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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】エアバッグ用基布
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20240611BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 161/00 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B60R21/235
C09D5/02
C09D101/00
C09D129/04
C09D133/26
C09D161/00
C09D167/00
C09D175/04
C09D201/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021189743
(22)【出願日】2021-11-22
(65)【公開番号】P2023076356
(43)【公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】服部 亜胡
(72)【発明者】
【氏名】木村 優
(72)【発明者】
【氏名】田中 孔規
(72)【発明者】
【氏名】浅井 敏彦
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/047652(WO,A1)
【文献】特開2004-218138(JP,A)
【文献】特開2001-180413(JP,A)
【文献】特開2018-172618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス非透過性を確保するために、コート剤を塗布されて形成される塗膜を基材の少なくとも片面に有する構成のエアバッグ用基布であって、
前記コート剤が、水性塗料であり、
前記基材が、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、あるいは、ポリプロピレン繊維を織成してなる織布から、形成され、
前記塗膜が、水洗除去可能な設定とされて、
20kPa差圧下における通気度を、3.0L/cm2/min未満、若しくは、フラジール法(JIS L 1096)における通気度を、3.0mL/cm2/sec未満に、設定されていることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
前記塗膜が、架橋率を10%以下に設定されて、形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用基布
【請求項3】
前記架橋率が、5%以下に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
前記架橋率が、3%以下に設定されていることを特徴とする請求項3に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
前記水性塗料が、ポリビニルアルコール、水溶性ウレタン、水溶性ポリエステル、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、水溶性フェノール樹脂、ポリカルボン酸の少なくとも1つをベースとしていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
前記水性塗料が、生分解性ポリビニルアルコールをベースとしていることを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ用基布。
【請求項7】
前記塗膜が、架橋剤を用いた架橋反応により形成され、
前記架橋剤が、有機酸であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項8】
前記架橋剤が、クエン酸であることを特徴とする請求項7に記載のエアバッグ用基布。
【請求項9】
請求項1に記載のエアバッグ用基布を使用したエアバッグからの前記塗膜の除去方法であって、
前記エアバッグを、5~90℃の水に浸漬した状態で、1~1500rpmの攪拌速度で、1~90min攪拌することによって、前記塗膜を除去可能であることを特徴とするエアバッグからの架橋塗膜の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス非透過性を確保するために、コート剤を塗布されて形成される塗膜を基材の少なくとも片面に有する構成のエアバッグ用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグ用の基布としては、ナイロン等のポリアミド繊維を織成して形成される基材の表面に、コート剤としてシリコン樹脂を塗布したシリコンコート布が、使用されていた。シリコンコート布は、耐熱性や耐久性に優れているものの、塗膜に使用されるシリコン樹脂の製造過程での二酸化炭素排出量が多く、環境への負荷が高かった。また、このようなシリコンコート布は、そのままではリサイクル不能であった。そのため、昨今では、シリコンコート布を使用したエアバッグのリサイクル性を向上させるために、廃車時等において、エアバッグスクラップ布から、シリコン塗膜を除去して、基材を構成しているポリアミド繊維と分離させ、基材をリサイクル使用することが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-180413公報
