(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】量子デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20240611BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240611BHJP
H10N 60/12 20230101ALI20240611BHJP
【FI】
H01L23/12 Q
H01L23/12 J
H01L23/36 C
H10N60/12 A
(21)【出願番号】P 2020106149
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-05-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】菊池 克
(72)【発明者】
【氏名】宮田 明
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀
(72)【発明者】
【氏名】西 教徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英行
(72)【発明者】
【氏名】難波 兼二
(72)【発明者】
【氏名】山口 彩未
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-252026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0044047(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0058005(US,A1)
【文献】国際公開第2018/212041(WO,A1)
【文献】特表2019-537239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H01L 23/36
H10N 60/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子チップと、
前記量子チップが実装されたインターポーザと、
を有し、
前記インターポーザは、
基板と、
前記基板の前記量子チップの側の面に設けられた配線層と、
を有し、
前記配線層は、少なくとも
予め定められた一部の領域
であり記配線層の前記量子チップと対向する領域に対応する第1の領域において、超伝導材料で形成された第1の金属層と、常伝導材料で形成された第2の金属層とを有するように構成され、
前記配線層の前記第1の領域の外側の領域の少なくとも一部では、前記量子チップの側の面が常伝導材料で形成されている、
量子デバイス。
【請求項2】
少なくとも前記第1の領域において、前記第1の金属層は前記量子チップに最も近い金属層である、
請求項
1に記載の量子デバイス。
【請求項3】
前記配線層において、前記第2の金属層の厚さは、前記第1の金属層の厚さよりも厚い、
請求項
1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項4】
前記インターポーザは、前記量子デバイスが冷却される場合に、前記配線層の前記第1の領域の外側の領域の前記常伝導材料で形成されている面が、冷却機能を有する試料台と接するように、構成されている、
請求項
1から3のいずれか1項に記載の量子デバイス。
【請求項5】
前記インターポーザは、前記量子デバイスが冷却される場合に、少なくとも前記第2の金属層が、冷却機能を有する試料台と接するように、構成されている、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の量子デバイス。
【請求項6】
前記基板には、前記基板を貫通し常伝導材料で形成されたビアが形成され、
前記インターポーザは、前記量子デバイスが冷却される場合に、少なくとも前記インターポーザの前記量子チップとは反対側の面が冷却されるように、構成されている、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の量子デバイス。
【請求項7】
量子デバイスであって、
量子チップと、
前記量子チップが実装されたインターポーザと、
を有し、
前記インターポーザは、
基板と、
前記基板の前記量子チップの側の面に設けられた配線層と、
を有し、
前記配線層は、少なくとも一部の領域において、超伝導材料で形成された第1の金属層と、常伝導材料で形成された第2の金属層とを有するように構成されており、
前記インターポーザは、当該量子デバイスが冷却される場合に、少なくとも前記第2の金属層が、冷却機能を有する試料台と接するように、構成されている、
量子デバイス。
【請求項8】
前記配線層において、前記第2の金属層の厚さは、前記第1の金属層の厚さよりも厚い、
請求項7に記載の量子デバイス。
【請求項9】
前記基板には、前記基板を貫通し常伝導材料で形成されたビアが形成され、
前記インターポーザは、前記量子デバイスが冷却される場合に、少なくとも前記インターポーザの前記量子チップとは反対側の面が冷却されるように、構成されている、
請求項7又は8に記載の量子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、第1の量子ビット基板と第2の量子ビット基板が、並行に伸びる超伝導配線を有するベース基板上にフリップチップ接続された構造を開示している。また、特許文献2は、複数のキュビットを生成するための量子デバイスダイと、量子デバイスダイの動作を制御するための制御回路ダイとが基板上に配置された量子コンピューティングアセンブリ(量子コンピューティングデバイス)を開示している。量子コンピューティングデバイスは、冷却装置を有し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/212041号
【文献】特表2019-537239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
