(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】加工ウェハ、加工ウェハの製造方法、および、炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240611BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240611BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240611BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240611BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01L29/78 652C
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652D
H01L29/78 652H
H01L29/78 658E
H01L29/78 655A
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020174635
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 有一
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212259(JP,A)
【文献】特開2018-037533(JP,A)
【文献】特開2013-258333(JP,A)
【文献】特開2020-155687(JP,A)
【文献】特開2018-148029(JP,A)
【文献】特開2016-183087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリフト層(2)上にベース層(3)が配置され、前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチゲート構造が形成された炭化珪素半導体装置を形成する加工ウェハの製造方法であって、
炭化珪素で構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされている炭化珪素ウェハ(20)を用意することと、
前記炭化珪素ウェハ上に、エピタキシャル成長によって前記ドリフト層を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)を形成することと、
前記ドリフト層構成膜上に、エピタキシャル成長によって前記ベース層を構成するp型のベース層構成膜(3a)を形成することと、を行い、
前記ベース層構成膜を形成することでは、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関となるように前記ベース層構成膜を形成
し、
さらに、前記ベース層構成膜を形成することでは、前記炭化珪素ウェハをエピタキシャル膜成長装置(30)の成長室(44)に配置することと、前記成長室に、Si原料含有ガス、C原料含有ガス、およびp型不純物を含有するドーパントガスを導入することと、を行って前記ベース層構成膜をエピタキシャル成長させ、
前記Si原料含有ガスおよび前記C原料含有ガスは、前記Si原料含有ガスに含まれるSiに対する前記C原料含有ガスに含まれるCの比率であるC/Siが0.80以下となるように流量が調整される加工ウェハの製造方法。
【請求項2】
ドリフト層(2)上にベース層(3)が配置され、前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチゲート構造が形成された炭化珪素半導体装置を形成する加工ウェハの製造方法であって、
炭化珪素で構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされている炭化珪素ウェハ(20)を用意することと、
前記炭化珪素ウェハ上に、エピタキシャル成長によって前記ドリフト層を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)を形成することと、
前記ドリフト層構成膜上に、エピタキシャル成長によって前記ベース層を構成するp型のベース層構成膜(3a)を形成することと、を行い、
前記ベース層構成膜を形成することでは、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関となるように前記ベース層構成膜を形成
し、
さらに、前記ベース層構成膜を形成することでは、前記炭化珪素ウェハをエピタキシャル膜成長装置(30)の成長室(44)に配置することと、前記成長室に、Si原料含有ガス、C原料含有ガス、およびp型不純物を含有するドーパントガスを導入することと、を行って前記ベース層構成膜をエピタキシャル成長させ、
前記Si原料含有ガスおよび前記C原料含有ガスは、前記Si原料含有ガスに含まれるSiに対する前記C原料含有ガスに含まれるCの比率であるC/Siが0.75以下となるように流量が調整される加工ウェハの製造方法。
【請求項3】
前記ベース層構成膜を形成することでは、前記炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くなるように前記ベース層構成膜を形成する請求項1
または2に記載の加工ウェハの製造方法。
【請求項4】
トレンチゲート構造が形成された炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
炭化珪素で構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされている炭化珪素ウェハ(20)を用意することと、前記炭化珪素ウェハ上に、エピタキシャル成長によってドリフト層(2)を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)を形成することと、前記ドリフト層構成膜上に、エピタキシャル成長によってベース層(3)を構成するp型のベース層構成膜(3a)を形成することと、を行い、前記ベース層構成膜を形成することでは、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関となるように前記ベース層構成膜を形成した加工ウェハ(21)を用意することと、
