(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】品質評価に用いられる学習モデルの製造方法、学習システム、品質評価システム、及び、品質評価方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240611BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2020117890
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷地 宣紀
【審査官】吉川 康男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007944(JP,A)
【文献】特開2010-249624(JP,A)
【文献】特開2020-009435(JP,A)
【文献】特開2014-206415(JP,A)
【文献】特開2005-315703(JP,A)
【文献】特開2008-102027(JP,A)
【文献】ディープラーニングによる火花試験自動化技術の開発,材料とプロセス CAMP-ISIJ Vol.31(2018)-705,第31巻 第2号,一般社団法人日本鉄鋼協会,2018年09月19日
【文献】ディープラーニングによる火花試験自動化技術の開発(II),材料とプロセス CAMP-ISIJ Vol.32(2019)-205,第32巻 第1号,一般社団法人日本鉄鋼協会,2019年03月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材の品質評価に用いられる学習モデルの製造方法であって、
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなり炭素濃度を含む物性値又は品質レベル値が実測されている複数の対象部材それぞれの表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得工程と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理工程と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出工程と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、評価対象となる部材の前記炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する、前記学習モデルに含まれる判定用学習モデルを生成する第一モデル生成工程と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、前記評価対象となる部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力する、前記学習モデルに含まれる評価用学習モデルを生成する第二モデル生成工程と、を含み、
前記第一モデル生成工程では、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記複数の対象部材それぞれの前記炭素濃度の実測値とを教師データとして用いて前記判定用学習モデルを生成し、
前記第二モデル生成工程では、前記複数の対象部材のうち、前記炭素濃度の実測値が前記所定の閾値以上である対象部材の顕微鏡画像から得られた前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記物性値の実測値又は前記品質レベル値の実測値とを教師データとして用いて、前記評価用学習モデルを生成する
品質評価に用いられる学習モデルの製造方法。
【請求項2】
前記所定の閾値は0.4%以上、0.5%以下である
請求項1に記載の品質評価に用いられる学習モデルの製造方法。
【請求項3】
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材の品質評価に用いられる学習モデルを機械学習により製造するための学習システムであって、
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなり炭素濃度を含む物性値又は品質レベル値が実測されている複数の対象部材それぞれの表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得装置と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理部と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出部と、
前記学習モデルに含まれる判定用学習モデルを学習させる第一学習部と、
前記学習モデルに含まれる評価用学習モデルを学習させる第二学習部と、を含み、
前記第一学習部は、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記複数の対象部材それぞれの前記炭素濃度の実測値とを教師データとして用いて、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、評価対象となる部材の前記炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力するように前記判定用学習モデルを学習させ、
前記第二学習部は、前記複数の対象部材のうち、前記炭素濃度の実測値が前記所定の閾値以上である対象部材の顕微鏡画像から得られた前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記物性値の実測値又は前記品質レベル値の実測値とを教師データとして用いて、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、前記評価対象となる部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力するように前記評価用学習モデルを学習させる
学習システム。
【請求項4】
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる評価対象部材の品質評価を行う品質評価システムであって、
前記評価対象部材の表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得装置と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記評価対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記評価対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理部と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出部と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、請求項3に記載の学習システムで学習させて得られた学習モデルに含まれる判定用学習モデルより、前記評価対象部材の炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する判定部と、
前記判定結果が、前記評価対象部材の炭素濃度が所定の閾値以上であることを示す場合、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、請求項3に記載の学習システムで学習させて得られた学習モデルに含まれる評価用学習モデルにより、前記評価対象部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力する評価演算部と、を備える
品質評価システム。
【請求項5】
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる評価対象部材の品質評価を行う品質評価方法であって、
前記評価対象部材の表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得工程と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記評価対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記評価対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理工程と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出工程と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、請求項1又は請求項2に記載の製造方法で生成された学習モデル含まれる判定用学習モデルにより、前記評価対象部材の炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する判定工程と、
前記判定結果が、前記評価対象部材の炭素濃度が所定の閾値以上であることを示す場合、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、請求項1又は請求項2に記載の製造方法で生成された学習モデル含まれる評価用学習モデルにより、前記評価対象部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力する評価演算工程と、を含む
品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理した鋼からなる部材の品質評価に用いられる学習モデルを製造する方法、その製造のための学習システム、前記学習モデルを用いて行う品質評価システム、及び、品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼又は合金鋼からなる部材の耐摩耗性及び耐疲労性を向上させることを目的として、浸炭焼入れ処理等の熱処理が行われる。熱処理を行った鋼からなる部材の品質に大きな影響を及ぼす因子として、炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等が挙げられる。そこで、炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等の物性値に基づいて、熱処理した部材の品質評価が行われることがある。
