(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】炭素繊維をリサイクルする方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/00 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
B29B17/00
(21)【出願番号】P 2021086682
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】石井 博行
(72)【発明者】
【氏名】加納 彰
(72)【発明者】
【氏名】平山 慎一郎
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-529177(JP,A)
【文献】特開2020-050704(JP,A)
【文献】特開2020-037638(JP,A)
【文献】特開2015-000897(JP,A)
【文献】特開2022-015366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0273423(US,A1)
【文献】特開2011-074204(JP,A)
【文献】西田裕文,熱可塑性エポキシ樹脂およびそれを用いた連続繊維強化プラスチックの開発,日本接着学会誌,Vol.51 No.12,日本,2015年,p516-523,https://www.jstage.jst.go.jp/article/adhesion/51/12/51_12-2/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/00-17/04
C08J 11/00-11/28
B09B 3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維をリサイクルする方法であって、
リサイクルする方法は、
炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程、
炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理を施しながら、炭素繊維強化樹脂を引き出す工程、
引き出され搬送されている炭素繊維強化樹脂中の樹脂を除去する工程、及び
樹脂が除去されて搬送された炭素繊維を巻き取る工程と、
を少なくとも含み、上流で炭素繊維強化樹脂を引き出しながら、下流で炭素繊維を巻き取る方法であり、
加熱処理の温度が、樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ炭素繊維の熱劣化温度未満であ
り、
樹脂の熱分解開始温度が、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度であり、
樹脂を除去する工程が、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を溶解する溶解液を炭素繊維強化樹脂に接触させることを含み、
樹脂を除去する工程において、引き出された炭素繊維強化樹脂を溶解液に浸漬させた後、続いて、炭素繊維強化樹脂に対して噴射装置に接続されたノズルから溶解液を噴射することにより、樹脂を炭素繊維から除去し、
リサイクルする方法は、樹脂を除去する工程後、炭素繊維を巻き取る工程前に、樹脂を除去して得られた炭素繊維にサイジング剤を付着させる工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
加熱処理の温度が、400℃未満である、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
加熱処理の温度が、360℃以下である、請求項1
に記載の方法。
【請求項4】
溶解液が、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体を含む、請求項
1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
溶解液が、酸性溶液である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
加熱処理が、過熱水蒸気を用いて行われる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
樹脂が、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
樹脂が、エポキシ樹脂である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維をリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、軽量かつ高剛性であり、高圧水素に耐え得る材料である。そのため、燃料電池(FC)車の水素タンク等の炭素繊維強化樹脂成形品に用いられている。また、炭素繊維強化樹脂成形品は、タンク以外にも、スポーツ・レジャー用品や航空宇宙用構成部品等の幅広い分野にわたって使用されている。しかしながら、炭素繊維強化樹脂に含まれる炭素繊維は、高価であり、また、製造時CO2発生量が多く且つ廃棄処理が困難であるため環境負荷が高い。そこで、使用済みの炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を回収し、リサイクルする方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、複数の炭素繊維基材及びマトリックス樹脂を含む炭素繊維強化樹脂から前記炭素繊維基材を再生炭素繊維束として得る方法であり、前記炭素繊維強化樹脂を加熱することによって前記マトリックス樹脂を熱分解して加熱処理物を得て、前記加熱処理物を解砕することによって前記複数の炭素繊維基材を分離する、再生炭素繊維束の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるように、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を回収する方法が検討されている。しかしながら、特許文献1では、マトリックス樹脂を破砕する工程が提案されており、連続した炭素繊維を得ることができない。そのため、連続した炭素繊維を必要とする成形品に再利用可能な炭素繊維を得ることができない。
【0006】
また、特許文献1では、高温で炭素繊維強化樹脂を加熱することによりマトリックス樹脂を熱分解させている。しかし、高温での加熱により炭素繊維が劣化し、強度が低下してしまう場合がある。また、炭素繊維強化樹脂を高温で加熱すると、樹脂の溶解性等の特性が変化し、後工程で樹脂を除去し難くなる場合がある。
