(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】電力変換システムおよび電力変換システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20240611BHJP
H02P 21/13 20060101ALI20240611BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240611BHJP
H02M 7/483 20070101ALI20240611BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/13
H02M7/48 F
H02M7/483
(21)【出願番号】P 2021009249
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-034290(JP,A)
【文献】特開2007-252163(JP,A)
【文献】特開2014-036479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0002072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
H02P 21/13
H02M 7/48
H02M 7/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令値に基づいて角周波数指令を生成する上位制御部と、前記角周波数指令と検出電流に基づいて負荷の電流を安定化させる制御を行いゲート信号を出力するV/f制御部と、前記ゲート信号に基づいて駆動制御される電力変換器と、を備えた電力変換システムであって、
前記V/f制御部は、
前記角周波数指令から前記検出電流の振動を安定化する角周波数補償量を減算するフィードバック制御を行い、補償後角周波数指令を出力する安定化フィードバック制御部と、
前記補償後角周波数指令とV/f比率との積を演算し、V/f考慮dq軸電圧指令を出力する乗算器と、
直流電圧脈動の周波数による電流の外乱周波数成分を抽出し、前記負荷の伝達関数を考慮して前記電流の外乱周波数成分から電圧の外乱周波数成分を生成し、前記電圧の外乱周波数成分に推定外乱電圧の外乱周波数成分がローパスフィルタを介した値を加算して前記推定外乱電圧の外乱周波数成分とし、前記推定外乱電圧の外乱周波数成分を時間軸に戻して推定外乱電圧を出力する直流脈動オブザーバと、
前記V/f考慮dq軸電圧指令から前記推定外乱電圧を減算した電圧指令に基づいてPWM制御を行うPWM制御部と、
を備えたことを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
前記負荷の伝達関数は、
基本波周波数が外乱周波数未満の場合、d軸電流からd軸電圧への伝達関数、q軸電流からq軸電圧への伝達関数とし、基本波周波数が外乱周波数以上の場合、d軸電流からq軸電圧への伝達関数、q軸電流からd軸電圧への伝達関数とすることを特徴とする請求項1記載の電力変換システム。
【請求項3】
d軸電圧、q軸電圧は、(10)式、(11)式により求めることを特徴とする請求項2記載の電力変換システム。
【数10】
【数11】
V
dAdet:d軸電圧の外乱周波数成分(実成分)
V
qAdet:q軸電圧の外乱周波数成分(実成分)
V
dBdet:d軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)
V
qBdet:q軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)
j:虚数単位
P
ddA:G
dd
-1(jω
dist)の実成分
P
dqA:G
dq
-1(jω
dist)の実成分
P
ddB:G
dd
-1(jω
dist)の虚成分
P
dqB:G
dq
-1(jω
dist)の虚成分
P
qqA:G
qq
-1(jω
dist)の実成分
P
qdA:G
qd
-1(jω
dist)の実成分
P
qqB:G
qq
-1(jω
dist)の虚成分
P
qdB:G
qd
-1(jω
dist)の虚成分
G
dd
-1:d軸電流からd軸電圧への負荷の逆伝達関数
G
dq
-1:d軸電流からq軸電圧への負荷の逆伝達関数
G
qq
-1:q軸電流からq軸電圧への負荷の逆伝達関数
G
qd
-1:q軸電流からd軸電圧への負荷の逆伝達関数
i
dAdet:d軸電流の外乱周波数成分(実成分)
i
dBdet:d軸電流の外乱周波数成分(虚成分)
i
qAdet:q軸電流の外乱周波数成分(実成分)
i
qBdet:q軸電流の外乱周波数成分(虚成分)
ω
r:基本波角周波数
ω
dist:外乱角周波数
【請求項4】
前記負荷の伝達関数は、ノッチフィルタにより基本波周波数付近のゲインを減少させた値とすることを特徴とする請求項1~3のうち何れかに記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記直流脈動オブザーバは、
前記直流電圧脈動の周波数による電流の外乱周波数成分を抽出する際、前記直流電圧脈動の周波数に加えて基本波の6倍周波数の電流の外乱周波数成分を抽出することを特徴とする請求項1~4のうち何れかに記載の電力変換システム。
