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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】タンクの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/48 20060101AFI20240611BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240611BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20240611BHJP
   B29C 39/42 20060101ALI20240611BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20240611BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C70/16
B29C39/10
B29C39/42
F16J12/00 A
B29K105:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021137789
(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公開番号】P2023031974
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八田 健
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-187775(JP,A)
【文献】特開2021-112885(JP,A)
【文献】特開2020-26817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/48
B29C 70/16
B29C 39/10
B29C 39/42
F16J 12/00
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の直胴部と、該直胴部の軸方向の端部から該直胴部とは反対側に向かうに従って徐々に窄まるドーム部とを有する中空のライナーの外表面に、繊維を径方向に重ねて巻き付けて成る繊維層に、樹脂を含浸して成る補強層が形成されたタンクの製造方法であって、
前記ドーム部の外表面における第1繊維層が前記直胴部の外表面における第2繊維層よりも粗となるように、且つ、前記第2繊維層の積層間の一部に前記第1繊維層から連続して前記粗となる前記第1繊維層の積層の一部を介在させるように、前記ライナーの外表面に前記繊維を径方向に重ねて巻き付けたプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームを金型内に収容し、前記金型内に前記樹脂を注入し、前記第1繊維層および前記第2繊維層を含む前記繊維層に前記樹脂を含浸させる工程と、を含み、
前記金型に、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向と径方向とで別々に行うべく、前記樹脂が流動するとともに前記金型内に開口するゲートを形成するランナーが複数本設けられるとともに、前記複数本のランナーの少なくとも一つに開閉機構が設けられ、
前記複数本のランナーは、前記ライナーの軸方向に延びており、前記ライナーの軸方向に開口するゲートが形成された第1ランナーと、前記ライナーの径方向に延びており、前記ライナーの径方向に開口するゲートが形成された第2ランナーと、を含んで構成され、
前記第1ランナーの前記ライナーの軸方向に開口する前記ゲートから前記金型内の前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入して前記繊維層に前記樹脂を含浸させ、
前記第2ランナーの前記ライナーの径方向に開口する前記ゲートから前記金型内の前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入して前記繊維層に前記樹脂を含浸させることを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載のタンクの製造方法において、
前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向で行った後、前記ライナーの軸方向および径方向の両方向で行うことを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項3】
請求項に記載のタンクの製造方法において、
前記第1ランナーの前記ゲートから前記金型内の前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入した後、
前記第1ランナーの前記ゲートから前記金型内の前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入しつつ、前記第2ランナーの前記ゲートから前記金型内の前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入して、前記繊維層に前記樹脂を含浸させることを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記ドーム部の外表面に繊維を互い違いに編まれるように巻き付けることで前記第1繊維層を構成し、
前記直胴部の外表面に前記第1繊維層から連続して繊維をヘリカル状またはフープ状に巻き付けることで前記第2繊維層を構成し、
前記第2繊維層の積層間の一部に前記第1繊維層から連続して繊維を互い違いに編まれるように巻き付けることで前記粗となる前記第1繊維層の積層の一部を介在させることを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項5】
