(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】電池劣化予測システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240611BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240611BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240611BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240611BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240611BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
G01R31/392
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/16
(21)【出願番号】P 2021006549
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020032713
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020202930
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下西 裕太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周平
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-111860(JP,A)
【文献】特開2017-166874(JP,A)
【文献】国際公開第2010/026930(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
G01R 31/392
B60L 3/00
B60L 50/60
B60L 58/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池(21)の負極抵抗(R
a)及び正極抵抗(R
c)を取得する電極抵抗取得部(107)と、
前記二次電池の電流値(I)を取得する電流値取得部(102)と、
前記二次電池の負極の開回路電位(OCP
a)及び前記二次電池の正極の開回路電位(OCP
c)を取得するOCP取得部(106)と、
前記電極抵抗取得部において取得される前記負極抵抗及び前記正極抵抗のそれぞれと、前記電流値取得部において取得される前記二次電池の電流値とから、負極分極(ΔV
a)、正極分極(ΔV
c)を算出する分極算出部(108)と、
前記OCP取得部において取得される前記負極の開回路電位と前記分極算出部において算出される前記負極分極とに基づいて前記負極の閉回路電位(CCP
a)を算出するとともに、前記OCP取得部において取得される前記正極の開回路電位と前記分極算出部において算出される前記正極分極とに基づいて前記正極の閉回路電位(CCP
c)を算出する、CCP算出部(109)と、
前記CCP算出部において算出される前記負極の閉回路電位及び前記正極の閉回路電位の少なくとも一方に基づいて、前記二次電池の負極容量(Q
a)、正極容量(Q
c)、及び正負極SOCずれ容量(Q
Li)を予測するとともに、予測された前記負極容量、前記正極容量、及び前記正負極SOCずれ容量に基づいて、前記二次電池の電池容量(Q
B)を予測する容量予測部(110)と、を備える電池劣化予測システム(1)。
【請求項2】
前記電極抵抗取得部及び前記容量予測部は、前記二次電池の負極における複数の劣化要因と相関を有する複数の関数(g
A、g
B、g
C、i
A、i
B、i
C)を用いて前記負極抵抗及び前記負極容量のそれぞれを算出し、前記二次電池の正極における複数の劣化要因と相関を有する複数の関数(h
A、h
B、h
C、j
A、j
B、j
C)を用いて前記正極抵抗及び前記正極容量のそれぞれを算出し、
前記容量予測部は、前記二次電池の電解質における複数の劣化要因と相関を有する複数の関数(k
A、k
B、k
C、l
A、l
B、l
C)を用いて、前記正負極SOCずれ容量を算出する、請求項1に記載の電池劣化予測システム。
【請求項3】
前記複数の関数に含まれる変数の値を取得するのに必要なデータを取得できなかったデータ未取得期間において、上記取得できなかったデータを推定する推定部を有し、
前記電極抵抗取得部及び前記容量予測部は、前記推定部により推定された上記データに基づいて取得された前記変数の値を用いて、前記データ未取得期間における前記負極抵抗、前記負極容量、前記正極抵抗、前記正極容量及び前記正負極SOCずれ容量を算出する、請求項2に記載の電池劣化予測システム。
【請求項4】
前記電流値取得部により取得される前記二次電池の電流値に基づいて前記二次電池の充電率(SOC)の変化量(ΔDOD)を算出する変化量算出部(105)と、をさらに備え、
前記電極抵抗取得部及び前記容量予測部は、前記二次電池を使用開始したときからの経過時間t、及び前記変化量算出部において取得される前記二次電池の前記充電率の前記変化量ΔDODを変数とし、A、B及びCを定数とした微粉化関数f(t,ΔDOD)=A×exp{-B×exp(C×ΔDOD)×t}、に基づいて、前記負極容量、前記正極容量、前記正負極SOCずれ容量、前記負極抵抗及び前記正極抵抗の少なくとも1つを予測する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電池劣化予測システム。
【請求項5】
前記微粉化関数の定数A、B、及びCを学習によって更新する学習部(111)を備える、請求項4に記載の電池劣化予測システム。
【請求項6】
前記二次電池の負極抵抗(R
a)、正極抵抗(R
c)、負極容量(Q
a)、正極容量(Q
c)、正負極SOCずれ容量(Q
Li)及び前記二次電池の電池容量(Q
B)の少なくとも一つを算出又は予測するための予測式を学習によって更新する学習部(111)を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の電池劣化予測システム。
【請求項7】
前記学習部は、前記二次電池の使用履歴を用いて前記学習を行う、請求項5又は6に記載の電池劣化予測システム。
【請求項8】
前記電池劣化予測システムは、前記学習部以外の少なくとも一部が車両に搭載されて用いられ、前記学習部が前記車両の外部に設けられている、請求項5~7のいずれか一項に記載の電池劣化予測システム。
【請求項9】
初期状態における前記二次電池の、充電率(SOC)と前記負極の前記開回路電位との関係、及び、前記充電率と前記正極の前記開回路電位との関係である初期OCP特性を記憶する記憶部(115)と、
前記容量予測部が予測する前記負極容量、前記正極容量、及び前記正負極SOCずれ容量と、前記記憶部が記憶する前記初期OCP特性とに基づいて、劣化後の前記二次電池の、前記充電率と開回路電圧(OCV)との関係である更新OCV特性を算出するOCV特性算出部(112)と、
前記OCV特性算出部が算出する前記更新OCV特性に基づいて、前記二次電池の前記充電率と、前記二次電池の前記開回路電圧を前記二次電池の前記充電率で一階微分又は二階微分することで得られる微分値と、の関係である微分特性を算出する微分特性算出部(113)と、
前記微分特性算出部において算出される前記微分特性に基づいて、前記微分値のピークが閾値以上となる前記充電率の領域において、前記二次電池に流れる電流を制限する電流制御部(114)を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の電池劣化予測システム。
【請求項10】
前記容量予測部により予測された前記正負極SOCずれ容量(Q
Li)に基づいて、上記二次電池の機械的変化に関する関係値を算出する機械的変化算出部(116)を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の電池劣化予測システム。
【請求項11】
前記二次電池は車両に搭載されており、
前記電池劣化予測システムの少なくとも一部は前記車両の外部に設けられている、請求項1~10のいずれか一項に記載の電池劣化予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池劣化予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池の劣化度合いを予測するシステムが開示されている。特許文献1に記載のシステムは、二次電池の劣化量を、二次電池の電極表面に付着する不純物量に相関すると考えるパラメータを用いて予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば車載用途の二次電池等、大電流が流れる二次電池においては、電極の分極が顕在化しやすい。特許文献1に記載のシステムにおいては、かかる分極の顕在化が考慮されておらず、二次電池の劣化予測の精度を向上させ難い。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、二次電池の劣化予測の精度を向上させることができる電池劣化予測システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、二次電池(21)の負極抵抗(Ra)及び正極抵抗(Rc)を取得する電極抵抗取得部(107)と、
前記二次電池の電流値(I)を取得する電流値取得部(102)と、
前記二次電池の負極の開回路電位(OCPa)及び前記二次電池の正極の開回路電位(OCPc)を取得するOCP取得部(106)と、
前記電極抵抗取得部において取得される前記負極抵抗及び前記正極抵抗のそれぞれと、前記電流値取得部において取得される前記二次電池の電流値とから、負極分極(ΔVa)、正極分極(ΔVc)を算出する分極算出部(108)と、
前記OCP取得部において取得される前記負極の開回路電位と前記分極算出部において算出される前記負極分極とに基づいて前記負極の閉回路電位(CCPa)を算出するとともに、前記OCP取得部において取得される前記正極の開回路電位と前記分極算出部において算出される前記正極分極とに基づいて前記正極の閉回路電位(CCPc)を算出する、CCP算出部(109)と、
前記CCP算出部において算出される前記負極の閉回路電位及び前記正極の閉回路電位の少なくとも一方に基づいて、前記二次電池の負極容量(Qa)、正極容量(Qc)、及び正負極SOCずれ容量(QLi)を予測するとともに、予測された前記負極容量、前記正極容量、及び前記正負極SOCずれ容量に基づいて、前記二次電池の電池容量(QB)を予測する容量予測部(110)と、を備える電池劣化予測システム(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
前記態様の電池劣化予測システムは、負極の開回路電位と負極分極とに基づいて負極の閉回路電位を算出するとともに、正極の開回路電位と正極分極とに基づいて正極の閉回路電位を算出するCCP算出部を備える。そして、容量予測部は、この閉回路電位に基づいて、二次電池の負極容量、正極容量、及び正負極SOCずれ容量を予測するとともに、予測された負極容量、正極容量、及び正負極SOCずれ容量に基づいて、二次電池の電池容量を予測する。このように、正極の分極及び負極の分極を考慮しつつ、二次電池の電池容量を予測することで、電池容量を高精度で予測することができる。
【0008】
以上のごとく、前記態様によれば、二次電池の劣化度合いを高精度に予測することができる電池劣化予測システムを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、電池劣化予測システム及びこれを備えた電源システムの概念図。
【
