(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240611BHJP
B60K 17/344 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 N
F16H57/04 Q
B60K17/344 B
(21)【出願番号】P 2020167257
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕三
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085044(JP,A)
【文献】特開2018-105448(JP,A)
【文献】実開平05-092568(JP,U)
【文献】特開2018-025259(JP,A)
【文献】特開平04-203655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0191168(US,A1)
【文献】実開昭61-054593(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 17/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤと、前記第1ギヤよりも低い位置に配設されるとともに前記第1ギヤに噛合する第2ギヤと、を有する動力伝達機構と、前記動力伝達機構を収容する収容空間を備えると共に、前記第1ギヤおよび前記第2ギヤをそれぞれ一対の軸受を介して支持するケースと、を備え、前記収容空間の下部には、前記第2ギヤの下部が浸かるように潤滑油が貯留され、前記第2ギヤの回転により前記潤滑油が掻き上げられて、前記第1ギヤ側に供給される動力伝達装置の潤滑構造であって、
前記ケースは、前記第2ギヤの軸方向一方側の側部を覆うとともに、前記第2ギヤの前記一対の軸受のうちの前記軸方向一方側の軸受が配置される縦壁部を備え、
前記縦壁部には、前記縦壁部を軸方向一方側に凹ませるとともに上下方向に延びて前記軸受に連通する凹部が設けられ、
前記凹部は、
前記軸方向一方側に位置する底面部と、
前記底面部から前記第2ギヤの回転方向前方側から後方側に向かうにつれて、前記軸方向一方側から前記軸方向他方側に傾斜する傾斜面部と、
前記傾斜面部から前記軸方向に突出すると共に、前記第2ギヤで掻き上げられた潤滑油の一部を、前記底面部に沿って前記軸受に供給するリブと、を有し、
前記リブの突出端部における前記第2ギヤの回転方向前方側の側端部は、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かって下方に傾斜しつつ、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かうにつれて前記第2ギヤの回転方向後方側から前方側に傾斜するように形成され、
前記リブと前記傾斜面部とによって形成される角部は、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かって下方に傾斜しつつ、前記傾斜面部の傾斜方向に沿って、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かって前記第2ギヤの回転方向後方側から前方側に傾斜する動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記突出端部の前記軸方向一方側の基端部は、前記第2ギヤの回転方向において、前記軸受の外周面の頂部近傍に配置される請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項3】
前記リブは、前記縦壁部の前記凹部よりも前記第2ギヤの回転方向後方側に配置されると共に、前記突出端部の前記第2ギヤの回転方向後方側の端部からさらに前記回転方向後方側に延びる延設部を有し、
前記延設部は、前記第2ギヤの歯面に沿った同心円状に形成される請求項1又は請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項4】
前記動力伝達装置は、変速機から出力されたトルクを車両の前輪と後輪とに分配するトランスファ装置を構成する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項5】
駆動源が車体前方側に配置されると共に、前記駆動源からの出力軸が車体前後方向に延びるように配置される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項6】
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤは、ヘリカルギヤであり、
前記第2ギヤの歯面の傾斜方向は、車両の前進走行時において、前記軸方向一方側の側部が回転方向の後方側となるように設定されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の動力伝達装置の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、駆動源から出力された動力を車軸に伝達する動力伝達装置が搭載される。また、車両は、動力伝達装置を構成するギヤや軸受等の要潤滑部に潤滑油を供給するための種々の潤滑構造を有する。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているトランスファ装置の潤滑構造では、駆動ギヤと駆動ギヤよりも下方に位置する被駆動ギヤとからなる動力伝達機構を収容するケースの下部に貯留された潤滑油を被駆動ギヤの回転により掻き上げ、ケース内の要潤滑部に潤滑油を供給する、いわゆる掻き上げ給油が行われる。
【0004】
このような相対的に下方に位置するギヤの回転による掻き上げを利用して潤滑を行うトランスファ装置の潤滑構造では、潤滑油の掻き上げ量はギヤの回転数とオイル貯留部の液面レベルとに依存する。具体的には、車両が低速で走行する際、ギヤの回転数が低下して潤滑油の掻き上げ量が減少することになり、攪拌抵抗及び重量の低減を図る観点から動力伝達装置のケース内に貯留される潤滑油の量を低減すると、潤滑油の掻き上げ量が減少しやすくなる。
【0005】
