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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】増幅機構、及び、増幅機構の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20240611BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20240611BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240611BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20240611BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16F15/04 D
F16F15/023 A
F16F15/02 E
F16F7/08
E04H9/02 351
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020191042
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022080075
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯川 正貴
(72)【発明者】
【氏名】竹内 義高
(72)【発明者】
【氏名】杣木 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 学
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-070615(JP,A)
【文献】実開平03-065013(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
F16F 15/023
F16F 15/02
F16F 7/08
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に離間した第1部材と第2部材の間に設けられ、前記第1部材と前記第2部材との前記所定方向への相対変位に伴う所定量の応答を、前記所定量よりも大きい応答に増幅する増幅機構であって、
前記第1部材に接続される第1腕部と、
前記第2部材に接続される第2腕部と、
前記第1腕部及び前記第2腕部を、前記所定方向と直交する回動軸周りに回動可能に接続する回動接続部と、
を備え、
前記回動接続部は、
前記第1腕部に前記回動軸を中心として設けられた第1円形凹部又は第1円形凸部と、
前記第1腕部の前記第1円形凹部に篏合する第1篏合凸部、又は、前記第1円形凸部に篏合する第1篏合凹部と、
前記第2腕部に前記回動軸を中心として設けられた第2円形凹部又は第2円形凸部と、
前記第2腕部の前記第2円形凹部に篏合する第2篏合凸部、又は、前記第2円形凸部に篏合する第2篏合凹部と、
を有し、
前記相対変位に伴い、篏合した各凹部と各凸部が摺動回転する、
ことを特徴とする増幅機構。
【請求項2】
請求項1に記載の増幅機構であって、
前記第1腕部及び前記第2腕部に対して、前記回動軸周りに回動可能な第3部材を有し、
前記第1篏合凸部又は前記第1篏合凹部、及び、前記第2篏合凸部又は前記第2篏合凹部は、前記第3部材に設けられている、
ことを特徴とする増幅機構。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の増幅機構であって、
前記第1腕部と前記第1部材を、前記回動軸よりも前記第1部材側の第1部材側回動軸周りに回動可能に接続する第1部材側回動接続部、及び、前記第2腕部と前記第2部材を、前記回動軸よりも前記第2部材側の第2部材側回動軸周りに回動可能に接続する第2部材側回動接続部を、さらに備え、
前記第1部材側回動接続部は、
前記第1腕部に前記第1部材側回動軸を中心として設けられた第3円形凹部又は第3円形凸部と、
前記第1部材に設けられ、前記第1腕部の前記第3円形凹部に篏合する第3篏合凸部、又は、前記第3円形凸部に篏合する第3篏合凹部と、
を有し、
前記第2部材側回動接続部は、
前記第2腕部に前記第2部材側回動軸を中心として設けられた第4円形凹部又は第4円形凸部と、
前記第2部材に設けられ、前記第2腕部の前記第4円形凹部に篏合する第4篏合凸部、又は、前記第4円形凸部に篏合する第4篏合凹部と、
を有することを特徴とする増幅機構。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の増幅機構であって、
各凹部には、底面に近づくにつれて内径が小さくなる凹部側傾斜面が設けられており、
各凸部には、頂面に近づくにつれて外径が小さくなる凸部側傾斜面が設けられており、
篏合した各凸部と各凹部は、前記凹部側傾斜面と前記凸部側傾斜面とが当接している、
ことを特徴とする増幅機構。
【請求項5】
請求項4に記載の増幅機構であって、
前記凹部側傾斜面と前記凸部側傾斜面とが当接した状態において、篏合した各凸部の頂面と各凹部の底面との間に隙間が設けられている、
ことを特徴とする増幅機構。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の増幅機構であって、
篏合した各凸部と各凹部を前記回動軸の軸方向に圧接する圧接機構を備える、
ことを特徴とする増幅機構。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の増幅機構であって、
前記回動軸を構成する軸部材が、前記回動軸の軸方向の一端側から他端側に貫通して設けられている、
ことを特徴とする増幅機構。
【請求項8】
所定方向に離間した第1部材と第2部材の間に設けられ、前記第1部材と前記第2部材との前記所定方向への相対変位に伴う所定量の応答を、前記所定量よりも大きい応答に増幅する増幅機構の組立方法であって、
前記第1部材に接続される第1腕部に、第1円形凹部又は第1円形凸部を設ける工程と、
前記第2部材に接続される第2腕部に、第2円形凹部又は第2円形凸部を設ける工程と、
前記第1腕部及び前記第2腕部に対して、前記所定方向と直交する回動軸周りに回動可能に設けられる第3部材に、前記第1円形凹部に対応する第1篏合凸部又は前記第1円形凸部に対応する第1篏合凹部、及び、前記第2円形凹部に対応する第2篏合凸部又は前記第2円形凸部に対応する第2篏合凹部を設ける工程と、
