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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】導電性シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240611BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240611BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240611BHJP
   D06M 11/74 20060101ALI20240611BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240611BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 50/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B9/00 A
B32B5/02 Z
D06M11/74
D06M15/643
D06M15/263
A61K50/00 100
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020515783
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010726
(87)【国際公開番号】W WO2020189479
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019050790
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019050791
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智博
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-050990(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207586(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062030(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/124216(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/103186(WO,A1)
【文献】特開2018-188788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
D06M13/00-15/715
D06M10/00-11/84;16/00-16/00;19/00-23/18
A61N1/00-1/44
A61B5/05-5/0538;5/24-5/398
A61K9/00-9/72;47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する導電性基材層と、一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含むポリマーをゲル骨格とするシリコーンハイドロゲルからなり、かつ表面タック力が1N以上30N以下であり、前記ハイドロゲル層の乾燥時における引張弾性率が0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内であるハイドロゲル層と、を有する導電性シート:
【化1】
一般式(I)中、Raは水素またはメチル基を表し、Rbは炭素数1~15の範囲内の有機基を表し、nは1~40の範囲内の整数を表す。
【請求項2】
前記シリコーンハイドロゲルが、前記一般式(I)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位(A)を、乾燥時の全重量に対して10重量%以上70重量%以下の範囲内で含む、請求項1に記載の導電性シート。
【請求項3】
前記繰り返し単位(A)を含むポリマーが、単官能シリコーンモノマーに由来する繰り返し単位(B)を、乾燥時の全重量に対して10重量%以上70重量%以下の範囲内でさらに含む、請求項1または2に記載の導電性シート。
【請求項4】
前記繰り返し単位(A)を含むポリマーが、アミド構造を含むモノマーに由来する繰り返し単位(C)を、乾燥時の全重量に対して10重量%以上50重量%以下の範囲内でさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項5】
0.1Hz~1000Hzにおける導電性基材層のインピーダンスが10-3Ω以上10Ω以下である、請求項1~のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項6】
前記導電性基材層が前記ハイドロゲル層中に埋設されている、請求項1~のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項7】
前記導電性基材層が、導電性材料で被覆した、織物、編物、レースおよび不織布からなる群より選択される繊維構造体を含む、請求項1~のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項8】
前記導電性基材層が、グラフェンを含む繊維を含む繊維構造体である、請求項1~のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項9】
前記導電性基材層が、グラフェンで被覆された繊維を含む繊維構造体である、請求項に記載の導電性シート。
【請求項10】
導電性基材層と、一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含むポリマーをゲル骨格とするシリコーンハイドロゲルからなるハイドロゲル層とを有する導電性シートの製造方法であって;
工程(ii)導電性基材層に、一般式(I)で表されるモノマーを含むシリコーンハイドロゲルの重合原液を接触させる工程;および
工程(iii)前記シリコーンハイドロゲルを重合する工程;
を有する、請求項1~のいずれかに記載の導電性シートの製造方法。
【請求項11】
前記工程(ii)の前に、
工程(i)繊維構造体をグラフェンで被覆して導電性基材層を得る工程;
を有する請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(i)において、酸化グラフェンの分散液によって繊維構造体を被覆した後に、還元処理を行うことにより導電性基材層を得る、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極として用いられる導電性シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象に電極として導電性シートを接着し、電気的に情報を取得する技術が知られている。例えば、医療や健康増進を目的として、心電、筋電、脳波等を電気的に取得する装置における生体との接点に、導電性シートからなる電極が用いられている。同様の原理で、コンクリートや木材、金属材、樹脂等の材料の電気化学的応答を測定する際にも、測定装置と測定対象との接点に導電性シートが用いられている。また、電気刺激によって筋肉を収縮させる運動器具においても、生体との接点に導電性シートが用いられている。さらに、生体からの静電気除去や精密機器の帯電防止等のための部材としても、導電性シートが用いられている。
【0003】
このような導電性シートには、適用対象への接着性を確保するために粘着材が付与されることがある。例えば、特許文献1には、電極上にハイドロゲルを配設するか、または電極をハイドロゲル中に埋設してなるシート状の生体用電極が記載されている。また、シート状電極として、例えば特許文献2には、再スタッキングが抑制された還元型酸化グラフェンを繊維に固定することができる導電性繊維の製造方法、および、再スタッキングが抑制された還元型酸化グラフェンを、シート状に成型された繊維群に固定することができるシート状電極の製造方法が記載されている。
【0004】
かかる用途に用いる導電性シートには、蒸れやかぶれを生じにくく長時間安定して皮膚に接着して使用可能であることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/157550号
【文献】特開2015-221947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシート状電極においては、含水率の高いハイドロゲルを用いることで柔軟性を確保することが意図されており、ハイドロゲルの含水率は60重量%以上が好ましい旨が記載されている。しかし、このような含水率の高いハイドロゲルは、長時間使用すると乾燥して大きく収縮・硬化し、接着性と柔軟性が損なわれやすい問題があった。また、特許文献2のシート状電極は、皮膚に対する接着性が全く無いために例えば生体表面に接着して用いることができない課題があった。
【0007】
本発明は、長時間の使用をした場合においても接着性と柔軟性を保つことができ、かつ高い生体適合性も得られる導電性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意努力を重ね、次の構成を有する導電性シートが有用であることを見出した。
【0009】
本発明は、導電性基材層と、後述する一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含むポリマーをゲル骨格とするシリコーンハイドロゲルからなるハイドロゲル層と、を有する導電性シートである。
【0010】
また、本発明の製造方法は、導電性基材層と、一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含むポリマーをゲル骨格とするシリコーンハイドロゲルからなるハイドロゲル層とを有する導電性シートの製造方法であって;
工程(ii)導電性基材層に、一般式(I)で表されるモノマーを含むシリコーンハイドロゲルの重合原液を接触させる工程;および
工程(iii)前記シリコーンハイドロゲルを重合する工程;
を有する導電性シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性シートは、長時間接着性と柔軟性を保つことができ、かつ生体適合性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<導電性基材層>
本発明において、導電性基材層としては、それ自体が導電性を有する導電性材料からなる構造体、非導電性の材料に炭素材料や金属粒子等の導電性材料を混合することで導電性を発現させた材料からなる構造体、樹脂等の非導電性材料からなる構造体を導電性材料で被覆した構造体等が選択できる。
【0013】
導電性材料としては、金属または炭素が挙げられる。金属の具体例としては、金、銀、ステンレス、チタン、銅、黄銅、青銅、タンタル、ジルコニウム、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。耐腐食性と経済性に優れる点でステンレスまたはアルミニウムがより好ましく、アルミニウムがさらに好ましい。
