(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】シンチレータパネル、放射線検出器および放射線検出器の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21K 4/00 20060101AFI20240611BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G21K4/00 A
G01T1/20 B
G01T1/20 E
G01T1/20 G
(21)【出願番号】P 2021048309
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 伸康
(72)【発明者】
【氏名】森永 智博
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-228757(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187854(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/150717(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0338529(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、前記基材の上に形成された格子状の隔壁、前記隔壁によって区画されたセル内の蛍光体層を有し、
前記基材と前記隔壁が透明樹脂により接着されており、前記基材の可視光領域における全光線透過率が30%以上であり、前記隔壁が前記基材の最外周部まで形成されているシンチレータパネル。
【請求項2】
前記隔壁の蛍光体層と接する面に反射層を有する請求項1記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記反射層が金属および/または白色顔料を有する請求
項2記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
前記基材が25~200μmの厚みのポリイミドフィルムである請求項1~3いずれか記載のシンチレータパネル。
【請求項5】
光電変換素子を有する受光基板と請求項1~4いずれか記載のシンチレータパネルを有し、前記光電変換素子の画素ピッチと前記シンチレータパネルの画素ピッチが対応している放射線検出器。
【請求項6】
請求項5記載の放射線検出器が二以上つなぎ合わされた放射線検出器。
【請求項7】
基材、前記基材の上に形成された格子状の隔壁、前記隔壁によって区画されたセル内の蛍光体層を有するシンチレータパネルの画素ピッチと、光電変換素子を有する受光基板の画素ピッチとを対応させて貼り合わせる工程を有する、請求項5記載の放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータパネル、放射線検出器および放射線検出器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場において、フィルムを用いたX線画像が広く用いられてきた。しかし、フィルムを用いたX線画像はアナログ画像情報であるため、近年、コンピューテッドラジオグラフィ(computed radiography:CR)や平板X線検出装置(flat panel detector:FPD)、ラインセンサー等のデジタル方式の放射線検出装置が広く開発、製造されている。
【0003】
例えばFPDにおいては、放射線を可視光に変換する発光体パネルであるシンチレータパネルが使用される。シンチレータパネルは、ヨウ化セシウム(CsI)等のX線蛍光体を含み、照射されたX線に応じて、該X線蛍光体が可視光を発光して、その発光をTFT(thin film transistor)やCCD(charge-coupled device)、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)等で電気信号に変換することにより、X線の情報をデジタル画像情報に変換する。しかしながら、このような間接変換方式の検出装置は画像解像度が低いという問題があった。これは、X線蛍光体が発光する際に、蛍光体自体によって、可視光が散乱してしまうこと等に起因する。この光の散乱の影響を小さくするために、隔壁で仕切られた画素内に蛍光体を充填する方法が提案されてきた(特許文献1~4)。
【0004】
隔壁により画素構造(セル)を構成したシンチレータパネルの利点を最大限発揮させるためには、シンチレータパネルに対向する受光基板に配列された光電変換素子の各素子と、格子状の隔壁により形成されたセルをズレなく位置合わせして貼り合わせることが重要となる。隔壁の開口部すなわちシンチレーションによる発光部分と光電変換素子の位置ズレが生じると、受光エリアに発光しない隔壁が存在することになり、受光効率が低下する。また、隣接する光電変換素子に発光光が漏れこむため、高い画像鮮鋭度が得られないといった弊害を生じる。これを避けるためシンチレータパネルと光電変換素子をアライメントして正確に貼りわせる技術が必要となる。
【0005】
