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特許7501316二酸化炭素還元装置、及び人工光合成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置、及び人工光合成装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20240611BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240611BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240611BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240611BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240611BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20240611BHJP
   C25B 11/085 20210101ALI20240611BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B1/23
C25B3/26
C25B9/23
C25B11/032
C25B11/075
C25B11/085
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020186696
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076331
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-03-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、環境省「二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業」「二酸化炭素と水からsyngas(一酸化炭素+水素)を高効率に常温常圧合成する技術の実証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関澤 佳太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】毛利 登美子
(72)【発明者】
【氏名】森川 健志
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062038(JP,A)
【文献】特開2019-052340(JP,A)
【文献】特開2019-052347(JP,A)
【文献】特開2019-167558(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136433(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065258(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176141(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017503(US,A1)
【文献】Hitoshi Ogihara, Tomomi Maezuru, Yuji Ogishima, and Ichiro Yamanaka,Electrochemical Reduction of CO2 to CO by a Co-N-C Electrocatalyst and PEM Reactor at Ambient Conditons,Chemistry Selec,2016年,Vol. 1,p. 5533-5537,https://doi.org/10.1002/slct.201601082
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又は水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するアノード、及び前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路を備えるアノード部と、
二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成するカソード、及び前記カソードに二酸化炭素ガスを供給するガス流路を備えるカソード部と、
前記アノード部と前記カソード部により挟持されるイオン伝導性ポリマー膜と、を備え、
前記カソードは、前記イオン伝導性ポリマー膜側から順に、触媒層と、ガス拡散層とを備え、
前記触媒層は、中心金属、及び電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子を有する金属錯体触媒と、導電性カーボンとを有することを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素還元生成物は、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレンからなる群より選択される少なくとも1つの物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項3】
前記触媒層は、イオン伝導体及びバインダーとなる高分子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
前記ガス拡散層は、疎水性多孔質カーボン基材を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項5】
前記中心金属は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Reからなる群より選択される金属であり、前記ジイミン配位子に導入された前記置換基は、構造式が-COOR(式中、Rはアルキル基)で表されるカルボン酸エステルであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項6】
前記アノードは、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備え、前記基材は多孔体、メッシュ、又は繊維焼結体であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項7】