図2】実施形態1における、電池劣化予測システムの構成を示す機能ブロック図。
【
図3】実施形態1における、電池劣化予測システムが電池容量Q
Bを予測する処理を説明するためのフローチャート。
【
図4】実施形態1における、(a)劣化前の二次電池の開回路電圧と充電率との関係及び閉回路電圧と充電率との関係を模式的に示す図、(b)劣化後の二次電池の開回路電圧と充電率との関係及び閉回路電圧と充電率との関係を模式的に示す図。
【
図5】実施形態1における、第一電池と第二電池とのそれぞれについての劣化の仕方を示すグラフ。
【
図6】実施形態1における、電池劣化予測システムが二次電池の負極容量Q
a、正極容量Q
c、及び正負極SOCずれ容量Q
Liを利用して、二次電池に流れる電流を制御する処理を説明するためのフローチャート。
【
図7】実施形態1における、更新OCP特性及び更新OCV特性を示す模式図。
【
図8】実施形態1における、更新OCV特性と微分特性を示す模式図。
【
図9】実施形態2における、予測式の更新フローを説明するためのフローチャート。
【
図10】実施形態2における、充電末期の電圧挙動に基づいた、(a)第1の使用履歴から得られる抵抗の差分と容量維持率との関係式を表す概念図、(b)第2の使用履歴から得られる抵抗の差分と容量維持率との関係式を表す概念図。
【
図11】変形形態1における、充電休止後の電圧緩和挙動に基づいた、(a)第1の使用履歴から得られる電圧変化と容量維持率との関係式を表す概念図、(b)第2の使用履歴から得られる電圧変化と容量維持率との関係式を表す概念図。
【
図12】変形形態2における、(a)及び(b)第1の使用履歴から得られる特定周波数の交流インピーダンスと容量維持率との関係式を表す概念図、(c)及び(d)第2の使用履歴から得られる特定周波数の交流インピーダンスと容量維持率との関係式を表す概念図。
【
図13】変形形態3における、(a)及び(b)第1の使用履歴から得られる特定周波数の交流インピーダンスと容量維持率との関係式を表す概念図、(c)及び(d)第2の使用履歴から得られる特定周波数の交流インピーダンスと容量維持率との関係式を表す概念図。
【
図14】変形形態4における、(a)、(b)及び(c)第1の使用履歴から得られる特定周波数の交流インピーダンスと容量維持率との関係式を表す概念図。
【
図15】実施形態3における、電池劣化予測システムの構成を示す機能ブロック図。
【
図16】実施形態4における、電池劣化予測システムの構成を示す機能ブロック図。
【
図17】実施形態5における、電池劣化予測システムと車両とを示す概念図。
【
図18】実施形態6における、電池劣化予測システムの構成を示す機能ブロック図。
【
図19】実施形態6における、電池劣化予測システムにおけるデータ未取得期間における推定処理を説明するためのフローチャート。
【
図20】実施形態6における、(a)イグニッション、(b)温度、(c)電流値、(d)電圧値、(e)SOCのデータ未取得期間の変化を表した概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
電池劣化予測システムの実施形態につき、
図1~
図8を用いて説明する。
本形態の電池劣化予測システム1は、二次電池21の劣化を予測するシステムである。本形態において、二次電池21は、電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載して用いられる。
【0011】
図1に示すごとく、二次電池21は、インバータ22及び充電装置23に接続されている。インバータ22は、二次電池21から供給される直流電力を交流電力に変換し、交流電力を図示しない三相交流モータへ出力する。
【0012】
図1に示すごとく、二次電池21は、互いに直列に接続された、複数の電池セル211を備える。個々の電池セル211は、例えばリチウムイオン二次電池からなる。二次電池21の負極は、例えばグラファイト等のリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質からなる。二次電池21の正極は、例えばLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等のNi、Mn、Coを含有する三元系電極とすることができる。なお、複数の電池セル211を互いに並列に接続してセルブロックを構成し、このセルブロックを複数個、互いに直列に接続することにより、二次電池21を構成してもよい。
【0013】
図1に示すごとく、二次電池21とインバータ22との間には、放電用スイッチ24が設けられている。また、二次電池21と充電装置23との間には、充電用スイッチ25が設けられている。二次電池21からインバータ22へ電力を供給する際には、放電用スイッチ24がオンとなり、二次電池21を充電する際には、充電用スイッチ25がオンとなる。充電用スイッチ25及び放電用スイッチ24のオンオフ動作は、車載されるバッテリマネジメントユニット(すなわちBMU)によって制御される。
【0014】
図1に示すごとく、二次電池21には、二次電池21の電流値を測定する電流センサ26が接続されている。二次電池21には、当該二次電池21の温度を測定するための温度センサ27が設置されている。電流センサ26及び温度センサ27によって取得した二次電池21の情報は、電池劣化予測システム1に送信される。
【0015】
図2に示すごとく、電池劣化予測システム1は、温度取得部101、電流値取得部102、タイマ103、SOC算出部104、変化量算出部105、OCP取得部106、電極抵抗取得部107、分極算出部108、CCP算出部109、容量予測部110、学習部111、OCV特性算出部112、微分特性算出部113、及び電流制御部114を備える。これらは、例えば、車載されるBMUによって構成される。また、これら各部は、演算領域として機能する揮発性記憶部、各種プログラムを格納する不揮発性記憶部、及びプロセッサを備える。すなわち、これら各部は、自身の機能を果たすプログラムを実行可能に構成されている。なお、これらの少なくとも一つは、自身の機能を果たすための電子回路(すなわちハードウエア)によって構成されていてもよい。
【0016】
次に、
図2及び
図3を参照しつつ、電池劣化予測システム1が電池容量Q
Bを予測するステップについて説明する。
【0017】
まず、ステップS1において、タイマ103が二次電池21を使用開始したときからの経過時間tを取得し、電流値取得部102が二次電池21の電流値Iを取得し、温度取得部101が二次電池21の温度Tを取得する。
【0018】
タイマ103によって計測された二次電池21の使用時間は、記憶部115に送られ、格納される。記憶部115は、例えば書き換え可能な不揮発性のメモリからなる。電池劣化予測システム1は、連続的に電池容量QBの予測を行うが、そのうちの1回分の予測動作の開始時刻をts、終了時刻をte、開始時刻tsから終了時刻teまでの時間を実施サイクルと呼ぶこととする。実施サイクルを例えば1secのような短期間とすると、容量予測の精度が向上しやすいが、計算負荷は増大する。一方で、実施サイクルを長期間とすると、容量予測の精度の向上は図り難いが、計算負荷は低減する。かかる観点を考慮し、実施サイクルを適宜決定し得る。
【0019】
電流値取得部102は、電流センサ26によって測定された二次電池21の電流値の情報を定期的に受信し、受信した二次電池21の電流値の情報を記憶部115に格納する。電流値取得部102は、実施サイクル中に取得された二次電池21の電流値の分布から電流値Iを算出する。電流値Iは、例えば、実施サイクル中に取得された二次電池21の電流値の度数分布から算出した平均値とすることができる。なお、電流値Iとして、計算負荷低減のために、実施サイクル中に取得された二次電池21の電流値の平均値等を採用することも可能である。
【0020】
温度取得部101は、温度センサ27によって測定された二次電池21の温度の情報を定期的に受信し、受信した二次電池21の温度情報を記憶部115に格納する。二次電池21の温度Tは、実施サイクル中に取得された二次電池21の温度の分布から算出される。温度Tは、例えば、実施サイクル中に取得された二次電池21の温度の度数分布から算出した平均値とすることができる。なお、温度Tとして、計算負荷低減のため、実施サイクル中に取得された二次電池21の温度の平均値等を採用することも可能である。
【0021】
ステップS2において、SOC算出部104が、実施サイクル中に取得した二次電池21の電流値の積算値を算出し、当該積算値に基づいて二次電池21の充電率を算出する。SOC算出部104は、電流値取得部102によって取得された二次電池21の電流値を用いて、公知の手法で二次電池21の充電率を算出する。二次電池21の充電率は、二次電池21の充電状態を示しており、二次電池21の満充電容量に対する残容量の比が百分率で表される。以後、二次電池21の充電率を、SOCという。SOCは、State Of Chargeの略である。SOC算出部104は、例えば、電流値取得部102によって取得された二次電池21の電流値の積算値に基づいて二次電池21のSOCを算出し得る。SOC算出部104によって算出されたSOCの情報は、記憶部115に格納される。
【0022】
ステップS3において、変化量算出部105が、ΔDODを算出する。変化量算出部105は、実施サイクルの開始時刻tsにおけるSOCと終了時刻teにおけるSOCとの差分によってΔDODを求めることができる。なお、DODは、二次電池21の放電深度を示すDepth of dischargeの略である。
【0023】
ステップS4において、電極抵抗取得部107が、二次電池21の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcをそれぞれ算出する。電極抵抗取得部107は、二次電池21の温度Tと、二次電池21の電流値Iと、SOCの変化量ΔDODと、二次電池21の負極の閉回路電位又は正極の閉回路電位と、に基づいて、二次電池21の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを算出する。ここで、温度Tは、ステップS1において温度取得部101によって取得された二次電池21の温度Tである。電流値Iは、ステップS121において算出された二次電池21の電流値Iである。変化量ΔDODは、ステップS3において、変化量算出部105によって算出されたSOCの変化量ΔDODである。二次電池21の負極の閉回路電位及び正極の閉回路電位は、前回の実施サイクルにおいてCCP算出部109によって取得された二次電池21の負極、正極の閉回路電位である。なお、以後、二次電池21の負極の閉回路電位をCCPaといい、二次電池21の正極の閉回路電位をCCPcという。CCPは、Closed Circuit Potentialの略である。負極抵抗Raは、二次電池21の温度T、CCPa、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数、正極抵抗Rcは、二次電池21の温度T、CCPc、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。これについて、以下説明する。
【0024】
まず、負極抵抗Raについて説明する。
負極抵抗Raは、二次電池21の電解液や当該電解液の添加剤の酸化還元分解により負極表面に被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)が形成されることに起因して増加する。当該被膜は、前述の化学反応により生成されるため、負極抵抗Raは、アレニウス則に従う。それゆえ、負極抵抗Raは、温度Tの関数によって表すことができる。
【0025】
また、負極表面の被膜形成は、酸化還元に起因するため、ターフェル則に従う。それゆえ、負極抵抗Raは、負極電位CCPaの関数によって表すことができる。
【0026】
