(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240611BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240611BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
(21)【出願番号】P 2021529183
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026005
(87)【国際公開番号】W WO2021002428
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019124628
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秦 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐治 俊輔
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-118423(JP,A)
【文献】特開2017-194556(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044730(WO,A1)
【文献】特開2013-214008(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175033(WO,A1)
【文献】特開2019-056885(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008684(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0192234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23-35/235
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に沿う虚像表示領域で虚像を視認者に視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記虚像の元となる画像光を射出する表示面を有する表示器と、
前記表示面が射出する前記画像光を被投影部に向けてリレーする、ように構成されたリレー光学系と、を備え、
前記虚像表示領域は、遠方虚像領域と、視認者から見て前記遠方虚像領域より近い近傍虚像領域と、から構成され、
前記表示面は、
前記遠方虚像領域に対応した表示面遠方領域と、前記近傍虚像領域に対応した表示面近傍領域と、を含み、
前記表示面近傍領域は、前記近傍虚像領域が前記車両の前後方向に沿って配置されるように、前記視認者に向かう前記画像光の光軸に対して傾いて配置され、
前記表示面遠方領域は、前記近傍虚像領域に対し、前記遠方虚像領域が前記視認者側に起き上がるように、前記表示面近傍領域に対して屈曲して配置される、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記表示面遠方領域が、非連続的な表示面屈曲部により、前記表示面近傍領域とつながるように形成され、
前記表示面屈曲部に対応する前記虚像表示
領域の虚像表示屈曲部が、前記視認者の前方向に20メートル、又はそれ以上の距離に配置されるように、前記表示面屈曲部が配置される、ように構成される前記表示器、
から構成される、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記表示面近傍領域が、前記視認者に向かう前記画像光の光軸に対して傾いて配置されることで生じる前記近傍虚像領域の上側が凸に曲がることを抑制するように、前記リレー光学系側が凹状の曲面に形成される、ように構成される前記表示器、
から構成される、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記表示面遠方領域が、非連続的な表示面屈曲部により、前記表示面近傍領域とつながるように形成され、
前記遠方虚
像領域の虚像表示遠方部で前記虚像を表示するための第1画像光が通過する第1光学的パワーを有する第1領域と、
前記表示面屈曲部に対応する前記虚像表示領域の虚像表示屈曲部で前記虚像を表示するための第5画像光が通過する第5光学的パワーを有する第5領域と、を有し、
