IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特許7501546バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム
<>
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図1
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図2
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図3
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図4
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図5
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図6
  • 特許-バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】バッテリ検査方法およびバッテリ検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/396 20190101AFI20240611BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240611BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G01R31/396
G01R31/389
H01M10/04 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022002264
(22)【出願日】2022-01-11
(65)【公開番号】P2023101992
(43)【公開日】2023-07-24
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 瑠璃
(72)【発明者】
【氏名】大倉 才昇
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111965545(CN,A)
【文献】特開2019-113469(JP,A)
【文献】特開2019-016558(JP,A)
【文献】特開2021-034348(JP,A)
【文献】特開2016-021300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/396
G01R 31/389
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ検査方法であって、
検査対象のバッテリを自己放電開始時から所定時間が経過するまで自己放電させるステップと、
前記所定時間が経過した時点での前記バッテリの電圧、電流および温度ならびに環境温度を検出するステップと、
前記バッテリの自己放電に先立って前工程を実施するステップと、
前記前工程の実施条件を表す前工程情報を取得するステップとを含み
前記前工程を実施するステップは、
電極体が収容されたケースに電解液を注入するステップと、
注入された電解液を前記電極体に浸透させるステップとを含み、
前記前工程情報は、
前記電解液の材料と、
前記電解液の注入量と
前記バッテリに前記電解液を注入する注入時間と、
前記電解液を前記電極体に浸透させる浸透時間とを含み、
前記バッテリ検査方法は、
前記前工程情報と、前記所定時間が経過した時点での前記バッテリの電圧、電流および温度と、前記環境温度と、電流収束値との間の予め定められた対応関係を参照することによって、取得された前工程情報と、検出された電圧、電流および温度と、検出された環境温度とから前記電流収束値を算出するステップと、
算出された電流収束値に基づいて、前記バッテリの短絡不良が生じているかどうかを判定するステップとをさらに含む、バッテリ検査方法。
【請求項2】
前記前工程を実施するステップは、前記電解液の前記電極体への浸透後に前記バッテリを充電するステップをさらに含む、請求項に記載のバッテリ検査方法。
【請求項3】
前記前工程情報は、
前記電解液を浸透させてから前記バッテリを充電するまでの第1滞留時間と、
前記バッテリの充電時における前記バッテリの温度と、
前記バッテリの充電時における前記環境温度と、
前記バッテリの充電終了時における前記バッテリの電圧とのうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載のバッテリ検査方法。
【請求項4】
前記前工程を実施するステップは、前記バッテリの充電後に前記バッテリの高温エージングを実施するステップをさらに含む、請求項またはに記載のバッテリ検査方法。
