(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】フレキシブルデバイス用基板
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20240611BHJP
C23D 3/00 20060101ALI20240611BHJP
C23D 5/00 20060101ALI20240611BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20240611BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20240611BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240611BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C23C26/00 C
C23D3/00 D
C23D5/00 B
C03C8/16
H05B33/02
H05B33/14 A
B32B15/08 E
(21)【出願番号】P 2020546847
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019033852
(87)【国際公開番号】W WO2020054441
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018170589
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】南部 光司
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】升田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】下村 洋司
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/001971(WO,A1)
【文献】特開2015-071513(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170038(WO,A1)
【文献】特開2014-107053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0234391(US,A1)
【文献】錆に負けない鋼-ステンレス鋼(上),Nippon Steel Monthly,2005年11月,9-12頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C23D 1/00-17/00
C03C 8/00-8/24
H05B 33/00-33/28
H10K 50/00-99/00
B32B 15/00-15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレススチール基材と、該ステンレススチール基材の表面に形成された酸化物膜と、該酸化物膜の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが層状に形成されたガラス層とを有
するフレキシブルデバイス用基板であって、
前記酸化物膜が酸素含有雰囲気中で焼成することにより形成された酸化物膜であり、
前記ビスマス系ガラスが、Bi
2
O
3
を70~84重量%、ZnOを10~12重量%、B
2
O
3
を6~12重量%、SiO
2
及び/又はAl
2
O
3
を、SiO
2
が0~2重量%、Al
2
O
3
が0~1重量%、CuOを0~2重量%の量で含有するビスマス系ガラスであり、前記酸化物膜と前記ガラス層との界面から、酸化物膜の厚み方向に20nm地点におけるクロム濃度が30atomic%以上であることを特徴とするフレキシブルデバイス用基板。
【請求項2】
前記酸化物膜の厚みが30nm以上である請求項1記載のフレキシブルデバイス用基板。
【請求項3】
前記酸化物膜の厚みが80nm以上である請求項1記載のフレキシブルデバイス用基板。
【請求項4】
前記酸化物膜と前記ガラス層との界面から、酸化物膜の厚み方向に20nm地点におけるクロム濃度が50atomic%以上である請求項1~3の何れかに記載のフレキシブルデバイス用基板。
【請求項5】
ステンレススチール基材と、該ステンレススチール基材の表面に形成された酸化物膜から成り、
該酸化物膜上に、Bi
2
O
3
を70~84重量%、ZnOを10~12重量%、B
2
O
3
を6~12重量%、SiO
2
及び/又はAl
2
O
3
を、SiO
2
が0~2重量%、Al
2
O
3
