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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ロータ及びそれを備えたIPMモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240611BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021028242
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129536
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】清水 猛
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 明
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-244838(JP,A)
【文献】特開2013-023559(JP,A)
【文献】特開2007-068318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に貫通する磁石挿入孔を有する円柱状のロータコアと、
前記磁石挿入孔内に挿入されるロータ磁石と、
前記磁石挿入孔内で前記ロータ磁石を位置決めする位置決め部材と、
を備えるロータであって、
前記位置決め部材は、
前記ロータ磁石に接着する接着材を含む第1発泡層と、
前記ロータコアの前記磁石挿入孔の内面に接し、接着剤を含まない第2発泡層と、
前記第1発泡層及び前記第2発泡層との間に位置する基材層と、
を有し、
前記第1発泡層、前記第2発泡層及び前記基材層は、積層された状態で、前記ロータ磁石と前記磁石挿入孔の内面との間に位置する、
ロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のロータにおいて、
前記ロータコアは、貫通孔を有し且つ厚み方向に積層された複数のコア板と、前記複数のコア板が積層された状態で前記複数のコア板の貫通孔によって構成される磁石挿入孔とを有する、ロータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のロータにおいて、
前記位置決め部材は、
前記ロータの径方向において、前記ロータ磁石の径方向内方のみに位置する、ロータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のロータにおいて、
前記ロータ磁石は、前記ロータ磁石を前記軸線方向に見て、長方形状であり、
前記ロータコアは、前記ロータコアを前記軸線方向に見て、前記磁石挿入孔の内面上に一対の突起を有し、
前記一対の突起のうち一方の突起は、前記ロータ磁石が前記磁石挿入孔内に挿入された状態で、前記ロータ磁石の長手方向の一端部に位置する短辺に面し、他方の突起は、前記ロータ磁石が前記磁石挿入孔内に挿入された状態で、前記ロータ磁石の長手方向の他端部に位置する短辺に面し、
前記位置決め部材は、前記位置決め部材を前記軸線方向に見て、前記ロータ磁石の長辺と前記磁石挿入孔の内面との間にのみ位置する、ロータ。
【請求項5】
請求項4に記載のロータにおいて、
前記一対の突起は、前記位置決め部材の両側に位置し、
前記位置決め部材の前記基材層は、
前記位置決め部材を前記軸線方向に見て、前記ロータ磁石の長手方向において、前記基材層の一端が前記ロータ磁石の一端よりも前記ロータ磁石の内方に位置し、前記基材層の他端が前記ロータ磁石の他端よりも前記ロータ磁石の内方に位置する、ロータ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一つに記載のロータと、
ステータコイル及びステータコアを有するステータと、