前記アノードは、前記基材に担持されるアノード触媒を備え、
前記アノード触媒は、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属、前記金属を含む酸化物、前記金属を含む水酸化物、又は前記金属を含むオキシ水酸化物である請求項6に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項8】
前記アノード溶液は、水酸化物イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、四ホウ酸イオン、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つのイオンを含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項9】
前記アノード溶液は、pH12以上のアルカリ性水溶液であり、前記イオン伝導性ポリマー膜は陰イオン伝導性ポリマー膜であり、前記アノードと前記カソード間のセル電位が2V以下で、前記カソードから一酸化炭素又はギ酸を生成することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項10】
前記アノードと前記カソード間のセル電位が1.7V以下で、前記カソードから一酸化炭素又はギ酸を生成することを特徴とする請求項9に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項11】
前記アノードと前記カソード間のセル電位が1.5V以下で、前記カソードから一酸化炭素又はギ酸を生成することを特徴とする請求項9に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項12】
前記ジイミン配位子が、2,2’-ビピリジンとピロールを炭素数1~10の炭化水素鎖で化学結合により連結された分子、またはこれらの分子同士をポリピロール鎖により多量体化したポリマーであることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項13】
前記中心金属がMn又はRuであることを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項14】
前記触媒層は、フェノール又はその塩を含むことを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項15】
前記アノードは、オキシ水酸化鉄又はオキシ水酸化ニッケルを含むことを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元装置と、
前記アノード及び前記カソードに供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備えることを特徴とする人工光合成装置。
【請求項17】
前記太陽電池セルは、シリコン系太陽電池セルであることを特徴とする請求項16に記載の人工光合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元装置、及び人工光合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。そのようなエネルギー問題、さらに環境問題の観点等から、太陽光等の再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を電気化学的に還元し、貯蔵可
能な化学エネルギー源を作り出す人工光合成技術の開発が進められている。
【0003】
二酸化炭素を還元する方法の一つとして、水溶液中に溶解させた二酸化炭素を電気化学的に還元する方法が知られている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1)。
【0004】
しかし、水溶液中に溶ける二酸化炭素の濃度は室温・常圧では希薄であることから、二酸化炭素還元に優先して、共存するプロトン(H)の還元が進行し、水素(H)が副生される。また、水溶液中での二酸化炭素の物質拡散は遅いため、二酸化炭素還元の反応電流密度の理論限界は<30mA・cm-2と小さい。
【0005】
これらの問題を解決する手法として、二酸化炭素ガスをカソードの触媒層に直接供給するガス拡散型電解フローセルが提案されている(例えば、特許文献3、非特許文献2、3)。
【0006】
ガス拡散型電解フローセルの場合、水に対するCOの濃度比が大きいため、Hの副生が抑えられ、拡散速度の速い気相中で反応が進行するので、反応電流密度の限界が大幅に増大する。このため、高いセル電位を印加した場合、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物が得られることが知られている。
【0007】
また、ガス拡散型電解フローセルは、アノードとカソードをイオン伝導性ポリマー膜で分離しているので、アノードの酸化生成物とカソードの二酸化炭素還元生成物が混合することなく得られるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-171963号公報
【文献】特開2019-127646号公報
【文献】特開2019-510884号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Arai, T.; Sato, S.; Sekizawa, K.; T. M.; Morikawa, T., “Solar-driven CO2 to CO reduction utilizing H2O as an electron donor by earth-abundant Mn-bipyridine complex and Ni-modified Fe-oxyhydroxide catalysts activated in a single-compartment reactor”, Chem. Commun., Vol.55, (2019), pp.237-240
【文献】Ren, S.; Joulie, D.; Salvatore, D.; Torbensen, K.; Wang, M.; Robert, M.; Berlinguette, C. P., “Molecular electrocatalysts can mediatefast, selective CO2 reduction in a flow cell”, Science, Vol.365, No.6451(2019), pp.367-369
