(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/02 20160101AFI20240611BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240611BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240611BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H02J7/02 J
H02J7/02 H
H02J7/02 G
H02J7/00 P
H02J7/00 S
H01M10/44 P
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2020153497
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】前 伸一
(72)【発明者】
【氏名】家岡 昇一
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 慎司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 圭二
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137171(JP,A)
【文献】特開2014-180080(JP,A)
【文献】特開2019-009909(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/02
H02J 7/00
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池モジュールを備える電池システムであって、
前記複数の電池モジュールの電圧をそれぞれ測定する電圧センサと、
前記複数の電池モジュールを直列または並列に接続する電気回路と、
前記複数の電池モジュールが前記電気回路により並列に接続されるときに、前記複数の電池モジュールの電圧を均等化する電圧均等化処理を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記複数の電池モジュールそれぞれについて、予め定められている許容電流値と
、当該電池システムに接続する負荷の最大駆動電流または最大回生電流と当該電池モジュールの内部抵抗
とに依存して決まる最大
稼働電流との差分に基づいて許容還流電流値を計算し、
前記電圧センサによりそれぞれ測定される前記複数の電池モジュールの電圧に基づいて、
前記複数の電池モジュールそれぞれについて、前記複数の電池モジュールが並列に接続されるときに発生する還流電流
の推定値を計算し、
少なくとも1つの電池モジュール
についての前記還流電流の推定値が対応する
前記許容還流電流値を超えるときに前記電圧均等化処理を実行する
ことを特徴とすることを特徴とする電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記電圧均等化処理を実行したときは、すべての電池モジュール
についての前記還流電流の推定値が所定の閾値以下になったときに前記電圧均等化処理を終了する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記電圧均等化処理を実行したときは、
前記還流電流の推定値が対応する
前記許容還流電流値を超える電池モジュールがなくなるまで前記電圧均等化処理を継続する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項4】
前記複数の電池モジュールが前記電気回路により並列に接続されるときに、
前記還流電流の推定値が対応する
前記許容還流電流値を超える電池モジュールが存在しなければ、前記制御部は、前記電圧均等化処理を実行しない
ことを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記複数の電池モジュールのうちで前記還流電流が放電電流となる電池モジュールについては、
前記内部抵抗および前記負荷の最大駆動電流に基づいて、前記最大稼働電流を算出し、
前記複数の電池モジュールのうちで前記還流電流が充電電流となる電池モジュールについては、
前記内部抵抗および前記負荷の最大回生電流に基づいて、前記最大稼働電流を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池モジュールを備える電池システムに係わる。