量子チップを用いた量子デバイス(量子計算機)は、10mK(ミリケルビン;絶対温度)程度の極低温に冷却されて動作する。また、断熱性を得るため、量子デバイスの周囲は真空状態となることが多いが、真空は基本的に熱伝導パスとしては機能しない。ここで、上述した特許文献では、配線層が超伝導材料で形成されている。そして、超伝導状態では、超伝導材料は熱をほとんど通さない。したがって、上述した特許文献では、量子チップ(量子ビット基板,量子デバイスダイ)及び量子チップの周囲の冷却が効果的になされないおそれがある。
【0005】
本開示の目的は、このような課題を解決するためになされたものであり、量子チップ及び量子チップの周囲の冷却を効果的に行うことが可能な量子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にかかる量子デバイスは、量子ビットが構成された量子チップと、前記量子チップが実装されたインターポーザと、を有し、前記インターポーザは、基板と、前記基板の前記量子チップの側の面に設けられた配線層と、を有し、前記配線層は、少なくとも一部の領域において、超伝導材料で形成された第1の金属層と、常伝導材料で形成された第2の金属層とを有するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、量子チップ及び量子チップの周囲の冷却を効果的に行うことが可能な量子デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態にかかる量子デバイスの概要を示す図である。
【
図2】比較例にかかる量子デバイスの構成を示す図である。
【
図3】実施の形態1にかかる量子デバイスを示す図である。
【
図4】実施の形態2にかかる量子デバイスを示す図である。
【
図5】実施の形態3にかかる、量子デバイスが試料台に搭載された状態を示す図である。
【
図6】実施の形態4にかかる、量子デバイスが試料台に搭載された状態を示す図である。
【
図7】実施の形態5にかかる、量子デバイスが試料台に搭載された状態を示す図である。
【
図8】実施の形態5にかかるサーマルビアの形状を例示する図である。
【
図9】実施の形態5にかかるサーマルビアの形状を例示する図である。
【
図10】実施の形態6にかかる抑え部材を例示する図である。
【
図11】実施の形態6にかかる抑え部材を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示にかかる実施の形態の概要)
量子コンピューティングとは、量子力学的な現象(量子ビット)を用いてデータを操作する領域である。また、量子力学的な現象とは、複数の状態の重ね合わせ(量子変数が複数の異なる状態を同時にとる)、もつれ(複数の量子変数が空間または時間に関わらず関係する状態)などとなる。後述する量子チップには、量子ビットを生成する量子回路が設けられている。
以下、本開示の実施形態の説明に先立って、本開示にかかる実施の形態の概要について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる量子デバイス1の概要を示す図である。
図1は、本実施の形態にかかる量子デバイス1を横から見た図(断面図)である。
【0010】
図1に示すように、量子デバイス1は、量子チップ10と、量子チップが実装されたインターポーザ20とを有する。量子チップ10は、共振器(ループ回路及びループ回路に接続された導電部材)等の量子回路(図示せず)を有する。量子回路は、超伝導における量子状態において、共振器を用いた処理を行う。このように、量子チップ10は、量子回路を含み、量子状態を用いた処理を行う。つまり、量子デバイス1(量子チップ10)によって、量子計算機(量子コンピュータ)が構成され得る。
【0011】
インターポーザ20は、インターポーザ基板22(基板)と、インターポーザ配線層30(配線層)とを有する。インターポーザ配線層30は、インターポーザ基板22の、量子チップ10の側の面22aに設けられている。なお、
図1では、量子チップ10はインターポーザ配線層30に、直接、接しているように描かれている。しかしながら、後述するように、例えば、量子チップ10は、バンプ等を介して、インターポーザ20(インターポーザ配線層30)に実装されていてもよい。バンプは、例えば、後述するような超伝導材料で形成されていてもよい。
【0012】
インターポーザ配線層30は、複数の金属層を有している。具体的には、インターポーザ配線層30は、超伝導材料で形成された超伝導材料層32(第1の金属層)と、常伝導材料で形成された常伝導材料層34(第2の金属層)とを有する。ここで、超伝導材料とは、後述するような、極低温(10mK程度)で超伝導状態となる材料である。また、常伝導材料とは、後述するような、全ての温度域で超伝導状態とならない材料である。
【0013】
なお、
図1では、インターポーザ配線層30は、全ての領域で超伝導材料層32と常伝導材料層34とで構成されているが、このような構成に限られない。少なくとも一部の領域において、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32と、常伝導材料層34とを有するように構成されている。例えば、少なくとも予め定められた一部の領域(第1の領域)において、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32と、常伝導材料層34とを有するように構成されていてもよい。また、
図1では、超伝導材料層32の方が常伝導材料層34よりも量子チップ10に近いように描かれているが、超伝導材料層32と常伝導材料層34との位置関係は、このような構成に限られない。
【0014】