を有する、IPMモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータ及びそれを備えたIPMモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアの軸線方向に延びる磁石挿入孔内にロータ磁石が挿入されたIPMモータ用のロータが知られている。また、前記ロータにおいて、前記磁石挿入孔内で前記ロータ磁石を位置決めする構成が開示されている。例えば、特許文献1には、スリット孔内において、永久磁石とロータコアとの間に接着シートを介在させ、前記接着シートを膨張させるとともに硬化させることで、前記永久磁石を前記スリット孔内で固定することができるロータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-311782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のロータでは、永久磁石とロータコアとの間に介在する接着シートは、加熱により膨張する1層の接着層と、前記接着層を保持する基材層とを有する。特許文献1のロータでは、前記接着層が前記永久磁石に接着されている。また、前記ロータでは、膨張する部材ではない前記基材層が前記ロータコアのスリット孔の内面と接している。したがって、特許文献1のロータでは、前記スリット孔の内面に対する前記接着シートの密着度は十分でなく、前記ロータコアに対する前記永久磁石の位置決め精度が十分でない場合がある。
【0005】
よって、ロータコアの磁石挿入孔内にロータ磁石が挿入されたロータにおいて、前記磁石挿入孔内で前記ロータ磁石を容易に且つ精度良く位置決め可能な構成が求められている。
【0006】
本発明の目的は、ロータコアの磁石挿入孔内に挿入されるロータ磁石を前記磁石挿入孔内で容易に且つ精度良く位置決めすることができるロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るロータは、軸線方向に貫通する磁石挿入孔を有する円柱状のロータコアと、前記磁石挿入孔内に挿入されるロータ磁石と、前記磁石挿入孔内で前記ロータ磁石を位置決めする位置決め部材と、を備えるロータである。前記位置決め部材は、前記ロータ磁石に接着する接着材を含む第1発泡層と、前記ロータコアの前記磁石挿入孔の内面に接している第2発泡層と、前記第1発泡層及び前記第2発泡層との間に位置する基材層と、を有する。前記第1発泡層、前記第2発泡層及び前記基材層は、積層された状態で、前記ロータ磁石と前記磁石挿入孔の内面との間に位置する。
【0008】
本発明の一実施形態に係るIPMモータは、前記ロータと、ステータコイル及びステータコアを有するステータと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係るロータによれば、ロータ磁石をロータコアの磁石挿入孔内で容易に且つ精度良く位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係るIPMモータの概略構成を示す断面図である。
図2図2は、ロータの平面図である。
図3図3は、図2の部分拡大図である。
図4図4は、図3のIV-IV線断面図である。
図5図5は、発泡する前の位置決め部材の概略構成を示す図である。
図6A図6Aは、実施形態に係るロータの製造方法を説明する図である。
図6B図6Bは、実施形態に係るロータの製造方法を説明する図である。
図6C図6Cは、実施形態に係るロータの製造方法を説明する図である。
図7A図7Aは、加熱前のロータ磁石の位置を示す図である。
図7B図7Bは、加熱後のロータ磁石の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の例示的な実施の形態を詳しく説明する。なお、図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0012】
なお、以下では、モータ1の説明において、ロータ2の中心軸Pと平行な方向を「軸線方向」、中心軸Pに直交する方向を「径方向」、中心軸Pを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、この方向の定義により、ロータ2の使用時の向きを限定する意図はない。また、ロータ磁石22及び磁石挿入孔24の「長手方向」及び「短手方向」は、ロータ2を軸線方向に見たときのロータ磁石22及び磁石挿入孔24長手方向及び短手方向を意味する。
【0013】
また、以下の説明において、“固定”、“接続”及び“取り付ける”等(以下、固定等)の表現は、部材同士が直接、固定等されている場合だけでなく、他の部材を介して固定等されている場合も含む。すなわち、以下の説明において、固定等の表現には、部材同士の直接的及び間接的な固定等の意味が含まれる。
【0014】
(実施形態1)
(モータの構成)
