(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】船舶推進システム
(51)【国際特許分類】
B63H 21/21 20060101AFI20240611BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20240611BHJP
B63H 21/22 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B63H21/21
B63H20/00 803
B63H21/22 Z
(21)【出願番号】P 2020180202
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】片岡 俊哉
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-074265(JP,A)
【文献】特開2011-122331(JP,A)
【文献】特開2010-048199(JP,A)
【文献】国際公開第2021/106401(WO,A1)
【文献】米国特許第10048690(US,B1)
【文献】中国実用新案第204587283(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/00-85/00
B63H 1/00-25/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられ、前記船舶を推進させる複数の船舶推進機と、
前記複数の船舶推進機を制御する制御装置と、
互いに異なる認証コードがそれぞれ記憶された複数の認証装置と、
前記複数の認証装置にそれぞれ記憶された認証コードのうちの1つの認証コードが記憶され、当該1つの認証コードを前記複数の認証装置に送信する通信装置とを備え、
前記複数の船舶推進機は3機以上の船舶推進機を含み、
前記複数の船舶推進機は前記船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置され、
前記各認証装置は前記複数の船舶推進機のうちの1機以上の船舶推進機に対応し、
前記複数の認証装置のうち2機以上の認証装置が前記複数の船舶推進機のうちの1機の船舶推進機に同時に対応していることはなく、
前記各認証装置は、前記通信装置から送信された認証コードと自己に記憶された認証コードとが一致したときにマスター認証装置として動作し、
前記マスター認証装置は、前記各認証装置の不具合の有無を認識し、前記複数の認証装置のうち不具合が生じていない認証装置に対応する船舶推進機の中から、前記船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船舶推進機を選定し、
前記制御装置は、前記マスター認証装置により選定された船舶推進機を作動可能な状態にすることを特徴とする船舶推進システム。
【請求項2】
前記複数の認証装置のうち、前記マスター認証装置として動作していない認証装置はスレーブ認証装置として動作し、
前記マスター認証装置は、前記選定した船舶推進機が自己に対応する船舶推進機である場合には、前記選定した船舶推進機のロックを解除するロック解除指示を前記制御装置へ出力し、前記選定した船舶推進機が前記スレーブ認証装置に対応する船舶推進機である場合には、前記ロック解除指示の前記制御装置への出力を、前記選定した船舶推進機が対応する前記スレーブ認証装置に要求し、
前記制御装置は前記各船舶推進機をロックするロック部を備え、
前記ロック部は、前記マスター認証装置または前記スレーブ認証装置から出力された前記ロック解除指示に基づいて、前記マスター認証装置により選定された船舶推進機のロックを解除することを特徴とする請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項3】
前記複数の認証装置のうち、前記マスター認証装置として動作していない認証装置はスレーブ認証装置として動作し、
前記スレーブ認証装置は、自己に不具合が生じているか否かを診断する不具合診断処理を行い、前記不具合診断処理による診断結果を前記マスター認証装置に送信し、
前記マスター認証装置は、前記スレーブ認証装置から送信された診断結果に基づいて前記スレーブ認証装置の不具合の有無を認識することを特徴とする請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項4】
前記複数の船舶推進機は、前記船舶の左右方向中央に配置された第1の船舶推進機、前記船舶の左側に配置された第2の船舶推進機、および前記船舶の右側に配置された第3の船舶推進機を含み、
前記複数の認証装置は、前記第1の船舶推進機に対応する第1の認証装置、前記第2の船舶推進機に対応する第2の認証装置、および前記第3の船舶推進機に対応する第3の認証装置を含み、
前記マスター認証装置が前記第2の認証装置の不具合を認識し、かつ前記第1の認証装置の不具合および前記第3の認証装置の不具合を認識しなかったとき、または前記マスター認証装置が前記第3の認証装置の不具合を認識し、かつ前記第1の認証装置の不具合および前記第2の認証装置の不具合を認識しなかったとき、前記マスター認
証装置は、前記制御装置により作動可能な状態にする船舶推進機として前記第1の船舶推進機のみを選定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の船舶推進システム。
【請求項5】
前記複数の船舶推進機は、第1のグループに属する1機以上の船舶推進機、第2のグループに属する1機以上の船舶推進機、および第3のグループに属する1機以上の船舶推進機を含み、
前記第1のグループに属する1機以上の船舶推進機は前記船舶の左右方向中央の領域に配置され、前記第2のグループに属する1機以上の船舶推進機は前記船舶の左側の領域に配置され、前記第3のグループに属する1機以上の船舶推進機は前記船舶の右側の領域に配置され、
前記複数の認証装置は、前記第1のグループに属するそれぞれの船舶推進機に対応する第1の認証装置、前記第2のグループに属するそれぞれの船舶推進機に対応する第2の認証装置、および前記第3のグループに属するそれぞれの船舶推進機に対応する第3の認証装置を含み、
前記マスター認証装置が前記第2の認証装置の不具合を認識し、かつ前記第1の認証装置の不具合および前記第3の認証装置の不具合を認識しなかったとき、または前記マスター認証装置が前記第3の認証装置の不具合を認識し、かつ前記第1の認証装置の不具合および前記第2の認証装置の不具合を認識しなかったとき、前記マスター認証装置は、前記制御装置により作動可能な状態にする船舶推進機として前記第1のグループに属する船舶推進機のみを選定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の船舶推進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キーレス方式を採用した船舶推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に設けられた船外機を始動させる方式として、従来、機械的な鍵を用いる方式が採用されている。機械的な鍵を用いる方式とは、鍵をキーシリンダに差し込んで回すことにより、船外機の電源を投入し、または船外機の動力源を始動させる方式である。
【0003】
一方、近時、キーレス方式を採用した船舶推進システムが増えてきている。キーレス方式とは、機械的な鍵を用いずに船外機を始動させる方式であり、例えば、利用者が携帯可能な小型の通信装置から、船舶または船外機に設けられた認証装置へ認証コードを無線送信し、認証装置が、通信装置から送信された認証コードの正否を判断し、その認証コードが正しい認証コードである場合には、船外機を作動可能な状態にするといった方式である。
【0004】
キーレス方式の船舶推進システムは、船外機、船外機を制御するECM(エンジンコントロールモジュール)等の制御装置、上記認証装置、および上記通信装置を備えている。キーレス方式の船舶推進システムにおいて、通信装置および認証装置のそれぞれには認証コードが記憶されている。通信装置は自己に記憶された認証コードを認証装置へ無線送信する。認証装置は、通信装置から送信された認証コードと、自己に記憶された認証コードとを比較し、両者が一致したときに、通信装置から送信された認証コードが正しいと判断する。また、認証装置は制御装置とケーブルを介して通信可能に接続されている。また、制御装置は船外機をロックし、船外機を作動不能な状態にする機能を有している。認証装置は、通信装置から送信された認証コードが正しいと判断した場合に、船外機のロックを解除するロック解除指示を制御装置に送信する。制御装置は、このロック解除指示に応じて船外機のロックを解除し、船外機を作動可能な状態にする。
【0005】
下記の特許文献1には、キーレス方式の関する一般的な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の船外機が取り付けられた一艘の船舶、すなわち船外機が多機掛けされた船舶にキーレス方式を採用する場合、船舶に取り付けられた複数の船外機にそれぞれ対応する複数の認証装置を船舶に設けることがある。この場合、船舶推進システムは、複数の船外機、複数の船外機にそれぞれ対応する複数の制御装置、複数の船外機にそれぞれ対応する複数の認証装置、および複数の認証装置にそれぞれ対応する複数の通信装置を備えたものとなる。
