IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/12 20200101AFI20240611BHJP
【FI】
B60W30/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021051913
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149658
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047261(WO,A1)
【文献】特開2007-261452(JP,A)
【文献】特開2019-77290(JP,A)
【文献】特開2016-17914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車線変更を支援する車両制御装置であって、前記車両制御装置は、
前記車両の走行における制約条件を決定する制約条件決定部と、
前記制約条件下で、前記車両の舵角を含む制御目標値を決定する制御目標決定部と、
前記制約条件の決定と、前記制御目標値の決定と、を含む一連の処理フローを、所定の制御周期ごとに繰り返し実行させる制御指令部と、を備え、
前記制約条件は、前記車両が走行している車線に対応する仮想車線を設定し、前記仮想車線の外側へ前記車両が進入することを抑制する車線制約条件を含み、
前記制約条件決定部は、前記車両が車線変更を行う場合、車線変更を開始する制御周期から車線変更を終了する制御周期にわたって、前記仮想車線の再設定処理を実行するように構成され、
前記再設定処理は、車線変更後の走行車線を目標車線とし、前記目標車線に対応する仮想車線を目標仮想車線として、
前記再設定処理を実行する制御周期のうち一部または全部の制御周期において、前記仮想車線の幅方向位置が、前回の制御周期における前記仮想車線よりも前記目標仮想車線に近い位置に設定されるとともに、
前記再設定処理を実行する制御周期のうち最後の制御周期において、前記仮想車線の幅方向位置が前記目標仮想車線と一致していることを特徴とする、車両制御装置。
【請求項2】
前記再設定処理は、
車線変更前の走行車線を起点車線とし、前記仮想車線の幅方向の端部のうち前記目標車線側の端部を第1基準位置とし、前記仮想車線の幅方向の端部のうち前記起点車線側の端部を第2基準位置として、
前記第1基準位置及び前記第2基準位置を再設定することで前記仮想車線の再設定処理を実行するように構成され、
制御周期ごとの前記第1基準位置の幅方向位置の変化量と、制御周期ごとの前記第2基準位置の幅方向位置の変化量とは、少なくとも一部の制御周期において互いに異なる値をとるように設定されている、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記再設定処理は、
前記第1基準位置を再設定する第1再設定処理と、前記第2基準位置を再設定する第2再設定処理とを含み、前記第1再設定処理を開始した制御周期より後の制御周期に、前記第2再設定処理を開始するように設定されている、請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記再設定処理は、
前記第1再設定処理が終了した次の制御周期に、前記第2再設定処理を開始するように設定されている、請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記第1再設定処理において、制御周期ごとの前記第1基準位置の幅方向位置の変化量は、制御周期の経過とともに単調増加し、
前記第2再設定処理において、制御周期ごとの前記第2基準位置の幅方向位置の変化量は、制御周期の経過とともに単調減少する、請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記第2再設定処理のうち最初の制御周期における前記第2基準位置の幅方向位置の変化量は、
前記第1再設定処理のうち最後の制御周期における前記第1基準位置の幅方向位置の変化量と等しい、請求項4または5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記車両制御装置は、
前記車両の周辺に存在する他車両を検出するセンサをさらに備え、
前記制約条件決定部は、前記他車両の周囲に、前記車両が進入することを抑制する進入禁止領域を設定し、
前記第1基準位置または前記第2基準位置が前記進入禁止領域と重なる場合は、前記重なる第1基準位置または第2基準位置を、前記進入禁止領域と重ならないように、前記車両に近づける方向に補正するように設定されている、請求項2~6のいずれか1項に記載の車両制御装置。










































【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、特に、車両の車線変更を支援する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の車線変更を支援する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された走行支援装置では、合流地点付近での車線変更を支援するため、合流地点の前後では、合流地点のある車線に含まれるリスクを高く設定したうえで、各車線上のノードをリスクが最も低くなるように接続することで、走行経路を算出する。特許文献1を応用すれば、合流地点付近に限らず、ドライバが車線変更を意図したタイミングで、各車線のリスクを再設定することで、車線変更時の走行経路を算出することができると考えられる。
【0003】
また、車両の車線からの逸脱を抑制するために、走行車線の端部に設けた基準位置よりも内側を車両が走行するように走行経路を算出する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-17914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走行車線の端部に設けた基準位置よりも内側を車両が走行するように走行経路を算出する技術と特許文献1を組み合わせて、車線変更を行うタイミングで、車線変更後の走行車線である目標車線の端部に基準位置を再設定することにより、車線変更をより容易に実現できると考えられる。しかし、一般に、走行車線の端部に設けた基準位置よりも内側を車両が走行するように走行経路を算出する技術において、制御周期(例えば、0.1秒)は、ドライバ自身が操舵して車線変更にかける時間(例えば、3~5秒)よりも短い。そのため、車線変更を開始する制御周期において、単に基準位置を目標車線の端部に設定すると、車両の走行経路に制約を与える基準位置が、1回の制御周期分の時間(例えば、0.1秒間)で車線幅分だけ移動することになる。この場合、車両制御装置が算出する走行経路において、1回の制御周期分の時間における車両の移動量が、ドライバの操舵による車両の移動量を大きく上回ってしまい、ドライバに違和感を与える車両挙動につながるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、車線変更時にドライバに違和感を与える車両挙動を抑制することが可能な車両制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の車線変更を支援する車両制御装置であって、前記車両制御装置は、前記車両の走行における制約条件を決定する制約条件決定部と、前記制約条件下で、前記車両の舵角を含む制御目標値を決定する制御目標決定部と、前記制約条件の決定と、前記制御目標値の決定と、を含む一連の処理フローを、所定の制御周期ごとに繰り返し実行させる制御指令部と、を備え、前記制約条件は、前記車両が走行している車線に対応する仮想車線を設定し、前記仮想車線の外側へ前記車両が進入することを抑制する車線制約条件を含み、前記制約条件決定部は、前記車両が車線変更を行う場合、車線変更を開始する制御周期から車線変更を終了する制御周期にわたって、前記仮想車線の再設定処理を実行するように構成され、前記再設定処理は、車線変更後の走行車線を目標車線とし、前記目標車線に対応する仮想車線を目標仮想車線として、前記再設定処理を実行する制御周期のうち一部または全部の制御周期において、前記仮想車線の幅方向位置が、前回の制御周期における前記仮想車線よりも前記目標仮想車線に近い位置に設定されるとともに、前記再設定処理を実行する制御周期のうち最後の制御周期において、前記仮想車線の幅方向位置が前記目標仮想車線と一致していることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、車線変更を開始する制御周期から車線変更を終了する制御周期にわたって、仮想車線が制御周期ごとに段階的に目標仮想車線に近づくように設定される。