(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車両用駆動伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/089 20060101AFI20240611BHJP
F16D 11/10 20060101ALI20240611BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16H3/089
F16D11/10 A
F16D13/52 D
(21)【出願番号】P 2022561360
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038572
(87)【国際公開番号】W WO2022102354
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2020187451
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】栗林 史明
(72)【発明者】
【氏名】羽原 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】貴田 英治
(72)【発明者】
【氏名】石田 賢司
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114227(JP,A)
【文献】特表2016-516161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/089
F16D 11/10
F16D 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、
前記車輪に駆動連結される出力部材と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、を備え、
前記変速機は、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置と、前記第1係合装置を駆動する第1駆動装置と、前記第2係合装置を駆動する第2駆動装置と、を備え、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置は、回転自在に支持された第1シフトドラムと、前記第1シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第1カム機構と、前記第1カム機構により直線運動を行う第1伝達機構と、を備え、
前記第2駆動装置は、回転自在に支持された第2シフトドラムと、前記第2シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第2カム機構と、前記第2カム機構により直線運動を行う第2伝達機構と、を備え、
前記第1シフトドラムと前記第2シフトドラムとが、駆動軸を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸を駆動することで前記第1シフトドラム及び前記第2シフトドラムを回転させるドラム駆動源を備え
、
前記第1シフトドラムの外径と前記第2シフトドラムの外径とが互いに異なっている、車両用駆動伝達装置。
【請求項2】
車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、
前記車輪に駆動連結される出力部材と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、を備え、
前記変速機は、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置と、噛み合い式の第3係合装置と、前記第1係合装置を駆動する第1駆動装置と、前記第2係合装置を駆動する第2駆動装置と、を備え、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置及び前記第3係合装置の双方が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置及び前記第3係合装置の少なくとも一方が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置は、回転自在に支持された第1シフトドラムと、前記第1シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第1カム機構と、前記第1カム機構により直線運動を行う第1伝達機構と、を備え、
前記第2駆動装置は、回転自在に支持された第2シフトドラムと、前記第2シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第2カム機構と、前記第2カム機構により直線運動を行う第2伝達機構と、を備え、
前記第1シフトドラムと前記第2シフトドラムとが、駆動軸を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸を駆動することで前記第1シフトドラム及び前記第2シフトドラムを回転させるドラム駆動源を備えた車両用駆動伝達装置。
【請求項3】
車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、
前記車輪に駆動連結される出力部材と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、を備え、
前記変速機は、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置と、前記第1係合装置を駆動する第1駆動装置と、前記第2係合装置を駆動する第2駆動装置と、を備え、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置は、回転自在に支持された第1シフトドラムと、前記第1シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第1カム機構と、前記第1カム機構により直線運動を行う第1伝達機構と、を備え、
前記第2駆動装置は、回転自在に支持された第2シフトドラムと、前記第2シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第2カム機構と、前記第2カム機構により直線運動を行う第2伝達機構と、を備え、
前記第1シフトドラムと前記第2シフトドラムとが、駆動軸を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸を駆動することで前記第1シフトドラム及び前記第2シフトドラムを回転させるドラム駆動源を備え
、
前記変速機は、噛み合い式の第3係合装置を更に備え、
前記第1伝達機構の直線運動に沿う方向を第1方向として、
前記第3係合装置は、前記第1係合装置に対して前記第1方向に隣接して配置されていると共に、前記第1駆動装置により駆動され、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置及び前記第3係合装置の双方が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置及び前記第3係合装置の少なくとも一方が係合状態で、前記第2変速段が形成される、車両用駆動伝達装置。
【請求項4】
前記第1カム機構は、前記第1シフトドラムの回転方向に沿って設けられて、前記第1シフトドラムの回転に応じて位相が変化する第1カム経路を備え、
前記第2カム機構は、前記第2シフトドラムの回転方向に沿って設けられて、前記第2シフトドラムの回転に応じて位相が変化する第2カム経路を備え、
前記第1伝達機構は、前記第1カム経路の位相に応じて直線運動を行うことで、前記第1係合装置及び前記第3係合装置を駆動し、
前記第2伝達機構は、前記第2カム経路の位相に応じて直線運動を行うことで、前記第2係合装置を駆動し、
前記第1カム経路は、中立位相を保持する第1保持部と、前記中立位相から第1位相に遷移する第1遷移部と、前記第1位相を保持する第2保持部と、前記第1位相から前記中立位相に遷移する第2遷移部と、前記中立位相を保持する第3保持部と、前記中立位相から第2位相に遷移する第3遷移部と、前記第2位相を保持する第4保持部と、前記第2位相から前記中立位相に遷移する第4遷移部とを、前記第1シフトドラムの回転方向に沿って記載の順に備え、
前記中立位相では、前記第1伝達機構が、前記第1係合装置及び前記第3係合装置の双方を解放状態とし、
