(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法および印刷機
(51)【国際特許分類】
B41M 1/06 20060101AFI20240611BHJP
B41M 1/08 20060101ALI20240611BHJP
B41N 1/14 20060101ALI20240611BHJP
B41N 10/02 20060101ALI20240611BHJP
B41F 7/10 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B41M1/06
B41M1/08
B41N1/14
B41N10/02
B41F7/10
(21)【出願番号】P 2020128989
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019141092
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小清水 昇
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐一
(72)【発明者】
【氏名】井上 武治郎
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-532188(JP,A)
【文献】特開2019-093613(JP,A)
【文献】特開2003-308973(JP,A)
【文献】特開平11-139027(JP,A)
【文献】特開平09-207307(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163941(WO,A1)
【文献】特開2018-058257(JP,A)
【文献】特開2004-142394(JP,A)
【文献】特開2003-103957(JP,A)
【文献】特開2002-079737(JP,A)
【文献】特開2000-289321(JP,A)
【文献】特開平06-145251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/06
B41M 1/08
B41N 1/14
B41N 10/02
B41F 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版の表面に形成したインキパターンを、ブランケットに転写したのち、基材の表面に再転写する印刷物の製造方法であって、平版の表面に形成したインキパターンをブランケットに転写する際の版圧が50N/cm
2以上105N/cm
2以下であり、かつ、ブランケットの表面に形成したインキパターンを基材の表面に再転写する際の印圧が
250N/cm
2以上800N/cm
2以下である、印刷物の製造方法。
【請求項2】
平版の表面に形成したインキパターンをブランケットに転写する際のブランケットと平版との間の押し込み量が0.05mm以上0.20mm以下であり、かつ、ブランケットの表面に形成したインキパターンを基材の表面に再転写する際のブランケットと基材との間の押し込み量が0.20mm以上0.40mm以下である、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
活性エネルギー線を照射して前記基材上のインキを硬化する工程を含む、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記平版が基板上にシリコーンゴム層および感熱層を有する、請求項1~3のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記シリコーンゴム層の厚みが3.0μm以上5.0μm以下である、請求項4に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記ブランケットが、押し込み量が0.15mmとなるために必要な圧力が50N/cm
2以上105N/cm
2以下であり、かつ、押し込み量が0.30mmとなるために必要な圧力が
250N/cm
2以上800N/cm
2以下であるブランケットである、請求項1~5のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記ブランケットが、押し込み量が0.10mmとなるために必要な圧力(A)、0.20mmとなるために必要な圧力(B)、0.25mmとなるために必要な圧力(C)、0.35mmとなるために必要な圧力(D)としたとき、圧力比(B)/(A)および(D)/(C)が1.0以上3.0以下を満たすブランケットである、請求項1~6のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記ブランケットの表面に転写層を有し、該転写層がエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を含む、請求項1~7のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記転写層の算術平均粗さ(Ra)が0.4μm以上2.2μm以下である、請求項
8に記載の印刷物の製造方法。
【請求項10】
前記ブランケットが、空隙率の異なる2層以上の圧縮層を有し、少なくとも1つの圧縮層の空隙率が20体積%以上40体積%以下であり、少なくとも1つの圧縮層の空隙率が45体積%以上65体積%以下であるブランケットである、請求項1~9のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記ブランケットが、空隙率の異なる2箇所以上の領域が存在する圧縮層を有するブランケットである、請求項1~10のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項12】
前記基材が、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムラミネート紙、金属、金属蒸着紙、または金属蒸着プラスチックフィルムから選ばれる少なくとも1つである、請求項1~11のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項13】
センターインプレッション印刷方式で、圧胴の直径が2.0m以上4.0m以下である印刷機を用いて印刷される、請求項1~12のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項14】
前記版圧が50N/cm
2
以上70N/cm
2
以下である、請求項1~13のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法および印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、高速、大量、安価に印刷物を供給するシステムとして広く普及している印刷方式である。近年、水銀ランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード、電子線などの活性エネルギー線を照射することで、瞬時に硬化する活性エネルギー線硬化型インキの利用が、設備面、安全面、環境面、生産性の高さから多くの分野で広がっている。