【0007】
また、特許文献1では、マトリックス樹脂を除去して炭素繊維を得ることが提案されているが、マトリックス樹脂の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を取り出すことができれば、マトリックス樹脂を除去せずに炭素繊維強化樹脂を再利用することも可能と考えられる。
【0008】
そこで、本実施形態は、上述の課題のいずれかに鑑みて成されたものである。例えば、本実施形態の目的の一つは、連続した炭素繊維を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することである。また、例えば、本実施形態の目的の一つは、炭素繊維の劣化を抑制して連続した炭素繊維を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することである。また、例えば、本実施形態の目的の一つは、炭素繊維の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することである。また、例えば、本実施形態の目的の一つは、樹脂の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することである。また、例えば、本実施形態の目的の一つは、炭素繊維及び樹脂の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の一態様は、以下の通りである。
【0010】
(1) 炭素繊維をリサイクルする方法であって、
炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程、及び
炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理を施しながら、炭素繊維強化樹脂を引き出す工程
を含み、
加熱処理の温度が、樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ炭素繊維の熱劣化温度未満である、方法。
(2) 樹脂の熱分解開始温度が、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度である、(1)に記載の方法。
(3) 樹脂の熱分解開始温度が、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度である、(1)に記載の方法。
(4) 加熱処理の温度が、400℃未満である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5) 加熱処理の温度が、360℃以下である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6) 引き出された炭素繊維強化樹脂中の樹脂を除去する工程をさらに含む、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7) 樹脂を除去する工程が、溶解液を炭素繊維強化樹脂に接触させることを含む、(6)に記載の方法。
(8) 溶解液が、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体を含む、(7)に記載の方法。
(9) 溶解液が、酸性溶液である、(7)又は(8)に記載の方法。
(10) 樹脂が除去された炭素繊維を巻き取る工程をさらに含む、(6)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11) 加熱処理を施しながら炭素繊維強化樹脂を引き出す工程と、引き出されて搬送された炭素繊維強化樹脂中の樹脂を除去する工程と、樹脂が除去されて搬送された炭素繊維を巻き取る工程とを含み、上流で炭素繊維強化樹脂を引き出しながら、下流で炭素繊維を巻き取る、(10)に記載の方法。
(12) 引き出された炭素繊維強化樹脂を切断する工程をさらに含む、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(13) 加熱処理が、過熱水蒸気を用いて行われる、(1)~(12)のいずれか1つに記載の方法。
(14) 樹脂が、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である、(1)~(13)のいずれか1つに記載の方法。
(15) 樹脂が、エポキシ樹脂である、(1)~(14)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態の一態様によれば、例えば、連続した炭素繊維を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。また、本実施形態の一態様によれば、例えば、炭素繊維の劣化を抑制して連続した炭素繊維を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。また、本実施形態の一態様によれば、例えば、炭素繊維の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。また、本実施形態の一態様によれば、例えば、樹脂の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。また、本実施形態の一態様によれば、例えば、炭素繊維及び樹脂の劣化を抑制して炭素繊維強化樹脂を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る方法を説明するためのフローチャートの例である。
【
図2】炭素繊維強化樹脂成形品としてのタンク100の構成例を示す模式的断面図である。
【
図3】本実施形態における加熱下での引き出し工程を説明するための模式図である。
【
図4A】エポキシ樹脂の熱特性の一例を示すグラフであり、窒素雰囲気下で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャート(TG曲線)を示すグラフ(横軸:温度、縦軸:重量減少率)である。
【
図4B】エポキシ樹脂の熱特性の一例を示すグラフであり、大気雰囲気下で樹脂を昇温することにより得られた熱重量分析の重量変化チャート(TG曲線)を示すグラフ(横軸:温度、縦軸:重量減少率)である。
【
図5】炭素繊維の熱特性を示すグラフであり、所定の温度(300℃、400℃、500℃)で所定の時間(横軸)、大気中で炭素繊維を加熱した際の強度比(加熱後の引張強度/加熱前の引張強度)を示すグラフである。