【背景技術】
【0002】
充電可能な二次電池は、様々な分野において広く実用化されている。例えば、電気自動車またはプラグインハイブリッド車などの電動車両は、走行用モータに電力を供給するための大容量の二次電池を備える。
【0003】
大容量の二次電池は、多くのケースにおいて、並列に接続される複数の電池モジュールを備える。そして、並列に接続される複数の電池モジュールからモータ等の負荷に電力が供給される。なお、複数の電池を並列に接続する構成は、例えば、特許文献1~4に記載されている。
【0004】
ただし、複数の電池モジュールを供える二次電池を充電する際には、それら複数の電池モジュールを直列に接続した方が、充電効率が高くなることがある。よって、複数の電池モジュールを備える電池システムは、直列接続と並列接続とを切り替える機能を備える。
【0005】
ところで、並列に接続される複数の電池モジュールから負荷に電力を供給するときは、それら複数の電池モジュールの電圧が互いに同じであることが好ましい。このため、直列接続から並列接続に切り替えるときに、複数の電池モジュールの電圧を均等化する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、複数のバッテリの並列切り替えに先立ち、複数のバッテリ間の電位差が所定の閾値以下となるように、1つ以上のバッテリと充電器または負荷の少なくとも一方との間で充電/放電を行う電圧均等化処理が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-080474号公報
【文献】特開2014-180080号公報
【文献】特開2019-009909号公報
【文献】特開2014-103831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の電池モジュールの電圧がばらついている状態でそれらを並列に接続すると、複数の電池モジュールの電圧を均等化するように還流電流が発生する。そして、この状態で電池モジュールから負荷に電力を供給すると、負荷を駆動する駆動電流に還流電流が加わった合計電流が流れる。
【0008】
したがって、還流電流の推定値のみに基づいて電圧均等化処理が必要か否かを判定すると、負荷が接続されたときに、想定を超える過剰な電流が流れることがある。このとき、駆動電流に還流電流が加わった合計電流が許容値を超えると、電池モジュールおよび/または電池モジュールの周辺の回路部品がダメージを受ける。
【0009】
この問題は、負荷を駆動する駆動電流を制限すれば解決し得る。しかし、駆動電流を制限すると、負荷の出力が低下してしまう。また、電圧均等化処理の要否の判定において大きなマージンを設ける方法でも、過剰な電流を回避し得る。しかし、この方法では、還流電流が十分に小さい場合においても電圧均等化処理が実行されることがあり、負荷への電力の供給の開始が遅延してしまう。なお、この問題は、負荷を駆動するときだけでなく、負荷がモータ等である場合には、負荷からの回生電流が発生するときにも生じ得る。
【0010】
本発明の1つの側面に係る目的は、複数の電池モジュールを並列に接続する際に、電圧均等化処理を実行するか否かを適切に判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様の電池システムは、複数の電池モジュールと、前記複数の電池モジュールの電圧をそれぞれ測定する電圧センサと、前記複数の電池モジュールを直列または並列に接続する電気回路と、前記複数の電池モジュールが前記電気回路により並列に接続されるときに、前記複数の電池モジュールの電圧を均等化する電圧均等化処理を制御する制御部を備える。前記制御部は、前記複数の電池モジュールそれぞれについて、予め定められている許容電流値と、当該電池システムに接続する負荷の最大駆動電流または最大回生電流と当該電池モジュールの内部抵抗とに依存して決まる最大稼働電流との差分に基づいて許容還流電流値を計算し、前記電圧センサによりそれぞれ測定される前記複数の電池モジュールの電圧に基づいて、前記複数の電池モジュールそれぞれについて、前記複数の電池モジュールが並列に接続されるときに発生する還流電流の推定値を計算し、少なくとも1つの電池モジュールについての前記還流電流の推定値が対応する前記許容還流電流値を超えるときに前記電圧均等化処理を実行する。
【0012】