【請求項5】
前記前工程情報は、
前記バッテリを充電してから前記高温エージングを実施するまでの第2滞留時間と、 前記高温エージングの実施時間と、
前記高温エージングにおける前記バッテリの温度と、
前記高温エージングにおける前記環境温度とのうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載のバッテリ検査方法。
【請求項6】
前記前工程を実施するステップは、前記高温エージングの実施後に前記バッテリを冷却するステップをさらに含む、請求項またはに記載のバッテリ検査方法。
【請求項7】
前記前工程情報は、
前記バッテリの冷却時間と、
冷却された前記バッテリの温度とのうちの少なくとも一方を含む、請求項に記載のバッテリ検査方法。
【請求項8】
前記バッテリは、正極と、負極と、セパレータとを含み、
前記前工程情報は、
前記正極および前記負極の材料と、
前記正極および前記負極の厚みと、
前記正極および前記負極の目付量と、
前記正極および前記負極の水分量と、
前記正極と前記負極との容量比と、
前記セパレータの材料とのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のバッテリ検査方法。
【請求項9】
前工程情報に従って前工程が実施されたバッテリの短絡不良を検査する、バッテリ検査システムであって、
前記バッテリの電圧を検出する電圧センサと、
前記バッテリに流れる電流を検出する電流センサと、
前記バッテリの温度を検出する電池温度センサと、
環境温度を検出する環境温度センサと、
前記前工程情報と、自己放電開始時から所定時間が経過した時点での前記バッテリの電圧、電流および温度と、前記環境温度と、電流収束値との間の予め定められた対応関係が格納されたメモリと、
前記バッテリの短絡不良が生じているかどうかを判定するプロセッサとを備え、
前記前工程情報は、
電極体が収容されたケースに注入される電解液の材料と、
前記電解液の注入量と、
前記バッテリに前記電解液を注入する注入時間と、
前記電解液を前記電極体に浸透させる浸透時間とを含み、
前記プロセッサは、
前記前工程情報を取得し、
前記バッテリの自己放電が開始されてから所定時間が経過した時点での前記バッテリの電圧、電流および温度ならびに前記環境温度を取得し、
前記対応関係を参照することによって、取得された前工程情報と、検出された電圧、電流および温度と、検出された環境温度とから前記電流収束値を算出し、
算出された電流収束値に基づいて、前記バッテリの短絡不良が生じているかどうかを判定する、バッテリ検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリ検査方法およびバッテリ検査システムに関し、より特定的には、バッテリの短絡不良を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリの短絡不良を検査する技術が提案されている。たとえば特開2019-113450号公報(特許文献1)に開示されたバッテリ検査方法は、バッテリを充電する向きまたは放電する向きの電流を流し、流れる電流の収束状況によりバッテリの良否を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-113450号公報
【文献】特開2014-134395号公報
【文献】特開2020-038836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリの自己放電電流に基づいてバッテリの短絡不良を検査することが考えられる。所定の時間経過後の自己放電電流の収束値が基準値よりも小さい場合には、バッテリは正常と判定する一方で、収束値が基準値よりも大きい場合に、バッテリに短絡不良が生じていると判定できる。
【0005】
上記の検査中に環境温度が変化し、それに伴ってバッテリの温度が変動する場合がある。そうすると、自己放電電流の大きさが変わることで適切な検査を実施できなくなる可能性がある。たとえば、自己放電電流が収束しにくくなって検査時間が長くなる可能性がある。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的の1つは、バッテリの温度変動があった場合であってもバッテリの短絡不良を適切に検査可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示のある局面に従うバッテリ検査方法は、第1~第6のステップを含む。第1のステップは、検査対象のバッテリを自己放電開始時から所定時間が経過するまで自己放電させるステップである。第2のステップは、所定時間が経過した時点でのバッテリの電圧、電流および温度ならびに環境温度を検出するステップである。第3のステップは、バッテリの自己放電に先立って前工程を実施するステップである。第4のステップは、前工程の実施条件を表す前工程情報を取得するステップである。第5のステップは、前工程情報と、所定時間が経過した時点でのバッテリの電圧、電流および温度と、環境温度と、電流収束値との間の予め定められた対応関係を参照することによって、取得された前工程情報と、検出された電圧、電流および温度と、検出された環境温度とから電流収束値を算出するステップである。第6のステップは、算出された電流収束値に基づいて、バッテリの短絡不良が生じているかどうかを判定するステップである。