前記第1位相では、前記第1伝達機構が、前記第1係合装置を係合状態とすると共に、前記第3係合装置を解放状態とし、
前記第2位相では、前記第1伝達機構が、前記第1係合装置を解放状態とすると共に、前記第3係合装置を係合状態とし、
前記第2カム経路は、解放位相を保持する第5保持部と、前記解放位相から係合位相に遷移する第5遷移部と、前記係合位相を保持する第6保持部と、前記係合位相から前記解放位相に遷移する第6遷移部とを、前記第2シフトドラムの回転方向に沿って記載の順に備え、
前記係合位相では、前記第2伝達機構が、前記第2係合装置を係合状態とし、
前記解放位相では、前記第2伝達機構が、前記第2係合装置を解放状態とし、
前記第1シフトドラムの回転方向における前記第1カム機構の作用位置と、前記第2シフトドラムの回転方向における前記第2カム機構の作用位置とを一致させた場合の前記第1カム経路と前記第2カム経路との位置関係において、前記第3保持部と前記第5遷移部とが重複して配置され、前記第3遷移部の全て及び前記第4保持部の開始点を含む一部と前記第6保持部とが重複して配置されている、請求項
3に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項5】
車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、
前記車輪に駆動連結される出力部材と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、を備え、
前記変速機は、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置と、前記第1係合装置を駆動する第1駆動装置と、前記第2係合装置を駆動する第2駆動装置と、を備え、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置は、回転自在に支持された第1シフトドラムと、前記第1シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第1カム機構と、前記第1カム機構により直線運動を行う第1伝達機構と、を備え、
前記第2駆動装置は、回転自在に支持された第2シフトドラムと、前記第2シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第2カム機構と、前記第2カム機構により直線運動を行う第2伝達機構と、を備え、
前記第1シフトドラムと前記第2シフトドラムとが、駆動軸を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸を駆動することで前記第1シフトドラム及び前記第2シフトドラムを回転させるドラム駆動源を備え
、
前記第2係合装置は、摩擦部材と、前記摩擦部材を押圧するピストンと、を備え、
前記第2伝達機構の直線運動に沿う方向を第2方向として、
前記第2伝達機構は、前記ピストンを駆動するピストン駆動部材と、前記第2方向における前記ピストンと前記ピストン駆動部材との間に配置された軸受と、を備え、
前記軸受は、前記第2係合装置が係合状態の場合に、前記ピストンと前記ピストン駆動部材とが相対的に回転するように、前記ピストンと前記ピストン駆動部材とを相対的に前記第2方向に支持する、車両用駆動伝達装置。
【請求項6】
前記第1伝達機構は、当該第1伝達機構の直線運動の方向に弾性を有する第1弾性部材を備え、前記第1カム機構からの駆動力を、前記第1弾性部材を介して前記第1係合装置に伝達し、
前記第2伝達機構は、当該第2伝達機構の直線運動の方向に弾性を有する第2弾性部材を備え、前記第2カム機構からの駆動力を、前記第2弾性部材を介して前記第2係合装置に伝達する、請求項1
から5のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、入力部材の側から伝達される回転を変速して出力部材の側へ伝達する変速機と、を備えた車両用駆動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動伝達装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の車両用駆動伝達装置では、変速機が、第1変速段(i1)と、当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段(i2)と、を形成可能に構成されている。この変速機は、第1変速段(i1)と第2変速段(i2)とを切り替えるための噛み合い式係合装置(5)と、変速段の切り替えの際に入力部材(2)と出力部材との間の動力伝達を維持するための摩擦式係合装置(6)と、を備えている。
【0004】
上記の車両用駆動伝達装置では、変速機の変速段を第1変速段(i1)から第2変速段(i2)に切り替える際に、噛み合い式係合装置(5)がニュートラル状態となった場合であっても、摩擦式係合装置(6)が入力部材(2)と出力部材との間の動力伝達を維持する。こうして、変速機の変速段を第1変速段(i1)から第2変速段(i2)に切り替える際に生じるショックを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1には示されていないが、上記のような車両用駆動伝達装置においては、噛み合い式係合装置(5)と摩擦式係合装置(6)とは、係合装置としての形式が異なるため、それぞれの係合装置の係合及び解放の駆動を行うための駆動装置についても、互いに異なる構成で、独立に設けられることが一般的である。しかし、このような構成では、2つの駆動装置を独立に備える分、車両用駆動伝達装置の全体としての部品点数が多くなり易く、装置の大型化や高コスト化の要因となり易かった。
【0007】
そこで、噛み合い式の係合装置と摩擦式の係合装置とを備える構成において、部品点数の削減を図ることができる車両用駆動伝達装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置の特徴構成は、
車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、
前記車輪に駆動連結される出力部材と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、を備え、
前記変速機は、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置と、前記第1係合装置を駆動する第1駆動装置と、前記第2係合装置を駆動する第2駆動装置と、を備え、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置は、回転自在に支持された第1シフトドラムと、前記第1シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第1カム機構と、前記第1カム機構により直線運動を行う第1伝達機構と、を備え、
前記第2駆動装置は、回転自在に支持された第2シフトドラムと、前記第2シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第2カム機構と、前記第2カム機構により直線運動を行う第2伝達機構と、を備え、
前記第1シフトドラムと前記第2シフトドラムとが、駆動軸を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸を駆動することで前記第1シフトドラム及び前記第2シフトドラムを回転させるドラム駆動源を備えている点にある。
【0009】
また、上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置の別の特徴構成は、
車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、
前記車輪に駆動連結される出力部材と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、を備え、
前記変速機は、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置と、噛み合い式の第3係合装置と、前記第1係合装置を駆動する第1駆動装置と、前記第2係合装置を駆動する第2駆動装置と、を備え、