このように、本発明の1つの態様の電池システムにおいては、各電池モジュールについて、最大稼働電流に還流電流の推定値を加えた合計電流が許容値を超えるか否かがモニタされる。そして、このモニタ結果に応じて、電圧均等化処理を実行するか否かが判定される。したがって、複数の電池モジュールを並列に接続するときに、電圧均等化処理を実行するか否かを適切に判定できる。この結果、負荷の稼働電流(駆動電流および/または回生電流)を過剰に制限することなく、電池モジュールおよび/または電池モジュールの周辺の回路部品のダメージを回避または抑制できる。
【0013】
制御部は、電圧均等化処理を実行したときは、すべての電池モジュールの還流電流の推定値が所定の閾値以下になったときに電圧均等化処理を終了してもよい。或いは、制御部は、電圧均等化処理を実行したときは、還流電流の推定値が対応する許容還流電流値を超える電池モジュールがなくなるまで電圧均等化処理を継続してもよい。この場合、複数の電池モジュールを並列に接続する際に発生する還流電流が許容値以下になるので、電池モジュールおよび/または電池モジュールの周辺の回路部品のダメージを抑制できる。
【0014】
また、複数の電池モジュールが並列に接続されるときに、還流電流の推定値が対応する許容還流電流値を超える電池モジュールが存在しなければ、制御部は、電圧均等化処理を実行しない。この場合、負荷を駆動するときに、不要な待ち時間が発生しない。
【発明の効果】
【0015】
上述の態様によれば、複数の電池モジュールを並列に接続する際に、電圧均等化処理を実行するか否かを適切に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係わる電池システムの一例を示す図である。
【
図2】複数の電池モジュールを並列に接続したときに流れる電流の一例を示す図である。
【
図3】電圧均等化処理の要否を判定する方法の一例を示す図である。
【
図4】電圧均等化処理を実行するケースの一例を示す図である。
【
図5】電圧均等化処理の要否を判定する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】電圧均等化処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】電圧均等化処理の要否を判定する方法のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係わる電池システムの一例を示す。本発明の実施形態に係わる電池システム100は、複数の電池モジュール1(1a~1n)および制御部10を備える。なお、電池システム100は、
図1に示していない他の回路またはデバイスを備えてもよい。また、電池システムを「電池パック」と呼ぶことがある。
【0018】
電池モジュール1は、充電可能な二次電池である。
図1に示す例では、電池モジュール1は、充電装置200により充電される。なお、電池モジュール1は、特に限定されるものではないが、例えば、直列に接続される複数の電池セルにより構成される。また、複数の電池モジュール1a~1nは、互いに実質的に同じ構成である。ただし、電池モジュール1a~1nの特性(例えば、内部抵抗の抵抗値)は、製造誤差等に起因するばらつきを有する。
【0019】
各電池モジュール1に対して、電圧センサV、電流センサA、およびスイッチSW1~SW3が設けられる。電圧センサVは、電池モジュール1の電圧を検知する。電流センサAは、電池モジュール1の電流を検知する。スイッチSW1は、電池モジュール1の正極と正側電源ラインとの間に設けられる。正側電源ラインは、電源装置200の正極および負荷300に接続される。スイッチSW2は、電池モジュール1の負極と負側電源ラインとの間に設けられる。負側電源ラインは、電源装置200の負極および負荷300に接続される。また、負側電源ラインは、グランドに接続されてもよい。スイッチSW3は、互いに隣接する電池モジュール1間に設けられる。例えば、電池モジュール1aのスイッチSW3は、電池モジュール1aの負極と電池モジュール1bの正極との間に設けられる。なお、スイッチSW1~SW3は、複数の電池モジュール1a~1nを直列または並列に接続する電気回路の一例である。
【0020】
制御部10は、スイッチSW1~SW3を制御することにより、複数の電池モジュール1a~1nを直列または並列に接続する。すなわち、制御部10は、電池モジュール1a~1nに対して、直列接続から並列接続への切替え、及び、並列接続から直列接続への切替えを制御することができる。また、制御部10は、電池モジュール1a~1nが並列に接続されるときに、電池モジュール1a~1nの電圧を均等化する電圧均等化処理を制御する。
【0021】
