(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車両用サスペンション制御装置、及び車両用サスペンション制御方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/00 20060101AFI20240611BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B60G17/00
B60G17/015 B
(21)【出願番号】P 2021172937
(22)【出願日】2021-10-22
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-127213(JP,A)
【文献】特開2004-182031(JP,A)
【文献】特開昭62-289420(JP,A)
【文献】特開2010-264919(JP,A)
【文献】特開2019-135120(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112622557(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0085970(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/00
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のばね下構造体とばね上構造体との間に上下方向の制御力を作用させるアクチュエータと、
前記ばね上構造体の振動を低減するために要求される要求制御量に応じた前記制御力を発生させるように前記アクチュエータを制御する電子制御ユニットと、
を備える車両用サスペンション制御装置であって、
前記要求制御量は、前記ばね上構造体の変位、速度、及び加速度に関する変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を含み、
前記電子制御ユニットによって実行される処理は、
前記車両への路面入力又は前記路面入力に起因する前記ばね上構造体の振動に関連する路面振動情報に含まれる複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさを算出する算出処理と、
前記複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように前記少なくとも2つの制御項のそれぞれの制御ゲインを決定するゲイン決定処理と、
を含
み、
前記ゲイン決定処理において、前記電子制御ユニットは、前記複数の周波数帯のうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯を特定周波数帯と称したとき、前記少なくとも2つの制御項のうちで前記特定周波数帯における前記ばね上構造体の振動を抑制する制振効果を有する制御項の制御ゲインを増大させ、前記特定周波数帯における前記ばね上構造体の振動を促進する加振効果を有する制御項の制御ゲインを減少させる
ことを特徴とする車両用サスペンション制御装置。
【請求項2】
前記少なくとも2つの制御項は、前記変位項を含み、
前記変位項に含まれるばね上状態量に対して適用されるハイパスフィルタの強度が、残りの1つ又は2つの制御項に含まれるばね上状態量に対して適用されるハイパスフィルタの強度より高い
ことを特徴とする請求項
1に記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つの制御項は、前記加速度項を含み、
前記加速度項に含まれるばね上状態量に対して適用されるローパスフィルタの強度が、残りの1つ又は2つの制御項に含まれるばね上状態量に対して適用されるローパスフィルタの強度より高い
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項4】
前記複数の周波数帯は、前記少なくとも2つの制御項のそれぞれが前記ばね上構造体の制振効果を有する周波数帯を制御項毎に含む
ことを特徴とする請求項1~
3の何れか1つに記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項5】
前記複数の周波数帯は、前記少なくとも2つの制御項のそれぞれが前記ばね上構造体の加振効果を有する周波数帯を制御項毎に含む
ことを特徴とする請求項1~
4の何れか1つに記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項6】
車両のばね下構造体とばね上構造体との間に上下方向の制御力を作用させるアクチュエータを、前記ばね上構造体の振動を低減するために要求される要求制御量に応じた前記制御力を発生させるように制御する車両用サスペンション制御方法であって、
前記要求制御量は、前記ばね上構造体の変位、速度、及び加速度に関する変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を含み、
前記車両用サスペンション制御方法は、
前記車両への路面入力又は前記路面入力に起因する前記ばね上構造体の振動に関連する路面振動情報に含まれる複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさを算出する算出処理と、
前記複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように前記少なくとも2つの制御項のそれぞれの制御ゲインを決定するゲイン決定処理と、
を含
み、
前記ゲイン決定処理は、前記複数の周波数帯のうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯を特定周波数帯と称したとき、前記少なくとも2つの制御項のうちで前記特定周波数帯における前記ばね上構造体の振動を抑制する制振効果を有する制御項の制御ゲインを増大させ、前記特定周波数帯における前記ばね上構造体の振動を促進する加振効果を有する制御項の制御ゲインを減少させるものである
