(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 9/96 20060101AFI20240611BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C12N9/96
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2020507936
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012142
(87)【国際公開番号】W WO2019182123
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018057185
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】大平 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】横山 典子
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-059018(JP,A)
【文献】特開平11-130682(JP,A)
【文献】特表2011-525128(JP,A)
【文献】特開2004-305010(JP,A)
【文献】特開2011-206048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00-9/99
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスグルタミナーゼとグリシンとを含有する、トランスグルタミナーゼの安定性が向上した液体製剤であって、トランスグルタミナーゼが微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼであり、グリシンの含有量が5重量%以上で
ある液体製剤(ただし、架橋可能なタンパク質またはポリペプチド
を含有するもの、ならびにグルコースオキシダーゼおよび
/またはα-グルコシダーゼを含有
するものを除く)。
【請求項2】
グリシンの含有量が10重量%以上である、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項3】
液体製剤のpHが4~7である、請求項1または2に記載の液体製剤。
【請求項4】
トランスグルタミナーゼとグリシンとを含有する、トランスグルタミナーゼの安定性が向上した液体製剤であって、トランスグルタミナーゼが微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼであり、グリシンの含有量が2重量%以上で
ある液体製剤(ただし、架橋可能なタンパク質またはポリペプチド
を含有するもの、ならびにグルコースオキシダーゼおよび
/またはα-グルコシダーゼを含有
するものを除く)。
【請求項5】
トランスグルタミナーゼをグリシンとともに溶媒に添加して溶解することを含む、トランスグルタミナーゼが安定化された液体製剤の製造方法であって、トランスグルタミナーゼが微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼであり、グリシンの含有量が5重量%以上で
ある液体製剤(ただし、架橋可能なタンパク質またはポリペプチド
を含有するもの、ならびにグルコースオキシダーゼおよび
/またはα-グルコシダーゼを含有
するものを除く)の製造方法。
【請求項6】
グリシンの含有量が10重量%以上である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
液体製剤のpHを4~7とすることを含む、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
トランスグルタミナーゼをグリシンとともに溶媒に添加して溶解することを含む、トランスグルタミナーゼが安定化された液体製剤の製造方法であって、トランスグルタミナーゼが微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼであり、グリシンの含有量が2重量%以上で
ある液体製剤(ただし、架橋可能なタンパク質またはポリペプチド
を含有するもの、ならびにグルコースオキシダーゼおよび
/またはα-グルコシダーゼを含有
するものを除く)の製造方法。
【請求項9】
トランスグルタミナーゼを含有
する液体製剤(ただし、グルコースオキシダーゼおよび
/またはα-グルコシダーゼを含有
するものを除く)に、グリシンをその含有量が5重量%以上となるように添加することを含む、液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定化方法であって、トランスグルタミナーゼが微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼである、安定化方法。
【請求項10】
グリシンの含有量が10重量%以上となるように添加する、請求項9に記載の安定化方法。
【請求項11】
液体製剤のpHを4~7とすることを含む、請求項9または10に記載の安定化方法。
【請求項12】
トランスグルタミナーゼを含有
する液体製剤(ただし、グルコースオキシダーゼおよび
/またはα-グルコシダーゼを含有
するものを除く)に、グリシンをその含有量が2重量%以上となるように添加することを含む、液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定化方法であって、トランスグルタミナーゼが微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼである、安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤に関し、さらに詳しくは、トランスグルタミナーゼの安定性が向上した液体製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスグルタミナーゼは、タンパク質中のグルタミン残基のアミノ基と第1級アミンを縮合させ、アミン上の置換基をグルタミン残基に転移させてタンパク質の架橋を触媒する酵素であり、食肉の改質や加工等において汎用される。酵素の安定性の観点からは、トランスグルタミナーゼを含有する製剤は、粉末状、顆粒状等の固形状製剤として提供される。
しかし、トランスグルタミナーゼを基質に作用させる際には、適当な溶媒に溶解し、液状の製剤として用いることが多く、従来の固形状製剤では、使用に際し、溶媒に溶解する必要があるため、利便性に欠け、さらには、溶媒に溶解する際に微生物汚染を招く恐れがあるという問題があった。
【0003】