なお、本実施の形態において、インターポーザ基板22等の基板として、シリコン基板が用いられるが、基板の材料はこれに限られない。例えば、インターポーザ基板22等の基板には、サファイヤ基板や化合物半導体基板(IV族、III-V族、II-VI族)又はガラス基板などが用いられてもよい。これらは、単結晶である方が望ましいが多結晶やアモルファスでも構わない。また、インターポーザ基板22の表面は、シリコン酸化膜(SiO2、TEOS膜等)で覆われていることが好ましい。また、本実施の形態において、超伝導材料は、例えば、ニオブ(Nb)、ニオブ窒化物、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、鉛(Pb)、錫(Sn)、レニウム(Re)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、チタン窒化物、タンタル(Ta)、または、これらのいずれかを含む合金である。また、本実施の形態において、常伝導材料は、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、または、これらのいずれかを含む合金である。なお、超伝導状態を実現するため、冷凍機により実現される例えば10mK(ミリケルビン)程度の温度環境において、量子デバイス1は利用される。
【0015】
以下、比較例を用いて、本実施の形態にかかる量子デバイス1の効果を説明する。
図2は、比較例にかかる量子デバイス900の構成を示す図である。
図2は、比較例にかかる量子デバイス900を示す断面図である。量子デバイス900は、量子チップ910と、インターポーザ920とを有する。量子チップ910の構成は、上述した量子チップ10の構成と実質的に同様であってもよい。量子チップ910は、インターポーザ920に実装されている。具体的には、量子チップ910は、インターポーザ920にフリップチップ接続している。つまり、量子チップ910は、バンプ902を介してインターポーザ920と接続している。
【0016】
量子チップ910は、量子チップ基板912と、超伝導配線層914とを有する。超伝導配線層914は、量子チップ基板912のインターポーザ920の側に設けられている。超伝導配線層914は、上述したような超伝導材料で形成されている。また、インターポーザ920は、インターポーザ基板922と超伝導配線層924とを有する。超伝導配線層924は、インターポーザ基板922の量子チップ910の側の面に設けられている。超伝導配線層924は、超伝導配線層914と、バンプ902を介して接続されている。また、超伝導配線層924は、端子710を介して外部基板700と接続されている。
【0017】
また、量子デバイス900は、冷却機能を有する試料台800に搭載されている。比較例では、インターポーザ920の量子チップ910とは反対側の面が、試料台800と接している。試料台800によって、量子デバイス900は、極低温に冷却され得る。
【0018】
上述したように、超伝導状態を実現するため、量子デバイス900の周囲は真空状態となる。この場合、量子チップ910は、インターポーザ920及びバンプ902を介してのみ、試料台800によって熱を奪われる。ここで、インターポーザ920の量子チップ910の側の面には、超伝導配線層924が設けられている。そして、上述したように、超伝導材料は、極低温(例えば10mK)の超伝導状態では、ほとんど熱を通さない断熱状態となる。したがって、超伝導状態において、超伝導配線層924は熱をほとんど通さない。そのため、試料台800を用いてインターポーザ920を介して量子チップ910及びその近傍の冷却を行っても、冷却が効率的に行われないおそれがある。
【0019】
これに対し、本実施の形態にかかる量子デバイス1において、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32と常伝導材料層34とを有する。そして、常伝導材料は、極低温でも熱を通す。つまり、極低温において、常伝導材料の熱伝導度は、超伝導材料の熱伝導度よりも非常に高い。したがって、常伝導材料層34が、量子チップ10及び量子チップ10の近傍の熱放散に寄与することとなる。これにより、冷却機能を有する試料台を用いてインターポーザ20を介して量子チップ10及びその周囲の冷却を行う場合に、試料台と量子チップ10との間の熱伝導を、比較例と比較して改善することができる。したがって、本実施の形態にかかる量子デバイス1は、量子チップ及び量子チップの周囲の冷却を効果的に行うことが可能となる。
【0020】
(実施の形態1)
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0021】
図3は、実施の形態1にかかる量子デバイス1を示す図である。
図3は、実施の形態1にかかる量子デバイス1を示す断面図である。上述したように、量子デバイス1は、量子チップ10と、インターポーザ20とを有する。量子チップ10は、インターポーザ20にフリップチップ接続している。つまり、量子チップ10は、バンプ2を介してインターポーザ20と接続している。
【0022】
量子チップ10は、量子チップ基板12と、超伝導配線層14とを有する。量子チップ基板12は、例えば上述したような、シリコン基板等で形成されている。超伝導配線層14は、上述したようなニオブ(Nb)等の超伝導材料で形成されている。超伝導配線層14は、量子チップ基板12のインターポーザ20の側に設けられている。超伝導配線層14には、上述した量子回路が形成されている。また、超伝導配線層14は、グランド電極の回路が形成されていてもよい。また、上述した量子回路のうち、ジョセフソン接合に用いる材料は、アルミニウム(Al)が好ましいが、他の超伝導材料でもよい。
【0023】
インターポーザ20は、インターポーザ基板22と、インターポーザ配線層30と、インターポーザ配線層24と、貫通ビア26とを有する。インターポーザ配線層24は、インターポーザ基板22の、量子チップ10とは反対側の面22bに設けられている。インターポーザ配線層24は、上述した超伝導材料を含んでもよい。この場合、インターポーザ配線層24は、超伝導配線層14又はインターポーザ配線層30(超伝導材料層32)と同じ超伝導材料を含んでもよいし、異なる超伝導材料を含んでもよい。また、インターポーザ配線層24は、常伝導材料を含んでもよい。この場合、インターポーザ配線層24は、インターポーザ配線層30(常伝導材料層34)と同じ常伝導材料を含んでもよいし、異なる常伝導材料を含んでもよい。例えば、インターポーザ配線層24は、表面が銅(Cu)、銅(Cu)の下にチタン(Ti)を含むことが好ましい。例えば、インターポーザ基板22がシリコンを含む場合には、インターポーザ20の反対側の面22bについては、Cu/Ti/SiO2/Si(インターポーザ基板22)という構成が好ましい。
【0024】
また、