【0003】
従来、平版印刷方式は紙を基材とすることが多かったが、適用基材の多様化の観点からプラスチックフィルム等への印刷も広がりつつある。特に近年では、薄膜のプラスチックフィルムを基材とした日用雑貨、食料品、医薬品などに用いられる軟包装印刷への適用検討が始まっている。
【0004】
プラスチックフィルム等を基材とする場合、紙を基材とする場合と異なり、インキが基材に浸透しないためブランケットから基材へのインキ転写性が劣る。
【0005】
そこで、インキ転写性を向上させるために、ゴム硬度が高いブランケットを使用すること、ブランケットを版に押しつけるときの圧力を高めることが提案されている(例えば特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-300845号公報
【文献】特開平8-176479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載された方法では、ブランケットによって版表面が傷つけられるため、耐刷性が不十分となることがあった。また、基材へのインキ転写量を向上させるためにインキ供給量を増やす方法も考えられる。しかし、ローラーから平版にインキが転写する際に、本来インキが付着しない非画線部にインキが反発せずに付着し、印刷物に印刷されてしまうという問題が生じる。このような現象を地汚れと言い、印刷不良の一種である。
【0008】
平版印刷では、ブランケットを平版に押しつけるときの圧力(以下、版圧という)が高いと良好なインキ転写性を示し、少ないインキ供給量で印刷物の濃度を上げることができるため耐地汚れ性が向上するが、平版表面がブランケットによって傷つきやすくなり耐刷性が低下する。一方、ブランケットを基材に押しつけるときの圧力(以下、印圧という)が高いと良好なインキ転写性を示し、少ないインキ供給量で印刷物の濃度を上げることができるため耐地汚れ性が向上する。従来の平版印刷方法では耐地汚れ性を向上させるために、ブランケットと平版との間の押し込み量およびブランケットと基材との間の押し込み量はともに同程度の数値に設定しているため、版圧、および印圧は同程度に高く、印刷機および基材への負担の軽減、並びに、耐刷性と耐地汚れ性の両立が困難であった。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、印刷機および基材への負担を軽減し、耐刷性の向上および良好な耐地汚れ性を両立する印刷物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る印刷物の製造方法は、平版の表面に形成したインキパターンを、ブランケットに転写したのち、基材の表面に再転写する印刷物の製造方法であって、平版の表面に形成したインキパターンをブランケットに転写する際の版圧が50N/cm2以上105N/cm2以下であり、かつ、ブランケットの表面に形成したインキパターンを基材の表面に再転写する際の印圧が250N/cm2以上800N/cm2以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷機および基材への負担を軽減し、耐刷性の向上および良好な耐地汚れ性を両立する印刷物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に好適に用いられるブランケットの押し込み量と圧力の関係を示す説明図。
【
図2】本発明に好適に用いられるブランケットにおける、圧縮層の押し込み量と圧力の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る印刷物の製造方法について具体的に説明する。
【0014】
<印刷物の製造方法>
一般的に平版印刷機は、練りローラー、平版を装着することが可能な版胴、ブランケットを装着することが可能なブランケット胴、圧胴を有しており、基材はブランケット胴と圧胴の間を通る。版胴、ブランケット胴、圧胴の位置を各々調整することで、ブランケットと平版との間(以下、「ブランケット/平版」という)の押し込み量、およびブランケットと基材との間(以下、「ブランケット/基材」という)の押し込み量を変更することができる。
【0015】
ここで、押し込み量とは、任意のブランケット表面の垂線上において、ブランケット表面を押す前後でのブランケットの厚みの減少量をいう。
【0016】
本発明に係る印刷物の製造方法は、平版の表面に形成したインキパターンをブランケットに転写する際の版圧が50N/cm2以上105N/cm2以下であることを特徴とする。版圧が50N/cm2以上であることによって、平版からブランケットへのインキ転写性が向上し、耐地汚れ性に優れる。より好ましくは55N/cm2以上であり、さらに好ましくは60N/cm2以上である。版圧が105N/cm2以下であることによって、ブランケットが平版表面に与える損傷を軽減することができ、平版の耐刷性が向上する。より好ましくは90N/cm2以下であり、さらに好ましくは70N/cm2以下である。
【0017】
本発明に係る印刷物の製造方法は、ブランケットの表面に形成したインキパターンを基材の表面に再転写する際の印圧が200N/cm2以上800N/cm2以下であることを特徴とする。印圧が200N/cm2以上であることによって、ブランケットから基材へのインキ転写性が向上し、耐地汚れ性に優れる。より好ましくは250N/cm2以上であり、さらに好ましくは400N/cm2以上である。印圧が800N/cm2以下であることによって、基材の損傷および印刷機への負担を軽減することができる。より好ましくは700N/cm2以下であり、さらに好ましくは600N/cm2以下である。
【0018】
本発明に係る印刷物の製造方法は、平版の表面に形成したインキパターンをブランケットに転写する際のブランケット/平版の押し込み量が0.05mm以上0.20mm以下であることが好ましい。平版からブランケットへのインキ転写性が良好となるため、上記ブランケット/平版の押し込み量が0.05mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.07mm以上であり、さらに好ましくは0.09mm以上である。版圧と印圧に差を生じさせて、耐刷性および耐地汚れ性を両立するために、上記ブランケット/平版の押し込み量が0.20mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.18mm以下であり、さらに好ましくは0.16mm以下である。
【0019】
本発明に係る印刷物の製造方法は、ブランケットの表面に形成したインキパターンを基材の表面に再転写する際のブランケット/基材の押し込み量が0.20mm以上0.40mm以下であることが好ましい。版圧と印圧との間に差を発生させて、耐刷性および耐地汚れ性を両立するためには、上記ブランケット/基材の押し込み量が0.20mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.25mm以上であり、さらに好ましくは0.30mm以上である。基材へのダメージおよび印刷機への負担を軽減するために、上記ブランケット/基材の押し込み量が0.40mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.38mm以下であり、さらに好ましくは0.36mm以下である。
