(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20240611BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B41N1/24 102
C08L67/02
(21)【出願番号】P 2020128990
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019143536
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】米内山 章吾
(72)【発明者】
【氏名】舩冨 剛志
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-349586(JP,A)
【文献】特開2009-155411(JP,A)
【文献】特開平07-017153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/24
B41C 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの融点が180℃以上220℃以下、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が2.0以上3.5以下である感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムの重量平均分子量(Mw)が12,000以上25,000以下である請求項1記載の感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムの数平均分子量(Mn)が4,000以上8,000以下である請求項1または2に記載の感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中に、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体と、ポリブチレンテレフタレートおよび/またはポリトリメチレンテレフタレートを含む請求項1~3のいずれかに記載の感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中の樹脂全体の質量を100質量%とした際、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体が40質量%以上90質量%以下、ポリブチレンテレフタレートおよび/またはポリトリメチレンテレフタレートが10質量%以上60質量%以下である請求項4に記載の感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムの全厚みが1.0μm以上4.0μm以下である請求項1~5のいずれかに記載の感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、感熱孔版印刷用原紙としては、塩化ビニリデンフィルム、ポリエステル、ポリプロピレンフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムに天然繊維、化学繊維または合成繊維あるいはこれらを混抄した薄葉紙、不織布、紗等によって構成された多孔性支持体を接着剤で貼り合わせた構造のものが知られている。これらの感熱孔版印刷原紙用フィルムは、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュランプなどによる閃光照射や赤外線照射、レーザー光線等のパルス的照射、あるいはサーマルヘッド等によって穿孔され、上記した多孔性支持体を通してインキが通過する印刷用の版となる。
【0003】
またサーマルヘッド等を使用した印刷方式では、高い解像度を得るために個々のヘッドを小さくし、単位面積当たりのヘッドの数を増やす試みがなされている。しかしながら、ヘッドを小さくする分、ヘッド1個当たりに供給されるエネルギーを低減させ、単位面積当たりにヘッドに供給するエネルギーを従来のヘッドと同じにしたとしても、個々のヘッドの寿命がヘッドの緻密化により低下してしまう。ヘッドの寿命を従来と同程度とするためには、個々のヘッドに供給するエネルギーをさらに低減させる必要があり、フィルムが低エネルギーで感度良く穿孔して、多孔性薄葉紙に保持されたインキが穿孔された穴から確実に通過することによって印刷時の解像度、印字品位性および濃度が良好な感熱孔版印刷原紙用フィルムが望まれている。
【0004】
このような感度向上を目的として、フィルムの融点を低下させるように制御したり(特許文献1、2)、穿孔時の穴を広がりやすくするため熱収縮率を制御する方法(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第00/020490号
【文献】特開2005-349586号公報
【文献】特開2015-208944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術では低エネルギー領域において穿孔感度が十分ではなく文字印刷およびベタ印刷の印刷鮮明性が低下するなどの欠点がある。すなわち、温度の違いに敏感に反応して穿孔することが要求されているにも関わらず、従来のフィルムは、温度に対する反応が鈍いという問題があった。