前記第1光学的パワーが前記第5光学的パワーより小さい、ように構成されたリレー光学系と、
から構成される、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記視認者から見て前記虚像表示屈曲部より近い虚像表示近傍部で前記虚像を表示するための第3画像光が通過する第3光学的パワーを有する第3領域、をさらに含み、
前記第5領域から前記第1領域までの光学的パワーの変化率が、前記第3領域から前記第5領域までの光学的パワーの変化率より大きい、ように構成される前記リレー光学系、
から構成される、請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記車両の前後方向に対する前記虚像表示領域の接線の角度が、前記視認者の近傍から遠方に向かうにつれて広義単調増加するように、前記第1領域、前記第5領域、及びこれらの間の領域の前記光学的パワーの分布を調整する前記リレー光学系、
から構成される、請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記虚像表示屈曲部は、前記車両の前後方向で前記視認者から見た前記虚像表示領域の遠方端と近傍端との間であり、前記虚像表示領域の最低位置に配置される、
請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記虚像表示領域は、一部を路面より下側に配置し、前記虚像表示遠方部を含む他部を前記路面より上側に配置する、
請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
前記虚像表示領域は、前記虚像表示屈曲部を含む一部を路面より下側に配置し、前記虚像表示遠方部を含む他部を前記路面より上側に配置する、
請求項8に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両で使用され、車両の前景に画像を重畳して視認させるヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の搭乗者に対向して主画像を表示する表示器と、一端側が主画像に隣接するとともに他端側が一端側よりも手前に位置する副画像を表示する投影器及びスクリーンと、を備えるヘッドアップディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のヘッドアップディスプレイ装置では、運転者に対向するような画像を表示するための表示器と、路面に沿うように配置される表示器(投影器とスクリーン)と、の2つの表示器が必要となり、部品費などが上昇してしまうことが想定される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示される特定の実施形態の要約を以下に示す。これらの態様が、これらの特定の実施形態の概要を読者に提供するためだけに提示され、この開示の範囲を限定するものではないことを理解されたい。実際に、本開示は、以下に記載されない種々の態様を包含し得る。
【0006】
本開示の概要は、コストを抑えつつ、路面に沿うような表示領域と、路面に沿う角度から起き上がったような傾きの表示領域と、を有するヘッドアップディスプレイ装置を提供することに関する。
【0007】
したがって、本明細書に記載される実施形態のヘッドアップディスプレイ装置は、車両の前後方向に沿う虚像表示領域で虚像を視認者に視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、虚像表示領域は、遠方虚像領域と、視認者から見て遠方虚像領域より近い近傍虚像領域と、から構成され、表示器における表示面は、遠方虚像領域に対応した表示面遠方領域と、近傍虚像領域に対応した表示面近傍領域と、を含み、表示面近傍領域は、近傍虚像領域が車両の前後方向に沿って配置されるように、視認者に向かう画像光の光軸に対して傾いて配置され、表示面遠方領域は、近傍虚像領域(153)に対し、遠方虚像領域が視認者側に起き上がるように、表示面近傍領域に対して屈曲して配置される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】いくつかの実施形態に係る、ヘッドアップディスプレイ装置の車両への適用例を示す図である。