特許文献1に開示されているトランスファ装置の潤滑構造は、上述のように少ない掻き上げ量でも効率よくトランスファ装置のギヤ及び軸受を潤滑するために、ギヤの噛合い部近傍から軸受まで延びるオイルパスを備え、このオイルパスに供給された潤滑油を軸受に供給する構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、登坂、降坂、加減速、及び、左右旋回等においては、潤滑油の液面が路面に対して相対的に傾斜した所定傾斜状態となり、潤滑油の液面が路面に平行に配置される平行状態に比べて潤滑油の深さが低くなる側に位置する軸受で潤滑不足が生じやすくなる。
【0008】
これに対して、例えば、軸が車体前後方向に延びる動力伝達装置を備えた車両の降坂時においては、動力伝達装置のケースの軸方向に延びる壁からリブを突出させて、ギヤによって掻き上げられた潤滑油を捕捉すると共に、この潤滑油を潤滑不足となる軸受(車体後方側の軸受)に潤滑油を供給する技術が知られている。
【0009】
前述のように、潤滑油不足となる軸受が車体後方側の軸受である場合、当該軸受は、動力伝達装置のケースの本体とカバーとの合わせ面に対して軸方向において離れた位置に配置される。この場合、前記リブを車体前方側から車体後方側の軸受に向かうにつれて下方に傾斜させることが考えられる。しかしながら、通常、ケースは鋳造品から成るため、このようなリブを設けた場合、ケースの型抜きができずに成型できないという課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、ギヤの回転により潤滑油を掻き上げて要潤滑部に供給する動力伝達装置の潤滑構造において、動力伝達装置のケース内における潤滑油の貯留量の低減を図りつつ、潤滑油の液面がケースに対して相対的に傾斜する場合においても良好な潤滑を実現する動力伝達装置の潤滑構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第1ギヤと、前記第1ギヤよりも低い位置に配設されるとともに前記第1ギヤに噛合する第2ギヤと、を有する動力伝達機構と、前記動力伝達機構を収容する収容空間を備えると共に、前記第1ギヤおよび前記第2ギヤをそれぞれ一対の軸受を介して支持するケースと、を備え、前記収容空間の下部には、前記第2ギヤの下部が浸かるように潤滑油が貯留され、前記第2ギヤの回転により前記潤滑油が掻き上げられて、前記第1ギヤ側に供給される動力伝達装置の潤滑構造であって、前記ケースは、前記第2ギヤの軸方向一方側の側部を覆うとともに、前記第2ギヤの前記一対の軸受のうちの前記軸方向一方側の軸受が配置される縦壁部を備え、前記縦壁部には、前記縦壁部を軸方向一方側に凹ませるとともに上下方向に延びて前記軸受に連通する凹部が設けられ、前記凹部は、前記軸方向一方側に位置する底面部と、前記底面部から前記第2ギヤの回転方向前方側から後方側に向かうにつれて、前記軸方向一方側から前記軸方向他方側に傾斜する傾斜面部と、前記傾斜面部から前記軸方向に突出すると共に、前記第2ギヤで掻き上げられた潤滑油の一部を、前記底面部に沿って前記軸受に供給するリブと、を有し、前記リブの突出端部における前記第2ギヤの回転方向前方側の側端部は、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かって下方に傾斜しつつ、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かうにつれて前記第2ギヤの回転方向後方側から前方側に傾斜するように形成され、前記リブと前記傾斜面部とによって形成される角部は、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かって下方に傾斜しつつ、前記傾斜面部の傾斜方向に沿って、前記軸方向他方側から前記軸方向一方側に向かって前記第2ギヤの回転方向後方側から前方側に傾斜する動力伝達装置の潤滑構造を提供する。
【0012】
この構成によれば、第2ギヤによって掻き上げられた潤滑油は、第1ギヤに掻き上げ給油されると共に、掻き上げられた潤滑油の一部は、リブの上面又は下面に供給される。リブに供給された潤滑油は、リブの傾斜(突出端部の側端部及び角部の傾斜)に沿って第2ギヤの回転方向後方側から前方側に向かいつつ、凹部の底面部側に流れる。底面部側に供給された潤滑油は、底面部に沿って下方に移動し、第2ギヤの軸方向一方側の軸受に供給される。
【0013】
例えば、リブに供給された潤滑油が凹部の底面部側に流れるように、リブの上面を軸方向に対して傾斜させると、ケースが鋳造によって成型される場合、型抜きできない構造となる。これに対して、本願発明において、リブの突出端部及びリブと傾斜面部の角部は、軸方向一方側が軸方向他方側よりも下に位置するように傾斜し、かつ、軸方向一方側から軸方向他方側に向かって径方向外側に広がるように形成されている。これにより、リブの軸方向の各断面が軸方向に平行に形成されているので、例えば、鋳造によって成型されたケースを型抜きすることができる。
【0014】
また例えば、動力伝達装置の軸が車体前後方向に延びるように配置された場合は、軸方向に対する側端部の傾斜角度を最大登坂角度又は降坂角度以上に設定し、動力伝達装置の軸が車体幅方向に配置される場合は、軸方向に対する側端部の傾斜角度を最大左右旋回角度以上に設定される。これにより、最大登坂降坂、左右旋回時に動力伝達装置が傾斜した場合においても、リブが軸方向他方側から軸方向一方側に向かって下方に傾斜する状態が維持されるので、軸受に潤滑油を供給しやすい。
【0015】
前記突出端部の前記軸方向一方側の基端部は、前記第2ギヤの回転方向において、前記軸受の外周面の頂部近傍に配置されてもよい。
【0016】
この構成によれば、軸受の外周面の頂部側から潤滑油を供給できるので、軸受の頂部に対して第2ギヤの回転方向一方側のみに潤滑油が供給される等の偏った潤滑が抑制され、軸受が効率的に潤滑され得る。
【0017】
前記リブは、前記縦壁部の前記凹部よりも前記第2ギヤの回転方向後方側に配置されると共に、前記突出端部の前記第2ギヤの回転方向後方側の端部からさらに前記回転方向後方側に延びる延設部を有し、
前記延設部は、前記第2ギヤの歯面に沿った同心円状に形成されてもよい。
【0018】
この構成によれば、延設部が第2ギヤの歯面に沿った同心円状に形成されているので、第2ギヤで掻き上げられた潤滑油を効率よくリブに導入できる。
【0019】
前記動力伝達装置は、変速機から出力されたトルクを車両の前輪と後輪とに分配するトランスファ装置を構成してもよい。
【0020】
この構成によれば、動力伝達装置の潤滑構造がトランスファ装置において好適に適用される。
【0021】
駆動源が車体前方側に配置されると共に、前記駆動源からの出力軸が車体前後方向に延びるように配置されてもよい。
【0022】