図1に、本発明の例示的な実施形態に係るロータ2を有するIPMモータであるモータ1の概略構成を示す。モータ1は、ロータ2と、ステータ3と、ハウジング4と、シャフト20と、を備える。ロータ2は、磁石がロータ内に埋め込まれたIPMモータ用のロータである。ロータ2は、ステータ3に対して、中心軸Pを中心として回転する。本実施形態では、モータ1は、筒状のステータ3内に、ロータ2が中心軸Pを中心として回転可能に位置する、いわゆるインナーロータ型のモータである。
【0015】
ロータ2は、ロータコア21と、ロータ磁石22と、位置決め部材23とを備える。ロータ2は、ステータ3の径方向内方に位置し、ステータ3に対して回転可能である。
【0016】
ロータコア21は、中心軸Pに沿って延びる円柱状である。ロータコア21には、中心軸Pに沿って延びるシャフト20が軸線方向に貫通した状態で固定される。これにより、ロータコア21は、シャフト20とともに回転する。
【0017】
ロータコア21は、複数の円板状のコア板25が厚み方向に積層されることにより構成されている。複数のコア板25は、電磁鋼板からなる。
【0018】
ロータコア21は、複数のコア板25を厚み方向に積層した状態で軸線方向に貫通する磁石挿入孔24を有する。磁石挿入孔24は、ロータコア21を軸線方向から見て、例えば長方形状である。複数のコア板25は、それぞれ、磁石挿入孔24を構成する貫通孔26を有する。
【0019】
ロータ磁石22は、軸線方向に延びる直方体状である。すなわち、ロータ磁石22は、ロータコア21を軸線方向に見て長方形状である。ロータ磁石22の軸線方向の長さは、ロータコア21の軸線方向の長さと同等か、少し短い。ロータ磁石22は、磁石挿入孔24内に収容された状態で、位置決め部材23によって所定の位置に位置付けられている。以下では、説明のため、ロータ磁石22を軸線方向に見て、ロータ磁石22の長辺を構成する面をロータ磁石22の長辺側面と呼び、ロータ磁石22の短辺を構成する面をロータ磁石22の短辺側面と呼ぶ。位置決め部材23についての詳細な説明は後述する。
【0020】
ステータ3は、ハウジング4内に収容されている。本実施形態では、ステータ3は、筒状である。ステータ3の径方向内方には、ロータ2が位置する。すなわち、ステータ3は、ロータ2に対して径方向に対向して位置する。ロータ2は、ステータ3の径方向内方に中心軸Pを中心として回転可能に位置する。
【0021】
ステータ3は、ステータコア31と、ステータコイル36とを備える。ステータコア31は、軸線方向に延びる円筒状である。ステータコイル36は、ステータコア31に巻線されている。ステータ3は、一般的なステータと同様の構成を有する。したがって、ステータ3の詳細な説明は、省略する。
【0022】
次に、図2から図4を参照して、ロータ2について詳細に説明する。
【0023】
図2は、ロータ2を軸線方向に見た図である。図2に示すように、本実施形態では、ロータコア21は、24個の磁石挿入孔24を有する。24個の磁石挿入孔24内には、それぞれ、ロータ磁石22が収容されている。なお、本実施形態では、磁石挿入孔24の数は24個であるが、磁石挿入孔24の数は24個以外であってもよい。
【0024】
24個の磁石挿入孔24のうち16個の磁石挿入孔24の長手方向は、ロータ2の径方向に延びる径方向線に対して傾斜している。24個の磁石挿入孔24のうち8個の磁石挿入孔24の長手方向は、前記径方向線に対して直交している。このように、本実施形態では、すべての磁石挿入孔24の長手方向は、前記径方向線と一致しない。したがって、すべての磁石挿入孔24において、磁石挿入孔24の内面を構成する面のうち軸線方向に見て長辺を構成する一対の面は、一方が他方よりもロータコア21の径方向内方に位置する。以下の説明では、前記一対の面のうち、径方向内方に位置する面を挿入孔内方面24aと呼び、径方向外方に位置する面を挿入孔外方面24bと呼ぶ。なお、磁石挿入孔24の位置及び長手方向は、図2に示す位置及び長手方向以外であってもよい。
【0025】
図3は、図2において破線で囲まれた部分を拡大した図である。図3に示すように、磁石挿入孔24に挿入されているロータ磁石22は、一対の長辺側面のうち一方が他方よりもロータコア21の径方向内方に位置する。以下の説明では、前記一対の長辺側面のうち、径方向内方に位置する面を磁石内方面51と呼び、径方向外方に位置する面を磁石外方面52と呼ぶ。磁石挿入孔24内にロータ磁石22が挿入された状態で、磁石外方面52は、磁石挿入孔24の挿入孔外方面24bに対向している。磁石内方面51と磁石挿入孔24の挿入孔内方面24aの間には、後述する位置決め部材23が位置する。