制御部10は、例えば、プロセッサおよびメモリを含むプロセッサシステムにより実現される。この場合、上述した切替え処理および電圧均等化に係わる処理を記述したプログラムがメモリに格納される。そして、プロセッサがこのプログラムを実行することで、切替え処理および電圧均等化に係わる処理が実現される。ただし、制御部10の機能の一部または全部は、ハードウェア回路で実現してもよい。
【0022】
上記構成の電池システム100において、電池モジュール1a~1nを充電するときには、制御部10は、電池モジュール1a~1nを直列に接続する。この場合、制御部10は、電池モジュール1a~1nの中で最も正極側に配置される電池モジュール1(
図1では、電池モジュール1a)のスイッチSW1、及び、電池モジュール1a~1nの中で最も負極側に配置される電池モジュール1(
図1では、電池モジュール1n)のスイッチSW2をオン状態に制御すると共に、他のスイッチSW1、SW2をオフ状態に制御する。加えて、制御部10は、各スイッチSW3をオン状態に制御する。これにより、電池モジュール1a~1nが直列に接続される。
【0023】
電池モジュール1a~1nから負荷300に電力を供給するときは、制御部10は、電池モジュール1a~1nを並列に接続する。この場合、制御部10は、すべてのスイッチSW1、SW2をオン状態に制御すると共に、すべてのスイッチSW3をオフ状態に制御する。これにより、電池モジュール1a~1nが並列に接続される。
【0024】
ただし、上述したように、電池モジュール1a~1nの特性(例えば、内部抵抗の抵抗値)は、製造誤差等に起因するばらつきを有する。このため、充電動作が終了した後、電池モジュール1a~1nを直列接続から並列接続に切り替えるときに、電池モジュール1a~1nの電圧が均等化されていないことがある。そして、電池モジュール1a~1nの電圧が均等化されていない状態で電池モジュール1a~1nを並列に接続すると、還流電流が発生する。
【0025】
図2は、複数の電池モジュールを並列に接続したときに流れる電流の一例を示す。この例では、電池モジュール1a~1nを直列接続から並列接続に切り替えるときに、電池モジュール1bの電圧が最も高いものとする。また、電池モジュール1a、1nの電圧は、それぞれ、電池モジュール1a~1nの電圧の平均より低いものとする。なお、
図2においては、図面を見やすくするために、スイッチSW1~SW3、電圧センサV、電流センサAは省略されている。
【0026】
電池モジュール1a~1nが並列に接続されると、電池モジュール1a~1nの電圧が均等化されるように還流電流が発生する。すなわち、電池モジュール1bの電圧が高く、電池モジュール1a、1nの電圧が低いときは、
図2(a)に示す還流電流が発生する。このとき、電池モジュール1bには放電電流が流れ、電池モジュール1a、1nには充電電流が流れる。すなわち、電池モジュール1bから出力され、電池モジュール1a、1nを通過して電池モジュール1bに戻ってくる還流電流が発生する。
【0027】
ここで、電池モジュール1a~1nを並列に接続すると同時に、電池モジュール1a~1nから負荷300に電力を供給するものとする。この場合、
図2(b)に示す駆動電流が流れる。なお、駆動電流は、負荷300の稼働時に流れる稼働電流の一例である。
【0028】
したがって、電池モジュール1a~1nを並列に接続すると同時に、電池モジュール1a~1nから負荷300に電力を供給するケースでは、
図2(a)に示す還流電流および
図2(b)に示す駆動電流が流れる。すなわち、各電池モジュール1a~1nには、駆動電流に還流電流が加わった合計電流が流れる。ここで、電圧が高い電池モジュール(
図2では、電池モジュール1b)においては、駆動電流が流れる方向および還流電流が流れる方向が互いに同じである。このため、電圧が高い電池モジュールにおいては、負荷300の稼働時に想定されている電流よりも大きな合計電流が発生するおそれがある。そして、この合計電流が許容値を越えると、電池モジュールおよび/または電池モジュールの周辺の回路部品(例えば、スイッチSW1、SW2)がダメージを受ける。
【0029】
なお、負荷300がモータである場合には、
図2(c)に示すように、回生電流が発生する。この場合、各電池モジュール1a~1nには、回生電流に還流電流が加わった合計電流が流れる。ここで、電圧が低い電池モジュール(
図2では、電池モジュール1aまたは1n)においては、回生電流が流れる方向および還流電流が流れる方向が互いに同じである。したがって、電圧が低い電池モジュールにおいては、負荷300による回生時に想定されている電流よりも大きな合計電流が発生するおそれがある。なお、回生電流も、負荷300の稼働時に流れる稼働電流の一例である。
