(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、および、液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 611
(21)【出願番号】P 2020110253
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰志
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083735(JP,A)
【文献】特開2009-018551(JP,A)
【文献】特開2000-094688(JP,A)
【文献】特開2012-084785(JP,A)
【文献】特開2005-103772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0134144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列方向に沿って配列された複数の圧電体と、
前記複数の圧電体に対して個別に設けられ
、前記配列方向と直交する延在方向に延在す
る個別電極と、
前記複数の圧電体に対して共通に設けられた共通電極と、
前記個別電極と前記共通電極とを介して前記圧電体が電気的に駆動されることにより振
動する振動板と、を備える液体吐出ヘッドであって、
前記複数の圧電体のそれぞれは、前記配列方向と前記延在方向のうち、前記延在方向を
長手方向として延在しており、
前記圧電体と、前記個別電極と、前記共通電極と、前記振動板と、は積層方向に積層さ
れており、
前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれた部
分を能動部とし、
前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれない
部分を非能動部とし、
前記圧電体のうち、前記積層方向に沿って見たときに、前
記延在方向における前記能動
部の端と前記非能動部との境界を含む領域を第1領域とし、
前記圧電体のうち、前記第1領域と異なる領域を第2領域としたとき、
前記振動板の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記振動板の前記第2領域と
重なる位置における厚さよりも小さく、
前記圧電体の前記第1領域における厚さは、前記圧電体の前記第2領域における厚さよ
りも厚いことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記振動板は、弾性層と、前記積層方向において前記弾性層よりも前記圧電体側に位置
する絶縁層と、を有し、
前記弾性層の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記弾性層の前記第2領域と
重なる位置における厚さよりも小さいことを特徴とする請求項
1に記載の液体吐出ヘッド
。
【請求項3】
前記絶縁層の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記絶縁層の前記第2領域と
重なる位置における厚さと等しいことを特徴とする請求項
2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
複数の圧電体と、
前記複数の圧電体に対して個別に設けられた個別電極と、
前記複数の圧電体に対して共通に設けられた共通電極と、
前記個別電極と前記共通電極とを介して前記圧電体が電気的に駆動されることにより振
動する振動板と、を備える液体吐出ヘッドであって、
前記圧電体と、前記個別電極と、前記共通電極と、前記振動板と、は積層方向に積層さ
れており、
前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれた部
分を能動部とし、
前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれない
部分を非能動部とし、
前記圧電体のうち、前記積層方向に沿って見たときに、前記個別電極の延在方向におけ
る前記能動部の端と前記非能動部との境界を含む領域を第1領域とし、
前記圧電体のうち、前記第1領域と異なる領域を第2領域としたとき、
前記圧電体の前記第1領域における厚さは、前記圧電体の前記第2領域における厚さよ
りも厚く、
前記振動板の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記振動板の前記第2領域と
重なる位置における厚さよりも小さく、
前記振動板は、弾性層と、前記積層方向において前記弾性層よりも前記圧電体側に位置
する絶縁層と、を有し、
前記弾性層の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記弾性層の前記第2領域と
重なる位置における厚さよりも小さく、
前記絶縁層の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記絶縁層の前記第2領域と
重なる位置における厚さと等しいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧電体は、前記積層方向における前記振動板側の端面である第1端面と反対側の第
2端面を有し、
前記第1領域における前記第2端面は、前記第2領域における前記第2端面と、前記積
層方向において同じ位置に位置することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記
載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記振動板は、前記積層方向における前記圧電体側の端面である第3端面と反対側の第
4端面を有し、
前記第1領域と重なる位置における前記第4端面は、前記第2領域と重なる位置におけ
る前記第4端面と、前記積層方向において同じ位置に位置することを特徴とする請求項1
から5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記積層方向に沿って、前記共通電極と、前記圧電体と、前記個別電極と、前記振動板
と、がこの順に積層されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の
液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記積層方向に沿って、前記個別電極と、前記圧電体と、前記共通電極と、前記振動板
と、がこの順に積層されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の
液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記複数の圧電体は、前記延在方向に直交する配列方向に沿って配列されていることを
