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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】衣類および衣類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41H 27/00 20060101AFI20240611BHJP
   A41D 27/00 20060101ALI20240611BHJP
   A41H 43/04 20060101ALI20240611BHJP
   A41B 9/06 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A41H27/00
A41D27/00 A
A41H43/04 Z
A41B9/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020130355
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026748
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 卓充
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕邦
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-040710(JP,U)
【文献】特開2018-119255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41H27/00
A41D27/00
A41H43/04
A41B9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する生地で構成され、前記生地の端部を2回折り返して三重構造に構成された接合部からなる開口部を有する衣類であって、
前記接合部は、
前記生地の端部に位置し、前記三重構造の中間に位置する第1の折り返し領域と、
前記第1の折り返し領域に連接し、前記三重構造の外側に位置する第2の折り返し領域と、
前記第2の折り返し領域に連接し、前記三重構造の外側に位置する第3の領域と、
単列または複列状に断続的に付設され、前記第1の折り返し領域と前記第2の折り返し領域とを固着する第1の接着剤と、
単列または複列状に断続的に付設され、前記第1の折り返し領域と前記第3の領域とを固着する第2の接着剤と、
を備え、
前記接合部を平面視で透過視した際、前記第1の接着剤および前記第2の接着剤が付設された領域のうち、前記第1の接着剤または前記第2の接着剤が固着していない面積の割合が50%以上である衣類。
【請求項2】
前記接合部の長手方向の50%伸張時の応力と、前記生地の前記接合部の長手方向と平行な方向の50%伸張時の応力との差が50%以内である請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記第1の接着剤の付設パターンと前記第2の接着剤の付設パターンが同一であり、前記接合部を透過視した際に同じ位置に付設されている請求項1または2に記載の衣類。
【請求項4】
前記第1の折り返し領域の生地端が、折返しで得られる前記第2の折り返し領域と前記第3の領域の境界線に接している請求項1から3のいずれか1つに記載の衣類。
【請求項5】
第1の折り返し領域に連接する第2の折り返し領域の折り返し側の面の生地の端部に平行に、単列または複列状に断続的に第1の接着剤を塗布する工程と、
前記第1の折り返し領域を折り返し、前記第1の折り返し領域と前記第2の折り返し領域とを折り重ねる工程と、
前記第1の折り返し領域の折り返し側の面と反対側の面の生地の端部に平行に、単列または複列状に断続的に第2の接着剤を塗布する工程と、
前記第2の折り返し領域を折り返し、前記第1の折り返し領域と前記第3の領域とを折り重ねる工程と、
前記第1の接着剤で前記第1の折り返し領域と前記第2の折り返し領域とを固着するとともに、前記第2の接着剤で前記第1の折り返し領域と前記第3の領域とを固着する工程と、
を含む
請求項3に記載の衣類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を使用して構成した衣類および衣類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンを使用して生地どうしを縫製する代わりに接着剤によって衣類の生地端の部分を接合して構成する技術が知られている。例えば特許文献1には、水着の裾部など表生地を折り返す場合、ホットメルトシートを接着して構成する技術が提案されている。
