(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】モータ冷却装置およびモータ冷却装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240611BHJP
H02K 9/24 20060101ALI20240611BHJP
H02P 29/62 20160101ALI20240611BHJP
【FI】
H02P29/024
H02K9/24 B
H02P29/62
(21)【出願番号】P 2021079585
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】上村 清
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/125995(US,A1)
【文献】特開2013-253674(JP,A)
【文献】国際公開第2020/032260(WO,A1)
【文献】特開2009-171702(JP,A)
【文献】特開2005-273633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02K 9/24
H02P 29/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを冷却油で冷却するモータ冷却装置であって、
前記冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプと、
前記冷却油路に設けられたフィルタと、
フィルタ詰まりを判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
正常時に、複数の測定点においてモータ電流と前記モータのコイル温度と前記モータの外気温またはオイル温度を測定し、前記モータ電流に基づいてモータ損失を算出し、前記コイル温度から前記外気温または前記オイル温度を減算した温度差を算出し、複数の測定点における前記モータ損失と前記温度差のデータテーブルを作成し、実運用時に、前記モータ電流と前記コイル温度と前記外気温または前記オイル温度を測定し、実運用時の前記モータ電流に基づいて実運用時の前記モータ損失を算出し、実運用時の前記モータ損失と前記データテーブルを用いて温度差推定値を導出し、実運用時の前記コイル温度から実運用時の前記外気温または前記オイル温度を減算した温度差測定値を算出し、前記温度差測定値と前記温度差推定値に基づいてフィルタ詰まりを判定し、
または、実運用時中に前記オイルポンプの流量を一時的に低下させ、低下操作前の前記コイル温度と低下操作前の前記外気温または低下操作前の前記オイル温度と、低下操作後の前記コイル温度と低下操作後の前記外気温または低下操作後の前記オイル温度を測定し、低下操作前の前記外気温または低下操作前の前記オイル温度から低下操作前の前記コイル温度を減算した第1温度差と、低下操作後の前記外気温または低下操作後の前記オイル温度から低下操作後の前記コイル温度を減算した第2温度差に基づいてフィルタ詰まりを判定することを特徴とするモータ冷却装置。
【請求項2】
前記モータはインバータで駆動し、
前記インバータは制御部と主回路部を備え、
前記判定部は、前記温度差測定値と前記温度差推定値に基づいてトルクリミット値または電流リミット値を設定し、または、前記第1温度差と前記第2温度差に基づいて、前記トルクリミット値または前記電流リミット値を設定し、
前記制御部は、トルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないようにリミット処理を行い、または電流指令値に対して前記電流リミット値を超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後のトルク指令値またはリミット処理後の電流指令値に基づいてゲート信号を生成し、
前記主回路部は、前記ゲート信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ制御することを特徴とする請求項1記載のモータ冷却装置。
【請求項3】
インバータで駆動するモータを冷却油で冷却するモータ冷却装置であって、
前記冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプと、
前記冷却油路に設けられたフィルタと、
フィルタ詰まりを判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
正常時に、複数の測定点においてポンプ回転速度とポンプ駆動電流を測定し、複数の測定点における前記ポンプ回転速度と前記ポンプ駆動電流のデータテーブルを作成し、実運用時に、前記ポンプ回転速度と前記ポンプ駆動電流を測定し、実運用時の前記ポンプ回転速度と前記データテーブルに基づいてポンプ駆動電流推定値を導出し、実運用時の前記ポンプ駆動電流の測定値と前記ポンプ駆動電流推定値に基づいてフィルタ詰まりを判定し、実運用時の前記ポンプ駆動電流の測定値と前記ポンプ駆動電流推定値に基づいてトルクリミット値または電流リミット値を設定し、
前記インバータは制御部と主回路部を備え、