前記第1円形凹部と前記第1篏合凸部、又は、前記第1円形凸部と前記第1篏合凹部を篏合する工程と、
前記第2円形凹部と前記第2篏合凸部、又は、前記第2円形凸部と前記第2篏合凹部を篏合する工程と、
を有することを特徴とする増幅機構の組立方法。
【請求項9】
請求項8に記載の増幅機構の組立方法であって、
前記第3部材及び前記第2腕部は、それぞれ、前記第1腕部を挟むように一対設けられており、
前記第1腕部に、前記回動軸を構成する軸部材を貫通させる工程と、
一対の前記第3部材を、前記回動軸の軸方向の両側から前記軸部材に通す工程と、
一対の前記第2腕部を、前記軸方向の両側から前記軸部材に通す工程と、
を有することを特徴とする増幅機構の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅機構、及び、増幅機構の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上部構造と下部構造との間に配置される摩擦皿ばね支承の上下応答制御のため、摩擦皿ばね支承と増幅機構(トグル腕を用いたリンク機構)を一体化したシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記のシステムでは、微小変形である上下応答の制御を対象としており、リンク機構は、微小変形に対してトグル腕の回転方向を拘束せず、せん断方向(トグル腕の軸方向)を拘束する必要がある。このようなリンク機構における部材同士の接合方法としては、クレビスやローラーベアリングが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-70615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレビスの場合、リンク機構の接合部分においてガタが生じるおそれがあった。このため、免震装置の上下応答など微小応答に対して精度よく動作させることが困難であった。
【0005】
また、ローラーベアリングの場合、ガタを小さくすることは可能であるが、転動体(ローラーや玉など)と転動体の受け材とは線または点で接するようになっている。このため受け材には線荷重または点荷重が作用する(接触部分に大きな荷重が作用する)。これにより、部材の弾性変形に対する許容値がクリティカルとなるため、ベアリングを大口径化するか増厚して接触面積を増加させる必要があり、ベアリング部分のサイズが大きくなる(コンパクト化が困難である)という問題があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、動作精度の向上及びコンパクト化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の増幅機構は、所定方向に離間した第1部材と第2部材の間に設けられ、前記第1部材と前記第2部材との前記所定方向への相対変位に伴う所定量の応答を、前記所定量よりも大きい応答に増幅する増幅機構であって、前記第1部材に接続される第1腕部と、前記第2部材に接続される第2腕部と、前記第1腕部及び前記第2腕部を、前記所定方向と直交する回動軸周りに回動可能に接続する回動接続部と、を備え、前記回動接続部は、前記第1腕部に前記回動軸を中心として設けられた第1円形凹部又は第1円形凸部と、前記第1腕部の前記第1円形凹部に篏合する第1篏合凸部、又は、前記第1円形凸部に篏合する第1篏合凹部と、前記第2腕部に前記回動軸を中心として設けられた第2円形凹部又は第2円形凸部と、前記第2腕部の前記第2円形凹部に篏合する第2篏合凸部、又は、前記第2円形凸部に篏合する第2篏合凹部と、を有し、前記相対変位に伴い、篏合した各凹部と各凸部が摺動回転することを特徴とする。
このような増幅機構によれば、動作精度の向上及びコンパクト化を図ることができる。
【0008】
かかる増幅機構であって、前記第1腕部及び前記第2腕部に対して、前記回動軸周りに回動可能な第3部材を有し、前記第1篏合凸部又は前記第1篏合凹部、及び、前記第2篏合凸部又は前記第2篏合凹部は、前記第3部材に設けられていることが望ましい。
このような増幅機構によれば、第1腕部、第2腕部、及び、第3部材を独立して回動可能に接続できる。
【0009】
かかる増幅機構であって、前記第1腕部と前記第1部材を、前記回動軸よりも前記第1部材側の第1部材側回動軸周りに回動可能に接続する第1部材側回動接続部、及び、前記第2腕部と前記第2部材を、前記回動軸よりも前記第2部材側の第2部材側回動軸周りに回動可能に接続する第2部材側回動接続部を、さらに備え、前記第1部材側回動接続部は、前記第1腕部に前記第1部材側回動軸を中心として設けられた第3円形凹部又は第3円形凸部と、前記第1部材に設けられ、前記第1腕部の前記第3円形凹部に篏合する第3篏合凸部、又は、前記第3円形凸部に篏合する第3篏合凹部と、を有し、前記第2部材側回動接続部は、前記第2腕部に前記第2部材側回動軸を中心として設けられた第4円形凹部又は第4円形凸部と、前記第2部材に設けられ、前記第2腕部の前記第4円形凹部に篏合する第4篏合凸部、又は、前記第4円形凸部に篏合する第4篏合凹部と、を有することが望ましい。
このような増幅機構によれば、第1部材側回動接続部、及び、第2部材側回動接続部においても、同様の効果が得られるので、動作精度の向上及びコンパクト化を図ることができる。
【0010】
かかる増幅機構であって、各凹部には、底面に近づくにつれて内径が小さくなる凹部側傾斜面が設けられており、各凸部には、頂面に近づくにつれて外径が小さくなる凸部側傾斜面が設けられており、篏合した各凸部と各凹部は、前記凹部側傾斜面と前記凸部側傾斜面とが当接していることが望ましい。
このような増幅機構によれば、部材の加工精度が十分確保できない場合でも、嵌め合い部分の接触を確保できる。また、接触面積を大きくすることができ、装置の小型化(コンパクト化)が可能である。
【0011】
かかる増幅機構であって、前記凹部側傾斜面と前記凸部側傾斜面とが当接した状態において、篏合した各凸部の頂面と各凹部の底面との間に隙間が設けられていることが望ましい。
このような増幅機構によれば、凹部側傾斜面と凸部側傾斜面面を確実に当接させることできる(非接触とならないようにできる)。これにより、せん断力を受けた際にガタが生じないようにできる。
【0012】
かかる増幅機構であって、篏合した各凸部と各凹部を前記回動軸の軸方向に圧接する圧接機構を備えることが望ましい。
このような増幅機構によれば、篏合した各凹部と各凸部との接触面に安定した軸力を導入することができる。