図3に示したインターポーザ20は、インターポーザ基板22の両面に配線層を有する2層構造で構成されているが、配線層は、3層以上の多層配線構造で構成されてもよい。この場合、例えば、インターポーザ配線層24のインターポーザ基板22とは反対側に、さらに、貫通ビアが形成された基板を設け、その基板の、インターポーザ配線層24とは反対側の面に、配線層を設けてもよく、絶縁層と絶縁層を挟むように配線層を設け、絶縁層間をつなぐビアにて多層配線構造としてもよい。
【0025】
貫通ビア26は、インターポーザ基板22に設けられている。貫通ビア26は、インターポーザ20がシリコン基板にビアとして形成される場合、いわゆる(TSV;(Through Silicon Via)と呼ばれ、基板を貫通する導体が形成されることによって構成されてもよい。貫通ビア26は、インターポーザ基板22を貫通するように形成されている。そして、貫通ビア26によって、インターポーザ配線層24とインターポーザ配線層30とが電気的に接続されている。なお、貫通ビア26は、上述した超伝導材料を含んでもよい。この場合、貫通ビア26は、超伝導配線層14等と同じ超伝導材料を含んでもよいし、異なる超伝導材料を含んでもよい。あるいは、貫通ビア26は、上述した常伝導材料を含んでもよい。この場合、貫通ビア26は、インターポーザ配線層24等と同じ常伝導材料を含んでもよいし、異なる常伝導材料を含んでもよい。例えば、貫通ビア26は、φ50[μm]の貫通孔の側壁にSiO2(例えば、熱酸化膜)を形成し、チタン(Ti)を密着層として銅(Cu)を充填されたものである。
【0026】
インターポーザ配線層30には、量子回路が形成されていてもよい。例えば、インターポーザ配線層30には、共振器(ループ回路)に磁場を印加する磁場印加回路(図示せず)が形成されていてもよい。また、インターポーザ配線層30には、共振器(導電部材)から量子状態の情報を読み出す読み出し回路(図示せず)が形成されていてもよい。また、インターポーザ配線層30には、グランド電極の回路が形成されていてもよい。つまり、インターポーザ配線層30には、量子回路としてグランド電極の回路が形成されていてもよい。このように、インターポーザ配線層30に量子回路が形成されている場合、インターポーザ20は、量子インターポーザとして機能する。
【0027】
インターポーザ配線層30は、複数の金属層を有する。具体的には、上述したように、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32と、常伝導材料層34とを有する。超伝導材料層32は、超伝導配線層14と同じ超伝導材料を含んでもよいし、異なる超伝導材料を含んでもよい。常伝導材料層34は、インターポーザ配線層24と同じ常伝導材料を含んでもよいし、異なる常伝導材料を含んでもよい。
【0028】
また、インターポーザ配線層30に回路が形成されている場合、積層された超伝導材料層32と常伝導材料層34とによって、回路が形成されている。つまり、超伝導材料層32の回路形状と常伝導材料層34の回路形状とは互いに同じであり得る。言い換えると、超伝導材料層32で形成された回路と、同じ形状の常伝導材料層34で形成された回路とが、互いに重なり合っている。
【0029】
そして、実施の形態1において、超伝導材料層32は、常伝導材料層34よりも量子チップ10の近くに設けられている。つまり、インターポーザ配線層30において、超伝導材料層32は、量子チップ10に最も近い金属層である。言い換えると、インターポーザ配線層30を構成する複数の金属層のうち、最も近い金属層は、超伝導材料層32である。例えば、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32をNb(0.1[μm]厚)で形成し、Nbの下に常伝導材料層34をCu(2[μm]厚)で形成し、Cuの下にTiを形成することが好ましい。例えば、インターポーザ基板22がシリコンを含む場合には、インターポーザ20の量子チップ10の側の面22aは、Nb/Cu/Ti/SiO2/Si(インターポーザ基板22)という構成が好ましい。
【0030】
インターポーザ20において電気信号が流れるのは配線層(インターポーザ配線層30)の表面(量子チップ10の側の面30a)である。また、量子デバイス1では超伝導状態において超伝導材料の抵抗値(電気抵抗)が略ゼロとなる特徴を利用している。したがって、量子チップ10に対向する面30aに超伝導材料層32を設けることにより、効果的に、抵抗が低い状態(超伝導状態)を利用することができる。また、量子状態(量子チップ10の量子回路が量子ビットとして機能している状態)を長時間維持するためには、量子回路の近傍の、電磁界に影響する環境を合わせておく必要がある。ここで、量子チップ10の量子回路が超伝導材料で形成されていることから、インターポーザ配線層30の量子チップ10の側の面30aも超伝導材料で形成されていることで、電磁界に影響する環境を、量子チップ10と合わせることができる。
【0031】
また、超伝導配線層14は、バンプ2を介して、インターポーザ配線層30と接続(フリップチップ接続)されている。より具体的には、超伝導配線層14は、バンプ2を介して、インターポーザ配線層30の超伝導材料層32と接続されている。なお、バンプ2は、超伝導配線層14と超伝導材料層32との間で信号を通してもよい。例えば、バンプ2が、超伝導配線層14のグランド電極の回路が形成された箇所とインターポーザ配線層30(超伝導材料層32)のグランド電極の回路が形成された箇所とを接続してもよい。これにより、両者のグランド電極が同電位となり得る。あるいは、バンプ2を介して熱伝導を行ってもよい。この場合、バンプ2は、超伝導材料と常伝導材料とを含んでもよい。つまり、バンプ2は、多層構造でもよい。また、好ましいフリップチップ接続は、Nb(量子チップ10の配線)/In/Ti/Nb(インターポーザ20の配線表面)/Cu、または、Nb(量子チップ10の配線)/Nb(インターポーザ20の配線表面)/Cuといった層状であってもよい。Cuの厚みを、インターポーザ配線層30の2[μm]厚に、2~10[μm]の範囲で追加してφ100[μm]のバンプ2を設けることが好ましい。
【0032】
