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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20240611BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240611BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240611BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/62 Z
H01M10/0585
H01M50/533
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021111054
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2023007917
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】大友 崇督
(72)【発明者】
【氏名】水野 史教
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-146657(JP,A)
【文献】特開2014-041817(JP,A)
【文献】特開2018-049716(JP,A)
【文献】特開2014-235990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/0587
H01M 4/00 - 4/62
H01M 50/50 -50/598
H01G 11/00 -11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体層と、
前記負極集電体層の縁から突出する負極集電タブと、
前記負極集電体層に積層され、活物質及びポリマー電解質を含む負極活物質層と、
正極集電体層と、
前記正極集電体層の縁から突出する正極集電タブと、
前記正極集電体層に積層され、活物質及び硫化物固体電解質である無機固体電解質を含む正極活物質層と、
前記負極活物質層と前記正極活物質層との間に配置され、ドライポリマーによるポリマー電解質を含み、自立可能な固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層はさらに前記負極集電体層及び前記負極活物質層の端面を被覆するように配置され、
前記負極集電タブが前記固体電解質層を貫通して突出する、
全固体電池。
【請求項2】
前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層、前記負極活物質層、前記負極集電体層、前記負極活物質層、前記固体電解質層、前記負極活物質層、及び前記正極集電体層がこの順に積層されて発電要素を形成している、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記正極集電体層及び前記正極活物質層の端面も前記正極集電タブが配置された辺以外の少なくとも一部で前記固体電解質層に被覆されている請求項に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記発電要素が複数積層されてなる請求項2又は3に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記発電要素が複数積層され、前記正極集電体層及び前記正極活物質層の端面を被覆する前記固体電解質層により複数の前記発電要素が接合されている、請求項3に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、全固体電池積層体の側面を被覆する樹脂層を有した全固体電池が開示され、硫化物固体電解質を用いることが示されている。
特許文献2には、第一集電体と、貫通孔を有する粘着性樹脂層と、第二集電体とがこの順番に積層されており、第一集電体と第二集電体とが粘着性樹脂層を介して接着されているバイポーラ電極集電体を有するバイポーラ型リチウムイオン電池が開示されている。
特許文献3には、硫化物固体電解質材料又は酸化物固体電解質材料からなる固体電解質材料を、固体電解質層および積層体側面の絶縁部に含む構成が開示されている。
特許文献4には、固体電解質層と積層体側面を同一部材とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-192610号公報
【文献】特開2017-073374号公報
【文献】特開2014-235990号公報
【文献】特開2018-142534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池では充放電中の負極活物質の体積変化により、サイクル特性(例えば容量維持率)が低下する。これは、充放電による負極活物質の膨張収縮に対して硫化物固体電解質の機械特性では耐えられず、負極層と固体電解質層との界面、負極活物質と固体電解質層と界面や固体電解質層内に剥離や割れが発生することが原因である。
【0005】
そこで本開示では上記問題を鑑みてサイクル特性を向上させることができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
全固体電池では、固体と固体との界面を利用してイオンおよび電子が伝導するため、界面の接合状態が電池性能に大きな影響を与える。一方、充放電に伴って活物質の膨張収縮(体積変化)が生じると、界面において良好な接合状態が維持されず、抵抗が増加する場合がある。
【0007】