【
図6】エポキシ樹脂の所定の温度における引張せん断強度比(加熱時の引張せん断強度/加熱前の引張せん断強度)を示すグラフである。
【
図7】
図6に示す引張せん断強度比を測定するための引張せん断試験に用いたテストピースの構成を説明するための模式図である。
【
図8】炭素繊維強化樹脂を濃硫酸に浸漬させて樹脂を溶解除去した後の炭素繊維をSEMにより観察した写真である。
【
図9】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【
図10】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【
図11】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態は、炭素繊維をリサイクルする方法であって、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程、及び炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理を施しながら、炭素繊維強化樹脂を引き出す工程を含み、加熱処理の温度が、樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ炭素繊維の熱劣化温度未満である、方法である。
【0014】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態は、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維をリサイクルする方法である。
【0016】
炭素繊維強化樹脂成形品は、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する。炭素繊維は、連続炭素繊維である。炭素繊維強化樹脂成形品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タンク等が挙げられる。タンクとしては、例えば、水素を貯蔵するための水素タンクが挙げられる。以下の例では、炭素繊維強化樹脂成形品として主にタンクを例に挙げて説明するが、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお、本実施形態は、炭素繊維をリサイクルする方法に関するものであるが、本開示において、炭素繊維をリサイクルする方法は、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維及び/又は炭素繊維強化樹脂を製造する方法を意味するものとして理解される。
【0017】
図1に、本実施形態に係る方法を説明するためのフローチャートの例を示す。
図1に示すように、本実施形態は、成形品用意工程及び加熱下での引き出し工程を少なくとも含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0018】
(成形品用意工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程を含む。
【0019】
上述の通り、炭素繊維強化樹脂成形品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タンク等が挙げられる。用意される炭素繊維強化樹脂成形品としては、例えば、製造後に各用途に使用され、その後回収されたものや、製造段階での不良品等が挙げられる。
【0020】
図2は、タンク100の構成例を示す断面図である。
図2は、タンク100の中心軸に平行でかつ中心軸を通る面で切断された断面図を示している。タンク100の中心軸は、略円筒状を有するタンク本体の円の中心を通る軸と一致する。タンク100は、例えば、圧縮水素等の気体を充填するために用いることができる。例えば、タンク100は、圧縮水素が充填された状態で、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車に搭載される。
【0021】
タンク100は、ライナー10(ナイロン樹脂製)と、外殻としての炭素繊維強化樹脂層20と、バルブ側口金30と、エンド側口金40と、バルブ50と、を備える。また、ライナー10と炭素繊維強化樹脂層20の間には、保護層60が配置されている。ライナー10は、内部に水素が充填される空間を備える中空形状とされ、水素が外部に漏れないように内部空間を密閉するガスバリア性を有する。
【0022】
炭素繊維強化樹脂層20は、ライナー10及び保護層60の外側を覆うように形成された樹脂層である。炭素繊維強化樹脂層20は、保護層60の外側表面を覆うように形成されている。保護層60は、炭素繊維強化樹脂層20の内側表面を覆うように形成されており、また、口金30、40の一部を覆うように形成されている。炭素繊維強化樹脂層20は、主にライナー10を補強する機能を有する(補強層)。ライナー10は、保護層60の内側表面を覆うように形成されている。
【0023】
図2において、バルブ側口金30は、略円筒状を成し、ライナー10と保護層60との間に嵌入されて、固定されている。バルブ側口金30の略円柱状の開口が、タンク100の開口として機能する。本実施形態において、バルブ側口金30は、例えば、ステンレスから形成できるが、アルミニウム等の他の金属から成るものであってもよいし、樹脂製であってもよい。バルブ50は、円柱状の部分に、雄ねじが形成されており、バルブ側口金30の内側面に形成されている雌ねじに螺合されることにより、バルブ50によって、バルブ側口金30の開口が閉じられる。エンド側口金40は、例えばアルミニウムから成り得、一部分が外部に露出した状態で組み立てられ、タンク内部の熱を、外部に導く働きをする。
【0024】
炭素繊維強化樹脂層は、炭素繊維及び樹脂(マトリックス樹脂)を含む。
【0025】
樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、当該技術分野において従来知られているものを使用することができる。エポキシ樹脂としては、制限されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、直鎖型であっても分岐型であってもよい。樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0026】
炭素繊維は、当該技術分野において従来知られている方法により調製することができる。炭素繊維としては、炭素を主成分とする材料であればよく、例えば、アクリルを原料とする炭素繊維、ピッチを原料とする炭素繊維、又はポリビニルアルコールを原料とする炭素繊維等が挙げられる。中でも、ポリアクリロニトリル繊維を原料として製造されるPAN系炭素繊維が好ましい。