また、二次電池21の充放電サイクルの繰り返しにより、負極の活物質の膨張収縮が繰り返され、表面被膜の割れ(クラック)が進み、やがて負極表面が被膜の割れ目から露出する。この露出面に新たな被膜が形成されることで被膜量が増加し、負極抵抗Raのさらなる増加を引き起こす。そして、ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。そのため、負極抵抗Raは、ΔDODの関数によって表すことができる。
【0027】
また、負極においては、前述のように活物質の膨張収縮が繰り返されることに起因して、活物質自体が割れて径が小さくなる。当該活物質自体の割れは、負極抵抗Raを低下させる要素と負極抵抗Raを増加させる要素とを兼ね備える。まず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(すなわち被膜が形成されていない面)が形成されるため、反応面積が増加する。したがって、活物質自体の割れは負極抵抗Raの低下の要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、当該新たな面において被膜形成が促進されるため、被膜量が増加し、負極抵抗Raが増加する。以上を考慮し、負極抵抗Raは、以下に示す理論から、ΔDODの関数によって表すことができる。
【0028】
負極の活物質の割れの速度である微粉化速度は、活物質の粒子径をr、時間をtとしたとき、dr/dtにて表される。ここで、微粉化速度dr/dtは、活物質の粒子径rが大きい程、進行しやすいものと考えられる。つまり、微粉化速度dr/dtは、活物質の粒子径rに比例するものと考えることができる。そのため、微粉化速度は、次の式(1)のように表すことができる。
【0029】
【0030】
なお、前記式(1)において、kは定数であり、以後、微粉化定数ということもある。これを解くと、次の式(2)のようになる。
【0031】
【0032】
なお、前記式(2)において、aは定数である。
さらに、活物質は、ΔDODが大きい程、活物質の膨張及び収縮の度合いが大きくなるため、微粉化定数は、ΔDODに比例するものと考えられる。そうすると、次の式(3)が成立する。
【0033】
【0034】
なお、前記式(3)において、β及びγは定数である。そして、これを解くと、次の式(4)のようになる。
【0035】
【0036】
なお、前記式(4)において、η及びζは定数である。そして、前記式(2)と式(4)とを連成すると、次の式(5)を導くことができる。
【0037】
【0038】
なお、r0は、初期(すなわちt=0のとき)の活物質の半径であり、A、B、及びCは定数である。前述のごとく、負極抵抗Raは、負極表面に被膜が形成されることに起因して増加し、負極表面の被膜の形成速度は、負極の活物質の径と相関を有することから、負極抵抗Raは、微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式、すなわちΔDODの関数によって表すことができる。なお、式(5)の右辺のそれぞれの括弧内は、更に定数で加算補正してもよい。また、本実施形態では、定数A、B、及びCは、後述の学習部111によって修正され得る。
【0039】
また、前述の負極の表面被膜の割れ、及び、負極活物質自体の割れは、二次電池21の充放電電流にも依存する。すなわち、充放電電流値が大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向があるため、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、負極の表面被膜の割れ、及び、負極活物質自体の割れを引き起こす。そのため、負極の表面被膜の割れ、及び、負極活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数、または充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。ここで、1Cレートは、定電流充放電測定の場合、電池の定格容量を1時間で完全充電又は完全放電させる電流値を示す。
【0040】
以上をまとめると、負極抵抗Raは、活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数gA(T,CCPa)、活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数gB(T,CCPa,ΔDOD,I)、活物質自体が割れることを考慮した関数gC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて次の式(7)のように表せる。
【0041】
【0042】
以上のような理論に基づき、負極抵抗Raは、二次電池21の温度T、CCPa、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表される。
【0043】
次に、正極抵抗Rcについて説明する。
正極抵抗Rcは、正極表面の変質により伴って増加する。正極表面は、化学反応により変質するため、正極抵抗Rcは、アレニウス則に従う。それゆえ、正極抵抗Rcは、温度Tの関数によって表すことができる。
【0044】
また、正極表面の変質は、正極表面の還元分解に起因するため、ターフェル則に従う。それゆえ、正極抵抗Rcは、CCPcの関数によって表すことができる。
【0045】
また、二次電池21の充放電サイクルの繰り返しにより、正極の活物質の膨張収縮が繰り返され、変質した正極活物質の表面に割れが生じ、変質していない新たな正極表面が形成される。この新たな正極表面においてやがて変質が生じ、正極抵抗Rcのさらなる増加を引き起こす。そして、ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。そのため、正極抵抗Rcは、ΔDODの関数によって表すことができる。
【0046】
また、正極表面の変質は、正極の活物質の膨張収縮が繰り返され、正極の活物質の割れ(クラック)が進み、活物質の径が小さくなることで促進される。当該活物質自体の割れは、正極抵抗Rcを低下させる要素と正極抵抗Rcを増加させる要素とを兼ね備える。まず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(すなわち変質前の面)が形成されるため、活物質自体の割れは正極抵抗Rcの低下の要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、当該新たな面がやがて変質し、正極抵抗Rcが増加する。以上を考慮し、正極抵抗Rcは、負極抵抗Raと同様の理論から前記式(6)の微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式、すなわちΔDODの関数によって表すことができる。
【0047】
また、前述の正極活物質自体の割れは、充放電電流Iにも依存する。すなわち、充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向があるため、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、正極活物質自体の割れを引き起こす。そのため、正極活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数、または充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。
【0048】
以上をまとめると、正極抵抗Rcは、活物質の表面の変質を考慮した関数hA(T,CCPa)、活物質の変質した表面が割れることを考慮した関数hB(T,CCPa,ΔDOD,I)、活物質自体が割れることを考慮した関数hC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて次の式(8)のように表せる。
【0049】
【0050】
以上のような理論に基づき、正極抵抗Rcは、二次電池21の温度T、CCPc、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表される。
【0051】
ここで、ステップS4において用いるCCPa及びCCPcについては、今回の実施サイクルの1つ前の実施サイクルに、後述するステップS7でCCP算出部109によって算出されたCCPa及びCCPcを用いる。なお、前回の実施サイクルに取得されたCCPa及びCCPcがない場合(例えばシステム起動時等)は、次のようにして初期のCCPa及びCCPcを算出する。
【0052】
まず、ステップS1において取得された電流値Iと負極抵抗Raの後述の初期値との積から初期の負極の分極ΔVaを算出し、ステップS1において取得された電流値Iと正極抵抗Rcの初期値との積から初期の正極の分極ΔVcを算出する。負極抵抗Raの初期値及び正極抵抗Rcの初期値は、例えば、本形態の二次電池21と同型の、初期状態(例えば、二次電池21の工場出荷時の状態を意味する。)の二次電池21において取得した負極抵抗及び正極抵抗であり、予め記憶部115に記憶されているものである。初期状態の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcは、例えば、交流インピーダンス法や、IV測定等により決定することができる。あるいは、初期状態の二次電池21を解体し、正極を用いたハーフセル、負極を用いたハーフセルをそれぞれ作成し、それぞれのハーフセルの抵抗測定を行うことによっても初期状態の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを決定することができる。
【0053】
そして、記憶部115が記憶する後述の初期OCP特性と、ステップS2において算出されたSOCとに基づいて、SOCに対応する二次電池21の負極の開回路電位、及びSOCに対応する二次電池21の正極の開回路電位を取得する。各開回路電位は、二次電池21と外部回路とが通電していない状態が長期間経過したときの、二次電池21の各電極の電位である。以後、二次電池21の負極の開回路電位をOCPaといい、二次電池21の正極の開回路電位をOCPcという。OCPは、Open Circuit Potentialの略である。初期OCP特性は、初期状態における二次電池21の、SOCとOCPaとの関係、及び、SOCとOCPcとの関係を示すものであり、記憶部115が予め記憶している。次いで、OCPa+ΔVaを算出することによってCCPaを得、OCPc+ΔVcを算出することによってCCPcを得る。
【0054】
以上のように、前回の実施サイクルに取得されたCCPa及びCCPcがない場合(例えばシステム起動時等のように前回の実施サイクルがそもそもない場合)は、初期のCCPa及びCCPcを算出する。
【0055】
ステップS5において、分極算出部108が、負極の分極ΔVa=I×Raを算出し、正極の分極ΔVc=I×Rcを算出する。Iは、ステップS1において電流値取得部102が取得した二次電池21の電流値Iであり、Ra、Rcのそれぞれは、ステップS4において電極抵抗取得部107が算出した負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcである。
【0056】
ステップS6において、OCP取得部106がOCPa及びOCPcを算出する。OCP取得部106は、ステップS2においてSOC算出部104が算出した二次電池21のSOC、及び記憶部115が記憶する前回の実施サイクルの後述のステップS10において算出された更新OCP特性に基づいて、OCPa及びOCPcを取得する。更新OCP特性は、劣化後の二次電池21のSOCとOCPaとの関係及びSOCとOCPcとの関係を示すものである。更新OCP特性の取得の仕方の詳細は、後述のステップS10にて説明する。OCP取得部106によって取得されたOCPa及びOCPcの情報は、記憶部115に格納される。
【0057】