【0020】
本発明に係る印刷物の製造方法では、活性エネルギー線を照射して、基材上のインキを硬化させることが好ましい。前記活性エネルギー線としては、硬化反応に必要な励起エネルギーを有するものであればいずれも用いることができ、例えば紫外線や電子線などが好ましく用いられる。電子線により硬化させる場合は、100~500eVのエネルギー線を有する電子線装置が好ましく用いられる。紫外線により硬化させる場合は、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード(LED)等の紫外線照射装置が好ましく用いられる。波長350~420nmの輝線を発する発光ダイオードを光源とした紫外線(LED-UV)を用いることが、省電力・低コスト化の点から好ましい。
【0021】
基材としては、アート紙、コート紙、キャスト紙、合成紙、新聞用紙、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムラミネート紙、金属、金属蒸着紙、金属蒸着プラスチックフィルムなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどのプラスチックフィルム、前記プラスチックフィルムが紙上にラミネートされたプラスチックフィルムラミネート紙、アルミニウム、亜鉛、銅、などの金属、前記金属および前記金属の酸化物が紙上に蒸着された金属蒸着紙、前記金属および前記金属の酸化物がプラスチック上に蒸着された金属蒸着プラスチックフィルム等は、インキを吸収しないことから基材上にインキを固着できないため、活性エネルギー線を照射することで瞬時にインキを硬化、固着できる活性エネルギー線硬化型インキが好ましく用いられる。
【0022】
また、これらのプラスチックフィルムは易接着性の付与のため、プライマ樹脂のコーティング、コロナ放電処理、プラズマ処理の表面処理を施すことが好ましい。
【0023】
前記基材の厚みとしては、軟包装用途に用いる場合、印刷に必要な基材の機械的強度から5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、基材のコストが安価となる50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。
【0024】
印刷物上のインキ塗膜(インキ硬化膜)の厚みは0.1~50μmであることが好ましい。インキ塗膜の厚みが上記範囲内であることにより、良好な印刷品質を保ちつつ、インキコストを低減させることが出来る。
【0025】
<ブランケット>
本発明に係る印刷物の製造方法は、ブランケットの押し込み量が0.15mmとなるために必要な圧力が50N/cm2以上であるブランケットを使用することが好ましい。このようなブランケットを使用し、かつ、ブランケット/平版の押し込み量を0.05mm以上0.20mm以下に調整することによって、平版からブランケットへのインキ転写性が向上し耐地汚れ性が優れるため好ましい。より好ましくは55N/cm2以上であり、さらに好ましくは60N/cm2以上である。
【0026】
本発明に係る印刷物の製造方法は、ブランケットの押し込み量が0.15mmとなるために必要な圧力が105N/cm2以下であるブランケットを使用することが好ましい。このようなブランケットを使用し、かつ、ブランケット/平版の押し込み量を0.05mm以上0.20mm以下に調整することによって、ブランケットが平版表面へ与える損傷を軽減し耐刷性が向上するため好ましい。より好ましくは90N/cm2以下であり、さらに好ましくは70N/cm2以下である。
【0027】
本発明に係る印刷物の製造方法は、ブランケットの押し込み量が0.30mmとなるために必要な圧力が200N/cm2以上であるブランケットを使用することが好ましい。このようなブランケットを使用し、かつ、ブランケット/基材の押し込み量を0.20mm以上0.40mm以下に調整することによって、ブランケットから基材へのインキ転写性が向上し耐地汚れ性が優れるため好ましい。好ましくは250N/cm2以上であり、さらに好ましくは400N/cm2以上である。
【0028】
本発明に係る印刷物の製造方法は、ブランケットの押し込み量が0.30mmとなるために必要な圧力が800N/cm2以下であるブランケットを使用することが好ましい。このようなブランケットを使用し、かつ、ブランケット/基材の押し込み量を0.20mm以上0.40mm以下に調整することによって、基材へのダメージおよび印刷機への負担を軽減できるため好ましい。より好ましくは700N/cm2以下であり、さらに好ましくは600N/cm2以下である。
【0029】
本発明に用いられるブランケットについて、ブランケットの押し込み量が0.10mmとなるために必要な圧力(A)、ブランケットの押し込み量が0.20mmとなるために必要な圧力(B)、ブランケットの押し込み量が0.25mmとなるために必要な圧力(C)、ブランケットの押し込み量が0.35mmとなるために必要な圧力(D)とする。本発明に係る印刷物の製造方法は、連続運転時におけるブランケットの摩耗等によって押し込み量が設定値から変動した際にも、安定した耐刷性および耐地汚れ性を示すことができるために、圧力比(B)/(A)は1.0以上3.0以下が好ましい。より好ましくは1.0以上2.7以下、さらに好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.4以下であり、特に好ましくは1.0以上2.0以下である。同様の理由で、圧力比(D)/(C)は1.0以上3.0以下が好ましく、より好ましくは1.0以上2.7以下、さらに好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.4以下であり、特に好ましくは1.0以上2.0以下である。
【0030】
図1は、圧力比(B)/(A)および圧力比(D)/(C)が上記関係を満たすブランケットの一例について、その圧力と押し込み量との関係を示すグラフである。
【0031】
本発明に係る印刷物の製造方法では、使用するブランケットはインキ転写性および耐久性の点より、転写層、基布層、圧縮層をそれぞれ少なくとも1層以上有することが好ましい。隣接する層を結合するために層と層の間に接着層を有しても良い。
【0032】