この構成によれば、車両の登坂時又は降坂時において潤滑油が不足する軸受に潤滑油を供給できる。
【0023】
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤは、ヘリカルギヤであり、
前記第2ギヤの歯面の傾斜方向は、車両の前進走行時において、前記軸方向一方側の側部が回転方向の後方側となるように設定されてもよい。
【0024】
この構成によれば、第1ギヤ及び第2ギヤにヘリカルギヤの歯面を備えたトランスファ装置においても好適に適用される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ギヤの回転により潤滑油を掻き上げて要潤滑部に供給する動力伝達装置の潤滑構造において、動力伝達装置のケース内における潤滑油の貯留量の低減を図りつつ、潤滑油の液面がケースに対して相対的に傾斜する場合おいても良好な潤滑を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の潤滑構造を適用した車両のトランスファ装置を示す概略図。
【
図2】本実施形態における動力伝達装置の潤滑構造を適用したトランスファ装置を示す断面拡大図。
【
図3】本実施形態における動力伝達装置の潤滑構造を適用したトランスファ装置のケースの本体を取り除いた斜視図。
【
図4】
図2におけるIV-IV矢視で示すトランスファ装置のトランスファケースのカバーを取り除いたときの正面図。
【
図5】オイルパスの(a)斜視図、(b)
図5(a)におけるb-b線に沿った断面図、(c)
図5(a)におけるc-cに沿った断面図。
【
図6】
図3におけるVI-VI線に沿った断面拡大図。
【
図8】
図4におけるVIII-VIII線に沿った断面拡大図。
【
図10】
図4における矢印Xで示すトランスファケースのカバーの単体の背面図。
【
図12】車両が前方に向かって下向きに傾斜した時における本発明の実施形態に係るトランスファ装置の潤滑構造を示す
図4におけるIX-IX線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造を説明する。
【0028】
図1に示すように、本発明の実施形態における動力伝達装置としてのトランスファ装置が搭載された四輪駆動車1は、フロントエンジン・リアドライブ車ベースの四輪駆動車であり、車体前部に駆動源としてのエンジン2と変速機3とが軸心が車体前後方向に延びるように配置されている。
【0029】
変速機3の車体後方には、トランスファ装置10が設けられており、該トランスファ装置10には、変速機から出力される駆動力を車体後方側(軸方向一方側)に延びる後輪用出力軸11と、該後輪用出力軸11と平行に配置されて駆動力を前輪に出力する前輪用出力軸12と、が設けられている。
【0030】
後輪用出力軸11上には、カップリング13と、該カップリング13の車体前方側(軸方向他方側)に配置されるとともにカップリング13から取り出された駆動力を前輪用出力軸12に伝達する第1ギヤとしての駆動ギヤ21と、カップリング13と駆動ギヤ21との間に配置されるダンパ14とが設けられている。
【0031】
前輪用出力軸12上には、駆動ギヤ21に噛み合う第2ギヤとしての被駆動ギヤ22が設けられ、カップリング13によって取り出された前輪用の駆動力は、駆動ギヤ21と被駆動ギヤ22を介して前輪用出力軸12に伝達される。
【0032】
駆動ギヤ21と、被駆動ギヤ22とは、ヘリカルギヤで形成されるとともに、動力伝達機構20を構成している。
【0033】
前輪用出力軸12は、自在継手30を介して車体前方に延びる前輪用プロペラシャフト40に連結されている。前輪用プロペラシャフト40は、自在継手50を介して前輪用差動装置60の入力軸61に連結され、入力軸61は、左右の前輪にそれぞれ連結された車軸62、62に連結されている。
【0034】
カップリング13によって取り出された駆動力は、駆動ギヤ21および被駆動ギヤ22を介して前輪用出力軸12に伝達され、該前輪用出力軸12から前輪用プロペラシャフト40および前輪用差動装置60を介して前輪に伝達される。四輪駆動車1では、カップリング13は、前輪と後輪とのトルク配分を前輪:後輪=0:100~50:50の範囲で可変できるようになっている。なお、カップリング13の作動は、図示しない制御ユニットによって制御される。
【0035】
次に、
図2を参照しながら、本発明の実施形態に係るトランスファ装置10についてさらに詳細に説明する。
【0036】
トランスファ装置10のケース70は、
図2に示すように、本体71と、該本体71の変速機3側を覆うカバー72とが複数のボルトBで締結されて形成されている。
【0037】
トランスファケース70内には、変速機3からの入力軸3aに連結された後輪用出力軸11と、該後輪用出力軸11と平行に設けられた前輪用出力軸12とが回転可能に支持されている。トランスファケース70の本体71とカバー72との間には、動力伝達機構20を形成する駆動ギヤ21および被駆動ギヤ22が収容される収容空間Z1が形成されている。
【0038】
駆動ギヤ21は中空軸状で後輪用出力軸11上に設けられ、被駆動ギヤ22は中空軸状で前輪用出力軸12上に設けられ、駆動ギヤ21と被駆動ギヤ22とは互いに噛み合った状態で配置されている。
【0039】
駆動ギヤ21は、外周面に斜歯が形成された歯部21aと、該歯部21aの内周側から一体的に車体前方側(軸方向他方側)および車体後方側(軸方向一方側)にそれぞれ延びる円筒状の前方側円筒部21bおよび後方側円筒部21cとが備えられている。駆動ギヤ21は、前方側円筒部21bおよび後方側円筒部21cの外周側に設けられた一対の軸受81,82を介してトランスファケース70に回転可能に支持されている。
【0040】
一対の軸受81,82のうち、車体前方側の軸受81のアウタレース81aは、トランスファケース70のカバー72に設けられた円形の凹部でなる圧入部73に圧入されている。車体後方側の軸受82のアウタレース82aは、トランスファケース70の本体71に設けられた円形の凹部でなる圧入部74に圧入されている。
【0041】
軸受81の車体前方側の端部には、該軸受81のアウタレース81aに接するとともに、カバー72の圧入部73の内周面から、トランスファ装置10の後輪用出力軸11の外周面に向かって延びるプレート部材85が設けられて、軸受81の軸方向(車体前後方向)の位置決めがされている。
【0042】