前記ベース層構成膜の表層部に、n型の不純物領域構成膜(4a)を形成することと、
前記不純物領域構成膜および前記ベース層構成膜を貫通して前記ドリフト層構成膜に達するトレンチ(5)を形成することと、前記トレンチの壁面上にゲート絶縁膜(6)を形成することと、前記ゲート絶縁膜上にゲート電極(7)を形成することと、を行って前記トレンチゲート構造を形成することと、を行
い、
前記加工ウェハを用意することでは、前記ベース層構成膜を形成することの際、前記炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くなるように前記ベース層構成膜を形成し、
前記不純物領域構成膜を形成することでは、前記炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなっている前記ベース層構成膜に対し、イオン注入を行うことで前記不純物領域構成膜を形成する炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
トレンチゲート構造が形成された炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
炭化珪素で構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされている炭化珪素ウェハ(20)を用意することと、前記炭化珪素ウェハ上に、エピタキシャル成長によってドリフト層(2)を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)を形成することと、前記ドリフト層構成膜上に、エピタキシャル成長によってベース層(3)を構成するp型のベース層構成膜(3a)を形成することと、を行い、前記ベース層構成膜を形成することでは、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関となるように前記ベース層構成膜を形成した加工ウェハ(21)を用意することと、
前記ベース層構成膜の表層部に、n型の不純物領域構成膜(4a)を形成することと、
前記不純物領域構成膜および前記ベース層構成膜を貫通して前記ドリフト層構成膜に達するトレンチ(5)を形成することと、前記トレンチの壁面上にゲート絶縁膜(6)を形成することと、前記ゲート絶縁膜上にゲート電極(7)を形成することと、を行って前記トレンチゲート構造を形成することと、を行
い、
前記加工ウェハを用意することでは、前記ベース層構成膜を形成することの際、前記炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くなるように前記ベース層構成膜を形成し、
前記不純物領域構成膜を形成することでは、前記ベース層構成膜上に、エピタキシャル成長によって前記不純物領域構成膜を形成し、前記ベース層構成膜および前記不純物領域構成膜において、前記炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなるようにする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
ドリフト層(2)上にベース層(3)が配置され、前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチゲート構造が形成された炭化珪素半導体装置を形成する加工ウェハであって、
炭化珪素で構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされている炭化珪素ウェハ(20)と、
前記炭化珪素ウェハ上に形成され、エピタキシャル膜で構成されて前記ドリフト層を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)と、
前記ドリフト層構成膜上に形成され、エピタキシャル膜で構成されて前記ベース層を構成するp型のベース層構成膜(3a)と、を備え、
前記ベース層構成膜は、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関とされて
おり、さらに、前記炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くされていると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くされており、
前記複数の装置形成領域には、それぞれ前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチ(5)が形成され、
前記複数の装置形成領域に形成されたそれぞれの前記トレンチは、前記ベース層構成膜の中央部側の部分と外縁部側の部分とで前記ベース層構成膜と接する長さが異なっている加工ウェハ。
【請求項7】
前記ベース層構成膜は、前記複数の装置形成領域のそれぞれにおける前記ベース層構成膜のうちの前記トレンチゲート構造と接する部分の膜厚[μm]および前記不純物濃度[cm
-3]の関係より得られる近似線の傾きが-4.6×10
21~-1.6×10
21[cm
-3/cm]とされている請求項
6に記載の加工ウェハ。
【請求項8】
前記ベース層構成膜は、前記複数の装置形成領域のそれぞれにおける前記ベース層構成膜のうちの前記トレンチゲート構造と接する部分の膜厚[μm]および前記不純物濃度[cm
-3]の関係より得られる近似線の傾きが-3.9×10
21~-2.3×10
21[cm
-3/cm]とされている請求項
6に記載の加工ウェハ。
【請求項9】
前記ベース層構成膜は、前記複数の装置形成領域のそれぞれにおける前記ベース層構成膜のうちの前記トレンチゲート構造と接する部分の膜厚[μm]および前記不純物濃度[cm
-3]の関係より得られる近似線の傾きが-3.1×10
21[cm
-3/cm]とされている請求項