が0~1重量%、CuOを0~2重量%の量で含有するビスマス系ガラスから成るガラス層を形成するフレキシブルデバイス用基板用基材であって、
前記酸化物膜の厚みが30nm以上であり、
前記酸化物膜が酸素含有雰囲気中で焼成することにより形成された酸化物膜であり、前記酸化物膜の表面から酸化物膜の厚み方向に20nm地点におけるクロム濃度が30atomic%以上であることを特徴とするフレキシブルデバイス用基板用基材。
【請求項6】
前記酸化物膜の厚みが80nm以上である請求項
5記載のフレキシブルデバイス用基板用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルデバイス用基板に関し、より詳細には、耐錆性、水分バリア性、曲げ耐性及び絶縁層の密着性に優れており、有機EL関連の用途に好適に使用可能なフレキシブルデバイス用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL照明や有機ELディスプレイ、有機薄膜太陽電池、ICプリント回路、電子ペーパー等に用いられるフレキシブルデバイス用基板は、水分バリア性及びガスバリア性等のバリア性の他、平滑性及び絶縁性が要求されていると共に、曲面で使用される用途や、ロールツーロールでの生産を可能にするための優れたフレキシブル性(曲げ耐性)も要求されている。
下記特許文献1には、プラスチックフィルム基材上に、透明導電層、有機発光媒体層、陰極層を順次積層し、接着層を介して金属箔が積層された有機EL素子の構造が提案されているが、かかるプラスチックフィルム基材は水分バリア性や耐熱性の点で満足するものではない。
また下記特許文献2には、ステンレス基材上にポリイミド樹脂から成る平坦化層を設けたフレキシブルデバイス用基板が提案されているが、ポリイミド樹脂の吸水性が高いことから、やはり水分バリア性の点で満足するものではない。
更に下記特許文献3には、ステンレス基材上にシリカ系ガラスを製膜したフレキシブル太陽電池基板が提案されているが、シリカ系ガラスは一般にステンレスに比べて熱膨張係数が小さく、ステンレス基材に対する密着性に欠けると共に、シリカ系ガラスは曲げ加工や衝撃に弱いという問題を有している。
【0003】
このような問題を解決するために、本発明者等は、金属基材の表面にニッケルめっき層を形成し、そのニッケルめっき層の表面に、電気絶縁性を有するビスマス系ガラスを積層して成るフレキシブルデバイス用金属基板を提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2004-171806号公報
【文献】日本国特開2011-97007号公報
【文献】日本国特開2006-80370号公報
【文献】日本国特開2014-107053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記フレキシブルデバイス用金属基板は、水分バリア性に優れ、金属基材との密着性に優れたビスマス系ガラスを積層しており、絶縁性及び平坦性にも優れ、軽量でフレキシブル性を有しているが、焼成後のガラス層表面に、ブツやはじきが発生する場合があり、このような微小欠陥によりガラス層の平滑性が損なわれる場合があった。
また金属基材として発錆のおそれのないステンレススチール基材を用いた場合、ステンレススチール基材とガラス層の間に充分な密着性が得られないことから、曲げ耐性に劣り、ガラス層が割れて剥離するというような問題がある。
【0006】
このような問題を解決するために本発明者等は、ステンレススチール基材と、該ステンレススチール基材の表面に形成されたニッケルめっき層と、該ニッケルめっき層の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが層状に形成されたガラス層とを有するフレキシブルデバイス用基板を提案した(国際公開第2018/235759)。
上記フレキシブルデバイス用基板は、ステンレススチール基材を用いることにより発錆のおそれが有効に防止されていると共に、ステンレス基材表面にニッケルめっき層を形成することにより、ステンレススチール基材とガラス層の密着性が顕著に向上し、優れた曲げ耐性を有していることから、フレキシブルデバイス用基板として用いた場合でもガラス層の剥離などが起こらない、充分なフレキシブル性を有している。
【0007】
本発明者等は、上記先願発明について、製造プロセスや品質管理を簡易にすると共に製造コストを削減すべく更に研究を行った結果、ニッケルめっき層を形成しなくても、ステンレススチール基材表面に特定の厚み及び組成を有する酸化物膜を形成することによって、ニッケルめっき層を形成した場合と同様のガラス層の密着性が得られることを見出した。
