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特許7501244光ファイバ歪み測定装置及び波長制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】光ファイバ歪み測定装置及び波長制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020147375
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042130
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岩村 英志
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054551(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0136016(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01D 5/26-5/38
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変波長光源を備え、プローブ光を生成する光源部と、
前記プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方散乱光が入力され、前
記後方散乱光に含まれる後方ブリルアン散乱光を出力する波長制御部と、
前記後方ブリルアン散乱光が入力され、測定信号を生成する自己遅延干渉計と、
前記測定信号から、前記光ファイバの歪みデータを含む計測結果データを生成する信号
処理部と
を備え、
前記波長制御部は、波長分離フィルタ、光カプラ、光強度測定部及び制御手段を備え、
前記波長分離フィルタは、前記後方散乱に含まれるレイリー散乱光を遮断して前記後方
ブリルアン散乱光を透過させ、
前記光カプラは、前記波長分離フィルタを透過した後方ブリルアン散乱光を2分岐して
一方を、前記自己遅延干渉計に送り、他方を前記光強度測定部に送り、
前記光強度測定部は、前記2分岐された他方の後方ブリルアン散乱光の強度を測定し、
前記制御手段は、前記ブリルアン散乱光の強度の変化量、及び、増減に応じて、前記可
変波長光源の波長を変化させる
ことを特徴とする光ファイバ歪み測定装置。
【請求項2】
前記光カプラは、前記波長分離フィルタを透過した後方ブリルアン散乱光を異なる強度に2分岐して、強度の大きい光を前記自己遅延干渉計に送り、強度の小さい光を前記光強度測定部に送る
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ歪み測定装置。
【請求項3】
前記自己遅延干渉計は、
前記後方ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する分岐部と、
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に設けられた、ビート周波数の周波数シフトを与える光周波数シフタ部と、
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に設けられた遅延部と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する合波部と、
前記合波光をヘテロダイン検波して差周波を第1電気信号として出力するコヒーレント検波部と、
前記第1電気信号と同じ周波数を持つ第2電気信号を生成する局発電気信号源と、
前記第1電気信号と前記第2電気信号とをホモダイン検波して、差周波を位相差信号として出力するミキサー部と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ歪み測定装置。
【請求項4】
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に偏波コントローラが設けられ、
前記コヒーレント検波部の出力が最大となるように偏波が制御される
ことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ歪み測定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバ歪み測定装置で行われる、前記可変波長光源の波長制御方法であって、
後方ブリルアン散乱光の強度の変化量の絶対値が、所定の閾値を超えているか否かを判定する第1過程と、
前記第1過程における判定において、所定の閾値を超えている場合に、強度の変化が、正の変化であるか否かを判定する第2過程と、
前記第2過程における判定において、正の変化である場合、前記可変波長光源の波長を短波長側に所定の大きさだけ変化させる第3過程と、
前記第2過程における判定において、負の変化である場合、前記可変波長光源の波長を
長波長側に前記所定の大きさだけ変化させる第4過程と、