【0003】
残留オーステナイト量の測定には、例えば、X線分析が用いられる。特許文献1には、寿命診断のためではあるが、X線分析結果により鋼材の残留オーステナイト量を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
残留オーステナイト量の測定のために、特許文献1に開示されるように、X線解析が用いられる。しかし、測定のための装置コストが高額となり、また、X線を用いることから安全管理についての課題がある。
炭素濃度の測定のために、電子線マイクロアナライザが用いられる。しかし、真空中で測定が行われ、測定のための装置コスト及び装置の維持費が高額となり、また、測定時間が長くなるという課題がある。
硬さの測定のために、例えばビッカース硬度計が用いられる。
【0006】
前記のような各方法により測定された、炭素濃度、残留オーステナイト量、及び硬さ等の物性値に基づいて、熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材の品質評価が行われる。これまでは、作業者が顕微鏡観察を行うと共に前記物性値を求め、総合的に判断し、品質評価(例えば、5段階評価)が行われている。しかし、熟練者と非熟練者とでは、評価が異なることがあり、今後、品質評価の精度を高めることが望まれている。
【0007】
そこで、本開示の発明では、熱処理品に対する品質評価を高い精度で行うことが可能となる新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の発明は、熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材の品質評価に用いられる学習モデルの製造方法であって、
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなり炭素濃度を含む物性値又は品質レベル値が実測されている複数の対象部材それぞれの表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得工程と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理工程と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出工程と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、評価対象となる部材の前記炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する、前記学習モデルに含まれる判定用学習モデルを生成する第一モデル生成工程と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、前記評価対象となる部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力する、前記学習モデルに含まれる評価用学習モデルを生成する第二モデル生成工程と、を含み、
前記第一モデル生成工程では、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記複数の対象部材それぞれの前記炭素濃度の実測値とを教師データとして用いて前記判定用学習モデルを生成し、
前記第二モデル生成工程では、前記複数の対象部材のうち、前記炭素濃度の実測値が前記所定の閾値以上である対象部材の顕微鏡画像から得られた前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記物性値の実測値又は前記品質レベル値の実測値とを教師データとして用いて、前記評価用学習モデルを生成する。
【0009】
この製造方法によれば、明部特徴量及び暗部特徴量を説明変数とし物性値又は品質レベル値を目的変数とする評価用学習モデルが得られる。明側特徴量のみではなく、また、暗側特徴量のみではなく、明側特徴量と暗側特徴量との双方が教師データとして用いられて学習モデルが製造される。このようにして製造された学習モデルを用いて品質評価を行うことで、高い精度で物性値又は品質レベル値を推定することができ、品質評価の精度を高めることが可能となる。
さらに、本製造方法で得られる学習モデルには、評価対象となる部材の炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する判定用学習モデルが含まれており、評価用学習モデルを用いる前に判定用学習モデルを用いることで、評価用学習モデルを用いて物性値又は品質レベル値を推定する際の目的変数の範囲を制限することができる。これにより、物性値又は品質レベル値の推定精度がより高められ、品質評価の精度をより高めることが可能となる。
【0010】
(2)上記製造方法において、前記所定の閾値は0.4%以上、0.5%以下であってもよい。
所定の閾値が0.4%よりも小さいと、学習モデルによって得られる物性値の推定値又は品質レベル値の推定値の実測値に対する決定係数が顕著に低下する。また、所定の閾値が0.4%よりも小さいと、学習モデルによって得られる物性値の推定値又は品質レベル値の推定値の実測値に対する二乗平均平方根誤差が顕著に増加する。
また、部材の炭素濃度は、大きくても1.0%程度とされるので、所定の閾値が0.5%よりも大きいと、評価用学習モデルを用いて物性値又は品質レベル値を推定する際の数値範囲を制限し過ぎてしまう。
このため、所定の閾値は0.4%以上、0.5%以下であることが好ましい。
【0011】
(3)また、本開示の発明は、熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材の品質評価に用いられる学習モデルを機械学習により製造するための学習システムであって、
熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなり炭素濃度を含む物性値又は品質レベル値が実測されている複数の対象部材それぞれの表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得装置と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理部と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出部と、
前記学習モデルに含まれる判定用学習モデルを学習させる第一学習部と、
前記学習モデルに含まれる評価用学習モデルを学習させる第二学習部と、を含み、
前記第一学習部は、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記複数の対象部材それぞれの前記炭素濃度の実測値とを教師データとして用いて、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、評価対象となる部材の前記炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力するように前記判定用学習モデルを学習させ、
前記第二学習部は、前記複数の対象部材のうち、前記炭素濃度の実測値が前記所定の閾値以上である対象部材の顕微鏡画像から得られた前記明側特徴量及び前記暗側特徴量と、前記物性値の実測値又は前記品質レベル値の実測値とを教師データとして用いて、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、前記評価対象となる部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力するように前記評価用学習モデルを学習させる。
【0012】
この学習システムによれば、明部特徴量及び暗部特徴量を説明変数とし物性値又は品質レベル値を目的変数とする評価用学習モデルが得られる。明側特徴量のみではなく、また、暗側特徴量のみではなく、明側特徴量と暗側特徴量との双方が教師データとして用いられて学習モデルが製造される。このようにして製造された学習モデルを用いて品質評価を行うことで、高い精度で物性値又は品質レベル値を推定することができ、品質評価の精度を高めることが可能となる。
さらに、本学習システムで得られる学習モデルには、評価対象となる部材の炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する判定用学習モデルが含まれており、評価用学習モデルを用いる前に判定用学習モデルを用いることで、評価用学習モデルを用いて物性値又は品質レベル値を推定する際の目的変数の範囲を制限することができる。これにより、物性値又は品質レベル値の推定精度がより高められ、品質評価の精度をより高めることが可能となる。
【0013】
(4)また、本開示の発明は、熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる評価対象部材の品質評価を行う品質評価システムであって、
前記評価対象部材の表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得装置と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記評価対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記評価対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理部と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出部と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、上記(3)に記載の学習システムで学習させて得られた学習モデルに含まれる判定用学習モデルより、前記評価対象部材の炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する判定部と、