【請求項6】
前記電力変換器は、マルチレベルインバータであることを特徴とする請求項1~4のうち何れかに記載の電力変換システム。
【請求項7】
指令値に基づいて角周波数指令を生成する上位制御部と、前記角周波数指令と検出電流に基づいて負荷の電流を安定化させる制御を行いゲート信号を出力するV/f制御部と、前記ゲート信号に基づいて駆動制御される電力変換器と、を備えた電力変換システムの制御方法であって、
前記V/f制御部は、
安定化フィードバック制御部が、前記角周波数指令から前記検出電流の振動を安定化する角周波数指令補償量を減算するフィードバック制御を行い、補償後角周波数指令を出力し、
乗算器が、前記補償後角周波数指令とV/f比率との積を演算し、V/f考慮dq軸電圧指令を出力し、
直流脈動オブザーバが、直流電圧脈動の周波数による電流の外乱周波数成分を抽出し、前記負荷の伝達関数を考慮して前記電流の外乱周波数成分から電圧の外乱周波数成分を生成し、前記電圧の外乱周波数成分に推定外乱電圧の外乱周波数成分がローパスフィルタを介した値を加算して前記推定外乱電圧の外乱周波数成分とし、前記推定外乱電圧の外乱周波数成分を時間軸に戻して推定外乱電圧を出力し、
PWM制御部が、前記V/f考慮dq軸電圧指令から前記推定外乱電圧を減算した電圧指令に基づいてPWM制御を行う、
ことを特徴とする電力変換システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器(インバータ)を用いて電圧を出力する電力変換システムに係り、特に、電流脈動抑制制御に関する。
【背景技術】
【0002】
入力された三相交流電圧をAC/DC変換器で直流電圧に変換し、直流電圧をインバータによって所望の周波数,振幅の交流電圧として出力するシステムを考える。
【0003】
このとき、直流電圧が運転中に脈動することがある。特に、AC/DC変換器が三相整流器である場合などには、直流電圧に電源周波数の6倍の周波数の脈動が生じやすいことが知られている。
【0004】
直流電圧が脈動している場合にPWM(パルス幅変調)による電圧出力を行うと、パルスの時間幅のほかにパルスの振幅も変わってしまうので、出力電圧にPAM(パルス振幅変調)の成分が混入し、出力電流に意図しない脈動を引き起こしてしまう。このような意図しない電流脈動はモータにおいてトルク脈動増大、熱損失増大、といった問題を引き起こす。
【0005】
このような問題の対策としては、特許文献1のように検出トルクからトルク脈動を抽出してトルク指令にフィードバックする方法、また、特許文献2のように直流電圧の検出値をもとに出力電圧ベクトルの振幅・位相を調整する方法がある。
【0006】
あるいは、特許文献3に示すPWMを用いたAC/DCコンバータを含む回路構成のように積極的に直流電圧を制御する構成を用いれば、そもそも直流電圧脈動が生じないので対策の必要もなくなる。
【0007】
また、産業用途でのPMSM(永久磁石同期電動機)の位置センサレス駆動では、制御安定性確保の容易さからセンサレスV/f制御が用いられる。特許文献4,特許文献5に示すようなセンサレスV/f制御は電流フィードバックによって過渡的な電流振動を安定化できる。ここでは、電流振動をトルク振動と言い換えることができ、電流の安定化はPMSMの運転の安定化を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5644203号
【文献】特許第5304937号
【文献】特開平8-149855号公報
【文献】特開2006-353025号公報
【文献】特開2000-236694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先行技術文献は、容易な位置センサレス制御の構成、そして安価な構成の中で直流電圧脈動に対策できていない。
【0010】
特許文献1はトルク検出機構を必要とする。電流から推定トルクを得ることも可能だが、この特許文献1のフィードバック対象は電流指令であり、電流制御を行うことができるベクトル制御系を構成する必要がある。位置センサレスシステムでベクトル制御を作成する場合、一般にV/f制御より構成は複雑化し、ゲインの安定性設計の手間が生じる。
【0011】
特許文献2では直流電圧検出値を必要とする。脈動を補償するためには、脈動に対して十分な分解能の直流電圧検出機構を設ける必要がある。また、複数の直流電圧が異なる位相で脈動するマルチレベル構成の場合、各々のPWMパルスにどの直流電圧が使用されるかによって出力電流脈動の振幅・位相が変わるため、直流電圧検出値から指令電圧補償量を求める過程が複雑化する。
【0012】
特許文献3のように直流電圧を積極的に制御する方法は、直流電圧制御用の電力変換器のコストがかかる。コスト面からは、整流器でAC/DC変換を行う構成などが望ましい。
【0013】
したがって、下記の3つの要素を満たす構成にて出力電流の脈動を抑制することが求められる。
(1)簡易なV/f制御に対して出力電流の脈動を抑制する制御を追加する。
(2)直流電圧の脈動自体は許容した回路構成を用いる。
(3)直流電圧検出値は不使用である。
【0014】
