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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】位相同期回路
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/099 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
H03L7/099 120
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020572297
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005456
(87)【国際公開番号】W WO2020166645
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019025792
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「IoT 推進のための横断技術開発プロジェクト/超低消費電力データ収集システムの研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514315159
【氏名又は名称】株式会社ソシオネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健一
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ハンリ
(72)【発明者】
【氏名】サン ゼン
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0273210(US,A1)
【文献】特開2008-054323(JP,A)
【文献】特開2013-042358(JP,A)
【文献】特開2013-058881(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0195917(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/00ー 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基準クロックを受け、出力クロックを生成する位相同期回路であって、
前記第1基準クロックを遅延させ、第2基準クロックを生成する遅延回路と、
前記第2基準クロックと、フィードバッククロックの位相差に応じた制御信号を生成するフィードバック回路と、
前記制御信号に応じた周波数で発振し、前記出力クロックを生成する発振器と、
オン、オフが切り替え可能であり、オン状態において、前記出力クロックを分周する分周器と、
を備え、
第1モードと第2モードが切り替え可能であり、前記第1モードにおいて、前記フィードバッククロックは、前記分周器の出力を前記出力クロックでリタイミングした信号であり、前記第2モードにおいて、前記フィードバッククロックは、前記第1基準クロックを前記出力クロックでリタイミングした信号であることを特徴とする位相同期回路。
【請求項2】
前記第1モードと前記第2モードを指示するイネーブル信号を生成するモードコントローラと、
前記分周器の出力と前記第1基準クロックを受け、前記イネーブル信号に応じた一方を選択するマルチプレクサと、
前記マルチプレクサの出力を前記出力クロックによってリタイミングするリタイミング回路と、
を備え、前記分周器のオン、オフは前記イネーブル信号に応じて制御され、前記リタイミング回路の出力が前記フィードバッククロックであることを特徴とする請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項3】
前記第2基準クロックと前記フィードバッククロックの位相誤差が、デッドゾーンの範囲に含まれるか否かを判定するデッドゾーンディテクタをさらに備え、前記第1モードと前記第2モードは、前記デッドゾーンディテクタの出力に応じていることを特徴とする請求項1または2に記載の位相同期回路。
【請求項4】
前記デッドゾーンディテクタは、
前記第2基準クロックと前記フィードバッククロックの位相差あるいは周波数差を比較し、比較結果にもとづくパルスを出力する位相周波数検出器と、
前記位相周波数検出器の出力にもとづいて前記位相誤差を生成し、前記位相誤差が前記デッドゾーンに含まれるか否かを判定する判定部と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の位相同期回路。
【請求項5】
前記出力クロックの周波数と、前記第1基準クロックの周波数の関係を監視し、前記出力クロックの周波数が前記分周比にもとづいて決まる目標周波数から逸脱する周波数エラーを検出する周波数ロックループをさらに備え、
前記第1モードと前記第2モードは、前記周波数ロックループの出力に応じていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の位相同期回路。
【請求項6】
前記周波数ロックループは、
前記第1基準クロックの周期のK倍(Kは整数)の期間、前記出力クロックをカウントするカウンタを含み、
前記カウンタのカウント値と、前記分周比の逆数である逓倍比をK倍した値と、にもとづいて、前記周波数エラーを検出することを特徴とする請求項5に記載の位相同期回路。
【請求項7】
所定のデューティ比を有する制御パルスを生成するデューティサイクルコントローラをさらに備え、
前記周波数ロックループは、前記制御パルスに応じて間欠動作することを特徴とする請求項6に記載の位相同期回路。
【請求項8】
前記第2基準クロックと前記フィードバッククロックの位相差あるいは周波数差を比較し、比較結果にもとづくパルスを出力する位相周波数検出器と、
前記第1モードにおいて動作状態となり、前記位相周波数検出器の出力にもとづいて、前記発振器の周波数をフィードバック制御するPLL(Phase Locked Loop)回路と、
をさらに備え、
前記位相周波数検出器と前記PLL回路を含むフィードバックループの精度は、前記フィードバック回路の精度より粗いことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の位相同期回路。
【請求項9】
前記位相同期回路は、デジタル位相同期回路であり、
前記フィードバック回路は、前記第2基準クロックと、フィードバッククロックの位相差をデジタル信号に変換する時間-デジタル変換器を含み、
前記発振器は、前記時間-デジタル変換器の出力に応じた周波数で発振するデジタル制御発振器であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の位相同期回路。
【請求項10】
前記デジタル制御発振器は、
電源ラインと接地ラインの間に直列に接続された上側ユニットと下側ユニットと、
前記上側ユニットと前記下側ユニットの少なくとも一方と接続される可変キャパシタと、
を備え、
前記上側ユニットおよび前記下側ユニットはそれぞれ、
クロスカップルされた回路要素のペアと、
前記回路要素のペアと接続されるインダクタと、
を含み、
前記上側ユニットと前記下側ユニットのインダクタが結合されてトランスが形成されることを特徴とする請求項9に記載の位相同期回路。
【請求項11】
前記位相同期回路は分数分周型であり、
前記分周器はマルチモデュラス分周器であり、
前記位相同期回路は、
入力基準クロックを受け、前記第1基準クロックを生成するデジタル-時間変換器と、
前記出力クロックの周波数を指定する周波数制御ワードに応じて、前記デジタル-時間変換器と前記マルチモデュラス分周器を制御するコントローラと、
をさらに備えることを特徴とする請求項9または10に記載の位相同期回路。
【請求項12】
前記デジタル-時間変換器は、
キャパシタと電流源を含み、スロープ電圧を生成するスロープ発生回路と、
前記キャパシタに、制御コードに応じたアナログ電圧を印加するプリチャージ回路と、