また、特許文献2には、衣類の生地端を折り返した部分の先端部分を更に内側に折り返して生地の裁ち端が見えないようにした態様とし、更に伸縮性を阻害することがないように熱可塑性エラストマー樹脂層を挟んで接着することで生地端部分を構成した衣類が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-264394号公報
【文献】実開平7-40710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、図12(a)に示すように、生地Aの端部領域Cを一度折り返しただけであるため、生地の裁ち端が露出したままとなり、着用や洗濯を繰り返すことで裁ち端のほつれが進行して見栄えが悪くなるものであるとともに、ホットメルトシートTで面状に接着されていることで生地の伸縮性が阻害され、生地本来の伸縮性に比べてつっぱり感が出やすく風合いの悪いものであった。
また、特許文献2で提案された衣類は、図12(b)に示すように、生地Aの端部領域Cを折り返した部分の先端部分を更に内側に折り返して三重構造とし、裁ち端が見えないようにしているため、着用や洗濯後の見栄えが良いものである。しかしながら、生地の伸縮性を阻害することがないように使用している熱可塑性エラストマー樹脂T’は、一般的な接着樹脂に比べて高価であるとともに、生地Aと熱可塑性エラストマー樹脂T’とを積層して面状に接着していることから生地端がフィルムのように固まって生地のしなやかさが失われ、風合いの悪いものであった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、着用や洗濯による見栄えの低下を防止するために生地の裁ち端を露出させないよう構成し、生地と接着剤とを積層して接合しても生地のしなやかさや伸縮性を失わずに風合いの良い開口部を有する衣類および衣類の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る衣類は、伸縮性を有する生地で構成され、生地の端部を2回折り返して三重構造に構成された接合部からなる開口部を有する衣類であって、前記接合部は、生地の端部に位置し、前記三重構造の中間に位置する第1の折り返し領域と、前記第1の折返し領域に連接し、前記三重構造の外側に位置する第2の折り返し領域と、前記第2の折り返し領域に連接し、前記三重構造の外側に位置する第3の領域と、単列または複列状に断続的に付設され、前記第1の折り返し領域と前記第2の折り返し領域とを固着する第1の接着剤と、単列または複列状に断続的に付設され、前記第1の折り返し領域と前記第3の領域とを固着する第2の接着剤と、を備え、前記接合部を平面視で透過視した際、前記第1の接着剤および前記第2の接着剤が付設された領域のうち、前記第1の接着剤または前記第2の接着剤が固着していない面積の割合が50%以上である。
【0007】
また、本発明に係る衣類は、上記発明において前記接合部の長手方向の50%伸張時の応力と、前記生地の前記接合部の長手方向と平行な方向の50%伸張時の応力との差が50%以内である。
また、本発明に係る衣類は、上記発明において、前記第1の接着剤の付設パターンと前記第2の接着剤の付設パターンが同一であり、前記接合部を透過視した際に同じ位置に付設されている。
また、本発明に係る衣類は、上記発明において、前記第1の折り返し領域の生地端が、折返しで得られる前記第2の折り返し領域と前記第3の領域の境界線に接している。
【0008】
また、本発明に係る衣類の製造方法は、第1の折返し領域に連接する第2の折り返し領域の折り返し側の面の生地の端部に平行に、単列または複列状に断続的に第1の接着剤を塗布する工程と、前記第1の折り返し領域を折り返し、前記第1の折り返し領域と前記第2の折り返し領域とを折り重ねる工程と、前記第1の折り返し領域の折り返し側の面と反対側の面の生地の端部に平行に、単列または複列状に断続的に第2の接着剤を塗布する工程と、前記第2の折り返し領域を折り返し、前記第1の折り返し領域と前記第2の折返し領域に連接する第3の領域とを折り重ねる工程と、前記第1の接着剤で前記第1の折返し領域と前記第2の折返し領域とを固着するとともに、前記第2の接着剤で前記第1の折返し領域と前記第3の領域とを固着するとともに前記第2の接着剤で固着する工程と、を含む上記に記載の衣類の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着剤を用いて衣類開口部の生地端を接合して構成するときでも、見栄えが良く、生地のしなやかさや伸縮性を失わずに風合いの柔らかい衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態1を示す平面図である。