筒状の直胴部と、該直胴部の軸方向の端部から該直胴部とは反対側に向かうに従って徐々に窄まるドーム部とを有する中空のライナーの外表面に、繊維を径方向に重ねて巻き付けて成る繊維層に、樹脂を含浸して成る補強層が形成されたタンクの製造装置であって、
前記ドーム部の外表面における第1繊維層が前記直胴部の外表面における第2繊維層よりも粗となるように、且つ、前記第2繊維層の積層間の一部に前記第1繊維層から連続して前記粗となる前記第1繊維層の積層の一部を介在させるように、前記ライナーの外表面に前記繊維を径方向に重ねて巻き付けたプリフォームを収容し、前記第1繊維層および前記第2繊維層を含む前記繊維層に前記樹脂を含浸させるための金型を備え、
前記金型に、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向と径方向とで別々に行うべく、前記樹脂が流動するとともに前記金型内に開口するゲートを形成するランナーが複数本設けられるとともに、前記複数本のランナーの少なくとも一つに開閉機構が設けられ
前記複数本のランナーは、前記ライナーの軸方向に延びており、前記ライナーの軸方向に開口するゲートが形成され、前記ライナーの軸方向に開口する前記ゲートから前記金型内の前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入する第1ランナーと、前記ライナーの径方向に延びており、前記ライナーの径方向に開口するゲートが形成され、前記ライナーの径方向に開口する前記ゲートから前記金型内の前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入する第2ランナーと、を含んで構成されることを特徴とするタンクの製造装置。
【請求項6】
請求項に記載のタンクの製造装置において、
前記開閉機構は、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向で行った後、前記ライナーの軸方向および径方向の両方向で行うように、前記複数本のランナーの少なくとも一つを開閉することを特徴とするタンクの製造装置。
【請求項7】
請求項に記載のタンクの製造装置において、
記開閉機構は、少なくとも前記第2ランナーに設けられ、
前記開閉機構によって前記第2ランナーを閉じた状態で、前記第1ランナーを介して、前記ゲートから前記金型内の前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入した後、前記開閉機構によって前記第2ランナーを開いた状態で、前記第1ランナーを介して、前記ゲートから前記金型内の前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入しつつ、前記第2ランナーを介して、前記ゲートから前記金型内の前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入することを特徴とするタンクの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維によって補強(強化)されたタンクの製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、FRP製タンク(以下、高圧タンクとも称する)の製造方法を開示している。この製造方法では、ライナーに繊維を巻き付けて被覆する被覆工程を実行した後、繊維に樹脂を含浸させる含浸工程を行い、その後、樹脂を含浸させた繊維を加熱することによって、樹脂を硬化させる。
【0003】
また、特許文献2は、かかるRTM(Resin Transfer Molding)法を利用した高圧タンクの製造方法を開示している。この製造方法では、高圧タンクの内部空間を形成するライナーの外表面に繊維層が形成されたプリフォームを金型内に配置し、前記金型内に配置された前記プリフォームに向けてゲートから樹脂を射出しながら、前記プリフォームの中心軸線を回転中心にして、前記プリフォームを前記金型内で周方向に回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-085199号公報
【文献】特開2019-056415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記RTM法を利用した製造方法では、高圧タンクの製造時に、繊維巻き付け工程と樹脂含浸工程とを分けて行う。しかし、高圧タンクの繊維巻き付け量は多く、繊維を巻き付けて成る繊維層(積層)の厚さが大きいため、繊維層の奥(最内層)まで樹脂を含浸させるまでに時間がかかってしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、短時間で樹脂を含浸させることのできるタンクの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明の一態様は、筒状の直胴部と、該直胴部の軸方向の端部から該直胴部とは反対側に向かうに従って徐々に窄まるドーム部とを有する中空のライナーの外表面に、繊維を径方向に重ねて巻き付けて成る繊維層に、樹脂を含浸して成る補強層が形成されたタンクの製造方法であって、前記ドーム部の外表面における第1繊維層が前記直胴部の外表面における第2繊維層よりも粗となるように、且つ、前記第2繊維層の積層間の一部に前記第1繊維層から連続して前記粗となる前記第1繊維層の積層の一部を介在させるように、前記ライナーの外表面に前記繊維を径方向に重ねて巻き付ける工程と、前記第1繊維層および前記第2繊維層を含む前記繊維層に前記樹脂を含浸させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
好ましい態様では、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向と径方向とで別々に行う。
【0009】
別の好ましい態様では、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入して前記繊維層に前記樹脂を含浸させ、前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入して前記繊維層に前記樹脂を含浸させる。
