(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】距離測定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4865 20200101AFI20240611BHJP
G01S 17/10 20200101ALI20240611BHJP
【FI】
G01S7/4865
G01S17/10
(21)【出願番号】P 2020166004
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019204614
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】東 謙太
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/042993(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0069322(US,A1)
【文献】特開2017-129426(JP,A)
【文献】特開2007-147333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0113606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の信号光を照射するように構成された照射部(2)と、
フォトンの入射によってパルス信号を出力する複数の光検知器(31)を備える受光アレイ部(3)と、
前記受光アレイ部で受光された前記信号光の光強度を示す信号強度を算出するように構成された信号強度算出部(S50)と、
前記受光アレイ部により検出される前記信号光の立上り時間と立下り時間とを算出するように構成された信号時間算出部(S60)と、
前記信号強度算出部により算出された前記信号強度に基づいて、前記信号時間算出部により算出された前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成された強度補正部(S70,S82,S76,S86)と、
補正された前記立上り時間を補正立上り時間とし、補正された前記立下り時間を補正立下り時間として、前記立上り時間が補正された場合には、少なくとも前記補正立上り時間に基づいて、前記立下り時間が補正された場合には、少なくとも前記補正立下り時間に基づいて、前記信号光を反射した物体までの距離である物体距離を算出するように構成された距離算出部(S110,S120)と
を備える距離測定装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部の温度を検出するように構成された温度検出部(7)を備え、
前記強度補正部(S76,S86)は、更に、前記温度検出部により検出された前記温度に基づいて、前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される距離測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の距離測定装置であって、
前記信号光が前記受光アレイ部により受光されていないときにおいて前記受光アレイ部により検出される光の光強度を示すノイズ強度を算出するように構成されたノイズ強度算出部(S40)を備え、
前記強度補正部(S86)は、更に、前記ノイズ強度算出部により算出された前記ノイズ強度に基づいて、前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される距離測定装置。
【請求項4】
パルス状の信号光を照射するように構成された照射部(2)と、
フォトンの入射によってパルス信号を出力する複数の光検知器(31)を備える受光アレイ部(3)と、
前記受光アレイ部の温度を検出するように構成された温度検出部(7)と、
前記受光アレイ部により検出される前記信号光の立上り時間と立下り時間とを算出するように構成された信号時間算出部(S60)と、
前記温度検出部により検出された前記温度に基づいて、前記信号時間算出部により算出された前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成された温度補正部(S74,S84,S76,S86)と、
補正された前記立上り時間を補正立上り時間とし、補正された前記立下り時間を補正立下り時間として、前記立上り時間が補正された場合には、少なくとも前記補正立上り時間に基づいて、前記立下り時間が補正された場合には、少なくとも前記補正立下り時間に基づいて、前記信号光を反射した物体までの距離である物体距離を算出するように構成された距離算出部(S110,S120)と
を備える距離測定装置(1)。
【請求項5】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部から出力される複数の前記パルス信号に従い、前記照射部による前記信号光の照射タイミングを起点として、前記受光アレイ部により検出される光の光強度の時間変化を示すヒストグラムを作成するように構成されたヒストグラム作成部(4,S20,S30)を備え、
前記信号強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記信号強度を算出するように構成される距離測定装置。
【請求項6】
請求項3に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部から出力される複数の前記パルス信号に従い、前記照射部による前記信号光の照射タイミングを起点として、前記受光アレイ部により検出される光の光強度の時間変化を示すヒストグラムを作成するように構成されたヒストグラム作成部(4,S20,S30)を備え、
前記ノイズ強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記ノイズ強度を算出するように構成される距離測定装置。
【請求項7】
請求項3に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部から出力される複数の前記パルス信号に従い、前記照射部による前記信号光の照射タイミングを起点として、前記受光アレイ部により検出される光の光強度の時間変化を示すヒストグラムを作成するように構成されたヒストグラム作成部(4,S20,S30)を備え、
前記信号強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記信号強度を算出するように構成され、
前記ノイズ強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記ノイズ強度を算出するように構成される距離測定装置。
【請求項8】
請求項4に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部で受光された前記信号光の光強度を示す信号強度を算出するように構成された信号強度算出部(S50)を備え、
前記温度補正部(S76,S86)は、更に、前記信号強度算出部により算出された前記信号強度に基づいて、前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される距離測定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部から出力される複数の前記パルス信号に従い、前記照射部による前記信号光の照射タイミングを起点として、前記受光アレイ部により検出される光の光強度の時間変化を示すヒストグラムを作成するように構成されたヒストグラム作成部(4,S20,S30)を備え、