また、超伝導材料層32の厚さH1は、常伝導材料層34の厚さH2よりも薄い。つまり、インターポーザ配線層30において、常伝導材料層34の厚さH2は、超伝導材料層32の厚さH1よりも厚い。このように、インターポーザ配線層30は、熱を通しやすい常伝導材料層34の厚さH2が熱を通しにくい超伝導材料層32の厚さH1よりも厚くなるように形成されているので、効果的に冷却を行うことができる。
【0033】
さらに、以下に説明するように、超伝導材料層32と常伝導材料層34とを積層する場合、強度上の観点から、常伝導材料層34の厚さを超伝導材料層32の厚さよりも厚くしたほうがよい。量子ビットのコヒーレンス(量子状態を保持できる能力)を良好にするためには、ニオブ、ニオブ窒化物、タンタル又はチタン窒化物などの、IV族、V族又はVI族の金属が、量子回路に用いられる。これらの材料を用いて成膜を行う場合、スパッタ法を採用することが多い。ここで、スパッタ法による成膜では、膜厚方向に結晶の成長が進むこと、及び、これらIV族~VI族の金属では成膜中に収縮方向へのひずみが蓄積されることから、膜厚が厚くなると、割れ等の破断が発生するおそれがある。したがって、超伝導材料層32については、500nmを超えない厚さ、例えば概ね100nmの厚さとすることが望ましい。
【0034】
また、量子デバイス1(量子コンピュータ)は極低温で使用されるので、量子デバイス1を構成する部材では、冷却による材料収縮が発生し得る。ここで、常伝導材料と超伝導材料とで熱膨張率(熱膨張係数)が異なる。したがって、割れ等の破断しやすい超伝導材料が常伝導材料の変化に追従するようにすることが望ましい。したがって、超伝導材料の膜厚を常伝導材料の膜厚よりも薄くする必要がある。
【0035】
以上の特性から、超伝導材料層32は常伝導材料層34よりも薄いことが望ましい。例えば、超伝導材料層32をニオブ(Nb)で形成し、常伝導材料層34を銅(Cu)で形成する場合、超伝導材料層32の厚さを0.1μmとし、常伝導材料層34の厚さを2μmとすることが好ましい。
【0036】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。実施の形態2では、インターポーザ配線層30の構造が、実施の形態1と異なる。なお、実施の形態2において、インターポーザ配線層30以外の構造については、実施の形態1と実質的に同様であるので、適宜、説明を省略する。
【0037】
図4は、実施の形態2にかかる量子デバイス1を示す図である。
図4は、実施の形態1にかかる量子デバイス1を示す断面図である。実施の形態1と同様に、量子デバイス1は、量子チップ10と、インターポーザ20とを有する。量子チップ10は、バンプ2を介してインターポーザ20にフリップチップ接続している。また、実施の形態1と同様に、インターポーザ20の、量子チップ10の側の面20aには、インターポーザ配線層30が設けられている。
【0038】
ここで、量子チップ基板12とインターポーザ基板22との間の領域を、予め定められた量子チップエリアAr1(
図4に太い実線で示す)とする。つまり、量子チップエリアAr1(第1の領域)は、インターポーザ配線層30のうち、量子チップ10と対向する領域に対応する。ここで、上述したように、量子回路が量子状態を良好に維持するため、量子チップ10の回路及びその近傍のインターポーザ配線層30の回路は、超伝導材料で形成されることが好ましい。したがって、量子チップエリアAr1において量子チップ10に近い金属層は、超伝導材料で形成されることが好ましい。したがって、量子チップエリアAr1(第1の領域)では、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32と常伝導材料層34とで構成されている。言い換えると、インターポーザ配線層30の少なくとも量子チップエリアAr1に対応する部分は、超伝導材料層32と常伝導材料層34とで構成されている。そして、超伝導材料層32が、常伝導材料層34よりも量子チップ10の側に配置されている。
【0039】
一方、量子チップエリアAr1の外側の領域の回路については、量子回路が量子状態を維持するためには、必ずしも、超伝導材料で形成されている必要はない。したがって、実施の形態2では、量子チップエリアAr1の外側の領域では、インターポーザ配線層30は、常伝導材料で形成されている。つまり、インターポーザ配線層30は、量子チップエリアAr1の外側の領域に、常伝導材料層36を有する。そして、量子チップエリアAr1の外側において、インターポーザ配線層30は、常伝導材料層36のみの単層構造で構成されている。なお、常伝導材料層36は、常伝導材料層34と一体に形成されてもよい。また、常伝導材料層36は、常伝導材料層34と同じ材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。
【0040】
なお、量子チップエリアAr1の外側の領域でも、インターポーザ配線層30は、超伝導材料層32と常伝導材料層34とで構成されてもよい。この場合、超伝導材料層32が、常伝導材料層34よりも量子チップ10の側に配置されている必要はなく、常伝導材料層34が量子チップ10の側に配置されてもよい。したがって、実施の形態2では、インターポーザ配線層30の量子チップエリアAr1の外側の領域の少なくとも一部では、量子チップ10の側の面30aが、常伝導材料で形成されている。
【0041】
インターポーザ配線層30がこのように構成されていることによって、量子チップ10及び量子チップ10の近傍(量子チップエリアAr1)の冷却時に、さらに効果的に、冷却を行うことができる。例えば、以下に説明する実施の形態のように量子デバイス1が冷却される場合に、常伝導材料層34,36が試料台に接することで冷却されることで、さらに冷却効果を向上させることができる。なお、
図4では、インターポーザ配線層30の、量子チップエリアAr1の外側の領域の全てにおいて、常伝導材料層36が設けられている。しかしながら、後述する例のように、量子チップエリアAr1の外側の領域の一部に、常伝導材料層36が設けられていてもよい。
【0042】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。実施の形態3においては、量子デバイス1が、冷却機能を有する試料台に搭載されている。