を備え、
前記第3過程又は前記第4過程に続いて前記第1過程を行い、
前記第1過程での判定の結果、後方ブリルアン散乱光の強度の変化量の絶対値が所定の閾値以下になるまで、前記第1過程、前記第2過程、並びに、前記第3過程及び前記第4過程のいずれか一方を、繰り返し行う
ことを特徴とする波長制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、後方ブリルアン散乱光を用いた光ファイバ歪み測定装置、及び、光ファイバ歪み測定装置で行われる波長制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信の発展とともに、光ファイバ自体をセンシング媒体とする分布型光ファイバセンシングが盛んに研究されている。特に、散乱光を利用する光ファイバセンシングは、点ごとに計測する電気センサとは異なり、長距離の分布としてのセンシングが可能であるため、被測定対象全体の物理量を計測することができる。
【0003】
分布型光ファイバセンシングでは、光ファイバの片端から光パルス(プローブ光)を入射し、光ファイバ中で後方散乱された光をプローブ光入射からの経過時間に対して測定する時間領域リフレクトメトリ(OTDR:Optical Time Domain Reflectmetry)が代表的である。
【0004】
光ファイバ中の後方散乱には、レイリー散乱、ブリルアン散乱及びラマン散乱がある。OTDRの測定対象として自然ブリルアン散乱を用いるものは、ブリルアンOTDR(BOTDR:Brillouin OTDR)と呼ばれる(例えば、非特許文献1参照)。なお、以後の説明において、自然ブリルアン散乱を単にブリルアン散乱と表記することもある。
【0005】
ブリルアン散乱は、光ファイバに入射されるプローブ光の中心周波数に対して、ストークス側及び反ストークス側に数GHz程度周波数シフトした周波数として観測さる。ブリルアン散乱のスペクトルはブリルアン利得スペクトル(BGS:Brillouin Gain Spectrum)と呼ばれる。BGSの周波数シフト量及びスペクトル線幅は、それぞれブリルアン周波数シフト(BFS:Brillouin Frequency
Shift)及びブリルアン線幅と呼ばれる。BFS及びブリルアン線幅は、光ファイバの材質及び光ファイバに入射されるプローブ光の波長(周波数)によって異なる。例えば、石英系のシングルモード光ファイバに波長1.55μmのプローブ光を入射した場合、BFSは約11GHz、ブリルアン線幅は約30MHzとなる。
【0006】
BFSは、光ファイバの歪みに対して500MHz/%程度の割合で線形に変化することが知られている。これを引っ張り歪み及び温度に換算すると、それぞれ0.058MHz/με、1.18MHz/℃に相当する。
【0007】
このようにBOTDRでは、光ファイバの長手方向に対する歪みや温度分布を測定することが可能であり、橋梁やトンネルなど大型建造物のモニタリング技術として注目されている。
【0008】
BOTDRでは、一般的に、光ファイバ中で発生するブリルアン散乱光のスペクトル波形を測定するため、別途用意した参照光とのヘテロダイン検波を行う。ブリルアン散乱光の強度は、一般的なOTDRで用いられるレイリー散乱光の強度に比べて2~3桁程度小さい。このため、ヘテロダイン検波は、最小受光感度を向上させる上で有用となる。
【0009】
BOTDRは、光ファイバの長手方向に対する周波数スペクトル分布の情報を扱うため、時間、振幅及び周波数の3次元の情報を取得する必要がある。ここで、ブリルアン散乱光は、上述の通り非常に微弱なため、ヘテロダイン検波を適用しても十分な信号雑音比(
S/N)を確保できない。その結果、S/N改善のための平均化処理が必要となる。この平均化処理と上述の3次元情報取得のため、従来のBOTDR装置では測定時間の短縮が難しい。
【0010】
BOTDR装置における測定時間を短縮させる方法として、自己遅延干渉計を用いる方法が提案されている。この方法では、光の周波数変化を、自己遅延干渉計で後方散乱光をコヒーレント検波して得られるビート信号の位相差として測定することにより、時間及び位相の2次元の情報を取得する。このため、3次元の情報の取得が必要な従来のBOTDR装置に比べて測定時間が短縮される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】K.Koizumi, et al, “High-Speed Distributed Strain Measurement using Brillouin Optical Time-Domain Reflectometry Based-on Self-Delayed Heterodyne Detection”, ECOC2015, P.1.07, Sep.2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の通り、後方散乱光に含まれるレイリー散乱光の強度は大きい。このため、ブリルアン散乱光を観測するためには、光ファイバで発生する後方散乱光からレイリー散乱光の成分をバンドパスフィルタで取り除かなければならない。