正確に貼りわせる方法として、シンチレータパネルおよび受光基板それぞれ表示領域外にアライメントマークを設け、これを同軸上で一致させる方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-60871号公報
【文献】特開平5-188148号公報
【文献】特開2011-7552号公報
【文献】国際公開第2012/161304号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、表示領域の画素と高精度に位置関係を保ったアライメントマークを形成するにはフォトリソ法などに手法が限定され、加工法に制約が生じる。また、隔壁の厚みが厚い場合はマーク同士の間隔が離れた状態でアライメントする必要があり、カメラの光軸ズレの影響を受け、アライメントの精度が低下するという課題があった。
【0008】
また、受光基板の光電変換素子上に位置するシンチレータパネルにアライメントマークを形成する場合は、シンチレータパネルに蛍光体が充填されていない領域が生じるため、光電変換素子の形成された全エリアを放射線検出装置の有効表示エリアとして利用することができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、簡便かつ精度良く受光基板とのアライメントができるとともに、検出領域の広いシンチレータパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、基材、前記基材の上に形成された格子状の隔壁、前記隔壁によって区画されたセル内の蛍光体層を有し、前記基材と前記隔壁が透明樹脂により接着されており、前記基材の可視光領域における全光線透過率が30%以上であり、前記隔壁が前記基材の最外周部まで形成されているシンチレータパネルである。
【0011】
また本発明は、基材、前記基材の上に形成された格子状の隔壁、前記隔壁によって区画されたセル内の蛍光体層を有するシンチレータパネルの画素ピッチと、光電変換素子を有する受光基板の画素ピッチとを対応させて貼り合わせる工程を有する放射線検出器の製造方法であって、前記シンチレータパネルの基材と隔壁が透明樹脂により接着されており、基材の可視光領域における全光線透過率が30%以上であり、前記隔壁が前記基材の最外周部まで形成されている、放射線検出器の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、隔壁で形成された画素構造を有するシンチレータパネルと光電変換素子を有する受光基板を互いの画素を高精度に一致させて貼り合わせることができる。また、専用のアライメントマークを設けなくとも比較的簡易な手法で互いの画素同士をアライメントして貼り合わせることができるとともに、光電変換素子の形成された全エリアを放射線検出装置の有効表示エリアとして利用することができる。さらに、端部まで光電変換素子を配列した受光基板と組み合わせることで複数の放射線検出器をつなぎ合わせて検出エリアを拡大して利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のシンチレータパネルを模式的に表した斜視図である。(発光面が上)
【
図2】本発明のシンチレータパネルを模式的に表した斜視図である。(発光面が下)
【
図3】本発明のシンチレータパネルと受光基板を貼り合わせてなる放射線検出器を模式的に表した断面図である。
【
図4】本発明のシンチレータパネルと受光基板を貼り合わせてなる放射線検出器を模式的に表した断面図である。
【
図5】本発明のシンチレータパネルの製造工程を例示した図である。
【
図6】本発明のシンチレータパネルと受光基板を貼り合わせた状態を模式的に表した図である。
【
図7】本発明のシンチレータパネルと受光基板のアライメント方法を例示する図である。
【
図8】本発明のシンチレータパネルと受光基板のアライメント方法を例示する図である。
【
図9】本発明のシンチレータパネルと受光基板を貼り合わせてなる放射線検出器をつなぎ合わせて一体とした放射線検出器を示した図である。
【
図10】実施例におけるシンチレータパネルの切り出し方法を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(シンチレータパネル)
以下、図を用いて本発明について説明するが、本発明はこの図に示された態様に限定して解釈されるものではない。
【0015】
シンチレータパネルの発光に用いられる放射線としてはX線、γ線などの電磁放射線とα線、β線、中性子線などの粒子放射線を用いることができるが、なかでもX線が好ましく用いられる。
【0016】
図1は、シンチレータパネル1を模式的に表した斜視図である。基材2上に格子状の隔壁3が形成されており、隔壁で区画された空間に蛍光体層4が配置されている。蛍光体はX線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、可視光線を中心に、紫外光から赤外光にわたる範囲の光を
図1の紙面上方向へ放射する。また、
図2は
図1のシンチレータパネルの表裏を反転させたものであり、基材2に後述するような透明材料を用いることで基材側から隔壁により形成された画素構造を視認することができる。
【0017】