前記判定結果が所定の閾値以上である場合、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、上記(3)に記載の学習システムで学習させて得られた学習モデルに含まれる評価用学習モデルにより、前記評価対象部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力する評価演算部と、を備える。
【0014】
上記(3)の学習システムで学習させて得られた学習モデルが用いられることで、物性値又は品質レベル値を高い精度で推定することができ、その結果、品質評価の精度を高めることが可能となる。
【0015】
(5)また、本開示の発明は、 熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる評価対象部材の品質評価を行う品質評価方法であって、
前記評価対象部材の表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像を取得する画像取得工程と、
前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、前記評価対象部材の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記評価対象部材の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成する画像処理工程と、
前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とを求める特徴量算出工程と、
前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、上記(1)又は(2)に記載の製造方法で生成された学習モデル含まれる判定用学習モデルにより、前記評価対象部材の炭素濃度が所定の閾値以上か否かの判定結果を出力する判定工程と、
前記判定結果が所定の閾値以上である場合、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量をデータセットとして用いて、上記(1)又は(2)に記載の製造方法で生成された学習モデル含まれる評価用学習モデルにより、前記評価対象部材の前記物性値の推定値又は前記品質レベル値の推定値を出力する評価演算工程と、を含む。
【0016】
上記(1)又は(2)のいずれかに記載の製造方法により生成された学習モデルが用いられることで、物性値又は品質レベル値を高い精度で推定することができ、その結果、品質評価の精度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の発明によれば、熱処理品に対する品質評価を高い精度で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の学習モデルの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】学習システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】二つの区画画像を一つに繋ぐ処理の説明図である。
【
図6】区画画像が繋げられた顕微鏡画像の説明図である。
【
図10】ヒストグラム均一化処理後の説明図である。
【
図12】グレースケール画像から生成されたヒストグラムの説明図である。
【
図13】暗側画像に含まれる暗いオブジェクトの一つを示す説明図である。
【
図14】明側画像に含まれる明るいオブジェクトの一つを示す説明図である。
【
図15】学習モデルが出力した推定値と、実測値とを示すグラフである。
【
図17】(A)は、本実施形態の品質評価方法によって、炭素濃度の推定値を求めた結果の一例を示すグラフ、(B)は、
図16に示す品質評価方法において判定工程を行わずに炭素濃度の推定値を求めた結果の一例を示すグラフである。
【
図18】(A)は、本実施形態の品質評価方法によって求められる評価対象部材の炭素濃度の推定値の決定係数を求めた結果の一例を示すグラフ、(B)は、本実施形態の品質評価方法によって求められる評価対象部材の炭素濃度の推定値のRMSEを求めた結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔はじめに〕
図1は、本発明の学習モデルの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図1に示す製造方法は、学習モデルの構築方法(学習モデルのモデリング方法)とも言える。学習モデルは機械学習によって構築される。構築される学習モデルは、熱処理した鋼(炭素鋼又は合金鋼)からなる部材の炭素濃度を判定するための判定用学習モデルと、前記部材の品質評価に用いられる評価用学習モデルとを含む。両モデルは、前記部材の判定及び品質評価に用いられる演算式である。
図2は、学習モデルを機械学習により製造するための学習システムの構成を示すブロック図である。その学習システムには、顕微鏡及びカメラを含む画像取得装置11、及びコンピュータ装置12が含まれる。
【0020】
まず、学習モデルを構築する方法について説明し、その後、構築された学習モデルを用いて、品質評価を行う品質評価システム及び品質評価方法について説明する。
学習モデルを構築するために用いられる、熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材を「対象部材」と称する。これに対して、学習モデルを用いて前記品質評価を行う部材を「評価対象部材」と称する。評価対象部材は、対象部材と同じ熱処理した鋼(炭素鋼又は合金鋼)からなる。
【0021】
対象部材(評価対象部材)は、熱処理した、炭素鋼、又は、例えばクロム鋼、クロムモリブデン鋼、クロムモリブデンニッケル鋼等の合金鋼である。炭素鋼の例としては、S10C、C25C、S40C等である。合金鋼の例としては、SCM415、SCr415、SNCM420、SAE5120等である。合金鋼には、ニッケル、クロム、マンガン、及びモリブデンのうちの少なくとも一つが規定の含有量で含まれている。
【0022】
炭素鋼の場合であっても、合金鋼の場合であっても、炭素濃度が0.4%以下の鋼を、更には特に低炭素鋼を、本開示の発明における前記対象部材及び前記評価対象部材として用いる。また、残留オーステナイト量が0~50%の範囲となる鋼を、本開示の発明における前記対象部材及び前記評価対象部材として用いる。また、硬さが400~800HVの範囲となる鋼を、本開示の発明における前記対象部材及び前記評価対象部材として用いる。
【0023】
対象部材及び評価対象部材の具体例としては、例えば、転がり軸受の軌道輪である。
図3は、転がり軸受の軌道輪の断面図である。
図3に示す軌道輪は、円すい転がり軸受の内輪7である。対象部材及び評価対象部材が内輪7である場合、前記学習モデルは、その内輪7のうち、転動体(円すいころ)が転がり接触する軌道8における品質評価を行うためのモデルである。そして、内輪7の軌道8が、品質評価の対象となる。具体的に説明すると、内輪7の場合、軌道8の表面から約100μmの位置が、せん断応力が最大となる位置である。そこで、その位置を含む範囲を「対象領域」と定義し、その対象領域の品質評価を行うための学習モデルが構築される。更に、その学習モデルが用いられて対象領域の品質評価が行われる。
【0024】
前記熱処理としては、浸炭焼入れ処理、浸炭窒化焼入れ処理等である。本開示では、浸炭焼入れ処理が行われる場合について説明する。浸炭焼入れ処理は、例えば転がり軸受の軌道輪(
図3に示す内輪7)の耐摩耗性及び耐疲労性を向上させることを目的として行われる。その浸炭焼入れ処理を行った鋼の品質に大きな影響を及ぼす因子として、炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等が挙げられる。
【0025】
図2において、コンピュータ装置12は、CPU(Central Processing Unit)を含む処理装置13、ハードディスク等からなる記憶装置14、及び入出力インターフェース15等を備える。記憶装置14に記憶されているコンピュータプログラムが処理装置13によって実行されることで、処理装置13は、各種の機能部を実現する。その機能部として、処理装置13は、画像処理部16、特徴量算出部17、第一学習部18、第二学習部19、及び評価演算部20を備える。記憶装置14は、処理装置13が処理したデータ(画像のデータ、特徴量、学習モデル、学習のための各種情報)を記憶することができる。
【0026】
〔学習モデルの製造方法〕
図1に示す製造方法には、事前工程S1、画像取得工程S2、画像処理工程S3、特徴量算出工程S4、第一モデル生成工程S5、及び第二モデル生成工程S6が含まれる。以下、各工程について説明する。
【0027】
〔事前工程S1〕
複数の対象部材(
図3に示す内輪7となる中間品)に対して熱処理(浸炭焼入れ)が行われる。その熱処理では、対象部材毎に、熱処理用の炉内のカーボンポテンシャルを相違させる。つまり、対象部材毎に、熱処理条件であるカーボンポテンシャルを相違させる。具体的に説明すると、テストピース番号1とする対象部材TP1ではカーボンポテンシャルを0.2%とし、テストピース番号2とする対象部材TP2ではカーボンポテンシャルを0.5%とし、テストピース番号3とする対象部材TP3ではカーボンポテンシャルを0.75%とし、テストピース番号4とする対象部材TP4ではカーボンポテンシャルを0.8%とし、テストピース番号5とする対象部材TP5ではカーボンポテンシャルを0.9%として熱処理が行われる。カーボンポテンシャル以外の熱処理条件は同じである。
【0028】
対象部材TP1~TP5それぞれは、一つのみではなく、複数準備される。つまり、複数の対象部材TP1、複数の対象部材TP2、複数の対象部材TP3・・・が準備される。対象部材TP1~TP5それぞれが切断され、前記対象領域の物性値を測定する。
【0029】
熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれについて、電子線マイクロアナライザを用いて炭素濃度の測定が行われ、炭素濃度の実測値が得られる。つまり、対象部材TP1~TP5それぞれの対象領域における物性値として、炭素濃度が求められる。
熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれについて、X線解析により、残留オーステナイト量が測定され、残留オーステナイト量の実測値が得られる。つまり、対象部材TP1~TP5それぞれの対象領域における物性値として、残留オーステナイト量が求められる。
熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれについて、硬さ測定(ビッカース硬度計)により、硬さが測定され、硬さの実測値が得られる。つまり、対象部材TP1~TP5それぞれの対象領域における物性値として、硬さが求められる。
また、検査員(熟練者)により、熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれについて顕微鏡観察が行われ、品質レベル値(の実測値)が求められる。品質レベル値は、例えば5段階評価の採点値である。なお、品質レベル値は、顕微鏡観察の結果に、前記各実測値(物性値)も含めて考慮されて決定されてもよい。
【0030】
熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれの物性値の実測値として、炭素濃度、残留オーステナイト、及び硬さのうちの少なくとも一つが求められていればよいが、本開示では、全てが求められる。
また、熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれの物性値の実測値と、熱処理後の対象部材TP1~TP5それぞれの品質レベル値とのうちのいずれか一方が求められていればよいが、本開示では、両者が求められる。
対象部材TP1~TP5それぞれの前記物性値及び前記採点値は、対象部材TP1~TP5(識別番号の情報)と対応付けられて、記憶装置14に記憶される。
なお、本実施形態において、対象部材TP1~TP5の炭素濃度の実測値は、熱処理時において設定されたカーボンポテンシャルと同じ値となっているものとする。
【0031】
〔画像取得工程S2〕
対象部材TP1~TP5それぞれの切断面が鏡面研磨され、所定の腐食液によってエッチングした後、金属組織の顕微鏡画像が画像取得装置11によって取得される。画像取得工程S2では、対象部材TP1~TP5それぞれの対象領域の顕微鏡画像が取得される。
図4は、対象部材TP1~TP5それぞれの顕微鏡画像の例である。
【0032】
このように、画像取得工程S2では、物性値及び品質レベル値が確認された対象部材TP1~TP5それぞれの表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像が取得される。取得された画像は、コンピュータ装置12に送信されて記憶装置14に記憶される。
【0033】
一つの顕微鏡画像の範囲は狭い。そこで、対象部材TP1~TP5それぞれについて、
図3に示す内輪7の軌道8の表面からの深さ方向に直交する方向に沿った異なる複数の部位の顕微鏡画像を取得する。
図3では、軌道8の表面からの深さ方向に直交する方向を「破線」で示している。この破線に沿って対象領域の複数の顕微鏡画像が取得される。この際、対象領域が複数の区画に分けられ、その区画それぞれの一部が重複するようにして撮影される。複数の区画に分ける方向は、前記破線に沿った方向であり、当該破線に沿った方向の端部が重複するようにして撮影が行われる。一つの区画の画像を「区画画像」と称する。
【0034】
区画画像それぞれにおいて、前記端部(前記一部)に含まれる特徴部分が抽出される。特徴部分とは、例えば周囲と比較して明度が異なっている部分(高くなっている部分)であり、特徴部分は複数抽出される。
図5は、二つの区画画像を一つに繋ぐ処理の説明図である。
図5では、前記破線に沿って隣り合う二つの区画画像P1,P2において、共通する特徴部分が丸で示されている。区画画像に含まれる特徴部分を基準として、前記破線に沿って複数の区画画像を繋げることで対象領域の一つの顕微鏡画像が取得される。なお、
図5は、前記破線に沿って隣り合う二つの区画画像P1,P2が繋げられる場合の説明図である。
図6は、二つよりも多い複数(五つ)の区画画像が繋げられた顕微鏡画像Pjの説明図である。区画画像が繋げられた方向、つまり、前記破線に沿った方向を「幅方向」と称する。区画画像を繋げるための処理は、コンピュータ装置12の画像処理部16によって行われてもよい。
【0035】
このように、画像取得工程S2では、対象領域が複数の区画に分けられて、その区画それぞれの一部(端部)が重複するようにして撮影されることで複数の区画画像(P1,P2)が取得される。更に、その区画画像(P1,P2)に含まれる特徴部分を基準として、複数の区画画像(P1,P2)が繋げられる。これにより、対象領域の一つの顕微鏡画像Pj(
図6参照)が取得される。
【0036】
更に、画像取得工程S2では、
図6に示す顕微鏡画像Pjが加工される。具体的に説明すると、軌道8(
図3参照)の表面から所定の深さの位置を中央として、深さ方向について所定幅の顕微鏡画像(
図7参照)に、加工される。前記所定の深さは、軌道8の表面から100μmの位置であり、前記所定幅は、例えば100μmである。つまり、せん断応力が最大となる位置を含む深さ方向について所定幅(100μm)の顕微鏡画像に加工される。前記加工の処理は、コンピュータ装置12の画像処理部16によって行われればよい。
【0037】
以上より、対象部材TP1~TP5それぞれについて、
図7に示すような顕微鏡画像が取得される。
【0038】
〔画像処理工程S3〕
画像処理工程S3では、画像取得工程S2で取得された顕微鏡画像それぞれが、コンピュータ装置12の画像処理部16によって処理される。画像処理工程S3には、ノイズ除去処理S3-1、ヒストグラム均一化処理S3-2、及び、明側画像と暗側画像とを生成する処理S3-3が含まれる。コンピュータ装置12では、顕微鏡画像がグレースケール画像として処理される。
【0039】
〔ノイズ除去処理S3-1〕
図8中の(A)は、
図7に示す顕微鏡画像(グレースケール画像)の一部の説明図である。
図8中の(B)は、(A)の画像における前記幅方向の一列に沿った位置(画素)と、その位置での明度との関係を示すグラフである。(B)のグラフの横方向が、前記幅方向の位置であり、(B)のグラフの縦方向が、明度を示す。
【0040】
ここで、画像取得工程S2で取得される前記区画画像(
図5参照)では、画像取得装置11のカメラのレンズの影響等を受け、区画画像の中央では比較的明度が高く、区画画像の端では比較的明度が低くなる。このため、
図8中の(B)に示すように、複数の区画画像を前記のとおり繋ぎ合わせると、前記幅方向に沿って明度が周期的に大きく変動する。そこで、画像処理工程S3では、まず、このような変動によるノイズが除去される。その除去の処理を、
図7の画像及びその一部を示す
図8中の(A)~(F)により説明する。
【0041】
図7に示すグレースケール画像がコピーされ、コピー画像が生成される。そのコピー画像から、下記の式(1)が用いられて、背景画像が生成される。つまり、コピー画像における注目画素を原点として、下記の式(1)を用いた重み付けを実施し、明度の平均を算出する処理が実行される。
【0042】
【0043】
式(1)の「x」は、グレースケール画像中の画素の前記幅方向の座標であり、「y」は、グレースケール画像中の画素の前記幅方向に直交する方向の座標である。「σ」は、設定値であり、同じ明度であると判断する画素値の最大差分である。この処理は、いわゆるガウシアンぼかしと呼ばれるぼかし処理である。
【0044】
図8中の(C)が、ぼかし処理により得られるグレースケール画像である。
図8中の(D)は、(C)の画像における前記幅方向の一列に沿った位置(画素)と、その位置での明度との関係を示す説明図である。前記ぼかし処理により得られるグレースケール画像は、基のグレースケール画像の背景画像に相当する。このように、基のグレースケール画像に対して画像をぼかす処理を行うことで、背景画像として、(C)に示す背景画像が生成される。
【0045】
図8中の(A)に示す基のグレースケール画像から、(C)に示す背景画像を用いて、ノイズを除去する。
図8中の(E)は、ノイズが除去されたグレースケール画像である。
図8中の(F)は、(E)の画像における前記幅方向の一列に沿った位置(画素)と、その位置での明度との関係を示す説明図である。
次の式(2)による演算が行われることで、
図8中の(E)に示すような、ノイズが除去されたグレースケール画像が生成される。
【0046】
【0047】
なお、前記式(1)に示す演算を、基のグレースケール画像に対して行って背景画像を生成し、コピー画像を背景画像で編集して、ノイズが除去されたグレースケール画像が生成されてもよい。
【0048】
以上のように、画像処理工程S3では、ノイズ除去処理S3-1が行われる。その処理は、
図7に示す基のグレースケール画像をコピーしたコピー画像を生成する。基のグレースケール画像とコピー画像とのうちの一方に対して画像をぼかす処理を行って背景画像(
図8中の(C)参照)を生成する。その背景画像を用いて、基のグレースケール画像とコピー画像とのうちの他方から、ノイズを除去したグレースケール画像(
図8中の(E)参照)を生成する。本開示では、ノイズを除去したグレースケール画像に対して、次に説明する均一化処理S3-2が行われ、その処理を行った画像データに基づいて、後述する明側画像と暗側画像とが別々に生成される。
【0049】
〔ヒストグラム均一化処理S3-2〕
ノイズ除去処理S3-1により、ノイズが除去されたグレースケール画像それぞれから、明度のヒストグラムを生成し、そのヒストグラムの均一化処理S3-2が行われる。本開示の発明の場合、前記ヒストグラムは、明度0から明度255まで明度(階調)毎の画素数をそれぞれ累積したものである。ヒストグラム均一化処理S3-2は、ヒストグラムの累積度数のグラフの傾きが一定になるように基のデータを変換する処理である。具体的に説明すると、ノイズが除去されたグレースケール画像の各画素に対して、次の式(3)による変換処理が行われる。
【0050】
【0051】
図9中の(A)が、ノイズが除去されたグレースケール画像の一部であり、
図9中の(B)が、(A)のヒストグラムを示す説明図である。
図9中の(B)の横軸が、明度(0~255)であり、縦軸が、画素数である。
図10中の(A)が、均一化処理されたグレースケール画像の一部であり、
図10中の(B)が、(A)のヒストグラムを示す説明図である。
図10中の(B)の横軸が、明度(0~255)であり、縦軸が、画素数である。