前記信号強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記信号強度を算出するように構成される距離測定装置。
【請求項10】
請求項4に記載の距離測定装置であって、
前記信号光が前記受光アレイ部により受光されていないときにおいて前記受光アレイ部により検出される光の光強度を示すノイズ強度を算出するように構成されたノイズ強度算出部(S40)を備え、
前記温度補正部(S86)は、更に、前記ノイズ強度算出部により算出された前記ノイズ強度に基づいて、前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される距離測定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部から出力される複数の前記パルス信号に従い、前記照射部による前記
信号光の照射タイミングを起点として、前記受光アレイ部により検出される光の光強度の時間変化を示すヒストグラムを作成するように構成されたヒストグラム作成部(4,S20,S30)を備え、
前記ノイズ強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記ノイズ強度を算出するように構成される距離測定装置。
【請求項12】
請求項4に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部で受光された前記信号光の光強度を示す信号強度を算出するように構成された信号強度算出部(S50)と、
前記信号光が前記受光アレイ部により受光されていないときにおいて前記受光アレイ部により検出される光の光強度を示すノイズ強度を算出するように構成されたノイズ強度算出部(S40)とを備え、
前記温度補正部(S76,S86)は、更に、前記信号強度算出部により算出された前記信号強度と、前記ノイズ強度算出部により算出された前記ノイズ強度とに基づいて、前記立上り時間および前記立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される距離測定装置。
【請求項13】
請求項12に記載の距離測定装置であって、
前記受光アレイ部から出力される複数の前記パルス信号に従い、前記照射部による前記信号光の照射タイミングを起点として、前記受光アレイ部により検出される光の光強度の時間変化を示すヒストグラムを作成するように構成されたヒストグラム作成部(4,S20,S30)を備え、
前記信号強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記信号強度を算出するように構成され、
前記ノイズ強度算出部は、前記ヒストグラム作成部により作成された前記ヒストグラムに基づいて、前記ノイズ強度を算出するように構成される距離測定装置。
【請求項14】
請求項1~請求項13の何れか1項に記載の距離測定装置であって、
前記補正立上り時間および前記補正立下り時間に基づいて、前記信号光のパルス幅を算出するように構成されたパルス幅算出部(S90)と、
前記パルス幅算出部により算出された前記パルス幅が予め設定された算出判定値以上であるか否かを判断するように構成されたパルス幅判断部(S100)とを備え、
前記距離算出部は、前記パルス幅判断部による判断結果に応じて、前記物体距離の算出方法を切り替えるように構成される距離測定装置。
【請求項15】
請求項14に記載の距離測定装置であって、
前記距離算出部は、前記パルス幅が前記算出判定値未満であると前記パルス幅判断部が判断した場合には、前記補正立上り時間および前記補正立下り時間の両方を用いて前記物体距離を算出し、前記パルス幅が前記算出判定値以上であると前記パルス幅判断部が判断した場合には、前記補正立上り時間および前記補正立下り時間のうち前記補正立上り時間のみを用いて前記物体距離を算出するように構成される距離測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光を照射して、光を反射した物体までの距離を測定する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パルス状の信号光を照射し、物体からの反射光を受光することで、照射から受光までの時間を計測して、信号光を反射した物体までの距離を測定する距離測定装置において、信号光を検出するために、複数のアバランシェフォトダイオードを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガイガーモードで動作する複数のアバランシェフォトダイオードを用いる距離測定装置では、信号光の強度、または、太陽光などの背景光の強度によって、距離測定結果が変動してしまうという問題があった。
【0005】
本開示は、距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、照射部(2)と、受光アレイ部(3)と、信号強度算出部(S50)と、信号時間算出部(S60)と、強度補正部(S70,S82,S76,S86)と、距離算出部(S110,S120)とを備える距離測定装置(1)である。
【0007】
照射部は、パルス状の信号光を照射するように構成される。受光アレイ部は、フォトンの入射によってパルス信号を出力する複数の光検知器(31)を備える。
信号強度算出部は、受光アレイ部で受光された信号光の光強度を示す信号強度を算出するように構成される。
【0008】
信号時間算出部は、受光アレイ部により検出される信号光の立上り時間と立下り時間とを算出するように構成される。
強度補正部は、信号強度算出部により算出された信号強度に基づいて、信号時間算出部により算出された立上り時間および立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される。
【0009】
距離算出部は、立上り時間が補正された場合には、少なくとも補正立上り時間に基づいて、立下り時間が補正された場合には、少なくとも補正立下り時間に基づいて、信号光を反射した物体までの距離である物体距離を算出するように構成される。補正立上り時間は、補正された立上り時間である。補正立下り時間は、補正された立下り時間である。
【0010】
このように構成された本開示の距離測定装置は、信号強度に基づいて、立上り時間および立下り時間を補正し、更に、補正された立上り時間および立下り時間に基づいて、物体距離を算出する。このため、本開示の距離測定装置は、信号強度に起因した距離測定結果
の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【0011】
本開示の別の態様は、照射部(2)と、受光アレイ部(3)と、温度検出部(7)と、信号時間算出部(S60)と、温度補正部(S74,S84,S76,S86)と、距離算出部(S110,S120)とを備える距離測定装置(1)である。
【0012】
温度検出部は、受光アレイ部の温度を検出するように構成される。温度補正部は、温度検出部により検出された温度に基づいて、信号時間算出部により算出された立上り時間および立下り時間の少なくとも一方を補正するように構成される。
【0013】