被駆動ギヤ22は、外周面に斜歯が形成された歯部22aと、該歯部22aの内周側、かつ、車体後方側の端部から内周側に延びる縦面部22bと、該縦面部22bの内周側の端部から車体前方側(軸方向他方側)および車体後方側(軸方向一方側)にそれぞれ延びる円筒状の前方側円筒部22cおよび後方側円筒部22dとを備えている。被駆動ギヤ22は、歯部22aの内周側および後方側円筒部22dの外周側に設けられた一対の軸受83,84を介してトランスファケース70に回転可能に支持されている。
【0043】
一対の軸受83,84のうち、車体前方側の軸受83は、被駆動ギヤ22の径方向にみて駆動ギヤ21と被駆動ギヤ22の噛み合い部Gの下方に配置されている。車体前方側の軸受83のインナレース83aは、トランスファケース70のカバー72に設けられた円形の凹部でなる圧入部75に圧入されている。一方、車体後方側の軸受84のアウタレース84aは、トランスファケース70の本体71に設けられた円形の凹部でなる圧入部76に圧入されている。
【0044】
前述の収容空間Z1の下部には、動力伝達機構20を潤滑するための潤滑油が、被駆動ギヤ22の下部が浸かるように貯留されている。なお、
図2に示すように、トランスファ装置10には、動力伝達機構20が収容されている収容空間Z1の内圧の上昇を抑制するためのブリーザ機構が設けられており、該ブリーザ機構の外部との開口部79は、駆動ギヤ21よりも車体前方側に設けられている。
【0045】
被駆動ギヤ22の前方側および後方側円筒部22c,22dの内周面には、前輪用出力軸12がスプライン嵌合されて連結されている。前輪用出力軸12は、自在継手30を介して前輪用プロペラシャフト40に連結され、前輪用出力軸12の車体前方側に、自在継手30の外側継手部材31が一体的に形成されている。
【0046】
自在継手30は、前輪用出力軸12に一体的に形成された外側継手部材31と、前輪用プロペラシャフト40に結合された内側継手部材32と、外側継手部材31と内側継手部材32との間に介装されて外側継手部材31と内側継手部材32との間で動力を伝達するボール33と、外側継手部材31の内周面と内側継手部材32の外周面との間に配置されてボール33を保持するケージ34とを備え、前輪用出力軸12と前輪用プロペラシャフト40との間で動力を伝達することができるようになっている。
【0047】
トランスファ装置10にはまた、トランスファケース70に、複数のシール部材71a,71b,72a,72bが配設され、該トランスファケース70内の潤滑油が外部に漏洩することが防止されている。具体的には、カバー72と後輪用出力軸11との間にシール部材72aが配設され、カバー72と被駆動ギヤ22の前方側円筒部22cとの間にシール部材72bが配設され、本体71と後輪用出力軸11上に設けられたダンパ14から延びる動力伝達部材14aとの間にシール部材71aが配設され、本体71と被駆動ギヤ22の後方円筒部22dとの間にシール部材71bが配設されている。
【0048】
図3に示すように、トランスファ装置10は、収容空間Z1に貯留された潤滑油を被駆動ギヤ22の歯面で掻き上げるとともに飛散させて、駆動ギヤ21側に供給することで潤滑される。なお、本実施形態においては、被駆動ギヤ22のヘリカルギヤの歯面22a’が回転方向R1の前方側となる方の側部22eが、車体前方側となるように形成されている。
【0049】
被駆動ギヤ22の歯面22a’の潤滑油は、静的な状態において被駆動ギヤ22の歯面22a’の傾斜に沿って矢印R2方向に流れようとするが、被駆動ギヤ22は、矢印R1方向に回転しているので、潤滑油は、車体後方側には飛散しやすく、車体前方側には、飛散が少なくなっている。
【0050】
上述のような潤滑油の供給の偏りを解消するために、動力伝達機構20には、車体前方側に潤滑油を供給するための潤滑油案内構造が設けられている。
【0051】
ここで、
図3~
図11を用いて、トランスファ装置の車体前方側における潤滑油構造について詳しく説明する。
【0052】
まず、
図3~
図8を参照しながら、潤滑構造の一部を構成するオイルパス90について説明する。
図3および
図4に示すように、オイルパス90は、被駆動ギヤ22の駆動ギヤ21との噛み合い部Gの回転方向後方側に取り付けられている。
図5に示すように、オイルパス90は、オイル取入部91と、オイル受け部92と、分岐案内部93と、取付部94とを備えている。
【0053】
オイル取入部91は、オイル流入端91aから被駆動ギヤ22の回転方向前方に向かって上り勾配で傾斜して上流端91bまで延びる樋状の形状を有している。オイル取入部91のオイル流入端91aは、
図4に示すように、被駆動ギヤ22の外周面の頂部と略同じ位置に配置されている。オイル取入部91は、
図6に示すように、被駆動ギヤ22における車体後方側(被駆動ギヤ22の軸方向一方側)の側部22fに片寄って配置されている。このため、被駆動ギヤ22により掻き上げられて車体後方に片寄って移動する潤滑油を受け入れることができる。
【0054】
オイル受け部92は、底部92a及び両側壁部92bを備えた桶状の形状を有している。オイル受け部92は、
図6に示すように、車体後方側(軸方向一方側)から車体前方側(軸方向他方側)に向けて延びている。換言すると、被駆動ギヤ22のヘリカル方向における回転方向の後方側となる一方側からヘリカル方向における回転方向の前方側となる他方側に向けて延びている。
【0055】
より詳しくは、オイル受け部92は、オイル取入部91の上流端91bから、被駆動ギヤ22の軸方向に車体前方側に向かって下り勾配で傾斜してオイル受け部92の下流端92hに位置する分岐案内部93まで延びる。オイル受け部92は、例えば、車両が30%(16.7度)の勾配を登坂するときでも潤滑油が車体前方側に流れるように、20度以上の所定の傾斜角α1を有している。なお、本実施形態においては、トランスファ装置の搭載角を考慮して傾斜角α1は25度に設定されている。
【0056】
オイル受け部92は、オイル取入部91の上流端91bから被駆動ギヤ22の軸方向に車体前方側に屈曲して、被駆動ギヤ22の車体前方側の側部22eを越えた位置まで延びる第1案内部92cと、該第1案内部92cの下端から被駆動ギヤ22の回転方向斜め前方に屈曲して、駆動ギヤ21の軸受81を越えたところまで延びる第2案内部92dとを有する(
図8参照)。
【0057】
第1案内部92cは、底部92aの幅方向の中央部から立ち上がって上下方向に延びる縦壁部96を備えている。縦壁部96は、車両の前進時における駆動ギヤ21及び被駆動ギヤ22の回転方向R31,R32の前方側に配置されている。縦壁部96の一側部側の面96aが駆動ギヤ21に対向するように配置され、縦壁部96の他側部側の面96bが被駆動ギヤ22に対向するように配置されている(