図3はシンチレータパネル1と受光基板5を貼り合わせた放射線検出器の一端を示した断面図である。受光基板には光電変換素子6が配列されており、X線によって励起され、蛍光体から発せられた光を受けて電荷に変換することでX線画像を得ることができる。一方、シンチレータパネルの隔壁は光電変換素子の画素ピッチと同一ピッチまたはその整数倍となるピッチで設計されており、受光基板の光電変換素子の画素ピッチと対応させて貼り合わされる(
図3は同一ピッチの形態を示す。)。このように検出面の全面において互いの画素ピッチを対応させることでシンチレータの隔壁で仕切られた画素内で発光した光が隣接する画素に拡散することなく受光基板側に取り出せるため非常に鮮明でボケの少ないX線画像を得ることができる。
【0018】
画素ピッチは撮像対象に求められる解像度によって決められる。ピッチが小さくなれば解像度は高められるが、シンチレータ層全体における発光に寄与しない隔壁の割合が増加するため、小さくしすぎると明るさの指標である輝度が低下する。一方、ピッチが大きすぎると解像度が低下して鮮明な画像が得られにくくなるため、輝度と解像度のバランスを鑑みてピッチを決めればよい。一般的には70~800μm程度の画素ピッチのものが使われることが多い。
【0019】
シンチレータパネル1と受光基板5は透明接着剤等(図示しない)を介して貼り合わせるが、その厚みは可能な限り薄い方が良い。厚いと蛍光体から発せられた光が接着剤を通して画素外に拡散し、画像の鮮明度を損なう場合があるからである。
【0020】
(基材)
基材2は隔壁3、蛍光体層4などからなるシンチレータ層の支持体である。本発明では後述するように基材側からシンチレータ層の画素構造を視認することで、受光基板とのアライメントを簡便に実施することができる。このため基材には透明材料を用いる必要がある。透明性の指標としては可視光領域(400~780nm)での全光線透過率が30%以上であり、高いほど良い。全光線透過率が30%より小さいと基材を通して画素構造を視認することが困難となり、精度良いアライメントが難しくなる。全光線透過率が40%以上であると画素構造の濃淡などがクリアに視認できるためより好ましい。全光線透過率は分光光度計で測定した基材の透過率データから可視光領域の透過率を抽出することで求められる。
【0021】
基材に用いられる透明材料としては、高分子フィルムやガラスを用いることができる。ガラスは高分子フィルムと比較してX線の吸収率が大きくなるため、ガラスを用いる場合は可能な限り薄い厚みとすることが好ましい。ただし、薄くしすぎると強度が低下し、支持体としての機能を果たすことが難しくなる。
【0022】
強度、X線吸収の観点から、高分子フィルムを用いることが好ましい。高分子フィルムを用いる場合も、厚みを厚くしすぎるとX線吸収率が大きくなるため、適正な厚みを選択する必要がある。X線吸収を抑え、支持体としての適度な剛性を得るためには、25~200μm程度の厚みが好ましい。
【0023】
基材として高分子フィルムを用いる場合、受光基板との寸法差を最小限に抑えるため、温度による寸法変化を考慮し、熱膨張係数の小さい材料が好ましい。熱膨張係数が小さい材料はシンチレータパネルの加工時に乾燥プロセスなどの熱工程を通過させる際にも寸法安定性が優れており、加工しやすい。熱膨張係数は、30×10-6/℃以下が好ましい。具体的にはPET(ポリエステル)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられるが寸法安定性に優れたポリイミドフィルムが好ましい。中でも、25~200μmの厚みのポリイミドフィルムが好ましい。
【0024】
(隔壁)
隔壁3は受光基板の光電変換素子と対応させて蛍光体を区画する仕切りであり、金属、樹脂、ガラス、セラミックなど様々な材料を用いることができる。
【0025】
隔壁の幅としては5~150μmが好ましい。幅が5μm以上であることで、強度が向上し、格子状のパターンの欠陥が生じにくくなる。一方で、幅が150μm以下であることで、隔壁により区画された空間に配置可能な蛍光体の量が多くなり、得られるシンチレータパネルの発光輝度が向上する。
【0026】
隔壁の厚みは凡そ蛍光体層の厚みと等しくなるため使用するX線のエネルギー帯により最適化すればよい。一般的には低エネルギーのX線(軟X線)を用いる分野では薄く、50~200μm程度、高エネルギーX線を用いる分野になるほどより多くのX線を蛍光体で吸収させるために厚く、200μm~数mm程度の厚みの隔壁が用いられる。
【0027】
隔壁のアスペクト比(厚み/幅)としては1.0~50.0であることが好ましい。このアスペクト比が大きい隔壁ほど、隔壁により区画された1画素あたりの空間が広く、より多くの蛍光体を配置することができる。隔壁の加工法としてはエッチング、フォトリソグラフィ、ダイシング、スクリーン印刷、サンドブラストなど材料に適したものを用いればよい。中でも感光性ペースト用いたフォトリソグラフィは大面積を高精度に加工できるため好ましい。隔壁は透明基材上に直接形成してもよいし、別工程で形成した隔壁のパターンを透明基材に貼り合わせても構わない。
【0028】