【
図2】いくつかの実施形態に係る、ヘッドアップディスプレイ装置の構成を示す図である。
【
図3A】比較例のリレー光学系と表示面との配置を示す図である。
【
図3B】
図3Aの比較例で生成される虚像表示領域の配置を示す図である。
【
図4A】いくつかの実施形態に係る、リレー光学系と表示面との配置を示す図である。
【
図4B】
図4Aの実施形態で生成される虚像表示領域の配置を示す図である。
【
図5A】いくつかの実施形態に係る、虚像表示領域の奥行き方向(Z軸方向)の位置とチルト角との関係を示す図である。
【
図5B】いくつかの実施形態に係る、虚像表示領域の奥行き方向(Z軸方向)の位置とチルト角との関係を示す図である。
【
図5C】いくつかの実施形態に係る、虚像表示領域の奥行き方向(Z軸方向)の位置とチルト角との関係を示す図である。
【
図6】いくつかの実施形態に係る、虚像表示領域の配置を示す図である。
【
図7A】いくつかの実施形態に係る、虚像表示領域の配置を示す図である。
【
図7B】いくつかの実施形態に係る、虚像表示領域の配置を示す図である。
【
図8】いくつかの実施形態に係る、リレー光学系と表示面との配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1及び
図2では、例示的な車両用表示システム、及びヘッドアップディスプレイ装置の構成の説明を提供する。また、
図3A、
図3Bでは、比較例の説明を提供し、
図4Aないし
図8では、本実施形態の構成の説明を提供する。なお、本発明は以下の実施形態(図面の内容も含む)によって限定されるものではない。下記の実施形態に変更(構成要素の削除も含む)を加えることができるのはもちろんである。また、以下の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略する。
【0010】
図1を参照する。車両用表示システム10は、HUD装置20と、HUD装置20を制御する表示制御装置30と、で構成される。なお、本実施形態の説明では、車両1の運転席に着座する視認者(運転者4)が車両1の前方を向いた際の左右方向をX軸(左方向がX軸正方向)、上下方向をY軸(上方向がY軸正方向)、前後方向をZ軸(前方向がZ軸正方向)とする。
【0011】
車両用表示システム10におけるHUD装置20は、車両1のダッシュボード5内に設けられたヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up Display)装置である。HUD装置20は、画像光40をフロントウインドシールド2(被投影部の一例である)に向けて出射し、フロントウインドシールド2で反射された画像光40により所定領域のアイボックス(不図示)を生成する。運転者4は、アイポイントを前記アイボックスに配置することで、HUD装置20が表示する画像の全体を視認することができる。なお、ここでは、前記アイボックスを画像の全体が見える領域と定義したが、これに限定されるものではなく、視認者が視認するHUD装置20の表示する画像の歪みが所定閾値内に収まる領域など、HUD装置20が表示する画像が所望の状態で視認される領域である。フロントウインドシールド2(被投影部の一例である。)よりも前方側(Z軸正方向)の虚像表示領域100で画像(虚像)を視認させる。これにより、運転者4は、フロントウインドシールド2を介して視認される現実空間である前景300に重なった画像(虚像)を視認できる。
【0012】
本実施形態の車両用表示システム10(HUD装置20)は、虚像表示領域100を路面310(前景300の一例。)に沿うように形成する。具体的には、路面310に沿うような虚像表示領域100は、虚像表示領域100の遠方端110と近傍端120との間の奥行方向(Z軸方向)の距離100Zが、虚像表示領域100の最高位置(
図1では遠方端110)と最低位置(