以上示したようなことから、電力変換システムにおいて、直流電圧の電圧制御を行わない回路構成、かつ、簡易なV/f制御において負荷の電流脈動を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、指令値に基づいて角周波数指令を生成する上位制御部と、前記角周波数指令と検出電流に基づいて負荷の電流を安定化させる制御を行いゲート信号を出力するV/f制御部と、前記ゲート信号に基づいて駆動制御される電力変換器と、を備えた電力変換システムであって、前記V/f制御部は、前記角周波数指令から前記検出電流の振動を安定化する角周波数補償量を減算するフィードバック制御を行い、補償後角周波数指令を出力する安定化フィードバック制御部と、前記補償後角周波数指令とV/f比率との積を演算し、V/f考慮dq軸電圧指令を出力する乗算器と、直流電圧脈動の周波数による電流の外乱周波数成分を抽出し、前記負荷の伝達関数を考慮して前記電流の外乱周波数成分から電圧の外乱周波数成分を生成し、前記電圧の外乱周波数成分に推定外乱電圧の外乱周波数成分がローパスフィルタを介した値を加算して前記推定外乱電圧の外乱周波数成分とし、前記推定外乱電圧の外乱周波数成分を時間軸に戻して推定外乱電圧を出力する直流脈動オブザーバと、前記V/f考慮dq軸電圧指令から前記推定外乱電圧を減算した電圧指令に基づいてPWM制御を行うPWM制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、その一態様として、前記負荷の伝達関数は、基本波周波数が外乱周波数未満の場合、d軸電流からd軸電圧への伝達関数、q軸電流からq軸電圧への伝達関数とし、基本波周波数が外乱周波数以上の場合、d軸電流からq軸電圧への伝達関数、q軸電流からd軸電圧への伝達関数とすることを特徴とする。
【0017】
また、その一態様として、d軸電圧、q軸電圧は、(10)式、(11)式により求めることを特徴とする。
【0018】
【0019】
【0020】
VdAdet:d軸電圧の外乱周波数成分(実成分)
VqAdet:q軸電圧の外乱周波数成分(実成分)
VdBdet:d軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)
VqBdet:q軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)
j:虚数単位
PddA:Gdd
-1(jωdist)の実成分
PdqA:Gdq
-1(jωdist)の実成分
PddB:Gdd
-1(jωdist)の虚成分
PdqB:Gdq
-1(jωdist)の虚成分
PqqA:Gqq
-1(jωdist)の実成分
PqdA:Gqd
-1(jωdist)の実成分
PqqB:Gqq
-1(jωdist)の虚成分
PqdB:Gqd
-1(jωdist)の虚成分
Gdd
-1:d軸電流からd軸電圧への負荷の逆伝達関数
Gdq
-1:d軸電流からq軸電圧への負荷の逆伝達関数
Gqq
-1:q軸電流からq軸電圧への負荷の逆伝達関数
Gqd
-1:q軸電流からd軸電圧への負荷の逆伝達関数
idAdet:d軸電流の外乱周波数成分(実成分)
idBdet:d軸電流の外乱周波数成分(虚成分)
iqAdet:q軸電流の外乱周波数成分(実成分)
iqBdet:q軸電流の外乱周波数成分(虚成分)
ωr:基本波角周波数
ωdist:外乱角周波数。
【0021】
また、その一態様として、前記負荷の伝達関数は、ノッチフィルタにより基本波周波数付近のゲインを減少させた値とすることを特徴とする。
【0022】
また、その一態様として、前記直流脈動オブザーバは、前記直流電圧脈動の周波数による電流の外乱周波数成分を抽出する際、前記直流電圧脈動の周波数に加えて基本波の6倍周波数の電流の外乱周波数成分を抽出することを特徴とする。
【0023】
また、その一態様として、前記電力変換器は、マルチレベルインバータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電力変換システムにおいて、直流電圧の電圧制御を行わない回路構成、かつ、簡易なV/f制御において負荷の電流脈動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態1~4における電力変換システムを示す構成図。
【
図2】実施形態1におけるV/f制御部を示すブロック図。
【
図3】実施形態1における直流脈動オブザーバを示すブロック図。
【
図7】実施形態1のシミュレーション結果を示す図。
【
図8】実施形態2におけるV/f制御部を示すブロック図。
【
図9】ノッチフィルタを介した伝達関数特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本願発明における電力変換システムの実施形態1~4を
図1~
図9に基づいて詳述する。
【0027】
[実施形態1]
図1に本実施形態1における電力変換システムの構成図を示す。上位制御部1はV/f制御部2より上流に存在する制御を示しており、例えば、盤・パネルの操作量などの情報に基づく角周波数指令ω
*を生成する。
【0028】
検出電流iと上位制御部1から出力された角周波数指令ω*はV/f制御部2へと出力される。V/f制御部2では負荷(例えばPMSM、以下PMSMと称する)4の電流を安定化させる制御を行い、ゲート信号gを出力する。ゲート信号gによりインバータ(電力変換器)3が駆動される。インバータ3にはPMSM4が接続されており、PMSM4にはゲート信号gに応じた電圧が印加される。
