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特許7501519シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240611BHJP
   H01M 6/36 20060101ALI20240611BHJP
   H01M 6/50 20060101ALI20240611BHJP
   G06F 119/08 20200101ALN20240611BHJP
【FI】
G06F30/20
H01M6/36 C
H01M6/50
G06F119:08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021507403
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012068
(87)【国際公開番号】W WO2020189730
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019051225
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡部 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】榎本 博之
(72)【発明者】
【氏名】山手 茂樹
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-015890(JP,A)
【文献】特開2016-194919(JP,A)
【文献】特開2001-152397(JP,A)
【文献】米国特許第05428560(US,A)
【文献】ROBERTS, S.A.,Multiphysics modeling of thermal batteries [online],U.S. Department of Energy, Office of Scientific and Technical Information,2016年11月01日,[retrieved on 2024.01.18], Retrieved from the Internet <URL: https://www.osti.gov/servlets/purl/1428191>
【文献】VOSKUILEN, T.G. et al.,Multi-Physics Multi-Plateau Reaction Model for LiSi/FeS2 Batteries [online],U.S. Department of Energy, Office of Scientific and Technical Information,2016年04月01日,[retrieved on 2024.01.18], Retrieved from the Internet <URL: https://www.osti.gov/biblio/1581535>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
H01M 6/36
H01M 6/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する、溶融塩を電解質とする電池のシミュレーション方法であって、
前記電池は、
発熱源と、
前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、
正極層、電解質層及び負極層を積層してなる発電セルと
を含み、
前記電池は、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池であり、
前記コンピュータが、
前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートし、
前記発熱源の充填量と温度とに基づき、前記溶融塩を昇温させるための発熱反応における発熱量を計算する
シミュレーション方法。
【請求項2】
コンピュータが実行する、溶融塩を電解質とする電池のシミュレーション方法であって、
前記電池は、
発熱源と、
前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、
正極層、電解質層及び負極層を積層してなる発電セルと
を含み、
前記電池は、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池であり、
前記コンピュータが、
選択した一部の層を代表層に用いて各層の電流分布を計算し、各層の電流分布に応じて発生するジュール発熱と前記溶融塩を昇温させるための発熱反応とを連成させて解析することにより、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする
シミュレーション方法。
【請求項3】
コンピュータが実行する、溶融塩を電解質とする電池のシミュレーション方法であって、
前記電池は、
発熱源と、
前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、
正極層、電解質層及び負極層を積層してなる発電セルと
を含み、
前記電池は、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池であり、
前記コンピュータが、
前記積層方向の電流成分のみを用いて各層の電流分布を計算し、各層の電流分布に応じて発生するジュール発熱と前記溶融塩を昇温させるための発熱反応とを連成させて解析することにより、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする
シミュレーション方法。
【請求項4】
前記コンピュータが、各層の物性値から算出した等価物性値を用いて、伝熱を計算する
請求項から請求項の何れか1つに記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記コンピュータが、前記溶融塩を昇温させるための発熱反応における発熱密度を位置と時間との関数として与える
請求項から請求項の何れか1つに記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記コンピュータが、前記積層方向及び前記積層方向と交差する交差方向にメッシュ分割した要素を用いて各層の電流分布を計算する
請求項から請求項の何れか1つに記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記電池の起電力を計算する手順と、
前記電池の内部抵抗を計算する手順と、
前記電池の外部負荷抵抗、並びに、計算した起電力及び内部抵抗の値に基づき、次の計算ステップにおける電流値を計算する手順と
を繰り返すサブモデルを用いて、前記コンピュータが、電流計算を実行する
請求項から請求項の何れか1つに記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、溶融塩を電解質とした電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池に関して、前記発熱源の充填量と温度とに基づき、前記溶融塩を昇温させるための発熱反応における発熱量を計算し、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートするシミュレーション実行部と、
前記シミュレーション実行部によるシミュレーション結果を出力する出力部と
を備えるシミュレーション装置。
【請求項9】
発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、溶融塩を電解質とした電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池に関して、選択した一部の層を代表層に用いて各層の電流分布を計算し、各層の電流分布に応じて発生するジュール発熱と前記溶融塩を昇温させるための発熱反応とを連成させて解析することにより、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記熱電池の挙動をシミュレートするシミュレーション実行部と、
前記シミュレーション実行部によるシミュレーション結果を出力する出力部と
を備えるシミュレーション装置。
【請求項10】
発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、溶融塩を電解質とした電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池に関して、前記積層方向の電流成分のみを用いて各層の電流分布を計算し、各層の電流分布に応じて発生するジュール発熱と前記溶融塩を昇温させるための発熱反応とを連成させて解析することにより、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記熱電池の挙動をシミュレートするシミュレーション実行部と、
前記シミュレーション実行部によるシミュレーション結果を出力する出力部と
を備えるシミュレーション装置。
【請求項11】
前記シミュレーション実行部は、前記電池に接続された電気回路及び熱回路の少なくとも一方をシミュレートする
請求項8から請求項10の何れか1つに記載のシミュレーション装置。
【請求項12】