【0013】
ここで、ブリルアン散乱光と、取り除くレイリー散乱光との、中心周波数差は、約10GHzと小さい。従って、バンドパスフィルタとして、エッジの傾きが急なフィルタが必要とされる。
【0014】
エッジの傾きが急なフィルタとして、ファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating)を用いたフィルタがある。しかし、FBGは温度依存性が大きく、温度補償を実施しない場合、10pm/℃程度の、温度に対する波長(周波数)の変動がある。受動的に温度補償を実施するアサーマル型でも数pm/℃の温度変動がある。FBGに温度依存性があるため、急激な温度変動が生じる環境では、レイリー散乱光の除外が難しい。
【0015】
図1を参照して、FBGの中心周波数(中心波長)と、プローブ光の中心周波数(中心波長)の関係と、FBGの出力光の関係を説明する。図1は、FBGの出力スペクトルを示す模式図である。図1は、横軸に波長を取って示し、縦軸に強度を取って示している。図1では、プローブ光の中心周波数(波長)に対してFBGの波長が適切な場合を曲線Iで示し、FBGの波長が短波長側に25pmずれた場合を曲線IIで示し、FBGの波長が長波長側に25pmずれた場合を曲線IIIで示している。ここでは、FBGの短波長側のエッジを使用している。
【0016】
FBGの波長が適切な波長(I)から、短波長側に25pmずれている場合(II)、レイリー散乱光の強度が大きくなる。すなわち、レイリー散乱光が十分に除外されない。一方、FBGの波長が適切な波長(I)から、長波長側に25pmずれている場合(III)、ブリルアン散乱光の強度が小さくなる。
【0017】
このように、急激な温度変動により生じるFBGの波長ずれが、BOTDR受信信号のS/Nの劣化を引き起こし、測定精度に大きく影響を与える。
【0018】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、BOTD
R装置において、急激な温度変動が起こるなどしてレイリー散乱光を除去するのに用いられる波長分離フィルタに波長ずれが生じた場合に、プローブ光の中心周波数を変化させることにより、受信信号のS/Nの劣化を抑制可能な光ファイバ歪み測定装置と、光ファイバ歪み測定装置で行われる波長制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した目的を達成するために、この発明の光ファイバ歪み測定装置は、光源部と、波
長制御部と、自己遅延干渉計と、信号処理部とを備えて構成される。光源部は、可変波長
光源を備え、プローブ光を生成する。波長制御部は、プローブ光により測定対象となる光
ファイバで発生する後方散乱光が入力され、後方散乱光に含まれる後方ブリルアン散乱光
を出力する。自己遅延干渉計は、後方ブリルアン散乱光が入力され、測定信号を生成する
。信号処理部は、測定信号から、光ファイバの歪みデータを含む計測結果データを生成す
る。
【0020】
波長制御部は、波長分離フィルタ、光カプラ、光強度測定部及び制御手段を備えて構成される。波長分離フィルタは、後方散乱光に含まれるレイリー散乱光を遮断して後方ブリルアン散乱光を透過させる。光カプラは、波長分離フィルタを透過した後方ブリルアン散乱光を2分岐して一方を、自己遅延干渉計に送り、他方を光強度測定部に送る。
【0021】
光強度測定部は、2分岐された他方の後方ブリルアン散乱光の強度を測定する。制御手段は、ブリルアン散乱光の強度の変化量、及び、増減に応じて、可変波長光源の波長を変化させる。
【0022】
この発明の光ファイバ歪み測定装置の好適実施形態によれば、光カプラは、波長分離フィルタを透過した後方ブリルアン散乱光を異なる強度に2分岐して、強度の大きい光を受光検波部に送り、強度の小さい光を光強度測定部に送る。
【0023】
また、自己遅延干渉計は、後方散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する光分岐器と、第1光路及び第2光路のいずれか一方に設けられた、ビート周波数の周波数シフトを与える光周波数シフタと、第1光路及び第2光路のいずれか一方に設けられた光遅延器と、第1光路及び第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する合波器と、合波光をヘテロダイン検波してビート信号を生成するバランス型フォトダイオードと、測定信号と同じ周波数を持つ局発信号を生成する局発電気信号源と、測定信号と局発信号の差周波信号を測定信号として取得するミキサー及びローパスフィルタとを備えるのが好適である。
【0024】
また、この発明の光ファイバ歪み測定装置の他の好適実施形態によれば、第1光路及び第2光路のいずれか一方に偏波コントローラが設けられ、コヒーレント検波部の出力が最大となるように偏波が制御される。
