IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-導電性2次元粒子およびその製造方法 図1
  • 特許-導電性2次元粒子およびその製造方法 図2
  • 特許-導電性2次元粒子およびその製造方法 図3
  • 特許-導電性2次元粒子およびその製造方法 図4
  • 特許-導電性2次元粒子およびその製造方法 図5
  • 特許-導電性2次元粒子およびその製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】導電性2次元粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/00 20060101AFI20240611BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20240611BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01B1/00 B
H01B5/00 B
H01B1/20 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022546248
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030833
(87)【国際公開番号】W WO2022050114
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2020147674
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】小柳 雅史
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼町 章麿
(72)【発明者】
【氏名】坂本 宙樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 肇
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/004173(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/181526(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066549(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/049109(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00
H01B 5/00
H01B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの層を含む、または1つの層と複数の層とを含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
1価の金属イオンを含み、
アミンを含まず、塩素と臭素の合計含有率が1500質量ppm以下であり、
前記導電性2次元粒子の2次元面の長径の平均値が、1.0μm以上、20μm以下である、導電性2次元粒子。
【請求項2】
厚みの平均値が、1nm以上、10nm以下である、請求項1に記載の導電性2次元粒子。
【請求項3】
前記1価の金属イオンはリチウムイオンである、請求項1または2に記載の導電性2次元粒子。
【請求項4】
Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を含む、請求項1~3のいずれかに記載の導電性2次元粒子。
【請求項5】
(a)以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b1)1価の金属イオンを含む金属化合物を含むエッチング液を用いて、前記前駆体からA原子をエッチングするとともに、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うこと、および
(d)Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行うこと
を含む、導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項6】
(a)以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b2)エッチング液を用いて、前記前駆体からA原子をエッチングすること、
(c)1価の金属イオンを含む金属化合物を用いて、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うこと、および
(d)Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行うこと
を含む、導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項7】
前記1価の金属イオンを含む金属化合物は、Li含有化合物である、請求項5または6に記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項8】
前記有機化合物のインターカレーション処理の後に、デラミネーション処理を行う、請求項5~7のいずれかに記載の導電性2次元粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の導電性2次元粒子を含み、導電率が2000S/cm以上である導電性フィルム。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載の導電性2次元粒子を含有する導電性ペースト。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の導電性2次元粒子と樹脂を含有する導電性複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性2次元粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる2次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。上記応用に向け、MXeneを含む材料の導電性をより高めることが求められている。その検討の一環として、多層化物として得られるMXeneの層間剥離法について検討されている。
【0004】
非特許文献1には、TMAOH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を用い、ハンドシェイクすることで、多層MXeneの層間剥離を行ったことが示されている。また、非特許文献1には、DMSO(ジメチルスルホキシド)を用い、更に超音波処理を行うことで、多層MXeneの層間剥離を行ったことが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Guidelines for Synthesis and Processing of Two-Dimensional Titanium Carbide (Ti3C2Tx MXene) Chem. Mater. 2017, 29, 7633-7644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器業界等では、グリーン調達の一環として、ハロゲンのうち、塩素と臭素の合計含有率が一定以下に抑えられていること、いわゆる「ハロゲンフリー」であることが求められている。具体的に、塩素の含有率が900質量ppm以下、かつ臭素の含有率が900質量ppm以下、かつ塩素と臭素の合計含有率が1500質量ppm以下であることが求められている。