ステップS7において、CCP算出部109が二次電池21のCCPa及びCCPcを算出する。CCP算出部109は、ステップS5において分極算出部108が算出したΔVa及びΔVcを取得するとともに、ステップS6においてOCP取得部106が取得したOCPa及びOCPcを取得する。そして、CCP算出部109は、OCPa+ΔVaによってOCPaをCCPaに書き換え、OCPc+ΔVcによってOCPcをCCPcに書き換える。
【0058】
ここで、二次電池21は、劣化によって分極が顕在化する。すなわち、分極の発生により、二次電池21の充電時には、二次電池21の閉回路電圧が上昇し、放電時には閉回路電圧が下降するが、劣化が進むと、二次電池21の充電時には閉回路電圧が一層上昇し、放電時には閉回路電圧が一層下降する。例えば、
図4(a)に、劣化前の二次電池21の、充電時のSOCと電圧との関係を模式的に示し、
図4(b)に、劣化後の二次電池21の、充電時のSOCと電圧との関係を模式的に示している。
図4(a)、
図4(b)において、実線で開回路電圧、破線で閉回路電圧を表している。
図4(a)及び
図4(b)は、縦軸の電圧のスケールが一致しているものとする。なお、以後、開回路電圧はOCVといい、閉回路電圧は、CCVという。OCVは、Open Circuit Voltageの略であり、CCVは、Closed Circuit Voltageの略である。
【0059】
図4(a)及び
図4(b)から、劣化後の二次電池の分極ΔVの方が、劣化前のものよりも大きくなっていることが分かる。本形態の電池劣化予測システム1は、かかる点に鑑み、二次電池の劣化予測に当たってOCPを、分極ΔVを考慮したCCPに書き換え、当該CCPを用いて電池容量Q
Bを予測している。
【0060】
図2及び
図3に示すごとく、ステップS8において、容量予測部110が、二次電池21の負極容量Q
a、正極容量Q
c、正負極SOCずれ容量Q
Liのそれぞれを算出する。容量予測部110は、ステップS7においてCCP算出部109が算出したCCP
a及びCCP
cと、ステップS1において温度取得部101が取得した二次電池21の温度Tと、ステップS3において変化量算出部105が算出したΔDODとを取得する。容量予測部110は、二次電池21の負極容量Q
a、正極容量Q
c、正負極SOCずれ容量Q
Liのそれぞれを、CCP
a及びCCP
cの少なくとも一方と、二次電池21の温度Tと、二次電池21の電流値Iと、ΔDODとに基づいて算出する。負極容量Q
aは、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応している。正極容量Q
cは、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。正負極SOCずれ容量Q
Liは、二次電池21における正極と負極の使用容量領域のずれである。正負極SOCずれ容量Q
Liは正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数、及びリチウムイオン全体の前記移動のしやすさに対応している。
【0061】
容量予測部110は、電極抵抗取得部107において負極抵抗Raを算出する場合と同様の理論で、負極容量Qaを表す。つまり、負極容量Qaは、活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数iA(T,CCPa)、活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数iB(T,CCPa,ΔDOD,I)、活物質自体が割れることを考慮した関数iC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて次の式(9)のように表せる。すなわち、二次電池21の温度T、CCPa、変化量ΔDOD(すなわち微粉化関数f(t,ΔDOD))、及び充放電電流値Iの関数によって負極容量Qaが表される。
【0062】
【0063】
また、容量予測部110は、電極抵抗取得部107において正極抵抗Rcを算出する場合と同様の理論で、正極容量Qcを表す。つまり、正極容量Qcは、活物質の表面が変質することを考慮した関数jA(T,CCPc)、活物質の変質した表面が割れることを考慮した関数jB(T,CCPc,ΔDOD,I)、活物質自体が割れることを考慮した関数jC(T,CCPc,ΔDOD,I)を用いて次の式(10)のように表せる。すなわち、二次電池21の温度T、CCPc、変化量ΔDOD(すなわち微粉化関数f(t,ΔDOD))、及び充放電電流値Iの関数によって正極容量Qcが表される。
【0064】
【0065】
正負極SOCずれ容量QLiは、負極、正極での被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)形成によるリチウムイオンの消費と相関する。かかるリチウムイオンの消費は、化学反応であり、正負極SOCずれ容量QLiはアレニウス則に従う。それゆえ、正負極SOCずれ容量QLiは、温度Tの関数によって表すことができる。
【0066】
負極、正極での被膜形成によるリチウムイオンの消費は、酸化還元反応であるため、ターフェル則に従う。それゆえ、正負極SOCずれ容量QLiは、CCPa及びCCPcの関数によって表すことができる。
【0067】
また、二次電池21の充放電サイクルの繰り返しにより、各電極(すなわち負極、正極)の活物質の膨張収縮が繰り返され、各電極の活物質の表面被膜の割れが進む。これにより、やがて各電極表面が被膜の割れ目から露出する。この露出面に新たな被膜が形成されることでリチウムイオンの消費量が増える。そして、ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。そのため、正負極SOCずれ容量QLiは、ΔDODの関数によって表すことができる。
【0068】
また、各電極においては、前述のように活物質の膨張収縮が繰り返されることに起因して、活物質自体が割れて径が小さくなる。当該活物質自体の割れは、正負極SOCずれ容量QLIを増加させる要素と正負極SOCずれ容量QLIを低下させる要素とを兼ね備える。まず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(すなわち被膜が形成されていない面)が形成されるため、リチウムイオンは各電極の活物質に移動しやすくなり、正負極SOCずれ容量QLiの増加の要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、当該新たな面において被膜形成が促進されてリチウムイオンが消費され、正負極SOCずれ容量QLiの低下の要因となる。以上を考慮し、正負極SOCずれ容量QLiは、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcと同様の理論から、微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式、すなわちΔDODの関数によって表すことができる。
【0069】
また、前述の各電極の活物質自体の割れは、充放電電流Iにも依存する。すなわち、充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向があるため、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、活物質自体の割れを引き起こす。そのため、各電極の活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数、または充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。
【0070】
以上をまとめると、正負極SOCずれ容量QLiは、負極の活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数kA(T,CCPa)、負極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数kB(T,CCPa,ΔDOD,I)、及び、負極の活物質自体が割れることを考慮した関数kC(T,CCPa,ΔDOD,I)、並びに、正極の活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数lA(T,CCPc)、正極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数lB(T,CCPc,ΔDOD,I)、及び、正極の活物質自体が割れることを考慮した関数lC(T,CCPc,ΔDOD,I)を用いて次の式(11)のように表せる。
【0071】
【0072】
以上のように、正負極SOCずれ容量QLiは、二次電池21の温度T、CCPa、CCPc、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。
【0073】
ステップS9において、容量予測部110が、電池容量QBを、QB=min(Qa,Qc,QLi)によって求める。つまり、容量予測部110は、二次電池21の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち最小のものを、二次電池21の電池容量(すなわち満充電容量)と判断する。前述のごとく、負極容量Qaは、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応しており、正極容量Qcは、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。正負極SOCずれ容量QLiは正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数に対応している。それゆえ、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち最小のものは、二次電池21の電池容量QBに対応する。
【0074】
ここで、自動車駆動用等で用いられるような、大電流が流れる二次電池21は、二次電池21の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち正負極SOCずれ容量QLiが最小となる領域でのみ使用されることが多い。すなわち、大電流が流れる二次電池21において、電池容量QBは、正負極SOCずれ容量QLiとなることが多い。前述のごとく、正負極SOCずれ容量QLiは、前記式(11)によって表せる。そして、前述のごとく、正負極SOCずれ容量QLiは、負極及び正極のそれぞれの活物質の表面へ被膜が形成されること、負極及び正極のそれぞれの活物質の表面に形成された被膜が割れること、及び、負極及び正極のそれぞれの活物質自体が割れることを考慮しているため、高精度に算出される。これに伴い、電池容量QBが正負極SOCずれ容量QLiで表されるとき、電池容量QBも高精度に算出される。このことについて説明する。
【0075】
ここで、2つの同型の二次電池(以下、便宜上、第一電池、第二電池と区別するが、これらは互いに同じ型の電池である。)を想定して次のシミュレーションをおこなった。当該シミュレーションの結果は、
図5に示している。
図5のグラフの横軸は、日数の平方根を示しており、縦軸は二次電池の容量維持率を示している。なお、二次電池の容量維持率は、初期状態の二次電池の容量に対する現時点の二次電池の容量の割合である。また、
図5において、第一電池に関する結果を線L1、第二電池に関する実験結果を線L2にて示している。
図5に示す、第一電池及び第二電池のそれぞれの結果は、いずれも、負極容量Q
a、正極容量Q
c、及び正負極SOCずれ容量Q
Liのうち正負極SOCずれ容量Q
Liが最小であり、電池容量Q
B=正負極SOC容量Q
Liとなる。そして、
図5の容量維持率は、初期の二次電池の容量に対する劣化後の正負極SOC容量Q
Liの割合である。
【0076】