【0025】
また、この発明の波長制御方法は、上述の光ファイバ歪み測定装置で行われる、可変波長光源の波長制御方法であって、後方ブリルアン散乱光の強度の変化量の絶対値が、所定の閾値を超えているか否かを判定する第1過程と、第1過程における判定において、所定の閾値を超えている場合に、強度の変化が、正(+)の変化であるか否かを判定する第2過程と、第2過程における判定において、+の変化である場合、可変波長光源の波長を短波長側に所定の大きさだけ変化させる第3過程と、第2過程における判定において、負(-)の変化である場合、可変波長光源の波長を長波長側に所定の大きさだけ変化させる第4過程とを備えて構成される。第3過程又は第4過程に続いて第1過程を行い、第1過程での判定の結果所定の閾値以下になるまで、第1過程、第2過程、並びに、第3過程及び第4過程のいずれか一方を、繰り返し行う。
【発明の効果】
【0026】
この発明の、光ファイバ歪み測定装置及び波長制御方法によれば、BOTDR装置において、急激な温度変動が起こるなどしてレイリー散乱光を除去するのに用いられる波長分離フィルタに波長ずれが生じた場合に、プローブ光の中心周波数を変化させることにより、受信信号のS/Nの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】FBGの出力スペクトルを示す模式図である。
図2】光ファイバ歪み測定装置の模式的なブロック図である。
図3】可変波長光源の波長と、光強度測定器で測定される強度の関係を示す模式図である。
図4】波長制御方法の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各図は、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0029】
図2を参照して、この発明の光ファイバ歪み測定装置について説明する。図2は、光ファイバ歪み測定装置の模式的なブロック図である。ここでは、光ファイバ歪み測定装置として説明するが、単に、光ファイバの歪みを測定するだけでなく、光ファイバの歪みに基づいて、温度の測定も可能である。
【0030】
光ファイバ歪み測定装置は、光源部10、サーキュレータ20、光増幅器30、波長制御部300、自己遅延干渉計40、及び、信号処理部90を備えて構成される。
【0031】
光源部10は、プローブ光を生成する。光源部10は、可変波長光源12と、光パルス発生器14と、タイミング制御器16を備えて構成される。
【0032】
可変波長光源12は、連続光を生成する。可変波長光源12として、従来公知のレーザダイオード(LD)などの連続光光源を用いることができる。可変波長光源12が生成する連続光の波長は、波長制御部300からの波長制御信号に応じて設定される。可変波長光源12で生成された連続光は、光パルス発生器14に送られる。
【0033】
光パルス発生器14は、任意好適な従来周知の、音響光学(AO:Acoust Optical)変調器又は電気光学(EO:Electric Optical)変調器を用いて構成される。光パルス発生器14は、タイミング制御器16で生成された電気パルスに応じて、連続光から光パルスを生成する。この光パルスの繰り返し周期は、測定対象の光ファイバ(被測定光ファイバとも称する。)100を光パルスが往復するのに要する時間よりも長く設定される。この光パルスが、プローブ光として、光源部10から出力される。
【0034】
この光源部10から出力されたプローブ光は、サーキュレータ20を経て、被測定光ファイバ100に入射される。なお、サーキュレータ20に換えて、光カプラとアイソレータを組み合わせて用いても良い。
【0035】
被測定光ファイバ100からの後方散乱光は、サーキュレータ20を経て、光増幅器30に送られる。光増幅器30で増幅された後方散乱光は、波長制御部300に送られる。
【0036】
波長制御部300は、例えば、波長分離フィルタ330、光カプラ340、光強度測定器350及び制御手段360を備えて構成される。
【0037】
波長分離フィルタ330は、光増幅器30で増幅された後方散乱光に含まれるレイリー散乱光の成分を遮断して、他の成分を透過させる。波長分離フィルタ330は、ブリルアン散乱光とレイリー散乱光の識別を容易にするために、ブリルアン散乱光とレイリー散乱光の周波数差の2倍である20GHz以下の帯域幅であることが望ましい。波長分離フィルタ330を透過した光は、光カプラ340に送られる。
【0038】
光カプラ340は、波長分離フィルタ330を透過した光を2分岐する。2分岐された一方は、自己遅延干渉計40に送られ、2分岐された他方は、光強度測定器350に送られる。ここで、自己遅延干渉計40に送られる光強度の低下を抑制するため、光カプラ340の分岐比が大きいものを用いるのがよい。この場合、強度の大きい光信号を自己遅延干渉計40に送り、強度の小さい信号を光強度測定器350に送る。
【0039】