トランスグルタミナーゼを含有する液状の製剤としては、25重量%~100重量%のポリオールを含有し、4.4~5.1の範囲内のpH値を有するポリオール-水懸濁液にトランスグルタミナーゼを含有させた製剤(特許文献1)、トランスグルタミナーゼを水分活性調整剤、酸化還元電位制御剤、保存剤およびpH調整剤とともに溶解させた製剤(特許文献2)が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載された製剤では、ポリオール-水懸濁液のpHを4.4~5.1と非常に狭い範囲に制御することを要する。また、特許文献2に記載された製剤には、トランスグルタミナーゼの安定化を図るために相当種類の安定化剤の配合を要し、酵素製剤の利用の際に制限となることもあり得る。
【0004】
一方、トランスグルタミナーゼの凍結乾燥製剤において、糖または糖アルコールやアミノ酸を安定化剤として用いることが開示されている(特許文献3、4)。
しかし、特許文献3および4に記載された技術は、血液凝固第XIII因子であるトランスグルタミナーゼの凍結乾燥製剤に関するものであり、食品分野で使用されるトランスグルタミナーゼの液体製剤における安定化を図るものではない。
【0005】
それゆえ、食品分野で利用しやすく、かつ安定性の高いトランスグルタミナーゼの液体製剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-532421号公報
【文献】中国特許第105462950号
【文献】特許第3530300号公報
【文献】特許第6244079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤であって、トランスグルタミナーゼの安定性が向上し、かつ食品分野における利用が容易な液体製剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤に、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上を、これらの総含有量にして2重量%以上または5重量%以上の濃度で含有させることにより、液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]トランスグルタミナーゼと、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とを含有する液体製剤であって、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が5重量%以上である、液体製剤。
[2]トランスグルタミナーゼが微生物由来のトランスグルタミナーゼである、[1]に記載の液体製剤。
[3]グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が10重量%以上である、[1]または[2]に記載の液体製剤。
[4]有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩およびグルコン酸塩からなる群より選択される1種または2種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の液体製剤。
[5]グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩がそれぞれナトリウム塩である、[1]~[4]のいずれかに記載の液体製剤。
[6]液体製剤のpHが4~7である、[1]~[5]のいずれかに記載の液体製剤。
[7]トランスグルタミナーゼと、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とを含有する液体製剤であって、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が2重量%以上である、液体製剤。
[8]トランスグルタミナーゼを、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とともに、溶媒に添加して溶解することを含む液体製剤の製造方法であって、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が5重量%以上である、液体製剤の製造方法。
[9]トランスグルタミナーゼが微生物由来のトランスグルタミナーゼである、[8]に記載の製造方法。
[10]グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が10重量%以上である、[8]または[9]に記載の製造方法。
[11]有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩およびグルコン酸塩からなる群より選択される1種または2種以上である、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩がそれぞれナトリウム塩である、[8]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]液体製剤のpHを4~7とすることを含む、[8]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]トランスグルタミナーゼを、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とともに、溶媒に添加して溶解することを含む液体製剤の製造方法であって、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が2重量%以上である、液体製剤の製造方法。
[15]トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤に、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上を、これらの総含有量が5重量%以上となるように含有させることを含む、液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定化方法。
[16]トランスグルタミナーゼが微生物由来のトランスグルタミナーゼである、[15]に記載の安定化方法。
[17]グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量が10重量%以上となるように含有させる、[15]または[16]に記載の安定化方法。
[18]有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩およびグルコン酸塩からなる群より選択される1種または2種以上である、[15]~[17]のいずれかに記載の安定化方法。
[19]グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩がそれぞれナトリウム塩である、[15]~[18]のいずれかに記載の安定化方法。
[20]液体製剤のpHを4~7とすることを含む、[15]~[19]のいずれかに記載の安定化方法。
