(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】表示装置の制御方法、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240611BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G03B21/00 D
(21)【出願番号】P 2020212986
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 俊太
(72)【発明者】
【氏名】太田 最実
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 康朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文紀
(72)【発明者】
【氏名】島田 真紀
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194645(JP,A)
【文献】特開平10-091759(JP,A)
【文献】特開2010-079185(JP,A)
【文献】特開2018-131582(JP,A)
【文献】特開昭57-005783(JP,A)
【文献】特開2018-132670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0333899(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110268322(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、第1可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を含み、前記表示機能層の光散乱性が増加するほど可視光の透過率が低下する画像表示体に前記紫外光を投光し、
前記画像表示体の前記紫外光が投光された領域に第2可視光を投光して、前記画像表示体に前記第2可視光に係る画像を表示する表示装置において、
前記表示機能層が、特定周波数領域の電圧の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子を含む表示装置の制御方法であって、
前記画像表示体に前記紫外光を投光するとともに前記特定周波数領域の電圧を印加し、
前記特定周波数領域の電圧を、前記透過率が所定値に低減するまで印加する
表示装置の制御方法。
【請求項2】
前記表示機能層は、紫外光を受光することにより分子構造が変化して前記二周波駆動液晶分子の配向を乱す光応答性分子を含み、
前記画像表示体に前記分子構造が変化する誘導期が経過する前に前記特定周波数領域の電圧を印加する
請求項1に記載の表示装置の制御方法。
【請求項3】
前記特定周波数領域の電圧の波形の時間微分は連続である
請求項1に記載の表示装置の制御方法。
【請求項4】
紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、第1可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を含み、前記表示機能層の光散乱性が増加するほど可視光の透過率が低下する画像表示体と、
前記画像表示体に前記紫外光を投光する紫外光投光部と、
前記画像表示体に前記第1可視光を投光する第1可視光投光部と、
前記画像表示体の前記紫外光が投光された領域に第2可視光を投光して、前記画像表示体に前記第2可視光に係る画像を表示する第2可視光投光部と、を含み、
前記画像表示体が、前記表示機能層を挟み込むように配置された一対の電極を含み、
前記表示機能層が、前記電極を介した特定周波数領域の電圧の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子を含む表示装置であって、
前記電極に前記特定周波数領域の電圧を印加する電源装置と、
前記紫外光投光部と前記電源装置を制御する制御部と、をさらに含み、
前記制御部は、
前記紫外光投光部を制御して前記画像表示体に前記紫外光を投光するとともに前記電源装置を制御して前記画像表示体に前記特定周波数領域の電圧を印加するとともに、前記特定周波数領域の電圧を前記透過率が所定値に低減するまで印加する表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置の制御方法、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、紫外光を受光することによって光散乱性が増加する表示機能層を有する画像表示体に当該紫外光を投光した後、可視光を投光して画像表示体に当該可視光に係る画像を表示する表示装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1等の表示装置では、紫外光により画像表示体の光散乱性を増加させるため、光散乱性の増加速度が遅いという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、表示機能層の光散乱性の増加速度を向上させることで画像表示体の透過率を高い状態から低い状態に短時間で遷移可能な表示装置の制御方法、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様における表示装置は、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、第1可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を含み、表示機能層の光散乱性が増加するほど可視光の透過率が低下する画像表示体に紫外光を投光し、画像表示体の紫外光が投光された領域に第2可視光を投光して、画像表示体に第2可視光に係る画像を表示する表示装置において、表示機能層が、特定周波数領域の電圧の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子を含む表示装置の制御方法であって、画像表示体に紫外光を投光するとともに特定周波数領域の電圧を印加し、特定周波数領域の電圧を、当該透過率が所定値に低減するまで印加する。