転写層はインキを平版から基材へ受け渡す役割を持ち、インキと接触するブランケット表面に構成される。転写層の材質としては、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の樹脂およびエチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム(XNBR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、ウレタンゴム等のゴムを適宜使用することができる。活性エネルギー線硬化型インキに対しては、転写層にインキ中のモノマーが浸透しにくいエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を含むことが好ましい。1層の転写層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、インキ転写性を向上できるため、50μm以上が好ましい。より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは150μm以上である。印刷位置精度低下防止のため面内方向の変形が小さいほうが望ましいという点で、500μm以下が好ましく、より好ましくは400μm以下であり、さらに好ましくは300μm以下である。
【0033】
ブランケットでのインキ保持量が増え、平版からブランケット、ブランケットから基材へのインキ転写性が向上し耐地汚れ性が優れるため、転写層の表面の算術平均粗さ(Ra)は0.4μm以上が好ましい。より好ましくは0.8μm以上であり、さらに好ましくは1.2μm以上である。基材に転写されるインキ膜表面の凹凸が小さくなり光の乱反射が抑制され、少ないインキ量で高濃度を表現可能となり耐地汚れ性が優れるため、Raは2.2μm以下が好ましい。より好ましくは2.0μm以下であり、さらに好ましくは1.8μm以下である。
【0034】
基布層はブランケットに硬さと耐久性を付与する役割を持ち、転写層の下層に構成される。基布層は天然または合成材料で形成されている縦糸繊維および横糸繊維を有する少なくとも1つの織布で構成される。繊維の材料としては、特に限定されるものではないが、綿、ポリエステル、ナイロン、レーヨンを適宜使用することができる。耐久性を向上することができる点で、縦糸繊維は綿等の天然材料、横糸繊維は合成繊維材料(例えば、ポリエステル)で構成することが好ましい。1層の基布層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、耐久性を向上できるため、50μm以上が好ましい。より好ましくは75μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。ブランケットの硬さを低下させ耐刷性を向上できるため、500μm以下が好ましく、より好ましくは400μm以下であり、さらに好ましくは300μm以下である。
【0035】
圧縮層は、例えば
図1に示されるようなブランケットの押し込み量と圧力との相関関係(以下、「ブランケットの圧縮特性」という)の達成を補助するために、転写層の下層に構成されることが好ましい。積層順序は、特に限定されないが、転写層/圧縮層/基布層、または、転写層/圧縮層/基布層/粘着層と構成してもよい。2層以上の圧縮層および基布層を有する場合、転写層/第1圧縮層/第2圧縮層/第1基布層/第2基布層/第3基布層/第4基布層/粘着層と構成しても良い。この場合、転写層の下に位置する層は、任意の積層順序とすることができる。
【0036】
圧縮層の材質としては、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の樹脂およびエチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム(XNBR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、ウレタンゴム等のゴム、前記各種樹脂およびゴムを発泡させたスポンジ、前記各種樹脂およびゴム中に小空間形成材料またはミクロスフェアを均一に分散させたポリマーマトリックス等を適宜使用することができる。印刷位置精度低下防止のため面内方向の変形が小さいほうが望ましいという点で、前記各種樹脂を発泡させたスポンジ、および前記各種樹脂中に小空間形成材料またはミクロスフェアを均一に分散させたポリマーマトリックスで構成されることが好ましい。
【0037】
1層の圧縮層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、印刷位置精度の低下を防止するため面内方向の変形が小さいほうが望ましいという点で、50μm以上が好ましい。より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは150μm以上である。ブランケットの押し込み時の圧力を高めインキ転写性を向上し耐地汚れ性を向上できるため、600μm以下が好ましく、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。
【0038】
接着層の材料としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、合成ゴム、天然ゴム等適宜使用することができる。隣接する層との接着力を向上できる点で、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリスルフィド、ポリ塩化ビニル、変性ポリオレフィン、ポリ尿素、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴムを使用することが好ましい。
【0039】
ブランケットをブランケット胴に設置するために、転写層とは反対側の表面に粘着層を有しても良い。粘着層の材料としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、合成ゴム、天然ゴムを適宜使用することができる。隣接する層およびブランケット胴との接着力を向上できる点で、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリスルフィド、ポリ塩化ビニル、変性ポリオレフィン、ポリ尿素、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴムを使用することが好ましい。
【0040】
本発明に係る印刷物の製造方法では、ブランケットが、空隙率の異なる2層以上の圧縮層を有することが好ましい。各圧縮層は隣接しても、間に圧縮層以外の層が位置しても良い。また、圧縮層の空隙率が異なるブランケットを2枚以上積層させて使用しても良い。例えば、
図2に示すように、圧縮層の押し込み量と圧力との相関関係(以下、「圧縮層の圧縮特性」という)が異なる圧縮層1と圧縮層2を有することで、例えば
図1に示されるようなブランケットの圧縮特性を備えるように調整することができるため好ましい。そのような圧縮層を使用した場合、耐刷性と耐地汚れ性を向上できるため好ましい。
【0041】
少なくとも1つの圧縮層の空隙率が45体積%以上65体積%以下であると、クッション性が高まり、ブランケットの押し込み量が小さい領域でのブランケット圧力を適度に低く保つことができるため好ましい。このようなブランケットを使用し、かつ、ブランケット/平版の押し込み量を0.05mm以上0.20mm以下に調整することによって、インキ転写性を担保しつつ、ブランケットが平版表面へ与える損傷を軽減し耐刷性が向上することができるため好ましい。より好ましくは46体積%以上60体積%以下であり、更に好ましくは47体積%以上55体積%以下である。
【0042】