例えばSi系活物質は、高容量な負極活物質として知られているが、充放電に伴う体積変化が大きい。負極活物質の膨張収縮による電池性能の低下を抑制するため、発明者らは負極層の固体電解質として、柔らかいポリマー電解質を用いることを考えた。しかしながら、ポリマー電解質は、無機固体電解質よりもイオン伝導性が低い場合が多いため、電池性能を向上させる観点から、正極層には無機固体電解質を用いることが想定される。そしてポリマー電解質及び無機固体電解質を組み合わせて用いることで、負極層における固体と固体との界面の接合状態が悪化することを抑制しつつ、良好な電池性能を得ることができる。
【0008】
ところが、発明者は、正極層および負極層において、一方が無機固体電解質を含有し、他方がポリマー電解質を含有する全固体電池とすると、無機固体電解質は、通常、ポリマー電解質よりも硬いため、無機固体電解質を含有する層(例えば正極層)が硬い層となり、ポリマー電解質を含有する層(例えば負極層)が柔らかい層となる。その結果、各層を接合するためにプレスを行う際に、ポリマー電解質を含有する層が変形(例えば、伸び、反り)を生じやすくなる知見を得た。このような変形により正極層と負極層とが接触すると、内部短絡が発生し、サイクル特性が低下する。
【0009】
以上の知見に基づき、本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、第一の集電体層と、第一の集電体層の縁から突出する第一の集電タブと、第一の集電体層に積層される第一の活物質層と、第二の集電体層と、第二の集電体層の縁から突出する第二の集電タブと、第二の集電体層に積層される第二の活物質層と、第一の活物質層と第二の活物質層との間に配置され、ポリマー電解質を含む固体電解質層と、を備え、固体電解質層はさらに第一の集電体層及び第一の活物質層の端面を被覆するように配置され、第一の集電タブが固体電解質層を貫通して突出する、全固体電池を開示する。
【0010】
上記全固体電池において第二の集電体層、第二の活物質層、固体電解質層、第一の活物質層、第一の集電体層、第一の活物質層、固体電解質層、第二の活物質層、及び第二の集電体層がこの順に積層されて発電要素を形成してもよい。
【0011】
上記全固体電池において、第二の集電体層及び第二の活物質層の端面も第二の集電タブが配置された辺以外の少なくとも一部で固体電解質層に被覆されてもよい。このとき、発電要素が複数積層され、第二の集電体層及び第二の活物質層の端面を被覆する固体電解質層により複数の発電要素が接合されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の全固体電池によれば、負極活物質層にポリマー電解質を用いても短絡を生じ難いことから、負極活物質層にポリマー電解質を用いることができ、これにより充放電時における負極層内や負極層と固体電解質層と界面の剥離や割れを抑制でき、良好なサイクル特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は発電要素10の外観斜視図である。
図2図2は発電要素10の平面図である。
図3図3は発電要素10の正面図である。
図4図4は発電要素10の左側面図である。
図5図5は発電要素10のV-V断面図である。
図6図6は発電要素10のVI-VI断面図である。
図7図7は負極積層体に固体電解質層を被覆する例を説明する図である。
図8図8は負極積層体に固体電解質層を被覆する例を説明する図である。
図9図9は負極積層体に固体電解質層を被覆する例を説明する図である。
図10図10は全固体電池1の構成を説明する図である。
図11図11は発電要素20の断面図である。
図12図12は発電要素20の断面図である。
図13図13は発電要素20が積層された形態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.発電要素
本開示の全固体電池は単電池として発電可能な単位要素である発電要素が1つ又は複数積層され、これが不図示の外装体(ケース)に納められて所望の容量を有する電池とされている。初めに発電要素について説明する。
【0015】
図1図6には1つの形態にかかる発電要素10を説明する図を示した。図1は発電要素10の斜視図、図2は発電要素10の平面図(図1に矢印IIで示した方向から見た図)、図3は発電要素10の正面図(図1に矢印IIIで示した方向から見た図)、図4は発電要素10の左側面図(図1に矢印IVで示した方向から見た図)、図5図3のV-V矢視断面図、及び、図6図4のVIーVI矢視断面図である。
図1図6及び以降に示す各図では、必要に応じて見易さのために形状(例えば厚み、幅等)を誇張して表すことがあり、繰り返しとなる符号の一部は省略することがある。また、わかりやすさのため3次元直交座標系(x、y、z)の方向を合わせて示すことがある。
【0016】
1.1.発電要素に含まれる構成部材
図1図6に表れているように発電要素10は、負極集電体層11、負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14、及び、正極集電体層15を備えている。なお、本形態で負極集電体層11、負極活物質層12、正極活物質層14、正極集電体層15はいずれも、xy平面に四角形の表裏面を有し、表裏面間が薄い厚みを有する薄いシート状の部材である。
【0017】
1.1a.負極集電体層(第一の集電体層)
本形態で負極集電体層11は、第一の集電体層として負極積層体を構成する部材の1つであり、金属箔や金属メッシュ等により構成される。特に金属箔が好ましく、その金属としては、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、Zn、ステンレス鋼等が挙げられる。負極集電体層11は、その表面に、接触抵抗を調整するための何らかのコート層を有していてもよい。コート層を構成する材料として例えば、炭素を挙げることができる。負極集電体層11の厚み(z方向大きさ)は特に限定されるものではないが、0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0018】