前記第1係合装置が係合状態、かつ、前記第2係合装置及び前記第3係合装置の双方が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置が解放状態、かつ、前記第2係合装置及び前記第3係合装置の少なくとも一方が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置は、回転自在に支持された第1シフトドラムと、前記第1シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第1カム機構と、前記第1カム機構により直線運動を行う第1伝達機構と、を備え、
前記第2駆動装置は、回転自在に支持された第2シフトドラムと、前記第2シフトドラムの回転運動を直線運動に変換する第2カム機構と、前記第2カム機構により直線運動を行う第2伝達機構と、を備え、
前記第1シフトドラムと前記第2シフトドラムとが、駆動軸を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸を駆動することで前記第1シフトドラム及び前記第2シフトドラムを回転させるドラム駆動源を備えている点にある。
【0010】
これらの特徴構成によれば、第1係合装置を駆動する第1駆動装置の第1シフトドラムと、第2係合装置を駆動する第2駆動装置の第2シフトドラムとが、ドラム駆動源により駆動される駆動軸を介して一体的に回転するように連結されている。これにより、変速機における変速段の形成及び切り替えを行うための、形式の異なる2つの係合装置の駆動を、1つのドラム駆動源の駆動により実現することができる。したがって、噛み合い式の第1係合装置と、摩擦式の第2係合装置とのそれぞれについて独立に駆動装置が設けられた構成と比べて、部品点数の削減を図ることができる。その結果、車両用駆動伝達装置の大型化や高コスト化を抑制し易くなる。
また、本特徴構成によれば、変速機の変速段を第1変速段から第2変速段に切り替える際に、摩擦式の第2係合装置を係合状態とすることにより、噛み合い式の第1係合装置が係合状態から解放状態となることに伴って入力部材と出力部材との間で動力伝達が遮断されることを回避できる。したがって、変速機の変速段を第1変速段から第2変速段に切り替える際に生じる車輪駆動力の変動を少なく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置を示す図
【
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の変速機を示す図
【
図3】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の軸方向に直交する断面図
【
図4】第1の実施形態に係る第1カム経路及び第2カム経路の構成を示す図
【
図10】第1の実施形態に係る変速機の動作を示す図
【
図11】第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の変速機を示す図
【
図12】第2の実施形態に係る第1カム経路及び第2カム経路の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置100について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両用駆動伝達装置100は、入力部材Iと、出力部材Oと、変速機TMと、を備えている。本実施形態では、車両用駆動伝達装置100は、差動歯車機構DFを更に備えている。
【0013】
入力部材Iは、車輪(図示を省略)の駆動力源に駆動連結されている。本実施形態では、回転電機MGが「駆動力源」に相当する。なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0014】
回転電機MGは、ステータSTとロータRTとを備えている。ステータSTは、非回転部材(例えば、回転電機MG等を収容するケース)に固定されている。ロータRTは、ステータSTに対して回転自在に支持されている。
【0015】
以下の説明では、回転電機MG(ロータRT)の回転軸心である第1軸X1に沿う方向を「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、他方側を「軸方向第2側L2」とする。また、ロータRT等の回転部材の回転軸心に直交する方向を、各回転軸心を基準とした「径方向R」とする。なお、どの回転軸心を基準とするかを区別する必要がない場合やどの回転軸心を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0016】
本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lに沿って延在する第1軸部材10である。第1軸部材10は、第1軸X1に配置されている。つまり、第1軸部材10は、回転電機MGのロータRTと同軸に配置されている。第1軸部材10は、ロータRTと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1軸部材10は、ロータRTに対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0017】
変速機TMは、第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成されている。そして、変速機TMは、入力部材Iの側から伝達される回転を、複数の変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oの側へ伝達する。本実施形態では、変速機TMは、第1変速段及び第2変速段の2つの変速段を形成可能に構成されている。
【0018】
変速機TMは、噛み合い式の第1係合装置1と、摩擦式の第2係合装置2と、第1係合装置1を駆動する第1駆動装置3と、第2係合装置2を駆動する第2駆動装置4と、を備えている。本実施形態では、変速機TMは、噛み合い式の第3係合装置5と、第1ギヤG1と、第2ギヤG2と、第3ギヤG3と、第4ギヤG4と、変速出力ギヤGtと、を更に備えている。
【0019】
変速機TMでは、第1係合装置1が係合状態、かつ、第2係合装置2が解放状態で、第1変速段が形成される。また、第1係合装置1が解放状態、かつ、第2係合装置2が係合状態で、第2変速段が形成される。本実施形態では、第1係合装置1が係合状態、かつ、第2係合装置2及び第3係合装置5の双方が解放状態で、第1変速段が形成される。また、第1係合装置1が解放状態、かつ、第2係合装置2が直結係合状態及び第3係合装置5が係合状態の少なくとも一方で、第2変速段が形成される。なお、摩擦式の第2係合装置2の「直結係合状態」とは、第2係合装置2の入力要素と出力要素との間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、第2係合装置2の「係合状態」には、直結係合状態の他に、滑り係合状態が含まれる。ここで、「滑り係合状態」とは、第2係合装置2の入力要素と出力要素との間に回転速度差(滑り)がある係合状態である。
【0020】
第1ギヤG1及び第2ギヤG2は、第1軸X1に配置されている。つまり、第1ギヤG1及び第2ギヤG2は、第1軸X1を回転軸心として回転するように配置されている。本実施形態では、第1ギヤG1及び第2ギヤG2は、第1軸部材10と一体的に回転するように連結されている。また、本実施形態では、第1ギヤG1が、第2ギヤG2よりも軸方向第1側L1に配置されている。
【0021】
第3ギヤG3、第4ギヤG4、及び変速出力ギヤGtは、第1軸X1とは異なる第2軸X2に配置されている。つまり、第3ギヤG3、第4ギヤG4、及び変速出力ギヤGtは、第2軸X2を回転軸心として回転するように配置されている。なお、本実施形態では、第2軸X2は、第1軸X1と平行に配置されている。つまり、本実施形態では、第2軸X2は、軸方向Lに沿って配置されている。
【0022】
本実施形態では、第3ギヤG3及び第4ギヤG4は、第2軸X2に配置された第2軸部材20に対して相対回転可能に支持されている。また、変速出力ギヤGtは、第2軸部材20と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第3ギヤG3が、第4ギヤG4よりも軸方向第1側L1に配置されている。そして、変速出力ギヤGtが、第3ギヤG3よりも軸方向第1側L1に配置されている。つまり、本実施形態では、軸方向第2側L2から軸方向第1側L1に向けて、第4ギヤG4、第3ギヤG3、変速出力ギヤGtの順で配置されている。
【0023】