【発明の効果】
【0007】
表示機能層は、光散乱性の変化に寄与する液晶分子の他にアゾ化合物の光応答性分子等を有している。また、表示機能層の初期状態において、光応答性分子はトランス体であり、光応答性分子が液晶分子に干渉することはなく、表示機能層の光散乱性は低い状態になっている。一方、光応答性分子は紫外光を受光するとトランス体からシス体に変化し、シス体に変化した光応答性分子が液晶分子に干渉することで、液晶分子の配向を乱し、表示機能層の光散乱性を増加させている。しかし、表示機能層が紫外光を受光した場合、光応答性分子の大部分がトランス体からシス体に変形にするための誘導期を経るまでは液晶分子の配向がほぼ維持されるので、表示機能層の光散乱性の増加速度が遅く、光散乱性を低い状態から高い状態に遷移させるのに時間が掛かっていた。しかし、上記態様によれば、表示機能層において、液晶分子として特定周波数領域の電圧の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子が適用される。さらに、上記態様によれば、表示機能層には紫外光のみならず二周波駆動液晶分子の誘電異方性の符号が変化する特定周波数領域の電圧を印加する。これにより、液晶分子は特定周波数領域の電圧により振動し、シス体に変化した光応答性分子からの干渉を受けやすくなるので、誘導期の初期の段階から液晶分子の配向を乱すことができ、且つ液晶分子の配向を乱す速度も早めることができる。したがって、表示機能層の光散乱性の増加速度を高め、短時間で表示機能層の光散乱性を低い状態から高い状態に遷移させ、画像表示体を透過率の高い状態から低い状態に短時間で遷移させることができる。さらに、特定周波数領域の電圧を画像表示体の透過率が所定値に低減するまで印加するので、その後の画像表示体の透過率の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態の表示装置の基本構成を示す斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、従来の画像表示体に紫外光を投光したときに発生する誘導期を説明するための図である。
【
図2C】
図2Cは、従来の画像表示体において誘導期の後に発生する遷移状態を説明するための図である。
【
図3】
図3は、従来の画像表示体に紫外光を投光したときの可視光の透過率の時間変化を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、本実施形態の表示装置を構成する画像表示体の断面図である。
【
図4B】
図4Bは、画像表示体に高周波電圧を印加した場合を説明するための図である。
【
図4C】
図4Cは、画像表示体に紫外光を投光し、且つ高周波電圧を印加した場合を説明するための図である。
【
図5】
図5は、二周波駆動液晶分子の誘電率の周波数特性を示す図である。
【
図6】
図6は、透過率が低い状態の画像表示体に第1可視光を投光し、且つ低周波電圧を印加した場合を説明するための図である。
【
図7】
図7は、画像表示体(表示機能層)の透過率を測定するための配置図である。
【
図8】
図8は、透過率の高い状態の画像表示体に紫外光を投光し且つ紫外光を投光した場合の画像表示体の透過率と、透過率の高い状態の画像表示体に高周波電圧を印加せずに紫外光を投光した場合の画像表示体の透過率と、を比較するグラフである。
【
図9】
図9は、画像表示体に対する高周波電圧の印加を継続することで一度透過率が低下した画像表示体の透過率が再び上昇する場合について説明するための図である。
【
図10】
図10は、本実施形態の表示装置の高周波電圧の制御を説明するための図である。
【
図11】
図11は、画像表示体の透過率の時間変化を示すグラフ(その1)である。
【
図12】
図12は、画像表示体の透過率の時間変化を示すグラフ(その2)である。
【
図13】
図13は、画像表示体の透過率の時間変化を示すグラフ(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[本実施形態の概要]
図1は、本実施形態の表示装置100の基本構成を示す斜視図である。本実施形態の表示装置100は本発明の表示装置100の制御方法を実現するものであり、第1プロジェクタ1(紫外光投光部)と、第2プロジェクタ2(第1可視光投光部)と、第3プロジェクタ3(第2可視光投光部)と、画像表示体4と、電源装置5と、制御部6を備えている。
【0011】
画像表示体4は、透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化する薄板状の部材であり、第1プロジェクタ1乃至第3プロジェクタ3に対向する前面411を有する。画像表示体4は、紫外光を受光することにより透明状態から非透明状態に変化し、第1可視光を受光することにより非透明状態から透明状態に変化する。画像表示体4は、例えば自動車のフロントガラスに取り付けられる。画像表示体4の詳細については後述する。
【0012】
第1プロジェクタ1は、紫外光を放出するプロジェクタであり、画像表示体4の前面411に対向して配置される。第1プロジェクタ1は、例えば波長λが365[nm]前後の紫外光を放出する。第1プロジェクタ1は、画像表示体4に紫外光を投光することで、画像表示体4上の投光領域412を透明状態から非透明状態(スクリーン状態)に変化させることができる。
【0013】