図1では近傍端120)との間の高さ方向(Y軸方向)の距離100Yよりも20倍、又はこれより長いことを示し、さらに好ましくは、奥行方向(Z軸方向)の距離100Zが、高さ方向(Y軸方向)の距離100Yよりも40倍、又はこれより長いことを示す。一実施例の虚像表示領域100において、(Z座標[meter]、Y座標[meter])で表し、前記アイボックスの高さ方向の中心を(0、1.2)とすると、近傍端120は(14.5、0.0)、遠方端110(最高位置)は(53.4、1.48)、前記アイボックスの中心から運転者4が見た場合の遠方端110と近傍端120との中心は(27.3、0.15)であり、この場合、奥行方向(Z軸方向)の距離100Zが38.9[meter]、高さ方向(Y軸方向)の距離100Yが1.48[meter]となり、奥行方向(Z軸方向)の距離100Zが高さ方向(Y軸方向)の距離100Yの26倍となる。なお、虚像表示領域100は、HUD装置20の内部で生成された画像が、虚像として結像する曲面、又は一部曲面の領域であり、結像面とも呼ばれる。虚像表示領域100は、HUD装置20の後述する表示面(スクリーン24)の虚像が結像される位置であり、すなわち、虚像表示領域100は、HUD装置20の後述する表示面に対応し、虚像表示領域100で視認される虚像は、HUD装置20の後述する表示面に表示される画像に対応している、と言える。虚像表示領域100自体は、実際に運転者4に視認されない、又は視認されにくい程度に視認性が低いことが好ましい。
【0013】
図2は、本実施形態のHUD装置20の構成を示す図である。HUD装置20は、画像を表示する表示面を有する表示器21と、リレー光学系25と、を含む。
【0014】
図2の表示器21は、プロジェクタ22(画像生成部の一例)と、プロジェクタ22からの投影光を受光して画像(実像)を表示するスクリーン24(表示面の一例)と、で構成されるプロジェクション型ディスプレイである。なお、表示器21は、LCDなどのバックライトからの光を透過する透過型ディスプレイ(画像生成部の一例)であってもよく、自発光型ディスプレイ(画像生成部の一例)であってもよい。これらの場合、表示面は、透過型ディスプレイにおけるディスプレイ表面(表示面の一例)であり、プロジェクション型ディスプレイのスクリーン24(表示面の一例)である。前記表示面は、前記表示面から、後述のリレー光学系25及び前記被投影部を介して前記アイボックス(前記アイボックスの中央)へ向かう画像光40の光軸40pに対し垂直になる角度から傾いて配置され、これにより、虚像表示領域100を路面310に沿うように配置することができる。なお、表示器21は、表示制御装置30により制御されるモータなどのアクチュエータ(不図示)が取り付けられ、表示面を移動、及び/又は回転可能であってもよい。
【0015】
本実施形態の表示面24は、非平面であり、平面もしくは曲面の連続性が失われる(折れ曲がる)境界(後述する表示面屈曲部IM5)を有し、これにより、虚像表示領域100の遠方側の遠方虚像領域151を、虚像表示領域100の遠方虚像領域151より近傍側の近傍虚像領域153よりも起き上がらせる。これについては、後で詳述する。
【0016】
リレー光学系25は、表示器21とフロントウインドシールド2(被投影部の一例。)との間の表示器21からの画像の光(表示器21から前記アイボックスへ向かう光。)の光路上に配置され、表示器21からの画像の光をHUD装置20の外側のフロントウインドシールド2に投影する1つ又はそれ以上の光学部材で構成される。
図2のリレー光学系25は、第1ミラー26と、第2ミラー28と、を含む。
【0017】
第1ミラー26は、一端から他端に向けて曲率半径が概ね一定の凹状の自由曲面形状である。換言すると、第1ミラー26は、領域毎に光学的パワーが概ね同じ曲面形状であり、すなわち、画像光40が通る領域(光路)に応じて画像光40に付加される光学的パワーが同じである。具体的には、前記表示面の各領域から前記アイボックスへ向かう第1画像光41、第2画像光42、第3画像光43(
図2参照)とで、リレー光学系25によって付加される光学的パワーが概ね同じである。
【0018】
なお、第2ミラー28は、平面ミラーであるが、これに限定されず、平面ではなく、光学的パワーを有する曲面であってもよい。
【0019】
また、リレー光学系25は、領域毎に光学的パワーが異なる曲面形状の複数のミラーを合成することで、画像光40が通る領域(光路)に応じて付加される光学的パワーが概ね同じになるように、複数のミラーの領域毎の光学的パワーを設定してもよい。
【0020】
なお、本実施形態では、リレー光学系25は、2つのミラーを含んでいたが、これに限定されるものではなく、これらに追加又は代替で、1つ又はそれ以上の、レンズなどの屈折光学部材、ホログラムなどの回折光学部材、反射光学部材、又はこれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0021】