【0043】
図5は、実施の形態3にかかる、量子デバイス1が試料台50に搭載された状態を示す図である。
図5は、量子デバイス1及び試料台50の断面図である。なお、
図5においては、貫通ビア26は省略されている(以降の実施の形態でも同様)。
【0044】
なお、量子デバイス1と試料台50とによって、量子デバイスシステムが構成されているといってもよい。言い換えると、
図5は、量子デバイスシステムを示し、量子デバイスシステムは、量子デバイス1と、試料台50とを有する。このことは、後述する他の実施の形態でも同様である。
【0045】
なお、
図5には、実施の形態2にかかる量子デバイス1が試料台50に搭載された状態が示されている。なお、
図5の例では、インターポーザ配線層30の量子チップ10と対向する領域(量子チップエリアAr1)の外側の領域の全てが、常伝導材料層36で構成されているわけではない。後述するように、少なくとも、インターポーザ配線層30の試料台50と接する箇所の一部については、常伝導材料層36が設けられている。
【0046】
試料台50は、例えば、冷凍機によって、10[mK]程度の極温度に冷却可能なコールドステージである。試料台50は、例えば、銅(Cu)、銅合金又はアルミニウム(Al)等の金属を含むことが好ましい。また、アルミニウムを含む試料台50の場合は、アルマイト処理による絶縁化を施していてもよい。本実施の形態の量子デバイス1は、例えば、量子チップ10の超伝導材料として、ニオブ(Nb)を含む場合には9.2[K]以下、アルミニウム(Al)を含む場合には1.2[K]以下の極低温における超伝導現象を用いる。このため、このような極温度に冷却可能な試料台50を用いる。なお、試料台50自体が冷凍機(コールドステージ)として機能してもよいし、冷凍機(コールドステージ)の上に試料台50を置いてもよい。コールドステージ(試料台50)は、ヘリウム錯体を用いた冷却器で冷やされる部分とつながって熱伝導する構造を有してもよい。
【0047】
試料台50の上面50aには凹部52が形成されている。量子デバイス1は、量子チップ10が凹部52の内部に配置されるように、試料台50に搭載されている。なお、量子チップ基板12の、インターポーザ20と反対側の面12b、つまり凹部52の底面52bの側の面12bは、凹部52の底面52bと接触していてもよいし、離れていてもよい。量子チップ基板12の面12bが底面52bと接している場合、ワニス又はグリス等の接着剤によって、面12bの少なくとも一部が底面52bと接着していてもよい。あるいは、面12bの少なくとも一部が底面52bと金属層によって接合していてもよい。なお、面12bが底面52bと離れている場合、両者の間は真空状態であるので、試料台50によって、直接、量子チップ10から熱が奪われることは、ほとんどない。したがって、この場合、インターポーザ20を経由して、熱を逃がすこととなる。
【0048】
このように、実施の形態3では、試料台50の凹部52に量子チップ10を挿入して冷却を行うように構成されている。これにより、インターポーザ20の、量子チップ10と反対側の面(インターポーザ配線層24の側の面)を、量子チップ10から情報を取り出すための端子に最大限用いることができる。よって、情報取り出し端子数を増加させることができる。
【0049】
ここで、
図5の上方から見たときに、量子チップ10は凹部52よりも小さいが、インターポーザ20は凹部52よりも大きい。したがって、インターポーザ20の一部は、試料台50に接している。したがって、量子チップ10は、インターポーザ20を介して、試料台50によって冷却されることとなる。言い換えると、インターポーザ20を熱流路として用いることで、量子チップ10及びその近傍を冷却することができる。これにより、冷却性能を向上させることができる。
【0050】
また、実施の形態3では、
図5に示すように、インターポーザ配線層30の常伝導材料層36が、試料台50の上面50aと接している。なお、インターポーザ配線層30(常伝導材料層36)は、試料台50の上面50aと、接着剤によって接着されていてもよいし、金属層によって接合されていてもよい。また、常伝導材料層36と試料台50の上面50aとは、電気的に絶縁されていてもよい。例えば、常伝導材料層36の試料台50の上面50aと接した部分には、試料台50との電気的導通を防ぐために、絶縁膜が形成されてもよいし、絶縁性のスペーサが配置されてもよい。但し、常伝導材料層36と試料台50の上面50aとの間の層は、熱伝導性が良いことが好ましい。
【0051】
このように、常伝導材料層36が試料台50と接しているので、常伝導材料層36が、直接、試料台50によって冷却される。そして、常伝導材料層36は、常伝導材料層34と接している。したがって、試料台50によって常伝導材料層36が冷却され、さらに常伝導材料層34が冷却される。これにより、さらに効果的に、量子チップ10及び量子チップ10の近傍の冷却を行うことができる。
【0052】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。実施の形態4においては、試料台50の形状が、実施の形態3と異なる。
【0053】
図6は、実施の形態4にかかる、量子デバイス1が試料台50に搭載された状態を示す図である。
図6は、量子デバイス1及び試料台50の断面図である。実施の形態4では、
図5に示した実施の形態3にかかる試料台50とは異なり、
図6に示すように、量子チップ基板12の面12bの側には、試料台50が設けられていない例を示している。この構造をとることで、温度変化により試料台50とインターポーザ20が変形(収縮又は膨張)した場合に、試料台50からインターポーザ20に対して応力集中やひずみを与えることが発生し、変形による量子デバイス1の特性変化や破損することや、逆に隙間が発生して冷却性能を低下させることを抑制することができる。ただし、冷却後のインターポーザ20と試料台50との寸法が制御できる場合は、両側に試料台50を設けても構わない。
【0054】
また、実施の形態4では、試料台50には、
図6におけるインターポーザ20の右側に、試料台部分54が設けられている。したがって、インターポーザ20は、
図6における右側の側面において、試料台50と接している。なお、