特徴とする請求項
4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1領域の前記配列方向における幅は、
前記圧電体の前記配列方向における幅と等しいことを特徴とする請求項
1、2、3、9
のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第1領域の前記配列方向における幅は、
前記圧電体の前記配列方向における幅より小さいことを特徴とする請求項
1、2、3、
9
のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を備えることを特徴とする液
体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は液体吐出ヘッド、および、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドに関して、特許文献1には、個別電極上に設けられた圧電体層と、圧電体層上に設けられた共通電極と、を有する圧電素子を備える液体吐出ヘッドが開示されている。この液体吐出ヘッドは、例えば、プリンター等の液体吐出装置に備えられ、電圧印加によって生じる圧電体の変位を利用して、インク等の液体を吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような液体吐出ヘッドでは、電圧印加時に、圧電体層のうち、共通電極及び個別電極によって挟まれた能動部と、共通電極及び個別電極によって挟まれていない非能動部との間で変位の差が生じる。そのため、能動部と非能動部との境界において、変位の差に起因する応力が生じ、圧電素子にクラックが生じる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、複数の圧電体と、前記複数の圧電体に対して個別に設けられた個別電極と、前記複数の圧電体に対して共通に設けられた共通電極と、前記個別電極と前記共通電極とを介して前記圧電体が電気的に駆動されることにより振動する振動板と、を備える液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体と、前記個別電極と、前記共通電極と、前記振動板と、は積層方向に積層されており、前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれた部分を能動部とし、前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれない部分を非能動部とし、前記圧電体のうち、前記積層方向に沿って見たときに、前記個別電極の延在方向における前記能動部の端と前記非能動部との境界を含む領域を第1領域とし、前記圧電体のうち、前記第1領域と異なる領域を第2領域としたとき、前記圧電体の前記第1領域における厚さは、前記圧電体の前記第2領域における厚さよりも厚い。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、液体吐出装置が提供される。この液体吐出装置は、前記第1の形態の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態としての液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置の概略構成を示す説明図である。
【
図2】本実施形態の液体吐出ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【
図3】液体吐出ヘッドの要部のYZ平面に沿った断面を示す概略図である。
【
図5】
図4における圧力室及び圧電部のV-V断面図である。
【
図6】第2実施形態における圧電部の概略構成を説明する図である。
【
図7】
図6における圧電部のVII-VII断面図である。
【
図8】第3実施形態における圧力室及び圧電部のXZ平面に沿った断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態としての液体吐出ヘッド200を備える液体吐出装置100の概略構成を示す説明図である。
図1には、互いに直交するX,Y,Z方向に沿った矢印が表されている。X,Y,Z方向は、互いに直交する3つの空間軸であるX軸、Y軸、Z軸に沿った方向であり、それぞれ、X軸、Y軸、Z軸に沿う一方側の方向と、その反対方向とを、両方含む。具体的には、前記X軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向が、それぞれ+X方向,+Y方向,+Z方向であり、前記X軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向が、それぞれ-X方向,-Y方向,-Z方向である。X方向及びY方向に沿った平面をXY平面と呼び、X方向及びZ方向に沿った平面をXZ平面と呼び、Y方向及びZ方向に沿った平面をYZ平面と呼ぶこともある。なお、
図1において、X軸およびY軸は水平面に沿った軸であり、Z軸は鉛直線に沿った軸である。従って、本実施形態では、-Z方向は、重力方向である。他の図においても、X,Y,Z方向に沿った矢印が、適宜、表されている。
図1におけるX,Y,Z方向と、他の図におけるX,Y,Z方向とは、同じ方向を表している。また、本明細書中で、直交とは、90°±10°の範囲を含む。
【0009】
本実施形態の液体吐出装置100は、液体としてインクを吐出することによって印刷媒体P上に画像を印刷する、インクジェットプリンターである。液体吐出装置100は、印刷媒体Pにおけるドットのオン・オフを示す印刷データに基づいて紙等の印刷媒体P上にインクを噴射し、印刷媒体P上の様々な位置にドットを形成することにより、印刷媒体P上に画像を印刷する。なお、印刷媒体Pとしては、紙の他に、例えば、プラスチック、フィルム、繊維、布帛、皮革、金属、ガラス、木材、セラミックスなど、液体を保持できるものを用いることができる。また、液体吐出装置100の液体としては、インクの他に、種々の色材、電極材、生体有機物や無機物等の試料、潤滑油、樹脂液、エッチング液など、任意の液体を用いることができる。
【0010】
液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド200と、キャリッジ40と、キャリッジ40を駆動させる駆動モーター46と、印刷媒体Pを搬送する搬送モーター51と、インクカートリッジ80と、制御部110とを、備える。
【0011】
制御部110は、1以上のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。制御部110は、印刷データに従って、液体吐出装置100に備えられた各機構を制御することによって、液体吐出ヘッド200から印刷媒体P上にインクを吐出し、印刷媒体P上に画像を印刷する。すなわち、制御部110は、液体吐出ヘッド200の、液体を吐出する吐出動作を制御する。
