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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車両ボデーのピラー上部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20240611BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B62D25/06 A
B62D25/04 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020210081
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096856
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平手 惇史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正俊
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-058561(JP,A)
【文献】特開平09-099862(JP,A)
【文献】特開2018-134953(JP,A)
【文献】特開2018-099953(JP,A)
【文献】特開2009-056855(JP,A)
【文献】特開2018-114915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08,25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ボデーのピラー上部構造であって、
車両ボデーのルーフにおける車幅方向の少なくとも一側に沿って前後方向に延びて配設されたスライドドアのスライドレールを収納するスライドレール収納部と、
車両ボデーのルーフの下側に車幅方向に延びて配設されたルーフレインフォースと、
前記スライドレール収納部と前記ルーフレインフォースの長手方向の端部とを連結する連結部材と、を備え、
前記スライドレール収納部は、上端縁部に形成された前記ルーフと平行に延びるフランジ部を介して前記ルーフに対して取付けられ前記ルーフとの間の空洞部に前記スライドレールを収容するものであり、
前記連結部材は上方に開口する略U字状の横断面形状を有するとともに開口端部側に前記ルーフと略平行に延びるフランジ部を有して車幅方向に延びており、
前記ピラーに側方からの荷重が印加されたとき前記スライドレール収納部を介して印加される荷重による曲げ変形を助長するための変形起因部が設けられており、
前記変形起因部は、前記フランジ部に形成された前後方向に延びる溝状部であり、
前記連結部材は、前記スライドレール収納部下面部と前記ルーフレインフォースとを連結しており、
前記連結部材は、前記ルーフレインフォースの断面形状とほぼ同じ断面形状で車幅方向に延びる主部と、該主部より下方において水平面状に延びる接合部と、を有し、該接合部が前記スライドレール収納部における上面視で略T字状に形成された前記下面部の最も車幅方向内側の部位に接合されている車両ボデーのピラー上部構造。
【請求項2】
請求項1において、前記変形起因部は、前記溝状部に加えて前記連結部材の開口側と反対の側の底面部に形成された上下方向に貫通する孔を備えている車両ボデーのピラー上部構造。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ボデーのピラー上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、側突等により車両側部に荷重が印加されたとき、ピラーが車室内側に大きく移動するのを抑制するためにピラー上部の構造を工夫しているものがある。特許文献1に開示される技術においては、ピラー上端部がルーフサイドレールを介してルーフクロスメンバに連結されている構造においてルーフサイドレールとルーフクロスメンバとが連結部材によって連結されている。そして、この連結部材はピラーに側方からの荷重が印加されたとき、この荷重によってピラーからルーフサイドレールに加わる車両幅方向内側へのモーメントを抑制してピラーの車幅方向内側への移動量を減少させる働きをする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-56855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に記載された技術においては、ピラーに側方からの荷重が印加されたときピラーが折れ曲がることなく車両幅方向内側への荷重を受け止めることができればピラーの車両幅方向内側への移動を抑制することができる。しかし、ピラーが折れ曲がってしまえば移動量抑制の効果は薄れてしまう。そこで、ピラーの曲げ剛性を充分高めておく必要が生じ、それによってピラーの重量の増加を招くおそれがあるという問題があった。