【0013】
かかる増幅機構であって、前記回動軸を構成する軸部材が、前記回動軸の軸方向の一端側から他端側に貫通して設けられていることが望ましい。
このような増幅機構によれば、同軸度の確保が容易である。
【0014】
また、かかる目的を達成するため、本発明の増幅機構の組立方法は、所定方向に離間した第1部材と第2部材の間に設けられ、前記第1部材と前記第2部材との前記所定方向への相対変位に伴う所定量の応答を、前記所定量よりも大きい応答に増幅する増幅機構の組立方法であって、前記第1部材に接続される第1腕部に、第1円形凹部又は第1円形凸部を設ける工程と、前記第2部材に接続される第2腕部に、第2円形凹部又は第2円形凸部を設ける工程と、前記第1腕部及び前記第2腕部に対して、前記所定方向と直交する回動軸周りに回動可能に設けられる第3部材に、前記第1円形凹部に対応する第1篏合凸部又は前記第1円形凸部に対応する第1篏合凹部、及び、前記第2円形凹部に対応する第2篏合凸部又は前記第2円形凸部に対応する第2篏合凹部を設ける工程と、前記第1円形凹部と前記第1篏合凸部、又は、前記第1円形凸部と前記第1篏合凹部を篏合する工程と、 前記第2円形凹部と前記第2篏合凸部、又は、前記第2円形凸部と前記第2篏合凹部を篏合する工程と、を有することを特徴とする。
このような増幅機構の組立方法によれば、動作精度の向上及びコンパクト化を図ること
のできる増幅機構を構成することができる。
【0015】
かかる増幅機構の組立方法であって、前記第3部材及び前記第2腕部は、それぞれ、前記第1腕部を挟むように一対設けられており、前記第1腕部に、前記回動軸を構成する軸部材を貫通させる工程と、一対の前記第3部材を、前記回動軸の軸方向の両側から前記軸部材に通す工程と、一対の前記第2腕部を、前記軸方向の両側から前記軸部材に通す工程と、を有することが望ましい。
このような増幅機構の組立方法によれば、組み立てやすくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、動作精度の向上及びコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】上下振動減衰装置1の概略説明図である。
図2図2A及び図2Bは、上部構造3と下部構造2との隙間δが減少する場合の増幅機構20の動作の説明図である。
図3図3A及び図3Bは、上部構造3と下部構造2との隙間δが増大する場合の増幅機構20の動作の説明図である。
図4図4A及び図4Bは、ローラーベアリングを用いた場合の概略説明図である。
図5図5A及び図5Bは、本実施形態の増幅機構20の概略説明図である。
図6図5BのA-A断面図である。
図7図5BのB-B断面図である。
図8図8A図8Cは、増幅機構20の組立方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
===実施形態===
≪上下振動減衰装置について≫
図1は、上下振動減衰装置1の概略説明図である。ここでは、図1に示すように、上下方向と左右方向を定めている。上下方向は、鉛直方向に沿った方向であり、左右方向は、上下方向と直交する方向(水平方向)である。また、以下の説明において、上下方向及び左右方向と直交する方向(紙面に直交する方向)を前後方向とする。
【0020】
図1に示すように、上下振動減衰装置1は、下部構造2の上面と上部構造3の下面との上下方向の隙間δ(免震層)に設けられている。なお、下部構造2は、例えば、基礎やスラブなどの構造物であり、上部構造3は、例えば、建物や上床などの構造物(下部構造2よりも上方に設けられた構造物)である。
【0021】
本実施形態の上下振動減衰装置1は、下部構造2と上部構造3との間の上下方向の振動を減衰させる装置であり、摩擦皿ばね支承10と、増幅機構20とを備えている。
【0022】
<摩擦皿ばね支承について>
摩擦皿ばね支承10は、支持枠11と、皿ばね13と、受け材14と、滑り材15と、滑り板16と、上側プレート17と、下側プレート18を備えている。
【0023】
支持枠11は、上部構造3の下面に固設されている。より具体的には、支持枠11の上端には上側フランジ11aが設けられており、上側フランジ11aが上部構造3の下面に取り付けられている。また、図には示していないが、支持枠11の下面の中央部には、上方側に窪んだ窪み部(不図示)が設けられており、当該窪み部には、受け材14に固定された、例えば円柱形状のガイド部材(不図示)の上端部が上下に摺動自在に嵌合されている。
【0024】
皿ばね13は、複数の皿ばね単体13aを同軸状に積層して構成されている。皿ばね単体13aは、中央部に開口部(不図示)が設けられた皿状に形成されている。そして、複数枚の皿ばね単体13aを同じ向きに重ね合わせた複数組(例えは4組)のばね積層体を、逆向きに交互に突き合わせることにより上記皿ばね13が構成されている。なお、皿ばね13の中央の開口部(不図示)には、上述したガイド部材(不図示)が挿通されている。皿ばね13は、支持枠11と受け材14の間に設けられており、隙間δの変化(上部構造3と下部構造2との上下方向の相対変位)に伴ってたわみ変形する。このとき、互いに隣接する皿ばね単体13a間が擦れ合って摩擦が発生し、この摩擦力が減衰力として作用する。
【0025】
受け材14は、皿ばね13を載置する部位である。また、受け材14の上面には、上述したように、皿ばね13及び支持枠11に挿通されるガイド部材(不図示)が固定されている。受け材14の下端には、下側フランジ14aが設けられている。
【0026】
滑り材15は、受け材14(及び下側フランジ14a)の下端から突出するように受け材14に嵌着されている。そして、滑り材15の下面は、皿ばね13の弾性力によって、滑り板16と接触(圧接)している。滑り材15としては、滑り板16との摩擦係数μに応じて、例えば、四フッ化エチレン、超高分子量ポリエチレン、又は、フェノール樹脂などが適宜用いられている。
【0027】
滑り板16は、下部構造2の上面に固設された板状の部材であり、表面(上面)は滑らかな平坦面となっている。滑り板16は、ステンレス板や、表面にステンレス板が設けられたクラッド鋼等で形成されている。
【0028】
上側プレート17(第1部材に相当)は、支持枠11及び上側フランジ11aに固定された板状の部材である。換言すると、上側プレート17は、上部構造3に固定されている。また、上側プレート17には、後述する増幅機構20の上側腕部22aが回動可能に接続される。
【0029】