[21]トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤に、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上を、これらの総含有量が2重量%以上となるように含有させることを含む、液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定化方法。
[22][1]~[6]のいずれかに記載の液体製剤が添加された食品。
[23][7]に記載の液体製剤が添加された食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、トランスグルタミナーゼの安定性が向上したトランスグルタミナーゼの液体製剤を提供することができる。
本発明の液体製剤は、使用時にトランスグルタミナーゼを溶媒に溶解する必要がなく、利便性に優れ、さらに微生物汚染等の生じるおそれも少ない。また、食品分野における利用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1において、実施例1~5および比較例1の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図2】試験例2(1)において、実施例1-1~1-3および比較例2の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図3】試験例2(2)において、実施例2-1~2-4および比較例3の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図4】試験例2(3)において、実施例3-1~3-3および比較例4の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図5】試験例2(4)において、実施例4-1~4-4および比較例5の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図6】試験例3において、グリシン添加区とグリシン無添加区について、液体製剤のpHとトランスグルタミナーゼ活性との関係を示す図である。
【
図7】試験例4において、実施例6および比較例6-1、6-2の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図8】試験例4において、実施例7および比較例7-1、7-2の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【
図9】試験例4において、実施例8および比較例8-1、8-2の各液体製剤のトランスグルタミナーゼ活性の残存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、トランスグルタミナーゼを含有し、トランスグルタミナーゼの安定性が向上した液体製剤(以下、本明細書において「本発明の製剤」とも称する)を提供する。
【0013】
本発明の製剤は、トランスグルタミナーゼとともに、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上を、5重量%以上の濃度で含有する。
また、他の態様において、本発明の製剤は、トランスグルタミナーゼとともに、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上を、2重量%以上の濃度で含有する。
【0014】
トランスグルタミナーゼ(タンパク質-グルタミンγ-グルタミルトランスフェラーゼ)は、タンパク質中のグルタミン残基のアミノ基と第1級アミンを縮合させ、アミン上の置換基をグルタミン残基に転移させて、アンモニアが生成する反応を触媒する転移酵素であり、通常は第1級アミンとしてタンパク質中のリジン残基のアミノ基が用いられ、架橋酵素として作用する。
従って、トランスグルタミナーゼは、魚肉、畜肉等の食肉の改質、加工等において好ましく用いられる。
【0015】
トランスグルタミナーゼとしては、微生物より得られるカルシウム非依存性のものが好ましく用いられる。
微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼとしては、ストレプトマイセス属に属する放線菌により産生されるトランスグルタミナーゼが挙げられ、特許第2572716号公報に記載された方法等に従って得ることができるが、味の素株式会社等から提供されている「アクティバTG-K」、「アクティバTG-S」等、市販の製品を用いることもできる。
本発明の製剤におけるトランスグルタミナーゼの含有量は、本発明の製剤1gあたり1U(ユニット)~1,000Uが好ましく、10U~350Uがより好ましい。
なお、トランスグルタミナーゼの酵素活性については、たとえば、ヒドロキサメート法により測定し、算出することができる。すなわち、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行わせ、トリクロロ酢酸存在下で、前記反応で生成したヒドロキサム酸の鉄錯体を形成させた後、525nmの吸光度を測定して、ヒドロキサム酸の生成量を検量線より求めることにより、酵素活性を算出することができる。本明細書では、37℃、pH=6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を、1Uと定義した(特開昭64-027471号公報参照)。
【0016】
本発明の製剤において、トランスグルタミナーゼとともに含有されるグリシンは、2-アミノ酢酸であり、タンパク質を構成するアミノ酸の中で最も単純な構造を有し、非極性側鎖アミノ酸に分類される。
プロリンは、ピロリジン-2-カルボン酸であり、環状アミノ酸である。
セリンは、2-アミノ-3-ヒドロキシプロピオン酸であり、極性無電荷側鎖アミノ酸に分類されるヒドロキシアミノ酸である。
本発明の製剤には、グリシン、プロリンおよびセリンは、それぞれ遊離体の形態で含有される。
また、グルタミン酸塩は、酸性極性側鎖アミノ酸に分類される2-アミノペンタン二酸の塩である。
アスパラギン酸塩は、酸性極性側鎖アミノ酸に分類される2-アミノブタン二酸の塩である。
プロリン、セリン、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩は、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用できるが、好ましくは、L-体およびDL-体であり、さらに好ましくは、L-体である。
【0017】
本発明の製剤において、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩としては、具体的には無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸との塩およびアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0018】