【0012】
インクカートリッジ80は、液体吐出ヘッド200へ供給される液体としてのインクを貯留する。本実施形態では、4つのインクカートリッジ80が、キャリッジ40に着脱可能に構成され、4つのインクカートリッジ80内には、液体として、それぞれ異なる色彩を有する4種類のインクが貯留されている。なお、インクカートリッジ80は、例えば、キャリッジ40に装着されることなく、液体吐出装置100本体に装着されてもよい。また、他の実施形態では、インクを貯留する機構は、例えば、インクタンクや、可撓性フィルムで形成された袋状の液体パック等であってもよく、インクを貯留する機構の種類や数、及び、貯留されるインクの種類や数は特に限定されない。
【0013】
本実施形態の液体吐出ヘッド200は、キャリッジ40に保持され、駆動モーター46から駆動ベルト47を介してキャリッジ40に伝達される駆動力によって、キャリッジ40とともに主走査方向に往復移動する。液体吐出ヘッド200は、主走査方向に往復移動しながら、搬送モーター51と図示しないローラーとによって主走査方向と交差する副走査方向に沿って搬送される印刷媒体P上に、インクカートリッジ80から供給されたインクを液滴状の形態で吐出する。本実施形態では、主走査方向はX方向に沿った方向である。副走査方向は主走査方向にY方向に沿った方向であり、主走査方向と直交している。他の実施形態では、主走査方向と副走査方向とは互いに直交しなくてもよい。液体吐出ヘッド200は、フレキシブルケーブル41を介して、制御部110と電気的に接続されている。なお、液体吐出ヘッド200の詳細については後述する。また、液体吐出装置100は、2つ以上の複数の液体吐出ヘッド200を備えていてもよい。
【0014】
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッド200の構成を示す分解斜視図である。本実施形態における液体吐出ヘッド200は、ノズル板210と、圧力室基板220と、圧電部230と、封止部250とが、Z方向に積層されることによって、構成されている。また、封止部250の+Z方向側の面には、駆動回路90が設けられている。
【0015】
本実施形態のノズル板210は、薄板状の部材であり、XY平面に沿って配置されている。ノズル板210には、多数のノズル211がX軸方向に沿って1列に並んで形成されている。液体吐出ヘッド200は、このノズル211から液体を噴射する。本実施形態では、ノズル板210は、ステンレス鋼(SUS)により形成されている。なお、ノズル板210は、ステンレス鋼に限らず、例えば、ニッケル(Ni)合金などの他の種類の金属、または、ポリイミドやドライフィルムレジストなどの樹脂材料、シリコン(Si)の単結晶基板やガラスセラミックスなどの無機材料等により形成されていてもよい。また、他の実施形態では、ノズル板210に2列以上のノズル211が形成されていてもよい。
【0016】
圧力室基板220は、圧力室221を区画する板状の部材である。圧力室基板220は、例えば、接着剤や熱溶着フィルム等を介してノズル板210の+Z方向の面に接合される。圧力室基板220には、圧力室221、インク供給路223、及び、連通部225を形成するための、圧力室基板220をZ方向に貫通する孔HLが形成されている。なお、例えば、圧力室基板220上に振動板231を積層した後に、孔HLの一部や全部を形成してもよい。本実施形態において、圧力室基板220は、Siの単結晶基板によって形成されている。他の実施形態では、圧力室基板220は、例えば、Siを主成分とする他の材料や、他のセラミックス材料、ガラス材料等により形成された基板であってもよい。
【0017】
本実施形態では、複数の圧力室221は、X方向に沿って並んで配列するように形成されている。ノズル板210に圧力室基板220が積層されることによって、複数の圧力室221それぞれは、ノズル211と連通する。それぞれの圧力室221は、Z方向から見て、Y方向を長手方向とする略平行四辺形状を有している。
【0018】
連通部225は、複数の圧力室221それぞれに共通な空部である。連通部225は、インク供給路223を介して、複数の圧力室221それぞれと連通する。インク供給路223は、圧力室221よりも狭い幅で形成されており、連通部225から圧力室221に流入するインクに対して流路抵抗となる。
【0019】
圧電部230は、圧力室基板220上に、振動板231及び圧電素子240が積層されることによって構成されている。圧電部230は、圧電素子240の変形によって、圧電素子240と圧力室基板220との間に設けられた振動板231を振動させることで、圧力室221の容積を変化させることができる。なお、圧電部230をアクチュエーターと呼ぶこともある。また、圧電部230や圧電素子240の詳細については、後述する。
【0020】
封止部250は、圧電部230上に接着剤を介して接合される。封止部250は、圧電素子240を保持する圧電素子保持部251と、圧力室基板220の連通部225と連通するマニホールド部252とを、有している。本実施形態では、封止部250は、Si単結晶基板を用いて形成されている。なお、封止部250は、他のセラミックス材料やガラス材料等によって形成されていてもよい。この場合、封止部250は、圧力室基板220の熱膨張率と略同一の熱膨張率を有する材料によって形成されていると好ましい。
【0021】
駆動回路90は、圧電素子240を駆動するための駆動信号を、圧電素子240に供給する。駆動回路90としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。駆動回路90と圧電素子240とは、リード電極295及び図示しない電気配線を介して電気的に接続されている。また、駆動回路90と制御部110とは、図示しない電気配線を介して電気的に接続されている。
【0022】
図3は、液体吐出ヘッド200の要部のYZ平面に沿った断面を示す概略図である。
図3に示すように、上述した各部材が積層されることによって、マニホールド部252と連通部225とが連通し、複数の圧力室221それぞれの共通の液体室となるマニホールド293が形成される。更に、ノズル211、圧力室221、インク供給路223、及び、マニホールド293が連通し、インクの流路が形成される。液体吐出ヘッド200は、圧電部230によって圧力室221の容積を変化させることで、上述の流路を介して圧力室221に供給された液体を、ノズル211から吐出する。なお、マニホールド293を、共通液室やリザーバーと呼ぶこともある。
【0023】
図4は、圧電部230の概略構成を説明する図である。
図4には、XY平面において圧力室221が形成されている部分が、破線によって示されている。
図4には、その他にも、XY平面において、後述する圧電素子240を構成する各部材が設けられている部分が示されている。