【0026】
ロータコア21は、挿入孔内方面24aに、磁石挿入孔24内に突出する一対の突起27を有する。一対の突起27のうち一方の突起は、ロータ磁石22が磁石挿入孔24内に収容された状態で、ロータ磁石22の一方の短辺に面し、他方の突起は、ロータ磁石22が磁石挿入孔24内に収容された状態で、ロータ磁石22の他方の短辺に面している。すなわち、一対の突起27によって、ロータ磁石22は、磁石挿入孔24内で長手方向に移動することが制限されている。
【0027】
位置決め部材23は、加熱により発泡する部材によって構成されている。位置決め部材23は、ロータ磁石22の磁石内方面51と、磁石挿入孔24の挿入孔内方面24aとの間に位置する。位置決め部材23は、発泡により膨張した状態で、磁石挿入孔24内において、ロータ磁石22と磁石挿入孔24の内面との隙間を埋めている。
【0028】
図4は、図3のIV-IV線断面図である。図3及び図4に示すように、位置決め部材23は、シート状の部材が積層されて構成されている。位置決め部材23では、ロータ磁石22に接触する側から、磁石側発泡層55、基材層57、ロータコア側発泡層56が、この順に積層されている。磁石側発泡層55は、第1発泡層に対応する。ロータコア側発泡層56は、第2発泡層に対応する。
【0029】
磁石側発泡層55には、熱硬化性樹脂と、加熱により発泡した発泡剤と、が含まれている。前記発泡剤として、低融点の有機溶剤、例えば、アルコール等を内包するマイクロカプセルが良く用いられる。前記熱硬化性樹脂は、熱硬化性接着剤によって構成されることが好ましい。前記熱硬化性接着剤として、例えば、フェノール系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。この中でも接着強度、耐薬品等に優れたエポキシ系接着剤によって構成されることがより好ましい。なお、前記熱硬化性樹脂としてエポキシ系接着剤以外の種類の接着剤を用いた場合、硬化不良を起こす可能性がある。
【0030】
磁石側発泡層55は、一方の面に接着面55aを有する。磁石側発泡層55は、接着面55aによってロータ磁石22の磁石内方面51に接着されている。磁石側発泡層55は、発泡後硬化した状態でロータ磁石22と基材層57との間に位置している。
【0031】
ロータコア側発泡層56は、磁石側発泡層55と同様の部材で構成されている。ロータコア側発泡層56は、接着面を有さない。ロータコア側発泡層56は、磁石挿入孔24の内面に接している。ロータコア側発泡層56は、発泡後硬化した状態で磁石挿入孔24の内面と基材層57との間に位置している。
【0032】
基材層57は、樹脂で構成された部材である。前記樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PSS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0033】
基材層57は、位置決め部材23の積層方向において、磁石側発泡層55とロータコア側発泡層56との間に位置する。基材層57は、磁石側発泡層55とロータコア側発泡層56とを保持する。基材層57は、位置決め部材23を前記軸線方向に見て、ロータ磁石22の長手方向において、基材層57の一端がロータ磁石22の一端よりもロータ磁石22の内方に位置し、基材層57の他端がロータ磁石22の他端よりもロータ磁石22の内方に位置する。
【0034】
位置決め部材23によって、ロータ磁石22は、ロータコア21の磁石挿入孔24内でロータコア21の径方向外方に押し付けられている。これにより、ロータ磁石22は、ロータコア21の磁石挿入孔24内で、ロータコア21の径方向において、所定の位置に位置付けられている。
【0035】
このように、ロータ磁石22は、一対の突起27及び位置決め部材23によって、磁石挿入孔24内で所定の位置に位置付けられている。
【0036】
本実施形態では、位置決め部材23は、ロータ2の径方向において、ロータ磁石22の径方向内方のみに位置する。
【0037】