このように構成された本開示の距離測定装置は、受光アレイ部の温度に基づいて、立上り時間および立下り時間を補正し、更に、補正された立上り時間および立下り時間に基づいて、物体距離を算出する。このため、本開示の距離測定装置は、受光アレイ部の温度に起因した距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】受光アレイ部および光検知器の構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態の距離測定処理を示すフローチャートである。
【
図5】照射光強度を変化させた場合における受光波形の立上り部分を示す図である。
【
図6】信号強度立上り時間補正マップの構成を説明する図である。
【
図7】太陽光強度を変化させた場合における受光波形を示す図である。
【
図8】太陽光による応答の影響を補正した受光波形を示す図である。
【
図9】第1実施形態のノイズ強度立下り時間補正マップの構成を説明する図である。
【
図10】多重反射が発生した場合の信号波形を示す図である。
【
図11】第2実施形態の距離測定処理を示すフローチャートである。
【
図12】フォトン入射後におけるSPADの両端電圧の変化を示す図である。
【
図13】受光波形の立上り時点および立下り時点の信号強度による相違を示す図である。
【
図14】信号強度立下り時間補正マップの構成を説明する図である。
【
図15】第3実施形態の距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図16】第3実施形態の距離測定処理を示すフローチャートである。
【
図17】両端電圧および出力電圧の時間変化の温度による相違を示す図である。
【
図18】温度立上り時間補正マップおよび温度立下り時間補正マップの構成を説明する図である。
【
図19】第4実施形態の距離測定処理を示すフローチャートである。
【
図20】第5実施形態の距離測定処理を示すフローチャートである。
【
図21】信号強度算出マップの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下に本開示の第1実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態の距離測定装置1は、車両に搭載され、車両の周辺に存在する各種物体までの距離を測定する。
【0016】
距離測定装置1は、
図1に示すように、照射部2と、受光アレイ部3と、計数部4と、信号処理部5とを備える。
照射部2は、パルス状のレーザ光(以下、信号光)を、予め設定された間隔で繰り返し照射するとともに、その照射タイミングを計数部4および信号処理部5に通知する。以下
、レーザ光を照射する周期を、計測周期という。
【0017】
受光アレイ部3は、複数の画素ユニットP1,P2,・・・,Pkを有する。kは2以上の整数である。各画素ユニットPiは、それぞれN個の光検知器31を備える。Nは2以上の整数である。光検知器31は、フォトンが入射すると、予め設定されたパルス幅を有するパルス信号を出力する。
【0018】
計数部4は、複数の加算器A1,A2,・・・,Akと、複数のヒストグラムメモリM1,M2,・・・,Mkとを備える。
加算器A1,A2,・・・,Akはそれぞれ、画素ユニットP1,P2,・・・,Pkに接続される。加算器Aiは、画素ユニットPiを構成するN個の光検知器31から入力しているパルス信号の合計値(以下、光強度)を示す加算信号を出力する。iは1からkまでの整数である。
【0019】
ヒストグラムメモリM1,M2,・・・,Mkはそれぞれ、加算器A1,A2,・・・,Akに接続される。そしてヒストグラムメモリMiは、照射部2から通知された直近の照射タイミングを起点として予め設定された取得周期が経過する毎に、加算器Aiから入力している加算信号が示す光強度を、直近の照射タイミングからの経過時間に対応付けて記憶する。またヒストグラムメモリM1,M2,・・・,Mkは、信号処理部5に接続される。
【0020】
信号処理部5は、CPU51、ROM52およびRAM53等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU51が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM52が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU51が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、信号処理部5を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0021】
図2に示すように、受光アレイ部3は、複数の画素ユニットP1,P2,・・・,Pkを2次元行列状に配列することで形成された受光面3aを備える。
光検知器31は、SPAD61と、クエンチ抵抗62と、パルス出力部63とを備える。SPADは、Single Photon Avalanche Diodeの略である。
【0022】
SPAD61は、ガイガーモードで動作し、単一フォトンの入射を検出することができるアバランシェフォトダイオードである。SPAD61は、カソードが逆バイアス電圧VBに接続され、アノードがクエンチ抵抗62を介して接地される。クエンチ抵抗62は、SPAD61にフォトンが入射してSPAD61がブレイクダウンしたときに、SPAD61に流れる電流により発生する電圧降下によって、SPAD61のガイガー放電を停止させる。なお、クエンチ抵抗62には、所定の抵抗値を有する抵抗素子、或いは、ゲート電圧によってオン抵抗を設定可能なMOSFET等が用いられる。
【0023】
SPAD61のアノードにはパルス出力部63が接続される。パルス出力部63は、SPAD61がブレイクダウンしていないときに、値が1となるデジタル信号を出力する。そしてパルス出力部63は、SPAD61がブレイクダウンしてクエンチ抵抗62に電流が流れることによってクエンチ抵抗62の両端に閾値電圧以上の電圧が発生したときに、上述したパルス信号として、値が0となるデジタルパルスを出力する。
【0024】
次に、信号処理部5のCPU51が実行する距離測定処理の手順を説明する。距離測定
処理は、照射部2がレーザ光を照射しているときにおいて計測周期が経過する毎に繰り返し実行される処理である。
【0025】
距離測定処理が実行されると、CPU51は、
図3に示すように、S10にて、RAM53に設けられた画素指示値iに1を格納する。
CPU51は、S20にて、ヒストグラムメモリMiから記憶データを取得する。
【0026】
CPU51は、S30にて、S20で取得した記憶データを用いて、i番目の画素ユニットPiの画素ヒストグラムを作成する。
ヒストグラムメモリMiに記憶される記憶データにより作成される画素ヒストグラムは、
図4に示すように、直近の照射タイミングを起点とした時間を横軸とし、光強度を縦軸として、光強度の時間変化を示すヒストグラムである。
【0027】
画素ヒストグラムは、光強度を時間ビンTbin毎に示す。時間ビンTbinは、画素ヒストグラムの単位目盛りとなる時間範囲である。時間ビンTbinの長さは、上記の取得周期に等しい。
【0028】
時間ビンTbinは、直近の照射タイミングから近い順に、1,2,3,・・・・・と識別番号が付されている。そして、識別番号が1からmまでの時間ビンTbinは、ノイズ算出期間Tnに対応する。識別番号が(m+1)以降の時間ビンTbinは、距離算出期間Trに対応する。mは2以上の整数である。