【0024】
図5は、
図4における圧力室221及び圧電部230のV-V断面図である。上述したように、圧電部230は、振動板231と、圧電素子240とを、備えている。圧電素子240は、複数の圧電体260と、共通電極270と、複数の個別電極280とを、有している。振動板231と、圧電体260と、共通電極270と、個別電極280とは、積層方向に積層されている。具体的には、本実施形態では、これらの部材は、積層方向に沿って、+X方向から順に共通電極270、圧電体260、個別電極280、振動板231の順に積層されている。積層方向は、同じ軸に沿う一方側の方向とその反対方向とを両方含み、本実施形態では、Z方向に沿った方向である。積層方向の正負の向きと、Z方向の正負の向きとは一致する。
【0025】
振動板231は、上述したように、圧電素子240の変形によって振動するように構成されている。具体的には、振動板231は、個別電極280と共通電極270とを介して圧電体260が電気的に駆動されることによって振動する。
図5に示すように、本実施形態の振動板231は、弾性層232と、Z方向において弾性層232よりも圧電体260側に位置する絶縁層233とを有している。弾性層232は圧力室基板220上および圧力室221上に形成され、絶縁層233は弾性層232上に形成されている。本実施形態では、弾性層232は、二酸化シリコンによって形成された弾性膜であり、絶縁層233は、酸化ジルコニウムによって形成された絶縁膜である。
【0026】
本実施形態において、圧電体260は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成されている。なお、圧電体260は、PZTに代えて、ABO3型で表されるいわゆるペロブスカイト構造を有する他の種類のセラミックス材料、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、タンタル酸ストロンチウムビスマス(SBT)、メタニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、スカンジウムニオブ酸鉛等によって形成されてもよい。また、圧電体260は、セラミックス材料に限らず、ポリフッ化ビニリデン、水晶など、圧電効果を有する任意の材料により形成されてもよい。
【0027】
共通電極270は、複数の圧電体260に対して共通に設けられた電極を指す。本実施形態の共通電極270は圧電体260の上部に積層されており、上部電極と呼ばれることもある。個別電極280は、複数の圧電体260に対して個別に設けられた電極を指す。本実施形態の個別電極280は圧電体260の下部に積層されており、下部電極と呼ばれることもある。共通電極270や個別電極280は、例えば、白金、イリジウム、チタン、タングステン、タンタル、等の各種金属や、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)等の導電性金属酸化物等によって形成される。
【0028】
図4に示すように、個別電極280それぞれは、Y方向を長手方向とし、Y方向に沿って延在している。個別電極280が延在する方向を、延在方向と呼ぶこともある。延在方向は、同じ軸に沿う一方側の方向とその反対方向とを両方含み、本実施形態において、延在方向の正負の向きと、Y方向の正負の向きとは一致する。また、複数の個別電極280は、延在方向であるY方向に直交する配列方向に沿って配列されている。配列方向は、同じ軸に沿う一方側の方向とその反対方向とを両方含み、本実施形態では、X方向に沿った方向である。配列方向の正負の向きと、X方向の正負の向きとは一致する。
【0029】
図4では、圧電素子240のうち、XY平面において圧電体260が設けられている部分の外縁が、一点鎖線によって示されている。
図4に示すように、圧電体260それぞれは、個別電極280と対応して、延在方向であるY方向に沿って延在している。また、複数の圧電体260は、個別電極280に対応して、配列方向であるX方向に沿って配列されている。なお、圧電体260同士は、Z方向に沿って見たときに、互いの間に空隙Gpを介して配置されている。
【0030】
図4には、圧電素子240のうち、XY平面において共通電極270が設けられている部分に右下がりのハッチングが付されている。また、
図4および
図5に示すように、共通電極270のY方向における外縁である端部Egが示されている。
図4および
図5に示すように、共通電極270は、端部Egの-Y方向の全体に亘って設けられており、端部Egの+Y方向には設けられていない。
【0031】
図4および
図5には、能動部Acと非能動部NAcとが示されている。なお、
図4には、XY平面における能動部Acと非能動部NAcとの境界Brが太線によって示されている。能動部Acとは、圧電体260のうち、共通電極270と個別電極280とによってZ方向に挟まれた部分である。非能動部NAcとは、圧電体260のうち、共通電極270と個別電極280とによってZ方向に挟まれない部分である。従って、非能動部NAcは、圧電体260のうち、圧電体260のZ方向に共通電極270と個別電極280との両方が設けられていない部分、もしくは、共通電極270と個別電極280とのいずれか一方のみが設けられている部分である。
【0032】
圧電体260の能動部Acでは、共通電極270及び個別電極280を介して圧電体260に電圧が印加された際に、圧電歪みが生じる。圧電素子240は、この圧電歪みに起因する変位によって、圧力室221の容積を変化させる。具体的には、圧電素子240は、圧電体260の圧電歪みによって振動板231を変形させて、圧力室221の容積を変化させる。なお、圧電体260の非能動部NAcでは、圧電体260に電圧が印加された場合でも、圧電歪みが生じない。
【0033】
図4および
図5には、Y方向における能動部Acの端と非能動部NAcとの境界である、境界Br1が示されている。一般に、境界Br1のような、延在方向における能動部Acの端と非能動部NAcとの境界では、能動部Acと非能動部NAcとの変位の差によるクラック等が生じやすい。すなわち、圧電体260の能動部Acは、延在方向であるY方向を長手方向としているため、圧電体260に電圧が印加された際、能動部Acは、X方向において変位するよりも、Y方向において大きく変位する。これに対して、非能動部NAcは、上述したように、圧電体260に電圧が印加された場合であっても、圧電歪みを生じない。従って、境界Br1のような境界では、能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力によって、クラック等が生じやすい。
【0034】
圧電体260は、Z方向に沿って見たときに、第1領域R1と第2領域R2とを有する。第1領域R1は、Z方向に沿って見たときに、境界Br1を含む領域である。