光強度測定器350は、強度の小さい光信号でも強度測定が可能であるように、受信感度の高いフォトダイオード(PD)を用いて構成されるのがよい。光強度測定器350での測定結果は、制御手段360に送られる。
【0040】
制御手段360は、測定された光強度に応じて、可変波長光源12の波長を設定する波長制御信号を生成する。波長制御信号は、光源部10の可変波長光源12に送られる。なお、光強度測定器350は、ICチップ等で構成され、プログラミング等により所定の機能を奏する。
【0041】
図3を参照して、可変波長光源12の波長と、光強度測定器350で測定される強度の関係について説明する。図3は、可変波長光源12の波長と、光強度測定器350で測定される強度の関係を示す模式図である。図3では、横軸に、可変波長光源12の波長の変化量(nm)を取って示し、縦軸に、光強度測定器350で測定される強度の変化量(dB)を取って示している。
【0042】
図3では、波長の変化量0(nm)を中心として、±0.02nmの波長の範囲が、受信強度の変化量が小さく、高い測定精度を示す領域である。
【0043】
この高い測定精度を示す領域から長波長側に、可変波長光源12の波長を変化させると、図1のFBGの波長が短波長側に25pmずれた場合(II)と同様のスペクトルになる。したがって、レイリー散乱光を除外できずに、光強度測定器350で測定される強度が大きくなる。
【0044】
一方、この高い測定精度を示す領域から短波長側に、可変波長光源12の波長を変化させると、図1のFBGの波長が長波長側に25pmずれた場合(III)と同様のスペクトルになる。したがって、ブリルアン散乱光の強度自体が小さくなり、光強度測定器350で測定される強度も小さくなる。
【0045】
温度変動により生じる波長分離フィルタの波長ずれが、可変波長光源12の波長に対して短波長側にずれた場合は、相対的に可変波長光源12の波長が長波長側にずれることに対応する。従って、制御手段360は、可変波長光源12の波長を短波長側にシフトさせる。一方、可変波長光源12の波長に対して長波長側にずれた場合は、相対的に可変波長光源12の波長が短波長側にずれることに対応する。従って、制御手段360は、可変波長光源12の波長を長波長側にシフトさせる。
【0046】
図4を参照して、可変波長光源12の波長の制御方法を説明する。図4は、可変波長光源12の波長の制御方法を説明するためのフローチャートである。この可変波長光源12の波長の制御方法は、主に、制御手段360で行われる。
【0047】
この可変波長光源12の波長の制御方法は、光ファイバ歪み測定装置において、歪み測定を行っている間、常時、または、定期的に行われる。
【0048】
この可変波長光源12の波長の制御が開始されると、まず、受信強度の変化量の絶対値が、所定の閾値xdBを超えているか否かを判定する(S10)。閾値xdBは、任意好適に設定される。可変波長光源12の波長と、光強度測定器350で測定される強度が図3に示されるような関係にあるときは、閾値xdBは、例えば0.5dBに設定される。
【0049】
S10の判定において、受信強度の変化量の絶対値が、所定の閾値xを超えている場合(Yes)は、引き続いて、強度の変化が、+の変化であるか否かを判定する(S20)。
【0050】
S20の判定において、正(+)の変化である場合(Yes)、光源波長が長波長側に変動している。したがって、光源波長を短波長(-)側にynmだけ変化させる。すなわち、光源波長を-ynm変化させる(S30)。波長の変化量ynmは、任意好適に設定される。可変波長光源12の波長と、光強度測定器350で測定される強度が図3に示されるような関係にあるときは、変化量ynmは、例えば0.01nmに設定される。S30において、光源波長を-ynm変化させた後、再び、S10の判定が行われる。このループは、S10の判定において、強度の変化量が所定の閾値x以下(No)になるまで、繰り返し行われる。
【0051】
S20の判定において、負(-)の変化である場合(No)、光源波長が短波長側に変動している。したがって、光源波長を長波長(+)側にynmだけ変化させる。すなわち、光源波長を+ynm変化させる(S40)。S40において、光源波長を+ynm変化させた後、再び、S10の判定が行われる。このループは、S10の判定において、強度の変化量が所定の閾値以下(No)になるまで、繰り返し行われる。
【0052】
S10の判定において、所定の閾値を超えていない場合(No)は、測定を終了するか否かを判定する(S50)。S50において、測定を終了する場合(Yes)、波長制御を終了する。その後、定期的に、あるいは、必要に応じて、波長制御が行われる。一方、波長制御を常時行うなど、S50において、測定を終了しない場合(No)、S10の判定を行う。
【0053】
この波長制御部300から出射される自然ブリルアン散乱光の時刻tにおける信号E(t)は、以下の式(1)で表される。
【0054】
(t)=Aexp{j(2πft+φ)} (1)
ここで、Aは振幅、fは自然ブリルアン散乱光の光周波数、φは初期位相を示している。
【0055】