この均一化処理S3-2により、画像に含まれる粒の輪郭が明確化される。
【0052】
以上のように均一化処理S3-2を行ったグレースケール画像から、後述する暗側画像と明側画像とがそれぞれ生成される。
【0053】
〔明側画像と暗側画像とを生成する処理S3-3〕
図11中の(A)は、均一化処理を行ったグレースケール画像の一部を示す図である。
図11中の(B)は、このグレースケール画像から生成された暗側画像の図である。
図11中の(C)は、このグレースケール画像から生成された明側画像の図である。
暗側画像は、対象部材(TP1~TP5それぞれ)の組織の粒が暗いオブジェクト(黒のオブジェクト)として示され、その他が明るい領域(白い領域)として示される画像である。
明側画像は、対象部材(TP1~TP5それぞれ)の組織の粒が明るいオブジェクト(白のオブジェクト)として示され、その他が暗い領域(黒の領域)として示される画像である。
【0054】
なお、前記組織の粒は「結晶粒」に相当する。暗側画像(B)において暗いオブジェクトとして示される粒と、明側画像(C)において明るいオブジェクトとして示される粒とは、別であり、それぞれ別の組織を有する。
暗いオブジェクト(暗い領域)は、前記エッチングによる腐食が進んでいる領域であり、明るいオブジェクト(明るい領域)は、前記エッチングによる腐食が進んでいない領域である。
明側画像及び暗側画像は、次にようにして生成される。この生成は、コンピュータ装置12の画像処理部16によって行われる。
【0055】
まず、均一化処理を行ったグレースケール画像(
図11中の(A))からヒストグラムを生成する。そのヒストグラムは、明度0から明度255まで明度毎の画素数をそれぞれ累積したものである。
図12は、そのヒストグラムの説明図であり、横軸は、明度(0~255)であり、縦軸が、画素数である。
図12には、明度毎(階調毎)の累積度数を示す曲線Lについても示されている。
【0056】
予め、明側画像及び暗側画像を生成するために用いられる第一閾値及び第二閾値が設定される。
図12に示すヒストグラムにおいて、暗い側(明度0)からの累積比率が第一設定値となる明度が、第一閾値として設定される。前記第一設定値は、例えば30%以上、50%以下の値が採用される。本開示の発明では、第一設定値として40%が採用される。したがって、
図12に示すヒストグラムの場合、暗い側(明度0)からの累積比率が40%となる明度、つまり、明度「100」が、第一閾値として設定される。
また、
図12に示すヒストグラムにおいて、明るい側(明度255)からの累積比率が第二設定値となる明度が、前記第二閾値として設定される。第二設定値は、例えば10%以上、30%以下の値が採用される。本開示の発明では、第二設定値として20%が採用される。したがって、
図12に示すヒストグラムの場合、明るい側(明度255)からの累積比率が20%となる明度、つまり、明度「180」が、第二閾値として設定される。第二閾値は第一閾値よりも大きな値となる。
【0057】
そして、均一化処理を行ったグレースケール画像(
図11中の(A))から、次のようにして、暗側画像(
図11中の(B))と明側画像(
図11中の(C))とがそれぞれ生成される。
すなわち、均一化処理を行ったグレースケール画像(A)の各画素のうち、明度が第一閾値以下(明度が100以下)の画素は、暗いオブジェクトを構成する要素とされる。これに対して、明度が第二閾値を超える(明度が180を超える)画素は、明るいオブジェクトを構成する要素とされる。これにより、均一化処理を行ったグレースケール画像(A)から、前記第一閾値以下の画素は黒であってその他の領域は白となる暗側画像(B)が生成される。また、均一化処理を行ったグレースケール画像(A)から、第二閾値を超える領域は白であってその他の領域は黒となる明側画像(C)が生成される。
【0058】
以上のように、対象部材TP1~TP5それぞれのグレースケール画像に基づいて、明側画像と暗側画像とのセットの画像が生成される。なお、前記のとおり、各対象部材(例えば、対象部材TP1)が複数準備されていることから、これら複数の対象部材(TP1)それぞれについての明側画像と暗側画像とのセットの画像が生成される。なお、残りの対象部材TP2~TP5についても同様であり、対象部材毎に、明側画像と暗側画像とのセットの画像が生成される。
【0059】
〔特徴量算出工程S4〕
図11中の(B)に示すように、暗側画像は、組織の粒が暗いオブジェクト(黒のオブジェクト)として示される画像である。そこで、その暗側画像(B)に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量が求められる。
図11中の(C)に示すように、明側画像は、組織の粒が明るいオブジェクト(白のオブジェクト)として示される画像である。そこで、その明側画像(C)に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量を求められる。
暗側特徴量及び明側特徴量を求める処理は、コンピュータ装置12の特徴量算出部17が有する画像処理機能により実行される。
【0060】
図13は、暗側画像(
図11中の(B))に含まれる暗いオブジェクトの一つを示す説明図である。
図14は、明側画像(
図11中の(C))に含まれる明るいオブジェクトの一つを示す説明図である。明側画像及び暗側画像それぞれから、複数のオブジェクトが抽出される。抽出されるオブジェクトは、所定の面積を有する一つの塊部分である。なお、面積が閾値よりも小さいオブジェクト、及び、面積が閾値よりも大きいオブジェクトについては、抽出するオブジェクトから除外される。暗側画像から抽出された各オブジェクトの暗側特徴量が求められる。明側画像から抽出された各オブジェクトの明側特徴量が求められる。
【0061】
暗側特徴量の例として、暗いオブジェクトの、長軸、短軸、角度、円形度、明度の最大値、歪度、ピクセル数、アスペクト比、調密度等が挙げられる。
明側特徴量の例として、明るいオブジェクトの明度の最大値、長軸、角度、円形度、明度の中央値、尖度、歪度、ピクセル数、アスペクト比等が挙げられる。
図13及び
図14に示すように、長軸はオブジェクトの最大寸法であり、短軸は長軸に直交する方向の最大寸法である。角度は、前記幅方向に対する長軸の傾き角度である。円形度は「4π×(オブジェクトの面積)/(オブジェクトの周囲長)^2」の計算値である。アスペクト比は「長軸/短軸」の計算値である。調密度は「(オブジェクトの面積)/(オブジェクトを囲む最小の四角形の面積)」の計算値である。明度の中央値は次のとおりである。「グレースケール画像(
図11中の(A))における、特徴量を求める対象となるオブジェクトについて、横軸を明度とし縦軸を画素数としたヒストグラムを作成した場合に、そのヒストグラムの中央値」。明度の最大値は次のとおりである。「前記ヒストグラムを作成した場合に、そのヒストグラムの最大値」。歪度及び尖度は、前記ヒストグラムの形状から算出される値である。
【0062】
なお、前記の暗側特徴量及び明側特徴量の例は、次に説明する削除処理が行われた結果、最終的に機械学習に用いられる特徴量である。用いられる明側特徴量と暗側特徴量とは同じであってもよいが、前記のとおり異なっている。
【0063】
特徴量算出工程S4では、明側特徴量に関して、次の削減処理(1)又は削減処理(2)が行われる。
削減処理(1):異なる二つの明側特徴量同士の相関が強い場合に、これら明側特徴量のうちの一方を削減する処理。
削減処理(2):複数の明側特徴量について主成分分析を行うことで、これら明側特徴量のうちの一部を削減する処理。
【0064】
特徴量算出工程S4では、暗側特徴量に関して、次の削減処理(3)又は削減処理(4)が行われる。
削減処理(3):異なる二つの暗側特徴量同士の相関が強い場合に、これら暗側特徴量のうちの一方を削減する処理。
削減処理(4):複数の暗側特徴量について主成分分析を行うことで、これら暗側特徴量のうちの一部を削減する処理。
【0065】
このようにして明側特徴量及び暗側特徴量が削減され、削減された特徴量のデータを用いて、機械学習が行われる。なお、例えば、二つの特徴量同士の相関係数が0.8以上である場合、前記の「相関が強い」と判断される。
【0066】
以上のようにして、求められた明側特徴量及び暗側特徴量は、更に、次の式(4)により正規化される。
【数4】
【0067】
このように、特徴量算出工程S4では、明側画像(
図11中の(C))に含まれる複数のオブジェクトの明側特徴量と、暗側画像(
図11中の(B))に含まれる複数のオブジェクトの暗側特徴量とが求められる。対象部材TP1~TP5それぞれにおける明側特徴量及び暗側特徴量が数値として求められ、記憶装置14に保存される。このように一つの対象部材(例えばTP1)の顕微鏡画像から得られた明側特徴量及び暗側特徴量と、一つの対象部材(例えばTP1)の識別番号の情報とは対応付けられて、記憶装置14に保存される。
【0068】
明側特徴量及び暗側特徴量として鋼材の種類が含まれていてもよい。この場合、鋼材の種類を数値化したダミー変数が用いられる。例えばS20Cのダミー変数は「0」であり、S55Cのダミー変数は「1」である。
【0069】
〔第一モデル生成工程S5〕
第一モデル生成工程S5では、対象部材TP1~TP5それぞれの明側特徴量及び暗側特徴量を用いて判定用学習モデルが生成される。判定用学習モデルは、上述したように、本実施形態において構築される学習モデルのうちの1つであり、対象部材等の炭素濃度が所定の閾値Th以上か否かの判定結果を出力するモデルである。
第一モデル生成工程S5において行われる処理は、コンピュータ装置12の第一学習部18によって行われる。第一学習部18が行う機械学習は、ランダムフォレスト、又はSVM(サポートベクターマシン)を含む機械学習アルゴリズムに基づいて行われる。ここで行われる機械学習は教師あり学習となる。
【0070】
前記事前工程S1では、対象部材TP1~TP5について、炭素濃度の実測値が求められていて、その炭素濃度の実測値は、対象部材TP1~TP5と対応付けて、記憶装置14に記憶されている。そこで、第一学習部18は、各対象部材の炭素濃度の実測値に基づいて得られる判定情報を対象部材TP1~TP5に対応付ける。