第一電池については、容量維持率100%の状態から、第一電池を45℃の環境下で保存劣化させ、容量維持率を92%まで下げた。容量維持率100%から容量維持率92%まで保存劣化させたときの第一電池の容量の低下は、各電極への被膜形成に起因するものが7.2%、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するものが0.4%、各電極の活物質自体が割れることに起因するものが0.4%であった。
【0077】
第二電池については、容量維持率100%の状態から、第二電池を45℃の環境下でサイクル劣化させ、容量維持率を92%まで下げた。容量維持率100%から容量維持率92%までサイクル劣化させたときの第二電池の容量の低下は、各電極への被膜形成に起因するものが4.0%、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するものが1.6%、各電極の活物質自体が割れることに起因するものが2.4%であった。
【0078】
つまり、互いに同じ容量維持率、正負極SOC容量QLiの第一電池及び第二電池であっても、それまでの使用状況により、正負極SOC容量QLiを構成する式(11)の関数kA、kB、kC、lA、lB、lCの値が第一電池と第二電池とで異なる。
【0079】
そして、容量維持率を92%とした第一電池と第二電池とを、サイクル劣化と保存劣化とを組み合わせて同じ条件で劣化させた。その結果、
図5に示すごとく、最初にサイクル劣化させた第二電池の方が、最初に保存劣化させた第一電池よりも劣化が早くなる(つまり
図5の容量維持率92%以下の領域のグラフの傾きが大きくなる)ことが分かった。このことから、互いに同じ容量維持率の二次電池であっても、それまでの二次電池の使用状況によって、その後の二次電池の劣化の進行度合いが異なることが分かる。このことから正負極SOCずれ容量Q
Liを、各電極への被膜形成を考慮した関数k
A、l
A、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数k
B、l
B、各電極の活物質自体が割れることを考慮した関数k
C、l
Cに基づいて算出することで、高精度に電池容量Q
Bを算出することができることが分かる。なお、電池容量Q
Bが負極容量Q
a又は正極容量Q
cとなる場合も同様である。
【0080】
次に、
図2及び
図6を参照しつつ、電池劣化予測システム1が、
図3のステップS9で算出された二次電池21の負極容量Q
a、正極容量Q
c、及び正負極SOCずれ容量Q
Liを利用して、二次電池21に流れる電流を制御するステップについて説明する。
【0081】
まず、ステップS10において、OCV特性算出部112が、更新OCP特性を算出する。ステップS10においては、記憶部115が記憶する初期OCP特性を、前述のステップS8において算出された負極容量Q
a、正極容量Q
c、及び正負極SOCずれ容量Q
Liに基づいて更新する。初期OCP特性は、初期状態における二次電池21の、SOCとOCP
aとの関係、及び、SOCとOCP
cとの関係を示すものである。初期OCP特性の更新の手法は特に限定されず、例えば公知の手法を採用することが可能である。更新OCP特性の一例を、
図7に示している。
【0082】
図2及び
図6に示すごとく、ステップS11において、OCV特性算出部112が、更新OCV特性を算出する。更新OCV特性は、ステップS10において算出された更新OCP特性から、OCP
cとOCP
aとの差分を取ることで劣化後の二次電池21のSOCとOCVとの関係である更新OCV特性を算出する。更新OCV特性の一例を、
図7に示している。
【0083】
図2及び
図6に示すごとく、ステップS12において、微分特性算出部113が、ステップS11においてOCV特性算出部112が算出する更新OCV特性に基づいて、微分特性を算出する。微分特性は、二次電池21のSOCと、二次電池21のOCVをSOCで一階微分又は二階微分することで得られる微分値との関係である。
図6に示すごとく、本形態のステップS12においては、微分特性算出部113がd
2V/dQ
2曲線を算出する。d
2V/dQ
2曲線は、二次電池21のSOCと、OCVを二階微分することで得られる微分値との関係を示すグラフであり、微分特性の一種である。
図8に、OCVをSOCで二階微分した曲線を表している。
【0084】
図2及び
図6に示すごとく、ステップS13において、電流制御部114が、電流制御領域を算出する。すなわち、本ステップS13においては、
図8に示すd
2V/dQ
2曲線におけるピークが、閾値以上となるSOCの領域(例えば
図8において破線で囲ったSOCの領域)を算出する。
【0085】
図2及び
図6に示すごとく、ステップS14において、電流制御部114が、二次電池21のSOCがステップS13において算出したピークが閾値を超えるSOCの領域となるときに、二次電池21に流れる電流値を低減するよう制御する。すなわち、電流制御部114は、二次電池21がステップS13において算出したSOCとなるとき、二次電池21に流れる電流値を、当該SOCの領域以外の領域において二次電池21に流す電流値よりも小さくするよう制御する。これによって、二次電池21の劣化を抑制できる。このことについて、次に説明する。
【0086】
微分特性を示す曲線において、ピークが所定の閾値以上となる場合は、OCVの変動が比較的大きく、膨張収縮が大きい領域であると考える。すなわち、ピークが閾値以上となるSOCの領域では、活物質の膨張収縮が大きいため高電流を印加するほど活物質内にひずみが発生しやすくなり、活物質の割れが促進されやすくなる。そこで、電流制御部114は、ピークが閾値以上となるSOCの領域において、二次電池21に流す電流を制限するよう制御する。これにより、活物質の割れが促進されることを抑制することができる。また、閾値以上のピークを検出することにより、電流制御部114において、ノイズ領域(すなわち比較的小さなピークが現れるSOCの領域)において、電流値が制限されることを防止している。
【0087】
以上のように、二次電池21の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiを利用して、二次電池21に流れる電流を制御することができる。
【0088】
また、
図2に示すごとく、本形態の電池劣化予測システム1は、前述のごとく学習部111を備えている。学習部111は、二次電池の負極抵抗R
a、正極抵抗R
c、負極容量Q
a、正極容量Q
c、正負極SOCずれ容量Q
Li及び二次電池の電池容量Q
Bの少なくとも一つを予測するための予測式を学習によって更新するように構成することができる。学習部111が学習により更新する予測式は限定されないが、本実施形態では、学習部111は、電極抵抗取得部107における負極抵抗R
a、正極抵抗R
cの算出、及び、容量予測部110における負極容量Q
a、正極容量Q
c、正負極SOCずれ容量Q
Liの算出に用いる微粉化関数f(t,ΔDOD)の定数A、B、及びCを学習により更新する。学習部111は、例えばフィッティングにより修正することができる。例えば、学習部111は、電流値取得部102によって取得される二次電池21の積算に基づいて二次電池21の電池容量Q
Bの実測値を算出し、これと容量予測部110によって算出された電池容量Q
Bとの誤差が最小となる定数A、B、及びCを算出することでA、B、及びCの学習を行う。なお、その他の実測値と理論値との誤差を最小とするように、定数A、B、及びCの学習を行うことも可能である。
【0089】
学習部111は、車載されるBMUによって構成されているが、例えば車外に配される情報処理システムによって構成されていてもよい。この場合、例えば車両にモビリティの通信機であるDCM(Data Communication Module)を搭載し、車内のBCU及びECUが、車外の情報処理システムと、DCMを介して通信されるよう構成することができる。また、DCMに代えて、例えば携帯端末(スマートフォン等)を採用することも可能である。また、車内のBCU及びECUと車外の情報処理システムとの通信手段は、例えばWiFi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の各種の近距離の無線伝送方式を採用することが可能である。さらに、車外の情報処理システムは、定置の形態であってもよいし、モビリティの形態であってもよい。また、例えば車両のECU又はBMUに設けられているコネクタに接続される、後付けの制御装置であってもよい。
【0090】
そして、電極抵抗取得部107及び容量予測部110は、更新された定数A、B、及びCを用いて、負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiの算出を行う。
【0091】
なお、本形態において、負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiを算出するための上記式(7)~(11)に含まれる関数gA、gB、gC、hA、hB、hC、iA、iB、iC、jA、jB、jC、kA、kB、kC、lA、lB、lCの少なくとも一つが、更なる変数として、二次電池を使用開始したときからの経過時間t、充放電のサイクル数N、充放電における電流積算値を示すスループットAhのうちのいずれかを含んでいてもよい。なお、上記関数に含まれる上記更なる変数は、適宜選択することができ、任意の組み合わせてであってよい。
【0092】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
前記態様の電池劣化予測システム1は、OCPaと分極ΔVaとに基づいてCCPaを算出するとともに、OCPcと分極ΔVcとに基づいてCCPcを算出するCCP算出部109を備える。そして、容量予測部110は、このCCPa及びCCPcに基づいて、二次電池21の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiを予測するとともに、予測された負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiに基づいて、二次電池21の電池容量QBを予測する。分極ΔVa及びΔVcを考慮しつつ、二次電池21の電池容量QBを予測することで、二次電池21の劣化に伴い顕在化する分極を考慮して電池容量QBを予測することができ、電池容量QBの予測が高精度になる。
【0093】
また、電極抵抗取得部107及び容量予測部110は、二次電池21の負極における複数の劣化要因と相関を有する複数の関数gA、gB、gC、iA、iB、iCを用いて、負極抵抗Ra及び負極容量Qaのそれぞれを算出する。また、電極抵抗取得部107及び容量予測部110は、二次電池21の正極における複数の劣化要因と相関を有する複数の関数hA、hB、hC、jA、jB、jCを用いて、正極抵抗Rc及び正極容量Qcのそれぞれを算出する。また、容量予測部110は、二次電池21の電解質における複数の劣化要因と相関を有する複数の関数kA、kB、kC、lA、lB、lCを用いて、正負極SOCずれ容量QLiを算出する。これにより、二次電池21の各部の種々の劣化要因(すなわち前述の被膜形成、被膜割れ、活物質自体の割れ、等)を考慮した正確な負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを予測することができる。
【0094】
また、電極抵抗取得部107及び容量予測部110は、微粉化関数f(t,ΔDOD)=A×exp{-B×exp(C×ΔDOD)×t}、に基づいて、負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcの少なくとも1つを予測する。これにより、二次電池21の充放電の繰り返しによる二次電池21の電極の微粉化を反映して負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcの少なくとも1つを予測することができるため、これらを高精度に予測することができる。