これにより、車線変更時において、制御周期ごとの車両の移動量が、ドライバの操舵による車両の移動量を大きく上回ることを抑制し、ドライバに違和感を与える車両挙動を抑制することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、前記再設定処理は、車線変更前の走行車線を起点車線とし、前記仮想車線の幅方向の端部のうち前記目標車線側の端部を第1基準位置とし、前記仮想車線の幅方向の端部のうち前記起点車線側の端部を第2基準位置として、前記第1基準位置及び前記第2基準位置を再設定することで前記仮想車線の再設定処理を実行するように構成され、制御周期ごとの前記第1基準位置の幅方向位置の変化量と、制御周期ごとの前記第2基準位置の幅方向位置の変化量とは、少なくとも一部の制御周期において互いに異なる値をとるように設定されている。
【0010】
両基準位置の幅方向位置の変化量が常に等しくなる再設定処理では、起点車線と目標車線とで車線の幅が異なっている場合に、少なくとも一方の基準位置が目標仮想車線の基準位置からずれてしまう。その結果、仮想車線の再設定処理において、仮想車線を目標仮想車線と一致させることが困難になるおそれがある。一方、上記のように構成された本発明によれば、起点車線と目標車線とで車線の幅が異なっている場合にも、仮想車線を目標仮想車線に対し一致させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、前記再設定処理は、前記第1基準位置を再設定する第1再設定処理と、前記第2基準位置を再設定する第2再設定処理とを含み、前記第1再設定処理を開始した制御周期より後の制御周期に、前記第2再設定処理を開始するように設定されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、第1再設定処理を開始して車両が目標車線へ進入することを許容した後も、第2基準位置が起点車線に対応する仮想車線の第2基準位置と一致しているため、車線変更を中断し起点車線への退避が必要になった場合にも、退避時の車両の走行位置を起点車線内に適切に定めることが容易になる。
【0013】
本発明において、好ましくは、前記再設定処理は、前記第1再設定処理が終了した次の制御周期に、前記第2再設定処理を開始するように設定されている。
【0014】
このように構成された本発明によれば、再設定処理を実行している間、常に、第1基準位置が目標仮想車線の第1基準位置と一致しているか、または、第2基準位置が起点車線に対応する仮想車線の第2基準位置と一致している。これにより、急な他車両の接近などに起因して一方の車線への退避が必要になった場合にも、退避時の車両の走行位置を退避先の車線内に適切に定めることが容易になる。
【0015】
本発明において、好ましくは、前記第1再設定処理において、制御周期ごとの前記第1基準位置の幅方向位置の変化量は、制御周期の経過とともに単調増加し、前記第2再設定処理において、制御周期ごとの前記第2基準位置の幅方向位置の変化量は、制御周期の経過とともに単調減少する。
【0016】
このように構成された本発明によれば、車線変更の開始直後と車線変更の終了直前における車両の横方向の移動速度を、両者の間の期間と比較して小さくすることができる。これにより、車線変更の開始直後と車線変更の終了直前において車両に加わる横方向の重力加速度をより小さく抑え、ドライバに違和感を与える車両挙動をより一層抑制することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、前記第2再設定処理のうち最初の制御周期における前記第2基準位置の幅方向位置の変化量は、前記第1再設定処理のうち最後の制御周期における前記第1基準位置の幅方向位置の変化量と等しい。
【0018】
このように構成された本発明によれば、第1再設定処理から第2再設定処理への移行時において、車両の横方向の移動速度が変化することを抑制し、ドライバに違和感を与える車両挙動をより一層抑制することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、前記車両制御装置は、前記車両の周辺に存在する他車両を検出するセンサをさらに備え、前記制約条件決定部は、前記他車両の周囲に、前記車両が進入することを抑制する進入禁止領域を設定し、前記第1基準位置または前記第2基準位置が前記進入禁止領域と重なる場合は、前記重なる第1基準位置または第2基準位置を、前記進入禁止領域と重ならないように、前記車両に近づける方向に補正するように設定されている。
【0020】
このように構成された本発明によれば、車線変更の途中で他車両と接近した場合に、単に再設定処理を中止するのではなく、再設定処理を続行しながら他車両との接触を回避するように基準位置を補正することができる。これにより、他車両との接触を回避しつつ、回避後の車線変更の再開をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両制御装置によれば、車線変更時においてドライバに違和感を与える車両挙動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による車両制御装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態による車両制御装置の制御ブロック図である。
図3A】本発明の実施形態による車両制御装置における仮想車線の例である。
図3B】本発明の実施形態による車両制御装置における仮想車線の例である。
図4】本発明の実施形態による車両制御装置における進入禁止領域の説明図である。
図5】本発明の実施形態による車両制御装置における制御目標決定処理の説明図である。
図6】本発明の実施形態による車両制御装置における補正走行経路の説明図である。
図7】本発明の実施形態による車両制御装置における車両モデルの説明図である。
図8】本発明の実施形態による車両制御装置における運転支援制御の処理フローである。
図9】本発明の実施形態による車両制御装置における車線制約条件の決定の処理フローである。
図10A】本発明の実施形態による車両制御装置における再設定処理の説明図である。
図10B】本発明の実施形態による車両制御装置における再設定処理の説明図である。
図10C】本発明の実施形態による車両制御装置における再設定処理の説明図である。
図10D】本発明の実施形態による車両制御装置における再設定処理の説明図である。
図10E】本発明の実施形態による車両制御装置における再設定処理の説明図である。
図11】本発明の実施形態による車両制御装置における再設定処理の説明図である。
図12A】本発明の実施形態による車両制御装置における制御周期ごとの第1基準位置の幅方向位置の変化量のグラフである。
図12B】本発明の実施形態による車両制御装置における制御周期ごとの第2基準位置の幅方向位置の変化量のグラフである。
図13A】本発明の実施形態の変形例における再設定処理の説明図である。
図13B】本発明の実施形態の変形例における制御周期ごとの第1基準位置の幅方向位置の変化量のグラフである。
図13C】本発明の実施形態の変形例における制御周期ごとの第2基準位置の幅方向位置の変化量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置について説明する。
まず、図1及び図2を参照して、車両制御装置の構成について説明する。図1は車両制御装置の構成図、図2は車両制御装置の制御ブロック図である。
【0024】
本実施形態の車両制御装置100は、これを搭載した車両1(図3A等参照)に対して運転支援制御を提供するように構成されている。
【0025】