【0007】
上記非特許文献1では、塩素等を含まない単層・少層MXeneが得られているが、非特許文献1で得られたMXeneで構成されたフィルムの導電率は200S/cmと低い。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、塩素と臭素の合計含有率が一定以下でハロゲンフリー用途に適しており、更に、高導電性フィルムを形成できる、導電性2次元粒子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの要旨によれば、
1つの層を含む、または1つの層と複数の層とを含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
1価の金属イオンを含み、
アミンを含まず、塩素と臭素の合計含有率が1500質量ppm以下であり、
前記導電性2次元粒子の2次元面の長径の平均値が、1.0μm以上、20μm以下である、導電性2次元粒子が提供される。
【0009】
本発明のもう1つの要旨によれば、
(a)以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b1)1価の金属イオンを含む金属化合物を含むエッチング液を用いて、前記前駆体からA原子をエッチングするとともに、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うこと、および
(d)Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行うこと
を含む、導電性2次元粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導電性2次元粒子が、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)で形成され、1価の金属イオンを含み、アミンを含まず、塩素と臭素の合計含有率が1500質量ppm以下であり、前記導電性2次元粒子の2次元面の長径の平均値が1.0μm以上、20μm以下であり、これにより、MXeneを含み、かつ、ハロゲンフリー用途に適しており、更に、高導電性フィルムを形成できる、導電性2次元粒子が提供される。また本発明によれば、所定の前駆体をエッチング時または所定の前駆体をエッチング後に、1価の金属イオンを含む金属化合物を用いて、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うこと、およびHildebrand溶解パラメータが19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行うことにより、上記導電性2次元粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の1つの実施形態における層状材料である単層MXeneを示す概略模式断面図である。
図2】本発明の1つの実施形態における層状材料である多層MXeneを示す概略模式断面図である。
図3】本発明の1つの実施形態における導電性フィルムを示す概略模式断面図である。
図4】実施例1で製造したMXene粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例2で製造したMXene粒子の2次元面の長径(フレークサイズ)の測定結果を示すグラフである。
図6】実施例2で製造したMXene粒子の厚さの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1:導電性2次元粒子)
以下、本発明の1つの実施形態における導電性2次元粒子について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態における導電性2次元粒子は、
1つの層を含む、または1つの層と複数の層とを含む、層状材料の導電性2次元粒子であって、
前記層が、以下の式:
mn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む。
【0014】
上記層状材料は、層状化合物として理解され得、「Mmns」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxまたはzが使用されることもある。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0015】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0016】
MXeneは、上記の式:Mmnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti32、Ti32、Ti3(CN)、Zr32、(Ti,V)32、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf32、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2
Ti43、V43、Nb43、Ta43、(Ti,Nb)43、(Nb,Zr)43、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr22)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo22)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3、(Mo2.71.3)C3(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0017】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti32sである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0018】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、導電性2次元粒子の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0019】
本明細書において、導電性2次元粒子(MXene2次元粒子)とは、上記MXeneで構成され、(MXene2次元粒子の2次元面の長径の平均値)/(MXene2次元粒子の厚みの平均値)の比率が1.2以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上の粒子をいう。前記MXene2次元粒子の2次元面の長径の平均値と、前記MXene2次元粒子の厚みの平均値は、後述する方法で求めればよい。
【0020】
本実施形態の導電性2次元粒子は、図1に模式的に例示する1つの層のMXene10a(単層MXene)を含む集合物である。MXene10aは、より詳細には、Mmnで表される層本体(Mmn層)1aと、層本体1aの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5aとを有するMXene層7aである。よって、MXene層7aは、「Mmns」とも表され、sは任意の数である。
【0021】