図4において、第1領域R1には、網点模様のハッチングが付されている。第2領域R2は、第1領域R1と異なる領域である。従って、第2領域R2は、Z方向に沿って見たときに境界Br1を含まない領域である。第2領域R2は、
図4において、圧電体260が設けられている部分のうち、網点模様のハッチングが付されていない領域である。
図5に示すように、圧電体260の第1領域R1における厚さは、圧電体260の第2領域R2における厚さよりも厚い。すなわち、第1領域R1は、Z方向に沿って見たときに境界Br1を含む領域であり、かつ、圧電体260が第2領域R2よりも厚く形成されている領域である。
【0035】
圧電体260の第1領域R1における厚さが、圧電体260の第2領域R2における厚さよりも厚いことによって、例えば、第1領域R1における圧電体260の厚さが第2領域R2における圧電体260の厚さと等しい場合と比較して、第1領域R1において生じる負荷が圧電体260の厚み方向であるZ方向に分散しやすい。そのため、上述した、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減する。また、境界Br1における圧電体260の厚さが厚いことによって、境界Br1における圧電体260に生じる電界強度が小さくなり、圧電体260により高い電圧を印加した場合であっても圧電体260が破損しにくくなる。そのため、例えば、圧電体260をより高い電圧で駆動させることができ、液体吐出ヘッド200による液体の吐出量を向上させることができる。
【0036】
なお、第1領域R1における厚さが第2領域R2における圧電体260の厚さと等しい場合であっても、例えば、両者の厚さをともに厚くすることによって、両者の厚さがともに薄い場合と比較して、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減すると考えられる。しかしながら、この場合、第1領域R1と比較してクラック等が生じにくい第2領域R2においても、圧電体260の厚みが増して電界強度が小さくなり、圧電体260の変位が生じにくくなる虞がある。そのため、液体吐出ヘッド200による液体の吐出特性が低下する虞がある。本実施形態では、上述したように、第1領域R1の厚さを第2領域R2の厚さよりも厚くすることによって、例えば、第2領域R2の厚さを薄く保ったまま第1領域R1の厚さを厚くできるため、このような液体の吐出特性の低下を抑制しつつ、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力を低減できる。
【0037】
第1領域R1の範囲は、圧電体260の厚さが異なる部分の範囲によって定まる。本実施形態では、第1領域R1のX方向における幅は、圧電体260のX方向における幅と等しい。従って、第1領域R1が、X方向において他の領域と隣接しないため、第1領域R1と他の領域とのX方向における境界が生じず、圧電体260のX方向における耐久性が向上する。また、第1領域R1のY方向における幅は、振動板231に設けられた、後述する溝GaのY方向における幅と等しい。
【0038】
図4および
図5に示すように、本実施形態の振動板231には、複数の圧電体260に亘るように、X方向に沿って1条の溝Gaが設けられている。本実施形態では、圧電体260のうち溝Gaと重なる領域における厚さは、溝Gaと重ならない領域における厚さよりも厚く形成されている。つまり、圧電体260のうち溝Gaと重なる領域が第1領域R1に相当し、溝Gaと重ならない領域が第2領域R2に相当する。なお、振動板231のうち溝Gaが設けられている部分では、振動板231のうち溝Gaが形成されていない部分と比較して、振動板231の厚みが小さい。従って、第1領域R1と重なる位置における振動板231の厚さは、第2領域R2と重なる位置における振動板231の厚さよりも小さい。
【0039】
本実施形態の溝Gaは、振動板231のうち、弾性層232の上面の一部を切り欠くことによって形成されている。従って、
図5に示すように、弾性層232の第1領域R1と重なる位置における厚さは、弾性層232の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも小さい。また、絶縁層233の第1領域R1と重なる位置における厚さは、絶縁層233の第2領域R2と重なる位置における厚さと等しい。なお、両者の厚さは完全に等しくなくてもよく、絶縁層233の第2領域R2と重なる位置における厚さが、絶縁層233の第1領域R1と重なる位置における厚さの±10%の範囲に含まれる厚さであればよい。一般に、弾性層232は絶縁層233よりも厚く形成されるため、第1領域R1と第2領域R2とで弾性層232の厚さを異ならせることによって、第1領域R1と第2領域R2とにおける振動板231の厚さの差異の幅を大きくできる。
【0040】
図5に示すように、圧電体260は、第1端面261と第2端面262とを有している。第1端面261は、圧電体260のZ方向における振動板231側の端面であり、本実施形態では、圧電体260の下面である。第2端面262は、圧電体260のZ方向における第1端面261と反対側の端面であり、本実施形態では、圧電体260の上面である。本実施形態では、第1領域R1における第2端面262は、第2領域R2における第2端面262と、Z方向において同じ位置に位置している。なお、両者は完全に同じ位置に位置していなくてもよく、第1領域R1における第2端面262のZ方向における位置と、第2領域R2における第2端面262のZ方向における位置とが、略同じ位置であれば良い。
【0041】
図5に示すように、振動板231は、第3端面236と第4端面237とを有している。第3端面236は、振動板231のZ方向における圧電体260側の端面であり、本実施形態では、振動板231の上面である。第4端面237は、振動板231のZ方向における第3端面236と反対側の端面であり、本実施形態では、振動板231の下面である。すなわち、振動板231の絶縁層233が第3端面236を有し、弾性層232が第4端面237を有している。本実施形態では、第1領域R1と重なる位置における第4端面237は、第2領域R2と重なる位置における第4端面237と、Z方向において同じ位置に位置している。従って、本実施形態では、第1領域R1と重なる位置および第2領域R2と重なる位置において、振動板231の厚さは異なり、また、圧電体260の厚さは異なるが、振動板231と個別電極280と圧電体260との合計の厚さは等しい。なお、他の実施形態では、第1領域R1と重なる位置と第2領域と重なる位置で、振動板231と個別電極280と圧電体260の合計の厚さは等しくなくてもよい。
【0042】