前記制御部は、トルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないようにリミット処理を行い、または電流指令値に対して前記電流リミット値を超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後のトルク指令値またはリミット処理後の電流指令値に基づいてゲート信号を生成し、
前記主回路部は、前記ゲート信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ制御することを特徴とするモータ冷却装置。
【請求項4】
前記判定部は、フィルタ詰まりと判定した場合、前記オイルポンプを逆転させる逆転指令を出力することを特徴とする請求項1~3のうち何れかに記載のモータ冷却装置。
【請求項5】
冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプと、前記冷却油路に設けられたフィルタと、フィルタ詰まりを判定する判定部と、を備え、モータを前記冷却油で冷却するモータ冷却装置の制御方法であって、
前記判定部は、
正常時に、複数の測定点においてモータ電流と前記モータのコイル温度と前記モータの外気温またはオイル温度を測定し、前記モータ電流に基づいてモータ損失を算出し、前記コイル温度から前記外気温または前記オイル温度を減算した温度差を算出し、複数の測定点における前記モータ損失と前記温度差のデータテーブルを作成し、実運用時に、前記モータ電流と前記コイル温度と前記外気温または前記オイル温度を測定し、実運用時の前記モータ電流に基づいて実運用時の前記モータ損失を算出し、実運用時の前記モータ損失と前記データテーブルを用いて温度差推定値を導出し、実運用時の前記コイル温度から実運用時の前記外気温または前記オイル温度を減算した温度差測定値を算出し、前記温度差測定値と前記温度差推定値に基づいてフィルタ詰まりを判定し、
または、実運用時中に前記オイルポンプの流量を一時的に低下させ、低下操作前の前記コイル温度と低下操作前の前記外気温または低下操作前の前記オイル温度と、低下操作後の前記コイル温度と低下操作後の前記外気温または低下操作後の前記オイル温度を測定し、低下操作前の前記外気温または低下操作前の前記オイル温度から低下操作前の前記コイル温度を減算した第1温度差と、低下操作後の前記外気温または低下操作後の前記オイル温度から低下操作後の前記コイル温度を減算した第2温度差に基づいてフィルタ詰まりを判定することを特徴とするモータ冷却装置の制御方法。
【請求項6】
冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプと、前記冷却油路に設けられたフィルタと、フィルタ詰まりを判定する判定部と、を備え、インバータで駆動するモータを前記冷却油で冷却するモータ冷却装置の制御方法であって、
前記判定部は、
正常時に、複数の測定点においてポンプ回転速度とポンプ駆動電流を測定し、複数の測定点における前記ポンプ回転速度と前記ポンプ駆動電流のデータテーブルを作成し、実運用時に、前記ポンプ回転速度と前記ポンプ駆動電流を測定し、実運用時の前記ポンプ回転速度と前記データテーブルに基づいてポンプ駆動電流推定値を導出し、実運用時の前記ポンプ駆動電流の測定値と前記ポンプ駆動電流推定値に基づいてフィルタ詰まりを判定し、実運用時の前記ポンプ駆動電流の測定値と前記ポンプ駆動電流推定値に基づいて、トルクリミット値または電流リミット値を設定し、
前記インバータの制御部は、トルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないようにリミット処理を行い、または電流指令値に対して前記電流リミット値を超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後のトルク指令値またはリミット処理後の電流指令値に基づいてゲート信号を生成し、
前記インバータの主回路部は、前記ゲート信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ制御することを特徴とするモータ冷却装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油冷式のモータの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車載用などのモータの冷却方法として、モータ筐体内部のオイルパンに溜めた冷却油を電動式オイルポンプで循環させることで、ステータコイル等の部位を冷却する技術が知られている。
【0003】
図1に示すように、オイルパン1のオイル吸入口2には、フィルタ3が設けられている。オイルはオイルクーラ4と冷却水にて冷却している。
【0004】
また、モータ6のトルクや回転数の制御は、モータ6に接続したインバータを用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-253674号公報
【文献】国際公開WO2015/122019
