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特許7501488運転支援装置、方法、プログラム、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】運転支援装置、方法、プログラム、及び車両
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240611BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20240611BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20240611BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/08
B60W40/09
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021165036
(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公開番号】P2023055557
(43)【公開日】2023-04-18
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グエン ヴァン クイ フン
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥司
(72)【発明者】
【氏名】服部 彰
(72)【発明者】
【氏名】ヴ マイン ズン
(72)【発明者】
【氏名】名切 末晴
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206040(JP,A)
【文献】特開2021-142788(JP,A)
【文献】特開2019-043313(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60W 30/08
B60W 40/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転支援装置であって、
前記車両の実際の走行において、前記車両が衝突するリスクがある対象である物標を追い越す時における走行データを収集する収集部と、
前記収集部が収集した前記走行データから前記車両のドライバーの運転操作内容を学習し、前記車両のドライバーの運転操作内容に基づいて前記物標を回避するための感度指標値iPREを演算する演算部と、
前記演算部で演算された前記感度指標値iPREに基づいて、前記ドライバーに適用する運転支援方法を決定する決定部と、
前記決定部で決定された前記運転支援方法を実行する実行部と、を備え
前記走行データは、前記車両の速度、前記物標の速度、前記車両と前記物標との前後方向の距離、及び前記車両と前記物標との横方向の距離を、少なくとも含み、
前記演算部は、前記車両と前記物標との前後方向の実距離D1a、前記前後方向の距離に関して前記学習で得られた前記ドライバーの推定と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚m、前記車両と前記物標との横方向の距離D2a、前記横方向の距離に関して前記学習で得られた前記ドライバーの推定と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚n、前記車両の実速度V1、前記車両と前記物標との実相対速度Vra、前記速度に関して前記学習で得られた前記ドライバーが抱く感覚と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚α、及び前記車両の減速時にはプラスで加速時にはマイナスとなる速度感覚パラメータsignに基づいて、前記ドライバーの前記感度指標値iPREを、下記の第1式に従って演算する、運転支援装置。
【数1】
【請求項2】
車両の運転支援装置のコンピューターが実行する方法であって、
前記車両の実際の走行において、前記車両が衝突するリスクがある対象である物標を追い越す時における走行データを収集するステップと、
前記収集した前記走行データから前記車両のドライバーの運転操作内容を学習するステップと、
前記車両のドライバーの運転操作内容に基づいて前記物標を回避するための感度指標値iPREを演算するステップと、
前記感度指標値iPREに基づいて、前記ドライバーに適用する運転支援方法を決定するステップと、
前記運転支援方法を実行するステップと、を含み、
前記走行データは、前記車両の速度、前記物標の速度、前記車両と前記物標との前後方向の距離、及び前記車両と前記物標との横方向の距離を、少なくとも含み、
