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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
H01T13/20 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020161324
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054246
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】高田 健一朗
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-086758(JP,A)
【文献】特開平10-214670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極(13)と接地電極(14)との間に電圧を印加することにより火花放電を形成するスパークプラグ(10)であって、
前記接地電極は、電極母材(40)と、前記電極母材の先端部に埋め込まれて接合される金属部材(60,100)と、前記電極母材及び前記金属部材の少なくとも一方に接合される貴金属チップ(50)と、を有し、
前記金属部材の線膨張係数は、前記電極母材の線膨張係数よりも小さく、且つ前記貴金属チップの線膨張係数以上であり、
前記金属部材は、前記電極母材において前記中心電極に対向する表面から露出するように前記電極母材に埋め込まれ、
前記貴金属チップは、前記金属部材に接合され、
前記電極母材の先端部は、そのスパークプラグの中心軸に直交する断面形状が矩形状をなすように形成されており、
前記金属部材は、前記電極母材の短手方向に沿った長さよりも前記電極母材の長手方向に沿った長さの方が長い形状を有している
スパークプラグ。
【請求項2】
前記金属部材において前記貴金属チップが接合されている表面を接合面とするとき、
前記金属部材は、前記接合面が前記電極母材の表面と面一となるように前記電極母材に埋め込まれている
請求項に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記貴金属チップは、前記電極母材及び前記金属部材の両方に接合されている
請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記金属部材は、前記貴金属チップと同一の材料により形成されている
請求項1~3のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記金属部材(60)は、直方体状に形成される直方体部(61)と、前記直方体部の長手方向の両端部にそれぞれ一体的に形成される第1端部(62)及び第2端部(63)とを有し、
前記第1端部及び前記第2端部は、前記直方体部の長手方向において前記電極母材を挟んで互いに対向するように配置される側面をそれぞれ有する形状からなり、
前記第1端部の側面及び前記第2端部の側面により前記電極母材が部分的に挟み込まれる構造により、前記電極母材の熱膨張が拘束されている
請求項1~4のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記金属部材(100)は、複数の金属片(110,120)からなり、
複数の前記金属片により前記電極母材が部分的に挟み込まれる構造により、前記電極母材の熱膨張が拘束されている
請求項1~5のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
前記金属部材は、その底面が前記電極母材と抵抗溶接により接合され、
前記貴金属チップは、前記電極母材及び前記金属部材と抵抗溶接及びレーザ溶接により接合されている
請求項1~6のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
中心電極(13)と接地電極(14)との間に電圧を印加することにより火花放電を形成するスパークプラグ(10)であって、
前記接地電極は、電極母材(40)と、前記電極母材の先端部に埋め込まれて接合される金属部材(60,100)と、前記電極母材及び前記金属部材の少なくとも一方に接合される貴金属チップ(50)と、を有し、
前記金属部材の線膨張係数は、前記電極母材の線膨張係数よりも小さく、且つ前記貴金属チップの線膨張係数以上であり、
前記金属部材は、前記電極母材において前記中心電極に対向する表面とは反対側の背面に埋め込まれ
前記電極母材の先端部は、そのスパークプラグの中心軸に直交する断面形状が矩形状をなすように形成されており、
前記金属部材は、前記電極母材の短手方向に沿った長さよりも前記電極母材の長手方向に沿った長さの方が長い形状を有している
スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電圧の印加に基づき中心電極と接地電極との間に火花放電を形成するスパークプラグがある。このようなスパークプラグでは、その長寿命化や着火性の向上の要求を満たすために、接地電極の電極母材の先端部に貴金属チップが接合されているものがある。一方、接地電極の電極母材と貴金属チップとでは材質が異なるため、それらの線膨張係数に差異が生じ易い。具体的には、貴金属チップの線膨張係数よりも電極母材の線膨張係数の方が大きい。そのため、それらが熱膨張すると、電極母材の熱膨張量の方が貴金属チップの熱膨張量よりも大きくなり易いため、それらの熱膨張量の差異に応じた応力が貴金属チップと電極母材との接合界面に発生する可能性がある。このような応力は、それらの接合界面に亀裂等を発生させる要因となる。