ロータ2が回転すると、ロータ磁石22には遠心力が生じる。このとき、ロータ磁石22に対してロータ2の径方向外方に位置決め部材23が位置する場合、ロータ磁石22に生じる遠心力によって位置決め部材23が圧縮されるため、位置決め部材23が劣化する可能性がある。これに対して、本実施形態では、ロータ磁石22に対してロータ2の径方向内方にのみ位置決め部材23を位置させる。これにより、ロータ磁石22に遠心力が生じた場合でも、位置決め部材23はロータ磁石22によって圧縮されない。よって、ロータ磁石22に生じる遠心力によって位置決め部材23が劣化するのを防止できる。したがって、位置決め部材23によるロータ磁石22に対する保持力の低下を防止できる。これにより、ロータ磁石22を、磁石挿入孔24内で所定の位置に精度良く位置決めすることができる。
【0038】
本実施形態では、ロータ磁石22は、ロータ磁石22を軸線方向に見て、長方形状であり、ロータコア21は、ロータコア21を軸線方向に見て、磁石挿入孔24の内面上に一対の突起27を有する。一対の突起27のうち一方の突起は、ロータ磁石22が磁石挿入孔24内に挿入された状態で、ロータ磁石22の長手方向の一端部に位置する短辺に面し、他方の突起は、ロータ磁石22が磁石挿入孔24内に挿入された状態で、ロータ磁石22の長手方向の他端部に位置する短辺に面する。位置決め部材23は、位置決め部材23を軸線方向に見て、ロータ磁石22の長辺と磁石挿入孔24の内面との間にのみ位置する。
【0039】
これにより、ロータコア21の磁石挿入孔24の内面上に位置する一対の突起27によって、磁石挿入孔24に対するロータ磁石22の長手方向の位置を決めることができる。また、位置決め部材23によって磁石挿入孔24に対するロータ磁石22の短手方向の位置を決めることができる。これにより、ロータ磁石22を磁石挿入孔24内で容易に位置決めすることができる。
【0040】
また、一対の突起27は、位置決め部材23の両側に位置し、位置決め部材23の基材層57は、位置決め部材23を前記軸線方向に見て、ロータ磁石22の長手方向において、基材層57の一端がロータ磁石22の一端よりもロータ磁石22の内方に位置し、基材層57の他端がロータ磁石22の他端よりもロータ磁石22の内方に位置する。
【0041】
このように、位置決め部材23の基材層57を、ロータ磁石22の長手方向において、ロータ磁石22の長辺の長さよりも短くすることにより、発泡した磁石側発泡層55及びロータコア側発泡層56が、ロータ磁石22の長手方向の位置を決める一対の突起27と干渉することを抑制できる。これにより、ロータ磁石22を磁石挿入孔24内で、ロータ磁石22の長手方向により精度良く位置決めすることができる。
【0042】
(ロータの製造方法)
次に、上述の構成を有するロータ2を製造する方法について、図5から図7を参照して、説明する。
【0043】
ロータ2を製造する工程は、ロータ磁石22に位置決めシート6を接着させる接着工程S1と、位置決めシート6が接着されたロータ磁石22を、ロータコア21の磁石挿入孔24に挿入する挿入工程S2と、磁石挿入孔24にロータ磁石22が挿入された状態のロータコア21を加熱する加熱工程S3とを含む。
【0044】
図5は、位置決めシート6の概略構成を示す図である。位置決めシート6は、発泡することで位置決め部材23として機能する部材である。図5に示すように、位置決めシート6は、それぞれ同じ大きさのシート状である基材シート61と、ロータコア側発泡シート62と、磁石側発泡シート63と、が、厚み方向に積層されている。ロータコア側発泡シート62は、発泡することにより、ロータコア側発泡層56になる。磁石側発泡シート63は、発泡することにより、磁石側発泡層55になる。基材シート61は、位置決め部材23の基材層57である。ロータコア側発泡シート62、基材シート61、及び、磁石側発泡シート63は、この順に積層されている。磁石側発泡シート63における基材シート61側とは反対側の面は、接着面63aである。接着面63aは、接着面カバー7によって覆われている。なお、位置決めシート6及び接着面カバー7は、ロータコア側発泡シート62、基材シート61、磁石側発泡シート63及び接着面カバー7を重ね合わせた後に、所定のサイズに切断されて形成されてもよい。
【0045】
位置決めシート6の寸法は、ロータ磁石22の長辺側面の寸法よりも小さい。また、位置決めシート6の厚みは、磁石挿入孔24にロータ磁石22を挿入した状態で、ロータ磁石22の長辺側面と磁石挿入孔24の内面との隙間よりも小さい。
【0046】
接着工程S1では、ロータ磁石22に位置決めシート6を接着させる。詳細には、図6Aに示すように、位置決めシート6から接着面カバー7を取り除いて、接着面63aを露出させる。その後、図6Bに示すように、接着面63aをロータ磁石22の磁石内方面51の中央に接着させる。すなわち、位置決めシート6を磁石内方面51に接着した状態で、磁石内方面51は、外周部に位置決めシート6が接着されていない部分を有する。
