液8は、左側のハウジング壁面に沿って出口ポート54側に向かって流動したり、リブ152とリブ154の間に向かって流動する。出口ポート54側に向かう血液8の内、出口ポート54に流入できなかった血液8はリブ154の後側斜面176に沿って上方または右側に導かれ、出口ポート54へ向かう強い血流と合流する。リブ152とリブ154の間に向かう血液8は一部がリブ154の前側斜面174に向かい、一部がリブ152の後側斜面166に向かい、各斜面に導かれて上方や右側に向かって流動し、出口ポート54へ向かう強い血流と合流する。リブ152の上方を通過した血液8は一部がリブ154の前側斜面174に衝突することで右側方向成分が加わる。リブ154の前側斜面174に導かれた血液8は右側のハウジング壁面に沿って出口ポート54側に流動する。出口ポート54に流入できなかった血液8はリブ154の後側斜面176に沿って上方または左側に導かれ出口ポート54へ向かう強い血流と合流する。
【0076】
リブ対150における2つのリブ152,154における所定の角度-θ2及び+θ2と、所定の間隔S2は、圧力測定器具140における血栓抑制仕様等に基づき、リブ対150による適度な撹拌効果を確保する観点から設定される。
【0077】
上記構成の圧力測定器具40,100,140の作用効果について、従来技術の圧力測定器具と比較して説明する。
図23から
図25は、リブ90やリブ対110,150を備えない従来技術の圧力測定器具200の構成を示す図である。
【0078】
図23は、圧力測定器具200の正面図であり、圧力測定器具40,100,140についての
図4、
図12、
図19に対応する図である。
図24は、圧力測定器具200の底面図であり、圧力測定器具40,100,140についての
図5、
図13、
図20に対応する図である。
図25は、圧力測定器具200について、上部ハウジング70と可撓性膜44(図示せず)を取り外して見た下部ハウジング210の斜視図であり、圧力測定器具40,100,140についての
図8、
図16、
図21に対応する図である。
【0079】
従来技術の圧力測定器具200は、リブ90やリブ対110,150を備えないことが圧力測定器具40,100,140との相違点なので、ハウジング202が圧力測定器具40,100,140のハウジング42,116,156と異なる。可撓性膜44は、圧力測定器具40,100,140の可撓性膜44と同じである。
【0080】
図25に示すように、下部ハウジング210の上凹の内部空間206Dの血液室底面83には、リブ90やリブ対110,150の部分が突き出さない代わりに、入口ポート52と出口ポート54とを結ぶ溝220が設けられる。
【0081】
溝220は、圧力測定器具200の血液室の内圧が低くなり、可撓性膜44が血液室内で下方側に過度に撓み、血液室底面83に密着すると、入口ポート52から血液8が導入されず、出口ポート54から血液8が排出されなくなることを避けるために設けられる。可撓性膜44が血液室内で下方側に過度に撓んで血液室底面83に密着しても、溝220の底面までは低下しないので、血液8は、入口ポート52から溝220を通って出口ポート54に排出される。圧力測定器具40,100,140においては、血液室底面83からリブ90、リブ対110,150が上方側に突き出している。したがって、血液室の内圧が低くなっても、可撓性膜44は、リブ90、リブ対110,150に下方側を支えられ血液室底面83に密着しない。換言すれば、圧力測定器具40,100,140においては、溝220を設けなくてもよい。
【0082】
次に、圧力測定器具40,100,140と従来技術の圧力測定器具200とについて、血液室内の血液8の流れ方について、シミュレーション計算によって比較した結果を説明する。
図26から
図30に、空気齢の計算方向及びその比較結果を示す。
図31から
図34に、血液流(Stream Line)及び血流速度の比較結果を示す。
【0083】
空気齢とは、血液室82に流入した血液8が到達するまでの時間である。即ち、空気齢が短いほど血流がすぐに到着する部分であるといえる。空気齢のシミュレーション計算は、血液室82を4分割して、その四分の1の血液室82の2つの互いに直交する分割面P,Q内の各位置について行った。
図26に、圧力測定器具40を例として、四分の1の血液室82の2つの互いに直交する分割面P,Qに、斜線を付して示す。
図26における分割面Pは、上部ハウジング70と下部ハウジング50との合わせ面48(
図7参照)である。分割面Qは、合わせ面48に直交する面であって、入口ポート52と出口ポート54とを結ぶB-B線を含む面である。空気齢のシミュレーション計算は、分割面P内の各位置、分割面Q内の各位置について、その位置にある血液8が出口ポート54に排出されるまでの時間を計算し、その結果を、分割面P及び分割面Qにおける空気齢分布として表示することで行った。空気齢の分布は、編目パターンの粗密で示すこととし、空気齢が短い状態から長い状態に向かって、編目パターン密度がゼロの状態から疎の状態となり、次第に密になって黒塗状態へと変化する。
【0084】
図27は、圧力測定器具40における空気齢の分布計算結果であり、
図28は、圧力測定器具100における空気齢の分布計算結果であり、
図29は、圧力測定器具140における空気齢の分布計算結果である。
図30は、従来技術の圧力測定器具200における空気齢の分布計算結果である。
【0085】
これらの図を比較して、従来技術の圧力測定器具200においては、入口ポート52からも出口ポート54からも遠く、内壁面の曲率半径が大きな領域において、空気齢が長くなっていることが分かる。
図9から