【0029】
図1は本願発明の対象とする電力変換システムの代表的なシステム構成例であり、本願発明の適用対象はこれに限らない。例えば、インバータ3に接続されるのが永久磁石を使用しないシンクロナスリラクタンスモータのような負荷であってもよい。重要なのは、電流指令を用いない制御構成で電力変換器および電力変換器に接続された電動機を駆動していることである。
【0030】
図2に本実施形態1のV/f制御部2の構成図を示す。V/f制御部2には角周波数指令ω
*と検出電流iが入力される。
【0031】
PI制御部5は角周波数指令ω*と補償後角周波数指令ω**に基づいて、PI出力角周波数指令ωPIを出力する。
【0032】
三相二相変換部6は、検出電流iを制御位相θcに基づいてUVW/dq変換し、d軸電流id、q軸電流iqを生成する。LPF(ローパスフィルタ)7はq軸電流iqのノイズ成分を抽出する。乗算器8は、LPF7の出力と電流振動補償ゲインKiとの積を演算し、検出電流iの振動を抑制する角周波数補償量ωcompとして出力する。
【0033】
安定化フィードバック制御部9は、PI出力角周波数指令ωPIから角周波数補償量ωcompを減算し、補償後角周波数指令ω**として出力する。補償後角周波数指令ω**はPI制御部5に入力される。積分器10は、補償後角周波数指令ω**を積分し、制御位相θcとして出力する。
【0034】
乗算器11は、補償後角周波数指令ω**とV/f比率KVfとの積を演算し、V/f考慮dq軸電圧指令VdqVfを出力する。直流脈動オブザーバ12は、補償後角周波数指令ω**と検出電流iに基づいて、推定外乱電圧Vdqdist^を出力する。減算器13は、V/f考慮dq軸電圧指令VdqVfから推定外乱電圧Vdqdist^を減算し、補償後dq軸電圧Vdqcmdとして出力する。
【0035】
二相三相変換部14は、補償後dq軸電圧Vdqcmdを制御位相θcに基づいてdq/UVW変換し、三相電圧指令Vcmdとして出力する。PWM制御部15は、三相電圧指令Vcmdに基づいて、三角波比較などといった方法でゲート信号gを生成する。このゲート信号gがV/f制御部2の出力となる。
【0036】
図2で重要なのは、角周波数指令ω
*に対して検出電流iの振動を安定化するフィードバック制御を行うこと、安定化フィードバック制御の出力でV/f制御を行うこと、dq軸電圧に直流電圧脈動の影響を補償する電圧をフィードバックすること、であり本願発明の適用対象はこれに限らない。例えば、制御位相に対して負荷角を考慮した補正を行う構成であってもよい。
【0037】
図3に本実施形態1の直流脈動オブザーバ12を示す。直流脈動オブザーバ12には検出電流iと補償後角周波数指令ω
**が入力される。積分器16は、補償後角周波数指令ω
**を積分処理し、指令位相θ
cmdとして出力する。三相二相変換部17は、検出電流iを指令位相θ
cmdに基づいてUVW/dq変換し、dq軸電流i
dqを得る。
【0038】
積分器18は、外乱角周波数ωdistを積分し、外乱位相θdistを出力する。周波数成分抽出部19は、dq軸電流idqと外乱位相θdistを用いて周波数成分抽出処理を行う。周波数成分抽出部19の出力はローパスフィルタF(s)20を介して電流の外乱周波数成分iABdetとなる。
【0039】
電流の外乱周波数成分iABdetは負荷の逆伝達関数GP
-1(s)を経て、電圧の外乱周波数成分VABdetとなる。加算器22は、電圧の外乱周波数成分VABdetに推定外乱電圧の外乱周波数成分VABdist^がローパスフィルタ(F(s))23を介した値を加算し、推定外乱電圧の外乱周波数成分VABdist^として出力する。
【0040】
そして、時間軸波形再現部24は、推定外乱電圧の外乱周波数成分VABdist^と外乱位相θdistを用いて時間軸波形の再現を行い、推定外乱電圧Vdqdist^を得る。この推定外乱電圧Vdqdist^が直流脈動オブザーバ12の出力となる。
【0041】
図3で重要なのは、直流電圧脈動の周波数による電流の外乱周波数成分を抽出すること、負荷の伝達関数を考慮して電流を電圧相当の値とすること、電圧の外乱周波数成分を用いてオブザーバを構成すること、推定外乱の外乱周波数成分を時間軸に戻して出力すること、であり本願発明の適用対象はこれに限らない。例えば、dq軸電流i
dqについて
図2の三相二相変換部6で得たd軸電流i
d、q軸電流i
qを用いて
図3の三相二相変換部17を省略する構成でもよい。
【0042】
本実施形態1では、直流電圧脈動周波数に対する外乱オブザーバを用いて直流電圧脈動のもたらす電流脈動を低減する。この際、モータの伝達関数を考慮してd軸電流id、q軸電流iqの振動補償の対象をd軸電圧、q軸電圧のどちらにするかを切り換える。
【0043】
図1のシステム構成について、本実施形態1はインバータでモータを駆動するシステムを想定している。本実施形態1の目的は簡易な構成に補償を追加することであり、簡易にPMSMをセンサレス制御できる安定化V/f制御を前提とした。ただし、電圧指令値をもつモータドライブシステムであれば、本実施形態1は適用可能である。
【0044】