前記スロープ電圧をしきい値と比較し、比較結果に応じた前記第1基準クロックを生成する比較回路と、
前記入力基準クロックと前記第1基準クロックに応じて、前記スロープ発生回路および前記プリチャージ回路を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、(i)プリチャージ期間において前記プリチャージ回路をオンとし、(ii)前記入力基準クロックの遷移に応答してスロープ期間に遷移し、前記スロープ期間において前記プリチャージ回路をオフ、前記スロープ発生回路をオンとし、(iii)前記第1基準クロックの遷移に応答して前記スロープ発生回路をオフする動作を繰り返すことを特徴とする請求項11に記載の位相同期回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相同期回路に関する。
【背景技術】
【0002】
基準クロックを逓倍して任意の周波数のクロックを生成するために、位相同期回路(PLL(Phase Locked Loop))が用いられる。PLL回路の一形態として、デジタルPLL回路(D-PLL:Digital PLL)が知られている。
【0003】
図1は、分数分周型(Fractional-N)のD-PLL回路100Rの基本アーキテクチャを示す回路図である。D-PLL回路100Rは、基準クロックREFと、逓倍数を指定する周波数制御ワード(FCW:Frequency Control Word)を受け、基準クロックREFをFCWに応じて逓倍した出力クロックOUTを生成する。
【0004】
デジタル-時間変換器(DTC:Digital-To-Time Converter)102、時間-デジタル変換器(TDC:Time-To-Digital Converter)104、デジタルループフィルタ(DLF:Digital Loop Filter)106、デジタル制御発振器(DCO:Digitally-Controlled Oscillator)108、バッファ110、マルチモデュラス分周器(MMD:Multi-Modulous Divider)112、コントローラ114、リタイミング回路116を備える。
【0005】
DCO108は、デジタルの制御データDCNTに応じた周波数で発振する。DCO108の出力クロックOUTは、バッファ110を経由して、MMD112に入力される。MMD112は、コントローラ114によって設定された分周比で、出力クロックOUTを分周する。コントローラ114は、ΔΣ変調器のアーキテクチャにもとづいて設計される。フラクショナルN型のPLL回路において、コントローラ114は、分数の逓倍比を得るために、MMD112の分周比を、複数の整数値で時分割で切り替える。MMD112に設定される分周比の平均値の逆数が、D-PLL回路100Rの逓倍比Nとなる。
【0006】
分周後のクロックDIVは、リタイミング回路116に入力される。リタイミング回路116は、分周クロックDIVを、バッファ110を経由した出力クロックCKVによってリタイミングし、フィードバッククロックFBを生成する。
【0007】
DTC102は、基準クロックREFに、コントローラ114によって設定された遅延を与え、基準クロックREFAを出力する。この遅延量は、MMD112に与える分周比に応じて選択される。
【0008】
TDC104は、基準クロックREFAとフィードバッククロックFBの時間差をデジタル値に変換する。DLF106は、TDC104の出力の高周波成分を除去し、制御データDCNTを生成する。
【0009】
以上がD-PLL回路100Rの基本アーキテクチャである。図2は、図1のD-PLL回路100Rのタイムチャートである。分周クロックDIVは、クロックCKVによってリタイミングされる。リタイミング回路116におけるサンプリング遅延τSAMによって、フィードバッククロックFBのエッジEは、クロックCKVのエッジEに対して、τSAMだけ遅延している。TDC104およびDLF106からなるフィードバックループによって、基準クロックREFAのエッジEとフィードバッククロックFBのエッジEの時間差がゼロとなるようにフィードバックがかかり、位相がロックされる。このとき、DCO108の出力クロックOUT(およびCKV)の周波数は、基準クロックREFA(およびREF)の周波数の、N倍となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図1のD-PLL回路100Rは、周波数精度が高く、周波数妨害に対して堅牢であるという利点を有する。しかしながら、MMD112およびリタイミング回路116が、高周波数のクロックCKVと同期して動作し続けるため、消費電力が大きいという問題がある。
【0011】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、消費電力が削減されたD-PLL回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は、第1基準クロックを受け、出力クロックを生成する位相同期回路に関する。位相同期回路は、第1基準クロックを遅延させ、第2基準クロックを生成する遅延回路と、第2基準クロックと、フィードバッククロックの位相差に応じた制御信号を生成するフィードバック回路と、制御信号に応じた周波数で発振し、出力クロックを生成する発振器と、オン、オフが切り替え可能であり、オン状態において、出力クロックを分周する分周器と、を備える。この位相同期回路は、第1モードと第2モードが切り替え可能であり、第1モードにおいて、フィードバッククロックは、分周器の出力を出力クロックでリタイミングした信号である。第2モードにおいて、フィードバッククロックは、第1基準クロックを出力クロックでリタイミングした信号である。
【0013】
本発明のある態様は、入力基準クロックと周波数制御ワードを受け、出力クロックを生成するデジタル位相同期回路に関する。デジタル位相同期回路は、入力基準クロックを受け、第1基準クロックを生成するデジタル-時間変換器と、第1基準クロックを遅延させ、第2基準クロックを生成する遅延回路と、第2基準クロックと、フィードバッククロックの位相差をデジタル信号に変換する時間-デジタル変換器と、時間-デジタル変換器の出力に応じた周波数で発振し、出力クロックを生成するデジタル制御発振器と、オン、オフが切り替え可能であり、オン状態において、出力クロックを周波数制御ワードに応じた分周比で分周する分周器と、を備える。第1モードと第2モードが切り替え可能であり、第1モードにおいて、フィードバッククロックは、分周器の出力を出力クロックでリタイミングした信号であり、第2モードにおいて、フィードバッククロックは、第1基準クロックを出力クロックでリタイミングした信号である。
【0014】
本発明に関連する態様は、デジタル制御発振器である。このデジタル制御発振器は、電源ラインと接地ラインの間に直列に接続された上側ユニットと下側ユニットと、上側ユニットと下側ユニットの少なくとも一方と接続される可変キャパシタと、を備える。上側ユニットおよび下側ユニットはそれぞれ、クロスカップルされた回路要素のペアと、回路要素のペアと接続されるインダクタと、を含む。上側ユニットと下側ユニットのインダクタが結合されてトランスが形成される。
【0015】
本発明に関連するさらに別の態様は、デジタル-時間変換器である。このデジタル-時間変換器は、入力信号を受け、制御コードに応じた遅延を与え、出力信号を生成するデジタル-時間変換器であって、キャパシタと電流源を含み、スロープ電圧を生成するスロープ発生回路と、キャパシタに、制御コードに応じたアナログ電圧を印加するプリチャージ回路と、スロープ電圧をしきい値と比較し、比較結果に応じた出力信号を生成する比較回路と、入力信号と出力信号に応じて、スロープ発生回路およびプリチャージ回路を制御する制御回路と、を備える。制御回路は、(i)プリチャージ期間においてプリチャージ回路をオンとし、(ii)入力信号に応答してスロープ期間に遷移し、スロープ期間においてプリチャージ回路をオフ、スロープ発生回路をオンとし、(iii)出力信号の遷移に応答してスロープ発生回路をオフする動作を繰り返す。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある態様によれば、消費電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】分数分周型(Fractional-N)のD-PLL回路の基本アーキテクチャを示す回路図である。