無機塩基との塩としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、たとえばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩、モルホリン、ピペリジン等の複素環式アミンとの塩等が挙げられる。
無機酸との塩としては、たとえば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩等が挙げられる。
有機酸との塩としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロパン酸等のモノカルボン酸との塩;シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸等の飽和ジカルボン酸との塩;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸との塩;クエン酸等のトリカルボン酸との塩;α-ケトグルタル酸等のケト酸との塩等が挙げられる。
アミノ酸との塩としては、グリシン、アラニン等の脂肪族アミノ酸との塩;フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸との塩;リジン等の塩基性アミノ酸との塩;ピログルタミン酸等のラクタムを形成したアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0019】
本発明の製剤における溶解性およびトランスグルタミナーゼの安定化効果の観点からは、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩としては、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましく用いられる。
本発明の製剤においては、上記したグルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩として、正塩のみならず酸性塩(水素塩)も好適に用いられ、また、これらの水和物も用いることができる。
なお、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩として、これらの水和物を用いた場合には、本発明の製剤中のグルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩の各含有量は、それぞれ無水和物に換算した含有量で表される。
【0020】
本発明においては、上記したグリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩としては、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、あるいは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法等によって得られるもののいずれを使用してもよいが、各社より提供されている市販の製品を利用してもよい。
【0021】
本発明の製剤において、トランスグルタミナーゼとともに含有される有機酸塩は、有機化合物の酸の塩であって、液体製剤に溶解させることができ、可食性で食品に利用できるものであれば、特に制限なく用いることができるが、ギ酸、酢酸、プロパン酸等の飽和モノカルボン酸の塩;ソルビン酸等の不飽和モノカルボン酸の塩;グリコール酸、乳酸、グリセリン酸等のヒドロキシモノカルボン酸の塩;シュウ酸、マロン酸、コハク酸等の飽和ジカルボン酸の塩;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸の塩;リンゴ酸、酒石酸等のヒドロキシジカルボン酸の塩;クエン酸、イソクエン酸等のヒドロキシトリカルボン酸の塩;ピルビン酸、オキサロ酢酸、α-ケトグルタル酸等のケト酸の塩、グルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸等の炭素数が5~6程度のアルドン酸の塩;グルカル酸、ガラクタル酸、マンナル酸等の炭素数が5~6程度のアルダル酸の塩;フルクツロン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸等の炭素数が5~6程度のウロン酸の塩等が好ましく用いられ、酢酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩がより好ましく用いられる。
なお、酢酸塩、クエン酸塩等は、後述する緩衝剤として機能する点でも好ましい。
【0022】
上記有機酸の塩としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩;たとえばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩、モルホリン、ピペリジン等の複素環式アミンとの塩等の有機塩基との塩が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましく用いられ、ナトリウム塩がより好ましく用いられる。
本発明の製剤においては、上記した有機酸塩として、正塩のみならず酸性塩(水素塩)も好適に用いられ、これらの水和物も用いることができる。
なお、有機酸塩として、水和物を用いた場合には、本発明の製剤中の有機酸塩の含有量は、無水和物に換算した含有量で表される。
【0023】
本発明においては、上記した有機酸塩としては、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、あるいは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法等によって得られるもののいずれを使用してもよいが、各社より提供されている市販の製品を利用してもよい。
【0024】
本発明の製剤には、上記したグリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より、1種または2種以上を選択して用いることができる。
本発明の製剤には、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上は、これらの総含有量として5重量%以上含有され、好ましくは10重量%以上含有される。
また、本発明の他の態様において、本発明の製剤には、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上は、これらの総含有量として2重量%以上含有される。
一方、本発明の製剤におけるグリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量は、通常20重量%以下である。前記アミノ酸等の総含有量が20重量%を超えると、トランスグルタミナーゼの安定化効果がプラトーとなり、アミノ酸等の含有量に見合う効果が見込めないため、経済的でないからである。
【0025】
本発明の製剤は、トランスグルタミナーゼと、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とを溶媒に溶解した液体製剤である。