【0005】
このような問題に鑑み本発明の課題は、重量の増加を抑制しながらピラーに側方からの荷重が印加されたときピラーの車幅方向内側への移動量を少なくする車両ボデーのピラー上部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明は、車両ボデーのピラー上部構造であって、車両ボデーのルーフにおける車幅方向の少なくとも一側に沿って前後方向に延びて配設されたスライドドアのスライドレールを収納するスライドレール収納部と、車両ボデーのルーフの下側に車幅方向に延びて配設されたルーフレインフォースと、前記スライドレール収納部と前記ルーフレインフォースの長手方向の端部とを連結する連結部材と、を備え、該連結部材は上方に開口する略U字状の横断面形状を有するとともに開口端部側に前記ルーフと略平行に延びるフランジ部を有して車幅方向に延びており、前記ピラーに側方からの荷重が印加されたとき前記スライドレール収納部を介して印加される荷重による曲げ変形を助長するための変形起因部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
第1発明によれば、連結部材は変形起因部が設けられていることによりピラーから荷重が印加されたとき変形しやすくなっている。これによって、側方からの荷重が印加されたピラーは折れ曲がりが抑制された状態で上端部側が車幅方向内側へ移動して倒れ込むように変形する。ピラーの上端部側は乗員の頭上に相当して空間があるのでピラーが倒れ込むように変形しても問題はない。これによって、ピラーの曲げ剛性を高めなくても曲げ変形しにくくできるのでピラーの重量の増加を抑制できる。
【0008】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記変形起因部は、前記フランジ部に形成された前後方向に延びる溝状部であることを特徴とする。
【0009】
第2発明によれば、フランジ部に前後方向に延びる溝状部を形成するだけでよいので構造が簡潔である。
【0010】
本発明の第3発明は、上記第1発明において、前記変形起因部は、前記連結部材の開口側と反対の側の底面部に形成された上下方向に貫通する孔であることを特徴とする。
【0011】
第3発明によれば、連結部材の開口側と反対の側の底面部に上下方向に貫通する孔を設ければよいので構造が簡潔であるとともに重量の軽減効果もある。
【0012】
本発明の第4発明は、上記第1発明ないし上記第3発明のいずれかにおいて、前記連結部材は、前記スライドレール収納部の下面部と前記ルーフレインフォースとを連結していることを特徴とする。
【0013】
第4発明によれば、ピラーに側方からの荷重が印加されたとき、連結部材は開口側が凸となって上方に向かうように変形するので車室内方向への侵入を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る車両ボデーのピラー上部構造を備える車両ボデーの部分側面図である。
図2図1におけるII-II矢視線断面図である。
図3】上記実施形態における車両ボデーのピラー上部構造を車室内の下方から見た部分斜視図である。
図4図3の分解斜視図である。
図5図3に示す部分を上方から見た分解斜視図である。ピラーのアウタパネルは省略している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図5に基づいて、本発明の一実施形態である車両ボデーのピラー上部構造について説明する。図中に示す前後、左右、上下の各方向は、車両ボデーのピラー上部構造を備える車両ボデー10における前後、左右、上下の各方向を示している。以下の説明において、方向に関する記述は、この方向を基準として行うものとする。
【0016】
図1に示すように、車両ボデー10は、ワンボックス自動車のものであり、運転席や助手席に対応するフロントドア開口部11と、後部席に対応するリアドア開口部12と、が設けられている。そして、フロントドア開口部11はドアヒンジを中心に回動可能なフロントドア(図示せず)により開閉可能に構成されており、リアドア開口部12は前後方向にスライド移動するスライドドア(図示せず)により開閉可能に構成されている。
【0017】