【0027】
炭素繊維強化樹脂層は、例えば、フィラメントワインディング法により形成することができる。フィラメントワインディング成形品は、炭素繊維束を必要に応じて複数本引き揃え、マトリックス樹脂を含浸させて、回転する基体や金型に適宜の厚さまでテンションを掛けながら適宜の角度で巻き付けることにより製造することができる。
【0028】
(加熱下での引き出し工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理を施しながら、炭素繊維強化樹脂を引き出す工程を含む。また、加熱処理の温度は、樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ炭素繊維の熱劣化温度未満である。
【0029】
本実施形態における加熱処理により、樹脂の熱分解及び炭素繊維の強度低下を抑制しつつ、炭素繊維強化樹脂成形品中の樹脂を軟化させることができる。本実施形態では、樹脂のガラス転移温度以上で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱するため、炭素繊維強化樹脂成形品中の樹脂は軟化する。本実施形態は、炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理を施して樹脂が軟化した状態で炭素繊維強化樹脂を引き出すため、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維強化樹脂を容易に引き出すことができる。具体的には、より小さな張力で炭素繊維強化樹脂を炭素繊維強化樹脂成形品から引き出すことができる。小さい張力による引き出しにより、炭素繊維の切れや損傷等を抑制することができる。一方、本実施形態では、熱分解開始温度未満の温度で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱するため、樹脂の熱分解を抑制することができる。樹脂の熱分解を抑制することにより、樹脂の過度な変形や炭化を抑制することができ、その結果、後工程で溶解処理が行われる場合でも、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を容易に溶解させることができる。また、樹脂の熱分解を抑制することにより、樹脂の強度低下を抑制することができるため、引き出した炭素繊維強化樹脂を、樹脂の除去工程を経ることなく、そのまま又は所望の加工(切断等)を施して他の用途に用いることも可能である。さらに、本実施形態では、炭素繊維の熱劣化温度未満で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱するため、炭素繊維の熱劣化を抑制することができ、炭素繊維の強度低下を抑制することができる。
【0030】
上述の通り、本実施形態に係るリサイクル方法では、炭素繊維強化樹脂成形品が加熱処理されながら、炭素繊維強化樹脂が引き出される。
【0031】
本実施形態において、「炭素繊維強化樹脂を引き出す」とは、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維強化樹脂を連続した状態で引き出すことを意味し、炭素繊維強化樹脂を炭素繊維強化樹脂成形品から引き剥がす概念も含む。本実施形態では、加熱により炭素繊維強化樹脂成形品中の樹脂が軟化している状態で炭素繊維強化樹脂を引き出すため、炭素繊維強化樹脂を容易に引き出すことができる。炭素繊維強化樹脂を炭素繊維強化樹脂成形品から引き出す際に、刃状の治具を用いて引き剥がしてもよい。成形品と炭素繊維強化樹脂との間の接着部(樹脂部分)を切断するように刃状の治具を炭素繊維強化樹脂と成形品の間の部分(樹脂部分)に当接させることにより、炭素繊維強化樹脂を引き剥がし易くすることができる。
【0032】
炭素繊維強化樹脂を引き出す方法は、特に制限されるものではなく、例えば、巻き取りローラーに炭素繊維強化樹脂の端部を直接的に又は間接的に繋ぎ、該ローラーを回転させることにより引き出すことができる。
【0033】
加熱処理は、例えば、熱処理チャンバー内で行うことができる。炭素繊維強化樹脂成形品を熱処理チャンバー内で加熱して、炭素繊維強化樹脂成形品のマトリックス樹脂を軟化させる。熱処理チャンバーは、加熱炉であってもよく、また、加熱媒体を内部に導入及び/又は排出可能に構成された空間を有する加熱装置であってもよい。
【0034】
炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理を施しながら炭素繊維強化樹脂を引き出す方法としては、例えば、
図3に示すように、炭素繊維強化樹脂成形品を熱処理チャンバー内に配置し、加熱処理を行いながら炭素繊維強化樹脂の一部を熱処理チャンバーから引き出す方法が挙げられる。炭素繊維強化樹脂は、例えば、熱処理チャンバーの一部に設けた搬出口から外部に搬送することができる。炭素繊維強化樹脂の搬送は、例えば、搬送ローラーにより連続して行うことができる。
【0035】
本実施形態において、加熱処理の温度は、樹脂のガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満であり、かつ炭素繊維の熱劣化温度未満である。
【0036】
本実施形態において、樹脂のガラス転移温度以上で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱することにより、樹脂が軟化した状態となり、炭素繊維強化樹脂をより小さな張力で引き出すことができる。また、小さな張力で引き出すことができるため、炭素繊維の切れや損傷も抑制することができる。樹脂の熱分解開始温度未満で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱することにより、樹脂の熱分解を抑制することができる。樹脂の熱分解を抑制することにより、樹脂の過度な変形や炭化を抑制することができ、その結果、後工程で溶解処理が行われる場合でも、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を溶解液により容易に溶解することができる。また、樹脂の熱分解を抑制することにより、樹脂の強度低下を抑制することができるため、樹脂の除去工程を経ることなく、引き出した炭素繊維強化樹脂を、そのまま又は場合により所望の加工(例えば切断等)を施して、他の用途に用いることも可能である。
【0037】
熱分解開始温度は、熱重量測定装置を用いて測定することができる。
【0038】