本実施形態の導電性2次元粒子は、1つの層と共に複数の層を含みうる。複数の層のMXene(多層MXene)として、図2に模式的に示す通り、2つの層のMXene10bが挙げられるが、これらの例に限定されない。図2中の、1b、3b、5b、7bは、前述の図1の1a、3a、5a、7aと同じである。多層MXeneの、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。前記MXene10aは、上記多層MXene10bが個々に分離されて1つの層で存在するものであり、分離されていない多層MXene10bが、残存し、上記単層MXene10aと多層MXene10bの混合物である場合がある。
【0022】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下でありうる(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。含まれうる多層MXeneの、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上、20,000以下でありうる。
【0023】
本実施形態の導電性2次元粒子は、上記含みうる多層MXeneが、層間剥離処理を経て得られた、層数の少ないMXeneであることが好ましい。前記「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることをいう。また、層数の少ない多層MXeneの積層方向の厚みは、10nm以下であることが好ましい。以下、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」ということがある。また、単層MXeneと少層MXeneを併せて「単層・少層MXene」ということがある。
【0024】
本実施形態の導電性2次元粒子は、好ましくは、単層MXeneと少層MXene、すなわち単層・少層MXeneを含む。本実施形態の導電性2次元粒子は、厚みが10nm以下である単層・少層MXeneの割合は、90体積%以上であることが好ましく、より好ましくは95体積%以上である。
【0025】
本実施形態の導電性2次元粒子は、1価の金属イオンを含む。前記1価の金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、銅イオン、銀イオン、金イオン等が挙げられる。前記1価の金属イオンとして、リチウムイオンが好ましい。前記1価の金属イオンは、後述する導電性2次元粒子の製造方法で用いる、1価の金属イオンを含む金属化合物に由来する。導電性2次元粒子中の1価の金属イオンの含有率は、0.001質量%以上および/または10質量%以下であり得る。前記1価の金属イオンの含有率は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いたICP-AESなどにより測定可能である。
【0026】
本実施形態の導電性2次元粒子は、アミンを含まない。非特許文献1に記載の通り、TMAOHを用いてMXeneの層間剥離を行った場合、単層MXeneは得られるが、洗浄してもTMAOHがMXene表面に残存し、それが原因で導電率が低くなる。前記TMAOHの除去のため、250℃以上500℃以下の高温状態とすることが必要であるが、該高温状態では、MXeneが酸化、分解するおそれがある。それに対して本実施形態では、MXeneの層間剥離にTMAOHを使用せず、その結果、得られる導電性2次元粒子はアミンを含まない。なお、本明細書における「アミンを含まない」とは、ガスクロマトグラフィー質量分析(GCMS)装置を用いて測定したときに、TMAOH由来のトリエチルアミン(m/z=42,53,54)が10質量ppm以下であることをいう。
【0027】
本実施形態の導電性2次元粒子は、塩素と臭素の合計含有率が1500質量ppm以下である。本実施形態の導電性2次元粒子は、塩素と臭素が抑えられているため、ハロゲンフリーが求められる用途に適用できる。塩素と臭素の合計含有率は、好ましくは900質量ppm以下であり、最も好ましくは0質量ppm以下である。すなわち、本開示において、「導電性2次元粒子は、塩素と臭素の合計含有率が1500質量ppm以下」とは、塩素と臭素を実質的に全く含有しないものを含む。
【0028】
(導電性2次元粒子の2次元面の長径の平均値)
本実施形態の導電性2次元粒子は、2次元面の長径の平均値が、1.0μm以上、20μm以下である。以下、2次元面の長径の平均値を「平均フレークサイズ」ということがある。
【0029】
上記平均フレークサイズが大きいほど、フィルムの導電率は大きくなる。本実施形態の導電性2次元粒子は、平均フレークサイズが1.0μm以上であり大きいため、この導電性2次元粒子を用いて形成されたフィルム、例えばこの導電性2次元粒子を積層させて得られるフィルムは、2000S/cm以上の導電率を達成できる。2次元面の長径の平均値は、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2.5μm以上である。非特許文献1では、MXeneに超音波処理を施すことでMXeneの層間剥離を行っているが、超音波処理により大部分のMXeneが長径で約数百nmに小径化するため、非特許文献1で得られた単層MXeneで形成のフィルムは導電率が低いと考えられる。
【0030】
2次元面の長径の平均値は、溶液中の分散性の観点から、20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0031】
上記2次元面の長径は、後記の実施例に示す通り、電子顕微鏡写真において、各MXene粒子を楕円形状に近似したときの長径をいい、上記2次元面の長径の平均値は、80粒子以上の上記長径の個数平均をいう。電子顕微鏡として、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を用いることができる。
【0032】
本実施形態の導電性2次元粒子の長径の平均値は、該導電性2次元粒子を含む導電性フィルムを溶媒に溶解させ、上記導電性2次元粒子を該溶媒に分散させて測定してもよい。または、前記導電性フィルムのSEM画像から測定してもよい。
【0033】
(導電性2次元粒子の厚みの平均値)
本実施形態の導電性2次元粒子の厚みの平均値は、1nm以上、10nm以下であることが好ましい。前記厚みは、好ましくは7nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。一方、単層MXeneの厚みを考慮すると、導電性2次元粒子の厚みの下限は1nmとなりうる。
【0034】
上記導電性2次元粒子の厚みの平均値は、原子間力顕微鏡(AFM)写真または透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)として求められる。
【0035】
本実施形態の導電性2次元粒子は、Hildebrand溶解パラメータ(Hildebrand solubility parameters、「SP値」ともいう)が、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を含みうる。後記する導電性2次元粒子の製造方法で詳述の通り、本実施形態の導電性2次元粒子の製造では、有機化合物のインターカレーション処理に用いる有機化合物として、Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いる。
【0036】