【文献】特開2018-172618公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、エアバッグスクラップ布をアルカリ液に浸漬させて、スクラップ布からシリコン塗膜を剥離させることにより、シリコン塗膜とポリアミド繊維とを分離させることから、アルカリ液の廃液処理が必要となって、環境への負荷が高かった。また、上記特許文献2に記載の方法では、エチレングリコール溶液にエアバッグスクラップ布を浸漬させて高温加熱することにより、基材を構成しているポリアミド繊維をエチレングリコール溶液に溶解させて、シリコン塗膜と分離させることから、回収したポリアミド樹脂の分子量が低下してしまい、エアバッグ用基布として再利用するのは困難であった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、環境への負荷の増大を抑制できて、かつ、リサイクル利用が容易なエアバッグ用基布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエアバッグ用基布は、ガス非透過性を確保するために、コート剤を塗布されて形成される塗膜を基材の少なくとも片面に有する構成のエアバッグ用基布であって、
コート剤が、水性塗料であり、
基材が、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、あるいは、ポリプロピレン繊維を織成してなる織布から、形成され、
塗膜が、水洗除去可能な設定とされて、
20kPa差圧下における通気度を、3.0L/cm2/min未満、若しくは、フラジール法(JIS L 1096)における通気度を、3.0mL/cm2/sec未満に、設定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明のエアバッグ用基布では、基材の少なくとも片面に塗膜を形成するコート剤が、水性塗料から形成されており、単に水洗するだけで、基材から塗膜を除去可能であることから、塗膜成分を含んだ廃液処理が容易であり、環境への負荷の増大を抑制して、簡単に塗膜を基材から分離させることができる。そのため、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、あるいは、ポリプロピレン繊維からなる基材を、容易にリサイクル利用することができる。また、本発明のエアバッグ用基布は、20kPa差圧下における通気度を、3.0L/cm2/min未満、若しくは、フラジール法(JIS L 1096)における通気度を、3.0mL/cm2/sec未満に、設定されていることから、本発明のエアバッグ用基布を用いて製造したエアバッグは、十分なガス非透過性を確保できて、十分な乗員拘束性能を有することとなる。
【0008】
したがって、本発明のエアバッグ用基布は、環境への負荷の増大を抑制できて、かつ、リサイクル利用が容易である。
【0009】
また、本発明のエアバッグ用基布において、塗膜を、架橋率を10%以下に設定して、形成する構成とすれば、水洗時の基材からの分離が容易となり、さらに、架橋率を、5%以下、好ましくは、3%以下とすれば、一層基材からの分離が容易となり、水洗除去時の条件(水温、時間等)を緩和することができて、環境への負荷をより低減させることが可能となる。
【0010】
本発明のエアバッグ用基布において、水性塗料としては、ポリビニルアルコール、水溶性ウレタン、水溶性ポリエステル、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、水溶性フェノール樹脂、ポリカルボン酸の少なくとも1つをベースとすることが好ましく、具体的には、生分解性ポリビニルアルコールをベースとすれば、水洗後の廃液の処理に、特別な処理が不要となり、そのまま自然環境に流出させることが可能となることから、環境への負荷を一層低減させることができ、廃液の処理等が一層容易となって、好ましい。
【0011】
さらに、上記構成のエアバッグ用基布において、塗膜を、架橋剤を用いた架橋反応により形成し、架橋剤を、有機酸とすれば、熱架橋等の架橋反応を利用する場合と比較して、生成した塗膜の架橋率を略一定に安定させることができ、また、架橋剤として有機酸を用いることにより、無機酸、金属錯体、ボロン系無機物、ブロック型イソシアネート等、他の架橋剤を使用する場合と比較して、環境への負荷を低減させることができる。具体的には、架橋剤としては、環境への負荷や入手容易性、コスト等を考慮して、クエン酸を使用することが好ましい。
【0012】
本発明のエアバッグ用基布を使用したエアバッグからの塗膜は、5~90℃の水に浸漬した状態で、1~1500rpmの攪拌速度で、1~90min攪拌することによって、基材から除去することができ、特別な溶剤(洗剤)等を不要として、簡便に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態であるエアバッグ用基布のモデル断面図である。