【0095】
また、電池劣化予測システム1は、微粉化関数の定数A、B、及びCを学習によって更新する学習部111を備える。それゆえ、微粉化関数を二次電池21の劣化状態に応じて更新することができ、タイムリーな微粉化関数を得ることができる。これにより、微粉化関数を用いて予測される負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcの算出精度を向上させることができる。
【0096】
また、電池劣化予測システム1は、学習部111以外の少なくとも一部が車両に搭載されて用いられ、学習部111が車両の外部に設けられている。それゆえ、学習部111による処理を行うためのハードウエアを車内に設ける必要がなく、車内のシステムの負荷を低減しやすい。
【0097】
また、電池劣化予測システム1は、微分特性算出部113において算出される微分特性に基づいて、微分値のピークが閾値以上となる電流量の領域において、二次電池21に流れる電流を制限する電流制御部114を備える。すなわち、前述のごとく、電流制御部114は、二次電池21の電極の活物質の割れが促進されやすい電流量の領域において、二次電池21に流れる電流量を制限する。これにより、二次電池21において、電極の活物質の割れの進行を抑制でき、これによって二次電池21の劣化の進行を抑制することができる。
【0098】
以上のごとく、本形態によれば、二次電池の劣化度合いを高精度に予測することができる電池劣化予測システムを提供することができる。
【0099】
上記実施形態1では、負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiを算出するために、上記式(7)~(11)を用いたが、これらに替えて、各式における関数間の演算子を+に変更したものを用いてもよい。すなわち、上記式(7)、(8)、(9)、(10)、(11)に替えて、下記の式(7A)、(8A)、(9A)、(10A)、(11A)をそれぞれ用いてもよい。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
また、これらに限定されず、上記式(7)~(11)における関数間の演算子は任意のものを採用することができ、同一の式における関数間の演算子は同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記各式においていずれの演算子を用いる場合でも、実施形態1と同等の作用効果を奏することができる。
【0106】
(実施形態2)
上述の実施形態1では、学習部111は、微粉化関数の定数A、B及びCを学習により更新することとしたが、学習部111における学習による更新はこれに限らず、二次電池21の電池状態に関する予測式を使用履歴に基づいて学習により更新することができる。二次電池21の電池状態は、例えば、二次電池21の負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、二次電池の電池容量QBとすることができる。
【0107】
上記予測式は、上記電池情報の少なくとも一つを予測するための予測式とすることができる。例えば、実施形態1において式(7)~式(11)又は式(7A)~(11A)で表されたものを採用することができる。なお、実施形態1における微粉化関数は当該予測式の一部をなすものであると理解することができる。
【0108】
学習部111は、例えば、以下のように、上記予測式を更新することができる。学習部111は、まず、使用履歴から得られる状態推定量を説明変数とし、二次電池21の電池状態を目的変数とする関係式を機械学習によって算出する。当該関係式の形態は限定されず、例えば、一次又は多次のモデル関数、マップなどの形態で示すことができる。
【0109】
そして、学習部111は、上記関係式から二次電池21の電池状態に関する推定値を真値として算出する。その後、学習部111は、当該推定値と予め用意された二次電池21の予測式から得られる電池状態の予測値とを比較し、比較結果に基づいて予測式を更新することができる。例えば、学習部111は、上記比較結果が推定値と予測値との差分が予め設定された基準値よりも大きいことを示すものである場合に、当該差分が小さくなるように予測式を更新することができる。
【0110】
上記使用履歴は二次電池21の使用に関するものであれば限定されないが、当該二次電池21が車両に搭載されるものである場合は、車両の走行データを使用履歴として採用することができる。また、使用履歴から得られる状態推定量としては、二次電池21における充電末期又は放電末期の電圧挙動、充電休止後又は放電休止後の電圧緩和挙動、特定周波数の交流インピーダンスを例示することができる。なお、使用履歴は記憶部115に格納しておくことができる。また、使用履歴を電池劣化予測システム1の外部に設けられた外部記憶装置に保存しておき、必要に応じて学習部111が外部記憶装置に保存された使用履歴を読み込むこととしてもよい。
【0111】
使用履歴に基づく上記関係式を算出するための機械学習の方法としては、既知のものを採用することができ、例えば、回帰手法、サポートベクターマシーン、ニューラルネットワークなどを採用することができる。回帰手法としては、線形回帰、重回帰、ロジスティック回帰、ガウス過程回帰を例示することができる。
【0112】
また、学習部111において学習による更新の対象は限定されないが、劣化予測式中の定数とすることができ、例えば、実施形態1における式(7)~式(11)又は式(7A)~(11A)で示される劣化予測式における少なくとも一つの定数とすることができる。
【0113】
本実施形態2では、使用履歴として車両の走行データを採用し、当該使用履歴から得られる状態推定量として二次電池21における充電末期の電圧挙動を採用する。なお、本実施形態2において特に言及しない構成は、
図2に示す実施形態1における構成と同等の構成を有するものとし、実施形態1の場合と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0114】
本実施形態2において、充電末期の電圧挙動として、充電状態における特定時定数の直流抵抗を取得する。なお、充電末期とはSOCが90%以上に充電される期間をいうものとする。そして、上記直流抵抗として、二次電池21を4秒間定電流放電させたときの直流抵抗値R4secと2秒間定電流放電させたときの抵直流抗値R2sec、との差分R4sec-R2secを取得する。実施形態2では、図示しないが、二次電池21の電圧値を検出する電圧センサと、当該電圧センサに検出された電圧値を取得する電圧取得部とが備えられている。直流抵抗値R4secは、当該電圧取得部及び電流値取得部102により取得された4秒間の定電流放電時の電圧変化量ΔV4secと二次電池21に流れた電流値IとからΔV4sec/Iとして算出することができる。同様に、直流抵抗値R2secは、電圧取得部及び電流値取得部102により取得された2秒間の定電流放電時の電圧変化量ΔV2secと二次電池21に流れた電流値IとからΔV2sec/Iとして算出することができる。なお、直流抵抗値R4secの算出は、学習部111で行ってもよいし、他の演算部で行うこととしてもよい。
【0115】
本実施形態2における予測式を更新するための更新フローについて、以下に説明する。
まず、
図9に示すステップS21において、学習部111は、例えば、第1の使用履歴として二次電池21の電池温度25℃で、SOC10%から90%の間で充放電サイクルを繰り返した劣化過程における差分R
4sec-R
2secと電池容量Q
Bとを取得し、両者の関係から機械学習により第1の関係式を算出する。当該第1の関係式は、差分R
4sec-R
2secと容量維持率との関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図10(a)に第1の使用履歴における差分R
4sec-R
2secと容量維持率との関係である実測値の散布図を示し、第1の関係式である回帰直線を破線L1で示した。なお、容量維持率は初期状態の二次電池21の電池容量に対する各時点での電池容量Q
Bの割合である。
【0116】
同様に、
図9に示すステップS21において、学習部111は、例えば、第2の使用履歴として二次電池21の電池温度45℃で、SOC0%から100%の間で充放電サイクルを繰り返した劣化過程における差分R
4sec-R
2secと容量維持率とを取得し、両者の関係から機械学習により第2の関係式を算出する。第1の使用履歴の場合と同様に、
図10(b)に第2の使用履歴における差分R
4sec-R
2secと容量維持率との関係である実測値の散布図を示し、第2の関係式である回帰直線を破線L2で示した。
【0117】
その後、
図9に示すステップS22において、学習部111は、例えば、第1の使用履歴に基づいて機械学習によって算出した第1の関係式から二次電池21の電池容量Q
Bの推定値を真値として算出する。そして、
図9に示すステップS23において、容量予測部110により、上述の式(7)~式(11)又は式(7A)~(11A)に示す予測式に基づいて二次電池21の電池容量Q
Bの予測値を算出する。
【0118】
そして、学習部111は、
図9に示すステップS24において、電池容量Q
Bの上記推定値と電池容量Q
Bの上記予測値とを比較した後、ステップS25において、当該比較結果に基づいて上記予測式の更新の要否を判定する。本実施形態2では、更新の要否は、当該比較結果が推定値と予測値との差分が基準値より大きいことを示すものであるか否かを判定することにより行う。ステップS25において、当該比較結果が推定値と予測値との差分が基準値より大きいことを示すものであると判定された場合は上記予測式の更新を要と判定し、ステップS25のYesに進む。
【0119】
そして、学習部111は、ステップS26において、式(7)~式(11)又は式(7A)~(11A)に示す予測式に含まれる定数の少なくとも一つを更新し、当該更新フローを終了する。なお、ステップS24における推定値と予測値との比較及びステップS25における更新の要否の判定は、第1に使用履歴に基づく第1の関係式及による推定値および第2に使用履歴に基づく第2の関係式による推定値の両方を用いてもよいし、いずれか一方のみを用いることとしてもよい。
【0120】
一方、
図9に示すステップS25において、上記比較結果が推定値と予測値との差分が基準値より大きいことを示すものでないと判定された場合は上記予測式の更新を不要と判定し、ステップS25のNoに進んで当該更新フローを終了する。なお、本実施形態2における更新フローは所望のタイミングで行うことができる。
【0121】
本実施形態2によれば、学習部111により、使用に伴って刻々と変化していく二次電池21の劣化状態に応じて予測式を学習により更新することができるため、予測精度を一層向上することができる。これにより、二次電池21の劣化度合いを高精度に予測することができる電池劣化予測システム1を提供することができる。なお、本実施形態2においても、実施形態1と同等の作用効果を奏する。
【0122】
上記実施形態2では、使用履歴から得られる状態推定量として二次電池21における充電末期の電圧挙動を採用したが、これに替えて、変形形態1では、二次電池21における充電休止後の電圧緩和挙動を採用する。変形形態1では、充電休止後の電圧緩和挙動として、例えば、二次電池21の充電を休止した後の600秒間の電圧変化ΔV600secを電圧取得部により取得する。なお、電圧緩和の期間は、充電休止後から電池電圧が所定の定常状態に到達するまでの期間とする。
【0123】
そして、学習部111は、例えば、第1の使用履歴として二次電池21の電池温度25℃で、SOC10%から90%の間で充放電サイクルを繰り返した劣化過程における電圧変化ΔV
600secと電池容量Q
Bとを取得し、両者の関係から機械学習により第1の関係式を算出する。当該第1の関係式は、電圧変化ΔV
600secと電池容量Q