【0003】
そこで、従来、下記の特許文献1に記載のスパークプラグでは、接地電極の電極母材と貴金属チップとの間に、それらの線膨張係数の中間の値の線膨張係数を有する金属部材を設けるようにしている。金属部材は、貴金属チップよりも若干大きい径を有している。特許文献1に記載のスパークプラグでは、貴金属チップ及び金属部材が抵抗溶接により同時に電極母材に接合される。このような構成によれば、電極母材及び貴金属チップのそれぞれの熱膨張量に差異が生じた場合であっても、部材間の熱膨張量の差異を金属部材により吸収することができるため、それらの接合界面に亀裂等が発生し難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5068221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の車両では、内燃機関の熱効率を向上させるために、接地電極が晒される温度環境が更に過酷になっている。具体的には、接地電極は、内燃機関の気筒内で混合気が燃焼した際に最高温度に達する。その後、その熱が接地電極の電極母材からスパークプラグのハウジングに伝達されることにより接地電極の温度は徐々に低下するとともに、その後に混合気が燃焼すると接地電極の温度は再び最高温度に達する。このように接地電極の温度は上昇及び降下を繰り返すことから、接地電極は温度差の大きい環境下に晒されていると言える。
【0006】
一方、近年の車両では、内燃機関の熱効率を向上させるために燃焼温度が従来よりも上昇しているため、接地電極に発生する温度差が従来よりも大きくなっている。接地電極に発生する温度差が大きくなると、その電極母材及び貴金属チップのそれぞれの熱膨張量の差異も当然大きくなる。そのため、特許文献1に記載のスパークプラグのように電極母材と貴金属チップとの間に金属部材を設けただけでは、部材間の熱膨張量の差異を金属部材により吸収しきれずに、例えば電極母材と金属部材との間の接合界面に亀裂が発生するおそれがある。このような亀裂が頻繁に発生して更に進展すると、電極母材から金属部材が剥離したり、貴金属チップが脱落したりする可能性があるため、好ましくない。
【0007】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極母材と金属部材との接合界面に亀裂を発生し難くすることが可能なスパークプラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するスパークプラグ(10)は、中心電極(13)と接地電極(14)との間に電圧を印加することにより火花放電を形成する。接地電極は、電極母材(40)と、電極母材の先端部に埋め込まれて接合される金属部材(60,100)と、電極母材及び金属部材の少なくとも一方に接合される貴金属チップ(50)と、を有する。金属部材の線膨張係数は、電極母材の線膨張係数よりも小さく、且つ貴金属チップの線膨張係数以上である。金属部材は、電極母材の熱膨張を拘束可能な形状を有している。
【0009】
この構成によれば、温度上昇により電極母材が熱膨張する環境下であっても、電極母材の熱膨張が金属部材により拘束されるため、電極母材と金属部材との接合界面に亀裂が発生し難くなる。
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0010】
本開示のスパークプラグによれば、電極母材と金属部材との接合界面に亀裂を発生し難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態のスパークプラグの破断断面構造を示す断面図である。
図2図2は、第1実施形態の接地電極の先端部の断面構造を示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態の金属部材の斜視構造を示す斜視図である。
図4図4は、第1実施形態の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図5図5は、第1実施形態の接地電極の製造工程の一部を示す断面図である。
図6図6は、第1実施形態の接地電極の製造工程の一部を示す断面図である。
図7図7は、第1実施形態の接地電極の動作例を模式的に示す図である。
図8図8は、第1実施形態の第1変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図9図9は、第1実施形態の第1変形例の接地電極の先端部の断面構造を示す断面図である。
図10図10は、第1実施形態の第2変形例の金属部材の斜視構造を示す斜視図である。
図11図11は、第1実施形態の第2変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図12図12は、第1実施形態の第2変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図13図13は、第1実施形態の第3変形例の金属部材の斜視構造を示す斜視図である。