下側プレート18(第2部材に相当)は、受け材14及び下側フランジ14aに固定された板状の部材であり、上側プレート17とは上下方向に離間している。また、下側プレート18には、後述する増幅機構20の下側腕部22bが回動可能に接続される。
【0030】
以上の構成により、滑り材15は、皿ばね13によって、滑り板16に圧接されつつ、下部構造2に対して水平方向に滑動(水平変位)可能である。換言すると、摩擦皿ばね支承10のうち、滑り板16を除く部位(上部構造3に設けられた部位)は、下部構造2に対して水平方向に水平変位可能である。そして、水平変位の際に、滑り板16と滑り材15との間に発生される摩擦減衰力で水平方向の振動エネルギーを吸収することになる。
【0031】
また、皿ばね13を設けていることにより、上下振動を長周期化することができ、水平方向の滑り支承と併せた3次元免震となる。なお、下部構造2と上部構造3との上下方向の相対変位(隙間δの変化)に伴って、上側フランジ11a(及び上側プレート17)と下側フランジ14a(及び下側プレート18)も上下方向に相対変位することになる。
【0032】
しかしながら、摩擦皿ばね支承10は、上下方向に対して、皿ばね13(皿ばね単体13a間)の摩擦による減衰性能しか有していない。このため、上下方向に十分な減衰性能が得られない(上下振動を低減できない)おそれがある。
【0033】
また、このような摩擦皿ばね支承10が設けられる免震建物等では、居住性、併用する免震装置や制振装置の健全性、及び、エキスパンションジョイント(継目)の健全性の確保のために一定以上の鉛直剛性が必要であり、上下応答量が僅少となっている。このため、ダンパー(例えばオイルダンパー)等の減衰部材を、免震層(隙間δ)の上下間に設けても、減衰性能を発揮するためのストロークを確保することが難しく、上下方向に十分な減衰性能を得ることは困難である。
【0034】
そこで、本実施形態では、トグル腕によるリンク機構を用いた増幅機構20を摩擦皿ばね支承10に設けることにより、上下応答量が僅少であっても上下方向に十分な減衰性能を確保できるようにしている。なお、図1では増幅機構20の接合部を一般的な構成(ピン接合)で示している。
【0035】
<増幅機構の基本構成について>
増幅機構20は、オイルダンパー21と、一対のトグル部材22を有している。図1では、増幅機構20(オイルダンパー21と一対のトグル部材22の組み合わせ)は、一つしか示されていないが、摩擦皿ばね支承10を挟んで対をなすように(例えば一対)設けることが望ましい。このように増幅機構20を配置することにより、上下振動によって摩擦皿ばね支承10が変形する際にバランスが良くなる。
【0036】
オイルダンパー21は、粘性流体であるオイルを用いて振動を減衰する減衰部材である。図1ではオイルダンパー21は、左右方向に沿って配置されており、左端には板状の接続プレート21aが設けられ、右端には板状の接続プレート21bが設けられている。この接続プレート21aと接続プレート21bとの水平方向(ここでは左右方向)への変位に応じて、オイルダンパー21は減衰力を発生する。
【0037】
トグル部材22は、オイルダンパー21を挟む左右方向の両側に一対設けられており、後述するように、所定量の上下応答を、所定量よりも大きい水平応答に増幅する。以下では、右側のトグル部材22について説明するが、左側のトグル部材22も同様の構成である。
【0038】
トグル部材22は、上側腕部22a、下側腕部22b、回動接続部22c、上側回動接続部22d、下側回動接続部22eを有している。
【0039】
上側腕部22aは、オイルダンパー21の一端(ここでは接続プレート21b)と、上側フランジ11a(上側プレート17)を連結させるための部材である。
【0040】
下側腕部22bは、オイルダンパー21の一端(ここでは接続プレート21b)と、下側フランジ14a(下側プレート18)を連結させるための部材である。
【0041】
回動接続部22cは、オイルダンパー21の一端(ここでは接続プレート21b)と、上側腕部22aの下端部と、下側腕部22bの上端部とを、それぞれ独立して、前後方向に沿った回動軸周りに回動可能に接続している。
【0042】
上側回動接続部22dは、上側腕部22aの上端部と、上側フランジ11aに固定された上側プレート17を、前後方向に沿った回動軸周りに回動可能に接続している。
【0043】
下側回動接続部22eは、下側腕部22bの下端部と、下側フランジ14aに固定された下側プレート18を前後方向に沿った回動軸周りに回動可能に接続している。
【0044】
<増幅機構の動作について>
図2A及び図2Bは、上部構造3と下部構造2との隙間δが減少する場合の増幅機構20の動作の説明図である。図2Aは初期状態、図2Bは変形後の状態を示している。
【0045】
図2Aの状態(初期状態)から、上部構造3が下部構造2に対して下側に僅かな所定量変位すると、図2Bに示すように、一対のトグル部材22において、上側回動接続部22dと下側回動接続部22eとの距離(上下方向の間隔)が小さくなる。
【0046】
例えば、右側のトグル部材22の場合、上側回動接続部22dと下側回動接続部22eの距離が小さくなることにより、上側腕部22aは上側回動接続部22dの回動軸を中心として下端部(回動接続部22c)が外側(ここでは右側)に向かうように回動する。また、下側腕部22bは下側回動接続部22eの回動軸を中心として上端部(回動接続部22c)が外側(右側)に向かうように回動する。この結果、回動接続部22cが外側(右側)に移動し、その移動量(水平方向の変形量)は、上下方向の変位量よりも大きくなる。
【0047】
左側のトグル部材22についても同様に、上側腕部22aは上側回動接続部22dの回動軸を中心として下端部(回動接続部22c)が外側(ここでは左側)に向かうように回動し、下側腕部22bは下側回動接続部22eの回動軸を中心として上端部(回動接続部22c)が外側(左側)に向かうように回動する。この結果、回動接続部22cが外側(左側)に移動し、その移動量(水平方向の変位量)は、上下方向の変位量よりも大きくなる。
【0048】
また、オイルダンパー21の左端(接続プレート21a)は左側の回動接続部22cに接続され、右端(接続プレート21b)は右側の回動接続部22cに接続されているため、オイルダンパー21は、左右方向の外側に向かって引っ張られる。これにより、上下方向の変位量に対して、水平方向の変位量は数倍(例えば、3~4倍)大きくなる。よって、上下応答が小さくても、水平方向に大きいストロークを確保できるので、上下方向に十分な減衰性能を確保することができる。