以下では、V/f制御の基本構成について述べる。
図2のV/f制御部2について、検出電流iはUVW/dq変換を経てq軸電流i
qが取り出される。特にPMSMでは、q軸電流i
qはモータトルクに寄与する電流である。
図2のようにq軸電流i
qに電流振動補償ゲインK
iをかけて角周波数指令ω
*にフィードバックすることは角周波数指令ω
*にトルクをフィードバックすることと近く、このフィードバックによってPMSMの運転を安定化することができる。
【0045】
ただし、電流フィードバックは定常成分を通しており、角周波数指令ω*を常に減少させる。そのため、上位からの指令である角周波数指令ω*と最終的な制御位相θcの生成に用いる補償後角周波数指令ω**の値が食い違う問題が生じる。これを補うために、補償後角周波数指令ω**が角周波数指令ω*に追従するようPI制御を行い、PI出力角周波数指令ωPIを生成している。
【0046】
補償後角周波数指令ω**についてV/f比率KVfでV/f比率を考慮した後は、dq軸電圧,制御位相θcを用いたdq/UVW変換で三相電圧指令vcmdを生成し、PWMを行えばよい。
【0047】
以上が安定化V/f制御の基本的な動作であるが、本実施形態1ではこれに直流電圧脈動の補償制御である直流脈動オブザーバ12を追加する。直流脈動オブザーバ12の出力は推定外乱電圧Vdqdist^として出力され、V/f考慮dq軸電圧指令Vdqvfにフィードバックされる。これで、簡易な構成に追加する形で直流電圧脈動のもたらす電流脈動を低減できる。
【0048】
以下では、
図3の直流脈動オブザーバ12について述べる。直流脈動オブザーバ12は、特定周波数に限定して作用する周期外乱オブザーバである。三相整流器によるAC/DC変換の場合、直流電圧は電源周波数fsの6倍で脈動することが知られている。そのため、本実施形態1の対象とするような直流電圧制御を行わない構成では、直流脈動オブザーバ12の対象とする特定周波数は6fsで設定すればよい。他の直流電圧脈動周波数がわかっていればその周波数についても補償する。
【0049】
直流脈動オブザーバ12では、周波数成分を抽出し、外乱成分を推定し、外乱成分を時間軸波形として再現する。
【0050】
まず、周波数成分の抽出について述べる。dq軸電流idqに対して抽出を行うため、入力の補償後角周波数指令ω**から積分処理で生成した指令位相θcmdを用いて検出電流iのUVW/dq変換を行い、dq軸電流idqを得る。dq軸電流idqは検出d軸電流iddetと検出q軸電流iqdetをもつ(1)式のようなベクトルである。
【0051】
【0052】
図2のV/f制御部2と
図3の直流脈動オブザーバ12が同期している場合、この変換を省略して
図2のUVW/dq変換結果をそのまま
図3で用いてもよい。dq軸電流i
dqと、外乱角周波数ω
distから積分処理で生成した外乱位相θ
distを用いて外乱周波数成分を抽出する。
【0053】
なお、上記のように、外乱角周波数ωdistは基本的に(2)式で設定する。fsは電源周波数である。
【0054】
【0055】
周波数成分抽出部19では外乱位相θdistとdq軸電流idqに基づいて(3)式の演算を行う。i’dA,i’dBは抽出経過の電流値である。(3)式を外乱周波数成分について展開したのが(4)式であり、i’dA,i’dBはd軸電流の外乱周波数成分idAdet,idBdetに外乱の2倍周波数の振動が重畳された値であるとわかる。
【0056】
【0057】
【0058】
これに対し、周波数成分抽出部19の後段でローパスフィルタF(s)20を設けている。ローパスフィルタF(s)20を用いて外乱の2倍周波数の振動をカットすることでd軸電流の外乱周波数成分idAdet,idBdetが得られる。逆に言えば、ローパスフィルタF(s)20は外乱の2倍周波数成分をカットできる1次以上のローパスフィルタでなければならない。
【0059】
q軸電流についても同様の処理を行い、(5)式のように電流の外乱周波数成分iABdetを得る。以上が周波数成分の抽出である。
【0060】
【0061】
次に、外乱成分の推定を述べる。
図4に電圧に関わる制御構成を示す。
図4は
図1,
図2,
図3の内容について位相に関わる部分を省略し、電圧について簡易にまとめたものである。直流電圧脈動はPMSM印加前の電圧に対する外乱とみなせる。そのため、
図4では補償後dq軸電圧V
dqcmdに加算器25で直流電圧脈動V
distを加算している。
【0062】
図5に直流脈動オブザーバ12の構成を示す。
図4から安定化V/f制御、および周波数成分の抽出と時間軸波形の再現を省略して、直流電圧脈動の周波数成分に関する部分のみ示している。v
*は電圧指令であるが外乱周波数成分について言えば指令値は0であるので「v
*=0」と記載した。また、指令値が0であれば指令値加算の前後で値は変わらないので外乱分補償後の電圧指令V
cmdにローパスフィルタF(s)23を介して検出値の外乱周波数成分V
detと差を取る構成で記述している。直流電圧脈動成分はPMSM印加前の外乱電圧V
distとして作用する。
【0063】
そして、印加電圧は負荷(ここではPMSM)の伝達関数GP(s)を介して外乱電流idistとなる。周波数成分抽出は省略すると述べたが、外乱電流idistから周波数成分を抽出するときに用いるローパスフィルタF(s)20は無視できないため記載している。ローパスフィルタF(s)20を通った後は、負荷の逆伝達関数GP