【0008】
もっとも、近時、複数の認証装置のうち、1機の認証装置をマスター認証装置として動作させ、他の認証装置をスレーブ認証装置として動作させ、通信装置から送信された認証コードが正しいとマスター認証装置が判断した場合には、マスター認証装置が自己に対応した船外機のロックを解除し、かつマスター認証装置からスレーブ認証装置へロック解除要求を送ってスレーブ認証装置に当該スレーブ認証装置に対応した船外機のロックを解除させる方式を採用した船舶推進システムが開発されている。このような船舶推進システムの場合には、1機の通信装置を用いて、複数の船外機のそれぞれのロックを一遍に解除することができる。
【0009】
ところで、船外機が多機掛けされた船舶におけるキーレス方式の船舶推進システムにおいて、船舶に取り付けられた複数の船外機にそれぞれ対応する複数の認証装置を設けることにより、船舶推進システムの冗長性を高めることができる。すなわち、船舶に取り付けられた複数の船外機にそれぞれ対応する複数の認証装置を設けることで、これら複数の認証装置のうちの一部の認証装置に不具合(例えば故障)が生じ、不具合が生じた認証装置に対応する船外機のロックを解除することができない状態になった場合でも、不具合が生じていない他の認証装置に対応する船外機のロックを解除し、ロックが解除された船外機を作動させることにより、船舶を推進させることができる。
【0010】
しかしながら、このような複数の認証装置を有する船舶推進システムには次のような問題がある。すなわち、複数の認証装置のうちの一部の認証装置に不具合が生じ、不具合が生じた認証装置に対応する船外機のロックを解除することができない状態となり、不具合が生じていない他の認証装置に対応する船外機のロックを解除し、ロックを解除した船外機を作動させて船舶を推進させる場合、作動させた船外機から得られる船舶の推進力の左右のバランスが崩れ、利用者による操船が困難になることがある。例えば、3機掛けの船舶において、一部の認証装置の不具合のために船舶の左側に配置された船外機のロックを解除することができなくなり、船舶の左右方向中央に配置された船外機、および船舶の右側に配置された船外機のロックをそれぞれ解除し、これらロックが解除された2機の船外機により船舶を推進させる場合、船舶の推進力が船舶の右側に偏り、船舶の前進時に船首が左へ向きがちになる。その結果、利用者は普段通りの操作で船舶を直進させたり、右に旋回させたりすることが困難になる。
【0011】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、3機以上の船舶推進機が設けられた船舶において、認証装置等、キーレス方式を実現するための装置の不具合のために一部の船舶推進機を作動可能な状態にすることができない場合でも、容易な操船を可能にする船舶推進システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の船舶推進システムは、船舶に設けられ、前記船舶を推進させる複数の船舶推進機と、前記複数の船舶推進機を制御する制御装置と、互いに異なる認証コードがそれぞれ記憶された複数の認証装置と、前記複数の認証装置にそれぞれ記憶された認証コードのうちの1つの認証コードが記憶され、当該1つの認証コードを前記複数の認証装置に送信する通信装置とを備え、前記複数の船舶推進機は3機以上の船舶推進機を含み、前記複数の船舶推進機は前記船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置され、前記各認証装置は前記複数の船舶推進機のうちの1機以上の船舶推進機に対応し、前記複数の認証装置のうち2機以上の認証装置が前記複数の船舶推進機のうちの1機の船舶推進機に同時に対応していることはなく、前記各認証装置は、前記通信装置から送信された認証コードと自己に記憶された認証コードとが一致したときにマスター認証装置として動作し、前記マスター認証装置は、前記各認証装置の不具合の有無を認識し、前記複数の認証装置のうち不具合が生じていない認証装置に対応する船舶推進機の中から、前記船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船舶推進機を選定し、前記制御装置は、前記マスター認証装置により選定された船舶推進機を作動可能な状態にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3機以上の船舶推進機が設けられた船舶において、認証装置等、キーレス方式を実現するための装置の不具合のために一部の船外機を作動可能な状態にすることができない場合でも、利用者は操船を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施例の船舶推進システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施例の船舶推進システムが適用された船舶を右上後方から見た状態を示す斜視図である。
【
図3】
図2中の船舶のコックピットを示す説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施例の船舶推進システムにおけるロック解除処理(主にマスターキーレスユニットの処理)を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1の実施例の船舶推進システムにおけるロック解除処理(主にスレーブキーレスユニットの処理)を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施例の船舶推進システムにおける船外機選定処理を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第1の実施例の船舶推進システムにおける船外機選定情報の一例を示す説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施例の船舶推進システムの構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の第2の実施例の船舶推進システムにおける船外機選定情報の一例を示す説明図である。
【
図10】本発明の船舶推進システムの他の実施例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態の船舶推進システムは、船舶に設けられた複数の船舶推進機と、複数の船舶推進機を制御する制御装置と、複数の認証装置と、通信装置とを備えている。
【0016】
この船舶推進システムにおける船舶推進機の数は3機以上である。これら複数の船舶推進機は船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置されている。具体的には、船舶推進機の数が奇数である場合には、船舶の左右方向中央に1機の船舶推進機が配置され、船舶の左右両側に同数の船舶推進機がそれぞれ配置され、全体的に見て、これら複数の船舶推進機が船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置される。船舶推進機の数が偶数である場合には、船舶の左右両側に同数の船舶推進機が船舶の左右方向中央に関して左右対称となるようにそれぞれ配置される。また、船舶推進機の動力源の種類は限定されない。船舶推進機の動力源は、内燃機関としてのエンジンでもよいし、電動モータでもよい。
【0017】
制御装置については、船舶推進機の数と同数の制御装置を設け、船舶推進機と制御装置とを一対一に対応させてもよいし、船舶推進システムにおける複数の船舶推進機を統括して制御する単一の制御装置を設けてもよい。例えば、制御装置は、個々の船舶推進機に設けられたECMでもよいし、船舶に設けられた単一のBCM(ボートコントロールモジュール)でもよい。
【0018】
認証装置については、船舶推進機の数と同数の複数の認証装置を設けてもよいし、船舶推進機の数よりも少ない数の複数の認証装置を設けてもよい。前者の場合には、船舶推進機と認証装置とを一対一に対応させる。例えば、船舶に3機の船舶推進機が設けられている場合に、3機の認証装置を設け、1機の認証装置につき1機の船舶推進機を対応させる。一方、後者の場合には、複数の認証装置のそれぞれに、または複数の認証装置の一部の認証装置に、2機以上の船舶推進機を対応させる。例えば、船舶に6機の船舶推進機が設けられている場合に、3機の認証装置を設け、1機の認証装置につき2機の船舶推進機を対応させる。また、船舶に6機の船舶推進機が設けられている場合に、3機の認証装置を設け、3機の認証装置のうち、1機の認証装置に、船舶の左右方向中央の領域に配置された4機の船舶推進機を対応させ、他の1機の認証装置に、船舶の最も左側に配置された1機の船舶推進機を対応させ、残りの1機の認証装置に、船舶の最も右側に配置された1機の船舶推進機を対応させてもよい。
【0019】
また、各認証装置は、複数の船舶推進機のうちの1機以上の船舶推進機に対応しており、かつ複数の認証装置のうち2機以上の認証装置が、複数の船舶推進機のうちの1機の船舶推進機に同時に対応していることはない。また、複数の認証装置には、互いに異なる認証コードがそれぞれ記憶されている。
【0020】
通信装置は、例えば、携帯可能な小型の無線通信装置である。通信装置は1機でよい。通信装置には、複数の認証装置にそれぞれ記憶された認証コードのうちの1つの認証コードが記憶されている。