【文献】Cheng, W.-H.; Richter, M. H.; Sullivan, I.; Larson, D. M.; Xiang, C.; Brunschwig, B. S.; Atwater, H. A., “CO2 Reduction to CO with 19% Efficiency in a Solar-Driven Gas Diffusion Electrode Flow Cell under Outdoor Solar Illumination”, ACS Energy Letters, Vol.5, (2020), pp.470-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしならが、従来のガス拡散型電解フローセルにおいては、イオン伝導性ポリマー膜の抵抗やアノード及びカソードの反応過電圧が大きいこと等に起因して、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることは困難である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ガス拡散型電解フローセルにおいて、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の二酸化炭素還元装置は、水又は水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するアノード、及び前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路を備えるアノード部と、二酸化炭素を還元して二酸化炭素還元生成物を生成するカソード、及び前記カソードに二酸化炭素ガスを供給するガス流路を備えるカソード部と、前記アノード部と前記カソード部により挟持されるイオン伝導性ポリマー膜と、を備え、前記カソードは、前記イオン伝導電ポリマー膜側から順に、触媒層と、ガス拡散層とを備え、前記触媒層は、中心金属、及び電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子を有する金属錯体触媒と、導電性カーボンとを有する。
【0013】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記二酸化炭素還元生成物は、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレンからなる群より選択される1つの物質を含むことが好ましい。
【0014】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記触媒層は、イオン伝導体及びバインダーとなる高分子を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記ガス拡散層は、疎水性多孔質カーボン基材を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記中心金属は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Reからなる群より選択される金属であり、前記ジイミン配位子に導入された前記置換基は、構造式が-COOR(式中、Rはアルキル基)で表されるカルボン酸エステルであることが好ましい。
【0017】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードは、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備え、前記基材は多孔体、メッシュ、又は繊維焼結体であることが好ましい。
【0018】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードは、前記基材に担持されるアノード触媒を備え、前記アノード触媒は、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属、前記金属を含む酸化物、前記金属を含む水酸化物、又は前記金属を含むオキシ水酸化物であることが好ましい。
【0019】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノード溶液は、水酸化物イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、四ホウ酸イオン、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つのイオンを含むことが好ましい。
【0020】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノード溶液は、pH12以上のアルカリ性水溶液であり、前記イオン伝導性ポリマー膜は陰イオン伝導性ポリマー膜であり、前記アノードと前記カソード間のセル電位が2V以下で、前記カソードから一酸化炭素又はギ酸を生成することが好ましい。
【0021】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードと前記カソード間のセル電位が1.7V以下で、前記カソードから一酸化炭素又はギ酸を生成することが好ましい。
【0022】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードと前記カソード間のセル電位が1.5V以下で、前記カソードから一酸化炭素又はギ酸を生成することが好ましい。
【0023】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記ジイミン配位子が、2,2’-ビピリジンとピロールを炭素数1~10の炭化水素鎖で化学結合により連結された分子、またはこれらの分子同士をポリピロール鎖により多量体化したポリマーであることが好ましい。
【0024】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記中心金属がMn又はRuであることが好ましい。
【0025】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記触媒層は、フェノール又はその塩を含むことが好ましい。
【0026】
また、前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードは、オキシ水酸化鉄又はオキシ水酸化ニッケルを含むことが好ましい。
