(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】界磁巻線の通風路構造、界磁巻線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/24 20060101AFI20240611BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H02K3/24 P
H02K15/04 A
(21)【出願番号】P 2020188553
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】松江 一樹
(72)【発明者】
【氏名】田崎 一晃
(72)【発明者】
【氏名】村井 和也
(72)【発明者】
【氏名】江島 正一
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164024(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/017143(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転軸に沿った継鉄から径方向に向かって突出した磁極鉄心に巻き付けられる界磁巻線を冷却する通風路の構造であって、
前記通風路は、前記界磁巻線の内周面を径方向に沿って貫通形成された通風溝により構成され、
前記通風溝は、略円弧状に貫通形成され、
前記界磁巻線は、銅板と絶縁紙とを交互に積層して構成され、
前記銅板および前記絶縁紙の内周面には、前記通風溝を構成する円弧溝が形成され、
前記通風溝の内面は、
前記銅板からはみ出た前記絶縁紙の余剰部分の除去が施されていることを特徴とする界磁巻線の通風路構造。
【請求項2】
回転電機の回転軸に沿った継鉄から径方向に向かって突出した磁極鉄心に巻き付けられ、
内周面を径方向に沿って貫通形成された略円弧状の通風溝を備えた界磁巻線の製造方法であって、
前記通風溝を構成する円弧溝が対応位置にそれぞれ形成された銅板と絶縁紙とを交互に積み重ねる積層工程と、
前記積層工程後の積層体を加熱しながら加圧することで前記銅板と前記絶縁紙とを接着させる焼付工程と、
前記絶縁紙の前記銅板からはみ出た余剰部分を所定の工具を用いて除去する清掃工程と、
前記清掃工程後の前記積層体の表面に塗装を施す塗装工程と、
を有することを特徴とする界磁巻線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の突極型回転子における界磁巻線を冷却する通風路の構造および界磁巻線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から回転電機の回転子として、複数の磁極を外周部に備えた突極型回転子が知られている。この突極型回転子は、円筒状の固定子内の軸方向に継鉄が配置され、該継鉄から径方向に突出した複数の磁極鉄心に界磁巻線が巻き付けられている。
【0003】
特許文献1,2では、
図1に示すように、界磁巻線1の内周面1aを径方向に沿って凹状に貫く一対の通風溝(通風路)2が対向配置されている。この通風溝2内に冷却風を通して界磁巻線1内部の冷却を図っている。
【0004】
この通風溝2を形成するため、
図2に示すように、銅板3・絶縁紙4のそれぞれの内周面3a,4aに矩形状の凹溝5,6が形成されている。具体的には銅板3と絶縁紙4とを交互に積層する積層工程と、積層工程後の積層体を加熱しながら加圧する焼付(ヒートプレス)工程と、焼付工程後に所定の工具10(
図3参照)で絶縁紙4の余剰部分4b(同図参照)を除去する清掃工程と、清掃工程後に塗装を施す塗装工程とを経て通風溝2付きの界磁巻線1が製作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-58188
【文献】実開昭61-126753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁紙4は銅板3よりもサイズが大きいため、
図3に示すように、前述の清掃工程で銅板3からはみ出た余剰部分4bを工具10により除去している。しかしながら、凹溝6が矩形なため、溝内角部6aの余剰部分4bに工具10を当てられず、そこの余剰部分4bを除去できないおそれがある。
【0007】
この場合に残った余剰部分4bは、引っ掻き刃のような細長い工具を用いて除することが可能なものの、作業工程が増加し、製造時の作業効率が悪化するおそれがある。また、絶縁紙4の余剰部分4bが残った状態のままでは、通風溝2内の通風を阻害し、その冷却性能を低下させるおそれもある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、通風溝の形状を改良することで突極型回転子の界磁巻線において、製造時の作業効率および冷却性能の向上を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様は、回転電機の回転軸に沿った継鉄から径方向に向かって突出した磁極鉄心に巻き付けられる界磁巻線を冷却する通風路の構造であって、
前記通風路は、前記界磁巻線の内周面を径方向に沿って貫通形成された通風溝により構成され、
前記通風溝は、略円弧状に貫通形成されていることを特徴としている。
【0010】
(2)本発明の他の態様は、前記通風路構造を備えた界磁巻線の製造方法であって、