図14図14は、第1実施形態の第3変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図15図15は、第1実施形態の第3変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図16図16は、第2実施形態の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図17図17は、第2実施形態の変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図18図18は、第2実施形態の変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図19図19は、第2実施形態の変形例の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
図20図20は、第3実施形態の接地電極の先端部の断面構造を示す断面図である。
図21図21は、第3実施形態の接地電極の先端部の平面構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、スパークプラグの実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
図1に示される本実施形態のスパークプラグ10は内燃機関のエンジンヘッド内に配置される。スパークプラグ10は、電圧の印加に基づき火花放電を形成することによりシリンダ内の混合気を着火する。スパークプラグ10は、ハウジング11と、絶縁碍子12と、中心電極13と、接地電極14とを備えている。
【0013】
ハウジング11は、炭素鋼等の金属材料により、スパークプラグ10の中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。ハウジング11の下部の外周には、ねじ部11aが形成されている。ねじ部11aを、内燃機関のエンジンヘッドブロックに形成されるねじ穴にねじ込むことにより、スパークプラグ10をエンジンヘッドブロックに固定することができる。ハウジング11の内部には、絶縁碍子12の下端部が同軸上に挿入されている。
【0014】
絶縁碍子12は、アルミナ等の絶縁材料により中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。絶縁碍子12の外周部分にはハウジング11が一体的に組み付けられている。絶縁碍子12の下部に形成される貫通孔12aには中心電極13が挿入されて保持されている。
【0015】
中心電極13は電極母材20と電極チップ30とを有している。電極母材20は、耐熱性に優れるニッケル(Ni)合金等により、中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。具体的には、電極母材20の内材は銅により形成され、その外材はニッケル合金により形成されている。電極母材20の先端部21は絶縁碍子12の下端から露出している。電極チップ30は電極母材20の先端部21に接合されている。電極チップ30は、中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。電極チップ30は、高融点で耐消耗性に優れたイリジウム(Ir)を主材料として、イリジウムの高温揮発性を抑制するためにロジウム(Rh)を含むイリジウム合金等により形成されている。なお、電極チップ30は、イリジウム合金に限らず、白金(Pt)を主材料とする白金合金等の貴金属合金により形成されていてもよい。
【0016】
接地電極14は電極母材40と貴金属チップ50とを有している。電極母材40はニッケル合金等により形成されている。電極母材40はハウジング11の下端面に一体的に取り付けられている。電極母材40はハウジング11の下端面から湾曲して延びるように形成されている。電極母材40の先端部401は中心電極13の電極チップ30に対向するように位置している。貴金属チップ50は電極母材40の先端部401に接合されている。貴金属チップ50は、イリジウム合金や白金合金等の貴金属合金、例えばPt-20Ir材等により形成されている。貴金属チップ50は、所定の隙間18を有して電極チップ30に対向して配置されている。以下では、中心電極13の電極チップ30と接地電極14の貴金属チップ50との間に形成される隙間18を「火花放電ギャップ18」と称する。
【0017】
このスパークプラグ10では、中心電極13の上部に中心軸部材15及び端子部16が電気的に接続されている。端子部16には、高電圧を印加する外部回路が接続される。外部回路により端子部16に高電圧が印加されると、中心電極13の電極チップ30と接地電極14の貴金属チップ50との間に火花放電が形成される。このスパークプラグ10が形成する火花放電により内燃機関の気筒内の混合気が着火することにより混合気が燃焼する。
【0018】
次に、接地電極14の構造について詳しく説明する。