前記シミュレーション実行部は、温度分布、電圧分布、電流密度分布、電流値又は端子間電圧の経時変化のうち少なくとも2つのグラフを生成し、
前記出力部は、生成した前記2つのグラフを同一画面に表示させるべく、前記グラフのデータを表示装置へ出力する
請求項8から請求項11の何れか1つに記載のシミュレーション装置。
【請求項13】
コンピュータに、
発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、溶融塩を電解質とした電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池に関して、前記発熱源の充填量と温度とに基づき、前記溶融塩を昇温させるための発熱反応における発熱量を計算し、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする
処理を実行させるためのシミュレーションプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、
発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、溶融塩を電解質とした電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池に関して、選択した一部の層を代表層に用いて各層の電流分布を計算し、各層の電流分布に応じて発生するジュール発熱と前記溶融塩を昇温させるための発熱反応とを連成させて解析することにより、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記熱電池の挙動をシミュレートする
処理を実行させるためのシミュレーションプログラム。
【請求項15】
コンピュータに、
発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、溶融塩を電解質とした電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池に関して、前記積層方向の電流成分のみを用いて各層の電流分布を計算し、各層の電流分布に応じて発生するジュール発熱と前記溶融塩を昇温させるための発熱反応とを連成させて解析することにより、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記熱電池の挙動をシミュレートする
処理を実行させるためのシミュレーションプログラム。
【請求項16】
前記コンピュータに、
前記電池に接続された電気回路及び熱回路の少なくとも一方をシミュレートする
処理を実行させるための請求項13から請求項15の何れか1つに記載のシミュレーションプログラム。
【請求項17】
前記コンピュータに、
温度分布、電圧分布、電流密度分布、電流値又は端子間電圧の経時変化のうち少なくとも2つのグラフを生成し、
生成した前記2つのグラフを同一画面に表示させるべく、前記グラフのデータを表示装置へ出力する
処理を実行させるための請求項13から請求項16の何れか1つに記載のシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池の一種として、溶融塩を電解質とした熱電池が知られている(例えば、特許文献1を参照)。熱電池は、貯蔵型の一次電池であり、製造時や貯蔵時には溶融塩は固体である。溶融塩では、電解質が溶融しない限り、電池反応は進行しない。このため、熱電池は、5~10年またはそれ以上の期間が経過した場合であっても、製造直後と同じ電池特性を発揮することができる。一方、熱電池の電解質は、高温に加熱されることによって溶融状態となり、良好なイオン伝導性を示す。熱電池は、高温において活性化し、外部へ電気を供給することができる。そのため、温度分布と電流電圧特性との間には密接な関係があり、熱電池の設計や品質管理において温度分布を把握することは非常に重要である。高温に加熱して使用開始するという製品の特性から、個々の製品の性能確認を事前に行うことができないため、シミュレーションを用いた設計や品質管理がとりわけ重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-179336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような熱電池の開発において、熱電池の温度と電流・電圧に関する挙動をシミュレートすることは重要である。特に、電池内部の温度をセンサで計測することは大変に難しく、シミュレーションの活用は不可欠である。しかしながら、溶融塩を昇温させるための発熱反応を含む各種の反応を考慮して、熱電池の挙動をシミュレートした事例は存在しない。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、発熱反応を含む各種反応を考慮して、熱電池の挙動をシミュレートするシミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シミュレーション方法は、溶融塩を電解質とする電池のシミュレーション方法であって、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする。
【0007】
シミュレーション装置は、溶融塩を電解質とする電池に関して、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートするシミュレーション実行部と、前記シミュレーション実行部によるシミュレーション結果を出力する出力部とを備える。
【0008】
シミュレーションプログラムは、コンピュータに、溶融塩を電解質とする電池に関して、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、発熱反応を含む各種反応を考慮して、熱電池の挙動をシミュレートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係るシミュレーションシステムの全体構成を説明する模式図である。
図2】サーバ装置の内部構成を説明するブロック図である。
図3】電池テーブルの一例を示す概念図である。
図4】クライアント装置の内部構成を説明するブロック図である。
図5】熱電池の構成を説明する縦断面図である。
図6】典型的な溶融塩のイオン伝導率の温度依存性を示すグラフである。
図7】シミュレーション手法の概略を説明する説明図である。
図8】典型的な正極材料における固相中の電荷担体濃度と開回路電位(OCP)との関係を示すグラフである。
図9】クライアント装置に表示されるユーザインタフェース画面の一例を示す模式図である。
図10】サーバ装置及びクライアント装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
図11】サブモデルの回路図である。
図12】シミュレーション結果の表示例を示す模式図である。
図13】実施の形態2における計算オプションを説明する説明図である。
図14】実施の形態3における計算オプションを説明する説明図である。
図15】実施の形態4における通電開始条件の入力画面である。
図16】熱電池、電気回路及び熱回路を含む回路シミュレーションの例を示す回路図である。
図17】実施の形態6における発熱密度の与え方を説明する説明図である。
図18】実施の形態7における結果表示画面の一例を示す模式図である。
図19】実施の形態8における結果表示画面の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
シミュレーション方法は、溶融塩を電解質とする電池のシミュレーション方法であって、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする。
この構成によれば、溶融塩を昇温させる過程を含むような電池についての挙動をシミュレートできる。
【0012】
前記溶融塩のイオン伝導率は温度の関数であり、前記イオン伝導率は、第1の閾値温度以下で絶縁性の値を示し、第2の閾値温度以上で導電性の値を示してもよい。この構成によれば、イオン伝導率が温度の関数であり、第1の閾値温度以下で絶縁性の値を示し、第2の閾値温度以上で導電性の値を示すような溶融塩を有する電池について挙動を推定できる。
【0013】
前記溶融塩を昇温させるための発熱反応に基づき、前記電池の挙動をシミュレートしてもよい。この構成によれば、溶融塩を昇温させるための発熱反応に基づき、電池の挙動をシミュレートするので、電池内部で起こっている現象を的確に反映させて電池の挙動をシミュレートすることができる。例えば、本シミュレーション方法は、発熱反応やジュール発熱の時間推移を反映させた電池内部の抵抗、電流、端子電圧等の時間変化、並びに、電池内部の電流密度分布、電位分布及び温度分布を計算することができる。
【0014】
前記発熱反応とジュール発熱との連成解析により前記電池の挙動をシミュレートしてもよい。連成とは、複数の物理現象を相互に関係付けることである。例えば、ジュール発熱は伝熱と電流との連成現象である。電池の発熱反応及びジュール発熱は独立した物理現象ではなく、伝熱といった物理現象を介して相互に関連しながら進行するので、連成解析を行うことにより、電池内部で起こっている現象を的確に反映させて電池の挙動をシミュレートすることができる。
【0015】