【0008】
(2)前工程を実施するステップは、電極体が収容されたケースに電解液を注入するステップと、注入された電解液を電極体に浸透させるステップとを含む。
【0009】
(3)前工程情報は、電解液の材料と、電解液の注入量と、バッテリに電解液を注入する注入時間と、電解液を電極体に浸透させる浸透時間とのうちの少なくとも1つを含む。
【0010】
(4)前工程を実施するステップは、電解液の電極体への浸透後にバッテリを充電するステップをさらに含む。
【0011】
(5)前工程情報は、電解液を浸透させてからバッテリを充電するまでの第1滞留時間と、バッテリの充電時におけるバッテリの温度と、バッテリの充電時におけるバッテリの環境温度と、バッテリの充電終了時におけるバッテリの電圧とのうちの少なくとも1つを含む。
【0012】
(6)前工程を実施するステップは、バッテリの充電後にバッテリの高温エージングを実施するステップをさらに含む。
【0013】
(7)前工程情報は、バッテリを充電してから高温エージングを実施するまでの第2滞留時間と、高温エージングの実施時間と、高温エージングにおけるバッテリの温度と、高温エージングにおけるバッテリの環境温度とのうちの少なくとも1つを含む。
【0014】
(8)前工程を実施するステップは、高温エージングの実施後にバッテリを冷却するステップをさらに含む。
【0015】
(9)前工程情報は、バッテリの冷却時間と、冷却されたバッテリの温度とのうちの少なくとも一方を含む。
【0016】
(10)バッテリは、正極と、負極と、セパレータとを含む。前工程情報は、正極および負極の材料と、正極および負極の厚みと、正極および負極の目付量と、正極および負極の水分量と、正極と負極との容量比と、セパレータの材料とのうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
(11)本開示の他の局面に従うバッテリ検査システムは、前工程情報に従って前工程が実施されたバッテリの短絡不良を検査する。バッテリ検査システムは、バッテリの電圧を検出する電圧センサと、バッテリに流れる電流を検出する電流センサと、バッテリの温度を検出する電池温度センサと、環境温度を検出する環境温度センサと、メモリと、バッテリの短絡不良が生じているかどうかを判定するプロセッサとを備える。メモリには、前工程情報と、自己放電開始時から所定時間が経過した時点でのバッテリの電圧、電流および温度と、環境温度と、電流収束値との間の予め定められた対応関係が格納されている。プロセッサは、前工程情報を取得し、バッテリの自己放電を開始されてから所定時間が経過した時点でのバッテリの電圧、電流および温度ならびに環境温度を取得し、対応関係を参照することによって、取得された前工程情報と、検出された電圧、電流および温度と、検出された環境温度とから電流収束値を算出し、算出された電流収束値に基づいて、バッテリの短絡不良が生じているかどうかを判定する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、バッテリの温度変動があった場合であってもバッテリの短絡不良を適切に検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の実施の形態に係るバッテリ検査システムの構成図である。
図2】バッテリに含まれるセルの構成の一例を示す斜視図である。
図3】環境温度の変化が自己放電電流の挙動に及ぼす影響を説明するための図である。
図4】バッテリ検査工程の全体の流れを示すフローチャートである。
図5】前工程情報を説明するための図である。
図6】収束値マップの概念図である。
図7】検査処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
[実施の形態]
<システム全体構成>
図1は、本開示の実施の形態に係るバッテリ検査システムの構成図である。バッテリ検査システム10は接続端子Tp,Tnを備える。接続端子Tp,Tnは、検査対象のバッテリ9を電気的に接続可能に構成されている。バッテリ9は、通常は新たに製造された新品電池である。バッテリ検査システム10は、バッテリ9に短絡不良が生じているかどうかを判定するための検査を実行する。
【0022】