図2図1のD-PLL回路のタイムチャートである。
図3】実施の形態に係るD-PLL回路の基本アーキテクチャを示す回路図である。
図4】サブサンプリングモード(EN=0)におけるD-PLL回路の等価回路図である。
図5】サブサンプリングモードにおけるD-PLL回路のタイムチャートである。
図6図6(a)、(b)は、サンプリングモードとサブサンプリングモードにおけるD-PLL回路の動作を対比して示すタイムチャートである。
図7】サブサンプリングモードにおけるD-PLL回路の出力周波数fOUTの波形図である。
図8】実施例1に係るD-PLL回路の回路図である。
図9図9(a)、(b)は、図8のD-PLL回路におけるモードセレクタの動作を説明する図である。
図10】実施例2に係るD-PLL回路の回路図である。
図11】D-PLL回路におけるモードセレクタの動作を説明する図である。
図12図8のD-PLL回路の出力周波数fOUTの波形図である。
図13】実施例3に係るD-PLL回路の回路図である。
図14図14(a)、(b)は、従来のDCOの回路図である。
図15】実施の形態に係るDCOの基本アーキテクチャを示す回路図である。
図16図15のDCOの等価回路図である。
図17】バイアス電流IBIASと出力信号の振幅VAMPの関係を示す図である。
図18】変形例1に係るDCOの回路図である。
図19】変形例2に係るDCOの回路図である。
図20図20(a)~(f)は、DCOのさらなる変形例を示す回路図である。
図21】従来のDTCの回路図である。
図22図21のDTCの動作波形図である。
図23】実施の形態に係るDTCの回路図である。
図24】制御回路の構成例を示す回路図である。
図25図23のDTCの動作を説明するタイムチャートである。
図26】本実施の形態に係るDTCの動作波形(i)と、従来のDTCの動作波形(ii)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態の概要)
1. 本明細書に開示される一実施の形態は、第1基準クロックを受け、出力クロックを生成する位相同期回路に関する。位相同期回路は、第1基準クロックを遅延させ、第2基準クロックを生成する遅延回路と、第2基準クロックと、フィードバッククロックの位相差に応じた制御信号を生成するフィードバック回路と、制御信号に応じた周波数で発振し、出力クロックを生成する発振器と、オン、オフが切り替え可能であり、オン状態において、出力クロックを分周する分周器と、を備える。この位相同期回路は、第1モードと第2モードが切り替え可能であり、第1モードにおいて、フィードバッククロックは、分周器の出力を出力クロックでリタイミングした信号である。第2モードにおいて、フィードバッククロックは、第1基準クロックを出力クロックでリタイミングした信号である。
【0020】
この態様によると、第2モードを選択することにより、分周器の動作を停止させ、第2基準クロックをフィードバッククロックとして位相同期をかけることにより、消費電力を低減できる。また必要に応じて第1モードを選択することにより、位相同期が外れた場合に、位相同期状態に復帰させることができる。
【0021】
一実施例において、位相同期回路は、第1モードと第2モードを指示するイネーブル信号を生成するモードコントローラと、分周器の出力と第1基準クロックを受け、イネーブル信号に応じた一方を選択するマルチプレクサと、マルチプレクサの出力を出力クロックによってリタイミングするリタイミング回路と、を備えてもよい。分周器のオン、オフはイネーブル信号に応じて制御され、リタイミング回路の出力がフィードバッククロックであってもよい。
【0022】
一実施例において、位相同期回路は、第2基準クロックとフィードバッククロックの位相誤差が、デッドゾーンの範囲に含まれるか否かを判定するデッドゾーンディテクタをさらに備え、第1モードと第2モードは、デッドゾーンディテクタの出力に応じていてもよい。これにより、位相同期がかからないモードに陥るのを防止できる。
【0023】
一実施例において、デッドゾーンディテクタは、第2基準クロックとフィードバッククロックの位相差あるいは周波数差を比較し、比較結果にもとづくパルスを出力する位相周波数検出器と、位相周波数検出器の出力にもとづいて位相誤差を生成し、位相誤差がデッドゾーンに含まれるか否かを判定する判定部と、を含んでもよい。
【0024】
一実施例において、デジタル位相同期回路は、出力クロックの周波数と、入力基準クロックの周波数の関係を監視し、出力クロックの周波数が、分周器の分周比にもとづいて決まる目標周波数から逸脱する周波数エラーを検出する周波数ロックループをさらに備えてもよい。第1モードと第2モードは、周波数ロックループの出力に応じていてもよい。これにより、誤った周波数で位相ロックがかかるのを防止できる。
【0025】
周波数ロックループは、入力基準クロックの周期のK倍(Kは整数)の期間、出力クロックをカウントするカウンタを含んでもよい。カウンタのカウント値と、分周比の逆数である逓倍比をK倍した値と、にもとづいて、周波数エラーを検出してもよい。
【0026】
一実施例において、位相同期回路は、所定のデューティ比を有する制御パルスを生成するデューティサイクルコントローラをさらに備えてもよい。周波数ロックループは、制御パルスに応じて間欠動作してもよい。周波数ロックループを間欠動作させることにより、消費電力の増加を抑制できる。
【0027】
一実施例において、デジタル位相同期回路は、第2基準クロックとフィードバッククロックの位相差あるいは周波数差を比較し、比較結果にもとづくパルスを出力する位相周波数検出器と、第1モードにおいて動作状態となり、位相周波数検出器の出力にもとづいて、デジタル制御発振器の周波数をフィードバック制御するPLL(Phase Locked Loop)回路と、をさらに備えてもよい。位相周波数検出器とPLL回路を含むフィードバックループの精度は、フィードバック回路の精度より粗くてもよい。これにより、位相ロックが外れた状態からロック状態に素早く引き込むことが可能となる。
【0028】
位相同期回路は、デジタル位相同期回路であってもよい。フィードバック回路は、第2基準クロックと、フィードバッククロックの位相差をデジタル信号に変換する時間-デジタル変換器を含んでもよい。発振器は、時間-デジタル変換器の出力に応じた周波数で発振するデジタル制御発振器であってもよい。
【0029】
位相同期回路は分数分周型であってもよい。分周器はマルチモデュラス分周器であってもよい。位相同期回路は、入力基準クロックを受け、第1基準クロックを生成するデジタル-時間変換器と、出力クロックの周波数を指定する周波数制御ワードに応じて、デジタル-時間変換器とマルチモデュラス分周器を制御するコントローラと、をさらに備えてもよい。
【0030】
2. 本発明に関連する態様は、デジタル制御発振器である。このデジタル制御発振器は、電源ラインと接地ラインの間に直列に接続された上側ユニットと下側ユニットと、上側ユニットと下側ユニットの少なくとも一方と接続される可変キャパシタと、を備える。上側ユニットおよび下側ユニットはそれぞれ、クロスカップルされた回路要素のペアと、回路要素のペアと接続されるインダクタと、を含む。上側ユニットと下側ユニットのインダクタが結合されてトランスが形成される。
【0031】
この構成によれば、トランスによるゲイン増幅の効果によって、同じ振幅を得るためのバイアス電流を減らすことができ、あるいはバイアス電流を維持した場合に振幅を増大できる。
【0032】
上側ユニットと下側ユニットの少なくとも一方は、回路要素のペアがNMOS(N-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタであるN型であってもよい。上側ユニットと下側ユニットの両方がN型であってもよい。