隔壁は基材の最外周部まで形成されていることが重要である。隔壁が基材の最外周部まで形成されていることにより、シンチレータパネルの検出領域を広くすることができる。また、これを用いた放射線検出器を複数台つなぎ合わせて検出エリアを拡大することもできる。ここで「最外周部」とは、幅方向および奥行方向における基材の端辺から20μm以内の領域を意味する。基材の端辺から隔壁の端辺までの距離が、貼り合わせる受光基板の隣接する光電変換素子の間隔(不感領域。受光基板にもよるが、具体的には20μm程度。)以下であることが好ましく、基材の端辺と隔壁の端辺が一致することがより好ましい。受光基板とシンチレータパネルをアライメントする際に前記のような可視光領域における全光線透過率が30%以上の基材を通して最外周部の隔壁を視認することができ、この隔壁を基準として受光基板側の光電変換素子との位置合わせを行うためである。
【0029】
(反射層)
画素内の蛍光体層4の発する可視光を効率よく受光基板側へ反射するために、隔壁の蛍光体層と接する面に反射層7を有することが好ましい。また、発光した光の反射率を高める効果に加えて、基材側から隔壁(画素)の配列を視認しやすくするという効果も有する。すなわち、前述したような透明基材上に隔壁を形成した後に反射層を成膜することで、基材側から見ても反射層の光反射により、シンチレータパネルにおける画素の位置関係をより明確に視認することができる。これに対し、基材上一面に反射層を形成した後に隔壁を設けた場合などにおいては、基材側から見ても反射層が全面に形成されているため、隔壁の位置を視認することが困難となる。
【0030】
反射層には隔壁よりも高い反射率を有し、X線を透過する材料が用いられる。反射層は金属および/または白色顔料を有することが好ましい。金属としてはAu、Ag、Al、Niなどが用いられ、白色顔料としてはTiO2、ZrO2、Al2O3、ZnOなどの金属酸化物が好ましく用いられる。反射層は隔壁で仕切られた画素の内、蛍光体層と接するすべての面に形成されていることが光の取り出し効率を高める上で好ましい。
【0031】
反射層の厚みは使用する材料の持つ反射率を最大限発揮できる範囲で可能な限り薄い方がよい。厚すぎると隔壁の場合と同様、画素内の蛍光体量が低下する。反射効率を高めるために基材側の画素のコーナー部が曲面になるように反射層を形成してもよい。
【0032】
反射層の形成方法として金属の場合は真空蒸着、メッキ法などで成膜できる。白色顔料を用いる場合は顔料をペースト化し、画素内部に真空印刷法やスプレー法などで塗布、乾燥させることで成膜することができる。
【0033】
(蛍光体層)
上述した隔壁によって区画されたセル内には蛍光体層を有する。蛍光体としては、放射線から可視光への変換率が高い、CsI、Gd2O2S、Lu2O2S、Y2O2S、LaCl3、LaBr3、LaI3、CeBr3、CeI3、LuSiO5又はBa(Br、F)を用いることができる。発光効率を高めるために、蛍光体に賦活剤を添加しても構わない。賦活剤としては、例えば、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)、テルビニウム(Tb)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)又はプラセオジム(Pr)が挙げられるが、化学的安定性が高く、かつ発光効率が高いため、Gd2O2SにTbを添加した蛍光体が好ましい。
【0034】
蛍光体層の形成方法としては粉末状の蛍光体にバインダー樹脂、溶媒等を混合して作成したペーストを画素内に充填する方法、シート状にした成形した蛍光体を加圧して画素内に押し込むことで充填する方法などが用いられる。蛍光体の厚みは隔壁の厚みを超えないように形成することが好ましい。隔壁以上の厚みになると隔壁で蛍光体を完全に区分できなくなり、本来得られるはずの画像の鮮明度が低下しやすくなる。
【0035】
(接着層)
基材と隔壁は透明樹脂により接着されていることが好ましい。
図4は基材2と隔壁3の間に接着層として透明樹脂8を配置した態様である。基材上に直接隔壁を形成しない場合は別工程で形成した隔壁と基材を接着層により貼り合わせることができる。貼り合わせに用いる接着層は基材側からの画素視認性確保のため透明でなくてはならない。また、可能な限り薄く、基材と同様に、基材と貼り合わせた際の可視光領域の全光線透過率が30%以上であればよい。透明樹脂としては両面粘着シート、熱または紫外線硬化性の接着剤を用いることができる。両面粘着シートはラミネーターなどを用いて基材に貼り合わせ、その上に隔壁も同様にラミネートすることで貼り合わせることができる。接着剤の場合は基材上に一面塗布し、隔壁を積層して接着剤を硬化させることで貼り合わせることができる。いずれも後工程の環境に耐性のある材料を用いればよい。
【0036】
(シンチレータパネルの製造方法)
本発明におけるシンチレータパネルの製造方法の一例を
図5に示す。ここでは感光性ガラスペーストを用いたフォトリソ法で隔壁を形成した後に隔壁パターンのみを基板から剥離し、透明基材に貼り合わせる場合の例を示す。
【0037】
隔壁を形成するための基板としてはガラスペーストに使われる低軟化点ガラスの焼成温度(約500~600℃)でも耐性を持つようにガラス基板9を用いる。
【0038】
先ず、