前記演算するステップでは、前記車両と前記物標との前後方向の実距離D1a、前記前後方向の距離に関して前記学習で得られた前記ドライバーの推定と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚m、前記車両と前記物標との横方向の距離D2a、前記横方向の距離に関して前記学習で得られた前記ドライバーの推定と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚n、前記車両の実速度V1、前記車両と前記物標との実相対速度Vra、前記速度に関して前記学習で得られた前記ドライバーが抱く感覚と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚α、及び前記車両の減速時にはプラスで加速時にはマイナスとなる速度感覚パラメータsignに基づいて、前記ドライバーの前記感度指標値iPREを、下記の第1式に従って演算する、方法。
【数1】
【請求項3】
車両の運転支援装置のコンピューターに実行させるプログラムであって、
前記車両の実際の走行において、前記車両が衝突するリスクがある対象である物標を追い越す時における走行データを収集するステップと、
前記収集した前記走行データから前記車両のドライバーの運転操作内容を学習するステップと、
前記車両のドライバーの運転操作内容に基づいた、衝突するリスクがある対象である物標を回避するための感度指標値iPREを演算するステップと、
前記感度指標値iPREに基づいて、前記ドライバーに適用する運転支援方法を決定するステップと、
前記運転支援方法を実行するステップと、を含み、
前記走行データは、前記車両の速度、前記物標の速度、前記車両と前記物標との前後方向の距離、及び前記車両と前記物標との横方向の距離を、少なくとも含み、
前記演算するステップでは、前記車両と前記物標との前後方向の実距離D1a、前記前後方向の距離に関して前記学習で得られた前記ドライバーの推定と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚m、前記車両と前記物標との横方向の距離D2a、前記横方向の距離に関して前記学習で得られた前記ドライバーの推定と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚n、前記車両の実速度V1、前記車両と前記物標との実相対速度Vra、前記速度に関して前記学習で得られた前記ドライバーが抱く感覚と現実とのずれを数値化した前記ドライバーの感覚α、及び前記車両の減速時にはプラスで加速時にはマイナスとなる速度感覚パラメータsignに基づいて、前記ドライバーの前記感度指標値iPREを、下記の第1式に従って演算する、プログラム。
【数1】
【請求項4】
請求項1に記載の運転支援装置を搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載され、車両と物標との衝突を回避するための運転支援を行う運転支援装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両のドライバーによる運転操作の傾向に基づいた側方距離と余裕間隔とに応じて、車両の前方に存在する物標(歩行者、自転車、駐車車両、電信柱など)と車両との衝突を回避するための支援を行うタイミングを決定する運転支援装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-130069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が歩行者や自転車などの移動する物標と接触することを回避するための運転支援技術においては、ドライバーの運転特性に応じてドライバーにとって適切な内容となる支援を行うことが求められる。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、車両のドライバーの運転特性に応じて適切な内容の運転支援を行うことができる運転支援装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両の運転支援装置であって、車両のドライバーの運転操作内容に基づいた、衝突するリスクがある対象である物標を回避するための感度指標値を演算する演算部と、演算部で演算された感度指標値に基づいて、ドライバーに適用する運転支援方法を決定する決定部と、決定部で決定された運転支援方法を実行する実行部と、を備える、運転支援装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記本開示の運転支援装置などによれば、車両のドライバーの運転特性に応じて適切な内容の運転支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る運転支援装置を含む車両用システムの概略構成図