前記有機化合物として、例えば、沸点285℃以下で、カルボニル基、エステル基、アミド基、ホルムアミド基、カルバモイル基、カーボネート基、アルデヒド基、エーテル基、スルホニル基、スルフィニル基、ヒドロキシル基、シアノ基、およびニトロ基のうちの1以上を有する有機化合物が挙げられる。より具体的に、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、Nメチルホルムアミド(NMF)、アセトン(acetone)、メチルエチルケトン(MEK)、およびテトラヒドロフラン(THF)のうちの1以上が挙げられる。
【0037】
該有機化合物は、有機化合物のインターカレーション処理後の洗浄で完全に除去されることが好ましいが、導電性確保を妨げない範囲内で、少量が残存していてもよい。上記有機化合物の含有率は、本実施形態の導電性2次元粒子をガスクロマトグラフィー質量分析法で測定したときに、好ましくは0質量%であり、少量が残存する場合であっても、例えば0質量%超、0.01質量%以下である。
【0038】
(実施形態2:導電性2次元粒子の製造方法)
以下、本発明の1つの実施形態における導電性2次元粒子の製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0039】
本実施形態の1つの導電性2次元粒子の製造方法(第1製造方法)は、
(a)所定の前駆体を準備すること、
(b1)1価の金属イオンを含む金属化合物を含むエッチング液を用いて、前記前駆体からA原子をエッチングするとともに、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うこと、および
(d)Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行うこと
を含む。
【0040】
本実施形態のもう1つの導電性2次元粒子の製造方法(第2製造方法)は、
(a)所定の前駆体を準備すること、
(b2)エッチング液を用いて、前記前駆体からA原子をエッチングすること、
(c)1価の金属イオンを含む金属化合物を用いて、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うこと、および
(d)Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行うこと
を含む。
以下、第1製造方法と第2製造方法の各工程について詳述する。これら2つの製造方法で共通する工程(a)と工程(d)はまとめて説明する。
【0041】
・工程(a)
まず、所定の前駆体を準備する。本実施形態において使用可能な所定の前駆体は、MXeneの前駆体であるMAX相であり、
以下の式:
mAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される。
【0042】
上記M、X、nおよびmは、MXeneで説明した通りである。Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである。
【0043】
MAX相は、Mmnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「Mmn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。
【0044】
上記MAX相は、既知の方法で製造することができる。例えばTiC粉末、Ti粉末およびAl粉末を、ボールミルで混合し、得られた混合粉末をAr雰囲気下で焼成し、焼成体(ブロック状のMAX相)を得る。その後、得られた焼成体をエンドミルで粉砕して次工程用の粉末状MAX相を得ることができる。
【0045】
・工程(b1)
第1製造方法では、1価の金属イオンを含む金属化合物を含むエッチング液を用いて、前記前駆体からA原子(および場合によりM原子の一部)をエッチング(除去および場合により層分離)するとともに、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行う。
【0046】
従来の塩酸を用いた方法では、エッチング液中に存在するCl-が、立体障害を生じさせる役割を担っていたと考えている。しかし前述のハロゲンフリーを達成するため、塩酸を使用しない方法が望まれている。上記塩酸をエッチング液に用いない方法では、容易に単層化することが難しく、超音波処理などのせん断力が非常に強い処理が必要であった。しかし、強いせん断力を受けて得られる単層MXeneとして、前述の通り平面内での破壊が生じて、2次元面の小さな単層MXeneしか得られなかった。
【0047】
本実施形態では、MAX相からのA原子(および場合によりM原子の一部)のエッチング(除去および場合により層分離)時に、Mmn層の層間に1価の金属イオンを挿入する、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行う。Mmn層の層間に1価の金属イオンが挿入され、更に後記の工程(d)で有機化合物のインターカレーション処理を行うことで、立体障害によりMXene層間距離が十分広がり、Mmn層間のファンデルワールス力が十分弱まると考えられる。その結果、多層のMmn層に対して強いせん断を与えなくとも、Mmn層を容易に単層化できると考えられる。また、強いせん断を与える必要がないため、Mmn層の平面内での破壊が抑制され、その結果、2次元面の大きな単層のMmn層を得ることができる。
【0048】
1価の金属イオンを含む金属化合物を構成する1価の金属イオンとして、前述の通り、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、銅イオン、銀イオン、金イオン等が挙げられる。前記1価の金属イオンを含む金属化合物として、上記金属イオンと陽イオンが結合したイオン性化合物が挙げられる。例えば上記金属イオンの、ヨウ化物、リン酸塩、硫酸塩を含む硫化物塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。前記1価の金属イオンとして、前述の通りリチウムイオンが好ましく、1価の金属イオンを含む金属化合物として、リチウムイオンを含む金属化合物、すなわちLi含有化合物が好ましく、リチウムイオンのイオン性化合物がより好ましく、リチウムイオンのヨウ化物、リン酸塩、硫化物塩のうちの1以上が更に好ましい。金属イオンとしてリチウムイオンを用いれば、リチウムイオンに水和している水が最も負の誘電率を有するため、単層化しやすくなると考えられる。
【0049】
エッチング液中の1価の金属イオンを含む金属化合物の含有率は、0.001質量%以上とすることが好ましい。上記含有率は、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。一方、溶液中の分散性の観点からは、エッチング液中の1価の金属イオンを含む金属化合物の含有率を、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である(下記工程(b2)のエッチング液についても同じ)。
【0050】
上記エッチング液は、従来のエッチング液で使用されてきた塩酸を含まず、すなわち塩素原子を含まない。なお、エッチング液の「塩素原子を含まない」とは、エッチング液中の塩素濃度が、例えば燃焼-イオンクロマトグラフィーで測定したときに10質量ppm以下であることをいう。
【0051】
工程(b1)におけるエッチング液は、従来使用されてきた塩酸を含まず、1価の金属イオンを含む金属化合物を含んでいればよく、エッチング液のその他の構成は特に限定されず、既知の条件を採用することができる。例えば、F-を更に含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ酸(HF)と1価の金属イオンを含む金属化合物と、溶媒として例えば純水との混合液を用いた方法が挙げられる。この混合液中のフッ酸の濃度は1質量%以上、50質量%以下とすればよい。