【0010】
別の好ましい態様では、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向で行った後、前記ライナーの軸方向および径方向の両方向で行う。
【0011】
別の好ましい態様では、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入した後、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入しつつ、前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入して、前記繊維層に前記樹脂を含浸させる。
【0012】
別の好ましい態様では、前記ドーム部の外表面に繊維を互い違いに編まれるように巻き付けることで前記第1繊維層を構成し、前記直胴部の外表面に前記第1繊維層から連続して繊維をヘリカル状またはフープ状に巻き付けることで前記第2繊維層を構成し、前記第2繊維層の積層間の一部に前記第1繊維層から連続して繊維を互い違いに編まれるように巻き付けることで前記粗となる前記第1繊維層の積層の一部を介在させる。
【0013】
また、本発明の他の態様は、筒状の直胴部と、該直胴部の軸方向の端部から該直胴部とは反対側に向かうに従って徐々に窄まるドーム部とを有する中空のライナーの外表面に、繊維を径方向に重ねて巻き付けて成る繊維層に、樹脂を含浸して成る補強層が形成されたタンクの製造装置であって、前記ドーム部の外表面における第1繊維層が前記直胴部の外表面における第2繊維層よりも粗となるように、且つ、前記第2繊維層の積層間の一部に前記第1繊維層から連続して前記粗となる前記第1繊維層の積層の一部を介在させるように、前記ライナーの外表面に前記繊維を径方向に重ねて巻き付けたプリフォームを収容し、前記第1繊維層および前記第2繊維層を含む前記繊維層に前記樹脂を含浸させるための金型を備え、前記金型に、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向と径方向とで別々に行うべく、前記樹脂が流動するとともに前記金型内に開口するゲートを形成するランナーが複数本設けられるとともに、前記複数本のランナーの少なくとも一つに開閉機構が設けられている。
【0014】
好ましい態様では、前記複数本のランナーは、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入する第1ランナーと、前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入する第2ランナーと、を含んで構成される。
【0015】
別の好ましい態様では、前記開閉機構は、前記繊維層への前記樹脂の含浸を、前記ライナーの軸方向で行った後、前記ライナーの軸方向および径方向の両方向で行うように、前記複数本のランナーの少なくとも一つを開閉する。
【0016】
別の好ましい態様では、前記複数本のランナーは、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入する第1ランナーと、前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入する第2ランナーと、を含んで構成され、前記開閉機構は、少なくとも前記第2ランナーに設けられ、前記開閉機構によって前記第2ランナーを閉じた状態で、前記第1ランナーを介して、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入した後、前記開閉機構によって前記第2ランナーを開いた状態で、前記第1ランナーを介して、前記第1繊維層へ前記ライナーの軸方向に前記樹脂を注入しつつ、前記第2ランナーを介して、前記第2繊維層へ前記ライナーの径方向に前記樹脂を注入する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、繊維巻き付け時に繊維(繊維密度)が粗となる箇所をドーム部と直胴部の両方に設けることで、樹脂注入時の抵抗が小さくなるため、樹脂を含浸させやすくなり、短時間での樹脂含浸が可能となる。
【0018】
また、樹脂注入時に各方向(軸方向ないし積層延在方向、径方向ないし板厚方向)の樹脂の注入圧が阻害し合わないため、短時間で内層までの樹脂含浸が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る高圧タンク(繊維が巻回されたライナー)を模式的に示す側面図である。
図2】本実施形態に係る高圧タンク(繊維が巻回されたライナー)の構造を模式的に示す断面図である。
図3】本実施形態に係る高圧タンクを構成するライナーへ繊維を巻き付ける製造装置(編組機)を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る高圧タンクのドーム部へ巻き付けるときの繊維の繰り出し位置を示す模式図である。
図5】本実施形態に係る高圧タンクの直胴部へ巻き付けるときの繊維の繰り出し位置を示す模式図である。
図6】本実施形態に係る高圧タンク(繊維が巻回されたライナー)の、ヘリカル層の積層間にブレーディング層の積層を介在させた積層部分を模式的に示す側面図である。
図7】本実施形態に係る高圧タンクの製造装置(樹脂含浸成形用金型)の、プリフォーム配置工程および真空脱気工程の状態を示す縦断面図である。
図8】本実施形態に係る高圧タンクの製造装置(樹脂含浸成形用金型)の、樹脂注入工程の状態を示す縦断面図である。
図9】本実施形態に係る高圧タンクの製造装置(樹脂含浸成形用金型)の、開閉機構が閉状態での樹脂注入工程を説明する、上型を取り外した下型の上面図である。
図10】本実施形態に係る高圧タンクの製造装置(樹脂含浸成形用金型)の、開閉機構が開状態での樹脂注入工程を説明する、上型を取り外した下型の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0021】