6に記載の加工ウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下では、単にSiCともいう)で構成されるエピタキシャル層を有する加工ウェハ、加工ウェハの製造方法、および炭SiC半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、p型のエピタキシャル層を用いたトレンチゲート型のSiC半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、このSiC半導体装置では、SiCで構成されるn+型の基板の上にn-型のドリフト層が形成され、ドリフト層上にp型のベース層が形成されている。そして、ベース層を貫通するように複数のトレンチが形成されており、各トレンチには、ゲート絶縁膜およびゲート電極が順に形成されている。これにより、トレンチゲート構造が形成されている。そして、ベース層の表層部には、トレンチに接するようにn+型のソース領域が形成されている。
【0003】
また、SiC半導体装置は、ベース層およびソース領域と電気的に接続されるように上部電極が形成され、n+型の基板と接続されるように下部電極が形成されている。
【0004】
このようなSiC半導体装置では、ゲート電極に所定の閾値電圧以上の電圧が印加されることにより、ベース層のうちのトレンチと接する部分にn型の反転層(すなわち、チャネル領域)が形成される。そして、ソース領域から反転層を介して電子がドリフト層に供給されることにより、上部電極と下部電極との間に電流が流れる。
【0005】
上記半導体装置は、以下のように製造される。まず、複数の装置形成領域を有し、分割されることで上記SiC半導体装置におけるn+型の基板を構成するSiCウェハを用意する。そして、SiCウェハ上に、ドリフト層を構成するドリフト層構成膜およびベース層を構成するベース層構成膜をエピタキシャル成長にて順に形成する。その後、ソース領域、トレンチゲート構造、上部電極、下部電極等を形成し、装置形成領域毎に分割することによって上記SiC半導体装置が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようにエピタキシャル成長させてベース層構成膜を形成する場合、各装置形成領域におけるベース層構成膜の膜厚や不純物濃度がばらつく可能性がある。そして、上記のようなSiC半導体装置では、チャネル領域を構成するベース層の膜厚や不純物濃度に依存して閾値電圧が変化する。このため、エピタキシャル成長させてベース層構成膜を形成し、その後に装置形成領域毎に分割することによってSiC半導体装置を製造する場合には、各SiC半導体装置の閾値電圧がばらつく可能性がある。
【0008】
本発明は上記点に鑑み、閾値電圧のばらつきを抑制できる加工ウェハ、加工ウェハの製造方法、およびSiC半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1および2は、ドリフト層(2)上にベース層(3)が配置され、ベース層を貫通してドリフト層に達するトレンチゲート構造が形成されたSiC半導体装置を形成する加工ウェハの製造方法であって、SiCで構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされているSiCウェハ(20)を用意することと、SiCウェハ上に、エピタキシャル成長によってドリフト層を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)を形成することと、ドリフト層構成膜上に、エピタキシャル成長によってベース層を構成するp型のベース層構成膜(3a)を形成することと、を行い、ベース層構成膜を形成することでは、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関となるようにベース層構成膜を形成する。
さらに、請求項1では、ベース層構成膜を形成することでは、炭化珪素ウェハをエピタキシャル膜成長装置(30)の成長室(44)に配置することと、成長室に、Si原料含有ガス、C原料含有ガス、およびp型不純物を含有するドーパントガスを導入することと、を行ってベース層構成膜をエピタキシャル成長させ、Si原料含有ガスおよびC原料含有ガスは、Si原料含有ガスに含まれるSiに対するC原料含有ガスに含まれるCの比率であるC/Siが0.80以下となるように流量が調整されるようにする。
請求項2では、さらに、ベース層構成膜を形成することでは、炭化珪素ウェハをエピタキシャル膜成長装置(30)の成長室(44)に配置することと、成長室に、Si原料含有ガス、C原料含有ガス、およびp型不純物を含有するドーパントガスを導入することと、を行ってベース層構成膜をエピタキシャル成長させ、Si原料含有ガスおよびC原料含有ガスは、Si原料含有ガスに含まれるSiに対するC原料含有ガスに含まれるCの比率であるC/Siが0.75以下となるように流量が調整されるようにする。
【0010】
トレンチゲート構造を有するSiC半導体装置の閾値電圧は、ベース層のうちのトレンチゲート構造と接する部分の長さ(すなわち、チャネル長)が長くなるほど大きくなり、不純物濃度が高くなるほど大きくなる。このため、膜厚の面内分布と不純物濃度の面内分布とが逆相関となるようにベース層構成膜を形成することにより、各装置形成領域を分割してSiC半導体装置を製造した際、各SiC半導体装置で閾値電圧Vthがばらつくことを抑制できる。
【0011】
請求項4および5は、トレンチゲート構造が形成されたSiC半導体装置の製造方法であって、炭化珪素で構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされている炭化珪素ウェハ(20)を用意することと、炭化珪素ウェハ上に、エピタキシャル成長によってドリフト層を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)を形成することと、ドリフト層構成膜上に、エピタキシャル成長によってベース層を構成するp型のベース層構成膜(3a)を形成することと、を行い、ベース層構成膜を形成することでは、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関となるようにベース層構成膜を形成した加工ウェハ(21)を用意することと、ベース層構成膜の表層部に、n型の不純物領域構成膜(4a)を形成することと、不純物領域およびベース層構成膜を貫通してドリフト層構成膜に達するトレンチ(5)を形成することと、トレンチの壁面上にゲート絶縁膜(6)を形成することと、ゲート絶縁膜上にゲート電極(7)を形成することと、を行ってトレンチゲート構造を形成することと、を行う。