【0030】
そこで、電池システム100は、電池モジュール1a~1nを並列に接続するときに発生し得る還流電流および負荷300の稼働電流(駆動電流および/または回生電流)を考慮して、電圧均等化処理を実行するか否かを判定する。そして、電圧均等化処理を実行すると判定したときは、電池システム100は、電池モジュール1a~1nを並列に接続する前に電圧均等化処理を実行する。この場合、電圧均等化処理が実行された後は、還流電流は、発生しないか、発生したとしても非常に小さい値になる。したがって、電池モジュール1a~1nを並列に接続するときに過剰な電流が発生する可能性は低くなる。一方、電圧均等化処理を実行しないと判定したときは、電池システム100は、電圧均等化処理を実行することなく、即座に、電池モジュール1a~1nを並列に接続する。この場合、電池システム100は、遅延なく負荷300への電力の供給を開始できる。
【0031】
図3は、電圧均等化処理の要否を判定する方法の一例を示す。この例では、電池システム100は、4個の電池モジュールM1~M4を備える。そして、電池モジュールM1~M4を並列に接続するときに、電池モジュールM1、M4の電圧が電池モジュールM2、M3の電圧より高いものとする。
【0032】
許容電流値は、電池モジュールがダメージを受けることなく流すことができる電流の上限値を表す。すなわち、電池モジュールに許容電流値よりも大きい電流が流れると、その電池モジュールがダメージを受けるおそれがある。なお、許容電流値は、電池モジュールの構造および特性に依存するものであり、この例では、電池モジュールM1~M4に対して同じであるものとする。また、電池モジュールが放電する際の許容電流値および電池モジュールを充電する際の許容電流値は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0033】
C1~C4は、電池モジュールM1~M4を並列に接続するときに電池モジュールM1~M4に流れる還流電流を表す。この例では、電池モジュールM1、M4の電圧が、電池モジュールM2、M3の電圧より高い。よって、電池モジュールM1、M4には放電電流が流れ、電池モジュールM2、M3には充電電流が流れる。ここで、各電池モジュールの還流電流は、制御部10により推定される。このとき、制御部10は、電圧センサVによりそれぞれ測定される電圧に基づいて、各電池モジュールについて、複数の電池モジュールが並列に接続されるときに発生する還流電流を推定する。なお、還流電流を推定または計算する方法は、後で説明する。
【0034】
D1~D4は、電池モジュールM1~M4の最大駆動電流を表す。各電池モジュールM1~M4の最大駆動電流は、負荷300の最大駆動電流に基づいて決定される。負荷300の最大駆動電流は、負荷300を駆動するために流れる電流の最大値であり、仕様等により予め設定されている。よって、負荷300の最大駆動電流を、電池システム100が備える電池モジュールの個数で割算することで、各電池モジュールの最大駆動電流が算出される。この例では、負荷300の最大駆動電流を「4」で割算することにより、各電池モジュールM1~M4の最大駆動電流D1~D4が算出される。
【0035】
ただし、電池モジュールM1~M4の特性(例えば、内部抵抗の抵抗値)は、製造誤差等に起因するばらつきを有する。このため、各電池モジュールM1~M4の最大駆動電流D1~D4は、電池モジュールM1~M4の内部抵抗の抵抗値を考慮して計算することが好ましい。
【0036】
E1~E4は、電池モジュールM1~M4の最大回生電流を表す。各電池モジュールM1~M4の最大回生電流は、負荷300の最大回生電流に基づいて決定される。負荷300の最大回生電流は、負荷300から回生される電流の最大値であり、仕様等により予め設定されている。よって、負荷300の最大回生電流を、電池システム100が備える電池モジュールの個数で割算することで、各電池モジュールの最大回生電流が算出される。この例では、負荷300の最大回生電流を「4」で割算することにより、各電池モジュールM1~M4の最大回生電流E1~E4が算出される。なお、各電池モジュールM1~M4の最大回生電流E1~E4も、電池モジュールM1~M4の内部抵抗の抵抗値を考慮して計算することが好ましい。
【0037】