自己遅延干渉計40は、分岐部42と、光周波数シフタ部43と、遅延部48と、偏波コントローラ46と、合波部50と、コヒーレント検波部60と、ミキサー部70と、ローパスフィルタ(LPF)72と、局発電気信号源83を備えて構成される。
【0056】
局発電気信号源83は、周波数fAOMの電気信号を生成する。
【0057】
分岐部42は、プローブ光により被測定光ファイバ100で発生する後方ブリルアン散乱光を、波長制御部300を経て受け取り、第1光路及び第2光路に2分岐する。
【0058】
光周波数シフタ部43は、第1光路に設けられている。光周波数シフタ部43は、局発電気信号源83で生成された周波数fAOMの電気信号を用いて、第1光路を伝播する光に対して、周波数fAOMの周波数シフトを与える。
【0059】
この構成例では、偏波コントローラ46は、第2光路に設けられている。偏波コントローラ46は、偏波制御部400からの指示により第2光路を伝播する光の偏波を制御する。
【0060】
また、この構成例では、第2光路に遅延部48が設けられている。遅延部48は、第2光路を伝播する光に時間τの遅延を与える。なお、遅延部48は、第2光路を伝播する光に、第1光路を伝播する光に比べて時間τの遅延を与えればよく、その構成は任意である。例えば、偏波コントローラ46が遅延器として機能する場合は、遅延器を別途設けなくてもよい。また、いわゆる遅延線で構成することもできる。
【0061】
合波部50は、第1光路及び第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する。合波部50に入射される、第1光路を伝播する光信号E(t)、第2光路を伝播する光信号E(t-τ)は、それぞれ、以下の(2)(3)式で表される。
【0062】
(t)=Aexp{j(2πft+2πfAOMt+φ)} (2)
(t)=Aexp[j{2πf(t-τ)+φ}](3)
ここで、A及びAは、それぞれE(t)及びE(t-τ)の振幅であり、φ及びφは、それぞれE(t)及びE(t-τ)の初期位相である。
【0063】
コヒーレント検波部60は、合波光をヘテロダイン検波してビート信号を生成する。コヒーレント検波部60は、例えば、バランス型フォトダイオード(PD)62とFET増幅器64を備えて構成される。ヘテロダイン検波により与えられるビート信号I12は、以下の式(4)で表される。
【0064】
12=2Acos{2π(fAOMt+fτ)+φ-φ} (4)
コヒーレント検波部60で生成されたビート信号は、第1電気信号としてミキサー部70に送られる。また、局発電気信号源83で生成された電気信号は第2電気信号としてミキサー部70に送られる。
【0065】
ミキサー部70は、第1電気信号と、第2電気信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号を生成する。LPF72は、ホモダイン信号から増幅されたビート信号と局発電気信号との和周波成分を除去して、差周波成分である測定信号を生成する。測定信号は、信号処理部90に送られる。
【0066】
ここで、第1及び第2電気信号はいずれも周波数fAOMを有するビート信号であるので、これらをホモダイン検波することにより、2πfτの変化が位相差として出力される。ブリルアン周波数fは、被測定光ファイバ100の歪みによって変化する。
【0067】
信号処理部90は、自己遅延干渉計40から受け取った測定信号に基づいて、光ファイバの歪みデータを含む計測結果データを生成する。この計測結果データには、光ファイバの温度のデータも含む。
【0068】
信号処理部90は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)で構成できる。また、ソフトウェアを実行することにより、信号処理部90を実現する構成にしても良い。なお、各処理の内容を記憶する記憶手段については、任意好適な従来公知の構成にできるので、ここでは説明を省略する。
【0069】
この発明の、光ファイバ歪み測定装置及び波長制御方法によれば、光ファイバ歪み測定装置に急激な温度変動が生じて、波長分離フィルタの波長ずれが起こった場合であっても、波長分離フィルタの波長ずれに応じて、可変波長光源12の波長を変化させることで、受信信号のS/Nの劣化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 光源部
12 可変波長光源
14 光パルス発生器
16 タイミング制御器
20 サーキュレータ
30 光増幅器
40 自己遅延干渉計
42 分岐部
43 光周波数シフタ部
46 偏波コントローラ
48 遅延部
50 合波部
60 コヒーレント検波部
62 バランス型PD
64 FET増幅器
70 ミキサー部
72 ローパスフィルタ(LPF)
83 局発電気信号源
90 信号処理部
100 被測定光ファイバ
300 波長制御部
330 波長分離フィルタ
340 光カプラ
350 光強度測定器
360 制御手段
400 偏波制御部
図1
図2
図3
図4