図1に示すように、車両制御装置100は、車両1に搭載されており、車両制御演算部(ECU)10と、複数のセンサ及びスイッチと、複数の制御システムと、運転支援の設定についてのユーザ入力を行うためのドライバ操作部35を備えている。複数のセンサ及びスイッチには、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車両の挙動を検出する複数の挙動センサ(車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28),測位システム29,ナビゲーションシステム30が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
【0026】
図1に示すECU10は、プロセッサ,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、複数のセンサ及びスイッチ,ドライバ操作部35から受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。
【0027】
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両,歩行者,道路,区画線(車線境界線,白線,黄線),縁石,交通信号,交通標識,停止線,交差点,障害物等)を特定する。さらに、本実施形態においては、車載カメラ21として、車両を運転中の運転者を撮像する車室内カメラも備えている。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等によって、車載通信機器を介して外部から対象物の情報を取得してもよい。
【0028】
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車,駐車車両,歩行者,障害物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の周囲へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態において、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
【0029】
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出する。
加速度センサ24は、車両1の加速度(前後方向の縦加速度、横方向の横加速度)を検出する。なお、加速度は、増速側(正)及び減速側(負)を含む。
ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。
舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(舵角)を検出する。
アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。
ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
【0030】
測位システム29は、全球測位衛星システム(GNSS)及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。また、測位システム29は、後述するナビゲーションシステム30と連動したマップマッチングや、路車間通信(Wi-Fi等を用いる)による位置情報取得手段を含んでもよい。
【0031】
ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
【0032】
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
【0033】
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
【0034】
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
【0035】
ドライバ操作部35は、ドライバが操作可能なように車両1の車室内に設けられており、運転支援に関する種々の設定を行うためにドライバにより操作される入力装置である。本実施形態では、ドライバ操作部35は、運転支援制御のオン/オフの切替や、運転支援制御の内容の調整を行えるようになっている。例えば、ドライバがドライバ操作部35を操作することで、自動で速度制御を行う場合の車速の設定や、先行車を追従して走行する場合の車間距離(実質的には、車間距離に代わる車間時間)の設定などを行えるようになっている。
【0036】
図2に示すように、ECU10は、入力処理部10a、制約条件決定部10b、目標走行経路決定部10c、運転操作判断部10e、制御目標決定部10f、及び制御指令部10zとして機能する単一のCPU又はプロセッサを備えている。なお、本実施形態では、単一のCPUが複数の上記機能を実行するように構成されているが、これに限らず、複数のCPUがこれら機能を実行するように構成することができる。
【0037】
入力処理部10aは、車載カメラ21を含む種々のセンサ/スイッチ群、及びドライバ操作部35から入力された入力情報を処理するように構成されている。この入力処理部10aは、走行路面を撮像したカメラ21の画像を解析し、車両1が走行している走行車線の端部(白線等の区画線,道路端,縁石,中央分離帯,ガードレール等)を検出する画像解析部として機能する。また、入力処理部10aは、ミリ波レーダ22、車載カメラ21等からの入力情報に基づいて周辺物標を検出する物標検出部として機能する。
【0038】
制約条件決定部10bは、ミリ波レーダ22,車載カメラ21,センサ群,ドライバ操作部35等からの入力情報に基づいて車両の走行における制約条件を求めるように構成されている。目標走行経路決定部10cは、ミリ波レーダ22、車載カメラ21、センサ群、ドライバ操作部35等からの入力情報に基づいて車両の目標走行経路を求めるように構成されている。
【0039】
運転操作判断部10eは、運転支援制御として自動速度制御及び/又は自動操舵制御が実行されているときに、乗員がアクセルペダル,ブレーキペダル,又はステアリングホイールを操作した場合、乗員による操作を優先して、乗員による操作に応じた要求信号を制御システム31~33へ出力するように構成されている。すなわち、運転操作判断部10eにより、乗員は、自動的な運転支援制御をオーバーライドして、自らが運転操作を行うことが可能である。
【0040】
制御目標決定部10fは、目標走行経路決定部10cによって求められた目標走行経路を補正して、補正走行経路を求め、この補正走行経路に基づいて制御システム31~33へ要求信号を出力するように構成されている。
【0041】
例えば、制御目標決定部10fは、入力処理部10aによって回避すべき周辺物標が検出された場合に、目標走行経路を補正して補正走行経路を求める。また、制御目標決定部10fは、運転支援制御の内容変更や車線変更等によって目標走行経路自体が変更になった場合にも、新たな目標走行経路を補正して補正走行経路を求める。車両1は、この補正走行経路を走行することにより、新たな目標走行経路へ合流する。すなわち、この場合の補正走行経路は、現在の車両挙動(舵角,加速度等)を新たな目標走行経路における車両挙動に適合させるための遷移的な経路である。
【0042】
制御目標決定部10fは、補正走行経路を求めるため、所定の評価関数を用いる。制御目標決定部10fは、目標走行経路を基準として評価関数を用いて複数の候補走行経路を評価し、所定の制約条件(制約条件決定部10bによって求められた制約条件を含む)を満足するように最適化された1つの補正走行経路を求める。また、本実施形態においては、評価関数及び制約条件は、設定されている運転支援制御の内容や走行車線の端部、周辺物標等に基づいて、適宜設定される。また、制御目標決定部10fは、求められた補正走行経路を走行するための制御目標(加速度目標、舵角目標)を求める。
【0043】
ECU10は、制御目標決定部10fによって決定された制御目標に基づき、少なくともエンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,又はステアリング制御システム33のいずれか1つ又は複数に対する要求信号を生成し、出力する。ここで、制御指令部10zは、が所定の制御周期(例えば、0.1秒)ごとにECU10が要求信号を出力するよう、入力処理部10a、制約条件決定部10b、目標走行経路決定部10c、運転操作判断部10e、及び制御目標決定部10fに対して指令を行う。
【0044】
次に、本実施形態による車両制御装置100が備える運転支援制御の内容について説明する。本実施形態では、運転支援制御として、少なくともレーンキープ制御が備えられている。