図6におけるインターポーザ20の左側には、試料台部分54は設けられていない。
【0055】
また、実施の形態4では、
図6におけるインターポーザ配線層30の左側については、実施の形態2及び実施の形態3のように、試料台50と接する箇所に常伝導材料層36が設けられている。したがって、インターポーザ配線層30において、常伝導材料層36は、試料台50の上面50aと接している。
【0056】
また、
図6におけるインターポーザ配線層30の右側においては、常伝導材料層36が設けられていない。一方、上述したように、試料台部分54が設けられているので、インターポーザ配線層30の側面が、試料台50と接している。このとき、
図6の矢印Aで示すように、インターポーザ配線層30の常伝導材料層34の側面が試料台50の面50cと接することとなる。
【0057】
このように、常伝導材料層34が試料台50と接しているので、常伝導材料層34が、直接、試料台50によって冷却される。これにより、常伝導材料層36を設けなくても、効果的に、量子チップ10及び量子チップ10の近傍の冷却を行うことができる。言い換えると、インターポーザ配線層30において、量子チップ10の側の面が常伝導材料層でなくても、効果的に、量子チップ10及び量子チップ10の近傍の冷却を行うことができる。なお、インターポーザ20の左側に試料台部分54を設けると、温度変化によりインターポーザ20が変形(収縮又は膨張)した場合に、インターポーザ20を制約するおそれがある。したがって、
図6に示すように、インターポーザ20の片方には、試料台部分54がないことが好ましい。したがって、インターポーザ配線層30の試料台部分54がない方には、常伝導材料層36が設けられていることが好ましい。これにより、実施の形態3のように、冷却効果を高めることができる。
【0058】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。実施の形態5においては、インターポーザ20の冷却される箇所が、実施の形態3及び実施の形態4と異なる。
【0059】
図7は、実施の形態5にかかる、量子デバイス1が試料台50に搭載された状態を示す図である。
図7は、量子デバイス1及び試料台50の断面図である。実施の形態3と同様に、
図7に示すように、量子デバイス1は、量子チップ10が凹部52の内部に配置されるように、試料台50に搭載されている。そして、実施の形態3と同様に、
図7には、実施の形態2にかかる量子デバイス1が試料台50に搭載された状態が示されている。なお、
図7の例では、インターポーザ配線層30の量子チップ10と対向する領域の外側の領域の全てが、常伝導材料層36で構成されているわけではない。また、インターポーザ配線層30の試料台50と接する箇所の全てに、常伝導材料層36が設けられているわけではない。
図7に示す例では、インターポーザ配線層30の試料台50と接する箇所の少なくとも一部に、常伝導材料層36が設けられている。
【0060】
また、インターポーザ20の、量子チップ10とは反対側の面20bに、冷却部材56が配置されている。面20bは、冷却部材56と接していてもよい。冷却部材56は、冷却機能を有している。例えば、冷却部材56は、試料台50に熱的に接続することによって冷却機能を有してもよい。このような構成とすることにより、インターポーザ20の面20bを、冷却部材56によって冷却することができ、冷却性能を向上させることができる。また、後述するサーマルビア27を介して量子チップ10及び量子チップ10の近傍の冷却を効果的に行うように、冷却部材56は、面20bの量子チップ10に対応する位置に配置されることが好ましい。つまり、
図7において、冷却部材56は、面20bの量子チップ10の領域に対応するように配置されることが好ましい。
【0061】
また、インターポーザ基板22には、サーマルビア27(ビア)が形成されている。サーマルビア27は、インターポーザ基板22を貫通している。これにより、インターポーザ配線層24とインターポーザ配線層30とが、サーマルビア27を介して接続される。具体的には、サーマルビア27は、インターポーザ配線層30とインターポーザ配線層24との間で熱を移動させることができる。また、サーマルビア27を介して量子チップ10及び量子チップ10の近傍の冷却を効果的に行うように、サーマルビア27は、量子チップエリアAr1(
図4参照)に対応する位置に設けられていることが好ましい。
【0062】
サーマルビア27は、熱伝導性が高い材料で形成されている。したがって、サーマルビア27は、極低温でも熱伝導性を有するように、上述した常伝導材料で形成されていてもよい。なお、貫通ビア26を、サーマルビア27として使用してもよい。この場合、貫通ビア26を常伝導材料で形成するようにしてもよい。特に、貫通ビア26がグランド電極と接続される場合、貫通ビア26をサーマルビア27として使用してもよい。また、サーマルビア27は、窒化アルミニウム等の熱伝導性が高いセラミックで形成されていてもよい。
【0063】
図8及び
図9は、実施の形態5にかかるサーマルビア27の形状を例示する図である。
図8に例示するように、サーマルビア27は、インターポーザ配線層30の側の径よりもインターポーザ配線層24の側の径の方が大きいテーパが形成された部分を含んでもよい。すなわち、サーマルビア27は、インターポーザ配線層24の側に向かってビア断面が大きくなる略円錐台状の部分を含んでもよい。極低温への温度変化によって、サーマルビア27は、インターポーザ配線層30とインターポーザ配線層24との間で収縮差を生じる。したがって、テーパを形成することにより、収縮差を吸収し、サーマルビア27における応力及びひずみの発生を抑制することができる。また、インターポーザ配線層30の側の径よりもインターポーザ配線層24の側の径の方が大きいテーパを形成することによって、冷却部材56との接触面積を大きくとることができるため、効率的な熱移動を行うことができる。
【0064】
また、