負極集電体層11に、第一の集電タブとして機能する負極集電タブ11aが配置される。負極集電タブ11aにより、負極集電体層11同士を容易に電気的に接続することができる。負極集電タブ11aは負極集電体層11と同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。また、負極集電タブ11aは負極集電体層11と同じ厚みであってもよいし、異なる厚みであってもよい。
本形態では負極集電タブ11aは、負極集電体層11の縁の一部である1辺(x方向端部)からx方向に突出するように配置されており、その厚み(z方向大きさ)は負極集電体層11と同じである。また、負極集電タブ11aは負極集電体層11より幅(y方向大きさ)が小さくされている。
【0019】
1.1b.負極活物質層(第一の活物質層)
本形態で負極活物質層12は、第一の活物質層として負極積層体を構成する部材の1つであり、本形態では少なくとも負極活物質及び固体電解質としてのポリマー電解質を含み、さらに任意に導電材及びバインダーを含ませることができる。
負極活物質層の厚み(z方向大きさ)は、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0020】
[負極活物質]
負極活物質としては、例えば、Si、Sn、Li等の金属活物質;グラファイト等のカーボン活物質;チタン酸リチウム等の酸化物活物質が挙げられる。また、負極活物質は、Siを少なくとも含むSi系活物質であってもよい。Si系活物質は、充放電に伴う体積変化が大きいため、膨張収縮による電池性能の低下が生じやすい。これに対して、柔らかいポリマー電解質を含有することで、膨張収縮による電池のサイクル特性の低下を抑制できる。Si系活物質としては、例えば、Si単体、Si合金、Si酸化物が挙げられる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。Si合金において、Siの割合は、例えば50at%以上であり、70at%以上であってもよく、90at%以上であってもよい。
【0021】
負極活物質の形状として例えば粒子状が挙げられる。負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0022】
負極活物質層における負極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、40重量%以上であってもよく、60重量%以上であってもよい。一方、負極活物質層における負極活物質の割合は、例えば80重量%以下である。
【0023】
[ポリマー電解質]
ポリマー電解質は、ポリマー成分を少なくとも含有する。ポリマー成分としては、例えば、ポリエーテル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミン系ポリマー、ポリスルフィド系ポリマーが挙げられ、中でもポリエーテル系ポリマーが好ましい。イオン伝導度が高く、ヤング率および破断強度等の機械特性に優れているからである。
【0024】
ポリエーテル系ポリマーは、繰り返し単位内にポリエーテル構造を有する。また、ポリエーテル系ポリマーは、繰り返し単位の主鎖内にポリエーテル構造を有することが好ましい。ポリエーテル構造としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)構造、ポリプロピレンオキサイド(PPO)構造が挙げられる。ポリエーテル系ポリマーは、主な繰り返し単位として、PEO構造を有することが好ましい。ポリエーテル系ポリマーにおいて、全ての繰り返し単位における、PEO構造の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。また、ポリエーテル系ポリマーは、例えば、エポキシ化合物(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキシド)の単独重合体または共重合体であってもよい。
【0025】
ポリマー成分は、以下に示すイオン伝導性ユニットを有していてもよい。イオン伝導性ユニットとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレンビニルアセテート、ポリイミド、ポリアミン、ポリアミド、ポリアルキルカーボネート、ポリニトリル、ポリホスファゼン、ポリオレフィン、ポリジエンが挙げられる。
【0026】
ポリマー成分の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば、1000000以上、10000000以下である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる。また、ポリマー成分のガラス転移温度(Tg)は、例えば60℃以下であり、40℃以下であってもよく、25℃以下であってもよい。また、ポリマー電解質は、ポリマー成分を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。また、ポリマー電解質は、ポリマー成分が架橋された架橋ポリマー電解質であってもよく、ポリマー成分が架橋されていない未架橋ポリマー電解質であってもよい。
【0027】