【0021】
通信装置は自己に記憶された認証コードを各認証装置に送信する。各認証装置は、通信装置から送信された認証コードと自己に記憶された認証コードとが一致したときに、マスター認証装置として動作する。
【0022】
マスター認証装置は、各認証装置の不具合の有無を認識する。そして、マスター認証装置は、複数の認証装置のうち、不具合が生じていない認証装置に対応する船舶推進機の中から、船舶の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船舶推進機を選定する。制御装置は、マスター認証装置により選定された船舶推進機を作動可能な状態にする。
【0023】
利用者は、このようにして作動可能な状態となった船舶推進機、すなわちマスター認証装置により選定された船舶推進機のみを作動させることができる。利用者がそれらの船舶推進機を作動させることにより、船舶の推進力は左右のバランスが取れたものとなる。このように、本発明の実施形態の船舶推進システムによれば、一部の認証装置に不具合が生じた場合でも、船舶推進機から得られる船舶の推進力の左右のバランスを維持することができる。したがって、利用者は操船を容易に行うことができる。
【実施例1】
【0024】
(船舶推進システム)
図1は本発明の第1の実施例の船舶推進システム1の構成を示している。
図2は船舶推進システム1が適用された船舶81を示している。なお、
図2中の右下の矢印は船舶81における前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を示している。
図3は船舶81のコックピットを示している。なお、本発明の実施例においては、船舶推進機の代表例として船外機を採用した場合を例にあげる。
【0025】
船舶推進システム1は船舶81の推進を制御するシステムである。また、船舶推進システム1にはキーレス方式が採用されている。船舶推進システム1は、
図1に示すように、複数の船舶推進機としての船外機2A、2B、2C、制御装置としての複数のECM3P、3Q、3R、通信装置としての携帯装置4、複数の認証装置としてのキーレスユニット5X、5Y、5Z、ゲージ装置6、操作スイッチユニット7、およびリモートコントロール装置10を備えている。なお、以下、リモートコントロール装置を「リモコン装置」という。
【0026】
船外機2A、2B、2Cは、船舶81を推進させる装置である。各船外機2A、2B、2Cは、動力源としての内燃機関であるエンジン21、およびエンジン21の動力を推進力に変換するプロペラ22等を備えている。本実施例の船舶推進システム1は3機の船外機2A、2B、2Cを備えている。
図2に示すように、船舶81には船外機が3機掛けされている。すなわち、船舶81のトランサム82には、3機の船外機2A、2B、2Cが取り付けられている。
【0027】
3機の船外機2A、2B、2Cは、船舶81の左右方向中央に関して左右対称に配置されている。船外機2Aは船舶81の左右方向中央に配置され、船外機2Bは船舶81の左側に配置され、船外機2Cは船舶81の右側に配置されている。また、船外機2A、2B、2Cがそれぞれ有するエンジン21の出力に関する性能(例えば最大出力)はそれぞれ互いに等しい。
【0028】
ECM3P、3Q、3Rは船外機2A、2B、2Cを制御する装置である。本実施例の船舶推進システム1は3機のECM3P、3Q、3Rを備えている。3機のECM3P、3Q、3Rは3機の船外機2A、2B、2Cにそれぞれ対応している。各ECM3P、3Q、3Rは自己に対応する船外機を制御する。また、各ECM3P、3Q、3Rは、
図2に示すように、自己に対応する船外機に取り付けられている。
【0029】
各ECM3P、3Q、3Rは、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよび通信回路等を備えている。各ECM3P、3Q、3RのCPUは、メモリに記憶されたプログラムに従い、
図1に示すように、制御部25、CAN(Controller Area Network)通信部26およびロック部27として機能する。なお、
図1では、ECM3Pについてのみ、制御部25、CAN通信部26およびロック部27を図示し、ECM3Q,3Rについてはそれらの図示を省略している。
【0030】
制御部25は船外機の制御に関する種々の処理を行う。CAN通信部26は、共用信号線11を介して、船舶81に設けられた他の装置とCANによる通信を行う。すなわち、本実施例の船舶推進システム1において、船舶81に設けられた装置、具体的には、複数のECM3P、3Q、3R、複数のキーレスユニット5X、5Y、5Z、ゲージ装置6、操作スイッチユニット7およびリモコン装置10等はそれぞれ共用信号線11に接続されており、共用信号線11を介して通信を行うことができるようになっている。そして、これらの装置間の通信方式としてCANが採用されている。また、共用信号線11は、CANによる通信を行うためのバスである。
【0031】
ロック部27は、自己に対応する船外機のロックおよびロック解除を行う。船外機の電源が投入された後であっても、ロック部27により船外機がロックされている場合には、その船外機を作動させることができない。具体的には、船外機がロックされた状態である場合には、利用者がその船外機に対応する個別始動・停止スイッチ8A、8Bまたは8Cを押しても、または全機始動・停止スイッチ9を押しても、その船外機のエンジン21を始動させることができない。一方、船外機の電源が投入された後、ロック部27により船外機のロックが解除された場合には、その船外機を作動させることができる。すなわち、船外機のロックが解除された状態である場合には、利用者は、船外機に対応する個別始動・停止スイッチ8A、8Bまたは8Cを押し、または全機始動・停止スイッチ9を押すことにより、その船外機のエンジン21を始動させることができる。
【0032】
携帯装置4は、キーレスユニット5X、5Y、5Zと無線通信を行い、キーレスユニット5X、5Y、5Zに認証コードを送信する装置である。携帯装置4は利用者が容易に携帯することができる小型の近距離無線通信装置である。携帯装置4は、通信制御を行う小規模なCPU、メモリ29、および近距離無線通信を行うための通信回路等を備えている。携帯装置4のメモリ29には、単一の認証コードが記憶されている。携帯装置4は、メモリ29に記憶された認証コードをキーレスユニット5X、5Y、5Zに送信する。
【0033】
キーレスユニット5X、5Y、5Zは、携帯装置4から送信された認証コードに基づいて、船外機2A、2B、2Cのロックを解除する装置である。本実施例の船舶推進システム1は3機のキーレスユニット5X、5Y、5Zを備えている。キーレスユニット5X、5Y、5Zは、
図2に示すように、船舶81のコックピットの近傍に配置されている。また、3機のキーレスユニット5X、5Y、5Zは3機の船外機2A、2B、2Cにそれぞれ対応している。
図1では、それぞれ互いに対応している船外機、ECMおよびキーレスユニットを二点鎖線で囲っている。すなわち、船外機2A、ECM3Pおよびキーレスユニット5Xはそれぞれ互いに対応している。船外機2B、ECM3Qおよびキーレスユニット5Yはそれぞれ互いに対応している。船外機2C、ECM3Rおよびキーレスユニット5Zはそれぞれ互いに対応している。なお、キーレスユニット5X、5Y、5Zは、キーレス方式を実現するための装置に当たる。
【0034】
各キーレスユニット5X、5Y、5Zは自己に対応する船外機のロックを解除することができる。すなわち、キーレスユニット5Xは船外機2Aのロックを解除することができる。具体的には、キーレスユニット5XはECM3Pにロック解除信号を送信する。ECM3Pのロック部27はキーレスユニット5Xから送信されたロック解除信号に従って船外機2Aのロックを解除する。同様に、キーレスユニット5Yは船外機2Bのロックを解除することができ、キーレスユニット5Zは船外機2Cのロックを解除することができる。なお、ロック解除信号は、船外機のロックを解除する信号であり、ロック解除指示の具体例である。
【0035】
また、キーレスユニット5X、5Y、5Zはマスタースレーブ機能を有している。ここでいうマスタースレーブ機能とは、キーレスユニット5X、5Y、5Zのうちの1機がマスターキーレスユニットとして主導的に動作し、残りの2機がスレーブキーレスユニットとして従属的に動作するという形でキーレスユニット5X、5Y、5Zが協働することにより、1機の携帯装置4から送信された単一の認証コードに基づいて3機の船外機2A、2B、2Cのロックを一遍に解除する機能である。マスタースレーブ機能について具体的に説明すると、キーレスユニット5X、5Y、5Zには、それぞれ互いに異なる認証コードが記憶されている。また、携帯装置4のメモリ29には、キーレスユニット5X、5Y、5Zにそれぞれ記憶された認証コードのうちの1つの認証コードが記憶されている。まず、キーレスユニット5X、5Y、5Zは、携帯装置4から送信された認証コードをそれぞれ受信する。次に、各キーレスユニット5X、5Y、5Zは、携帯装置4から送信された認証コードと自己に記憶された認証コードとが一致したときにはマスターキーレスユニットとしての動作を開始し、携帯装置4から送信された認証コードと自己に記憶された認証コードとが一致しないときにはスレーブキーレスユニットとしての動作を開始する。次に、すべてのキーレスユニット5X、5Y、5Zに不具合(例えば故障)が生じておらず、すべてのキーレスユニット5X、5Y、5Zが正常に動作している場合には、マスターキーレスユニットは、自己に対応するECMにロック解除信号を送信して自己に対応する船外機のロックを解除し、かつ、各スレーブキーレスユニットにロック解除要求を送信する。次に、各スレーブキーレスユニットは、マスターキーレスユニットから送信されたロック解除要求を受信し、受信したロック解除要求に応じて、自己に対応するECMにロック解除信号を送信し、自己に対応する船外機のロックを解除する。