制御部10は、各電池モジュールM1~M4について、還流電流C1~C4と対応する許容還流電流値TH1~TH4とを比較する。許容還流電流値は、この実施例では、許容電流値と最大駆動電流D1~D4または最大回生電流E1~E4との差分を表す。具体的には、還流電流として放電電流が発生する電池モジュール(M1、M4)においては、負荷300の稼働時の許容電流値THDと対応する最大駆動電流(D1、D4)との差分が計算される。還流電流として充電電流が発生する電池モジュール(M2、M3)においては、負荷300の回生時の許容電流値THEと対応する最大回生電流(E1、E4)との差分が計算される。すなわち、電池モジュールM1~M4に対して下記の許容還流電流値TH1~TH4が計算される。
【0038】
電池モジュールM1:TH1=THD-D1
電池モジュールM2:TH2=THE-E2
電池モジュールM3:TH3=THE-E3
電池モジュールM4:TH4=THD-D4
【0039】
そして、還流電流C1~C4が対応する許容還流電流値TH1~TH4より大きい電池モジュールが存在するときは、制御部10は、電圧均等化処理を実行する。ただし、
図3に示す例では、還流電流は、いずれも対応する許容還流電流値より小さい。すなわち、還流電流C1は許容還流電流値TH1より小さく、還流電流C2は許容還流電流値TH2より小さく、還流電流C3は許容還流電流値TH3より小さく、還流電流C4は許容還流電流値TH4より小さい。よって、この場合、制御部10は、電圧均等化処理を実行することなく、電池モジュールM1~M4を並列に接続する。そして、電池システム100は、電池モジュールM1~M4を用いて負荷300に電力を供給する。
【0040】
図4は、電圧均等化処理を実行するケースの一例を示す。この例では、
図4(a)に示すように、電池モジュールM1の還流電流C1が対応する許容還流電流値TH1より大きくなる。この場合、制御部10は、電池モジュールM1~M4を並列に接続する前に電圧均等化処理を実行する。このとき、制御部10は、電源装置200を利用して、電圧が最も低い電池モジュールを充電してもよい。
【0041】
この後、制御部10は、還流電流C1~C4の変化をリアルタイムでモニタする。または、制御部10は、還流電流C1~C4を再計算する。そして、すべての還流電流C1~C4がそれぞれ対応する許容還流電流値TH1~TH4よりも小さくなると、制御部10は、電圧均等化処理を終了して電池モジュールM1~M4を並列に接続する。
【0042】
或いは、
図4(b)に示すように、許容還流電流値TH1~TH4とは別に、均等化終了閾値THF、THGを設けてもよい。この場合、すべての還流電流C1~C4が均等化終了閾値THF、THGより小さくなると、制御部10は、電圧均等化処理を終了して電池モジュールM1~M4を並列に接続する。なお、均等化終了閾値THF、THGは、許容還流電流値TH1~TH4の最小値以下であることが好ましい。
【0043】
このように、本発明の実施形態に係わる電池システム100においては、負荷300の最大稼働電流および各電池モジュールの内部抵抗の抵抗値に基づいて各電池モジュールの許容還流電流値が計算される。また、各電池モジュールの電圧に基づいて、各電池モジュールに流れる還流電流が推定される。そして、1以上の電池モジュールにおいて還流電流が対応する許容還流電流値を超えるときは、電圧均等化処理が実行される。一方、すべての電池モジュールにおいて還流電流が対応する許容還流電流値以下であるときは、電圧均等化処理を実行することなく、即座に、電池モジュールM1~M4が並列に接続される。すなわち、製造誤差等に起因するばらつきを考慮して、電池モジュール毎に還流電流の推定値と許容還流電流値とが比較され、それらの比較に基づいて電圧均等化処理の要否が判定されるので、必要な電圧均等化処理が確実に実行され、還流電流に起因する過電流が抑制される。加えて、不必要な電圧均等化処理が抑制されるので、負荷300への電力供給の開始が早くなる。
【0044】
なお、
図3~
図4に示す例では、負荷300を駆動する際の電流(放電電流)および負荷300が電流を回生する際の電流(充電電流)の双方をモニタして電圧均等化処理の要否が判定されるが、本発明はこの手順に限定されるものではない。例えば、電池システム100により電力が供給される負荷が回生電流を発生させないときは、負荷300を駆動する際の電流(放電電流)のみに対して電圧均等化処理の要否を判定してもよい。
【0045】
図5は、電圧均等化処理の要否を判定する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、複数の電池モジュールを並列に接続する前に制御部10により実行される。
【0046】