図2】実施形態のエアバッグ用基布により製造したエアバッグを使用したエアバッグ装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態であるエアバッグ用基布1について、詳細に説明する。
【0015】
実施形態のエアバッグ用基布1は、コート剤を塗布されて形成される塗膜4を基材3の少なくとも片面に有する構成とされるもので、実施形態の場合、図1に示すように、基材3と、基材3の両面に形成される塗膜4と、を備える構成とされている。
【0016】
基材3は、ポリアミド(PA)繊維、ポリエステル(PET)繊維、あるいは、ポリプロピレン(PP)繊維を織成してなる織布から、形成されている。実施形態の場合、具体的には、基材3には、ポリアミド繊維を使用している。ポリアミド繊維としては、具体的には、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12等の脂肪族ポリアミドや、アラミド等の芳香族ポリアミド等を使用することができる。さらに具体的には、実施形態の場合、基材3は、ナイロン66繊維を、平織りにより織成して、形成されている。なお、基材3の織成態様は、通常平織りであるが、基材3は、斜文織りや朱子織りによって織成してもよい。
【0017】
さらに詳細には、実施形態の場合、基材3は、下記式(1)によって示されるカバーファクター(K)を、1400~2400(望ましくは、1600~2200、さらに望ましくは、1700~2000)の範囲内に設定されている。カバーファクター(K)が、1400未満では、基材3自体の通気度が高すぎ、また、所定の機械的強度を得難く、塗膜形成時に織目間に溶融樹脂が貫通して、得られるコート布(エアバッグ用基布1)の気密性や柔軟性を確保し難く、逆に、カバーファクター(K)が2400を超えると、得られる基材3の剛性が高すぎて、折畳収納性が良好ではなくなり、共に、エアバッグ用の基布としては好ましくない。
【0018】
K=NW×DW0.5+NF×DF0.5 (1)
NW:経糸密度(本/in)、DW:経糸繊度(デニール)
NF…緯糸密度(本/in)、DF:緯糸繊度(デニール)
なお、カバーファクター(K)の値が小さい若しくは大きいということは、基材における経糸・緯糸の糸密度及び/又は糸繊度が相対的に小さい若しくは大きいということを意味している。
【0019】
塗膜4を形成するコート剤は、水性塗料から、構成されている。コート剤を構成する水性塗料は、ポリビニルアルコール、水溶性ウレタン、水溶性ポリエステル、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、水溶性フェノール樹脂、ポリカルボン酸の少なくとも1つをベースとする水性塗料であり、実施形態の場合、環境への負荷の増大を極力抑制できる生分解性ポリビニルアルコール(PVA)をベースとしたものを、使用している。
【0020】
実施形態で使用する生分解性PVAとしては、けん化度72mol%以上で重合度300~3500の範囲内、好ましくは、けん化度87mol%以上で重合度1500~2500の範囲内のものを使用することが、望ましい。けん化度が低いと、所要の耐熱湿性を、得られる塗膜に確保し難く、逆に、けん化度が高すぎると、結晶性が高くなり、所要の柔軟性を、塗膜に得難くなるためである。また、重合度が低すぎると所要の強度を得難く、逆に、重合度が高すぎるとコート剤の粘度が上昇して取扱作業性に問題が生じやすくなるためである。
【0021】
また、実施形態のコート剤には、架橋剤が添加されている。架橋剤としては、カルボン酸等の有機酸(具体的には、クエン酸や酢酸、ポリカルボン酸等を用いることが好ましく、実施形態の場合、クエン酸を使用している。実施形態のコート剤において、クエン酸を用いる理由は、植物由来のものを使用することで、製造時あるいはリサイクル時における洗浄液(廃液)処理時の環境への負荷の増大を抑制できるためである。架橋剤の配合量は、生分解性PVA100部に対して、0~20部(望ましくは、0~10部、さらに望ましくは、0~5部)の範囲内に設定されている。架橋剤の配合量が20部を超えると、エアバッグ用基布のリサイクル時において、水洗除去時の塗膜除去率が低くなり、容易に分離できなくなるためである。
【0022】
架橋剤としては、有機酸以外にも、無機酸、金属錯体、ボロン系無機物、ブロック型イソシアネート等も使用することができる。例えば、無機酸としては、シュウ酸、金属錯体としては、チタン系化合物オルガチックス、ボロン系無機物としては、ホウ砂(4ホウ酸ナトリウム)、ブロック型イソシアネートとしては、エラストロンシリーズ、等を例示することができる。しかしながら、上述したごとく、環境への負荷や製造コスト等を考慮すれば、クエン酸を使用することが好ましい。
【0023】
コート剤には、所定の水溶性の可塑剤付与剤を添加してもよいが、製造時あるいはリサイクル時(洗浄時)の環境への負荷を考慮すれば、添加することは好ましくない。そして、塗膜を形成するコート剤は、塗布時の温度における粘度を、5~50000mPa・s(望ましくは、100~40000mPa・s、さらに望ましくは、200~35000mPa・s)の範囲内に調節する。粘度範囲は、塗布方法に応じて好適範囲が異なるものであり、例えば、下記のごとくディップコートにより基材の両面に塗膜を形成する場合には、PVAの濃度を調整することにより、コート剤の粘度は、200~2000mPa・sとなるように、調節することが望ましい。