【0036】
また、キーレスユニット5X、5Y、5Zは船外機選定機能を有している。船外機選定機能とは、マスターキーレスユニットが、各キーレスユニットの不具合(例えば故障)の有無を認識し、不具合が生じていないキーレスユニットに対応する船外機の中から、船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船外機を選定し、選定した船外機についてのみロックが解除されるように制御する機能である。また、本実施例のキーレスユニット5X、5Y、5Zは、マスターキーレスユニットがスレーブキーレスユニットの不具合の有無を認識する方法として、スレーブキーレスユニットが自己に不具合が生じているか否かを診断し、その診断結果を示す診断情報をマスターキーレスユニットに送信し、スレーブキーレスユニットから送信された診断情報に基づいてマスターキーレスユニットがスレーブキーレスユニットの不具合の有無を認識する方法を採用している。
【0037】
各キーレスユニット5X、5Y、5Zは、CPU31、メモリ37および通信回路等を備えている。キーレスユニット5X、5Y、5Zのそれぞれのメモリ37には、それぞれ互いに異なる認証コードが記憶されている。キーレスユニット5X、5Y、5Zのそれぞれのメモリ37に記憶された認証コードのうちの1つは、携帯装置4のメモリ29に記憶された認証コードと同一である。
【0038】
また、各キーレスユニット5X、5Y、5ZのCPU31は、メモリ37に記憶されたプログラムに従い、無線通信部32、認証部33、マスター制御部34、スレーブ制御部35およびCAN通信部36として機能する。なお、
図1では、キーレスユニット5Xについてのみ、CPU31、無線通信部32、認証部33、マスター制御部34、スレーブ制御部35、CAN通信部36およびメモリ37を図示し、キーレスユニット5Y、5Zについてはそれらの図示を省略している。
【0039】
各キーレスユニット5X、5Y、5Zにおいて、無線通信部32は携帯装置4と近距離無線通信を行い、携帯装置4から送信された認証コードを受信する。
【0040】
認証部33は、携帯装置4から送信された認証コードと、メモリ37に記憶された認証コードとが一致するか否かを判断する。
【0041】
マスター制御部34は、携帯装置4から送信された認証コードとメモリ37に記憶された認証コードとが一致したときに、キーレスユニットをマスターキーレスユニットとして動作させる。後述するように、マスターキーレスユニットとして動作するキーレスユニットは、スレーブキーレスユニットの不具合の有無の認識、および船外機の選定等を行う。
【0042】
スレーブ制御部35は、携帯装置4から送信された認証コードとメモリ37に記憶された認証コードとが一致しないときに、キーレスユニットをスレーブキーレスユニットとして動作させる。後述するように、スレーブキーレスユニットとして動作するキーレスユニットは、自己に不具合が生じているか否かの診断等を行う。
【0043】
CAN通信部36は、共用信号線11を介して、ロック解除信号を自己に対応する船外機に送信する。また、CAN通信部36は、キーレスユニットがマスターキーレスユニットとして動作しているときには、共用信号線11を介して、ロック解除要求をスレーブキーレスユニットに送信する。また、CAN通信部36は、キーレスユニットがスレーブキーレスユニットとして動作しているときには、共用信号線11を介して、診断情報をマスターキーレスユニットに送信する。
【0044】
ゲージ装置6、操作スイッチユニット7およびリモコン装置10は、
図3に示すように、船舶81のコックピットに配置されている。ゲージ装置6は、各船外機2A、2B、2Cのエンジン21の状態および燃料残量等、船舶および船外機に関する各種情報を表示する装置である。例えば、ゲージ装置6は、共用信号線11を介してECM3P、3Q、3Rと通信し、船外機2A、2B、2Cのエンジン21の回転数等の情報をECM3P、3Q、3Rから取得し、それらを表示することができる。また、ゲージ装置6は、後述するように、認証コードの入力を行う機能を有している。ゲージ装置6は、情報を表示するディスプレイ、および認証コードの入力等を行うための操作ボタンを備えている。なお、操作ボタンはタッチパネルによって構成してもよい。
【0045】
操作スイッチユニット7には、3つの個別始動・停止スイッチ8A、8B、8C、および全機始動・停止スイッチ9が設けられている。個別始動・停止スイッチ8A、8B、8Cは、船外機2A、2B、2Cのそれぞれのエンジン21の始動・停止を船外機ごとに個別に操作するスイッチである。個別始動・停止スイッチ8A、8B、8Cは船外機2A、2B、2Cと一対一に対応している。例えば、利用者が個別始動・停止スイッチ8Aを押したとき、共用信号線11を介して、操作スイッチユニット7から、個別始動・停止スイッチ8Aに対応する船外機2Aを制御するECM3Pにエンジン始動・停止信号が送信される。また、全機始動・停止スイッチ9は、船外機2A、2B、2Cのそれぞれのエンジン21を一斉に始動・停止させるスイッチである。利用者が全機始動・停止スイッチ9を押したとき、共用信号線11を介して、操作スイッチユニット7から、船外機2A、2B、2Cを制御するECM3P、3Q、3Rにエンジン始動・停止信号がそれぞれ送信される。
【0046】
エンジン始動・停止信号を受信したECMは、自己に対応する船外機のエンジン21が停止しており、その船外機のロックが解除されている場合には、その船外機のエンジン21を始動させる。また、エンジン始動・停止信号を受信したECMは、自己に対応する船外機のエンジン21が作動しているときには、その船外機のエンジン21を停止させる。
【0047】
リモコン装置10は、各船外機2A、2B、2Cのシフト切換(前進、ニュートラル、後退の切換)、および各船外機2A、2B、2Cのエンジン21の回転数(船舶81の速度)の調整等を行う装置である。例えば、利用者がリモコン装置10のレバーを操作してシフト切換を行ったとき、その時点でそのレバーに割り当てられている船外機を制御するECMに共用信号線11を介してシフト切換信号が送信される。
【0048】
また、船舶81のコックピットには、メインスイッチ12が設けられている。メインスイッチ12は、船舶81に設けられた装置、すなわち、船外機2A、2B、2C、ECM3P、3Q、3R、キーレスユニット5X、5Y、5Z、ゲージ装置6、操作スイッチユニット7およびリモコン装置10等の電源の投入・切断を行うメイン電源スイッチとしての機能を有している。さらに、船舶81のコックピットには、ステアリング装置13(ステアリングホイールのみを図示)が設けられている。ステアリング装置13は、船舶81の操舵を行う装置である。
【0049】
(ロック解除処理)
図4ないし
図6は、携帯装置4から送信される認証コードに基づいて船外機のロックを解除するロック解除処理を示している。このロック解除処理は、例えば、利用者が船舶81の利用を開始するときなど、利用者がメインスイッチ12を押し、船舶81に設けられた装置の電源を投入した直後に実行される。また、このロック解除処理はキーレスユニット5X、5Y、5Zによりそれぞれ実行される。以下、キーレスユニット5Xがロック解除処理を行う場合を例にあげて説明する。
【0050】
また、
図4ないし
図6に示すロック解除処理には、マスターキーレスユニットのロック解除処理とスレーブキーレスユニットのロック解除処理が含まれている。
図4および
図6に示す処理が、主に、マスターキーレスユニットのロック解除処理であり、
図5に示す処理が、主に、スレーブキーレスユニットのロック解除処理である。以下、まず、キーレスユニット5Xがマスターキーレスユニットとしてロック解除処理を行う場合について説明し、次に、キーレスユニット5Xがスレーブキーレスユニットとしてロック解除処理を行う場合について説明する。
【0051】
では、キーレスユニット5Xがマスターキーレスユニットとしてロック解除処理を行う場合について説明する。
図4において、船舶81に設けられた装置の電源が切断された状態で、携帯装置4を所持した利用者が船舶81に乗ってメインスイッチ12を押すと、船舶81に設けられた装置の電源が投入される。キーレスユニット5X、5Y、5Zはそれぞれコックピットの近傍に配置されているので、利用者がコックピットに設けられたメインスイッチ12を押すことができる位置にいる場合、利用者が所持している携帯装置4は、各キーレスユニット5X、5Y、5Zと通信可能な範囲内に位置している。
【0052】
船舶81に設けられた装置の電源が投入された直後、例えば、まず、キーレスユニット5Xと携帯装置4との間において通信が確立され、携帯装置4からキーレスユニット5Xに認証コードが送信され、その後、キーレスユニット5Xと携帯装置4との間の通信が切断される。次に、これと同様の動作が、キーレスユニット5Yと携帯装置4との間、およびキーレスユニット5Zと携帯装置4との間において順次行われる。この一連の通信動作により、キーレスユニット5X、5Y、5Zは、携帯装置4のメモリ29に記憶された認証コードをそれぞれ受信する(ステップS1)。