ポリマー電解質は、ドライポリマー電解質であってもよく、ゲル電解質であってもよい。ドライポリマー電解質とは、溶媒成分の含有率が5重量%以下である電解質をいう。溶媒成分の含有率は3重量%以下であってもよく、1重量%以下であってもよい。なお、正極活物質層に極性溶媒と反応性が高い硫化物固体電解質を用いる場合は、ドライポリマー電解質を用いることが好ましい。
【0028】
ドライポリマー電解質は、支持塩を含有していてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(FSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩が挙げられる。ドライポリマー電解質に対する支持塩の割合は、特に限定されない。例えば、ドライポリマー電解質がEO単位(CO単位)を有する場合、支持塩1モル部に対して、EO単位は、例えば5モル部以上であり、10モル部以上であってもよく、15モル部以上であってもよい。一方、支持塩1モル部に対して、EO単位は、例えば40モル部以下であり、30モル部以下であってもよい。
【0029】
ゲル電解質は、通常、ポリマー成分に加えて、電解液成分を含有する。電解液成分は、支持塩および溶媒を含有する。支持塩については、上記と同様である。溶媒としては、例えば、カーボネートが挙げられる。カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート);ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)が挙げられる。また、溶媒として、例えば、メチルアセテート、エチルアセテート等のアセテート類、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテルが挙げられる。さらに、溶媒として、例えば、γ-ブチロラクトン、スルホラン、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)が挙げられる。また、溶媒は、水であってもよい。
【0030】
全ての固体電解質に対するポリマー電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。固体電解質として、ポリマー電解質のみを含有する態様でもよい。
【0031】
負極活物質層におけるポリマー電解質の割合は、例えば20体積%以上であり、30体積%以上であってもよく、40体積%以上であってもよい。一方、負極活物質層におけるポリマー電解質の割合は、例えば70体積%以下であり、60体積%以下であってもよい。
【0032】
[導電材]
導電材の添加により負極活物質層の電子伝導性が向上する。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。
【0033】
[バインダー]
バインダーの添加により、負極活物質層の構成材料が強固に結着される。バインダーとしては、例えば、フッ化物系バインダー、ポリイミド系バインダー、ゴム系バインダーが挙げられる。
【0034】
1.1c.固体電解質層
固体電解質層13は固体電解質を含む層であり、本開示では固体電解質としてポリマー電解質を含有する。
【0035】
固体電解質層13に含まれるポリマー電解質は、ポリマー成分が架橋された架橋ポリマー電解質である。固体電解質層13に含まれるポリマー電解質は、ポリマー成分が架橋されていること以外は、上記した負極活物質層12で説明したポリマー電解質と同様である。
ポリマー成分を架橋するための重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシオクトエート、クメンヒドロキシペルオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。固体電解質層におけるポリマー電解質と、負極活物質層におけるポリマー電解質とは、組成が同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、正極活物質層に極性溶媒と反応性が高い硫化物固体電解質を用いる場合は、ドライポリマー電解質が好ましい。
【0036】
ここで、固体電解質層13は、自立可能であることが好ましい。「自立可能」とは、他の支持体が存在しなくても形状を保つことことができることをいう。例えば、対象となる固体電解質の材料を基板上に湿式にて塗工し、乾燥等を経た後に、基板を剥離した際に、固体電解質層がその形状を保持している場合は「自立可能」であるといえる。
【0037】
固体電解質層13は、固体電解質の主成分としてポリマー電解質を含有することが好ましい。固体電解質層において、全ての固体電解質に対するポリマー電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。固体電解質層は、固体電解質としてポリマー電解質のみを含有していてもよい。
固体電解質層13の厚み(z方向大きさ)は例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0038】
1.1d.正極活物質層(第二の活物質層)
本形態で正極活物質層14は、第二の活物質層として正極積層体を構成する1つの部材であり、本形態では少なくとも正極活物質及び固体電解質を含み、さらに任意に導電材及びバインダー等を含ませることができる。導電材およびバインダーについては、負極活物質層12で説明した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
正極活物質層の厚み(z方向大きさ)は例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0039】
[正極活物質]