さらに、請求項4は、加工ウェハを用意することでは、ベース層構成膜を形成することの際、炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くなるようにベース層構成膜を形成し、不純物領域構成膜を形成することでは、炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなっているベース層構成膜に対し、イオン注入を行うことで不純物領域構成膜を形成する。
また、請求項5は、加工ウェハを用意することでは、ベース層構成膜を形成することの際、炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くなるようにベース層構成膜を形成し、不純物領域構成膜を形成することでは、ベース層構成膜上に、エピタキシャル成長によって不純物領域構成膜を形成し、ベース層構成膜および不純物領域構成膜において、炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなるようにする。
【0012】
これによれば、各装置形成領域を分割してSiC半導体装置を製造した際、各SiC半導体装置で閾値電圧がばらつくことを抑制できる。
【0013】
請求項6は、ドリフト層(2)上にベース層(3)が配置され、ベース層を貫通してドリフト層に達するトレンチゲート構造が形成されたSiC半導体装置を形成する加工ウェハであって、SiCで構成され、複数の装置形成領域(R)を有し、n型またはp型とされているSiCウェハ(20)と、SiCウェハ上に形成され、エピタキシャル膜で構成されてドリフト層を構成するn型のドリフト層構成膜(2a)と、ドリフト層構成膜上に形成され、エピタキシャル膜で構成されてベース層を構成するp型のベース層構成膜(3a)と、を備え、ベース層構成膜は、膜厚の面内分布と、不純物濃度の面内分布とが逆相関とされており、さらに、炭化珪素ウェハの中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くされていると共に、中央部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より不純物濃度が高くされており、複数の装置形成領域には、それぞれベース層を貫通してドリフト層に達するトレンチ(5)が形成され、複数の装置形成領域に形成されたそれぞれのトレンチは、ベース層構成膜の中央部側の部分と外縁部側の部分とでベース層構成膜と接する長さが異なっている。
【0014】
これによれば、ベース層構成膜における膜厚の面内分布と不純物濃度の面内分布とが逆相関とされているため、各装置形成領域を分割してSiC半導体装置を製造した際、各SiC半導体装置で閾値電圧Vthがばらつくことを抑制できる。
【0015】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態におけるSiC半導体装置の断面図である。
【
図2A】
図1に示すSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2B】
図2Aに続くSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2C】
図2Bに続くSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図4】エピタキシャル膜成長装置の断面模式図である。
【
図5】サセプタの設置部にSiCウェハを設置した平面図である。
【
図6】設置部の中心からの距離と、ベース層構成膜の膜厚との関係を示す図である。
【
図7】設置部の中心からの距離と、ベース層構成膜の不純物濃度との関係を示す図である。
【
図8】チャネル長と、ベース層の不純物濃度との関係を示す図である。
【
図9A】第2実施形態におけるSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図9B】
図9Aに続くSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態のSiC半導体装置は、
図1に示されるように、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略)が形成されて構成されている。なお、SiC半導体装置は、特に図示しないが、セル領域、およびセル領域を囲むように形成された外周領域を有している。そして、MOSFETは、SiC半導体装置のうちのセル領域に形成されている。
【0019】
SiC半導体装置は、SiCで構成されるn+型の基板1を用いて構成されている。基板1の表面上には、SiCで構成される、n-型のドリフト層2およびp型のベース層3が順にエピタキシャル成長させられている。そして、ベース層3の表層部には、n+型のソース領域4が形成されている。なお、本実施形態では、ソース領域4は、イオン注入によって形成されている。また、本実施形態では、ソース領域4が不純物領域に相当する。
【0020】
基板1は、例えば、n型不純物濃度が1.0×1019/cm3とされ、表面が(0001)Si面とされている。ドリフト層2は、例えば、n型不純物濃度が0.5~2.0×1016/cm3とされ、厚さが5~14μmとされている。なお、本実施形態では、基板1がMOSFETにおけるドレイン層を構成する。
【0021】
ベース層3は、チャネル領域が形成される部分であり、例えば、p型不純物濃度が3.0×1017/cm3程度とされ、厚みが0.5~2μmとされている。ソース領域4は、ドリフト層2よりも高不純物濃度とされ、例えば、表層部におけるn型不純物濃度が2.5×1018~1.0×1019/cm3、厚さが0.5~2μmとされている。なお、ドリフト層2、ベース層3およびソース領域4の膜厚等は、任意であり、上記に限定されるものではない。
【0022】
また、ベース層3およびソース領域4を貫通してドリフト層2に達するようにトレンチ5が形成されている。そして、このトレンチ5の側面と接するように、上記のベース層3およびソース領域4が配置されている。なお、本実施形態のベース層3は、トレンチ5と接する部分の長さと膜厚とが等しくなるように形成されている。つまり、本実施形態のベース層3は、膜厚がチャネル長となる。また、