図2】運転支援装置が実行するデータ収集学習処理のフローチャート
図3】自転車と車両とにおける距離及び速度の関係の一例を示した図
図4】運転支援装置が実行する運転支援処理のフローチャート
図5】リスク回避感度指標値(iPRE値)に基づいた運転支援内容の一例
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の運転支援装置は、路側帯などの道路脇を通行する歩行者などが車両の進行方向に存在する場面において、車両がその歩行者などを追い越す場合、車両のドライバーについてこれまでに学習した速度感覚及び距離感覚に基づいて、操舵支援や減速支援を実施する。これにより、車両のドライバーの運転特性に適切でありかつ安全を優先させた運転支援を提供することができる。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る運転支援装置20を含む車両用システム1の概略構成を示す図である。図1に例示した車両用システム1は、外界センサ11と、速度センサ12と、加速度センサ13と、舵角センサ14と、運転支援装置20と、HMI制御部31と、動力源制御部32と、ステアリング制御部33と、ブレーキ制御部34と、を備えている。この車両用システム1は、自動車などの車両に搭載され得る。
【0011】
外界センサ11は、車両の外界に関する情報を検出/取得するためのセンサである。具体的には、外界センサ11は、車両前部に設置され、主に車両周辺の前方に存在する交通弱者(VRU:Vulnerable Road Users)と呼ばれる歩行者や自転車などの物標を検出し、検出した物標の情報(種類、速度、距離など)を取得する。また、外界センサ11は、車両が走行する道路の情報(中央分離線の有無、道路幅など)を取得する。この外界センサ11には、例えば、レーザー、ミリ波、マイクロ波、又は超音波を利用したレーダーセンサや、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を利用したカメラセンサなど、を用いることができる。外界センサ11で検出/取得された車両の外界に関する情報(物標の情報及び走行道路の情報など)は、運転支援装置20に出力される。
【0012】
速度センサ12は、車両の速度を検出/取得するためのセンサである。この速度センサ12には、例えば、車両の各車輪に設置された車輪の回転速度(又は回転量)を検出するための車輪速センサを用いることができる。速度センサ12で検出/取得された車両の速度は、車両に関する情報として運転支援装置20に出力される。
【0013】
加速度センサ13は、車両に加わる加速度Gの大きさを検出/取得するためのセンサである。この加速度センサ13には、車両の所定の場所に設置され、例えば車両の前後方向、車幅方向、及び上下方向の加速度を検出する3軸加速度計を利用することができる。加速度センサ13で検出/取得された加速度の情報は、車両に関する情報として運転支援装置20に出力される。
【0014】
舵角センサ14は、車両のドライバーの操舵操作に応じたステアリングの操舵角を検出/取得するためのセンサである。この舵角センサ14は、例えば、車両のステアリング制御部33に設置されている。舵角センサ14で検出/取得されたステアリングの操舵角の情報は、車両に関する情報として運転支援装置20に出力される。
【0015】
HMI(Human Machine Interface)制御部31は、運転支援装置20から出力される指示に従って、車両のドライバーに対する運転支援の作動状態などの情報提示を制御することが可能な手段である。情報提示には、例えば、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、ナビゲーションシステムのモニター、メーターパネル、及びスピーカーなどの各種のデバイス(図示せず)が用いられる。
【0016】
動力源制御部32は、運転支援装置20から出力される指示に従って、例えば内燃エンジンや走行モーターなどの車両の動力源となるアクチュエーター(図示せず)を制御して、これらの動力源でそれぞれ発生させる駆動力や制動力を制御することが可能な手段である。
【0017】
ステアリング制御部33は、運転支援装置20から出力される指示に従って、例えば電動パワーステアリング機構(図示せず)によって車両のステアリング操舵を補助する力を制御することが可能な手段である。
【0018】
ブレーキ制御部34は、運転支援装置20から出力される指示に従って、例えば電動ブレーキ機構(図示せず)によって車両のブレーキ装置を介して車輪に発生させる制動力を制御することが可能な手段である。
【0019】