【0027】
また、本発明の人工光合成装置は、上記二酸化炭素還元装置と、前記アノード及び前記カソードに供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える。
【0028】
また、前記人工光合成装置において、前記太陽電池セルは、シリコン系太陽電池セルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、ガス拡散型電解フローセルにおいて、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本実施形態に係る二酸化炭素還元装置の一例を示す概略構成図である。
図2】実施例1~2及び比較例1~2のサイクリックボルタモグラムである。
図3】実施例3~5のサイクリックボルタモグラムである。
図4】多結晶シリコン太陽電池セルを4つ直列に接続した太陽電池に疑似太陽光を照射したときの電流電位特性である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0032】
図1は、本実施形態に係る二酸化炭素還元装置の一例を示す概略構成図である。図1に示す二酸化炭素還元装置1は、二酸化炭素ガスをカソード22の触媒層26に直接供給するガス拡散型電解フローセルである。二酸化炭素ガスとは、二酸化炭素を含むガスであり、好ましくは二酸化炭素及び水蒸気を含むガスである。図1に示す二酸化炭素還元装置1は、アノード部10、カソード部12、イオン伝導性ポリマー膜14を備えている。アノード部10は、アノード16、アノード溶液流路18を備えている。アノード16は、イオン伝導性ポリマー膜14とアノード溶液流路18との間に、それらと接するように配置されている。アノード溶液流路18は、アノード16にアノード溶液を供給するものであり、アノード集電板20に設けられたピット(溝部又は凹部)により形成されている。カソード部12は、カソード22、ガス流路24を備えている。カソード22は、ガス流路24とイオン伝導性ポリマー膜14との間に配置されている。カソード22は、イオン伝導性ポリマー膜14側から順に、触媒層26と、ガス拡散層28とを備えている。ガス流路24は、カソード22に二酸化炭素ガスを供給するものであり、カソード集電板30に設けられたピット(溝部又は凹部)により形成されている。イオン伝導性ポリマー膜14は、アノード部10とカソード部12により挟持されている。アノード部10とカソード部12とはイオン伝導性ポリマー膜14により分離されている。
【0033】
アノード集電板20には、例えば、溶液導入口と溶液導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、アノード溶液が、溶液導入口を介してアノード溶液流路18内に導入され、アノード16と接触しながらアノード溶液流路18内を通り、アノード溶液導出口から排出される。アノード集電板20は、化学反応性が低く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0034】
カソード集電板30には、例えば、ガス導入口とガス導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、二酸化炭素ガスが、ガス導入口を介してガス流路24内に導入され、ガス拡散層28を介して触媒層26に接触しながらガス流路24内を通り、ガス導出口から排出される。カソード集電板30は、アノード集電板20と同様に、化学反応性が低く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0035】
図1に示す符号32は、アノード16とカソード22との間を電気的に接続し、電力を供給する電源である。電源32は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池セル等が挙げられる。電源32として太陽電池セルを用いることにより、二酸化炭素還元装置1と、アノード16とカソード22に供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える人工光合成装置とすることができる。本実施形態に係る人工光合成装置は、二酸化炭素還元装置1のアノード16とカソード22が太陽電池セルを介して接続され、太陽光をエネルギー源として駆動される。
【0036】
次に、図1に示す二酸化炭素還元装置1の動作例について説明する。ここでは、二酸化炭素還元により一酸化炭素(CO)を生成する場合について、主として説明するが、二酸化炭素還元生成物としては一酸化炭素に限られるものではなく、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)等であってもよい。また、反応過程としては、主に水素イオン(H)を生成する場合と、主に水酸化物イオン(OH)を生成する場合とが考えられるが、これら反応過程のいずれかに限定されるものではない。
【0037】
まず、主に水(HO)を酸化して水素イオン(H)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード16とカソード22との間に電源32から電流が供給されると、アノード溶液と接するアノード16で水(HO)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるHOが酸化されて、酸素(O)と水素イオン(H)とが生成する。
2HO → 4H+O+4e ・・・(1)
【0038】
カソード22側では、ガス流路24からガス拡散層28を介して触媒層26に供給された二酸化炭素ガスが、電源32からカソード22に供給される電流に基づく電子(e)と、例えば、イオン伝導性ポリマー膜14を介してアノード16からカソード22側に移動してきたHとにより、還元されて、下記の(2)式に示すように、COが生成する。また、副反応として、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取り、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。
CO+2H+2e → CO+HO ・・・(2)
2H+2e → H ・・・(3)
【0039】