図1では、1本のトレンチ5のみを図示しているが、実際のトレンチ5は、複数本が紙面左右方向に等間隔に配置されたストライプ状に形成されている。
【0023】
トレンチ5の内壁面には、ゲート絶縁膜6が形成されている。ゲート絶縁膜6の表面には、ドープドPoly-Siにて構成されたゲート電極7が形成されている。そして、トレンチ5は、これらゲート絶縁膜6およびゲート電極7によって埋め尽くされている。本実施形態では、このようにしてトレンチゲート構造が構成されている。
【0024】
また、隣接するトレンチ5の間において、ソース領域4を挟んでトレンチ5の反対側には、p+型のコンタクト領域8が形成されている。そして、コンタクト領域8の下方には、ベース層3よりも深いp+型のディープ層9が形成されている。本実施形態のコンタクト領域8およびディープ層9は、一体的に構成されていると共にベース層3よりも高不純物濃度とされ、共に、p型不純物濃度が1.0×1018/cm3~1.0×1020/cm3とされている。
【0025】
ソース領域4の表面やゲート電極7の表面には、層間絶縁膜10が形成されている。層間絶縁膜10には、ソース領域4の一部およびコンタクト領域8を露出させるコンタクトホール10aが形成されている。そして、層間絶縁膜10上には、ソース領域4およびコンタクト領域8と電気的に接続される上部電極11が形成されている。
【0026】
本実施形態では、上部電極11は、例えば、Ni/Al等の複数の金属にて構成されている。そして、複数の金属のうちのn型SiC(すなわち、ソース領域4)を構成する部分と接触する部分は、n型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。また、複数の金属のうちの少なくともp型SiC(すなわち、コンタクト領域8)と接触する部分は、p型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。
【0027】
基板1の裏面側には、基板1と電気的に接続された第2電極に相当する下部電極12が形成されている。本実施形態では、このような構造により、nチャネルタイプの反転型であるトレンチゲート構造のMOSFETが構成されている。そして、このようなMOSFETが複数配置されることでセル領域が構成されている。
【0028】
以上が本実施形態におけるSiC半導体装置の構成である。このようなSiC半導体装置では、ゲート電極7に所定の閾値電圧Vth以上の電圧が印加されることにより、ベース層3のうちのトレンチ5と接する部分にn型の反転層(すなわち、チャネル領域)が形成される。そして、ソース領域4から反転層を介して電子がドリフト層2に供給されることにより、上部電極11と下部電極12との間に電流が流れる。
【0029】
また、本実施形態では、ディープ層9が形成されている。このため、ディープ層9とドリフト層2とのpn接合部での空乏層がドリフト層2側に大きく延びることになり、ドレイン電圧の影響による高電圧がゲート絶縁膜6に入り込み難くなる。したがって、ゲート絶縁膜6が破壊されることを抑制でき、高耐圧化を図ることができる。
【0030】
このようなSiC半導体装置において、閾値電圧Vthは、ベース層3のうちのトレンチ5と接する部分の長さ(すなわち、チャネル長)が長くなるほど大きくなる。つまり、本実施形態では、閾値電圧Vthは、ベース層3の膜厚が厚くなるほど大きくなる。また、閾値電圧Vthは、ベース層3の不純物濃度が高くなるほど反転層が形成され難くなるため、大きくなる。
【0031】
【0032】
まず、
図2Aおよび
図3に示されるように、複数の装置形成領域RがダイシングラインDLで区画され、ダイシングラインDLに沿って分割されることで上記基板1を構成するSiCウェハ20を用意する。
【0033】
そして、
図2Bに示されるように、SiCウェハ20の主面上に、SiCからなるドリフト層構成膜2aおよびベース層構成膜3aを順にエピタキシャル成長させる。本実施形態では、
図1に示すベース層3とソース領域4の厚さの和に相当する厚さのベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる。なお、ドリフト層構成膜2aは、装置単位に分割された際にドリフト層2を構成する膜であり、ベース層構成膜3aは、装置単位に分割された際にベース層3を構成する膜である。
【0034】
ここで、本実施形態のドリフト層構成膜2aおよびベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させるためのエピタキシャル膜成長装置30について、
図4を参照しつつ説明する。本実施形態では、エピタキシャル膜成長装置30として、成長室44を全体的に加熱しつつ、SiCウェハ20の面方向にガスが流れる、いわゆる横型ホットウォール装置を用いる。
【0035】
図4に示されるように、本実施形態のエピタキシャル膜成長装置30は、炉体40、ガス導入口50、ガス排出口60、サセプタ部70、および加熱部80等を備えた構成とされている。
【0036】
炉体40は、石英等で構成されるカバー41の内側に、断熱材42および被加熱部43が順に配置された構成とされており、内部に成長室44を構成する中空部を有した筒状とされている。なお、断熱材42および被加熱部43は、成長室44を略囲むようにカバー41の内側に配置されている。被加熱部43は、後述する加熱部80によって誘導加熱される部分であり、例えば、カーボン等で構成される。
【0037】
ガス導入口50は、エピタキシャル膜を構成するためのガスを炉体40の成長室44内に導入する入口となる部分であり、筒状である炉体40の一端部側に備えられている。そして、本実施形態では、ガス導入口50から、Si原料を含有するSi原料含有ガス、C原料を含有するC原料含有ガス、ドーパントガス、およびキャリアガス等が成長室44内に導入される。
【0038】
Si原料含有ガスとしては、例えば、シラン系ガスとして、SiH4(シラン)が用いられる他、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4等のエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)が用いられる。また、Si原料含有ガスとしては、例えば、シランに対してHClを添加したガスが用いられる。C原料ガスとしては、例えば、C3H8(プロパン)等が用いられる。