本実施形態において、熱分解開始温度は、好ましくは、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて3%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて1%の重量減少を示す温度である。一般に、窒素雰囲気下での上記熱分解開始温度は、樹脂の主鎖及び/又は側鎖の分解が開始する温度と考えられる。
【0039】
本実施形態において、熱分解開始温度は、好ましくは、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて5%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて3%の重量減少を示す温度である。好ましくは、熱分解開始温度は、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートにおいて1%の重量減少を示す温度である。一般に、大気中における加熱では、大気中に含まれる酸素により酸化分解が進むため、重量減少率を同じと仮定した場合、大気雰囲気中で測定される熱分解開始温度は、窒素雰囲気中で測定される熱分解開始温度よりも低くなる。
【0040】
本実施形態において、炭素繊維の熱劣化温度未満で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱することにより、炭素繊維の強度低下を抑制することができる。炭素繊維の熱劣化温度は、炭素繊維を大気中で加熱処理した場合に、引張強度の低下が1%以上生じるときの最低温度と定義し得る。炭素繊維強化樹脂に使用される炭素繊維について加熱処理の前後で引張強度を測定することで、強度の低下を算出することができる。
【0041】
一実施形態において、加熱処理の温度は、好ましくは100℃以上であり、好ましくは120℃以上であり、好ましくは140℃以上であり、好ましくは160℃以上であり、好ましくは180℃以上であり、好ましくは200℃以上である。また、加熱処理の温度は、好ましくは400℃未満であり、好ましくは390℃以下であり、好ましくは380℃以下であり、好ましくは370℃以下であり、好ましくは360℃以下であり、好ましくは350℃以下であり、好ましくは340℃以下であり、好ましくは330℃以下であり、好ましくは320℃以下であり、好ましくは310℃以下であり、好ましくは300℃以下であり、好ましくは290℃以下であり、好ましくは280℃以下である。加熱処理の温度が100℃以上である場合、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を効果的に軟化させることができる。加熱処理の温度が400℃未満である場合、炭素繊維強化樹脂中の樹脂の熱分解を抑制し易くでき、また、炭素繊維の劣化も抑制し易くできる。これらの数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0042】
一例として、エポキシ樹脂のガラス転移温度は100℃から200℃程度であり、エポキシ樹脂の熱分解開始温度は240℃から360℃程度である。熱分解開始温度以上で加熱すると、樹脂の熱分解が過度に起こり、樹脂の強度が大きく低下する。また、樹脂の過度な変形や炭化が起こり、樹脂が溶解液で溶解除去し難くなる。
図4Aは、一例としてのエポキシ樹脂について、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートを示す。
図4Aにおいて、5%の重量減少を示す温度は約350℃であり、この温度を熱分解開始温度と規定することができる。また、
図4Bは、一例としてのエポキシ樹脂について、大気雰囲気下で30℃から550℃まで5℃/分で樹脂を昇温して得られた熱重量分析の重量変化チャートを示す。
図4A及び
図4Bにおいて、変曲点も示されている。
図4Bにおいて、5%の重量減少を示す温度は340℃であり、本実施形態では、この温度を熱分解開始温度と規定することもできる。上述の通り、大気中における加熱では、大気中に含まれる酸素により酸化分解が進むため、重量減少率を同じにした場合、大気雰囲気中で測定される熱分解開始温度は、窒素雰囲気中で測定される熱分解開始温度よりも低くなる。熱分解開始温度以上では、樹脂の熱分解が過度に生じ、樹脂の主鎖及び/又は側鎖の分解が過度に生じ、場合によっては樹脂の炭化が生じる。このような熱分解が起こると、樹脂を溶解液で溶解除去し難くなる。また、樹脂の強度が低下するため、炭素繊維強化樹脂そのものを再利用できなくなる。一方、本実施形態において規定するガラス転移温度以上かつ熱分解開始温度未満の範囲では、熱分解を抑制しつつ樹脂を軟化させることができるため、その状態で炭素繊維強化樹脂を引き出すことで、良質の連続炭素繊維強化樹脂を容易に得ることができる。熱重量分析は、物質の温度を所定のプログラムで変化させた場合の重量変化を測定する方法である。本実施形態においては、熱重量分析は、例えば、アルミ製、アルミナ製又は白金製の容器内に約10mgの試験片を配置し、一定の加熱速度(5℃/分)で昇温させた場合の重量変化を測定することにより行うことができる。
【0043】
本実施形態において、樹脂の熱分解をより効果的に抑制するという観点から、加熱処理の温度は、熱分解開始温度よりも1℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも5℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも10℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも15℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも20℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも25℃以上低い温度であることが好ましく、熱分解開始温度よりも30℃以上低い温度であることが好ましい。
【0044】
図5は、炭素繊維の熱特性を示すグラフであり、所定の温度(300℃、400℃、500℃)で所定の時間(横軸)、大気中で炭素繊維を加熱した際の強度比(加熱後の引張強度/加熱前の引張強度)を示している。
図5で示されるように、炭素繊維は400℃で加熱しても強度が低下しないことがわかる。一方で、炭素繊維を従来の一般的な加熱処理の温度である500℃で加熱すると、強度が低下することがわかる。これは、熱と酸素により炭素繊維の酸化劣化が生じたためと考えられる。一般的に、樹脂の熱分解開始温度は炭素繊維の熱劣化温度よりも低い場合が多いと考えられる。