図4参照)。縦壁部96は、
図6に示すように、駆動ギヤ21及び被駆動ギヤ22の歯部21a,22aの歯幅よりも幅広に設定される。少なくとも縦壁部96の一部は、軸方向において(径方向に見て)駆動ギヤ21と被駆動ギヤ22の歯部21a,22aに重複している。縦壁部96は、両ギヤ21,22の回転により飛散する潤滑油が一側部側の面96aと他側部側の面96bによって捕捉されるように構成されている。縦壁部96の上端は、本体71に設けられた切欠き部71dに係合する。
【0058】
図5(b)は、
図5(a)における第1案内部92cのb-b線に沿った断面図である。
図5(b)に示すように、底部92aは、中央部が幅方向の両端部(側壁部92b)よりも下方に位置する一対の傾斜面92a1,92a2によって形成されている。底部92aは、縦壁部96の下端部から車体幅方向外側に向かって上り勾配で傾斜して、全体としてV字状に形成されている。一対の傾斜面92a1,92a2は、例えば、車両が0.3Gで左右旋回する場合において、底部92aの上面に供給された潤滑油は、底部92aの幅方向中央部(縦壁部96側)に流れるように、車体が傾斜する傾斜角(16.7度)以上の傾斜角α2(本実施形態においては、20度)に設定されている。底部92aの中央部は、後述の分岐案内部93の分岐点93cと一致するように設定されている。
【0059】
第2案内部92dの車体幅方向中央には、幅を縮幅させながら分岐案内部93に向かって延びる溝部92eが設けられている。より詳しくは、溝部92eは、第2案内部92dの幅方向中央部に設けられ、後述の第1分岐案内部93aと第2分岐案内部93bとの分岐点93cに向かって延びている。溝部92eは、第1案内部92c側から分岐案内部93側に向かって幅方向中央部側に傾斜する傾斜部92fと、傾斜部92fの分岐案内部93側の端部から一定の幅で分岐案内部93まで延びる等幅部92gとを有する。溝部92eは、第2案内部92dの分岐案内部93側(下流側)の部位に、底部92aの厚さを一定厚さで厚くした肉厚部を設け、肉厚部を凹ませることで形成されている。
【0060】
図5に示すように、分岐案内部93は、第2案内部92dの下端から駆動ギヤ22の回転方向に屈曲して、オイル流出端93dまで延びる第1分岐案内部93aと、第2案内部92dの下端から被駆動ギヤ22の反回転方向に屈曲して、オイル流出端93eまで延びる第2分岐案内部93bとを有している。
【0061】
第1分岐案内部93aと第2分岐案内部93bは、分岐点93cからそれぞれのオイル流出端93d,93eに向かって下り勾配に傾斜する樋状に形成されている。第1分岐案内部93aと第2分岐案内部93bの底部93f,93gは、例えば、車両が0.3Gで、左右旋回する場合でも、第1及び第2分岐案内部93a,93bに供給された潤滑油が、駆動ギヤ21及び被駆動ギヤ22の軸受81,83に供給されるように設定されている。なお、本実施形態においては、下流端92hを通って軸方向と上下方向とに直交する幅方向に延びる線分L1に対する傾斜角度α3は、左右旋回中に車体が傾斜する傾斜角(16.7度)以上の傾斜角(例えば、20度)に設定されている(
図5(c)参照)。
【0062】
取付部94は、オイル受け部92の車体後方側の側壁から下方に突出する板状の形状を有している。取付部94の車体後方側の側壁には、トランスファケース70の本体71に圧入される2つの取付用突起94a,94aが設けられている。
【0063】
オイルパス90は、
図4に示すように、取付部94の取付用突起94aをトランスファケース70の本体71に圧入することで、本体71に取り付けられる。オイル取入部91の上流端91bすなわちオイル受け部92の上端は、20度の傾斜を有するオイル受け部92が被駆動ギヤ22の外周面に干渉しないような高さに位置している。
【0064】
さらに、
図7を参照しながら、車体前方側における潤滑油案内構造の一部を構成するトランスファケース70のカバー72について説明する。
図7は、
図3における矢視VIIで示すトランスファ装置の軸受とオイルパス90の位置関係を示すカバー72単体を示す。
【0065】
図7に示すように、カバー72の駆動ギヤ21の圧入部73における、被駆動ギヤ22の圧入部75と対向する側の一部に、圧入部73を切り欠くように溝部78が設けられている。溝部78は、底面部78aと、下側面部78bと、上側面部78cを有している。溝部78は、圧入部73に設けられるプレート部材85よりも深く切り欠かれて、当該溝部78の底面部78aとプレート部材85との間に隙間S2が形成されるようになっている(
図8参照)。溝部78の下側面部78bと、カバー72の内周縁との間には仕切壁が78d設けられている。溝部78の底面部78aの一部には、さらに深く凹部78eが形成されて、プレート部材85と凹部78eとの間に第1分岐案内部93aが介在できるようになっている。
【0066】
仕切壁78dは、圧入部73の外周縁から被駆動ギヤ22側に延びる平坦部78eと、平坦部78eの被駆動ギヤ22側の端部からさらに被駆動ギヤ22側に延びるとともに下側に傾斜する傾斜部78fとを有する。
【0067】
カバー72の被駆動ギヤ22の車体前方側の側部側の壁部には、傾斜部78fの下端部から圧入部75の上端部に延びる溝部72cが設けられている。溝部72cの下端部は、圧入部75を切り欠いた切欠部75aに連続している。
【0068】
図8は、
図4におけるVIII-VIII線に沿った断面を示しており、カバー72の溝部78での、トランスファ装置10の潤滑油案内構造を示している。
【0069】
溝部78の凹部78eと軸受81のアウタレース81aおよびプレート部材85との間には隙間S1が設けられ、溝部78の底面部78aと、プレート部材85との間には隙間S2が設けられている。さらに、カバー72のシール部材72aとプレート部材85との間には隙間S3が設けられている。
【0070】
そして、プレート部材85の内周側の端部と、後輪用出力軸11との間には、隙間S4が設けられている。また、プレート部材85の車体後方側の面と、軸受81のインナレース81bおよび駆動ギヤ21の前方側円筒部21bとの間にも隙間S5が設けられている。
【0071】
また、駆動ギヤ21の前方側円筒部21bの内周側と後輪用出力軸11との間には隙間S6が設けられ、該駆動ギヤ21の内周側と後輪用出力軸11との間にはニードルベアリング86が配置されて、駆動ギヤ21が後輪用出力軸11上に回転可能に設けられている。
【0072】