前記電池は、発熱源と、前記発熱源の燃焼により発熱が開始する発熱体と、正極層、電解質層及び負極層を積層してなる発電セルとを含み、前記電池は、前記正極層、前記電解質層及び前記負極層の積層方向に沿って、前記発熱体及び前記発電セルが積層されたバイポーラ型の熱電池であってもよい。本明細書において、バイポーラ電池とは、筐体内に構成された複数の電極が電気的直列に接続されている電池のことを指す。この構成によれば、発熱体と発電セルとが積層されたバイポーラ型の熱電池をシミュレーションの対象とすることができる。
【0016】
シミュレーション方法は、前記発熱源の充填量と温度とに基づき、前記発熱反応における発熱量を計算してもよい。この構成によれば、本シミュレーション方法は、例えば、アレニウス反応式を用いて、発熱反応における発熱量を計算することができる。
【0017】
各層の物性値から算出した等価物性値を用いて、伝熱を計算してもよい。ここで、各層は、正極、電解質、負極、発熱体などの複合材料からなる。この構成によれば、各層毎に熱伝導率などの物性値を計算する必要がないので、計算要素数を低減することができ、計算負荷を軽減できる。
【0018】
シミュレーション方法は、前記発熱反応における発熱密度を位置と時間との関数として与えてもよい。この構成によれば、本シミュレーション方法は、実験結果又は別のシミュレーション結果として得られた発熱密度の値を用いることによって、計算負荷を軽減できる。
【0019】
シミュレーション方法は、選択した一部の層を代表層として用いて各層の電流分布を計算してもよい。この構成によれば、本シミュレーション方法は、選択した一部の層を用いて電流分布を計算するので、計算負荷を軽減できる。
【0020】
シミュレーション方法は、前記積層方向の電流密度のみを用いて各層の電流分布を計算してもよい。この構成によれば、本シミュレーション方法は、電流計算における次元数を減らすことができるので、計算負荷を軽減できる。
【0021】
前記積層方向及び前記積層方向と交差する交差方向にメッシュ分割した要素を用いて各層の電流分布を計算してもよい。この構成によれば、例えば直交メッシュを用いることにより、計算を安定化できる。
【0022】
シミュレーション方法は、前記電池の起電力を計算する手順と、前記電池の内部抵抗を計算する手順と、前記電池の外部負荷抵抗、並びに、計算した起電力及び内部抵抗の値に基づき、次の計算ステップにおける電流値を計算する手順とを繰り返すサブモデルを用いて、電流計算を実行してもよい。この構成によれば、本シミュレーション方法は、上記サブモデルを用いて、電流境界条件を決定することができる。
【0023】
シミュレーション装置は、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートするシミュレーション実行部と、前記シミュレーション実行部によるシミュレーション結果を出力する出力部とを備える。
この構成によれば、本シミュレーション装置は、溶融塩を昇温させる過程を含むような電池についての挙動をシミュレートできる。例えば、本シミュレーション装置は、発熱反応やジュール発熱の時間推移を反映させた電池内部の抵抗、電流、端子電圧等の時間変化、並びに、電池内部の電流密度分布、電位分布及び温度分布を計算することができる。
【0024】
前記シミュレーション実行部は、前記電池に接続された電気回路及び熱回路の少なくとも一方をシミュレートしてもよい。この構成によれば、溶融塩を電解質とする電池を含んだ電気回路又は熱回路の全体をシミュレートできる。
【0025】
前記シミュレーション実行部は、温度分布、電圧分布、電流密度分布、電流値又は端子間電圧の経時変化のうち少なくとも2つのグラフを生成し、前記出力部は、生成した前記2つのグラフを同一画面に表示させるべく、前記グラフのデータを表示装置へ出力してもよい。この構成によれば、直感的に電池内の各物理量を把握でき、これらの物理量間の複雑な関係を理解しやすくなるような情報を提供できる。
【0026】
シミュレーションプログラムは、コンピュータに、溶融塩を電解質とする電池に関して、前記溶融塩を昇温させる過程を含む前記電池の挙動をシミュレートする処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
この構成によれば、本コンピュータプログラムは、溶融塩を昇温させる過程を含むような電池についての挙動をシミュレートできる。例えば、本コンピュータプログラムは、発熱反応やジュール発熱の時間推移を反映させた電池内部の抵抗、電流、端子電圧等の時間変化、並びに、電池内部の電流密度分布、電位分布及び温度分布を計算することができる。これらの発熱に加えて、電気化学反応による反応熱を加味することもでき、その場合はより精緻なシミュレーションを実施できる。さらに、「融解潜熱による吸熱」、或いは「エントロピーによる吸発熱」を考慮してもよい。
【0027】
前記電池に接続された電気回路及び熱回路の少なくとも一方をシミュレートしてもよい。この構成によれば、溶融塩を電解質とする電池を含んだ電気回路又は熱回路の全体をシミュレートできる。
【0028】
温度分布、電圧分布、電流密度分布、電流値又は端子間電圧の経時変化のうち少なくとも2つのグラフを生成し、生成した前記2つのグラフを同一画面に表示させるべく、前記グラフのデータを表示装置へ出力してもよい。この構成によれば、直感的に電池内の各物理量を把握でき、これらの物理量間の複雑な関係を理解しやすくなるような情報を提供できる。
【0029】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は本実施の形態に係るシミュレーションシステムの全体構成を説明する模式図である。本実施の形態に係るシミュレーションシステムは、通信網Nを介して互いに通信可能に接続されるサーバ装置100とクライアント装置200,200,…,200とを備える。サーバ装置100は、クライアント装置200からの要求に応じて、熱電池10(図5を参照)の挙動をシミュレートし、シミュレーション結果をクライアント装置200へ提供する。
【0030】
クライアント装置200は、ユーザによって利用されるパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などの端末装置である。クライアント装置200には、サーバ装置100にアクセスするためのソフトウェア(アプリケーションプログラム)がインストールされているものとする。サーバ装置100は、クライアント装置200からのアクセスを受付けた際に例えばユーザID及びパスワードに基づくユーザ認証を行い、ユーザ認証に成功した場合、クライアント装置200に対して適宜のサービスを提供するようにしてもよい。
【0031】
本実施の形態に係るサーバ装置100は、クライアント装置200のユーザによる各種入力を受付けるためのインタフェース画面をクライアント装置200へ送信する。このインタフェース画面には、例えば、シミュレーション条件を受付けるための受付画面が含まれる。サーバ装置100は、受付けた条件に基づいて実行したシミュレーション結果をクライアント装置200へ送信する。
【0032】
サーバ装置100がクライアント装置200に対して送信するシミュレーション結果は、シミュレーションの実行結果として得られる数値データ、グラフ等のデータを含む。サーバ装置100がクライアント装置200に対して送信するシミュレーション結果は、シミュレーションの実行結果として得られる数理モデルやシミュレーションプログラムを含んでもよい。
【0033】
本実施の形態では、クライアント装置200においてシミュレーション条件を受付け、受付けたシミュレーション条件等をサーバ装置100へ送信してシミュレーションを実行する構成とした。代替的に、サーバ装置100において、シミュレーション条件を受付け、受付けたシミュレーション条件等に基づきシミュレーションを実行し、サーバ装置100にてシミュレーション結果を表示する構成としてもよい。
【0034】
図2はサーバ装置100の内部構成を説明するブロック図である。サーバ装置100は、制御部101、記憶部102、通信部103、操作部104及び表示部105を備える。
【0035】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。制御部101が備えるCPUは、ROM又は記憶部102に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体を本願のシミュレーション装置として機能させる。サーバ装置100は、シミュレーション装置の一実施形態に過ぎず、クライアント装置200と通信可能に接続された任意の情報処理装置であればよい。
【0036】
制御部101は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路又は演算回路であってもよい。制御部101は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0037】
記憶部102は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いた記憶装置を備える。記憶部102には、制御部101によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムは、熱電池10の挙動をシミュレートするシミュレーションプログラムを含む。シミュレーションプログラムは、例えば実行バイナリである。シミュレーションプログラムの元となる理論式は、熱電池10の挙動を表す代数方程式又は微分方程式によって記述される。シミュレーションプログラムは、シミュレーション対象の挙動毎に用意してもよく、1つのシミュレーションプログラムとして用意してもよい。