また、本実施形態のリレー光学系25は、この曲面形状(光学的パワーの一例。)により、虚像が結像される位置(虚像表示領域100)までの距離を設定する機能、及びスクリーン24(表示面)に表示された画像を拡大した虚像を生成する機能、を有するが、これに加えて、フロントウインドシールド2の湾曲形状により生じ得る虚像の歪みを抑制する(補正する)機能、を有していてもよい。
【0022】
また、リレー光学系25は、表示制御装置30により制御されるモータなどのアクチュエータ(不図示)が取り付けられ、移動、及び/又は回転可能であってもよい。
【0023】
次に、本実施形態に係る、リレー光学系25と非平面の表示面24との配置と、生成される虚像表示領域100の配置について説明する。本実施形態の虚像表示領域100は、路面310に沿い、遠方側の傾斜が起き上がるように形成される。
【0024】
まず、比較例を
図3A、
図3Bを用いて説明する。
図3Aは、比較例のリレー光学系500と表示面524との配置を示す図である。なお、
図3Aでは、本実施形態との違いをわかりやすくするため、リレー光学系500の各領域501、502、503の焦点を符号501f,502f,503fで表記するが、これら焦点501f,502f,503fとリレー光学系500との距離関係、及び焦点501f,502f,503fと表示面524との距離関係を正確に示したものではない。比較例では、表示面524が、平面である。すなわち、比較例の表示面524は、後述する表示面屈曲部IM5がない。また、次に説明する本発明の実施形態でも同様だが、表示面524は、表示面524から前記アイボックスへ向かう画像光の光軸540pとの垂直面524aから角度αだけ傾いて配置される。具体的には、表示面524から前記アイボックスへ向かう画像光540の光軸540pの垂直面524aから角度αだけ傾いて配置される。具体的には、表示面524は、垂直面524aと比べて、虚像表示領域600の虚像表示近傍部603(
図3B)に対応する表示面524における領域M3から、虚像表示近傍部603より遠方の虚像表示領域600の領域602(
図3B)に対応する表示面524における領域M2に向けて徐々にリレー光学系500から離れるように配置される。換言すると、虚像表示領域600の虚像表示近傍部603に対応する表示面524における領域M3から、虚像表示近傍部603より遠方の虚像表示領域600の領域602(
図3B)に対応する表示面524における領域M2に向けて徐々にリレー光学系500の焦点に近づくように配置される(領域M2と焦点502fとの間の距離を、領域M3と焦点503fとの間の距離より短くする)。このような場合、
図3Bに示すように、車両1の左右方向(X方向)から見ると、生成される虚像表示領域600の断面は、運転者4側(上側(Y軸正方向))が凸状となる。
【0025】
次に、本実施形態について
図4A、
図4Bを用いて説明する。
図4Aは、本実施形態のリレー光学系25と表示面24との配置を示す図である。本実施形態の表示面24は、遠方虚像領域151に対応した表示面遠方領域241と、近傍虚像領域153に対応した表示面近傍領域243と、を含み、表示面近傍領域243が、表示面24から前記アイボックスへ向かう画像光40の光軸40pとの垂直面24aから角度αだけ傾いて配置される。具体的には、表示面24は、垂直面24aと比べて、虚像表示領域100の近傍虚像領域153内に含まれる虚像表示近傍部103対応する表示面24の表示面近傍部IM3から、虚像表示領域100の虚像表示屈曲部105に対応する表示面24の表示面屈曲部IM5に向けて徐々にリレー光学系25から離れるように配置される。換言すると、虚像表示領域100の近傍虚像領域153に対応する表示面24の表示面近傍部IM3から、虚像表示領域100の虚像表示屈曲部105に対応する表示面24の表示面屈曲部IM5に向けて徐々にリレー光学系25の焦点に近づくように配置される(表示面屈曲部IM5と焦点255fとの間の距離を、表示面近傍部IM3と焦点253fとの間の距離より短くする)。
【0026】
さらに、本実施形態の表示面24は、表示面屈曲部IM5を有し、表示面近傍部IM3から表示面屈曲部IM5までの表示面24の近似的な傾き(