【0039】
ドーパントガスは、エピタキシャル膜の導電型を制御するためのガスである。そして、n型のドリフト層構成膜2aをエピタキシャル成長させる場合は、ドーパントガスとして、例えば、N2(窒素)を含むものが用いられる。p型のベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる場合は、ドーパントガスとして、TMA(トリメチルアルミニウム)を含むものが用いられる。
【0040】
キャリアガスは、SiやCを含まないガスが用いられ、例えば、H2(水素)を含むエッチング作用があるガスや、Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)等の不活性ガス(希ガス)が用いられる。これらSiやCを含まないガスを用いることにより、原料ガスの拡散を抑制することができる。そして、原料ガスの拡散を抑制することにより、不要なSi、C、もしくはSiC生成物が形成されることを抑制でき、パーティクル源が生成されることを抑制できる。
【0041】
ガス排出口60は、炉体40のうちのガス導入口50と反対側に配置されており、SiCウェハ20を通過した後の未反応ガス等を排出する。また、ガス排出口60は、成長室44内の雰囲気圧力を適宜調整できるように、図示しない吸引部等と接続されて成長室44を真空吸引できるようになっている。
【0042】
サセプタ部70は、円板状とされ、SiCウェハ20が設置される設置面を構成する設置部71と、設置部71の中央部から下方に延びる軸部72とを有しており、設置部71がガス導入口50とガス排出口60との間に位置するように配置されている。そして、サセプタ部70は、軸部72が図示しない回転機構に連結されることによって回転可能とされている。
【0043】
加熱部80は、炉体40を囲むように配置されたコイルで構成されている。そして、加熱部80は、交流電流が印加されることによって被加熱部43を誘導加熱する。これにより、成長室44内が所定温度に維持される。
【0044】
以上が本実施形態におけるエピタキシャル膜成長装置30の構成である。そして、ドリフト層構成膜2aおよびベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる場合には、SiCウェハ20を上記エピタキシャル膜成長装置30の設置部71に設置してエピタキシャル成長させる。本実施形態では、
図5に示されるように、設置部71の中心Cを基準として周方向に均等に3個のSiCウェハ20を配置し、3個のSiCウェハ20に対して同時にエピタキシャル成長させる。
【0045】
具体的には、まず、ガス排出口60を通じて真空吸引することによって成長室44内の圧力が5~10kPa程度となり、加熱部80によって成長室44が1600~1650℃程度となるようにする。また、サセプタ回転数が30~60rpmとなるようにする。
【0046】
そして、エピタキシャル成長させる際には、ガス導入口50から、Si原料含有ガスとしてのSiH4を25~30sccmの流量で成長室44内に導入し、C原料含有ガスとしてのC3H8を5.5~7.5sccmの流量で成長室44内に導入する。また、ガス導入口50から、キャリアガスとしてのH2を110~140Slmの流量で成長室44内に導入する。そして、n型のドリフト層構成膜2aをエピタキシャル成長させる際には、ガス導入口50からドーパントガスとしてのN2を1.0~1.5sccmの流量で成長室44内に導入する。p型のベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる際には、ガス導入口50からドーパントガスとしての200pmTMAを50~2000sccmの流量で成長室44内に導入する。これにより、各種ガスが成長室44内に導入され、SiCウェハ20の表面に、ドリフト層構成膜2aおよびベース層構成膜3aが順にエピタキシャル成長させられた加工ウェハ21が構成される。
【0047】
ここで、上記のように、トレンチゲート型のMOSFETを形成する場合、各装置形成領域Rにてベース層構成膜3aの膜厚および不純物濃度がばらつくと、各装置形成領域Rを分割してSiC半導体装置を構成した際、SiC半導体装置の閾値電圧Vthがばらつく可能性がある。このため、本実施形態では、以下のようにベース層構成膜3aを形成する。
【0048】
まず、上記エピタキシャル膜成長装置30を用いてエピタキシャル成長する場合、サセプタ部70の設置部71は、サセプタ部70の軸部72や外縁部からの放熱によって温度が一定とならず、軸部72と外縁部との間の部分が軸部72側および外縁部側よりも高温となり易い。そして、設置部71に設置されたSiCウェハ20は、設置部71の温度分布に依存し、当該SiCウェハ20の中心側が外縁部より温度が高くなる温度分布となる。このため、
図6に示されるように、ベース層構成膜3aは、膜厚の面内分布において、SiCウェハ20の中心部側に位置する部分が外縁部側に位置する部分より膜厚が薄くなる分布となる。言い換えると、ベース層構成膜3aは、下側凸状の分布となる。つまり、ベース層構成膜3aは、SiCウェハ20の中心部側の装置形成領域Rに形成される部分の方が、SiCウェハ20の外縁部側の装置形成領域Rに形成される部分よりも膜厚が薄くなる。
【0049】
なお、
図6は、Si原料含有ガスに含まれるSiに対するC原料含有ガスに含まれるCの比率であるC/Si(以下では、単にC/Siともいう)を変化させた場合の結果である。そして、
図6では、Si原料含有ガスを一定としつつ、C原料含有ガスであるC
3H
8の流量を変化させることによってC/Siを変化させた場合の結果を示している。この場合、C/Siを変化させても、膜厚の面内分布がほとんど変化しないことが確認される。また、
図6中の設置部の中心からの距離は、
図5に示される中心Cからの距離rに相当している。同様に、後述する
図7中の設置部の中心からの距離は、
図5に示される中心Cからの距離rに相当している。
【0050】
一方、ベース層構成膜3aの不純物濃度の面内分布は、