-1(s)から検出値の外乱周波数成分Vdetを得る。外乱分補償後の電圧指令VcmdにローパスフィルタF(s)23を通した値と外乱周波数成分Vdetとの偏差が推定外乱電圧Vdist^となる。
【0064】
(6)式からわかるように、推定外乱電圧V
dist^はローパスフィルタF(s)を介して定常的に外乱電圧V
distを推定している。直流電圧脈動そのものは特定の周波数で脈動するが、
図4は抽出した周波数成分についての外乱オブザーバであるので、定常で外乱を推定できればよい。したがって、本実施形態1の構成を用いれば、直流電圧脈動をdq軸電圧の外乱として推定することができる。また、推定値を指令電圧にフィードバックして外乱分を打ち消せば、直流電圧脈動のもたらす出力電流脈動を消去することができる。
【0065】
【0066】
負荷の伝達関数G
P(s)について検討する。ここでは、
図1の構成より負荷とはPMSM4を指すため、PMSM4の伝達関数を考慮する。
【0067】
PMSMの状態方程式は(7)式で表されることが知られる。idはd軸電流[A]、iqはq軸電流[A]、vdはd軸電圧[V]、vqはq軸電圧[V]、Ldはd軸インダクタンス[H]、Lqはq軸インダクタンス[H]、R1は巻線抵抗[Ω]、Ψは永久磁石鎖交磁束数[Wb]、ωrは基本波角周波数(電気角)[rad/s]、である。
【0068】
【0069】
ここで、(7)式を(8)式へと変形する。ここで、Gddはd軸電圧→d軸電流の伝達関数、Gdqはd軸電圧→q軸電流の伝達関数、Gqdはq軸電圧→d軸電流の伝達関数、Gqqはq軸電圧→q軸電流の伝達関数、KΨd,KΨqはΨの与える項をまとめたものである。
【0070】
【0071】
すると、各伝達関数の値は(9)式で表される。なお、Ψの与える項KΨd,KΨqは印加電圧に関する周波数応答には影響せず定常時には一定値とみなせるため、本実施形態1の直流脈動オブザーバ12では考慮しない。
【0072】
【0073】
図6にPMSM伝達関数のボード線図を示す。伝達関数G
ddを実線、伝達関数G
qdを二点鎖線、伝達関数G
dqを点線、伝達関数G
qqを一点鎖線で示した。例として巻線抵抗R
1が0.1mΩ、d軸インダクタンスL
dが5mH、q軸インダクタンスL
qが12mH、基本波角周波数ω
rが628.3rad/s(基本波周波数が100Hz)と設定した。基本波周波数付近で振動を増幅する特性を持っている。
【0074】
ここで重要なのは、基本波周波数を境にしてd軸・q軸相互の伝達特性の関係性が逆転している点である。基本波周波数以上では伝達関数Gdd,Gqqが伝達関数Gqd,Gdqよりもゲインが大きく、逆に基本波周波数未満では伝達関数Gqd,Gdqが伝達関数Gdd,Gqqよりもゲインが大きくなっている。
【0075】
これはつまり、d軸電圧へと補償量を加算した際、基本波周波数以上ではq軸電流よりd軸電流への作用の方が大きく、基本波周波数未満ではd軸電流よりq軸電流への作用の方が大きいということを意味する。
【0076】
このとき、dq軸の干渉で発散することがあり得る。例えば、外乱周波数が基本波周波数未満のときにd軸電流に現れた外乱を抑制する際、d軸電圧に補償量を加算すればq軸電流に増幅された電流脈動が生じる。さらに、q軸電流をq軸電圧で抑制しようとすればd軸電流に増幅された電流脈動が生じる。これを繰り返して、補償制御が電流脈動を増幅していき、最終的に発散する。
【0077】
したがって、発散を避けるには外乱周波数と基本波周波数の位置関係によって外乱補償の対象軸の関係を変更する必要がある。外乱周波数を一定と考えると、基本波周波数の増減に応じて対象軸を変更することになる。
【0078】
基本波周波数が外乱周波数未満の場合、d軸電流の脈動はd軸電圧、q軸電流の脈動はq軸電圧への補償で脈動を低減する。基本波周波数が外乱周波数以上の場合、d軸電流の脈動はq軸電圧、q軸電流の脈動はd軸電圧への補償で脈動を低減する。
【0079】
制御内で用いる逆伝達関数GP
-1(s)については、補償対象の軸に基づいて定める。つまり、基本波周波数に応じて参照する伝達関数を変更する。
【0080】
基本波周波数が外乱周波数未満の場合、d軸電流成分は逆伝達関数Gdd
-1(s)、q軸電流成分は逆伝達関数Gqq
-1(s)を介して電圧成分を得る。基本波周波数が外乱周波数以上の場合、d軸電流成分は逆伝達関数Gqd
-1(s)、q軸電流成分は逆伝達関数Gdq
-1(s)を介して電圧成分を得る。
【0081】
ただし、このとき伝達関数をデジタルフィルタとして直接実装する必要はない。すでに外乱周波数成分のみを抽出しているので、伝達関数における外乱角周波数ωdistの成分、つまり、Gdd
-1(s)であればGdd
-1(jωdist)の成分との積を考えれば逆伝達関数を考慮したことになる。
【0082】
(3)式の周波数成分の抽出が反時計回りであるため、電流・電圧のsin成分は負の虚数成分(90°遅れ)として記述されることに注意すると、電圧の外乱周波数成分VdAdet,VdBdetは(10)式のように求められる。Gdq
-1(jωdist)の成分を実成分PdqA・虚成分PdqBと表し、Gdd