【0014】
非導電性の材料に導電性材料を混合することで導電性を発現させた材料としては、樹脂に炭素材料を混練した材料が好ましい例として挙げられる。樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリクロロトリフルオロエチレンから選ばれた樹脂を用いることが好ましい。柔軟性に優れる点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコールおよびポリイミドから選ばれた樹脂がより好ましく、ポリエステルまたはポリイミドがさらに好ましい。炭素材料としては、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブおよびフラーレンから選ばれた材料を用いることが好ましい。導電性の得やすさの点から、カーボンブラック、グラフェンおよびカーボンナノチューブから選ばれた材料がより好ましく、グラフェンまたはカーボンナノチューブがさらに好ましい。
【0015】
非導電性材料からなる構造体を導電性材料で被覆した構造体を用いる場合、非導電性材料としては上記同様の樹脂が挙げられる。また、構造体を被覆する導電性材料としては、有機系導電性材料、無機系導電性材料および炭素系導電性材料が挙げられる。有機系導電性材料としては、高分子系導電性材料が代表的である。具体的にはポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンなどが挙げられる。これらの中では、調製の容易さの点から、ポリアニリン、ポリピロールおよびポリチオフェンから選ばれた材料が好ましく、ポリアニリンまたはポリチオフェンがより好ましく、ポリチオフェンが最も好ましい。特に、取扱性と導電性に優れる点から、ポリチオフェンとしてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(略称PEDOT:PSS)を用いることが好ましい。無機系導電性材料としては、金、銀、ITO、ATO、酸化チタン、銅、ニッケル、鉄、アルミニウムなどが挙げられる。炭素系導電性材料としては、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。被覆性に優れる点で、グラフェンまたはカーボンナノチューブがより好ましい。特にグラフェンは分散液の調製が容易であるために好ましい。
【0016】
生体に適用する場合、導電性基材層は、蒸れを抑制し、かぶれを防ぐために、通気性を有することが好ましい。ここで、本明細書において「通気性を有する」とは、フラジ-ル法による通気度が0.2cm/cm・s以上であることを指すものとする。通気度は、JIS L1096(2010)に記載の通気性A法(フラジール形法)の通気度Q〔cm/cm・s〕として測定、算出される値である。導電性基材層の通気度は0.2cm/cm・s以上であれば、蒸れ感を感じにくいが、0.5cm/cm・s以上がより好ましく、0.8cm/cm・s以上がさらに好ましい。通気度の上限は特に限定されないが、一般的には800cm/cm・s以下が好ましく、700cm/cm・s以下がより好ましく、600cm/cm・s以下がさらに好ましい。
【0017】
通気性を有する導電性基材層を構成する構造体としては、パンチングしたフィルム、繊維構造体および発泡体が挙げられる。柔軟性の点で、パンチングしたフィルムまたは繊維構造体が好ましい。
【0018】
導電性基材層は、可撓性を有することが好ましい。本明細書において「可撓性を有する」とは、最小曲げ半径が12μm以上30mm以下であることを言う。最小曲げ半径が30mm以下であれば、例えば変形の大きな関節部周辺においても実用的な追従性を有する。一方、最小曲げ半径が12μm以上であれば、引張や屈曲時に導電性基材層が破損しにくい。ここで、最小曲げ半径とは、基材を180度曲げた際に基材が不可逆な破損をせずに曲げることができる最小の曲率半径を指す。ここで、不可逆な破損とは、破断、ひび割れ、反り、折り目がつく等の状態を指す。導電性基材層の可撓性が不足すると、導電性シートの変形が人体の可動部に追従しきれず、体表面から脱離する原因となるばかりか、ハイドロゲル層と導電性基材層の剥離による破損を招くことがある。導電性シートをコンクリート製の複雑な形状の物体に接着して用いる場合も同様である。導電性基材層の最小曲げ半径は20mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。また、最小曲げ半径は20μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0019】
導電性基材層の厚さは、可撓性と破損しにくさを考慮して選択される。導電性基材層の厚さは10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。また、導電性基材層の厚さは1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。導電性基材層の厚さが10mm以下であれば、接着対象に追従させやすく、1μm以上であれば引張や屈曲時に導電性基材層が破損しにくい。
【0020】
特に好ましい態様としては、優れた通気性により蒸れやかぶれを抑制し、柔軟な導電性基材層が得られる点で、導電性基材層として、導電性材料を混合した繊維構造体または導電性材料で被覆された繊維構造体を用いる態様が挙げられる。特に、導電性基材層として、グラフェンを含む繊維を含む繊維構造体を用いる態様が好ましい。
【0021】
ここで、グラフェンを含む繊維を含む繊維構造体について説明する。グラフェンは繊維中に混合されていてもよく、繊維表面に被覆されていてもよい。より導電性に優れる点で、繊維表面にグラフェンが被覆された繊維構造体がより好ましい。以下、グラフェンを含む繊維構造体がグラフェンで被覆された繊維構造体である態様を中心に説明する。
【0022】
繊維構造体とは、単繊維を高次加工して得られる構造体を指す。繊維構造体としては、織物、編物、レース、不織布などが好ましく挙げられる。グラフェンの被覆性に優れる点で、織物、編物または不織布がより好ましく、使用中に被覆したグラフェンの脱落が少ない点で織物または不織布がさらに好ましい。
【0023】
繊維構造体を構成する繊維は、天然繊維であっても化学繊維であってもよい。天然繊維としては、植物性繊維、動物性繊維、鉱物性繊維が挙げられるが、取扱性に優れる点で、植物性繊維または動物性繊維が好ましい。植物性繊維としては綿、麻またはパルプが好ましく、綿またはパルプがより好ましい。パルプ等を用いた紙も好ましく用いることができる。動物性繊維としては羊毛、絹、カシミヤが好ましく、羊毛または絹がより好ましい。特に絹は表面の性状がグラフェンとの親和性に優れるため被覆しやすく好ましい。化学繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリアリレート繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維およびポリクロロトリフルオロエチレン繊維から選ばれた繊維が好ましい。加工性に優れる点で、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリル繊維およびポリウレタン繊維から選ばれた繊維がより好ましく、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維がより好ましい。
【0024】
繊維構造体を構成する単繊維(本明細書においては、短繊維から紡績されたスパン糸、モノフィラメント糸、またはマルチフィラメント糸を構成する繊維を含め、繊維構造体を構成する個々の繊維を「単繊維」と呼ぶ。)の周長は、30μm以上300μm以下であることが好ましい。周長が30μmを下回ると、単位体積当たりの単繊維の数が多くなり、単繊維の間の接触点が増えるため、接触抵抗が増大し、高抵抗となる傾向がある。一方、単繊維の周長が300μmを上回ると、表面積が小さくなるため、繊維の単位体積当たりのグラフェンの付着量が少なくなり、導電性が低下する傾向がある。単繊維の周長は、30μm以上が好ましく、45μm以上がより好ましく、60μm以上がさらに好ましい。また、単繊維の周長は、300μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。なお、単繊維の周長とは単繊維の軸方向に垂直な断面の周長を意味する。
【0025】
繊維構造体を構成する単繊維の単繊維径は、2μm以上100μm以下であることが好ましい。単繊維径が2μm未満の場合、強度が不足し、繊維構造体の耐久性が低くなる傾向がある。単繊維径は、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。また単繊維径が100μmより大きい場合、表面積が小さくなるため、繊維の単位体積当たりのグラフェンの付着量が少なくなり、導電性が低下する傾向がある。単繊維径は、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。
【0026】
単繊維の周長と繊維径は、繊維構造体をミクロトーム等で切断した断面を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影し、繊維の軸方向に垂直な断面の周長を繊維10本について測定し、その平均値から求めることができる。
【0027】
繊維構造体として織物を用いる場合、織物の目開きは、1μm以上200μm以下であることが好ましい。目開きとは、織物において経糸および緯糸に囲まれて形成された孔部の面積の平方根として求められる値である。織物の目開きは、具体的には織物表面を走査型電子顕微鏡により200倍で観察し、経糸および緯糸に囲まれて形成された孔部の面積を異なる20箇所で測定し、その平方根の平均値を目開きサイズとして求めることができる。目開きが1μm未満の場合、互いに干渉しやすくなり、織物の柔軟性が低くなる傾向がある。また目開きが200μmより大きい場合、糸が動きやすいため、平面内で糸の偏りが生じやすく、織物の耐久性が低下する傾向がある。織物の目開きは、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、織物の目開きは、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0028】
織物の織糸ピッチは、経糸、緯糸ともに、100μm以上1500μm以下であることが好ましい。織糸ピッチとは、ある織糸の径方向の中心から隣接する織糸の径方向の中心までの距離を意味する。織糸ピッチが小さすぎる場合、隣接する織糸が互いに干渉しやすくなり、織物の柔軟性が低くなる傾向がある。織糸ピッチは、200μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、400μm以上がさらに好ましい。また織糸ピッチが大きすぎる場合、引き裂き強度など織物の耐久性が低下する傾向がある。織糸ピッチは、1200μm以下が好ましく、900μm以下がより好ましく、600μm以下がさらに好ましい。なお、織物は、経糸のピッチと緯糸のピッチが異なるものであってもよい。