図9に例示するように、インターポーザ20は、複数のサーマルビア27を接続する共通の接続部材28を含んでもよい。例えば、板状の接続部材28で複数のサーマルビア27を接続させてもよい。接続部材28は、熱伝導性が高い材料を含むことが好ましく、サーマルビア27と同様の材料を含んでもよい。接続部材28で接続された複数のサーマルビア27は、熱容量を大きくすることができ、温度変化を抑制することができる。また、接続部材28にグランド電位を印加することで、量子チップ10又はインターポーザ20は、グランド電位をサーマルビア27からとることができる。なお、この場合には、サーマルビア27及び接続部材28は、熱伝導性が高く、導電性の材料を含むことが好ましい。
【0065】
また、インターポーザ20において、量子チップ10に形成された量子回路(量子チップエリアAr1)に接続された配線または信号線が実装された領域は、それ以外の領域よりも熱を発生する。よって、そのような熱を発生する領域である発熱エリアAr2におけるサーマルビア27の密度を、それ以外の領域における密度よりも大きくすることが好ましい。例えば、インターポーザ基板22を上方から見て、量子チップ10がインターポーザ20の中央に実装された場合には、中央領域のサーマルビア27の密度を、周辺領域のサーマルビア27の密度よりも大きくする。また、インターポーザ20において、量子回路からの信号を伝達する貫通ビア26の近傍でも、サーマルビア27の密度を、それ以外の領域の密度よりも大きくすることが好ましい。これにより、発熱エリアAr2(量子チップエリアAr1)の冷却効果を高めることができる。
【0066】
また、冷却部材56が、面20bの量子チップ10の真上の位置に配置される場合、インターポーザ基板22に、量子チップ10とやり取りされる信号を導通するための信号回路25が設けられてもよい。信号回路25は、その一端が量子チップ10と対向する位置にあり、他端は、面22bの、冷却部材56の外側の領域にある。例として、信号回路25は、インターポーザ基板22内の配線とビアを介して構成されている。
【0067】
また、冷却部材56によって発熱エリアAr2(量子チップエリアAr1)を十分に冷却できる場合、インターポーザ配線層30は、試料台50と接していなくてもよい。しかしながら、インターポーザ配線層30は、試料台50と接することで、さらに効果的に、冷却を行うことができる。
【0068】
また、実施の形態5では、インターポーザ配線層30、インターポーザ配線層24及びサーマルビア27が、常伝導材料で形成されている。これにより、超伝導状態となる前の温度域(例えば-200度程度)で、導通確認を行うことができる。超伝導状態となる前では、超伝導材料の抵抗値(電気抵抗)は高いので、この状態における抵抗値の細かな変化を捉えることは難しい。一方、この超伝導状態となる前の温度域において、銅(Cu)などの常伝導材料の抵抗値は、超伝導材料の抵抗値よりも低い。したがって、冷却中における部材(量子デバイス1を構成する部材)の収縮などの変形により導通の悪化(高抵抗化又は断線等)が発生していないかを判定することができる。これにより、常伝導材料の導通が悪化した場合に、超伝導材料の導通についても問題が発生している可能性があると推測することができる。
【0069】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。実施の形態6では、試料台50の所定面に抑え部材が設けられている。
【0070】
図10及び
図11は、実施の形態6にかかる抑え部材53を例示する図である。
図10は、試料台50の凹部52及び抑え部材53を例示した斜視図である。
図11は、試料台50の凹部52及び抑え部材53を例示した平面図である。また、
図11には、量子デバイス1の平面図も示している。
図10及び
図11に示すように、試料台50の凹部52は、試料台50の所定面、例えば、試料台50の上面50aに形成されている。そして、凹部52の周辺における上面50aには、複数の抑え部材53が設けられている。例えば、4つの抑え部材53は、上面50aに設けられている。
【0071】
インターポーザ20の側面の少なくとも一部は、上面50aに設けられた抑え部材53に接している。例えば、インターポーザ20は、上方から見て矩形である場合には、複数の抑え部材53は、インターポーザ20における各角部の近傍の側面を平面部分で抑えている。このような構成とすることにより、複数の抑え部材53は、インターポーザ20の側面を対角部分で非連続的かつ平面部分で押さえつけることができる。よって、インターポーザ20または抑え部材53が低温で収縮した場合に、直線状にスライド移動することを可能とし、収縮を均等化することができる。
【0072】
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、複数の量子チップ10が一つのインターポーザ20に実装された量子デバイスも、本実施形態の技術的思想の範囲に含まれる。また、例えば、
図1及び
図3~
図7に示された量子デバイス1では、量子チップ10がインターポーザ20の下側に配置されているが、このような構成に限られない。
図2に示した比較例と同じように、量子チップ10がインターポーザ20の上側に配置されていてもよい。そして、
図2に示した比較例のように、この配置で、量子デバイス1が試料台50に搭載されていてもよい。しかしながら、
図4~図のように量子デバイス1を試料台50に搭載することによって、インターポーザ20のインターポーザ配線層30を、直接、冷却することができるので、冷却効果を高めることができる。
【0073】
また、
図5~
図7では、実施の形態2にかかる量子デバイス1が試料台50に搭載されている。しかしながら、実施の形態1にかかる量子デバイス1が試料台50に搭載されてもよい。一方、実施の形態2にかかる量子デバイス1が試料台50に搭載されることで、熱伝導の良い常伝導材料層を容易に試料台50に接触させることができる。したがって、冷却効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 量子デバイス
2 バンプ
10 量子チップ
12 量子チップ基板
14 超伝導配線層
20 インターポーザ
22 インターポーザ基板
24 インターポーザ配線層
25 信号回路
26 貫通ビア
27 サーマルビア
28 接続部材
30 インターポーザ配線層
32 超伝導材料層
34 常伝導材料層
36 常伝導材料層
50 試料台
52 凹部
53 抑え部材
54 試料台部分
56 冷却部材