第2プロジェクタ2は、特定波長の可視光(第1可視光)を放出するプロジェクタであり、画像表示体4の前面411に対向して配置される。第2プロジェクタ2は、例えば波長λが450[nm]前後の第1可視光を放出する。第2プロジェクタ2は、画像表示体4に第1可視光を投光することで、画像表示体4上の投光領域412を透明状態から非透明状態に変化させることができる。なお、第2プロジェクタ2の投光領域412は第1プロジェクタ1と投光領域412と一致する、又は当該投光領域412よりも内側となるように設定される。
【0014】
第3プロジェクタ3は、カラープロジェクタであり、画像表示体4の前面411に対向して配置される。第3プロジェクタ3は、青色(波長λが450[nm])、緑色(波長λが532[nm])、赤色(波長λが640[nm])の3色のいずれか1色の光、又は2色以上の光を組み合わせた任意の色・形状の第2可視光を放出する。第3プロジェクタ3は、画像表示体4の第2プロジェクタ2の投光領域412に第2可視光を投光することで、非透明状態の画像表示体4に任意の色・形状の画像413を表示する。
【0015】
電源装置5は、画像表示体4に高周波電圧(例えば42[kHz])、又は低周波電圧(例えば100[Hz])を印加するものである。
【0016】
制御部6は、第1プロジェクタ1、第2プロジェクタ2、第3プロジェクタ3、電源装置5の動作を制御する。制御部6は、上位の制御装置(不図示)と通信しつつ、第1プロジェクタ1及び第2プロジェクタ2の投光/非投光の制御を行う。また、制御部6は、上位の制御装置と通信しつつ、第3プロジェクタ3に画像情報を送信する。
【0017】
また制御部6は、第1プロジェクタ1の投光を実行する際に電源装置5を介して高周波電圧を画像表示体4に印加し、第1プロジェクタ1の投光を実行する際に電源装置5を介して低周波電圧を画像表示体4に印加する。
【0018】
[従来の画像表示体4Aとその動作]
図2Aは、従来の画像表示体4Aの断面図である。
図2Bは、従来の画像表示体4Aに紫外光を投光したときに発生する誘導期を説明するための図である。
図2Cは、従来の画像表示体4Aにおいて誘導期の後に発生する遷移状態を説明するための図である。
図3は、従来の画像表示体4Aに紫外光を投光したときの可視光の透過率の時間変化を示すグラフである。
【0019】
図2Aに示すように、従来の画像表示体4Aは、表示機能層42の一方の面(前面411)において配向膜43、保護ガラス45の順に積層され、他方の面(裏面)において配向膜46、保護ガラス48の順に積層された構造を有する。
【0020】
表示機能層42は、透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化するフィルム部材である。表示機能層42は、紫外光を受光することにより光散乱性が増加して白濁し、第1可視光を受光することにより光散乱性が低下して透明状態に戻る光学性能を有する。表示機能層42は、液晶分子421と光応答性分子422等を含む液晶フィルムである。
【0021】
配向膜43及び配向膜46は、液晶分子421に作用して液晶分子421の配向を所定の向きに揃えるものである。表示機能層42は、液晶分子421の配向が揃ったときに透明状態となり、液晶分子421の配向が乱れたときに非透明状態となる。
【0022】
保護ガラス45は、画像表示体4Aの前面411(
図1参照)を形成するものである。保護ガラス48は画像表示体4の裏面を形成するものである。保護ガラス48は外部から進入する紫外光が表示機能層42に到達することを防ぐ役割も有する。このため、保護ガラス48は紫外光を遮蔽する材料で形成される、或いは保護ガラス48には紫外光の遮蔽するフィルムが貼り付けられる。
【0023】
前記のように、表示機能層42は、液晶分子421と光応答性分子422等を含む液晶フィルムである。
図2Aに示すように、液晶分子421は、初期状態において、配向膜43及び配向膜46からの作用により、その長手方向が表示機能層42の厚み方向に揃うように配向するネマティック相を形成している。光応答性分子422は、例えばアゾベンゼン等のアゾ化合物により構成され、初期状態ではトランス体となっている。また図示は省略しているが、表示機能層42においては、トランス体の光応答性分子422が液晶分子421をねじる方向と反対向きの力を光応答性分子422に印加して当該ねじる力を相殺する光非応答性分子も配置されている。よって、初期状態において、液晶分子421の配向がトランス体の光応答性分子422により乱されることはない。
【0024】
一方、
図2Bに示すように、表示機能層42に対して紫外光を投光すると、光応答性分子422がトランス体からシス体に変化する。ただし、すべての光応答性分子422が同時に変化するのではなく、配置位置等により変化のタイミングにずれが発生している。よって紫外光の投光の初期段階では一部の光応答性分子422がシス体からトランス体に変化するのみであり、液晶分子421に対してほとんど干渉しない。
【0025】
その後、
図2Cに示すように、光応答性分子422においてシス体が大部分となると、シス体に変化した光応答性分子422が液晶分子421に干渉し、液晶分子421の配向を乱していく。このとき、光非応答性分子はシス体の光応答性分子422が液晶分子421に作用する力を相殺できない。よって、表示機能層42の光散乱性が増加、即ち画像表示体4Aの透過率が減少していく。
【0026】
図3に示すように、時刻Ti(
図3によれば約1.6秒)までは光応答性分子422がトランス体からシス体に変化する誘導期であり、
図2Bに示すように光応答性分子422が液晶分子421にほとんど干渉しない。しかし、時刻Ti以降は、光応答性分子422においてシス体が大部分となり、液晶分子421に対して干渉し初め、表示機能層42の光散乱性が増加(画像表示体4Aの透過率が減少)する遷移状態となる。
【0027】
しかし、例えば、紫外光の投光開始から画像表示体4の透過率が5[%]になるまで7秒程度かかり、また透過率が1[%]になるまで10秒程度かかっており、画像表示体4Aが透明状態から非透明状態に遷移するのに時間が掛かる。
【0028】
そこで本実施形態では、上記の誘導期及び遷移状態の時間を短縮するための構成を備えている。