【文献】特開2010-11546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車載用のモータ6の冷却に電動式のオイルポンプ10を用いるモータ冷却装置において、コンタミ等によりフィルタ詰まりが発生する事がある。この場合、冷却油の流速が低下するため、モータ温度が上昇し、モータ6の故障もしくは過熱保護等により車両の急停止などを招く恐れがある。
【0007】
なお、電動式のオイルポンプのフィルタ詰まりを検出する先行技術文献として、特許文献1が開示されている。しかし、特許文献1には、このオイルポンプがモータ冷却用であることと、フィルタ詰まり検出後の保護動作については開示されていない。
【0008】
以上示したようなことから、モータ冷却装置において、冷却油のフィルタ詰まりを特別なセンサなどを使用することなく検出することで、モータの故障もしくは過熱を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、モータを冷却油で冷却するモータ冷却装置であって、前記冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプと、前記冷却油路に設けられたフィルタと、フィルタ詰まりを判定する判定部と、を備え、前記判定部は、正常時に、複数の測定点においてモータ電流と前記モータのコイル温度と前記モータの外気温またはオイル温度を測定し、前記モータ電流に基づいてモータ損失を算出し、前記コイル温度から前記外気温または前記オイル温度を減算した温度差を算出し、複数の測定点における前記モータ損失と前記温度差のデータテーブルを作成し、実運用時に、前記モータ電流と前記コイル温度と前記外気温または前記オイル温度を測定し、実運用時の前記モータ電流に基づいて実運用時の前記モータ損失を算出し、実運用時の前記モータ損失と前記データテーブルを用いて温度差推定値を導出し、実運用時の前記コイル温度から実運用時の前記外気温または前記オイル温度を減算した温度差測定値を算出し、前記温度差測定値と前記温度差推定値に基づいてフィルタ詰まりを判定し、または、実運用時中に前記オイルポンプの流量を一時的に低下させ、低下操作前の前記コイル温度と低下操作前の前記外気温または低下操作前の前記オイル温度と、低下操作後の前記コイル温度と低下操作後の前記外気温または低下操作後の前記オイル温度を測定し、低下操作前の前記外気温または低下操作前の前記オイル温度から低下操作前の前記コイル温度を減算した第1温度差と、低下操作後の前記外気温または低下操作後の前記オイル温度から低下操作後の前記コイル温度を減算した第2温度差に基づいてフィルタ詰まりを判定することを特徴とする。
【0010】
また、その一態様として、前記モータはインバータで駆動し、前記インバータは制御部と主回路部を備え、前記判定部は、前記温度差測定値と前記温度差推定値に基づいてトルクリミット値または電流リミット値を設定し、または、前記第1温度差と前記第2温度差に基づいて、前記トルクリミット値または前記電流リミット値を設定し、前記制御部は、トルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないようにリミット処理を行い、または電流指令値に対して前記電流リミット値を超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後のトルク指令値またはリミット処理後の電流指令値に基づいてゲート信号を生成し、前記主回路部は、前記ゲート信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ制御することを特徴とする。
【0011】
また、他の態様として、インバータで駆動するモータを冷却油で冷却するモータ冷却装置であって、前記冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプと、前記冷却油路に設けられたフィルタと、フィルタ詰まりを判定する判定部と、を備え、前記判定部は、正常時に、複数の測定点においてポンプ回転速度とポンプ駆動電流を測定し、複数の測定点における前記ポンプ回転速度と前記ポンプ駆動電流のデータテーブルを作成し、実運用時に、前記ポンプ回転速度と前記ポンプ駆動電流を測定し、実運用時の前記ポンプ回転速度と前記データテーブルに基づいてポンプ駆動電流推定値を導出し、実運用時の前記ポンプ駆動電流の測定値と前記ポンプ駆動電流推定値に基づいてフィルタ詰まりを判定し、実運用時の前記ポンプ駆動電流の測定値と前記ポンプ駆動電流推定値に基づいてトルクリミット値または電流リミット値を設定し、前記インバータは制御部と主回路部を備え、前記制御部は、トルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないようにリミット処理を行い、または電流指令値に対して前記電流リミット値を超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後のトルク指令値またはリミット処理後の電流指令値に基づいてゲート信号を生成し、前記主回路部は、前記ゲート信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ制御することを