【0053】
続いて、キーレスユニット5Xの認証部33が、携帯装置4から送信された認証コードと、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードとが一致するか否かを判断する(ステップS2)。携帯装置4のメモリ29に記憶された認証コードが、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードと同一である場合、携帯装置4から送信された認証コードと、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードとが一致する。
【0054】
携帯装置4から送信された認証コードと、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードとが一致した場合には(ステップS2:YES)、キーレスユニット5Xのマスター制御部34が、キーレスユニット5Xをマスターキーレスユニットとして動作させる(ステップS3)。
【0055】
続いて、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Xがマスターキーレスユニットとして動作を開始したことをキーレスユニット5Y、5Zのそれぞれに知らせるために、マスター動作開始信号をキーレスユニット5Y、5Zのそれぞれに送信する(ステップS4)。キーレスユニット5Yおよびキーレスユニット5Zはこのマスター動作開始信号を受信した後、スレーブキーレスユニットとして動作を開始する。
【0056】
続いて、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Yからの診断情報の送信およびキーレスユニット5Zからの診断情報の送信を所定の第1の待機時間待つ。すなわち、スレーブキーレスユニットとして動作しているキーレスユニット5Y、5Zはそれぞれ、自己に不具合が生じているか否かを診断し、その診断結果を示す診断情報をマスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニット5Xに送信する。キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Y、5Zのそれぞれからの診断情報の送信を第1の待機時間待ち、第1の待機時間以内にキーレスユニット5Yから診断情報が送信された場合にはその診断情報を受信し、第1の待機時間以内にキーレスユニット5Zから診断情報が送信された場合にはその診断情報を受信し(ステップS5)、その後、処理をステップS6へ進める。もっとも、キーレスユニット5Yまたはキーレスユニット5Zがその不具合のため、診断情報をキーレスユニット5Xに送信することができない状態である可能性がある。キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、第1の待機時間が経過しても、キーレスユニット5Yまたはキーレスユニット5Zから診断情報を受信することができなかった場合には、診断情報をそれ以上待つことなく、処理をステップS6へ進める。
【0057】
続いて、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は船外機選定処理を行う(ステップS6)。
図6は船外機選定処理の具体的な内容を示している。
図6に示す船外機選定処理において、まず、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、各キーレスユニット5X、5Y、5Zの不具合の有無を認識する(ステップS31)。具体的には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Yから診断情報を受信した場合には、その診断情報に基づいて、キーレスユニット5Yに不具合が生じているか否かを判断する。キーレスユニット5Yから受信した診断情報には、キーレスユニット5Yに不具合が生じているか否かが示されている。キーレスユニット5Yに不具合が生じていることを示す診断情報を受信した場合には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、その診断情報に基づいて、キーレスユニット5Yに不具合が生じていることを認識する。また、キーレスユニット5Yから診断情報自体を受信しなかった場合にも、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Yに不具合が生じていると認識する。一方、キーレスユニット5Yから、キーレスユニット5Yに不具合が生じていないことを示す診断情報を受信した場合には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Yに不具合が生じていないことを認識する。同様に、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Zから、キーレスユニット5Zに不具合が生じていることを示す診断情報を受信した場合、またはキーレスユニット5Zから診断情報自体を受信しなかった場合に、キーレスユニット5Zに不具合が生じていると認識する。一方、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Zから、キーレスユニット5Zに不具合が生じていないことを示す診断情報を受信した場合には、キーレスユニット5Zに不具合が生じていないと認識する。また、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Xには不具合が生じていないと認識する。
【0058】
続いて、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、ステップS31における認識結果に基づき、キーレスユニット5X、5Y、5Zのうち、不具合が生じていないキーレスユニットに対応する船外機の中から、船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船外機を選定する。
【0059】
具体的には、
図6中のステップS32~S39に示すように、キーレスユニット5Xに不具合が生じ、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aのロックを解除することができず、かつキーレスユニット5Yおよびキーレスユニット5Zには不具合が生じておらず、キーレスユニット5Yに対応する船外機2Bおよびキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cのロックを解除することができる状態である場合には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Yに対応する船外機2B、およびキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cを選定する。船外機2Bは船舶81の左側に配置され、船外機2Cは船舶81の右側に配置され、これら船外機2B、2Cは船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置されている。
【0060】
また、キーレスユニット5Yに不具合が生じ、キーレスユニット5Yに対応する船外機2Bのロックを解除することができず、かつキーレスユニット5Xおよびキーレスユニット5Zに不具合が生じておらず、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aおよびキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cのロックを解除することができる状態である場合には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aのみを選定する。船外機2Aは船舶81の左右方向中央に配置され、船外機2Aの配置は、船舶81の左右方向中央に関して左右対称となっている。
【0061】
また、キーレスユニット5Zに不具合が生じ、キーレスユニット5Zに対応する船外機2Cのロックを解除することができず、かつキーレスユニット5Xおよびキーレスユニット5Yに不具合が生じておらず、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aおよびキーレスユニット5Yに対応する船外機2Bのロックを解除することができる状態である場合には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aのみを選定する。
【0062】
また、キーレスユニット5Yおよびキーレスユニット5Zに不具合が生じ、キーレスユニット5Yに対応する船外機2Bおよびキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cのロックを解除することができず、かつキーレスユニット5Xに不具合が生じておらず、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aのロックを解除することができる状態である場合には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aのみを選定する。