バッテリ9は、直列接続された複数のセル91~9nを含む組電池である。セルの個数nは、典型的には数十個である。本実施の形態において、各セル91~9nはリチウムイオン電池である。ただし、検査可能なバッテリの種類はリチウムイオン二次電池に限定されない。また、バッテリ9は、組電池に代えて単一のセルであってもよい。
【0023】
バッテリ検査システム10は、直流電源1と、電圧センサ2と、電流センサ3と、電池温度センサ4と、環境温度センサ5と、外部抵抗6と、コントローラ7と、ディスプレイ8とをさらに備える。コントローラ7は、プロセッサ71と、メモリ72と、入出力インターフェイス73とを含む。
【0024】
直流電源1は、コントローラ7からの制御指令に従って、バッテリ9を充放電するように構成されている。直流電源1は、たとえばAC/DCコンバータである。直流電源1は、外部交流電源(たとえば商用電源)20から供給される交流電力を直流電力に変換する。直流電源1は、コントローラ7からの制御指令に従って、直流電力の電圧を昇圧/降圧することも可能である。
【0025】
電圧センサ2は、接続端子Tpと接続端子Tnとの間に電気的に接続されている。すなわち、電圧センサ2は、バッテリ9に並列接続される。電圧センサ2は、バッテリ9の端子間電圧(電圧V)を検出し、その検出結果をコントローラ7に出力する。
【0026】
電流センサ3は、直流電源1と接続端子Tnとの間に電気的に接続されている。すなわち、電流センサ3は、バッテリ9に直列接続される。電流センサ3は、バッテリ9を流れる電流Iを検出し、その検出結果をコントローラ7に出力する。
【0027】
電池温度センサ4は、バッテリ9の温度(電池温度TB)を検出し、その検出結果をコントローラ7に出力する。
【0028】
環境温度センサ5は、バッテリ9を取り囲む雰囲気温度(環境温度TA)を検出し、その検出結果をコントローラ7に出力する。
【0029】
外部抵抗6は、直流電源1と接続端子Tpとの間に電気的に接続されている。外部抵抗6の抵抗値は自己放電電流に影響する。外部抵抗6の抵抗値が小さいほど、自己放電電流の収束が早くなる。したがって、外部抵抗6の抵抗値は、調整しようとする自己放電電流の大きさ(または自己放電電流の収束時間)に応じて適宜設定される。
【0030】
プロセッサ71は、たとえばCPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ71は、直流電源1を制御することによってバッテリ9の充放電を制御する。また、プロセッサ71は、自己放電電流の大きさに基づいて、バッテリ9の短絡不良の有無を判定する。より具体的には、プロセッサ71は、自己放電電流の収束値が基準値よりも小さい場合には、バッテリ9は正常と判定する一方で、収束値が基準値よりも大きい場合に、バッテリ9に短絡不良が生じていると判定する。
【0031】
メモリ72は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む。メモリ72には、プロセッサ71により実行されるプログラムが格納されているとともに、バッテリ9の短絡不良の判定に用いられるマップが格納されている。このマップの作成手法については後に詳細に説明する。
【0032】
入出力インターフェイス73は、コントローラ7の外部と通信可能に接続されている。入出力インターフェイス73は、「前工程情報」を外部のサーバ30から受ける。前工程情報とは、バッテリ9の自己放電工程に先立って実施される前工程の実施条件を表す情報である。前工程情報についても後に詳細に説明する。また、入出力インターフェイス73は、バッテリ9の短絡不良の有無の判定結果をディスプレイ8に出力する。
【0033】
<セル構成>
図2は、バッテリ9に含まれるセルの構成の一例を示す斜視図である。セル91~9nの構成は同等であるため、セル91の構成について代表的に説明する。図2にはセル91の内部を透視した図が示されている。セル91は、この例では密閉型の角型電池ある。セル91は、電池ケース911と、電極体912と、電解液913とを含む。
【0034】
電池ケース911は、たとえばアルミニウム(Al)合金等により構成されている。電池ケース911は、ケース本体911Aと、上面部材911Bとを含む。ケース本体911Aは、電極体912および電解液913を収容する。電極体912は、たとえば巻回型である。すなわち、正極と負極とが、その間にセパレータ(いずれも図示せず)を挟みつつ交互に積層されることで積層体が形成されている。さらに、その積層体が筒状に巻回されている。電解液913(液面を一点鎖線で示す)は、電池ケース911に注入されて電極体912に浸透している。上面部材911Bには正極端子914および負極端子915が設けられている。電池温度センサ4は、たとえば正極端子914と負極端子915との間に配置されている。
【0035】