以下では、タンクの一例としての燃料電池車用高圧タンクを例に挙げて説明する。但し、本発明の適用対象となるタンクは、燃料電池車用高圧タンクに限定されるものではなく、タンクを構成するライナーないしプリフォームの形状、素材等も図示例に限られない。
【0022】
RTM法においては、ライナーに炭素繊維を幾重(幾層)にも巻き付ける(巻回する)ことによってライナーの外表面に繊維層が形成されたプリフォームを作成し、プリフォームの繊維層にエポキシ樹脂を含浸させて硬化させることによって、ライナーの外周に炭素繊維とエポキシ樹脂を含む繊維強化樹脂層が形成された燃料電池車用高圧タンクが製造される。ライナーは、高圧タンクの内部空間を形成する樹脂製(例えばナイロン樹脂製)の中空容器である。
【0023】
燃料電池車用高圧タンクは、炭素繊維が厚肉に積層されるため、炭素繊維の内層まで樹脂が含浸していかない。炭素繊維の内層まで樹脂を含浸させるために高圧で樹脂を注入すると、タンク自体の変形が発生するなど、品質、性能低下が発生する。また、タンク形状が円筒形であるため、樹脂を全体に均一に充填するのが困難で、樹脂含浸が均一にならない。また、ゲート付近に圧力が集中しやすく、そのゲート部が高圧になると共にゲート部と樹脂流動端末部(ゲート部とは反対側)の圧力差が大きい。
【0024】
つまり、燃料電池車用高圧タンクの炭素繊維の積層厚みは、強度確保のため、非常に厚く(通常のRTM成形ボデー部品の約10倍)、樹脂含浸が困難であるが、特許文献2のようなタンク回転では、炭素繊維の内層までの樹脂含浸効果は少ない。また、炭素繊維の内層まで樹脂を含浸させるために高圧で樹脂を注入すると、圧力分布が不均一になり、部分的に高圧になった部位では、タンク内側の樹脂製ライナーの変形が発生するなど、品質、性能低下が発生する。また、金型とタンクの隙間が狭く、ゲート部の反対側には樹脂が流れにくいため、樹脂が硬化する前に、全体へ樹脂を流動するためには、特許文献2のようにタンクを金型内で高速回転させる必要があるが、金型内のスペースは少なく、また、炭素繊維を損傷する可能性がある。
【0025】
そこで、本実施形態は、以下の構成が採用されている。
【0026】
(高圧タンクの構成)
まず、本発明の実施形態に係る高圧タンク10の構造について、図面を基に詳細に説明する。図1図2はそれぞれ、本実施形態に係る高圧タンク10(繊維が巻回されたライナー)を模式的に示す側面図、断面図である。なお、説明の便宜上、各図において適宜示す矢印Dを高圧タンク10の軸方向、矢印Rを高圧タンク10の径方向とする。また、高圧タンク10の中心軸CLの軸方向で、高圧タンク10(ライナー12)の中心から離れる側を「軸方向端部側」とする。また、それとは逆に高圧タンク10(ライナー12)の中心へ近づく側を「軸方向中央部側」とする。また、本実施形態に係る高圧タンク10は、その内部に、例えば燃料としての水素が充填されるようになっており、燃料電池車(図示省略)等に搭載されるようになっている。
【0027】
図1図2に示されるように、高圧タンク10は、容器本体としてのライナー12を有している。ライナー12は、一例として、ガスバリア性に優れ、かつ寸法安定性に優れる液晶樹脂材でブロー成形されており、円筒状の直胴部12Aと、直胴部12Aの両端(端部開口)に一体に形成された概略半球状のドーム部12Bと、を有している。より具体的に説明すると、このライナー12は、その長手方向(軸方向)の中間部において内径及び外径が一定とされた円筒状の直胴部12Aと、その長手方向(軸方向)の両側部分を構成し、直胴部12Aとは反対側(軸方向端部側)に向かうに従って徐々に窄まる(縮径する)ドーム部12Bと、を有している。
【0028】
また、ドーム部12Bは、その軸心部にライナー12における中心軸CLの軸方向端部側(外側)へ突出する円筒部12Cを含んでいる。円筒部12Cは、直胴部12Aよりも内径及び外径が、小径かつ略一定とされている。
【0029】
そして、高圧タンク10は、ライナー12の直胴部12Aの外周面とドーム部12Bの外周面とに、所定の幅を有するテープ状の繊維(繊維束ともいう)16が層状に巻き付けられて構成されている。繊維16は、ガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維等を含む繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastics)製とされており、ライナー12の外周面(外表面)に補強層としての繊維強化樹脂層(FRP層)を形成するようになっている。
【0030】
具体的に説明すると、ドーム部12Bの外周面(外表面)には、繊維16が互い違いに編まれるように巻き付けられるようになっており(以下「ブレーディング巻き」という場合がある)、そのブレーディング巻きされた繊維16によって第1繊維層としてのブレーディング層17Bが形成される。そして、このブレーディング層(第1繊維層)17Bに熱硬化性樹脂18(図8等)が含浸・硬化することによって補強層が形成されるようになっている。
【0031】
一方、直胴部12Aの外周面(外表面)には、繊維16がヘリカル状に巻き付けられるようになっており(以下「ヘリカル巻き」という場合がある)、そのヘリカル巻きされた繊維16によって第2繊維層としてのヘリカル層17Aが形成される。そして、このヘリカル層(第2繊維層)17Aに熱硬化性樹脂18(図8等)が含浸・硬化することによって補強層が形成されるようになっている。
【0032】
ヘリカル巻きとは、繊維16を、ライナー12の中心軸CLに対して所定の巻付角度+θで直胴部12Aの外周面全体に巻き付けた後、更にライナー12の中心軸CLに対して所定の巻付角度-θで、その上から(角度+θで巻き付けられた繊維16の上に交差して)巻き付けることを指す。つまり、ヘリカル層(第2繊維層)17Aは、直胴部12Aの外周面に繊維16が所定の巻付角度+θ及び巻付角度-θで少なくとも2層は巻き付けられることで構成されている。なお、直胴部12Aの内圧及び繊維(束)16の繊維本数等に起因するが、繊維(束)16は、実際には例えば数層~数十層程度(径方向に重ねてもしくは積層させて)巻き付けられる。
【0033】