運転支援装置20は、外界センサ11、速度センサ12、加速度センサ13、及び舵角センサ14などから得られる車両に関する情報や車両の外界に関する情報(物標の情報及び走行道路の情報など)などに基づいて、HMI制御部31、動力源制御部32、ステアリング制御部33、及びブレーキ制御部34に対して制御指示を行い、車両のドライバーに対して好適な運転支援を実施する。
【0020】
この運転支援装置20は、典型的にはプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスなどを含んだ電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の一部又は全部として構成され得る。本実施形態の運転支援装置20は、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが読み出して実行することによって、以下に説明する収集部21、演算部22、決定部23、及び実行部24の各機能を実現する。
【0021】
収集部21は、外界センサ11、速度センサ12、加速度センサ13、及び舵角センサ14などから、運転支援に必要な車両に関する情報及び車両の外界に関する情報(物標の情報及び走行道路の情報など)を含んだ走行データを収集する。この走行データの詳細については、後述する。演算部22は、車両のドライバーの運転操作内容(運転特性、運転感覚)を学習し、学習の結果を反映させたリスク回避感度指標(iPRE:improved of Perceptual Risk Estimate)を演算する。このリスク回避感度指標(iPRE)とは、車両が物標に接近して側方を通過する際に、車両が衝突するリスクがある対象となる物標との接触を避けるためにドライバーが取り得る運転操作の特性を数値化したものである。このリスク回避感度指標(iPRE)の詳細については、後述する。決定部23は、演算部22によって演算されたリスク回避感度指標(iPRE)に基づいて、車両のドライバーに適切な運転支援の内容(運転支援方法)を決定する。決定した運転支援の内容は、ドライバーの感覚に適した内容となる。この運転支援内容の決定方法の詳細については、後述する。実行部24は、決定部23によって決定された運転支援の内容に従って、車両のドライバーの運転を支援する。
【0022】
[制御]
次に、図2乃至図5をさらに参照して、本実施形態に係る運転支援装置20が実行する処理を説明する。運転支援装置20が実行する処理として、データ収集学習処理と運転支援処理とがある。
【0023】
(1)データ収集学習処理
図2は、運転支援装置20の収集部21及び演算部22が実行するデータ収集学習処理の手順を説明するフローチャートである。この図2に例示するデータ収集学習処理は、例えば、車両の進行方向の路側帯やガードレールのない歩道などの車道側にはみ出す危険性がある場所に、衝突リスクの対象となる歩行者や自転車などの物標(VRU)が検出されることによって実行される。
【0024】
(ステップS201)
運転支援装置20の収集部21は、車両が物標(VRU)を追い越す時における走行データを収集する。収集する走行データには、車両の速度V、物標の速度V、車両と物標との前後方向の距離D(longitudinal gap of between vehicle and VRU)、及び車両と物標との横方向の距離D(lateral gap of between vehicle and VRU)が、少なくとも含まれる。図3は、車道を走行する車両と路側帯を車両と同じ方向に移動する自転車(物標)との間における、距離及び速度の関係の一例を示した図(the situation of a vehicle (with velocity V1) before overtaking a cyclist who moving (with velocity V2) on the shoulder in the same direction)である。走行データを収集するタイミングや回数は、一例として、車両と物標とが所定の第1距離(前後方向の距離D又は相対距離D)に近づいてから、車両が物標を追い越した後、車両が物標から所定の第2距離(前後方向の距離D又は相対距離D)を離れるまでの期間において、所定の間隔(一定の時間間隔や一定の距離間隔など)で複数回とすることができる。物標追い越し時の走行データが収集されると、ステップS202に処理が進む。
【0025】
(ステップS202)
運転支援装置20の演算部22は、収集部21が収集した物標追い越し時の走行データを用いて、車両のドライバーの運転操作内容(運転特性、運転感覚)を学習する。本実施形態の演算部22は、ドライバーの速度感覚α(parameter of speed perception)と、前後方向距離及び横方向距離の予測に対するドライバー感覚m及びn(parameter of distance estimation)とを、学習する。このドライバーの速度感覚αは、車両及び物標の速度に関してドライバーが抱く感覚と現実とのずれを表現したパラメータといえる。前後方向距離の予測に対するドライバー感覚mは、車両と物標との前後方向距離に関してドライバーの推定と現実とのずれを表現したパラメータといえる。横方向距離の予測に対するドライバー感覚nは、車両と物標との横方向距離に関してドライバーの推定と現実とのずれを表現したパラメータといえる。これらパラメータの学習は、車両のドライバーのリスク回避感度指標(iPRE)を用いて、次のようにして行われる。