図11で領域9と示したのは、この空気齢が長くなる領域である。リブ90を備える圧力測定器具40、及び、リブ対110,150を備える圧力測定器具100,140では、従来技術の圧力測定器具200と比較して、全般的に空気齢が短くなっており、全体が撹拌されやすく、血流の滞留が抑制されていることが分かる。
【0086】
次に、血液流(Stream Line)及び血流速度のシミュレーション計算について述べる。血液流(Stream Line)は、入口ポート52に導入される血液8の流れを、細い血液8の流れの束に分割し、それぞれの細い血液8の流れごとに、流れる経路と血流速度を計算した。計算結果は、流れる経路を三次元表示の流線で示し、血流速度は、流線に濃淡を付すことで示す。
【0087】
図31は、圧力測定器具40における血液流及び血流速度の計算結果であり、
図32は、圧力測定器具100における血液流及び血流速度の計算結果であり、
図33は、圧力測定器具140における血液流及び血流速度の計算結果である。
図34は、従来技術の圧力測定器具200における血液流及び血流速度の計算結果である。
【0088】
これらの図を比較して、
図34においては、上下方向に旋回する流れがあるものの、左右方向に旋回する流れが少なく、側壁面に沿うような流れが形成されていない。一方、
図31は、上下方向に旋回する流れのみならず、左右方向に旋回する流れが生じており、ハウジングの周縁に流れが及びやすくなっている。また、
図32においては、右側で直進的な流れが生じており、左側及び中央において左右方向の旋回流が生じている。また、
図33においては、右側では上下方向の旋回流が生じており、左側では左右方向の旋回流が生じている。即ち、
図31~33においては、左右方向に旋回する流れがあり、側壁面に沿うような流れが形成されている。
【0089】
これらのことから、総合的にみると、圧力測定器具40、圧力測定器具100、圧力測定器具140は、従来技術の圧力測定器具200に比較して、ハウジング周縁部近傍における滞留が生じにくいことが分かる。
【0090】
以上、代表的な実施の形態を述べたが、これは、説明のための例示であって、本開示は上記実施の形態に限るものではない。本開示はリブを介して血流に対して左右方向の流れ成分を付加することで、左右方向の旋回流を生じさせるものであり、適宜構成を変更してもよい。例えば、上記実施の形態において、ハウジングは略回転楕円体の内面形状を有するものとしたが、血液回路用圧力測定器具の仕様等で定められる適当な形状であってもよい。仮に断面が矩形状であっても、本開示におけるリブを設けることで周縁部近傍における流動性を向上させることができる。なお、内面形状は概略曲面状である方が好ましい。また、実施の形態において、入口ポート52は軸線方向がハウジングの中央を向くようにしているが、ハウジングに対して接線方向に入口ポート52が延びていてもよく、どのように位置していてもよい。この場合、リブは入口ポート52から流出した血液と衝突する位置に設けるとよい。また、実施の形態において、出口ポート54は入口ポート52に対向しており、直列に位置しているが、どこに位置していてもよく、例えば、入口ポート52と並列に位置していてもよい。入口ポート52と出口ポート54の位置によって血流は変わるが、重要な点はハウジングの下面に設けたリブを介して血流を変化させ、リブがない場合に血流が形成されにくい部位に血流を形成することである。特にハウジングの周縁領域は滞留が生じやすく、リブにより血流の拡散方向を所定方向に収束させ、周縁領域に血流を形成することが好ましく、また、拡散した血流を出口ポート54に向かう強い流れに導くことが好ましい。なお、このような血流を形成するために、リブの頂部は入口ポート52の下端より上方向側、上端より下方向側に位置するのが好ましく、また入口ポート52を流れる血流に対して交差する方向に延在しているのが好ましい。さらに、実施の形態において、リブの断面形状は略三角形であるが、矩形形状、半円形状、半楕円形状等の断面形状であってもよい。また、リブを設ける位置は下部ハウジングの最底面ではなくともよく、例えば、入口ポート52がハウジングに対して接線方向にある場合、下部ハウジングの側壁に設けてもよい。また、実施の形態においては空気室を設けたが、流体は空気である必要は無く、液体であってもよい。
【符号の説明】
【0091】
4 透析装置、6 透析部、6a 透析導入部、6b 透析導出部、7 透析装置本体部、8 血液、9 領域、10 血液回路、11,32 チューブ、12 血液導入口、14 血液導出口、16 血液ポンプ、18 脱血圧測定部位、20 PD圧測定部位、22 返血圧測定部位、24,26,28 圧力トランスデューサ、30 接続部、34 トランスデューサコネクタ、36 クリップ、40,100,140,200 (血液回路用)圧力測定器具、42,116,156,202 ハウジング、44 可撓性膜、56 フランジ、46,138 チャンバ、46D,206D (下部ハウジングにおける)内部空間、46U (上部ハウジングにおける)内部空間、48 合わせ面、50,118,158,210 下部ハウジング、52 入口ポート、53,55 端部、54 出口ポート、58,220 溝、60 溝底面、70 上部ハウジング、72 圧力測定ポート、80 空気室、82,120 血液室、82D (下部ハウジングにおける)血液室、82U (上部ハウジングにおける)血液室、83 血液室底面、90,112,114,152,154 (血流撹拌用)リブ、92,122,132,162,172 リブ底面、94,124,134,164,174 (前側)斜面、95,125,135,165,175 頂部、96,126,136,166,176 (後側)斜面、110,150 リブ対。