【0049】
また、図3A及び図3Bは、上部構造3と下部構造2との隙間δが増大する場合の増幅機構20の動作の説明図である。図3Aは初期状態、図3Bは変形後の状態を示している。
【0050】
図3Aの状態(初期状態)から、上部構造3が下部構造2に対して上側に僅かな所定量変位すると、図3Bに示すように、一対のトグル部材22において、上側回動接続部22dと下側回動接続部22eの距離(上下方向の間隔)が大きくなる。
【0051】
例えば、右側のトグル部材22の場合、上側回動接続部22dと下側回動接続部22eの距離が大きくなることにより、上側腕部22aは上側回動接続部22dの回動軸を中心として下端部(回動接続部22c)が内側(ここでは左側)に向かうように回動する。また、下側腕部22bは下側回動接続部22eの回動軸を中心として上端部(回動接続部22c)が内側(左側)に向かうように回動する。この結果、回動接続部22cが内側(左側)に移動し、その移動量(水平方向への変形量)は、上下方向の変位量(変形量)よりも大きくなる。
【0052】
左側のトグル部材22についても同様に、上側腕部22aは上側回動接続部22dの回動軸を中心として下端部(回動接続部22c)が内側(ここでは右側)に向かうように回動し、下側腕部22bは下側回動接続部22eの回動軸を中心として上端部(回動接続部22c)が内側(右側)に向かうように回動する。この結果、回動接続部22cが内側(右側)に移動し、その移動量(水平方向への変形量)は、上下方向の変位量(変形量)よりも大きくなる。
【0053】
また、オイルダンパー21の左端(接続プレート21a)は左側の回動接続部22cと接続され、右端(接続プレート21b)は右側の回動接続部22cと接続されているため、オイルダンパー21は、左右方向の内側に向かって圧縮される。これにより、上下方向の変位量に対して、水平方向の変位量は数倍(例えば、3~4倍)大きくなる。よって、この場合も、上下応答が小さくても、水平方向に大きいストロークを確保できるので、上下方向に十分な減衰性能を確保することができる。なお、トグル部材22における各腕部の長さや上下の腕部の間の角度を変えることにより、回動接続部22cの左右方向への移動量の大きさ(上下応答に対する増幅率)を調整することが可能である。
【0054】
このように上下振動減衰装置1は、摩擦皿ばね支承10と、増幅機構20(オイルダンパー21及び一対のトグル部材22)を備えている。そして、上下振動に伴う所定量の上下応答を、トグル部材22によって所定量よりも大きい水平応答に変換し、その水平応答をオイルダンパー21で減衰している。これにより、上下応答が僅少である場合においても、水平方向に大きいストロークを確保することができ、上下方向に十分な減衰性能を確保することができる。このような上下振動減衰装置1は、上下振動を安定して減衰させることができるので、原子力施設などの免震層に設けると特に効果的である。
【0055】
なお、回動接続部22c~22eのような部位における部材同士の回動可能な接合方法としては、例えば、クレビスやローラーベアリング(転がり軸受け)が挙げられる。
【0056】
クレビスとは、U字型・二股の両端に穴をあけてピン(クレビスピン)を通して2つの部材を回動可能となるようにした継手である。しかしながら、クレビスにおいて2つの部材を回動可能にするためには、ピン周り(ピンと穴との間)にある程度の隙間が必要である。このため、隙間があることによりガタが生じるおそれがあり、本実施形態のような微小応答には追従できず、精度よく動作しないおそれがある。
【0057】
また、図4A及び図4Bは、ローラーベアリングを用いた場合の概略説明図である。図4Aは、回動接続部22cの断面(分解図)を示しており、図4Bはローラーベアリング200の概略側面図を示している。
【0058】
ローラーベアリング200は、回動する2つの部材の一方に取り付けられる内輪210と他方に取り付けられる外輪220とを備えた軸受けと、両輪の間に配置された複数の転動体230を備えている。例えば、図4Aにおいて、内輪210は、接続プレート21bに接続され、外輪220は、上側腕部22aに接続されることになる。なお、転動体230としては、円柱状の部材(ローラー(ころ))でもよいし、球体(玉)でもよい。
【0059】
これにより、回転方向に対しては転動体230が転動することで内輪210と外輪230が自在に回転することができる。一方、ラジアル荷重は変位が拘束されるため、転動体230と軸受けの嵌め合い部(インロー部)によって抵抗することで荷重を伝達できる。
【0060】
また、ローラーベアリング200´は、ローラーベアリング200とほぼ同様の構成であり、接続プレート21bと下側腕部22bとに取り付けられている。
【0061】
このようなローラーベアリング200、200´を図4Aに示すように、リンク機構の接合部に使用することで、免震装置の上下応答など微小応答に追従可能な制振装置が実現できる。
【0062】
しかしながら、この場合、微小応答時に十分な制御力を発揮させるためには、各部材とローラーベアリング200の嵌め合い精度やローラーベアリング200同士の同軸度の精度を確保する必要がある。例えば、図4Aにおいて、ローラーベアリング200(及び200´)を取り付けた際に、一転鎖線で示す各ローラーベアリング200(200´)の軸が、同一線上(同軸上)に並ぶようにしなければならない。このため、製造と組立に手間とコストがかかるおそれがある。
【0063】
また、転動体230と受け材(内輪210、外輪220)とは線または点で接しているため、受け材には線荷重または点荷重が作用する(転動体230との接触部分に大きな荷重が作用する)。これにより、部材の弾性変形に対する許容値がクリティカルとなるため、ベアリングを大口径化するか増厚して接触面積を増加させる必要があり、ベアリング部分のサイズが大きくなってしまう(コンパクト化が困難になる)おそれがある。
【0064】
そこで、本実施形態の増幅機構20では、動作精度の向上及びコンパクト化を図っている。
【0065】
<本実施形態の増幅機構について>
図5A及び図5Bは、本実施形態の増幅機構20の概略説明図である。図5Aは正面図、図5Bは右側から見た側面図である。また、図6は、図5BのA-A断面図(回動接続部22Cにおける断面図)であり、図7は、図5BのB-B断面図(上側回動接続部22Dにおける断面図)である。
【0066】
図5Bに示すように、本実施形態では、上側プレート17、下側プレート18、接続プレート21b(及び接続プレート21a)がそれぞれ前後方向に間隔を空けて一対設けられている。