そこで、本発明はかかる問題を解決し、感熱孔版印刷原紙用フィルムとした際、低エネルギーでも穿孔性が良好で耐カール性に優れた感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。ポリエステルフィルムの融点が180℃以上220℃以下、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が2.0以上3.5以下である感熱孔版原紙用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムとした際、低エネルギーでも穿孔性が良好な感熱孔版印刷原紙用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とするポリエステルである。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸等を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等を用いることができる。中でも好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸を用いることができる。また、ジオール成分としては例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2 ′ビス(4′-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。中でもエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましく用いられる。
【0010】
本発明に用いられるポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲において、本発明を構成するジカルボン酸成分、ジオール成分以外の他の成分が共重合されていてもよい。このような成分としては、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、トリカルバリル酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリトリット等の多官能化合物、p-オキシ安息香酸、乳酸、3-ヒドロキシブタン酸等のオキシカルボン酸等を用いることができる。
【0011】
本発明のポリエステルフィルムを構成する主たるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。なお、ポリエチレンテレフタレートは、ホモポリエチレンテレフタレートであってもよく、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。本発明において、共重合ポリエチレンテレフタレートとは、ジオール成分全体に対してしめるエチレングリコールの割合が50mol%以上であり、かつ、ジカルボン酸成分全体に対してしめるテレフタル酸の割合が50mol%以上であるポリエステルをいう。共重合ポリエチレンテレフタレートとしては、酸成分としてイソフタル酸を含むポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体、ジオール成分としてブチレンジオールを含むポリエチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート共重合体、酸成分として2,6-ナフタレン酸、ジオール成分としてブチレンジオールを含むポリエチレンテレフタレート/ブチレン-2,6-ナフタレート共重合体、ジオール成分としてシクロヘキサンジオールを含むポリエチレンテレフタレート/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート共重合体が挙げられる。ポリエステルフィルムを構成する主たるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体であることが特に好ましく、その共重合量は、テレフタル酸成分/イソフタル酸成分のモル比が99/1~60/40であることが好ましく、98/2~70/30であることがより好ましい。また、ポリエステルフィルムを構成する主たるポリエステル樹脂とは、フィルムを構成するポリエステル樹脂のうち、50質量%以上をしめるポリエステル樹脂を表す。
【0012】
本発明に用いるポリエステルは例えば、下記の方法で製造することができる。すなわち、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造する方法や、ジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用い、これとジオール成分とでエステル交換反応させた後、上記と同様に重縮合させることによって製造する方法等がある。この際、必要に応じて、反応触媒を適宣用いることができる。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、融点が180℃以上220℃以下であることが好ましい。融点が220℃より高い場合には、所望の大きさの穿孔を得るために必要なエネルギーが多く必要となるため、低エネルギーでの穿孔性が低下し本発明の目的とする高度な穿孔感度が得られなくなる。