【0047】
挿入工程S2では、位置決めシート6が接着されたロータ磁石22を、ロータコア21の磁石挿入孔24に挿入する。詳細には、図6Cに示すように、ロータ磁石22において位置決めシート6が接着された面をロータコア21の径方向内側に向けた状態で、ロータ磁石22を、ロータコア21の磁石挿入孔24内の一対の突起27の間に挿入する。位置決めシート6が接着された状態で、ロータ磁石22の厚み方向の寸法は、磁石挿入孔24の挿入孔内方面24aと挿入孔外方面24bの間の寸法よりも小さい。したがって、位置決めシート6が接着された状態のロータ磁石22を、磁石挿入孔24内に容易に挿入することができる。
【0048】
図7Aは、ロータ磁石22を挿入した後の磁石挿入孔24及びロータ磁石22を軸線方向に見た図である。図7Aに示すように、ロータ磁石22の長手方向の位置は、一対の突起27によって決められる。すなわち、ロータ磁石22は、長手方向の位置が決められている。一方、ロータ磁石22及び位置決めシート6と磁石挿入孔24の内面との間には隙間が生じている。
【0049】
加熱工程S3では、ロータ磁石22を磁石挿入孔24に挿入した状態で、ロータコア21を加熱する。図7Bは、加熱後の磁石挿入孔24及びロータ磁石22を軸線方向に見た図である。加熱により、位置決めシート6は、ロータ磁石22の磁石内方面51と磁石挿入孔24の挿入孔内方面24aとの間で膨張する。すなわち、発泡後の位置決めシート6である位置決め部材23により、磁石挿入孔24内でロータ磁石22が径方向外方に押される。これにより、ロータ磁石22は、磁石挿入孔24内で径方向に所定の位置に位置付けされる。
【0050】
上述の方法によりロータ2を製造することで、ロータ磁石22を、磁石挿入孔24内で所定の位置に容易に且つ精度良く位置決めすることができるロータ2を得ることができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係るロータ2は、軸線方向に貫通する磁石挿入孔24を有する円柱状のロータコア21と、磁石挿入孔24内に挿入されるロータ磁石22と、磁石挿入孔24内でロータ磁石22を位置決めする位置決め部材23と、を備える。位置決め部材23は、ロータ磁石22に接着する接着材を含む磁石側発泡層55と、ロータコア21の磁石挿入孔24の内面に接しているロータコア側発泡層56と、磁石側発泡層55及びロータコア側発泡層56との間に位置する基材層57と、を有する。磁石側発泡層55、ロータコア側発泡層56及び基材層57は、積層された状態で、ロータ磁石22と磁石挿入孔24の内面との間に位置する。
【0052】
上述の構成において、位置決め部材23の磁石側発泡層55及びロータコア側発泡層56は、それぞれ、発泡した状態でロータ磁石22と磁石挿入孔24の内面との間に位置している。すなわち、磁石側発泡層55とロータコア側発泡層56とは、発泡によって厚み方向に膨張した状態で、ロータ磁石22と磁石挿入孔24の内面との間に位置している。磁石側発泡層55は、ロータ磁石22に接着されている。ロータコア側発泡層56は、磁石挿入孔24の内面に接している。これにより、位置決め部材23を、ロータ磁石22に接着させつつ、磁石挿入孔24の内面に対して密着させることができる。したがって、位置決め部材23によって、ロータ磁石22をロータコア21の磁石挿入孔24に対して径方向に所定の位置に容易に位置決めすることができる。
【0053】
また、上述の構成では、位置決め部材23が複数の発泡層を有するため、位置決め部材23が1つの発泡層を有する構成に比べて、発泡する体積を大きくすることができる。これにより、位置決め部材23によって、磁石挿入孔24の内面に対してロータ磁石22をより強く押すことができる。したがって、位置決め部材23によって、ロータ磁石22をロータコア21の磁石挿入孔24に対してより精度よく位置決めすることができる。
【0054】
