(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】光センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20240611BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G01J1/02 B
G01J1/02 R
H01L31/08 Z
(21)【出願番号】P 2020184853
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012076(WO,A1)
【文献】特開2019-2852(JP,A)
【文献】特開2019-192904(JP,A)
【文献】Shutaro Ishida,グラフェンナノドットアレイ構造を用いた可視光増強場デバイスの開発,Annual Report ,2015年,No.29,PP.66-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-G01J 1/60
G01J 11/00
H01L 31/00-H01L 31/024
H01L 31/08-H01L 31/119
H01L 31/18-H01L 31/20
G02F 1/00-G02F 1/125
G02F 1/21-G02F 7/00
H01L 29/00-H01L 29/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン層と、
前記グラフェン層に接続された第1電極及び第2電極と、
前記グラフェン層の下方に設けられ、表面プラズモン共鳴により光電場の強度を増強する増強層と、
を有し、
前記第1電極と前記第2電極とは第1方向に並び、
前記増強層により増強される光電場の強度は、前記グラフェン層の前記第1方向における中心線を基準として、前記第1電極側で前記第2電極側よりも大きいことを特徴とする光センサ。
【請求項2】
前記増強層は、前記中心線よりも前記第1電極側に前記第2電極側よりも高い密度で配置された複数のグラフェンドット層を有することを特徴とする請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
前記増強層は、前記中心線よりも前記第1電極側にのみ前記複数のグラフェンドット層を有することを特徴とする請求項2に記載の光センサ。
【請求項4】
前記グラフェン層と前記増強層との間に設けられた絶縁層を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光センサ。
【請求項5】
前記グラフェン層の上方に設けられたパッシベーション層を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光センサ。
【請求項6】
基材の上に表面プラズモン共鳴により光電場の強度を増強する増強層を形成する工程と、
前記増強層の上方にグラフェン層を形成する工程と、
前記グラフェン層に接続される第1電極及び第2電極を第1方向に並べて形成する工程と、
を有し、
前記増強層により増強される光電場強度は、前記グラフェン層の前記第1方向における中心線を基準として、前記第1電極側で前記第2電極側よりも大きいことを特徴とする光センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトに代表される層状結晶は、基本の構成単位となる原子層が当該原子層の法線方向に規則的に積層した構造を有する。グラファイトは、高い光吸収率、電気伝導性及び柔軟性を有することから、透明導電膜やフレキシブルデバイスへの応用が試みられている。近年、グラファイトのバルク結晶から剥離により取り出した単層の原子膜(グラフェン)において、高いキャリア移動度を有する等、バルク中とは異なる新規な物性が発現することが見いだされた。これを契機に、グラフェンを用いたデバイス開発が盛んに研究されてきている。なかでも、グラフェンの高いキャリア移動度と可視光から赤外光までの広い波長帯を吸収する特性(単層あたり、2.3%)を活かして、室温で動作する高速高感度赤外線センサの開発が進められている。
【0003】
グラフェンを用いた光センサの作製において、グラフェンの優れた電気特性(高いキャリア移動度)を活かすには単層グラフェンを用いることが好ましいが、単層では光吸収量が少ないため十分な感度が得られない。これに対して、受光部であるグラフェンにアンチドット加工を施す(微細な穴を多数形成する)ことでセンサの光吸収量を増加させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-522348号公報
【文献】特開2013-46028号公報
【文献】特開2014-203929号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Dirac plasmon-assisted asymmetric hot carrier generation for room-temperature infrared detection, Nature Communications, 10, 3498 (2019)