図2図2は、実施の形態1に係る衣類の構成を示す断面図である。
図3図3は、図3は、実施の形態1に係る衣類の開口部を構成する順序を示す断面図である。
図4図4は、実施の形態1に係る衣類の構成を示す透過視した平面図と断面図である。
図5図5は、実施の形態1に係る衣類の構成を示す透過視した平面図と断面図である。
図6図6は、実施の形態1に係る衣類の構成を示す透過視した平面図と断面図である。
図7図7は、実施の形態1に係る衣類の構成を示す透過視した平面図と断面図である。
図8図8は、本発明の比較例を示す透過視した平面図と側面図である。
図9図9は、本発明の比較例を示す透過視した平面図と側面図である。
図10図10は、本末明の比較例を示す透過視した平面図と側面図である。
図11図11は、本発明の実施の形態2を示すものである。
図12図12は、従来の技術の衣類を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という」)を説明する。なお、図面はあくまでも模式的なものである。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る衣類1を模式的に示す平面図である。同図に示す衣類1は、半袖肌着の上衣の一例であり、頭、腕、胴体を通過させる開口部2、3、4を有する。
衣類1は、伸縮性を有する生地からなる。たとえば、一般の衣料用素材として提供される丸編や経編等の編物素材は本発明の実施に必要な伸縮性があり限定されるものではない。また、織物素材であっても、衣料用に伸縮性を持つ素材は本発明に好適である。衣類1としては、一般的な肌着やカップ付きインナーの他、キャミソールやタンクトップといったインナーウェアに適用することができ好適である。また、Tシャツやカットソーなどのアウターウェアの素材に適用することができ、限定されるものではない。
【0013】
図2は、実施の形態1に係る衣類1の構成を示す断面図であり、図3は、実施の形態1に係る衣類1の開口部を構成する順序を(a)から(c)の順に断面図で示すものあり、図4は、実施の形態1に係る衣類1の開口部を透過視で示す平面図とその断面図とを示すものである。
【0014】
本発明の衣類1は、生地の端部を2回折り返して三重構造に構成された接合部からなる開口部を有する。接合部は、生地の端部に位置し、三重構造の中間に位置する第1の折り返し領域C1と、第1の折返し領域C1に連接し、三重構造の外側に位置する第2の折り返し領域C2と、第2の折り返し領域C2に連接し、三重構造の外側に位置する第3の領域C3と、2列かつ断続的に付設され、第1の折り返し領域C1と第2の折り返し領域C2とを固着する第1の接着剤B1と、2列かつ断続的に付設され、第1の折り返し領域C1と第3の領域C3とを固着する第2の接着剤B2と、を備える。また、接合部を平面視で透過視した際、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設される領域のうち、第1の接着剤または第2の接着剤が固着していない面積の割合が50%以上である。
衣類1の接合部は、生地の端部Eが三重構造の内側に折り込まれるため見えなくなり、衣類1の着用と洗濯を繰り返しても生地の端部Eのほつれが目立たない見栄えの良い衣類が得られる。また、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設される領域において、第1の接着剤または第2の接着剤が固着していない部分があることにより生地のしなやかさや伸縮性を失わずに風合いの良い開口部の衣類を得ることができる。
【0015】
接合部の幅は、一般的な衣類を構成するために必要な縫い代や折り代の幅であれば良く、例えば衣類1の袖口や裾口の開口部3および4においては、10~30mm程度の折返し量が考えられるが、曲線で構成される衿口の開口部2においては、折り返す幅が大きすぎると曲線の内外周差の影響で引き吊れが発生するため、3mm~10mm程度に小さくしておくことが好ましい。
【0016】
第1の接着剤B1および第2の接着剤B2は、断続的に塗布された形態で、単列または複列に配置されている。第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の大きさは、衣類1を構成する生地Aの組織や厚さによって好ましい大きさが異なる。直径が1.0~2.0mm程度のドット状の形態であれば比較的強い接着強力が得られやすいが、生地Aが薄い場合は生地Aの表側にしみ出して目立ってしまい、外観を損ねる場合があるため、必要な接着強力が得られる範囲内で小さいものが好ましい。例えば、生地Aの厚みが0.5~0.8mm程度のインナー生地の場合、直径が0.6~1.0mm程度であれば生地Aの表側に第1の接着剤B1および第2の接着剤B2がしみ出しにくく好ましい。生地Aの厚みが0.3~0.5mm程度の更に薄い生地の場合、直径が0.3~0.6mm程度であれば、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2のしみ出しが目立ちにくく好ましい。