判定情報は、対象部材の炭素濃度が閾値Th以上か否かのいずれかを示す情報である。対象部材の炭素濃度の実測値が閾値Th以上である場合、その対象部材には炭素濃度が閾値Th以上である旨を示す判定情報が対応付けられる。対象部材の炭素濃度の実測値が閾値Thよりも小さい場合、その対象部材には炭素濃度が閾値Th以上でない旨を示す判定情報が対応付けられる。
第一学習部18は、一つの対象部材に関して特徴量算出工程S4で求められた明側特徴量及び暗側特徴量と、その一つの対象部材に対応付けられた判定情報とを教師データとして機械学習を行う。
これによって、明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の炭素濃度が閾値Th以上か否かの判定結果としての判定情報を出力する判定用学習モデルが生成される。
なお、本実施形態において、閾値Thは、0.4%に設定される。よって、判定用学習モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の炭素濃度が0.4%以上か否かの判定結果を出力する。
【0071】
〔第二モデル生成工程S6〕
第二モデル生成工程S6では、記憶装置14に記憶させた、対象部材TP1~TP5それぞれの明側特徴量及び暗側特徴量を用いて評価用学習モデルが生成される。
第二モデル生成工程S6では、複数の対象部材TP1~TP5のうち、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材の明側特徴量及び暗側特徴量を用いて評価用学習モデルが生成される。よって、本実施形態では、複数の対象部材TP1~TP5のうちの対象部材TP1の炭素濃度は0.2%である。よって、対象部材TP1の明側特徴量及び暗側特徴量は、第二モデル生成工程S6においては用いられない。評価用学習モデルは、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材TP2~TP5の明側特徴量及び暗側特徴量を用いて生成される。
第二モデル生成工程S6において行われる各処理は、コンピュータ装置12の第二学習部19によって行われる。第二学習部19が行う機械学習は、線形回帰、リッジ回帰、及びラッソ回帰のいずれかを含む機械学習アルゴリズムに基づいて行われる。なお、ラッソ回帰が用いられることで、精度が高くなり好ましい。ここで行われる機械学習は教師あり学習となる。
【0072】
前記のとおり、一つの対象部材(例えばTP2)と、その一つの対象部材(例えばTP2)の明側特徴量及び暗側特徴量とは、対応付けられている。本実施形態において、生成することが可能な評価用学習モデルは、次のとおりである。
【0073】
前記事前工程S1では、対象部材TP1~TP5について、それぞれの物性値として炭素濃度が実測されており、その炭素濃度の実測値は、対象部材TP1~TP5と対応付けて、記憶装置14に記憶されている。
第二学習部19は、各対象部材のうち、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材に関して特徴量算出工程S4で求められた明側特徴量及び暗側特徴量と、その対象部材の炭素濃度の実測値とを教師データとして機械学習を行うことができ、評価用学習モデルを生成することができる。
この場合、生成される評価用学習モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の物性値として炭素濃度の推定値を出力するモデルである。
【0074】
前記事前工程S1では、対象部材TP1~TP5について、それぞれの物性値として残留オーステナイト量が実測されており、その残留オーステナイト量の実測値は、対象部材TP1~TP5と対応付けて、記憶装置14に記憶されている。
よって、第二学習部19は、各対象部材のうち、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材に関して特徴量算出工程S4で求められた明側特徴量及び暗側特徴量と、その対象部材の残留オーステナイト量の実測値とを教師データとして機械学習を行うことができ、評価用学習モデルを生成することができる。
この場合、生成される評価用学習モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の物性値として残留オーステナイト量の推定値を出力するモデルである。
【0075】
前記事前工程S1では、対象部材TP1~TP5について、それぞれの物性値として硬さが実測されており、その硬さの実測値は、対象部材TP1~TP5と対応付けて、記憶装置14に記憶されている。
よって、第二学習部19は、各対象部材のうち、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材に関して特徴量算出工程S4で求められた明側特徴量及び暗側特徴量と、その対象部材の硬さの実測値とを教師データとして機械学習を行うことができ、評価用学習モデルを生成することができる。
この場合、生成される評価用学習モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の物性値として硬さの推定値を出力するモデルである。
【0076】
前記事前工程S1では、対象部材TP1~TP5について、それぞれの品質レベル値(5段階評価の採点値)が作業者によって採点されており、その実際に採点された品質レベル値は、対象部材TP1~TP5と対応付けて、記憶装置14に記憶されている。
よって、第二学習部19は、各対象部材のうち、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材に関して特徴量算出工程S4で求められた明側特徴量及び暗側特徴量と、その対象部材の品質レベル値(5段階評価の採点値)とを教師データとして機械学習を行うことができ、評価用学習モデルを生成することができる。
生成される評価用学習モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の品質レベル値の推定値を出力するモデルである。
【0077】
以上のように、対象部材TP1~TP5それぞれの顕微鏡画像から明側画像及び暗側画像が生成され、明側特徴量及び暗側特徴量が得られると、これら明側特徴量及び暗側特徴量から、対象部材の炭素濃度が閾値Th以上か否かの判定結果を出力する判定用学習モデルが生成される。
また、本開示の発明では、対象部材TP1~TP5それぞれの顕微鏡画像から明側画像及び暗側画像が生成され、明側特徴量及び暗側特徴量が得られると、炭素濃度が閾値Th以上である対象部材の明側特徴量及び暗側特徴量から、物性値として炭素濃度の推定値、残留オーステナイト量の推定値、又は硬さの推定値を出力する評価用学習モデルが生成される。
また、本開示の発明では、対象部材TP1~TP5それぞれの顕微鏡画像から明側画像及び暗側画像が生成され、明側特徴量及び暗側特徴量が得られる。明側特徴量及び暗側特徴量が得られると、炭素濃度が閾値Th以上である対象部材の明側特徴量及び暗側特徴量から、品質レベル値の推定値を出力する評価用学習モデルについても生成される。
【0078】
本実施形態では、評価用学習モデルについて、三種類の物性値それぞれの推定値を出力する評価学習モデル、及び、品質レベル値の推定値を出力する評価用学習モデルの双方が生成される場合について説明したが、これら評価用学習モデルのうちの一つのみが生成されてもよい。この場合であっても、その評価用学習モデルを用いて、後に説明する評価対象部材の品質評価を行うことが可能となる。
【0079】
〔本開示の学習モデルの製造方法について〕
以上より、本開示の学習モデルの製造方法は、熱処理した炭素鋼又は合金鋼からなる部材の品質評価に用いられる学習モデルを製造する方法(構築する方法)である。その方法には、既に説明したように、画像取得工程S2と、画像処理工程S3と、特徴量算出工程S4と、第一モデル生成工程S5と、第二モデル生成工程S6とが含まれる。
【0080】
画像取得工程S2では、対象部材TP1~TP5それぞれの対象領域の顕微鏡画像が取得される。その対象部材TP1~TP5は、それぞれ炭素濃度、硬さ、残留オーステナイト量のうちの少なくとも一つの物性値、及び、品質レベル値(5段階評価の採点値)が実測されている。この画像取得工程S2は、画像取得装置11によって行われる。
【0081】
画像処理工程S3では、画像取得工程S2において取得された顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、明側画像(
図11中の(C))と暗側画像(
図11中の(B))とが別々に生成される。画像処理工程S3は、コンピュータ装置12の機能部の一つである画像処理部16によって行われる。
【0082】
特徴量算出工程S4では、前記明側画像に含まれる複数のオブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数のオブジェクトの暗側特徴量とが求められる。特徴量算出工程S4は、コンピュータ装置12の機能部の一つである特徴量算出部17によって行われる。
【0083】
第一モデル生成工程S5では、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、評価対象となる部材の炭素濃度が閾値Th以上か否かの判定結果を出力する判定用学習モデルが生成される。判定用学習モデルの生成は機械学習によって行われる。判定用学習モデルを生成する際、特徴量算出工程S4で求められている明側特徴量及び暗側特徴量と、対象部材TP1~TP5の炭素濃度の実測値とが、教師データとして用いられる。より詳細には、明側特徴量及び暗側特徴量と、対象部材TP1~TP5の炭素濃度の実測値から得られる判定情報とが、教師データとして用いられる。
第一モデル生成工程S5は、コンピュータ装置12の機能部の一つである第一学習部18によって行われる。
第二モデル生成工程S6では、炭素濃度の実測値が閾値Th以上である対象部材の明側特徴量及び暗側特徴量から、物性値の推定値を出力する評価用学習モデルが生成される。また、第二モデル生成工程S6では、前記明側特徴量及び前記暗側特徴量から、品質レベル値の推定値を出力する評価用学習モデルも生成される。
評価用学習モデルの生成は機械学習によって行われる。物性値を出力する評価用学習モデルを生成する際、対象部材TP1~TP5のうち炭素濃度が閾値Th以上である対象部材の物性値の実測値と、特徴量算出工程S4で求められる明側特徴量及び暗側特徴量とが、教師データとして用いられる。