正極活物質層、負極活物質層、セパレータおよび電解液913には、リチウムイオン電池の正極活物質、負極活物質、セパレータおよび電解液として従来公知の材料を用いることができる。一例として、正極活物質層には、コバルト酸リチウムの一部がニッケルおよび/またはマンガンにより置換された三元系材料(NCM)を用いることができる。負極活物質層には黒鉛を用いることができる。セパレータには、ポリオレフィン(たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン)を用いることができる。電解液は、有機溶媒(DMC(dimethyl carbonate)とEMC(ethyl methyl carbonate)とEC(ethylene carbonate)との混合溶媒など)と、リチウム塩(LiPFなど)と、添加剤(LiBOB(lithium bis(oxalate)borate)またはLi[PF(C]など)とを含む。
【0036】
<温度変動>
検査対象のバッテリの短絡不良はバッテリの自己放電電流の収束値に基づいて検査される。自己放電電流の収束値が基準値未満である場合、バッテリは正常と判定される。一方、収束値が基準値以上である場合には、バッテリに短絡不良が生じていると判定される。このような検査中に環境温度(たとえば空調温度)が変化し、それに伴ってバッテリの温度が変動する場合がある。
【0037】
図3は、環境温度の変化が自己放電電流の挙動に及ぼす影響を説明するための図である。横軸は経過時間を表す。縦軸は自己放電電流を表す。図3には、環境温度TAと電池温度TBとの間の温度差が生じた場合の自己放電電流の挙動が実線で示されるとともに、温度差が生じていない場合の自己放電電流の挙動が破線で示されている。
【0038】
温度差が生じていない場合、一般に、自己放電電流は数十分程度(この例では約30分)で収束する。これに対し、温度差が生じた場合、自己放電電流の収束には数百分(この例では約450分)を要し得る。このように、温度差が生じると、自己放電電流が収束しにくくなって検査時間が長くなる可能性がある。あるいは、検査時間が固定されている場合いは、自己放電電流が充分に収束せずに検査精度が低下する可能性もある。
【0039】
そこで、本実施の形態においては、自己放電電流の収束に影響し得る各種パラメータ(説明変数)を特定し、その説明変数と自己放電電流の収束値との間の対応関係を予め求めてマップ化する構成を採用する。このマップを「収束値マップ」と称する。収束値マップは、説明変数として、自己放電工程で所定時間が経過した時点でのバッテリの電圧V、電流I、電池温度TBおよび環境温度TAに加えて、自己放電工程よりも前工程の実施条件を含む。前工程の実施条件を表す説明変数を「前工程情報」と称する。以下、まず、バッテリ9の検査工程の全体の流れを概略的に説明した上で、前工程情報の詳細について説明する。
【0040】
<検査工程全体>
図4は、バッテリ検査工程の全体の流れを示すフローチャートである。以下、ステップをSと略す。以下のS1~S6の工程は、自己放電工程の前工程に該当し、主に検査担当者により実施される。S7,S8は、バッテリ検査システム10により実施される。
【0041】
S1において、バッテリ9が組み立てられる(組立工程)。より詳細には、組立工程においては、正極、負極およびセパレータから電極体912(図2参照)が作製される。また、正極端子914、負極端子915、正極集電端子および負極集電端子(図示せず)が蓋体に組み付けられて上面部材911Bが作製される。そして、電極体912が上面部材911Bに溶接される。溶接された電極体912はケース本体911Aに収容される。その後、ケース本体911Aの開口縁部と上面部材911Bの外周縁部とがレーザ溶接される。
【0042】
S2において、電池ケース911の上面部材911Bに設けられた注液口(図示せず)から予め定められた時間(注入時間)をかけて電解液913が注入される(注液工程)。電解液の注入後、封止部材(図示せず)により電池ケース911が密閉される。
【0043】
S3において、注入された電解液913は電極体912の表面全面に広がる。その後、電極体912の表面の電解液913は、一定の時間(浸透時間)をかけて電極体912の内部に浸透する(浸透工程)。
【0044】
S4において、バッテリ9が充電器(図示せず)に接続される。バッテリ9は、所定のSOC(State Of Charge)に到達するまで充電される(充電工程)。本実施の形態では、充電時における電池温度TB、充電時における環境温度TA、充電終了時におけるバッテリ9の電圧Vが測定され得る。また、バッテリ9は、浸透工程から充電工程に移行するまで一定時間、滞留する。この滞留時間についても測定され得る。
【0045】