また、別の少なくとも1つの圧縮層の空隙率が20体積%以上40体積%以下であると、ブランケットの押し込み量が高い領域でのブランケット圧力を適度に高く保つことができるため好ましい。このようなブランケットを使用し、かつ、ブランケット/基材の押し込み量が0.20mm以上0.40mm以下に調整することによって、ブランケットから基材へのインキ転写性が向上し耐地汚れ性が優れるため好ましい。より好ましくは25体積%以上38体積%以下であり、更に好ましくは30体積%以上36体積%以下である。
【0043】
本発明に係る印刷物の製造方法では、ブランケットが、空隙率の異なる2箇所以上の領域が存在する圧縮層を有することが好ましい。これは、空隙率が厚み方向で連続的もしくは段階的に変化する1層以上の圧縮層を有することを意味する。ここで、厚み方向とは、任意の圧縮層表面における垂線に沿った方向をいう。このような圧縮層を有することで、例えば
図1に示すように、押し込み量が小さいと低い圧力を、押し込み量が大きいと高い圧力を示すように制御することができ、耐刷性と耐地汚れ性を向上することができる。
【0044】
<平版>
平版印刷は、平版印刷用インキを高速、かつ安価に大量印刷可能であることから、好ましく用いられる。平版印刷には、水なし平版印刷版を用いる方式と、水あり平版印刷版を用いる方式がある。
【0045】
本発明に用いる平版は、基板と、前記基板上に設けられた少なくともシリコーンゴム層と感熱層を含有することが好ましい。基板の近くに感熱層およびシリコーンゴム層のいずれがあってもいいが、基板、感熱層、シリコーンゴム層の順にあることが好ましい。そのような平版として、水なし平版印刷版が挙げられる。
【0046】
前記基板としては、特に限定されず、従来印刷版の基板として用いられてきた寸法的に安定な公知の紙、金属、ガラス、フィルムなどを使用することができる。これら基板のうち、アルミニウム板は寸法的に安定であり、しかも安価であるので特に好ましい。また、軽印刷用の柔軟な基板としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。
【0047】
水なし平版印刷版の感熱層としては、画像の描き込みに使用される赤外線などのレーザー光を効率よく吸収して熱に変換(光熱変換)する機能を有し、その熱によって感熱層の少なくとも表面が分解し、もしくは現像液への溶解性が高まる、またはシリコーンゴム層との接着力が低下するものであることが好ましい。このような感熱層は例えば活性水素を有するポリマー、有機錯化合物、および光熱変換物質を含む組成物を含有することができる。
【0048】
シリコーンゴム層は、インキを反発し、該シリコーンゴム層上に付着しないようにするために、疎水性を有することが望ましい。ここで言う疎水性とは、水との接触角が60°以上であることを言う。このためシリコーンゴム層には、疎水性の物質を含むことが好ましい。具体的には、シリコーンゴム、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンブタジエンゴム、ナイロン樹脂、ニトリルゴム、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等を含むものが挙げられる。中でも、シリコーンゴムを用いることが特に好ましい。
【0049】
本発明に係る印刷物の製造方法では、水なし平版の表面シリコーンゴム層の厚みは耐刷性を向上させるために、2.5μm以上が好ましい。より好ましくは3.0μm以上であり、さらに好ましくは3.5μm以上であり、より一層好ましくは4.0μm以上である。一方、露光および現像性を向上させ画線部の精細度を向上させるために、5.0μm以下が好ましい。より好ましくは4.8μm以下であり、さらに好ましくは4.6μm以下である。
【0050】
水あり平版印刷版は、基板と、前記基板上に設けられた感光層と、前記基板と前記感光層との間に任意に設けられてもよい親水性層を含む。
【0051】
基板としては、特に限定されず、寸法的に安定な親水性の基板を用いることができる。このような基板のうち、アルミニウム板は寸法的に安定であり、しかも安価であるので特に好ましい。アルミニウム板は、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すことが好ましい。アルミニウム板表面の粗面化処理の方法としては、例えば、機械的、電気化学的、化学的粗面化処理など公知の方法が挙げられる。
【0052】
本発明に係る印刷物の製造方法には、例えば、印刷ユニット毎に圧胴を有する印刷方式、各印刷ユニットに対して共通の圧胴を有する印刷方式(センターインプレッション印刷方式)を用いることができる。特に、センターインプレッション印刷方式は、基本的に全色印刷後にインキを硬化するWet-on-Wet印刷であり、先に基材に転写されたインキ膜が未硬化の状態で後胴のブランケットにより圧力を加えられることでインキ膜表面の凹凸が小さくなり光の乱反射が抑制され、少ないインキ量で高濃度を表現可能となり耐地汚れ性が優れる、また印刷時に基材が安定し良好な見当精度を保てるため、好ましい。センターインプレッション印刷方式における圧胴の直径は、印刷方向に対してより大きなサイズの絵柄を印刷可能とするため、2.0m以上が好ましく、より好ましくは2.3m以上であり、さらに好ましくは2.6m以上である。例えばブランケット/圧胴の押し込み量を0.30mmとする場合、圧胴の直径が小さい方がブランケットと圧胴が接触する面積を小さくでき、機械にかかる負担、ブランケットによる発熱、基材に転写されるインキの濃度ムラを低減可能である。そのため圧胴の直径は4.0m以下が好ましく、より好ましくは3.7m以下であり、さらに好ましくは3.3m以下である。
【0053】
本発明に係る印刷物の製造方法の別の実施形態は、水なし平版印刷用インキと、シリコーンゴム層の厚みが3.0μm以上5.0μm以下である水なし平版と、押し込み量が0.15mmとなるために必要な圧力が50N/cm2以上105N/cm2以下であり、かつ、押し込み量が0.30mmとなるために必要な圧力が200N/cm2以上800N/cm2以下であり、前記ブランケットの転写層の算術平均粗さ(Ra)が0.4μm以上2.2μm以下であるブランケットを用いて、平版の表面に形成したインキパターンを、ブランケットに転写したのち、基材の表面に再転写するものである。このようなブランケットおよび水なし平版を用いることにより、一般的な印刷条件により、容易に請求項1に係る発明の範囲で印刷することができ、印刷機および基材への負担を軽減し、耐刷性の向上および良好な耐地汚れ性を両立する印刷物を得ることができる。
【0054】
<インキ>
本発明に係る印刷物の製造方法では、例えば、特開2018-963942号公報に記載されているような平版印刷用インキを使用することができる。
【0055】
<印刷機>