S1において、制御部10は、負荷300の最大稼働電流および各電池モジュールの内部抵抗の抵抗値に基づいて、各電池モジュールの最大稼働電流を計算する。負荷300の最大稼働電流は、既知であり、例えば、不図示のメモリに予め保存されている。また、各電池モジュールの内部抵抗の抵抗値は、予め測定されて不図示のメモリに予め保存されている。なお、このフローチャートの説明において、最大稼働電流は、最大駆動電流および最大回生電流を含むものとする。
【0047】
S2において、制御部10は、電池モジュール毎に、許容電流値および最大稼働電流から許容還流電流値を計算する。一例としては、許容電流値から最大稼働電流を引算することで許容還流電流値が得られる。許容電流値は、すべての電池モジュールにおいて同じであり、不図示のメモリに予め保存されている。
【0048】
S3において、制御部10は、各電池モジュールの還流電流を推定する。各電池モジュールの還流電流を推定する方法については、後で記載する。
【0049】
S4~S5において、制御部10は、並列化判定処理を実行する。すなわち、制御部10は、電池モジュール毎に、許容還流電流値と還流電流の推定値とを比較する。そして、1以上の電池モジュールにおいて還流電流の推定値が対応する許容還流電流値より大きいときには、制御部10は、複数の電池モジュールを並列に接続する前に電圧均等化処理が必要であると判定する。この場合、制御部10は、S6において電圧均等化処理を実行する。一方、すべての電池モジュールにおいて還流電流の推定値が対応する許容還流電流値以下であれば、S6の電圧均等化処理はスキップされる。
【0050】
S7において、制御部10は、複数の電池モジュールを並列に接続する。このとき、制御部10は、各電池モジュールのスイッチSW1およびSW2をそれぞれオン状態に制御すると共に、各スイッチSW3をオフ状態に制御する。
【0051】
図6は、電圧均等化処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図6に示す電圧均等化は、
図5に示すS6に相当する。すなわち、
図6に示すフローチャートの処理は、1以上の電池モジュールにおいて還流電流の推定値が対応する許容還流電流値より大きいときに実行される。
【0052】
S11において、制御部10は、電圧均等化処理を実行する。例えば、制御部10は、電源装置200を利用して、電圧が最も低い電池モジュールを充電する。この場合、制御部10は、充電すべき電池モジュールのスイッチSW1、SW2をオン状態に制御する。また、充電量は、例えば、電池システム100が備える複数の電池モジュールなかでの最大電圧と最低電圧との差分に応じて決定される。
【0053】
S12において、制御部10は、各電池モジュールの還流電流を推定する。なお、S3の処理およびS12の処理は、実質的に同じである。
【0054】
S13~S14において、制御部10は、電圧均等化処理を継続するか終了するかを判定する。ここでは、制御部10は、
図4(b)を参照して説明した均等化終了閾値を使用するものとする。この場合、制御部10は、電池モジュール毎に、均等化終了閾値と還流電流の推定値とを比較する。そして、1以上の電池モジュールにおいて還流電流の推定値が均等化終了閾値より大きいときは、制御部10の処理はS11に戻る。即ち、電圧均等化処理が継続される。この後、すべての電池モジュールにおいて還流電流の推定値が均等化終了閾値以下になるまでS12~S14が繰り返し実行される。そして、すべての電池モジュールにおいて還流電流の推定値が均等化終了閾値以下になると(S14:No)、電圧均等化処理が終了する。この後、
図5に示すS7において、複数の電池モジュールが並列に接続される。
【0055】
次に、各電池モジュールの還流電流を推定する方法を説明する。以下では、
図7に示す等価回路を利用して還流電流を推定する方法を説明する。尚、V1~Vnは、各電池モジュールM1~Mnの電圧を表す。R1~Rnは、各電池モジュールM1~Mnの抵抗(内部抵抗+配線抵抗)を表す。C1~Cnは、電池モジュールM1~Mnを並列に接続したときに発生する、各電池モジュールM1~Mnの還流電流の推定値を表す。nは、電池システム100が備える電池モジュールの数を表す。
【0056】
図7に示す等価回路においては、下記の電圧関係式および電流関係式が得られる。
【0057】
【0058】
【0059】
これらの関係式をまとめると、下記の連立方程式が得られる。
【0060】
【0061】
この連立方程式は、下記のように、行列演算で表される。
【0062】
【0063】
したがって、各電池モジュールM1~Mnの還流電流C1~Cnは下式で表される。