【0017】
衣類1において、図4に示すように、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2は円の形状であるが、これに限定されるものではない。第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が断続的に分離した状態で繰り返し付設させられる形状であれば良く、連続しなければ線状であってもよく、三角、四角、楕円等の幾何学的な形状のものでも良いし、それらを組み合わせた形状であっても良い。
【0018】
第1の接着剤B1および第2の接着剤B2を構成する樹脂は、天然樹脂よりも合成樹脂の方が好ましく、その中でも熱可塑性樹脂がより好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの他、高分子化合物からなるものであれば特に限定されず、種々のものを用いることができる。
【0019】
第1の接着剤B1および第2の接着剤B2を構成する樹脂は、反応性ホットメルトであることが好ましい。樹脂が反応性ホットメルトであるとき、樹脂が軟化または溶融して接着部位の構造間に浸み込んで、冷却固化した後に周囲の湿気と反応することにより架橋が進行し、耐熱性および耐溶剤性などに優れた接合部を形成することができるとともに、ドット状に付設した少量の接着剤でも強力な接着強力を得ることができる。樹脂の特性として生地に固着した後に弾力性を有する樹脂を使用すると、更に生地のしなやかさや伸縮性を失わずに風合いの良い衣類を得ることができる。
【0020】
本発明の衣類1は、接合部を平面視で透過視した際、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設される領域のうち、第1の接着剤または第2の接着剤が固着していない面積の割合が50%以上であることが重要である。好ましくは60%以上である。上限は特に設けないが、割合が大きくなるに従って接合部の剥離強力が弱くなる傾向にあるため、繰り返しの着用と洗濯に耐える接合部を得るためには概ね90%以下であると良い。
【0021】
衣類1では、図4に示すように、第1の接着剤B1の付設パターンと第2の接着剤B2の付設パターンが同一であり、接合部を透過視した際に、第1の接着剤B1と第2の接着剤Bは、同じ位置に付設されている。本明細書において、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設される領域(接着剤付設領域)Mとは、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設された領域であり、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設される最外幅Wと、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が断続的に付設された繰り返しピッチLとの積で表される面積(M=W×L)のことを意味している。第1の接着剤B1と第2の接着剤B2の径は非常に小さく、また、ピッチがランダムである等の理由により、ピッチの特定が困難な場合には、長さLを3cmとして、その間に付設された接着剤の個数からピッチの平均を算出して図4から図10に記載するようなモデル図を描き、また接着剤の直径についても当該3cm間に付設された接着剤の直径を実測して平均を算出してモデル図に描き、接着剤付設領域を算出する。このとき、接着剤の塗布位置や直径の実測にあたっては、固着された第1の折返し領域C1、第2の折返し領域C2および第3の領域C3を魚の三枚おろしのようにカミソリで切り開いて分離することで実測する。こうすることで、第1の接着剤B1の繰り返しピッチL1と第2の接着剤B2の繰り返しピッチL2が異なる場合でも、それぞれの実測値から得られる正確なモデル図を描き、接着剤付設領域を算出する。
【0022】
また、図5に示すように、第1の接着剤B1の付設パターンと第2の接着剤B2の付設パターンが同一であるが、接合部を透過視した際に第1の接着剤B1と第2の接着剤B2が長手方向に相対的にずれて付設される場合もある。係る場合は、接着剤付設領域Mは、図4の場合と同様に、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が付設された最外幅Wと、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が断続的に付設された繰り返しピッチLとの積で算出すればよい。この場合にも、ピッチの特定が困難な場合には、長さLを3cmとして、接着剤付設領域を算出する。