【0033】
上側ユニットと下側ユニットの少なくとも一方は、回路要素のペアがPMOS(P-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタであるP型であってもよい。
【0034】
上側ユニットと下側ユニットの少なくとも一方は、回路要素のペアが、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)インバータであるCMOS型であってもよい。
【0035】
デジタル制御発振器は、電源ラインと接地ラインの間に挿入されたバイアス電流源をさらに備えてもよい。
【0036】
デジタル制御発振器は、上側ユニットと下側ユニットの接続ノードに接続されるキャパシタをさらに備えてもよい。
【0037】
3. 本発明に関連するさらに別の態様は、デジタル-時間変換器である。このデジタル-時間変換器は、入力信号を受け、制御コードに応じた遅延を与え、出力信号を生成する。デジタル-時間変換器は、キャパシタと電流源を含み、スロープ電圧を生成するスロープ発生回路と、キャパシタに、制御コードに応じたアナログ電圧を印加するプリチャージ回路と、スロープ電圧をしきい値と比較し、比較結果に応じた出力信号を生成する比較回路と、入力信号と出力信号に応じて、スロープ発生回路およびプリチャージ回路を制御する制御回路と、を備える。制御回路は、(i)プリチャージ期間においてプリチャージ回路をオンとし、(ii)入力信号に応答してスロープ期間に遷移し、スロープ期間においてプリチャージ回路をオフ、スロープ発生回路をオンとし、(iii)出力信号の遷移に応答してスロープ発生回路をオフする動作を繰り返す。
【0038】
この態様によると、キャパシタへの無駄な充放電を抑制することで、消費電力を低減できる。
【0039】
比較回路は、オン、オフが切り替え可能に構成され、制御回路は、プリチャージ期間において比較回路をオフしてもよい。
【0040】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0041】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0042】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0043】
(D-PLL回路)
図3は、実施の形態に係るD-PLL回路100の基本アーキテクチャを示す回路図である。D-PLL回路100は、分数分周型のPLL回路であり、入力基準クロックREFおよび周波数制御ワードFCWを受け、入力基準クロックREFの周波数Fの分数倍の周波数を有する出力クロックOUTを発生する。
【0044】
D-PLL回路100は、図1のD-PLL回路100Rに加えて、マルチプレクサ120、遅延回路122、モードセレクタ130をさらに備える。またMMD112Aは、イネーブル/ディセーブル(オン/オフ)が切り替え可能に構成される。
【0045】
D-PLL回路100は、2つのモード(サンプリングモードとサブサンプリングモードと称する)が切り替え可能であり、2つのモードは、イネーブル信号ENに応じて選択される。イネーブル信号ENが1(ハイ)のとき、D-PLL回路100はサンプリングモードにセットされ、イネーブル信号ENが0(ロー)のとき、サブサンプリングモードにセットされる。
【0046】
マルチプレクサ120は、MMD112の出力である分周クロックDIVと、DTC102が出力する第1基準クロックREFAを受け、イネーブル信号ENに応じた一方を選択する。マルチプレクサ120の出力が、リタイミング回路116によって、リタイミングされ、フィードバッククロックFBとなる。リタイミングには、バッファ110を経由した出力クロックCKVを用いることができる。なお、DCO108の出力インピーダンスが十分に低い場合、バッファ110は省略してもよい。
【0047】
ここではイネーブル信号ENが1(ハイ)のとき、フィードバッククロックFBは分周クロックDIVにもとづいて生成され、0(ロー)のとき第1基準クロックREFAにもとづいてフィードバッククロックFBが生成される。
【0048】
MMD112Aの機能は、図1のそれと同じであるが、イネーブル信号ENに応じて、オン、オフが切り替え可能に構成される。たとえばMMD112Aは、図1のMMD112に加えてゲート回路113を含む。ゲート回路113は、MMD112の前段に挿入され、イネーブル信号ENに応じて、クロック信号CKVをゲーティングする。すなわち、イネーブル信号ENが1のとき、ゲート回路113を通過したクロックCKGが、MMD112に入力され、MMD112がイネーブルとなる。EN信号が0のとき、クロックCKGはローに固定され、したがってMMD112はディセーブルとなる。
【0049】
遅延回路122は、DTC102の後段に挿入され、第1基準クロックREFAに、遅延τFBを与え、第2基準クロックREFBを出力する。TDC104は、第2基準クロックREFBのエッジと、フィードバッククロックFBのエッジが一致するように、フィードバックがかかる。
【0050】
モードセレクタ130は、D-PLL回路100の動作状態にもとづいて、イネーブル信号ENを生成し、D-PLL回路100のモードを制御する。
【0051】
以上がD-PLL回路100の基本構成である。続いてその動作を説明する。図4は、サブサンプリングモード(EN=0)におけるD-PLL回路100の等価回路図である。サブサンプリングモードでは、MMD112の動作が停止する。第1基準クロックREFAの周波数と、分周クロックDIVの周波数は等しいから、分周クロックDIVに代えて、第1基準クロックREFAがリタイミング回路116に入力される。そして、リタイミング回路116は、クロック信号CKVのエッジで、第1基準クロックREFAをリタイミングし、フィードバッククロックFBを生成する。
【0052】
図5は、サブサンプリングモードにおけるD-PLL回路100のタイムチャートである。サブサンプリングモードでは、分周クロックDIVに代えて、第1基準クロックREFAが、クロックCKVによってリタイミングされる。リタイミング回路116におけるサンプリング遅延τSAMによって、フィードバッククロックFBのエッジEは、クロックCKVのエッジEに対して、τSAMだけ遅延している。TDC104およびDLF106を含むフィードバックループによって、第2基準クロックREFBのエッジEとフィードバッククロックFBのエッジEの時間差がゼロとなるようにフィードバックがかかり、位相がロックされる。
【0053】
サブサンプリングモードでは、フィードバッククロックFBを、第1基準クロックREFAのリタイミングにより生成する関係上、フィードバッククロックFBのエッジは、第1基準クロックREFAのエッジよりも遅れることになる。したがってフィードバックをかけても、フィードバッククロックFBのエッジ(位相)を、第1基準クロックREFAのエッジに揃えることはできない。そこで、リタイミングによりフィードバッククロックFBを生成する際の位相の遅れを考慮して、それを相殺できるように遅延回路122の遅延量τFBを定めることにより、第2基準クロックREFBの位相(=REFA+τFB)と、リタイミングにより遅れたフィードバッククロックFBの位相(=REFA+Δt+τSAM)が、クロック信号CKVの1周期以内に含まれることとなり、位相同期をかけることが可能となる。
【0054】
図6(a)、(b)は、サンプリングモードとサブサンプリングモードにおけるD-PLL回路100の動作を対比して示すタイムチャートである。図6(a)のサンプリングモードの動作は、図2のそれと同様である。相違点は、フィードバッククロックFBの位相が、第1基準クロックREFAではなく、第2基準クロックREFBの位相を基準としてロックされる点である。図6(b)のサブサンプリングモードの動作は図5と同様である。
【0055】
以上がD-PLL回路100の動作である。続いてその利点を説明する。D-PLL回路100をサブサンプリングモードで動作させると、MMD112の動作が停止するため、サンプリングモードに比べて消費電力を格段に低減することができる。