【0029】
なお、織物の目開き、ピッチ、および織物を構成する織糸の直径(経糸径、緯糸径)は、「目開き=ピッチ-織糸の直径」の関係である。
【0030】
好ましい態様において、導電性基材層を構成する繊維構造体は、グラフェンを含む繊維により構成されている。
【0031】
グラフェンとは、狭義には1原子の厚さのsp結合炭素原子のシート(単層グラフェン)を指すが、本明細書においては、単層グラフェンが積層した薄片状の形態を持つものも含めてグラフェンと呼称する。また、酸化グラフェンも同様に、積層した薄片状の形態を持つものも含めた呼称とする。
【0032】
また、本明細書においては、X線光電子分光法(XPS)によって測定された酸素原子の炭素原子に対する元素比(酸化度(O/C比))が0.4を超えるものを酸化グラフェン、0.4以下のものをグラフェンと呼ぶ。従って、酸化グラフェンを還元処理することによって得られる還元型酸化グラフェンの場合、酸化度(O/C比)が0.4以下のものをグラフェンと呼称する。
【0033】
さらに、グラフェンや酸化グラフェンには分散性の向上等を目的とした表面処理がなされる場合があるが、本明細書においては、このような表面処理剤が付着したグラフェンまたは酸化グラフェンも含めて「グラフェン」または「酸化グラフェン」と呼称するものとする。
【0034】
繊維表面を被覆する場合、グラフェンは薄いシート状であるために複雑な形状にも追従させやすく、個々の繊維を均一に被覆できるために、導電性が得られやすい。また、グラフェンは水に溶解しないため汗等によって溶出することによって信号取得性が低下する懸念が少ない。
【0035】
繊維構造体を被覆する場合、グラフェンのグラフェン層に平行な方向の大きさは、0.10μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であることがより好ましく、0.20μm以上であることがさらに好ましい。また同様に、大きさは、10.00μm以下であることが好ましく、8.00μm以下であることがより好ましく、6.00μm以下であることがさらに好ましい。ここでいうグラフェンの大きさとは、グラフェンのグラフェン層に平行な方向の最長径と最短径の平均を指す。グラフェンのグラフェン層に平行な方向の大きさの下限が0.10μm以上であれば、グラフェンによる被覆がまばらになりにくいため、導電性が得られやすい。一方、グラフェンのグラフェン層に平行な方向の大きさの上限が10.00μm以下であれば、溶媒への分散性が向上し、繊維への被覆が均一になる傾向がある。
【0036】
グラフェンのグラフェン層に平行な方向の大きさは、導電性シートからグラフェンを採取し、電子顕微鏡を用いて、グラフェンが適切に視野に収まるように、倍率1,500~50,000倍に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、グラフェン層に平行な方向の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をそれぞれ測定し、(長径+短径)/2で求められる数値の算術平均値を求めることにより算出することができる。
【0037】
なお、グラフェンのグラフェン層に平行な方向の大きさは、酸化グラフェンまたは還元後のグラフェンを微細化することにより、前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望の大きさの市販の酸化グラフェンやグラフェンを用いてもよい。
【0038】
また、グラフェンの平均厚みは、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましい。また同様に、平均厚みは、1nm以上が好ましく、1.5nm以上がより好ましく、2nm以上がさらに好ましい。グラフェンの平均厚みが100nm以下であれば、グラフェンのフレキシブル性を保つことができ、繊維表面へ追従しやすい傾向がある。一方、グラフェンの平均厚みが1nm以上であれば、導電性を高めやすい傾向がある。
【0039】
グラフェンの平均厚みは、導電性シートからグラフェンを機械的に剥離して採取し、原子間力顕微鏡を用いて、グラフェンが適切に観察できるように、視野範囲1~10μm四方程度に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、それぞれ厚みを測定し、その算術平均値を求めることにより算出することができる。なお、各グラフェンの厚みは、それぞれのグラフェンにおいて無作為に選択した5箇所の厚みの測定値の算術平均値とする。
【0040】
機械的にグラフェンを採取することが困難である場合には、グラフェンで被覆した繊維構造体について、アルカリバスなどを用いて繊維構造体を溶解または分解した後に、残存したグラフェン材料を分離した上で同様に測定することができる。
【0041】
グラフェンの酸化度(O/C比)は0.05以上が好ましく、0.07以上がより好ましく、0.09以上がさらに好ましく、0.10以上が一層好ましい。また、酸化度は0.35以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.15以下が一層好ましい。酸化度(O/C比)が0.05以上であればグラフェンが均一に繊維上に分布しやすい。一方、酸化度(O/C比)が0.35以下であればグラフェンの還元により、π電子共役構造が復元して導電性が得られる。
【0042】
繊維構造体を構成する繊維上のグラフェン被覆層の厚さは、1nm以上であれば良好な導電性が得られ、100nm以下であれば導電性基材層の伸縮および屈曲のしやすさに影響を与えにくい。繊維上のグラフェン被覆層の厚さは1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましく、10nm以上がさらにより好ましい。また、グラフェン被覆層の厚さは100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましい。繊維上のグラフェン被覆層の厚さは、ミクロトーム等で切断した繊維の断面を走査型電子顕微鏡で観察することによって調べることができ、10箇所の測定結果の平均値から求めることができる。
【0043】
<ハイドロゲル層>
本発明の導電性シートは、前述の導電性基材層に加え、シリコーンハイドロゲルからなるハイドロゲル層を有する。なお、本明細書においては、基本的にはシリコーン系ポリマーに水等が担持された状態の物質を「シリコーンハイドロゲル」と呼称するが、説明の簡略化のため、シリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーそのものを指す用語としても「シリコーンハイドロゲル」を用いる場合がある。
【0044】
シリコーンハイドロゲルは、含水することによって導電性が発現する。シリコーンハイドロゲルは、含水率が10重量%以上60重量%未満の範囲内であることが好ましい。本明細書において、含水率とは、シリコーンハイドロゲルの含水時の重量(W1)、および乾燥時の重量(W2)を測定し、次式により算出した値を指す。
含水率(%)=(W1-W2)/W1×100。
【0045】
ここで、含水時とは、シリコーンハイドロゲルを室温(25℃)の蒸留水中に24時間以上浸漬した状態を意味する。含水時における物性値の測定は、試験片を蒸留水から取り出し、試験片表面の蒸留水を埃等の汚れが付着しない材質の布で軽く拭き取り、試験片を蒸留水から取り出してから1分以内に実施される。また、乾燥時とは、含水時の状態のシリコーンハイドロゲルを真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥を行った状態を意味する。乾燥状態での物性値の測定は、試験片を乾燥装置から取り出した後、1分以内に実施される。
【0046】
シリコーンハイドロゲルの含水率が10重量%以上であれば導電性が高く、含水率が60重量%未満であれば乾燥に伴う形状変化が小さい。含水率は15重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましい。また、含水率は55重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0047】
ハイドロゲル層は、乾燥時の状態においてシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーを50重量%以上含むことが好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、80重量%以上含むことがさらにより好ましい。ここで、「シリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマー」とは、シリコーンハイドロゲルの網目構造体を形成しているポリマーのことである。本発明において、シリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーとは、後述の一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含むポリマーのことである。
【0048】
ここで、ハイドロゲル層中の乾燥時の状態におけるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーの含有率(重量%)は、次のように測定する。導電性シートから摘出したハイドロゲル層を真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥し、乾燥直後の秤量値(E1)を測定する。次に、この乾燥したハイドロゲル層をアセトン中で37℃72時間抽出して、残存モノマーや湿潤剤等のゲル骨格を構成するポリマー以外の成分を除去してから、真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥し、乾燥直後の秤量値(E2)を測定する。ハイドロゲル層中の乾燥時の状態におけるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーの含有率(重量%)は、E2/E1×100から求めることができる。
【0049】
本発明の導電性シートを生体に適用する場合、本発明に用いられるシリコーンハイドロゲルにおける乾燥時における全重量に占めるケイ素原子の含有率(以下、単に「ケイ素原子含有率」という)は、5重量%以上30重量%以下の範囲内が好ましい。ケイ素原子含有率が5重量%以上であれば酸素透過性が得られやすくなり、30重量%以下であれば皮膚接着性が損なわれにくい。ケイ素原子含有率は7重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、ケイ素原子含有率は28重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましい。
【0050】
なお、シリコーンハイドロゲルの形成に用いられるシリコーンモノマー(重合性基とシロキサニル基とを含むモノマー)がm種類(mは1以上の整数)である場合、ケイ素原子含有率は、次式により算出した値を指す。シロキサニル基とは少なくとも1つのSi-O-Si結合を有する基を指す。
シリコーンハイドロゲルの乾燥時における全重量に占めるケイ素原子の含有率(%)=Σ{Si×C}×100