【0029】
図4における曲線L1は、太陽光などの背景光が入射することによる光検知器31の応答により得られるノイズ波形である。
図4における曲線L2は、物体で反射した信号光が入射することによる光検知器31の応答により得られる信号波形である。
【0030】
画素ヒストグラムは、ノイズ波形の光強度と信号波形の光強度とを加算することにより得られる波形(以下、受光波形)を示す。
次にCPU51は、
図3に示すように、S40にて、S30で作成した画素ヒストグラムを用いて、ノイズ強度を算出する。具体的には、CPU51は、ノイズ算出期間Tnにおける受光波形の光強度の平均値を算出し、この平均値をノイズ強度とする。
【0031】
CPU51は、S50にて、S30で作成した画素ヒストグラムを用いて、信号強度を算出する。具体的には、CPU51は、まず、距離算出期間Trにおける受光波形の光強度の最大値を算出する。そしてCPU51は、受光波形の光強度の最大値から、S40で算出したノイズ強度を減算した減算値を算出し、この減算値を信号強度とする。
【0032】
CPU51は、S60にて、S30で作成した画素ヒストグラムを用いて、立上り時間Tuと、立下り時間Tdとを算出する。
図4に示すように、立上り時間Tuは、距離算出期間Trにおいて、画素ヒストグラムの受光波形の光強度が閾値Th未満である状態から、画素ヒストグラムの受光波形の光強度が閾値Th以上である状態へ遷移したときの時間である。立下り時間Tdは、距離算出期間Trにおいて、画素ヒストグラムの受光波形の光強度が閾値Th以上である状態から、画素ヒストグラムの受光波形の光強度が閾値Th未満である状態へ遷移したときの時間である。
【0033】
なお、CPU51は、S40で算出したノイズ強度と、S50で算出した信号強度と用いて、上記の閾値Thを算出する。具体的には、CPU51は、まず、信号強度に、0より大きく且つ1より小さくなるように予め設定された閾値算出用係数を乗じた乗算値を算出する。本実施形態では、閾値算出用係数は0.5に設定されている。そしてCPU51は、この乗算値にノイズ強度を加算した加算値を閾値Thとする。
【0034】
次にCPU51は、
図3に示すように、S70にて、立上り時間Tuを補正する。
図5は、物体までの距離を変化させず、照射部2から信号光を照射するときの光強度(以下、照射光強度)を変化させた場合における受光波形の立上り部分を示す図である。
【0035】
図5に示すように、受光波形の光強度が大きいほど、立上りが早くなる。
図5は、照射光強度の大きい順に、受光波形W1,W2,W3,W4,W5,W6を示す。点PT1,PT2,PT3,PT4,PT5,PT6はそれぞれ、受光波形W1,W2,W3,W4,W5,W6における立上りの半値位置を示す。点PT1,PT2,PT3,PT4,PT5,PT6で示すように、物体までの距離が同一であるにも関わらず、照射光強度が大きくなるほど、立上り時間Tuが早くなる。
【0036】
照射光強度が大きくなるほど受光波形の立上りが早くなる理由として、以下の2点が挙げられる。
第1の理由は、照射光強度が大きくなると照射光の裾野部分で応答が生じることである。
【0037】
第2の理由は、SPADは一度応答すると、再応答までの時間(すなわち、リチャージ時間)を要するため、光照射時間内で時間が経過するほど、応答可能なSPADの数が減少することである。応答可能なSPADの数の減少は、照射光強度が大きいほど顕著である。
【0038】
このため、SPADが受光した光の強度によらずに立上り時間Tuを一定にするためには、信号強度に基づいて、立上り時間Tuの補正を行うとよい。
S70において、具体的には、CPU51は、まず、S50で算出した信号強度を用いて、ROM52に記憶されている信号強度立上り時間補正マップMP1を参照することによって、信号強度立上り時間補正量を算出する。信号強度立上り時間補正マップMP1は、例えば
図6に示すように、信号強度と立上り時間補正量との対応関係を設定する。
図6に示す信号強度立上り時間補正マップMP1は、例えば、中間の基準強度Ic1を基準として立上り時間Tuを一定とする場合における信号強度と立上り時間補正量との対応関係を示す。すなわち、信号強度が基準強度Ic1より小さい場合には、信号強度立上り時間補正量の符号が負であり、信号強度と基準強度Ic1との差が大きくなるほど信号強度立上り時間補正量の絶対値が大きくなる。一方、信号強度が基準強度Ic1より大きい場合には、信号強度立上り時間補正量の符号が正であり、信号強度と基準強度Ic1との差が大きくなるほど信号強度立上り時間補正量の絶対値が大きくなる。これにより、信号強度が基準強度Ic1より小さい場合には、立上り時間Tuが短くなるように補正され、信号強度が基準強度Ic1より大きい場合には、立上り時間Tuが長くなるように補正される。
【0039】
そしてCPU51は、算出した信号強度立上り時間補正量と、立上り時間Tuとの加算値を算出し、この加算値を補正立上り時間とする。これにより、S70における立上り時間Tuの補正が完了する。
【0040】
次にCPU51は、
図3に示すように、S80にて、立下り時間Tdを補正する。
図7は、物体までの距離と照射光強度とを変化させず、太陽光の光強度(以下、太陽光強度)を変化させた場合における受光波形を示す図である。
図7は、太陽光強度の大きい順に、受光波形W11,W12,W13を示す。
【0041】
図8は、
図7において太陽光による応答の影響を補正した受光波形を示す図である。
図8は、太陽光強度の大きい順に、受光波形W21,W22,W23を示す。点PT21,
PT22,PT23はそれぞれ、受光波形W21,W22,W23における立下りの半値位置を示す。点PT21,PT22,PT23で示すように、物体までの距離と照射光強度とが同一であるにも関わらず、太陽光強度が大きくなるほど、立下り時間Tdが早くなる。
【0042】
太陽光強度によって立下り時間Tdが変化する理由は以下の通りである。
SPADには、応答後にデッドタイムが存在する。すなわち、デッドタイムが経過するまでは、SPADが応答しても、その応答は外部から観測することができない。
【0043】
太陽光強度が一定の環境下では、デッドタイムから復帰するSPADと、応答するSPADとが平衡状態になる。しかし、照射部2からの信号光が物体で反射してSPADで受光されると、この平衡状態が崩れ、反射光がなくなるまで、SPADのデッドタイムからの復帰が阻害される(すなわち、外部からは観測されない再応答が生じる)。反射光がなくなり、デッドタイムが経過すると、反射光で応答したSPADと同じタイミングで復帰する。従って、見掛け上、反射光で応答した以上のSPADが復帰することとなり、立下りが早くなる。このため、太陽光強度が大きいほど、立下り時間Tdが早くなる。
【0044】
従って、太陽光強度によらずに立下り時間Tdを一定にするためには、ノイズ強度に基づいて、立下り時間Tdの補正を行うとよい。
S80において、具体的には、CPU51は、まず、S40で算出したノイズ強度を用いて、ROM52に記憶されているノイズ強度立下り時間補正マップMP2を参照することによって、ノイズ強度立下り時間補正量を算出する。ノイズ強度立下り時間補正マップMP2は、例えば
図9に示すように、ノイズ強度とノイズ強度立下り時間補正量との対応関係を設定する。