【文献】Wide Angle Dynamically Tunable Enhanced Infrared Absorption on Large-Area Nanopatterned Graphene, ACS Nano, 13, 421 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、グラフェンにアンチドット加工を施すと、開口が形成された分だけキャリア移動度が低下してしまう。
【0007】
本開示の目的は、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる光センサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態によれば、グラフェン層と、前記グラフェン層に接続された第1電極及び第2電極と、前記グラフェン層の下方に設けられ、表面プラズモン共鳴により光電場の強度を増強する増強層と、を有し、前記第1電極と前記第2電極とは第1方向に並び、前記増強層により増強される光電場の強度は、前記グラフェン層の前記第1方向における中心線を基準として、前記第1電極側で前記第2電極側よりも大きい光センサが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る光センサを示す平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る光センサを示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図4】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図5】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図6】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図7】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その5)である。
【
図8】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その6)である。
【
図9】第1実施形態に係る光センサの製造方法を示す平面図である。
【
図10】第2実施形態に係る光センサを示す平面図である。
【
図11】第2実施形態に係る光センサを示す断面図である。
【
図12】第2実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図13】第2実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図14】第2実施形態に係る光センサの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図15】第3実施形態に係る光センサを示す平面図である。
【
図16】第3実施形態に係る光センサを透視して示す平面図である。
【
図17】第4実施形態に係る光センサを示す平面図である。
【
図18】第4実施形態に係る光センサを透視して示す平面図である。
【
図19】第5実施形態に係る光センサを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0012】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態は光センサに関する。
図1は、第1実施形態に係る光センサを示す平面図である。
図2は、第1実施形態に係る光センサを示す断面図である。
図2は、
図1中のI-I線に沿った断面図に相当する。
【0013】
第1実施形態に係る光センサ100は、
図1及び
図2に示すように、シリコン(Si)基板101と、基板101の表面に形成された酸化シリコン(SiO
2)膜102とを含む基材103を有する。基材103は、例えば熱酸化膜付きSi基板である。酸化シリコン膜102の上に第1電極131と、第2電極132とが設けられている。第1電極131と第2電極132とは、互いに第1方向に並んで配置されている。第1電極131及び第2電極132の材料は特に限定されず、例えば、Au、Pd、Ni、Cr又はTiが用いられてもよい。第1電極131及び第2電極132が、これら金属の積層体を含んでいてもよい。例えば、第1電極131及び第2電極132が、Ti膜と、Ti膜上に形成されたAu膜との積層体を含んでいてもよく、Cr膜と、Cr膜上に形成されたAu膜との積層体を含んでいてもよい。第1電極131と第2電極132との間で材料が共通していてもよく、相違していてもよい。
【0014】
第1電極131と第2電極132との間において、酸化シリコン膜102の上に、表面プラズモン共鳴により光電場強度を増強する増強層120が設けられている。増強層120については後述する。
【0015】