駆動ギヤ21の後方側円筒部21cの内周側には、スプライン部21dが設けられており、ダンパ14から該駆動ギヤ21に駆動力を伝達する他の部材としての円筒状の動力伝達部材14aが、後輪用出力軸11上でダンパ14から車体前方側に延びるとともに、動力伝達部材14aの外周側には、スプライン部14bが設けられている。そして、駆動ギヤ21のスプライン部21dと動力伝達部材14aのスプライン部14bとが互いにスプライン嵌合されている。
【0073】
したがって、収容空間Z1と、隙間S1、S2、S3で形成された案内通路Sとが連通されているとともに、案内通路Sと、隙間S4、S5、S6と、該隙間S6に設けられたニードルベアリング86と、スプライン部21d(13a)とが連通状態とされて、潤滑油案内通路が形成されている。
【0074】
図3および
図8を用いて、トランスファ装置10の車体前方側における潤滑油案内構造の作用について説明する。
【0075】
まず、トランスファ装置10では、駆動時に駆動ギヤ21に嵌合された被駆動ギヤ22が回転するとともに、該被駆動ギヤ22によって収容空間Z1に貯留された潤滑油が掻き上げられて、駆動ギヤ21側が潤滑される。
【0076】
また、本実施形態においては、前述のように、被駆動ギヤ22のヘリカルギヤの歯面22a’が回転方向R1の前方側となる方の側部22eが、車体前方側となるように形成されている。これにより、被駆動ギヤ22の歯面22a’の潤滑油は、静的な状態において被駆動ギヤ22の歯面22a’の傾斜に沿って矢印R2方向に流れようとするが、被駆動ギヤ22は、矢印R1方向に回転しているので、潤滑油は、車体後方側には飛散しやすくなる。
【0077】
一方、被駆動ギヤ22の歯面22a’の回転方向R1前方側となる方の側部22e(車体前方側)には飛散しにくくなるが、被駆動ギヤ22の駆動ギヤ21との噛み合い部Gよりも回転方向R1の後方側に配設されたオイルパス90によって、被駆動ギヤ22が収容空間Z1から掻き上げた潤滑油が、被駆動ギヤ22の歯面22a’が回転方向R1前方側となる方の側部22e(車体前方側)に配置された駆動ギヤ21の軸受81及び被駆動ギヤ22の軸受83に供給されることになる。
【0078】
これにより、収容空間Z1のオイルレベルが低い場合や、被駆動ギヤ22がヘリカルギヤで形成されることにより掻き上げ量が少なくなる側の駆動ギヤ21の軸受81及び被駆動ギヤ22の軸受83にも潤滑油を供給することができる。
【0079】
具体的には、
図3に示すように、低速回転時には、被駆動ギヤ22によって掻き上げられた潤滑油は、被駆動ギヤの歯面22a’の傾斜に沿って車体後方側へ飛散する。車体後方側へ飛散する潤滑油は、被駆動ギヤ22の回転に伴ってオイルパス90のオイル流入端91aからオイル取入部91に受け入れられる。
【0080】
また、高速回転時には、被駆動ギヤ22によって掻き上げられた潤滑油は、被駆動ギヤの歯面22a’の傾斜に沿って車体後方側へ飛散するととともに、遠心力でトランスファケース70の本体71の内周面に向かって飛散し、被駆動ギヤ22の回転に伴って、トランスファケース70の本体71の内周面に沿って上方に移動し、オイル取入部91上に受け入れられる。
【0081】
オイル取入部91に受け入れられた潤滑油は、オイル取入部91をその慣性で上方に流れ、オイル取入部91の上流端91bで向きを変えて、オイル受け部92の第1案内部92c、第2案内部91d、第1分岐案内部93a及び第2分岐案内部93bを経て、オイル流出端93d,93eから駆動ギヤ21及び被駆動ギヤ22の軸受81,83の車体前方側に重力で流れ落ちる。
【0082】
第1分岐案内部93aを経由した潤滑油は、カバー72の圧入部73の溝部78の凹部78eと軸受81のアウタレース81aおよびプレート部材85との間に設けられた隙間S1と、溝部78の底面部78aとプレート部材85との間に設けられた隙間S2と、カバー72のシール部材72aとプレート部材85との間に設けられた隙間S3とで形成される案内通路Sを通り抜ける。
【0083】
そして、潤滑油は、プレート部材85の内周側の端部と後輪用出力軸11との間に設けられた隙間S4と、プレート部材65の車体後方側の面と軸受81のインナレース81bおよび駆動ギヤ21の前方側円筒部21bとの間に設けられた隙間S5によって、駆動ギヤ21の車体前方側の軸受81に供給される。
【0084】
また、後輪用出力軸11側にガイドされた潤滑油の一部は、駆動ギヤ21の前方側円筒部21bの内周側と後輪用出力軸11との間に設けられた隙間S6を通り抜けて、該駆動ギヤ21の内周側と後輪用出力軸11との間に配置されたニードルベアリング86を潤滑することができるようになっている。
【0085】
さらに、潤滑油の一部は、駆動ギヤ21の後方側円筒部21cの内周側のスプライン部21dと、ダンパ14から該駆動ギヤ21に駆動力を伝達する他の部材としての円筒状の動力伝達部材14aのスプライン部14bとのスプライン嵌合にも供給され、その後、駆動ギヤ21の車体後方側の軸受82に供給される。
【0086】
なお、案内通路Sと、軸受81とは、プレート部材85によって仕切られているため、案内通路Sに導入された潤滑油は、駆動ギヤ21の軸心側までガイドされ、被駆動ギヤ22の掻き上げによる潤滑油の供給が少ない駆動ギヤ21の軸心側から潤滑油を供給することができる。
【0087】
一方、第2分岐案内部93bを経由した潤滑油は、カバー72の仕切壁78dの傾斜部78fから溝部72cに沿って流れて切欠部75aによって、被駆動ギヤ22の軸受83に供給される。
【0088】
また、本発明の構成によれば、
図4に示すように、掻き上げ給油による潤滑油に加えて、駆動ギヤ21及び被駆動ギヤ22の回転によって飛散した潤滑油が、被駆動ギヤ22の駆動ギヤ21との噛み合い部Gよりも回転方向の後方側に配置された縦壁部96の両側面96a,96bで捕捉されて、縦壁部96を伝ってオイル受け部92の上面に誘導される。
【0089】
縦壁部96が設けられることによって、被駆動ギヤ22によって掻き上げられた液滴上の潤滑油以外のケース70内に飛散している例えば、噴霧状の潤滑油も捕捉することができるので、縦壁部96を備えないオイルパス90よりもより多くの潤滑油を車体前方側の軸受81,83に供給できる。したがって、ケース70内に貯留される潤滑油の量の低減を図りつつ、低速時の潤滑油の掻き上げ量が減少した場合においても、車体前方側の軸受81,83に潤滑油を供給できる。
【0090】
さらに、本実施形態におけるトランスファ装置のケースの本体71は、被駆動ギヤ22を支持する一対の軸受83,84のうちの車体後方側(軸方向一方側)の軸受84を潤滑するための潤滑構造を備えている。
図9~