図9に示すノイズ強度立下り時間補正マップMP2は、例えば、中間の基準強度Ic2を基準として立下り時間Tdを一定とする場合におけるノイズ強度とノイズ強度立下り時間補正量との対応関係を示す。すなわち、ノイズ強度が基準強度Ic2より小さい場合には、ノイズ強度立下り時間補正量の符号が負であり、ノイズ強度と基準強度Ic2との差が大きくなるほどノイズ強度立下り時間補正量の絶対値が大きくなる。一方、ノイズ強度が基準強度Ic2より大きい場合には、ノイズ強度立下り時間補正量の符号が正であり、ノイズ強度と基準強度Ic2との差が大きくなるほどノイズ強度立下り時間補正量の絶対値が大きくなる。これにより、ノイズ強度が基準強度Ic2より小さい場合には、立下り時間Tdが短くなるように補正され、ノイズ強度が基準強度Ic2より大きい場合には、立下り時間Tdが長くなるように補正される。
【0045】
そしてCPU51は、算出したノイズ強度立下り時間補正量と、立下り時間Tdとの加算値を算出し、この加算値を補正立下り時間とする。これにより、S80における立下り時間Tdの補正が完了する。
【0046】
次にCPU51は、
図3に示すように、S90にて、パルス幅を算出する。具体的には、CPU51は、算出した補正立下り時間から、算出した補正立上り時間を減算した減算値を算出し、この減算値をパルス幅とする。
【0047】
CPU51は、S100にて、S90で算出したパルス幅が予め設定された算出判定値未満であるか否かを判断する。ここで、パルス幅が算出判定値未満である場合には、CPU51は、S110にて、立上り時間と立下り時間とを用いて、信号光を反射した物体までの距離(以下、物体距離)を算出し、S130に移行する。具体的には、CPU51は、S70で算出した補正立上り時間と、S80で算出した補正立下り時間との中間の時間を信号検出時間とし、この信号検出時間に基づいて、物体距離を算出する。
【0048】
一方、パルス幅が算出判定値以上である場合には、CPU51は、S120にて、立上
り時間を用いて、物体距離を算出し、S130に移行する。具体的には、CPU51は、S70で算出した補正立上り時間を信号検出時間とし、この信号検出時間に基づいて、物体距離を算出する。
【0049】
信号光を反射した物体がリフレクタまたは鏡などの高反射物体である場合には、距離測定装置1の表面またはミラーと高反射物体との間で信号光の多重反射が発生し、
図10に示すように、受光波形が異常になることがある。
【0050】
図10に示す波形W31は、多重反射が発生していない場合において信号光を受光することにより得られる信号波形である。
図10に示す波形W32,W33,W34は、多重反射が発生している場合において、複数の反射のそれぞれの信号光を受光することにより得られる信号波形である。
図10に示す波形W35は、多重反射が発生している場合に得られる信号波形である。波形W35は、多重反射により発生する波形(すなわち、波形W31,W32,W33,W34を含む複数の波形)を重ね合わせることにより得られる。
【0051】
多重反射が発生している場合における信号波形のパルス幅WD2は、多重反射が発生していない場合における信号波形のパルス幅WD1より広くなる。このため、パルス幅を用いて、多重反射に起因した波形異常を検出することが可能である。
【0052】
そして、S130に移行すると、CPU51は、
図3に示すように、画素指示値iに格納されている値が全画素数k以上であるか否かを判断する。ここで、画素指示値iに格納されている値が全画素数k未満である場合には、CPU51は、S140にて、画素指示値iに格納されている値に1を加算した加算値を画素指示値iに格納して、S20に移行する。
【0053】
一方、画素指示値iに格納されている値が全画素数k以上である場合には、CPU51は、距離測定処理を終了する。
このように構成された距離測定装置1は、照射部2と、受光アレイ部3と、計数部4および信号処理部5とを備える。
【0054】
照射部2は、パルス状の信号光を照射する。受光アレイ部3は、フォトンの入射によってパルス信号を出力する複数の光検知器31を備える。
計数部4および信号処理部5は、受光アレイ部3から出力される複数のパルス信号に従い、照射部2による信号光の照射タイミングを起点として、受光アレイ部3により検出される光の光強度の時間変化を示す画素ヒストグラムを作成する。
【0055】
信号処理部5は、作成された画素ヒストグラムに基づいて、信号光が受光アレイ部3により受光されていないときにおいて受光アレイ部3により検出される光の光強度を示すノイズ強度を算出する。
【0056】
信号処理部5は、作成された画素ヒストグラムに基づいて、受光アレイ部3で受光された信号光の光強度を示す信号強度を算出する。
信号処理部5は、作成された画素ヒストグラムに基づいて、受光アレイ部3により検出される信号光の立上り時間Tuと立下り時間Tdとを算出する。
【0057】
信号処理部5は、算出されたノイズ強度と、算出された信号強度とに基づいて、算出された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正する。具体的には、信号処理部5は、立上り時間Tuを信号強度に基づいて補正し、立下り時間Tdをノイズ強度に基づいて補正する。
【0058】
信号処理部5は、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。
このように距離測定装置1は、ノイズ強度と信号強度とに基づいて、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正し、更に、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。このため、距離測定装置1は、ノイズ強度および信号強度に起因した距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【0059】
また信号処理部5は、補正立上り時間および補正立下り時間に基づいて、信号光のパルス幅を算出する。また信号処理部5は、算出されたパルス幅が予め設定された算出判定値以上であるか否かを判断する。そして信号処理部5は、パルス幅の判断結果に応じて、物体距離の算出方法を切り替える。具体的には、信号処理部5は、パルス幅が算出判定値未満であると判断した場合には、補正立上り時間および補正立下り時間の両方を用いて物体距離を算出する。また信号処理部5は、パルス幅が算出判定値以上であると判断した場合には、補正立上り時間および補正立下り時間のうち、補正立上り時間のみを用いて物体距離を算出する。
【0060】
これにより、距離測定装置1は、高反射物体と距離測定装置1との間で信号光の多重反射が発生した場合に、この多重反射に起因した距離測定精度の低下を抑制することができる。
【0061】
なお、補正されていない立上り時間Tuおよび立下り時間Tdにより算出されたパルス幅は信号強度およびノイズ強度により変動するため、算出判定値を正しく設定することができない。一方、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdにより算出されたパルス幅は信号強度およびノイズ強度による変動が小さくなるため、算出判定値を正しく設定することができる。
【0062】
以上説明した実施形態において、計数部4およびS20,S30はヒストグラム作成部としての処理に相当し、画素ヒストグラムはヒストグラムに相当し、S40はノイズ強度算出部としての処理に相当し、S50は信号強度算出部としての処理に相当する。
【0063】