ブレーディング巻きとは、上記したように、繊維16を、互い違いに編まれるように巻き付けることであり、ここではライナー12の中心軸CLに対して所定の巻付角度+θ及び巻付角度-θでドーム部12Bの外周面全体に巻き付けることを指す。
【0034】
つまり、ここではブレーディング巻きもヘリカル巻きも同じ巻付角度θで巻き付けられるようになっており、その巻付角度θは、公差を含め、θ=54.7度±10度の範囲内、好ましくはθ=54.7度±5度の範囲内、更に好ましくはθ=54.7度±1度の範囲内となっている。
【0035】
この巻付角度θは、所定の内圧が作用しているときの直胴部12Aにおける応力(軸方向の応力及び周方向の応力)から導出される角度であり、軸方向の応力に対して周方向の応力が2倍であることに起因する角度である。すなわち、詳細な計算式は省略するが、ネッティング理論(Netting theory)により、応力に応じた巻付角度θを計算したとき、tanθ=2となることから、θ=54.7度(平衡角)が導出されるようになっている。
【0036】
ここで、ドーム部12Bは、直胴部12Aに比べて、内圧が作用しているときの応力が小さいため、直胴部12Aに比べて、補強する度合いが小さくて済む。したがって、基本構造として、ドーム部12Bでは、ヘリカル巻き(ヘリカル層17A)に比べて繊維間隔が大きく繊維(密度)が粗で低強度となるブレーディング巻き(ブレーディング層17B)とされ、直胴部12Aでは、ブレーディング巻き(ブレーディング層17B)に比べて繊維間隔が小さく繊維(密度)が密で高強度となるヘリカル巻き(ヘリカル層17A)とされている。
【0037】
なお、詳細な構造説明は省略するが、ドーム部12Bにおけるブレーディング巻き(ブレーディング層17B)から直胴部12Aにおけるヘリカル巻き(ヘリカル層17A)への切り替え、逆に直胴部12Aにおけるヘリカル巻き(ヘリカル層17A)からドーム部12Bにおけるブレーディング巻き(ブレーディング層17B)への切り替えは、ライナー12における中心軸CLの軸方向と直交する方向から見て、直胴部12Aとドーム部12Bとの境界部近傍の軸方向で所定の長さの領域内で行われるようになっている。
【0038】
また、図示は省略するが、一例として、一方の円筒部12Cには、封止プラグが嵌合され、他方の円筒部12Cには、口金プラグが嵌合されるようになっており、その口金プラグには、バルブが装着されるようになっている。
【0039】
また、図3に示されるように、繊維16は、公知の製造装置(編組機ともいう)40により、ライナー12の外周面に巻き付けられるようになっている。製造装置40は、図4図5に示されるように、円周上に2列で配置された複数のボビン42、44を有しており、各列の複数のボビン42、44から繰り出される繊維16が、中心軸CLの軸方向(図3における左方向)へ移動するライナー12の一方のドーム部12Bの外周面、直胴部12Aの外周面、他方のドーム部12Bの外周面に順に巻き付けられていくようになっている。
【0040】
なお、一方及び他方のドーム部12Bに繊維16をブレーディング巻きする際には、図4に示されるように、実線で結ばれている複数のボビン42と仮想線で結ばれている複数のボビン44とが周方向に、かつ径方向内側と径方向外側に交互になるように配置される。そして、実線で結ばれている複数のボビン42と仮想線で結ばれている複数のボビン44とが互いに逆方向に移動しながら、それらの各ボビン42、44が径方向内側から径方向外側及び径方向外側から径方向内側へ順次入れ替わるように、製造装置40が駆動される。
【0041】
また、直胴部12Aに繊維16をヘリカル巻きする際には、図5に示されるように、実線で結ばれている複数のボビン42と仮想線で結ばれている複数のボビン44とが周方向に、かつ径方向外側と径方向内側に配置される。そして、実線で結ばれている複数のボビン42と仮想線で結ばれている複数のボビン44とが互いに逆方向に移動するように、製造装置40が駆動される。
【0042】
上記のように、本実施形態は、基本構造として、ドーム部12Bでは、繊維間隔が大きく繊維(密度)が粗で低強度となるブレーディング巻き(ブレーディング層17B)とされ、直胴部12Aでは、繊維間隔が小さく繊維(密度)が密で高強度となるヘリカル巻き(ヘリカル層17A)とされているが、樹脂18を含浸させやすくして、短時間で樹脂18を含浸させるべく、以下の構成が付加されている。
【0043】
すなわち、図2に示されるように、ヘリカル層17A(例えば数層~数十層程度で構成)の積層間(最内層の内側や最外層の外側を含む)の一部に、ブレーディング層17Bから連続してブレーディング層17Bの積層の一部(17D)を介在させるように、ライナー12の直胴部12Aの外周面とドーム部12Bの外周面とに繊維16が層状に巻き付けられて構成されている。
【0044】
具体的に説明すると、ドーム部12Bの外周面(外表面)における所定のブレーディング層17Bの積層箇所において、繊維16を、互い違いに編まれるように巻き付けた後(ブレーディング巻きした後)、そこから連続して(換言すると、ブレーディング巻きからヘリカル巻きへの切り替えを行うことなく)直胴部12Aの外周面(外表面)におけるヘリカル層17A(ブレーディング層17Bに隣接するヘリカル層17A)(最内層の場合は直胴部12Aの外周面)の上に、繊維16を、互い違いに編まれるように巻き付ける(図2の17D部分)。なお、直胴部12Aの外周面(外表面)におけるヘリカル層17Aの上に、繊維16を、互い違いに編まれるように巻き付けた後、そこから連続して他方のドーム部12Bの外周面(外表面)におけるブレーディング層17B(ヘリカル層17Aに隣接するブレーディング層17B)の上に、繊維16を、互い違いに編まれるように巻き付ける(ブレーディング巻きを行う)ことで、他方のドーム部12Bの外周面(外表面)にさらにブレーディング層17Bを形成する(図6を併せて参照)。
【0045】