【0026】
リスク回避感度指標(iPRE)は、車両の速度V、自転車の速度V、車両と自転車(物標)との前後方向の距離D、及び車両と自転車との横方向の距離Dに基づいて、下記の第1式によって表される。
【数1】
… [第1式]
【0027】
上記第1式において、値Vr(actual relative velocity between vehicle and VRU)は、実速度Vの車両から見た実速度Vの自転車(物標)の実相対速度(Vr=V-V)である。値sign(parameter of speed perception)は、車両の減速時にはプラスとなり、車両の加速時にはマイナスとなる、速度感覚パラメータである(sign=+1 during deceleration, sign=-1 during acceleration)。値D1a(actual longitudinal gap of between vehicle and VRU)は、車両と自転車との前後方向距離Dの実測値(実距離)であり、ドライバー感覚mをべき乗することでドライバーが知覚している前後方向の接近感を推定する。また、値D2a(actual lateral gap of between vehicle and VRU)は、車両と自転車との横方向距離Dの実測値(実距離)であり、ドライバー感覚nをべき乗することでドライバーが知覚している横方向の接近感を推定する。
【0028】
演算部22は、上記ステップS201において収集した複数の走行データについて、前回までの走行によって学習されているドライバーの速度感覚αと、前後方向距離及び横方向距離の予測に対するドライバー感覚m及びnとを適用して、リスク回避感度指標(iPRE)の値をそれぞれ演算する。なお、初回の物標追い越し時など、ドライバーの速度感覚α、m、及びnの値がまだ学習されていない場合には、それぞれにデフォルト値が用いられる。そして、演算部22は、演算した複数のリスク回避感度指標値(iPRE値)のから最大値max(iPRE)及び最小値min(iPRE)を抽出し、下記の第2式に示す最大値max(iPRE)と最小値min(iPRE)との差分値Jが最も小さく(minimize)なるドライバーの速度感覚α、m、及びnの値を導出する。
【数2】
… [第2式]
【0029】
演算部22は、演算によって導出した新たなドライバーの速度感覚α、m、及びnの値を、学習した値として更新する。ドライバーの速度感覚α、m、及びnの値が学習されると、ステップS203に処理が進む。
【0030】
(ステップS203)
運転支援装置20の演算部22は、上記ステップS202によって学習して更新されたドライバーの速度感覚αの値と、前後方向距離及び横方向距離の予測に対するドライバー感覚m及びnの値とを用いて、上記第1式に基づいてリスク回避感度指標値(iPRE値)を改めて演算する。リスク回避感度指標値(iPRE値)が演算されると、ステップS204に処理が進む。
【0031】
(ステップS204)
運転支援装置20の演算部22は、上記ステップS203において新たに演算したリスク回避感度指標値(iPRE値)を、今回の運転で自転車(物標)の追い越しを行った車両のドライバーの情報と紐付けて、運転支援装置20が有する所定のメモリなどに記憶する。なお、車両のドライバーが誰であるかについては、例えば、ドライバーが所持している電子キーの固有IDによる判定や、調整されたドライビング(シート)ポジションによる判定や、ドライバーカメラによる画像解析による判定など、周知の判定手法を用いることで個人を特定することが可能である。リスク回避感度指標値(iPRE値)が、個人の特定が可能であるドライバー情報と紐付けて記憶されると、本データ収集学習処理が終了する。
【0032】
(2)運転支援処理
図4は、運転支援装置20の決定部23及び実行部24が実行する運転支援処理の手順を説明するフローチャートである。この図4に例示する運転支援処理は、例えば、車両の進行方向の路側帯やガードレールのない歩道などの車道側にはみ出す危険性がある場所に、衝突リスクの対象となる歩行者や自転車などの物標(VRU)が検出されることによって実行される。
【0033】
(ステップS401)