また、S60は信号時間算出部に相当し、S70,S80は強度補正部としての処理に相当し、S110,S120は距離算出部としての処理に相当する。
また、S90はパルス幅算出部としての処理に相当し、S100はパルス幅判断部としての処理に相当する。
【0064】
[第2実施形態]
以下に本開示の第2実施形態を図面とともに説明する。なお第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0065】
第2実施形態の距離測定装置1は、距離測定処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第2実施形態の距離測定処理は、
図11に示すように、S80の代わりにS82の処理が実行される点が第1実施形態と異なる。
【0066】
すなわち、S70の処理が終了すると、CPU51は、S82にて、立下り時間Tdを補正し、S90に移行する。
図12に示すように、SPAD61にフォトンが入射すると、SPAD61がブレイクダウンしてクエンチ抵抗62に電流が流れ、クエンチ抵抗62で電圧降下が生じるため、SPAD61の両端電圧V
SPADは一旦低下する。その後、両端電圧V
SPADは、クエンチ抵抗62を介してSPAD61がリチャージされることにより上昇し、SPAD6
1がフォトンの入射に応答可能な初期電圧に復帰する。
【0067】
SPAD61にフォトンが入射し、アバランシェ増倍が発生すると、SPAD61内でキャリアが時間の経過に伴い指数関数的に増加していく。このため、アバランシェ増倍が停止するまでは(例えば、
図12の電圧低下領域VR1)、SPAD61はフォトンの入射に応答できない。つまり、感度がない。また、SPAD61の感度は両端電圧V
SPADに依存性があるため、両端電圧V
SPADが低い領域(例えば、
図12の電圧上昇領域VR2)では感度が低い。
【0068】
そして、信号光の発光幅が短い場合には(すなわち、信号光の入射がSPAD61の感度が低いときに終了する場合には)、信号光に対する再応答が生じ難いため、
図13に示すように、受光波形の立上り時間が早くなると、受光波形の立下り時間も早くなる。
図13は、信号強度が大きい受光波形W41と、信号強度が小さい受光波形W42との立上り時点および立下り時点を示す。受光波形W41の立上り時点tu41は、受光波形W42の立上り時点tu42より早い。また、受光波形W41の立下り時点td41は、受光波形W42の立下り時点td42より早い。
【0069】
S82において、具体的には、CPU51は、まず、S50で算出した信号強度を用いて、ROM52に記憶されている信号強度立下り時間補正マップMP3を参照することによって、信号強度立下り時間補正量を算出する。信号強度立下り時間補正マップMP3は、例えば
図14に示すように、信号強度と信号強度立下り時間補正量との対応関係を設定する。
図14に示す信号強度立下り時間補正マップMP3は、例えば、中間の基準強度Ic3を基準として立下り時間Tdを一定とする場合における信号強度と信号強度立下り時間補正量との対応関係を示す。すなわち、信号強度が基準強度Ic3より小さい場合には、信号強度立下り時間補正量の符号が負であり、信号強度と基準強度Ic3との差が大きくなるほど信号強度立下り時間補正量の絶対値が大きくなる。一方、信号強度が基準強度Ic3より大きい場合には、信号強度立下り時間補正量の符号が正であり、信号強度と基準強度Ic3との差が大きくなるほど信号強度立下り時間補正量の絶対値が大きくなる。これにより、信号強度が基準強度Ic3より小さい場合には、立下り時間Tdが短くなるように補正され、信号強度が基準強度Ic3より大きい場合には、立下り時間Tdが長くなるように補正される。
【0070】
そしてCPU51は、算出した信号強度立下り時間補正量と、立下り時間Tdとの加算値を算出し、この加算値を補正立下り時間とする。これにより、S82における立下り時間Tdの補正が完了する。
【0071】
このように構成された距離測定装置1は、照射部2と、受光アレイ部3と、信号処理部5とを備える。
照射部2は、パルス状の信号光を照射する。受光アレイ部3は、フォトンの入射によってパルス信号を出力する複数の光検知器31を備える。
【0072】
信号処理部5は、受光アレイ部3で受光された信号光の光強度を示す信号強度を算出する。
信号処理部5は、受光アレイ部3により検出される信号光の立上り時間Tuと立下り時間Tdとを算出する。
【0073】
信号処理部5は、算出された信号強度に基づいて、算出された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正する。
信号処理部5は、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。
【0074】
このように距離測定装置1は、信号強度に基づいて、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正し、更に、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。このため、距離測定装置1は、信号強度に起因した距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【0075】
以上説明した実施形態において、S70,S82は強度補正部としての処理に相当する。
[第3実施形態]
以下に本開示の第3実施形態を図面とともに説明する。なお第3実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0076】
第3実施形態の距離測定装置1は、距離測定装置1の構成が変更された点と、距離測定処理が変更された点とが第1実施形態と異なる。
第3実施形態の距離測定装置1は、
図15に示すように、温度センサ7が追加された点が第1実施形態と異なる。
【0077】
温度センサ7は、受光アレイ部3の温度を検出し、検出結果を示す温度検出信号を信号処理部5へ出力する。
第3実施形態の距離測定処理は、
図16に示すように、S54の処理が追加された点と、S70,S80の代わりにS74,S84の処理が実行される点とが第1実施形態と異なる。
【0078】
すなわち、S50の処理が終了すると、CPU51は、S54にて、温度センサ7からの温度検出信号に基づいて、受光アレイ部3の温度を算出し、S60に移行する。
また、S60の処理が終了すると、CPU51は、S74にて、立上り時間Tuを補正する。さらにCPU51は、S84にて、立下り時間Tdを補正し、S90に移行する。
【0079】
図17の線VL1は、SPAD61の温度が高い時における両端電圧V
SPADの時間変化を示す。
図17の線VL2は、SPAD61の温度が低い時における両端電圧V
SPADの時間変化を示す。
図17の線VL3は、SPAD61の温度が高い時におけるパルス出力部63の出力電圧V
INVの時間変化を示す。
図17の線VL4は、SPAD61の温度が低い時におけるパルス出力部63の出力電圧V
INVの時間変化を示す。
【0080】
図17に示すように、アバランシェが停止するまでの時間はSPAD61の温度により変化する。このため、SPAD61にフォトンが入射してからパルス出力部63の出力電圧がローレベルになるまでの時間は、SPAD61の温度により変化する。
【0081】
そして、SPAD61の温度が低い時の立上り時間は、SPAD61の温度が高い時の立上り時間より早い。また、SPAD61の温度が低い時の立下り時間は、SPAD61の温度が高い時の立下り時間より早い。