【0045】
レーンキープ制御は、車両1が走行車線の中央付近を走行するようにステアリングを制御するものであり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御、速度制御(エンジン制御、ブレーキ制御)を伴う。
【0046】
自動的な速度制御における車両の速度は、ドライバ操作部35に入力された設定車速、又は、先行車に追従するための車速から、適切に選択される。例えば、先行車に追いついた場合には、車速に応じた車間距離又は車間時間を維持しながら先行車に追従するように速度制御され、先行車が存在しなくなると、設定車速に復帰するように速度制御される。
【0047】
次に、本実施形態による車両制御装置100により計算される制約条件について説明する。ここでは、ECU10に備えられた制約条件決定部10bにより計算される、走行車線からの逸脱を抑制するための車線制約条件と、周辺物標に対する進入禁止領域について説明する。
【0048】
まず、図3を参照して、走行車線からの逸脱を抑制するための車線制約条件について説明する。図3A図3Bはともに、仮想車線の一例を示す。
【0049】
本実施形態では、ECU10に備えられた制約条件決定部10bが、以下に示すように2つの基準位置BR,BLを時間的に繰返し計算するように構成されている(例えば、0.1秒毎)。本実施形態では、ECU10は、センサ等の情報に基づいて、現時点から所定の予測期間(例えば、3秒)が経過するまでの間の基準位置を計算する。そして、2つの基準位置BR,BLに挟まれた領域Sを仮想車線とする。
【0050】
図3A及び図3Bでは、車両1は、車線7上を走行している。このとき、入力処理部10aは、車載カメラ21により撮像された車両1の周囲の画像データの画像認識処理を実行し、車線端部7R,7Lを検出する。なお、車線端部とは、車両1が走行している車線の端部(白線等の区画線,道路端,縁石,中央分離帯,ガードレール等)であり、隣接する車線や歩道等との境界である。入力処理部10aは、この車線端部を車載カメラ21より撮像された画像データから検出する。また、ナビゲーションシステム30の地図情報から車線端部を検出してもよい。
【0051】
制約条件決定部10bは、入力処理部10aによって検出された車線端部7R,7Lをもとに、基準位置BR,BLを設定する。具体的には、図3Aのように、車線端部7R上に基準位置BRを、車線端部7L上に基準位置BLを設定する。あるいは、図3Bのように、車線端部7Rを車線7内に所定距離(例えば、10cm)だけ平行移動した位置に基準位置BRを設定し、車線端部7Lを車線7内に所定距離(例えば、10cm)だけ平行移動した位置に基準位置BLを設定してもよい。そして、2つの基準位置BR,BLに挟まれた領域S(図3Aまたは図3Bの破線領域)を車線7に対する仮想車線とする。なお、2つの基準位置BR,BL及び仮想車線Sは、車両の進行方向において、少なくとも後述する目標走行経路Rと同じ距離だけ設定されるように、現時点から所定の予測期間(例えば、3秒)が経過するまでの車両1の走行距離だけ遠方まで設定されるが、より遠方まで設定されても良い。
【0052】
なお、この2つの基準位置BR,BLが、本発明における第1基準位置、第2基準位置に相当する。後述する車線変更において、車両1が右側の車線8に車線変更をする場合は、2つの基準位置のうち車線8側の(言い換えれば、車線7の端部のうち車線8に近い端部7Rをもとに設定された)基準位置BRが第1基準位置に相当し、車線7の端部のうち車線7側の(言い換えれば、車線7の端部のうち車線8に遠い端部7Lをもとに設定された)基準位置BLが第2基準位置に相当する。そこで、以降の説明においては、基準位置BRを第1基準位置、基準位置BLを第2基準位置とする。なお、車両1が左側の車線(図示せず)に車線変更をする場合は、基準位置BLが第1基準位置に相当し、基準位置BRが第2基準位置に相当する。
【0053】
制約条件決定部10bは、上記のように設定された仮想車線Sを車両1が走行するように、車線制約条件を求める。具体的には、後述するように、仮想車線Sからの車両1の逸脱量に応じて評価関数に対してペナルティ値を与えるような制約項を、制御目標決定部10fに入力する。これにより、車両1が仮想車線Sから逸脱するような走行経路が求められることを抑制できる。
【0054】
次に、図4を参照して、周辺物標に対する進入禁止領域について説明する。図4は、周辺物標に対する進入禁止領域の一例である。図4では、車両1は車線7上を走行しており、走行中又は停車中の車両4とすれ違って、車両4を追い抜こうとしている。
【0055】
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1の運転者は、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、車両1と障害物との間に所定のクリアランスを保ちながら走行する。
【0056】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、制約条件決定部10bは、車両1から検知される障害物(例えば、車両4)に対して、障害物の周囲(横方向領域,後方領域,及び前方領域にわたって)に、車両1が進入することを抑制する進入禁止領域40を設定し、この進入禁止領域40を制御目標決定部10fに入力する。これにより、車両1は障害物との間に所定のクリアランスを保ちながら走行することができる。
【0057】
なお、車両1の速度が高いほど障害物との間のクリアランスは広く保たれるべきであるため、車両1の絶対速度が高いほど、障害物からより遠方まで進入禁止領域40が設定されても良い。あるいは、車両1の障害物に対する相対速度が高いほど、障害物からより遠方まで進入禁止領域40が設定されても良い。
【0058】
次に、本実施形態による車両制御装置100により計算される目標走行経路について説明する。本実施形態では、ECU10に備えられた目標走行経路決定部10cが、以下の目標走行経路Rを時間的に繰返し計算するように構成されている(例えば、0.1秒毎)。本実施形態では、ECU10は、センサ等の情報に基づいて、現時点から所定の予測期間(例えば、3秒)が経過するまでの間の目標走行経路を計算する。目標走行経路Rは、所定の設定経過時間において設定される車両1の目標位置(Pk)及び目標速度(Vk)により特定される(k=0,1,2,・・・,n)。更に、各目標位置において、目標速度以外に複数の変数(加速度、ジャーク、ヨーレート、舵角、車両角度等)について目標値が特定される。
【0059】
目標走行経路Rは、道路形状に即して車両1に走行車線内の走行を維持させるように所定期間分だけ設定される。詳しくは、目標走行経路Rは、原則的に、車線の中央付近の走行を維持するように設定される。目標走行経路決定部10cは、制約条件決定部10bによって求められた仮想車線Sの幅方向中央部を、車両1の幅方向中央部(例えば、重心位置)が通過するように、目標走行経路Rの複数の目標位置Pkを設定する。また、目標走行経路Rの各目標位置Pkにおける目標速度Vkは、原則的に、ドライバがドライバ操作部に入力した設定車速、又は車両制御装置100によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)に設定される。
【0060】
次に、図5図7を参照して、本実施形態によるECU10の制御目標決定部10fにおいて実行される制御目標決定処理について説明する。図5は制御目標決定処理の説明図、図6は補正走行経路の説明図、図7は車両モデルの説明図である。本実施形態において、制御目標決定処理には、走行経路補正処理が含まれる。
【0061】
図5及び図6に示すように、制御目標決定部10fは、目標走行経路Rを外部環境(障害物等)や車両1の位置,姿勢等に応じて補正して、補正走行経路Rcを求める。そして、制御目標決定部10fは、車両1がこの補正走行経路Rcを走行するための所定の制御量の制御目標値(加速度目標、舵角目標)を計算し、制御目標に基づいて車両1の制御システムへ要求信号を出力する。なお、図6には、所定期間(例えば、3秒)にわたる例示的な目標走行経路R,補正走行経路Rcが示されている。補正走行経路Rcが図6に例示したような経路となるのは、例えば、運転支援制御の内容変更や車線変更等によって目標走行経路Rが変更になり、車両が新たな目標走行経路Rに合流しようとしている場合である。各経路R,Rcには、それぞれ所定の設定経過時間における目標位置P,補正目標位置Pcが示されている。