図7に示されるように、C/Siを変化させることによって大きく異なることが確認される。本発明者らの実験では、p型を構成するドーパントであるアルミニウム(すなわち、TMA)の取込量温度係数がC/Siに依存することが確認されている。具体的には、高いC/Siである場合には取込量温度係数が負となり、低いC/Siである場合には取込量温度係数が正となることが確認されている。したがって、SiCウェハ20の温度分布と取込量温度依存係数のC/Si依存性により、
図7のように、ベース層構成膜3aに不純物濃度の面内分布が発生すると考えられる。
【0051】
そして、SiC半導体装置の閾値電圧Vthは、上記のように、ベース層3の膜厚が厚くなるほど大きくなり、ベース層3の不純物濃度が高くなるほど大きくなる。このため、各装置形成領域Rを分割して得られるSiC半導体装置の閾値電圧Vthのばらつきを低減するためには、ベース層構成膜3aの膜厚が薄い部分の不純物濃度が高くなるようにし、膜厚が厚い部分の不純物濃度が低くなるようにすればよい。つまり、ベース層構成膜3aは、中心部側の不純物濃度が外縁部側の不純物濃度よりも高くなる上側凸状の不純物濃度の面内分布となるようにすればよい。言い換えると、ベース層構成膜3aは、膜厚の面内分布と不純物濃度の面内分布とが逆相関となればよい。
【0052】
そして、
図7に示されるように、ベース層構成膜3aの不純物濃度の面内分布は、C/Siが0.85の場合には、不純物濃度が中心部側より外縁部の方が高くなる分布であることが確認される。つまり、ベース層構成膜3aの不純物濃度の面内分布は、C/Siが0.85の場合、膜厚の面内分布と同じ分布となることが確認される。一方、ベース層構成膜3aの不純物濃度の面内分布は、C/Siが0.80の場合には、不純物濃度が中心部側より外縁部側の方が低くなる分布であることが確認される。そして、ベース層構成膜3aの不純物濃度の面内分布は、C/Siが0.75の場合には、さらに不純物濃度が中心部側より外縁部の方が低くなる分布であることが確認される。
【0053】
このため、本実施形態では、ベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる場合には、C/Siが0.80以下となるように、Si含有原料ガスおよびC原料ガスの流量が調整されている。この場合、C/Siが0.75以下となるようにSi含有原料ガスおよびC原料ガスの流量が調整されることにより、さらに不純物濃度が中心部側より外縁部側の方が低くなるようにできる。なお、C/Siが0.80とされる場合には、例えば、SiH4の流量が26.5sccmとされ、C3H8の流量が7.1sccmとされる。C/Siが0.75とされる場合には、SiH4の流量が26.5sccmとされ、C3H8の流量が6.6sccmとされる。
【0054】
また、上記のようなSiC半導体装置では、
図8に示されるように、閾値電圧Vthの理想線Iがチャネル長およびベース層3の不純物濃度に依存し、理想線Iの傾き(以下では、単に傾きともいう)が-3.1×10
21で示される。このため、上記のようにベース層構成膜3aを形成した場合、各装置形成領域Rにおけるチャネル長と不純物濃度との関係を示すプロットにより得られる近似線(以下では、単に近似線ともいう)は、傾きが-3.1×10
21に近いほど、後述する各工程を行ってSiC半導体装置を製造した際の閾値電圧Vthのばらつきを低減できる。なお、理想線Iの傾きとは、理想線Iにおけるチャネル長の変化量に対する不純物濃度の変化量で規定される値である。近似線の傾きとは、近似線におけるチャネル長の変化量に対する不純物濃度の変化量で規定される値である。
【0055】
例えば、
図8に示されるように、C/Siが0.75の場合には、C/Siが0.80である場合よりも、各装置形成領域Rにおけるチャネル長と不純物濃度との関係を示すプロットが理想線Iに沿った分布となるため、閾値電圧Vthのばらつきが小さいSiC半導体装置を製造することができる。したがって、ベース層構成膜3aは、膜厚の面内分布と不純物濃度の面内分布とが逆相関となりつつ、近似線の傾きが-3.1×10
21に近づくように形成されることが好ましい。
【0056】
具体的には、近似線の傾きが-4.6×1021~-1.6×1021[cm-3/cm]となるようにベース層構成膜3aを形成することにより、SiC半導体装置を製造した際の、各SiC半導体装置におけるベース層構成膜3aに起因する閾値電圧Vthのばらつきを1.0V程度にできる。また、近似線の傾きが-3.9×1021~-2.3×1021[cm-3/cm]となるようにベース層構成膜3aを形成することにより、SiC半導体装置を製造した際の、各SiC半導体装置におけるベース層構成膜3aに起因する閾値電圧Vthのばらつきを0.5V程度にできる。そして、似線の傾きを-3.1×1021[cm-3/cm]なるようにベース層構成膜3aを形成することにより、SiC半導体装置を製造した際の、各SiC半導体装置におけるベース層構成膜3aに起因する閾値電圧Vthのばらつきをほぼ無くすことができる。
【0057】
したがって、この工程では、使用用途に応じて許容される閾値電圧Vthのばらつきに応じてベース層構成膜3aが形成されることが好ましい。なお、現状では、閾値電圧Vthのばらつきが1.0V程度となるようにすることが要望されており、閾値電圧Vthのばらつきが0.5V程度となるようにすることが推奨されている。そして、ベース層構成膜3aの膜厚と不純物濃度とは、エピタキシャル成長させる際のSi原料含有ガスおよびC原料含有ガスの流量を変化させることによって調整できる。
【0058】
続いて、
図2Cに示されるように、本実施形態では、ベース層構成膜3aの表層部にイオン注入等を行い、ソース領域構成膜4aを形成する。なお、ソース領域構成膜4aは、装置単位に分割された際にソース領域4を構成する膜である。そして、本実施形態では、ソース領域構成膜4aが不純物領域構成膜に相当している。その後は特に図示しないが、一般的な半導体製造プロセスを行い、コンタクト領域8、ディープ層9、トレンチゲート構造、上部電極11、下部電極12等を形成する。そして、ダイシングラインDLに沿って装置形成領域Rを分割することにより、上記SiC半導体装置が製造される。
【0059】