図5(a)に示すとおり、ガラス基板上に剥離層10を形成する。剥離層とは後工程で隔壁パターンをガラス基板から剥離させるための層であり、隔壁で用いるものよりも焼結温度の高い高軟化点ガラスを主成分としている。焼成工程の温度を隔壁用ガラスの焼結温度以上、剥離層ガラスの焼結温度以下に設定することで、焼成工程後に隔壁パターンのみを剥離することが可能となる。
【0039】
剥離層はスクリーン印刷機やダイコーターなどで感光性ガラスペーストを一面塗布、乾燥して形成する。乾燥膜の厚みは10~100μm程度が好ましく、10μmより薄いと隔壁とガラス基板が結着して剥離しにくくなり、100μmより厚いと焼成工程の途中で隔壁が剥がれてしまうことがある。
【0040】
次に、
図5(b)に示すとおり、剥離層上に隔壁層11を形成する。感光性のガラスペーストをスクリーン印刷機やダイコーターなどで一面塗布、乾燥して得られる。隔壁層の厚みがおよそ蛍光体層の厚みとなるため、シンチレータパネルの特性上必要な厚みと焼成収縮による寸法変化を考慮して厚みを決定する。
【0041】
次に、
図5(c)に示すとおり、受光基板の画素ピッチと対応させた露光パターンで隔壁層を露光することで感光性分を硬化させ、現像により可溶な部分を洗い流すことで格子状の隔壁3が得られる。露光パターンのサイズとしてはシンチレータパネルを形成後に所定のサイズにカットすることを前提に複数の面が取れるパターンを設計することが好ましい。パターン幅はおよそ隔壁の幅に相当するため形成可能な範囲で狭くすることが好ましい。
【0042】
次に、
図5(d)に示すとおり、前述の焼成温度で焼成することで隔壁層中の有機成分を焼失させ、ガラスを焼結させることで強固な隔壁を得ることができる。ここでガラスが焼結していない剥離層は粉末状となり、これを起点として格子状の隔壁を剥離することができる。
【0043】
次に、
図5(e)に示すとおり、剥離した隔壁パターンを基材2上に塗布した透明樹脂8を介して接着、硬化させることで貼り合わせる。
【0044】
その後、
図5(f)に示すとおり、スパッタ装置などを用いて反射層7を隔壁および透明樹脂の表面に形成する。この時点で基材側から見て隔壁の接着部分と反射層を識別できるため、シンチレータパネルの画素位置を特定することができる。
【0045】
次に、
図5(g)に示すとおり、隔壁で仕切られた画素内に蛍光体層4を充填することでシンチレータパネルが得られる。シンチレータパネル周囲の形状などが不均一で品質上問題となる部分があればダイシング装置などでカットして除去する。
【0046】
次に、
図5(h)に示すとおり、対応させる受光基板のサイズに合わせてカットする。これにより基材と隔壁の外周が一致することになり、基材の最外周部まで隔壁が形成されたシンチレータパネルとなる。基材の外周部まで画素構造が存在するように形成することで、シンチレータパネルの表示領域を拡大することができる。このように一括形成した1枚のパネルから複数のシンチレータパネルを切り出すことができると生産効率に優れる。
【0047】
(放射線検出器)
本発明の放射線検出器は、光電変換素子を有する受光基板と上述したシンチレータパネルを有し、前記光電変換素子の画素ピッチと前記シンチレータパネルの画素ピッチが対応している。放射線検出器と、制御回路、電源などを組み合わせることで、被写体を通過したX線の強弱をシンチレータで可視光に変換し、さらに可視光を光電変換素子で電気信号に変換してX線画像を得ることができる。被写体の種類や受光基板の画素、基板サイズに合わせたシンチレータパネルを選択して貼り合わせることが一般的である。隔壁で画素を形成したシンチレータパネルを用いるため、受光基板の光電変換素子の画素ピッチと対応させて貼り合わせることで鮮明なX線画像を得ることができる。
【0048】
本発明の放射線検出器は、上述した放射線検出器が二以上つなぎ合わされることが好ましい。放射線検出器を二以上つなぎ合わされることで、検出エリアを拡大することができる。
【0049】
(放射線検出器の製造方法)
本発明の放射線検出器の製造方法は、基材、前記基材の上に形成された格子状の隔壁、前記隔壁によって区画されたセル内の蛍光体層を有するシンチレータパネルの画素ピッチと、光電変換素子を有する受光基板の画素ピッチとを対応させて貼り合わせる工程を有する放射線検出器の製造方法であって、前記シンチレータパネルの基材の可視光領域における全光線透過率が30%以上であり、前記隔壁が前記基材の最外周部まで形成されている。以下、シンチレータパネルと受光基板の貼り合わせる方法について詳細を述べる。
【0050】
図6に本発明のシンチレータパネルと受光基板をアライメントして貼り合わせ、放射線検出器を製造する際の模式図を示す。受光基板5には光電変換素子6が1次元配列されたものを用いた。
図6には対象全体のうち左端の一部分を示した。光電変換素子からは引き出し電極である配線12が素子の中央に配置されている。シンチレータパネルはこの光電変換素子と隔壁の画素ピッチを同一または整数倍にしたものを用いる(
図6は同一ピッチの形態を示す。)。シンチレータパネルを蛍光体の発光面が受光基板の検出側になるように準備する。互いを透明接着剤などを介して積層し、画素同士が対応するようにアライメントして貼り合わせる。
【0051】
アライメント方法の一例を
図7に示す。シンチレータパネルは前述したように基材側から画素構造を視認できるためこれをアライメントに利用する。