Bとの関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図11(a)に第1の使用履歴における電圧変化ΔV
600secと容量維持率との関係である実測値の散布図を示し、第1の関係式である回帰直線を破線L3で示した。
【0124】
また、同様に、学習部111は、例えば、第2の使用履歴として二次電池21の電池温度45℃で、SOCを0%から100%の間で充放電サイクルを繰り返した劣化過程における電圧変化ΔV
600secと電池容量Q
Bとの関係から、機械学習により第2の関係式を算出する。第1の使用履歴の場合と同様に、
図11(b)に第2の使用履歴における電圧変化ΔV
600secと容量維持率との関係である実測値の散布図を示し、第2の関係式である回帰直線を破線L4で示した。そして、当該変形形態1においても、実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0125】
また、更なる変形形態としての変形形態2では、使用履歴から得られる状態推定量として、二次電池21における特定周波数の交流インピーダンスを採用する。なお、本変形形態2では、二次電池21は正極材料としてLiNiCoMnO2(NCM)を採用し、負極材料としてグラファイト(Gr)を採用している。なお、特定周波数の交流インピーダンスは、車両に搭載された図示しない交流インピーダンス算出部により算出することができる。本変形形態では、当該交流インピーダンス算出部は、充放電中の二次電池21における電流値の変化及び電圧値の変化に基づいて、特定周波数の交流インピーダンスを算出する。なお、特定周波数は適宜設定することができ、特定周波数の値は限定されない。
【0126】
変形形態2では、学習部111は、例えば、第1の使用履歴として二次電池21の電池温度60℃、SOC90%の状態で保存した後の劣化過程における電池温度-10°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により第1の関係式を算出する。また、電池温度25°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により第2の関係式を算出する。当該第1の関係式及び第2の関係式は、交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図12(a)に第1の使用履歴における電池温度-10°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第1の関係式である回帰直線を破線L5で示した。また、
図12(b)に第1の使用履歴における電池温度25°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第2の関係式である回帰直線を破線L6で示した。
【0127】
また、同様に、学習部111は、例えば、第2の使用履歴として二次電池21の電池温度55℃、SOC100%の状態で保存した後の劣化過程における電池温度-10°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により、第3の関係式を算出する。また、電池温度25°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により第4の関係式を算出する。当該第3の関係式及び第4の関係式は、交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図12(c)に第2の使用履歴におおける電池温度-10°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第3の関係式である回帰直線を破線L7で示した。また、
図12(d)に第2の使用履歴における電池温度25°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第4の関係式である回帰直線を破線L8で示した。そして、当該変形形態2においても、上記実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0128】
また、更なる変形形態としての変形形態3では、変形形態2と同様に、使用履歴から得られる状態推定量として、二次電池21における特定周波数の交流インピーダンスを採用する。そして、変形形態3では、学習部111は、例えば、第1の使用履歴として二次電池21の電池温度45℃で、SOC0%から100%の間で充放電サイクルを繰り返した劣化過程における、電池温度-10°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から、機械学習により第1の関係式を算出する。また、電池温度25°の条件下で周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により第2の関係式を算出する。当該第1の関係式及び第2の関係式は、交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図13(a)に第1の使用履歴における電池温度-10°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第1の関係式である回帰直線を破線L9で示した。また、
図13(b)に第1の使用履歴における電池温度25°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第2の関係式である回帰直線を破線L10で示した。
【0129】
また、同様に、学習部111は、例えば、第2の使用履歴として二次電池21の電池温度55℃、SOC100%の状態で保存した後の劣化過程における、電池温度-10°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により、第3の関係式を算出する。また、電池温度25°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係から機械学習により第4の関係式を算出する。当該第3の関係式及び第4の関係式は、交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図13(c)に第2の使用履歴における電池温度-10°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第3の関係式である回帰直線を破線L11で示した。また、
図13(d)に第2の使用履歴における電池温度25°の条件下での交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第4の関係式である回帰直線を破線L12で示した。そして、当該変形形態3においても、上記実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0130】
また、更なる変形形態としての変形形態4では、変形形態2、3と同様に、使用履歴から得られる状態推定量として、二次電池21における特定周波数の交流インピーダンスを採用する。そして、変形形態4では、学習部111は、例えば、第1の使用履歴として二次電池21の電池温度10℃で、SOC10%から90%の間で充放電サイクルを繰り返した劣化過程における、電池温度-10°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと電池容量QBとの関係から機械学習により第1の関係式を算出する。また、電池温度25°の条件下で周波数0.005Hzの交流インピーダンスと電池容量QBとの関係から機械学習により第2の関係式を算出する。また、電池温度-10°の条件下での周波数50Hzの交流インピーダンスと電池容量QBとの関係から機械学習により第3の関係式を算出する。
【0131】
当該第1の関係式、第2の関係式及び第3の関係式は、交流インピーダンスと電池容量Q
Bとの関係の実測値から最小二乗法に基づいて得られた回帰直線である。
図14(a)に第1の使用履歴における電池温度-10°の条件下での周波数630Hzの交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第1の関係式である回帰直線を破線L13で示した。また、
図14(b)に第1の使用履歴における電池温度25°の条件下での周波数0.005Hzの交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第2の関係式である回帰直線を破線L14で示した。また、
図14(c)に第1の使用履歴における電池温度-10°の条件下での周波数50Hzの交流インピーダンスと容量維持率との関係である実測値の散布図を示すとともに第3の関係式である回帰直線を破線L15で示した。そして、当該変形形態4においても、上記実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0132】
(実施形態3)
本実施形態3の電池劣化予測システム1では、上述の実施形態1の構成に加えて、
図15に示すように、機械的変化算出部116を有する。機械的変化算出部116は、容量予測部110により予測された正負極SOCずれ容量Q
Liに基づいて、二次電池21の機械的変化に関する関係値を算出する。機械的変化算出部116は、例えば、車載されるBMUによって構成されており、二次電池21の機械的変化に関する関係値を算出するためのプログラムを実行可能なプロセッサからなる。
【0133】
本実施形態3において、二次電池21の機械的変化として、二次電池21におけるセル厚みの変化、体積の変化、ばね定数の変化を例示できる。二次電池21の機械的変化は、二次電池21の負極及び正極の膨張により生じる。そして、当該両電極の膨張は、両電極上に生成される被膜に起因して発生する。当該被膜は電池反応系内のリチウムイオンを含む電解液を消費して形成される。一方、正負極SOCずれ容量QLiは、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数に依存する。したがって、正負極SOCずれ容量QLiの予測値に基づいて、被膜の形成に起因する二次電池21の機械的変化に関する関係値を算出することができる。二次電池21の機械的変化に関する関係値は、二次電池21におけるセル厚みの変化量、膨張量、ばね定数の変化量とすることができる。
【0134】
本実施形態3では、機械的変化算出部116により二次電池21の機械的変化に関する関係値を算出することにより、二次電池21における液枯れや集電伯の破断などに起因する急劣化の予測や、高いCレートでの充電によるハイレート劣化に起因するリチウム析出の予測を行うことができる。これにより、構造的な観点で二次電池21の信頼性を診断することができる。なお、本実施形態3においても、上述の実施形態1の場合と同様の作用効果を奏する。
【0135】
なお、機械的変化算出部116において、二次電池21におけるガス発生を二次電池21の機械的変化として予測することとしてもよい。二次電池21におけるガス発生は二次電池21の電解液の酸化還元分解に起因しており、当該電解液の酸化還元分解は電池反応系内のリチウムイオンを消費する。そのため、上述の被膜の形成の場合と同様に、正負極SOCずれ容量QLiの予測値に基づいて、二次電池21の機械的変化に関する関係値としてガス発生量を算出することができる。
【0136】
(実施形態4)
本実施形態4の電池劣化予測システム1では、上述の実施形態3における機械的変化算出部116に替えて、
図16に示すようにリチウム析出予測部117を有する。リチウム析出予測部117は、電極抵抗取得部107により算出された負極抵抗R
aに基づいて、二次電池21の負極に生じるリチウム析出のタイミングを予測する。リチウム析出予測部117は、負極抵抗R
aと、予め設定されたリチウム析出の基準となる基準電圧とを比較し、当該比較結果が負極抵抗R