【0029】
[本実施形態の画像表示体4とその動作]
図4Aは、本実施形態の表示装置100を構成する画像表示体4の断面図である。
図4Bは、画像表示体4に高周波電圧を印加した場合を説明するための図である。
図4Cは、画像表示体4に紫外光を投光し、且つ高周波電圧を印加した場合を説明するための図である。
【0030】
図4Aに示すように、画像表示体4は、従来の画像表示体4Aにおいて配向膜43と保護ガラス45の間に透明導電膜44が配置され、配向膜46と保護ガラス48の間に透明導電膜47が配置され、表示機能層42が透明導電膜44と透明導電膜47に挟まれた配置となっている。また、透明導電膜44及び透明導電膜47に交流電源(
図1の電源装置5)が接続されることで表示機能層42に高周波電圧が印加される構成となっている。
【0031】
画像表示体4の構成の詳細は後述するが、表示機能層42の液晶分子421は二周波駆動液晶が適用される。二周波駆動液晶は、例えば高周波電圧が印加されると振動するものである。
【0032】
よって
図4Bに示すように、二周波駆動液晶である液晶分子421に高周波電圧(例えば42[kHz])を印加して振動させることで、液晶分子421の粘性を低下させ、且つ配向性が乱れやすい状態を形成している。ただし、液晶分子421の配向性は未だ乱されていないので、画像表示体4の透明状態は維持されている。
【0033】
さらに
図2Cに示すように、紫外光を投光することで光応答性分子422がトランス体からシス体に変化する。シス体の割合が少ない初期段階であっても、振動している液晶分子421は光応答性分子422からの干渉により容易に配向性が乱れ初め、シス体の割合が増えるにつれて液晶分子421の光散乱性の増加速度は増加するが、当該増加速度は高周波電圧を印加しない場合により速くなる。
【0034】
したがって、表示機能層42に対する紫外光の投光と、表示機能層42(画像表示体4)に対する高周波電圧の印加を同時に実行することで、短時間で光散乱性を低い状態から高い状態へ遷移可能であり、画像表示体4が透明状態から非透明状態に短時間で遷移可能となる。
【0035】
図5は、二周波駆動液晶分子の誘電率Δε(誘電異方性)の周波数特性を示す図である。
図5に示すように、二周波駆動液晶は、その誘電率Δεがfc=10[kHz]までは正の値を有するが、fcを超えると負の値となる周波数特性を有する。すなわち、二周波駆動液晶分子は、fcを境界としてその誘電異方性の符号が入れ替わる。
【0036】
図5に示すように、上記の周波数特性を有する二極性液晶を一対の平板状の電極の間に配置した場合を考える。このとき、一対の電極にfcより高い周波数の高周波電圧を印加すると、二極性液晶はその長手方向が一対の電極が二極性液晶を挟み込む方向に垂直な方向に配向する性質を有する。
【0037】
図4Aに示すように、本実施形態では、表示機能層42が配向膜43及び配向膜46により挟まれており、液晶分子421はその長手方向が厚み方向に揃うように配向する力を配向膜43及び配向膜46から常時受けている。
【0038】
そこで、本実施形態では、
図4B及び
図4Cのように画像表示体4に高周波電圧を印加する場合において、配向膜43及び配向膜46が液晶分子421に作用する力と高周波電圧が液晶分子421に作用する力との釣り合いが取れる範囲で、高周波電圧の出力(例えば
図8に示す6.4[V])を調整している。これにより、画像表示体4において高周波電圧を受けている部分であって紫外光が投光されていない部分の透過率が高い状態が維持され、高周波電圧を受けている部分であって紫外光も投光されている部分の透過率が高い状態から低い状態に遷移する。
【0039】
図6は、透過率が低い状態の画像表示体4に第1可視光を投光し、且つ低周波電圧を印加した場合を説明するための図である。
【0040】
図4Cにおいて高周波電圧の出力を停止すると、液晶分子421はその長手方向が厚み方向に揃うように配向する力を配向膜43及び配向膜46から受けてもとの配向に戻ろうとする。しかし、すでにシス体となっている光応答性分子422が引き続き液晶分子421に干渉するので、表示機能層42の光散乱性は高い状態が維持される。
【0041】
そこで、
図6に示すように、画像表示体4(表示機能層42)に第1可視光を投光する。
【0042】
画像表示体4(表示機能層42)に第1可視光を投光することで光応答性分子422は、シス体からトランス体に変化するので、光応答性分子422は液晶分子421に干渉しなくなる。
【0043】
このとき、液晶分子421は配向膜43及び配向膜46から力を受けてもとの配向に戻ることも可能であるが、やや時間が掛かる。そこで、画像表示体4(表示機能層42)に第1可視光を投光し、且つ低周波電圧(例えば100[Hz])を印加する。
【0044】
図5に示すように、一対の電極にfcより低い周波数の低周波電圧を印加すると二極性液晶はその長手方向が一対の電極が二極性液晶を挟み込む方向に配向する性質を有する。したがって、液晶分子421は低周波電圧が印加されることで、その長手方向が表示機能層42の厚み方向に配向する力を受ける。これは、液晶分子421が配向膜43及び配向膜46から受ける力と同じ方向の力である。したがって、画像表示体4(表示機能層42)に第1可視光を投光し、且つ低周波電圧を印加することで、液晶分子421の配向性が急速に回復し表示機能層42の光散乱性も急速に減少するので、画像表示体4を短時間で透過率が低い状態から高い状態に遷移させることができる。
【0045】
ところで、配向膜43及び配向膜46を適宜選択することにより、初期状態において液晶分子421の長手方向が画像表示体4の厚み方向に垂直な方向に揃うように配向させることも可能である。この状態においても液晶分子421は配向しているので表示機能層42の光散乱性は小さく、画像表示体4の透過率も高い状態となっている。
【0046】