【0024】
実施形態のエアバッグ用基布における基材の片面または両面へのコート剤の塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、片面塗布であれば、ナイフコート(ダイコート)、ローラコート(ナショナル、リバース)、刷毛コート、スプレーコート、キスロールコート、フローコート(シャワーコート、カーテンコート)等を例示することができる。両面塗布であれば、ディップコート等を例示することができる。実施形態では、エアバッグ用基布として、ディップコートにより、基材の両面に塗膜を形成されているものを例示したが、ナイフコートにより、基材の片面に塗膜を形成する構成としてもよい。
【0025】
また、コート剤の塗布量(乾燥基準)は、コート剤の組成及び基材に対する所要物性(通気度や柔軟性)により異なるが、通常、片面重量において、5~100g/m2(望ましくは、10~80g/m2、さらに望ましくは、15~65g/m2)の範囲内に、設定され、塗膜4の膜厚(乾燥膜厚)は、通常、5~50μm(望ましくは、10~40μm、さらに望ましくは、15~35μm)の範囲内に、設定されている。
【0026】
そして、実施形態のエアバッグ用基布1では、コート剤を基材3に塗布して形成される塗膜4は、架橋率を、10%以下(好ましくは、5%以下、さらに好ましくは4%以下、最も望ましくは0~3%の範囲内)に、設定される架橋塗膜として、形成されている。架橋率が10%を超えると、水洗除去時の塗膜除去率が良好ではないためである。実施形態のエアバッグ用基布では、架橋剤としてクエン酸を加えることにより、塗膜4を架橋塗膜としているが、架橋剤を加えず、熱反応による架橋や、紫外線,放射線放射による架橋等によって、コート剤を架橋反応させるようにしてもよい。しかしながら、実施形態のエアバッグ用基布1における塗膜4は、低い架橋率で生成することが望ましく、架橋反応を確実に止める(製品ごとの架橋率を安定させる)ことを考慮すれば、架橋剤添加による架橋反応を用いることが望ましい。なお、架橋率は、低ければ低いほど、エアバッグ用基布1からの塗膜4の水洗除去時の作業条件(水温、洗浄剤の添加の有無、浸漬時間、攪拌時間等)を緩和することができ、リサイクル時の環境への負荷をより一層低減させることができる。
【0027】
さらに、形成される塗膜4は、基材3よりヤング率が低く、かつ、引張伸び(EB)(引張破断伸度)(ASTM D638、試験条件:23℃,60%湿度雰囲気下)を50%以上(望ましくは100%以上、さらに望ましくは120%以上)となるものとすることが望ましい。引張伸びが低すぎると、架橋塗膜形成後のエアバッグ用基布1に柔軟性を確保し難くなるとともに、エアバッグ展開時の応力で架橋塗膜に剥がれが発生しやすく、所定の気密性を確保し難くなる虞れがあるためである。また、実施形態のエアバッグ用基布は、折畳収納性の見地から、剛軟度(B法)(ASTM D4032)を、80N以下(望ましくは65N以下)、若しくは、剛難度(カンチレバー法)(ASTM D5732)を、300mm以下(望ましくは250mm以下)とすることが、望ましい。
【0028】
そして、実施形態のエアバッグ用基布1は、通気度(20kPa差圧下、試験条件:23℃,60%湿度雰囲気下)を、3.0L/cm2/min未満(望ましくは、2.0L/cm2/min未満、さらに望ましくは、1.0L/cm2/min未満)、若しくは、通気度(フラジール法(JIS L 1096))における通気度を、3.0mL/cm2/sec未満(望ましくは、2.0mL/cm2/sec未満、さらに望ましくは、1.0mL/cm2/sec未満)に、設定されている。通気度が3.0L/cm2/min(3.0mL/cm2/sec)を超えると、ガス透過性能が高すぎて、エアバッグ用基布として不適格であるためである。
【0029】
また、実施形態のエアバッグ用基布1は、水洗除去により、基材3から塗膜4を分離させることができる。具体的には、エアバッグ用基布1を、5~90℃(望ましくは、20~90℃、さらに望ましくは、30~90℃)の水(温水)に浸漬後、1~1500rpm(望ましくは、30~1500rpm、さらに望ましくは、60~1500rpm)の攪拌速度で1~90min(望ましくは、5~90min、さらに望ましくは、10~90min)攪拌すれば、80%以上(望ましくは、95%以上)の塗膜4を、基材3から分離させることができる。この塗膜4の基材3からの分離の容易さは、塗膜4の架橋率に起因するものであり、架橋率が低ければ低いほど、塗膜4の基材3からの水洗除去が容易となると推測される。勿論、洗剤を使用すれば、水温を低くしたり、攪拌時間を短くすることもできるが、洗浄後(塗膜分離後)の洗浄液(廃液,廃水)処理時における環境への負荷の見地からは、洗剤を使用しないことが望ましい。
【0030】
次に、実施形態のエアバッグ用基布1の具体的な実施例について、説明をする。基材3としては、ナイロン66製の織布(平織り:470dtex、46本打ち込み、カバーファクター:1783)を使用している。また、コート剤としては、生分解性PVAとして、けん化度:87~89mol%、粘度(PVA濃度:4%、温度20℃):20.5~24.5mPa・sのものを用い、基本組成を、下記組成としたものを使用している。