【0062】
具体的には、制御目標決定部10fは、センサ/スイッチ群から各種情報を受け取り、目標走行経路決定部10cから目標走行経路Rを受け取り、制約条件決定部10bから制約条件に関する情報を受け取る。制御目標決定部10fは、これらの情報に基づいて、制約条件を満足しつつ、目標走行経路Rからの逸脱量が小さくなるように最適化された補正走行経路Rcを、モデル予測制御を用いて計算する。すなわち、本実施形態では、制御目標決定部10fは、制約条件下で所定の評価関数Jの評価値を最小にするという最適化問題を解くように構成されたソルバーを含む。このため、制御目標決定部10fは、最適化計算部11aとモデル予測部11bを備えている。
【0063】
本実施形態では、概略的には、最適化計算部11aは、車両1の現在の挙動(速度、位置、加速度、舵角等)に基づいて、制約条件を満足するような候補補正走行経路を設定し、候補補正走行経路上の各候補目標位置での物理量(加速度、舵角)を入力値としてモデル予測部11bへ与える。モデル予測部11bは、入力値を車両モデルに適用することにより、候補補正走行経路上での車両1の挙動を計算し、候補補正走行経路上の各候補目標位置を特定すると共に、車両挙動に基づく種々の物理量を最適化計算部11aへフィードバックする。各候補目標位置は、隣り合う候補目標位置間での移動距離を積算していくことにより算出される。
【0064】
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図7に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定される。
【0065】
【数1】
【数2】
【0066】
図7及び式(1)、(2)中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、xは絶対空間に対する車両1の縦変位、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
【0067】
最適化計算部11aは、候補補正走行経路上での車両1の挙動を表すフィードバックに基づいて評価関数Jを用いて、候補補正走行経路を評価する。本実施形態では、評価関数Jは、補正走行経路の評価に関する評価項JEと、制約条件に関する制約項JCとを含む。評価項JEは、複数の評価ファクタを有する。また、制約項JCは複数の制約ファクタを有する。制御目標決定部10fは、実行中の運転支援制御の内容及びセンサ情報等に応じて異なるように評価関数Jを設定する。
【0068】
複数の評価ファクタは、補正目標位置での車両1の挙動を表す複数の物理量(例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、舵角、舵角速度、その他ソフト制約)にそれぞれ対応して設定されている。評価ファクタには、目標走行経路と補正走行経路の物理量の差が小さいほど評価が高くなる第1評価ファクタと、物理量自体の大きさが小さいほど評価が高くなる第2評価ファクタが含まれる。本実施形態では、評価値が小さな値となるほど、評価が高くなる。
【0069】
第1評価ファクタは、目標走行経路と補正走行経路の差を最小化するための評価ファクタであり、第1評価ファクタの物理量は、例えば、速度(縦方向及び横方向)、横位置等である。一方、第2評価ファクタは、所定の物理量を最小化するための評価ファクタであり、第2評価ファクタの物理量は、例えば、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、舵角、舵角速度等である。
【0070】
また、複数の制約ファクタは、複数の物理量にそれぞれ対応して設定されている。制約ファクタは、対応する物理量に対して規定された制限範囲(下限値~上限値)をその物理量が超えた量に応じて、ペナルティ値として見積もられる。よって、超過量が大きいほど、ペナルティ値は大きくなる(すなわち、結果的に、評価値は大きくなる)。
【0071】
例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、舵角、舵角速度、ヨーレートを含む複数の物理量には、それぞれ固定された制限範囲が規定されている。また、上述した進入禁止領域(図4参照)が制約条件として適用される場合には、車両1が進入禁止領域外を走行するような制約条件が加わる。
【0072】
評価関数J(=JE+JC)は、以下の式で記述される。
【数3】
【数4】
【数5】
【0073】
評価項JEについて、式中、Wk(Xk-Xrefk)は評価ファクタ、Xkは補正走行経路の物理量、Xrefkは目標走行経路の物理量又は0(ゼロ値)、Wkは評価ファクタの重み係数(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1~n)。したがって、本実施形態の評価項JEは、n個の評価ファクタの物理量について、候補補正走行経路の物理量から目標走行経路の物理量(目標走行経路との差を最小化する評価ファクタの場合)又はゼロ値(物理量自体を最小化する評価ファクタの場合)を差し引いた差分の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、3秒)の走行経路長にわたってさらに重み付けして合計した値に相当する。なお、重み係数Wkは、運転支援制御の内容に応じて異なって設定される。
【0074】
一方、制約項JCは、複数の物理量の制限範囲からの超過量に応じた評価値の合計値を、所定期間(例えば、3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。各評価値は、例えば、超過量を2乗した値に所定の重み係数Wを乗じた値とすることができる。なお、所定の物理量の制限範囲は、周辺物標等に応じて変動し得る。
【0075】
このように、評価項JE,制約項JCは、それぞれ各予測点(又は補正目標位置)におけるすべての評価ファクタ,制約ファクタの重み付け評価値を、各予測点に設定された重み係数CEk,CCk(k=1~N)で重み付けし、すべての予測点(k=1~N)について加算することにより算出される総和である。
【0076】
本実施形態では、評価関数Jは、制約項JCが組み込まれたラグランジュ関数である。よって、最適化計算部11aは、無制約の最適化問題を解くように構成されており、良好な収束性で最適解を導出可能である。仮に評価関数Jが制約項JCを含まない場合、モデル予測部11bからのフィードバックが制約条件を満足しないと、そのフィードバックは最適化問題の収束性に何ら寄与しない。この場合、最適解が所定計算時間内に得られないおそれがある。
【0077】
さらに、本実施形態では、フィードバックが制約条件を完全には満足しない場合であっても、最適化計算部11aは、その候補補正走行経路を、制約条件を考慮して評価関数Jにより評価することができる。これにより、本実施形態では、収束性を向上させることができる。例えば、センサ情報等のノイズ誤差や、道路環境の評価に対する誤差や、モデル関数に起因する誤差等により、制約条件をわずかに超えるような候補補正走行経路を確実に評価することができる。ただし、本実施形態では、制約項JCの重み係数を大きな値に設定することにより、制約項JCを制約条件として確実に機能させることができる。
【0078】
本実施形態では、最適化計算部11aは、モデル予測部11bからのフィードバックに基づいて、評価関数Jを用いて候補補正走行経路についての評価値を算出する。最適化計算部11aは、評価値に応じて、新たな候補目標走行経路を設定し、この新たな候補補正走行経路に基づいて、修正した入力値をモデル予測部11bへ与える。本実施形態では、このような最適化計算部11aとモデル予測部11bとの間でのフィードバックが複数回繰り返されることにより、評価関数Jの評価値が最小化(又は、最適化)された補正走行経路Rcが算出される。なお、フィードバックの最大繰り返し回数は、所定回数に制限されてもよい。
【0079】
次に、図8を参照して、本実施形態の車両制御装置100における運転支援制御の処理フローを説明する。図8は運転支援制御の処理フローである。