車両ボデー10には、フロントドア開口部11の前側に支柱であるAピラー(図示せず)が立設されており、そのAピラーに前記フロントドアのドアヒンジが取付けられている。フロントドア開口部11とリアドア開口部12との間には、Bピラー13が立設されている。リアドア開口部12の後側にはCピラー14が立設されている。Aピラーの下端部とBピラー13の下端部とCピラー14の下端部とが、フロントドア開口部11とリアドア開口部12の下端部を構成するロッカー15によって連結されている。ここで、Bピラー13が、特許請求の範囲の「ピラー」に相当する。
【0018】
図1に示すように、ルーフパネル17の左右方向(車幅方向)両側には前後方向に延びるルーフサイドレール18が配設されている。ルーフサイドレール18は、AピラーとBピラー13とCピラー14とによって支持された状態でフロントドア開口部11とリアドア開口部12の上端部を構成している。ここで、ルーフパネル17が、特許請求の範囲の「ルーフ」に相当する。
【0019】
Bピラー13の上部13aは、ルーフサイドレール18の一部を構成して前後方向に延びる横筒部Yと、縦筒状のピラー本体部Mと、から側面視で略T字形に形成されている。図2に示すように、Bピラー13は、車両ボデー10の外観意匠を構成するアウタパネル131と、アウタパネル131と共に中空閉断面状のBピラー13を構成するインナパネル132と、Bピラー13の内部に配置され補強機能を果たすレインフォース133と、から構成されている。
【0020】
図2に示すように、アウタパネル131は側面視で略T字形に形成されており、横筒部Yを構成する部分の上端縁部、すなわちルーフサイドレール18とルーフパネル17との境界延長線上の位置に上端縁フランジ部131aが形成されている。また、図1に示すように、アウタパネル131には、横筒部Yを構成する部分の下端縁前部からピラー本体部Mの前端縁部までの範囲、すなわちフロントドア開口部11の周縁位置に下端前側縁フランジ部131bが形成されている。さらに、アウタパネル131には、横筒部Yを構成する部分の下端縁後部からピラー本体部Mの後端縁部までの範囲、すなわちリアドア開口部12の周縁位置に下端後側縁フランジ部131cが形成されている。
【0021】
図2図5に示されるように、インナパネル132は側面視で略I字状に形成されている。そして、インナパネル132には、上端部にスライドレール収納部19が連結されている。スライドレール収納部19は、側面視で略T字状をしているとともに上面視でも略T字状とされ、ルーフパネル17に対して取付けられたとき、ルーフパネル17との間に空洞部Hを形成するようになっている。この空洞部Hの中にスライドレール(図示せず)の一部が収納して配置されるようになっている。インナパネル132にスライドレール収納部19が取付けられた状態で、側面視で略T字状の形状となる。この状態で、横筒部Yを構成する部分の下端縁前部からピラー本体部Mの前端縁部までの範囲、すなわちフロントドア開口部11の周縁位置に下端前側縁フランジ部19bが形成され、横筒部Yを構成する部分の下端縁後部からピラー本体部Mの後端縁部までの範囲、すなわちリアドア開口部12の周縁位置に下端前側縁フランジ部19cが形成されている。そして、アウタパネル131の下端前側縁フランジ部131b、下端後側縁フランジ部131cが、それぞれ、インナパネル132とスライドレール収納部19の下端前側縁フランジ部19b、下端後側縁フランジ部19cに接合される。スライドレール収納部19の上端縁部は、ルーフパネル17の下面と平行に延びる上端縁フランジ部19aとして形成されている。上端縁フランジ部19aは、上面視で左方(車両幅方向中央部)に向かって延びる山形に形成されており、マスチックシーラを介してルーフパネル17を支持する機能を果たす。
【0022】
図2及び図5に示すように、レインフォース133は、アウタパネル131とインナパネル132に連結されてBピラー13の曲げ剛性を高める機能を有する。レインフォース133の上端部に設けられた上端縁フランジ部133aは、ブラケット133bを介してアウタパネル131及びルーフパネル17に接合されている。
【0023】
図2図5に示すように、ルーフパネル17は左右方向(車幅方向)に延びるルーフレインフォース20によって下方から支持されている。ルーフレインフォース20は、横断面がハット断面、すなわち上方に開口する略U字状の本体部21と、本体部21の開口側端部から(前後方向)外方向に向かってルーフパネル17と平行に延びるフランジ部22と、を有した断面形状を有している。
【0024】