図11を参照しながら、車体後方側における潤滑油案内構造の一部を構成する本体71の被駆動ギヤ22周辺の構造について説明する。
図9は、
図4におけるIX-IX線に沿った断面図である。
【0091】
図9に示すように、本体71は、被駆動ギヤ22の車体後方側の側部22f側を覆う縦壁部101を備えている。縦壁部101は、被駆動ギヤ22の車体後方側の側部22fに対向する対向面101bを有する。縦壁部101には、被駆動ギヤ22の後側円筒部22dを軸方向に貫通させる貫通穴101aが設けられている。
【0092】
縦壁部101における貫通穴101aよりも径方向外側の部位には、被駆動ギヤ22の後側円筒部22dに装着された軸受84を圧入するための圧入部76が設けられている。圧入部76は、貫通穴101aの外径側の縦壁部101を車体後方側に円形に凹ませて形成されている。
【0093】
図10に示すように、縦壁部101には、縦壁部101を車体後方側に凹ませるとともに、上下方向に延びて軸受84の上側に連通する凹部102が設けられている。凹部102は、圧入部76の上側の一部を径方向に切り欠くと共に、貫通穴101aから本体71の内縁部71cまで延びている。
【0094】
図9に示すように、圧入部76に対応する上下方向位置において、凹部102は、圧入部76の車体後方側の端部(軸受84のアウタレース84aの車体後方側の端部が当接する壁部)よりもさらに車体後方側まで縦壁部101を凹ませて形成されている。凹部102は、軸受84の頂部84bから頂部84bよりも被駆動ギヤ22の回転方向後方側の領域に形成されている(
図10参照)。
【0095】
図10及び
図11に示すように、凹部102は、底面部102aと、傾斜面部102bと、リブ103とを備える。底面部102aは、圧入部76の車体前方側の位置の切欠き範囲よりも狭い所定の幅(例えば、潤滑油が流れやすく、軸受84の頂部近傍に位置する領域を形成する幅)を有する。底面部102aの被駆動ギヤ22の回転方向における前方側の端部(幅方向内側の端部)は、軸受84の頂部84b近傍に位置する。底面部103aは、圧入部76に対応する上下方向位置において、軸受84よりも車体後方側に位置している。
【0096】
傾斜面部102bは、底面部102aから車体幅方向外側に向かうにつれて、車体前方側に傾斜している。換言すると、傾斜面部102bは、底面部102aから被駆動ギヤ22の回転方向後方側に向かうにつれて、車体前方側に傾斜している。傾斜面部102bは、底面部102a側(車体後方側)の部位が車体前方側の部位よりも軸受84の頂部84b側(回転方向前方側)に位置している。
【0097】
図9に示すように、リブ103は、底面部102a及び傾斜面部102bから車体前方側に向かって軸方向に突出している。本実施形態において、軸方向とは、被駆動ギヤ22の回転軸が伸びる方向と一致し、ケース70の本体71を型抜きするときの型抜き方向と一致する。リブ103は、本体71の圧入部76よりも上方に配置されている。
【0098】
リブ103の突出端部103aは、被駆動ギヤ22の回転方向後方側に位置すると共に車体前方側の端部を形成する前端部103bと、前端部103bよりも被駆動ギヤ22の回転方向前方側に位置する側端部103cとを有する。
【0099】
前端部103bは、対向面部101bの軸方向位置まで延び、対向面部101bと傾斜面部102bとで成るコーナー部102cから被駆動ギヤ22の回転方向前方側に向かうにつれて下方に傾斜している。前端部103bの上端103dは、被駆動ギヤ22の歯先よりも下方かつ歯底よりも上側に位置するように設定されている。前端部103bの下端103eは、被駆動ギヤ22の歯底よりも下側に位置するように設定されている。
【0100】
側端部103cは、前端部103bから被駆動ギヤ22の回転方向前方側に向かうにつれて車体後方側に向かって下方に傾斜している。側端部103cの軸方向の先端部103fは、前端部103bの下端103eに一致し、側端部103cの基端部103gは、底面部102aに位置している。基端部103gは、先端部103eよりも被駆動ギヤ22の回転方向前方側かつ下方に位置している。基端部103gは、被駆動ギヤ22の歯部22aよりも下方かつ軸受84の上側に位置している。
【0101】
側端部103cは、車体前方側から後方側に向かうにつれて車体幅方向内側に傾斜すると共に、車体前方側から後方側に向かうにつれて下方に傾斜する。換言すると、側端部103cは、軸方向他方側から一方側に向かうにつれて被駆動ギヤ22の回転方向前方側に向かって傾斜すると共に、軸方向他方側から一方側に向かうにつれて被駆動ギヤ22の歯部22aの上下方向位置から軸受84に向かって下方に傾斜する。
【0102】
側端部103cは、基端部103gから被駆動ギヤ22の回転方向後方側に向かうにつれて、底面部102a及び傾斜面部102bからの突出量が増大する。側端部103cは、被駆動ギヤ22の回転方向に対する位置によって突出量を変化させているので、先端部103fから基端部103gに向かう車体前後方向(軸方向)の傾斜が形成される。
【0103】
側端部103cの軸方向に対する傾斜角度α4は、車両が30%(16.7度)の勾配を降坂するときでも潤滑油が車体後方側に流れるように、20度以上の所定の傾斜角α4を有している。なお、本実施形態においては、トランスファ装置10の搭載角を考慮して傾斜角α4は25度に設定されている。側端部103cの軸方向に対する傾斜角度α4は、側端部103cに沿って引いた線分L2を軸方向及び上下方向に直交する車体幅方向から見たときの、軸方向に対する傾斜角度である。軸方向とは、被駆動ギヤ22の回転軸が伸びる方向と一致し、ケース70の本体71を型抜きするときの型抜き方向と一致する。
【0104】
リブ103と傾斜面部102bとによって形成される角部103hは、車体前方側の端部103iから車体後方側の端部103jに向かって下がり勾配に傾斜する(
図9参照)。換言すると、角部103dは、軸方向他方側から一方側に向かって下方に傾斜する。
【0105】
角部103dの車体前方側の端部103iは、突出端部103aの前端部103bの上端部103dと一致し、角部103dの車体後方側の端部103jは、底部102aに位置している(
図11参照)。角部103dは、車体前方側から車体後方側に向かうにつれて、車体幅方向内側に傾斜する。換言すると、角部103dは、傾斜面部102に沿って、軸方向他方側から一方側に向かうにつれて被駆動ギヤ22の回転方向後方側から前方側に傾斜する。
【0106】
リブ103の上面は、本体71の軸方向に延びて形成されている。リブ103の軸方向に沿った各断面は、角部103dから突出端部103aに向かって軸方向に延びるように形成されている。