ECU10は、図8の処理フローを所定時間(例えば、0.1秒)ごとに繰り返して実行している。まず、ECU10(入力処理部10a)は、情報取得処理を実行する(S11)。情報取得処理において、ECU10は、測位システム29及びナビゲーションシステム30から、現在車両位置情報及び地図情報を取得し(S11a)、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,ドライバ操作部35等からセンサ情報を取得し(S11b)、舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28等からスイッチ情報を取得する(S11c)。
【0080】
次に、ECU10(入力処理部10a)は、情報取得処理(S11)において取得した各種の情報を用いて所定の情報検出処理を実行する(S12)。情報検出処理において、ECU10は、現在車両位置情報及び地図情報並びにセンサ情報から、車両1の周囲及び前方エリアにおける走行路形状に関する走行路情報(直線区間及びカーブ区間の有無,各区間長さ,カーブ区間の曲率半径,車線幅,車線両端部位置,車線数,交差点の有無,カーブ曲率で規定される制限速度等)、走行規制情報(制限速度、赤信号等)、先行車情報(先行車の位置,速度,加速度等),周辺物標情報を検出する(S12a)。
【0081】
また、ECU10は、スイッチ情報から、運転者による車両操作に関する車両操作情報(舵角,アクセルペダル踏み込み量,ブレーキペダル踏み込み量等)を検出し(S12b)、更に、スイッチ情報及びセンサ情報から、車両1の挙動に関する走行挙動情報(車速、縦加速度、横加速度、ヨーレート等)を検出する(S12c)。
【0082】
次に、ECU10(制約条件決定部10b)は、計算により得られた情報に基づいて、制約条件決定処理を実行する(S13)。制約条件決定処理では、上述のように、車線制約条件に関する第1基準位置BR,第2基準位置BL及び仮想車線Sを設定し、車線制約条件を決定するとともに、障害物に対する進入禁止領域40を設定する。
【0083】
次に、ECU10(目標走行経路決定部10c)は、計算により得られた情報に基づいて、目標走行経路決定処理を実行する(S14)。目標走行経路決定処理では、上述のように、目標走行経路Rが計算される。
【0084】
次に、ECU10(制御目標決定部10f)は、目標走行経路R、制約条件、各種のセンサ情報等に基づいて、制御目標決定処理を実行する(S15)。制御目標決定処理では、上述のように、補正走行経路Rcが算出され、この補正走行経路Rc上の各補正目標位置Pcにおける所定の制御量の制御目標(加速度目標、舵角目標)が生成される。
【0085】
最後に、ECU10(制御目標決定部10f)は、生成した補正走行経路Rcにおける制御目標に基づいて、システム制御処理を実行して(S16)、処理を終了する。システム制御処理では、補正走行経路Rcにおける制御目標に応じて、要求信号(エンジン要求信号,ブレーキ要求信号,ステアリング要求信号)が生成され、生成された要求信号が車両1の制御システム31~33へ出力される。
【0086】
次に、図9図13を参照して、本実施形態の車両制御装置100における仮想車線の再設定処理を説明する。図9は車線制約条件の決定処理のフロー、図10A図10B図10C図10D図10Eは再設定処理の説明図、図11は隣接車線に他車両等の障害物が存在する場合の再設定処理の説明図、図12A図12Bは車線制約条件の基準位置の制御周期ごとの幅方向位置の変化量を示すグラフ、図13A図13B図13Cは、本実施形態の変形例の説明図である。
【0087】
図9は、図8に示した制約条件決定処理(S13)のうち、車線制約条件の決定処理のフローを示している。図10A図10Eは、車線変更の一例として、車両1が、走行中の車線7(車線変更の起点車線)から右側の車線8(車線変更の目標車線)に車線変更をする場合における、車両1の位置、車線制約条件に関する基準位置BR,BL及び仮想車線Sの位置、及び目標走行経路Rの位置を示した図であり、図10A図10B図10C図10D図10Eの順に時系列順に並んでいる。ここでは、図10A図10Eの例を用いて、車両1が図10Aのように車線7を走行している場合について、図9に示した車線制約条件の決定処理のフローついて説明する。
【0088】
まず、S131において、ECU10(制約条件決定部10b)は、車線変更の要求が検出されているか否かを判定する。車線変更の要求が検出されている場合としては、例えば、ドライバによりウインカー操作が行われた場合や、ナビゲーションシステム30から車線変更が要求された場合(例えば、合流地点に近づいた場合や、目的地までのルート案内において車線変更が要求された場合)等がある。
【0089】
S131の結果、車線変更の要求が検出されていない場合(S131:No)は、ECU10(制約条件決定部10b)は、S137に進み、車両1が走行している車線7の端部7R(BR0)に第1基準位置BRを、車線7の端部7L(BL0)に第2基準位置BLを設定し、第1基準位置BRと第2基準位置BLに挟まれた領域を仮想車線Sとする。
【0090】
S131の結果、車線変更の要求が検出されている場合(S131:Yes)は、ECU10(制約条件決定部10b)は、S132に進み、S132~S136に示す仮想車線の再設定処理を開始する。S132では、ECU10(制約条件決定部10b)は、車線変更の目標車線(車線8)に対する仮想車線(目標仮想車線)の基準位置を設定する。すなわち、再設定処理における第1基準位置BRと第2基準位置BLの最終的な幅方向位置を決定する。ここで、幅方向とは、車線の幅方向、すなわち、車線の長さ方向に対して垂直な方向を意味する。図10Aの例では、ECU10(制約条件決定部10b)は、車線8の右側の端部8Rを第1基準位置BRの最終的な位置(BR5)とし、車線8の左側の端部8Lを第2基準位置BLの最終的な位置(BL5)とする。そして、2つの基準位置の最終的な位置(BR5とBL5)に挟まれた領域(図10EのSOに相当)を、目標仮想車線とする。
【0091】
次に、S133において、ECU10(制約条件決定部10b)は、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置を決定する。図10Aの例では、第1基準位置BRの制御周期ごとの位置は、順にBR1,BR2,BR3,BR4,BR5であり、第1基準位置BLの制御周期ごとの位置は、順にBL1,BL2,BL3,BL4,BL5である。また、このように制御周期ごとの仮想車線Sを設定することで、制御周期ごとの仮想車線Sの幅方向位置(代表して、仮想車線Sの幅方向中央部Rの幅方向位置を仮想車線Sの幅方向位置と見なす)は、前回の制御周期における仮想車線Sよりも目標仮想車線SOに近い位置に設定されるとともに、再設定処理を実行する制御周期のうち最後の制御周期(図10E)において、仮想車線Sの幅方向位置は目標仮想車線SOの幅方向位置と一致する。
【0092】
S133においては、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの位置は、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量(すなわち、
前回周期と比較した幅方向位置の変化量)を考慮して決定される。図12Aは、図10A図10Eの例における第1基準位置BRの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBRを示すグラフであり、図12Bは、図10A図10Eの例における第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBLを示すグラフである。本実施形態では、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量は、必ずしも同一の値をとる必要はなく、それぞれ独立して決定され、少なくとも一部の制御周期において互いに異なる値をとっても良い。
【0093】