【0067】
また、本実施形態の増幅機構20は、上側腕部22A、及び、前後方向に間隔を空けて設けられた一対の下側腕部22B、回動接続部22C、上側回動接続部22D、下側回動接続部22Eを備えている。上側腕部22A、下側腕部22B、回動接続部22C、上側回動接続部22D、下側回動接続部22Eは、それぞれ、前述した上側腕部22a、下側腕部22b、回動接続部22c、上側回動接続部22d、下側回動接続部22eと同様の機能を有しているが、後述するように、構成が異なっている。また、本実施形態の増幅機構20の回動接続部22C~22Eには、全ねじボルト25、皿ばね26、座金27、ボルト28がそれぞれ設けられている。
【0068】
上側腕部22Aには、滑り板23が埋設されている。滑り板23は、焼き入れ鋼板で形成されており、滑り板23には、すり鉢状に加工された円形凹部23aが形成されている。円形凹部23aは、すり鉢の底を形成する底面23bと、底面23bに近づくにつれて内径が小さくなるように形成された傾斜面23c(凹部側傾斜面に相当)とを有している。また、上側腕部22A及び滑り板23には、円形凹部23aの中心(回動軸となる部位)に前後方向に沿った貫通孔が形成されている。
【0069】
下側腕部22Bにも円形凹部23a(底面23b、傾斜面23c)が形成された滑り板23が埋設されている。また、下側腕部22B及び滑り板23にも、円形凹部23aの中心に前後方向に沿った貫通孔が形成されている。
【0070】
一対の接続プレート21b(第3部材に相当)の両側(両面)には、例えば接着剤などによって、摩擦材24が固設されている。摩擦材24は、回動軸(全ねじボルト25)を中心とした円形状に形成されており、円形凸部24aを構成している。また、円形凸部24aは、平面形状が円形の頂面24bと、頂面24bに近づくにつれて外形が小さくなるように形成された傾斜面24c(凸部側傾斜面に相当)とを有している。なお、傾斜面24cの傾きは、傾斜面23cの傾きと対応するように形成されている。そして、円形凹部23aと円形凸部24aを篏合させた際に、傾斜面23cと傾斜面24cが接触(当接)し、円形凹部23aの底面23bと、円形凸部24aの頂面24bとは接触しないようになっている。これにより、円形凹部23aと円形凸部24aとを篏合させた際に、底面23bと頂面24bとの間には隙間Sが形成されている。この隙間Sを設けることで、傾斜面23cと傾斜面24cを確実に当接させることできる(非接触とならないようにできる)。これにより、せん断力を受けた際にガタが生じないようにできる。また、接続プレート21bと摩擦材24には、円形凸部24aの中心に前後方向に沿った貫通孔が形成されている。
【0071】
全ねじボルト25(軸部材に相当)は、棒全体がねじになっているボルトであり、各回動接続部22C、22D、22Eの回動の中心を、それぞれ、前後方向の一端側から他端側に貫通するように設けられている。例えば、回動接続部22Cでは、全ねじボルト25は、上側腕部22A、一対の接続プレート21b、一対の下側腕部22Bを、各貫通孔を通して、前後方向に貫通している。そして、全ねじボルト25は、回動の軸(回動軸)を構成している。このように、本実施形態では複数のリンク部を一つの全ねじボルト25で回動可能に接続しているので、図4Aの場合と比べて、回動軸を簡易に揃えることができる(同軸度の確保が容易である)。
【0072】
皿ばね26(圧接機構に相当)は、全ねじボルト25の一端側(図では前側)に設けられており、皿ばね26を配置した状態で、全ねじボルト25の両側を座金27及びボルト28で締め付けている。このように、皿ばね26を配置することにより、リンク機構を構成する各部材の接触面に安定した軸力を導入することができる。なお、皿ばね26は、無くてもよいし、一対の下側腕部22Bを挟むように両側に設けてもよい。また、圧接機構として、皿ばね26以外の部材(例えば、コイルばねなど)を用いてもよい。
【0073】
回動接続部22Cは、上側腕部22Aの下端部と下側腕部22Bの上端部と接続プレート21b(21a)を、前後方向(上下方向と直交する方向)の回動軸(ここでは全ねじボルト25)周りに回動可能に接続する部位である。図6に示すように、回動接続部22Cは、上側腕部22Aの滑り板23に回動軸を中心として設けられた円形凹部23aと、接続プレート21bに設けられて、上側腕部22Aの円形凹部23aに篏合する摩擦材24(円形凸部24a)とを備えている。なお、上側腕部22Aに設けられた円形凹部23aは、第1円形凹部に相当し、上側腕部22Aの円形凹部23aと篏合する接続プレート21bの円形凸部24aは、第1篏合凸部に相当する。
【0074】
ただし、これには限られず、上側腕部22Aに摩擦材24(円形凸部24a)を設け、接続プレート21bに滑り板23(円形凹部23a)を設けてもよい。この場合、上側腕部22Aの円形凸部24aは、第1円形凸部に相当し、接続プレート21bの円形凹部23aは、第1篏合凹部に相当する。
【0075】
さらに、回動接続部22Cは、下側腕部22Bの滑り板23に回動軸を中心として設けられた円形凹部23aと、接続プレート21bに設けられて、下側腕部22Bの円形凹部23aに篏合する円形凸部24aとを備えている。なお、下側腕部22Bに設けられた円形凹部23aは、第2円形凹部に相当し、下側腕部22Bの円形凹部23aと篏合する接続プレート21bの円形凸部24aは、第2篏合凸部に相当する。
【0076】
ただし、これには限られず、下側腕部22Bに摩擦材24(円形凸部24a)を設け、接続プレート21bに滑り板23(円形凹部23a)を設けてもよい。この場合、下側腕部22Bの円形凸部24aは、第2円形凸部に相当し、接続プレート21bの円形凹部23aは、第2篏合凹部に相当する。
【0077】
そして、回動接続部22Cは、上部構造3と下部構造2(換言すると上側プレート17と下側プレート18)の上下方向の相対変位に伴い、上側腕部22A及び下側腕部22Bの円形凹部23aと、各円形凹部23aに篏合した接続プレート21bの円形凸部24aとがそれぞれ、摺動回転する。より具体的には、円形凹部23aの傾斜面23cと、円形凸部24aの傾斜面24cとが接触しつつ摺動回転する。このように、接触部分に傾斜を設け、傾斜面同士を当接させることにより、部材の加工精度が十分確保できない場合でも、嵌め合い部分の接触を確保できる。また、本実施形態では、面(傾斜面)で接触するため、点あるいは線で接触するローラーベアリングの場合と比べて、接触面積を大きくすることができる。これにより、装置の小型化(コンパクト化)が可能である。また、ガタが生じないようにできるので、動作精度の向上を図ることができる。