【0107】
図10に示すように、リブ103は、前端部103cの上端103dから対向面部101bに沿って車体幅方向外側(被駆動ギヤ22の回転方向後方側)に延びる延設部103kを備える。延設部103kは、被駆動ギヤ22の外周に沿って、前端部103cの上端103dから被駆動ギヤ22の回転方向後方側延びるように同心円状に形成されている。
【0108】
図9、
図12を用いて、トランスファ装置10の車体後方側における潤滑油案内構造の作用について説明する。
【0109】
まず、トランスファ装置10では、駆動時に駆動ギヤ21に嵌合された被駆動ギヤ22が回転するとともに、該被駆動ギヤ22によって収容空間Z1に貯留された潤滑油が掻き上げられて、駆動ギヤ21側が潤滑される。
【0110】
被駆動ギヤ22によって掻き上げられた潤滑油は、駆動ギヤ21に掻き上げ給油されると共に、掻き上げられた潤滑油の一部は、
図9の矢印で示すように、リブ103の上面又は下面に供給される。リブ103に供給された潤滑油は、リブ103の傾斜(突出端部103aの側端部103c及び角部103hの傾斜)に沿って被駆動ギヤ22の回転方向前方側(車体幅方向内側)に向かいつつ、凹部102の底面部102a側(車体後方側)に流れる。底面部102a側に供給された潤滑油は、底面部102aに沿って下方に移動し、圧入部76に圧入された車体後方側の軸受84に供給される。
【0111】
リブ103に供給された潤滑油が凹部102の底面部103a側に流れるように、リブ103の上面を軸方向に対して傾斜させると、ケース70が鋳造によって成型される場合、型抜きできない構造となる。これに対して、本願発明は、リブ103の突出端部103aの側端部103c及びリブ103と傾斜面部102bの角部103hが、軸方向他方側(車体前方側)が軸方向一方側(車体後方側)よりも下に位置するように傾斜し、かつ、軸方向他方側(車体前方側)から軸方向一方側(車体後方側)に向かうにつれて被駆動ギヤ22の回転方向前方側(幅方向内側)に向かって傾斜するように形成されている。これにより、リブ103の軸方向の各断面が軸方向に延びるように形成されているので、鋳造によって成型されたケース70の本体71を型抜きすることができる。
【0112】
突出端部103aの側端部103cの軸方向に対する傾斜角度α4は、車両が30%(16.7度)の勾配を降坂するときでも潤滑油が車体後方側に流れるように、20度以上に設定されている。なお、本実施形態においては、トランスファ装置の搭載角を考慮して傾斜角α4は25度に設定されている。これにより、
図12に示すように、車両が30%の勾配を降坂する場合においても、リブ103の側端部103cの基端部103gが、先端部103fよりも下方に位置する状態が保持される。これにより、
図12に矢印で示すように、リブ103に供給された潤滑油は、リブ103の傾斜(突出端部103aの側端部103c及び角部103hの傾斜)に沿って被駆動ギヤ22の回転方向前方側(車体幅方向内側)に向かいつつ、凹部102の底面部102a側(車体後方側)に流れる。底面部102a側に供給された潤滑油は、底面部102aに沿って下方に移動し、圧入部76に圧入された車体後方側の軸受84に供給される。
【0113】
リブ103の基端部103gは、車体幅方向(被駆動ギヤ22の回転方向)において、軸受84の外周面の頂部84b近傍に配置されているので、軸受84の外周面の頂部84b側から潤滑油が供給される。その結果、軸受84の頂部84bに対して車体幅方向(被駆動ギヤ22の回転方向)一方側のみに潤滑油が供給される等の偏った潤滑が抑制され、軸受84が効率的に潤滑され得る。
【0114】
リブ103は、被駆動ギヤ22の外周面に沿った同心円状に延びる延設部103kを備えているので、被駆動ギヤ22で掻き上げられた潤滑油を効率よくリブ103に導入できる。
【0115】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0116】
本実施形態においては、動力伝達装置としてFRベースの四輪駆動車に搭載されるトランスファ装置を例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、平行に配置された入力軸と出力軸上に設けられた駆動ギヤと被駆動ギヤとを備えた変速機にも適用可能である。
【0117】
本実施形態においては、動力伝達装置として軸方向が車体前後方向に延びるトランスファ装置を例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、動力伝達装置の軸方向が車体幅方向に延びる変速機にも適用可能である。
【0118】
本実施形態においては、動力伝達装置としてFRベースの四輪駆動車に搭載されるトランスファ装置を例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、RRベースの四輪駆動車にも適用可能である。
【0119】
本実施形態においては、オイルパス90を用いて、車体前方側の軸受81,83に潤滑油を供給する例を挙げて説明したが、オイルパス90を備えていなくてもよい。
【0120】
本実施形態においては、車両の降坂時にオイル液面が浅くなる側(車体後方側)に凹部102及びリブ103が車体後方側に配置される例を挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、車両の登坂時にオイル液面が浅くなる側(車体前方側)に凹部及びリブが設定されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上のように、本発明によれば、ギヤの回転により潤滑油を掻き上げて要潤滑部に供給する動力伝達装置の潤滑構造において、動力伝達装置のケース内における潤滑油の貯留量の低減を図りつつ、潤滑油の液面がケースに対して相対的に傾斜する場合おいても良好な潤滑を実現できるので、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0122】
10 トランスファ装置(動力伝達装置)
20 動力伝達機構
21 駆動ギヤ(第1ギヤ)
22 被駆動ギヤ(第2ギヤ)
22f 軸方向一方側の側部
70 ケース
81,82,83,84 一対の軸受
84 軸方向一方側の軸受
84b 頂部
101 縦壁部
102 凹部
102a 底面部
102b 傾斜面部
103 リブ
103a 突出端部
103c 側端部
103g 基端部
103h 角部
103k 延設部
Z1 収容空間