また、S133においては、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量は、次の4点を充たすように決定されることが望ましい。第1に、第1基準位置BRを最終的な位置BR5に設定するまでの処理(本発明における第1再設定処理)を先に開始し、第1再設定処理の開始よりも後のいずれかの制御周期に、第2基準位置BLを最終的な位置BL5に設定するまでの処理(本発明における第2再設定処理)を開始する。第2に、第1再設定処理を先に実行し、その終了直後の制御周期から第2再設定処理を開始する。本実施形態では、図12A及び図12Bに示す通り、時刻t以前の制御周期においては、第1基準位置BRの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBRをゼロより大きい値とする一方で第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBLをゼロとし、時刻t以後の制御周期においては、第1基準位置BRの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBRをゼロとする一方で第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBLをゼロより大きい値とすることにより、時刻t以前の制御周期において第1再設定処理を実行し、その直後、時刻t以降の制御周期において第2再設定処理を実行するようになっている。
【0094】
第3に、図12A及び図12Bに示すように、第1再設定処理では第1基準位置BRの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBRは単調増加し、第2再設定処理では第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBLは単調減少する。
【0095】
第4に、第1再設定処理の最後の制御周期における第1基準位置BRの幅方向位置の変化量VBRと、第2再設定処理の最初の制御周期における第2基準位置BLの幅方向位置の変化量VBLが一致する。本実施形態では、図12A及び図12Bに示す通り、時刻t直前における第1基準位置BRの幅方向位置の変化量VBRと、時刻t直後における第2基準位置BLの幅方向位置の変化量VBLが、いずれもVBMAXの値をとり、一致している。
【0096】
S133において、第1基準位置BR,第2基準位置BLそれぞれの制御周期ごとの幅方向位置の変化量が決定され、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの位置が決定される。図10A図10Eの例における再設定処理では、まず第1再設定処理として、1回目から5回目までの制御周期にわたって、第1基準位置BRがBR1→BR2→BR3→BR4→BR5の順に設定され、次に第2再設定処理として、6回目から10回目までの制御周期にわたって、第2基準位置BLがBL1→BL2→BL3→BL4→BL5の順に設定される。なお、図10B図10Eは、順に1回目、5回目、6回目、10回目の再設定処理を示したものである。このように、本実施形態では、制御周期ごとに第1基準位置BRと第2基準位置BLを再設定することにより、仮想車線Sを制御周期ごとに再設定する。なお、ここでは10回の制御周期にわたって再設定処理が実行されるが、他の回数にわたって実行されても良い。一般にドライバが運転する際に車線変更にかける時間は3~5秒程度のため、再設定処理が3~5秒間にわたって実行されれば、よりドライバの感覚に合った車両挙動を実現できる。
【0097】
なお、第1基準位置BR,第2基準位置BLそれぞれの制御周期ごとの幅方向位置の変化量は、上述の4点を必ずしも充たさなくても良い。具体的には、第1再設定処理と第2再設定処理は同一の制御周期に開始されても良いし、第1再設定処理が終了する前に第2再設定処理が開始されても良いし、第1再設定処理が終了した後、複数の制御周期が経過した後に第2再設定処理が実行されても良い。また、第1基準位置BR,第2基準位置BLそれぞれの制御周期ごとの幅方向位置の変化量は、全ての制御周期で同一の値をとっても良いし、幅方向位置の変化量がゼロとなる制御周期があっても良い(ただし、2つ以上の制御周期で幅方向位置の変化量がゼロより大きい値をとるのが望ましい)。また、第1再設定処理の最後の制御周期における第1基準位置BRの幅方向位置の変化量と、第2再設定処理の最初の制御周期における第2基準位置BLの幅方向位置の変化量は、必ずしも一致する必要はない。
【0098】
S133において上述の4点を必ずしも充たさない、本発明の実施形態の変形例を、図13を用いて説明する。図13B及び図13Cに示すように、第1基準位置BRの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBRと、第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBLは、全ての制御周期において互いに等しく、いずれも一定の値VCOをとる。この場合、例えば5回の制御周期にわたって再設定処理が実行されるとすると、図13Aに示すように、5回の制御周期にわたって第1基準位置BRがBR11→BR12→BR13→BR14→BR5の順に設定され、それと並行して第2基準位置BLがBL11→BL12→BL13→BL14→BL5の順に設定される。その結果、仮想車線Sは常に一定の幅を保ったまま再設定される。図13Aに示した仮想車線Sは3回目の制御周期における仮想車線を示している。
【0099】
次に、S134において、ECU10(制約条件決定部10b)は、2つの基準位置を、今回の制御周期における位置に設定する。例えば、1回目の制御周期であれば、図10Bに示すように、第1基準位置BRをBR1の位置に設定し、第2基準位置BLをBL0の位置に設定する。同様に、例えば6回目の制御周期では、図10Dに示すように、第1基準位置BRをBR5の位置に設定し、第2基準位置BLをBL1の位置に設定する。
【0100】
次に、S135において、ECU10(制約条件決定部10b)は、第1基準位置BR及び第2基準位置BLが他車両等の障害物に対する進入禁止領域40と重なっていないか(言い換えれば、仮想車線Sが進入禁止領域40と重なっていないか)を判定する。S135の結果、第1基準位置BRと第2基準位置BLのうち少なくとも一方が進入禁止領域40と重なっている場合(S135:Yes)、ECU10(制約条件決定部10b)はS136に進み、重なっている基準位置を補正する。S135及びS136の詳細については後述する。
【0101】
S135の結果、第1基準位置BRと第2基準位置BLのいずれも進入禁止領域40と重なっていない場合、ECU10(制約条件決定部10b)はS138に進み、評価関数Jの制約項JCのうち、車線制約条件に関する制約項を求める。この制約項は、例えば、車両1の幅方向中央部(例えば、重心位置)の、仮想車線Sからの逸脱量が大きいほど、大きな値をとる(すなわち、評価関数Jに与えるペナルティ値が大きくなる)ような制約項である。
【0102】
図11を参照して、S135及びS136の詳細について説明する。図11は、車線変更の目標車線8上に他車両等の障害物(図示せず)が存在し、その周囲に進入禁止領域40が設定されている状況を示している。S135において、ECU10(制約条件決定部10b)は、S134で新たに設定された第1基準位置BR,第2基準位置BLがそれぞれ、進入禁止領域40と重なるか否かを判定する。図11の例では、S134で第1基準位置BRがBR3に設定された(図11中に破線で図示)結果、進入禁止領域40に重なっている。
【0103】
第1基準位置BRと第2基準位置BLのうち少なくとも一方が進入禁止領域40と重なっている場合(S135:Yes)、ECU10(制約条件決定部10b)はS136に進み、進入禁止領域40と重なっている基準位置の補正を行う。ここでは、重なっている基準位置が進入禁止領域40と重ならないよう、車両1に近づける方向に補正する。言い換えれば、仮想車線Sが進入禁止領域40と重ならないように、基準位置を補正する。図11の例では、BR3に位置している第1基準位置BRを左側に補正するため、補正後の位置の候補として、第1基準位置BRの制御周期ごとの位置のうちBR2,BR1,BR0を挙げる。このうちBR3に最も近いBR2に第1基準位置BRを補正しても、依然として進入禁止領域40と重なるため、BR3に2番目に近いBR1に第1基準位置BRを補正することで、進入禁止領域40と重ならないようにしている。このように、ECU10(制約条件決定部10b)は重なっている基準位置の補正を行った後、S138に進む。なお、次回の制御周期以降、S134にて第1基準位置BRは再びBR2→BR3→…と設定されるため、スムーズに再設定処理を再開することができる。
【0104】