【0063】
本実施例において、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、ステップS32~S39に示す船外機の選定を、予め設定されてメモリ37に記憶された船外機選定情報38を用いて行う。
図7は船外機選定情報38の一例を示している。船外機選定情報38は、例えば、
図7に示すように、船舶81の設けられた船外機2A、2B、2Cと、キーレスユニット5X、5Y、5Zの不具合の有無との関係を記述したテーブルである。
【0064】
なお、本実施例においては、キーレスユニット5X、5Yのそれぞれに不具合が生じ、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aおよびキーレスユニット5Yに対応する船外機2Bのロックを解除することができない場合、キーレスユニット5X、5Zのそれぞれに不具合が生じ、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aおよびキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cのロックを解除することができない場合、またはキーレスユニット5X、5Y、5Zのそれぞれに不具合が生じ、キーレスユニット5Xに対応する船外機2A、キーレスユニット5Yに対応する船外機2B、およびキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cのロックを解除することができない場合にはエラーとなり、ロック解除処理は終了する(
図6中のステップS40)。
【0065】
図6に示す船外機選定処理により、キーレスユニット5X、5Y、5Zのうち、不具合が生じていないキーレスユニットに対応する船外機の中から、船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船外機が選定された後、処理は、
図4中のステップS7へ進む。そして、ステップS7において、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニット5Xに対応する船外機2Aが船外機選定処理により選定された場合には、ロック解除信号を、船外機2Aを制御しているECM3Pに送信する(ステップS7、S8)。これにより、船外機2Aのロックが解除される。
【0066】
続いて、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、スレーブキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットに対応する船外機が船外機選定処理により選定された場合には、その選定された船外機に対応するスレーブキーレスユニットにロック解除要求を送信する(ステップS9、S10)。具体的には、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、スレーブキーレスユニットとして動作しているキーレスユニット5Yに対応する船外機2Bが船外機選定処理により選定された場合には、キーレスユニット5Yにロック解除要求を送信する。ロック解除要求を受信したキーレスユニット5Yは、船外機2Bを制御しているECM3Qにロック解除信号を送信する。これにより、船外機2Bのロックが解除される。また、キーレスユニット5Xのマスター制御部34は、スレーブキーレスユニットとして動作しているキーレスユニット5Zに対応する船外機2Cが船外機選定処理により選定された場合には、ロック解除要求をキーレスユニット5Zに送信する。ロック解除要求を受信したキーレスユニット5Zは、船外機2Cを制御しているECM3Rにロック解除信号を送信する。これにより、船外機2Cのロックが解除される。
【0067】
次に、キーレスユニット5Xがスレーブキーレスユニットとしてロック解除処理を行う場合について説明する。
図4において、船舶81に設けられた装置の電源が切断された状態で、携帯装置4を所持した利用者が船舶81に乗ってメインスイッチ12を押すと、船舶81に設けられた装置の電源が投入される。その直後、携帯装置4とキーレスユニット5X、5Y、5Zとの間で通信が行われ、各キーレスユニット5X、5Y、5Zは、携帯装置4から送信された認証コードを受信する(ステップS1)。続いて、キーレスユニット5Xの認証部33が、携帯装置4から送信された認証コードと、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードとが一致するか否かを判断する(ステップS2)。
【0068】
携帯装置4から送信された認証コードと、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードとが一致しない場合には(ステップS2:NO)、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35が、
図5に示すように、キーレスユニット5Yまたはキーレスユニット5Zからのマスター動作開始信号の送信を所定の第2の待機時間待つ(ステップS11)。すなわち、携帯装置4のメモリ29に記憶された認証コードが、キーレスユニット5Yのメモリ37に記憶された認証コードと同一である場合、キーレスユニット5Yがマスターキーレスユニットとして動作する。この場合には、キーレスユニット5Yからマスター動作開始信号が送信される。一方、携帯装置4のメモリ29に記憶された認証コードが、キーレスユニット5Zのメモリ37に記憶された認証コードと同一である場合、キーレスユニット5Zがマスターキーレスユニットとして動作する。この場合には、キーレスユニット5Zからマスター動作開始信号が送信される。キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Y、5Zのうちマスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットからのマスター動作開始信号の送信を第2の待機時間待ち、第2の待機時間以内に、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットからマスター動作開始信号が送信された場合、そのマスター動作開始信号を受信する。
【0069】
キーレスユニット5Yまたはキーレスユニット5Zからマスター動作開始信号を第2の待機時間以内に受信した場合には(ステップS11:YES)、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Xをスレーブキーレスユニットとして動作させる(ステップS12)。
【0070】
続いて、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Xに不具合が生じているか否かを診断する不具合診断処理を行う(ステップS13)。例えば、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、不具合診断処理として、キーレスユニット5Xと、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aを制御するECM3Pとの間において通信テストを行い、両者間において正常に通信を行うことができるか否かをチェックする処理等を行う。
【0071】
続いて、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、ステップS13の不具合診断処理の結果に基づき、キーレスユニット5Xに不具合が生じているか否かを判断する(ステップS14)。そして、キーレスユニット5Xに不具合が生じていない場合には、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Xに不具合が生じていないことを示す診断情報を、キーレスユニット5Y、5Zのうち、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットに送信する(ステップS15)。一方、キーレスユニット5Xに不具合が生じている場合には、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Xに不具合が生じていることを示す診断情報を、キーレスユニット5Y、5Zのうち、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットに送信する(ステップS16)。
【0072】
続いて、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Y、5Zのうち、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットからのロック解除要求の送信を所定の第3の待機時間待つ(ステップS17)。すなわち、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットは、スレーブキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットに対応する船外機が船外機選定処理により選定された場合に、その選定された船外機に対応するスレーブキーレスユニットにロック解除要求を送信する。キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットからのロック解除要求の送信を第3の待機時間待ち、第3の待機時間以内に、マスターキーレスユニットとして動作しているキーレスユニットからロック解除要求が送信された場合には、そのロック解除要求を受信する。そして、ロック解除要求を受信した場合、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、キーレスユニット5Xに対応する船外機2Aを制御しているECM3Pにロック解除信号を送信する(ステップS18)。これにより、船外機2Aのロックが解除される。