上記のような繊維16の巻き付けを、ヘリカル層17A(例えば数層~数十層程度で構成)の積層間(最内層の内側や最外層の外側を含む)の一箇所(一層)、もしくは、複数箇所(複数層)で行うことで、ヘリカル層17Aの積層間に、ブレーディング層17Bから連続してブレーディング層17Bの積層の一部(17D)が介在することになる。なお、ヘリカル層17Aの積層間において、ブレーディング層17Bの積層を、一層毎に介在させてもよいし、複数層をまとめて介在させるようにしてもよい。図2では、ブレーディング層17Bの積層を一層毎に介在させる例を示している。
【0046】
これによって、繊維間隔が小さく繊維(密度)が密となるヘリカル層17Aの積層間に、(ブレーディング層17Bから連続して)繊維間隔が大きく繊維(密度)が粗となるブレーディング層17Bの積層の一部が介在するので、後述する樹脂注入時に樹脂18が含浸しやすくなり(特に、直胴部12Aの外周面におけるヘリカル層17A部分において)、短時間で樹脂18を含浸させることができる。
【0047】
高圧タンク10は、上記のようにしてライナー12に繊維16が層状に巻き付けられて形成された、ブレーディング層17B及びヘリカル層17A(ヘリカル層17Aの積層間のブレーディング層17Bの積層の一部17Dを含む)を含む繊維層17に、流動性を有する未硬化の熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂と硬化剤とが混合された樹脂。本明細書では、単に「樹脂」という場合がある)18を含浸させて加熱し、硬化させることにより、形成される。
【0048】
(高圧タンクの製造方法)
以上のような構成とされた高圧タンク10の製造方法について、図面を基に詳細に説明する。
【0049】
(繊維巻回工程)
本実施形態に係る高圧タンク10は、まず、ライナー12の外周面に繊維16を巻き付けることで構成される。すなわち、図3図5に示されるように、製造装置40の複数のボビン42、44から順次繊維16が繰り出され、まず一方のドーム部12Bの外周面にその繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層17Bを形成する(第1工程)。詳しくは、ドーム部12Bの直胴部12A側とは反対側の端部から直胴部12A側の端部まで、順次繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層17Bを形成する。
【0050】
一方のドーム部12Bの外周面に対する繊維16のブレーディング巻きが終了したら、それに続いて、直胴部12Aの外周面に繊維16をヘリカル巻きしてヘリカル層17Aを形成する(第2工程)。詳しくは、直胴部12Aの一方のドーム部12B側の端部から他方のドーム部12B側の端部まで、順次繊維16をヘリカル巻きしてヘリカル層17Aを形成する。なお、ドーム部12Bにおけるブレーディング巻きから、直胴部12Aにおけるヘリカル巻きへの切り替えは、製造装置40の複数のボビン42、44の配置(図4図5)を所定時間幅で切り替えることによって、ドーム部12Bと直胴部12Aとの境界部近傍の軸方向で所定の長さの領域内で行われる。ここで、上記領域内において、繊維16は、ブレーディング巻きからヘリカル巻きへ同じ巻付角度θでスムーズに切り替わることができる。
【0051】
直胴部12Aの外周面に対する繊維16のヘリカル巻きが終了したら、それに続いて、他方のドーム部12Bの外周面に繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層17Bを形成する(第3工程)。詳しくは、ドーム部12Bの直胴部12A側の端部から直胴部12A側とは反対側の端部まで、順次繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層17Bを形成する。なお、直胴部12Aにおけるヘリカル巻きから、ドーム部12Bにおけるブレーディング巻きへの切り替えも、製造装置40の複数のボビン42、44の配置(図4図5)を所定時間幅で切り替えることによって、直胴部12Aとドーム部12Bとの境界部近傍の軸方向で所定の長さの領域内で行われる。ここで、上記領域内において、繊維16は、ヘリカル巻きからブレーディング巻きへ同じ巻付角度θでスムーズに切り替わることができる。
【0052】
なお、一方及び他方のドーム部12B及び直胴部12Aに巻き付ける繊維16の巻付角度θは、例えば54.7度±10度の範囲内とされている。
【0053】
また、本実施形態では、所定のブレーディング層17Bの積層箇所において、繊維16のブレーディング巻きが終了したら、上記のようなドーム部12Bにおけるブレーディング巻きから直胴部12Aにおけるヘリカル巻きへの切り替えを行わず、それに続いて、直胴部12Aの外周面(詳しくは、直胴部12Aの外周面におけるヘリカル層17Aの積層部分の外周面)に繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層(図2の17Dに相当する部分)を形成する。また、直胴部12Aの外周面(詳しくは、直胴部12Aの外周面におけるヘリカル層17Aの積層部分の外周面)に対する繊維16のブレーディング巻きが終了したら、(上記のような直胴部12Aにおけるヘリカル巻きからドーム部12Bにおけるブレーディング巻きへの切り替えを行わず、)それに続いて、他方のドーム部12Bの外周面に繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層17Bを形成する(図6)。
【0054】
換言すると、所定のブレーディング層17Bの積層箇所においては、一方のドーム部12Bの直胴部12A側とは反対側の端部から他方のドーム部12Bの直胴部12A側とは反対側の端部まで(ライナー12の軸方向の全長にわたって)、順次繊維16をブレーディング巻きしてブレーディング層(17B、17D、17B)を形成する(図6)。
【0055】
上記のような繊維16の巻き付けを、ヘリカル層17A(例えば数層~数十層程度で構成)の積層間(最内層の内側や最外層の外側を含む)の一箇所(一層)、もしくは、複数箇所(複数層)で行うことで、ヘリカル層17Aの積層間に、ブレーディング層17Bから連続してブレーディング層17Bの積層の一部(17D)を介在させる。
【0056】