図2に示されるように、接地電極14は、電極母材40の先端部に埋め込まれる金属部材60を更に備えている。図3に示されるように、金属部材60は、直方体状に形成される直方体部61と、直方体部61の長手方向の両端部にそれぞれ一体的に形成される第1端部62及び第2端部63とを有している。第1端部62及び第2端部63は台形柱状に形成されている。第1端部62の一側面620及び第2端部63の一側面630は直方体部61の長手方向において互いに対向するように配置されている。また、第1端部62の他側面621及び第2端部63の他側面631も同様に直方体部61の長手方向において互いに対向するように配置されている。金属部材60は、電極母材40の線膨張係数よりも小さく、且つ貴金属チップ50の線膨張係数以上の線膨張係数を有する材料により形成されている。具体的には、金属部材60は、白金主体の白金合金等の貴金属合金、例えばPt-20Ni材等により形成されている。
【0019】
図2に示されるように、金属部材60は、電極母材40の表面400に形成される挿入溝402に埋め込まれている。電極母材40の表面400は、電極母材40において中心電極13に対向する外面である。金属部材60の底面602は挿入溝402の底面402bに接触している。金属部材60は、少なくともその底面602が抵抗溶接により挿入溝402の底面402bに接合されている。金属部材60は、電極母材40の表面400から露出するように電極母材40に埋め込まれている。電極母材40の表面400から露出する金属部材60の外面600には貴金属チップ50が接合されている。以下では、金属部材60において貴金属チップ50が接合されている外面600を「接合面600」とも称する。金属部材60は、その接合面600が電極母材40の表面400と面一となるように電極母材40に埋め込まれている。
【0020】
図4に示されるように、電極母材40の先端部401は、その中心軸m10に直交する断面形状が矩形状となるように形成されている。図中に示される矢印Xで示される方向は電極母材40の先端部401の長手方向を示し、矢印Yで示される方向はその短手方向を示している。金属部材60の第1端部62の一側面620と第2端部63の一側面630との間には、電極母材40の一部分である部位41が挟み込まれている。同様に、電極母材40の第1端部62の他側面621と第2端部63の他側面631との間にも、電極母材40の一部分である部位42が挟み込まれている。
【0021】
なお、以下では、第1端部62の側面620,621及び第2端部63の側面630,631を含め、中心軸m10を中心とする周方向に沿った金属部材60の外面を「外周面601」と称する。金属部材60は、その底面602だけでなく、その外周面601が抵抗溶接により電極母材40の挿入溝402の内周面402aに接合されていてもよい。
【0022】
図2に示されるように、貴金属チップ50は、その底面が電極母材40及び金属部材60に接触するように配置されている。具体的には、図4に示されるように、貴金属チップ50の底面は、金属部材60の直方体部61に接触するとともに、電極母材40の部位41,42及びそれらの周辺の部分に接触するように配置されている。貴金属チップ50の底面は抵抗溶接により電極母材40及び金属部材60に接合されている。
【0023】
次に、電極母材40、貴金属チップ50、及び金属部材60の接合方法について詳しく説明する。
本実施形態のスパークプラグ10では、その接地電極14の製造工程において、電極母材40に金属部材60を接合する第1接合工程が行われた後、電極母材40及び金属部材60に貴金属チップ50を接合する第2接合工程が行われる。
【0024】
第1接合工程では、まず、図5に矢印で示されるように、電極母材40の挿入溝402に金属部材60を挿入する。挿入溝402の内周面402aは金属部材60の外周面601よりも若干大きい形状を有している。また、挿入溝402の深さH11は金属部材60の厚さH12よりも若干短い。挿入溝402に金属部材60を嵌め合わせた後、抵抗溶接電極80を金属部材60の外面600に接触させて金属部材60及び電極母材40に電流を流しつつ、抵抗溶接電極80から金属部材60に外力を付与することにより金属部材60を電極母材40に押し込む。これにより、金属部材60の底面602と電極母材40の挿入溝402の底面402bとの接触部分に発生するジュール熱により、それらが抵抗溶接により接合される。また、より融点の低い電極母材40がジュール熱により軟化するため、抵抗溶接電極80から金属部材60に付与される外力により金属部材60が電極母材40に次第に埋め込まれる。金属部材60は、その外面600が電極母材40の表面400と面一となるまで電極母材40に押し込まれる。この過程で生成される溶接バリにより、金属部材60の外周面601と電極母材40の挿入溝402の内周面402aとの間に形成される隙間が埋められる。このとき、金属部材60の外周面601と電極母材40の挿入溝402の内周面402aとを抵抗溶接により接合してもよい。このようにして電極母材40に金属部材60を埋め込んだ後、金属部材60の外面600に形成される溶接バリを除去する工程を行って、図6に示されるような電極母材40に金属部材60が埋め込まれた一次成型品90の成型を完了する。
【0025】
続いて、第2接合工程として、図6に示される一次成型品90に対して貴金属チップ50を接合する工程が行われる。具体的には、図6に矢印で示されるように金属部材60の略中央部に貴金属チップ50を配置した後、貴金属チップ50を抵抗溶接により電極母材40及び金属部材60に接合させる。
【0026】
次に、本実施形態のスパークプラグ10の動作例について説明する。