図7中に点線で光電変換素子の位置を示しているが、実際にはシンチレータパネルに隠れて見ることはできない。CCDカメラなどで端部(
図7では左端)を拡大撮像した画像をもとに、例えば配線12など設計上、光電変換素子との位置関係が確定しているものを基準として用いることができる。
【0052】
配線12は各光電変換素子のX方向(
図7の左右方向)中央部に位置するため図中のA=Bとなるよう位置合わせすることでX方向の画素を整合できる。また、Y方向(
図7の上下方向)については配線12の屈曲部までの距離が各光電変換素子から等しいとして、C:シンチレータ端面から隔壁画素端(隔壁幅の中点)までの距離(設計値)とD:配線の屈曲部から素子までの距離(設計値)、E:配線の屈曲部からシンチレータ端面までの距離(実測値)とするとD-C=Eとなるように位置合わせする。これによりY方向の画素も整合できる。これをパネルの左端だけでなく右端でも実施することで簡易に精度良くアライメントすることができる。ここで特にX方向において互いのパネル寸法に微小なズレがあり、左右端で隔壁の画素中央と光電変換素子の配線中央が両方とも一致させられない場合があるが、その際は左右端のズレ量が均等になるように位置合わせするとズレを均等に分散することができる。
【0053】
この手法では基材側から画素が視認できることに加えて基材の最外周まで隔壁による画素構造があることが簡易にアライメントできる条件となる。また、アライメントを実施した後に隔壁と配線など(光電変換素子との位置関係が明確なもの)との距離を測定できることから、アライメントのズレ量を定量化でき、品質保証面でも優れる。
【0054】
アライメント方法の別の一例を
図8に示す。カメラで撮像した画面上に基準線を描き、この基準線を利用して間接的に位置合わせする手法である。この手法は光電変換素子の電極配線など位置合わせの目安となるパターンが利用しにくい場合に好適に用いることができる。
【0055】
はじめに受光基板側の端部(
図8では左端)を撮像し、光電変換素子の位置情報を示す基準として撮像した画像の画面内に基準線を描く。
図8では左から1素子目と2素子目の中間で素子の上端に十字の線(基準ライン13)を描いた。この状態で受光基板とカメラの位置は固定する。画面上には基準ラインはそのまま表示されているものとする。
【0056】
次にシンチレータパネルを重ねて置き、シンチレータパネルの1画素目と2画素目の中間で画素の上端(隔壁幅の中点)に位置する部分が表示されている基準ラインの中心にくるようシンチレータパネルを位置合わせする。これにより配線などの基準を利用しなくても互いの画素を整合させることができる。これをパネルの左端だけでなく右端でも実施することで簡易に精度良くアライメントすることができる。また、寸法ズレを左右で均等に分散させる手法は前述の通りである。
【0057】
この他に、図示しないが簡易なアライメント方法としては、シンチレータの外形と受光基板の外形を合わせる方法もある。受光基板の端面からの光電変換素子位置とシンチレータパネルの端面からの画素位置が等しくなるようにシンチレータパネルをカットし、端面基準で当て止めして位置合わせする。この場合、端面のカット状態により誤差を生じやすいためアライメントの精度は低くなる。よって上記のように基材側から画素を識別する手法と組み合わせて実施することが好ましい。
【0058】
本発明のように基材の最外周部まで隔壁を設けたシンチレータパネルと基材の端部まで光電変換素子を配列した受光基板とを前述したような手法で貼り合わせて放射線検出器を製造した場合、
図9(a)の表面および(b)の断面の模式図に示すように複数の放射線検出器をわずかなつなぎ目でつなぎ合わせて1つの放射線検出器とすることができる。この場合も放射線検出器a14および放射線検出器b15のつなぎ合わせる部分をCCDカメラ等で撮像し、シンチレータの画素が所定の間隔で並ぶように画素間の距離を計測し、位置合わせすることでつなぎ合わせることができる。これにより放射線検出器単体では1回で撮像できなかったような大型の撮像対象に対し、検出エリアを拡大することで1回もしくこれまでより少ない回数で撮像することができる。本発明のような隔壁で画素を形成したシンチレータパネルを用いることで、隔壁の無いタイプのシンチレータパネルで課題となっていた放射線検出器同士のつなぎ目の画素の輝度差も低減することができる。すなわち、隔壁が無い場合、シンチレータパネルの端部とそれ以外では発光面付近において蛍光体層の内部で拡散した光の伝達量が異なるため一般的に端部の輝度が低下していた。一方、隔壁で蛍光体を区画したシンチレータパネルを用いた場合は端部もそれ以外の部分も光の拡散状態は同じなので輝度差を生じにくいためである。よって放射線検出器をつなぎ合わせて1つの検出器とする場合には本発明のようなシンチレータパネルを用いることが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明の要旨はこの例に限定して解釈されるものではない。各ペースト材料の作製に用いた原料は次のとおりである。
【0060】
(ペーストの原料)
・感光性モノマーM-1:トリメチロールプロパントリアクリレート
・感光性モノマーM-2:テトラプロピレングリコールジメタクリレート