従って本発明の目的は、耐錆性、水分バリア性、ガラス層の密着性、曲げ耐性及びガラス層表面の表面平滑性に優れている共に、製造や品質管理等も容易なフレキシブルデバイス用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ステンレススチール基材と、該ステンレススチール基材の表面に形成された酸化物膜と、該酸化物膜の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが層状に形成されたガラス層とを有するフレキシブルデバイス用基板であって、前記酸化物膜が酸素含有雰囲気中で焼成することにより形成された酸化物膜であり、前記ビスマス系ガラスが、Bi
2
O
3
を70~84重量%、ZnOを10~12重量%、B
2
O
3
を6~12重量%、SiO
2
及び/又はAl
2
O
3
を、SiO
2
が0~2重量%、Al
2
O
3
が0~1重量%、CuOを0~2重量%の量で含有するビスマス系ガラスであり、前記酸化物膜と前記ガラス層との界面から、酸化物膜の厚み方向に20nm地点におけるクロム濃度が30atomic%以上であることを特徴とするフレキシブルデバイス用基板が提供される。
本発明のフレキシブルデバイス用基板においては、
1.前記酸化物膜の厚みが30nm以上であること、
2.前記酸化物膜の厚みが80nm以上であること、
3.前記酸化物膜と前記ガラス層との界面から、酸化物膜の厚み方向に20nm地点におけるクロム濃度が50atomic%以上であること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、ステンレススチール基材と、該ステンレススチール基材の表面に形成された酸化物膜から成り、該酸化物膜上に、Bi
2
O
3
を70~84重量%、ZnOを10~12重量%、B
2
O
3
を6~12重量%、SiO
2
及び/又はAl
2
O
3
を、SiO
2
が0~2重量%、Al
2
O
3
が0~1重量%、CuOを0~2重量%の量で含有するビスマス系ガラスから成るガラス層を形成するフレキシブルデバイス用基板用基材であって、前記酸化物膜の厚みが30nm以上であり、前記酸化物膜が酸素含有雰囲気中で焼成することにより形成された酸化物膜であり、前記酸化物膜の表面から酸化物膜の厚み方向に20nm地点におけるクロム濃度が30atomic%以上であることを特徴とするフレキシブルデバイス用基板用基材が提供される。
本発明のフレキシブルデバイス用基板用基材においては、前記酸化物膜の厚みが80nm以上であることが特に好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフレキシブルデバイス用基板においては、ステンレススチール基材を用いることにより発錆のおそれが有効に防止されていると共に、ステンレス基材表面に特定の酸化物膜を形成することにより、ステンレススチール基材とガラス層の密着性が顕著に向上し、優れた曲げ耐性を有していることから、フレキシブルデバイス用基板として用いた場合でも剥離などが起こらない、充分なフレキシブル性を有している。
またステンレススチール基材表面にニッケルめっき層を形成する必要がないことから、製造工程が少なく、しかもガラス層を形成するまでの品質管理も容易になるため、生産性に優れている。
更にまた、密な構造で水分の透過を完全に防ぐことが可能なガラス層を有していることから、水分バリア性にも優れており、有機EL関連用の基板として有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のフレキシブルデバイス用基板の一例の断面構造を示す図である。
【
図2】
図1に示す本発明のフレキシブルデバイス用基板を用いた有機ELデバイス用基板の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(フレキシブルデバイス用基板)
本発明のフレキシブルデバイス用基板においては、ステンレススチール基材表面に酸化物膜を形成してなるフレキシブルデバイス用基板用基材に、この基材の酸化物膜表面にガラス層を形成することにより、酸化物膜とガラスとが反応して密着層が形成され、ステンレススチール基材とガラス層の密着性を顕著に向上することが可能になる。その結果、前述したとおり、曲げ耐性が向上し、ガラス層の剥離を生じることなく、ロールツーロールの工程にも対応可能になる。
本発明のフレキシブルデバイス用基板において、ステンレススチール基材上に形成される酸化物膜は、酸化物膜中に存在するクロム濃度が高いことから、酸化物膜とガラスが反応して密着層が形成され、ステンレススチール基材とガラス層の密着性が向上されると考えられる。
【0013】