【0038】
シミュレーションプログラムは、MATLAB(登録商標)、Amesim(登録商標)、Twin Builder(登録商標)、MATLAB&Simulink(登録商標)、Simplorer(登録商標)、ANSYS(登録商標)、Abaqus(登録商標)、Modelica(登録商標)、VHDL-AMS(登録商標)、C言語、C++、Java(登録商標)などの市販の数値解析ソフトウェア又はプログラミング言語によって記述されてもよい。数値解析ソフトウェアは、1D-CAEと称される回路シミュレータであってもよく、3D形状で行う有限要素法や有限体積法などのシミュレータであってもよい。代替的に、これらに基づいた縮退モデル(ROM : Reduced-Order Model)を用いてもよい。
【0039】
記憶部102に記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供されてもよい。記録媒体Mは、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリである。この場合、制御部101は、不図示の読取装置を用いて記録媒体Mからプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを記憶部102にインストールする。記憶部102に記憶されるプログラムは、通信部103を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部101は、通信部103を通じてプログラムを取得し、取得したプログラムを記憶部102にインストールする。
【0040】
記憶部102には、シミュレーションの結果として得られる数理モデルが記憶されてもよい。数理モデルは、例えば、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより実行される実行コードである。数理モデルは、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより参照される、定義情報若しくはライブラリファイルであってもよい。
【0041】
更に、記憶部102は、熱電池10の構成に係る情報をユーザIDに関連付けて記憶する電池テーブルを有していてもよい。図3は電池テーブルの一例を示す概念図である。電池テーブルは、例えば、熱電池10を識別する電池ID、ユーザを識別するユーザID、及び電池情報を関連付けて記憶する。電池テーブルに登録される電池情報は、例えば、正極及び負極の情報、電解質の情報などを含む。正極及び負極の情報とは、正極及び負極の活物質名、厚み、直径、開回路電位、融点、耐熱温度などの情報である。電解質の情報とは、イオン種、輸率、拡散係数、伝導率などの情報である。熱電池10の特性から、イオンの伝導率は温度の関数として与えられることが望ましい。電池テーブルには、熱電池10の物理的性質、動作状態、回路構成等の情報を参照するリンクが含まれてもよい。電池テーブルに記憶される情報は、サーバ装置100の管理者によって登録されてもよく、クライアント装置200を介してユーザによって登録されてもよい。電池テーブルに記憶されている情報は、蓄電デバイスの挙動をシミュレートする際に、シミュレーション条件の一部として利用され得る。
【0042】
通信部103は、通信網Nを通じてクライアント装置200と通信を行うためのインタフェースを備える。通信部103は、クライアント装置200へ送信すべき情報が制御部101から入力された場合、入力された情報をクライアント装置200へ送信すると共に、通信網Nを通じて受信したクライアント装置200からの情報を制御部101へ出力する。
【0043】
操作部104は、キーボード、マウスなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部105は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。本実施の形態では、サーバ装置100が操作部104及び表示部105を備える構成としたが、操作部104及び表示部105は必須ではなく、サーバ装置100の外部に接続されたコンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部のコンピュータへ出力する構成であってもよい。
【0044】
図4はクライアント装置200の内部構成を説明するブロック図である。クライアント装置200は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等であり、制御部201、記憶部202、通信部203、操作部204及び表示部205を備える。
【0045】
制御部201は、CPU、ROM、RAMなどにより構成される。制御部201が備えるCPUは、ROM又は記憶部202に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体の制御を実行する。
【0046】
制御部201は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、マイコン等を含む任意の処理回路又は演算回路であってもよい。制御部201は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0047】
記憶部202は、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read Only Memory)などの不揮発性メモリにより構成されており、各種コンピュータプログラム及びデータを記憶する。記憶部202に記憶されるコンピュータプログラムは、サーバ装置100と情報の授受を行うために用いられる汎用又は専用のアプリケーションを含む。汎用のアプリケーションプログラムの一例は、ウェブブラウザである。ウェブブラウザを用いてサーバ装置100にアクセスする場合、ユーザID及び認証コードを用いたユーザ認証を行うことが好ましく、ユーザ認証に成功した場合にのみ、サーバ装置100とクライアント装置200との間の通信を許可すればよい。
【0048】
通信部203は、通信網Nを通じてサーバ装置100と通信を行うためのインタフェースを備える。通信部203は、サーバ装置100へ送信すべき情報が制御部201から入力された場合、入力された情報をサーバ装置100へ送信すると共に、通信網Nを通じて受信したサーバ装置100からの情報を制御部201へ出力する。
【0049】
操作部204は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部205は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。本実施の形態では、クライアント装置200が操作部204を備える構成としたが、クライアント装置200にキーボード、マウス等の入力インタフェースが接続される構成であってもよい。
【0050】
以下、シミュレーション対象の熱電池10の構成について説明する。
図5は熱電池10の構成を説明する縦断面図である。熱電池10は、例えば、筐体11、断熱部材12、一対の出力端子13,13、発熱源14、点火具15、発熱体16、及び発電セル17を備える。
【0051】
筐体11は、例えば円筒形状の容器であり、断熱部材12、出力端子13、発熱源14、点火具15、発熱体16、及び発電セル17を収容する。断熱部材12は、発熱体16及び発電セル17を取り囲む。断熱部材12は、発熱体16及び発電セル17を保温する。断熱部材12は、セラミックファイバなどの低熱伝導率、高耐熱性、及び電気絶縁性を有する材料により形成することができる。
【0052】
出力端子13は、接続部材13a,13bを介して発電セル17から電流を外部に取り出すための端子である。接続部材13aは、出力端子13に最も近い発電セル17の正極層17aに接続される。接続部材13bは、出力端子13から最も遠い発電セル17の負極層17cに接続される。この接続により、全ての発電セル17は電気的直列に接続され、電池全体としてバイポーラ電池となる。点火具15は、電流が供給されると火花を飛ばして発熱源14に着火する。発熱源14は、筐体11の中心軸Pに沿って配置される。発熱源14は、火薬などの熱源を含み、点火具15によって着火されると燃焼する。
【0053】
発熱体16及び発電セル17は共に円板状に形成され、中心軸Pに沿って積層される。発熱体16は、発熱源14の燃焼によって中心軸P側から外側に向けて発熱が開始し、発電セル17を加熱する。発熱体16は、例えば金属粉末と酸化剤との混合物により形成される。
【0054】
発電セル17は、正極層17a、電解質層17b、及び負極層17cを含む。これらの正極層17a、電解質層17b、及び負極層17cは、中心軸Pに沿って順に積層される。正極層17aは、例えば二硫化鉄により形成される。電解質層17bは、例えば塩化リチウムと塩化カリウムとの共融混合物などの溶融塩を含む。負極層17cは、例えばリチウムシリコンにより形成される。
【0055】
図5の例では、簡略化のために、4個の発電セル17を積層した熱電池10の構成について示した。代替的に、積層する発電セル17の数は、仕様や用途などに応じて任意に設定することが可能であり、例えば50~100個程度の発電セル17を積層してもよい。