次に、主に二酸化炭素(CO)を還元して水酸化物イオン(OH)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード16とカソード22との間に電源32から電流が供給されると、カソード22側では、ガス流路24からガス拡散層28を介して触媒層26に供給された二酸化炭素ガス(水蒸気を含む)が、下記の(4)式に示すように還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH)とが生成する。また、副反応として、下記式(5)のように水が電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。これらの反応により生成した水酸化物イオン(OH)は、例えば、イオン伝導性ポリマー膜14を介してアノード16側に移動し、下記の(6)式に示すように、水酸化物イオン(OH)が酸化されて酸素(O)が生成する。
2CO+2HO+4e → 2CO+4OH ・・・(4)
2HO+2e → H+2OH ・・・(5)
4OH → 2HO+O+4e ・・・(6)
【0040】
以下、アノード16、カソード22、イオン伝導性ポリマー膜14の構成について詳述する。
【0041】
アノード16は、前述したように、アノード溶液中の水(HO)の酸化反応を促し、酸素(O)や水素イオン(H)を生成する、もしくはカソード部12で生じた水酸化物イオン(OH)の酸化反応を促し、酸素や水を生成する電極(酸化電極)である。
【0042】
アノード16は、酸化反応の過電圧を低減させることが可能な点で、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備えることが好ましい。Ni、Ti、又はFeの金属材料は、Ni、Ti、Feの金属を少なくとも1つ含む合金も含まれる。また、基材は、イオン伝導性ポリマー膜14とアノード溶液流路18との間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造であることが好ましく、例えば、多孔体、メッシュ、又は繊維焼結体であることが好ましい。
【0043】
アノード16は、アノード触媒を含むことが好ましい。アノード触媒は、酸化反応の過電圧を低減させることが可能な点で、例えば、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、当該金属を含む酸化物、当該金属を含む水酸化物、当該金属を含むオキシ水酸化物等が挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。アノード触媒を用いる場合には、前述の基材上にアノード触媒を担持することが好ましい。
【0044】
アノード溶液は、例えば、酸化反応を高める点で、水酸化物イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、四ホウ酸イオン、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つのイオンを含むことが好ましい。
【0045】
カソード22を構成するガス拡散層28は、触媒層26と電源32との電気的導通を確保し、且つ二酸化炭素ガスを触媒層26に効率よく供給するものであれば特に制限されないが、カソード22側から移動してきた水の量を減らすることができる等の点で、疎水性多孔質カーボン基材であることが好ましい。
【0046】
カソード22を構成する触媒層26は、前述したように、二酸化炭素ガス中の二酸化炭素の還元反応を促し、二酸化炭素還元生成物等を生成する。触媒層26は、金属錯体触媒と、導電性カーボンを含む。また、触媒層26は、イオン伝導体及びバインダーとなる高分子を含むことが好ましい。触媒層26は、二酸化炭素ガスの拡散性を向上させる等の点で、多孔質構造体であることが好ましい。触媒層26の厚みは、例えば5~200μmである。
【0047】
金属錯体触媒は、中心金属と、電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子とを有する。中心金属は、二酸化炭素の還元反応を触媒する金属であれば特に限定されないが、例えば、二酸化炭素の還元反応における過電圧を低減させることが可能となる点で、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Reからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属であることが好ましく、Mn又はRuであることがより好ましい。
【0048】
ジイミン配位子は、例えば、2,2’-ビピリジン誘導体、1,10-フェナントロリン誘導体等が挙げられ、好ましくは、2,2’-ビピリジンとピロールを炭素数1~10の炭化水素鎖で化学結合により連結された分子、またはこれらの分子同士をポリピロール鎖により多量体化したポリマー等である。
【0049】
ジイミン配位子に導入された置換基は、二酸化炭素の還元反応による過電圧を低減させることができる点で、構造式が-COOR(式中、Rはアルキル基)で表されるカルボン酸エステルであることが好ましい。Rのアルキル基は、例えば、炭素数1~10の範囲が好ましい。アルキル基は直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でもよい。
【0050】
金属錯体触媒は、例えば、下記化学式で表される触媒(Mn{4,4’-di(1H-pyrrolyl-3-propylcarbonate)-2,2’-bypyridine}(CO)(MeCN))が挙げられる。
【化1】
【0051】
触媒層26に含まれる導電性カーボンは、例えば、ケッチェンブラックやバルカンXC-72等のカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電性カーボンは、上記金属錯体触媒が担持される担体として使用されることが望ましい。上記金属錯体触媒を導電性カーボンに担持することで、例えば、還元反応性が高められる。
【0052】
触媒層26に含まれるイオン伝導体及びバインダーとなる高分子は、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭硝子(株)製)等のカチオン交換樹脂、ネオセプタやセレミオン、サステニオン等のアニオン交換樹脂等が挙げられる。
【0053】
二酸化炭素の還元反応により生成される二酸化炭素還元生成物は、例えば、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレンからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む。なお、本実施形態においては、上記以外に、例えば、蟻酸、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、エチレングリコール等が生成される場合もある。