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記判定部は、フィルタ詰まりと判定した場合、前記オイルポンプを逆転させる逆転指令を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータ冷却装置において、冷却油のフィルタ詰まりを特別なセンサなどを使用することなく検出することで、モータの故障もしくは過熱を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態におけるフィルタ詰まり時制御の制御構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態におけるフィルタ詰まり解消制御の制御構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明におけるモータ冷却装置の実施形態を
図1~
図3に基づいて詳述する。
【0016】
[実施形態]
図1に対象となるモータ冷却装置の一例を示す。モータ冷却装置は、インバータで駆動するモータを冷却油により冷却する。
図1に示すように、モータ筐体5には、ロータ7とステータコイル8を備えたモータ6が収納されている。また、モータ筐体5には、オイルパン1が設けられており、オイルパン1のオイル吸入口2にはフィルタ3が設けられている。冷却油はオイルクーラ4と冷却水にて冷却している。
【0017】
また、
図1にて、符号9はモータ6とオイルパン1の間の壁、符号10は冷却油を冷却油路に循環させる電動式のオイルポンプ、符号11は冷却油が循環する冷却油路を示している。
【0018】
冷却対象(ステータコイル8)に噴射するオイルポンプ流量をオイルポンプ回転速度にて制御している。オイルポンプ回転速度は、オイルポンプ10に接続された専用モータ(冷却対象のモータ6とは別のモータ)によって制御する。
【0019】
以下の(A)~(C)に、インバータの判定部におけるフィルタ詰まりの検出方法をそれぞれ示す。
【0020】
(A)モータ6の一定時間における損失移動平均を計算する。そのモータ損失からステータコイル8の温度(以下、コイル温度と称する)Tcとモータ6の外気温(またはオイル温度)Taの偏差である温度差を推定する。温度差推定値と温度差測定値を比較し、温度差推定値に対する温度差測定値に基づいてフィルタ詰まりを判定する。
【0021】
以下、温度差の推定方法とフィルタ詰まりの判定方法について説明する。
【0022】
(1)フィルタ詰まりがない正常な状態において、複数の測定点のモータ電流Iを測定し、モータ電流Iの測定値等に基づいてモータ損失を計算する。なお、モータ損失の計算方法は、特許文献2などの従来技術を用いる。
【0023】
(2)複数の測定点のモータ6のコイル温度Tcとモータ6の外気温(またはオイル温度)Taを温度センサによって実測する。コイル温度Tcから外気温(またはオイル温度)Taを減算し、温度差(=Tc-Ta)を算出する。複数の測定点におけるモータ損失と上記の温度差(=Tc-Ta)のデータテーブルを作成しておく。データテーブルは、インバータの判定部内のメモリに格納する。以上が、フィルタ詰まりがない正常状態での処理項目である。
【0024】
(3)装置の実運用時に、モータ電流Iとモータ6のコイル温度Tcとモータ6の外気温(またはオイル温度)Taをそれぞれ実測する。実運用時のモータ電流I等に基づいて実運用時のモータ損失を算出する。実運用時のコイル温度Tcから実運用時の外気温(またはオイル温度)Taを減算した温度差測定値を算出する。
【0025】
(4)インバータの制御部は、実運用時のモータ損失と上記のデータテーブルを用いて、温度差推定値(Tc-Ta)を導出する。「温度差測定値(Tc-Ta)」と「温度差推定値(Tc-Ta)」との比率(「温度差測定値」を「温度差推定値」で除算した値)が所定値以上上回っている場合に、フィルタ詰まりが発生していると判定する。
【0026】
(B)装置の実運用中の低負荷、低温時に、オイルポンプ10の流量を一時的に低下させる。低下操作前のコイル温度Tc1と低下操作前の外気温(またはオイル温度)Ta1と低下操作後のコイル温度Tc2と低下操作後の外気温(またはオイル温度)Ta2を測定する。低下操作前の外気温(またはオイル温度)Ta1から低下操作前のコイル温度Tc1を減算した第1温度差ΔT1(=Ta1-Tc1)を算出する。また、低下操作後の外気温(またはオイル温度)Ta2から低下操作後のコイル温度Tc2を減算した第2温度差ΔT2(=Ta2-Tc2)を算出する。
【0027】
低下操作前後の上記の温度差(Ta―Tc)を比較する。低下操作前の第1温度差ΔT1(=Ta1―Tc1)と低下操作後の第2温度差ΔT2(=Ta2―Tc2)との差(ΔT1-ΔT2)が所定値以下であれば、冷却油によるモータ冷却効果があまり得られていない、すなわち、フィルタ詰まりが発生していると判定する。
【0028】
(C)ポンプ回転速度から想定されるポンプ駆動電流(ポンプ専用モータの電流)と、ポンプ専用モータに流れる実電流を比較し、想定電流に対し実電流が一定割合以上大きい場合にフィルタ詰まりと推定する。
【0029】