ここで、「液体製剤」とは、室温で溶液の形態である製剤をいい、粘性を有する液体の形態である製剤も含まれる。
なお、「室温」とは、第十七改正日本薬局方通則に定義される室温、すなわち1℃~30℃をいう。
トランスグルタミナーゼおよび上記アミノ酸等を溶解する溶媒としては、精製水、脱イオン水、水道水等の食品製造用水として適する水が好ましく用いられる。また、後述するように、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液を溶媒として用いることもできる。
【0026】
本発明において、トランスグルタミナーゼの安定性の観点からは、本発明の製剤のpHが4~7であることが好ましく、4~6であることがより好ましく、5~6であることがさらに好ましい。
なお、本発明の製剤のpHは、通常のガラス電極法により、20℃にて測定される。
本発明の製剤のpHは、pH調整剤もしくは緩衝剤を用いて調整することができる。pH調整剤もしくは緩衝剤としては、トランスグルタミナーゼと上記アミノ酸等とを含有する溶液のpHを所望の範囲に調整することができ、可食性のものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が例示される。
これらの中でも、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が好ましく用いられる。
また、本発明の製剤は、pHが4~7に調整されたクエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等を溶媒として用いて、調製することもできる。かかる緩衝液における各種緩衝剤の濃度は、0.01M~1M程度とすることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の製剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、増粘安定剤(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、保存料(安息香酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、エリソルビン酸等)等の食品添加物を含有させることができる。
【0028】
本発明の製剤は、トランスグルタミナーゼと、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とを、必要に応じてpH調整剤もしくは緩衝剤や、他の食品添加物とともに水等の溶媒に添加して、混合、溶解して製造することができる。
また、本発明の製剤は、トランスグルタミナーゼと、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とを、必要に応じて他の食品添加物とともに、pHが好ましくは4~7に調整された緩衝液に添加し、混合、溶解して製造することもできる。
【0029】
本発明の製剤においては、トランスグルタミナーゼの安定性が向上し、通常の保存条件(たとえば冷蔵保存等)で長期間保存することができる。
従って、使用時に溶媒に溶解する必要がないため利便性が高く、また、溶媒に溶解する操作の際に、微生物汚染等が生じるおそれも低減される。
【0030】
本発明はまた、トランスグルタミナーゼを含有する安定な液体製剤の製造方法(以下、本明細書にて「本発明の製造方法」とも称する)を提供する。
【0031】
本発明の製造方法は、トランスグルタミナーゼを、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上とともに、溶媒に添加して溶解することを含む。
本発明の製造方法において、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の液体製剤における総含有量は、5重量%以上であり、10重量%以上であることが好ましい。
また、本発明の製造方法の他の態様において、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の液体製剤における総含有量は、2重量%以上である。
一方、上記アミノ酸等の総含有量が20重量%を超えると、トランスグルタミナーゼの安定化効果がプラトーとなるため、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の液体製剤における総含有量は、通常20重量%以下である。
トランスグルタミナーゼ、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩、ならびにこれらを溶解する溶媒については、本発明の製剤について、上記した通りである。
【0032】
本発明の製造方法においては、pH調整剤もしくは緩衝剤を用いることにより、または緩衝液を溶媒として用いることにより、液体製剤のpHは、好ましくは4~7に制御され、より好ましくは4~6に制御され、さらに好ましくは5~6に制御される。
pH調整剤もしくは緩衝剤および緩衝液、ならびにpHの測定方法については、本発明の製剤について、上記した通りである。
【0033】
本発明の製造方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、pH調整剤もしくは緩衝剤の他の食品添加物、たとえば増粘安定剤、保存料、酸化防止剤等を添加することもできる。
かかる他の食品添加物についても、上記した通りである。
【0034】
本発明の製造方法により、トランスグルタミナーゼが安定化され、通常の保存条件(たとえば冷蔵保存等)で長期間の保存が可能で、使用時に溶媒に溶解する必要のない利便性の高い液体製剤を提供することができる。
【0035】
さらに、本発明は、液体製剤におけるトランスグルタミナーゼの安定化方法(以下、本明細書において「本発明の安定化方法」とも称する)を提供する。
【0036】
本発明の安定化方法は、トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤に、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上を、これらの総含有量が5重量%以上となるように含有させることを含む。
本発明の安定化方法において、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量は、好ましくは10重量%以上である。
また、本発明の安定化方法の他の態様において、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の総含有量は、2重量%以上である。
なお、上記アミノ酸等の総含有量が20重量%を超えると、トランスグルタミナーゼの安定化効果がプラトーとなるため、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩からなる群より選択される1種または2種以上の液体製剤における総含有量は、通常20重量%以下である。