一方、図6に示すように、第1の接着剤B1の付設パターンと第2の接着剤B2の付設パターンが同一であるが、接合部を透過視した際に第1の接着剤B1と第2の接着剤B2が幅方向に相対的にずれて付設される場合もある。係る場合は、第1の接着剤B1と接着剤B2を透過視して得られる接合部の最大幅がWとなる。
【0023】
他方、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の固着面積は、平面視した際の形状から算出することができる。実施の形態1においては、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2は、略円形であるため、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の直径(略円形における最大径)と個数とから固着面積を算出することができる。第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の付設位置が相対的にずれた場合も、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の直径、ズレ量、および個数とから算出することができる。
【0024】
上記したように、この接着剤付設領域Mの内、第1の接着剤B1または第2の接着剤B2で固着されていない面積の割合が50%以上であることが重要である。図2に示すように、接合部の三重構造の内側に位置する第1の折返し領域C1は、第1の接着剤B1と第2の接着剤B2とにより両側から第2の折り返し領域C2および第3の領域C3とそれぞれ固着されるため、三重構造の外側の第2の折り返し領域C2および第3の領域C3にくらべて伸縮性を阻害されやすくなる。
例えば図9に示すように、第1の接着剤B1の付設パターンと第2の接着剤B2の付設パターンが同一であるが、第1の接着剤B1と第2の接着剤B2の付設位置が長手方向に大きくズレた場合、三重構造の内側に位置する第1の折り返し領域C1は、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が長手方向に連続して固着されたような状態となる。これにより、従来技術のテープ状接着剤の場合と同様に接合部の長手方向の伸縮性が阻害されやすくなり本発明の効果を得られにくくなる。このような場合、接着剤付設領域の最外幅Wと繰り返しピッチLは変わらないため、接着剤付設領域Mの内、第1の接着剤B1または第2の接着剤B2で固着されていない面積の割合が低下する状態となる。図9に示す例では、第1の折り返し領域C1が、第1の接着剤B1または第2の接着剤B2で長手方向に連続して固着されている状態であり、接着剤付設領域M内で第1の接着剤B1または第2の接着剤B2で固着されていない面積の割合が47.7%と小さく、接合部の長手方向の伸縮性が低下するが、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が長手方向に連続して固着されず、隙間があくようになると、接着剤付設領域M内で第1の接着剤B1または第2の接着剤B2で固着されていない面積の割合が大きくなり、これに伴い接合部の長手方向の伸縮性が発現しやすくなり、本発明の効果を得られやすくなる。すなわち本発明の衣類1では、接着剤付設領域Mの内、第1の接着剤B1または第2の接着剤B2で固着されていない面積の割合を50%以上とすることで、生地のしなやかさや伸縮性を失わずに風合いの良い開口部とすることができる。
【0025】
他方、例えば図6に示すように、第1の接着剤B1の付設パターンと第2の接着剤B2の付設パターンが同一であるが、第1の接着剤B1と第2の接着剤B2の付設位置が幅方向に大きくズレた場合、図9に示す例のように第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が長手方向に連続して固着されたような状態とはならず、生地の長手方向の伸縮性は比較的阻害されにくくなる。図6の例では、接着剤付設領域Mの内、第1の接着剤B1と第2の接着剤B2の面積の割合が大きくなるが、接着剤付設領域Mの幅Wも大きくなるため、接着剤付設領域Mの内、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の固着されていない部分の面積を50%以上で構成することができる。すなわち、本発明の効果を得ることができる。