本実施形態の圧電部230を、例えば、フォトレジストによるマスキングを利用したエッチング等を用いて作成することができる。以下では、圧電部230の製造方法の一例を説明する。まず、振動板231の弾性層232を、熱酸化やCVD法等によって、圧力室基板220上に形成する。次に、エッチング等によって、形成した弾性層232に溝Gaを形成するための切欠をパターニングして形成し、CVD法等によって、弾性層232上に絶縁層233を形成する。上述したように、本実施形態では、振動板231には、溝Gaとして1条の溝を形成するため、複数条の溝を形成する場合よりも簡易に溝Gaを形成できる。そして、絶縁層233上に、下部電極としての個別電極280を、例えば、白金等の材料をターゲット材としたスパッタリング、および、エッチングによってパターニングして形成する。更に、ゾルゲル法等によって作成した圧電体260の前駆体を、振動板231の絶縁層233上および個別電極280上にスピンコート法等によってコーティングし、焼成等によって圧電体260を形成する。本実施形態では、振動板231には溝Gaが形成されているため、このような溶液プロセスを利用することで、溝Gaに対応する部分の圧電体260の厚さを容易に厚くでき、圧電体260の第1領域R1における厚さを、圧電体260の第2領域R2における厚さよりも容易に厚くできる。その後、圧電体260上に、上部電極としての共通電極270を、例えば、白金等の材料をターゲット材としたスパッタリング、および、エッチングによってパターニングして形成する。なお、上記の各工程において、例えば、各部材の表面の平滑化や、厚みの調整のために、適宜、エッチング等を行ってもよい。
【0043】
以上で説明した第1実施形態の液体吐出ヘッド200によれば、圧電体260の第1領域R1における厚さは、圧電体260の第2領域R2における厚さよりも厚い。これによって、第1領域R1において生じる負荷が、圧電体260の厚み方向であるZ方向に分散しやすい。そのため、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減し、境界Br1におけるクラック等の発生が抑制される。
【0044】
また、本実施形態では、振動板231の第1領域R1と重なる位置における厚さは、振動板231の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも小さい。そのため、例えば、振動板231の、第1領域R1と重なる位置および第2領域R2と重なる位置における厚さの差異の分、圧電体260の厚さを異ならせて圧電体260を形成することによって、圧電体260の第1領域R1における厚さを圧電体260の第2領域R2における厚さよりも容易に厚くできる。
【0045】
また、本実施形態では、弾性層232の第1領域R1と重なる位置における厚さは、弾性層232の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも小さい。そのため、弾性層232の厚さを調整することによって、振動板231の第1領域R1と重なる位置における厚さを、振動板231の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも厚くできる。
【0046】
また、本実施形態では、絶縁層233の第1領域R1と重なる位置における厚さは、絶縁層233の第2領域R2と重なる位置における厚さと等しい。そのため、第1領域R1と第2領域R2とで絶縁層233の厚さを変化させることなく、振動板231の第1領域R1と重なる位置における厚さを、振動板231の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも厚くできる。
【0047】
また、本実施形態では、第1領域R1における圧電体260の第2端面262は、第2領域R2における第2端面262と、積層方向において同じ位置に位置する。そのため、圧電体260の第2端面262が平滑になる。
【0048】
また、本実施形態では、第1領域R1と重なる位置における振動板231の第4端面237は、第2領域R2と重なる位置における第4端面237と、積層方向において同じ位置に位置する。そのため、振動板231の第4端面237が平滑になる。
【0049】
また、本実施形態では、積層方向に沿って、共通電極270と、圧電体260と、個別電極280と、振動板231とが、この順に積層されている。そのため、共通電極270が上部電極として設けられ、個別電極280が下部電極として設けられている場合であっても、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減し、境界Br1におけるクラック等の発生が抑制される。そのため、圧電素子240の構成の自由度が高まる。
【0050】
また、本実施形態では、第1領域R1の配列方向における幅は、圧電体260の配列方向における幅と等しい。これによって、第1領域R1が、配列方向において他の領域と隣接しないため、圧電体260の配列方向における耐久性が向上する。
【0051】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態における圧電部230bの概略構成を説明する図である。
図6には、XY平面において圧力室221が形成されている部分や、後述する圧電素子240bを構成する各部材が設けられている部分が、
図4に示した第1実施形態の場合と同様に示されている。本実施形態の第1領域R1は、第1実施形態と異なり、第1領域R1のX方向における幅は、圧電体260bのX方向における幅よりも小さい。なお、第2実施形態の液体吐出装置100及び液体吐出ヘッド200の構成のうち、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様である。
【0052】
図7は、
図6における圧電部230bのVII-VII断面図である。上述したように、本実施形態の第1領域R1のX方向における幅は、圧電体260bのX方向における幅よりも小さいため、第1領域R1の+X方向と-X方向とには、第1領域R1と異なる領域が位置している。具体的には、本実施形態では、第1領域R1の+X方向と-X方向とには、第2領域R2が位置している。本実施形態においても、第1領域R1において生じる負荷が圧電体260bの厚み方向であるZ方向に分散しやすいため、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減する。また、第1領域R1のX方向における幅が圧電体260bのX方向における幅よりも小さいことによって、第1領域R1と他の領域とのY方向における境界のX方向における寸法が、圧電体260bのX方向における幅よりも小さくなるため、第1領域R1と他の領域とのY方向における境界において、クラック等の発生が抑制される。そのため、圧電体260bのY方向における耐久性が向上する。
【0053】