【0082】
S74において、具体的には、CPU51は、まず、S54で算出した温度を用いて、ROM52に記憶されている温度立上り時間補正マップMP4を参照することによって、温度立上り時間補正量を算出する。温度立上り時間補正マップMP4は、例えば
図18に示すように、受光アレイ部3の温度と温度立上り時間補正量との対応関係を設定する。
【0083】
図18に示す温度立上り時間補正マップMP4は、例えば、中間の基準温度Tc1を基準として立上り時間Tuを一定とする場合における温度と温度立上り時間補正量との対応関係を示す。すなわち、温度が基準温度Tc1より低い場合には、温度立上り時間補正量
の符号が正であり、温度と基準温度Tc1との差が大きくなるほど温度立上り時間補正量の絶対値が大きくなる。一方、温度が基準温度Tc1より高い場合には、温度立上り時間補正量の符号が負であり、温度と基準温度Tc1との差が大きくなるほど温度立上り時間補正量の絶対値が大きくなる。
【0084】
これにより、温度が基準強度Tc1より低い場合には、立上り時間Tuが長くなるように補正され、温度が基準強度Tc1より高い場合には、立上り時間Tuが短くなるように補正される。
【0085】
そしてCPU51は、算出した温度立上り時間補正量と、立上り時間Tuとの加算値を算出し、この加算値を補正立上り時間とする。これにより、S74における立上り時間Tuの補正が完了する。
【0086】
S84において、具体的には、CPU51は、まず、S54で算出した温度を用いて、ROM52に記憶されている温度立下り時間補正マップMP5を参照することによって、温度立下り時間補正量を算出する。温度立下り時間補正マップMP5は、例えば
図18に示すように、受光アレイ部3の温度と温度立下り時間補正量との対応関係を設定する。
【0087】
図18に示す温度立下り時間補正マップMP5は、例えば、中間の基準温度Tc2を基準として立下り時間Tdを一定とする場合における温度と温度立下り時間補正量との対応関係を示す。すなわち、温度が基準温度Tc2より低い場合には、温度立下り時間補正量の符号が正であり、温度と基準温度Tc2との差が大きくなるほど温度立下り時間補正量の絶対値が大きくなる。一方、温度が基準温度Tc2より高い場合には、温度立下り時間補正量の符号が負であり、温度と基準温度Tc2との差が大きくなるほど温度立下り時間補正量の絶対値が大きくなる。
【0088】
これにより、温度が基準強度Tc2より低い場合には、立下り時間Tdが長くなるように補正され、温度が基準強度Tc2より高い場合には、立下り時間Tdが短くなるように補正される。
【0089】
そしてCPU51は、算出した温度立下り時間補正量と、立下り時間Tdとの加算値を算出し、この加算値を補正立下り時間とする。これにより、S84における立下り時間Tdの補正が完了する。
【0090】
このように構成された距離測定装置1は、照射部2と、受光アレイ部3と、温度センサ7と、信号処理部5とを備える。
照射部2は、パルス状の信号光を照射する。受光アレイ部3は、フォトンの入射によってパルス信号を出力する複数の光検知器31を備える。温度センサ7は、受光アレイ部3の温度を検出する。
【0091】
信号処理部5は、受光アレイ部3により検出される信号光の立上り時間Tuと立下り時間Tdとを算出する。
信号処理部5は、温度センサ7により検出された温度に基づいて、算出された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正する。
【0092】
信号処理部5は、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。
このように距離測定装置1は、受光アレイ部3の温度に基づいて、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正し、更に、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。このため、距離測定装置1は、受光アレイ部3の温度に起
因した距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【0093】
以上説明した実施形態において、温度センサ7は温度検出部に相当し、S74,S84は温度補正部としての処理に相当する。
[第4実施形態]
以下に本開示の第4実施形態を図面とともに説明する。なお第4実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0094】
第4実施形態の距離測定装置1は、距離測定装置1の構成が変更された点と、距離測定処理が変更された点とが第1実施形態と異なる。
第4実施形態の距離測定装置1は、
図15に示すように、第3実施形態の温度センサ7が追加された点が第1実施形態と異なる。
【0095】
第4実施形態の距離測定処理は、
図19に示すように、S54の処理が追加された点と、S70,S80の代わりにS76,S86の処理が実行される点とが第1実施形態と異なる。
【0096】
すなわち、S50の処理が終了すると、CPU51は、第3実施形態と同様にして、S54にて、温度センサ7からの温度検出信号に基づいて、受光アレイ部3の温度を算出し、S60に移行する。
【0097】
また、S60の処理が終了すると、CPU51は、S76にて、立上り時間Tuを補正する。さらにCPU51は、S86にて、立下り時間Tdを補正し、S90に移行する。
S76において、具体的には、CPU51は、まず、第1実施形態と同様に、S50で算出した信号強度を用いて、信号強度立上り時間補正マップMP1を参照することによって、信号強度立上り時間補正量を算出する。
【0098】
さらにCPU51は、第3実施形態と同様に、S54で算出した温度を用いて、温度立上り時間補正マップMP4を参照することによって、温度立上り時間補正量を算出する。
そしてCPU51は、算出した信号強度立上り時間補正量と、算出した温度立上り時間補正量と、立上り時間Tuとの加算値を算出し、この加算値を補正立上り時間とする。これにより、S76における立上り時間Tuの補正が完了する。
【0099】
S86において、具体的には、CPU51は、まず、第1実施形態と同様に、S40で算出したノイズ強度を用いて、ノイズ強度立下り時間補正マップMP2を参照することによって、ノイズ強度立下り時間補正量を算出する。
【0100】
さらにCPU51は、第2実施形態と同様に、S50で算出した信号強度を用いて、信号強度立下り時間補正マップMP3を参照することによって、信号強度立下り時間補正量を算出する。
【0101】
さらにCPU51は、第3実施形態と同様に、S54で算出した温度を用いて、温度立下り時間補正マップMP5を参照することによって、温度立下り時間補正量を算出する。
そしてCPU51は、算出したノイズ強度立下り時間補正量と、算出した信号強度立下り時間補正量と、算出した温度立下り時間補正量と、立下り時間Tdとの加算値を算出し、この加算値を補正立下り時間とする。これにより、S86における立下り時間Tdの補正が完了する。
【0102】
このように構成された距離測定装置1は、照射部2と、受光アレイ部3と、温度センサ7と、信号処理部5とを備える。
信号処理部5は、算出された信号強度と、算出されたノイズ強度と、温度センサ7により検出された温度とに基づいて、算出された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正する。具体的には、信号処理部5は、信号強度および温度に基づいて立上り時間Tuを補正し、信号強度、ノイズ強度および温度に基づいて立下り時間Tdを補正する。