【0056】
図5では中心軸Pに発熱源14、中心軸Pに垂直な面に発熱体16を仮定したが、電解質層17bの溶融塩を適切に溶融させることができるのであれば、このような配置に限定されることはない。更には、発熱源14や発熱体16などの発熱の機構は反応熱や燃焼熱に限定されない。例えば、ヒーター加熱、摩擦熱、断熱圧縮による昇温、マイクロ波加熱、アーク加熱などでもよい。
【0057】
発熱体16が発熱して高温となり、電解質層17bの溶融塩が溶融すると、イオン伝導率が瞬間的に高くなり、すなわち内部抵抗が瞬間的に下がり、熱電池10の発電が瞬間的に始まる。図6は典型的な溶融塩のイオン伝導率の温度依存性を示すグラフである。グラフの横軸は温度であり、縦軸は溶融塩のイオン伝導率である。図6のグラフに示すように、電解質層17bのイオン伝導率は、温度がある閾値を超えると急に高くなる。この閾値温度は溶融塩の融点付近であることが多い。
【0058】
以下、熱電池10のシミュレーション手法について説明する。
図7はシミュレーション手法の概略を説明する説明図である。本実施の形態に係るサーバ装置100は、熱電池10の溶融塩を昇温させるための発熱反応と、ジュール発熱とに基づき、熱電池10の挙動をシミュレートする。ここで、溶融塩を昇温させるための発熱反応とは、火薬を含む発熱源14への点火に伴う反応であり、発熱源14から発熱体16への発熱の連鎖を、例えば以下のアレニウス反応式で表現することができる。
【0059】
【数1】
【0060】
ここで、rは反応速度(1/s)、k0 は反応速度定数(1/s)、Ea は活性化エネルギ(J/mol)、Rは気体定数(J/mol/K)、Tは温度(K)、xf は反応率、p,q,C0 は定数である。Qは発熱密度(W/m3 )、ρは密度(kg/m3 )、Hp は反応潜熱(J/kg)である。
【0061】
上記のアレニウス反応式は、例えば断熱部材12の構成及び配置などによる火薬燃焼の差異を表現することが可能である。サーバ装置100は、アレニウス反応式を用いることにより、火薬の充填密度、火薬種、充填総量、周囲への熱の逃げなどを考慮し、特定の時間における発熱量を仮定しない温度シミュレーションを実行できる。発熱源14と発熱体16は、通常異なる物質が利用され、発熱源14の方が発熱速度が速いことが多い。そのため、発熱源14及び発熱体16それぞれの反応定数を指定することが好ましい。アレニウス反応式は反応速度式の一例として挙げたものであって、他の反応式を用いてもよい。
【0062】
サーバ装置100は、電気化学反応に関して、例えばNewmanモデルを用いることができる。Newmanモデルは、以下において説明するNernst-Planck式、電荷保存式、拡散方程式、Butler-Volmer式、及びNernst式により記述される。
【0063】
Nernst-Planck式は、電解液や多孔電極におけるイオン泳動とイオン拡散とを解くための方程式であり、次式により表される。
【0064】
【数2】
【0065】
ここで、σl,eff は液相伝導率(S/m)、φl は液相電位(V)、Rは気体定数(J/(K・mol))、Tは温度(K)、Fはファラデー定数(C/mol)、fは活量係数、cl は電解質のイオン濃度(mol/m3 )、t+ はカチオン輸率、itot は体積当たりの反応電流密度である。液相有効伝導率σl,eff は、多孔体中における見かけの伝導率であり、液相バルクの伝導率と固相体積比率εs の関数で表すことが多い。液相はイオン伝導部を指し、熱電池10においては溶融塩部分のことを指す。
【0066】
電荷保存式は、多孔電極や集電体での電子伝導を表す式であり、次式により表される。
【0067】
【数3】
【0068】
ここで、φs は固相電位(V)、σs は固相伝導率(S/m)、itot は体積当たりの反応電流密度(A/m3 )である。固相は電子伝導部を指し、熱電池10においては正極材料の溶融塩以外の部分、負極材料の溶融塩以外の部分、更にはその他の接続部材などの電子伝導体全てを指す。
【0069】
拡散方程式は、活物質粒子中での電荷担体の拡散を表す方程式であり、次式により表される。
【0070】
【数4】
【0071】
ここで、cs は固相中の電荷担体濃度(mol/m3 )、tは時間(s)、Ds は固相中の電荷担体の拡散係数(m2 /s)である。Ds は電極中の電荷担体濃度、電極組成、SOC(State Of Charge)、又は温度の関数としてもよい。SOCは充電深度であり、満充電状態を1.0で表し、完全放電状態を0.0で表す。
【0072】
Butler-Volmer式は、固相と液相との界面で起こる電荷移動反応での活性化過電圧を表す式、Nernst式は、平衡電位Eeq の定義式であり、それぞれ次式により表される。
【0073】
【数5】
【0074】
ここで、iloc は反応電流密度(A/m2 )、i0 は交換電流密度(A/m2 )、αa ,αc は移行係数、ηは活性化過電圧(V)、Eeqは平衡電位(V)、E0 は標準平衡電位(V)、nは関与電子数、a0 は酸化剤濃度、aR は還元剤濃度(mol/m3 )である。
【0075】
数6に活物質粒子の表面における、固相中の電荷担体濃度と電荷移動反応に関わる電荷担体フラックスの関係式を示す。r0 は活物質粒子の半径(m)を表し、Js は電荷担体のフラックス(mol/m2 s)である。換言すれば、Js は電荷移動反応によって消失生成する、単位面積単位時間当たりの電荷担体の量である。
【0076】
【数6】
【0077】
数7は、電荷担体のフラックスJs と反応電流密度iloc との関係を表す式である。
【0078】
【数7】
【0079】
数8は、反応電流密度iloc と体積当たりの反応電流密度itot との関係を表す式である。Sv は単位体積当たりの比表面積(m2 /m3 )である。Svは活物質粒子の半径r0 の関数であってもよい。
【0080】
【数8】
【0081】
図8は典型的な正極材料における固相中の電荷担体濃度と開回路電位(OCP)との関係を示すグラフである。θは数8で定義される無次元数であり、電荷担体濃度cs の関数である。csmaxは電池製造時、すなわち電池が全く劣化していない時点(すなわち0サイクル目)での、放電末期(=下限電圧時)における固相中の電荷担体濃度(mol/m3 )である。一方、csminは電池製造時、すなわち電池が全く劣化していない時点(すなわち0サイクル目)での、放電初期(=上限電圧時=満充電時)における固相中の電荷担体濃度(mol/m3 )である。満充電時はcs =csminなのでθ=0.0、放電末期はcs =csmaxなのでθ=1.0であることから、電池の放電に伴い、θは平均的には0.0から1.0に変化する。このように、正極の開回路電位OCPは正極θの関数として表される。同じようにして、負極の開回路電位OCPもまた負極θの関数として表される。負極では、放電初期にθ=1.0で、放電末期にθ=0.0であることに注意する。
【0082】
以上はNewmanモデルの一般的な説明であるが、例えば、カチオン(正イオン)の輸率t+ ≒1.0であれば、数2第一式の右辺第二項は無視できる。この場合、液相の電流はオームの法則で計算されることになる。非線形性の強い項を無視できるので、計算負荷を低減しつつ計算安定性を向上させることができる。
【0083】
電荷移動反応での活性化過電圧を表す式としてButler-Volmer式を用いたが、代替的にTafel式を用いてもよい。さらには、任意のテーブルデータの形式で与えてもよい。交換電流密度は、電極中の電荷担体濃度、電極組成、SOC、または温度の関数としてもよい。数4に記載した固相における電荷担体の拡散方程式は、濃度過電圧の影響が無視できる場合または計算負荷を低減させたい場合は、省略してもよい。
【0084】
本実施の形態では、熱電池10の物理現象を表すモデルの一例としてNewmanモデルを示した。Nernst式は、代替的には、実測データが用いられることが多い。
【0085】
代替的に、電極を単一の活物質粒子によって表現する単粒子モデルが用いられてもよい。単粒子モデルについては、例えば、非特許文献「Single-Particle Model for a Lithium-Ion Cell : Thermal Behavior, Meng Guo, Godfrey Sikha, and Ralph E. White, Journal of The Electrochemical Society ,158 (2) 122-132 (2011)」に開示されたモデルを参照すればよい。
【0086】
代替的に、開回路電圧OCVと内部抵抗を、温度とSOCのべき乗関数で表す多項式モデルが用いられてもよい。多項式モデルについては、例えば、非特許文献「Modeling the Dependence of the Discharge Behavior of a Lithium-Ion Battery on the Environmental Temperature, Ui Seong Kim,a Jaeshin Yi,a Chee Burm Shin, Taeyoung Han,b and Seongyong Park, Journal of The Electrochemical Society ,158 (5) 611-618 (2011)」に開示されたモデルを参照すればよい。
【0087】
更に代替的には、等価回路モデルなど、熱電池10の特性を表すモデルが用いられてもよい。
【0088】