第1ギヤG1と第3ギヤG3とは、互いに噛み合うように配置されている。そして、第2ギヤG2と第4ギヤG4とは、互いに噛み合うように配置されている。本実施形態では、第1ギヤG1は、第2ギヤG2よりも小径に形成されている。また、第3ギヤG3は、第4ギヤG4よりも大径に形成されている。ここで、上述したように、第1ギヤG1と第2ギヤG2とが同軸に配置されていると共に、第3ギヤG3と第4ギヤG4とが同軸に配置されている。そのため、本実施形態では、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比は、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比よりも大きい。
【0024】
本実施形態では、第1係合装置1が係合状態となると、第3ギヤG3が第2軸部材20と一体的に回転するように連結される。一方、第1係合装置1が解放状態となると、第3ギヤG3が第2軸部材20に対して相対的に回転するように、それらの連結が解除される。また、本実施形態では、第2係合装置2の係合の状態に関わらず、第3係合装置5が係合状態となると、第4ギヤG4が第2軸部材20と一体的に回転するように連結される。そして、第2係合装置2及び第3係合装置5の双方が解放状態となると、第4ギヤG4が第2軸部材20に対して相対的に回転するように、それらの連結が解除される。また、第3係合装置5が解放状態で、第2係合装置2が係合状態となると、第2係合装置2の係合力が増加するに従って、第4ギヤG4と第2軸部材20との回転速度差が小さくなる。第4ギヤG4と第2軸部材20との間に回転速度差がある状態は、第2係合装置2は滑り係合状態である。そして、第2係合装置2の係合力が一定以上となると、第2係合装置2は直結係合状態となり、第4ギヤG4が第2軸部材20と一体的に回転する。
【0025】
上述したように、本実施形態では、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比は、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比よりも大きい。そのため、第4ギヤG4が第2軸部材20に連結されていない状態で、第1係合装置1が第3ギヤG3を第2軸部材20に連結させた場合には、比較的変速比が大きい低速段としての第1変速段が形成される。一方、第3ギヤG3が第2軸部材20に連結されていない状態で、第2係合装置2及び第3係合装置5の少なくとも一方が第4ギヤG4を第2軸部材20に連結させた場合には、比較的変速比が小さい高速段としての第2変速段が形成される。
【0026】
差動歯車機構DFは、当該差動歯車機構DFの入力要素である差動入力ギヤ30を備えている。差動歯車機構DFは、差動入力ギヤ30の回転を、それぞれが車輪(図示を省略)に駆動連結された一対のドライブシャフトDSに分配する。
【0027】
差動入力ギヤ30は、変速機TMの変速出力ギヤGtに噛み合っている。本実施形態では、差動入力ギヤ30が、車輪に駆動連結される出力部材Oとして機能する。差動入力ギヤ30は、第1軸X1及び第2軸X2とは異なる第3軸X3に配置されている。つまり、差動入力ギヤ30は、第3軸X3を回転軸心として回転するように配置されている。なお、本実施形態では、第3軸X3は、第1軸X1及び第2軸X2と平行に配置されている。つまり、本実施形態では、第3軸X3は、軸方向Lに沿って配置されている。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、第1係合装置1は、切替部材SLにより係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式の係合装置(ドグクラッチ)である。なお、
図2は、変速機TMの構成を示す図である。
図2では、説明の便宜上、一部の要素(変速出力ギヤGt等)の図示を省略している(
図5から
図10についても同様)。
【0029】
切替部材SLは、第1駆動装置3により第1方向D1に移動するように構成されている。本実施形態では、切替部材SLは、第2軸部材20の径方向Rの外側を覆う筒状に形成されている。そして、切替部材SLは、第1駆動装置3により、第2軸部材20に対して軸方向Lに相対的に移動される。つまり、本実施形態では、第1方向D1は、軸方向Lに一致する。
【0030】
本実施形態では、切替部材SLの内周面には、第3ギヤG3と一体的に回転するように連結された複数の第1係合歯T1に係合する複数の第1溝部(図示を省略)が形成されている。複数の第1係合歯T1は、第3ギヤG3から軸方向第2側L2に突出するように形成されている。そして、複数の第1係合歯T1は、複数の第1溝部に対して、軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合するように形成されている。そのため、切替部材SLが第2軸部材20に対して第1方向D1(ここでは、軸方向L)に相対移動して、切替部材SLにおける複数の第1溝部に複数の第1係合歯T1が係合することで第1係合装置1が係合状態となり、複数の第1溝部から複数の第1係合歯T1が離間することで第1係合装置1が解放状態となる。
【0031】
また、本実施形態では、第3係合装置5も、切替部材SLによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式の係合装置(ドグクラッチ)である。つまり、本実施形態では、第3係合装置5は、第1係合装置1に対して第1方向D1(ここでは、軸方向L)に隣接して配置されている。そして、第3係合装置5は、第1係合装置1を駆動する第1駆動装置3により駆動される。
【0032】
本実施形態では、切替部材SLの内周面には、上記の第1溝部に加えて、第4ギヤG4と一体的に回転するように連結された複数の第2係合歯T2に係合する複数の第2溝部(図示を省略)も形成されている。複数の第2係合歯T2は、第4ギヤG4から軸方向第1側L1に突出するように形成されている。そして、複数の第2係合歯T2は、複数の第2溝部に対して、軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合するように形成されている。そのため、切替部材SLが第2軸部材20に対して第1方向D1(ここでは、軸方向L)に相対移動して、切替部材SLにおける複数の第2溝部に複数の第2係合歯T2が係合することで第3係合装置5が係合状態となり、複数の第2溝部から複数の第2係合歯T2が離間することで第3係合装置5が解放状態となる。
【0033】
こうして、本実施形態では、第1係合装置1と第3係合装置5とで、切替部材SLが共用されている。そのため、本実施形態では、第1係合装置1と第3係合装置5とが、切替部材SLを備えた噛み合い式係合装置DCを構成している。噛み合い式係合装置DCでは、切替部材SLにおける複数の第1溝部に複数の第1係合歯T1が係合して第1係合装置1が係合状態となると、切替部材SLにおける複数の第2溝部から複数の第2係合歯T2が離間して第3係合装置5が解放状態となる。一方、切替部材SLにおける複数の第2溝部に複数の第2係合歯T2が係合して第3係合装置5が係合状態となると、切替部材SLにおける複数の第1溝部から複数の第1係合歯T1が離間して第1係合装置1が解放状態となる。また、噛み合い式係合装置DCは、第1係合装置1及び第3係合装置5の双方が解放状態となるニュートラル状態に切り替え可能に構成されている。噛み合い式係合装置DCがニュートラル状態の場合、第2係合装置2が係合状態とならない限り、変速機TMにいずれの変速段も形成されず、回転電機MGと差動歯車機構DFとの間で回転の伝達が行われない状態、つまり、回転電機MGと車輪との間での駆動力の伝達が行われない状態となる。
【0034】
このように、本実施形態では、変速機TMは、噛み合い式の第3係合装置5を更に備え、
第3係合装置5は、第1係合装置1に対して第1方向D1に隣接して配置されていると共に、第1駆動装置3により駆動され、
第1係合装置1が係合状態、かつ、第2係合装置2及び第3係合装置5の双方が解放状態で、第1変速段が形成され、第1係合装置1が解放状態、かつ、第2係合装置2及び第3係合装置5の少なくとも一方が係合状態で、第2変速段が形成される。
【0035】
この構成によれば、第3係合装置5を係合状態とすることで、第2変速段が形成された状態を維持しつつ、第2係合装置2を解放状態とすることができる。これにより、摩擦式の第2係合装置2が、係合状態を維持するために駆動力を作用させ続ける必要がある場合には、当該駆動力を不要とすることができる。したがって、車両用駆動伝達装置100のエネルギ効率を高めることができる。