ことを特徴とする車両用サスペンション制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両のばね下構造体とばね上構造体との間に上下方向の制御力を作用させるアクチュエータを備える車両用サスペンション制御装置及び車両用サスペンション制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、サスペンション制御装置を開示している。このサスペンション制御装置は、車輪と車体との上下ストロークを制御可能な制御力を発生するアクチュエータを備え、サスペンションを介してばね下から車体へ伝達する振動入力を打ち消すように当該アクチュエータを制御する。そして、当該サスペンション制御装置は、ばね下共振周波数成分の入力が大きくなるに応じて制御ゲインを小さくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の手法は、特定の周波数帯の周波数成分の大きさ(レベル)が大きい場合には、サスペンション制御の実行に起因する制振効果の低下を抑制するために制御ゲインを下げるというものである。
【0005】
ここで、ばね上構造体の振動を低減するために、ばね上構造体の変位、速度、及び加速度に関する変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を有する要求制御量を利用することが考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の手法(すなわち、単に制御ゲインを下げる手法)では、上記少なくとも2つの制御項間の制御ゲインのバランスを適切に調整することはできない。このため、各制御項を効果的に活用して制振を行うことは難しい。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記の少なくとも2つの制御項を有する要求制御量を利用しつつばね上構造体の制振を効果的に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る車両用サスペンション制御装置は、アクチュエータと、電子制御ユニットと、を備える。アクチュエータは、車両のばね下構造体とばね上構造体との間に上下方向の制御力を作用させる。電子制御ユニットは、ばね上構造体の振動を低減するために要求される要求制御量に応じた上記制御力を発生させるようにアクチュエータを制御する。要求制御量は、ばね上構造体の変位、速度、及び加速度に関する変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を含む。電子制御ユニットによって実行される処理は、算出処理と、ゲイン決定処理と、を含む。算出処理は、車両への路面入力又は当該路面入力に起因するばね上構造体の振動に関連する路面振動情報に含まれる複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさを算出する処理である。ゲイン決定処理は、上記複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように少なくとも2つの制御項のそれぞれの制御ゲインを決定する処理である。ゲイン決定処理において、電子制御ユニットは、上記複数の周波数帯のうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯を特定周波数帯と称したとき、少なくとも2つの制御項のうちで特定周波数帯におけるばね上構造体の振動を抑制する制振効果を有する制御項の制御ゲインを増大させ、特定周波数帯におけるばね上構造体の振動を促進する加振効果を有する制御項の制御ゲインを減少させる。
【0009】
少なくとも2つの制御項が変位項を含む場合、変位項に含まれるばね上状態量に対して適用されるハイパスフィルタの強度が、残りの1つ又は2つの制御項に含まれるばね上状態量に対して適用されるハイパスフィルタの強度より高くてもよい。
【0010】
少なくとも2つの制御項が加速度項を含む場合、加速度項に含まれるばね上状態量に対して適用されるローパスフィルタの強度が、残りの1つ又は2つの制御項に含まれるばね上状態量に対して適用されるローパスフィルタの強度より高くてもよい。
【0011】
上記複数の周波数帯は、少なくとも2つの制御項のそれぞれがばね上構造体の制振効果を有する周波数帯を制御項毎に含んでもよい。
【0012】
上記複数の周波数帯は、少なくとも2つの制御項のそれぞれがばね上構造体の加振効果を有する周波数帯を制御項毎に含んでもよい。
【0013】
本開示に係る車両用サスペンション制御方法は、車両のばね下構造体とばね上構造体との間に上下方向の制御力を作用させるアクチュエータを、ばね上構造体の振動を低減するために要求される要求制御量に応じた上記制御力を発生させるように制御するものである。要求制御量は、ばね上構造体の変位、速度、及び加速度に関する変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を含む。車両用サスペンション制御方法は、算出処理と、ゲイン決定処理と、を含む。算出処理は、車両への路面入力又は当該路面入力に起因するばね上構造体の振動に関連する路面振動情報に含まれる複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさを算出する処理である。ゲイン決定処理は、上記複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように少なくとも2つの制御項のそれぞれの制御ゲインを決定する処理である。そして、ゲイン決定処理は、上記複数の周波数帯のうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯を特定周波数帯と称したとき、少なくとも2つの制御項のうちで特定周波数帯におけるばね上構造体の振動を抑制する制振効果を有する制御項の制御ゲインを増大させ、特定周波数帯におけるばね上構造体の振動を促進する加振効果を有する制御項の制御ゲインを減少させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る車両用サスペンション制御装置及び車両用サスペンション制御方法のそれぞれによれば、ばね上構造体の振動を低減するために要求される要求制御量の少なくとも2つの制御項の制御ゲインのバランスが、路面振動情報に含まれる複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように決定される。これにより、路面振動情報に応じて、ばね上構造体の制振を効果的に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係るサスペンションの構成の一例を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係るばね上状態量のFB制御に関する処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図3に示すステップS104において周波数成分の大きさの取得が行われる複数の周波数帯Bの一例を表した図である。