熱電池10の溶融塩は、発熱源14の燃焼により発熱体16が発熱した場合に溶融状態となり、良好なイオン伝導性を示す。このとき、発電セル17の正極層17a及び負極層17cには電流が流れる。発電セル17の正極層17a及び負極層17cに電流が流れた場合、ジュール熱が発生するので、アレニウス型反応により発熱反応が更に進行する。発熱反応の進行により昇温すると、電気抵抗が下がり、さらに電流が大きくなる。以上のように、熱電池10における発熱反応及びジュール発熱は独立した物理現象ではなく、互いに因果となり、伝熱といった物理現象を介して相互に関連しながら、すなわち連成しながら、進行する。
【0089】
そこで、本実施の形態に係るサーバ装置100は、溶融塩を昇温させるための発熱反応と、ジュール発熱とを連成させて解析し、例えば昇温による電気抵抗の変化を考慮して電流計算を行う。
【0090】
伝熱については、次式で表される固体熱伝導方程式を用いる。
【0091】
【数9】
【0092】
ここで、ρは密度(kg/m3 )、Cp は比熱(J/kg/K)、Tは温度(K)、kは熱伝導率(W/m/K)、Qは内部発熱(W/m3 )である。Qは発熱源14においては燃焼熱であり、発熱体16においては発熱反応熱及びジュール発熱であり、発電セル17においては電気化学反応熱及びジュール発熱であり、電解質層17bの溶融塩においてはさらに融解時の潜熱も含まれる。計算負荷の低減のため、影響が小さいと考えられる発熱要因は、適宜に無視してもよい。
【0093】
外部への放熱は、熱伝達と熱輻射を考慮すればよい。熱伝達は流体の流れによって熱が輸送される現象であり、輻射は電磁波によって熱が輸送される現象である。熱伝達は数10により表現され、熱輻射は数11により表現される。ここで、qconvは熱伝達流束(W/m2 )、hは熱伝達係数(W/m2 s)、Tはシミュレーションの過程で計算される熱電池10の外表面温度(K)、T0 は外気温度(K)、qrad は熱輻射流束(W/m2 )、εは黒体率、σはステファン・ボルツマン係数(W/m2 /T4 )である。
【0094】
【数10】
【0095】
【数11】
【0096】
代替的には、熱電池の周囲の流体(主には空気)の流れを考慮した熱流体シミュレーションプログラムを、本シミュレーションプログラムに追加してもよい。これにより、熱電池と熱電池周囲の流体との熱のやり取りを考慮できるようになる。
【0097】
更に代替的には、熱輻射の計算は数11に依らず、熱電池の周りにある物体もシミュレーションモデルに含み、形態係数を用いた熱輻射シミュレーションをおこなってもよい。
【0098】
シミュレーションの実施者は、初期温度を適切に設定することが好ましい。その理由は、温度によって、溶融塩イオン伝導性や、材料の安定性が大きく変わるためである。
【0099】
熱電池10の各層は、厚み方向の熱伝導率については調和平均を使用し、その他の物性値(半径方向の熱伝導率、比熱、密度)については算術平均を使用してもよい。例えば、各層における厚み方向の熱電度率をki 、各層の厚みをti 、各層の物性値をφi とした場合、厚み方向の熱伝導率の調和平均を数12により表し、その他の物性値の算出平均を数13により表してもよい。このように複合材料の等価物性値を用いることにより、計算要素数を削減して計算負荷を低減することができる。
【0100】
【数12】
【0101】
【数13】
【0102】
連成計算は、非線形性が強く、計算が収束しがたいという側面を有している。そこで、サーバ装置100は、中心軸Pに沿った軸方向(積層方向)と半径方向とにそれぞれ交差する直交メッシュを用いて、各層における電流分布を計算してもよい。サーバ装置100は、このような直交メッシュを用いることによって、計算を安定化させることができる。
【0103】
シミュレーションの形状は、図5に示す熱電池の典型的な形状が円筒型であることから、2次元軸対象モデルを用いることが多いが、形状によっては1次元、2次元あるいは3次元の形状を用いてもよい。
【0104】
以下、サーバ装置100及びクライアント装置200の動作について説明する。本実施の形態では、クライアント装置200からサーバ装置100にアクセスすることによって、熱電池10のシミュレーションを実行する。
【0105】
図9はクライアント装置200に表示されるユーザインタフェース画面の一例を示す模式図である。図9に示すユーザインタフェース画面210は、クライアント装置200からサーバ装置100にアクセスし、正当なユーザであることが認証された後に、クライアント装置200の表示部205に表示される画面の一例を示している。クライアント装置200は、サーバ装置100と通信を行い、サーバ装置100から表示画面用のデータを取得することにより、図9に示すようなユーザインタフェース画面210を表示部205に表示させる。ユーザ認証は必須ではなく、自由にサーバ装置100にアクセスできるようにしてもよい。または、企業、団体、地域、国家単位で認証を行ってもよい。
【0106】
ユーザインタフェース画面210は、ユーザインタフェースのコンポーネントとして配置される操作ボタンやチェックボックス等を備えた画面であり、操作部204を通じてユーザによる操作を受付ける。
【0107】
表示欄211は、ユーザID、前回のアクセス日時等のユーザ情報を表示するための表示欄である。クライアント装置200は、サーバ装置100と通信を行い、ユーザID、前回のアクセス日時等のユーザ情報をサーバ装置100から取得することにより、ユーザ情報を表示欄211に表示させる。
【0108】
登録ボタン212Aは、新たな蓄電デバイスの情報(電池情報)をサーバ装置100に登録するための操作ボタンである。操作部204を用いて登録ボタン212Aが操作された場合、クライアント装置200は、電池情報を受付けるための受付画面を表示部205に表示させる。電池情報の受付けが完了した場合、クライアント装置200は、受付けた電池情報をサーバ装置100へ送信する。サーバ装置100は、クライアント装置200から受信した電池情報を記憶部102の電池テーブルに登録する。
【0109】
選択ボタン212Bは、熱電池10の詳細情報を取得するための操作ボタンであり、熱電池10の種類や仕様に応じて個別に用意される。操作部204を用いて何れかの選択ボタン212Bが操作された場合、クライアント装置200は、選択された熱電池10の詳細情報をサーバ装置100から取得する。取得した詳細情報は、表示部205に表示されてもよい。
【0110】
チェックボックス213A~213Fは、シミュレーション対象の挙動を選択するためのボックスである。チェックボックス213Aには「電流の時間変化」というラベルが付されている。すなわち、このチェックボックス213Aは、操作部204を用いて選択された場合のシミュレーション対象の挙動が「電流の時間変化」であることを示している。チェックボックス213B~213Fについても同様である。操作部204を用いてチェックボックス213B~213Fが選択された場合のシミュレーション対象の挙動は、それぞれ「内部抵抗の時間変化」、「起電力の時間変化」、「端子電圧の時間変化」、「温度分布」、「電流分布」であることを示している。
【0111】
オプションボタン214は、計算オプションを選択するための操作ボタンである。オプションボタン214が操作された場合、シミュレーションの計算に用いるオプションのオン・オフを受付ける。計算オプションには、例えば、代表の発電セル17を用いて全体を計算するオプション、電流の向きを厚み方向のみに限定して計算するオプション、通電開始条件を指定するオプション、外部回路情報を指定するオプション等が含まれる。これらのオプションについては実施の形態2~5において述べる。
【0112】
ダウンロードボタン215は、サーバ装置100からシミュレーション結果をダウンロードする際に操作される操作ボタンである。ダウンロードボタン215が操作された場合にダウンロードできるシミュレーション結果は、チェックボックス213A~213Fによって選択された挙動についてサーバ装置100がシミュレーションを実行し、実行結果として得られる数値データ、グラフ等のデータである。操作部204を用いてダウンロードボタン215が操作された場合、クライアント装置200は、通信部203を通じて、サーバ装置100に対してシミュレーション結果の送信を要求し、その応答としてサーバ装置100から送信されてくるシミュレーション結果を受信する。
【0113】
本実施の形態に係るサーバ装置100は、シミュレーション結果として数値データ、グラフ等のデータをクライアント装置200へ送信する構成とした。代替的には、サーバ装置100は、熱電池10の特性を代数方程式、微分方程式及び特性パラメータを用いて数学的に記述した数理モデルをクライアント装置200へ送信してもよい。数理モデルは、単なる理論モデルではなく、選択された熱電池10についてシミュレーションが実行され、各種のパラメータが調整された後のモデルを表す。本実施の形態において、数理モデルは、例えば、MATLAB(登録商標)、Amesim(登録商標)、Twin Builder(登録商標)、MATLAB&Simulink(登録商標)、Simplorer(登録商標)、ANSYS(登録商標)、Abaqus(登録商標)、Modelica(登録商標)、VHDL-AMS(登録商標)、C言語、C++、Java(登録商標)などの数値解析ソフトウェア又はプログラミング言語で用いられるライブラリ、モジュール等のフォーマットにより提供される。
【0114】