【0054】
触媒層26は、触媒活性を高めることができる点で、フェノール又はその塩を含むことが好ましい。また、アノード16は、水の酸化を低電位で進行させることができる等の点で、オキシ水酸化鉄、又はオキシ水酸化ニッケルを含んでいてもよい。
【0055】
イオン伝導性ポリマー膜14としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオン、サステニオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。アノード溶液にアルカリ性水溶液を使用し、主として水酸化物イオン(OH)の移動を想定する場合、イオン伝導性ポリマー膜14はアニオン交換膜で構成することが好ましい。
【0056】
本実施形態の二酸化炭素還元装置1を用いることで、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることができる。本実施形態の二酸化炭素還元装置1が上記効果を奏する理由としては、以下のことが推察される。
【0057】
(1)本実施形態の二酸化炭素還元装置1は、ガス拡散型電解フローセルであるので、前述したように、水溶液中に溶解させた二酸化炭素を電気化学的に還元する方法に比べて、水に対するCO濃度比が大きいため、Hの副生が抑えられ、また、拡散速度の速い気相中で反応が進行するので、反応電流密度の限界を増大させることができる。したがって、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物が得られる。
(2)但し、従来のガス拡散型電解フローセルでは、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得るには、高いセル電位が必要であった。しかし、本実施形態の二酸化炭素還元装置1のように、カソード22側の触媒に、電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子を有する金属錯体触媒を用いることで、二酸化炭素の還元反応による過電圧を低減させることができる。これは、ジイミン配位子に導入された電子求引性の置換基により、金属錯体触媒における最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位が低くなるため、低い電位で電子を受容しながら、二酸化炭素の反応に必要な中心金属の電子密度を維持することができるためであると推察される。そして、二酸化炭素の還元反応による過電圧の低減により、低いセル電位で二酸化炭素電解が可能となる。したがって、ガス拡散型電解フローセルと上記金属錯体触媒を組み合わせることで、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることができる。
【0058】
本実施形態の二酸化炭素還元装置1によれば、セル電位2.0V以下、1.7V以下、或いは1.5V以下で、二酸化炭素電解による一酸化炭素やギ酸等の生成が可能である。ここで、セル電位が小さくなることは、電気エネルギーを化学エネルギーへと変化するエネルギー変換効率が高くなる。すなわち動作時のエネルギー損失が小さくなることを意味している。例えば、セル電位2Vの二酸化炭素電解で、COを生成する場合のエネルギー変換効率は67%に相当するが、セル電位1.5Vの二酸化炭素電解で、COを生成する場合のエネルギー変換効率は90%に達する。したがって、本実施形態の二酸化炭素還元装置1を用いれば、電気エネルギーを一酸化炭素やギ酸等の貯蔵可能な化学エネルギーへ高効率に変換することができる。
【0059】
また、低いセル電位での二酸化炭素還元が可能であれば、太陽電池セルと組み合わせた人工光合成装置においても有効である。従来の人工光合成装置では、二酸化炭素電解に2Vより大きいセル電位が必要であることに起因して、開放電圧の大きな太陽電池セルが必要である。このため、開放電圧が大きいが(約2.7V)高価なGaInP/GaInAs/Ge三接合型宇宙用太陽電池セルを用いるか、安価だが開放電圧の小さい(約0.5V)多結晶シリコン太陽電池セルを6直列で用いる必要があった。前者の太陽電池セルは資源量の観点から実用化が難しく、後者の太陽電池セルでは直列数が多くなるため、電流密度が低下し、エネルギー変換効率が低くなる。しかし、本実施形態の二酸化炭素還元装置1を用いれば、2.0V以下のセル電位で二酸化炭素電解が可能であるので、多結晶シリコン太陽電池セルを3~4直列で駆動できるため、コスト面で実用可能であり、且つエネルギー変換効率が高い人工光合成装置を構築することができる。
【0060】
二酸化炭素還元装置におけるセル電位を低下させる好ましい態様としては、二酸化炭素の還元反応による過電圧を低下させることに加え、水又は水酸化物イオンの酸化における過電圧を低下させることが好ましい。水又は水酸化物イオンの酸化における過電圧を低下させるには、前述したように、アノード16に、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を用いたり、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、当該金属を含む酸化物、当該金属を含む水酸化物、当該金属を含むオキシ水酸化物をアノード触媒として用いたりすることが好ましい。
【0061】
ところで、二酸化炭素還元反応が、二酸化炭素と水素イオンの反応である場合、カソード22側は適度な水素イオン濃度が必要となるが、水素イオン濃度が高すぎる場合、Hの副生が進行し易くなるため、カソード22側の液性は中性から弱アルカリ性が好適である。他方、アノード16側の液性は、過電圧の低下、反応電流の増加の点で、アルカリ性が好適である。本実施形態では、中性の水蒸気を含む二酸化炭素ガスをカソード22側に供給し、アルカリ性のアノード溶液をアノード16側に供給することにより、カソード22側の液性を中性(例えばpH6~8)にし、アノード16側の液性をアルカリ性にすることができる。なお、二酸化炭素と水が共存すると、炭酸が生成する場合があり、これにより液性が中性から酸性となる場合があるが、本実施形態では、アノード部10とカソード部12とがイオン伝導性ポリマー膜14で隔離されているので、二酸化炭素によるアルカリ性のアノード溶液の中和が遮断され、アノード16側の液性をアルカリ性に保つことが可能である。