ルーフレインフォース20の左側端部(車両幅方向端部)は、連結部材30によってスライドレール収納部19に連結されている。連結部材30は、概略上方に開口する略U字状の横断面形状を有して左右方向(車幅方向)に延びる部材である。詳しくは、連結部材30は、ルーフレインフォース20の断面形状とほぼ同じ断面形状で左右方向に延びる主部31と、主部31より下方において水平面状に延びてスライドレール収納部19の下面側に対して接合される接合部32と、主部31と接合部32との間を滑らかに連結する連結部33と、を有する。主部31は、横断面がハット断面、すなわち上方に開口する略U字状の主体部31aと、主体部31aの開口側端部から(前後方向)外方向に向かってルーフパネル17と平行に延びるフランジ部31bと、を有した断面形状を有している。主部31の断面形状は、ルーフレインフォース20の断面形状に外側から重なるものとなっており、この重ねられた状態でルーフレインフォース20の左端部が主部31の右端部に接合されるようになっている。主体部31aの下側(開口と反対側)の底面部31a1には前後方向中央部に上面視で四角形の貫通孔31a2が設けられている。また、前後のフランジ部31bには、それぞれ前後方向に延びる溝状部31b1が設けられている。溝状部31b1は、横断面が上方に開口する略U字状に凹まされた部分である。接合部32から連結部33にかけて強度を高めるために左右方向に延びるリブ32aが2本設けられている。連結部材30の主部31の右端部がルーフレインフォース20の左端部に接合され、連結部材30の接合部32がスライドレール収納部19の下面側に対して接合されることによって、Bピラー13はルーフレインフォース20と連結される。ここで、貫通孔31a2が特許請求の範囲の「孔」に相当し、貫通孔31a2と溝状部31b1が、それぞれ特許請求の範囲の「変形起因部」に相当する。
【0025】
以上のように構成される実施形態は、以下のような作用効果を奏する。図2に示すように、車両内のシート(図示せず)に乗員Pが着座した状態で、側方から他の車両V等が衝突してきた場合、Bピラー13は、二点鎖線で示すように上下方向中央部が右方(車室内方向)に向かって侵入するように曲げ力を受ける。このとき、連結部材30には主部31に対して左右方向(車両幅方向)の圧縮力が印加される。連結部材30の主部31には変形起因部としての貫通孔31a2と前後一対の溝状部31b1が設けられているので座屈して曲げ変形しやすくなっている。そして連結部材30の曲げ変形によってルーフパネル17の一部が持ち上げられるように変形する。これによって、側方からの衝突荷重が印加されたBピラー13は上下方向中央部での折れ曲がりが抑制された状態で上端部側が右方向(車幅方向内側)へ移動して倒れ込むように変形する。Bピラー13の上端部側は乗員Pの頭上に相当して空間があるのでBピラー13が倒れ込むように変形しても問題はない。これによって、Bピラー13の曲げ剛性を高めなくても曲げ変形しにくくできるのでBピラー13の重量の増加を抑制できる。
【0026】
また、変形起因部としての貫通孔31a2と前後一対の溝状部31b1は、別途他の部材等を必要としないので構造が簡潔である。特に、貫通孔31a2は軽減孔としても機能するので軽量化にも寄与する。さらに、連結部材30は、スライドレール収納部19の下面部とルーフレインフォース20とを連結しており、Bピラー13に側方からの荷重が印加されたとき、連結部材30はフランジ部31bの側が凸となって上方に向かうように変形するので車室内方向への侵入を抑制できる。
【0027】
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、次のようなものが挙げられる。
【0028】
1.上記一実施形態においては、連結部材30に、変形起因部としての貫通孔31a2と前後一対の溝状部31b1を設けたが、これに限らず、いずれか一方のみを設けてもよい。また、貫通孔31a2は断面が四角形のものとしたが円形や楕円形等他の形状とすることもできる。さらに、前後一対の溝状部31b1は必ずしも一対とする必要はなく前又は後のみに設けてもよい。加えて溝状部31b1の延びる方向は正確に前後に一致させる必要はなく変形起因部として機能するのであれば前後方向に対して若干傾いていてもよい。
【0029】
2.上記一実施形態においては、変形起因部としての溝状部31b1を一定断面の溝形状としたが、前後方向で溝の深さが変化する断面形状とすることもできる。
【符号の説明】
【0030】
10 車両ボデー
13 Bピラー(ピラー)
17 ルーフパネル(ルーフ)
19 スライドレール収納部
20 ルーフレインフォース
30 連結部材
31 主部
31a 主体部
31a1 底面部
31a2 貫通孔(孔、変形起因部)
31b フランジ部
31b1 溝状部(変形起因部)
図1
図2
図3
図4
図5