【0045】
図6は、樹脂(エポキシ樹脂、
図4参照)の所定の温度における引張せん断強度比を示すグラフである。具体的には、
図6は、所定の温度(23℃、100℃、150℃、250℃、横軸)における引張せん断強度比(加熱時の引張せん断強度/加熱前の引張せん断強度(23℃における強度)、縦軸、●印)を示す。なお、250℃から350℃までの点線は、仮想曲線を示す。なお、引張せん断強度は、
図7に示すように二枚の板を樹脂で接着し、被着体同士を反対方向にずれさせようとする荷重であるせん断応力によって接着接合部が破断したときの強さである。
図6に示されるように、樹脂の加熱温度を高くするにつれて、引張せん断強度が低下することがわかる。引張せん断強度が低下した状態にある場合、炭素繊維強化樹脂を容易に引き出すことができる。例えば、加熱温度が150℃である場合、引張せん断強度比が0.2以下であり、加熱前の引張せん断強度に比べて加熱時の引張せん断強度は20%以下となっており、より小さい力で炭素繊維強化樹脂を引き出すことができることがわかる。本実施形態において、加熱処理の温度は、引張せん断強度比が20%以下となる温度であることが好ましく、引張せん断強度比が15%以下となる温度であることが好ましく、引張せん断強度比が10%以下となる温度であることが好ましく、引張せん断強度比が5%以下となる温度であることが好ましい。
【0046】
本実施形態では、炭素繊維強化樹脂成形品の破砕や粉砕は通常行わない。炭素繊維強化樹脂成形品として、タンクの筒状部分のみを用いてもよい。炭素繊維強化樹脂成形品中の金属部品等は、加熱工程前に取り外してもよいし、加熱工程後に取り外してもよい。
【0047】
加熱方法は、特に制限されるものではない。加熱方法として、例えば、大気中での加熱を挙げることができる。大気中での加熱処理は、簡便に行うことができ、また、コストの面でも有利である。特に、本実施形態は、大気等の酸素が存在する状況下でも、炭素繊維の劣化を抑制することができるため、有効である。また、加熱処理は、過熱水蒸気を用いて行うことができる。過熱水蒸気を用いることにより、処理雰囲気中の酸素を含む空気の比率を下げることができるため、炭素繊維の分解・損傷を効果的に抑制することができる。例えば、加熱処理は、常圧反応容器に常圧過熱水蒸気を導入して行うことができる。また、加熱処理は、特に制限されるものではないが、窒素等の不活性雰囲気下で行ってもよい。熱処理チャンバー内に加熱した過熱水蒸気及び/又は不活性気体(窒素等)を供給しながら加熱処理を行ってもよい。
【0048】
本実施形態に係る炭素繊維のリサイクル方法において、加熱下での引き出し工程で引き出された炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維及びマトリックス樹脂により束状の形態が保たれている。上述の通り、本実施形態では、この炭素繊維強化樹脂は、樹脂及び炭素繊維の強度の低下が抑制されているため、そのまま再利用することができる。また、場合に応じて、得られた炭素繊維強化樹脂に所望の加工処理を施して再利用してもよい。加工処理としては、例えば、所望の寸法に切断する処理が挙げられる。例えば、切断した炭素繊維強化樹脂をバインダー樹脂等と適宜混合して固化させることにより、シート状製品を製造することができる。
【0049】
(除去工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を除去して炭素繊維を得る工程を含んでもよい。炭素繊維強化樹脂中の樹脂の除去方法は、特に制限されるものではないが、好ましくは、溶解液による溶解除去が挙げられる。溶解液による溶解除去によれば、炭素繊維の劣化を抑制することができる。
【0050】
以下、樹脂を除去する工程の一例としての溶解液による溶解除去工程について説明する。
【0051】
溶解除去工程は、引き出した炭素繊維強化樹脂中の樹脂を溶解液により溶解させて除去する工程である。
【0052】
一実施形態において、引き出した炭素繊維強化樹脂中の樹脂は、溶解除去工程により除去される。炭素繊維強化樹脂を溶解液に接触させることにより樹脂を溶解除去することができる。溶解除去によれば、熱によるストレスを避けることができ、炭素繊維の劣化を抑制することができる。具体的には、溶解液による除去は、熱分解による除去よりも炭素繊維の劣化が少ない。また、本実施形態では、前工程である加熱下での引き出し工程において樹脂の過度な変形や炭化が抑制されているため、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を効率的に溶解させることができる。
【0053】
樹脂の溶解は、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を溶解可能な溶解液を用いて行う。溶解液としては、樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体を含む。これらの液体は、樹脂を溶解させたり、樹脂を膨潤させたりすることが可能であり、効率的に樹脂を除去することができる。溶解液は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
酸性溶液としては、例えば、リン酸や硫酸等が挙げられる。酸性溶液としては、特開2020-37638号公報に記載されるような、硫酸を含む溶液(例えば、90質量%以上の濃度)、特開2020-50704号公報に記載されるような、リン酸を含む溶液等が挙げられる。酸性成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、又はエステル系溶媒等が挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、又はオクタン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等が挙げられる。2種以上の成分を含む有機溶媒としては、例えば、石油ベンジン又はリグロイン等が挙げられる。有機溶媒には、分解触媒が含まれていてもよい。分解触媒としては。例えば、特開2020-45407号公報に記載されるような、アルカリ金属化合物が挙げられる。
【0056】
イオン液体としては、例えば、カチオンとして、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、ピロリジニウム系、第4級アンモニウム系、及び第4級ホスホニウム系から選択される少なくとも1種のカチオンを含む、イオン液体が挙げられる。イオン液体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