トランスグルタミナーゼ、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩および有機酸塩、ならびに、液体製剤に用いられる溶媒については、本発明の製剤について、上記した通りである。
【0037】
本発明の安定化方法においては、pH調整剤もしくは緩衝剤を用いることにより、または緩衝液を溶媒として用いることにより、トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤のpHが、好ましくは4~7に制御され、より好ましくは4~6に制御され、さらに好ましくは5~6に制御される。
pH調整剤もしくは緩衝剤および緩衝液、ならびにpHの測定方法については、本発明の製剤について、上記した通りである。
【0038】
本発明の安定化方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、pH調整剤もしくは緩衝剤の他の食品添加物、たとえば増粘安定剤、保存料、酸化防止剤等を添加することもできる。
かかる他の食品添加物についても、本発明の製剤について、上記した通りである。
【0039】
本発明の安定化方法により、液体製剤中のトランスグルタミナーゼが安定化されるため、通常の保存条件(たとえば冷蔵保存等)で長期間保存することができ、使用時に溶媒に溶解する必要のない利便性の高い液体製剤を提供することができる。
【0040】
さらに、本発明は、本発明の製剤を添加した食品(以下、本明細書において「本発明の食品」とも称する)を提供する。
本発明の食品としては、好ましくは、畜肉加工食品(例えば、ハム、ベーコン等の塩漬けした食肉の加工品;ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、シュウマイ、ギョーザ、肉まん、つくね、メンチカツ等の畜肉練り製品等)、水産加工食品(例えば、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、さつま揚げ、ハンペン、つみれ、エビ団子等)、米飯食品(例えば、炊飯白米、赤飯、ピラフ、炊き込みご飯、粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当、米麺等)、麺類(例えば、うどん、パスタ、日本そば、中華麺、焼きそば、フライ工程や乾燥工程を経る即席めん等の麺類、餃子や焼売の皮等)、穀粉(例えば、小麦粉、大麦粉、とうもろこし粉、そば粉、ライ麦粉、オート麦粉、キビ粉、エンドウ豆粉、大豆粉等)およびその加工食品、乳製品(ヨーグルト、チーズ、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、練乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料等)、豆腐類(例えば絹ごし豆腐、木綿豆腐、ソフト豆腐、充填豆腐等)およびその加工品(例えば、豆腐生揚げ、絹生揚げ、焼き豆腐、油揚げ(厚揚げ、薄油揚、寿司揚等);豆乳、豆腐生地、分離大豆タンパク等を原料とした豆腐練り製品(がんもどき、豆腐竹輪、豆腐蒲鉾等);高野豆腐;豆乳・豆腐デザート類(豆乳プリン、豆乳ゼリー、豆乳ヨーグルト等))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明の食品における本発明の製剤の添加量は、本発明の食品の形態、食品に含有される原材料の種類、加工手段等に応じて適宜設定され得るが、食品1gあたりのトランスグルタミナーゼの力価が0.00001U~1000Uとなるように添加されることが好ましく、0.0001U~100Uとなるように添加されることがより好ましく、0.001U~10Uとなるように添加されることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の食品は、食肉等の食品素材および本発明の製剤に、必要に応じて一般的な食品添加物を加え、一般的な食品の製造方法に従って、製造することができる。
【0043】
本発明により、安定化されたトランスグルタミナーゼが食肉等の食品素材に作用して、食感が改善された食品を提供することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0045】
[実施例1~5、比較例1]トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)17.6重量%を、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸ナトリウムおよびアスパラギン酸ナトリウム各10重量%とともに、それぞれ0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)72.4重量%に溶解し、実施例1~5の液体製剤とした。
一方、同量の上記トランスグルタミナーゼをリジン塩酸塩10重量%とともに0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)72.4重量%に溶解し、比較例1の液体製剤とした。
【0046】
[試験例1]トランスグルタミナーゼの安定化効果の評価
上記実施例1~5および比較例1の各液体製剤におけるトランスグルタミナーゼの安定性について、以下の通り、高温保存による加速試験により評価した。
実施例1~5および比較例1の各液体製剤を4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定した。
なお、トランスグルタミナーゼのみをリン酸緩衝液に溶解させた液体製剤を対照とし、同様に処理した。
各液体製剤中におけるトランスグルタミナーゼの安定性は、それぞれ44℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性について、4℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性に対する残存率(%)にて、表1および
図1に示した。
【0047】
【0048】
表1および
図1に示されるように、対照におけるトランスグルタミナーゼの活性残存率は、62%であった。
これに対し、本発明の実施例1~5の液体製剤では、90%前後の高いトランスグルタミナーゼ活性残存率が認められた。
一方、比較例1の液体製剤では、トランスグルタミナーゼの活性残存率は66%であり、対照と同程度であった。
【0049】
試験例1の上記結果から、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン酸ナトリウムおよびアスパラギン酸ナトリウムのそれぞれが、液体製剤中のトランスグルタミナーゼの安定化効果を有することが確認された。
一方、上記以外のアミノ酸の塩である塩酸リジンについては、トランスグルタミナーゼの安定化効果は認められなかった。
【0050】