また180℃より低い場合は、フィルムの耐熱寸法安定性が悪化したり、穿孔時に隣り合う孔同士が連結し所定の穿孔が得られず解像度、印刷品位性が低下する。より好ましくは、183℃以上217℃以下であり、さらに好ましくは185℃以上215℃以下である。本発明における融点は、後述する測定方法において、示差走査熱量測定装置を用いて測定される示差走査熱量測定チャートにおける結晶融解ピークのピークトップの温度を表す。結晶融解ピークが複数有する場合は、最も温度が高い結晶融解ピークのピークトップの温度を融点とする。ポリエステルフィルムの融点を上述の範囲とする方法としては、上述の範囲の融点を有するポリエステルをフィルム原料に用いる方法のほかに、異なる融点を有する2種以上のポリエステルを原料として用い、2種以上のポリエステルを溶融混合後にポリエステルフィルムを得る方法などが挙げられる。例えば、異なる融点を有する2種のポリエステル原料を十分に溶融混合した後にポリエステルフィルムを得ると、ポリエステルフィルムの融点は、ポリエステル原料の2つの融点の間、あるいは、ポリエステル原料のいずれの融点よりも低くなる。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂にポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体とポリブチレンテレフタレートおよび/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むことが好ましい。かかる構成とすることで、穿孔性、解像度、印刷品位性を特に良好にすることができる。なお、ここでいうポリブチレンテレフタレートは、ホモポリブチレンテレフタレートであっても、共重合ポリブチレンテレフタレートであってもよい。ブチレンジオール以外のジオール成分が10mol%以下であり、かつ、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分が10mol%以下であるポリブチレンテレフタレートであることがより好ましく、ホモポリブチレンテレフタレートであることがさらに好ましい。また、ポリトリメチレンテレフタレートは、ホモポリトリメチレンテレフタレートであっても、共重合ポリトリメチレンテレフタレートであってもよい。1,3-プロパンジオール以外のジオール成分が10mol%以下であり、かつ、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分が10mol%以下であるポリトリメチレンテレフタレートであることがより好ましく、ホモポリトリメチレンテレフタレートであることがさらに好ましい。
【0015】
また、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中の樹脂全体の質量を100質量%とした際、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体が40質量%以上90質量%以下、ポリブチレンテレフタレートおよび/またはポリトリメチレンテレフタレートが10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体の含有量を40質量%以上とすると低エネルギーで確実かつ適度な大きさを有する穿孔部が得られやすく、90質量%以下とすることでフィルムの耐熱寸法安定性を良好とし、原紙を製造する工程や原紙の保存中にカールが発生や、解像度、印刷品位性の低下を抑制することができる。また、ポリブチレンテレフタレートおよび/またはポリトリメチレンテレフタレートの含有量が10質量%以上とすると低エネルギーで確実かつ適度な大きさを有する穿孔部が得られやすくなり、60質量%以下とすることでフィルム製造時の延伸性の悪化や生産時の破断を抑制することができる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が2.0以上3.5以下であることが好ましい。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味する。より好ましくは2.0以上3.2以下、さらに好ましくは2.0以上3.0以下である。本発明者らが鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムを感熱孔版原紙用ポリエステルフィルムとして用いた際、Mw/Mnが穿孔性に大きな影響が判明した。Mw/Mnが2.0以上とすること、すなわち、ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの分子量が一定の分布を有する(低分子量ポリエステルと高分子量ポリエステルをそれぞれ一定量有する)ことで、フィルム中に有する高分子量ポリエステルが原紙を製造する工程や原紙の保存中に発生するカールを抑制しつつ、低分子量ポリエステルが穿孔のきっかけを作ることによって低エネルギーで確実かつ適度な大きさを有する穿孔部が得られやすくすることができる。一方、Mw/Mnが3.5以下とすること、すなわち、ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの分子量の分布を一定以下にすることで、低分子量ポリエステル成分が多くなりすぎないため、穿孔のばらつきを押さえることができる。