【
図5】特定周波数帯Bxに基づく制御ゲインG1~G3の設定の一例を表した図である。
【
図6】実施の形態に係るゲイン
決定処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。
【0017】
1.車両の構成
図1は、実施の形態に係る車両1の構成の一例を概略的に示す図である。車両1は、車輪2と、車輪2を車体6(
図2参照)から懸架するサスペンション3と、を備えている。車輪2は、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRを含んでいる。それら左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRのそれぞれに対してサスペンション3FL、3FR、3RL、及び3RRが設けられている。以下の説明では、特に区別の必要が無い場合、各車輪を車輪2と呼び、各サスペンションをサスペンション3と呼ぶ。
【0018】
図2は、実施の形態に係るサスペンション3の構成の一例を概略的に示す図である。サスペンション3は、車両1のばね下構造体4とばね上構造体5との間を連結するように設けられている。ばね下構造体4は、車輪2を含んでいる。ばね上構造体5は、車体6を含んでいる。サスペンション3は、スプリング3S、ダンパ(ショックアブソーバ)3D、及びアクチュエータ3Aを含んでいる。スプリング3S、ダンパ3D、及びアクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に並列に設けられている。スプリング3Sのばね定数はKである。ダンパ3Dの減衰係数はCである。アクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを作用させる。これにより、サスペンション3のストロークが制御される。
【0019】
より詳細には、アクチュエータ3Aは、一例として電動式又は油圧式のアクティブアクチュエータ(いわゆる、フルアクティブサスペンションを構成するアクチュエータ)である。しかしながら、本開示に係る「アクチュエータ」は、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを作用可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、アクチュエータは、例えば、ダンパ3Dが発生させる減衰力を可変とするアクチュエータ、又は、アクティブスタビライザ装置のアクチュエータであってもよい。更に、アクチュエータは、例えば、サスペンションジオメトリの利用により、車輪に作用する車両前後力(駆動力及び制動力)を制御力Fcに変換可能に構成されたサスペンションを備える車両において当該車両前後力を発生させるアクチュエータ(例えば、電動機)であってもよい。当該電動機は、例えば、車輪に備えられたインホイールモータ(IWM)であってもよいし、あるいは、車両駆動軸を介して車輪を駆動可能な電動機であってもよい。
【0020】
さらに、車両1は、電子制御ユニット(ECU)10を備えている。ECU10は、プロセッサ、記憶装置、及び入出力インターフェースを備えている。入出力インターフェースは、車両1に取り付けられたセンサ類12からセンサ信号を取り込むとともに、アクチュエータ3Aに対して操作信号を出力する。記憶装置には、アクチュエータ3Aを制御するための各種の制御プログラムが記憶されている。プロセッサは、制御プログラムを記憶装置から読み出して実行する。これにより、アクチュエータ3Aを利用したサスペンション制御が実現される。ECU10は複数であってもよい。
【0021】
センサ類12は、例えば、ばね上構造体5の上下加速度を検出するばね上加速度センサを備える。
図1に示す例では、4個のばね上加速度センサ14-i(i=1~4)が設けられている。より詳細には、ばね上加速度センサ14-1は、ばね上重心位置(ばね上構造体5の重心位置GC)から見て右前輪2FRの方の第1位置におけるばね上加速度を検出する。ばね上加速度センサ14-2は、ばね上重心位置GCから見て左前輪2FLの方の第2位置におけるばね上加速度を検出する。ばね上加速度センサ14-3は、ばね上重心位置GCから見て右後輪2RRの方の第3位置におけるばね上加速度を検出する。ばね上加速度センサ14-4は、ばね上重心位置GCから見て左後輪2RLの方の第4位置におけるばね上加速度を検出する。すなわち、記号「i」の数値1~4は、それぞれ、右前輪2FR、左前輪2FL、右後輪2RR、及び左後輪2RLに対応している。なお、ばね上重心位置GCから第1~第4位置のそれぞれまでの距離は任意である。また、センサ類12は、例えば、横加速度センサ、サスペンションストロークセンサ、ばね下加速度センサ、及び、各車輪2に設けられた車輪速センサを含む。
【0022】
2.サスペンション制御
ECU10によって実行されるサスペンション制御は、ばね上構造体5の振動を低減するためのスカイフック制御則に基づくフィードバック制御(以下、「ばね上状態量のFB制御」又は単に「FB制御」と称する)を含む。なお、本FB制御は、一例として4つの車輪2のそれぞれを対象として実行されるが、これに代え、例えば、左右前輪2Fのみ又は左右後輪2Rのみを対象として実行されてもよい。
【0023】
2-1.ばね上状態量のFB制御の基本構成例
本FB制御において、ECU10は、ばね上構造体5の振動を低減するために要求される要求制御量Xに応じた制御力Fcを発生させるようにアクチュエータ3Aを制御する。以下に説明される一例では、ECU10は、当該要求制御量Xとして、ばね上重心位置GCの各モード振動(上下振動(ヒーブ振動)、ロール振動、及びピッチ振動)を抑えるために要求される要求制御量である上下要求制御量Fz、ロール要求制御量Mr、及びピッチ要求制御量Mpを算出する。
【0024】
各ばね上加速度センサ14-i(i=1~4)によって検出されるばね上加速度の検出値は、以下「検出加速度Z