このとき、画像表示体4に対してfcよりも低い周波数の低周波電圧を印加すると液晶分子421を振動させることができる。さらに画像表示体4に紫外光を投光するとトランス体からシス体に変化した光応答性分子422が液晶分子421に干渉して液晶分子421の配向性が乱れ、表示機能層42の光散乱性が増加するので、画像表示体4の透過率を高い状態から低い状態に遷移させることができる。
【0047】
また、透過率の低い状態の画像表示体4に対して第1可視光を投光することで光応答性分子422がシス体からトランス体に変化して光応答性分子422の液晶分子421に対する干渉が解消される。さらに、fcよりも高い周波数の高周波電圧を印加することで、液晶分子421の配向性が急速に回復し表示機能層42の光散乱性も急速に減少するので、画像表示体4の透過率を低い状態から高い状態に短時間で遷移させることができる。
【0048】
[透過率測定用の画像表示体4の構成及び製造方法]
(1)透過率測定用の画像表示体4の構成として、例えば以下のものが適用できる。
(A)表示機能層42(例えば厚さ:10[μm])
液晶分子421(80[wt%]):p型ネマティック液晶(Merck社製E44、又はMLC2172)、その他チッソ社製DF-02XX,DF-05XX,FX-1001,FX-1002、Merck社製MLC-2-48、MLC2177等
光応答性分子422(6.8[wt%]):アゾベンゼン(アゾ化合物)
光非応答性化合物(13.2[wt%]):キラル化合物(R811(Merck社))(アゾ化合物)
(B)配向膜43,46
AL63201(JSR社製)のポリイミド(熱硬化性樹脂の垂直配向膜)
(C)透明導電膜44,47
ITO(酸化インジウムと酸化スズの混合物)
【0049】
(2)製造方法
ガラス基板上にITOをスパッタリングにより製膜する。その後、有機溶媒に溶解したポリイミドをスピンコート法により塗布して乾燥させることで、ITO(透明導電膜44,47)とポリイミド(配向膜43,46)が製膜されたガラス基板を作成する。このガラス基板複数枚を対向構造とし液晶評価用ガラスセルを作成する。
【0050】
この液晶評価用ガラスセル(イーエッチシー社製)に、上記の液晶のいずれか(例えばMLC2177(Merck社製))及びアゾ化合物の混合物をホットプレート上で100[℃]まで昇温して注入し、混合物注入後のガラスセルを室温下で放冷する。
【0051】
[画像表示体の透過率の測定配置]
図7は、画像表示体4(表示機能層42)の透過率を測定するための配置図である。
図7に示すように、波長λが650[nm]のレーザー光を発振するレーザーダイオード(Laser diode)と、レーザー光を受光するフォトダイオード(Photo diode)との間に画像表示体4(Sample)が配置される。なお、画像表示体4とフォトダイオードの間の距離は約8[cm]に設定され、紫外光源(又は可視光源)と画像表示体4の間の距離は約20[cm]に設定される。
【0052】
画像表示体4には電圧増幅器(Voltage amplifer)を介して発振器(Function generator)から交流電圧(高周波電圧、又は低周波電圧)が印加される。
【0053】
また、画像表示体4には紫外光源(UV light source)から紫外光(波長λが365[nm])が投光され、また可視光源(Blue light source)から第1可視光(波長λが450[nm])が投光される。
【0054】
フォトダイオードは画像表示体4を透過したレーザー光を受光し、受光したレーザー光の強度を電流の強度に変換してオシロスコープに出力する。
【0055】
画像表示体4の透過率の測定に用いる機器の機種名は以下のとおりである。
【0056】
発振器:Tektornix AFG1022 ARBITARY FUNCTION GENERATOR
電圧増幅器:High Speed Bipolar Amplifier DC-1Mhz/200VA HAS 4014
レーザーダイオード:THORLAB HANDHELD LASER SOURCE
フォトダイオード:HAMAMATSU Photodiode module C10439
紫外光源:THORLAB M365LP1-C1
可視光源:THORLAB M450LP1
オシロスコープ:Tektronix TBS 1052B Digital Oscilloscope
【0057】
[透過率の時間変化の測定I]
図7に示す測定配置において、画像表示体4に対して紫外光源から紫外光(波長λが365[nm]、出力が20[mW/cm
2])を投光するとともに、画像表示体4に高周波電圧(周波数:42[kHz]、出力:6.4[V])を印加し、フォトダイオードが検知するレーザー光の強度(透過率)の時間変化を測定した。ここで、レーザーダイオードとフォトダイオードの間に画像表示体4(Sample)を配置しない状態でフォトダイオードが検知するレーザー光の強度をベース強度とし、前記の強度をベース強度で除算することで、画像表示体4の透過率が算出される。
【0058】
また比較のため、画像表示体4に高周波電圧を印加しない状態で紫外光を投光したときの画像表示体4の透過率の時間変化も測定した。
【0059】
図8は、透過率の高い状態の画像表示体4に紫外光を投光し且つ紫外光を投光した場合の画像表示体4の透過率と、透過率の高い状態の画像表示体4に高周波電圧を印加せずに紫外光を投光した場合の画像表示体4の透過率と、を比較するグラフである。
【0060】
図8の破線のグラフが示すように、画像表示体4に高周波電圧(42[kHz])を印加せずに紫外光を投光した場合、制御開始(時刻0)から誘導期(Ti=約2秒)を経た上で、透過率が高い状態から低い状態へ遷移する遷移状態となるが、制御開始(時刻0)から透過率が5[%]に低下するまで7秒程度かかっており、透過率が1[%]に低下するまで10秒程度掛かっている。これは実質的に
図2に示す従来の画像表示体4Aにおける透過率の変化と同様となる。
【0061】
一方、