上記のようにして、繊維16を、最終的には例えば数層~数十層程度(径方向に重ねてないし積層させて)巻き付けることで、中空のライナー12の外周面(外表面)に、繊維16を巻き付けて成る繊維層17(ブレーディング層17B及びヘリカル層17A(ヘリカル層17Aの積層間のブレーディング層17Bの積層の一部17Dを含む))が形成された中間体としてのプリフォーム11(図7図10)を形成する。
【0057】
(樹脂注入(樹脂含浸成形)工程)
上記のようにして、中空のライナー12に繊維16が巻き付けられて繊維層17が形成されたプリフォーム11(図7図10)を、製造装置としての樹脂含浸成形用金型50内(下型60と上型80との間、キャビティーともいう)に配置し、金型50内に熱硬化性樹脂18を注入し、繊維層17(を構成する繊維16)に熱硬化性樹脂18を含浸させて加熱し、硬化させる。
【0058】
具体的に説明すると、図7図8に示されるように、金型50(図示例では下型60)には、真空ポンプ61が接続されている真空脱気配管62が埋設されている。
【0059】
また、金型50(図示例では上型80)には、樹脂注入機81が接続されている樹脂注入配管(樹脂注入ゲートともいう)82が埋設されている。
【0060】
また、図9図10に示されるように、金型50(図示例では下型60)には、前記樹脂注入配管82に連設して、樹脂18が流動すると共にキャビティーに開口するゲート(樹脂注入口)を形成するランナー(72A、72B)が複数本形成されている。ランナー72Aは、プリフォーム11の軸方向の中央部(すなわち、直胴部12Aの中央部付近)において、樹脂注入配管82からプリフォーム11の径方向に延びている。ランナー72Aで形成されるゲート74Aは、プリフォーム11の軸方向の中央部(すなわち、直胴部12Aの中央部付近)においてプリフォーム11の径方向に開口している。したがって、ゲート74Aから金型50内(キャビティー)の直胴部12Aの外周面におけるヘリカル層(第2繊維層)17Aへプリフォーム11の径方向(言い換えると、ヘリカル層17Aの板厚方向ないし積層方向)に樹脂18を注入することができる。また、ランナー72Bは、樹脂注入配管82からプリフォーム11の径方向に延びているランナー72Aからプリフォーム11の軸方向の両側に分岐するように延びている。ランナー72Bで形成されるゲート74Bは、プリフォーム11の軸方向の両端部(すなわち、両端のドーム部12Bの中央部付近)においてプリフォーム11の軸方向に開口している。したがって、ゲート74Bから金型50内(キャビティー)のドーム部12Bの外周面におけるブレーディング層(第1繊維層)17Bへプリフォーム11の軸方向(言い換えると、ヘリカル層17Aの積層延在方向)に樹脂18を注入することができる。
【0061】
なお、図9図10に示される例では、プリフォーム11の軸方向の中央部に位置するランナー72A、及び、プリフォーム11の軸方向の両端部に位置するランナー72Bはそれぞれ、プリフォーム11の中心軸CLに対して対向する位置に(言い換えると、プリフォーム11の前後で対を成すように)形成されている。
【0062】
また、本実施形態では、プリフォーム11の軸方向の中央部に位置するランナー72Aを所定のタイミングで開閉すべく、当該ランナー72Aに、開閉弁等で構成される開閉機構76が設けられている。例えば開閉機構76によって当該ランナー72Aを閉じると、ゲート74Aから金型50内(キャビティー)への樹脂18の注入を遮断することができる。
【0063】
プリフォーム11の繊維層17(を構成する繊維16)に熱硬化性樹脂18を含浸させるに当たっては、まず、所定温度(熱硬化性樹脂18の硬化温度以上の温度)に保温された上記の構成を有する金型50内(下型60と上型80との間)にプリフォーム11を配置した状態で(言い換えれば、型締め完了後に)、真空ポンプ61を制御することによって、金型50内を真空脱気する(図7)。
【0064】
上記の真空脱気停止(完了)後、樹脂注入機81を駆動することによって、金型50内に熱硬化性樹脂18を注入する(図8)。ここで、金型50内に配置されたプリフォーム11の繊維層17への熱硬化性樹脂18の注入(含浸)は、プリフォーム11(ライナー12)の軸方向(積層延在方向)と径方向(板厚方向ないし積層方向)とで別々に行う。
【0065】
詳しくは、最初に、開閉機構76が閉じられた状態(すなわち、ランナー72Aが閉じられてゲート74Aから金型50内への樹脂18の注入を遮断した状態)で、樹脂注入配管82内を(未硬化の)樹脂18が流れ、ランナー72Bを介してゲート74Bから、金型50内(キャビティー)のドーム部12Bの外周面におけるブレーディング層(第1繊維層)17Bへプリフォーム11の軸方向に樹脂18が注入(吐出)される(図9)。
【0066】
これによって、繊維間隔が大きく繊維(密度)が粗となるブレーディング層(第1繊維層)17Bへプリフォーム11の軸方向に樹脂18が注入(吐出)されて、繊維層17に樹脂18が含浸していく。このとき、ヘリカル層17Aの積層間に、ブレーディング層17Bから連続してブレーディング層17Bの積層の一部(17D)が介在するので(図2参照)、繊維間隔が小さく繊維(密度)が密となるヘリカル層17Aの積層間にも、(ブレーディング層17Bを通して)樹脂18が含浸していく。
【0067】
その後、開閉機構76を開く制御を行い、開閉機構76が開かれた状態(ランナー72Aが開かれた状態)で、樹脂注入配管82内を(未硬化の)樹脂18が流れ、ランナー72Bを介してゲート74Bから、金型50内(キャビティー)のドーム部12Bの外周面におけるブレーディング層(第1繊維層)17Bへプリフォーム11の軸方向に樹脂18が注入(吐出)されるとともに、ランナー72Aを介してゲート74Aから、金型50内(キャビティー)の直胴部12Aの外周面におけるヘリカル層(第2繊維層)17Aへプリフォーム11の径方向に樹脂18が注入(吐出)される(図10)。
【0068】
これによって、繊維間隔が大きく繊維(密度)が粗となるブレーディング層(第1繊維層)17Bへプリフォーム11の軸方向に樹脂18が注入(吐出)されるとともに、繊維間隔が小さく繊維(密度)が密となるヘリカル層(第2繊維層)17Aへプリフォーム11の径方向に樹脂18が注入(吐出)されて(言い換えると、プリフォーム11の軸方向および径方向の両方向で樹脂18が注入されて)、繊維層17の全体に樹脂18が含浸していく。