i''」と呼ばれる。ECU10は、4個のばね上加速度センサ14-1~14-4によってそれぞれ検出される検出加速度Z
1''~Z
4''から、ばね上重心位置GCの各モード加速度(すなわち、上下加速度Z
g''、ロール加速度Φ
g''、及びピッチ加速度Θ
g'')を算出する。例えば、ECU10は、次の式(1)~(4)に従って、上下加速度Z
g''、ロール加速度Φ
g''、及びピッチ加速度Θ
g''を算出する。なお、各ばね上加速度センサ14-i(i=1~4)のX方向(車両1の進行方向)の位置及びY方向(車両1の横方向)の位置は、それぞれ、L
i及びW
iである(
図1参照)。ばね上重心位置GCのX方向位置及びY方向位置は、それぞれ、L
g及びW
gである。これらのパラメータ(L
i、W
i、L
g、及びW
g)は、予め取得され、ECU10の記憶装置に格納されている。
【数1】
【0025】
4つの位置における検出加速度Z1''~Z4''を用いることによって、ばね上重心位置GCの上下加速度Zg''、ロール加速度Φg''、及びピッチ加速度Θg''を精度良く算出することができる。ただし、ばね上重心位置GCの上下加速度Zg''、ロール加速度Φg''、及びピッチ加速度Θg''を算出する方法は、上記のものに限られない。例えば、3個のばね上加速度センサ14だけが用いられてもよい。
【0026】
次に、ECU10は、各モード加速度(上下加速度Z
g''、ロール加速度Φ
g''、及びピッチ加速度Θ
g'')を積分することによって、ばね上重心位置GCの各モード速度(上下速度Z
g'、ロール速度Φ
g'、及びピッチ速度Θ
g')を算出する。ばね上重心位置GCの上下速度Z
g'、ロール速度Φ
g'、及びピッチ速度Θ
g'は、それぞれ、次の式(5)~(7)により表される。
【数2】
【0027】
同様に、ECU10は、各モード速度(上下速度Z
g'、ロール速度Φ
g'、及びピッチ速度Θ
g')を積分することによって、ばね上重心位置GCの各モード変位(上下変位Z
g、ロール角(ロール角度変位)Φ
g、及びピッチ角(ピッチ角度変位)Θ
g)を算出する。ばね上重心位置GCの上下変位Z
g、ロール角Φ
g、及びピッチ角Θ
gは、それぞれ、次の式(8)~(10)により表される。
【数3】
【0028】
次に、ECU10は、ばね上重心位置GCの各モード振動(上下振動、ロール振動、ピッチ振動)を抑えるための上下要求制御量Fz、ロール要求制御量Mr、及びピッチ要求制御量Mpを算出する。ここで、上下要求制御量Fzは、上向きの制御力が要求される場合に正であるとする。ロール要求制御量Mrは、右下がり且つ左上がりの制御モーメントが要求される場合に正であるとする。ピッチ要求制御量Mpは、前輪下がり且つ後輪上がりの制御モーメントが要求される場合に正であるとする。
【0029】
ECU10は、これらの上下要求制御量F
z、ロール要求制御量M
r、及びピッチ要求制御量M
pを、上述のように取得される各モード加速度(上下加速度Z
g''、ロール加速度Φ
g''、及びピッチ加速度Θ
g'')、各モード速度(上下速度Z
g'、ロール速度Φ
g'、及びピッチ速度Θ
g')、及び各モード変位(上下変位Z
g、ロール角Φ
g、及びピッチ角Θ
g)を用いて算出する。例えば、上下要求制御量F
z、ロール要求制御量M
r、及びピッチ要求制御量M
pは、それぞれ、次の式(11)~(13)により与えられる。
【数4】
【0030】
式(11)~(13)において、G1z、G2z、G3z、G1r、G2r、G3r、G1p、G2p、及びG3pは制御ゲインである。以下の説明では、特に区別の必要が無い場合、各制御ゲインを制御ゲインGと呼ぶ。本実施形態では、各制御ゲインGは、後述の「ゲイン決定処理」によって決定される。
【0031】
式(11)~(13)によって示されるように、上下要求制御量Fz、ロール要求制御量Mr、及びピッチ要求制御量Mpのそれぞれは、ばね上構造体5の変位、速度、及び加速度に関する変位項、速度項、及び加速度項を有する。
【0032】
具体的には、上下要求制御量Fzは、上下変位Zgと制御ゲインG1zとの積である変位項と、上下速度Zg'と制御ゲインG2zとの積である速度項と、上下加速度Zg''と制御ゲインG3zとの積である加速度項と、を有する。
【0033】
同様に、ロール要求制御量Mrは、ロール角Φgと制御ゲインG1rとの積である変位項と、ロール速度Φg'と制御ゲインG2rとの積である速度項と、ロール加速度Φg''と制御ゲインG3rとの積である加速度項と、を有する。
【0034】
同様に、ピッチ要求制御量Mpは、ピッチ角Θgと制御ゲインG1pとの積である変位項と、ピッチ速度Θg'と制御ゲインG2pとの積である速度項と、ピッチ加速度Θg''と制御ゲインG3pとの積である加速度項と、を有する。
【0035】
次に、ECU10は、ばね上重心位置GCにおける要求制御量Fz、Mr、及びMpを、各車輪2(2FR、2FL、2RR、及び2RL)の位置における要求制御量に換算(変換)する。各車輪2の位置における要求制御量が、各車輪2に対応するアクチュエータ3Aの目標制御力Fctに相当する。
【0036】
前輪2Fのトレッド幅はT
fであり、後輪2Rのトレッド幅はT
rである。前輪軸とばね上重心位置GCとの間の距離はl
fであり、後輪軸とばね上重心位置GCとの間の距離はl
rである。この場合、各アクチュエータ3Aの目標制御力Fct(Fct
fr、Fct
fl、Fct
rr、及びFct
rl)は、次の式(14)により表される。
【数5】
【0037】
ECU10は、この式(14)に従って、ばね上重心位置GCにおける要求制御量Fz、Mr、及びMpを、各アクチュエータ3Aの目標制御力Fctに換算することができる。あるいは、ECU10は、要求制御量Fz、Mr、及びMpに基づくマップを参照することによって、各車輪2の目標制御力Fctを算出してもよい。
【0038】
2-2.ばね上状態量のFB制御の課題と対策
車両1のばね上構造体5の振動は、各車輪2が路面入力を受けることに伴って発生する。ここで、便宜上、「路面入力に関連する情報」と、「路面入力に起因するばね上構造体5の振動に関連する情報」とを、まとめて「路面振動情報」と称する。
【0039】