本実施形態の振動板231bには、第1実施形態と異なり、複数の圧電体260bに対応して、複数の溝Gbが個別に形成されている。本実施形態の溝GbのX方向における寸法は、圧電体260bのX方向における寸法よりも小さい。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、圧電体260bのうち溝Gbと重なる領域における厚さが、溝Gbと重ならない領域における厚さよりも厚く形成されている。つまり、本実施形態では、圧電体260bのうち溝Gbと重なる領域が第1領域R1に相当し、溝Gbと重ならない領域が第2領域R2に相当する。なお、本実施形態では、第1領域R1のX方向およびY方向における寸法は、溝GbのX方向およびY方向における寸法と等しい。また、本実施形態の溝Gbは、第1実施形態と同様に、弾性層232bの上面の一部を切り欠くことによって形成されている。
【0054】
複数の溝Gbが、複数の圧電体260bに対応して個別に設けられていることによって、1条の溝が複数の圧電体260bに亘って形成されている場合と比較して、振動板231bの耐久性が向上する。また、下部電極としての個別電極280をエッチングによってパターニングする際、複数の溝Gbが複数の圧電体260bに対応して個別に形成されていることによって、複数の圧電体260bに対応する個別電極280それぞれを個別にパターニングしやすい。そのため、個別電極280を形成する効率を高めることができる。
【0055】
以上で説明した第2実施形態の液体吐出ヘッド200によっても、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減し、境界Br1におけるクラック等の発生が抑制される。特に、本実施形態では、第1領域R1の配列方向における幅は、圧電体260bの配列方向における幅より小さい。これによって、第1領域R1と他の領域との延在方向における境界の配列方向における寸法が、圧電体260bの配列方向における幅よりも小さくなるため、圧電体260bの延在方向における耐久性が向上する。
【0056】
C.第3実施形態:
図8は、第3実施形態における圧力室221及び圧電部230cのXZ平面に沿った断面を示す図である。
図7には、
図5に示した第1実施形態の場合と同様に、振動板231と圧電素子240cとが示されている。本実施形態では、第1実施形態と異なり、積層方向であるZ方向に沿って、+Z方向から個別電極280cと、圧電体260と、共通電極270cと、振動板231とが、この順に積層されている。すなわち、共通電極270cは、圧電体260の下部に積層されている下部電極であり、個別電極280cは、圧電体260の上部に積層されている上部電極である。なお、第3実施形態の液体吐出装置100及び液体吐出ヘッド200の構成のうち、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様である。
【0057】
以上で説明した第3実施形態の液体吐出ヘッド200によっても、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減し、境界Br1におけるクラック等の発生が抑制される。特に、本実施形態では、Z方向に沿って、個別電極280cと、圧電体260と、共通電極270cと、振動板231とが、この順に積層されている。そのため、共通電極270cが下部電極として設けられ、個別電極280cが上部電極として設けられている場合であっても、境界Br1における能動部Acと非能動部NAcとの変位の差に起因する応力が低減し、境界Br1におけるクラック等の発生が抑制される。そのため、圧電素子240cの構成の自由度が高まる。
【0058】
D.他の実施形態:
(D-1)上記実施形態において、振動板231の第1領域R1と重なる位置における厚さは、振動板231の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも小さい。これに対して、振動板231の第1領域R1と重なる位置における厚さは、振動板231の第2領域R2と重なる位置における厚さと同じであってもよいし、振動板231の第2領域R2と重なる位置における厚さより厚くてもよい。例えば、第1領域R1と第2領域R2とにおいて、振動板231の厚さが同じに構成され、圧電体260の厚さが異なるように構成されていてもよい。従って、圧電体260の第1領域R1における厚さが、圧電体260の第2領域R2における厚さよりも厚ければ、振動板231の厚みが異なる領域と圧電体260の厚みが異なる領域とが、それぞれ対応していなくてもよい。例えば、上記の第1実施形態から第3実施形態のように、振動板231に溝が設けられている場合、第1領域R1の範囲は、圧電体260のうち溝と重なる領域より小さい領域であってもよい。
【0059】
(D-2)上記実施形態において、弾性層232の第1領域R1と重なる位置における厚さは、弾性層232の第2領域R2と重なる位置における厚さよりも小さい。これに対して、弾性層232の第1領域R1と重なる位置における厚さは、弾性層232の第2領域R2と重なる位置における厚さと同じであってもよいし、第2領域R2と重なる位置における厚さより厚くてもよい。
【0060】
(D-3)上記実施形態において、絶縁層233の第1領域R1と重なる位置における厚さは、絶縁層233の第2領域R2と重なる位置における厚さと等しい。これに対して、絶縁層233の第1領域R1と重なる位置における厚さは、絶縁層233の第2領域R2と重なる位置における厚さより厚くてもよいし、小さくてもよい。
【0061】
(D-4)上記実施形態において、第1領域R1における圧電体260の第2端面262は、第2領域R2における第2端面262と、積層方向において同じ位置に位置している。これに対して、第1領域R1における第2端面262は、第2領域R2における第2端面262と、積層方向において同じ位置に位置していなくてもよい。
【0062】
(D-5)上記実施形態において、第1領域R1と重なる位置における振動板231の第4端面237は、第2領域R2と重なる位置における第4端面237と、積層方向において同じ位置に位置している。これに対して、第1領域R1と重なる位置における第4端面237は、第2領域R2と重なる位置における第4端面237と、積層方向において同じ位置に位置していなくてもよい。
【0063】
E.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0064】
(1)本開示の第1の形態によれば、複数の圧電体と、前記複数の圧電体に対して個別に設けられた個別電極と、前記複数の圧電体に対して共通に設けられた共通電極と、前記個別電極と前記共通電極とを介して前記圧電体が電気的に駆動されることにより振動する振動板と、を備える液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体と、前記個別電極と、前記共通電極と、前記振動板と、は積層方向に積層されており、前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれた部分を能動部とし、前記圧電体のうち、前記個別電極と前記共通電極とによって前記積層方向に挟まれない部分を非能動部とし、前記圧電体のうち、前記積層方向に沿って見たときに、前記個別電極の延在方向における前記能動部の端と前記非能動部との境界を含む領域を第1領域とし、前記圧電体のうち、前記第1領域と異なる領域を第2領域としたとき、前記圧電体の前記第1領域における厚さは、前記圧電体の前記第2領域における厚さよりも厚い。