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12等のスピネル型活物質、LiFePO等のオリビン型活物質、S、LiS、遷移金属硫化物等の硫黄系活物質が挙げられる。
【0040】
酸化物活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。酸化物活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbOが挙げられる。保護層の厚みは、例えば、1nm以上30nm以下である。
【0041】
正極活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。
【0042】
[固体電解質]
正極活物質層の固体電解質としては無機固体電解質を用いることができる。無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質が挙げられる。また、無機固体電解質は、ガラス(非晶質体)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよく、結晶であってもよい。ガラスは、例えば、原料を非晶質化することで得られる。ガラスセラミックスは、例えば、ガラスに熱処理を行うことで得られる。結晶は、例えば、原料を加熱することで得られる。
【0043】
硫化物固体電解質は、例えば、Li、A(Aは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、Sを含有することが好ましい。硫化物固体電解質は、O(酸素)およびハロゲンの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲンとしては、例えば、F、Cl、Br、Iが挙げられる。硫化物固体電解質は、1種のハロゲンのみを含有していてもよく、2種以上のハロゲンを含有していてもよい。また、硫化物固体電解質が、S以外のアニオン元素(例えば、Oおよびハロゲン)を含有する場合、全てのアニオン元素において、Sのモル割合が最も多いことが好ましい。
【0044】
硫化物固体電解質は、オルト組成のアニオン構造(PS 3-構造、SiS 4-構造、GeS 4-構造、AlS 3-構造、BS 3-構造)を、アニオン構造の主成分として有することが好ましい。化学安定性の高いからである。オルト組成のアニオン構造の割合は、硫化物固体電解質における全てのアニオン構造に対して、例えば50mol%以上であり、60mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよい。
【0045】
硫化物固体電解質は、イオン伝導性を有する結晶相を備えていてもよい。上記結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。
【0046】
また、酸化物固体電解質は、例えば、Li、Z(Zは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo、W、Sの少なくとも一種である)、および、Oを含有することが好ましい。酸化物固体電解質の具体例としては、Li7LaZr12等のガーネット型固体電解質;(Li,La)TiO等のペロブスカイト型固体電解質;Li(Al,Ti)(PO等のナシコン型固体電解質;LiPO等のLi-P-O系固体電解質;LiBO等のLi-B-O系固体電解質が挙げられる。また、酸化物固体電解質が、O以外のアニオン元素(例えば、Sおよびハロゲン)を含有する場合、全てのアニオン元素において、Oのモル割合が最も多いことが好ましい。
【0047】
ハロゲン化物固体電解質は、ハロゲン(X)を含有する電解質である。ハロゲンとしては、例えば、F、Cl、Br、Iが挙げられる。ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、LiYX(Xは、F、Cl、Br、Iの少なくとも一種である)が挙げられる。また、ハロゲン化物固体電解質が、ハロゲン以外のアニオン元素(例えば、SおよびO)を含有する場合、全てのアニオン元素において、ハロゲンのモル割合が最も多いことが好ましい。
【0048】
無機固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。無機固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、無機固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。
【0049】
正極活物質層14は、固体電解質の主成分として、無機固体電解質を含有することが好ましい。正極活物質層14において、全ての固体電解質に対する無機固体電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。正極活物質層14は、固体電解質として無機固体電解質のみを含有していてもよい。
【0050】
正極活物質層14における無機固体電解質の割合は、例えば10体積%以上であり、20体積%以上であってもよい。一方、正極活物質層14における無機固体電解質の割合は、例えば60体積%以下であり、50体積%以下であってもよい。
【0051】
1.1e.正極集電体層(第二の集電体層)
本形態で正極集電体層15は、第二の集電体層として正極積層体を構成する部材の1つであり、金属箔や金属メッシュ等により構成すればよい。特に金属箔が好ましく、金属としては、Ni、Cr、Au、Pt、Al、Fe、Ti、Zn、ステンレス鋼等が挙げられる。正極集電体層15は、その表面に、電気抵抗を調整するための何らかのコート層を有していてもよく、例えば、炭素コート等が挙げられる。正極集電体層15の厚みは特に限定されるものではない。例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0052】