【0078】
上側回動接続部22D(第1部材側回動接続部に相当)は、上側腕部22Aの上端部と一対の上側プレート17(上側フランジ11a)を、前後方向に沿った回動軸(ここでは全ねじボルト25)周りに回動可能に接続する部位である。なお、上側回動接続部22Dの回動軸は、第1部材側回動軸に相当する。図7に示すように、上側回動接続部22Dは、上側腕部22Aの滑り板23に設けられた円形凹部23aと、上側プレート17に設けられて、上側腕部22Aの円形凹部23aに篏合する摩擦材24(円形凸部24a)とを備えている。なお、上側回動接続部22Dにおいて、上側腕部22Aに設けられた円形凹部23aは、第3円形凹部に相当し、上側腕部22Aの円形凹部23aと篏合する上側プレート17の円形凸部24aは、第3篏合凸部に相当する。
【0079】
ただし、これには限られず、上側腕部22Aに摩擦材24(円形凸部24a)を設け、上側プレート17に滑り板23(円形凹部23a)を設けてもよい。この場合、上側腕部22Aの円形凸部24aは、第3円形凸部に相当し、上側プレート17の円形凹部23aは、第3篏合凹部に相当する。
【0080】
また、回動接続部22Cと同様に、上側回動接続部22Dにも全ねじボルト25が前後方向に貫通するように設けられており、さらに、皿ばね26、座金27、ボルト28が設けられている。これらは、回動接続部22Cと同様であるので説明を省略する。
【0081】
そして、上側回動接続部22Dでは、上部構造3と下部構造2(換言すると上側プレート17と下側プレート18)の上下方向の相対変位に伴い、上側腕部22Aの円形凹部23aと、円形凹部23aに篏合した上側プレート17の円形凸部24aとがそれぞれ、摺動回転する。この場合も、円形凹部23aの傾斜面23cと円形凸部24aの傾斜面24cとが接触しつつ摺動回転する。
【0082】
下側回動接続部22E(第2部材側回動接続部に相当)は、一対の下側腕部22Bの下端部と、一対の下側プレート18(下側フランジ14a)を、それぞれ、前後方向に沿った回動軸(ここでは全ねじボルト25)周りに回動可能に接続する部位である。なお、下側回動接続部22Eの回動軸(全ねじボルト25)は、第2部材側回動軸に相当する。また、下側回動接続部22Eにも皿ばね26、座金27、ボルト28が設けられている。
【0083】
また、図示していないが、下側回動接続部22Eは、上側回動接続部22Dと同様に、下側腕部22Bに設けられた円形凹部23aと、下側プレート18に設けられて、下側腕部22Bの円形凹部23aに篏合する円形凸部24aとを備えている。そして下側回動接続部22Eにおいても、円形凹部23aの傾斜面23cと円形凸部24aの傾斜面24cとが接触しつつ摺動回転する。なお、下側回動接続部22Eにおいて、下側腕部22Bに設けられた円形凹部23aは、第4円形凹部に相当し、下側腕部22Bの円形凹部23aと篏合する下側プレート18の円形凸部24aは、第4篏合凸部に相当する。
【0084】
ただし、これには限られず、下側腕部22Bに円形凸部24aを設け、下側プレート18に円形凹部23aを設けてもよい。この場合、下側腕部22Bの円形凸部24aは、第4円形凸部に相当し、下側プレート18の円形凹部23aは、第4篏合凹部に相当する。
【0085】
本実施形態では、回動接続部22C等において、円形凹部23aに設けられた傾斜面23cと円形凸部24aに設けられた傾斜面24cとが接触しているので、各腕部に発生する軸力を確実に伝達することが可能となり、かつ、摩擦材24(円形凸部24a)もしくは滑り板23(円形凹部23a)の加工精度を十分に確保できない場合でも嵌め合い部(篏合部分)の接触を確保できる。また、トグル部材22(リンク機構)を構成する複数の部材を一つの軸部材(全ねじボルト25)で連結することにより同軸度の確保が容易となる。なお、摩擦材24に低摩擦材を使用した場合、作動性の向上により減衰材(ここではオイルダンパー21)の性能向上が期待できるが、接合部の摩擦抵抗が小さくなる。一方、摩擦材24に高摩擦材を使用した場合、リンク部分の作動性が低下するため、減衰材の性能は低下するが、リンク部での摩擦力により上下応答を低減することが可能である。
【0086】
<増幅機構20の組立方法について>
図8A図8Cは、増幅機構20の組立方法の一例を示す図である。ここでは、回動接続部22Cの部分の組立方法について説明する。
【0087】
まず、図8Aに示すように、両面に滑り板23(円形凹部23a)を設けた上側腕部22Aに全ねじボルト25を貫通させる。なお、上側腕部22A及び滑り板23には、円形凹部23aの中心に、厚さ方向(ここでは前後方向)に貫通する貫通孔が形成されており、当該貫通孔に全ねじボルト25を通す。このように上側腕部22Aに全ねじボルト25を貫通させておくことで、後の作業を行いやすく(組み立てやすく)することができる。
【0088】
次に、一対の接続プレート21bを、前後方向の両側から全ねじボルト25に通して、上側腕部22Aを挟むようにスライドさせる。各接続プレート21bの両側(両面)には、予め、凸型に加工された摩擦材24(円形凸部24a)が設置されている。なお、接続プレート21b及び摩擦材24においても、円形凸部24aの中心に厚さ方向(ここでは前後方向)に貫通する貫通孔が形成されており、当該貫通孔に全ねじボルト25を通す。そして、接続プレート21bの摩擦材24(円形凸部24a)と上側腕部23Aの滑り板23(円形凹部23a)とが篏合するまで、接合プレート21bを押し込む。
【0089】
この時、摩擦材24の頂部(頂面24b)と滑り板23の円形凹部23aの底部(底面23b)が接触すると、摩擦材24の側面(傾斜面24c)と、滑り板23の側面(傾斜面23c)が非接触となってせん断力を受けた際にガタが生じてしまい、微小変形に対して増幅機構20が動作しない可能性がある。よって、摩擦材24の頂面24bと滑り板23の底面23bが、非接触となる(隙間Sが形成される)ように、それぞれの側面(傾斜面24a及び傾斜面23a)を加工することが望ましい。なお、接続プレート21bと摩擦材24は、例えば接着剤によって接合してもよいし、あるいは、接続プレート21b側を凹型に加工して、摩擦材24を嵌め込んで一体化してもよい。
【0090】