【0062】
さらに、中性の水蒸気を含む二酸化炭素ガスをカソード22側に供給し、アルカリ性のアノード溶液をアノード16側に供給して、アノード16側の液性をアルカリ性、カソード22側の液性を中性とすることで、イオン伝導性ポリマー膜14を隔てて、アノード部10とカソード部12の間に水素イオン濃度差が形成される。このような水素イオン濃度差の形成により、エネルギー的な利得が得られるため、セル電圧の低下に繋がると考えられる。
【0063】
アルカリ性のアノード溶液は、例えば、セル電圧の低下等の点で、pH12以上の水溶液であることがより好ましい。イオン伝導性ポリマー膜14は、水素イオン濃度差が形成され易く、ひいてはセル電圧の低下に繋がる等の点で、陰イオン伝導性ポリマー膜であることが好ましい。
【実施例
【0064】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[カソードの作製]
・Mn錯体触媒担持カソードAの作製
ガス拡散層としてカーボンペーパーを用い、この上に、金属錯体触媒、イオン伝導体及びバインダーとなる高分子、導電性カーボンを含む触媒層を積層した。具体的には、以下の式(1)の化学構造を有する[Mn{4,4’-di(1H-pyrrolyl-3-propylcarbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CHCN)](PF)11.5mg(14.7mmol)を1.58mLのアセトニトリルに溶解させ、そこに0.5vol%pyroleアセトニトリル溶液33μL及び0.2MFeCl3エタノール溶液154μLを加えることで、以下の式(2)の構造式で表される金属錯体触媒の溶液を調製した。この溶液に、導電性カーボンとしてのカーボンブラック(Cabot社製、Vulcan XC-72R)を16.5mg、イオン導電体及びバインダーとなる高分子としての5wt%Nafion117アルコール-水混合溶液(Aldrich社製)68.8μL、フェノール283.9μL加えた後、超音波分散を行った。この溶液を、1.13cmのマイクロポーラス層付カーボンペーパー(Avcarb社製、GDS3250)の上に、41μL滴下し、60℃で乾燥させる操作を10回繰り返した。そして、12時間以上暗所下で静置した後、水で洗浄した。
【化2】
【化3】
【0066】
・Mn錯体触媒担持カソードBの作製
フェノールを添加しなかったこと以外は、Mn錯体触媒担持カソードAと同様にして作製した。
【0067】
・Ag担持カソードの作製
Ag nanopowder(<150nm、99%、Aldrich社製)1.59mg(14.7mmol)を2.36mLの2-プロパノール/水(1:1)混合溶液に分散させ、導電性カーボンとしてのカーボンブラック(Cabot社製、Vulcan XC-72R)を16.5mg、イオン導電体及びバインダーとなる高分子としての5wt%Nafion117アルコール-水混合溶液(Aldrich社製)68.8μL、フェノール283.9μL加えた後、超音波分散を行った。この溶液を、1.13cmのマイクロポーラス層付カーボンペーパー(Avcarb社製、GDS3250)の上に、41μL滴下し、60℃で乾燥させる操作を10回繰り返した。そして、12時間以上暗所下で静置した後、水で洗浄した。
【0068】
・Co錯体触媒担持カソードの作製
Coフタロシアニン(Aldrich社製)8.4mg(14.7mmol)を1.77mLのエタノールに溶解させ、導電性カーボンとしてのカーボンブラック(Cabot社製、Vulcan XC-72R)を16.5mg、イオン導電体及びバインダーとなる高分子としての5wt%Nafion117アルコール-水混合溶液(Aldrich社製)68.8μL、フェノール283.9μL加えた後、超音波分散を行った。この溶液を、1.13cmのマイクロポーラス層付カーボンペーパー(Avcarb社製、GDS3250)の上に、41μL滴下し、60℃で乾燥させる操作を10回繰り返した。そして、12時間以上暗所下で静置した後、水で洗浄した。
【0069】
[アノードの作製]
・ニッケルフォームの作製
ニッケルフォーム(MTI社製、EQ-BCNF-16m)を1.13cmに切り出した。
【0070】
・β-FeOOH担持ニッケルフォームの作製
0.1Mの塩化鉄水溶液にエチレジアミン塩酸塩水溶液を混合して、pH2.3に調整した溶液に、1.13cmのニッケルフォーム(MTI社製、EQ-BCNF-16m)を浸漬させた後、乾燥させ、水で洗浄した。
【0071】
・Fe-Ni酸化物担持ニッケルフォームの作製
50mMのFeCl水溶液に、1.13cmのニッケルフォーム(MTI社製、EQ-BCNF-16m)を浸漬させた後、マッフル炉で空気中300℃で加熱した。
【0072】
・Fe-Ni添加β-FeOOH担持ニッケルフォームの作製
0.1Mの塩化鉄水溶液、0.05Mの硝酸ニッケル水溶液及びエチレンジアミン塩酸塩水溶液を混合して、pH2.3に調整することで合成したNiドープβ-FeOOHコロイド溶液10mLと、0.063Mの塩化ニッケル及び0.055mMの塩化鉄を混合した水溶液10mLとを混ぜ合わせた溶液に、1.13cmのニッケルフォーム(MTI社製、EQ-BCNF-16m)を浸漬させた後、150℃で8時間加熱乾燥した。
【0073】
[二酸化炭素電解]
<実施例1>
図1に示す装置を用いて、二酸化炭素電解を行った。アノードに上記ニッケルフォームを用い、カソードにMn錯体触媒担持カソードAを用い、イオン伝導性ポリマー膜に陰イオン伝導性樹脂(Sustainion(登録商標) X37-50 Grade)を用いた。ガス流路が形成されたカソード集電板にはステンレス製の集電板を用い、アノード溶液流路が形成されたアノード集電板にはチタン製の集電板を用いた。二酸化炭素電解を行う場合には、ガス流路に二酸化炭素ガスを30mL/min、アノード溶液流路に1Mの水酸化カリウム水溶液を100mL/minの流速で供給し、ポテンショスタットを2極方式でアノード側及びカソード側に接続し、定電位を印加した。また、サイクリックボルタンメトリーの場合は、50mV/sの掃引速度で測定した。
【0074】
<実施例2>
カソードに上記Mn錯体触媒担持カソードBを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験した。
【0075】
<実施例3>
アノードに上記β-FeOOH担持ニッケルフォームを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験した。