【0064】
【0065】
このように、各電池モジュールの還流電流C1~Cnは、各電池モジュールの抵抗R1~Rnおよび各電池モジュールの電圧V1~Vnから計算される。ここで、各電池モジュールの抵抗R1~Rnは、この実施例では、既知であり、予め不図示のメモリに保存されている。したがって、制御部10は、電圧センサVを用いて各電池モジュールの電圧V1~Vnの測定値を取得することにより、各電池モジュールの還流電流C1~Cnを推定することができる。
【0066】
なお、
図7に示す等価回路において、負荷300の最大駆動電流がKである場合、各電池モジュールM1~Mnの最大駆動電流D1~Dnは、下式で計算してもよい。また、各電池モジュールM1~Mnの最大回生電流E1~Enも、同様の計算式で得られる。
【0067】
【0068】
<バリエーション1>
図3~
図5に示す実施例においては、製造誤差等に起因する電池モジュール1a~1nの特性(例えば、内部抵抗の抵抗値)のばらつきを考慮して、電池モジュール毎に許容還流電流値が計算される。ただし、電池モジュール1a~1nの特性のばらつきが十分に小さいときは、全ての電池モジュールに対して共通する許容還流電流値を設定してもよい。例えば、負荷300の最大稼働電流を、電池システム100が備える電池モジュールの個数で割算することにより、各電池モジュールに共通する電池モジュール最大稼働電流が計算される。そして、許容電流値から電池モジュール最大稼働電流を引算することにより、各電池モジュールに共通する許容還流電流値が得られる。
【0069】
図8は、電圧均等化処理の要否を判定する方法のバリエーションを示す。この例では、各電池モジュールに共通する許容還流電流値が設定されている。TH5は、放電に対する許容還流電流値を表し、TH6は、充電に対する許容還流電流値を表す。
【0070】
この場合、制御部10は、各電池モジュールの還流電流を推定する。そして、1以上の電池モジュールの還流電流の推定値が許容還流電流値(TH5、TH6)を超えるときには、制御部10は、電圧均等化処理を実行する。一方、すべての電池モジュールの還流電流の推定値が許容還流電流値(TH5、TH6)以下であれば、制御部10は、電圧均等化処理を実行しない。
図8に示す例では、還流電流C1、C4がいずれも許容還流電流値TH5より小さく、還流電流C2、C3がいずれも許容還流電流値TH6より小さい。よって、制御部10は、電圧均等化処理を実行しない。
【0071】
<バリエーション2>
電池モジュールの内部抵抗の変化が小さいときは、内部抵抗の最小値に基づいて還流電流を推定してもよい。この場合、温度範囲ごと(例えば、5度ごと)に内部抵抗の最小抵抗値を設定してもよい。
【0072】
<バリエーション3>
電池モジュールへの突入電流は、電池モジュールの内部抵抗が小さいほど大きくなる。よって、内部抵抗の最小値に基づいて還流電流を推定すれば、電圧均等化処理を実行するか否かについて安全サイドで判定が行われる。ここで、
図7に示す等価回路を利用して、内部抵抗の最小値に基づいて還流電流を推定する。なお、下記の計算において、Rは、R1~Rnのうちの最小値を表す。
【0073】
この場合、
図7に示す等価回路において、下記の電圧関係式および電流関係式が得られる。
【0074】
【0075】
【0076】
ここで、電池モジュールM1の還流電電流C1を求める。まず、電圧関係式を下記のように変形する。
【0077】
【0078】
これら式を足し合わせると、下記の式が得られる。
【0079】
【0080】
そして、上述した電流関係式を代入すると、下記の式が得られる。
【0081】
【0082】
したがって、電池モジュールM1の還流電流C1は下式で表される。また、電池モジュールM2~Mnの還流電流C2~Cnも同様の方法で得られる。
【0083】
【0084】
このように、各電池モジュールの還流電流C1~Cnは、電池モジュールの抵抗Rおよび各電池モジュールの電圧V1~Vnから計算される。ここで、電池モジュールの抵抗Rは、予め不図示のメモリに保存されている。したがって、制御部10は、電圧センサVを用いて各電池モジュールの電圧V1~Vnの測定値を取得することにより、各電池モジュールの還流電流C1~Cnを推定することができる。この方法によれば、各電池モジュール個々の抵抗値を用いる方法と比べて、還流電流を推定するための計算が簡単になり、また、電圧均等化処理を実行するか否かについて安全サイドで判定が行われる。
【符号の説明】
【0085】
1(1a~1n) 電池モジュール
10 制御部
100 電池システム
300 負荷