内燃機関の気筒内で混合気が燃焼すると、気筒内に晒されている接地電極14の温度が急激に上昇することで電極母材40が熱膨張する。この際、本実施形態のスパークプラグ10では、図4に示されるように、電極母材40の部位41,42が金属部材60の第1端部62及び第2端部63に挟み込まれており、且つ電極母材40の線膨張係数よりも金属部材60の線膨張係数の方が小さいため、電極母材40の部位41,42の伸びが金属部材60により抑制される。したがって、電極母材40と金属部材60との間に伸び量の差異が生じ難くなるため、それらの接合界面に応力が発生し難い。そのため、電極母材40と金属部材60との接合界面に亀裂等が発生し難い。
【0027】
また、貴金属チップ50は電極母材40の部位41,42の周辺に接合されているため、電極母材40の部位41,42の伸びが抑制されることで、貴金属チップ50と電極母材40との接合界面にも応力が発生し難くなっている。よって、それらの接合界面にも亀裂等が発生し難い。
【0028】
さらに、電極母材40は、熱膨張により、その短手方向Yよりも長手方向Xに伸びやすい。図7に拡大して示されるように、電極母材40の第1端部62の一側面620と第2端部63の一側面630との間に挟まれている電極母材40の部位41が長手方向Xに伸びるように変形した場合、その伸びの方向が、長手方向Xに平行な方向から、金属部材60の第1端部62の一側面620に沿った方向に変化する。そのため、電極母材40の部位41の外側に位置する部位43の伸び量と比較すると、電極母材40の部位41の伸び量の方が小さくなる。このような電極母材40の伸び量の差異は、電極母材40の第1端部62の他側面621と第2端部63の他側面631との間に挟まれている電極母材40の部位42と、その外側に位置する部位44との間にも生じる。このような電極母材40の部分的な伸び量の差異により、電極母材40が長手方向Xに伸びるように変化するほど、金属部材60の第1端部62の側面620,621及び第2端部63の側面630,631に電極母材40が押さえ付けられることとなる。結果的に、電極母材40と金属部材60との接合力を更に向上させることが可能となっている。
【0029】
一方、金属部材60に貴金属チップ50が接合されており、且つ金属部材60が貴金属チップ50と同一の線膨張係数を有していれば、接地電極14の温度の上昇及び降下が繰り返されたとしても、金属部材60及び貴金属チップ50が一体的に熱膨張及び熱収縮を行い易くなる。そのため、金属部材60と貴金属チップ50との熱膨張量の差異に起因する応力が、それらの接合部分に発生し難いため、それらの接合界面に亀裂や剥離が生じ難い。
【0030】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(1)~(6)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)接地電極14は、電極母材40と、電極母材40の先端部に埋め込まれて接合される金属部材60と、電極母材40及び金属部材60の両方に接合される貴金属チップ50とを有している。金属部材60の線膨張係数は、電極母材40の線膨張係数よりも小さく、且つ貴金属チップ50の線膨張係数以上である。貴金属チップ50は、電極母材40の熱膨張を拘束可能な形状を有している。この構成によれば、温度上昇により電極母材40が熱膨張する環境下であっても、電極母材40の熱膨張が金属部材60により拘束されるため、電極母材40と金属部材60との接合界面に亀裂が発生し難くなる。
【0031】
(2)金属部材60は、電極母材40において中心電極13に対向する表面400から露出するように電極母材40に埋め込まれている。貴金属チップ50は金属部材60に接合されている。この構成によれば、貴金属チップ50において電極母材40に接合されている部分と比較すると、金属部材60に接合されている部分の方が、部材間の熱膨張量の差異に起因する応力が発生し難い。そのため、貴金属チップ50を金属部材60に接合させることで、亀裂等を発生し難くすることができる。結果的に、電極母材40及び金属部材60からの貴金属チップ50の脱落を回避することができるため、スパークプラグ10の寿命を改善することができる。
【0032】
(3)電極母材40は、熱膨張により長手方向Xに伸びやすい。これを考慮し、図2に示されるように、金属部材60は、電極母材40の短手方向Yに沿った長さよりも電極母材40の長手方向Xに沿った長さの方が長い形状を有している。すなわち、金属部材60の長手方向が、電極母材40が伸び易い方向に一致している。この構成によれば、電極母材40の伸びを金属部材60により拘束し易くなるため、より的確に亀裂の発生等を抑制できる。
【0033】
(4)金属部材60は、その接合面600が電極母材40の表面400と面一となるように電極母材40に埋め込まれている。この構成によれば、貴金属チップ50を金属部材60だけでなく電極母材40にも接触させることができるため、貴金属チップ50を金属部材60及び電極母材40の両方に接合させることができる。結果的に、貴金属チップ50の接合強度を向上させることができる。
【0034】
(5)金属部材60は、貴金属チップ50と同一の材料により形成されていてもよい。この構成によれば、金属部材の線膨張係数と貴金属チップ50の線膨張係数とを互いに一致させることができるため、それらが一体的に熱膨張及び熱収縮し易くなる。結果的に、それらの接合界面に亀裂等が発生し難くなる。