本発明に係る印刷機は、平版を保持する版胴と、平版の表面に形成したインキパターンを転写するブランケットと、ブランケットに転写したインキパターンを基材の表面に再転写するための圧胴とを有する印刷機であって、平版の表面に形成したインキパターンをブランケットに転写する際の版圧が50N/cm2以上105N/cm2以下であり、かつ、ブランケットに転写したインキパターンを基材の表面に再転写する際の印圧が200N/cm2以上800N/cm2以下に調整する機構を有するものである。このような印刷機を用いて印刷物を製造すると、耐刷性が向上し、良好な耐地汚れ性を有する印刷物を得ることができるため好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に記載する実施例3~6および13~15は参考例に読み替えるものとする。
【0057】
<インキ原料>
25質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、および50質量%のメタクリル酸からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.55当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、エチレン性不飽和基と親水性基を有する樹脂を得た。得られた樹脂は重量平均分子量34,000、酸価105mgKOH/g、ヨウ素価2.0mol/kgであった。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用い、ポリスチレン換算で測定を行った。酸価は、JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に準拠して求めた。ヨウ素価は、JIS K 0070:1992の試験方法第6.0項に記載の方法により求めた。
多官能(メタ)アクリレート1: “Miramer”(登録商標)M340(MIWON社製)。ヒドロキシル基あり、水酸基価115mgKOH/g
多官能(メタ)アクリレート2: “Miramer”(登録商標)M262(MIWON社製)。ヒドロキシル基なし、水酸基価0mgKOH/g
顔料:セイカシアニンブルー4920(大日精化(株)製)
体質顔料:ミクロエースP-8(日本タルク(株)製)
添加剤:イソステアリルアクリレート(和光純薬工業(株)製)
光重合開始剤1:“イルガキュア”(登録商標)907(BASF社製)
光重合開始剤2:UV CURE APO(渡辺ケミカル(株)製)
光重合開始剤3:SB-PI 799(MIWON社製)
重合禁止剤:p-メトキシフェノール(和光純薬工業(株)製)
ワックス:ポリテトラフルオロエチレンの微粉末“KTL-4N”(登録商標)((株)喜多村製)。
【0058】
<インキ作製>
11.6質量部の樹脂、20.7質量部の多官能(メタ)アクリレート1、20.7質量部の多官能(メタ)アクリレート2、0.1質量部の重合禁止剤を秤量した。これらの原料をディスパー羽根を用いて500rpmで攪拌し、95℃で390分加熱溶解させることでワニスを得た。
【0059】
53.1質量部のワニス、13.9質量部の多官能(メタ)アクリレート1、18質量部の顔料、1.0質量部の体質顔料、4.0質量部の添加剤、2.0質量部の光重合開始剤1、4.0質量部の光重合開始剤2、3.0質量部の光重合開始剤3、1.0質量部のワックスを秤量した。これらの原料を三本ロールミル(M-80S(EXAKT社製))を用いて、ローラーギャップ1で500rpmの速度で5回通すことで藍インキ1を得た。
【0060】
57.7質量部のワニス、19.3質量部の多官能(メタ)アクリレート1、18質量部の顔料、1.0質量部の体質顔料、3.0質量部の添加剤、1.0質量部のワックスを秤量した。これらの原料を三本ロールミル(M-80S(EXAKT社製))を用いて、ローラーギャップ1で500rpmの速度で5回通すことで藍インキ2を得た。
【0061】
得られた藍インキを用いて耐刷性、耐地汚れ性について評価した。
【0062】
<水なし平版>
平版印刷版原版を以下の方法で作製した。
【0063】
厚み0.24mmの脱脂したアルミ基板(三菱アルミ(株)製)上に下記の有機層組成物溶液を塗布し、200℃で90秒間乾燥し、厚み6.0μmの有機層を設けた。なお、有機層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
【0064】
<有機層組成物溶液>
(a)活性水素を有するポリマー:エポキシ樹脂:“エピコート”(登録商標)1010(ジャパンエポキシレジン(株)製):29.2質量部
(b)活性水素を有するポリマー:ポリウレタン:“サンプレン”(登録商標)LQ-T1331D(三洋化成工業(株)製、固形分濃度:20質量%):51.7質量部
(c)アルミキレート:アルミキレートALCH-TR(川研ファインケミカル(株)製):4.5質量部
(d)レベリング剤:“ディスパロン”(登録商標)LC951(楠本化成(株)製、固形分:10質量%):0.1質量部
(e)酸化チタン:“タイペーク”(登録商標)CR-50(石原産業(株)製)のN,N-ジメチルホルムアミド分散液(酸化チタン50質量%):14.5質量部
(f)N,N-ジメチルホルムアミド:450.0質量部
(g)メチルエチルケトン:150.0質量部。
【0065】
なお、上記有機層組成物溶液の各成分の配合量は、成分(a)~(e)の配合量の合計100.0質量部に対する、質量部として示した。
【0066】
次いで、下記の感熱層組成物溶液を前記有機層上に塗布し、140℃で90秒間加熱乾燥し、厚み1.5μmの感熱層を設けた。なお、感熱層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
【0067】
<感熱層組成物溶液>
(a)赤外線吸収染料:“PROJET”825LDI(Avecia社製):13.8質量部
(b)有機錯化合物:チタニウム-n-ブトキシドビス(アセチルアセトネート):“ナーセム”(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、濃度:73質量%、溶剤としてn-ブタノール:27質量%を含む):12.9質量部
(c)フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂:“スミライトレジン”(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製):51.7質量部
(d)ポリウレタン:“ニッポラン”(登録商標)5196(日本ポリウレタン(株)製、濃度:30質量%、溶剤としてメチルエチルケトン:35質量%、シクロヘキサノン:35質量%を含む):21.6質量部
(e)テトラヒドロフラン:900.0質量部
なお、上記感熱層組成物溶液の各成分の配合量は、成分(a)~(d)の配合量の合計100.0質量部に対する、質量部として示した。
【0068】
次いで、塗布直前に調製した下記のシリコーンゴム層組成物溶液-1を前記感熱層上に塗布し、140℃で80秒間加熱し、平均膜厚2.6μm、3.8μmおよび4.5μmのシリコーンゴム層を設けた平版印刷版原版をそれぞれ得た。なお、シリコーンゴム層組成物溶液-1は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
【0069】
<シリコーンゴム層組成物溶液-1>