【0017】
なお、本発明における「Mw」及び「Mn」の値は、後述する測定方法において、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、ポリメチルメタクリレート換算値として測定することができる。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、重量平均分子量(Mw)が12,000以上25,000以下であることが好ましい。Mwを12,000以上とすると、フィルムの耐熱寸法安定性が向上し、穿孔時に隣り合う孔同士が連結し所定の穿孔が得られず解像度、印刷品位性が低下することを抑制することができる。また、Mwを25,000以下とすることで、低エネルギーでの穿孔性の低下を抑制することが可能となる。より好ましくは、12,500以上22,400以下であり、さらに好ましくは13,000以上23,000以下である。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、数平均分子量(Mn)が4,000以上8,000以下であることが好ましい。Mnを4,000以上とすると、フィルムの耐熱寸法安定性が向上し、穿孔時に隣り合う孔同士が連結し所定の穿孔が得られず解像度、印刷品位性が低下することを抑制することができる。また、Mnを8,000以下とすることで、低エネルギーでの穿孔性の低下を抑制することが可能となる。より好ましくは4,100以上7,500,以下であり、さらに好ましくは4,300以上7,000以下である。
【0020】
ポリエステルフィルムの「Mw/Mn」、「Mw」、「Mn」を上述の範囲とする方法は特に限られるものでは無いが、「Mw」、「Mn」を調整したポリエステルをフィルム原料に用いる方法のほかに、「Mw」、「Mn」を調整した2種以上のポリエステルを原料として用い、2種以上のポリエステルを溶融混合後にポリエステルフィルムを得る方法などが挙げられる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステル樹脂組成物を得る方法は、特に限定されず、従来公知の重合方法で得ることができる。複数のポリエステル樹脂を用いる場合は、主成分となるポリエステル樹脂の重合反応釜中で、その他のポリエステル樹脂を混合した後、重合を継続して行う方法や、複数のポリエステル樹脂をドライブレンドし、溶融押し出しする方法等を用いることができる。
【0022】
また、本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合してもよく、これら二種以上を併用してもよい。
【0023】
さらに本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステル樹脂組成物には必要に応じて易滑性を付与することもできる。易滑性付与方法としては特に制限はないが、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式あるいは乾式シリカなどの無機粒子、アクリル酸系ポリマー類、ポリスチレン等を構成成分とする有機粒子等を配合する方法、ポリエステル重合反応時に添加する触媒等が失活して形成される、いわゆる内部粒子による方法、界面活性剤を塗布する方法等がある。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムは、全厚みが1.0μm以上4.0μm以下であることが好ましい。フィルム全厚みが1.0μm以上とすることで、低エネルギー領域における穿孔感度が良好のまま、耐刷性を維持できるので、多数部数の印刷時に版となるフィルムの破損を抑制し、フィルムの製造における製膜安定性、巻取性が良好で、また得られたフィルムと薄葉紙等の多孔性支持体とのラミネート工程においても歩止まりの悪化を抑制することができる。一方4.0μm以下とすることで、低エネルギー領域における穿孔性を良好にすることが可能となる。より好ましくは、1.0μm以上3.0μm以下であり、さらに好ましくは1.2μm以上2.5μm以下である。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムは、上述したポリマーを用い、二軸延伸された二軸配向フィルムであることが好ましい。未延伸のフィルムでは穿孔時に溶融はするものの孔は形成されないため穿孔特性が悪く、フィルムの強度が低いために耐刷性も悪い傾向にある。延伸方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれかの処方によって二軸延伸されたフィルムとするものであるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性の点でステンター逐次二軸延伸法により製膜されたものが好ましく用いられる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、上記のポリエステル樹脂組成物を用いて、以下の方法によって製造することができる。すなわち、Tダイ押し出し法によって樹脂組成物をキャストドラム上に押し出すことによって未延伸フィルムを製造できる。キャストドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性が良好でかつ表面欠点の少ないフィルムを得る手法として水の表面張力を利用した密着キャスト法、または静電印加法とするのが特に有効である。フィルムを構成するポリエステル樹脂に、ポリブチレンテレフタレートに代表される樹脂組成物を含む場合、キャストフィルムの段階での結晶化を抑制し、その後の延伸性を低下させないように水の表面張力を利用した密着キャスト法と静電印加法とを併用し溶融樹脂組成物を急冷することが好ましい。所望の厚さの未延伸フィルムは口金のスリット幅、樹脂組成物の吐出量、キャストドラムの回転数を調整することによって作ることができる。