S5において、充電後のバッテリ9は、高温に保持された恒温槽(図示せず)内に設置される。数時間程度の所定時間(高温エージング時間)をかけて恒温槽内での高温エージングが実施される(高温エージング工程)。本実施の形態では、高温エージング工程における電池温度TBおよび/または環境温度TAが測定され得る。また、充電工程から高温エージング工程に移行するまでのバッテリ9の滞留時間についても測定され得る。
【0046】
S6において、高温エージング後のバッテリ9は、室温(典型的には25℃)の環境下で、丸一日などの一定の時間(冷却時間)放置されて冷却される(冷却工程)。本実施の形態では、冷却工程における電池温度TBが測定され得る。
【0047】
S7において、冷却後のバッテリ9がバッテリ検査システム10に設置される。バッテリ検査システム10は、所定時間が経過するまで自己放電電流を測定する(自己放電工程)。より詳細には、バッテリ検査システム10は、まず、バッテリ9に電流が流れていない状態におけるバッテリ9の電圧、すなわち、バッテリ9の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を電圧センサ2から取得する。そして、バッテリ検査システム10は、直流電源1の供給電圧をバッテリ9のOCVと等しい値に設定する。自己放電電流の収束を早めるために、直流電源1の供給電圧をバッテリ9のOCVよりも高い値を設定してもよい。その後、時間の経過とともにバッテリ9の自己放電によりバッテリ9の電圧Vが低下する。そうすると、直流電源1からの供給電圧とバッテリ9の電圧との間に電圧差が生じる。この電圧差により自己放電電流が流れ、その電流値が電流センサ3により測定される。さらに、本実施の形態では、バッテリ検査システム10は、自己放電電流に加えて、上記の所定時間が経過した時点での電圧V、電池温度TBおよび環境温度TAについても測定する。また、冷却工程から自己放電工程に移行するまでのバッテリ9の滞留時間についても測定され得る。
【0048】
S8において、バッテリ検査システム10は、S7における自己放電電流の収束値と基準値とを比較することで、バッテリ9の良否(短絡不良の有無)を判定する(検査処理)。なお、図4に示した前工程の全部が必須とは必ずしも限らず、一部の工程(S4~S6の工程のうちのいずれか)が省略されてもよい。
【0049】
<前工程情報>
図5は、前工程情報を説明するための図である。前工程情報としては、図5に示す説明変数のうちの少なくとも1つを用いることができる。すなわち、単一の説明変数のみを用いてもよいし、2以上の説明変数を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
組立工程に関連する説明変数は、電極(正極および負極)材料、電極厚み、電極の目付量、電極の水分量、正極と負極との容量比、セパレータ材料を含む。注液工程に関連する説明変数は、電解液材料、電解液の注入量、電解液の注入時間を含む。浸透工程に関連する説明変数は、浸透時間を含む。充電工程に関連する説明変数は、浸透工程から充電工程までの滞留時間(第1滞留時間)、充電工程における電池温度TB、充電工程における環境温度TA、充電終了時におけるバッテリ9の電圧Vを含む。高温エージング工程に関連する説明変数は、充電工程から高温エージング工程までの滞留時間(第2滞留時間)、高温エージング時間、高温エージング時における電池温度TB、高温エージング時における環境温度TAを含む。冷却工程に関連する説明変数は、冷却時間、冷却工程から自己放電工程までの滞留時間(第3滞留時間)、冷却工程における電池温度TBを含む。
【0051】
前工程情報(上記の説明変数)のうち電極材料、電極厚み等は、バッテリ9の仕様などから既知である。既知の前工程情報は事前にサーバ30に登録される。一方、浸透工程から充電工程までの滞留時間等については、該当の工程の実施中に検査担当者により測定される。そして、測定された前工程情報を検査担当者が端末(図示せず)に入力することで、入力された前工程情報がサーバ30(図1参照)に収集される。したがって、バッテリ検査システム10は、サーバ30との通信によって所望の前工程情報を取得できる。
【0052】
<収束値マップ>
図6は、収束値マップの概念図である。前述のように、収束値マップには、自己放電工程で所定時間が経過した時点でのバッテリの電圧V、電流I、電池温度TBおよび環境温度TAと、前工程情報と、自己放電電流の収束値との間の対応関係が規定されている。以下、収束値マップの作成手法について説明する。
【0053】
バッテリ検査システム10と同様に自己放電電流を測定可能なシステム(図示せず)が室温(25℃)に維持された恒温槽内に設置される。バッテリ9と同型の多数のバッテリが準備される。バッテリが置かれた部屋の空調温度は、室温を含む温度範囲内(たとえば25℃±数℃の範囲内)で様々な値に変更可能である。
【0054】