運転支援装置20の決定部23は、所定のメモリなどから、ドライバーの情報と紐付けて記憶されているリスク回避感度指標値(iPRE値)を取得する。車両のドライバー個人の特定については、上述した通りである。なお、車両のイグニッションオン(IG-ON)からイグニッションオフ(IG-OFF)までの1トリップ中にドライバーが代わることがないような場面では、上述したデータ収集学習処理のステップS203でリスク回避感度指標値(iPRE値)が演算されるごとに、次の物標回避行動においてこの新たに演算されたリスク回避感度指標値(iPRE値)が取得されることとなる。ドライバーに紐付けられたリスク回避感度指標値(iPRE値)が取得されると、ステップS402に処理が進む。
【0034】
(ステップS402)
運転支援装置20の決定部23は、上記ステップS401において取得したリスク回避感度指標値(iPRE値)の高低を判断する。一例として、決定部23は、リスク回避感度指標値(iPRE値)が予め定めた閾値を超えるか否かによって、リスク回避感度指標値(iPRE値)の高低を判断することができる。この閾値は、数多くのドライバーから得られた運転データの統計結果などに基づいて適切に設定することができる。リスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合は(S402、高い)、ステップS403に処理が進み、リスク回避感度指標値(iPRE値)が「低い」場合は(S402、低い)、ステップS404に処理が進む。
【0035】
(ステップS403)
運転支援装置20の実行部24は、車両のドライバーに対して、リスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合における運転支援を実施する。リスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合における運転支援の内容を、図5の左欄に例示する。
【0036】
本実施形態では、リスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合、車両が物標を通過する際における車両と物標との横方向の間隔(横間隔)を中心とした支援が実施される。より具体的には、ステアリング制御部33を用いたステアリングの回転を中心とした操舵支援が実施される。支援量の目標値として、車両が衝突するリスクがある対象となる物標(以下「リスク対象」という)と車両との横間隔に関しては、リスク対象の種類に応じて目標とする横間隔を変化させる(可変目標横間隔)。リスク対象の種類には、子供の歩行者、大人の歩行者、自転車(子供と大人とで区別してもよい)などを例示でき、子供の歩行者の場合に目標横間隔を一番大きくし、自転車の場合に目標横間隔を一番小さくすることなどが挙げられる。支援量の目標値として、物標であるリスク対象の横を通過する際の車両の速度に関しては、道路の種別に依存することなく安全側の基準に基づいて固定的に設定される一定の速度とされる(固定目標通過速度)。支援のタイミングとしては、リスク回避感度指標値(iPRE値)が高くない場合のときと比較して、早いタイミングでステアリングの操舵制御(横間隔支援)が開始される。このステアリング介入による操舵制御(横間隔支援)が開始されたことは、例えば、HMI制御部31を用いてメーターパネルやヘッドアップディスプレイ(HUD)などを介した表示通知、スピーカーなどを介した音声通知、及び/又はステアリング制御部33を用いてステアリングを振動させることによるハプティク通知などによって、早めに車両のドライバーに伝えられる。リスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合における運転支援が実施されると、本運転支援処理が終了する。
【0037】
(ステップS404)
運転支援装置20の実行部24は、車両のドライバーに対して、リスク回避感度指標値(iPRE値)が「低い」場合における運転支援を実施する。リスク回避感度指標値(iPRE値)が「低い」場合における運転支援の内容を、図5の右欄に例示する。
【0038】
本実施形態では、リスク回避感度指標値(iPRE値)が「低い」場合、車両が物標の横を通過する際における車両の速度(通過速度)を中心とした支援が実施される。より具体的には、動力源制御部32やブレーキ制御部34を用いてアクセルペダルやブレーキペダルの開閉を中心とした減速支援が実施される。支援量の目標値として、通過する物標であるリスク対象と車両との横間隔に関しては、リスク対象の種類に依存することなく安全側の基準に基づいて固定的に設定される一定の横間隔とされる(固定目標横間隔)。支援量の目標値として、物標であるリスク対象の横を通過する際の車両の通過速度に関しては、道路の種別に応じて目標とする速度を変化させる(可変目標通過速度)。道路の種別には、中央分離線の有無や、道路幅の大小などを例示でき、中央分離線がない道路よりも中央分離線がある道路の方の通過速度を大きくし、道路幅が狭い道路よりも道路幅が広い道路の方の通過速度を大きくすることなどが挙げられる。