以下、本実施形態による作用・効果について説明する。本実施形態では、上述した車線制約条件の決定処理のフローを制御周期ごとに繰り返し実行することで、車両が車線変更を行う場合、仮想車線の幅方向位置が段階的に目標仮想車線に近づくように、仮想車線を設定する。もし、1回の制御周期で仮想車線Sを図10Aに示す位置(S)から図10Eに示す位置(SO)に再設定すると、車両1は依然として車線7を走行したままであるにも関わらず、仮想車線Sと目標走行経路Rが、目標車線である車線8上に位置する状態になる。すると、車両1が目標走行経路Rから大きく逸脱しており、また、車線制約条件に違反した状態になるため、評価関数Jの値が著しく悪化する。そのため、ECU10(制御目標決定部10f)は、制約条件の違反を回避して評価関数の値を改善するために、予測期間(例えば、3秒)のうち極力早期に車両1を目標走行経路Rに近づけるような補正走行経路及び制御目標を算出することがある。このような補正走行経路及び制御目標は、一般のドライバ(例えば、3~5秒程度かけて車線変更を行う)の操舵よりも急な操舵を伴い、ドライバに違和感を与える車両挙動につながるおそれがある。言い換えれば、1回の制御周期における第1基準位置BR,第2基準位置BL,仮想車線S及び目標走行経路Rの幅方向位置の変化量が、一般のドライバの運転で1回の制御周期分の時間(例えば0.1秒間)に車両1が移動する量よりも遥かに大きくなることにより、ドライバに違和感を与える車両挙動につながるおそれがある。一方、本実施形態のように、仮想車線Sを複数の制御周期にわたって段階的に目標車線に近づくように再設定することにより、1回の制御周期における第1基準位置BR,第2基準位置BL,仮想車線S及び目標走行経路Rの幅方向位置の変化量が、一般のドライバの運転において1回の制御周期分の時間(例えば0.1秒間)に車両1が移動する量に近づく。これにより、評価関数の値が著しく悪化することを抑制できるため、ドライバの操舵よりも急な操舵を伴い車両の移動量が大きくなるような補正走行経路及び制御目標が算出されることを抑制でき、その結果、ドライバに違和感を与える車両挙動を抑制することができる。
【0105】
なお、急な操舵を抑制する他の手段として、評価関数Jの制約項JCに関する説明において述べたように、舵角及び/又は舵角速度の制限範囲を規定することも考えられる。一般に、本実施形態の最適化計算部11aのように繰り返し計算により制御目標を決定する場合には、相反する制約条件が存在していると計算の収束性が悪化し、制御目標の決定が困難になることが知られている。例えば、車両1が依然として車線7を走行したままであるにも関わらず、仮想車線Sが車線8上に位置している状態においては、車線制約条件を順守するために大きな舵角及び舵角速度が要求される一方、舵角及び/又は舵角速度の制限範囲を規定する制約条件を順守するために小さな舵角及び舵角速度が要求されるため、これらの制約条件が相反している。そのため、単に制約項JCにおいて舵角及び/又は舵角速度の制限範囲を規定するだけでは、最適化計算の収束性が悪化し、制御目標の決定が困難になる。そこで、本実施形態のように、仮想車線Sを複数の制御周期にわたって段階的に目標車線に近づくように設定することにより、車線変更を行っている間は車線制約条件を緩和されるため、制約条件の相反が抑制され、計算の収束性が向上し、制御目標をより確実に決定することが可能になる。
【0106】
また、本実施形態のように、制御周期ごとの第1基準位置BRの幅方向位置の変化量VBRと、制御周期ごとの第2基準位置BLの幅方向位置の変化量VBLは、少なくとも一部の制御周期において互いに異なる値をとることが望ましい。もし、第1基準位置BRと第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量が全ての制御周期において同一の値をとるとする(図13)と、再設定処理において仮想車線Sが一定の幅を保つように再設定されるため、もし車線7(起点車線)と車線8(目標車線)とで車線幅が異なっている場合、少なくとも一方の基準位置が目標仮想車線の基準位置からずれてしまい、仮想車線を目標仮想車線と一致させることが困難になるおそれがある。一方、本実施形態によれば、車線7と車線8とで車線の幅が異なっている場合にも、仮想車線を目標仮想車線に対し一致させることができる。
【0107】
また、本実施形態のように、第1基準位置BRを最終的な位置BR5に設定するまでの処理(第1再設定処理)を先に開始し、第1再設定処理の開始よりも後のいずれかの制御周期に、第2基準位置BLを最終的な位置BL5に設定するまでの処理(第2再設定処理)を開始することが望ましい。これにより、図13の場合などと異なり、第1再設定処理を開始して車両が車線8へ進入することを許容した後も、第2基準位置BLがBL0(起点車線に対応する仮想車線の第2基準位置)に残る。その結果、例えば隣接車線の状況やドライバの判断などから車線変更を中断し車線7への退避が必要になった場合にも、退避時の車両の走行位置を車線7内に適切に定めることが容易になる。
【0108】
また、本実施形態のように、第1再設定処理が終了した次の制御周期に、第2再設定処理を開始することが望ましい。これにより、図13の場合などと異なり、再設定処理を実行している間、常に、第1基準位置BRがBR5(目標仮想車線の第1基準位置)に位置しているか、または、第2基準位置BLがBL0(起点車線に対応する仮想車線の第2基準位置)に位置している。これにより、急な他車両の接近などに起因して一方の車線への退避が必要になった場合にも、車両の走行位置を退避先の車線内に適切に定めることが容易になる。
【0109】
また、本実施形態のように、第1再設定処理では第1基準位置BRの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBRが単調増加し、第2再設定処理では第2基準位置BLの制御周期ごとの幅方向位置の変化量VBLが単調減少することが望ましい。これにより、車線変更(再設定処理)の開始直後と車線変更の終了直前においては、両者の間の期間と比較して、第1基準位置BR,第2基準位置BL,仮想車線S及び目標走行経路Rの制御周期ごとの幅方向位置の変化量を小さくすることができる。すなわち、車線変更の開始直後と車線変更の終了直前においては、両者の間の期間と比較して、車両1の移動量を小さくすることができ、車両1に加わる横方向の重力加速度をより小さく抑えることができる。その結果、ドライバに違和感を与える車両挙動をより一層抑制することができる。
【0110】
また、本実施形態のように、第1再設定処理の最後の制御周期における第1基準位置BRの幅方向位置の変化量VBRと、第2再設定処理の最初の制御周期における第2基準位置BLの幅方向位置の変化量VBLが一致することが望ましい。これにより、第1再設定処理の最後の制御周期において算出される車両1の舵角目標と、第2再設定処理の最初の制御周期において算出される車両1の舵角目標とが概ね一致するため、第1再設定処理から第2再設定処理への移行時において、車両の横方向の移動速度が変化することを抑制し、ドライバに違和感を与える車両挙動をより一層抑制することができる。
【0111】
また、本実施形態のように、第1基準位置BRと第2基準位置BLのうち少なくとも一方が、他車両等の障害物に対する進入禁止領域40と重なっている場合、重なっている基準位置を、進入禁止領域40と重ならないよう、車両1に近づける方向に補正することが望ましい。これにより、車線変更の途中で他車両等の障害物と接近した場合に、単に再設定処理を中止するのではなく、再設定処理を続行しながら他車両との接触を回避するように第1基準位置BR,第2基準位置BLを補正することができる。これにより、他車両等の障害物との接触を回避しつつ、回避後の車線変更の再開をスムーズに行うことができる。
【符号の説明】
【0112】
1 車両
4 障害物(停止車両)
7,8 車線
7L,7R,8L,8R 車線端部
10 ECU
10a 入力処理部
10b 制約条件決定部
10c 目標走行経路決定部
10e 運転操作判断部
10f 制御目標決定部
10z 制御指令部
11a 最適化計算部
11b モデル予測部
40 進入禁止領域
100 車両制御装置
BL 第2基準位置
BR 第1基準位置
J 評価関数
P 目標位置
Pc 補正目標位置
R 目標走行経路
Rc 補正走行経路
S 仮想車線
SO 目標仮想車線




























図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C