このような形態によれば、第1領域において生じる負荷が圧電体の厚み方向に分散しやすい。そのため、延在方向における能動部の端と非能動部との境界における、能動部と非能動部との変位の差に起因する応力が低減し、クラック等の発生が抑制される。
【0065】
(2)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記振動板の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記振動板の前記第2領域と重なる位置における厚さよりも小さくてもよい。このような形態によれば、例えば、振動板の、第1領域と重なる位置および第2領域と重なる位置における厚さの差異の分、圧電体の厚さを異ならせて圧電体を形成することによって、圧電体の第1領域における厚さを圧電体の第2領域における厚さよりも容易に厚くできる。
【0066】
(3)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記振動板は、弾性層と、前記積層方向において前記弾性層よりも前記圧電体側に位置する絶縁層と、を有し、前記弾性層の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記弾性層の前記第2領域と重なる位置における厚さよりも小さくてもよい。このような形態によれば、弾性層の厚さを調整することによって、振動板の第1領域と重なる位置における厚さを、振動板の第2領域と重なる位置における厚さよりも厚くできる。
【0067】
(4)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記絶縁層の前記第1領域と重なる位置における厚さは、前記絶縁層の前記第2領域と重なる位置における厚さと等しくてもよい。このような形態によれば、第1領域と第2領域とで絶縁層の厚さを変化させることなく、振動板の第1領域と重なる位置における厚さを、振動板の第2領域と重なる位置における厚さよりも厚くできる。
【0068】
(5)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体は、前記積層方向における前記振動板側の端面である第1端面と反対側の第2端面を有し、前記第1領域における前記第2端面は、前記第2領域における前記第2端面と、前記積層方向において同じ位置に位置していてもよい。このような形態によれば、圧電体の第2端面が平滑になる。
【0069】
(6)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記振動板は、前記積層方向における前記圧電体側の端面である第3端面と反対側の第4端面を有し、前記第1領域と重なる位置における前記第4端面は、前記第2領域と重なる位置における前記第4端面と、前記積層方向において同じ位置に位置していてもよい。このような形態によれば、振動板の第4端面が平滑になる。
【0070】
(7)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記積層方向に沿って、前記共通電極と、前記圧電体と、前記個別電極と、前記振動板と、がこの順に積層されていてもよい。このような形態によれば、共通電極が上部電極として設けられ、個別電極が下部電極として設けられている場合であっても、クラック等の発生が抑制される。そのため、共通電極や個別電極の構成の自由度が高まる。
【0071】
(8)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記積層方向に沿って、前記個別電極と、前記圧電体と、前記共通電極と、前記振動板と、がこの順に積層されていてもよい。このような形態によれば、共通電極が下部電極として設けられ、個別電極が上部電極として設けられている場合であっても、クラック等の発生が抑制される。そのため、共通電極や個別電極の構成の自由度が高まる。
【0072】
(9)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記複数の圧電体は、前記延在方向に直交する配列方向に沿って配列されていてもよい。
【0073】
(10)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第1領域の前記配列方向における幅は、前記圧電体の前記配列方向における幅と等しくてもよい。このような形態によれば、第1領域が、配列方向において他の領域と隣接しないため、圧電体の配列方向における耐久性が向上する。
【0074】
(11)上記形態の液体吐出ヘッドにおいて、前記第1領域の前記配列方向における幅は、前記圧電体の前記配列方向における幅より小さくてもよい。このような形態によれば、第1領域と他の領域との延在方向における境界の配列方向における寸法が、圧電体の配列方向における幅よりも小さくなるため、圧電体の延在方向における耐久性が向上する。
【0075】
(12)本開示の第2の形態によれば、液体吐出装置が提供される。この液体吐出装置は、上記第1の形態の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドからの吐出動作を制御する制御部と、を備える。
このような形態によれば、第1領域において生じる負荷が圧電体の厚み方向に分散しやすい。そのため、延在方向における能動部の端と非能動部との境界における、能動部と非能動部との変位の差に起因する応力が低減し、クラック等の発生が抑制される。
【0076】
本開示は、上述した液体吐出ヘッド、液体吐出装置としての形態に限らず、液体吐出システムや、液体吐出装置を備える複合機等の種々の態様で実現可能である。
【符号の説明】
【0077】
40…キャリッジ、41…フレキシブルケーブル、46…駆動モーター、47…駆動ベルト、51…搬送モーター、80…インクカートリッジ、90…駆動回路、100…液体吐出装置、110…制御部、200…液体吐出ヘッド、210…ノズル板、211…ノズル、220…圧力室基板、221…圧力室、223…インク供給路、225…連通部、230,230b,230c…圧電部、231,231b…振動板、232,232b…弾性層、233…絶縁層、236…第3端面、237…第4端面、240,240b,240c…圧電素子、250…封止部、251…圧電素子保持部、252…マニホールド部、260,260b…圧電体、261…第1端面、262…第2端面、270,270c…共通電極、280,280c…個別電極、293…マニホールド、295…リード電極