支援のタイミングとしては、リスク回避感度指標値(iPRE値)が低くない場合のときと比較して、早いタイミングでブレーキ(さらにはアクセル)による減速制御(通過速度支援)が開始される。このブレーキ(さらにはアクセル)介入による減速制御(通過速度支援)が開始されたことは、例えば、HMI制御部31を用いてメーターパネルやヘッドアップディスプレイ(HUD)などを介した表示通知、スピーカーなどを介した音声通知、及び/又は動力源制御部32を用いてアクセルペダルを振動させる(及び/又はブレーキ制御部34を用いてブレーキペダルを振動させる)ことによるハプティク通知などによって、早めに車両のドライバーに伝えられる。リスク回避感度指標値(iPRE値)が「低い」場合における運転支援が実施されると、本運転支援処理が終了する。
【0039】
上述したデータ収集学習処理(ステップS201~S204)及び運転支援処理(ステップS401~S404)によって、車両のドライバーの運転特性に応じた好適かつ安全を優先させた内容による運転支援の実施を実現することができる。
【0040】
[応用例]
なお、上述したリスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合及び「低い」場合におけるそれぞれの支援量の目標値は、対向車(oncoming vehicle)の有無によって変化させてもよい。例えば、対向車がない場合(No)や接近する対向車が自車両から遠い場合(Far)には、上述した各支援量の目標値に基づいて支援を実施するのに対して、接近する対向車が自車両から近い場合(Near)には、上述した各支援量の目標値を制限(通過速度を遅くするなど)してもよい。
【0041】
また、上述したリスク回避感度指標値(iPRE値)が「高い」場合及び「低い」場合におけるそれぞれの支援量の目標値は、リスク対象である物標が移動する場所が、車道面との段差がない路側帯か車道面との段差がある歩道か否かによって変化させてもよい。例えば、物標が車道面との段差がない路側帯を移動している場合には、上述した各支援量の目標値に基づいて支援を実施するのに対して、物標が車道面との段差がある歩道を移動している場合には、上述した各支援量の目標値を緩和(横間隔を少し小さく、通過速度を少し速くするなど)させてもよい。
【0042】
さらに、本実施形態では、リスク回避感度指標値(iPRE値)に基づいた運転支援内容を「高い」場合と「低い」場合との2通りに区分した例を説明した。しかしながら、この区分例以外にも、例えばドライバー感覚の学習などによって得られるドライバーの運転タイプの違いなどに基づいて、運転支援内容を3通り以上に複数区分してもよい。
【0043】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係る運転支援装置によれば、車両の進行方向の路側帯などに追い越し対象となる歩行者や自転車などの物標(VRU)が存在する場面において、車両がその物標を追い越すときの車両と物標との前後方向の距離、車両と物標との横方向の距離、車両の速度、及び物標の速度をセンシングして学習する。そして、この学習して得られた値に基づいて、実際の距離及び速度に対してドライバーが抱く距離及び速度の感覚を推定し、車両のドライバー固有のリスク回避感度指標値(iPRE値)を演算する。
【0044】
このように演算したリスク回避感度指標値(iPRE値)を用いてドライバーの運転操作を支援することによって、車両のドライバーの運転特性(運転感覚)に応じた好適かつ安全を優先させた運転支援を提供することができる。よって、従来のような一律の運転支援に対してドライバーが不安や煩わしさを感じ、ドライバーによる運転支援機能の受容性が低下してしまうといったことを抑制できる。
【0045】
以上、本開示の一実施形態を説明したが、本開示は、運転支援装置、プロセッサとメモリとを備えた運転支援装置が実行する方法、この方法を実行するための制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的記憶媒体、及び運転支援装置を搭載した車両として捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示の運転支援装置などは、車両などに利用可能であり、車両のドライバーの運転特性に応じた好適な運転支援を提供したい場合などに有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 車両用システム
11 外界センサ
12 速度センサ
13 加速度センサ
14 舵角センサ
20 運転支援装置
21 収集部
22 演算部
23 決定部
24 実行部
31 HMI制御部
32 動力源制御部
33 ステアリング制御部
34 ブレーキ制御部
図1
図2
図3
図4
図5