【0052】
上記エッチングは、上記エッチング液の組成が従来と異なるのみで、その他のエッチングの条件は、従来行われている条件を採用すればよい。
【0053】
第2製造方法では、第1製造方法の上記工程(b1)に代えて、
(b2)エッチング液を用いて、前記前駆体からA原子をエッチングすること、
(c)1価の金属イオンを含む金属化合物を用いて、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うことができる。第2製造方法の通り、エッチング工程と1価の金属イオンのインターカレーションの工程とを分けた製造方法によれば、MXeneをより単層化しやすいため好ましい。
以下、第2製造方法の工程(b2)と工程(c)について説明するが、第1製造方法の上記工程(b1)と重複する部分の説明は省略する。
【0054】
・工程(b2)
工程(b2)で使用されるエッチング液は、従来のエッチング液で使用されてきた塩酸を含まず、すなわち塩素原子を含まないこと以外は、特に限定されず、既知の条件を採用することができる。例えば、F-を更に含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ酸(HF)と、必要に応じてその他の添加物としてリン酸等と、溶媒として例えば純水との混合液を用いた方法が挙げられる。エッチング液のフッ酸(HF)の濃度等は工程(b1)と同じとすることができる。
【0055】
・工程(c)
1価の金属イオンを含む金属化合物を用いて、1価の金属イオンのインターカレーション処理を行う。1価の金属イオン、および1価の金属イオンを含む金属化合物については前記工程(b1)で述べた通りである。
1価の金属イオンのインターカレーション処理用配合物に占める、1価の金属イオンを含む金属化合物の含有率は、0.001質量%以上とすることが好ましい。上記含有率は、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。一方、溶液中の分散性の観点からは、1価の金属イオンを含む金属化合物の含有率を、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0056】
工程(c)では、例えば上記工程(b2)のエッチング後のスラリーを、遠心分離-上澄み液除去-残りの沈殿物に純水添加-再度遠心分離を繰り返すことで洗浄して得られたMXeneの水分媒体クレイを、インターカレーション処理に供することが挙げられる。工程(c)のインターカレーション処理では、例えば、上記MXeneの水分媒体クレイに対して、上記エッチング液で使用したリン酸等と、1価の金属イオンとの化合物を加えて得られた1価の金属イオンのインターカレーション処理用配合物を、例えば室温で撹拌することが挙げられる。
【0057】
・工程(d)
Hildebrand溶解パラメータが、19.0MPa1/2以上、47.8MPa1/2以下である有機化合物を用いて、該有機化合物のインターカレーション処理を行う。前記工程(b1)または工程(c)で既に1価の金属イオンのインターカレーション処理を行ったMXeneに、Hildebrand溶解パラメータが上記範囲内にある極性の高い有機化合物を、更に挿入することで、MXeneの層間がより広がり、単層化しやすくなる。前記工程(b1)または工程(c)で既に1価の金属イオンのインターカレーション処理を行うことにより、1価の金属イオンが挿入されていない場合よりも、明らかに単層化しやすい状態になっている。よって、デラミネーション処理で超音波のように粒子破壊を起こす程の強いエネルギーを加えなくとも単層化できる。その結果、2次元面の長径の平均値が従来よりも大きい単層・少層MXeneを含む導電性2次元粒子を得ることができる。2次元面の長径が大きい単層・少層MXeneを含む導電性2次元粒子は、バインダーを使用せずにフィルムを形成でき、得られたフィルムは高い導電率を示す。本効果はこれまでの先行技術からは容易に類推することができない効果である。
【0058】
上記有機化合物は、後工程で真空加熱乾燥を実施することにより、MXeneが酸化および分解することなく、除去可能である。よって、非特許文献1のように導電性の低いTMAOHがMXeneに多く残存せず、該MXeneで形成されたフィルムは高い導電率を示す。
【0059】
前記有機化合物として、例えば、沸点285℃以下で、カルボニル基、エステル基、アミド基、ホルムアミド基、カルバモイル基、カーボネート基、アルデヒド基、エーテル基、スルホニル基、スルフィニル基、ヒドロキシル基、シアノ基、およびニトロ基のうちの1以上を有する有機化合物が挙げられる。より具体的に、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、Nメチルホルムアミド(NMF)、アセトン(acetone)、メチルエチルケトン(MEK)、およびテトラヒドロフラン(THF)のうちの1以上が挙げられる。
【0060】
工程(d)では、例えば上記工程(c)の1価の金属イオンのインターカレーション処理後のスラリーを遠心分離-上澄み液除去して得られた、MXeneの水分媒体クレイを、有機化合物のインターカレーション処理に供することが挙げられる。工程(d)の有機化合物のインターカレーション処理では、例えば、上記MXeneの水分媒体クレイに上記有機化合物を加えて得られた有機化合物のインターカレーション用配合物を、例えば室温で撹拌することが挙げられる。
【0061】
有機化合物のインターカレーション用配合物において、上記有機化合物は、MXene質量に対して、0.01倍以上1000倍以下の割合で使用することができる。
【0062】
上記有機化合物のインターカレーション処理を行った後は特に限定されず、既知の方法で、導電性2次元粒子を得ることができる。例えば、デラミネーション処理を行うことが挙げられる。前記デラミネーション処理では、例えば、上記有機化合物のインターカレーション処理後のスラリーを、遠心分離して上澄み液を廃棄した後に、残りの沈殿物に純水添加-例えばハンドシェイクによる撹拌-遠心分離-上澄み液の回収を複数回繰り返して、単層・少層MXeneを含む導電性2次元粒子を得ることが挙げられる。
【0063】
本実施形態の製造方法では、非特許文献1と異なり、エッチング後にデラミネーションとして超音波処理を行わない。前述の通り、超音波処理を行わないため粒子破壊が生じ難く、2次元面の大きい単層・少層MXeneを含む導電性2次元粒子を得ることができる。2次元面の大きい単層・少層MXeneを含む導電性2次元粒子は、バインダーを使用せずにフィルムを形成でき、得られたフィルムは高い導電率を示す。
【0064】
上記有機化合物のインターカレーション処理で用いた有機化合物を、MXeneから除去するために、真空加熱乾燥を実施すればよい。真空加熱乾燥は、上記デラミネーション後の上澄み液を、例えば温度を25度以上300度以下で、真空下で乾燥させてMXeneフレークを得ることが挙げられる。または、MXeneスラリーを凍結乾燥して得られた乾燥粉であってもよく、この場合も上記真空加熱乾燥と同様の効果が得られる。
【0065】
(実施形態3:導電性フィルム)
本実施形態の導電性2次元粒子の用途として、導電性2次元粒子を含有する導電性フィルムが挙げられる。図3を参照して、本実施形態の導電性フィルムを説明する。図3では導電性2次元粒子10のみが積層して得られた導電性フィルム30を例示しているが、これに限定されない。導電性フィルムは、必要に応じて、フィルム形成時に添加されるバインダー等の添加物が含まれていてもよい。前記添加物は、導電性フィルム(乾燥時)に占める割合で好ましくは30体積%以下、更に好ましくは10体積%以下、より更に好ましくは5体積%以下であり、最も好ましくは0体積%である。