品質レベル値の推定値を出力する評価用学習モデルを生成する際、対象部材TP1~TP5のうち炭素濃度が閾値Th以上である対象部材の品質レベル値の実測値と、特徴量算出工程S4で求められる明側特徴量及び暗側特徴量とが、教師データとして用いられる。
第二モデル生成工程S6は、コンピュータ装置12の機能部の一つである第二学習部19によって行われる。
【0084】
なお、画像取得工程S2において、対象部材TP1~TP5それぞれの物性値と品質レベル値とのうち、いずれか一方のみが実測され取得されていればよく、この場合、物性値の推定値を出力する評価用学習モデル、及び、品質レベル値の推定値を出力する評価用学習モデルのうちの一方のみが生成される。
【0085】
前記の方法によれば、明部特徴量及び暗部特徴量を説明変数とし物性値を目的変数とする評価用学習モデルが得られる。また、明部特徴量及び暗部特徴量を説明変数とし品質レベル値を目的変数とする評価用学習モデルが得られる。明側特徴量のみではなく、また、暗側特徴量のみではなく、明側特徴量と暗側特徴量との双方が教師データとして用いられて学習モデルが製造される。このようにして製造された学習モデルを用いて品質評価を行うことで、高い精度で物性値又は品質レベル値を推定することができ、品質評価の精度を高めることが可能となる。
さらに、本製造方法で得られる学習モデルには、評価対象となる部材の炭素濃度が閾値Th以上か否かの判定結果を出力する判定用学習モデルが含まれており、評価用学習モデルを用いる前に判定用学習モデルを用いることで、評価用学習モデルを用いて物性値又は品質レベル値を推定する際の目的変数の範囲を制限することができる。これにより、学習モデルを用いた品質評価の精度をより高めることが可能となる。
【0086】
また、前記の方法では、評価対象部材の明部特徴量及び暗部特徴量を取得すれば、炭素濃度や、残留オーステナイト量、硬さといった物性値を実測せずとも推定値として得ることができる。このため、これら物性値を実測する場合と比較して、同様の情報を得るために必要な時間を短縮できかつ低コスト化が可能となる。
【0087】
また、明側画像(
図11中の(C))及び暗側画像(
図11中の(C))を生成するために、本開示の方法に含まれる画像処理工程S3では、グレースケール画像(
図11中の(A))の各画素のうち、明度が第一閾値以下の画素は暗いオブジェクトを構成する要素とされ、明度が第一閾値よりも大きな第二閾値を超える画素は明るいオブジェクトを構成する要素とされる。これにより、前記グレースケール画像から、前記第一閾値以下の画素は黒であってその他の領域は白となる暗側画像と、前記第二閾値を超える領域は白であってその他の領域は黒となる前記明側画像と、がそれぞれ生成される。
この方法では、前記グレースケール画像において、明度が第一閾値と第二閾値との間の中間レベルの領域については、明側特徴量及び暗側特徴量を求めるために有効となる組織の粒として扱われない。
【0088】
また、本開示の方法の画像処理工程S3では、グレースケール画像(
図9中の(A))から明度のヒストグラム(
図9中の(B))が生成され、そのヒストグラムの均一化処理が行われる。その均一化処理を行ったグレースケール画像(
図10中の(A))から、暗側画像と明側画像とがそれぞれ生成される。この場合、例えば、前記グレースケール画像の明るさが偏っている場合、全体的なバランスが改善される。また、グレースケール画像中の粒の輪郭が明確化される。
【0089】
図15中の(A)は、前記均一化処理を行って構築した炭素濃度用の評価用学習モデルを用いて得た炭素濃度の推定値と、炭素濃度の実測値とを示すグラフである。
これに対して、
図15中の(B)は、前記均一化処理を行わないで構築した炭素濃度用の評価用学習モデルを用いて得た炭素濃度の推定値と、炭素濃度の実測値とを示すグラフである。
【0090】
図15中の(A)及び(B)では、対象部材TP1~TP5それぞれの明側特徴量及び暗側特徴量を用いて生成された、炭素濃度の推定値を出力する評価用学習モデルを用いて炭素濃度の推定値を求めた。
炭素濃度の推定値は、炭素濃度を実測することで実測値が明らかとなっている対象部材の明側特徴量及び暗側特徴量を評価用学習モデルに与えることで求めた。
図15中の(A)及び(B)では、対象部材の実測値に対する推定値がグラフ上にプロットされている。
【0091】
図15中の(A)の推定値を求めるための評価用学習モデル生成に用いた明側画像及び暗側画像は、対象部材TP1~TP5それぞれの顕微鏡画像にヒストグラム均一化処理を含む必要な処理を行うことで生成した。
図15中の(B)の推定値を求めるための評価用学習モデル生成に用いた明側画像及び暗側画像は、対象部材TP1~TP5それぞれの顕微鏡画像にヒストグラム均一化処理を除いたその他の必要な処理を行うことで生成した。
【0092】
均一化処理を行った場合(
図15中の(A))の推定値と実測値との決定係数(寄与率)は、均一化処理を行わない場合(
図15中の(B))よりも1に近い。つまり、均一化処理を行うことで、学習モデルによる予測精度が高くなることがわかる。
【0093】
また、本開示の方法に含まれる画像取得工程S2では、対象部材TP1~TP5それぞれの対象領域が複数の区画に分けられていて、その区画それぞれの一部が重複するようにして撮影することで複数の区画画像が取得される。そして、各区画画像に含まれる特徴部分を基準として、複数の区画画像を繋げることで、前記対象領域の一つの顕微鏡画像が取得される。この方法によれば、対象領域を広く設定できる。また、多くのオブジェクト、その明側特徴量、その暗側特徴量が得られる。そして、複数の区画の画像毎に、次の画像処理工程S3を行わないで済む。
【0094】
前記のように、画像の繋ぎ合わせが行われる場合、画像の背景を除去するために、前記ノイズ除去処理S3-1が行われるのが好ましい。つまり、画像処理工程S3(ノイズ除去処理S3-1)では、取得したグレースケール画像をコピーしたコピー画像(
図8中の(A))に対して、画像をぼかす処理を行って背景画像(
図8中の(C))が生成される。その背景画像を用いて、基のグレースケール画像からノイズを除去したグレースケール画像(
図8中の(E))が生成される。そして、ノイズが除去されたグレースケール画像から、明側画像と暗側画像とが生成される。この方法によれば、顕微鏡(レンズ)の影響で画像に入り込んでしまったノイズ、及び、前記のように区画画像を繋ぎ合わせることで生じたノイズを低減することが可能となる。
【0095】
更に、本開示の特徴量算出工程S4では、明側特徴量に関して、前記削除処理(1)又は前記削減処理(2)が行われる。暗側特徴量に関して、前記削除処理(3)又は前記削減処理(4)が行われる。これにより、明側特徴量のいくつか及び暗側特徴量のいくつかが削除されてから、学習モデルが生成される。このようにして製造された学習モデルが用いられることで、物性値及び品質レベル値を推定する精度がより高まる。
【0096】
〔品質評価を行う品質評価システム及び品質評価方法について〕
前記のようにして製造された(構築された)学習モデル(判定用学習モデル及び評価用学習モデル)を用いて、評価対象部材の品質評価を行う品質評価システム、及び品質評価方法について説明する。評価対象部材は、前記学習モデルを生成するために用いられた対象部材と同種の炭素鋼又は合金鋼からなり、当該対象部材と同様に熱処理が行われている。
【0097】
本開示の発明では、前記「品質評価」として、次の二つの評価の一方又は双方を行うことが可能である。
・(品質評価その1)評価対象部材における、炭素濃度、硬さ、残留オーステナイト量のうちの少なくとも一つの物性値の推定値を求めて、その物性値の推定値に基づいて行う評価
・(品質評価その2)評価対象部材の品質レベル値(例えば5段階評価の採点値)の推定値を求めて、その採点値に基づいて行う評価
【0098】
品質評価方法の概略は次のとおりである。
すなわち、評価対象部材の顕微鏡画像を取得し、前記学習モデルを構築する場合と同様の手段により、その評価対象部材に関する暗側特徴量及び明側特徴量を取得する。これら暗側特徴量及び明側特徴量を入力データとして前記学習モデルによる演算を行い、物性値の推定値と品質レベル値の推定値とのうちの一方又は双方が求められる。このようにして、評価対象部材の品質評価が行われる。以下、品質評価方法について具体的に説明する。
【0099】
図16は、品質評価方法を説明するフロー図である。その品質評価方法には、
図16に示すように、画像取得工程S11と、画像処理工程S12と、特徴量算出工程S13と、判定工程S14と、評価演算工程S16とが含まれる。
なお、
図16に示す品質評価方法を行う品質評価システムは、
図2に示す学習システムが備える画像取得装置11及びコンピュータ装置12により構成することができる。この場合、品質評価システムは、画像取得装置11と、画像処理部16と、特徴量算出部17と、評価演算部20とを備える。
【0100】
画像取得工程S11では、評価対象部材TP0が切断され、切断面が鏡面研磨され、所定の腐食液によってエッチングした後、金属組織の顕微鏡画像が画像取得装置によって取得される。その画像取得装置は、学習モデルの製造方法で用いられた画像取得装置11(
図2参照)と同じである。画像取得工程S11で行われる処理は、学習モデルの製造方法(
図1参照)で行われる画像取得工程S2と同じであり、その画像取得工程S2での処理と同じ処理が、品質評価方法の画像取得工程S11でも行われる。これにより、評価対象部材TP0の表面から所定深さの対象領域の顕微鏡画像が取得される。
【0101】
画像処理工程S12では、前記顕微鏡画像に基づくグレースケール画像から、評価対象部材TP0の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、評価対象部材TP0の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、が生成される。画像処理工程S12で行われる処理は、学習モデルの製造方法(
図1参照)で行われる画像処理工程S3と同じであり、その画像処理工程S3での処理と同じ処理が、品質評価方法の画像処理工程S12でも行われる。明側画像及び暗側画像の生成は、コンピュータ装置12の機能部の一つである画像処理部によって行われ、その画像処理部は、学習モデルの製造方法で用いられた画像処理部16(
図2参照)と同じである。
【0102】