第1電極131及び第2電極132に接続されたグラフェン層111が増強層120の上方に設けられている。グラフェン層111は、1又は互いに積層された複数のグラフェンを含む。グラフェン層111が複数のグラフェンを含む場合、複数のグラフェンがランダム(回転)積層されていることが好ましい。これは、ランダム(回転)積層により、比較的高いキャリア移動度が得られるからである。また、グラフェン層111と増強層120との間に絶縁層112が設けられている。絶縁層112は、例えば2次元材料である六方晶窒化ホウ素(hBN)からなる。絶縁層112は、1又は互いに積層された複数のhBNを含む。グラフェン層111及び絶縁層112の長さ(第1方向の寸法)及び幅(第1方向に直交する第2方向の寸法)は特に限定されないが、例えば1μm~1000μm程度である。
【0016】
ここで、増強層120について説明する。本実施形態では、増強層120は、複数のグラフェンドット層121を有する。これらグラフェンドット層121は、グラフェン層111の第1方向における中心線Cよりも第1電極131側のみに設けられており、中心線Cよりも第2電極132側にはグラフェンドット層121が設けられていない。すなわち、グラフェンドット層121の密度は、中心線Cよりも第1電極131側で第2電極132側よりも高くなっている。従って、増強層120により増強される光電場の強度は、中心線Cを基準として、第1電極131側で第2電極132側よりも大きい。
【0017】
グラフェンドット層121は、1又は互いに積層された複数のグラフェンを含む。グラフェンドット層121は、例えば、平面視で正三角形格子を構成するように配置される。グラフェンドット層121が、平面視で正方形格子を構成するように配置されていてもよい。グラフェンドット層121の平面形状は特に限定されず、例えば略円形又は略矩形である。グラフェンドット層121のサイズも特に限定されず、増強しようとする光電場の波長に応じて適宜選択することができる。例えば、中赤外領域の光電場を増強させる場合、グラフェンドット層121は、直径が100nm~200nmの略円形の平面形状を有し、200nm~400nmの周期で規則的に配列されている。本開示におけるグラフェンドット層121の周期とは、最も近接するグラフェンドット層121の中心同士を結ぶ線分の長さをいう。
【0018】
このように構成された第1実施形態に係る光センサ100では、グラフェン層111に光が入射すると、その一部がグラフェン層111及び絶縁層112を透過して増強層120に到達する。上記のように、グラフェンドット層121は、中心線Cよりも第1電極131側のみに設けられ、中心線Cよりも第2電極132側にはグラフェンドット層121が設けられていない。このため、中心線Cよりも第1電極131側では、グラフェンドット層121の近傍で光電場の強度が増強されるが、第2電極132側では光電場の強度は増強されない。すなわち、増強層120により増強される光電場の強度は、中心線Cを基準として、第1電極131側で第2電極132側よりも大きい。従って、グラフェン層111での光吸収量は、中心線Cを基準として、第1電極131側で第2電極132側よりも大きくなる。この結果、中心線Cを基準として、グラフェン層111の第1電極131側と第2電極132との間で光励起されるキャリアの密度に差が生じ、第1電極131と第2電極132との間に電位差(電圧)が発生する。そして、この電位差(電圧)を測定することで、入射した光を検出できる。
【0019】
また、グラフェン層111にアンチドット加工等のキャリア移動度を低下させる加工は必要とされない。このため、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる。
【0020】
また、グラフェンドットによる光電場の増強量はアンチドット加工が施されたグラフェンよりも大きい。例えば、光吸収量に換算すると、加工が施されていないグラフェンの光吸収量が2.3%程度、アンチドット加工が施されたグラフェンの光吸収量が60%程度であるのに対し、グラフェンドットの光吸収量は90%程度である。なお、後述のように、増強層120に、アンチドット加工が施されたグラフェンが用いられてもよい。
【0021】
また、グラフェンドット層121とグラフェン層111との間に絶縁層112が設けられているため、グラフェンドット層121によるグラフェン層111へのキャリア散乱の影響を抑制できる。増強される光電場の強度は、グラフェンドット層121とグラフェン層111との間の距離に対して指数関数的に減衰する。このため、絶縁層112は薄い方が望ましい。例えば、絶縁層112は1層のhBNから構成されることが望ましい。絶縁層112の材料はhBNに限定されない。絶縁層112の材料として、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化ハフニウム(HfO2)が用いられてもよい。
【0022】
なお、増強される光電場の波長は、増強層120に含まれるグラフェンドット層121のサイズ及び周期に依存する。従って、グラフェンドット層121のサイズ及び周期を調整することで、増強される光電場の波長を変調できる。例えば、100nm~200nmの直径、200nm~400nmの周期の範囲内で直径及び周期を選択することで、増強される光電場の波長を8μm~10μm程度の範囲内で変調できる。