【0035】
(6)金属部材60の第1端部62の側面620,621及び第2端部63の側面630,631により電極母材40の部位41,42が部分的に挟み込まれる構造により、電極母材40の熱膨張が拘束されている。この構成によれば、電極母材40の熱膨張を拘束することが可能な構造を容易に実現することができる。
【0036】
(第1変形例)
次に、第1実施形態のスパークプラグ10の第1変形例について説明する。
本変形例のスパークプラグ10では、接地電極14の第2接合工程において、貴金属チップ50を抵抗溶接により電極母材40及び金属部材60に接合させた後、貴金属チップ50をレーザ溶接により電極母材40及び金属部材60に更に固定する。具体的には、貴金属チップ50の底部の外周部分にレーザを照射することにより貴金属チップ50と金属部材60との接触部分、並びに貴金属チップ50と電極母材40との接触部分を溶融させる。これにより貴金属チップ50の底部の外周部分に、図8及び図9に示されるような溶融部70が形成される。この溶融部70を介して貴金属チップ50が電極母材40及び金属部材60に更に接合される。
【0037】
この構成によれば、貴金属チップ50の接合強度を更に向上させることが可能となる。特に、電極母材40と貴金属チップ50との接合強度を向上させることができるため、例えば冷熱サイクルの環境下であっても、電極母材40と貴金属チップ50との接合界面に亀裂や剥離が生じ難くなる。
【0038】
(第2変形例)
次に、第1実施形態のスパークプラグ10の第2変形例について説明する。
本変形例の金属部材60では、図10に示されるように、その第1端部62及び第2端部63が三角柱状にそれぞれ形成されている。第1端部62の底面622の中央部には直方体部61の一端部が一体的に連結されており、第2端部63の底面632の中央部には直方体部61の他端部が一体的に連結されている。この金属部材60は、図11に示されるように電極母材40の先端部401に埋め込まれている。
【0039】
このような金属部材60を用いた場合であっても、図11に示されるように、金属部材60の第1端部62の底面622と第2端部63の底面632とにより電極母材40の部位41,42を挟み込むことができる。よって、第1実施形態のスパークプラグ10と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
【0040】
なお、本変形例のスパークプラグ10では、電極母材40、貴金属チップ50、及び金属部材60の全てを抵抗溶接により接合させるという方法に加えて、金属部材60と電極母材40との接合強度を更に向上させるために、図12に示されるように、溶融部71を介して金属部材60と電極母材40とをレーザ溶接により接合させてもよい。
【0041】
(第3変形例)
次に、第1実施形態のスパークプラグ10の第3変形例について説明する。
本変形例の金属部材60では、図13に示されるように、その第1端部62及び第2端部63が直方体状にそれぞれ形成されている。第1端部62の側面623の中央部には直方体部61の一端部が一体的に連結されており、第2端部63の側面633の中央部には直方体部61の他端部が一体的に連結されている。この金属部材60は、図14に示されるように電極母材40の先端部401に埋め込まれている。
【0042】
このような金属部材60を用いた場合であっても、図14に示されるように、金属部材60の第1端部62の側面623と第2端部63の側面633とにより電極母材40の部位41,42を挟み込むことができる。よって、第1実施形態のスパークプラグ10と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
【0043】
なお、本変形例のスパークプラグ10では、電極母材40、貴金属チップ50、及び金属部材60の全てを抵抗溶接により接合させるという方法に加えて、金属部材60と電極母材40との接合強度を更に向上させるために、図15に示されるように、溶融部72を介して金属部材60と電極母材40とをレーザ溶接により接合させてもよい。
【0044】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態のスパークプラグ10について説明する。
本実施形態のスパークプラグ10では、金属部材60に代えて、図16に示されるような一対の金属片110,120により構成される金属部材100が用いられている。各金属片110,120は、中心軸m10に直交する断面形状が凹字状となるように形成されている。一対の金属片110,120は、それぞれの開口部111,121が電極母材40の一部分である十字状の部位45を挟んで互いに対向するように配置されている。金属片110,120のそれぞれの底面には切り欠き112,122が形成されている。切り欠き112,122は、開口部111,121に向かうほど幅が狭くなるように形成されており、その中心軸m10に直交する断面形状が台形状をなしている。金属片110,120の切り欠き112,122は、電極母材40の一部分である部位46,47をそれぞれ挟み込んでいる。
【0045】
次に、本実施形態のスパークプラグ10の動作例について説明する。