図4Aでの点線)を基準に、表示面屈曲部IM5から表示面遠方部IM1までの表示面24の近似的な傾きがリレー光学系25に近づくように屈曲する。換言すると、表示面近傍部IM3から表示面屈曲部IM5に向けて徐々にリレー光学系25の焦点に近づくように配置し(表示面屈曲部IM5と焦点255fとの間の距離を、表示面近傍部IM3と焦点253fとの間の距離より短くし)、かつ表示面屈曲部IM5から表示面遠方部IM1に向けて徐々にリレー光学系25の焦点に近づくように配置する(表示面遠方部IM1と焦点251fとの間の距離を、表示面屈曲部IM5と焦点255fとの間の距離より長くする)。
【0027】
ここで、物体と凹面ミラーとの間の距離a(>0)、虚像と凹面ミラーとの間の距離b(>0),そして、凹面ミラーの焦点距離f(>a)の間には、以下の関係式が成り立つ。この関係式によれば、物体と凹面ミラーとの間の距離が短くなるほど、虚像の距離bが短くなる。
1/a-1/b=1/f
【0028】
上述したように、表示面24が、表示面24から前記アイボックスへ向かう画像光の光軸40pとから傾いて配置されることで、虚像表示領域100が、路面310に沿うように(近傍から遠方に向けて徐々に結像距離が長くなるように)、配置される。表示面24(表示面遠方領域241(表示面遠方部IM1))から第1ミラー26の第1領域251に投射した第1画像光41は、表示面遠方領域241(表示面遠方部IM1)が第1領域251に近いため、フロントウインドシールド2に反射された際に、(表示面を屈曲させずにリレー光学系に近づけない場合と比較して)フロントウインドシールド2からの結像距離が短くなる。
【0029】
本実施形態の表示面24は、表示面屈曲部IM5を境界にした表示面遠方領域241を、表示面近傍部IM3から表示面屈曲部IM5までの表示面24の近似的な傾き(
図4Aでの点線)よりも、リレー光学系25に近づける(物体と凹面ミラーとの間の距離を小さくする)ことで、虚像表示領域100の遠方虚像領域151(遠方端110も含む)が路面310に沿う傾きから起き上がるように湾曲させることができる。遠方虚像領域151(遠方端110も含む)が路面310に沿う傾きから起き上がるように湾曲させるとは、
図4B示すように、遠方虚像領域151(虚像表示遠方部101)における虚像表示領域100の接線と路面310との間のチルト角θ(第1チルト角θ1)が、遠方虚像領域151より運転者4に近い近傍虚像領域153(中央部102)における虚像表示領域100の接線と路面310との間のチルト角θ(第2チルト角θ2)より大きく、かつチルト角θが、中央部102(近傍側)から遠方虚像領域151(遠方側)に向かうに連れて連続的に増加する(単調増加する)。
【0030】
図5Aないし
図5Cは、実施形態に係る、虚像表示領域100の奥行き方向(Z軸方向)の位置とチルト角θとの関係を示す図である。本実施形態では、遠方虚像領域151(遠方端110)が遠方虚像領域151より近傍の中央部102より路面310に沿う傾きから起き上がればよく、
図5Aに示すように、近傍端120から遠方端110に向かうにつれてチルト角θが単調増加することに限定されるものではない。
【0031】
すなわち、いくつかの実施形態では、
図5Bに示すように、虚像表示近傍部103から虚像表示屈曲部105までのチルト角θの増加率(変化率)が、虚像表示屈曲部105から虚像表示遠方部101までのチルト角θの増加率(変化率)より小さくなるようにしてもよい。この場合、表示面24は、表示面近傍部IM3と第3画像光43が通るリレー光学系25の第3領域253との間の距離から、表示面屈曲部IM5と第5画像光45が通るリレー光学系25の第5領域255との間の距離までの増加率を、表示面屈曲部IM5と第5画像光45が通るリレー光学系25の第5領域255との間の距離から、表示面遠方部IM1と第1画像光41が通るリレー光学系25の第1領域251との間の距離までの増加率より小さくする。これにより、奥行き方向の距離の増加に従う、近傍虚像領域と路面との間の距離の変化を小さく抑えることができる。
【0032】
また、いくつかの実施形態では、
図5Cに示すように、近傍虚像領域153から中央部102までのチルト角θの変化率を負の値から徐々にゼロまで増加させ、中央部102から遠方端110までのチルト角θの増加率(変化率)をゼロより大きくしてもよい。この場合の虚像表示領域100の配置を