図1は本発明のフレキシブルデバイス用基板の一例の断面構造を示す図であり、全体を1で示すフレキシブルデバイス用基板は、ステンレススチール基材10と、ステンレススチール基材10の表面に形成された、酸化物膜11とから成るフレキシブルデバイス用基板用基材2の酸化物膜11の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが層状に形成されたガラス層12とを有している。
【0014】
[ステンレススチール基材]
本発明のフレキシブルデバイス用基板に用いられるステンレススチール基材としては、従来公知のステンレススチールをすべて使用することができるが、特にフェライト系ステンレススチールを好適に使用できる。また熱膨張係数が9.9×10-6~21×10-6/℃、特に10×10-6~14×10-6/℃の範囲にあるものを使用することが好ましい。
ステンレススチール基材の厚みは、10~200μm、特に25~100μmの範囲にあることが好適であり、これにより充分なフレキシブル性を得ることができる。
【0015】
[酸化物膜]
本発明のフレキシブルデバイス用基板において、ステンレススチール基材表面に形成される酸化物膜は、ステンレススチール基材表面を大気中などの酸素含有雰囲気下で焼成することにより形成され、ステンレススチール基材から拡散した鉄、クロム及びその他の添加元素の酸化物から成っている。
すなわち、本発明のフレキシブルデバイス用基板においては、ステンレススチール基材表面に酸化物膜が形成されていることにより、ガラス層とステンレススチール基材表面を密着(相互拡散)させる過程でガラス層中に存在する酸素が奪われず、また奪われたとしてもその度合いが小さいことから、ガラス層中の酸素が欠損することがない。そのため、ガラス層とステンレススチール基材との界面で組成のズレを生じる度合いが、酸化物膜が形成されていない場合(すなわち、ステンレススチール基材表面を酸素含有雰囲気下で焼成していない場合)に比して小さく、密着性が低下することが有効に抑制されている。
【0016】
また、この酸化物膜は、前述したとおり、酸化物膜とガラス層の界面から酸化物膜の厚み方向に20nmの地点におけるクロム濃度(Cr及びFeの合計量を100としたときのCr量)が、30atomic%以上、好ましくは50atomic%以上、より好ましくは70atomic%以上、更に好ましくは80atomic以上の量であり、クロムリッチな酸化物膜として形成されている。
このように、クロムリッチな酸化物膜が形成されていることにより、ガラス層とステンレススチール基材との密着性が顕著に向上される。すなわち、クロム酸化物は非常に緻密であるのに対して、鉄酸化物はクロム酸化物に比して脆弱である。このため、ステンレススチール基材表面(酸化物膜を含む)のクロム濃度が高くなることにより、脆弱な鉄酸化物が形成される確率が低くなり、ステンレススチール基材とガラス層との密着性が向上される。
【0017】
本発明においては、酸化物膜の厚みが、30nm以上、好ましくは80nm以上、より好ましくは90nm以上、更に好ましくは100nm以上の厚みを有することが望ましい。上記範囲よりも酸化物膜の厚みが薄い場合には、上記範囲にある場合に比してガラス層の充分な密着性が得られず、後述する実施例の結果から明らかなように、ガラス層を外側にして曲げたときに充分な曲げ耐性を得ることができないおそれがある。
尚、酸化物膜の厚みが厚いほど、酸化物膜中に含有されるクロム量も多くなることからステンレススチール基材とガラス層の密着性が向上し、曲げ耐性も向上するが、酸化物膜の厚みが2000nmを超えると、酸化物膜が脆化して曲げ耐性が低下することから、酸化物膜の厚みは2000nm以下、特に1500nm以下であることが好ましい。
【0018】
[ガラス層]
本発明のフレキシブルデバイス用基板は、上述した酸化物膜上に、絶縁層として、優れた水分バリア性及びステンレススチール基材との優れた密着性を有するビスマス系ガラスからなるガラス層が形成されている。
本発明においては、ビスマス系ガラスとして、Bi2O3,ZnO,B2O3を含有するビスマス系ガラスを好適に使用することができる。すなわち、主成分たるBi2O3と共に、ZnO及びB2O3を必須の成分として含有し、これらの成分が共晶点近傍の組成範囲にあることにより、結晶化しにくいガラスネットワーク構造を形成でき、上述した酸化物膜との組み合わせと相俟って、ガラス表面にはじきの発生が有効に抑制されたフレキシブルデバイス用基板を提供することが可能になる。
【0019】
上記ビスマス系ガラスとしては、軟化点温度が300~500℃である、電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが好適であり、ガラス組成としてBi2O3を主成分(特に70重量%以上)含有するものが好ましく、これに限定されないが、Bi2O3が70~84重量%、ZnOが10~12重量%、B2O3が6~12重量%の量で含有されているビスマス系無鉛ガラスであることが特に好適である。これらの成分が上記範囲にあることにより、ガラス層の結晶化が抑制され、はじきの発生が有効に抑制される。