バッテリを一定時間放置することで、電池温度TBが空調温度に近付く。電池温度TBが空調温度がおおよそ等温になったバッテリの自己放電電流が恒温槽内で測定される。より詳細には、自己放電開始時から、自己放電電流の収束に要する時間よりも長い所定時間(たとえば100分間)が経過した時点で、バッテリの電圧V、電流I(自己放電電流の収束値)、電池温度TBおよび環境温度TA(=恒温槽の設定温度)が測定される。自己放電電流の収束値としては、電流Iの変動が事前に定められた値よりも小さくなった期間内での平均値を用いることができる。バッテリ毎に異なる空調温度を設定することで、様々な温度条件下での自己放電電流の収束値を測定できる。得られた測定結果は前工程情報と紐付けて管理される。
【0055】
続いて、得られた測定結果に対するデータクレンジングが実施される。具体的には、自己放電電流の収束値の外れ値が除去されたり、温度条件間でのデータバランスが調整されたりする。
【0056】
その後、公知の回帰手法を用いてデータ(自己放電工程で所定時間が経過した時点での上記の測定結果と、前工程情報と、自己放電電流の収束値との間の対応関係)が整理される。データの整理に機械学習を用いてもよい。機械学習を用いる場合、勾配ブースティング木(Gradient Boosted Trees)回帰、ルールフィット(RuleFit)回帰、ランダムフォレスト(Random Forest)回帰などを用いることができる。これにより、収束値マップが作成される。作成された収束値マップは、バッテリ検査システム10のコントローラ7のメモリ72に格納される。
【0057】
なお、収束値マップは、本開示に係る「対応関係」に相当する。本開示に係る「対応関係」は、マップに限定されず、データテーブル、関数、関係式などであってもよい。
【0058】
<検査処理>
図7は、検査処理(S8の工程)の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件成立時(たとえば検査担当者が処理開始を指示する操作を行った場合)に実行される。各ステップは、コントローラ7(プロセッサ71)によるソフトウェア処理により実現されるが、コントローラ7内に配置されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。
【0059】
前工程情報は、前述のように、サーバ30に収集されている。S81において、コントローラ7は、検査対象のバッテリ9に関する前工程情報をサーバ30から取得する。
【0060】
S82において、コントローラ7は、自己放電開始時から所定時間(収束値マップで用いられる時間と同じ長さであり、たとえば100分間)が経過した時点での電圧V、電流I、電池温度TBおよび環境温度TAを、対応するセンサから取得する。
【0061】
S83において、コントローラ7は、メモリ72に格納された収束値マップを参照し、S82にて取得された値に対応する自己放電電流の収束値を算出する。
【0062】
S84において、コントローラ7は、算出された収束値が予め定められた基準値未満であるかどうかを判定する。収束値が基準値未満である場合(S84においてYES)、コントローラ7は、検査対象のバッテリ9は良品である(正常である)と判定する(S85)。一方、収束値が基準値以上である場合(S84においてNO)、コントローラ7は、検査対象のバッテリ9は不良品である(短絡不良が発生している)と判定する(S86)。その後、コントローラ7は、判定結果をディスプレイ8に表示する(S87)。
【0063】
以上のように、本実施の形態においては、収束値マップを用いて自己放電電流の収束値が算出される。収束値マップは、自己放電開始時から所定時間が経過した時点での電圧V、電流I、電池温度TBおよび環境温度TAに加えて、前工程情報を含む。本発明者らの検討によれば、収束値マップが前工程情報を含むことで、たとえ環境温度(空調温度など)が変動しても自己放電電流の挙動を正確に予測することが可能になる。よって、本実施の形態によれば、検査対象のバッテリ9の温度変動があった場合であってもバッテリ9の短絡不良を適切に検査できる。その結果、検査時間を短縮することも可能になる。
【0064】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
10 バッテリ検査システム、 1 直流電源、2 電圧センサ、3 電流センサ、4 電池温度センサ、5 環境温度センサ、6 外部抵抗、7 コントローラ、71 プロセッサ、72 メモリ、73 入出力インターフェイス、8 ディスプレイ、9 バッテリ、9n,91 セル、911 電池ケース、911A ケース本体、911B 上面部材、912 電極体、913 電解液、914 正極端子、915 負極端子、20 外部交流電源、30 サーバ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7