図8の実線のグラフが示すように、画像表示体4に高周波電圧(42[kHz])を印加しつつ紫外光を投光する制御を実行した場合、誘導期(Ti)が終了する前から透過率が急激に減少し、制御開始(時刻0)から3.5秒程度経過したところで透過率が3[%]程度にまで低下する。したがって、画像表示体4に高周波電圧を印加しつつ紫外光を投光することで、画像表示体4を透過率が高い状態から低い状態に短時間で変化できることがわかる。
【0062】
一方、その後も高周波電圧の印加を継続させると画像表示体4の透過率が上昇しはじめ、例えば制御開始から約7秒程度経過したところで透過率が18[%]程度にまで上昇する。
【0063】
[画像表示体4の透過率の上昇]
図9は、画像表示体4(表示機能層42)に対する高周波電圧の印加を継続することで一度透過率が低下した画像表示体4の透過率が再び上昇する場合について説明するための図である。
【0064】
図9(a)に示すように、画像表示体4(表示機能層42)に紫外光(不図示)を投光し且つ高周波電圧(電源装置5不図示)を印加すると、液晶分子421が振動し初め、
図9(b)に示すように(光応答性分子422は不図示)、液晶分子421の配向が乱れて表示機能層42の光散乱性が増加する。
【0065】
図9(c)に示すように液晶分子421の配向の乱れが大きくなり表示機能層42は非透明状態となるが、表示機能層42に対する高周波電圧の印加が継続される。ところで、液晶分子421が振動すると表示機能層42の粘性が低下し、液晶分子421がその分動きやすくなる。また液晶分子421は極性を有しており、液晶分子421間において所定の配向関係を形成する力が作用する。したがって、液晶分子421において液晶分子421の極性に起因した対流が発生し、液晶分子421全体において配向性がある程度回復する光学バウンス現象が発生する。このとき、光散乱性が高い状態の表示機能層42の光散乱性が低下し、画像表示体4の透過率も上昇し、例えば前記のように18[%]程度にまで上昇する。
【0066】
したがって、一時的に透過率の上昇した画像表示体4に第2可視光による画像413(
図1参照)を投影しても、画像413が不鮮明になるおそれがある。
【0067】
そこで、本実施形態では、画像表示体4に対して紫外光を投光し且つ第1可視光を投光している場合において、非透明状態となった画像表示体4に発生する透過率の上昇を抑制して非透明状態を維持する。
【0068】
[本実施形態の高周波電圧の制御]
図10は、本実施形態の表示装置100の高周波電圧の制御を説明するための図である。
【0069】
図10(a)に示すように、画像表示体4(表示機能層42)に紫外光(不図示)を投光し且つ高周波電圧(電源装置5不図示)を印加すると、液晶分子421が振動し初め、
図10(b)に示すように(光応答性分子422は不図示)、液晶分子421の配向が乱れて表示機能層42の光散乱性が増加する。
【0070】
そして、
図10(c)に示すように液晶分子421の配向の乱れが大きくなり画像表示体4の透過率が最も低くなる時に高周波電圧の印加を停止する。すると、液晶分子421の極性に起因した対流は発生しない。
【0071】
したがって、
図10(d)に示すように、その後も引き続き紫外光を投光することで光応答性分子422(
図10(d)では不図示)のシス体への変化が進行し、シス体となった光応答性分子422が液晶分子421に干渉する。これにより画像表示体4の非透明状態を維持することができる。
【0072】
[透過率の時間変化の測定II]
図7に示す測定配置において、画像表示体4(Sample)に対して紫外光源から紫外光(波長λ:365[nm]、出力:20[mW/cm
2])を投光するとともに、画像表示体4に高周波電圧(周波数:42[kHz]、出力:6.4[V])を印加し、フォトダイオードが検知するレーザー光の強度(透過率)の時間変化を測定した。その際、画像表示体4の透過率が極小値となる時間(Te)まで高周波電圧を印加し、その後高周周波電圧の印加を停止した。
【0073】
図11は画像表示体4の可視光透過率の時間変化を示すグラフ(その1)であって、画像表示体4に対して紫外光を投光するとともに高周波電圧を印加し、その後紫外光の投光と高周波電圧の印加を継続して実施した場合(A)と、画像表示体4に対して紫外光を投光するとともに高周波電圧を印加し、その後紫外光の投光を継続しつつ高周波電圧の印加を所定時間Teの経過時に停止した場合(B)と、を比較したグラフである。
【0074】
図11に示すように、曲線(A)に示す紫外光の投光と高周波電圧の印加を継続して実施した場合、制御開始(時刻0)から所定時間Te(
図11では3.1秒)を経過すると透過率が上昇し始めて制御開始(時刻0)から約7秒経過時において18[%]程度にまで上昇する。
【0075】
一方、曲線(B)に示す紫外光の投光を継続しつつ高周波電圧の印加を途中で停止した場合、透過率の上昇が抑制され、例えば制御開始(時刻0)から10秒経過時において透過率は最大でも8[%]程度に抑制されていることがわかる。
【0076】
ここで、所定時間Teは、曲線(A)の極小値に対応する時間(Te=3.1秒)に限定されることはない。所定時間Teとしては、例えば、画像表示体4の透過率が所定の値(例えば5[%])に最初に到達するときの時間、画像表示体4の透過率の減少速度が最初にゼロになる時間、画像表示体4の透過率の減少速度が所定の減少速度(例えば1[%/s])にまで最初に低下する時間等に設定できる。少なくとも所定時間Teは、前記の極小値の近傍に対応する時間(特に、極小値に対応する時間よりも短い方の時間)に設定されるものであれば、どのような設定方法も適用できる。なお、曲線(A)、曲線(B)の所定時間Teまでの挙動が異なる理由は、透明状態・非透明状態を繰り返しスイッチングすることによる表示機能層42内部の液晶分子421の劣化度合いに差が生じているためと推察される。
【0077】
[透過率の時間変化の測定III]
図7に示す測定配置において、画像表示体4(Sample)に対して紫外光源から紫外光(波長λ:365[nm]、出力:20[mW/cm