特徴量算出工程S13では、前記明側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの明側特徴量と、前記暗側画像に含まれる複数の前記オブジェクトの暗側特徴量とが求められる。特徴量算出工程S13で行われる処理は、学習モデルの製造方法(
図1参照)で行われる特徴量算出工程S4と同じであり、その特徴量算出工程S4での処理と同じ処理が、品質評価方法の特徴量算出工程S13でも行われる。明側特徴量及び暗側特徴量を求める処理は、コンピュータ装置12の機能部の一つである特徴量算出部によって行われ、その特徴量算出部は、学習モデルの製造方法で用いられた特徴量算出部17(
図2参照)と同じである。
【0103】
ここで、前記のとおり、本開示の発明では、判定用学習モデルと、評価用学習モデルとを含む学習モデルが構築されており、これら学習モデルは、コンピュータ装置12の記憶装置14に記憶される。
なお、評価用学習モデルには、炭素濃度の推定用の評価用学習モデル、硬さの推定用の評価用学習モデル、残留オーステナイト量の推定用の評価用学習モデル、及び品質レベル値の推定用の評価用学習モデルが含まれる。
【0104】
判定工程S14では、特徴量算出工程S13において求められた、明側特徴量及び暗側特徴量をデータセットとして用いて、学習モデルの製造方法(
図1参照)で生成された判定用学習モデルにより、評価対象部材TP0の炭素濃度が閾値Th(0.4%)以上か否かを判定する。
判定工程S14は、コンピュータ装置12の機能部の一つである評価演算部20によって行われる。
評価演算部20は、データセットである明側特徴量及び暗側特徴量を判定用学習モデルに与える。データセットが与えられると、判定用学習モデルは、評価対象部材TP0の炭素濃度が閾値Th以上か否かのいずれかを示す判定情報を判定結果として出力する。
つまり、評価演算部20は、評価対象部材TP0の炭素濃度が閾値Th以上か否かの判定結果を出力する判定部を構成する。
【0105】
判定工程S14を終えると、評価演算部20は、判定工程S14で出力された判定情報が、評価対象部材TP0の炭素濃度が閾値Th以上であることを示す情報であるか否かを判定する(
図16中、S15)。
判定情報が評価対象部材TP0の炭素濃度が閾値Th以上でないことを示す場合、評価演算部20は、処理を終える。よって、この場合、評価演算部20は、物性値の推定値を求めることなく処理を終える。
一方、判定情報が評価対象部材TP0の炭素濃度が閾値Th以上であることを示す場合、評価演算部20は、評価演算工程S16を行う。
【0106】
評価演算工程S16では、特徴量算出工程S13において求められた明側特徴量及び暗側特徴量をデータセットとして用いて、学習モデルの製造方法(
図1参照)で生成された評価用学習モデルにより、評価対象部材TP0の物性値の推定値が出力される。つまり、評価演算工程S16では、判定工程S14においてデータセットとして用いられた明側特徴量及び暗側特徴量がデータセットとして用いられる。
この際に、炭素濃度の推定用の評価用学習モデルが用いられる場合、炭素濃度の推定値が得られる。残留オーステナイトの推定値及び硬さの推定値の場合も同様である。
評価演算工程S16では、特徴量算出工程S13において求められた、明側特徴量及び暗側特徴量をデータセットとして用いて、学習モデルの製造方法(
図1参照)で生成された学習モデルにより、評価対象部材TP0の品質レベル値(例えば5段階評価の採点値)の推定値が出力される。この際に、品質レベル値の推定用の評価用学習モデルが用いられる。
評価演算工程S16は、評価演算部20によって行われる。
【0107】
〔判定工程の閾値について〕
図17中の(A)は、本実施形態の品質評価方法によって、炭素濃度の推定値を求めた結果の一例を示すグラフである。
また、
図17中の(B)は、
図16に示す品質評価方法において判定工程S14を行わずに炭素濃度の推定値を求めた結果の一例を示すグラフである。つまり、
図17中の(B)に示すグラフは、
図16中、特徴量算出工程S13の後、評価演算工程S16を実行することで得た炭素濃度の推定値を示すグラフである。
【0108】
図17中の(A)及び(B)では、炭素濃度の実測値が既知の評価対象部材の炭素濃度の推定値を求め、評価対象部材の実測値に対する推定値をグラフ上にプロットした。
また、
図17中の(B)では、
図16に示す品質評価方法において判定工程S14を行わないことに加え、対象部材TP1~TP5それぞれの明側特徴量及び暗側特徴量を用いて生成された、炭素濃度の推定値を出力する評価用学習モデルを用いて炭素濃度の推定値を求めた。
よって、
図17中の(A)では、実測値が炭素濃度の閾値Thである0.4%以上の範囲で推定値がプロットされており、
図17中の(B)では、炭素濃度が0.4%よりも小さい範囲においても推定値がプロットされている。
【0109】
図17中の(A)では、実測値に対する推定値の分布幅が約0.1程度であるのに対し、
図17中の(B)では、実測値に対する推定値の分布幅が約0.2程度となっている。
このことから、評価演算工程S16の前に判定工程S14を行い、炭素濃度が閾値Th以上の評価対象部材を評価対象とすることで、炭素濃度の推定値の推定精度が高くなっていることが判る。
【0110】
図18中の(A)は、本実施形態の品質評価方法によって求められる評価対象部材の炭素濃度の推定値の決定係数を求めた結果の一例を示すグラフである。
図18中の(A)では、判定用学習モデル生成時及び品質評価時の閾値Thを0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、及び0.7%のそれぞれに設定したときにおける品質評価によって得られる炭素濃度の推定値の決定係数を示している。
閾値Thが0.2%に設定される場合、炭素濃度の実測値が0.2~1.0%の範囲に設定された評価対象部材を用いて炭素濃度の推定値を求めた。
【0111】
同様に、閾値Thが0.3%に設定される場合、炭素濃度の実測値が0.3~1.0%の範囲に設定された評価対象部材を用いて炭素濃度の推定値を求め、閾値Thが0.4%に設定される場合、炭素濃度の実測値が0.4~1.0%の範囲に設定された評価対象部材を用いて炭素濃度の推定値を求め、閾値Thが0.5%に設定される場合、炭素濃度の実測値が0.5~1.0%の範囲に設定された評価対象部材を用いて炭素濃度の推定値を求め、閾値Thが0.6%に設定される場合、炭素濃度の実測値が0.6~1.0%の範囲に設定された評価対象部材を用いて炭素濃度の推定値を求め、閾値Thが0.7%に設定される場合、炭素濃度の実測値が0.7~1.0%の範囲に設定された評価対象部材を用いて炭素濃度の推定値を求めた。
また、
図18中の(A)の横軸は閾値Th、縦軸は決定係数を示している。
【0112】
図18中の(A)に示すように、閾値Thが0.4%以上では、決定係数が0.95以上であるのに対し、閾値Thが0.3%以下では、決定係数が0.94以下となっている。
このように、閾値Thが0.4%よりも小さいと、決定係数が顕著に低下する。
決定係数は、目的変数の予測値(炭素濃度の推定値)が、実際の目的変数の値(炭素濃度の実測値)とどのくらい一致しているかを示す係数であり、値が1に近いほど予測値と目的変数の値とが一致していることを示している。つまり、
図18中の(A)から、閾値Thを0.4%以上に設定すれば、炭素濃度の推定値の推定精度がより高くなることが判る。
【0113】
図18中の(B)は、本実施形態の品質評価方法によって求められる評価対象部材の炭素濃度の推定値のRMSE(Root Mean Square Error:二乗平均平方根誤差)を求めた結果の一例を示すグラフである。
図18中の(B)では、判定用学習モデル生成時、及び品質評価時の閾値Thを0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、及び0.7%のそれぞれに設定したときにおける品質評価によって得られる炭素濃度の推定値のRMSEを示している。
各閾値Thにおいて炭素濃度の推定値を求める際に用いた評価対象部材の炭素濃度の実測値の範囲は、
図18中の(B)の場合と同様である。
また、
図18中の(B)の横軸は閾値Th、縦軸はRMSEを示している。
【0114】
図18中の(B)に示すように、閾値Thが0.4%以上では、RMSEが0.04以下であるのに対し、閾値Thが0.3%以下では、RMSEが0.04以上となっている。
このように、閾値Thが0.4%よりも小さいと、RMSEが顕著に大きくなる。
RMSEは、目的変数の予測値(炭素濃度の推定値)と、実際の目的変数の値(炭素濃度の実測値)とのずれを示す指標であり、小さければ小さいほどずれが小さいことを示している。つまり、
図18中の(A)から、閾値Thを0.4%以上に設定すれば、炭素濃度の推定値の推定精度が高くなることが判る。
図18では、炭素濃度について例示したが、他の物性値(残留オーステナイト量及び硬さ)についても同様の傾向を示し、また、品質レベル値についても同様の傾向を示す。
【0115】
このように、閾値Thが0.4%よりも小さいと、学習モデルによって得られる物性値の推定値又は品質レベル値の推定値の実測値に対する決定係数が顕著に低下する。また、閾値Thが0.4%よりも小さいと、学習モデルによって得られる物性値の推定値又は品質レベル値の推定値の実測値に対するRMSEが顕著に増加する。
また、評価対象部材の炭素濃度は、大きくても1.0%程度とされるので、閾値Thが0.5%よりも大きいと、評価用学習モデルを用いて物性値又は品質レベル値を推定する際の数値範囲を制限し過ぎてしまう。
このため、閾値Thは0.4%以上、0.5%以下であることが好ましく、閾値Thをこの範囲に設定することで、品質評価の精度をより高めることができる。
【0116】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0117】
11 :画像取得装置 12 :コンピュータ装置
16 :画像処理部 17 :特徴量算出部
18 :第一学習部 19 :第二学習部
20 :評価演算部 S2 :画像取得工程
S3 :画像処理工程 S4 :特徴量算出工程
S5 :第一モデル生成工程 S6 :第二モデル生成工程
S11 :画像取得工程 S12 :画像処理工程
S13 :特徴量算出工程 S14 :判定工程
S16 :評価演算工程 TP1~TP5 :対象部材