また、ロータ2は、例えば、複数の発泡層を有する位置決めシート6が接着されたロータ磁石22を、ロータコア21の磁石挿入孔24内に挿入して、位置決めシート6の前記発泡層をそれぞれ発泡させることにより得られる。具体的には、ロータ磁石22には、発泡によって磁石側発泡層55及びロータコア側発泡層56として機能する複数の発泡層を有する位置決めシート6を接着し、ロータ磁石22及び位置決めシート6を磁石挿入孔24内に挿入した後、位置決めシート6の前記複数の発泡層を発泡させる。位置決めシート6を発泡させることにより、ロータ磁石22に接着させつつ、磁石挿入孔24の内面に対して密着させる位置決め部材23を得られる。したがって、ロータ2では、磁石挿入孔24内でロータ磁石22を容易に位置付けすることができる。よって、ロータ磁石22をロータコア21の磁石挿入孔24内で容易に且つ精度良く位置決めすることができるロータ2を提供することができる。
【0055】
本実施形態では、ロータコア21は、貫通孔26を有し且つ厚み方向に積層された複数のコア板25と、複数のコア板25が積層された状態で複数のコア板25の貫通孔26によって構成される磁石挿入孔24とを有する。
【0056】
ロータコア21が厚み方向に積層された複数のコア板25を有する場合は、磁石挿入孔24の内面は、複数のコア板25の貫通孔26の内縁によって構成される。複数のコア板25は、互いに公差を有する。したがって、複数のコア板25が積層されることにより構成される磁石挿入孔24の内面には、前記公差に起因して、凹凸が生じる。位置決め部材23の基材層57は、磁石挿入孔の内面の凹凸に沿って膨張しない。よって、磁石挿入孔の内面に基材層が接する構成では、磁石挿入孔の内面に対する位置決め部材の密着度は十分でない。これに対して、上述のように磁石挿入孔24の内面にロータコア側発泡層56が接する構成では、位置決め部材23のロータコア側発泡層56が磁石挿入孔24の内面の凹凸に沿って膨張する。したがって、位置決め部材23によって、磁石挿入孔24内でロータ磁石22をより確実に保持できる。
【0057】
本実施形態に係るモータ1は、上述の構成を有するロータ2と、ステータコイル36及びステータコア31を有するステータ3と、を有する。
【0058】
位置決め部材23によって、ロータ磁石22を磁石挿入孔24内で容易に且つ精度良く位置決めすることができるロータ2を有するモータ1を提供することができる。
【0059】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0060】
前記実施形態では、ロータコア21は、一対の突起27を有する。しかしながら、ロータコアは、一対の突起を有さなくてもよい。
【0061】
前記実施形態では、ロータコア21は、挿入孔内方面24aに、磁石挿入孔24内に突出する一対の突起27を有する。しかしながら、ロータコアは、磁石挿入孔の内面上の他の位置に一対の突起を有してもよい。
【0062】
前記実施形態では、位置決め部材23は、ロータ磁石22の磁石内方面51と、磁石挿入孔24の挿入孔内方面24aとの間に位置する。しかしながら、位置決め部材は、ロータ磁石と磁石挿入孔の内面との間のどこに位置してもよい。位置決め部材は、ロータ磁石の磁石外方面と挿入孔外方面との間に位置してもよい。位置決め部材は、ロータ磁石の短辺側面と、磁石挿入孔の内面との間に位置してもよい。
【0063】
前記実施形態では、位置決め部材23の基材層57の寸法は、ロータ磁石22の長辺側面の寸法よりも小さい。しかしながら、位置決め部材の基材層の寸法は、ロータ磁石の長辺側面の寸法と同じであってもよい。
【0064】
前記実施形態では、位置決めシート6の寸法は、ロータ磁石22の長辺側面の寸法よりも小さい。しかしながら、位置決めシートの寸法は、ロータ磁石の長辺側面の寸法と同じであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、IPMモータのロータに利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 モータ(IPMモータ)
2 ロータ
3 ステータ
4 ハウジング
6 位置決めシート
7 接着面カバー
20 シャフト
21 ロータコア
22 ロータ磁石
23 位置決め部材
24 磁石挿入孔
24a 挿入孔内方面
24b 挿入孔外方面
25 コア板
26 貫通孔
27 一対の突起
31 ステータコア
36 ステータコイル
51 磁石内方面
52 磁石外方面
55 磁石側発泡層(第1発泡層)
55a 接着面
56 ロータコア側発泡層(第2発泡層)
57 基材層
61 基材シート
62 ロータコア側発泡シート
63 磁石側発泡シート
63a 接着面
P 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B