具体的には、前者の「路面入力に関連する情報」とは、例えば、路面入力の大きさ、又は路面入力速度の大きさを示す情報である。路面入力には、例えば、路面の上下方向の変位である路面変位Zr、又は、各車輪2の位置におけるばね下構造体4の上下方向の変位であるばね下変位Zuが相当する。路面入力速度には、例えば、路面変位Zrの時間微分値である路面変位速度Zr'、又はばね下速度Zu'が相当する。付け加えると、路面入力に関する情報には、例えば、路面変位速度Zr'の時間微分値である路面変位加速度Zr''、又はばね下加速度Zu''が含まれてもよい。
【0040】
後者の「路面入力に起因するばね上構造体5の振動に関連する情報」には、例えば、各種のばね上状態量が相当する。具体的には、当該情報には、例えば、各車輪2の位置におけるばね上状態量(ばね上変位Zs、ばね上速度Zs'、若しくはばね上加速度Zs'')、又はばね上重心位置GCにおけるばね上状態量(上下変位Zg、上下速度Zg'、若しくは上下加速度Zg'')が相当する。なお、路面変位Zr、ばね下変位Zu、ばね上変位Zs、及び上下変位Zgの符号は、上向きの場合に正であり、下向きの場合に負である。
【0041】
上述のような路面振動情報の周波数特性は、車両1が走行する路面によって異なり得る。その一方で、上記の式(11)~(13)式に示す例のように要求制御量Xが変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を有する場合、ばね上構造体5の振動を抑制する制振効果が高い周波数帯は、基本的に、制御項に応じて異なるものとなる。同様に、ばね上構造体5の振動を促進する加振効果を有する周波数帯も、基本的に、制御項に応じて異なるものとなる。このため、車両1が走行する路面によって路面振動情報の周波数特性が異なることを考慮することなく各制御項の制御ゲインGが例えば車両諸元に基づくバランスで決定されていると、本FB制御による制振効果を十分に高められない状況が生じ得る。
【0042】
上述の課題に鑑み、本実施形態において本FB制御のためにECU10によって実行される処理は、次の「算出処理」と「ゲイン決定処理」とを含む。これらの処理の具体例は次の
図3に示すフローチャートを用いて説明されるが、これらの処理の概要は次の通りである。
【0043】
算出処理は、上述の路面振動情報に含まれる複数の周波数帯Bのそれぞれの周波数成分の大きさ(振幅)を算出する処理である。ゲイン決定処理は、複数の周波数帯Bのそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように上記3つの制御項(変位項、速度項、及び加速度項)のそれぞれの制御ゲインGを決定する処理である。
【0044】
より具体的には、本実施形態では、ゲイン決定処理は、次のように実行される。ここで、説明の便宜上、当該複数の周波数帯Bのうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯を「特定周波数帯Bx」と称する。ゲイン決定処理は、上記3つの制御項(変位項、速度項、及び加速度項)のうちで特定周波数帯Bxにおいて制振効果を有する制御項の制御ゲインGを増大させ、当該特定周波数帯Bxにおいて加振効果を有する制御項の制御ゲインGを減少させるように実行される。
【0045】
図3は、実施の形態に係るばね上状態量のFB制御に関する処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両1の走行中に、所定の時間ステップ毎に繰り返し実行される。なお、
図3では、ステップS104の処理が上述の「算出処理」の一例に相当し、ステップS106の処理が上述の「ゲイン決定処理」の一例に相当する。
【0046】
<ステップS100>
ステップS100において、ECU10は、ばね上構造体5の振動を低減するための要求制御量Xの算出に用いられる「ばね上状態量」を取得する。なお、要求制御量Xの各制御項は、ばね上状態量と制御ゲインGとの積により表される。このため、制御ゲインGが大きくなると、当該制御ゲインGを有する制御項の値(制御量)、換言すると制御力Fcが大きくなり、その結果、制御効果(制振効果又は加振効果)が高くなる。
【0047】
既に説明されたように、本実施形態では、要求制御量Xの一例として、上下要求制御量(ヒーブ要求制御量)Fz、ロール要求制御量Mr、及びピッチ要求制御量Mpが用いられる(式(11)~(13)参照)。このため、ステップS100では、ECU10は、これらの要求制御量Fz、Mr、及びMpの算出に用いられるばね上状態量である各モード加速度(上下加速度Zg''、ロール加速度Φg''、及びピッチ加速度Θg'')、各モード速度(上下速度Zg'、ロール速度Φg'、及びピッチ速度Θg')、及び各モード変位(上下変位Zg、ロール角Φg、及びピッチ角Θg)を取得する。
【0048】
付け加えると、ばね上状態量のFB制御における要求制御量Xは、ばね上状態量(変位、速度、加速度)と制御ゲインGとの積によってそれぞれ表される変位項、速度項、及び加速度項のうちの少なくとも2つの制御項を有するように求められるものであればよい。このため、ばね上重心位置GCの各モード振動を抑制するための要求制御量Fz、Mr、及びMpに代え、要求制御量Xは、例えば、各車輪2の位置におけるばね上状態量(ばね上変位Zs、ばね上速度Zs'、ばね上加速度Zs'')と制御ゲインとの積であってもよい。また、要求制御量Xの算出に用いられるばね上状態量は、左右前輪2F又は左右後輪2Rの位置におけるばね上状態量の同相成分又は逆相成分であってもよい。そして、ばね上状態量の取得は、センサによる計測値に基づくものに限られず、例えば、オブザーバ又はモデルによる推定を利用して行われてもよい。
【0049】
<ステップS102>
次に、ステップS102において、ECU10は、フィルタリング処理を実行する。このフィルタリング処理は、式(11)~(13)のそれぞれの各制御項(変位項、速度項、及び加速度項)のばね上状態量(Zg''、Φg''、Θg''、Zg'、Φg'、Θg'、Zg、Φg、及びΘg)に対するハイパスフィルタ(HPF)の適用と、当該ばね上状態量に対するローパスフィルタ(LPF)の適用と、を含む。
【0050】
まず、上記のHPFは、ばね上加速度センサ14-i(i=1~4)の検出値を用いて取得される各モード加速度から各モード速度及び各モード変位を演算する場合に生じる積分オフセットを除去するために適用される。本ステップS102では、このHPFの強度が制御項間で異なるものとされる。具体的には、変位項に含まれるばね上状態量(各モード変位)に対して適用されるHPFの強度が、残りの制御項である速度項及び加速度項に含まれるばね上状態量(各モード速度及び各モード加速度)のそれぞれに対して適用されるHPFの強度と比べて高められる。HPFの強度は、例えば、HPFを適用する回数を多くすること、及びHPFの次数を高くすることのうちの少なくとも一方によって高めることができる。