Siはm種類目のシリコーンモノマーの分子量に対するケイ素原子の重量比である。Cはシリコーンハイドロゲルの乾燥重量に対するm種類目のシリコーンモノマーの重量比を表す。
【0051】
例として、3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート(略称:TRIS)25重量%、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(略称:TMSM)24重量%、N,N-ジメチルアクリルアミド49重量%、エチレングリコールジメタクリレート2重量%からなるモノマー組成物を重合して得られるシリコーンハイドロゲルを用いて説明する。ケイ素原子の重量は28.09(g/mol)として計算する。本例の場合、シリコーンモノマーは2種類であり、1種類目をTRIS、2種類目をTMSMとして、計算例を示す。TRISは分子量422.82に対し、ケイ素原子4個を有するため、TRISの分子量に対するケイ素原子の重量比Si=28.09×4/422.82=0.266と計算でき、Cは0.25である。TMSMは分子量248.35に対し、ケイ素原子1個を有するため、TMSMの分子量に対するケイ素原子の重量比Si=28.09×1/248.35=0.113と計算でき、Cは0.24である。その他のモノマーはケイ素原子を含まない。従って、かかるシリコーンハイドロゲルのケイ素原子の含有率(%)=(0.266×0.25+0.113×0.24)×100=9.362と計算できる。
【0052】
ケイ素原子含有率は、実験的にはICP発光分光分析法により測定することができる。具体的には下記の手順に従って測定を行う。シリコーンハイドロゲルの試料をRO水で洗浄して塩および汚れを取り除いた後、乾燥時の状態にして秤量した試料(4~5mg)を白金るつぼに秤取し、硫酸を加えてホットプレートおよびバーナーで加熱灰化する。かかる灰化物を炭酸ナトリウムで融解し、水を加えて加熱溶解した後、硝酸を加えて水で定容する。この溶液について、ICP発光分光分析法によりケイ素原子の量を測定し、試料中の含有量を求める。
【0053】
本発明に用いられるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーは、一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含む。
【0054】
【化1】
【0055】
一般式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素数1~15の範囲内の有機基を表す。nは1から40の範囲内の整数を表す。
【0056】
ここで、「モノマー由来の繰り返し単位」について説明する。本発明において、「モノマー由来の繰り返し単位」は、ラジカル重合性のモノマーを重合したときに、重合反応によりラジカル重合性の官能基が変化して生じる、該モノマーの構造に対応したポリマー中の構造単位を意味する。すなわち、「モノマー由来の繰り返し単位」とは、下記一般式(x)で表されるラジカル重合性モノマーを重合したときに、重合反応によりラジカル重合性官能基が変化して生じる、下記式(y)で表される構造単位である。
【0057】
【化2】
【0058】
上記一般式(x)および(y)において、R、R、R、Rはそれぞれ独立に、上記一般式(x)で表されるモノマーがラジカル重合性を有するモノマーとなり得る基であればよい。
【0059】
かかる繰り返し単位(A)は、親水性ではあるが、相互に水素結合可能な官能基を有しないため、水素結合による官能基間の相互作用が少なく、低含水時において硬化しにくい性質を有する。とりわけ(ポリ)エチレングリコール鎖を有する構造を有するため、低含水時の弾性率を低下させる効果が高いために有用である。かかる繰り返し単位(A)は、一般式(I)に示されるモノマーのホモポリマーのガラス転移温度を測定した場合に、ガラス転移温度が室温以下であるために、乾燥時の引張弾性率が低く抑えられる。
【0060】
一般式(I)中のRは重合性に優れ、かつ入手が容易であるという点で、水素原子またはメチル基であるが、優れた柔軟性が得られる傾向があることから水素原子であることがより好ましい。
【0061】
一般式(I)中のnは1から40の範囲内の整数である。nが40以下であれば、他のモノマーとの相溶性が悪化しにくく、また、シリコーンハイドロゲル全体の架橋密度が低下するためにちぎれやすくなりにくい。nは25以下がより好ましく、12以下がさらに好ましく、10以下が一層好ましい。なお、nは分布を有していてもよい。分布を有するとは、ある構造単位の繰り返しを表す数(ここではn)が異なる分子が混在している状態を指す。nが分布を有する場合には、一般式(I)で表されるモノマーの数平均分子量に基づいてnを求めることとする。
【0062】
一般式(I)中のRは、炭素数1~15の有機基である。水素結合等の相互作用を生じにくく乾燥時の引張弾性率を増加させにくいという点で、Rは炭素数1~15のアルキル基が好ましく、エチルヘキシル基、ブチル基、プロピル基、エチル基およびメチル基から選ばれるいずれかの基がより好ましく、プロピル基、エチル基およびメチル基から選ばれるいずれかの基がさらに好ましく、エチル基またはメチル基が一層好ましい。
【0063】
また、Rは、例えばフルフリル基やクラウンエーテルのような環状構造を有する基であってもよい。
【0064】
はフッ素置換されたアルキル基であってもよい。一般式(I)で表されるモノマーのうち、このようなモノマーとしては、例えば2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エチルアクリレートや2-(2,2,3,3,4,4,-ヘプタフルオロブトキシ)エチルアクリレート等を挙げることができる。
【0065】
本発明の導電性シートを生体に適用する場合、シリコーンハイドロゲルは、繰り返し単位(A)を、シリコーンハイドロゲルの乾燥時の全重量に対して10重量%以上70重量%以下の範囲内で含むことが好ましい。繰り返し単位(A)の含有率が10重量%以上であれば、乾燥時の引張弾性率が高くなりすぎない。含有率が、70重量%以下であれば、皮膚に対する接着性が不足しにくい。繰り返し単位(A)の含有率は、10重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、30重量%以上が一層好ましい。また、繰り返し単位(A)の含有率は70重量%以下がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましく、50重量%以下が一層好ましい。
【0066】
シリコーンモノマーとしては、シリコーン(メタ)アクリレートまたはシリコーン(メタ)アクリルアミドを好ましく用いることができる。比較的入手が容易であるという点で、シリコーン(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。ここで、シリコーン(メタ)アクリレートとは(メタ)アクリロイルオキシ基とシロキサニル基とを含むモノマーを指す。シリコーン(メタ)アクリルアミドとは(メタ)アクリルアミド基とシロキサニル基とを含むモノマーを指す。なお本明細書において、「(メタ)アクリレート」という用語はメタクリレートとアクリレートの両方を表す。「(メタ)アクリルアミド」、「(メタ)アクリロイル」等の用語も同様である。また、本明細書で用いる「(メタ)アクリレート」という用語は、(メタ)アクリル酸エステルを表す。
【0067】
本発明に用いられるシリコーンモノマーは、直鎖状であっても分枝状であってもよい。直鎖状シリコーンモノマーとは、重合性基を有する有機基と結合したケイ素原子を起点とした場合、シリコーンのシロキサニル結合(-Si-O-の繰り返しによって形成される結合)に沿った線を引いた場合、その線が分岐のない1本の線状に形成されている構造を指す。一方、分岐状シリコーンモノマーとは、重合性基を有する有機基と結合したケイ素原子を起点としてシロキサニル結合に沿った線を引いた場合、その線が二方向以上に延びる構造、かつ/またはその線が少なくとも一つの分岐を有し1本の線として表すことができない構造を指す。かかる分岐状シリコーンモノマーの代表例として3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート(略称:TRIS)が知られている。
【0068】
本発明の導電性シートを生体に適用する場合、シリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーは、単官能シリコーンモノマーに由来する繰り返し単位(B)をさらに含むことが好ましい。単官能とは分子内にラジカル重合性の官能基(例えば(メタ)アクリロイルオキシ基)を1つだけ有することを表す。かかる繰り返し単位(B)を含むことにより、優れた酸素透過性、柔軟性および屈曲性を与えることができる。
【0069】
特に、単官能シリコーンモノマーとして、次の一般式(p)で表されるモノマーが好ましい。
【0070】
【化3】
【0071】
式(p)中、Rは(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリルアミド基を有するアルキル基を表す。R~Rはケイ素原子を含まない基を表し、jは1以上の整数を表す。
【0072】
本発明に用いられるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーは、単官能シリコーンモノマーに由来する繰り返し単位(B)を、前記シリコーンハイドロゲルの乾燥時の全重量に対して10重量%以上70重量%以下の範囲内で含むことが好ましい。かかる繰り返し単位(B)の含有率は10重量%以上であれば、酸素透過性と柔軟性が高くなる。また、含有率は70重量%以下であれば皮膚に対する接着性が高くなる。繰り返し単位(B)の含有率は、同様に20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。また、繰り返し単位(B)の含有率は、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0073】
単官能シリコーンモノマーとしては、直鎖状のシロキサニル基を有するシリコーン(メタ)アクリレートまたはシリコーン(メタ)アクリルアミドが好ましく用いられる。特に好ましい例として、下記一般式(a)で表されるモノマーが挙げられる。
【0074】
【化4】
【0075】
一般式(a)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Xは酸素原子またはNHを表す。Rは炭素数1~20の2価の有機基を表す。R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表す。Rは炭素数1~20のアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表す。kは分布を有していてもよい1~200の整数を表す。
【0076】
一般式(a)中、Rは水素原子またはメチル基であるが、これらのうち、モノマーの入手が容易であるという点で、メチル基がより好ましい。
【0077】
一般式(a)中、Xは酸素原子またはNHであるが、モノマーの入手が容易であるという点で酸素原子が好ましく、重合速度を向上できる点でNHが好ましい。
【0078】