[試験例2]アミノ酸またはアミノ酸塩の含有量がトランスグルタミナーゼ安定化効果に及ぼす影響の検討
以下の通り、液体製剤中のアミノ酸またはアミノ酸塩の含有量が、トランスグルタミナーゼの安定性に及ぼす影響について、高温保存による加速試験により評価した。
【0051】
(1)グリシンの含有量について
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)17.6重量%、安息香酸ナトリウム0.1重量%を含有する0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)に、グリシンを5重量%、10重量%および20重量%となるように添加して溶解し、0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)で全量を100重量%として液体製剤を調製し、それぞれ実施例1-1、1-2および1-3とした。
また、グリシンの含有量を1重量%として同様に調製した液体製剤を比較例2とした。
実施例1-1~1-3および比較例2の各液体製剤を4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定した。なお、グリシンを添加せずに同様に調製した液体製剤を対照として、同様に処理した。
各液体製剤を44℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性について、4℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性に対する残存率(%)にて、
図2に示した。
【0052】
図2に示されるように、グリシンを5重量%、10重量%および20重量%の各濃度で含有する実施例1-1~1-3の各液体製剤においては、対照に比べて高いトランスグルタミナーゼの活性残存率が認められた。
一方、グリシンの含有量が1重量%である比較例2の液体製剤では、トランスグルタミナーゼの活性残存率は、対照と同程度であった。
【0053】
(2)プロリンの含有量について
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)17.6重量%、安息香酸ナトリウム0.1重量%を含有する0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)に、プロリンを5重量%、10重量%、20重量%および30重量%となるように添加して溶解し、0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)で全量を100重量%として液体製剤を調製し、それぞれ実施例2-1、2-2、2-3および2-4とした。
また、プロリンの含有量を1重量%として同様に調製した液体製剤を比較例3とした。
実施例2-1~2-4および比較例3の各液体製剤を4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定した。なお、プロリンを添加せずに同様に調製した液体製剤を対照として、同様に処理した。
各液体製剤を44℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性について、4℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性に対する残存率(%)にて、
図3に示した。
【0054】
図3に示されるように、プロリンを5重量%、10重量%、20重量%および30重量%の各濃度で含有する実施例2-1~2-4の各液体製剤においては、対照に比べて高いトランスグルタミナーゼの活性残存率が認められた。なお、プロリンの含有量が30重量%である実施例2-4の液体製剤におけるトランスグルタミナーゼの活性残存率は、プロリンの含有量が20重量%である実施例2-3の液体製剤における活性残存率と大差なく、プロリン含有量が20重量%を超えると、トランスグルタミナーゼ活性の安定化効果はプラトーとなることが示唆された。
一方、プロリンの含有量が1重量%である比較例3の液体製剤では、トランスグルタミナーゼの活性残存率は、対照と同程度であった。
【0055】
(3)セリンの含有量について
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)17.6重量%、安息香酸ナトリウム0.1重量%を含有する0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)に、セリンを5重量%、10重量%および20重量%となるように添加して溶解し、0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)で全量を100重量%として液体製剤を調製し、それぞれ実施例3-1、3-2および3-3とした。
また、セリンの含有量を1重量%として同様に調製した液体製剤を比較例4とした。
実施例3-1~3-3および比較例4の各液体製剤を4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定した。なお、セリンを添加せずに同様に調製した液体製剤を対照として、同様に処理した。
各液体製剤を44℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性について、4℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性に対する残存率(%)にて、
図4に示した。
【0056】
図4に示されるように、セリンを5重量%、10重量%および20重量%の各濃度で含有する実施例3-1~3-3の各液体製剤においては、対照に比べて高いトランスグルタミナーゼの活性残存率が認められた。
一方、セリンの含有量が1重量%である比較例4の液体製剤では、トランスグルタミナーゼの活性残存率は、対照と同程度であった。
【0057】
(4)グルタミン酸ナトリウムの含有量について
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)17.6重量%、安息香酸ナトリウム0.1重量%を含有する0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)に、グルタミン酸ナトリウムを5重量%、10重量%、20重量%および30重量%となるように添加して溶解し、0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)で全量を100重量%として液体製剤を調製し、それぞれ実施例4-1、4-2、4-3および4-4とした。
また、グルタミン酸ナトリウムの含有量を1重量%として同様に調製した液体製剤を比較例5とした。
実施例4-1~4-4および比較例5の各液体製剤を4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定した。なお、グルタミン酸ナトリウムを添加せずに同様に調製した液体製剤を対照として、同様に処理した。