【0051】
次に、上記のLPFは、本FB制御の応答遅れを表現する(模擬する)ために適用される。本ステップS102では、このLPFの強度が制御項間で異なるものとされる。具体的には、加速度項に含まれるばね上状態量(各モード加速度)に対して適用されるLPFの強度が、残りの制御項である変位項及び速度項に含まれるばね上状態量(各モード変位及び各モード速度)のそれぞれに対して適用されるLPFの強度と比べて高められる。LPFの強度は、例えば、LPFを適用する回数を多くすること、及びLPFの次数を高くすることのうちの少なくとも一方によって高めることができる。
【0052】
なお、上述の例とは異なり、各制御項のばね上状態量に対してHPL及びLPFの何れか一方のみが適用されてもよい。また、各制御項のばね上状態量に対してHPL及びLPFの少なくとも一方を適用する場合、ステップS102の処理とは異なり、各制御項のばね上状態量に適用されるHPF及びLPFの少なくとも一方の強度は、各制御項間で同じであってもよい。
【0053】
<ステップS104>
次に、ステップS104において、ECU10は、上述の路面振動情報に含まれる複数の周波数帯Bのそれぞれの周波数成分の大きさを算出するために「算出処理」を実行する。この算出処理は、走行中の車両1に入力を与える路面の周波数特性を評価するための周波数成分の大きさを取得するために行われる。より詳細には、算出される各周波数帯Bの周波数成分の大きさは、判定対象の複数の周波数帯B間の周波数成分の大きさの違い(例えば、高周波成分の多い路面であるか、又は低周波成分の多い路面であるか)を評価するために用いられる。
【0054】
具体的には、ここでいう「複数の周波数帯B」は、例えば次のように特定される。
図4は、ステップS104において周波数成分の大きさの取得対象の複数の周波数帯Bの一例を表した図である。
図4には、3つの周波数帯B1、B2、及びB3が例示されている。
【0055】
周波数帯B1は0.5~1Hzの周波数帯であり、周波数帯B2は1~2Hzの周波数帯であり、周波数帯B3は2~10Hzの周波数帯である。
図4に示す一例では、周波数帯B1は、変位項が制振効果(
図4中の〇印)を有するとともに、残りの速度項及び加速度項は加振効果(
図4中の×印)を有する周波数帯である。周波数帯B2は、速度項が制振効果を有するとともに、残りの変位項及び加速度項は加振効果を有する周波数帯である。そして、周波数帯B3は、加速度項が制振効果を有するとともに、残りの変位項及び速度項は加振効果を有する周波数帯である。
【0056】
図4に例示されるような複数の周波数帯Bを車両1の特性を考慮して事前に定めておくことにより、車両1の走行中に取得される路面振動情報に含まれる複数の周波数帯Bのうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯である特定周波数帯Bxを把握できるようになる。
【0057】
次いで、上述の3つの周波数帯B1~B3を利用する例を用いて、ステップS104の処理が具体的に説明される。ここでは、路面振動情報の一例として、ばね下速度Zu'が用いられる。用いられるばね下速度Zu'は、例えば、4つの車輪2のうちの任意の1つの車輪2のばね下速度Zu'である。ただし、例えば、要求制御量X自体が車輪2毎に算出される例では、路面振動情報の一例としてのばね下速度Zu'は、車輪2毎に取得されてもよい。ばね下速度Zu'は、例えば、ばね下加速度センサにより検出されるばね下加速度Zu''を積分することにより得られる。ばね下速度Zu'は、例えば、時間ステップ毎に取得され、ECU10の記憶装置にばね下速度Zu'の時系列データとして格納される。なお、車両1のサスペンション制御の1つとして車両前方の路面情報に基づくプレビュー制振制御が行われている場合には、当該プレビュー制振制御のためにカメラを用いて車両走行中に取得される若しくは事前に取得されている路面情報(例えば、ばね下速度Zu')が本ステップS104において用いられてもよい。
【0058】
そのうえで、本ステップS104では、ECU10は、上述のように取得されるばね下速度Zu'の時系列データに対して、上記3つの周波数帯B1~B3をそれぞれ通過周波数帯とする3つのバンドパスフィルタ(BPF)を適用する。そして、ECU10は、このように通過周波数帯の異なる3つのBPFをそれぞれ適用した後のばね下速度Zu'のデータを利用して、各周波数帯B1~B3の周波数成分の大きさ(例えば、信号強度)を算出する。より詳細には、例えば、BPFを適用した後のばね下速度Zu'のデータの移動平均値又はピークホールド値が、周波数成分の大きさとして算出される。
【0059】
付け加えると、本実施形態とは異なり、要求制御量Xが変位項、速度項、及び加速度項のうちの何れか2つの制御項のみを備える例では、「複数の周波数帯B」は2つであってもよい。
【0060】
また、
図4に示す周波数帯B1~B3の例では、例えば変位項に着目すると、周波数帯B2及びB3は、変位項にとって加振効果を有する周波数帯に相当する。つまり、この例では、変位項が加振効果を有する周波数帯は、他の制御項にとって制振効果を有する周波数帯と同じ周波数帯B2及びB3である。しかしながら、このような関係は常に満たされるものではなく、本FB制御が適用される車両の特性によっては、変位項が加振効果を有する周波数帯は、他の制御項が制振効果を有する周波数帯と異なり得る。このことは、他の速度項又は加速度項に着目した場合も同じである。そこで、ここで説明されたように、ある制御項が加振効果を有する周波数帯が、他の制御項が制振効果を有する周波数帯と異なる場合、「複数の周波数帯B」は、制御項毎に、制振効果を有する周波数帯と加振効果を有する周波数帯とを別々に含んでいてもよい。
【0061】
<ステップS106>
次に、ステップS106において、ECU10は、ゲイン決定処理を実行する。具体的には、ステップS106において、ECU10は、まず、ステップS104における各周波数成分の算出結果に基づき、特定周波数帯Bxを特定する。これにより、車両1が現在走行している路面の周波数特性が把握される。
【0062】