一般式(a)中、Rは炭素数1~20の2価の有機基であり、例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基、オクタデシレン基などのアルキレン基;およびフェニレン基、ナフチレン基などのアリーレン基が挙げられる。これらのアルキレン基およびアリーレン基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。前記2価の有機基の炭素数は、20以下であれば他のモノマーとの相溶性が低下しにくく、1以上であれば得られるシリコーンハイドロゲルの柔軟性が低下しにくい。Rの炭素数は1~12の範囲がより好ましく、2~8の範囲がさらに好ましい。前記2価の有機基はアルキレン単位が酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよく、炭素に隣接する水素原子が水酸基やアミノ基やハロゲン原子に置換されていてもよい。前記2価の有機基が置換されている場合の好適な置換基の例として、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エステル、エーテル、アミド等の置換基およびこれらの組合せが挙げられる。これらのうち、シリコーン部位の分解が起こりにくい点で好ましいのは水酸基、エステル、エーテル、アミドであり、得られるシリコーンハイドロゲルの安定性を高める点でさらに好ましいのはエーテルである。
【0079】
のより好適な例として、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基および下記式(a1)~(a4)で表される2価の有機基が挙げられる。
-CHCH(OH)CH- (a1)
-CHCH(OH)CHOCHCHCH- (a2)
-CHCHOCHCHCH- (a3)
-CHCHOCHCHOCHCHCH- (a4)
中でもプロピレン基および式(a1)~(a4)で表される2価の有機基が好ましく、プロピレン基または式(a2)で表される2価の有機基がより好ましい。
【0080】
一般式(a)中、R~Rは、それぞれ独立に置換されていてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6以上20以下のアリール基を表す。その例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、エイコシル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらのアルキル基およびアリール基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数1以上20以下のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6以上20以下のアリール基であれば、相対的にシリコーン含有量が減少し、得られるシリコーンハイドロゲルの酸素透過性が低下することを抑制できる。R~Rの炭素数は1~12がより好ましく、炭素数1~6がさらに好ましい。
【0081】
一般式(a)中、Rは置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。Rの炭素数は1以上であればポリシロキサン鎖が加水分解しやすくなることを抑制でき、20以下であればシリコーンハイドロゲルの酸素透過性が低下することを防ぐことができる。炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらにより好ましい。炭素数1~20のアルキル基および炭素数6~20のアリール基の好適な例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、エイコシル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらのアルキル基およびアリール基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0082】
一般式(a)中、kは分布を有していてもよい1以上200以下の整数を表す。kが200以下であれば他のモノマーとの相溶性が低下しにくく、kが1以上であれば酸素透過性や柔軟性が得られるようになる。kは2以上が好ましく、3以上がさらに好ましい。また、kは200以下が好ましく、100以下がより好ましく、50以下がさらに好ましく、20以下が一層好ましい。ただし、kが分布を有する場合は、単官能シリコーンモノマーの数平均分子量に基づいてkを求めるものとする。
【0083】
本発明に用いられるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーは、さらに、アミド構造を含むモノマーに由来する繰り返し単位(C)をさらに含むことが好ましい。かかる繰り返し単位(C)はシリコーンハイドロゲルに好ましい含水率と接着性を付与するために用いられる。
【0084】
本発明において、アミド構造を含むモノマーとは下記式(q)で表される構造にラジカル重合性官能基が結合した化合物を指す。例えば、アミド化合物、イミド化合物、尿素化合物、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0085】
【化5】
【0086】
一般式(q)において、ラジカル重合性官能基は、R~R10のいずれかの位置に、直接または炭素数1~20の2価の有機基を介してラジカル重合性官能基が結合されている。ラジカル重合性官能基が結合されていない場合、R~R10は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、または置換されていてもよい炭素数1~20の有機基を表し、直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、RおよびRまたはR10は互いに連結して環を形成していてもよい。前記有機基は炭素数20以下であればシリコーンモノマーとの相溶性が得られやすい傾向がある。前記有機基の炭素数は1~12がより好ましく、炭素数2~8がさらに好ましい。
【0087】
アミド構造はエステル結合などと比べて加水分解されにくく、優れた耐久性を発現することができる。アミド構造を含むことにより、例えば蒸気滅菌時の高温高湿のような過酷な環境下においてもポリマー構造の一部の分解、脱離、変質などを抑制することが期待できる。また、優れた含水性と粘着性を与える構造であるために好ましい。
【0088】
繰り返し単位(C)は、イオン性官能基を含まないことが好ましい。イオン性官能基が含まれると、汗等によってシリコーンハイドロゲルのpHが変化し、かぶれを起こす要因になったり、ゲルの劣化の要因となる場合がある。
【0089】
本発明に用いられるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーは、繰り返し単位(C)を、前記シリコーンハイドロゲルの乾燥時の全重量に対して10重量%以上50重量%以下の範囲内で含むことが好ましい。かかる繰り返し単位(C)の含有率は、10重量%以上であれば、シリコーンハイドロゲルの含水率が高くなり、50重量%以下であれば、過度の膨潤によるゲルの強度低下や乾燥に伴う寸法変化が起きにくい。繰り返し単位(C)の含有率は20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。また繰り返し単位(C)の含有率は45重量%以下がより好ましく、40重量%以下がさらに好ましい。
【0090】
前記繰り返し単位(C)を形成するために好適なモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルカルボン酸アミド、環状N-ビニルラクタム、環状N-ビニルピリジン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニル尿素およびこれらの誘導体が挙げられる。親水性に優れる点で(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体がより好ましい。
【0091】
前記繰り返し単位(C)を得ることのできるモノマーの好適な具体例としては、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ダイアセトンアクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-4-メチル-2-カプロラクタム、2-エチルオキサゾリン、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-2-メチルプロピオンアミド、N-ビニル-Ν,Ν’-ジメチル尿素、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも、その他のモノマーとの相溶性に優れる点で、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミドおよびN-ビニル-N-メチルアセトアミドから選ばれたモノマーがさらに好ましい。これらは単独でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
本発明に用いられるシリコーンハイドロゲルのゲル骨格を構成するポリマーは、重合性基を2つ以上有する多官能モノマー(架橋モノマー)由来の繰り返し単位をさらに含んでもよい。重合性基を2つ以上有する多官能モノマーの好ましい例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチル-ジシロキサン、1,3-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサン、信越化学工業株式会社製X-22-164A、JNC株式会社製“サイラプレーン”(登録商標)FM7711などの両末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリジメチルシロキサン、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の二官能または多官能(メタ)アクリレート;ならびにΝ,Ν’-メチレンビスアクリルアミド、Ν,Ν’-エチレンビスアクリルアミド、Ν,Ν’-プロピレンビスアクリルアミド等のビスアクリルアミドなどが挙げられる。
【0094】
これらのうち、柔軟性に優れたシリコーンハイドロゲルが得られやすい点でより好ましいのは二官能(メタ)アクリレートであり、特に好ましいのは1,3-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチル-ジシロキサン、1,3-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサン、信越化学工業株式会社製X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、JNC株式会社製“サイラプレーン”(登録商標)FM7711、FM7721などのように両末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系ジ(メタ)アクリレートである。
【0095】