また、本構成によれば、第1係合装置1及び第3係合装置5が、互いに第1方向D1に隣接して配置されていると共に、共通の第1駆動装置3により駆動される。これにより、第1係合装置1と第3係合装置5との一部を共用する構成とすることが容易となる。したがって、第1係合装置1と第3係合装置5とが互いに独立して設けられた構成と比べて、第1係合装置1及び第3係合装置5を全体として小型化することが容易となる。
【0036】
本実施形態では、第2係合装置2は、摩擦部材21と、当該摩擦部材21を押圧するピストン22と、を備えている。
【0037】
摩擦部材21は、内側摩擦材211及び外側摩擦材212を含んでいる。内側摩擦材211及び外側摩擦材212は、いずれも円環板状に形成されており、互いに同軸に配置されている。また、内側摩擦材211及び外側摩擦材212は複数枚ずつ設けられており、これらは軸方向Lに沿って交互に配置されている。内側摩擦材211及び外側摩擦材212は、いずれか一方をフリクションプレートとし、他方をセパレートプレートとすることができる。
【0038】
内側摩擦材211は、内側支持部材23によって径方向Rの内側から支持されている。内側支持部材23は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。内側支持部材23は、第4ギヤG4と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、内側支持部材23は、第2軸部材20の径方向Rの外側を覆うように、第4ギヤG4から軸方向第2側L2に延在し、そこから径方向Rの外側に延在し、更に軸方向第2側L2に延在するように形成されている。
【0039】
本例では、内側摩擦材211の内周部には、軸方向Lに延在する複数のスプライン溝が周方向に分散して形成されている。一方、内側支持部材23の外周部にも、同様のスプライン溝が周方向に分散して形成されている。そして、それらのスプライン溝同士を係合させることで、内側摩擦材211が内側支持部材23により径方向Rの内側から支持される。こうして、内側摩擦材211は、内側支持部材23に対して相対回転が規制された状態で、軸方向Lに摺動可能に支持されている。
【0040】
外側摩擦材212は、外側支持部24によって径方向Rの外側から支持されている。外側支持部24は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。外側支持部24は、第2軸部材20と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、外側支持部24は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成された筒状部材25を介して、第2軸部材20と一体的に回転するように連結されている。筒状部材25は、第2軸部材20の外周面を覆うように形成され、第2軸部材20と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、外側支持部24は、筒状部材25から径方向Rの外側に延在し、そこから軸方向第1側L1に延在するように形成されている。
【0041】
本実施形態では、ピストン22は、バネ等の付勢部材22aによって軸方向第2側L2に向けて付勢されている。ピストン22は、付勢部材22aの付勢力に抗するように軸方向第2側L2から押圧されると、軸方向第1側L1に摺動して摩擦部材21を押圧する。
【0042】
第1駆動装置3は、回転自在に支持された第1シフトドラム31と、当該第1シフトドラム31の回転運動を直線運動に変換する第1カム機構32と、当該第1カム機構32により直線運動を行う第1伝達機構33と、を備えている。また、第2駆動装置4は、回転自在に支持された第2シフトドラム41と、当該第2シフトドラム41の回転運動を直線運動に変換する第2カム機構42と、当該第2カム機構42により直線運動を行う第2伝達機構43と、を備えている。
【0043】
本実施形態では、第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41は、第1軸X1~第3軸X3とは異なる第4軸X4に配置されている。つまり、第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41は、同軸に配置され、第4軸X4を回転軸心として回転する。第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41のそれぞれは、第4軸X4を軸心とする円筒状に形成されている。なお、本実施形態では、第4軸X4は、第1軸X1~第3軸X3と平行に配置されている。つまり、本実施形態では、第4軸X4は、軸方向Lに沿って配置されている。
【0044】
図1に示すように、車両用駆動伝達装置100は、駆動軸40aを駆動するドラム駆動源40を備えている。駆動軸40aは、第1シフトドラム31と第2シフトドラム41とを一体的に回転するように連結する軸部材である。駆動軸40aは、第4軸X4に配置されていると共に、第4軸X4に沿って延在するように形成されている。このように、第1シフトドラム31と第2シフトドラム41とは、駆動軸40aを介して一体的に回転するように連結されている。なお、ドラム駆動源40としては、種々のモータを採用可能であり、例えば、複数相の交流電力で駆動される交流回転電機を採用することができる。
【0045】
図2に示すように、本実施形態では、第1カム機構32は、第1カム経路34と、第1カムフォロア35と、を備えている。
【0046】
第1カム経路34は、第1シフトドラム31の回転方向に沿って設けられている。本実施形態では、第1カム経路34は、第1シフトドラム31の外周面において周方向に沿って連続的に形成された溝部により構成されている。第1カム経路34は、第1シフトドラム31の回転に応じて位相が変化するように形成されている。ここで、第1カム経路34の「位相」とは、第1シフトドラム31の回転軸心に沿う方向(ここでは、軸方向L)における第1カム経路34の位置である。なお、第1カム経路34の詳細な構成については後述する。
【0047】
第1カムフォロア35は、第1カム経路34の位相の変化に応じて直線運動を行う。第1カムフォロア35は、第1カム経路34に案内される第1被案内部351と、当該第1被案内部351と一体的に移動するように連結された一対の第1摺動部352と、を備えている。
【0048】
本実施形態では、第1被案内部351は、特定の径方向R(
図2における上下方向)に沿って延在するように形成されている。そして、第1被案内部351の延在方向における一方の端部(
図2における上端部)が、第1カム経路34を構成する溝部内に配置されている。
【0049】
また、本実施形態では、一対の第1摺動部352のそれぞれは、表面が軸方向Lを向く板状に形成されている。そして、一対の第1摺動部352は、互いに軸方向Lに一定の間隔を維持するように、第1被案内部351に連結されている。
【0050】
本実施形態では、第1伝達機構33は、第1カム経路34の位相に応じて直線運動を行うことで、第1係合装置1及び第3係合装置5を駆動する。本実施形態では、第1伝達機構33は、第1伝達軸36と、シフトフォーク37と、第1弾性部材38と、第1支持部材39と、を備えている。
【0051】
第1伝達軸36は、第1方向D1(ここでは、軸方向L)に沿って延在する軸部材である。本実施形態では、第1伝達軸36は、一対の第1摺動部352を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、第1伝達軸36は、一対の第1摺動部352に対して、軸方向Lに相対移動可能に支持されている。
【0052】
シフトフォーク37は、噛み合い式係合装置DCの係合の状態を切り替える部材である。本実施形態では、シフトフォーク37は、第1伝達軸36と一体的に移動するように連結されている。そして、シフトフォーク37は、噛み合い式係合装置DCの切替部材SLに対する第1方向D1(ここでは、軸方向L)への相対移動が規制された状態で、切替部材SLを保持している。こうして、シフトフォーク37は、第1伝達軸36と一体的に第1方向D1(ここでは、軸方向L)へ移動し、それに伴って切替部材SLを第1方向D1(ここでは、軸方向L)へ移動させる。ところで、シフトフォーク37の移動方向、及び切替部材SLの移動方向は、共に第1方向D1(ここでは、軸方向L)である。そのため、第1方向D1は、第1伝達機構33の直線運動に沿う方向といえる。
【0053】