そのうえで、ECU10は、特定周波数帯Bxが周波数帯B1~B3の何れであるかに応じて各制御項の制御ゲインGを決定する。以下、変位項の制御ゲインG1z、G1r、及びG1pをまとめて「制御ゲインG1」とも称する。同様に、速度項の制御ゲインG2z、G2r、及びG2pをまとめて「制御ゲインG2」とも称し、加速度項の制御ゲインG3z、G3r、及びG3pをまとめて「制御ゲインG3」とも称する。
【0063】
ECU10は、制御ゲインG1、G2、及びG3に対し、基本値G1b、G2b、及びG3bをそれぞれ有する。これらの基本値G1b、G2b、及びG3bは、所定の標準的な路面の周波数特性の下で本FB制御が適切な制振効果を発揮できる制御項間のバランスが得られるように事前に決定されている。
【0064】
図5は、特定周波数帯Bxに基づく制御ゲインG1~G3の設定の一例を表した図である。
図5に示すように、
変位項の制御ゲインG1は、周波数帯B1が特定周波数帯Bxである場合には基本値G1b(一点鎖線)よりも大きくなり、周波数帯B2又はB3が特定周波数帯Bxである場合には基本値G1bよりも小さくなるように決定されている。速度項の制御ゲインG2は、周波数帯B2が特定周波数帯Bxである場合には基本値G2b(一点鎖線)よりも大きくなり、周波数帯B1又はB3が特定周波数帯Bxである場合には基本値G2bよりも小さくなるように決定されている。そして、加速度項の制御ゲインG3は、周波数帯B3が特定周波数帯Bxである場合には基本値G3b(一点鎖線)よりも大きくなり、周波数帯B1又はB2が特定周波数帯Bxである場合には基本値G3bよりも小さくなるように決定されている。なお、基本値G1b、G2b、及びG3bに対する制御ゲインG1、G2、及びG3のそれぞれの増減量は、例えば、本FB制御が適用される車両1の特性を考慮して決定されている。
【0065】
ECU10の記憶装置には、
図5に示すような関係がマップとして格納されている。ECU10は、取得した特定周波数帯Bxに応じた制御ゲインG1~G3を、そのようなマップから取得する。
【0066】
このような処理により、制御ゲインG1、G2、及びG3は、車両1が現在走行している路面の周波数特性に応じて、上述のように決定されている基本値G1b、G2b、及びG3bから増減される。
【0067】
付け加えると、
図4に示す一例では、「複数の周波数帯B」は、変位項、速度項、及び加速度項がそれぞれ制振効果を有する周波数帯B1、B2、及びB3を制御項毎に含んでいる。ここで、要求制御量Xが変位項、速度、及び加速度項を有する場合、個々の制御項が制振効果を有する周波数帯は、本FB制御が適用される車両の特性によっては周波数帯B1~B3の例のように明確に分かれているとは限らない。具体的には、例えば、制振効果を有する周波数帯の一部は、何れか2つの制御項間で重なる場合がある。そこで、特定周波数帯Bxに該当する周波数帯Bにおいて制振効果を有する制御項が2つ存在する場合には、当該2つの制御項の制御ゲインGがそれぞれの基本値から増やされてもよい。
【0068】
(変形例)
本開示に係る「ゲイン
決定処理」は、
図5に示すような関係を定めたマップを利用する例に代え、例えば、次のように実行されてもよい。
図6は、実施の形態に係るゲイン
決定処理の変形例を示すフローチャートである。この変形例では、制御項間の制御ゲインGのバランスが異なる第1~第3モードが、特定周波数帯Bxが周波数帯B1~B3の何れであるかに応じて切り替えられる。
【0069】
具体的には、
図6では、ECU10は、ステップ200において、周波数帯B1が特定周波数帯Bxであるか否かを判定する。その結果、この判定結果がYesの場合には、ECU10は、ステップS202において第1モードを選択する。第1モードは、基本値G1bより大きい制御ゲインG1(変位項)と、基本値G2bより小さい制御ゲインG2(速度項)と、基本値G3bより小さい制御ゲインG3(加速度項)とを用いるモードである。
【0070】
一方、ステップS200の判定結果がNoの場合には、ECU10は、ステップS204において、周波数帯B2が特定周波数帯Bxであるか否かを判定する。その結果、この判定結果がYesの場合には、ECU10は、ステップS206において第2モードを選択する。第2モードは、基本値G1bより小さい制御ゲインG1と、基本値G2bより大きい制御ゲインG2と、基本値G3bより小さい制御ゲインG3とを用いるモードである。
【0071】
また、ステップS204の判定結果がNoの場合(つまり、周波数帯B3が特定周波数帯Bxである場合)には、ECU10は、ステップS208において第3モードを選択する。第3モードは、基本値G1bより小さい制御ゲインG1と、基本値G2bより小さい制御ゲインG2と、基本値G3bより大きい制御ゲインG3とを用いるモードである。
【0072】
<ステップS108>
次に、ステップS108において、ECU10は、要求制御量Xに相当する上下要求制御量F
z、ロール要求制御量M
r、及びピッチ要求制御量M
pを算出する。具体的には、ステップS102のフィルタリング処理を伴う
図3に示す処理の例では、式(11)~(13)に代入されるばね上状態量(Z
g''、Φ
g''、Θ
g''、Z
g'、Φ
g'、Θ
g'、Z
g、Φ
g、及びΘ
g)として、上述のHPF及びLPFの適用後の値が用いられる。すなわち、ECU10は、HPF及びLPFの適用後のばね上状態量とステップS106にて決定した制御ゲインGとの積を、各要求制御量F
z、M
r、及びM
pとして算出する。
【0073】
<ステップS110>
次に、ステップS110において、ECU10は、ステップS108にて算出した要求制御量Xに応じた制御力Fcを発生させるようにアクチュエータ3Aを制御する。具体的には、ECU10は、式(14)に従って、ステップS108にて算出した要求制御量X(Fz、Mr、及びMp)に応じた各車輪2の目標制御力Fct(Fctfr、Fctfl、Fctrr、及びFctrl)を算出する。そして、ECU10は、算出した目標制御力Fctを各車輪2に対応する各アクチュエータ3Aに指令する。
【0074】
2-3.効果