重合性基を2つ以上有する多官能モノマー由来の繰り返し単位の含有率は、シリコーンハイドロゲルの乾燥時の全重量に対して25重量%以下であればシリコーンハイドロゲルが脆くなりにくく、1重量%以上であれば引張強度が高くなる。当該多官能モノマー由来の繰り返し単位の含有率は、5重量%以上がより好ましく、10重量以上%がさらに好ましい。また、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましい。
【0096】
本発明に用いるシリコーンハイドロゲル層は、導電性の補助のために電解質を含んでいてもよい。このような電解質としては、例えば下記に挙げる無機または有機の酸塩基類を用いることができる。塩基の例としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ピリジニウムが挙げられる。酸の例として、ホウ酸、ハロゲン、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、りん酸等の無機酸;酢酸、安息香酸、乳酸、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸、スルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。さらに高分子酸としてポリ(メタ)アクリル酸、ポリスチレンスルホン酸が挙げられ、高分子塩基としてポリアリルアミン、ポリエチレンイミンが挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0097】
本発明の導電性シートは、導電性基材層とハイドロゲル層とを有する。導電性シートにおいて、導電性基材層がハイドロゲル層上に積層されていてもよく、導電性基材層がハイドロゲル層中に埋設されていてもよい。導電性基材層とシリコーンハイドロゲルが絡み合うことによって導電性基材層とハイドロゲル層が剥離するおそれが少なく、かつ導電性シートの機械的強度が高められることから、導電性基材層がハイドロゲル層中に埋設されている形態がより好ましい。また、ハイドロゲル層は導電性基材層の一部のみに形成されていてもよく、逆に導電性基材層がハイドロゲル層の一部のみに形成されていてもよい。また、特に導電性基材層が通気性を有する場合には、シリコーンハイドロゲルと基材層との絡み合いがより密になるため、導電性シートの機械的強度をより高めることができる。
【0098】
本発明の導電性シートは、実施例中に記載の方法に従って測定した場合に、導電性基材層のインピーダンスが、0.1Hz~1000Hzの範囲内の全てにおいて10-3Ω以上10Ω以下であることが好ましい。インピーダンスが10-3Ω以上であれば、ノイズによる影響を受けにくいため好ましく、10Ω以下であれば、電気信号が取得しやすくなるために好ましい。インピーダンスは10-2Ω以上がより好ましく、10-1Ω以上がさらに好ましい。また、インピーダンスは10Ω以下がより好ましく、10Ω以下がさらに好ましい。
【0099】
本発明の導電性シートは、接着対象への接着性を発現するために、乾燥時の導電性シートにおけるハイドロゲル層の表面タック力が1N以上30N以下であることが好ましい。表面タック力が1N以上であれば導電性シートが接着対象表面から脱離しにくくなり、30N以下であれば脱着時のゲル自身へのダメージを低減することができる。表面タック力は、実施例中に記載の方法に従って測定した場合において、1N以上が好ましく、1.5N以上がより好ましく、2N以上がさらに好ましい。また、表面タック力は30N以下が好ましく、25N以下がより好ましく、20N以下がさらに好ましい。
【0100】
乾燥時の導電性シートの表面タック力が前記の好ましい範囲内にあれば、導電性シートが乾燥しても接着性を保つことができる。すなわち、導電性シートを長時間使用した場合においても、接着性を保つことができる。
【0101】
本発明の導電性シートは、接着対象と接しない面に、非導電性材料による被覆が施されてもよい。かかる非導電性材料による被覆を行った場合、例えば、電極として用いた場合に多量の発汗や雨がかかるような環境において複数の電極同士が短絡し、正常に信号が取得できなくなることを防ぐことができる。非導電性材料は、本発明の導電性シートが有する水分と気体の透過性を損ねない材質が好ましい。非導電性材料の好適な例として、樹脂フィルム、樹脂発泡体、繊維構造体、シリコーンエラストマーを用いた防水透湿素材が挙げられる。かかる非導電性材料は、接着層を介して被覆されていても良い。
【0102】
本発明の他の側面は、導電性基材層と、シリコーンハイドロゲルを含むハイドロゲル層とを有する導電性シートであって、該ハイドロゲル層の乾燥時における引張弾性率が0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内である導電性シートである。シリコーンハイドロゲルの乾燥時における引張弾性率は0.1MPa以上であればハイドロゲルが破損しにくく、3.5MPa以下であれば乾燥してもゲルが硬くなりにくく接着性が得られやすい。乾燥時における引張弾性率は0.1MPa以上が好ましく、0.3MPa以上がより好ましく、0.4MPa以上がさらに好ましく、0.5MPa以上がさらにより好ましい。また乾燥時における引張弾性率は3.5MPa以下が好ましく、3.0MPa以下がより好ましく、2.5MPa以下がさらに好ましい。乾燥時における引張弾性率は、シリコーンハイドロゲルを構造体から摘出した上で、後述する実施例中に記載の方法に従って測定することができる。このような好ましい引張弾性率は、本発明のシリコーンハイドロゲルが、前記の好ましい組成を有することにより達成することができる。
【0103】
ハイドロゲル層の乾燥時における引張弾性率が前記の好ましい範囲内にあれば、導電性シートが乾燥しても柔軟性を保つことができる。すなわち、導電性シートを長時間使用した場合においても、柔軟性を保つことができる。
【0104】
なお、導電性基材層については前記同様である。
【0105】
<導電性シートの製造方法>
以下に本発明の導電性シートの製造方法について説明する。
【0106】
本発明の導電性シートは、
工程(ii)導電性基材層に、一般式(I)で表されるモノマーを含むシリコーンハイドロゲルの重合原液を接触させる工程;および
工程(iii)前記重合原液を重合させる工程;
を有する製造方法によって製造することができる。
【0107】
前記の通り、導電性基材層としては、繊維表面にグラフェンが被覆された繊維構造体が好ましい。
【0108】
グラフェンを含む繊維構造体は、グラフェンで被覆された単繊維を高次加工して繊維構造体としてもよく、単繊維を高次加工して繊維構造体を作製してからグラフェンで被覆してもよいが、作業の容易性の点で、繊維構造体を作製してからグラフェンで被覆することが好ましい。
【0109】
すなわち、前記工程(ii)の前に、
工程(i)繊維構造体をグラフェンで被覆して導電性基材層を得る工程
を有することが好ましい。
【0110】
工程(i)においては、グラフェンの分散液を用いて繊維構造体を被覆してもよく、酸化グラフェンの分散液を用いて繊維構造体を被覆した後に還元処理して、酸化グラフェンをグラフェンにすることによって導電性基材層を得てもよい。酸化グラフェンの方が溶媒中における分散性に優れ、繊維構造体に対する被覆性が良好であるため、酸化グラフェンの分散液によって被覆した後、還元処理することによってグラフェンで被覆された繊維を含む繊維構造体を得ることが好ましい。
【0111】
被覆する際の分散液として酸化グラフェン分散液を用いる場合、使用する酸化グラフェンの酸化度(O/C比)は0.5以上が好ましく、0.52以上がより好ましく、0.55以上がさらに好ましい。また、酸化度(O/C比)は0.8以下が好ましく、0.78以下がより好ましく、0.75以下がさらに好ましい。酸化グラフェンの酸化度(O/C比)が0.5以上であれば、極性溶媒中における官能基同士の電荷反発により、極性溶媒への分散性が向上し、凝集が少なくなり、均一に被覆される傾向がある。一方、酸化グラフェンの酸化度(O/C比)が0.8以下であれば、還元して得られるグラフェンの導電性が悪くなりにくい。
【0112】
また、酸化グラフェンは、内部までグラファイトが酸化されていないと、還元した時に薄片状のグラフェンが得られにくい。そのため、酸化グラフェンは、乾燥させてX線回折測定をした時に、グラファイト特有のピークが検出されないことが望ましい。
【0113】
被覆する際の分散液としてグラフェン分散液を用いる場合、使用するグラフェンの酸化度(O/C比)は0.05以上が好ましく、0.07以上がより好ましく、0.09以上がさらに好ましく、0.10以上が一層好ましい。また、酸化度(O/C比)は0.35以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.15以下が一層好ましい。酸化度(O/C比)が0.05以上であれば溶媒中でグラフェンが帯電でき、溶媒に対する分散性が改善する傾向がある。一方、酸化度(O/C比)が0.35以下であればグラフェンの還元により、π電子共役構造が復元して導電性が得られる。
【0114】
このようなグラフェン材料を溶媒に分散させることで、グラフェン材料の分散液が得られる。溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、あるいはこれらの混合物等を用いることができる。水を用いることが特に好ましい。溶媒中にグラフェン材料を分散させるための装置は、ビーズミル、ホモジナイザー、フィルミックス(登録商標)(プライミクス社)、湿式ジェットミル、乾式ジェットミル、超音波など、せん断力が強い装置を用いることが好ましい。
【0115】
グラフェン材料分散液の濃度は、繊維構造体内部への浸透性の点で、2重量%以下が好ましく、より好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以下である。また、繊維構造体とグラフェン材料の衝突確率を上げるために、グラフェン材料分散液の濃度は0.001重量%以上が好ましく、より好ましくは0.01重量%以上であり、さらに好ましくは0.1重量%以上である。
【0116】
また、工程(i)においては、グラフェン材料による被覆前に、グラフェン材料の有する電荷と対になるように、繊維構造体表面を処理することも好ましい。グラフェン材料は負電荷を有するため、繊維構造体表面をカチオン化しておくと静電吸着によって、グラフェンを被覆しやすくすることができる。
【0117】
繊維構造体表面をカチオン化する方法としては、繊維構造体表面をカチオン化剤を含む溶液に接触させる方法が挙げられる。繊維構造体表面をカチオン化剤を含む溶液に接触させる方法としては、カチオン化剤を含む溶液に繊維構造体を浸漬させる方法などが挙げられる。
【0118】
カチオン化剤の例としては、第4級アンモニウム塩やピリジニウム塩などのカチオン性低分子化合物や、カチオン性高分子化合物を使用することができる。導電性材料の被覆を均一にできるため、カチオン性高分子化合物を使用することが好ましい。
【0119】
このようにして得られた導電性基材層に、工程(ii)においては、一般式(I)で表されるモノマーを含むシリコーンハイドロゲルの重合原液を接触させる。重合原液に含まれるモノマーとしては、前記の好ましいモノマーを前記の好ましい組成で含有させることができる。導電性基材層をシリコーンハイドロゲルの重合原液と接触させる方法の例としては、導電性基材層を重合原液中に浸漬する方法、型枠内に導電性基材層を設置して重合原液を注ぎ入れる方法などが挙げられる。