【0023】
次に、第1実施形態に係る光センサ100の製造方法について説明する。
図3~
図8は、第1実施形態に係る光センサ100の製造方法を示す断面図である。
図9は、第1実施形態に係る光センサ100の製造方法を示す平面図である。
図4は、
図9中のIV-IV線に沿った断面図に相当する。
【0024】
まず、
図3に示すように、基材103を準備する。基材103は、例えば熱酸化膜付きSi基板である。次いで、酸化シリコン膜102の上にグラフェン層121Aを設ける。グラフェン層121Aは、少なくとも、複数のグラフェンドット層121を形成する領域を含むように設ける。酸化シリコン膜102の上にグラフェン層121Aを直接合成してよく、別途合成したグラフェン層121Aを酸化シリコン膜102の上に転写してもよい。
【0025】
その後、
図4及び
図9に示すように、グラフェン層121Aを加工して複数のグラフェンドット層121を含む増強層120を形成する。グラフェン層121Aの加工では、例えば、リソグラフィーにより複数のグラフェンドット層121を形成する予定の部分を覆うマスクを形成し、酸素プラズマ装置等を用いてグラフェン層121Aのマスクから露出した部分をアッシングする。
【0026】
続いて、
図5に示すように、増強層120の上に絶縁層112Aを設ける。絶縁層112Aは、例えば2次元材料である六方晶窒化ホウ素(hBN)からなる。絶縁層112Aは、少なくとも、絶縁層112を形成する領域を含むように設ける。別途合成した絶縁層112Aを増強層120の上に転写してもよく、増強層120の上に絶縁層112Aを直接合成してよい。絶縁層112Aの材料として酸化アルミニウム又は酸化ハフニウムを用いてもよい。絶縁層112Aの材料として酸化アルミニウム又は酸化ハフニウムを用いる場合、絶縁層112Aは、原子層堆積(atomic layer deposition:ALD)法又は蒸着法等により形成してもよい。
【0027】
次いで、
図6に示すように、絶縁層112Aの上にグラフェン層111Aを設ける。グラフェン層111Aは、少なくともグラフェン層111を形成する領域を含むように設ける。絶縁層112Aの上にグラフェン層121Aを直接合成してよく、別途合成したグラフェン層121Aを絶縁層112Aの上に転写してもよい。
【0028】
その後、
図7に示すように、グラフェン層111A及び絶縁層112Aを加工してグラフェン層111及び絶縁層112を形成する。グラフェン層111A及び絶縁層112Aの加工では、例えば、リソグラフィーによりグラフェン層111及び絶縁層112を形成する予定の部分を覆うマスクを形成し、酸素プラズマ装置等を用いてグラフェン層121Aのマスクから露出した部分をアッシングする。酸素プラズマ装置等を用いたアッシングに代えて、反応性イオンエッチング(reactive ion etching:RIE)を行ってもよい。
【0029】
続いて、
図8に示すように、グラフェン層111に接続される第1電極131及び第2電極132を形成する。第1電極131及び第2電極132は、互いに第1方向に並ぶように形成する。
【0030】
このようにして第1実施形態に係る光センサ100を製造することができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、グラフェン層111の上にパッシベーション層が設けられている点で第1実施形態と相違する。
図10は、第2実施形態に係る光センサを示す平面図である。
図11は、第2実施形態に係る光センサを示す断面図である。
図11は、
図10中のXI-XI線に沿った断面図に相当する。
【0032】
第2実施形態に係る光センサ200は、
図10及び
図11に示すように、グラフェン層111の上に設けられたパッシベーション層212を有する。パッシベーション層212は、例えば2次元材料である六方晶窒化ホウ素(hBN)からなる。パッシベーション層212は、1又は互いに積層された複数のhBNを含む。
【0033】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0034】
第2実施形態によっても、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる。また、第2実施形態では、パッシベーション層212が設けられているため、グラフェン層111による大気中の水分の吸着が抑制される。グラフェン層111が水分を吸着すると、水分のドーピングによりグラフェン層111の特性が変化する。従って、不活性なパッシベーション層212によりグラフェン層111を覆うことにより、グラフェン層111の特性の安定性を向上できる。
【0035】
パッシベーション層212の材料はhBNに限定されない。パッシベーション層212の材料として、例えば酸化アルミニウム又は酸化ハフニウムが用いられてもよい。
【0036】
次に、第2実施形態に係る光センサ200の製造方法について説明する。
図12~
図14は、第2実施形態に係る光センサ200の製造方法を示す断面図である。
【0037】
まず、第1実施形態と同様にして、グラフェン層111Aの配置までの処理を行う(
図6参照)。次いで、