【0073】
一方、
図5中のステップS11において、第2の待機時間以内に、キーレスユニット5Yからもキーレスユニット5Zからもマスター動作開始信号を受信することができなかった場合には、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、ゲージ装置6を利用して、認証コードの手入力を利用者に要求し、利用者が入力した認証コードを取得する処理を行う(ステップS19)。すなわち、携帯装置4のメモリ29に記憶された認証コードが、キーレスユニット5X、5Y、5Zのメモリ37に記憶されたいずれの認証コードとも異なっている場合、キーレスユニット5X、5Y、5Zのうちのいずれのキーレスユニットもマスターキーレスユニットとして動作しない。この場合、ステップS11において、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は第2の待機時間以内にマスター開始信号を受信しない。このような場合には、もはや携帯装置4とキーレスユニット5X、5Y、5Zとの通信によっては船外機2A、2B、2Cのロックを解除することができないので、認証コードを手入力する機会を利用者に与える。
【0074】
具体的には、キーレスユニット5Xのスレーブ制御部35は、認証コードの入力処理を行う旨の指示をゲージ装置6に共用信号線11を介して送信する。なお、この場合、キーレスユニット5Y、5Zのそれぞれのスレーブ制御部35からも、同様の指示がゲージ装置6に送信される。ゲージ装置6は、これらの指示のうちのいずれかの指示に応じ、認証コードの入力画面をゲージ装置6のディスプレイに表示する。利用者は、ゲージ装置6の操作ボタンを操作して認証コードを入力することができる。ゲージ装置6は、利用者により入力された認証コードをキーレスユニット5X、5Y、5Zのそれぞれに共用信号線11を介して送信する。各キーレスユニット5X、5Y、5Zは、ゲージ装置6から送信された認証コードを受信し、この認証コードを用いて
図4中のステップS2以降の処理を行う。
【0075】
ロック解除処理において、利用者が、キーレスユニット5Xのメモリ37に記憶された認証コードと同一の認証コードが記憶された携帯装置4を所持してメインスイッチ12を押した場合には、キーレスユニット5Xがマスターキーレスユニットとして動作し、キーレスユニット5Yおよびキーレスユニット5Zがスレーブキーレスユニットとして動作する。また、利用者が、キーレスユニット5Yのメモリ37に記憶された認証コードと同一の認証コードが記憶された携帯装置4を所持してメインスイッチ12を押した場合には、キーレスユニット5Yがマスターキーレスユニットとして動作し、キーレスユニット5Xおよびキーレスユニット5Zがスレーブキーレスユニットとして動作する。また、利用者が、キーレスユニット5Zのメモリ37に記憶された認証コードと同一の認証コードが記憶された携帯装置4を所持してメインスイッチ12を押した場合には、キーレスユニット5Zがマスターキーレスユニットとして動作し、キーレスユニット5Xおよびキーレスユニット5Yがスレーブキーレスユニットとして動作する。キーレスユニット5Yがマスターキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Yの動作、およびキーレスユニット5Yがスレーブキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Yの動作は、キーレスユニット5Xがマスターキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Xの動作、およびキーレスユニット5Xがスレーブキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Xの動作とそれぞれ同様である。また、キーレスユニット5Zがマスターキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Zの動作、およびキーレスユニット5Zがスレーブキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Zの動作も、キーレスユニット5Xがマスターキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Xの動作、およびキーレスユニット5Xがスレーブキーレスユニットとして動作するときのキーレスユニット5Xの動作とそれぞれ同様である。
【0076】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例の船舶推進システム1は、各キーレスユニットの不具合の有無を認識し、不具合が生じていないキーレスユニットに対応する船外機の中から、船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船外機を選定し、選定した船外機についてのみロックを解除する。ロック解除処理が終了した後、利用者が全機始動・停止スイッチ9を押すと、船外機2A、2B、2Cのうち、ロックが解除されたすべての船外機のエンジン21が始動する。この場合、船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船外機のみが作動するので、作動した船外機から得られる船舶81の推進力は左右のバランスが取れたものとなる。
【0077】
例えば、キーレスユニット5Yの不具合のために、船舶81の左側に配置された船外機2Bのロックを解除することができない状態である場合、船舶推進システム1は、キーレスユニット5Xおよびキーレスユニット5Zには不具合が生じておらず船外機2Aおよび船外機2Cのロックを解除することができるのであるが、船舶81の右側に配置された船外機2Cについてはロックを解除せず、船舶81の左右方向中央に配置された船外機2Aについてのみロックを解除する。この場合、ロック解除処理後に、利用者が全機始動・停止スイッチ9を押すと、船外機2Aのみのエンジン21が始動する。この結果、船舶81の左右方向中央に配置された船外機2Aのみから船舶81の推進力が得られるので、その推進力は左右のバランスが取れたものとなる。
【0078】
このように、本実施例の船舶推進システム1によれば、キーレスユニット5X、5Y、5Zのうちの一部のキーレスユニットの不具合のために船外機2A、2B、2Cのうちの一部の船外機のロックを解除することができない場合でも(具体的には、キーレスユニット5Xの不具合のために船外機2Aについてのみロックを解除することができない場合、キーレスユニット5Yの不具合のために船外機2Bについてのみロックを解除することができない場合、キーレスユニット5Zの不具合のために船外機2Cについてのみロックを解除することができない場合、または、キーレスユニット5Yおよびキーレスユニット5Zの不具合のために船外機2Bおよび船外機2Cについてのみロックを解除することができない場合でも)、左右のバランスの取れた船舶の推進力を作り出すことができる。したがって、利用者は、一部のキーレスユニットに不具合が生じた場合でも、容易に船舶81を操船することができ、例えば、普段通りの操作で船舶81を直進させたり、左または右に旋回させたりすることができる。
【0079】
また、本実施例の船舶推進システム1によれば、一部のキーレスユニットに不具合が生じた場合でも、船外機2A、2B、2Cのうちの一部の船外機を作動させて船舶81を推進させることができ、船舶推進システム1の冗長性を向上させることができる。
【0080】
また、本実施例の船舶推進システム1によれば、各キーレスユニット5X、5Y、5Zの不具合を認識し、不具合が生じていないキーレスユニットに対応する船外機の中から船舶81の左右方向中央に関して左右対称となるように配置された船外機を選定する処理をマスターキーレスユニットが主導的に行う構成としたから、船外機の選定を効率良く行うことができる。
【0081】
また、本実施例の船舶推進システム1によれば、スレーブキーレスユニットが自己の不具合を診断し、その結果を示す診断情報をマスターキーレスユニットに送信し、マスターキーレスユニットが、スレーブキーレスユニットから送信された診断情報に基づいてスレーブキーレスユニットの不具合の有無を認識する構成としたから、スレーブキーレスユニットの不具合の有無の認識を円滑に行うことができる。
【実施例2】
【0082】
図8は本発明の第2の実施例の船舶推進システム51の構成を示している。
図9は船舶推進システム51において用いられる船外機選定情報63の一例を示している。