次に、図8Bに示すように、片面に滑り板23(円形凹部23a)を設けた一対の下側腕部22Bを、全ねじボルト25に通して両側からスライドさせる。なお、下側腕部22Bと滑り板23aにも、円形凹部23aの中心に厚さ方向(ここでは前後方向)に貫通する貫通孔が形成されており、当該貫通孔に全ねじボルト25を通す。そして、下側腕部23の滑り板23(円形凹部23a)と接続プレート21bの円形凸部24aを篏合する。この際においても、下側腕部23の円形凹部23aの側面(傾斜面23c)と接続プレート21bの摩擦材24の側面(傾斜面24c)とを接触させる。このときも、円形凸部24aの頂部(頂面24b)と、円形凹部23aの底部(底面23b)は非接触となるようにする。
【0091】
次に、図8Cに示すように、両側に座金27を挿入し、両側からボルト28を締め付けて、各部材を一体化させる。この際、片側に皿ばね26を設けることにより、摩擦面(滑り板23の傾斜面23cと、摩擦材24の傾斜面24cとの接触面)に安定した軸力を発生(導入)することができる。
【0092】
本実施形態のように、最初に上側腕部22Aに全ねじボルト25を貫通させておき、その後、一対の接続プレート21bや下側腕部22Bを、前後方向の両側からスライドさせて取り付けることで、組み立てやすくすることができる。
【0093】
なお、組立方法は前述した方法には限られない。例えば、滑り板23(円形凹部23a)を設けた上側腕部22Aの両側に摩擦材24(円形凸部24a)を設けた接続プレート21bを配置し、その両側に滑り板23(円形凹部23a)を設けた下側腕部22Bを配置し、円形凹部23aと円形凸部24aをそれぞれ篏合させてもよい。そして、その後に、全ねじボルト25を前後方向に通して(貫通させて)、皿ばね26、座金27を配置して、ボルト28で締め付けるようにしてもよい。
【0094】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0095】
前述の実施形態では、一対のトグル部材22において、一対の回動接続部22Cの左右方向の間隔が、一対の上側回動接続部22D(及び下側回動接続部22E)の左右方向の間隔よりも大きくなっていたが、これには限られず、一対の回動接続部22Cの左右方向の間隔が、一対の上側回動接続部22D(及び下側回動接続部22E)の左右方向の間隔よりも小さくてもよい。すなわち、回動接続部22Cが上側回動接続部22D及び下側下側回動接続部22Eよりも内側になるように配置されていてもよい。この場合、下部構造2に対して上部構造3が下側に変位する場合(隙間δが減少する場合)には、一対の回動接続部22Cが内側に移動する(一対の回動接続部22Cの距離が縮まる)ので、オイルダンパー21は左右方向に圧縮される。逆に、下部構造2に対して上部構造3が上側に変位する場合(隙間δが増大する場合)には、一対の回動接続部22Cが外側に移動する(一対の回動接続部22Cの距離が大きくなる)ので、オイルダンパー21は左右方向に引っ張られる。つまり、前述の実施形態の増幅機構20とは逆の動作になる。
【0096】
また、前述の実施形態では、摩擦皿ばね支承10のうち、滑り板16を下部構造2に設け、他の部位を上部構造3に設けていたが、上下関係が逆でもよい。つまり、滑り板16を上部構造3に設けて、他の部位を下部構造2に設けてもよい。そして、下部構造2に設けられた摩擦皿ばね支承10が上部構造3を支承するようにしていてもよい。この場合においても、摩擦皿ばね支承10は、上部構造3に対して水平変位可能であり、上部構造3を支承するとともに、上下振動を吸収できる。
【0097】
また、前述の実施形態では、増幅機構20(オイルダンパー21と一対のトグル部材22の組み合わせ)が、摩擦皿ばね支承10に設けられていたがこれには限られない。例えば、下部構造2と上部構造3との間(下部構造2の上面と上部構造3の下面の間)に増幅機構20を設けてもよい。ただし、この場合、下部構造2に対して上部構造3が水平方向に変位すると、オイルダンパー21を挟む一対のトグル部材22の形状が崩れる(対称にならない)ことになり、上下方向の振動を安定して減衰させることができないおそれがある。これに対し、本実施形態のように、摩擦皿ばね支承10に設けると、下部構造2に対して上部構造3が水平方向に変位しても、一対のトグル部材22の形状が崩れないので、より安定した減衰性能を確保することができる。また、装置全体のコンパクト化を図ることができる。
【0098】
また、摩擦皿ばね支承10の構成は前述したものには限られず他の構成であってもよい。また、摩擦皿ばね支承10には限られず、例えば、皿ばね13を用いた転がり支承でもよい。すなわち、摩擦材(滑り材15)の代わりにローラーや球体(不図示)が設けられたものでもよい。この場合、水平方向の振動を減衰させる減衰部材(ダンパー等)を別途設けるとよい。また、皿ばね13を用いない(例えばコイルばねを用いた)支承体であってもよい。
【0099】
また、前述の実施形態では、一対のトグル部材22の間に設けられる減衰部材としてオイルダンパー21を用いた場合について例示していたが、これには限られない。例えば、摩擦ダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、履歴型ダンパー、又はこれらを組み合わせたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 上下振動減衰装置
2 下部構造
3 上部構造
10 摩擦皿ばね支承
11 支持枠
11a 上側フランジ
13 皿ばね
13a 皿ばね単体
14 受け材
14a 下側フランジ
15 滑り材
16 滑り板
17 上側プレート(第1部材)
18 下側プレート(第2部材)
20 増幅機構
21 オイルダンパー
21a 接続プレート(第3部材)
21b 接続プレート(第3部材)
22 トグル部材
22a,22A 上側腕部(第1腕部)
22b,22B 下側腕部(第2腕部)
22c,22C 回動接続部
22d,22D 上側回動接続部(第1部材側回動接続部)
22e,22E 下側回動接続部(第2部材側回動接続部)
23 滑り板
23a 円形凹部(第1円形凹部、第2円形凹部、第3円形凹部、第4円形凹部)
23b 底面
23c 傾斜面(凹部側傾斜面)
24 摩擦材
24a 円形凸部(第1篏合凸部、第2篏合凸部、第3篏合凸部、第4篏合凸部)
24b 頂面
24c 傾斜面(凸部側傾斜面)
25 全ねじボルト(軸部材)
26 皿ばね(圧接機構)
27 座金
28 ボルト
200,200´ ローラーベアリング
210 内輪
220 外輪
230 転動体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8