【0026】
本発明の衣類1は、接合部の長手方向10(図4参照)の50%伸張時の応力と、生地の接合部の長手方向と平行な方向11(図4参照)の50%伸張時の応力との差が50%以内であることが好ましい。そうすることにより、実際に触れ、接合部を引き延ばしたときに伸びにくい部分として感じることが少なく、風合いの良い衣類を得ることができる。さらに好ましくは50%伸長時の応力の差を25%以内とすることが良く、より好ましくは、20%以内であるよう構成する。
一般的に衣料用素材の伸張率を表す指標としては1.5kg荷重時の伸張率で伸長特性を表すことが多いが、実際に衣類を着用したり、風合いを見る時にはそこまでの伸張負荷がかかるのはまれである。実際の風合いをハンドフィーリングで感じる場合は、50%程度の伸長負荷がかかることから、この領域での応力の差を上記の範囲とすることが好ましい。
【0027】
50%伸長時の応力を比較するに際し、生地単体の伸張の方向は、図4に示すように、比較する接合部の長手方向10と平行な方向11に伸張させる。すなわち、伸長方向は必ずしも生地の経方向や緯方向とは限らない。衣類1を構成する生地の裁断形状や生地取りの方向によって異なってくる。
50%伸張時の応力の測定方法は、JIS-L-1096(2010)に記載された伸び率のグラブ法に準じて行う。衣類1のデザインによって所望の大きさの試料が採取できない場合は、試料の大きさを幅5cm、長さ10cmに小さくし、つかみ間隔を5cmとして測定しても良い。接合部の応力測定では、接合部と接合部につながる生地領域とを合わせて試料を採取すれば良く、引っ張り試験機でつかむ時、接合部が掴めていることが重要であり、可能な限り、つかみの端と折り返しの端が一致する位置で試料をつかんで試験する。
【0028】
本発明の衣類1は、上述したように、接合部を平面視で透過視した際、第1の接着剤および第2の接着剤が付設される領域(接着剤付設領域)Mのうち、第1の接着剤B1または第2の接着剤B2が固着していない面積の割合が50%以上であることが重要である。そうすることにより、接合部の長手方向10の50%伸張時の応力と、生地の接合部と平行な方向11の50%伸張時の応力との差を50%以内に収めやすくなり、風合いを良くすることができる。
【0029】
本発明の衣類1は、第1の接着剤B1の付設パターンと第2の接着剤B2の付設パターンが同一である。三重構造となる衣類1の開口部を生地のだぶつきなく固着するためには、第1の接着剤B1と第2の接着剤B2とにより第1の折り返し領域C1と第2の折り返し領域C2、および第1の折り返し領域と第3の領域C3とをそれぞれ固着することが必要であるが、必ずしも両者が同一のパターンである必要はない。例えば、第1の接着剤B1が単列で塗布され、第2の接着剤B2が複列で塗布されても良く、繰り返しピッチが異なるものでも、径が異なるものでもよい。しかしながら、第1の接着剤B1と第2の接着剤B2の付設パターンが異なると、接着剤と生地が積層されて厚みの出る部分とそうでない部分とが不定型に発生して違和感のある凹凸感となりやすいことから、付設パターンは同一であることが好ましい。また、製造工程を簡略化する意味でも付設パターンは同一であることが好ましい。
【0030】
本発明の衣類1は、第1の折り返し領域C1の生地の端部Eが、折返しで得られる第2の折り返し領域C2と第3の領域C3の境界線である折れ線Fの内側に接していることが好ましい。生地の端部Eを折返しの内側に折り込むためには2回折り返す必要があるが、必ずしも2回の折返し幅、すなわち第1の折り返し領域C1と第2の折返し領域の幅を同一にする必要はない。例えば、第1の折返し領域C1よりも第2の折返し領域C2の幅を大きくしてもよい。しかしながら、第1の折返し領域C1と第2の折返し領域C2の幅が異なると、接合部中に三層構造と2層構造になる部分が発生して違和感のある凹凸感となりやすいことから、第1の折返し領域C1と第2の折返し領域C2の幅は同じであることが好ましい。すなわち、生地の端部Eが、折返しで得られる生地の折れ線Fの内側に接していることが好ましい。
更に、本発明の衣類1のように、接合部中に第1の接着剤B1および第2の接着剤B2で固着された部分と固着されていない部分とがある接合部の生地の端部Eにおいては、端部Eから繊維束が自由端となり、この繊維束から繊維屑や埃が脱落して見栄えが悪くなる場合がある。生地の端部Eが、折返しで得られる生地の折れ線Fの内側に接していることで、生地の端部Eのほつれの進行が抑えられ、繊維屑の脱落・埃の発生が抑えられる効果があり好ましい。
【0031】