第1弾性部材38は、第1方向D1(ここでは、軸方向L)に弾性を有する部材である。本実施形態では、第1弾性部材38は、第1伝達軸36の径方向Rの外側を覆うように配置されている。本例では、第1弾性部材38は、圧縮コイルばねであり、第1伝達軸36が挿通されている。
【0054】
第1支持部材39は、第1カムフォロア35が備える支持部353と共に第1弾性部材38を支持する部材である。本実施形態では、第1支持部材39は、軸方向第2側L2から第1弾性部材38に当接するように配置されている。一方、支持部353は、軸方向第1側L1から第1弾性部材38に当接するように配置されている。本実施形態では、第1支持部材39及び支持部353は、第1カムフォロア35における一対の第1摺動部352の間に配置されている。そして、第1支持部材39が軸方向第2側L2の第1摺動部352に当接すると共に、支持部353が軸方向第1側L1の第1摺動部352に当接するように配置されている。
【0055】
本実施形態では、第1支持部材39は、第1伝達軸36の外周面を覆う筒状に形成されている。そして、第1支持部材39は、第1方向D1(ここでは、軸方向L)に、第1伝達軸36に対して相対的に摺動可能に支持されている。また、第1支持部材39は、第1伝達軸36に設けられた第1規制部36aにより、第1伝達軸36に対する軸方向第2側L2への相対移動が規制されている。本例では、第1規制部36aは、第1伝達軸36の外周面に形成された溝部に嵌合するスナップリングである。
【0056】
本実施形態では、支持部353は、第1伝達軸36の外周面を覆う筒状に形成されている。そして、支持部353は、第1方向D1(ここでは、軸方向L)に、第1伝達軸36に対して相対的に摺動可能に支持されている。また、支持部353は、第1伝達軸36に設けられた第2規制部36bにより、第1伝達軸36に対する軸方向第1側L1への相対移動が規制されている。本例では、第2規制部36bは、第1伝達軸36の外周面に形成された溝部に嵌合するスナップリングである。
【0057】
このように、本実施形態では、第1カム機構32の第1カムフォロア35が、第1弾性部材38を介して第1伝達軸36と連結されている。そして、第1伝達軸36が、第1係合装置1及び第3係合装置5が構成する噛み合い式係合装置DCの切替部材SLを移動させるシフトフォーク37と一体的に移動するように連結されている。つまり、本実施形態では、第1伝達機構33は、第1カム機構32からの駆動力を、第1弾性部材38を介して第1係合装置1に伝達する。
【0058】
本実施形態では、第2伝達機構43は、第2カム経路44の位相に応じて直線運動を行うことで、第2係合装置2を駆動する。本実施形態では、第2カム機構42は、第2カム経路44と、第2カムフォロア45と、を備えている。
【0059】
第2カム経路44は、第2シフトドラム41の回転方向に沿って設けられている。本実施形態では、第2カム経路44は、第2シフトドラム41の外周面において周方向に沿って連続的に形成された溝部により構成されている。第2カム経路44は、第2シフトドラム41の回転に応じて位相が変化するように形成されている。ここで、第2カム経路44の「位相」とは、第2シフトドラム41の回転軸心に沿う方向(ここでは、軸方向L)における第2カム経路44の位置である。なお、第2カム経路44の詳細な構成については後述する。
【0060】
第2カムフォロア45は、第2カム経路44の位相の変化に応じて直線運動を行う。第2カムフォロア45は、第2カム経路44に案内される第2被案内部451と、当該第2被案内部451と一体的に移動するように連結された第2摺動部452と、を備えている。
【0061】
本実施形態では、第2被案内部451は、特定の径方向R(
図2における上下方向)に沿って延在するように形成されている。そして、第2被案内部451の延在方向における一方の端部(
図2における上端部)が、第2カム経路44を構成する溝部内に配置されている。
【0062】
本実施形態では、第2伝達機構43は、第2伝達軸46と、ピストン駆動部材47と、第2弾性部材48と、第2支持部材49と、軸受50と、を備えている。
【0063】
第2伝達軸46は、第2伝達機構43の直線運動に沿う方向である第2方向D2に沿って延在する軸部材である。本実施形態では、第2方向D2は、軸方向Lに一致する。
【0064】
本実施形態では、第2伝達軸46は、第2摺動部452を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、第2伝達軸46は、第2摺動部452に対して、軸方向Lに相対移動可能に支持されている。
【0065】
第2弾性部材48は、第2方向D2(ここでは、軸方向L)に弾性を有する部材である。本実施形態では、第2弾性部材48は、第2伝達軸46の径方向Rの外側を覆うように配置されている。本例では、第2弾性部材48は、圧縮コイルばねであり、第2伝達軸46が挿通されている。
【0066】
第2支持部材49は、第2カムフォロア45の第2摺動部452と共に第2弾性部材48を支持する部材である。本実施形態では、第2支持部材49は、軸方向第2側L2から第2弾性部材48に当接するように配置されている。一方、第2摺動部452は、軸方向第1側L1から第2弾性部材48に当接するように配置されている。
【0067】
本実施形態では、第2支持部材49は、第2伝達軸46の外周面を覆う筒状に形成されている。そして、第2支持部材49は、第2方向D2(ここでは、軸方向L)に、第2伝達軸46に対して相対的に摺動可能に支持されている。また、第2支持部材49は、第2伝達軸46に設けられた規制部46aにより、第2伝達軸46に対する軸方向第2側L2への相対移動が規制されている。本例では、規制部46aは、第2伝達軸46の外周面に形成された溝部に嵌合するスナップリングである。
【0068】
軸受50は、第2方向D2(ここでは、軸方向L)における第2係合装置2のピストン22とピストン駆動部材47との間に配置されたスラスト軸受である。本実施形態では、軸受50は、ピストン22を軸方向第2側L2から押圧する押圧部材60とピストン駆動部材47とによって軸方向Lの両側から支持されている。押圧部材60は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。本実施形態では、軸受50及び押圧部材60は、筒状部材25の外周面上を軸方向Lに摺動するように、筒状部材25に挿通されている。なお、本例では、軸受50は、スラストころ軸受である。
【0069】
ピストン駆動部材47は、ピストン22を駆動する部材である。ピストン駆動部材47は、特定の径方向R(
図2における上下方向)に沿って延在するように形成されている。そして、ピストン駆動部材47の延在方向における一方の端部(
図2における上端部)には、第2伝達軸46により回動自在に保持される被保持部471が設けられている。一方、ピストン駆動部材47の延在方向における被保持部471とは反対側の部分には、軸受50に当接する当接部472が設けられている。本実施形態では、当接部472は、軸方向第2側L2から軸受50に当接している。
【0070】
また、本実施形態では、ピストン駆動部材47は、非回転部材(例えば、変速機TM等を収容するケース)に固定された揺動支持部Pに当接する部分を支点として揺動自在に支持されている。本実施形態では、ピストン駆動部材47の延在方向における中間部分よりも当接部472に近い部分に対して、軸方向第2側L2から揺動支持部Pが当接されている。これにより、てこの原理を利用して、第2伝達軸46から被保持部471に作用する力よりも大きい力を当接部472から軸受50及び押圧部材60に作用させることができる。
【0071】
本実施形態では、ピストン駆動部材47が径方向Rに沿った姿勢で、第2伝達軸46が軸方向第2側L2に移動すると、第2伝達軸46に保持された被保持部471が軸方向第2側L2に移動するのに対し、当接部472が軸方向第1側L1に移動する。こうして、ピストン駆動部材47が径方向Rに対して傾斜し、当接部472が軸受50を軸方向第2側L2から押圧する。これに伴い、軸受50と共に押圧部材60も、筒状部材25上を軸方向第1側L1に摺動し、付勢部材22aの付勢力に抗してピストン22を軸方向第1側L1に押圧する。その結果、ピストン22によって摩擦部材21が押圧され、第2係合装置2が係合状態となる。このとき、上述したように、軸受50は、スラスト軸受であるため、軸受50を軸方向Lの両側から支持する押圧部材60とピストン駆動部材47とが相対的に回転するように、それらを軸方向Lに支持する。つまり、軸受50は、ピストン22とピストン駆動部材47とが相対的に回転するように、ピストン22とピストン駆動部材47とを相対的に第2方向D2(ここでは、軸方向L)に支持する。