図8は、炭素繊維強化樹脂を濃硫酸に浸漬させることにより樹脂を溶解除去して得られた炭素繊維をSEMにより観察した写真である。濃硫酸の温度は、例えば、100~300℃であり得る。
図8に示されるように、溶解液により炭素繊維強化樹脂から樹脂を効率的に除去できることがわかる。また、溶解液により樹脂を除去した後の炭素繊維に実質的な強度の低下は認められなかった。
【0058】
樹脂の溶解除去は、溶解液を炭素繊維強化樹脂に接触させることにより行われる。溶解液を炭素繊維強化樹脂に接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ディッピング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、又はグラビアコーティング法等が挙げられる。これらの中でも、ディッピング法が好ましい。具体的には、溶解液は、浴内に配置された溶解液に浸漬するように炭素繊維強化樹脂をローラーで搬送することにより炭素繊維に接触させることができる。一実施形態において、引き出された炭素繊維強化樹脂を搬送ローラー等により搬送させながら、炭素繊維強化樹脂を溶解液中に浸漬させることができる。
【0059】
溶解除去工程における樹脂の溶解度合いは、溶解液の種類、処理温度又は処理時間等で調整することができる。処理時間は、例えば、炭素繊維強化樹脂の搬送速度で調整することができる。処理時間は、特に制限されるものではなく、溶解液や樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0060】
溶解液の温度(液温)は、溶解除去の程度を考慮して適宜設定することができる。溶解液の温度(液温)は、例えば、20℃以上であり、40℃以上であり、60℃以上であり、80℃以上であり、また、例えば、300℃以下であり、250℃以下であり、200℃以下であり、150℃以下であり、100℃以下である。
【0061】
樹脂の溶解除去は、溶解液を炭素繊維強化樹脂に噴射することにより行ってもよい。すなわち、溶解液に噴射圧力をかけて炭素繊維強化樹脂と接触させることにより、その噴射圧力を利用して炭素繊維強化樹脂中の樹脂を除去することができる。溶解液を噴射するために用いる噴射装置としては、特に制限はなく、例えば、高圧洗浄装置等を用いることができる。
【0062】
溶解液を噴射する際のノズル圧力は、好ましくは1MPa以上であり、好ましくは5MPa以上であり、好ましくは8MPa以上であり、好ましくは10MPa以上である。前記圧力であれば、炭素繊維強化樹脂から樹脂を効率的に除去できる。また、ノズル圧力は、好ましくは30MPa以下であり、好ましくは25MPa以下であり、好ましくは22MPa以下であり、好ましくは20MPa以下である。前記圧力であれば、炭素繊維を溶解液で損傷させることを効果的に抑制できる。溶解液を噴射する際のノズルと噴射対象としての炭素繊維強化樹脂との距離は、好ましくは10~200cmであり、好ましくは30~100cmである。
【0063】
樹脂の溶解除去は、溶解液への浸漬及び溶解液の噴射を組み合わせて行ってもよい。
【0064】
(サイジング剤付与工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、樹脂を除去して得られた炭素繊維にサイジング剤を付着させる工程を含んでもよい。
【0065】
除去工程後の炭素繊維は、樹脂が実質的に全て除去されており、炭素繊維の束が解れて単繊維の形態になっている。この炭素繊維にサイジング剤を付与することにより、炭素繊維束をボビンとして容易に巻き取ることができ、また、炭素繊維の毛羽立ち・単繊維の絡まりの発生を抑制することができる。
【0066】
サイジング剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレンやポリプロピレン)、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、又はポリオレフィン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。サイジング剤としてエポキシ樹脂を用いることで、炭素繊維とエポキシ樹脂の接着性を向上することができる。サイジング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
炭素繊維へのサイジング剤の付与は、サイジング剤を炭素繊維に接触させることにより行われる。サイジング剤の付与方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ディッピング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、又はグラビアコーティング法等が挙げられる。これらの中でも、ディッピング法が好ましい。具体的には、サイジング剤は、サイジング浴内に配置されたサイジング剤に浸漬するように炭素繊維をローラーで搬送することにより炭素繊維に付与することができる。サイジング剤は、水、又はアセトン等の有機溶剤に分散又は溶解させ、分散液又は溶液として使用することが好ましい。サイジング剤の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加してもよい。
【0068】
炭素繊維へのサイジング剤の付着量としては、炭素繊維とサイジング剤との合計量を100質量部とした場合、例えば、0.1~10質量部である。付着量がこの範囲にあれば、適度な炭素繊維の収束性が得られ、炭素繊維の充分な耐擦過性が得られて機械的摩擦等による毛羽の発生が抑制される。
【0069】
(巻き取り工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、除去工程により得られた樹脂が除去された炭素繊維を巻き取る工程を含んでいてもよい。炭素繊維を巻き取る工程は、除去工程の後に行われ、サイジング剤付与工程を含む場合には、サイジング剤付与工程の後に行われることが好ましい。
【0070】
巻き取りは、例えば、巻き取りローラーを用いて行うことができる。巻き取りローラーには、炭素繊維を巻き取るための駆動力を与える駆動装置が取り付けられている。また、一部のガイドローラーにも、ガイドローラーを回動させる駆動装置が取り付けられていてもよい。巻き取り張力、すなわち炭素繊維に付与する張力は、より小さい方が望ましい。巻き取り張力を適切な範囲に設定することにより、炭素繊維の糸切れや巻きずれを防止することができ、その結果、より長い連続繊維を得ることができる。
【0071】