(a)α,ω-両末端シラノールポリジメチルシロキサン:DMS-S51(重量平均分子量140,000、GELEST Inc.製):92.89質量部
(b)ビニルトリス(メチルエチルケトオキシイミノ)シラン:5.76質量部
(c)テトラキス(メチルエチルケトオキシイミノ)シラン:1.32質量部
(d)ジブチル錫ジアセテート:0.03質量部
(e)“アイソパー”(登録商標)E(エッソ化学(株)製):900.00質量部
なおシリコーンゴム層組成物溶液-1の成分(a)~(d)の配合量の合計が100.00質量部である。
【0070】
<平版印刷版の製造>
前記平版印刷版原版に対し、CTP用露光機“PlateRite”8800E(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて、照射エネルギー:125mJ/cm2(ドラム回転数:240rpm)の条件で露光を行った。
【0071】
縦679mm×横530mmの平版印刷版原版の中心に縦40mm×横500mmの帯状のベタ画像、上底および下底から80mmの位置を中心にそれぞれ縦10mm×横500mmの帯状のベタ画像を設けた(平版印刷版原版の縦が版胴回転方向と平行になるように設置する)。DP-1(東レ(株)製)を前処理液とし、水道水を現像液として、露光した原版を自動現像機TWL-1160F(東レ(株)製)に速度80cm/分で通し、平版印刷版1を製造した。
【0072】
縦674mm×横1070mmの平版印刷版原版の中心に縦40mm×横800mmの帯状のベタ画像、上底および下底から80mmの位置を中心にそれぞれ縦10mm×横800mmの帯状のベタ画像を設けた(平版印刷版原の版縦が版胴回転方向と平行になるように設置する)。DP-1(東レ(株)製)を前処理液とし、水道水を現像液として、露光した原版を自動現像機TWL-1160F(東レ(株)製)に速度80cm/分で通し、平版印刷版2を製造した。
【0073】
<ブランケット>
印刷に使用したブランケットを以下に記す。印刷機のブランケット胴に直接貼ることが出来るように粘着加工されているブランケットは直接印刷機のブランケット胴に貼って評価した。粘着加工が無いブランケットは両面粘着テープ(ST-416P、テープ厚み0.125mm(住友スリーエム(株)製))を付与し印刷機のブランケット胴に貼って評価した。FIT FORM UV、E-Formについては、印刷機のブランケット胴にエアータックMを貼った上に貼り付け、ブランケット2重構造として評価した。厚みはブランケットの厚みを測定した。
バルカンUV:ガデリウス・インダストリー(株)製、粘着加工有り、厚み1.70mm
キンヨーレックスW:(株)金陽社製、粘着加工無し、厚み1.68mm
NEO UV A:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工無し、厚み1.95mm
MC1400W:金陽社製、粘着加工無し、厚み1.95mm
G372W:金陽社製、粘着加工無し、厚み1.95mm
FIT FORM UV:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工有り、厚み0.95mm、圧縮層の空隙率47%
エアータックM:金陽社製、粘着加工有り、厚み0.85mm、圧縮層中の空隙率32%
MC1200W-D:金陽社製、粘着加工無し、厚み1.68mm
FIT-UV:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工無し、厚み1.95mm
S-PRIA UV:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工無し、厚み1.95mm
SB14:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工無し、厚み1.95mm
FS-100:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工有り、厚み1.95mm
Xコートプラス:ガデリウス・インダストリー(株)製、粘着加工無し、厚み1.35mm
MC1200W:金陽社製、粘着加工無し、厚み1.68mm
UV178-TKM:藤倉コンポジット(株)製、粘着加工無し、厚み1.95mm
E-Form:金陽社製、粘着加工有り、厚み0.95mm。
【0074】
<印刷>
表1~2に記したブランケット、およびシリコーンゴム層の厚みが異なる前記平版印刷版1をオフセット輪転機(MHL20A、(株)ミヤコシ製)に装着し、前記藍インキ1を用いて、下記条件にて印刷し実施例1~12および比較例1~6の印刷物を得た。
版胴外周:680mm
印刷時の平版面上温度:29.5~30.5℃
印刷速度:50m/分
コロナ照射強度:1.70kW
原反:ポリプロピレンフィルム(“パイレン”(登録商標)フィルム-OT P2111(東洋紡(株)製))、厚み20μm
ブランケット/平版の押し込み量およびブランケット/基材の押し込み量:ブランケット、平版および原反の厚みを考慮し、版胴/ブランケット胴およびブランケット胴/圧胴の胴枕間距離をJIS規格すきまゲージ(150A13、(株)永井ゲージ製作所)を用いて調整し、ブランケット/平版の押し込み量およびブランケット/基材の押し込み量がそれぞれ表1~2に記載の値となるように設定した。
版圧、印圧:以下の<評価方法>(1)ブランケット圧力に記載の方法で測定される値と同じである。
【0075】
表3に記したブランケット、および前記平版印刷版2をセンターインプレッション型オフセット輪転機(OFFSET CI-8、COMEXI製、圧胴直径3.0m)に装着し、前記藍インキ2を用いて、下記条件にて印刷し実施例13~15の印刷物を得た。
版胴外周:660mm
印刷時の平版面上温度:29.5~30.5℃
印刷速度:200m/分
コロナ照射強度:8.00kW
原反:ポリプロピレンフィルム(“パイレン”(登録商標)フィルム-OT P2111(東洋紡(株)製))、厚み20μm
ブランケット/平版の押し込み量およびブランケット/基材の押し込み量:ブランケット、平版および原反の厚みを考慮し、版胴/ブランケット胴およびブランケット胴/圧胴の胴枕間距離をJIS規格すきまゲージ(150A13、(株)永井ゲージ製作所)を用いて調整し、ブランケット/平版の押し込み量およびブランケット/基材の押し込み量がそれぞれ表3に記載の値となるように設定した。
版圧、印圧:以下の<評価方法>(1)ブランケット圧力に記載の方法で測定される値と同じである。
【0076】
<評価方法>
(1)ブランケット圧力(押し込み量と、それに必要な圧力との関係)
30mm×30mm四方のブランケットを準備し、万能材料試験機(AG-50kNXplus、(株)島津製作所製)の圧縮盤に貼付した(粘着加工無いブランケットは両面粘着テープ(ST-416P、テープ厚み0.125mm(住友スリーエム(株)製))を付与し圧縮盤に貼る)。FIT FORM UVは、圧縮盤にエアータックMを貼った上に貼り付け、ブランケット2重構造として評価した。
【0077】