【0103】
このように距離測定装置1は、信号強度、ノイズ強度および温度に基づいて、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正し、更に、補正された立上り時間Tuおよび立下り時間Tdに基づいて、物体距離を算出する。このため、距離測定装置1は、信号強度、ノイズ強度および温度に起因した距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【0104】
以上説明した実施形態において、S76,S86は強度補正部および温度補正部としての処理に相当する。
[第5実施形態]
以下に本開示の第5実施形態を図面とともに説明する。なお第5実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0105】
第5実施形態の距離測定装置1は、距離測定処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第5実施形態の距離測定処理は、
図20に示すように、S68の処理が追加された点と、S70,S80の代わりにS78,S88の処理が実行される点とが第1実施形態と異なる。
【0106】
すなわち、S60の処理が終了すると、CPU51は、S68にて、パルス幅から信号強度を算出する。具体的には、CPU51は、まず、S60で算出した立下り時間Tdから、S60で算出した立上り時間Tuを減算した減算値を算出し、この減算値をパルス幅とする。さらにCPU51は、算出したパルス幅を用いて、ROM52に記憶されている信号強度算出マップMP6を参照することによって、信号強度を算出する。信号強度算出マップMP6は、例えば
図21に示すように、パルス幅が長くなるほど信号強度が大きくなるようにパルス幅と信号強度との対応関係を設定する。
【0107】
S68の処理が終了すると、CPU51は、
図20に示すように、S78にて、立上り時間Tuを補正する。具体的には、CPU51は、まず、S68で算出した信号強度を用いて、信号強度立上り時間補正マップMP1を参照することによって、信号強度立上り時間補正量を算出する。そしてCPU51は、算出した信号強度立上り時間補正量と、立上り時間Tuとの加算値を算出し、この加算値を補正立上り時間とする。これにより、S78における立上り時間Tuの補正が完了する。
【0108】
次にCPU51は、S88にて、立下り時間Tdを補正し、S90に移行する。具体的には、CPU51は、まず、S68で算出した信号強度を用いて、信号強度立下り時間補正マップMP3を参照することによって、信号強度立下り時間補正量を算出する。そしてCPU51は、算出した信号強度立下り時間補正量と、立下り時間Tdとの加算値を算出し、この加算値を補正立下り時間とする。これにより、S88における立下り時間Tdの補正が完了する。
【0109】
このように構成された距離測定装置1は、パルス幅に基づいて、受光アレイ部3で検出可能な上限を超えた高い信号強度を算出することができる。なお、受光アレイ部3では、信号強度が所定の上限を超えると、フォトンの入射により応答するSPAD61の数が信号強度の増加に応じて変化しなくなる。
【0110】
これにより、距離測定装置1は、受光アレイ部3で検出可能な上限を超えた高い信号強度に基づいて、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdを補正することができる。このため、距離測定装置1は、信号強度に起因した距離測定結果の変動を抑制し、距離測定精度を向上させることができる。
【0111】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
[変形例1]
例えば上記実施形態では、補正マップを参照することによって立上り時間補正量および立下り時間補正量を算出する形態を示した。しかし、信号強度と立上り時間補正量との対応関係を示す式を用いて立上り時間補正量を算出するようにしてもよいし、ノイズ強度と立下り時間補正量との対応関係を示す式を用いて立下り時間補正量を算出するようにしてもよい。
【0112】
[変形例2]
上記実施形態では、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdの両方を補正する形態を示したが、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdの一方を補正するようにしてもよい。そして、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdのうち立上り時間Tuのみを補正する場合には、補正された立上り時間Tu(すなわち、補正立上り時間)と、補正されていない立下り時間Tdとに基づいて、物体距離を算出するようにしてもよい。また、立上り時間Tuおよび立下り時間Tdのうち立下り時間Tdのみを補正する場合には、補正された立下り時間Td(すなわち、補正立下り時間)と、補正されていない立上り時間Tuとに基づいて、物体距離を算出するようにしてもよい。
【0113】
[変形例3]
上記実施形態では、信号強度、ノイズ強度または温度と、立上り時間補正量または立下り時間補正量との対応関係が線形となっている補正マップを参照して立上り時間Tuまたは下り時間Tdを補正する形態を示した。しかし、信号強度、ノイズ強度または温度と、立上り時間補正量または立下り時間補正量との対応関係は線形でなくてもよい。
【0114】
[変形例4]
上記実施形態では、信号強度立下り時間補正量とノイズ強度立下り時間補正量と温度立下り時間補正量と立下り時間Tdとの加算値を算出し、この加算値を補正立下り時間とする形態を示した。しかし、信号強度立下り時間補正量とノイズ強度立下り時間補正量と立下り時間Tdとの加算値を補正立下り時間としてもよい。また、信号強度立下り時間補正量と温度立下り時間補正量と立下り時間Tdとの加算値を補正立下り時間としてもよい。また、ノイズ強度立下り時間補正量と温度立下り時間補正量と立下り時間Tdとの加算値を補正立下り時間としてもよい。
【0115】
本開示に記載の信号処理部5およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の信号処理部5およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の信号処理部5およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。信号処理部5に含まれる各部の機能を実現する手法
には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0116】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0117】
上述した距離測定装置1の他、当該距離測定装置1を構成要素とするシステム、当該距離測定装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、距離測定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0118】
1…距離測定装置、2…照射部、3…受光アレイ部、5…信号処理部、7…温度センサ、31…光検知器