【0031】
<基本組成>
生分解性PVA 100部
クエン酸 1.5部
水 1000部
上記基材3に、コート剤を、ディップコートにより両面塗布して、基材3の両面に塗膜4を形成する(固形分塗布量:20g/m2、塗布膜厚:20~35μm)。こうして得られたエアバッグ用基布1では、架橋率は2.6%となり、通気度は、0.2L/cm2/min程度に設定されることとなる。また、こうして得られたエアバッグ用基布は、30℃の水(温水)に浸漬させて、100rpmの攪拌速度で35分間攪拌したところ、85%の確率で、塗膜を除去することができた。
【0032】
実施形態のエアバッグ用基布1では、基材3の少なくとも片面(実施形態の場合、両面)に塗膜4を形成するコート剤が、水性塗料から形成されており、単に水洗するだけで、基材3から塗膜4を除去可能であることから、塗膜成分を含んだ廃液(洗浄液)処理が容易であり、環境への負荷の増大を抑制して、簡単に塗膜4を基材3から分離させることができる。そのため、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、あるいは、ポリプロピレン繊維(実施形態の場合、ポリアミド繊維)からなる基材を、容易にリサイクル利用することができる。また、実施形態のエアバッグ用基布1は、通気度(20kPa差圧下)を、3.0L/cm2/min未満、若しくは、通気度(フラジール法(JIS L 1096))を、3.0mL/cm2/sec未満に設定されていることから、実施形態のエアバッグ用基布1を用いて製造したエアバッグは、十分なガス非透過性を確保できて、十分な乗員拘束性能を有することとなる。
【0033】
したがって、実施形態のエアバッグ用基布1は、環境への負荷の増大を抑制できて、かつ、リサイクル利用が容易である。
【0034】
また、実施形態のエアバッグ用基布1では、塗膜4が、架橋率を10%以下に設定して、形成される構成であることから、水洗時における塗膜4の基材3からの分離が容易である。さらに、架橋率を、5%以下、好ましくは、3%以下とすれば、一層、塗膜4の基材3からの分離が容易となって、水洗除去時の条件(水温、時間等)を緩和することができて、環境への負荷をより低減させることが可能となる。
【0035】
さらに、実施形態のエアバッグ用基布1では、コート剤を構成する水性塗料が、生分解性ポリビニルアルコールをベースとしていることから、水洗後の廃液(洗浄液)の処理に、特別な処理が不要となり、活性汚泥法のような一般的な下水処理方法で処理することが可能となる。そのため、環境への負荷を一層低減させることができて、廃液の処理等が一層容易となる。なお、このような点を考慮しなければ、コート剤を構成する水性塗料としては、水溶性ウレタン、水溶性ポリエステル、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、水溶性フェノール樹脂、ポリカルボン酸の少なくとも1つをベースとして使用することもでき、このような樹脂を使用する場合にも、塗膜を容易に水に分解させることができることから、水洗作業のみで、塗膜を基材から容易に分離させることができる。
【0036】
さらにまた、実施形態のエアバッグ用基布1では、塗膜4は、架橋剤を用いた架橋反応により形成されるもので、架橋剤としては、有機酸を使用している。そのため、熱架橋等の架橋反応を利用する場合と比較して、生成した塗膜4の架橋率を略一定に安定させることができ、また、架橋剤として有機酸を用いることにより、無機酸、金属錯体、ボロン系無機物、ブロック型イソシアネート等、他の架橋剤を使用する場合と比較して、環境への負荷を低減させることができる。具体的には、実施形態では、架橋剤として、環境への負荷や入手容易性、コスト等を考慮して、クエン酸を使用している。
【0037】
そして、実施形態のエアバッグ用基布1を使用したエアバッグからの塗膜4は、5~90℃の水(温水)に浸漬後、1~1500rpmの攪拌速度で、1~90min攪拌することによって、基材3から除去することができる。なお、一般的な衣料用洗剤を用いることもでき、その場合には、水温や攪拌速度、攪拌時間等の条件を緩和させることができる。具体的には、本発明の発明者らは、実施形態のエアバッグ用基布1を、例えば、家庭用等の一般的な洗濯機における洗濯槽に投入して、水のみに浸漬させて攪拌する等、簡易的な方法によっても、塗膜4を除去可能とすることを、想定している。
【0038】
なお、本発明のエアバッグ用基布1は、水性塗料からなるコート剤を塗布して形成される塗膜4を、水洗除去可能な構成としていることから、逆に、耐水性が良好ではない。そのため、本発明のエアバッグ用基布1を用いたエアバッグ12を車両に搭載する場合には、図2に一例として示す助手席用のエアバッグ装置10のごとく、エアバッグ12を折り畳んで形成される折り完了体13の周囲を、防水性を有し、かつ、エアバッグ12の膨張時に容易に破断可能なラッピングフィルム15(例えば、ポリ塩化ビニリデンフィルム等)によって、リテーナ17とインフレーター18との間も含めて隙間なく包むようにして、ケース20内に収納する必要がある。
【符号の説明】
【0039】
1…エアバッグ用基布、3…基材、4…塗膜。
図1
図2