【0020】
ビスマス系ガラスは、上記必須成分に加えて、更にSiO2及び/又はAl2O3が、SiO2が0~2重量%、Al2O3が0~1重量%の量で含有されていることが好適である。これらの少なくとも一方の成分が配合されることにより、水分バリア性等が向上し、ガラス層を安定化することが可能になる。
またビスマス系ガラスは、上記必須成分に加えて、更にCuO及び/又はNiOを含有することが好適であり、CuOを2重量%以下、NiOを2重量%以下の量で配合することにより、ガラスの溶融性が向上される。
更にビスマス系ガラスは、上記必須成分に加えて、Y2O3、ZrO2、La2O3、CeO2、TiO2、CoO,Fe2O3の何れかを1.5重量%以下の量で含有してもよく、これにより、ガラスの耐久性を向上することができるが、これらの成分の配合量が多くなるとかえってガラスの耐久性を低下させるおそれがある。尚、これらの成分は、複数種を組み合わせで使用することも可能であるが、その場合には、合計量が1.5重量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明において、ガラス層の厚みは2~45μm、好ましくは5~20μm、より好ましくは5~16μmの範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもガラス層の厚みが薄い場合には、上記範囲にある場合に比して充分な絶縁性を確保できないおそれがあると共に、ステンレススチール基材の凹凸を充分に平滑化することができないおそれがある。その一方上記範囲よりも厚いと、上記範囲にある場合に比してフレキシブル性が劣るおそれがある。
【0022】
(フレキシブルデバイス用基板の製造方法)
本発明のフレキシブルデバイス用基板は、フレキシブルデバイス用基板用基材の製造工程であるステンレススチール基材の少なくとも一方の表面に酸化物膜を形成する酸化物膜形成工程、及び前記酸化物膜上にビスマス系ガラス層を形成するガラス層形成工程、を含む製造方法により製造することができる。
【0023】
[酸化物膜形成工程]
本発明のフレキシブルデバイス用基板及び該基板の製造に用いられるフレキシブルデバイス用基板用基材の製造方法においては、ステンレススチール基材を酸素含有雰囲気中で焼成することにより、ステンレススチール基材表面に酸化物膜を形成することができる。
焼成条件は、前述した酸化物膜が形成される限り、特に限定されないが、焼成温度が200~1300℃、好ましくは1000~1250℃、より好ましくは1000~1100℃の温度であることが望ましい。上記範囲よりも焼成温度が低い場合には、上記範囲にある場合に比して酸化物膜を効率よく形成することができず、その一方上記範囲よりも焼成温度が高い場合には、ステンレススチール基材の厚みにもよるが、ステンレススチール基材がゆがむおそれがある。
焼成時間は、酸素含有雰囲気の酸素濃度、焼成温度によって適宜変更することができるが、大気中で上記温度範囲で焼成する場合には、10~500秒間焼成することが好適である。
酸化物膜は、前述したとおり、30nm以上、好ましくは80nm以上であり、2000nm以下、好ましくは1500nm以下の範囲となるように形成されることが望ましい。
【0024】
[ガラス層形成工程]
次いで、酸化物膜上に、ビスマス系ガラス層を形成する。
ガラス層の形成工程は、この手順に限定されないが、大まかに言って、ガラス粉体とビヒクルを混合・分散してガラスペーストを調製し、このガラスペーストを酸化物膜上に塗工・乾燥した後、焼成することにより形成することができる。
【0025】
<ガラスペーストの調製>
ガラスペーストは、上述したビスマス系ガラスから成るガラスフリットを粉砕して得られるガラス粉体とビヒクルを混合・分散することにより得られる。
ガラス粉体は、上述したガラス原料を混合し、800~1200℃の温度で加熱して溶融、急冷してガラスフリットを得た後、これを粉砕することにより得られる。粉砕方法としては、JET粉砕、ラピッドミル粉砕、ボールミル粉砕等従来公知の方法を挙げることができる。
ガラス粉体は平均粒径が20μm以下、好ましくは1~10μm、より好ましくは1~5μmの範囲にあることが、平滑なガラス表面を得る上で好ましく、このような微細な粉体を得るためには、上記粉砕方法の中でもJET粉砕によることが好適である。
【0026】
次いで得られたガラス粉体と、ビヒクルとを、混合・分散する。
混合・分散の方法は、撹拌翼を備えた回転式の混合機やビーズミル、ペイントシェイカー、ロールミル、メノウ乳鉢、超音波等による分散方法を例示できるが、好適には、ビーズミル、ペイントシェイカー、ロールミルによって、混合・分散することが望ましい。