【0120】
重合原液には、重合開始剤を含むことが好ましい。好適な開始剤としては、過酸化物やアゾ化合物等の熱重合開始剤、光重合開始剤(UV光、可視光または組合せの場合がある)またはそれらの混合物が挙げられる。熱重合を行う場合は、所望の反応温度に対して最適な分解特性を有する熱重合開始剤を選択して使用する。一般的には10時間半減期温度が40℃以上120℃以下のアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤が好ましい。光重合開始剤としてはカルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、金属塩などが挙げられる。
【0121】
光重合開始剤のより具体的な例としては、芳香族α-ヒドロキシケトン、アルコキシオキシベンゾイン、アセトフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、およびこれらの混合物などが挙げられる。光重合開始剤のさらに具体的な例としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4-4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド(DMBAPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(“イルガキュア”(登録商標)819)、2,4,6-トリメチルベンジルジフェニルホスフィンオキシドおよび2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾインメチルエーテルが挙げられる。
【0122】
市販の可視光重合開始剤システムとしては、“イルガキュア”(登録商標)819、“イルガキュア”(登録商標)1700、“イルガキュア”(登録商標)1800、“イルガキュア”(登録商標)1850(以上、BASF製)、およびルシリンTPO開始剤(BASF製)が挙げられる。市販のUV光重合開始剤としては、“ダロキュア”(登録商標)1173および“ダロキュア”(登録商標)2959(BASF製)が挙げられる。これらの重合開始剤は単独でも混合して用いてもよい。重合開始剤の使用量は全モノマー成分の合計重量に対して0.1重量%以上1重量%以下の範囲内が好ましい。
【0123】
重合原液には、重合溶媒を含むことが好ましい。重合溶媒としては、有機溶媒、無機溶媒の各種溶媒が適用可能である。例を挙げれば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、tert-アミルアルコール、3,7-ジメチル-3-オクタノール、テトラヒドロリナロールなどの各種アルコール系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチル、二酢酸エチレングリコールなどの各種エステル系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールランダム共重合体などの各種グリコールエーテル系溶剤であり、これらは単独あるいは混合して使用することができる。これらの中で、ラジカル重合を阻害しにくいという点で、好ましくは水、tert-ブタノール、tert-アミルアルコールおよび3,7-ジメチル-3-オクタノールから選ばれた溶剤である。
【0124】
次に、工程(iii)において前記重合原液を重合させてシリコーンハイドロゲル層とすることによって、導電性基材層およびシリコーンハイドロゲル層を有する導電性シートを得る。
【0125】
重合原液の重合は、公知技術によって行うことができる。具体的には、重合原液に紫外線、可視光線またはそれらの組合せ等の活性光線を照射する光重合や、重合原液をオーブンや液槽に入れて加熱して重合する加熱重合が挙げられる。光重合の後に加熱重合する、あるいは加熱重合後に光重合するなど、両者を併用する方法もあり得る。光重合の場合は、例えば水銀ランプや蛍光灯等の光源から光を短時間(通常は1時間以下)照射するのが一般的である。加工性に優れる点で、光重合を用いることが好ましい。
【実施例
【0126】
実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例15は、現在は参考例であり、実施例1~14が本発明の実施例である。
【0127】
以下にグラフェンの各種物性の測定方法を挙げる。
【0128】
(繊維構造体上のグラフェンの平均サイズおよび平均厚みの測定)
グラフェンで被覆した繊維構造体を水中に、浴比1:50になるように浸漬した。ホットスターラーREXIM RSH-6DN(AS ONE社)を用い、40℃、回転数450rpmで24時間撹拌処理することにより、繊維構造体からグラフェンを遊離させた。得られた混合物を吸引濾過を用いて繊維かグラフェンのいずれか小さい方のみを通過可能な孔径を有するろ紙に数回かけることで繊維構造体とグラフェンを分離した。その後、得られたグラフェンをN-メチルピロリドンで希釈し、希釈液をフィルミックス(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて、回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理した後、マイカ基板上に滴下、乾燥することにより、基板上にグラフェンを付着させた。基板上のグラフェンをキーエンス社製レーザー顕微鏡VK-X250で観察して、グラフェンの小片の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をランダムに50個測定し、(長径+短径)/2で求められる数値を50個分平均して求めた。
【0129】
また、基板上のグラフェンを、原子間力顕微鏡(Dimension Icon;Bruker社)で観察して、グラフェンの厚みをランダムに50個測定し、平均値を求めた。一小片で厚みにバラつきがあった場合は、厚みの面積平均を求めた。
【0130】
(グラフェン被覆層の厚さの測定)
イオンミリング(Arblade5000;日立ハイテクロノロジーズ製)を用いてグラフェン被覆繊維構造体の断面を作製し、該断面を電界放出型電子顕微鏡(JEM-2100F;JEOL製)で観察することにより、グラフェン被覆層の厚さを測定した。10箇所の厚さを測定して、その平均を求めた。
【0131】
(グラフェンの酸化度(O/C比)の測定)
実施例で作製したグラフェン被覆繊維構造体から分離したグラフェンをX線光電子分光分析法により分析し、グラフェンの酸化度(O/C比)を測定した。
【0132】
Quantera SXM (PHI社製)を使用して測定した。励起X線は、monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)であり、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°である。284.3eV付近のピークを炭素原子に基づくC1sピークに帰属し、533eV付近のピークを酸素原子に基づくO1sピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比を求めた。
【0133】
グラフェン被覆繊維構造体からグラフェンを分離する方法は、以下の手順で行った。グラフェン被覆構造体を水中に、浴比1:50になるように浸漬し、ホットスターラーREXIM RSH-6DN(AS ONE社)を用いて、温度40℃、回転数450rpmで24時間撹拌処理することにより、グラフェンを遊離させた。得られた混合物を吸引濾過を用いて繊維かグラフェンのいずれか小さい方のみを通過可能な孔径を有するろ紙に数回かけることで繊維構造体とグラフェンを分離した。その後、得られたグラフェンをN-メチルピロリドンで希釈し、希釈液をフィルミックス(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて、回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理した後、吸引濾過器で濾過し、さらに凍結乾燥してグラフェンを得た。
【0134】
(導電性基材層の厚さの測定)
導電性基材層の厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)を用いて、5か所の測定値の平均から求めた。
【0135】
各種物性の測定方法は下記の通りである。
【0136】
(シリコーンハイドロゲルの含水率の測定)
導電性シートからシリコーンハイドロゲルを摘出した。摘出したシリコーンハイドロゲルを25℃の蒸留水中に24時間浸漬し、試験片を蒸留水から取り出した後、1分以内に表面の蒸留水をきれいな布で軽く拭き取り、直後にシリコーンハイドロゲルの含水時の重量(W1)を秤量した。続いて、含水時の状態のシリコーンハイドロゲルを真空乾燥機で40℃、16時間乾燥を行った後、真空乾燥器から取り出して1分以内に乾燥時の重量(W2)を秤量し、次式により含水率を算出した。
含水率(%)=(W1-W2)/W1×100
(接着性の評価)
株式会社サン科学製レオメータCR-500DXを用いて、乾燥時の導電性シートの表面タック力を測定した。実施例で得られた直径40mm、厚さ1mmの導電性シートを乾燥時の状態にした後、1分以内にレオメータのステージに固定し、導電性シートのハイドロゲル層に50Nの荷重で、ステンレス製の円盤(直径10mm)を先端に有するプローブを接触させた後、50mm/分の速度でステージを移動させて、プローブをハイドロゲル層から引き剥がした際の荷重を測定した。プローブはシリコーンハイドロゲルの清浄面に対して接触させた。測定は3回連続して行い、その平均値を算出し、表面タック力とした。
【0137】
(導電性基材層の通気度の測定)
各実施例と同様にして、導電性基材層を100mm×100mmの大きさで作製し、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1を使用して通気抵抗R(kPa・s/m)を測定した。得られた結果から、JISL1096(2010)通気性A法に基づいてQ=12.5/Rを用いて通気度Q(cm/cm/s)を算出した。
【0138】
(導電性基材層の最小曲げ半径の測定)
実施例で得られた導電性基材層を、直径0.5mmの太さのピアノ線(エスコ社EA951AP-105)に密着するように巻き付け、その際に基材に割れや折り目のような不可逆な破損が発生するか否かを観察した。この際に、破損が観察されなかった場合は、最小曲げ半径が0.25mmよりも小さいと判断し、「<0.25mm」と標記した。
【0139】
(導電性基材層のインピーダンスの測定)
各実施例と同様にして作成した導電性基材層を幅10mm、長さ110mmの長方形状にカットし、長手方向の両端5mmに銀ペースト(藤倉化成株式会社製ドータイト(登録商標)D-500)を塗布して乾燥した。銀ペーストを塗った端部にワニ口クリップを装着し、導電性基材層を平らにした状態で、マルチスタット(ソーラートロン社製Model1480A)および周波数アナライザー(ソーラートロン社製Model1255B)を用いてインピーダンスの測定を行った。測定条件はAmplitude=10mV Frequency=0.1Hz~1kHzとした。本発明の導電性シートでは、インピーダンスの周波数依存性は見られなかったため、代表値として1Hzにおけるインピーダンスの値を表1に記載した。