【0027】
延伸方法は特に限定されないが、ステンター逐次二軸延伸法の場合、長手方向の延伸は、フィルムを構成するポリエステル樹脂組成物のガラス転移点以上の温度で、延伸倍率は用いる樹脂組成物の種類によって適宜決定されるが、2~5倍程度で行なうことが好ましい。
【0028】
また、幅方向の延伸倍率と延伸温度は特に限定されるものではなく、用いる樹脂組成物の種類によって適宜決定されるが、延伸倍率が2~5倍程度が好ましく、延伸温度は長手方向の延伸温度以上であると延伸性が良好となり好ましい。
【0029】
また、二軸延伸後、フィルムの長手方向または幅方向、あるいはそれら両方を再延伸してもかまわない。
【0030】
さらに、本発明のポリエステルフィルムは、二軸延伸後、定長下および/または幅方向にフィルムの全幅に対して10%以下の微延伸をしながら熱処理を施すことが室温付近の低温領域でのフィルムの寸法安定性、フィルムの平面性の観点から好ましい。熱処理温度は、下記式(1)の範囲とすると低温領域の寸法安定性とフィルムの平面性を同時に満足するため、好ましい。
【0031】
Ttd≦Ths≦Ttd+30(1)
(ここでTtdは幅方向の延伸温度(℃)、Thsは熱処理温度(℃))
熱処理温度のより好ましい温度はTtd≦Ths≦Ttd+20である。熱処理の時間は0.5~60秒間行なうのが好ましい。
[物性および効果の評価方法]
本発明で用いている各特性は次の方法により測定、評価した。
【0032】
(1)融点
JIS K7121(1999)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC-RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて、下記の要領にて、測定を実施する。
【0033】
サンプルパンに試料を5mg秤量し、試料を25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱し、その状態で5分間保持し、次いで25℃まで10℃/分の速度で冷却し、25℃から300℃までの昇温過程(1stRUN)、300℃から25℃までの降温過程(2ndRUN)の示差走査熱量測定チャート(縦軸を熱エネルギー、横軸を温度とする)を得る。当該1stRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶融解ピークにおけるピークトップの温度を求め、これを融点(Tm)(℃)とする。なお、結晶融解ピークが複数有する場合は、最も温度が高い結晶融解ピークのピークトップの温度を融点とする。
【0034】
(2)フィルムの厚み(μm)
フィルム厚みは、ダイヤルゲージを用い、JIS K7130(1992年)A-2法に準じて、フィルムを10枚重ねた状態で任意の5ヶ所について厚さを測定した。その平均値を10で除してフィルム厚みとした。
【0035】
(3) Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)
Mw(重量平均分子量)およびMn(数平均分子量)はGPCを用いて以下の条件で測定した。なお、検出器は示差屈折率検出器を用いて単分散ポリメチルメタクリレート標準試料により検量した。
装 置:ゲル浸透クロマトグラフGPC
検出器:示差屈折率検出器 RI(Waters 製RI-2410型,感度256)
カラム:Shodex HFIP-LG(1本)、HFIP-806M(2本)
(φ8.0mm×30cm、昭和電工製)
溶媒:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム添加ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:0.5mL/min
カラム温度:40℃
試料調製:試料3mgに溶媒5mLを加え、室温にて攪拌した。
その後、0.20μmフィルターを用いてろ過を行った。
注入量:0.2mL
標準試料:昭和電工製単分散ポリメチルメタクリレート(PMMA)
(4)穿孔特性
得られたフィルムに、マニラ麻を原料とする天然繊維100%の繊維目付量10g/m2の和紙を、酢酸ビニルを接着剤として用いて貼り合わせて感熱孔版印刷用原紙を作製した。かかる感熱孔版印刷用原紙を、理想科学工業(株)製RISOGRAPH“GR377”に供給して、サーマルヘッド式製版方式(600dpi)により、5mm角の黒ベタを格子状に製版した。この際、サーマルヘッドに投入するエネルギーを1ドット当たり12μJおよび8μJとした。この状態で穿孔し、走査型顕微鏡で200倍の倍率でフィルムの穿孔部分100個を観察し、フィルムの穿孔部分の面積を測定した。1ドット当たりの穿孔面積の平均値と標準偏差を求め、穿孔特性を下記の項目で評価した。感度、ばらつきとも◎、○、△が実用に供し得るものである。