以下、ポンプ駆動電流の推定方法とフィルタ詰まりの判定方法について説明する。
【0030】
(1)フィルタ詰まりがない正常な状態において、複数の測定点のポンプ回転速度Npとポンプ駆動電流Ip(ポンプ専用モータの電流)を実測する。複数の測定点におけるポンプ回転速度Npとポンプ駆動電流Ipのデータテーブルを作成しておく。
【0031】
(2)装置の実運用時に、ポンプ回転速度Npとポンプ駆動電流Ipの測定値をそれぞれ実測する。
【0032】
(3)実運用時のポンプ回転速度Npとデータテーブルに基づいてポンプ駆動電流推定値を導出する。「実運用時のポンプ駆動電流Ipの測定値」と「ポンプ駆動電流推定値」との比率(「実運用時のポンプ駆動電流Ipの測定値」を「ポンプ駆動電流推定値」で除算した値)が所定値以上上回っている場合に、ポンプが過負荷状態になっている、すなわち、フィルタ詰まりが発生していると判定する。
【0033】
(D)上記(A)~(C)の全てもしくはいずれかの条件が成立した場合、フィルタ詰まりと判定し、さらなるモータ6の温度上昇を回避するために、(E)フィルタ詰まり時制御、(F)フィルタ詰まり解消制御、のいずれかを行う。
【0034】
(E)フィルタ詰まり時制御
モータ6を制御するインバータ12において、詰まり程度に応じたトルク抑制制御を行う。
【0035】
図2に、本実施形態における(E)フィルタ詰まり時制御の制御構成を示す。
図2に示すように、インバータ12は、主回路部13と、制御部14と、判定部15と、を備える。
【0036】
インバータ12の判定部15は、モータ電流I、モータのコイル温度Tc、モータの外気温(またはオイル温度)Ta、ポンプ回転速度Np、ポンプ駆動電流Ipを入力し、(A)~(C)のいずれかの方法によって、フィルタ3の目詰まりを判定する。
【0037】
目詰まり有と判定した場合、(A)では「温度差測定値(Tc-Ta)」と「温度差推定値(Tc-Ta)」との比率(「温度差測定値」を「温度差推定値」で除算した値)に応じてトルクリミット値Tlmtを設定する。(B)では(第1温度差ΔT1-第2温度差ΔT2)の大きさに応じてトルクリミット値Tlmtを設定する。(C)では「実運用時のポンプ駆動電流の測定値」と「ポンプ駆動電流推定値」との比率(「実運用時のポンプ駆動電流の測定値」を「ポンプ駆動電流推定値」で除算した値)に応じてトルクリミット値Tlmtを設定する。
【0038】
制御部14では、上位系から受信したトルク指令値Trefに対してトルクリミット値Tlmtを超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後のトルク指令値に基づいて主回路部13内のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を生成する。なお、この制御部14では、特許文献3などの従来技術を用いればよい。
【0039】
主回路部13では、ゲート信号に基づいて各スイッチング素子をオンオフ制御することで、所望のモータ電流Iを通流する。この動作により、モータ6のトルクと電流を抑制できるため、ステータコイル8の温度上昇を抑制できる。
【0040】
図2は、判定部15がトルクリミット値Tlmtを設定し制御部14へ出力する構成である。トルクリミット値Tlmtの代わりに、制御部14で演算する電流指令値の電流リミット値Ilmtを設定してフィルタ詰まり時に電流指令値に対して電流リミット値Ilmtを超えないようにリミット処理を行い、リミット処理後の電流指令値に基づいてゲート信号を生成する構成としてもよい。
【0041】
(F)フィルタ詰まり解消制御
オイルポンプ10を一定時間逆転させ、フィルタ3に詰まったコンタミをオイルパン1に戻す事で、フィルタ3を自己洗浄する。
【0042】
図3に、本実施形態におけるフィルタ詰まり解消制御の制御構成を示す。インバータ12の判定部15は、モータ電流I、モータ6のコイル温度Tc、モータの外気温(またはオイル温度)Ta、ポンプ回転速度Np、ポンプ駆動電流Ipを検出し、(A)~(C)のいずれかの方法によって、フィルタ3の目詰まりを判定する。目詰まり有と判定した場合、一定時間オイルポンプ10へ、逆転指令を送信する。この判定部15は、インバータ12の外部に設けてもよい。また、
図3のインバータ12をインバータ以外のモータ駆動手段に置き換えてもよい。
【0043】
なお、本発明は、冷却油路11のいずれかの箇所にフィルタ3が設置されている構成であればオイルパン1のオイル吸入口2以外にフィルタ3を設置してもよい。
【0044】
以上示したように、本実施形態によれば、オイルパン1のフィルタ詰まりを検知して、その後のモータ温度上昇を抑制する制御を行う。よって、フィルタ詰まりにより冷却不全となり、モータ6の故障もしくは過熱保護等により車両の急停止することなどを招く恐れを解消できる。
【0045】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0046】
1…オイルポンプ
2…オイル吸入口
3…フィルタ
4…オイルクーラ
5…モータ筐体
6…モータ
7…ロータ
8…ステータコイル
9…壁
10…オイルポンプ
11…油路
12…インバータ
13…主回路部
14…制御部
15…判定部