【0069】
なお、開閉機構76を開くタイミング(すなわち、ランナー72Aを介してゲート74Aから樹脂18を注入するタイミング)は、流動する樹脂18の圧力を検出する圧力センサから得られる計測値を基に判断してもよいし、予め実験等で求めたタイミングを基に判断してもよい。
【0070】
樹脂18が繊維層17の積層内に含浸完了後、樹脂注入を停止して加熱し、硬化させることにより、ライナー12の外周に補強層としての繊維強化樹脂層が形成される。これにより、耐腐食性に優れるとともに、軽量化及び低コスト化が図れ、かつ運搬及び取り扱いが容易な高圧タンク10が得られる。
【0071】
以上で説明したように、燃料電池車用高圧タンクにおいて、RTM含浸技術によるタンク製造時、エポキシ樹脂を、厚肉積層の(炭素繊維を厚肉に巻いた)大型タンク全体に、均一に樹脂圧力をかけて、充填、含浸、硬化させることは困難であり、生産性低下やタンク性能低下に繋がる。また、タンクは、炭素繊維を厚肉積層しているため、樹脂を高圧充填しないと、炭素繊維の最内層まで含浸しないが、そのため、ゲート直下等の圧力が高くなりすぎて、タンク内部の樹脂製ライナーの変形や、繊維ズレ等、生産性低下やタンク性能低下に繋がる重要品質問題が発生する。
【0072】
本実施形態は、積層タンクの樹脂流動性の画期的向上を目的とし、ドーム部と直胴部を有するタンクの製造方法であって、ライナーを準備する工程と、準備したライナーに繊維を巻回する工程と、巻回した繊維に樹脂を注入する工程と、注入した樹脂を硬化させる工程を有し、巻回する工程では、ドーム部が直胴部より粗になるように巻回し、注入する工程では、ドーム部から樹脂を注入すると共に、積層延在方向のより一層の含浸性向上のため、直胴部(のヘリカル層)の積層間に(ブレーディング層から連続して)粗な積層を入れる。
【0073】
また、樹脂含浸時において、積層延在方向に樹脂注入する工程と、板厚方向ないし積層方向に樹脂注入する工程の両方を有すると共に、積層延在方向の樹脂注入と板厚方向ないし積層方向の樹脂注入を分けて行うと共に、積層延在方向の樹脂注入を先に行い、含浸性を制御して、タンク全体の含浸性を向上させる。
【0074】
また、RTM金型内の樹脂流動のランナーに開閉機構76を有する金型50であり、タンク構造の繊維が粗になり、且つ、含浸性が良い積層延在方向に流れるドーム部を先に樹脂注入して、積層延在方向が樹脂含浸した後、時間差をつけて、板厚方向に樹脂を注入することで、お互いの含浸性を損なうことなく、含浸性を制御すると共に、樹脂流動の圧力を観測する等して、樹脂流動性のフィードバック自動制御も可能となる。
【0075】
積層延在方向に沿って樹脂注入できるので、炭素繊維の内層まで含浸でき、且つ、より内層まで含浸できる。また、タンクが軸方向に長くなった時にも樹脂の含浸がムラなくできる。また、各方向(積層延在方向、板厚方向)の樹脂の注入圧が阻害しあわないので、より炭素繊維の内層まで樹脂含浸できる。また、抵抗の少ない積層延在方向の樹脂注入を行うことで、樹脂の粘度により繊維の移動が抑制されて板厚方向樹脂注入時にも繊維ずれの発生を抑制できる。
【0076】
これにより、RTM含浸技術によりエポキシ樹脂を含浸させる際、タンク全体に均一に、且つ、低圧で積層延在方向及び板厚方向にも、エポキシ樹脂を含浸することができるため、高圧タンクの性能向上と品質の安定化を図ることができると共に、樹脂の高速充填も可能になり、大幅な成形サイクル短縮も図れる。
【0077】
このように、本実施形態によれば、繊維巻き付け時に繊維(繊維密度)が粗となる箇所をドーム部12Bと直胴部12Aの両方に設けることで、樹脂注入時の抵抗が小さくなるため、樹脂18を含浸させやすくなり、短時間での樹脂含浸が可能となる。
【0078】
また、樹脂注入時に各方向(軸方向ないし積層延在方向、径方向ないし板厚方向)の樹脂18の注入圧が阻害し合わないため、短時間で内層までの樹脂含浸が可能となる。
【0079】
なお、上記実施形態では、ヘリカル層17Aの積層間においてその全面に(ヘリカル層17Aの外周面の全体を覆うように)、ブレーディング層17Bの積層の一部を介在させるようにしているが(図6参照)、ヘリカル層17Aの積層間においてその一部の表面のみに、ブレーディング層17Bの積層の一部を介在させるようにしてもよいことは当然である。
【0080】
また、直胴部12Aの外周面に繊維をヘリカル状に巻き付けて(ヘリカル巻きして)ヘリカル層を形成するものとしているが、例えば巻付角度θを適宜に調整するなどして、直胴部12Aの外周面に繊維をフープ状に巻き付けて(フープ巻きして)フープ層を形成するようにしてもよい。また、ドーム部12Bの外周面に繊維を巻き付けて成る第1繊維層(の繊維密度)が直胴部12Aの外周面に繊維を巻き付けて成る第2繊維層(の繊維密度)よりも粗となるようにすれば、繊維の巻き方自体は上述した形態に限定されないことは詳述するまでも無い。
【0081】
また、例えば、ライナー12は、液晶樹脂製に限定されるものではない。ライナー12は、例えば高密度ポリエチレン等のガスバリア性を有する他の合成樹脂製であってもよいし、アルミニウム合金等の軽量金属製であってもよい。また、ライナー12は、ブロー成形によって製造されるものに限定されるものではなく、射出成形等によって製造されてもよい。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
10 高圧タンク(タンク)
11 プリフォーム
12 ライナー
12A 直胴部
12B ドーム部
12C 円筒部
16 繊維
17 繊維層
17A ヘリカル層(第2繊維層)
17B ブレーディング層(第1繊維層)
18 熱硬化性樹脂(樹脂)
50 金型
60 下型
72A、72B ランナー
74A、74B ゲート
76 開閉機構
80 上型
CL 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10