正極集電体層15に、第二の集電タブとして正極集電タブ15aが配置される。正極集電タブ15aにより、正極集電体層15同士を容易に電気的に接続することができる。正極集電タブ15aは正極集電体層15と同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。また、正極集電タブ15aは正極集電体層15と同じ厚みであってもよいし、異なる厚みであってもよい。
本形態では正極集電タブ15aは、正極集電体層15の縁の一部である一辺(x方向端部)からx方向に突出するように配置されており、その厚みは正極集電体層15と同じである。また、正極集電タブ15aは正極集電体層15より幅(y方向大きさ)は小さくされている。
【0053】
1.2.発電要素の構造
本形態では、以上のような各構成部材が以下のように配置されることにより発電要素10とされている。
第一の集電体層の表裏のそれぞれに第一の活物質層が配置されている。すなわち、本形態では負極集電体層11の表裏のそれぞれに負極活物質層12が配置されている。このとき、図5図6からわかるように負極活物質層12の端面12tは、負極集電体層11の端面11tに対して内側となるように(はみ出ることの無いように)構成されている。
【0054】
第一の活物質層の面のうち第一の集電体層に接触する面とは反対側に固体電解質層が配置されている。本形態では負極活物質層12の面のうち負極集電体層11に接触する面とは反対側面に固体電解質層13が配置されている。
さらに、本形態では図5図6からわかるように、第一の集電体層としての負極集電体層11の端面11t、及び、第一の活物質層としての負極活物質層12の端面12tの全部が固体電解質層13に覆われている。また、第一の集電タブとしての負極集電タブ11aは固体電解質層13を貫通するようにして外部に突出するように構成されている。これにより例えば負極活物質層12に柔らかいポリマー電解質を用いてプレス時等に変形があっても負極活物質層12が固体電解質層13に覆われているため正極活物質層14や正極集電体層15に接触して短絡することを抑制することができる。
【0055】
固体電解質層13の面のうち、第一の集電体層としての負極活物質層12の表面に接触する面とは反対側に第二の活物質層としての正極活物質層14が配置されている。さらに、第二の活物質層としての正極活物質層14の面のうち固体電解質層13に接触する面とは反対側に第二の集電体層としての正極集電体層15が配置されている。
【0056】
また、本形態では負極集電タブ11a、正極集電タブ15aは同じ方向に突出するように配置されている。ただし、図2図4からよくわかるように、負極集電タブ11aと正極集電タブ15aは、幅方向(y方向)については位置が異なるように配置され、図2の視点(平面視)で重ならないように位置付けられる。
【0057】
本形態では、「第一の」を負極、「第二の」を正極とする形態で説明した。すなわち、第一の集電体層を負極集電体層、第一の集電タブを負極集電タブ、第一の活物質層を負極活物質層、第二の集電体層を正極集電体層、第二の集電タブを正極集電タブ、第二の活物質層を正極活物質層として各構成要素の配置を説明した。ただし、これに限らず反対に「第一の」を正極、「第二の」を負極として各構成要素の配置をしてもよい。以下の説明についても同様である。
【0058】
1.3.発電要素の製造方法
発電要素10の製造方法は特に限定されることはないが、例えば次のように製造することができる。
正極集電体層15の表面に正極活物質層14となる材料を湿式にて塗工・乾燥してプレスにより緻密化させることで正極積層体(正極集電体層15と正極活物質層14との積層体)を得る。
一方、負極集電体層11の表裏面に負極活物質層12のとなる材料を湿式にて塗工・乾燥してプレスにより緻密化させることで負極積層体(負極集電体層11と負極活物質層12との積層体)を得る。
負極積層体を覆うようにして固体電解質層を配置し、固体電解質層の外側両面のそれぞれに正極積層体を配置し、プレス成形して一体化することで発電要素10を得る。この時のプレス圧は特に限定されるものではないが、例えば0.5ton/cm以上とすることが好ましい。
【0059】
ここで、負極積層体を覆うように固体電解質層を配置する方法は特に限定されることはないが、例えば次のように行うことができる。図7図9に説明のための図を示した。図7図9はその上部に平面図、下部に厚み方向で積層状態が表れる図(y方向中央に沿った断面)を示した。
始めに、図7に示したように、剥離シート(例えばポリエチレンテレフタレートシート、PETシート)17に固体電解質層となる材料13’を積層する。
次に図8に示したように、材料13’に負極積層体18をさらに積層する。このとき、負極積層体18は、そのx方向の一端18aは材料13’の端部から突出しないように配置し(負極集電タブ11aのみが突出する)、負極積層体18のx方向他端18bは材料13’のx方向の概ね中央線Cとなる位置に配置する。また、負極積層体18の負極活物質層、及び、負極集電体層(負極集電タブは除く)のx方向長さは、固体電解質層のx方向長さよりも短くするとともに、負極集電タブを含めるとx方向の長さが固体電解質層のx方向長さより長くなるようにする。さらに、幅方向(y方向)については負極積層体18の幅を材料13’の幅より小さくし、材料13’の幅方向(y方向)の両端に材料13’が露出する部位13’cを形成する。
図8の姿勢から図8に矢印Dで示したように、負極積層体18が積層されていない側の剥離シート17及び材料13’を中央線Cで谷折りをして材料13’を負極積層体18に積層させる。その後、折り曲げた部分の剥離シート17を剥がすと図9のようになる。すなわち、図9の姿勢では負極積層体18の表裏面に材料13’が巻き付き、袋状の材料13’となる。