-1(s)などの場合も同様の命名とした。
【0083】
【0084】
q軸についても同様に(11)式で求められる。
【0085】
【0086】
VdAdet:d軸電圧の外乱周波数成分(実成分)
VqAdet:q軸電圧の外乱周波数成分(実成分)
VdBdet:d軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)
VqBdet:q軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)
j:虚数単位
PddA:Gdd
-1(jωdist)の実成分
PdqA:Gdq
-1(jωdist)の実成分
PddB:Gdd
-1(jωdist)の虚成分
PdqB:Gdq
-1(jωdist)の虚成分
PqqA:Gqq
-1(jωdist)の実成分
PqdA:Gqd
-1(jωdist)の実成分
PqqB:Gqq
-1(jωdist)の虚成分
PqdB:Gqd
-1(jωdist)の虚成分
Gdd
-1:d軸電流からd軸電圧への負荷の逆伝達関数
Gdq
-1:d軸電流からq軸電圧への負荷の逆伝達関数
Gqq
-1:q軸電流からq軸電圧への負荷の逆伝達関数
Gqd
-1:q軸電流からd軸電圧への負荷の逆伝達関数
idAdet:d軸電流の外乱周波数成分(実成分)
idBdet:d軸電流の外乱周波数成分(虚成分)
iqAdet:q軸電流の外乱周波数成分(実成分)
iqBdet:q軸電流の外乱周波数成分(虚成分)
ωr:基本波角周波数
ωdist:外乱角周波数
以上の計算をふまえ、電圧の外乱周波数成分VABdetは(12)式で定められる。
【0087】
【0088】
なお、PdqA,PdqBといった伝達関数の実成分・虚成分は基本波周波数ごとに値が異なるが、これについては0.1Hz~数十Hz程度の周波数刻みであらかじめ求めておき、テーブル化する。
【0089】
そして、周波数成分の抽出におけるローパスフィルタF(s)を考慮した外乱オブザーバのフィードバックループを介して、推定外乱電圧の外乱周波数成分VABdist^が求められる。つまり、(13)式のようになる。以上が外乱成分の推定である。ここで、VdAdist^は推定外乱d軸電圧の外乱周波数成分(実成分)、VdBdist^は推定外乱d軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)、VqAdist^は推定外乱q軸電圧の外乱周波数成分(実成分)、VqBdist^は推定外乱q軸電圧の外乱周波数成分(虚成分)である。
【0090】
【0091】
以下では、時間軸波形の再現について述べる。ここまで、抽出した外乱周波数成分に対して外乱オブザーバを構成し、推定外乱電圧の外乱周波数成分VABdist^を得た。ここで、推定外乱電圧の外乱周波数成分VABdist^から現在の外乱位相θdistにおける推定外乱電圧Vdqdist^を算出する。推定外乱電圧Vdqdist^は(14)式で得られる。
【0092】
【0093】
これで、外乱角周波数ωdistの積分により外乱位相θdistが増加するに伴い、外乱電圧の交流波形が再現される。以上が、時間軸波形の再現である。
【0094】
直流脈動オブザーバ12の、周波数成分を抽出し、外乱成分を推定し、外乱成分を時間軸波形として再現する手順を述べた。この結果得られた推定外乱電圧Vdqdist^をV/f制御にフィードバックすることで、直流電圧脈動のもたらす出力電流脈動を抑制することができる。
【0095】
図7に本実施形態1のシミュレーション結果を示す。直流電圧外乱がある状態での電流低周波脈動を本実施形態1の直流脈動オブザーバ12で抑制する。dq軸の電流i
d,i
qを見ると本実施形態1が動作する前の1.0秒以前ではピークトゥピークで20A程度のリプルが存在している。1.0秒以後の本実施形態1動作後は0.5秒未満の間に外乱推定がはたらき、リプルをピークトゥピークで10A未満に抑制していることがわかる。
【0096】
本実施形態1動作開始前の0.9秒付近、および動作開始後の4.5秒付近の三相電流iUVWも下に示している。本実施形態1動作開始前は相ごとのピークが異なる、つまり直流電圧脈動起因の出力電流脈動が存在している。動作開始後では脈動成分が抑制されピークの揃った波形になっている。
図7から本実施形態1の効果が確認された。以上が本実施形態1の動作である。
【0097】
以上示したように、本実施形態1によれば、
図2,3に基づいて検出電流から外乱電圧を推定してフィードバック制御を行うことで、電流脈動の減少を達成した制御を行うことができる。
【0098】
先行技術文献に対しては、簡易な制御構成、安価な回路構成という利点がある。また、マルチレベルインバータは複数の直流電圧が異なる位相で脈動するが、本実施形態1によれば、電力変換器をマルチレベルインバータとしても簡易な制御構成、安価な回路構成で電流脈動の減少を実現できる。
【0099】
[実施形態2]
図8に本実施形態2のV/f制御部2の構成を示す。基本的な構成は
図2(実施形態1)と同じである。異なる点は、q軸電流i
qへのフィルタをHPF(ハイパスフィルタ26)としていること、角周波数指令ω
*と補償後角周波数指令ω
**を用いたPI制御を行わないこと、である。
【0100】