aが基準電圧よりも低いことを示すこととなるタイミングにおいて、二次電池21の負極にリチウム析出が析出し始めることを予測することができる。
【0137】
本実施形態4では、リチウム析出予測部117によりリチウム析出のタイミングを予測することにより、二次電池21の劣化予測の精度を一層向上することができる。なお、本実施形態4においても、上述の実施形態1の場合と同様の作用効果を奏する。
【0138】
(実施形態5)
上述の実施形態1では、二次電池21、電流センサ26、温度センサ27及び電池劣化予測システム1の全構成が車両に搭載されている態様を示し、他の態様として、学習部111のみが車両外に配されるとともに学習部111以外の構成が車両に搭載された態様を示した。これに限らず、二次電池21が車両に搭載されているとともに、電池劣化予測システム1の少なくとも一部が車両の外部に配された構成としてもよい。例えば、
図17に示す実施形態5では、二次電池21、電流センサ26及び温度センサ27が車両50に搭載されており、電池劣化予測システム1の全構成が車両50の外部に配された構成となっている。
【0139】
本実施形態5では、電池劣化予測システム1は、車両50の外部に配されたサーバ60上に配されている。サーバ60はコンピュータにより構成することができる。なお、サーバ60は単一のコンピュータにより構成されていてもよいし、複数のコンピュータを有線又は無線で接続してなるネットワークにより構成されていてもよい。また、サーバ60はインターネットを介してクラウドサーバを構成していてもよい。
【0140】
図17に示すように、本実施形態4では、車両50は無線通信部51を有しており、サーバ60も無線通信部61を有している。そして、車両50において電流センサ26及び温度センサ27により検出された二次電池21の電流値及び電池温度を、両無線通信部51、61を介して、サーバ60上の電池劣化予測システム1に送信することができる。
【0141】
また、本実施形態5では、
図17に示すように車両50は電池劣化予測システム1による予測結果を表示する表示部52を備えていてもよい。電池劣化予測システム1による予測結果は、無線通信部51、61を介して、サーバ60上の電池劣化予測システム1から車両50に送信されて、車両50の表示部52に表示させることができる。これにより、車両上で電池劣化予測システム1による予測結果を確認することができる。
【0142】
本実施形態5では、電池劣化予測システム1の構成を車両50に搭載する必要がないため、車両50のBMUの構成が複雑化することが抑制される。また、電池劣化予測システム1の外部に配されたサーバ60上に配されているため、電池劣化予測システム1の管理が容易となる。また、サーバ60上に複数の車両の電池劣化予測システム1を配することとすれば、これらをまとめて管理することにより作業性が向上する。なお、本実施形態5においても、上記実施形態1の場合と同様の作用効果を奏する。
【0143】
(実施形態6)
本実施形態6では、
図18に示すように、電池劣化予測システム1は、上記複数の関数g
A、g
B、g
C、h
A、h
B、h
C、i
A、i
B、i
C、j
A、j
B、j
C、k
A、k
B、k
C、l
A、l
B、l
Cに含まれる変数の値を取得するのに必要なデータを取得できなかったデータ未取得期間ΔtNにおいて、上記取得できなかったデータを推定する推定部118を有する。そして、電極抵抗取得部107及び容量予測部110は、推定部118により推定された上記データに基づいて取得された変数の値を用いて、データ未取得期間における負極抵抗R
a、正極抵抗R
c、負極容量Q
a、正極容量Q
c、及び正負極SOCずれ容量Q
Liを算出する。本実施形態6において、実施形態1と同等の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0144】
本実施形態6において、上記変数の値を取得するのに必要なデータとは、例えば、二次電池21における温度T、電流値I、電圧値V、SOCなどの電池情報とすることができ、当該データが上記関数における変数そのものであってもよいし、当該データに基づいて上記変数の値が算出されるものであってもよい。
【0145】
また、
図18に示す推定部118は、上記推定を行うためのプログラムを実行する演算装置からなり、本実施形態6では、車載されるBMUによって構成されている。本実施形態6において、データ未取得期間は、例えば、電池劣化予測システム1に電力が供給されていないことにより上記データの取得ができない期間や、電池劣化予測システム1における故障等によって上記データの取得ができない期間などとすることができる。本実施形態6では、二次電池21は車両に搭載されたバッテリを構成しており、電池劣化予測システム1がBMUにより構成されており、当該車両のイグニッションがオフである駐車中の期間は、データ未取得期間に該当する。
【0146】
本実施形態6では、推定部118は、データ未取得期間ΔtNにおける二次電池21の温度T、電流値I、電圧値V、及びSOCを推定する。推定部118によるこれらの推定処理は、
図3に示す電池劣化予測システム1による電池容量Q
Bを予測する処理のステップS1の前に行う。推定処理の終了後、当該推定処理により推定された値を用いて、電池容量Q
Bを予測する処理を行う。
【0147】
次に、本実施形態6における、推定処理について、
図19に示すフロー図を用いて、説明する。
まず、
図19に示すステップS101において、推定部118は、車両が履歴に未処理の駐車期間を有しているか否か判定する。本実施形態では、
図20(a)に示す車両のイグニッションIgnがOffであった期間を有するか否かを判定する。
図20(a)に示すようにIgnがOffであった駐車期間ΔtNがありと判定された場合は、ステップS101のYesに進み、そうでない場合はステップS101のNoに進み、推定処理を終了する。
【0148】
次に
図19に示すステップS101のYesに進んだ場合は、推定部118は、駐車開始直前のデータの読み込みと、駐車終了直後のデータの読み込みを行う。駐車開始直前のデータとは、
図20(a)~
図20(e)に示す駐車期間ΔtNの開始タイミングt1の直前タイミングにおける、温度T1、電流値I1、電圧値V1及びSOC1である。また、駐車終了直後のデータとは、
図20(a)~
図20(e)に示す駐車期間ΔtNの終了タイミングt2の直後タイミングにおける、温度T2、電流値I2、電圧値V2及びSOC2である。これらのデータはいずれも記憶部115に記憶されている。
【0149】
その後、
図19に示すステップS103において、推定部118により、駐車期間ΔtNにおける二次電池21の雰囲気温度Tsを取得する。二次電池21の雰囲気温度Tsとは、二次電池21自身の温度ではなく、二次電池21が配置された周辺の温度である。当該雰囲気温度Tsとして、二次電池21の周辺に駐車期間ΔtNに作動する他の装置が配置されているときは、当該他の装置に搭載された温度センサにより検出された温度を採用することができる。また、当該他の装置に搭載された温度センサによる雰囲気温度の取得が困難な場合は、気象庁等が提供する気象データを参照して駐車期間ΔtNにおいて当該車両が駐車された場所及び時刻における外気温度を二次電池21の雰囲気温度とすることができる。本実施形態6では、二次電池21の雰囲気温度Tsは、二次電池21の周辺に設けられた装置に搭載された温度センサにより取得された温度であり、
図20(b)に示す雰囲気温度Tsをとして表すことができる。
【0150】
そして、
図19に示すステップS104に進み、推定部118により、駐車中の電池温度の仮推定を行う。当該仮推定は、予め二次電池21における雰囲気温度に対する外気放熱抵抗を取得しておき、駐車期間ΔtNの開始タイミングt1における温度T1から駐車期間ΔtNの終了タイミングt2までの雰囲気温度Tsの外気環境での温度変化を推定することにより行う。例えば、推定部118による仮推定値は、
図20(b)に示す仮推定温度Taとして表すことができる。
【0151】
その後、
図19に示すステップS105に進み、推定部118により、仮推定温度の補正を行い、当該補正後のものを推定温度として算出する。当該補正は、駐車期間ΔtNの開始タイミングt1における仮推定温度Taの温度Tasと駐車直前の温度T1とが一致するとともに、駐車期間ΔtNの終了タイミングt2における仮推定温度Taの温度Taeと駐車直後の温度T2とが一致するように行う。本実施形態6では、当該補正として時間比例の補正を行う。すなわち、
図20(b)に示すように、駐車期間ΔtNの終了タイミングt2における仮推定温度Taeと、駐車期間ΔtNの終了タイミングt2における二次電池21の温度T2とを比較する。そして、両者が異なる値である場合は、開始タイミングt1における仮推定温度Taeと温度T1とを一致させた状態で、仮推定温度Taeが温度T2に一致するように仮推定温度Taの全体をグラフの上下方向に縮小することにより行い、補正後の推定温度Tbを算出する。そして、算出された補正後の推定温度Tbを記憶部115に格納する。なお、仮推定温度Taeが温度T2に一致するための補正はこれに限定されず、他の方法により行うこともできる。
【0152】
次いで、
図19に示すステップS106に進み、推定部118により、駐車期間ΔtNにおける電流値I、電圧値V、SOCを推定する。まず、駐車期間ΔtNでは、実質的に二次電池21に電流が流れていないので、電流値Iの推定値である電流推定値Ibは
図20(c)に示すように0Aと推定する。また、駐車期間ΔtNでは、電圧値Vの変化は少ないため、
図20(d)に示すように駐車開始直前の電圧値V1から駐車終了直後の電圧値V2までを線形補間することにより電圧推定値Vbを推定する。また、駐車期間ΔtNでは、SOCの変化も少ないため、
図20(e)に示すように駐車開始直前のSOC1から駐車終了直後のSOC2までを線形補間することによりSOC推定値SOCbを推定する。そして、電流推定値Ib、電圧推定値Vb及びSOC推定値SOCbも記憶部115に格納する。なお、電流推定値Ib、電圧推定値Vb及びSOC推定値SOCbの推定方法はこれに限定されず、他の方法により行うこともできる。そして、当該推定処理のフローを終了し、
図2に示す電池容量Q
Bを予測する処理のステップS1に進む。
【0153】
本実施形態6によれば、電池容量QBを予測する処理において、負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiを算出するための複数の関数に含まれる変数の値を取得できない期間においても上述の温度推定値Tb、電流推定値Ib、電圧推定値Vb及びSOC推定値SOCbを用いることにより、負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiを算出することができる。これにより、電池容量QBの予測精度を一層向上することができる。
【0154】
さらに、本実施形態6では、温度推定値Tbは、二次電池21における外気放熱抵抗に基づいた仮推定温度Taを雰囲気温度Tsを用いて補正することにより算出される。そのため、温度推定値Tbは、車両が駐車状況をより高度に反映したものとなっており、電池容量QBの予測精度をさらに向上することができる。
【0155】
本発明は、前記各実施形態及び変形形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、実施形態3における機械的変化算出部116と実施形態4におけるリチウム析出予測部117とを兼ね備えた構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0156】
1 電池劣化予測システム
102 電流値取得部
106 OCP取得部
107 電極抵抗取得部
108 分極算出部
109 CCP算出部
110 容量予測部
111 学習部
116 機械的変化算出部
117 リチウム析出予測部
21 二次電池