測定端子として、圧縮受圧板(上)(寸法:直径50mm)、圧縮盤(下)(寸法:直径200mm)を使用した。圧縮盤(下)は固定して測定した。押込み速度が1mm/分、最大荷重13.5kN(最大応力:15MPa想定)となるまでブランケットに荷重をかけた。なお、押し込み量は圧縮受圧板(上)の移動距離を測定した。また、測定した荷重値は、圧縮受圧板(上)とブランケットとの接触面積における荷重の合計値を算出した。
【0078】
荷重値をブランケット面積で割り圧力の単位に変換した。上記測定を3回繰り返し、それらの平均値を算出して、押し込み量と圧力の関係を得た。表1~2には、押し込み量が0.10mm~0.35mmの範囲における0.05mm間隔の各押し込み量の圧力(N/cm2)を示した。
【0079】
(2)ブランケット圧縮層中の空隙率
FIT FORM UVおよびエアータックMについて、ブランケット断面を光学顕微鏡(ECLIPSE L200N、(株)ニコン製)を用いて倍率20倍(TU Plan Fluor BD 20×、(株)ニコン製)にて観察した。圧縮層中の空隙箇所の面積を圧縮層全体の面積で割り100掛けることで圧縮層中の空隙率を%単位で算出した。ブランケット圧縮層の任意の3点について測定し、得られた平均値をブランケット圧縮層中の空隙率とした。
【0080】
(3)ブランケットの表面の算術平均粗さ(Ra)の測定
ブランケットの表面を表面粗さ測定機(SURFCOM1400D、(株)東京精密)を用いて、JIS B 0601:2013に記載の方法に基づいて、測定することで得た。ブランケットの端から5cm以上内側の箇所を、印刷方向に相当する方向に、0.1mm/秒の速度で5mm測定し、測定箇所を変えて5回測定した結果の平均を測定値とした。測定箇所はブランケット上の任意の領域を選択した。
【0081】
(4)重量平均分子量の測定
樹脂の重量平均分子量はテトラヒドロフランを移動相としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。GPCはHLC-8220(東ソー(株)製)、カラムはTSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperH2000(東ソー(株)製)の順で連結したものを用い、RI検出は前記GPCに内蔵されたRI検出器を用い測定した。検量線はポリスチレン標準物質を用いて作成し、試料の重量平均分子量を計算した。濃度が0.25質量%となるように試料をテトラヒドロフランで希釈し、希釈溶液をミックスローター(MIX-ROTAR VMR-5、アズワン(株)社製)にて5分間100rpmで攪拌し溶解させ、0.2μmフィルター(Z227536-100EA、SIGMA社製)でろ過して、ろ液を測定試料とした。また、測定試料の打ち込み量は10μL、分析時間は30分、テトラヒドロフランの流量は0.4mL/min、カラム温度は40℃として、測定した。
【0082】
(5)耐刷性
印刷後の水なし平版印刷版表面を光学顕微鏡(ECLIPSE L200N、(株)ニコン製)を用いて倍率5倍(TU Plan Fluor BD 5×、(株)ニコン製)にて観察した。水なし平版印刷版の両端部から50mmの位置を中心としたそれぞれ幅5mm×長さ660mmを観察した。非画線部に傷が確認され、その傷上に藍インキが付着しており、かつ印刷物の対応する箇所にインキの転写が確認された場合、印刷版が傷ついたと判断した。印刷版に傷が発生するのに必要な印刷長さを耐刷性として示した。500m、2,000m、4,000m、6,000m、および8,000mの時点の耐刷性を確認した。例えば、これらの中で2,000m印刷時に初めて傷が発生する場合、耐刷性は2,000mと評価する。耐刷性は4,000m未満であると不良であり、4,000m以上であるとやや良好であり、6,000m以上であると良好であり、8,000m以上であると極めて良好であると判断した。
【0083】
(6)耐地汚れ性
印刷時の印刷版面上温度を29.5~30.5℃に制御し、インキ供給量を徐々に増やすことで印刷物のベタ部藍色濃度を上昇させた。ベタ部インキ濃度が1.00から印刷を開始し、0.05ずつベタ部インキ濃度を増加させて評価した。濃度は分光光度計(X-Rite eXact、xRite社製)を用いて、照明条件:M0、濃度ステータス:ISOステータスE、濃度白色基準:紙の設定にて評価した。耐地汚れ性は1.45未満であると不良であり、1.45以上であるとやや良好であり、1.55以上であると良好であり、1.65以上であると極めて良好であると判断した。
【0084】
[実施例1~12、比較例1~6]
表1および表2に示すブランケットと、表1および表2に示すシリコーンゴム層厚みを有する水なし平版印刷版とを用いて、上記<印刷>に記載の条件で印刷を行い、耐刷性、耐地汚れ性を評価した。結果を表1および表2に示す。
【0085】
(実施例1~3、7および12、比較例1~3、5および6)
実施例1~3、7および12では、版圧が105N/cm2以下であり、4,000m以上の良好な耐刷性を示した。また、版圧が50N/cm2以上、かつ印圧が200N/cm2以上800N/cm2であり、1.45以上の良好な耐地汚れ性を示した。
【0086】
比較例1では、版圧が50N/cm2未満、かつ印圧が200N/cm2未満であり、耐地汚れ性は不良であった。
【0087】
比較例2では、印圧力が200N/cm2未満であり、耐地汚れ性は不良であった。
【0088】
比較例3および5では、版圧が105N/cm2を超えており、耐刷性は不良であった。
【0089】
比較例6では、印圧が200N/cm2以上であるが、版圧が50N/cm2未満であり、耐地汚れ性は不良であった。
【0090】
(実施例4~11、比較例3および4)
実施例4および5では、版圧はいずれも88N/cm2、かつシリコーン層の厚みはそれぞれ3.8μm、4.5μmであり、耐刷性はそれぞれ6,000m(良好)、8,000m以上(極めて良好)を示した。
【0091】
実施例6では、版圧が86N/cm2、かつシリコーン層の厚みが4.5μmであり、8,000m以上の極めて良好な耐刷性を示した。
【0092】
実施例7~9では、版圧はいずれも100N/cm2、かつシリコーン層の厚みはそれぞれ2.6μm、3.8μm、4.5μmであり、耐刷性はそれぞれ4,000m(やや良好)、6,000m(良好)、8,000m以上(極めて良好)を示した。
【0093】
実施例10~11では、版圧はいずれも69N/cm2、かつシリコーン層の厚みはそれぞれ3.8μm、4.5μmであり、耐刷性はいずれも8,000m以上で極めて良好であった。
【0094】
比較例3および4では、版圧はいずれも109N/cm2であり、耐刷性はいずれも2,000mで、シリコーン層の厚みに関わらず不良であった。
【0095】
[実施例13~15]
表3に示すブランケットと、表3に示すシリコーンゴム層厚みを有する水なし平版印刷版とを用いて、上記<印刷>に記載の条件で印刷を行い、耐刷性、耐地汚れ性を評価した。結果を表3に示す。
【0096】
実施例13および15では、ブランケット表面のRaはそれぞれ0.41μm、2.07μmであり、耐地汚れ性はどちらも1.60と良好であった。実施例14では、ブランケット表面のRaは1.53μmであり、耐地汚れ性は1.65と極めて良好であった。
【0097】
【0098】
【0099】