・感光性ポリマー:メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30の質量比からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000;酸価100)
・バインダー樹脂:100cPエチルセルロース
・光重合開始剤:2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1(IC369;BASF社製)
・重合禁止剤:1,6-ヘキサンジオール-ビス[(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
・紫外線吸収剤溶液:スダンIV(東京応化工業株式会社製)のγ-ブチロラクトン0.3質量%溶液
・粘度調整剤:フローノンEC121(共栄社化学株式会社製)
・溶媒A:γ-ブチロラクトン
・溶媒B:テルピネオール
・低軟化点ガラス粉末:SiO2 27質量%、B2O3 31質量%、ZnO 6質量%、Li2O 7質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al2O3 23質量%、屈折率(ng):1.56、ガラス軟化温度588℃、線膨張係数70×10-7(K-1)、平均粒子径2.3μm
・高軟化点ガラス粉末:SiO2 30質量%、B2O3 31質量%、ZnO 6質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al2O3 27質量%、屈折率(ng):1.55、軟化温度790℃、熱膨張係数32×10-7(K-1)、平均粒子径2.3μm
・蛍光体粉末:3010-54TOR(日亜化学工業株式会社製平均粒径10μm)。
【0061】
(基材の全光線透過率の評価)
基材の可視光領域における全光線透過率は分光光度計(日立製作所製U-4100)を用いて測定した。基材は5×5cmにカットして用いた。基材の有無それぞれについて各光線の透過率を測定し、このうち可視光領域である400~780nmにおける透過率の積分値が占める割合(基材透過率の積分値/基材無し透過率の積分値)として求めた。
【0062】
(剥離層ペーストの作製)
4.0質量部の感光性モノマーM-1、6.0質量部の感光性モノマーM-2、24.0質量部の感光性ポリマー、6.0質量部の光重合開始剤、0.2質量部の重合禁止剤及び12.8質量部の紫外線吸収剤溶液を、38.0質量部の溶媒Aに、温度80℃で加熱溶解した。得られた溶液を冷却した後、9.0質量部の粘度調整剤を添加して、有機溶液1を作製した。60.0質量部の有機溶液1に、5.0質量部の低軟化点ガラス粉末及び35.0質量部の高軟化点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、剥離層ペーストを作製した。
【0063】
(隔壁層ペーストの作製)
60.0質量部の有機溶液1に、40.0質量部の低軟化点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、隔壁層ペーストを作製した。
【0064】
(蛍光体ペーストの作製)
3.0質量部のバインダー樹脂を、20.0質量部の溶媒Bに温度60℃で加熱溶解した。得られた有機溶液2を冷却した後、77.0質量部の蛍光体粉末を添加した後、攪拌混合機にて攪拌し、蛍光体ペーストを作製した。
【0065】
(隔壁の作製)
300×300mm、厚み1.1mmのソーダガラス基板上にダイコーターを用いて剥離層ペーストを280×280mmのエリアに一面塗布し、乾燥炉にて100℃、30分間乾燥、剥離層の乾燥膜(厚み50μm)を得た。剥離層上にダイコーターを用いて隔壁層ペーストを270×270mmのエリアに一面塗布、乾燥炉にて100℃、60分間乾燥し、隔壁層の乾燥膜(厚み400μm)を得た。次に露光装置(波長:h線、露光量:500mJ/cm2)にて格子状パターン(露光幅30μm、X方向ピッチ400μm、Y方向ピッチ600μm、パターンエリア250×250mm)を用いて露光し、アルカリ現像液(0.5%炭酸ナトリウム水溶液)を用いて未露光部分を除去することで隔壁の格子状パターンを得た。これを焼成炉にて595℃、10分間焼成し、剥離層と隔壁層中の有機成分を焼失させるとともに、隔壁中の低軟化点ガラス粉末を焼結させて強度の高い隔壁パターンを得た。焼成後の隔壁は焼結時の収縮により幅25μm、厚み300μmの形状となった。ここで剥離層は焼結していない高軟化点ガラス粉末が主成分となるため、隔壁パターンのみをガラス基板から剥離することができた。
【0066】
(実施例1)
(基材上の隔壁の形成)
基材となるポリイミドフィルム(東レデュポン社製カプトン200EN:270×270mm、厚み50μm、可視光の全光線透過率48%)上に熱硬化性の接着剤を塗布し、剥離した隔壁パターンを貼り付け、190℃60分間加熱し、熱硬化させて接着した。基材に接着剤が塗布された部分の可視光の全光線透過率は45%であった。
【0067】
(反射層の形成)
スパッタ装置に設置したアルミニウムターゲットを用いてアルミを画素の表面に100nmの厚みで成膜し、反射層を形成した。ここで基材側から見て隔壁と反射層を視認できることを確認した。
【0068】
(蛍光体層の形成)