以上説明した本実施形態によれば、SiC半導体装置を製造する際には、ベース層構成膜3aについて、中央部側が外縁部より膜厚が薄くなるようにすると共に、中央部側が外縁部側より不純物濃度が高くなるようにしている。つまり、ベース層構成膜3aについて、膜厚と不純物濃度が逆相関の関係となるようにしている。言い換えると、ベース層構成膜3aは、閾値電圧Vthが高くなる膜厚となる部分では、閾値電圧Vthが低くなる不純物濃度となるようにし、閾値電圧Vthが低くなる膜厚となる部分では、閾値電圧Vthが高くなる不純物濃度となるようにしている。このため、本実施形態では、SiC半導体装置を製造した際、各SiC半導体装置で閾値電圧Vthがばらつくことを抑制でき、ひいてはオン抵抗のばらつきを抑制できる。
【0060】
ところで、ベース層構成膜をイオン注入によって形成することにより、ベース層構成膜の膜厚や不純物濃度がばらつくことを抑制することも考えられる。しかしながら、SiCにイオン注入を行う場合、SiCが硬いため、所望の深さを有するベース層を形成するためには、大掛かりな装置や詳細な制御が必要となり、製造工程が複雑になる。
【0061】
一方、本実施形態では、ベース層構成膜3aの膜厚と不純物濃度との関係によって閾値電圧Vthがばらつくことを抑制している。そして、ベース層構成膜3aの膜厚と不純物濃度との関係は、ベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる際のSi原料含有ガスおよびC原料含有ガスの流量を変化させることによって調整できる。したがって、本実施形態によれば、製造工程が複雑になることを抑制しつつ、閾値電圧Vthがばらつくことを抑制できる。
【0062】
(1)本実施形態では、C/Siが0.80以下とされている。このため、各SiC半導体装置で閾値電圧Vthがばらつくことを抑制できる。この場合、C/Siが0.75以下とされることにより、さらに閾値電圧Vthがばらつくことを抑制できる。
【0063】
(2)本実施形態では、近似線の傾きが-4.6×1021~-1.6×1021[cm-3/cm]となるようにベース層構成膜3aを形成している。このため、SiC半導体装置を構成した場合、閾値電圧Vthのばらつきを約1.0Vにすることができる。この場合、近似線の傾きが-3.9×1021~-2.3×1021[cm-3/cm]となるようにベース層構成膜3aを形成することにより、さらに閾値電圧Vthのばらつきを小さくできる。
【0064】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、ソース領域4をエピタキシャル成長させて形成したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、
図2Aに示されるSiCウェハ20を用意した後、
図9Aに示されるように、ドリフト層構成膜2aおよびベース層構成膜3aを形成して加工ウェハ21を構成する。なお、
図9Aにおけるベース層構成膜3aは、第1実施形態で説明した
図2Bのベース層構成膜3aよりも膜厚が薄くされている。次に、
図9Bに示されるように、ベース層構成膜3a上にエピタキシャル成長によってソース領域構成膜4aを形成する。
【0066】
その後は、上記第1実施形態と同様に、一般的な半導体製造プロセスを行った後、ダイシングラインDLに沿って装置形成領域Rを分割することにより、
図1に示すSiC半導体装置が製造される。
【0067】
以上説明したよう本実施形態によれば、膜厚と不純物濃度が逆相関となるようにベース層構成膜3aを形成するため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
(1)本実施形態では、ソース領域構成膜4aをエピタキシャル成長によって構成しているため、ベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる際の膜厚を上記第1実施形態よりも薄くできる。このため、ベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させた後の膜厚のばらつきを小さくできる。
【0069】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0070】
上記各実施形態では、nチャネルタイプとされたトレンチゲート構造のMOSFETが形成された例を説明した。しかしなら、SiC半導体装置は、MOSFET以外に、同様の構造のIGBTが形成された構成とされていてもよい。IGBTの場合、上記各実施形態におけるn+型の基板1をp+型のコレクタ層としての基板1に変更する以外は、上記第1実施形態で説明した縦型MOSFETと同様である。
【0071】
そして、上記各実施形態において、ベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる際、サセプタ部70の設置部71に設置するSiCウェハ20の数は適宜変更可能であり、2個以下とされていてもよいし、4個以上とされていてもよい。なお、サセプタ部70の設置部71に設置するSiCウェハ20を1個とする場合には、設置部71の中心CとSiCウェハ20の中心とが一致するように、設置部71にSiCウェハ20を設置すればよい。
【0072】
さらに、上記各実施形態において、エピタキシャル膜成長装置30は、成長室44の全体を加熱するホットウォール型ではなく、SiCウェハ20の周囲のみを加熱するコールドウォール型とされていてもよい。また、エピタキシャル膜成長装置30は、ガスがSiCウェハ20の平面方向に沿って流動する横型ではなく、ガスがSiCウェハ20の法線方向に沿って流動する縦型とされていてもよい。なお、このようなエピタキシャル膜成長装置30を用いてベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させた場合、膜厚および不純物濃度の詳細な値は変化するが、面内分布の仕方(すなわち、形状)は変わらない。このため、ベース層構成膜3aをエピタキシャル成長させる際には、上記のようにC/Siを0.80以下とすることにより、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
2 ドリフト層
2a ドリフト層構成膜
3 ベース層
3a ベース層構成膜
20 SiCウェハ
R 装置形成領域