2])を投光するとともに、画像表示体4に高周波電圧(周波数:42[kHz]、出力:6.4[V])を印加し、フォトダイオードが検知するレーザー光の強度(透過率)の時間変化を測定した。その際、高周波電圧は、紫外光の投光開始後、所定時間(Ts=1.3秒)経過後に印加し、その後所定時間(Te=3.2秒)経過後に停止させた。
【0078】
図12は、画像表示体4の可視光透過率の時間変化を示すグラフ(その2)であって、画像表示体4に対して高周波電圧を印加せずに紫外光を投光した場合(A)と、画像表示体4に対して紫外光を投光するとともに高周波電圧を印加し、その後紫外光の投光と高周波電圧の印加を継続して実施した場合(B)と、画像表示体4に対して紫外光を投光し、その後所定時間Tsの経過時に高周波電圧の印加を開始し、さらにその後所定時間Teの経過時に高周波電圧の印加を停止した場合(C)と、を比較したグラフである。
【0079】
【0080】
図12の曲線(C)に関して、制御開始(時刻0)から所定時間Tsに到達するまでは、曲線(A)と同じように推移する。所定時間Tsは光応答性分子422が紫外光によりトランス体からシス体に変化する誘導期Tiよりも短く、また液晶分子421は高周波電圧により振動していないので、表示機能層42の光散乱性は低い状態を維持している。
【0081】
所定時間Tsを経過して画像表示体4に高周波電圧が印加されると液晶分子421が振動する。これにより、シス体に変化した光応答性分子422からの干渉を受けて配向が乱れ表示機能層42の光散乱性が増加し、所定時間Teにおいて透過率が極小値となる。その際、曲線(C)は曲線(B)に収束する。
【0082】
所定時間Teを経過すると、曲線(B)に係る透過率が上昇して制御開始(時刻0)から7秒後には18[%]程度にまで上昇している。一方、曲線(C)に係る透過率もやや上昇するが、例えば制御開始(時刻0)から10秒経過した段階でも透過率は9[%]程度に抑制されている。
【0083】
したがって、
図12の曲線(C)に係る制御によれば、
図11の曲線(C)が示すように、画像表示体4に対して紫外光を投光するとともに高周波電圧を印加し、所定時間Teで高周波電圧の印加を停止した場合と同様の効果が得られる。また、
図12の曲線(C)に係る制御に関しては、制御開始(時刻0)から所定時間Tsの間高周波電圧を印加しないので、その分、電源装置5(
図1)の消費電力を削減することができる。
【0084】
[透過率の時間変化の測定IV]
図7に示す測定配置において、画像表示体4(Sample)に対して紫外光源から紫外光(波長λ:365[nm]、出力:20[mW/cm
2])を投光するとともに、画像表示体4に高周波電圧(周波数:42[kHz]、出力:6.4[V])を印加し、フォトダイオードが検知するレーザー光の強度(透過率)の時間変化を測定した。その際、高周波電圧は、紫外光の投光開始後、所定時間(Ts=1.3秒)経過後に印加し、その後所定時間(Te=3.2秒)経過後に停止させた。さらに、本実施形態で適用した高周波電圧はいずれも矩形波であったが、ここでは正弦波の高周波電圧(周波数:42[kHz]、出力:6.4[V])を適用した。
【0085】
図13は、画像表示体4の可視光透過率の時間変化を示すグラフ(その3)であって、画像表示体4に対して紫外光を投光し、その後所定時間Tsの経過時に高周波電圧(矩形波)の印加を開始し、さらにその後所定時間Teの経過時に高周波電圧(矩形波)の印加を停止した場合(C)と、画像表示体4に対して紫外光を投光し、その後所定時間Tsの経過時に高周波電圧(正弦波)の印加を開始し、所定時間Teの経過時に高周波電圧(正弦波)の印加を停止した場合(D)と、を比較したグラフである。
【0086】
図13に示すように、所定時間Tsから所定時間Teにおいて、曲線(D)は曲線(C)よりも緩やかに減少する。そして、所定時間Teを経過すると、曲線(C)とは異なり透過率の上昇はなく、透過率が引き続き単調減少している。
【0087】
同じ周波数の矩形波と正弦波を比較すると、矩形波は、正弦波よりも周波数の高い高調波成分を多く含んでいる。よって、正弦波の高周波電圧が液晶分子421に印加する振動エネルギーは、当該高調波成分が無い分だけ、小さくなっている。
【0088】
したがって、所定時間Tsから所定時間Teにおいて、液晶分子421の振動は高周波成分を含まない分だけ滑らか且つ小さくなり、光応答性分子422との干渉もその分少なくなるので、曲線(C)に比べて透過率の減少速度が小さくなっている。
【0089】
また、前記のように液晶分子421の振動は高周波成分を含まない分だけ滑らか且つ小さくなるので、表示機能層42の粘性もその分高い状態を維持している。よって、液晶分子421の極性に起因する液晶分子421の対流も抑制される。
【0090】
したがって、所定時間Te経過後においても表示機能層42の光散乱性の低下は発生せず、画像表示体4の透過率は単調に減少する。
【0091】
なお、制御開始(時刻0)から画像表示体4に対して正弦波の高周波電圧を印加してもよい。
【0092】
画像表示体4に印加する高周波電圧は、単一の周波数(42[kHz])の正弦波のみならず、例えば、fc=10[kHz]以上であって42[khz]以下の任意の周波数の高周波電圧を任意の数だけ重ね合わせたもの(フーリエ級数で表現可能なもの)であってもよい、少なくとも高周波電圧としては、その時間微分が連続であるものが好適である。このような高周波電圧を適用することで、紫外光が投光されて非透明状態となった画像表示体4における透過率の上昇を抑制することができる。
【0093】
[本実施形態の効果]