隔壁で形成した画素内に蛍光体ペーストを真空印刷機にて充填し、隔壁より溢れた余分な蛍光体をゴムスキージで除去後、120℃で30分間乾燥することで蛍光体層を形成し、シンチレータパネルを製造した。
【0069】
(ダイシング)
ダイシング装置を用いて受光基板に合わせた画素分のシンチレータパネルを切り出した。具体的には、
図10に示すようにシート状のシンチレータパネルから点線に沿ってカットすることで、X方向128画素×Y方向1画素、サイズ:51225×625μmとなるように切り出した。受光基板には光電変換素子のサイズがX方向300μm、Y方向600μmでX方向に400μmのピッチで128素子が1列に配置され、X方向の全幅が51.25mmのラインセンサータイプの基板を用いた。各光電変換素子からはX方向の中央部から電極配線がY方向に引き出され、300μmの位置で屈曲しているものを用いた。
【0070】
(放射線検出器の作製)
受光基板の光電変換素子上に熱硬化性の透明接着剤を塗布し、これを介して切り出したシンチレータパネルを発光面が受光基板側になるようおおよそ整合する位置に設置した。この時点で詳細な位置合わせは実施しないが、シンチレータパネルと受光基板の端同士をおよそ一致させて置くことで1画素以上ずれることはなかった。
【0071】
次に、カメラでシンチレータパネルの左端部を撮像し、モニターに拡大像を表示させてアライメントを行った。この時点では接着剤を硬化させていないためシンチレータパネルは自由に位置を調整することができた。シンチレータパネルの基材側から見える隔壁の画素のX方向中央が光電変換素子の配線中央に位置するように移動させてX方向の位置合わせを実施した。Y方向は電極配線の屈曲部からシンチレータパネルの端部までの距離が光電変換素子の画素端から電極配線の屈曲部までの距離:300μmとシンチレータパネル端部から隔壁の画素端(隔壁幅の中点)までの距離:12.5μmとの差である287.5μmとなるよう位置合わせした。この操作をパネルの右端部でも同様に行うことで精度良く互いの画素を対応させることができた。
【0072】
その後、シンチレータパネルと受光基板の位置関係を固定するため荷重をかけた状態で加熱して接着剤を硬化させて1台の放射線検出器を完成させた。完成後に再度CCDカメラにてシンチレータの画素と光電変換素子の配線を撮像し、互いの位置関係にズレが生じていないことを確認した。同様の手法で残り4台作成し、それぞれの検出器の画素がX方向1列に並ぶようつなぎ合わせることで5台の検出器を連結し、検出幅が256mm(640画素)の放射線検出器を製造した。
【0073】
(比較例1)
基材として、ポリイミドフィルム(カプトン200EN)の代わりに、可視光の全光線透過率が26%のポリイミドフィルム(PIF200、厚み200μm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてダイシングまでの作業を行い、シンチレータパネルを作製した。次に、(放射線検出器の作製)にて、受光基板とシンチレータパネルとを接着剤を介して貼り合わせた後、アライメントのためにカメラでシンチレータパネル端部を撮像したところ、基材の透過率不足のため隔壁と画素の境界部分が不明瞭であった。これにより前述したような光電変換素子の配線を利用した位置合わせが不可能であった。完成した放射線検出器1台で特性を評価したところ、画像鮮鋭度の指標であるMTFが実施例1比75%に低下し、本来の性能が得られなかった。位置合わせの精度が低下したことによる光電変換素子と隔壁の位置ズレがMTF低下の原因と推定される。
【0074】
(比較例2)
(基材上の隔壁形成)まで実施例1と同様にして隔壁パターンを有する基材を製作した。次に、反射層および蛍光体形成の工程でシンチレータパネルのX方向両端3画素に相当する部分にテープでマスキングを行ったうえで(反射層の形成)~(ダイシング)を行い、反射層と蛍光体層が形成されない画素を有するシンチレータパネルを作製した。これにより両端の3画素は画素の空間には遮蔽物がなく、透明基材を通して対面側を見通せる構造となった。続いて、(放射線検出器の作製)における受光基板とのアライメントの際は、この特性を利用して、光電変換素子の両端3画素と、反射層と蛍光体層を形成していないシンチレータパネルの両端3画素が一致するように位置合わせを行った。完成した放射線検出器1台で特性を評価したところ画像鮮鋭度の指標であるMTFが実施例1と同等であり、精度良くアライメントできていることを確認できた。ただし、両端3画素をアライメント用の画素として利用しているためにこの部分は非検出エリアとなり、有効検出エリアは実施例1より6画素分狭くなった。また、この放射線検出器を複数つなぎ合わせるとつなぎ目部分に非検出エリアが位置するためつなぎ合わせには不適であった。
【符号の説明】
【0075】
1 シンチレータパネル
2 基材
3 隔壁
4 蛍光体層
5 受光基板
6 光電変換素子
7 反射層
8 透明樹脂
9 ガラス基板
10 剥離層
11 隔壁層
12 配線
13 基準ライン
14 放射線検出器a
15 放射線検出器b
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のシンチレータパネルは、医療診断装置又は非破壊検査機器等に用いられる。