図8に示すように、第2の実施例の船舶推進システム51は、第1のグループG1に属する2機の船外機52A、52B、第2のグループG2に属する2機の船外機52C、52D、および第3のグループG3に属する2機の船外機52E、52Fを備えている。船外機52A、52Bはそれぞれ船舶の左右方向中央の領域に配置され、船外機52C、52Dはそれぞれ船舶の左側の領域に配置され、船外機52E、52Fはそれぞれ船舶の右側の領域に配置されている。また、各船外機52A~52Fのそれぞれのエンジン62の出力に関する性能はそれぞれ互いに等しい。
【0083】
また、第2の実施例の船舶推進システム51は6機のECM53P~53Uを備え、6機のECM53P~53Uは6機の船外機52A~52Fにそれぞれ一対一に対応している。各ECM53P~53Uは、第1の実施例における各ECM3P~3Rと同様に、制御部、CAN通信部およびロック部を有している。
【0084】
また、第2の実施例の船舶推進システム51は3機のキーレスユニット55X、55Y、55Zを備えている。キーレスユニット55XはグループG1に属する船外機52A、52Bのそれぞれに対応している。キーレスユニット55YはグループG2に属する船外機52C、52Dのそれぞれに対応している。キーレスユニット55ZはグループG3に属する船外機52E、52Fのそれぞれに対応している。
【0085】
また、第2の実施例の船舶推進システム51は、携帯装置54、ゲージ装置56、操作スイッチユニット57およびリモコン装置60を備えている。これらの装置は、第1の実施例における携帯装置4、ゲージ装置6、操作スイッチユニット7およびリモコン装置10とそれぞれ同様に構成されている。また、船舶推進システム51における各装置は共用信号線61に接続されており、共用信号線61を介して通信を行うことができるようになっている。
【0086】
各キーレスユニット55X、55Y、55Zは、第1の実施例における各キーレスユニット5X、5Y、5Zと同様に、マスタースレーブ機能および船外機選定機能を有している。また、各キーレスユニット55X、55Y、55Zはロック解除処理を行う。このロック解除処理の内容は、船外機選定処理を除き、
図4および
図5に示す第1の実施例におけるロック解除処理の内容と同じである。
【0087】
各キーレスユニット55X、55Y、55Zは船外機選定処理として次の処理を行う。また、各キーレスユニット55X、55Y、55Zはこの船外機選定処理を、
図9に示す船外機選定情報63に基づいて行う。
【0088】
すなわち、キーレスユニット55Xに不具合が生じ、キーレスユニット55Xに対応する2機の船外機52A、52Bのロックを解除することができず、かつキーレスユニット55Yおよびキーレスユニット55Zには不具合が生じておらず、キーレスユニット55Yに対応する2機の船外機52C、52Dおよびキーレスユニット55Zに対応する2機の船外機52E、52Fのロックを解除することができる状態である場合、キーレスユニット55X、55Y、55Zのうちマスターキーレスユニットとして動作するキーレスユニットは、キーレスユニット55Yに対応する船外機52Cおよび船外機52D、並びにキーレスユニット55Zに対応する船外機52Eおよび船外機52Fを選定する。
【0089】
また、キーレスユニット55Yに不具合が生じ、キーレスユニット55Yに対応する2機の船外機52C、52Dのロックを解除することができず、かつキーレスユニット55Xおよびキーレスユニット55Zには不具合が生じておらず、キーレスユニット55Xに対応する2機の船外機52A、52Bおよびキーレスユニット55Zに対応する2機の船外機52E、52Fのロックを解除することができる状態である場合、キーレスユニット55X、55Y、55Zのうちマスターキーレスユニットとして動作するキーレスユニットは、キーレスユニット55Xに対応する船外機52Aおよび船外機52Bのみを選定する。
【0090】
また、キーレスユニット55Zに不具合が生じ、キーレスユニット55Zに対応する2機の船外機52E、52Fのロックを解除することができず、かつキーレスユニット55Xおよびキーレスユニット55Yには不具合が生じておらず、キーレスユニット55Xに対応する2機の船外機52A、52Bおよびキーレスユニット55Yに対応する2機の船外機52C、52Dのロックを解除することができる状態である場合、キーレスユニット55X、55Y、55Zのうちマスターキーレスユニットとして動作するキーレスユニットは、キーレスユニット55Xに対応する船外機52Aおよび船外機52Bのみを選定する。
【0091】
また、キーレスユニット55Yおよびキーレスユニット55Zに不具合が生じ、キーレスユニット55Yに対応する2機の船外機52C、52Dおよびキーレスユニット55Zに対応する2機の船外機52E、52Fのロックを解除することができず、かつキーレスユニット55Xには不具合が生じておらず、キーレスユニット55Xに対応する2機の船外機52A、52Bのロックを解除することができる状態である場合、キーレスユニット55X、55Y、55Zのうちマスターキーレスユニットとして動作するキーレスユニットは、キーレスユニット55Xに対応する船外機52Aおよび船外機52Bのみを選定する。
【0092】
本発明の第2の実施例による船舶推進システム51によっても、本発明の第1の実施例による船舶推進システム1と同様の作用効果が得られる。
【0093】
なお、上記各実施例では、マスターキーレスユニットが、自己の不具合の有無を診断する不具合診断処理を行うことなく自己に不具合がないことを認識する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。マスターキーレスユニットが、自己についての不具合診断処理を行い、その診断結果に基づいて自己の不具合の有無を認識するようにしてもよい。
【0094】
また、上記各実施例では、ECM3P~3Q(53P~53U)が、ロック部27をそれぞれ有し、船外機2A~2C(52A~52F)のロックを解除する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、
図10に示す船舶推進システム71のように、船舶に、制御装置として、船舶に設けられた複数の船外機を統括的に制御するBCM(ボートコントロールモジュール)72を設け、このBCM72にロック部73を持たせてもよい。この場合には、キーレスユニット5Xから送信されたロック解除信号に従って、BCM72のロック部73がECM3Pを介して船外機2Aを制御し、船外機2Aのロックを解除する。また、キーレスユニット5Yから送信されたロック解除信号に従って、BCM72のロック部73がECM3Qを介して船外機2Bを制御し、船外機2Bのロックを解除する。また、キーレスユニット5Zから送信されたロック解除信号に従って、BCM72のロック部73がECM3Rを介して船外機2Cを制御し、船外機2Cのロックを解除する。
【0095】
また、上記各実施例では、全機始動・停止スイッチ9により、ロックが解除されたすべての船外機のエンジン21を一斉に始動させる場合を例にあげたが、ロックが解除されたすべての船外機のエンジン21を一斉に始動させる機能をメインスイッチ12に持たせてもよい。
【0096】
また、上記第1の実施例では、3機の船外機2A、2B、2Cと3機のキーレスユニット5X、5Y、5Zとが一対一に対応する場合を例にあげたが、船舶推進システムにおける3機以上の船外機と複数のキーレスユニットとの対応関係は様々考えられる。例えば、3機の船外機および2機のキーレスユニットを設け、2機のキーレスユニットのうち、1機のキーレスユニットを、3機の船外機のうち、船舶の左右方向中央に配置された1機の船外機に対応させ、もう1機のキーレスユニットを、3機の船外機のうち、船舶の左側および右側にそれぞれ配置された2機の船外機に対応させてもよい。
【0097】
また、上記第2の実施例における6機の船外機52A~52Fと3機のキーレスユニット55X、55Y、55Zとの対応関係を例えば次のように変形してもよい。すなわち、キーレスユニット55Xを、船外機52A~52Fのうち船舶の左右方向中央の領域に配置された4機の船外機と対応させ、キーレスユニット55Yを、船外機52A~52Fのうち船舶の最も左側に配置された1機の船外機に対応させ、キーレスユニット55Zを、船外機52A~52Fのうち船舶の最も右側に配置された1機の船外機に対応させてもよい。
【0098】
また、本発明は、船舶に設ける船外機が4機、5機、または7機以上の場合にも適用することができる。また、本発明におけるキーレスユニットの数についても、船外機の数が多い場合には、3機、または2機に限らず、4機以上でもよい。
【0099】
また、キーレスユニット、ECM、操作スイッチユニット、リモコン装置およびゲージ装置のそれぞれの間の通信方式はCANに限らない。また、各船外機の動力源は電動モータ等の他の種類の動力源でもよい。また、本発明は、船外機以外の他の種類の船舶推進機を備えた船舶推進システムにも適用することができる。また、本発明を適用する船舶の種類は限定されない。
【0100】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船舶推進システムもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1、51、71 船舶推進システム
2A~2C、52A~52F 船外機(船舶推進機)
3P~3R、53P~53U ECM(制御装置)
4、54 携帯装置(通信装置)
5X~5Z、55X~55Z キーレスユニット(認証装置)
27、73 ロック部
72 BCM(制御装置)
81 船舶