図6に示す。すなわち、この虚像表示領域100は、近傍虚像領域153から中央部102まで徐々に上下方向(Y軸方向)の位置が低くなり、中央部102を最低位置とし、中央部102から遠方端110まで徐々に上下方向(Y軸方向)の位置が高くなり、近傍端120を最高位置とする。この場合、上記実施形態よりも表示面24の傾きαを大きくし、かつ、表示面近傍部IM3と第3画像光43が通るリレー光学系25の第3領域253との間の距離から、表示面屈曲部IM5と第5画像光45が通るリレー光学系25の第5領域255との間の距離までの増加率を、表示面屈曲部IM5と第5画像光45が通るリレー光学系25の第5領域255との間の距離から、表示面遠方部IM1と第1画像光41が通るリレー光学系25の第1領域251との間の距離までの増加率より小さくする。これにより、奥行き方向の距離の増加に従う、近傍側の虚像表示領域と路面との間の距離の変化を小さく抑えることができる。
【0033】
また、いくつかの実施形態では、虚像表示領域100の最低位置を含む一部を路面310よりも下に配置し、虚像表示領域100の遠方端110を含む一部を路面よりも上に配置してもよい。例えば、虚像表示領域100は、
図7Aに示すように、近傍端120が最低位置となり、近傍端120から遠方端110に向けた途中までを路面310の下に配置し、これより遠方端110までの他部を路面310の上に配置してもよい。また、虚像表示領域100は、
図7Bに示すように、遠方端110と近傍端120との間の中央部102を最低位置としてもよい。視認者から見て路面に対して虚像が手前側にズレて表示される場合の違和感は、路面に対して画像が奥側にズレて表示される場合の違和感より大きい。したがって、車両1の角度が変化した場合でも路面310より上側に虚像表示領域100が配置されることを抑制することができ、また、車両1の角度が変化により近傍側の虚像表示領域が路面310の上側に配置される場合でも、近傍側の画像と路面310との高さ方向の距離を小さく抑えることができる。
【0034】
また、いくつかの実施形態では、虚像表示領域100の虚像表示屈曲部105が、運転者4(車両1)の前方向に20メートル、又はそれ以上の距離に配置されるように、表示面24の表示面屈曲部IM5の位置を設定してもよい。これによれば、虚像表示領域100は、車両1の前方向に20メートル、又はそれ以上の距離から遠方側に向かうにつれて、車両1の前後方向に対する虚像表示領域100の接線のチルト角θが単調増加し、路面310に沿った角度から起き上がる。本発明の発明者は、視認者から20メートル以上離れた物体に対する距離感(距離感)が鈍くなることを認識した。すなわち、視認者から20メートル以上離れた位置から虚像表示領域と路面との間の距離を単調増加させても、視認者が虚像表示面と路面との間の距離差を知覚しにくく(20メートル未満の虚像表示領域に表示された画像と同様に路面に沿って表示されているように知覚させやすく)、かつ遠方側の虚像表示領域を路面に沿う角度から視認者側に起き上がらせるように湾曲させることで、視認者から見た遠方側の虚像表示面を広い前景(例えば、路面)の領域に重ねることができる。換言すると、虚像表示領域の単位面積あたりの重なる前景(例えば、路面)の面積を拡げることができ、広い前景に対して効率的に画像を重ねて表示することができる。
【0035】
上記実施形態では、第1ミラー26は、一端から他端に向けて曲率半径が概ね一定の自由曲面形状であったが、これに限定されるものではなく、曲率が概ね一定でなくてもよい。特に、本実施形態では、表示面24に表示面屈曲部IM5を設けることで、虚像表示領域100の遠方側の傾斜を、路面に沿う角度から起き上がるようにしているが、これに加えて、第1ミラー26(リレー光学系25)の領域毎に曲率半径(光学的パワー)を異ならせることで、虚像表示領域100の遠方側の傾斜を、より路面に沿う角度から起き上がりやすくしてもよい。
【0036】
具体的には、第1ミラー26は、一端から他端に向けて曲率半径が徐々に変化する自由曲面形状であってもよい。換言すると、第1ミラー26は、領域毎に光学的パワーが異なる曲面形状であり、すなわち、画像光40が通る領域(光路)に応じて画像光40に付加される光学的パワーが異なってもよい。具体的には、前記表示面の各領域から前記アイボックスへ向かう第1画像光41、第2画像光42、第3画像光43(
図2参照)とで、リレー光学系25によって付加される光学的パワーが異なる。
【0037】