【0140】
(導電性シートの心電計測の評価)
Arduino Pro Mini328(SparkFun社製)にAD8232 Heart Rate Monitor(SparkFun社製)と、Sensor Cable-Electro Pads(SparkFun社製)を接続し、FTDI Basic Breakout(SparkFun社製)をUSBインタフェースとしてコンピューターに接続した。Sensor Cable-Electro Padsの3つの先端に本発明の導電性シートをそれぞれ接続し、左右の上腕および脇腹の計三か所に貼り付けて、心電計測の可否を判定した。心電計測が行えた場合は「可」、行えなかった場合は、「否」とした。
【0141】
(生体適合性の評価)
20代~50代の男性5名に実施例により得られた導電性シートを6時間装着し、不快感の有無を申告してもらった。不快感無しと回答した人が半数以上の場合は不快感「無」、半数未満の場合は不快感「有」とした。本発明においては、このような評価において不快感無しの場合に生体適合性が高く、不快感有りの場合に生体適合性が低いと評価する。
【0142】
(乾燥時におけるシリコーンハイドロゲルの引張弾性率の測定)
含水時の状態の導電性シートからハイドロゲルを切除によって摘出し、最も狭い部分の幅5mmのアレイ型サンプルを作成した。該サンプルを真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥を行って乾燥時の状態にした。乾燥状態のサンプルの最も狭い部分の幅をノギスで測定した。また、ABCデジマチックインジケータ(ID-C112、株式会社ミツトヨ製)を用いて厚みを測定し、断面積を計算した。次にテンシロン(東洋ボールドウィン社製RTM-100、クロスヘッド速度100mm/分)を用いて、該サンプルの引張試験を行い、サンプルの最も狭い部分の断面積を用いて引張弾性率を計算した。
【0143】
[略称]
実施例で用いたモノマー等の略称を下記する。
MEA:2-メトキシエチルアクリレート
mPDMS:単官能直鎖シリコーンモノマー(平均分子量1000、Gelest社製 MCR-M11)
DMA:東京化成工業株式会社製 N,N-ジメチルアクリルアミド
164A:2官能性シリコーンモノマー、信越化学工業株式会社製X-22-164A、官能基当量860
IC:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製 光重合開始剤“イルガキュア”(登録商標)819
TAA:東京化成工業株式会社製 tert-アミルアルコール
[実施例1]
(酸化グラフェン水分散液の調製)
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として用いた。氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、および30gの過マンガン酸カリウムを加え、1時間機械攪拌した。混合液の温度は20℃以下で保持した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌して反応させた。その後、イオン交換水500mlを加えて得られた懸濁液を90℃でさらに15分反応を行った。その後、600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を加え、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、得られた酸化グラフェンを希塩酸溶液で洗浄して、金属イオンを除去した。さらに、イオン交換水で、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸を除去し、酸化グラフェンゲルを調製した。調製した酸化グラフェンゲルの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.53であった。得られた酸化グラフェンゲルにイオン交換水を加えて濃度を0.5重量%とし、超音波装置UP400S(hielscher社)を使用して、出力300Wで超音波を5分間印加し、0.5重量%酸化グラフェン水分散液を調整した。得られた酸化グラフェンのグラフェン層に平行な方向の平均サイズは3μm、平均厚みは3nm、O/C比は0.7であった。
【0144】
(PET不織布のカチオン化処理)
糸径12.4μmのPET繊維からなるPET不織布を、幅10mm、長さ15mmの突出した長方形部を有する直径40mmの円形に切り抜いた。このPET不織布に、カチオン化処理を行うために、1重量%ポリエチレンイミン(数平均分子量70000)水溶液中に、浴比1:50になるように浸漬し、ホットスターラーREXIM RSH-6DN(AS ONE社)を用いて、温度60℃、回転数450rpmにて30分処理した。その後、カチオン化処理されたPET不織布を、イオン交換水中で、スターラーを用いて、浴比1:1000、室温、回転数200rpmにて1分間洗浄する操作を2回繰り返した。
【0145】
次に、上記のようにカチオン化処理されたPET不織布を、グラフェンを被覆するために、上記のように調製した0.5重量%酸化グラフェン水分散液中に、浴比1:50になるように浸漬し、ホットスターラーを用いて、温度60℃、回転数450rpmにて30分処理した。その後、イオン交換水中で、スターラーを用いて、浴比1:1000、室温、回転数600rpmにて1分間洗浄する操作を3回繰り返した。
【0146】
続いて、上記のようにして得られた円形のPET不織布を、5重量%亜ジチオン酸ナトリウム水溶液中に、浴比1:50になるように浸漬し、ホットスターラーを用いて、温度40℃、回転数450rpmにて5分間撹拌し、還元処理を行った。その後、イオン交換水中で、スターラーを用いて、浴比1:1000、室温、回転数600rpmにて1分間洗浄する操作を3回繰り返した。その後、60℃の熱風乾燥機で乾燥し、円形のグラフェン被覆PET不織布を得た。得られたグラフェン被覆PET不織布について、グラフェン被覆層の厚さ、グラフェンの平均サイズおよび平均厚み、グラフェンのO/C比、厚さ、通気度、最小曲げ半径およびインピーダンスを測定し、表1に示した。
【0147】
MEA100mg(10重量%)、mPDMS500mg(50重量%)、DMA300mg(30重量%)、164A100mg(10重量%)、IC2mg(0.2重量%)、およびTAA400mg(40重量%)をよく混合し、モノマー組成物を得た。各成分の重量%は溶媒と重合開始剤を除く、シリコーンハイドロゲルを形成するモノマー成分の総和を100重量%としたものである。このモノマー組成物をシリコーン樹脂製の直径40mmの円形モールドに液高1mmになるように注入し、該モノマー組成物中に上記のようにして得られた円形のグラフェン被覆PET不織布を浸漬した。蛍光ランプ(東芝、FL-6D、昼光色、6W、4本)を用いて光照射(1.01mW/cm、30分間)して、モノマー組成物を重合させた。重合後に、モールドごとイソプロピルアルコール:水=1:1の混合溶液中に浸漬して、室温で1時間静置した後、モールドからシリコーンハイドロゲル成型体を剥離した。得られた成型体を、新しいイソプロピルアルコール:水=1:1の混合溶液に60℃で1時間浸漬した後、蒸留水中に浸漬して一晩静置、保管した。蒸留水中から成型体を取り出し、よく水洗して、グラフェン被覆PET不織布がシリコーンハイドロゲル中に埋設された導電性シートを得た。成型体の突出した長方形部に銀ペーストを塗布して乾燥させた後、ワニ口クリップを装着し、心電計測用装置に接続して心電計測を実施した。結果を表2に示した。
【0148】
[実施例2~7]
表2に記載の組成比に従ってモノマー組成物を作製し、実験例1と同様にして導電性シートを作製した。得られたサンプルはいずれも良好な表面タック性を有し、不快感なく心電計測が可能であった。
【0149】
[実施例8]
アルミ箔(宝泉株式会社製、50μm厚)を幅10mm、長さ15mmの突出した長方形部を有する直径40mmの円形に切り抜き、円形状部位に直径6mmのパンチング処理を6箇所に施した。実施例7のグラフェン被覆PET不織布を、前記パンチング処理を施したアルミ箔に変えた以外は同様にして実施した。
【0150】
[実施例9]
アルミ箔の代わりにPETフィルムを用い、実施例8と同様にしてPETフィルムを切り取り、パンチングした。このフィルムを0.5重量%の酸化グラフェン水分散液中に浸漬した後、乾燥させ、その後、1重量%濃度のヒドラジン水溶液に30分浸漬して還元を行った。イオン交換水で水洗した後に乾燥させ、通気性を有する導電性基材層を作製した。これを実施例7と同様にしてシリコーンハイドロゲル中に埋設し、同様の抽出・洗浄処理を行った後、心電計測を実施した。
【0151】
[実施例10]
実施例7のPET不織布をPET織物(単繊維径15μm、マルチフィラメント径243μmの84T-36Fのポリエステルフィラメントからなり、経糸ピッチ520μm、緯糸ピッチ520μmの織物)に代えた以外は同様にした。
【0152】
[実施例11]
実施例7のPET不織布をPET編物(糸径15μm、周長47μm)に代えた以外は同様にした。
【0153】
[実施例12]
PET不織布を実施例1と同様の形状に切り取り、1.3重量%のPEDOT:PSS水溶液(シグマアルドリッチ社製)に浸漬した後、乾燥させ、通気性を有する導電性基材層を作製した。これを実施例7と同様にしてシリコーンハイドロゲル中に埋設し、同様の抽出・洗浄処理を行った後、心電計測を実施した。
【0154】
[実施例13]
実施例12のPEDOT:PSSをカーボンナノチューブ(シグマアルドリッチ社製)に代えた以外は同様にした。
【0155】
[実施例14]
実施例12のPEDOT:PSSをトルエンで100倍に希釈した藤倉化成株式会社製ドータイト(登録商標)D-500に代えた以外は同様にした。
【0156】
[実施例15]
実施例8のアルミ箔にパンチングを施さなかった以外は同様に実施した。該導電性シートは、30%の低含水率において心電計測が可能であり、表面タック力も良好であったが、通気性がないために蒸れ感があり、不快感があった。
【0157】
[比較例1]
実施例1のシリコーンハイドロゲルのモノマー組成物を、アクリル酸10重量%、DMA18重量%、メチレンビスアクリルアミド2重量%、TAA40重量%、IC0.2重量%に変えた以外は同様にして実施した。該導電性シートはシリコーンハイドロゲルからなる層を有しないため、接着性が不十分であり、皮膚から容易に脱落し心電計測が困難であった。
【0158】
[比較例2]
実施例1のシリコーンハイドロゲルのモノマー組成物を、mPDMS60重量%、DMA30重量%、164A10重量%、TAA40重量%、IC0.2重量%に変えた以外は同様に実施した。該導電性シートのハイドロゲル層は一般式(I)で表されるモノマー由来の繰り返し単位(A)を含まないため、接着性が不十分であり、皮膚から容易に脱落し心電計測が困難であった。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】