次に、本発明の衣類1の製造方法について説明する。衣類1は、生地の端部に位置する第1の折返し領域C1、または第1の折返し領域C1に連接する第2の折り返し領域C2の折り返し側の面A1上の生地の端部に平行に、単列または複列状に断続的に第1の接着剤B1を塗布する工程と、第1の折り返し領域C1を折り返し、第1の折り返し領域C1と第2の折り返し領域C2とを折り重ねる工程と、第1の折り返し領域C1の折り返し側の面A1と反対側の面A2上、または第2の折返し領域C2に連接する第3の領域C3の折返し側の面A1上の生地の端部に平行に、単列または複列状に断続的に第2の接着剤B2を塗布する工程と、第2の折り返し領域C2を折り返し、第1の折り返し領域C1と第3の領域C3とを折り重ねる工程と、第1の接着剤B1で第1の折返し領域C1と第2の折返し領域C2とを固着するとともに、第2の接着剤B2で第1の折返し領域C1と第3の領域C3とを固着する工程と、により製造される。
【0032】
第1の接着剤B1は、第1の折返し領域C1、または第2の折り返し領域C2に塗布することができるが、第2の接着剤B2を第1の接着剤B2と同じ付設パターンとし、同じ位置に付設する場合は、図3(a)に示すように、第2の折返し領域C2に塗布することが好ましい。第1の接着剤B1を第2の折り返し領域C2に塗布することにより、開口部を正確に構成しやすくなり、本発明の効果を得やすくなる。第1の接着剤B1を第1の折返し領域C1上の生地の端部Eに平行に塗布した場合、開口部が衿ぐりなどの曲線で構成されていると曲線の内外周差により生地の端部が引き広げられて二つ折りされることになり、断続的に塗布した第1の接着剤B1の間隔も引き広げられる。したがって、その後第1の接着剤B1と同じ付設パターンの第2の接着剤B2を塗布する場合に、第1の接着剤B1と同じ位置に塗布することが困難になるためである。第2の接着剤B2を第1の接着剤B2と同じ付設パターンとし、同じ位置に付設する場合、生地の端部Eとの間に距離を有する第2の折返し領域C2に第1の接着剤B1を塗布することにより、第1の接着剤B1と同じ位置に第2の接着剤B2を塗布しやすくなる。
【0033】
第1の折り返し領域C1と第2の折り返し領域C2、および第1の折り返し領域C1と第3の領域C3とを、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2でそれぞれ固着する工程は、熱プレスで行うことが好適である。固着工程は、一般的な衣料生産で用いられる平板型プレス機やローラー型プレス機を用いることができる。プレス温度は、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が軟化・溶融して生地に浸透する温度であればよく、70~160℃程度が好適である。プレス圧力は軟化・溶融した第1の接着剤B1および第2の接着剤B2が生地に浸透する程度の加圧力があれば良く、実圧力で0.01~0.4MPa程度が好適である。
【0034】
(実施の形態2)
図11は、実施の形態2に係る衣類の形態を示す図である。同図に示す衣類5は、ショーツなど肌着の下衣の一例であり、胴体を通過させる開口部6、両脚を通過させる開口部7を有する。実施の形態2においても、実施の形態1と同様の考え方で本発明の効果を得ることができることは言うまでもない。
【0035】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によって限定されるべきものではない。例えば、帽子やはちまきやマスクなどの頭部に身につけるものであったり、腕カバーやネックウォーマーやサポーターや腹巻きなどの筒状の身につけるものであったり、エプロンやマフラーなどの身体の一部を覆うものなど、身につけるテキスタイル製品の開口部の接合部に適用することができる。
【実施例
【0036】
(実施例1)
図1に示すような一般的な肌着として、ナイロン84%ポリウレタン16%のベア天竺素材で構成する衣類1を作製した。衣類1の衿ぐりの開口部2について、第1の折返し領域C1、第2の折返し領域C2、および第3の領域C3の幅を各6mmとして三重構造の接合部を形成した。また、接合部は、図3に示すように、第2の折返し領域C2の折返し側の面A1に生地の端部に平行に直径0.8mm(接着後に直径1.0mm)のドット状の第1の接着剤B1を塗布し、第1の折り返し領域C1を折り返した。この時、第1の接着剤B1は2列に付設し、列の中心どうしの間隔は2.0mmとし、列の長手方向のピッチも2.0mmとした。第1の接着剤は反応性ポリウレタンホットメルト樹脂を使用した。次いで、折り返した第1の折返し領域C1の折返し側の面と反対側の面A2に第2の接着剤B2を塗布し、第2の折返し領域を折り返し、三重構造の接合部を有する開口部2とした。第2の接着剤B2は、図4に示すように、第1の接着剤B1と同じ大きさ、同じ樹脂、同じ付設パターンで、透過視で第1の接着剤B1と同じ位置に塗布した。次いで、平板型接着プレスにおいて加熱・加圧接着プレスを行い、本発明の実施例1の試験片を得た。実施例1では、接着剤付設領域Mの幅Wは3.0mm、ピッチLは2.0mmである。なお、接着剤としては、120℃の粘度が約12,000mPa・sの反応型ホットメルトPU樹脂を使用した。得られた試験片について、接合部と生地との50%伸長時の応力差、接合部のつっぱり感と風合いについて評価した。結果を表1に示す。接合部のつっぱり感と風合いについては、しなやかでつっぱり感が気にならないものを○とし、しなやかさとつっぱり感が気になる場合を×として表した。