なお、第2ミラー28は、平面ではなく、光学的パワーを有する曲面であってもよい。すなわち、リレー光学系25は、複数のミラー(例えば、本実施形態の第1ミラー26、第2ミラー28。)を合成することで、画像光40が通る領域(光路)に応じて付加される光学的パワーを異ならせてもよい。
【0038】
図8は、本実施形態のリレー光学系25と表示面24との配置を示す図である。なお、
図8は、比較例との違いをわかりやすくするため、リレー光学系25の各領域251,252,253の焦点を符号251f,252f,253fで表記するが、リレー光学系25、又は表示面24との距離関係を正確に示したものではない。
図8のリレー光学系25は、領域毎に曲率半径が異なる。具体的には、運転者4から見て虚像表示領域100の遠方虚像領域151に虚像を表示する第1画像光41が通るリレー光学系25の第1領域(第1光路)251の第1光学的パワーを、運転者4から見て虚像表示領域100の遠方虚像領域151よりも近い虚像表示屈曲部105に虚像を表示する第2画像光42が通るリレー光学系25の第2領域(第2光路)252の第2光学的パワーより小さくする。すなわち、リレー光学系25の主たる光学的パワーが凹面鏡である第1ミラー26に起因する場合、第1画像光41を反射する第1領域251の第1曲率半径(第1光学的パワーの一例。)を、第2画像光42を反射する第2領域252の第2曲率半径(第2光学的パワーの一例。)より大きくする。第1画像光41を反射する第1領域251の第1曲率半径が大きくなると、第1領域251の焦点251fの焦点距離(曲率半径の1/2)が長くなる。
【0039】
上述した「1/a-1/b=1/f」の関係式によれば、凹面ミラーの曲率半径が大きく(ミラーの曲率が小さく)なれば、凹面ミラーの焦点距離が長くなり、焦点距離が長いほど、虚像の距離bが短くなる。
【0040】
表示面24が、表示面24から前記アイボックスへ向かう画像光の光軸40pとから傾いて配置されることで、虚像表示領域100が、路面310に沿うように(近傍から遠方に向けて徐々に結像距離が長くなるように)、配置される。表示面24から第1ミラー26の曲率半径が大きい第1領域251に投射した第1画像光41は、焦点距離(第1領域251から焦点251fまでの距離)が長いため、フロントウインドシールド2に反射された際に、(曲率半径を大きくしない場合と比較して)フロントウインドシールド2からの結像距離が短くなる。
【0041】
本実施形態のリレー光学系25は、通過する画像光で表示される虚像が遠方側である程、光学的パワーを徐々に小さくする(曲率半径を徐々に大きくする)ことで、虚像表示領域100の遠方虚像領域151(遠方端110)が路面310に沿う傾きから起き上がるように湾曲させることができる。したがって、虚像表示面の遠方虚像領域が路面から起き上がるように表示面24を屈曲させることと、同様に虚像表示面の遠方虚像領域が路面から起き上がるようにリレー光学系25の光学的パワーを領域毎に異ならせること、とを組み合わせることで、より虚像表示面を大きく湾曲させることも可能となり、また、表示面24、リレー光学系25の設計自由度を向上させることも可能である。
【0042】
遠方虚像領域151に対応する表示面遠方部IM1と、近傍虚像領域153に対応する表示面近傍部IM3とは、非連続的に結合される。すなわち、表示面24は、表示面遠方部IM1は、なめらかな曲面によってではなく、非連続的な表示面屈曲部IM5により、表示面近傍部IM3とつながる、ように形成される。
【符号の説明】
【0043】
1 :車両
2 :フロントウインドシールド
4 :運転者
5 :ダッシュボード
10 :車両用表示システム
20 :HUD装置
21 :表示器
22 :プロジェクタ
24 :スクリーン(表示面)
25 :リレー光学系
26 :第1ミラー
28 :第2ミラー
30 :表示制御装置
40 :画像光
40p :光軸
41 :第1画像光
42 :第2画像光
43 :第3画像光
45 :第5画像光
100 :虚像表示領域
101 :虚像表示遠方部
102 :中央部
103 :虚像表示近傍部
105 :虚像表示屈曲部
110 :遠方端
120 :近傍端
151 :遠方虚像領域
153 :近傍虚像領域
241 :表示面遠方領域
243 :表示面近傍領域
251 :第1領域
252 :第2領域
253 :第3領域
255 :第5領域
310 :路面
IM1 :表示面遠方部
IM3 :表示面近傍部
IM5 :表示面屈曲部
α :角度
θ :チルト角
θ1 :第1チルト角
θ2 :第2チルト角