一実施形態は、加熱処理を施しながら炭素繊維強化樹脂を引き出す工程と、引き出されて搬送された炭素繊維強化樹脂中の樹脂を除去する工程と、樹脂が除去されて搬送された炭素繊維を巻き取る工程とを含み、上流で炭素繊維強化樹脂を引き出しながら、下流で炭素繊維を巻き取られる。すなわち、一実施形態において、上流で炭素繊維強化樹脂を加熱下で引き出す工程を行いながら、下流で炭素繊維を巻き取る工程を行い、上流の引き出し工程と下流の巻き取り工程の間に、除去工程及び場合によりサイジング剤付与工程が行われる。また、一実施形態において、上流で炭素繊維強化樹脂を加熱下で引き出す工程を行いながら、下流で炭素繊維を巻き取る工程を行い、上流の引き出し工程と下流の巻き取り工程の間に、溶解除去工程及び場合によりサイジング剤付与工程が行われる。このような実施形態は、加熱下での引き出し工程の後に、直ぐに溶解除去工程を実施することができ、炭素繊維強化樹脂の温度が高い状態で溶解液に接触させることができるため、溶解液で効率的に樹脂を除去することができる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維強化樹脂の一部(好ましくは端部)を取り出し、この取り出した炭素繊維強化樹脂の一部を、巻き取り機に直接的又は間接的に繋ぎ、巻き取り機により炭素繊維強化樹脂に張力を与え、連続繊維の状態で炭素繊維強化樹脂を引き出す。引き出された炭素繊維強化樹脂は、溶解液により樹脂が除去される。そして、樹脂が除去されて得られた炭素繊維は巻き取り機で巻き取られる。
【0072】
以上の工程を有する本実施形態に係る炭素繊維のリサイクル方法では、再利用に適した炭素繊維を効率的に得ることができる。
【0073】
以下、
図9~11を参照して本実施形態の具体例を説明する。なお、以下の
図9~11で示す本実施形態の例では、成形品用意工程及びサイジング剤付与工程は図示していないが、各実施形態の処理工程に供される炭素繊維強化樹脂成形品は、成形品用意工程により用意されたものである。また、各実施形態の例において、任意にサイジング剤付与工程を行ってもよい。
【0074】
図9は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図9に示す実施形態では、加熱下での引き出し工程を上流で行った後に、除去工程(溶解液への浸漬)を行い、次いで巻き取り工程が下流で行われる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品200を、熱処理チャンバー等の熱処理が可能な装置210に収容し、加熱処理を行いながら、炭素繊維強化樹脂を引き出す(加熱下による引き出し工程)。熱処理チャンバー内ではタンクが回転駆動可能な軸受に設置され、加熱されながらタンクから炭素繊維強化樹脂が引き出されている。次に、引き出された炭素繊維強化樹脂を溶解液230に浸漬させる(除去工程)。次に、樹脂が除去された炭素繊維が巻き取られる(巻き取り工程)。各工程間の炭素繊維強化樹脂又は炭素繊維の搬送方法は、特に制限されるものではなく、例えば、ガイドローラー、巻き取りローラー、マンドレルローラーを用いて行うことができる。また、図示してはいないが、サイジング剤付与工程を、除去工程の後であって巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維やサイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0075】
図10は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図10では、除去工程が、引き出した炭素繊維強化樹脂に溶解液を噴射することにより行われている。具体的には、
図10において、引き出された炭素繊維強化樹脂に対して噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から溶解液250を噴射し、樹脂を炭素繊維から除去している。溶解液を噴射するノズルや炭素繊維強化樹脂を動かすことにより、炭素繊維強化樹脂全体に溶解液を接触させることができる。ノズルは複数設けられていてもよい。また、図示してはいないが、サイジング剤付与工程を、除去工程の後であって巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維やサイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0076】
図11は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図11では、除去工程が、溶解液への浸漬及び溶解液の噴射の組み合わせにより行われている。具体的には、
図11において、引き出された炭素繊維強化樹脂を溶解液230に浸漬させた後、続いて、炭素繊維強化樹脂に対して噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から溶解液250を噴射することにより、樹脂を炭素繊維から除去している。溶解液への浸漬及び溶解液の噴射の組み合わせることにより、より効率的に樹脂を除去することができる。また、図示してはいないが、サイジング剤付与工程を、除去工程の後であって巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維やサイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0077】
以上説明した本実施形態の炭素繊維のリサイクル方法によれば、再利用に適した良質な炭素繊維を効率的に得ることができる。得られた炭素繊維は、幅広い用途に適用可能である。
【0078】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0079】
本明細書を通して、「1つの(one)実施形態」、「1つの(a)実施形態」、又は「実施形態」についてのいかなる言及も、その実施形態に関して述べた特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味している。したがって、本明細書を通して述べた、引用した語句又はその変形は、必ずしも同一の実施形態を参照する全てではない。
【0080】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0081】
10 ライナー
20 炭素繊維強化樹脂層
30 バルブ側口金
40 エンド側口金
50 バルブ
60 保護層
100 タンク
210 熱処理装置(熱処理チャンバー)
220 炭素繊維強化樹脂成形品
230 溶解液
240 ノズル
250 溶解液