図12に示すように、グラフェン層111Aの上にパッシベーション層212Aを設ける。パッシベーション層212Aは、例えば2次元材料である六方晶窒化ホウ素(hBN)からなる。パッシベーション層212Aは、少なくとも、パッシベーション層212を形成する領域を含むように設ける。別途合成したパッシベーション層212Aをグラフェン層111Aの上に転写してもよく、グラフェン層111Aの上にパッシベーション層212Aを直接合成してよい。パッシベーション層212Aの材料として酸化アルミニウム又は酸化ハフニウムを用いてもよい。パッシベーション層212Aの材料として酸化アルミニウム又は酸化ハフニウムを用いる場合、パッシベーション層212Aは、ALD法又は蒸着法等により形成してもよい。
【0038】
その後、
図13に示すように、パッシベーション層212A、グラフェン層111A及び絶縁層112Aを加工してパッシベーション層212、グラフェン層111及び絶縁層112を形成する。パッシベーション層212、グラフェン層111A及び絶縁層112Aの加工では、例えば、リソグラフィーによりパッシベーション層212、グラフェン層111及び絶縁層112を形成する予定の部分を覆うマスクを形成し、酸素プラズマ装置等を用いてパッシベーション層212、グラフェン層121Aのマスクから露出した部分をアッシングする。酸素プラズマ装置等を用いたアッシングに代えて、RIEを行ってもよい。
【0039】
続いて、
図14に示すように、グラフェン層111に接続される第1電極131及び第2電極132を形成する。第1電極131及び第2電極132は、互いに第1方向に並ぶように形成する。
【0040】
このようにして第2実施形態に係る光センサ200を製造することができる。
【0041】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、増強層の構成の点で第1実施形態と相違する。
図15は、第3実施形態に係る光センサを示す平面図である。
図16は、第3実施形態に係る光センサを透視して示す平面図である。
図16では、グラフェン層111及び絶縁層112を透視している。
【0042】
第3実施形態に係る光センサ300では、
図15及び
図16に示すように、増強層120に代えて増強層320が設けられている。増強層320は、複数の線状グラフェン層321を有する。これら線状グラフェン層321は、グラフェン層111の中心線Cよりも第1電極131側のみに設けられており、中心線Cよりも第2電極132側には線状グラフェン層321が設けられていない。従って、増強層320により増強される光電場の強度は、中心線Cを基準として、第1電極131側で第2電極132側よりも大きい。
【0043】
線状グラフェン層321は、1又は互いに積層された複数のグラフェンを含む。線状グラフェン層321は、第1方向に垂直な第2方向に延び、第1方向に並ぶ。線状グラフェン層321のサイズは特に限定されず、増強しようとする光電場の波長に応じて適宜選択することができる。
【0044】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0045】
第3実施形態によっても、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる。第3実施形態では、増強層320を形成するためのマスクの設計及び形成がより容易である。
【0046】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、増強層の構成の点で第1実施形態と相違する。
図17は、第4実施形態に係る光センサを示す平面図である。
図18は、第4実施形態に係る光センサを透視して示す平面図である。
図18では、グラフェン層111及び絶縁層112を透視している。
【0047】
第4実施形態に係る光センサ400では、
図17及び
図18に示すように、増強層120に代えて増強層420が設けられている。増強層420は、アンチドット加工が施されたグラフェン層421を有する。グラフェン層421は、グラフェン層111の中心線Cよりも第1電極131側のみに設けられており、中心線Cよりも第2電極132側にはグラフェン層421が設けられていない。従って、増強層420により増強される光電場の強度は、中心線Cを基準として、第1電極131側で第2電極132側よりも大きい。
【0048】
グラフェン層421は、1又は互いに積層された複数のグラフェンを含む。グラフェン層421には、アンチドット加工により複数の開口422が形成されている。開口422の平面形状は特に限定されず、例えば略円形又は略矩形である。開口422のサイズも特に限定されず、増強しようとする光電場の波長に応じて適宜選択することができる。
【0049】
第4実施形態によっても、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる。
【0050】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、制御電極が設けられている点で第1実施形態と相違する。
図19は、第5実施形態に係る光センサを示す断面図である。