【0056】
なお、サブサンプリングモードは、出力クロックOUTの周波数fOUTが、その目標値(=fREF×N)にロックされた後は、低消費電力で位相同期を維持することができるが、fOUT≠fREF×Nの状態から、fOUT=fREF×Nの状態に遷移させることができない。これはMMD112を使用しないため、逓倍比Nが回路動作に関与しないためである。
【0057】
そこで、モードセレクタ130によって、D-PLL回路100の動作状態を監視し、起動時や、位相同期が外れた状況では、一時的にイネーブル信号ENをハイ(1)にして、サンプリングモードに設定することにより、fOUT=fREF×Nの状態に遷移させることができる。
【0058】
以上が実施の形態に係るD-PLL回路100の基本アーキテクチャである。続いて、D-PLL回路100の具体的な実装を、いくつかの実施例を参照して説明する。
【0059】
はじめに、サブサンプリングモードで生じうる問題を説明する。図7は、サブサンプリングモードにおけるD-PLL回路100の出力周波数fOUTの波形図(シミュレーション)である。fREF=10MHz、N=240+0.5である。位相同期状態では、出力周波数fOUTは、2405MHz(=2.405GHz)に安定化される。
【0060】
図7には、-1MHz、+6MHz,+11MHzの周波数妨害を注入したときの波形(i)~(iii)が示される。(i)に示すように、-1MHzの周波数妨害が導入された場合は、位相同期状態を維持することができる。
【0061】
サブサンプリングモードでは、幅が広い第1基準クロックREFAを、クロックCKVでリタイミングすることに起因して、リタイミングに使用されるクロックCKVのエッジが、前後する。そのため、図7の(ii)で示すように、N'=241+0.5の状態で誤ってロックする可能性がある。あるいは、図7の(iii)で示すように、位相同期がかからず、周波数が振動するような状況に陥る可能性がある。
【0062】
つまり、モードセレクタ130は、D-PLL回路100の状態を監視して、図7の(ii)や(iii)の状況に陥らないように、D-PLL回路100のモードを制御できるように実装する必要がある。
【0063】
(実施例1)
図8は、実施例1に係るD-PLL回路100Aの回路図である。この実施例においてモードセレクタ130Aは、図7の波形(iii)で示すような、位相同期しない状態を検出可能に構成される。
【0064】
モードセレクタ130Aは、デッドゾーンディテクタ140およびステートマシン132を含む。デッドゾーンディテクタ140は、REFBとFBの位相誤差tERRが、デッドゾーンtDZの範囲に含まれるか否かを判定し、範囲外であるとき第1レベル(たとえばハイ、1)、範囲内であるとき第2レベル(たとえばロー、0)となる検出信号ODZ(Out of Dead Zone)を生成する。
【0065】
デッドゾーンディテクタ140の構成は特に限定されないが、たとえば位相周波数検出器(PFD:Phase Frequency Detector)142および判定部144を含む。PFD142は、第2基準クロックREFBとフィードバッククロックFBの位相差あるいは周波数差を比較し、比較結果にもとづく2個のパルス(UPパルス、DNパルス)を出力する。
【0066】
判定部144は、PFD142の出力UP/DNを受け、それらにもとづいて位相誤差tERRを生成する。そして位相誤差tERRが、デッドゾーンに含まれるか否かを判定し、ODZ信号を出力する。
【0067】
ステートマシン132は、ODZ信号を、基準クロックREFと同期させて、イネーブル信号ENを生成する。ステートマシン132は、フリップフロップで構成することができる。
【0068】
以上がD-PLL回路100Aの構成である。続いてその動作を説明する。図9(a)、(b)は、図8のD-PLL回路100Aにおけるモードセレクタ130Aの動作を説明する図である。図9(a)は、デッドゾーンディテクタ140の入出力特性を示す。
【0069】
図9(b)は、D-PLL回路100A全体の動作を示す。時刻tより前は、サブサンプリングモードで動作している。何らかの要因で、フィードバッククロックFBと基準クロックREFBの位相誤差tERRがデッドゾーンtDZの範囲から外れると、ODZ信号が周期的にハイとなり、イネーブル信号ENがハイ(1)となる。その結果、サンプリングモードに切り替わる。サンプリングモードで動作すると、位相誤差tERRが小さくなり、時刻tに、デッドゾーンtDZの範囲内に戻ると、ODZ信号はローに戻る。これによりイネーブル信号ENがローとなって、サブサンプリングモードに移行する。
【0070】
以上がD-PLL回路100Aの動作である。デッドゾーンディテクタ140を実装してバックグランドで動作させることにより、図7の(iii)のように位相同期できない状況に陥るのを防止できる。
【0071】
(実施例2)
図10は、実施例2に係るD-PLL回路100Bの回路図である。この実施例において、モードセレクタ130Bは、図7の波形(ii)で示すような、整数倍の周波数ジャンプを検出可能に構成される。
【0072】
モードセレクタ130Bは、デッドゾーンディテクタ140、ステートマシン132に加えて、間欠動作周波数ロックループ(FLL:Frequency Locked Loop)150を備える。間欠動作FLLを、DC-FLL(Duty Cycled FLL)とも表記する。
【0073】
間欠動作FLL150は、FLL152およびデューティサイクルコントローラ154を含む。
【0074】
FLL152は、イネーブルとディセーブルが切り替え可能に構成される。FLL152は、イネーブル状態において、クロック信号CKV(OUT)の周波数と、基準クロックREFの周波数の関係を監視し、クロック信号CKVの周波数が、FCWにもとづいて決まる目標周波数から逸脱すると、周波数ロックエラー信号FLEをアサート(たとえばハイ)する。裏を返すと、FLL152は、基準クロックREFの周期が、クロック信号CKVの周期の何倍であるかを監視し、FCWにもとづく逓倍比と一致するか否かを判定する。ステートマシン132は、周波数ロックエラー信号FLEのアサートに応答して、イネーブル信号ENをハイに切り替える。
【0075】
FLL152の構成は限定されないが、たとえば周波数検出器160、減算器170、比較器172を含む。周波数検出器160は、基準クロックREFの周期の整数倍(この例ではK=4倍)の間、クロック信号CKVをカウントする。周波数ロックした状態では、このカウント値は、FCW(逓倍数)のK倍となる。
【0076】
周波数検出器160は、分周器162、Dフリップフロップ164、168、カウンタ166を含む。分周器162は、基準クロックREFを1/K分周(K=4)する。分周されたクロックは、フリップフロップ164においてクロックCKVと同期される。カウンタ166は、クロックCKVのパルス数をカウントする。フリップフロップ168は、分周器162の出力のタイミングで、カウンタ166のカウント値を取り込む。フリップフロップ168の出力は、基準クロックREFの周期のK倍の期間に、クロックCKVが何個含まれるかを示す。
【0077】
減算器170は、フリップフロップ168の出力と、その目標値(K×FCW)の差分(周波数誤差)を算出する。比較器172は、減算器170の出力をしきい値と比較し、周波数誤差が許容値を超える場合に、周波数ロックエラー信号FLEをアサートする。
【0078】
FLL152は高周波信号(fOUT=2.4GHz)で動作するカウンタ166を含むため、常時動作させておくと、消費電力が大きくなる。そこで、デューティサイクルコントローラ154によって、所定のデューティ比を有する制御パルスDCを生成し、この制御パルスDCにもとづいてFLL152を間欠動作させる。たとえばデューティ比は1%以下、たとえば0.5%程度とすることができる。これにより、FLL152の消費電力を削減できる。
【0079】