本実施形態に係る表示装置100の制御方法によれば、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、第1可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層42を含み、表示機能層42の光散乱性が増加するほど可視光の透過率が低下する画像表示体4に紫外光を投光し、画像表示体4の紫外光が投光された領域に第2可視光を投光して、画像表示体4に第2可視光に係る画像413を表示する表示装置100において、表示機能層42が、特定周波数領域の電圧の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子(液晶分子421)を含む表示装置100の制御方法であって、画像表示体4に紫外光を投光するとともに特定周波数領域の電圧(高周波電圧)を印加し、特定周波数領域の電圧を、当該透過率が所定値に低減するまで印加する。
【0094】
また、本実施形態の表示装置100によれば、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、第1可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層42を含み、表示機能層42の光散乱性が増加するほど可視光の透過率が低下する画像表示体4と、画像表示体4に紫外光を投光する紫外光投光部(第1プロジェクタ1)と、画像表示体4に第1可視光を投光する第1可視光投光部(第2プロジェクタ2)と、画像表示体4の紫外光が投光された領域に第2可視光を投光して、画像表示体4に第2可視光に係る画像413を表示する第2可視光投光部(第3プロジェクタ3)と、を含み、画像表示体4が、表示機能層42を挟み込むように配置された一対の電極(透明導電膜44、透明導電膜47)を含み、表示機能層42が、電極(透明導電膜44、透明導電膜47)を介した特定周波数領域の電圧(高周波電圧)の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子(液晶分子421)を含む表示装置100であって、電極(透明導電膜44、透明導電膜47)に特定周波数領域の電圧(高周波電圧)を印加する電源装置5と、紫外光投光部(第1プロジェクタ1)と電源装置5を制御する制御部6と、をさらに含み、制御部6は、紫外光投光部(第1プロジェクタ1)を制御して画像表示体4に紫外光を投光するとともに電源装置5を制御して画像表示体4に特定周波数領域の電圧(高周波電圧)を印加するとともに、特定周波数領域の電圧(高周波電圧)を当該透過率が所定値(例えば5[%])に低減するまで印加する。
【0095】
表示機能層42は、光散乱性の変化に寄与する液晶分子421の他にアゾ化合物の光応答性分子422等を有している。また、表示機能層42の初期状態において、光応答性分子422はトランス体であり、光応答性分子422が液晶分子421に干渉することはなく、表示機能層42の光散乱性は低い状態になっている。一方、光応答性分子422は紫外光を受光するとトランス体からシス体に変化し、シス体に変化した光応答性分子422が液晶分子421に干渉することで、液晶分子421の配向を乱し、表示機能層42の光散乱性を増加させている。しかし、表示機能層42が紫外光を受光した場合、光応答性分子422の大部分がトランス体からシス体に変形にするための誘導期を経るまでは液晶分子421の配向がほぼ維持されるので、表示機能層42の光散乱性の増加速度が遅く、光散乱性を低い状態から高い状態に遷移させるのに時間が掛かっていた。しかし、本実施形態によれば、表示機能層42において、液晶分子421として特定周波数領域(fc=10[Hz]以上の周波数で、例えば42[kHz])の電圧の印加により誘電異方性の符号が変化する二周波駆動液晶分子が適用される。さらに、上記態様によれば、表示機能層42には紫外光のみならず二周波駆動液晶分子の誘電異方性の符号が変化する特定周波数領域(fc=10[Hz]以上の周波数で、例えば42[kHz])の電圧を印加する。これにより、液晶分子421は当該特定周波数領域の電圧により振動し、シス体に変化した光応答性分子422からの干渉を受けやすくなるので、誘導期の初期の段階から液晶分子421の配向を乱すことができ、且つ液晶分子421の配向を乱す速度も早めることができる。したがって、表示機能層42の光散乱性の増加速度を高め、短時間で表示機能層42の光散乱性を低い状態から高い状態に遷移させ、画像表示体4を透過率の高い状態から低い状態に短時間で遷移させることができる。さらに、特定周波数領域の電圧(高周波電圧)は画像表示体4の透過率が所定値(例えば5[%])に低減するまで印加するので、その後の画像表示体4の透過率の上昇を抑制することができる。
【0096】
本実施形態の表示装置100の制御方法において、表示機能層42は、紫外光を受光することにより分子構造が(シス体からトランス体に)変化して二周波駆動液晶分子の配向を乱す光応答性分子422を含み、画像表示体4に当該分子構造が変化する誘導期(Ti)を経過する前(制御開始から所定時間Ts(Ts<Te)経過後)に特定周波数領域の電圧(高周波電圧)を印加する。
【0097】
これにより、画像表示体4に対して紫外光を投光するとともに高周波電圧を印加し、所定時間Teで高周波電圧の印加を停止した場合と同様の効果が得られる。また、制御開始(時刻0)から所定時間Tsの間高周波電圧を印加しないので、その分、電源装置5(
図1)の消費電力を削減することができる。
【0098】
本実施形態において、特定周波数領域の電圧(高周波電圧)の波形の時間微分は連続である。
【0099】
同じ周波数の矩形波と正弦波を比較すると、矩形波は、正弦波よりも周波数の高い高調波成分を多く含んでいる。よって、正弦波の高周波電圧が液晶分子421に印加する振動エネルギーは、当該高調波成分が無い分だけ、小さくなっている。よって、液晶分子421の振動は高周波成分を含まない分だけ滑らか且つ小さくなるので、表示機能層42の粘性もその分高い状態を維持している。このため、液晶分子421の極性に起因する液晶分子421の対流も抑制される。したがって、光散乱性が高い状態の表示機能層42の光散乱性の低下は発生せず、非透明状態の画像表示体4の透過率の上昇を抑制できる。
【符号の説明】
【0100】
100 表示装置
4 画像表示体
413 画像
42 表示機能層