【0051】
第5実施形態に係る光センサ500は、
図19に示すように、グラフェン層111のキャリア濃度を変調するゲート電極531が制御電極として設けられている。例えば、ゲート電極531はシリコン基板101の下方に設けられている。すなわち、光センサ500はバックゲート構造を備える。ゲート電極531はグラフェン層111だけでなくグラフェンドット層121のキャリア濃度を変調することもできる。
【0052】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0053】
第5実施形態によっても、キャリア移動度の低下を抑制しながら感度を向上することができる。第5実施形態では、ゲート電極531によりグラフェン層111及びグラフェンドット層121のキャリア濃度を変調することで、光電場の強度が増強される波長を変調することもできる。
【0054】
第2、第3又は第4実施形態にゲート電極531が設けられていてもよい。
【0055】
なお、増強層の構成は上記実施形態の構成に限定されない。例えば、増強層に含まれるグラフェン層が設けられた領域と設けられていない領域との境界が、平面視で中心線Cと一致している必要はない。増強層に含まれるグラフェン層が中心線Cよりも第2電極132側において皆無である必要はない。例えば、増強される光電場の強度が第1電極131側で第2電極132側よりも大きければ、増強層が中心線Cよりも第2電極132側にグラフェン層を有していてもよい。つまり、増強層に含まれるグラフェン層が設けられた領域と設けられていない領域との境界が、中心線Cよりも第2電極132側にあってもよい。逆に、増強層に含まれるグラフェン層が設けられた領域と設けられていない領域との境界が、中心線Cよりも第1電極131側にあってもよい。また、中心線Cよりも第2電極132側に、第1電極131側よりも低密度で複数のグラフェンドット層が設けられていてもよい。
【0056】
増強層を構成するグラフェンと酸化シリコン膜102との間にhBNが設けられていてもよい。hBNが設けられていることで、酸化シリコン膜102から増強層を構成するグラフェンへのドーピングを抑制することができる。
【0057】
また、基材103は、シリコン基板101と酸化シリコン膜102との積層体に限定されない。
【0058】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0059】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0060】
(付記1)
グラフェン層と、
前記グラフェン層に接続された第1電極及び第2電極と、
前記グラフェン層の下方に設けられ、表面プラズモン共鳴により光電場の強度を増強する増強層と、
を有し、
前記第1電極と前記第2電極とは第1方向に並び、
前記増強層により増強される光電場の強度は、前記グラフェン層の前記第1方向における中心線を基準として、前記第1電極側で前記第2電極側よりも大きいことを特徴とする光センサ。
(付記2)
前記増強層は、前記中心線よりも前記第1電極側に前記第2電極側よりも高い密度で配置された複数のグラフェンドット層を有することを特徴とする付記1に記載の光センサ。
(付記3)
前記増強層は、前記中心線よりも前記第1電極側にのみ前記複数のグラフェンドット層を有することを特徴とする付記2に記載の光センサ。
(付記4)
前記グラフェンドット層は、
直径が100nm~200nmの円形の平面形状を有し、
200nm~400nmの周期で規則的に配列されていることを特徴とする付記2又は3に記載の光センサ。
(付記5)
前記グラフェン層と前記増強層との間に設けられた絶縁層を有することを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載の光センサ。
(付記6)
前記絶縁層は、六方晶窒化ホウ素を含むことを特徴とする付記5に記載の光センサ。
(付記7)
前記グラフェン層の上方に設けられたパッシベーション層を有することを特徴とする付記1乃至6のいずれか1項に記載の光センサ。
(付記8)
前記パッシベーション層は、六方晶窒化ホウ素を含むことを特徴とする付記7に記載の光センサ。
(付記9)
前記グラフェン層のキャリア濃度を変調する制御電極を有することを特徴とする付記1乃至8のいずれか1項に記載の光センサ。
(付記10)
基材の上に表面プラズモン共鳴により光電場の強度を増強する増強層を形成する工程と、
前記増強層の上方にグラフェン層を形成する工程と、
前記グラフェン層に接続される第1電極及び第2電極を第1方向に並べて形成する工程と、
を有し、
前記増強層により増強される光電場強度は、前記グラフェン層の前記第1方向における中心線を基準として、前記第1電極側で前記第2電極側よりも大きいことを特徴とする光センサの製造方法。
【符号の説明】
【0061】
100、200、300、400、500:光センサ
111、421:グラフェン層
112:絶縁層
120、320、420:増強層
121:グラフェンドット層
131:第1電極
132:第2電極
212:パッシベーション層
321:線状グラフェン層
422:開口
531:ゲート電極