【0066】
前述の通り、導電性2次元粒子を積層させて得られる導電性フィルムは、好ましくは2000S/cm以上の導電率を達成できる。前記導電率は、より好ましくは2500S/cm以上、更に好ましくは3000S/cm以上である。
【0067】
前記バインダー等を使用せずに導電性フィルムを作製する方法として、上記デラミネーションにて得られた、導電性2次元粒子を含む上澄み液を、吸引ろ過することで、導電性フィルムを作製することができる。フィルターは、特に限定されないが、メンブレンフィルターなどを使用し得る。上記吸引ろ過以外に、導電性2次元粒子を含む上澄み液またはクレイ(前記バインダー、後述する樹脂等を含む場合は、それらも含む)を、基材に塗布して導電性フィルムを作製する方法が挙げられる。塗布方法として、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下等が挙げられる。上記吸引ろ過後または基材に塗布後は適宜、乾燥させて、導電性フィルムを得ることができる。
【0068】
本実施形態の導電性2次元粒子を用いたその他の用途として、前記導電性2次元粒子を含有する導電性ペースト、前記導電性2次元粒子と樹脂を含有する導電性複合材料が挙げられる。これらもハロゲンフリー用途、高導電率が求められる用途に適している。前記樹脂(ポリマー)として、例えば、極性基を有する親水性ポリマーであって、前記極性基が、前記層の修飾または終端Tと水素結合を形成する基であるものが挙げられる。前記ポリマーとして例えば、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンよりなる群から選択される1種類以上のポリマーが挙げられる。前記ポリマーは、導電性複合材料フィルム(乾燥時)に占める割合で、0体積%超であって、好ましくは30体積%以下とすることができる。
【0069】
以上、本発明の1つの実施形態における導電性2次元粒子について、その製造方法を通じて詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本発明の導電性2次元粒子は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明の導電性2次元粒子の製造方法は、上述の実施形態における導電性2次元粒子を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0070】
[実施例1~8]
実施例1~8では、以下に詳述する、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチングおよびLiのインターカレーション、(3)洗浄、(4)有機化合物のインターカレーション、および(5)デラミネーションの5つの工程を順に実施して、単層・少層MXene含有試料を作製した。
【0071】
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック状MAX)をエンドミルで最大寸法45μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
【0072】
(2)前駆体のエッチングおよびLiのインターカレーション
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記条件で、エッチングを行うと共にLiのインターカレーションを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチングおよびLiのインターカレーションの条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL、
2O 54mL
LiI 10.3g
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0073】
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管中の残りの沈殿物に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物としてTi32s-水分媒体クレイを得た。
【0074】
(4)有機化合物のインターカレーション
上記方法で調製したTi32s-水分媒体クレイに対し、下記有機化合物のインターカレーションの条件の通り、表1に示す各インターカレーターを添加し、20℃以上25℃以下で10時間撹拌して、有機化合物のインターカレーションを行った。
(有機化合物のインターカレーションの条件)
・Ti32s-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.75g
・表1に示す種類のインターカレーター:30mL
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:10h
・スターラー回転数:800rpm
【0075】
(5)デラミネーション
有機化合物のインターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。次いで、上澄みを除いた残りの沈殿物に純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3500Gで遠心分離し、上澄み液を単層・少層MXene含有液として回収する操作を、4回繰り返して、単層・少層MXene含有上澄み液を得た。
【0076】
[実施例9]
実施例9では、(1)前駆体(MAX)の準備を実施例1~8と同様に行った後、以下に詳述する、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)Liのインターカレーション、(5)洗浄、(6)有機化合物のインターカレーション、(7)デラミネーション、(8)単層・少層MXene含有クレイの回収の8つの工程を順に実施して、単層・少層MXene含有試料を作製した。
【0077】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL、
2O 9mL
3PO4 45mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0078】
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管中の残りの沈殿物に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物としてTi32s-水分媒体クレイを得た。
【0079】
(4)Liのインターカレーション
上記方法で調製したTi32s-水分媒体クレイに対し、下記のLiのインターカレーションの条件の通り、1価の金属イオンを含む金属化合物としてLi3PO4を用い、20℃以上25℃以下で10時間撹拌して、Liのインターカレーションを行った。
(Liのインターカレーションの条件)
・Ti32s-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.75g
・Li3PO4:0.68g
・H3PO4:3.14mL
・純水:32mL
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:10h
・スターラー回転数:800rpm