以上がD-PLL回路100Bの構成である。続いてその動作を説明する。図11は、D-PLL回路100Bにおけるモードセレクタ130Bの動作を説明する図である。
【0080】
間欠動作FLL150は、所定の周期でオン、オフを繰り返す。そして、オンの期間において、周波数エラーが検出されると、サンプリングモードに遷移し、周波数ロックするように動作する。
【0081】
図11には、D-PLL回路100Bの消費電力が示される。間欠動作FLL150の停止期間中の消費電力はたとえば262μWである。間欠動作FLL150の動作期間中は、D-PLL回路100Bの消費電力が跳ね上がる(たとえば762μW)が、デューティ比が0.5%であるとき、平均の消費電力PAVEは265μWであり、わずかに3μWの増加に抑えることができる。
【0082】
以上がD-PLL回路100Bの動作である。モードセレクタ130Bによれば、整数倍の周波数ジャンプを検出でき、その場合にサンプリングモードで動作させることにより、図7の(ii)のように誤った状態で位相同期し続けるのを防止できる。なお、図10のモードセレクタ130Bは、間欠動作FLL150に加えてデッドゾーンディテクタ140を備えるため、実施例1と同様に、図7(iii)の状態に陥るのも防止することができる。
【0083】
図12は、図8のD-PLL回路100Bの出力周波数fOUTの波形図(シミュレーション)である。図7と同様に、-1MHz、+6MHz,+11MHzの周波数妨害が注入したときの波形(i)~(iii)が示される。(i)に示すように、-1MHzの周波数妨害が導入された場合は、位相同期状態を維持することができる。
【0084】
(ii)に示すように、+11MHzの周波数妨害が導入された場合は、間欠動作FLL150デッドゾーンディテクタ140によって異常状態を検出し、サンプリングモードに切り替えることにより、正しい位相同期状態に戻すことができる。なお、波形(ii)において、周波数が高い状態がしばらく持続しているが、これは間欠動作FLL150を間欠動作させることに起因する検出遅延である。
【0085】
(iii)に示すように、+6MHzの周波数妨害が導入された場合は、デッドゾーンディテクタ140によって異常状態を検出し、サンプリングモードに切り替えることにより、正しい位相同期状態に戻すことができる。
【0086】
(実施例3)
図13は、実施例3に係るD-PLL回路100Cの回路図である。D-PLL回路100Cには、精度の荒い(Coarse)第2PLL回路180が追加されている。第2PLL回路180には、イネーブル信号ENがハイのときにクロックCKGが供給される。第2PLL回路180は、イネーブル信号ENがハイの期間、つまりサブサンプリングモードにおいて動作状態となり、PFD182の出力(UP/DN)にもとづいて、DCO108の周波数をフィードバック制御する。つまり図13のD-PLL回路100Cは、TDC104およびDLF106を含む精度の高い(Fine)フィードバックループと、PFD182および第2PLL180を含む精度の粗い(Coarse)フィードバックループが並列動作する。PFD182は、モードセレクタ130に内蔵されるPFD142を流用することができる。なお実施例3においてモードセレクタ130の構成は限定されず、実施例1、2あるいはその他の構成を採用することができる。
【0087】
実施例3によれば、粗い第2PLL180を追加することにより、サブサンプリングモードにおいて、位相の引き込み速度を高速化することができる。
【0088】
続いてD-PLL回路100の変形例を説明する。
【0089】
(変形例1)
図10のモードセレクタ130Bからデッドゾーンディテクタ140を省略した回路も、一実施例として有効である。この場合、位相同期がかからないエラーを、別の手法によって対処すればよい。
【0090】
(変形例2)
実施の形態では、分数分周型(Fractional-N)のPLLについて説明したがその限りでなく、整数分周型(Integer-N)にも本発明は適用可能である。この場合、DTC102とコントローラ114を削除し、MMD112を単なる分周器(Divider)に置き換えればよい。
【0091】
(変形例3)
また本発明は、D-PLL回路のみでなく、アナログPLL回路にも適用可能である。この場合、TDC104、DLF106、DCO108のセットを、位相周波数比較器(PFD)、チャージポンプ回路、アナログループフィルタ、電圧制御発振器(VCO)に置き換えればよい。
【0092】
(DCO)
D-PLL回路100において、あるいはその他のアプリケーションにおいて、DCOは重要な要素技術である。図14(a)、(b)は、従来のDCO200Rの回路図である。DCO200Rは、CMOSオシレータであり、入出力がクロスカップルされたインバータのペア202,204と、インバータのペア202,204の出力間に設けられたタンク回路206、インバータのペア202,204にバイアス電流を供給する電流源208を備える。タンク回路206は、インダクタLと可変キャパシタCを含む並列共振回路である。抵抗Rsは、インダクタLの直列抵抗成分である。可変キャパシタCの容量値は、デジタル制御可能となっており、DCO200Rは、タンク回路206のインピーダンスに応じた発振周波数で発振する。
【0093】
図14(b)には、タンク回路206の等価回路が示される。この等価回路における等価並列抵抗RTANKは、RTANK=ωL・Qで与えられる。Qは、図12のLC共振回路のQ値であり、Q=ωL/Rsで表される。
【0094】
図14(a)のDCO200Rの出力の振幅VAMPは、式(1)で表され、等価並列抵抗RTANKおよびバイアス電流IBIASに比例する。
AMP≒4/π×RTANK×IBIAS …(1)
【0095】
DCO200Rの消費電力を削減するためにはバイアス電流IBIASを減らす必要がある。ところがDCO200Rを安定的に発振させるためには、出力の振幅VAMPをある程度大きくする必要があるため、バイアス電流IBIASの減少と引き換えに、抵抗RTANKを増加させる必要がある。しかしながら、タンク回路206をMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)化してCMOS回路と同じチップに集積化する場合、抵抗RTANKのはせいぜい200~1000Ω程度である。
【0096】
したがって、図14(a)のDCO200Rの消費電力は、タンク回路のインピーダンスによって制約を受けてしまう。以下では、消費電力をさらに低減することが可能な新規なDCOについて説明する。
【0097】
図15は、実施の形態に係るDCO200の基本アーキテクチャを示す回路図である。DCO200は、上側ユニット210と、下側ユニット220を備える。上側ユニット210は、クロスカップルされた回路要素のペア212,214と、タップT1が設けられたインダクタ(一次巻線)L1と、を含む。インダクタL1は、回路要素のペア212,214の出力の間(入力の間)に接続される。インダクタL1のタップT1は電源VDDと直接接続され、あるいは後述のようにバイアス電流源が接続される。
【0098】
図15において、回路要素212,214は、NMOSトランジスタであり、NMOSトランジスタのソース同士は、基準ノード216と接続される。
【0099】
同様に下側ユニット220は、クロスカップルされた回路要素のペア222,224と、タップT2が設けられたインダクタL2(二次巻線)と、を含む。インダクタL2は、回路要素のペア222,224の出力の間(入力の間)に接続される。
【0100】
下側ユニット220のタップT2は、上側ユニット210の基準ノード216と接続される。この基準ノード216はキャパシタ242と接続され、仮想接地となる。このノードをCENと表記する。
【0101】
回路要素222,224もまた、NMOSトランジスタであり、NMOSトランジスタのソース同士は共通に接続される。NMOSトランジスタ222,224のソースは、基準ノード226と接続される。基準ノード226にはバイアス電流源240と接続される。
【0102】