図10はサーバ装置100及びクライアント装置200が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。クライアント装置200の制御部201は、ユーザ認証の後にサーバ装置100から送信される表示画面用のデータを受信し、シミュレーション対象を選択するためのユーザインタフェース画面210を表示部205に表示する(ステップS101)。制御部201は、表示部205に表示したユーザインタフェース画面210を通じて、シミュレーション対象についての選択を受付ける(ステップS102)。具体的には、制御部201は、選択ボタン212Bを用いた熱電池10の種別の選択と、チェックボックス213A~213Fを用いたシミュレーション対象の挙動の選択とを受付ける。
【0115】
ユーザインタフェース画面210のオプションボタン214が操作された場合、制御部201は、計算オプションを受付けるための受付画面(不図示)を表示部205に表示し、計算オプションを受付ける(ステップS103)。
【0116】
次いで、制御部201は、結果ダウンロードの要求を受付けたか否かを判断する(ステップS104)。例えば、図9に示すユーザインタフェース画面210において、ダウンロードボタン215が操作された場合、制御部201は、結果ダウンロードの要求を受付けたと判断する。要求を受付けていないと判断した場合(S104:NO)、制御部201は、結果ダウンロードの要求を受付けるまで待機する。代替的には、計算後に結果ダウンロードの要求を受付けるように構成してもよい。
【0117】
結果ダウンロードの要求を受付けた場合(S104:YES)、制御部201は、通信部203を通じて、ステップS102で選択されたシミュレーション対象の情報、ステップS103で受付けた計算オプションの情報をサーバ装置100へ送信し(ステップS105)、シミュレーション結果のダウンロードを要求する。ステップS103において計算オプションを受付けなかった場合、制御部201は、デフォルトの計算オプションの情報をサーバ装置100へ送信してもよい。
【0118】
サーバ装置100は、クライアント装置200から送信されるシミュレーション対象及び計算オプションの情報を通信部103にて受信する(ステップS106)。サーバ装置100の制御部101は、通信部103を通じて受信したシミュレーション対象及び計算オプションの情報に基づき、シミュレーションを実行する(ステップS107)。このとき、制御部101は、シミュレーション対象の挙動に対応するシミュレーションプログラムを実行することによって、熱電池10の挙動をシミュレートする。ユーザによって選択された計算オプションは、シミュレーションプログラムを実行する際に適用される。
【0119】
熱電池10において、発熱源14の燃焼により発熱体16が発熱を開始し、やがて融点を超えると溶融塩は溶融状態となり、発電セル17の正極層17a及び負極層17cには電流が流れる。制御部101は、発熱反応とジュール熱反応とを連成させ、発熱反応における反応速度rを数式1に示すアレニウス反応式により計算し、熱電池10の起電力及び内部抵抗を例えばNewmanモデルにより計算する。熱電池10の起電力とは、各電極の平衡電位Eeqを電池全体にわたり足し合わせた値であり、無負荷時の正負の出力端子13間の電圧である。
【0120】
制御部101は、熱電池10の起電力を計算する手順、熱電池10の内部抵抗を計算する手順、並びに、熱電池10の外部負荷抵抗、起電力及び内部抵抗を用いて次の計算ステップにおける電流値を計算する手順を繰り返すサブモデルを用いて電流計算を実行してもよい。サブモデルの回路図を図11に示す。例えば、熱電池10の起電力をEMF、電池温度Tにおける熱電池10の内部抵抗をr(T)、外部負荷抵抗をR、熱電池10の端子間電圧をVe 、熱電池10の電流をIe とした場合、数14及び数15の関係があるので、制御部101は、数16より電流Ie を計算することができ、次の計算ステップにおける境界条件とする。
【0121】
【数14】
【0122】
【数15】
【0123】
【数16】
【0124】
熱電池10の外部負荷抵抗は、必ずしも抵抗器である必要はなく、キャパシタやインダクタなどの他の回路素子を含んでいてもよい。外部負荷抵抗の値は、実際の負荷の特性を表してもよく、仮想的な値を用いてもよい。
【0125】
ここで述べた電流Ie は、熱電池10から放電可能な電流の最大値であると考えることもできる。よって、代替的に、0.0(A)以上Ie 未満の任意の値を熱電池10に流れる電流として、次の計算ステップにおける境界条件としてもよい。
【0126】
シミュレーションが完了した場合、制御部101は、通信部103を通じて、シミュレーション結果をクライアント装置200へ送信する(ステップS108)。ステップS108で送信するシミュレーション結果は、数値データであってもよく、数値データから生成したグラフ、コンター図及び動画などであってもよい。熱電池10の特性を表す数理モデルであってもよい。
【0127】
クライアント装置200は、サーバ装置100から送信されるシミュレーション結果を通信部203にて受信する(ステップS109)。クライアント装置200の制御部201は、受信したシミュレーション結果を表示部205に表示させる(ステップS110)。
【0128】
図12はシミュレーション結果の表示例を示す模式図である。図12は、熱電池10の電流及び内部抵抗の時間変化に係るシミュレーション結果を示している。すなわち、図12は、ユーザインタフェース画面210において、チェックボックス213A及び213Bの双方が選択された場合のシミュレーション結果を示している。シミュレーション結果は、例えば、発熱源14を点火してからの経過時間(s)を横軸、内部抵抗(Ω)及び全電流(A)を縦軸にとったグラフにより表される。図12の例では、発熱源14を点火してから約0.1秒で内部抵抗が低下し、電流が流れ始めることを示している。
【0129】
ユーザインタフェース画面210において、チェックボックス213C又は213Dが選択された場合も同様であり、クライアント装置200の表示部205には、発熱源14を点火してからの経過時間(s)を横軸、起電力(V)又は端子電圧(V)を縦軸にとったグラフがシミュレーション結果として表示される。チェックボックス213E又は213Fが選択された場合、クライアント装置200の表示部205には、熱電池10内部の各位置における温度(温度分布)又は電流密度の大きさ(電流密度分布)コンター図により表示される。
【0130】
以上のように、本実施の形態では、サーバ装置100は、熱電池10の溶融塩を昇温させるための発熱反応と、ジュール発熱とを考慮して、熱電池10の挙動をシミュレートすることができる。ユーザは、熱電池10における物理現象について詳しくない場合であっても、クライアント装置200から熱電池の種類、及びシミュレーション対象の挙動を選択することによって、熱電池10の詳細なシミュレーション結果を取得することができる。
【0131】
(実施の形態2)
実施の形態2では、代表の発電セル17を用いて全体を計算する計算オプションについて説明する。
【0132】
図13は実施の形態2における計算オプションを説明する説明図である。上述したように、熱電池10は複数の発電セル17を備える。典型的には、熱電池10は50~100層程度の発電セル17を備える。これらの全ての層において電流を計算した場合、計算負荷が大きくなってしまうという問題点を有する。そこで、サーバ装置100は、計算オプションとして、代表の発電セル17を用いて全体を計算するオプションを用意しておき、ユーザがこの計算オプションをオンにした場合、代表の発電セル17を用いて電流(電気化学)を計算する。図13の例では、熱電池10の構成を簡略化して示し、計算対象の発電セル17をハッチングにより示している。
【0133】
代表とする発電セル17は、サーバ装置100において予め設定される。代替的に、代表とする発電セル17は、ユーザによって選択される。例えば、連続する5層の発電セル17のうちの1層を代表の発電セル17として設定した場合、電気化学の計算負荷は、1/5程度に軽減される。
【0134】
(実施の形態3)
実施の形態3では、電流の向きを厚み方向のみに限定して計算する計算オプションについて説明する。
【0135】
図14は実施の形態3における計算オプションを説明する説明図である。熱電池10の各層は半径方向と比較して厚みが薄いので、電流密度ベクトルの向きは殆ど厚み方向と一致すると予想される。このため、サーバ装置100は、計算オプションとして、電流の向きを厚み方向のみに限定して計算するオプションを用意しておき、ユーザがこの計算オプションをオンにした場合、半径方向に流れる電流を無視し、厚み方向に流れる電流のみを用いて電流計算を行う。
【0136】
実施の形態3におけるサーバ装置100は、電流計算の次元数を1次元まで減らすことができるので、計算負荷を軽減することができる。
【0137】
(実施の形態4)
これまで、サブモデルを用いて電流境界条件を決定する方法について述べた。代替的に、サブモデルの値を参考にして、熱電池モデルの境界条件を決定してもよい。
【0138】
例えば、図11のサブモデルにおいて外部負荷抵抗の値Rを非常に大きくとった場合、外部負荷抵抗での電圧降下は開放時の熱電池10の端子間電圧となる。ここでいう非常に大きくとは、熱電池10の溶融塩が溶融している時の内部抵抗よりも十分に大きい値(例えば100倍)という意味である。換言すれば、このとき外部負荷抵抗は熱電池10の電圧計となっている。図15は実施の形態4における通電開始条件の入力画面である。図15に示すように、熱電池10の端子間電圧が既定値を超えた場合に通電を開始するとしてもよい。