前記通風溝を構成する円弧溝が対応位置にそれぞれ形成された銅板と絶縁紙とを交互に積み重ねる積層工程と、
前記積層工程後の積層体を加熱しながら加圧することで前記銅板と前記絶縁紙とを接着させる焼付工程と、
前記絶縁紙の前記銅板からはみ出た余剰部分を所定の工具を用いて除去する清掃工程と、
前記清掃工程後の前記積層体の表面に塗装を施す塗装工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、突極型回転子の界磁巻線における製造時の作業効率および冷却性能の向上を図ることかできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】同 積層工程を示す
図1中のE1部分の拡大図。
【
図5】同 積層工程を示す
図4中のE2部分の拡大図。
【
図6】(a)は焼付工程を示すE2部分の斜視図、(b)は(a)の矢印C方向の矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る界磁巻線の通風路構造を説明する。この通風路構造は、特許文献1,2と同様に回転電機の突極型回転子の界磁巻線を冷却する通風路に適用される。
【0014】
前記突極型回転子は、フレーム内周に固定された円筒状の固定子内の軸方向に延設配置された継鉄と、該継鉄から径方向の外側に向けて突出した複数の磁極鉄心とを備えている。この磁極鉄心は、前記継鉄の周方向に等間隔に配置され、それぞれの外周面に界磁巻線が巻き付けられている。
【0015】
このとき前記界磁巻線に励磁電流を流して該界磁巻線の内側に磁界を発生させることにより、静止側の前記固定子に対して回転側の前記突極型回転子を回転させることが可能となる。
【0016】
ところが、前記界磁巻線に励磁電流が流れると、その電流の流れによって前記界磁巻線が発熱する。このとき前記界磁巻線の温度が高くなりすぎると、前記界磁巻線の絶縁層が破損するおそれがある。
【0017】
そこで、前記突極型回転子を備えた回転電機は、周方向に隣接する前記界磁巻線間に冷却風を流したり、前記界磁巻線の軸方向端面に冷却風を当てたりする構造により前記界磁巻線を冷却していた。このような従来構造は、前記界磁巻線の外周部のみを冷却するにすぎないため、前記界磁巻線内部を十分に冷却することができなかった。
【0018】
本発明の前記通風路構造は、(1)前記界磁巻線を径方向に貫く通風溝を冷却用の通風路として形成し、(2)前記通風溝内に冷却風を流すことで前記界磁巻線内部の冷却を図る点で、特許文献1,2と一致する。
【0019】
ただし、前記通風路構造は、前述のように前記通風溝の形状を改善することで製造時の作業効率・冷却性能を向上させている点で顕著に相違する。以下、実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
図4に基づき前記通風路構造の実施例を説明する。
図4中の11は、前記突極型回転子の界磁巻線を示している。この界磁巻線11の対向する内周面11aには、それぞれ一対の通風溝12が対向配置されている。
【0021】
この各通風溝12は、界磁巻線11の内周面11aの径方向に沿って円弧状に貫通形成されている。この通風溝12を備えた界磁巻線11は、従来と同様に「積層工程→焼付(ヒートプレス)工程→清掃工程→塗装工程」を経た製造方法により製作される。以下、前記各工程の詳細を説明する。
【0022】
積層工程:
図5に示すように、銅板13と絶縁紙14とを交互に積み重ねる。このとき通風溝12を形成するため、銅板13・絶縁紙14は、それぞれの内周面に13a,14aの対応位置に円弧溝15,16が形成されている。
【0023】
焼付工程:積層工程後の積層体11bを加熱しながら、
図6(a)(b)に示すように、プレス機7により矢印P方向に加圧することで銅板3と絶縁紙4とを接着させる。
【0024】
清掃工程:前述のように絶縁紙14は銅板13よりもサイズが大きいため、
図7に示すように、所定の工具(ベルトサンダー・鑢など)10を用いて、銅板13からはみ出た余剰部分14bを除去する。このとき絶縁紙14には、矩形状の凹溝6ではなく、円弧溝16が形成されているため、
図8に示すように、溝内角部6aがなく、清掃工程時に工具10で円弧溝16の余剰部分14bを完全に除去することができる。
【0025】
塗装工程:積層体11bの表面にワニスを塗布する。このワニスの乾燥後、
図9に示すように、界磁巻線11が完成する。
【0026】
このような前記通風路構造によれば、清掃工程時に工具10で余剰部分14bを完全に除去可能なため、特許文献1,2のように残った余剰部分14bを除去する工程は必要ない。したがって、作業工程が簡素化でき、製造時の作業効率を向上させることができる。
【0027】
また、円弧溝16の余剰部分14bを完全に除去可能なため、通風溝12の冷却風が阻害されることがなく、これにより通風溝12の通風性が良くなり、冷却性能を向上させることができる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えば通風溝12の曲率は、工具10により余剰部分14bを除去可能な大きさであればよいものとする。
【符号の説明】
【0029】
10…工具
11…界磁巻線
11a…内周面
12…通風溝
13…銅板
13a…鋼板の内周面
14…絶縁紙
14a…絶縁紙の内周面
14b…余剰部分
15,16…円弧溝