図15の上側ユニット210、下側ユニット220のように、クロスカップルされた回路要素がNMOSトランジスタであるものを、N型ユニットと称する。
【0103】
上側ユニット210のインダクタL1と、下側ユニット220のインダクタL2は結合されており、トランス230を形成している。インダクタL1の巻線Lsと、インダクタL2の巻線Lpの結合係数をkとする。
【0104】
上側ユニット210には、可変キャパシタCvが接続される。可変キャパシタCvは、トランス230とともにLCタンク回路を形成しており、DCO200は、可変キャパシタCvの容量値に応じた周波数で発振する。出力の取り出し箇所は特に限定されないが、たとえば、下側ユニット220のNMOSトランジスタ222,224のドレインから取り出してもよい。
【0105】
以上がDCO200の基本構成である。続いてその動作を説明する。図16は、図15のDCO200の等価回路図である。Nは、受動ゲインであり、結合係数kを用いて、N=k√(Ls/Lp)で表される。
【0106】
図16において、出力信号OUTPの振幅VAMPは、式(2)で表される。
AMP≒4/π×IBIAS×RTANKP×GTF …(2)
TFは、トランス230によるゲインであり、式(3)で表される。
TF=k・Ls/Lp+k√(Ls/Lp)+RTANKS/RTANKP …(3)
TFは、たとえば2以上の値をとることができ、本発明者らが設計した回路ではGTF=4.35であった。
【0107】
図17は、バイアス電流IBIASと出力信号の振幅VAMPの関係を示す図(シミュレーション)である。(i)は、図15のDCO200の特性を、(ii)は、従来のDCO200Rの特性を示す。同じバイアス電流で比較すると、図15のDCO200によれば、従来比で46%も振幅を大きくできる。言い換えれば、同じ振幅を得るために必要なバイアス電流を大幅に削減できる。
【0108】
続いてDCO200の変形例を説明する。
【0109】
図18は、変形例1に係るDCO200Aの回路図である。この変形例1では、下側ユニット220は、図15の下側ユニット220と同様にN型であるが、上側ユニット210がP型ユニットに置換されている。
【0110】
P型ユニットは、N型ユニットにおける回路要素212,214のペアをPMOSトランジスタに置換して、天地を反転した構成である。具体的にはインダクタL1は、PMOSトランジスタ212,214のドレインの間に接続され、インダクタL1のタップが仮想接地ラインCENと接続される。またPMOSトランジスタ212,214のソースが基準ノード216となり、電源電圧VDDが供給される。
【0111】
図19は、変形例2に係るDCO200Bの回路図である。この変形例2では、上側ユニット210および下側ユニット220が、CMOS型(プッシュプル型)ユニットで構成される。
【0112】
CMOS型ユニットは、クロスカップルされる回路要素のペアが、CMOSインバータである。またインダクタLのタップは省略することができる。
【0113】
図20(a)~(f)は、DCO200のさらなる変形例を示す回路図である。図20(a)~(f)において、NはN型ユニットを、PはP型ユニットを、CはCMOS型ユニットを表す。
【0114】
上側ユニット210と下側ユニット220の組み合わせは、上述のそれらに限定されない。図20(a)は、上側ユニット210がCMOS型、下側ユニット220がNMOS型である。図20(b)は、上側ユニット210、下側ユニット220がともにPMOS型である。図20(c)は、上側ユニット210がNMOS型、下側ユニット220がCMOS型である。図20(d)は、上側ユニット210がPMOS型、下側ユニット220がCMOS型である。
【0115】
図20(e)に示すように、バイアス電流源240を省略してもよいし、図20(f)に示すように電源側に設けてもよい。
【0116】
またDCO200の出力信号は、上側ユニット210側から取り出してもよいし、下側ユニット220側から取り出してもよい。また可変キャパシタCvを、下側ユニット220側に接続してもよい。
【0117】
(TDC)
D-PLL回路100において、あるいはその他のアプリケーションにおいて、デジタル-時間変換器(DTC)もまた重要な要素技術である。
【0118】
図21は、従来のDTC300Rの回路図である。このDTC300Rは、シングルスロープ(Single Slope)DTCと称される。DTC300Rは、充電回路302、キャパシタ304、スイッチS1~S3、インバータ306,308、DAC(D/Aコンバータ)310を備える。DTC300Rは、入力信号INに、デジタルの制御コードCODEに応じた遅延を与え、出力する。DAC309は、制御コードCODEに応じたアナログ電圧VDACを出力する。充電回路302は、第1スイッチS1がオンの状態においてキャパシタ304を充電する。インバータ306は、キャパシタ304の電圧Vを、しきい値VTH(=VDD/2)と比較する比較手段(比較回路)として機能する。第3スイッチS3は、オン状態において、キャパシタ304を放電し、電圧Vを初期化する。
【0119】
図22は、図21のDTC300Rの動作波形図である。時刻tに、第3スイッチS3がオンとなりキャパシタ304が放電され、電圧Vが初期化される。
【0120】
時刻tに第2スイッチS2がオンとなり、キャパシタ304がDAC309の出力電圧VDACによって充電される。これによりV=VDACとなる。
【0121】
時刻tに、入力信号INに応答して、第1スイッチS1がオンとなる。その結果、充電回路302の電流Iによってキャパシタ304が充電され、電圧Vがリニアに増大する。
【0122】
時刻tに、電圧Vがしきい値VTHに達すると、出力OUTが変化する。入力INに対する出力OUTの遅延量τは、
τ=(VTH-VDAC)×C/I
となる。Cはキャパシタ304の容量である。
【0123】
本発明者は、図21のDTC300Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0124】
すなわち、図22のタイムチャートから分かるように、充電回路302が生成する電流のうち、遅延Delayに寄与するのは一部分だけであり、残りは無駄となっている。本発明者らが検討したところ、期間T1とT2において、電流源により58%もの電力が消費されている。
【0125】
言い換えれば、DTC300Rには、消費電力削減の余地があるといえる。以下では、消費電力を削減したDTCについて説明する。
【0126】
図23は、実施の形態に係るDTC300の回路図である。DTC300は、スロープ発生回路310、プリチャージ回路320、比較手段(比較回路)330、制御回路340を備える。
【0127】
スロープ発生回路310は、キャパシタ312、電流源314および第1スイッチS1を含む。電流源314は、キャパシタ312に定電流Icを供給し、キャパシタ312に、一定の傾きで変化するスロープ電圧Vを発生させる。第1スイッチS1は、定電流Icをカットオフするために設けられる。第1スイッチS1は、電流源314の内部に組み込んでもよい。
【0128】
プリチャージ回路320は、キャパシタ312に、制御コードCODEに応じたアナログ電圧VDACを印加する。プリチャージ回路320は、D/Aコンバータ322と第2スイッチS2を含む。第2スイッチS2がオンのとき、D/Aコンバータ322の出力電圧VDACがキャパシタ312に印加され、第2スイッチS2がオフのとき、D/Aコンバータ322はキャパシタ312から切り離される。なおD/Aコンバータ322が、出力がハイインピーダンスの状態を取り得る場合、第2スイッチS2は省略し、D/Aコンバータ322を制御することで、第2スイッチS2がオフの状態を実現してもよい。
【0129】
比較手段330は、キャパシタ312に生ずるスロープ電圧Vをしきい値VTHと比較し、比較結果に応じた出力信号OUTを生成する。比較手段330は、カスケードに接続された二段のインバータ332,334を含んでもよい。初段のインバータ332によって、スロープ電圧Vがインバータ332のしきい値と比較され、比較結果に応じた2値の信号に変換される。後段のインバータ334は、信号の論理値を変換し、および/または負荷を駆動するのに十分な低インピーダンスを提供するために設けられている。