【0139】
更に代替的には、熱電池10の温度が所定の温度を超えた場合に通電を開始するとしてもよい。何れの方法を用いる場合であっても、熱電池10の端子間電圧が負にならないように配慮される必要があるため、計算に際しては注意が必要である。
【0140】
(実施の形態5)
ここまで熱電池10部分のシミュレーションについて述べてきたが、実施の形態5では、熱電池10に接続される回路(後述する電気回路又は熱回路)をシミュレーションに含む場合について述べる。
【0141】
サーバ装置100が提供するシミュレーションプログラムは、熱電池10のみではなく、熱電池10に接続される電気回路を含んでもよい。クライアント利用者はサーバ装置100上で熱電池10を含む電気回路シミュレーションを実施してもよい。
【0142】
電気回路は、オーム抵抗の他に、キャパシタ、インダクタ、ダイオード、半導体素子(サイリスタ、IGBT,MOSFETなど)などを含んでいてもよい。
【0143】
熱電池10に与えられる境界条件は、必ずしも受動素子によるものだけではなく、定電流条件、定電圧条件、定電力条件などを含んでもよい。時間的に値が変動してもよいし、放電の過程で境界条件が変化(例えば、定電流境界条件から定電力境界条件になる。)してもよい。
【0144】
電気回路は、スイッチング動作、負荷の切り替え、定値制御及び目標値制御などを行う制御回路を含んでもよい。
【0145】
熱電池10に接続される回路は、熱回路を含んでもよい。熱回路は、熱容量や熱抵抗を電気回路と同様の微分方程式により表現される。系の温度挙動は、回路シミュレーションのように計算される。
【0146】
熱回路は、熱電池10以外の熱源、熱容量、熱抵抗、放熱境界および定温度境界を含んでもよい。熱源、熱容量、熱抵抗などの値は時間的に変動してもよいし、放電の過程で境界条件が変化してもよい。
【0147】
図16は熱電池10、電気回路20及び熱回路30を含む回路シミュレーションの例を示す回路図である。この回路シミュレーションにおいて、熱電池10は、熱源かつ電流源(または電圧源)として扱われる。熱電池10は、起電部10a、内部抵抗10b、熱源10c、熱容量10dを含む。電気回路20は、例えば、半導体素子21、インダクタ22、ダイオード23、及び負荷24を含む。熱回路30は、例えば、負荷の熱容量31、熱電池10と負荷の間の熱抵抗32、負荷と外気の間の熱抵抗33、及び外気温度34を含む。もちろん、負荷や使用条件に合わせて、回路素子は自由に組み合わせてよい。
【0148】
(実施の形態6)
実施の形態6では、発熱反応における発熱密度を位置と時間との関数として与える構成について説明する。
【0149】
実施の形態1では、熱電池10における発熱反応をアレニウス反応式により表現したが、計算負荷が大きくなってしまうという問題点を有している。そこで、実施の形態6に係るサーバ装置100は、発熱密度の実験結果又はシミュレーション結果を事前に取得しておき、発熱密度を位置と時間との関数として与えることにより、発熱反応の時間推移の計算を省略する。
【0150】
例えば、(1)放電現象の代表時間に比べて発熱源14や発熱体16の発熱時間が十分に短い場合、(2)溶融塩の昇温過程がシミュレーションの主な関心の対象でない場合には、実施の形態6による方法が有用である。
【0151】
図17は実施の形態6における発熱密度の与え方を説明する説明図である。図17は、熱電池10を内側(中心軸P側)から外側に向かって領域10A~領域10Eの5つの領域に分割し、領域10A~領域10Eのそれぞれについて発熱密度の時間依存性を付与した例を示している。例えば、領域10Aは、点火開始から0.03~0.31secの時間帯に発熱があり、その発熱密度がH1(W/m3 )であったことを示している。領域10B~10Eについても同様であり、それぞれハッチングで示す時間帯において、発熱密度がそれぞれH2~H5(W/m3 )であったことを示している。
【0152】
このように、実施の形態6では、サーバ装置100は、発熱密度を位置と時間との関数として与えることにより、アレニウス反応式を用いた発熱反応の時間推移の計算を省略することができるので、計算負荷を軽減することができる。
【0153】
(実施の形態7)
実施の形態7では、シミュレーション結果の効果的な表示方法の例を述べる。
【0154】
熱電池10においては温度と電流電圧分布とは密接な関係があるため、これらの値の相互の関係は、設計開発の現場において重要な情報である。しかし、溶融塩のイオン伝導率の温度依存性に強い非線形性があること、熱電池10の半径方向に急峻な温度分布が現れる場合があること、さらには熱電池10がバイポーラ電池であり1つでも起電が不十分な電極があれば全体の性能が大きく損なわれる可能性があることなどから、温度、電流、電圧の間の関係は、しばしば直感と整合せず、現象を理解することが困難となる場合が多い。
【0155】
そこで、温度、電圧および電流が一画面に並べて表示されると、直感的に電池内の各物理量を把握でき、これらの物理量間の複雑な関係を理解しやすくなるため、有益である。図18は実施の形態7における結果表示画面の一例を示す模式図である。温度、電圧の分布は、コンター図のアニメーションであってもよく、シミュレーションの進行に合わせてリアルタイムで更新されてもよい。図18では電流はグラフで表示しているが、シミュレーションの進行に合わせてリアルタイムでグラフが描画されてもよい。この他に、端子間電圧をグラフで表示してもよいし、電圧分布のコンター図に電流分布のベクトル図が重ねて表示されてもよい。本段落に記載した全ての物理量を表示する必要はなく、適宜に選択された2つ以上の物理量を表示してもよい。
【0156】
(実施の形態8)
実施の形態8では、シミュレーション結果の効果的な表示方法の他の例を述べる。
【0157】
熱電池10は電解質を溶融させることで起動するものであるから、過小な発熱量では電解質が溶融せず、通電が開始しないことは言うまでもない。しかし、過剰な発熱を与えると、温度が上がりすぎて、発電セルを構成する材料や接続部材が焼損したり、材料分解反応を起こしたりする懸念がある。そのため、発熱源14や発熱体16による昇温の到達最高温度は、溶融塩の融点より高く、且つ各構成部材の耐熱温度より低いことが求められる。これは一般には難しい課題である。
【0158】
そこで、融点または耐熱温度を予め入力しておき、シミュレーション過程で得られる温度との差を表示すれば、設計上の温度の安全裕度余裕(Margin of Safety)を把握できる。図19は実施の形態8における結果表示画面の一例を示す模式図である。例えば、図19は『(耐熱温度)-(シミュレーション温度)』を示したコンター図であるが、値の小さいところは耐熱温度近くまで温度が上昇しているということであり、設計上の温度の安全裕度余裕が小さいことを示す。
【0159】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0160】
例えば、実施の形態1ではサーバ装置100とクライアント装置200との間の通信によりシミュレーションを実施する形態を例示したが、サーバ管理者が熱電池シミュレーションプログラムをDVD-ROMなどの記録媒体の手段でクライアント利用者に提供し、クライアント端末ローカルでシミュレーションが実施される形態であってもよい。熱電池シミュレーションプログラムの提供手段として、通信を介したダウンロード形式であってもよい。
【0161】
クライアント利用者に提供されるシミュレーションプログラムは、実施の形態の中で主に述べてきた熱電池部分、外部負荷を含む回路部分だけではなく、スイッチング動作や負荷の切り替えなどを行うディジタル制御回路を含んでもよい。
【0162】
クライアント利用者に提供されるシミュレーションプログラムは、開発支援装置の提供者の意思により、完全に隠匿(すなわち編集不可)されてもよいし、一部のパラメータのみをクライアント利用者が変更可能なように部分的に隠匿されていてもよい。
【0163】
クライアント装置200はサーバ装置100に対して、ダウンロードするシミュレーションプログラムの書式を、数値解析ソフトウェアやプログラム言語によって選択できるようになっていてもよい。これにより、クライアント利用者は、自身の所有する数値解析ソフトウェア又はプログラミング言語で本シミュレーションプログラムを使用することができる。
【0164】
実施の形態では、熱電池10は一次電池として、放電過程のみを述べてきたが、昇温により溶融塩が融解して通電が開始するという特徴をもつ電池であれば、二次電池であってもよい。すなわち、サーバ装置100(若しくはクライアント装置200)は、放電過程及び充電過程の双方を含んだシミュレーションを行ってもよい。放電過程を考える場合も、実施の形態において記載した計算モデルで、電流境界条件の符号を反転させるだけでよい。
【符号の説明】
【0165】
100 サーバ装置
101 制御部
102 記憶部
103 通信部
104 操作部
105 表示部
200 クライアント装置
201 制御部
202 記憶部
203 通信部
204 操作部
205 表示部
N 通信網
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19