以上説明したように、本実施形態によれば、要求制御量Xの算出に際し、路面振動情報に含まれる複数の周波数帯Bのそれぞれの周波数成分が算出される。そして、算出された各周波数帯Bの周波数成分の大きさに基づいて変化するように3つの制御項(変位項、速度項、及び加速度項)のそれぞれの制御ゲインGが決定される。より具体的には、複数の周波数帯Bのうちで最も大きさが大きい周波数成分を有する周波数帯である特定周波数帯Bxが特定される。そのうえで、3つの制御項(変位項、速度項、及び加速度項)のうちで特定周波数帯Bxにおいて制振効果を有する制御項の制御ゲインGが増やされ、特定周波数帯Bxにおいて加振効果を有する制御項の制御ゲインGが減らされる(ゲイン決定処理)。このように、各制御項の制御ゲインGは、スカイフック制御則に沿ったバランスで決定されるのではなく、車両1が現在走行している路面の周波数特性に対して高い制振効果を発揮するうえで適切なバランスが得られるように決定される。これにより、路面振動情報に応じて、ばね上構造体5の制振を効果的に行えるようになる。より詳細には、路面の周波数特性に起因する制振効果の低下を好適に抑制できるようになる。
【0075】
付け加えると、上述のゲイン決定処理によれば、最も大きさが大きい周波数成分を有する特定周波数帯Bxに該当する周波数帯Bの周波数成分を他の周波数帯の周波数成分と比べて効果的に低減できるように、各制御項の制御ゲインGのバランスが決定される。ここで、上述の特定周波数帯Bxの定義によれば、他の周波数帯の周波数成分の大きさは、特定周波数帯Bxの周波数成分の大きさと比べて小さい。このため、このように制御ゲインGのバランスを決定することの背反として当該他の周波数帯の周波数成分が大きくなる可能性はあるが、当該背反の影響は小さいといえる。すなわち、ゲイン決定処理の利用により、複数の周波数帯Bの全体で見た場合においても、ばね上構造体5の制振を高めることができる。
【0076】
また、上述のフィルタリング処理(ステップS102参照)によれば、要求制御量Xの算出に用いられるばね上状態量に対して適用されるHPF及びLPFのそれぞれは、制御項間で同一のものではなく、制御項間で異なるものとされる。
【0077】
具体的には、周波数帯B1(
図4参照)として例示されるように、変位項による制振効果は低周波側において得られるが、変位項の値(制御量)は本来的に過大となり易い。このような追加の課題Aに鑑み、本実施形態によれば、変位項に含まれるばね上状態量(各モード変位)に対して適用されるHPFの強度が、残りの制御項である速度項及び加速度項に含まれるばね上状態量(各モード速度及び各モード加速度)のそれぞれに対して適用されるHPFの強度と比べて高められる。これにより、変位項の値が過大となることが抑制されるように制御項間のバランスを調整することができる。付け加えると、上記の追加の課題Aに鑑み、
変位項の制御ゲインGの基本値が、スカイフック制御則に沿った制御項間の制御ゲインGの基本値のバランスを基準として小さくなるように決定されてもよい。
【0078】
また、周波数帯B3(
図4参照)として例示されるように、加速度項による制振効果は中高周波側において得られるが、加速度項は、制振効果が得られる周波数帯よりも更に高周波側において振動悪化又は制御の不安定化を招き得る。このような追加の課題Bに鑑み、本実施形態によれば、加速度項に含まれるばね上状態量(各モード加速度)に対して適用されるLPFの強度が、残りの制御項である変位項及び速度項に含まれるばね上状態量(各モード変位及び各モード速度)のそれぞれに対して適用されるLPFの強度と比べて高められる。これにより、加速度項によって制振効果が得られる周波数帯よりも更に高周波側における振動悪化又は制御の不安定化が抑制されるように制御項間のバランスを調整することができる。付け加えると、上記の追加の課題Bに鑑み、加速度項の制御ゲインGの基本値が、スカイフック制御則に沿った制御項間の制御ゲインGの基本値のバランスを基準として小さくなるように決定されてもよい。
【0079】
ところで、上述した実施の形態においては、「ゲイン決定処理」は、3つの制御項(変位項、速度項、及び加速度項)のうちで特定周波数帯Bxにおいて制振効果を有する制御項の制御ゲインGを増やし、特定周波数帯Bxにおいて加振効果を有する制御項の制御ゲインGを減らすように実行される。しかしながら、本開示に係る「ゲイン決定処理」は、上述のように特定周波数帯Bxのみに着目して各制御項の制御ゲインGを変化させるものに限られず、「複数の周波数帯のそれぞれの周波数成分の大きさに基づいて変化するように少なくとも2つの制御項のそれぞれの制御ゲインを決定する」ものであればよい。
【0080】
具体的には、例えば上述の3つの周波数帯B1~B3を利用する場合、ゲイン決定処理は、例えば、特定周波数帯Bxのみに着目して各制御項の制御ゲインGを変化させるのではなく、3つの周波数帯B1~B3のうちで2番目に大きい周波数成分を有する周波数帯(以下、便宜上、「第2周波数帯Bx2」と称する)にも着目して各制御項の制御ゲインGを変化させてもよい。そして、第2周波数帯Bx2において制振効果を有する制御項の制御ゲインGの増加量は、例えば、特定周波数帯Bxにおいて制振効果を有する制御項の制御ゲインGの増加量と比べて小さく設定されてもよい。同様に、第2周波数帯Bx2において加振効果を有する制御項の制御ゲインGの減少量は、例えば、特定周波数帯Bxにおいて加振効果を有する制御項の制御ゲインGの減少量と比べて小さく設定されてもよい。
【0081】
さらに、ゲイン決定処理は、例えば、次のように実行されてもよい。すなわち、例えば上述の3つの周波数帯B1~B3を利用する場合、ゲイン決定処理は、特定周波数帯Bx及び第2周波数帯Bx2のみに着目して各制御項の制御ゲインGを変化させるのではなく、3つの周波数帯B1~B3のうちで最も小さい周波数成分を有する周波数帯(以下、便宜上、「第3周波数帯Bx3」と称する)にも着目して各制御項の制御ゲインGを変化させてもよい。そして、第3周波数帯Bx3において制振効果を有する制御項の制御ゲインGの増加量は、例えば、第2周波数帯Bx2において制振効果を有する制御項の制御ゲインGの増加量と比べて小さく設定されてもよい。同様に、第3周波数帯Bx3において加振効果を有する制御項の制御ゲインGの減少量は、例えば、第2周波数帯Bx2において加振効果を有する制御項の制御ゲインGの減少量と比べて小さく設定されてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 車両
2 車輪
3 サスペンション
3A アクチュエータ
4 ばね下構造体
5 ばね上構造体
6 車体
10 電子制御ユニット(ECU)
12 センサ類
14-1、14-2、14-3、14-4 ばね上加速度センサ
GC ばね上重心位置