【0130】
好ましくは比較手段330は、オン、オフが切り替え可能に構成され、そのために第3スイッチS3が設けられる。第3スイッチS3は、インバータ332と接地の間に設けられる。第3スイッチS3は、電源ライン側に挿入してもよい。
【0131】
制御回路340は、入力信号INと出力信号OUTに応じて、スロープ発生回路310およびプリチャージ回路320を制御する。
【0132】
制御回路340は、プリチャージ期間においてプリチャージ回路320をオンとする。具体的には第2スイッチS2をオンとする。これにより、キャパシタ312が、電圧VDACにより充電される。プリチャージ期間の長さは、D/Aコンバータ322の出力インピーダンスとキャパシタ312の容量Cに応じて決まる時定数、言い換えれば充電に要する時間を考慮して決めればよい。
【0133】
また制御回路340は、プリチャージ期間において比較手段330をオフする。具体的には第3スイッチS3をオフとする。
【0134】
また制御回路340は、入力信号INに応答してスロープ期間に遷移する。制御回路340は、スロープ期間においてプリチャージ回路320をオフ、スロープ発生回路310をオンとする。具体的には、第2スイッチS2をオフ、第1スイッチS1をオン、第3スイッチS3をオンとする。
【0135】
スロープ期間において、スロープ発生回路310がオンとなると、スロープ電圧Vが一定の傾きで変化する。そしてスロープ電圧Vがしきい値VTHとクロスすると、出力信号OUTが遷移する。
【0136】
制御回路340は、出力信号OUTの遷移に応答してスロープ発生回路310をオフし、定電流Iを遮断する。制御回路340はこの一連の動作を繰り返す。
【0137】
図24は、制御回路340の構成例を示す回路図である。制御回路340はロジック回路で構成される。制御回路340は、第1エッジ検出回路342、第2エッジ検出回路344、第1遅延回路346、第2遅延回路348、第1フリップフロップFF1、第2フリップフロップFF2、第1インバータINV1、第2インバータINV2を含む。
【0138】
第1エッジ検出回路342は、入力信号INのポジエッジ(立ち上がりエッジ、リーディングエッジともいう)に応答し、所定のパルス幅を有する第1パルス信号Sp1を生成する。第2エッジ検出回路344は、出力信号OUTのポジエッジに応答し、所定のパルス幅を有する第2パルス信号Sp2を生成する。
【0139】
第1遅延回路346は、第1パルス信号Sp1を遅延量τだけ遅延し、遅延後の信号を第1フリップフロップFF1のセット端子(S)に供給する。この遅延量τによって、第3スイッチS3が確実にオンとなり、電圧比較が可能な状態になってから、第1スイッチS1がオンとなることが保証される。また第1フリップフロップFF1のリセット端子(R)には、第2パルス信号Sp2が入力される。第1スイッチS1のオン、オフは、第1フリップフロップFF1の出力Sig1によって制御される。
【0140】
第2遅延回路348は、第2パルス信号Sp2を遅延量τだけ遅延し、第2フリップフロップFF2のセット端子に供給する。キャパシタ電圧Vがしきい値VTHに達した後、出力OUTが完全にハイ(VDD)に立ち上がるまでには、インバータ332およびインバータ334の二段分の遅延がある。そこで、遅延量τを導入することにより、出力OUTが完全にハイ(VDD)に立ち上がってから、第3スイッチS3をオフすることができる。
【0141】
また第2フリップフロップFF2のリセット端子には、第1パルス信号Sp1が入力される。第2スイッチS2および第3スイッチS3は、第2フリップフロップFF2の状態にもとづいて制御される。具体的には、第2フリップフロップFF2の出力Qの反転信号Sig3が、第3スイッチS3に供給され、第2フリップフロップFF2の反転出力QBの反転信号Sig2が、第2スイッチS2に供給される。
【0142】
第2フリップフロップFF2は、第1パルス信号Sp1のネガエッジのタイミングでリセットされる。したがって、第2スイッチS2がオン、第3スイッチS3がオフするタイミングは、第1パルス信号Sp1のパルス幅で規定される。
【0143】
以上がDTC300の構成である。続いてその動作を説明する。図25は、図23のDTC300の動作を説明するタイムチャートである。
【0144】
時刻tに、第2スイッチS2がオンとなり、キャパシタ312が、DAC309によって充電される。これによりキャパシタの電圧Vは、制御コードに応じた電圧値VDACとなる。
【0145】
時刻tに、入力信号INがハイに遷移すると、第1スイッチS1がオンとなり、キャパシタ312が電流源314が生成する電流Iによって充電され、キャパシタ312の電圧Vが一定の傾きで増大する。このとき、第3スイッチS3もオンとなり、インバータ306が電圧比較可能な状態となる。
【0146】
時刻tに、電圧Vがしきい値VTHに達すると、出力OUTがハイに遷移する。これに応答して、制御回路340は、第1スイッチS1をオフする。その結果、キャパシタ312への充電が停止する。その結果、電圧Vは、しきい値電圧VTHの近傍に維持される。その後、第2遅延回路348の遅延量に相当する時間の経過後の時刻tに、第2スイッチS2がオンし、第3スイッチS3がオフとなる。以上が1サイクルの動作である。続いてその利点を説明する。
【0147】
図26は、本実施の形態に係るDTCの動作波形(i)と、従来のDTCの動作波形(ii)を示す図である。本実施の形態では、従来に比べて、キャパシタ312の電圧Vの変動が最小限に抑制されている。つまり、キャパシタ312に対する電荷の無駄な供給、キャパシタ312からの電荷の無駄な放出が削減され、消費電力を削減できる。特に、本実施の形態において、第1スイッチS1は、スロープ発生期間のみオンとなる。言い換えれば電流源314が生成する電流Iは100%、スロープの生成に使用されることとなり、消費電力を削減できる。
【0148】
また、第3スイッチS3をインバータ306の経路上に配置し、電圧比較の期間のみオンすることとした。これにより、DAC309の出力電圧VDACがインバータ(コンパレータ)306のしきい値VTHに近いときに、インバータ306に貫通電流が流れるのを防止でき、さらに消費電力を削減できる。
【0149】
図23において、比較手段330を電圧コンパレータで構成してもよい。この場合、スイッチS3を電圧コンパレータに組み込んで、電圧コンパレータのバイアス電流を遮断するようにしてもよい。
【0150】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、電子回路に利用できる。
【符号の説明】
【0152】
100 D-PLL回路
102 DTC
104 TDC
106 DLF
108 DCO
110 バッファ
112 MMD
113 ゲート回路
114 コントローラ
116 リタイミング回路
120 マルチプレクサ
122 遅延回路
130 モードセレクタ
132 ステートマシン
140 デッドゾーンディテクタ
142 PFD
144 判定部
150 間欠動作FLL
152 FLL
154 デューティサイクルコントローラ
160 周波数検出器
162 分周器
164 フリップフロップ
166 カウンタ
168 フリップフロップ
170 減算器
172 比較器
180 第2PLL
200 DCO
210 上側ユニット
220 下側ユニット
230 トランス
300 DTC
310 スロープ発生回路
312 キャパシタ
314 電流源
S1 第1スイッチ
320 プリチャージ回路
322 D/Aコンバータ
S2 第2スイッチ
330 比較手段
332,334 インバータ
340 制御回路
342 第1エッジ検出回路
344 第2エッジ検出回路
346 第1遅延回路
348 第2遅延回路
FF1 第1フリップフロップ
FF2 第2フリップフロップ
INV1 第1インバータ
INV2 第2インバータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26