【0080】
(5)洗浄
Liのインターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄して、Liインターカレーション処理後のクレイを得た。
【0081】
(6)有機化合物のインターカレーション
上記Liのインターカレーション処理後のクレイに対し、下記有機化合物のインターカレーションの条件の通り、NMFを用い、20℃以上25℃以下で10時間撹拌して、NMFのインターカレーションを行った。
(有機化合物(NMF)のインターカレーションの条件)
・Liのインターカレーション処理後の水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.75g
・NMF(Nメチルホルムアミド):30mL
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:10h
・スターラー回転数:800rpm
【0082】
(7)デラミネーション
有機化合物のインターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。次いで、残りの沈殿物に純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3500Gで遠心分離し、上澄み液を単層・少層MXene含有液として回収する操作を、4回繰り返して、単層・少層MXene含有上澄み液を得た。
【0083】
(8)単層・少層MXene含有クレイの回収
上記単層・少層MXene含有上澄み液を、遠心分離機を用いて4000Gで2時間遠心分離を行い、単層・少層MXeneを沈降させて、単層・少層MXene含有クレイを得た。
【0084】
[比較例1]
比較例1では、(1)前駆体(MAX)の準備を実施例1~8と同様に行った後、前記非特許文献1に記載の方法を参考に、以下に詳述する、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)TMAOHのインターカレーション、(5)デラミネーション、(6)単層・少層MXene含有クレイの回収の6つの工程を順に実施して、単層・少層MXene含有試料を作製した。
【0085】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL、
2O 54mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:20℃以上25℃以下(室温)
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0086】
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管中の残りの沈殿物に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物としてTi32s-水分媒体クレイを得た。
【0087】
(4)TMAOHのインターカレーション
上記方法で調製したTi32s-水分媒体クレイに対し、下記のTMAOHのインターカレーションの条件の通り、インターカレーターとしてTMAOHを用い、20℃以上25℃以下で12時間撹拌して、TMAOHのインターカレーションを行った。
(TMAOHのインターカレーションの条件)
・Ti32s-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分1.0g
・TMAOH・5H2O:1.98g
・純水:100mL
・インターカレーション容器:250mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:12h
・スターラー回転数:800rpm
【0088】
(5)デラミネーション
TMAOHのインターカレーションを行って得られたスラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行って上澄み液を回収した。各遠沈管中の残りの沈殿物に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を回収する操作を2回繰り返して、単層・少層MXene含有上澄み液を得た。
【0089】
(6)単層・少層MXene含有クレイの回収
上記単層・少層MXene含有上澄み液を、遠心分離機を用いて3500Gで1時間遠心分離を行い、単層・少層MXeneを沈降させて、単層・少層MXene含有クレイを得た。
【0090】
[比較例2]
比較例2では、(1)前駆体(MAX)の準備を実施例1~8と同様に行った後、前記非特許文献1に記載の方法を参考に、以下に詳述する、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)乾燥、(5)DMSOのインターカレーション、(6)洗浄、(7)デラミネーション、(8)上澄み液の回収の8つの工程を順に実施して、単層・少層MXene含有試料を作製した。
【0091】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 30mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:20℃以上25℃以下(室温)
・エッチング時間:22h
・スターラー回転数:400rpm
【0092】
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管中の残りの沈殿物に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物としてTi32s-水分媒体クレイを得た。
【0093】
(4)乾燥
上記Ti32s-水分媒体クレイを、真空乾燥機を用い、100℃で22時間乾燥させて、乾燥MXeneを得た。
【0094】
(5)DMSOのインターカレーション
上記方法で調製した乾燥MXeneに対し、下記のDMSOのインターカレーションの条件の通り、インターカレーターとしてDMSOを用い、20℃以上25℃以下で18時間撹拌して、DMSOのインターカレーションを行った。
(DMSOのインターカレーションの条件)
・乾燥MXene:固形分0.3g
・DMSO:10mL
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:18h
・スターラー回転数:800rpm
【0095】
(6)洗浄
DMSOのインターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄して、DMSOインターカレーション処理後のクレイを得た。
【0096】
(7)デラミネーション
アイボーイ250mLに、上記DMSOインターカレーション処理後のクレイと純水150mLを加えて超音波洗浄機で6時間超音波を当てた。
【0097】
(8)単層・少層MXene含有上澄み液の回収
上記超音波処理液を3分割し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を、単層・少層MXene含有上澄み液として回収した。
【0098】
[評価]
上記実施例1~9ならびに比較例1および2で得られた単層・少層MXene含有試料(単層・少層MXene含有上澄み液または単層・少層MXene含有クレイ)を用い、MXeneの2次元面の長径と厚みの測定、MXene中の塩素濃度と臭素濃度の測定、MXene中の有機インターカレーターの検出を、下記に示す通り行った。
【0099】
(MXeneの2次元面の長径と厚みの測定)