【0037】
(実施例2)
図5に示すように、第2の接着剤B2の付設位置を、第1の接着剤B1の付設位置から長手方向にずらして付設した。接着剤の直径の3分の1の長さ分ずらして塗布したこと以外は、実施例1と同じ方法で実施例2の試験片を得た。実施例2では、接着剤付設領域Mの幅Wは3.0mm、ピッチLは2.0mmである。
【0038】
(実施例3)
図5に示すように、第2の接着剤B2の付設位置を、第1の接着剤B1の付設位置から長手方向にずらして付設した。接着剤の直径の2分の1の長さ分ずらして塗布したこと以外は、実施例1と同じ方法で実施例3の試験片を得た。実施例3では、接着剤付設領域Mの幅Wは3.0mm、ピッチLは2.0mmである。
【0039】
(実施例4)
図6に示すように、第2の接着剤B2の付設位置を、第1の接着剤B1の付設位置から幅方向にずらして付設した。接着剤の直径の2分の1の長さ分ずらして塗布した。このとき、透過視した接着剤付設領域Mの幅Wは3.5mmであった。それ以外は、実施例1と同じ方法で実施例4の試験片を得た。実施例4では、接着剤付設領域Mの幅Wは3.5mm、ピッチLは2.0mmである。
【0040】
(実施例5)
図7に示すように、第2の接着剤B2の付設位置を、第1の接着剤B1の付設位置から長手方向に接着剤の直径と同じ長さ分ずらし、かつ幅方向にも接着剤の直径の長さ分ずらして塗布した。このとき、透過視した接着剤付設領域Mの幅Wは4.0mmであった。それ以外は、実施例1と同じ方法で実施例5の試験片を得た。実施例5では、接着剤付設領域Mの幅Wは4.0mm、ピッチLは2.0mmである。
【0041】
(比較例1)
図8に示すように、接着剤としてホットメルトテープT1およびT2を使用して三重構造の接合部としたこと以外は、実施例1と同じ方法で比較例1の試験片を得た。比較例1では、接着剤付設領域Mの幅Wは3.0mm、ピッチLは30.0mmである。
【0042】
(比較例2)
図9に示すように、第2の接着剤B2の付設位置を、第1の接着剤B1の付設位置から長手方向に接着剤の直径の長さ分ずらして塗布したこと以外は、実施例1と同じ方法で比較例2の試験片を得た。比較例2では、接着剤付設領域Mの幅Wは3.0mm、ピッチLは2.0mmである。
【0043】
(比較例3)
図10に示すように、第1の接着剤B1および第2の接着剤B2の直径を1.4mm(接着後に直径1.5mm)とし、列の中心どうしの間隔を1.5mmとし、列の長手方向のピッチも1.5mmとした。透過視した接着剤付設領域Mの幅Wは3.0mmであった。長手方向の接着剤の繰り返しピッチLは1.5mmであった。それ以外は、実施例1と同じ方法で比較例3の試験片を得た。
【0044】
上述したように得た実施例と比較例について評価を行い、結果を表1に示した。
接合部の平面視において、第1の接着剤および第2の接着剤が付設される領域を透過視した面積(接着剤付設領域M)の内、第1の接着剤B1または第2の接着剤B2が固着していない面積の割合については、接着剤付設領域の空隙率として表した。また 表1から明らかなように、本発明の実施例は、接着剤付設領域Mの空隙率が50%以上であることで、生地のしなやかさを失わず良好な風合いが得られることがわかる。これに対し、比較例では、接着剤付設領域の空隙率が50%未満であることから、生地のしなやかさを失われ、つっぱり感が感じられる結果となった。
【0045】
【表1】
【符号の説明】
【0046】
1 衣類
2 頭を通す開口部
3 腕を通す開口部
4 胴体を通す開口部
5 衣類
10 接合部の長手方向
11 接合部の長手方向と平行な方向
A 生地
A1、A2 生地の面
B1 第1の接着剤
B2 第2の接着剤
C1 第1の折返し領域
C2 第2の折返し領域
C3 第3の領域
T、T1、T2 ホットメルトテープ
T’ 熱可塑性エラストマー樹脂
E 生地の端部
F 折れ線
W 接着剤付設領域の幅
L 接着剤付設領域の長さ(接着剤の長手方向のピッチ)
M 接着剤付設領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12