本実施形態のスパークプラグ10では、電極母材40が熱膨張した場合、その部位46,47の伸び量よりも、それらの外側に位置する部位48,49の伸び量の方が大きくなる。これらの伸び量の差異により、電極母材40が熱膨張するほど、電極母材40の部位46,47が金属片110,120を電極母材40の部位45に向かう方向に押圧する。このようにして金属片110,120にそれぞれ加わる押圧力により、金属片110,120に挟み込まれている電極母材40の部位45の熱膨張が抑制される。これにより、第1実施形態のスパークプラグ10と同様に、上記の(1),(2),(4),(5)に示される作用及び効果が奏されるようになる。
【0046】
また、本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(7)に示される作用及び効果を更に得ることができる。
(7)一つの金属片110,120により電極母材40が部分的に挟み込まれる構造により、電極母材40の熱膨張が抑制されている。この構成によれば、電極母材40の熱膨張を拘束することが可能な構造を容易に実現することができる。
【0047】
(変形例)
次に、第2実施形態のスパークプラグ10の変形例について説明する。
金属片110,120は、例えば図17に示されるように、中心軸m10を中心とする断面形状が凹字状をなすように形成される一方で、切り欠き112,122を有していない形状に形成されていてもよい。あるいは、図18に示されるように、金属片110,120は、第1実施形態の金属部材60と同一の形状をそれぞれ有するとともに、電極母材40の短手方向Yに並ぶように配置されていてもよい。
【0048】
金属片110,120が図17及び図18に示されるように形成されている場合であっても、それらにより電極母材40の熱膨張を部分的に拘束することが可能であれば、第2実施形態のスパークプラグ10と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
なお、図17に示される金属片110,120は、図19に示されるように電極母材40に対して溶融部73を介してレーザ溶接により接合されていてもよい。図16に示される金属片110,120、及び図18に示される金属片110,120に関しても、同様にレーザ溶接により電極母材40に接合されていてもよい。
【0049】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態のスパークプラグ10について説明する。以下、第1実施形態のスパークプラグ10との相違点を中心に説明する。
図20及び図21に示されるように、本実施形態のスパークプラグ10では、電極母材40の先端部401において中心電極13に対向する表面400とは反対側の背面403に金属部材60が埋め込まれている。金属部材60は電極母材40に抵抗溶接により接合されている。貴金属チップ50の底面は電極母材40の表面400に抵抗溶接により接合されている。また、貴金属チップ50の底部の外周部分は溶融部74を介してレーザ溶接により電極母材40に接合されている。
【0050】
本実施形態のスパークプラグ10でも、金属部材60の第1端部62及び第2端部63が電極母材40の部位81,82を挟み込んでいるため、それらの部位81,82の熱膨張が金属部材60により拘束される。その結果、電極母材40の背面403では、電極母材40の熱膨張量と金属部材60の熱膨張量とに差異が生じ難くなるため、それらの接合界面に応力が発生し難くなる。よって、金属部材60と電極母材40との接合界面に亀裂等が発生し難くなる。また、電極母材40の表面400では、同様に電極母材40の熱膨張量と貴金属チップ50の熱膨張量とに差異が生じ難くなるため、それらの接合界面にも応力が生じ難くなる。よって、電極母材40と貴金属チップ50の接合界面にも亀裂等が発生し難くなる。
【0051】
このように、本実施形態のスパークプラグ10でも、第1実施形態のスパークプラグ10と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
<他の実施形態>
なお、各実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
【0052】
・第2実施形態のスパークプラグ10では、金属部材100が、二つの金属片110,120に限らず、3つ以上の複数の金属片により構成されていてもよい。
・各実施形態の金属部材60の形状は適宜変更可能である。
【0053】
・第1実施形態及び第2実施形態のスパークプラグ10では、金属部材60が電極母材40の表面400から突出するように設けられていてもよい。この場合、貴金属チップ50は金属部材60にのみ接合されていてもよい。第3実施形態のスパークプラグ10でも同様に金属部材60が電極母材40の背面403から突出するように設けられていてもよい。
【0054】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0055】
10:スパークプラグ
13:中心電極
14:接地電極
50:貴金属チップ
40:電極母材
60,100:金属部材
61:直方体部
62:第1端部
63:第2端部
110,120:金属片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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