実施例1で得られたMXeneの2次元面の長径(フレークサイズ)をSEMで測定した。詳細には、アルミナポーラス基板にMXeneスラリーを塗布して乾燥させ、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影して測定を行った。詳細には、倍率2,000倍で、1視野サイズが45μm×45μmの1つまたは複数のSEM画像の視野(おおよそ1視野~3視野)において、目視で確認できる80粒子以上のMXene粒子を対象とした。基板にポーラス基板を用いた場合、顕微鏡写真における微細な黒点は基板由来である場合がある。バックグラウンドのポーラスの部分を画像処理で消して、その後に、SEM画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製)を用いて画像解析を行った。画像解析では、各MXene粒子を楕円形状に近似したときの長径を求め、その個数平均を、2次元面の長径の平均値とした。表1に上記測定結果を示す。また図4に、実施例1のSEM写真を示す。図4において、黒色の粒子がMXene粒子である。
【0100】
また、一部の実施例のMXeneの厚みを、Burker社製Dimensin FastScanの原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。詳細には、シリコン基板にMXeneスラリーを塗布して乾燥させ、原子間力顕微鏡(AFM)写真を撮影し、その画像から厚みを求めた。その結果を表1に示す。
【0101】
上記実施例1以外の幾つかの実施例と比較例についても、上記実施例1と同様にMXeneの2次元面の長径と厚みを測定した。その結果を表1に示す。またその他の実施例についても、形成されたフィルムの高い導電率から、2次元面の長径の平均値:1.0μm以上20μm以下と、厚みの平均値:1nm以上10nm以下とを満たしていると推定される。なお、上記実施例1と同様にして、実施例2のMXeneの2次元面の長径(フレークサイズ)を測定した結果を図5、実施例2のMXeneの厚みを測定した結果を図6にそれぞれ示す。図5における横軸のフレークサイズの区分、例えば「0~2」の表示は「0超、2以下」であることを示す。また図6における横軸のフレーク厚みの区分、例えば「1~3」の表示は「1超、3以下」であることを示す。なお図5において、0~2μmの区分のうち、7割以上は1μm以上であった。
【0102】
(MXene中の塩素濃度と臭素濃度の測定)
実施例1で得られたMXene中の塩素濃度と臭素濃度を、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の燃焼イオンクロマトグラフィー装置(Dionex ICS-5000)を用いて測定した。その結果、塩素濃度は50質量ppm以下であり、臭素濃度も50質量ppm以下、すなわち、塩素と臭素の合計含有率は100質量ppm以下であった。なお、上記実施例1と同様に塩酸を用いずに製造した他の実施例についても、MXene中の塩素濃度と臭素濃度は上記実施例1と同様に抑制されていると考えられる。
【0103】
(MXene中の有機インターカレーターの検出)
Agilent社製のガスクロマトグラフィー質量分析(GCMS)装置(Aglient5975C)を用いて、実施例1~9で得られたMXeneの有機インターカレーターの残存有無を確認した。その結果、実施例3、4、5および9では、10質量ppm以下の微量の有機インターカレーターが検出されたが、上記以外の実施例では有機インターカレーターは検出されなかった。
【0104】
〔MXeneフィルムの作製〕
各例のMXeneを用い、上記デラミネーションにて得られた上澄み液またはクレイを吸引ろ過した。ろ過後は80℃で24時間の真空乾燥を行ってMXeneフィルムを作製した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(メルク株式会社製、デュラポア、孔径0.45μm)を用いた。上記上澄み液中には、MXene2次元粒子の固形分で0.05g、純水40mL含まれていた。得られたMXeneフィルムの密度と導電率を、以下の通り測定した。
【0105】
(フィルムの密度の測定)
フィルムをパンチで直径12mmの円盤状に打ち抜き、電子天秤で質量を測定し、ハイトゲージで厚みを測定した。そしてこれらの測定値からフィルム密度を算出した。その結果を表1に示す。
【0106】
(フィルムの導電率の測定)
得られたMXeneフィルムの導電率を求めた。導電率は、1サンプルにつき3箇所で、抵抗率(Ω)および厚み(μm)を測定して、これら測定値から導電率(S/cm)を算出し、これにより得られた3つの導電率の平均値を採用した。抵抗率測定には、簡易型低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、ロレスタAX MCP-T370)を用いてフィルムの表面抵抗を4端子法にて測定した。厚み測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、MDH-25MB)を用いた。そして、得られた表面抵抗とフィルム厚みから体積抵抗率を求め、その値の逆数を取ることで導電率を求めた。その結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
本実施形態で得られたMXene2次元粒子は、塩素と臭素の合計含有率は100質量ppm以下であるため、ハロゲンフリー用途に使用できる。また、本実施形態で得られたMXene2次元粒子は、上記表1の結果から、2次元面の長径の平均値が1.0μm以上であり、かつ厚みの平均値が10nm以下であった。特に図5、および前述の通り0~2μmに占める1μm以上のMXene2次元粒子が多いことから、本実施形態で得られたMXene2次元粒子は、大半がフレークサイズ1μm以上であり、図6から、厚みが5nm以下であった。よって、本実施形態で得られたMXene2次元粒子を用い、バインダーを添加することなく、ハンドリングが可能なフィルムを作製できる。更に、フレークサイズが1.0μm以上と大きいため、上記表1に示す通り、高導電率のフィルムが得られた。本実施形態によれば、超音波処理を行わなくともシェーカーによるせん断でデラミネーションが可能であり、かつ使用したインターカレーターを80℃の低温で真空乾燥して、除去または残存量を抑制できたため、得られたMXeneで形成されたフィルムは高導電率を示した。
【0109】
それに対して、比較例1は、導電性の低いTMAOHがMXeneに残存し、フィルム導電率が低くなった。比較例2は、超音波処理を行ったことによりフレークサイズが小径化しフィルム導電率が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の導電性フィルムおよび導電性ペーストは、任意の適切な用途に利用され得、例えば電気デバイスにおける電極として特に好ましく使用され得る。
【0111】
本出願は、日本国特許出願である特願2020-147674号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願2020-147674号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【符号の説明】
【0112】
1a、1b 層本体(Mmn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene粒子(層状材料の粒子)
30 導電性フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6