A.穿孔感度
◎:平均穿孔面積が450μm2以上のもの。
○:平均穿孔面積が300μm2以上450μm2未満のもの。
△:平均穿孔面積が150μm2以上300μm2未満のもの。
×:平均穿孔面積が150μm2未満のもの。
B.穿孔のばらつき
穿孔のばらつき度=10×log(穿孔面積の平均値2/穿孔面積の標準偏差2)
◎:ばらつき度が15以上のもの
○:ばらつき度が10以上15未満のもの。
△:ばらつき度が5以上10未満のもの。
×:ばらつき度が5未満のもの。
【0036】
(5)搬送性(カール)の評価
作製した孔版原紙を50℃で湿度90%RHの恒温恒湿槽中で1週間処理した後、印刷機を用いて原紙の搬送試験を行い、下記の基準で評価した。
○:ほとんどカールがない、あるいは、ややカールがあるものの、良好に搬送できる
△:カールがあるものの、実用上問題なく搬送できる
×:カールが大きく、搬送トラブルが頻発に発生する。
【0037】
(6)製膜性
フィルムの製膜性について、次の基準で評価した。
○:48時間以上フィルム破れの発生がなく、安定製膜している
△:48時間で1回~3回のフィルム破れが発生し、製膜性が若干悪い
×:48時間で4回以上のフィルム破れが発生し、製膜性が悪い。
【実施例】
【0038】
以下実施例等によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定される
ものではない。
(原料)
・PET-I(ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体)
主成分となるポリエステルとして、ジカルボン酸成分がテレフタル酸ジメチル/イソフタル酸ジメチル(モル比:75/25)、グリコール成分がエチレングリコールのものを用いて常法により重合し、含有シリカ粒子として平均粒径1.5μmの粒子を0.5質量%含有させ、Mw:14700,Mn:5000のポリエステル樹脂(PET-I)を得た。
【0039】
・PET/CHDC(ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート共重合体)
主成分となるポリエステルとして、ジカルボン酸成分がテレフタル酸ジメチル/1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(モル比:75/25)、グリコール成分がエチレングリコールのものを用いて常法により重合し、含有シリカ粒子として平均粒径1.5μmの粒子を0.5質量%含有させ、Mw:20000,Mn:6500のポリエステル樹脂(PET/CHDC)を得た。
【0040】
・PBT(ポリブチレンテレフタレート)
主成分となるポリエステルとして、ジカルボン酸成分がテレフタル酸ジメチル、グリコール成分が1,4-ブタンジオールのものを用いて常法により重合し、Mw:15600,Mn:5200の、融点220℃のポリエステル樹脂(PBT)を得た。
【0041】
・PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)
主成分となるポリエステルとして、ジカルボン酸成分がテレフタル酸ジメチル、グリコール成分が1,3-プロパンジオールのものを用いて常法により重合し、Mw:14800,Mn:5800の、融点225℃のポリエステル樹脂(PTT)を得た。
【0042】
[実施例1]
表1に記載の構成成分の種類と量になるように、PET-Iを50質量%、PBTを50質量%とをブレンドしながら煮沸水中で3時間処理して表面を結晶化させた後、125℃で24時間真空乾燥した。その後、押出機に供給して240℃で溶融し、T型口金よりシート状に静電印加法により25℃ のキャスティングドラム上に密着冷却固化せしめ、未延伸フィルムを得た。次いで、未延伸フィルムを85℃に加熱して長手方向に3.5倍延伸した。次いで90℃に加熱して幅方向に3.7倍に延伸後、100℃で5秒間熱処理を施し、冷却して1.7μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0043】
得られたフィルムに酢酸ビニルを接着剤としてマニラ麻を原料とする天然繊維100%の繊維目付量10g/m2の和紙と貼り合わせて感熱孔版印刷用原紙を作製した。なお接着剤塗布量は1g/m2とした。前記した方法に基づき穿孔テスト、カールの評価を実施し、結果を得られたフィルムの特性と共に表1に示した。
[実施例2~11、比較例1~4]
実施例1におけるMw,Mnを変更した原料種および、混合比率を変更しポリエステルフィルムの最終厚みを表1に示すように変更するほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
[評価結果のまとめ]
実施例1~11は、Mw/Mnが好適な範囲にあり、穿孔感度、穿孔のばらつき、カール性に優れたフィルムであった。
【0044】
比較例1~4は、実施例1の混合比率を変更したことにより、穿孔感度、穿孔のばらつき、カールのいずれかが不十分であった。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のポリエステルフィルムは、感熱孔版原紙用に使用できるが、その応用範囲がこれに限られるものではない。