各液体製剤を44℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性について、4℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性に対する残存率(%)にて、
図5に示した。
【0058】
図5に示されるように、グルタミン酸ナトリウムを5重量%、10重量%、20重量%および30重量%の各濃度で含有する実施例4-1~4-4の各液体製剤においては、対照に比べて高いトランスグルタミナーゼの活性残存率が認められた。なお、グルタミン酸ナトリウムの含有量が30重量%である実施例4-4の液体製剤におけるトランスグルタミナーゼの活性残存率は、グルタミン酸ナトリウムの含有量が20重量%である実施例4-3の液体製剤における活性残存率と大差なく、グルタミン酸ナトリウム含有量が20重量%を超えると、トランスグルタミナーゼ活性の安定化効果はプラトーとなることが示唆された。
一方、グルタミン酸ナトリウムの含有量が1重量%である比較例5の液体製剤では、トランスグルタミナーゼの活性残存率は、対照と同程度であった。
【0059】
上記試験例2の結果から、液体製剤におけるグリシン、プロリン、セリンおよびグルタミン酸ナトリウムの各含有量が5重量%以上である場合に、トランスグルタミナーゼの安定化効果が認められ、グリシン、プロリン、セリンおよびグルタミン酸ナトリウムの各含有量が10重量%以上であると、より良好な安定化効果が得られることが示された。
また、グリシン、プロリン、セリンおよびグルタミン酸ナトリウムの各含有量が20重量%を超えると、トランスグルタミナーゼの安定化効果はプラトーとなることが示唆された。
【0060】
[試験例3]トランスグルタミナーゼの安定化に対する液体製剤のpHの影響の検討
以下の通り、液体製剤のpHが、トランスグルタミナーゼの安定化に及ぼす影響を、高温保存による加速試験により評価した。
グリシン添加区として、表2に示す液体製剤の処方に従い、微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)とグリシン10重量%を含有する試料を調製した。
また、グリシン添加区の各試料において、グリシンを各緩衝液で代替し、グリシン無添加区の各試料とした。
グリシン添加区およびグリシン無添加区の各試料を、4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定し、結果を
図6に示した。
【0061】
【0062】
図6に示されるように、pHが4~6の液体製剤において、グリシンを添加した試料では、グリシンを添加しない試料に比べて、トランスグルタミナーゼ活性が高いことが認められた。
また、グリシンを含有する試料では、液体製剤のpHが5~6である場合において、トランスグルタミナーゼ活性が特に高いことが認められた。
【0063】
試験例3の上記結果から、本発明の製剤のpHが4~6である場合に、良好なトランスグルタミナーゼの安定化効果が認められ、液体製剤のpHが5~6である場合には、トランスグルタミナーゼ活性はより高く維持されることが示唆された。
【0064】
[実施例6~8、比較例6-1~8-2]トランスグルタミナーゼを含有する液体製剤
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(1,000U/g、「アクティバTG」、味の素株式会社)17.6重量%を、酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム各10重量%とともに、それぞれ0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)72.4重量%に溶解し、実施例6~8の液体製剤とした。
また、酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムの各含有量を、それぞれ1重量%および0.1重量%として、上記各実施例と同様に調製し、比較例6-1~8-2の液体製剤とした。
【0065】
[試験例4]トランスグルタミナーゼの安定化効果の評価
上記実施例6~8および比較例6-1~8-2の各液体製剤におけるトランスグルタミナーゼの安定性について、以下の通り、高温保存による加速試験により評価した。
実施例6~8および比較例6-1~8-2の各液体製剤を4℃および44℃で24時間保存し、各液体製剤中のトランスグルタミナーゼ活性を、上記したヒドロキサメート法により測定した。
なお、トランスグルタミナーゼのみをリン酸緩衝液に溶解させた液体製剤を対照とし、同様に処理した。
各液体製剤中におけるトランスグルタミナーゼの安定性は、それぞれ44℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性について、4℃で保存した場合のトランスグルタミナーゼ活性に対する残存率(%)にて、
図7~9に示した。
【0066】
図7~9に示されるように、酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムをそれぞれ10重量%含有する実施例6~8の各液体製剤では、対照に比べて、トランスグルタミナーゼの活性残存率が明らかに向上した。
しかし、酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムの各含有量がそれぞれ1重量%である比較例6-1、7-1および8-1、ならびに、酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムの各含有量がそれぞれ0.1重量%である比較例6-2、7-2および8-2の各液体製剤では、トランスグルタミナーゼの活性残存率は対照と同程度であった。
【0067】
試験例4の上記結果から、有機酸塩である酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムによっても、トランスグルタミナーゼが安定化されること、ならびに、液体製剤における前記有機酸塩の含有量が10重量%である場合に、トランスグルタミナーゼが良好に安定化されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上、詳述したように、本発明により、トランスグルタミナーゼの安定性が向上したトランスグルタミナーゼの液体製剤を提供することができる。
本発明の液体製剤は、使用時にトランスグルタミナーゼを溶媒に溶解する必要がなく、利便性に優れ、さらに微生物汚染等の生じるおそれも少ない。また、食品分野における利用に適する。
また、本発明により、上記した本発明の液体製剤を添加し、安定性の向上したトランスグルタミナーゼが作用した食肉等の食品素材を含有する食品を提供することができる。
【0069】
本願は、日本国で出願された特願2018-057185を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。