【0072】
このように、本実施形態では、第2係合装置2は、摩擦部材21と、当該摩擦部材21を押圧するピストン22と、を備え、
第2伝達機構43の直線運動に沿う方向を第2方向D2として、
第2伝達機構43は、ピストン22を駆動するピストン駆動部材47と、第2方向D2におけるピストン22とピストン駆動部材47との間に配置された軸受50と、を備え、
軸受50は、第2係合装置2が係合状態の場合に、ピストン22とピストン駆動部材47とが相対的に回転するように、ピストン22とピストン駆動部材47とを相対的に第2方向D2に支持する。
【0073】
この構成によれば、ピストン22とピストン駆動部材47とが相対的に回転可能な状態で、ピストン駆動部材47によりピストン22を駆動することができる。したがって、第2係合装置2の係合の状態を、簡易な構成で適切に変更することができる。
【0074】
一方、当接部472が軸受50を押圧した状態から、第2伝達軸46が軸方向第1側L1に移動すると、第2伝達軸46に保持された被保持部471が軸方向第1側L1に移動する。これに対し、当接部472は、付勢部材22aにより軸方向第2側L2に付勢されたピストン22により、押圧部材60及び軸受50を介して押圧され、軸方向第2側L2に移動する。その結果、ピストン駆動部材47が径方向Rに沿った姿勢となり、第2係合装置2が解放状態となる。
【0075】
このように、本実施形態では、第2カム機構42の第2カムフォロア45が、第2弾性部材48を介して第2伝達軸46と連結されている。そして、第2伝達軸46が、第2係合装置2のピストン22を駆動するピストン駆動部材47を、揺動支持部Pに当接する部分を支点として揺動するように連結されている。つまり、本実施形態では、第2伝達機構43は、第2カム機構42からの駆動力を、第2弾性部材48を介して第2係合装置2に伝達する。
【0076】
上述したように、本実施形態では、第1伝達機構33は、当該第1伝達機構33の直線運動の方向である第1方向D1に弾性を有する第1弾性部材38を備え、第1カム機構32からの駆動力を、第1弾性部材38を介して第1係合装置1に伝達し、
第2伝達機構43は、当該第2伝達機構43の直線運動の方向である第2方向D2に弾性を有する第2弾性部材48を備え、第2カム機構42からの駆動力を、第2弾性部材48を介して第2係合装置2に伝達する。
【0077】
この構成によれば、第1カム機構32の動作によって生じる振動が、第1係合装置1に到達するまでに、第1弾性部材38において減衰される。これにより、第1駆動装置3から第1係合装置1に伝達される振動を小さく抑えることができる。また、第2カム機構42の動作によって生じる振動が、第2係合装置2に到達するまでに、第2弾性部材48において減衰される。これにより、第2駆動装置4から第2係合装置2に伝達される振動を小さく抑えることができる。
また、噛み合い式の第1係合装置1については、車両の走行状態等によっては、噛合い部の位相が合っていないために直ぐに係合状態とならない場合も生じ得る。しかし、本構成によれば、第1係合装置1が直ぐに係合状態とならない場合であっても、第1カム機構32からの駆動力を第1弾性部材38の弾性力として第1係合装置1に作用させた状態のまま、車両の走行状態等が変化して第1係合装置1が係合するまで待機させることができる。したがって、噛み合い式の第1係合装置1を適切に係合させ易くなっている。
【0078】
図3に示すように、本実施形態では、当接部472は、軸方向Lに沿う軸方向視で、筒状部材25の外周面を挟むように形成された二又のフォーク状に形成されている。そして、当接部472における各フォークの基部に、揺動支持部Pが当接されている。つまり、本実施形態では、一対の揺動支持部Pが設けられている。
【0079】
以下では、本実施形態に係る第1カム経路34及び第2カム経路44の構成について、
図4を参照して説明する。
図4は、第1カム経路34を第1シフトドラム31の回転方向に沿って平面上に展開させると共に、第2カム経路44を第2シフトドラム41の回転方向に沿って平面上に展開させた図である。
図4では、第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係を、第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とを一致させたものとして表している。本実施形態では、第1カム機構32の「作用位置」は、第1カム経路34を構成する溝部内に配置された、第1カムフォロア35の第1被案内部351の位置である。また、第2カム機構42の「作用位置」は、第2カム経路44を構成する溝部内に配置された、第1カムフォロア35の第1被案内部351の位置である。
【0080】
図4に示すように、本実施形態では、第1カム経路34は、第1シフトドラム31の全周に亘って配置されている。また、第2カム経路44は、第2シフトドラム41の全周に亘って配置されている。本実施形態では、第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41は、第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置のそれぞれが、位置θ0~θ9を記載の順に経由するように、1方向に回転駆動される。
【0081】
第1カム経路34は、中立位相P0を保持する第1保持部34aと、中立位相P0から第1位相P1に遷移する第1遷移部34bと、第1位相P1を保持する第2保持部34cと、第1位相P1から中立位相P0に遷移する第2遷移部34dと、中立位相P0を保持する第3保持部34eと、中立位相P0から第2位相P2に遷移する第3遷移部34fと、第2位相P2を保持する第4保持部34gと、第2位相P2から中立位相P0に遷移する第4遷移部34hと、を備えている。第1保持部34a、第1遷移部34b、第2保持部34c、第2遷移部34d、第3保持部34e、第3遷移部34f、第4保持部34g、及び第4遷移部34hは、記載の順に並ぶように、第1シフトドラム31の回転方向に沿って連続的に配置されている。
【0082】
中立位相P0、第1位相P1、及び第2位相P2は、第1係合装置1及び第3係合装置5の係合の状態を切り替えるための位相である。中立位相P0では、第1伝達機構33が、第1係合装置1及び第3係合装置5の双方を解放状態とする。第1位相P1では、第1伝達機構33が、第1係合装置1を係合状態とすると共に、第3係合装置5を解放状態とする。第2位相P2では、第1伝達機構33が、第1係合装置1を解放状態とすると共に、第3係合装置5を係合状態とする。
【0083】
本実施形態では、第1保持部34aは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ0から位置θ1まで形成されている。第1遷移部34bは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ1から位置θ2まで形成されている。第2保持部34cは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ2から位置θ3まで形成されている。第2遷移部34dは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ3から位置θ4まで形成されている。第3保持部34eは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ4から位置θ5まで形成されている。第3遷移部34fは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ5から位置θ6まで形成されている。第4保持部34gは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ6から位置θ9まで形成されている。第4遷移部34hは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ9から位置θ0まで形成されている。
【0084】
第2カム経路44は、解放位相Poffを保持する第5保持部44aと、解放位相Poffから係合位相Ponに遷移する第5遷移部44bと、係合位相Ponを保持する第6保持部44cと、係合位相Ponから解放位相Poffに遷移する第6遷移部44dと、を備えている。第5保持部44a、第5遷移部44b、第6保持部44c、及び第6遷移部44dは、記載の順に並ぶように、第2シフトドラム41の回転方向に沿って連続的に配置されている。