【0076】
<実施例4>
アノードに上記Fe-Ni酸化物担持ニッケルフォームを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験した。
【0077】
<実施例5>
アノードに上記Fe-Ni添加β-FeOOH担持ニッケルフォームを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験した。
【0078】
<比較例1>
カソードに上記Ag担持カソードを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験した。
【0079】
<比較例2>
カソードに上記Co錯体触媒担持カソードを用いたこと以外は、実施例1と同様に試験した。
【0080】
図2に、実施例1~2及び比較例1~2のサイクリックボルタモグラムを示す。図2のサイクリックボルタモグラムは、対極のニッケルフォームに対して、-0.7V~-1.8Vの範囲で掃引している。ジイミン配位子に電子求引性の置換基を導入したMn錯体触媒担持カソードAを用いた実施例1は、-1.4V付近から二酸化炭素の還元に帰属する電流の立ち上がりが観測された。一方、Ag担持カソードを用いた比較例1やCo錯体触媒担持カソードを用いた比較例2は、―1.4Vでは電流の立ち上がりが観測されなかった。これにより、ジイミン配位子に電子求引性の置換基を導入した金属錯体触媒を用いることにより、比較例で用いた触媒より、低いセル電位で二酸化炭素電解が可能であるといえる。
【0081】
表1に、実施例1~2及び比較例1~2において、対極のニッケルフォームに対して、-1.5Vの電位を3時間印可した時に流れたカソードの単位面積当たりの電荷量(電荷密度)、各生成物の量とその電流効率を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1では、3時間で107.1Ccm-2の電荷量が両極間に流れ、その電荷量の約97%に相当する537μmolcm-2のCOが得られた。副生成物のHは21μmolcm-2であり、電流効率で換算すると4%程度であった。一方、比較例1及び2では、両極間に流れた電荷量はそれぞれ4.9Ccm-2、6.4Ccm-2と少なく、また、COの生成量は1μmolcm-2未満であり、ほとんど二酸化炭素還元が行われていなかった。これらのことから、ジイミン配位子に電子求引性の置換基を導入した金属錯体触媒をカソード触媒として備えるガス拡散型電解フローセルにより、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることができると言える。
【0084】
図2に示すように、実施例2のサイクリックボルタモグラムは、実施例1と同様に、-1.4V付近から電流の立ち上がりが観測されたが、電流量は、フェノールが添加されているMn錯体触媒担持カソードAを用いた実施例1よりも少なかった。また、表1に示すように、1.5Vの電位を3時間印可した場合の電荷量は、1/4に減少したが、COの生成が確認できた。これらの結果より、フェノールは、二酸化炭素還元反応の過電圧を下げる触媒としての作用はなく、ジイミン配位子に電子求引性の置換基を導入した金属錯体触媒の反応活性を高める助触媒として作用していると考えられる。
【0085】
図3に、実施例3~5のサイクリックボルタモグラムを示す。ニッケルフォームにβ-FeOOH、Fe-Ni酸化物、またはFe-Ni添加β-FeOOHを担持した実施例3~5は、ニッケルフォームに触媒を担持していない実施例1と比べて、二酸化炭素の還元に帰属する電流の立ち上がり電位が低電位側にシフトした。これは、アノード側での水の酸化における過電圧が低下したためである。
【0086】
表2に、実施例3~5において、対極のニッケルフォームに対して、-1.5Vの電位を3時間印可した時に流れたカソードの単位面積当たりの電荷量(電荷密度)、各生成物の量とその電流効率を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例3~5はいずれも、実施例1より、1,5Vでの定電位電解を行ったときの電荷量、CO生成量が増加した。これらのことから、アノードに、水の酸化における過電圧を低下させる触媒を用いることにより、アノードに触媒を用いていない場合と比べて、低いセル電位で、大きな反応電流密度を生じさせ、高い選択性で二酸化炭素還元生成物を得ることができる。
【0089】
[太陽光二酸化炭素電解]
多結晶シリコン太陽電池セル(太陽光-電気変換効率17%、最大出力0.24Acm-2、0.5V)を4つ直列に接続し、その太陽電池(照射面積2.24cm)にソーラーシミュレータによる疑似太陽光(AM1.5、100mWcm-2)を照射したときの電流電位特性を図4に示す。電極面積1.13cmの実施例1の電流電位特性と重ねると、両者の曲線は、-1.7V、21mA付近で交わるため、実施例1の装置と太陽電池セルとを接続したシステムが動作することが示唆された。
【0090】
実施例1において、ポテンショスタットに代えて、多結晶シリコン太陽電池セルを4つ直列に接続した太陽電池を用いたところ、光照射20分間で、平均20.75mAの電流が流れ、113.1μmolのCOと4.7μmolのHが生成した。下式より、照射した太陽光エネルギーに対するCO生成の太陽光-化学エネルギー変換効率(ηco)を求めた。
【0091】
【数1】
【0092】
ここで、Qcoは生成したCOのモル数(113.1μmol)、ΔGはCOと水からCOを生成する反応のギブスエネルギー変化(257.21kJmol-1)、Iは太陽光の照射強度(100mWcm-2)、Aは照射面積(2.24cm)、tは照射時間(1200s)である。これらより、ηcoは10.8%であった。
【0093】
非特許文献3においても、ηco>10%となる二酸化炭素還元装置が報告されているが、当該二酸化炭素還元装置はセル電位が高く、最大出力2.5V程度のGaInP/GaInAs/Geなどの高価な宇宙用太陽電池を用いる必要があるため、実用性に乏しいと言える。しかし、本実施例では、セル電位が低いため、上記で検証したように、安価なシリコン系太陽電池を用いても、ηco>10%を実現できた。
【符号の説明】
【0094】
1 二酸化炭素還元装置、10 アノード部、12 カソード部、14 イオン伝導性ポリマー膜、16 アノード、18 アノード溶液流路、20 アノード集電板、22 カソード、24 ガス流路、26 触媒層、28 ガス拡散層、30 カソード集電板、32 電源。
図1
図2
図3
図4