これにより、負極積層体を覆うように固体電解質層が配置できる。なお、折り曲げによる上下の材料13’は貼り付きやすいため接触により接合されるが、プレスによる物理接合や融着、紫外線照射や熱による架橋反応を利用した化学接合を行ってもよい。
【0060】
ここでは固体電解質層となる材料を折り曲げて負極積層体を覆う例を示したが、これに限らず、固体電解質層となるシート状の材料を2つ準備してその間に負極積層体を配置して接合することで負極積層体を覆うように固体電解質層を配置してもよい。また、負極積層体18の代わりにPETフィルムなどの剥離シートを配置し、袋状の固体電解質層を形成した後、剥離シートを除去し、負極積層体を配置してもよい。
【0061】
2.全固体電池
本開示における全固体電池は、上述の発電要素10を積層してなる。図10に説明のための図を表した。図10からわかるように全固体電池は発電要素10の正極集電体層15及び正極集電タブ15aが重ねられることで積層される。そして、複数の負極集電タブ11aが電気的に接続され、複数の正極集電体タブ15aが電気的に接続されることで、全固体電池の正極及び負極が形成される。また、全固体電池は、積層された発電要素10は外装体に収納される。外装体として、例えば、ラミネート型外装体、缶型外装体が挙げられる。
【0062】
本開示における全固体電池は、典型的には全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0063】
3.他の形態例
3.1.他の形態例1
図11図13に他の形態例1にかかる全固体電池に用いられる発電要素20を説明する図を示した。図11図5と同じ視点による図、図12図6と同じ視点による図である。
発電要素20では、発電要素10の固体電解質層13の代わりに固体電解質層23が適用された例である。その他の構成要素については発電要素10の同様に考えることができるのでここでは同じ符号を付して説明を省略する。
固体電解質層23は、発電要素10の固体電解質層13の構成に加えて、第一の集電タブ(負極集電タブ11a)が配置された部位以外の少なくとも1部において、第一の集電体層(負極集電体層11)及び第一の活物質層(負極活物質層12)の端面(11t、12t)を被覆する固体電解質層の幅(図11のW1)や長さ(図12のL1)が第二の集電体層(正極集電体層14)及び第二の活物質層(正極活物質層15)の幅(図11のW2)や長さ(図12のL2)よりも大きい。さらに、当該大きい部分で、第二の活物質層の端面(正極活物質層14の端面14t)、第二の集電体層(正極集電体層15の端面15t)も固体電解質層23で覆われているように構成されている。これによりさらに短絡を防ぐことができる。
また、図13に示したように、2つ以上の発電要素20を、第一の集電タブ(負極集電タブ11a)及び第二の集電タブ(正極集電タブ15a)が配置された部位以外の部分において、第一の集電体層、第一の活物質層、第二の集電体層、第二の活物質層の端面を被覆する固体電解質層同士で接合させた構造とすることができる。これにより一体化され位置ずれ等を抑制することが可能となる。
【0064】
上記形態では第一の集電体層、第一の活物質層、第二の集電体層、第二の活物質層がいいずれも四角形であるため、第一の集電体層の1辺に第一の集電タブが配置され、第二の集電体層の1辺に第二の集電タブが配置されており、第二の集電体層の端面、第二の活物質層は残りの3辺のうち少なくとも2辺において固体電解質層に覆われていればよい。
【0065】
3.2.他の形態例2
ここまで、発電要素10、発電要素20では負極集電体層11及び負極活物質層12の端面を固体電解質層で覆い、負極集電タブ11a、正極集電タブ15aが同方向に配置される例を示した。しかしながら、これに限定されることはなく、発電要素10において、負極集電タブ11a、正極集電タブ15aが異なる方向に配置された場合も同様である。
また、発電要素20については、第一の集電タブ、第二の集電タブが配置された部位以外の部位において、第一の集電体層、第一の活物質層、第二の集電体層、第二の活物質層の端面を被覆する固体電解質層同士で接合させた構造とすることができる。
【0066】
4.効果等
本開示の発電要素、及び、これを用いた全固体電池によれば、負極活物質の膨張収縮による電池性能の低下を抑制するため、負極層の固体電解質として、柔らかいポリマー電解質を用いるので、充放電時における負極活物質の膨張収縮による電池性能の低下を抑制することができる。
さらに本開示の発電要素、及び、これを用いた全固体電池によれば、第一の集電タブ(負極集電タブ)以外における第一の集電体層(負極集電体層)の端面及び第一の活物質層(負極活物質層)の端面が固体電解質層に覆われている。これにより負極活物質層に柔らかいポリマー電解質を用いてプレス時等に変形があっても負極活物質層が固体電解質層に覆われているため正極活物質層や正極集電体層に接触して短絡することを抑制することができる。そして短絡を生じないことから、充放電時における負極層内や負極層と固体電解質層界面の剥離や割れを抑制でき、良好なサイクル特性が得られる。
【0067】
5.実施例
5.1.実施例1の全固体電池の作製
5.1a.負極積層体の作製
負極活物質(Si粒子、平均粒径2.5μm)と、導電材(VGCF-H:昭和電工株式会社、VGCFは登録商標)と、バインダー(PVdF-HFP)を、重量比で、負極活物質:導電材:バインダー=94:4:2となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー)で分散させることにより、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、負極集電体層(Ni箔、厚み15μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。その後、負極集電体層の反対側の面にも同様に塗工を行うことで、負極活物質層と負極集電体層の両面に負極活物質層が積層された中間体を得た。