実施形態1は特許文献4のV/f制御をもとにしたが、異なるV/f制御構成に適用してもよい。特許文献5のようにHPFを介してq軸電流iqを角周波数指令ω*にフィードバックする構成にすれば、角周波数補償量ωcompが定常的に0になり、PI制御を持たなくとも角周波数指令ω*と補償後角周波数指令ω**の定常偏差がなくなる。
【0101】
以上示したように、本実施形態2によれば、
図3,
図8に基づいて検出電流から外乱電圧を推定してフィードバック制御を行うことで、電流脈動の減少を達成した制御を行うことができる。
【0102】
また、先行技術文献に対しては、簡易な制御構成、安価な回路構成という利点がある。また、マルチレベルインバータは複数の直流電圧が異なる位相で脈動するが、本実施形態2によれば、電力変換器をマルチレベルインバータとしても簡易な制御構成、安価な回路構成で電流脈動の減少を実現できる。
【0103】
[実施形態3]
伝達関数について、PMSM(負荷)の伝達関数は
図6で示したように基本波周波数付近でゲインが急峻に大きくなる。
【0104】
この逆伝達関数を考えると、基本波周波数付近でゲインが急峻に小さくなる。つまり、基本波周波数付近では逆伝達関数通過後の電圧値が非常に小さくなり、補償動作がうまく働かない可能性がある。
【0105】
これを避けるため、PMSM(負荷)の伝達関数に対して適宜ノッチフィルタN(s)を介してゲインを下げた伝達関数に対して、逆伝達関数を考慮する。
【0106】
本実施形態3ではノッチフィルタN(s)を(15)式のように定義する。ωNは抑制対象周波数、ζNは抑制される周波数の幅を定めるパラメータ、dNは減衰の強さを定めるパラメータである。
【0107】
【0108】
図9にノッチフィルタを介した伝達関数を示す。
図6の伝達関数G
dd(s)(実線)に対してノッチフィルタN(s)(二点鎖線)を介したN・G
dd(点線)の周波数特性を示している。抑制対象周波数ω
Nは基本波角周波数ω
rと等しく設定し、d
Nは0.0015、ζ
Nは0.01とした。N・G
ddでは、G
ddの基本波周波数付近のゲインが減少し、かつ基本波周波数付近以外の特性は全く変えていない様子がわかる。
【0109】
このような特性の伝達関数をGdq,Gqd,Gqqでも同様に用いて逆伝達関数を考慮し、逆伝達関数GP
-1(s)の計算として用いれば、基本波周波数付近でも補償が止まることのない外乱オブザーバとなる。
【0110】
以上示したように、本実施形態3によれば、
図2,3あるいは
図3,4にてノッチフィルタで本来の負荷から伝達関数特性を変更した外乱オブザーバを用いることで、電流脈動の減少、基本波周波数が直流電圧脈動周波数付近での補償不良の防止、を達成した制御を行うことができる。
【0111】
また、先行技術文献に対しては、簡易な制御構成、安価な回路構成という利点がある。また、マルチレベルインバータは複数の直流電圧が異なる位相で脈動するが、本実施形態3によれば、電力変換器をマルチレベルインバータとしても簡易な制御構成、安価な回路構成で電流脈動の減少を実現できる。
【0112】
[実施形態4]
本実施形態4の対象は、直流電圧脈動のもたらす出力電流脈動だが、周波数が既知の脈動に対しては同様の手順で外乱による電流脈動を抑制することができる。
【0113】
例えば、デッドタイムがdq軸電流にもたらす基本波の6倍周波数の脈動への対策にも用いることができる。
【0114】
本実施形態4では、直流脈動オブザーバ12で電流の外乱周波数成分iABdetを抽出する際、直流電圧脈動の周波数に加えて、基本波の6倍周波数の電流外乱周波数成分iABdetを抽出する。
【0115】
直流電圧脈動以外でもd軸電流脈動をd軸電圧、q軸電圧のどちらへの補償で抑制すべきかは実施形態1と同様に考える必要がある。
【0116】
基本波の6倍周波数の脈動は必ず基本波周波数以上のためd軸電流脈動はd軸電圧で、q軸電流脈動はq軸電圧で補償すればよい。
【0117】
PMSM(負荷)の伝達関数のdq軸間の干渉を考慮したうえで、直流電圧脈動以外の既知の外乱に周期外乱オブザーバで対策するのが、本実施形態4である。
【0118】
以上示したように、本実施形態4によれば、
図2,
図3あるいは
図3,
図8にて直流電圧脈動以外の既知の脈動成分を推定してフィードバック制御を行うことで、電流脈動の減少を達成した制御を行うことができる。
【0119】
また、先行技術文献に対しては、簡易な制御構成、安価な回路構成という利点がある。また、マルチレベルインバータは複数の直流電圧が異なる位相で脈動するが、本実施形態4によれば、電力変換器をマルチレベルインバータとしても簡易な制御構成、安価な回路構成で電流脈動の減少を実現できる。
【0120】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0121】
1…上位制御部
2…V/f制御部
3…インバータ(電力変換器)
4…PMSM(永久磁石同期電動機)
5…PI制御部
6、17…三相二相変換部
7…ローパスフィルタ
8、11…乗算器
9…安定化フィードバック制御部
10、16、18…積分器
12…直流脈動オブザーバ
13…減算器
14…二相三相変換器
15…PWM制御部
19…周波数成分抽出部
20、23…ローパスフィルタF(s)
21…負荷の伝達関数
22、25…加算器
24…時間軸波形再現部