また、ガラスペーストには、必要に応じて、公知の増粘剤、分散剤等を公知の処方に従って添加することもできる。
【0027】
ガラス粉体と共にペーストを構成するビヒクルは、ペーストの粘性を調整するために用いられ、バインダを溶剤に溶解して調製される。
ガラスペーストは、上述したガラス粉体を30~80重量%、バインダを0~10重量%(ゼロを含まない)、溶媒を10~70重量%の量で含有することが好適である。上記範囲よりもガラス粉体の量が少ない場合には、ペースト粘度が低くなり、所望厚みのガラス層の形成が難しくなり、その一方上記範囲よりもガラス粉体の量が多い場合には、ペースト粘度が高くなりすぎて塗工性に劣るようになる。また上記範囲よりもバインダの量が少ない場合には、塗工性に劣るようになり、その一方上記範囲よりもバインダの量が多いと、焼成後に未分解物が残留するおそれがある。更に上記範囲よりも溶媒の量が少ない場合には、ペースト粘度が高くなりすぎて塗工性に劣るようになり、その一方上記範囲よりも溶媒の量が多いと、ペースト粘度が低くなりすぎ、所望厚みのガラス層の形成が困難になる。
【0028】
ビヒクルとしては、従来公知の溶剤系又は水系のビヒクルを用いることができ、これに限定されないが、以下のバインダ及び溶剤を例示することができる。
バインダとしては、これに限定されないが、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル系モノマーの1種以上を重合して得られるアクリル系樹脂等の有機樹脂;ポリプロピレンカーボネート等の脂肪族ポリオレフィン系カーボネート樹脂を例示することができる。
また溶剤は用いるバインダによって適宜選択され、これに限定されないが、セルロース系樹脂の場合は、水、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等;アクリル系樹脂の場合は、メチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等;脂肪族ポリオレフィン系カーボネートの場合は、炭酸プロピレン、トリアセチン等;の溶媒を用いることができる。
【0029】
<ガラスペーストの塗工・乾燥・焼成>
調製されたガラスペーストを、ガラスペーストの粘度に対応した塗工方法で酸化物膜上に塗工する。塗工方法としては、これに限定されないが、例えばバーコーター、ダイコーター、ロールコーター、グラビアコーター、スクリーン印刷、オフセット印刷、アプリケーター等によって塗工することができる。
塗工されたガラスペーストは、80~180℃の温度で乾燥する。乾燥後、必要により、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理は、180~450℃の温度で10分以上加熱することが好ましい。
乾燥後、必要により脱バインダ処理に賦された塗工面を、550~900℃、好適には650~900℃の温度で、10~300秒間、焼成することによりガラス層が形成される。上記範囲よりも焼成温度が低い場合には、上記範囲にある場合に比して溶融が不十分になるおそれがあり、一方上記範囲よりも焼成温度が高い場合には、上記範囲にある場合に比してガラス表面に影響を与えるおそれがある。
【0030】
(有機ELデバイス用基板)
図2は、
図1に示した本発明のフレキシブルデバイス用基板を用いた、有機ELデバイス用基板の一例の断面構造を示す図である。
全体を1で示すフレキシブルデバイス用基板は、両面に酸化物膜11a,11bが形成されたステンレススチール基材10の一方の酸化物膜11aの表面にガラス層12が形成されている。
全体を3で示す有機ELデバイス用基板は、上記フレキシブルデバイス用基板1のガラス層12上に形成された電極層(Ag、Al)20、電極層20の上に形成された有機薄膜発光層21、有機薄膜発光層21の上に形成された透明電極層22、を少なくとも有している。
図2に示す具体例では、透明電極層22の上に透明封止層23、透明封止材24が更に積層されていると共に、酸化物膜11bの上に耐食性層25が積層されている。
【0031】
また図示していないが、
図2に示したガラス層12の上に、電極層に対して優れた密着性を有する下地層を形成することもできる。
このような下地層としては、ニッケル(Ni)、酸化インジウム錫(ITO)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、マグネシウム-銀(MgAg)、金-銅(AuCu)、銀-銅(AgCu)、酸化亜鉛(ZnO)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)等の金属又は金属酸化物等をスパッタリング法、蒸着法、CVD法等従来公知の方法によって形成することができるが、特にスパッタで成膜することが好適である。