また、PEO(polyethylene oxide、Mw約4000000)とLiTFSI(LiN(SOCF)をEO:Li=20:1のモル比になるように秤量し、アセトニトリルに混合した後、均質な溶液になるまで攪拌した。得られたPEO-LiTFSI溶液を、前述の中間体上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で60分間乾燥させた。その後、負極集電体層の反対側の面にも同様に塗工を行った。。なお、乾燥後に、重量比で、負極活物質:ポリマー電解質=68:32となるようにブレードのギャップを調整した。その後、プレスにより緻密化することで負極集電体層の両面のそれぞれに負極活物質層が配置された負極積層体を得た。
【0068】
5.1b.正極材層の作製
転動流動造粒コーティング装置でLiNbOコートを行った正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05、平均粒径10μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径0.5μm)と、導電材(VGCF-H:昭和電工株式会社)と、バインダー(SBR)を、重量比で、正極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=85:13:1:1となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、正極スラリーを得た。得られた正極スラリーを、Al箔(厚さ15μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥し、プレスにより緻密化することでAl箔に正極活物質層が積層された正極合材を得た。
【0069】
5.1c.固体電解質層の作製
PEO(polyethylene oxide、Mw約4,000,000)とLiTFSI(LiN(SOCF)をEO:Li=20:1のモル比になるように秤量し、アセトニトリルに混合した。この溶液に開始剤BPO(Benzoyl peroxide)をPEO-LiTFSI溶液の10wt%になるように混合した後、均質な溶液になるまで撹拌した。作製したポリマー電解質溶液を、PETフィルム上に、アプリケーターによるブレードコート法により幅7.4cmとなるように塗工し、100℃で60分間乾燥した後、長さ14.2cmとなるように切断ることで自立可能な架橋型固体電解質層を得た。
【0070】
5.1d.全固体電池の作製
7.0cm×7.0cmとなるように切り出された負極積層体と、固体電解質層とを、負極積層体と固体電解質層とが直接接触し, 負極集電タブと反対側の端面が固体電解質層の中央部と一致するように貼り合わせ、固体電解質層を長辺方向に折り曲げることで負極積層体と固体電解質層を積層した。続いて、7.0cm×7.0cmとなるように切り出された正極合材を、正極合材と固体電解質層とが直接接触するように張り合わせ、0.5t/cmでプレスした。そして、各端子を溶接後、ラミネートセル化(外装材内に配置)して全固体電池を作製した。
【0071】
5.2.実施例2の全固体電池の作製
以下に示す全固体電池の作製までについては実施例1と同じとした。
5.2a.全固体電池の作製
実施例1で得られた発電要素を2個積層し、集電タブ側と対向しない辺の固体電解質層を接合させることで電極間を固定し、各端子を溶接後、ラミネートセル化(外装材内に配置)して全固体電池を作製した。
【0072】
5.3.比較例1の全固体電池の作製
以下に示す全固体電池の作製までについては実施例1と同じとした。
5.3a.全固体電池の作製
7.2cm×7.2cmとなるように切り出された負極積層体と、7.2cm×7.2cmとなるように切り出された固体電解質層とを、負極合材層と固体電解質層とが直接接触し,集電側端面が一致するように貼り合せ、PETフィルムを剥離することで固体電解質を張り合わせた。続いて、合材面積が7.0cm×7.0cmとなるように切り出された正極合材を、正極合材と固体電解質層とが直接接触するように張り合わせ0.5t/cmでプレスした。そして、各端子を溶接後、ラミネートセル化(外装材内に配置)して全固体電池を作製した。
【0073】
5.4.比較例2の全固体電池の作製
以下に示す全固体電池の作製までについては比較例1と同じとした。
5.4a.全固体電池の作製
比較例1で得られた発電要素を2個積層し、各端子を溶接後、ラミネートセル化(外装材内に配置)して全固体電池を作製した。
【0074】
5.5.評価及び結果
得られた実施例1、実施例2、比較例1、比較例2にかかる全固体電池についてテスターを用いてそれぞれ10個ずつ電圧を計測し、短絡率を評価した。計測電圧が0Vの場合を短絡、0Vより大きい場合を短絡していないと判定した。
その結果、実施例1は10個(全部)、実施例2も10個(全部)において短絡がなかった。一方、比較例では、短絡がなかったのは比較例1で6個、比較例2では2個のみであり、他は短絡があった。
【符号の説明】
【0075】
1 全固体電池
10 発電要素
11 負極集電体層
11a 負極集電タブ
12 負極活物質層
13 固体電解質層
14 正極活物質層
15 正極集電体層
15a 正極集電タブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13