この下地層は、有機EL基板に使用されるアルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)やこれらの合金等から成るすべての電極層に対して優れた密着性を発現できるが、特にアルミニウム(Al)、銀(Ag)から成る電極層を形成する場合には、下地層は上記金属又は酸化金属等の中でもニッケル、酸化インジウム錫から成ることが好適である。
下地層の厚みは、5~100nmの範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0032】
1.ステンレススチール基材
ステンレススチール基材として、厚さ0.05mmの以下の4種を使用した。
SUS430MA:フェライト系ステンレス箔(日本金属株式会社製)
JFE443CT:フェライト系ステンレス箔(JFEスチール株式会社製)
NCA-1:フェライト系ステンレス箔(日新製鋼株式会社製)
SUS430:フェライト系ステンレス箔(日新製鋼株式会社製)
【0033】
2.焼成処理(酸化物膜の形成)
表2に示す条件で、ステンレススチール基材の表面を20秒間熱処理を行った。
【0034】
3.ガラス層の形成
脱脂工程:各試料の表面をアルコールに浸したガーゼで拭き取り、脱脂した。
塗膜形成工程:有機溶剤とバインダとを混合したビヒクルを用意し、ビヒクルと、表1に記載された組成のビスマス系ガラス粉体とを重量比が25:75になるように乳鉢で混合し、セラミック製ロールミルにて分散処理を行ない、塗膜形成用ガラスペーストを作製した。バーコーターで焼成後の膜厚が10μmになるようにガラスペーストを塗布した。その後、電気炉を用いて、乾燥(温度:150℃、時間:3分)、脱バインダ(温度:330℃、時間:20分)、焼成(温度:850℃、時間:30秒)を行い、ガラス層を形成した。
【0035】
【0036】
4.評価
(1)酸化物膜の厚み
実施例及び比較例により得られたフレキシブルデバイス用基板用基材の酸化物膜の厚みをフィールドエミッションオージェマイクロプローブ(AES:日本電子社製、品番;JAMP-9500F)を用いて測定した。
【0037】
(2)曲げ耐性
直径(φ)が30mm、20mm、10mmのステンレス製の丸棒に、実施例及び比較例で得られたフレキシブルデバイス用基板を、ガラス層が外側、あるいはガラス層が内側になるようにそれぞれ巻きつけて、剥離、クラック発生の有無を目視にて観察した。結果を表2に示す。
尚、評価基準は以下の通りである。
巻き付け試験による剥離、クラック発生の有無(目視観察)
◎:ガラス/基材界面からの剥離なし、クラックなし
○:ガラス/基材界面からの剥離なし、クラックあり(程度極小)
△:ガラス/基材界面からの剥離なし、クラックあり(程度小)
×:ガラス/基材界面からの剥離あり、クラックあり
【0038】
尚、総合評価は、以下の通りである。
◎:ガラス層外側巻付けのφ20の評価が◎であって、ガラス層内側巻付けのすべての評価が◎のもの
○:ガラス層外側巻付けのφ30の評価が◎且つφ20の評価が○であって、ガラス層内側巻付けのすべての評価が◎のもの
△:ガラス層外側巻付けのφ30の評価が◎且つφ20の評価が△であって、ガラス層内側巻付けのすべての評価が◎のもの
△△:ガラス層外側巻付けのφ30の評価が○或いは△であって、ガラス層内側巻付けのすべてが◎のもの
△△△:ガラス層外側巻付けのすべての評価が×であって、ガラス層内側巻付けのφ30及びφ20が◎又はすべての評価が◎のもの
×:ガラス層外側巻付けのすべての評価が×であって、ガラス層内側巻付けのφ30の評価のみが◎のもの
【0039】
(3)クロム濃度(デプスプロファイル)
実施例2,4,9~14,21,24,25,27と比較例1~4により得られたフレキシブルデバイス用基板用基材について、ガラス層と酸化物膜の界面から酸化物膜の厚み方向に20nm地点のクロム(Cr)量、鉄(Fe)量をX線光電子分光(XPS)分析により測定し、下記の式からクロム濃度を算出した。結果を表2に示す。
Cr濃度(atomic%)=Cr/(Cr+Fe)×100
【0040】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のフレキシブルデバイス用基板においては、優れた耐錆性、水分バリア性、絶縁性、曲げ耐性、ガラス層の表面平滑性及び密着性を有しており、有機EL照明、有機ELディスプレイ、有機薄膜太陽電池、ICプリント回路、電子ペーパー等の基板として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 フレキシブルデバイス用基板、10 ステンレススチール基材、11 酸化物膜、12 ガラス層、20 電極層(Ag、Al)、21 有機薄膜発光層、22 透明電極層、23 透明封止層、24 透明封止材、25 耐食性層。