【0085】
係合位相Pon及び解放位相Poffは、第2係合装置2の係合の状態を切り替えるための位相である。係合位相Ponでは、第2伝達機構43が、第2係合装置2を係合状態とする。解放位相Poffでは、第2伝達機構43が、第2係合装置2を解放状態とする。
【0086】
本実施形態では、第5保持部44aは、第2シフトドラム41の回転方向における、位置θ0から位置θ4まで、及び位置θ8から位置θ0まで形成されている。第5遷移部44bは、第2シフトドラム41の回転方向における位置θ4から位置θ5まで形成されている。第6保持部44cは、第2シフトドラム41の回転方向における位置θ5から位置θ7まで形成されている。第6遷移部44dは、第2シフトドラム41の回転方向における位置θ7から位置θ8まで形成されている。
【0087】
上述したように、本実施形態では、第1カム経路34の第3保持部34eと、第2カム経路44の第5遷移部44bとが、位置θ4から位置θ5まで配置されている。つまり、本実施形態では、第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係において、第3保持部34eと第5遷移部44bとが重複して配置されている。ここで、「第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とが一致」とは、第1カムフォロア35の第1被案内部351の位置と、第2カムフォロア45の第2被案内部451の位置とが、第4軸X4を基準とした周方向の位置で一致することには限らない。第1カムフォロア35の第1被案内部351の位置と、第2カムフォロア45の第2被案内部451の位置との周方向の位置が異なっている場合であっても、これらの周方向の位置を一致させた状態を仮定して第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係を観察した場合に、本実施形態において説明するような関係が成立していれば良い。
【0088】
また、本実施形態では、第1カム経路34における第3遷移部34fの全て及び第4保持部34gの開始点を含む一部と、第2カム経路44の第6保持部44cとが、位置θ5から位置θ7まで配置されている。つまり、本実施形態では、第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係において、第3遷移部34fの全て及び第4保持部34gの開始点を含む一部と第6保持部44cとが重複して配置されている。
【0089】
このように、本実施形態では、第1カム機構32は、第1シフトドラム31の回転方向に沿って設けられて、第1シフトドラム31の回転に応じて位相が変化する第1カム経路34を備え、
第2カム機構42は、第2シフトドラム41の回転方向に沿って設けられて、第2シフトドラム41の回転に応じて位相が変化する第2カム経路44を備え、
第1伝達機構33は、第1カム経路34の位相に応じて直線運動を行うことで、第1係合装置1及び第3係合装置5を駆動し、
第2伝達機構43は、第2カム経路44の位相に応じて直線運動を行うことで、第2係合装置2を駆動し、
第1カム経路34は、中立位相P0を保持する第1保持部34aと、中立位相P0から第1位相P1に遷移する第1遷移部34bと、第1位相P1を保持する第2保持部34cと、第1位相P1から中立位相P0に遷移する第2遷移部34dと、中立位相P0を保持する第3保持部34eと、中立位相P0から第2位相P2に遷移する第3遷移部34fと、第2位相P2を保持する第4保持部34gと、第2位相P2から中立位相P0に遷移する第4遷移部34hとを、第1シフトドラム31の回転方向に沿って記載の順に備え、
中立位相P0では、第1伝達機構33が、第1係合装置1及び第3係合装置5の双方を解放状態とし、
第1位相P1では、第1伝達機構33が、第1係合装置1を係合状態とすると共に、第3係合装置5を解放状態とし、
第2位相P2では、第1伝達機構33が、第1係合装置1を解放状態とすると共に、第3係合装置5を係合状態とし、
第2カム経路44は、解放位相Poffを保持する第5保持部44aと、解放位相Poffから係合位相Ponに遷移する第5遷移部44bと、係合位相Ponを保持する第6保持部44cと、係合位相Ponから解放位相Poffに遷移する第6遷移部44dとを、第2シフトドラム41の回転方向に沿って記載の順に備え、
係合位相Ponでは、第2伝達機構43が、第2係合装置2を係合状態とし、
解放位相Poffでは、第2伝達機構43が、第2係合装置2を解放状態とし、
第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係において、第3保持部34eと第5遷移部44bとが重複して配置され、第3遷移部34fの全て及び第4保持部34gの開始点を含む一部と第6保持部44cとが重複して配置されている。
【0090】
この構成によれば、第1カム経路34が、第1保持部34a、第1遷移部34b、第2保持部34c、第2遷移部34d、第3保持部34e、第3遷移部34f、第4保持部34g、及び第4遷移部34hを、第1シフトドラム31の回転方向に沿って記載の順に備えている。そして、第2カム経路44が、第5保持部44a、第5遷移部44b、第6保持部44c、及び第6遷移部44dを、第2シフトドラム41の回転方向に沿って記載の順に備えている。これにより、駆動軸40aを1方向に回転させるだけで、変速機TMの変速段を第1変速段と第2変速段との間で適切に切り替えることができる。
【0091】
ここで、噛み合い式の第1係合装置1では、当該第1係合装置1が入力部材Iと出力部材Oとの間で走行駆動力を伝達している状態では、第1駆動装置3により第1係合装置1を解放状態にしようとしても、第1係合装置1の噛み合いを解除することができず、解放状態にならない場合がある。しかし、本構成によれば、第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係において、第1カム経路34の第3保持部34eと第2カム経路44の第5遷移部44bとが重複して配置されている。したがって、第1カム機構32により第1係合装置1を解放状態とする方向に駆動力を作用させた状態で待機させつつ、摩擦式の第2係合装置2の係合力を次第に上昇させ、入力部材Iと出力部材Oとの間の走行駆動力の伝達経路を、第1係合装置1を介した経路から第2係合装置2を介した経路へと次第に移行させることができる。そして、第2係合装置2による走行駆動力の伝達割合が一定以上となり、第1係合装置1を介して伝達される走行駆動力が低下した場合には、第1係合装置1が自動的に解放状態となる。これにより、入力部材Iと出力部材Oとの間での動力伝達が遮断されることを回避しつつ、第1変速段から第2変速段への移行を円滑に行うことができる。
【0092】
また、本構成によれば、第1シフトドラム31の回転方向における第1カム機構32の作用位置と、第2シフトドラム41の回転方向における第2カム機構42の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路34と第2カム経路44との位置関係において、第1カム経路34の第3遷移部34fの全て及び第4保持部34gの開始点を含む一部と、第2カム経路44の第6保持部44cとが重複して配置されている。そのため、第1カム経路34の位相が、第3係合装置5を係合状態とするための第2位相P2となった後も、所定の期間、第2カム経路44の位相が、第2係合装置2を係合状態とするための係合位相Ponに保持される。これにより、噛み合い式の第3係合装置5において、噛合い部の位相が合っていないために直ぐに係合状態とならない場合であっても、第2係合装置2の係合状態を維持できるため、入力部材Iと出力部材Oとの間で動力伝達が遮断されることを回避できる。また、第1カム経路34の位相が第2位相P2となった後であって、第2カム経路44の位相が係合位相Ponに保持された期間中に、第3係合装置5が適切に係合状態となっているか否かの判定を行うこともできる。この判定は、例えば、第1伝達軸36やシフトフォーク37等の第1方向D1の位置を検出するセンサを用いて行うことができる。
【0093】
以下では、本実施形態に係る変速機TMの動作の一例について、
図5から
図10を参照して説明する。なお、上記の説明で用いた
図2は、第1カム機構32の作用位置(第1カム経路34における第1被案内部351の位置)が第1カム経路34の第1保持部34aに位置すると共に、第2カム機構42の作用位置(第2カム経路44における第2被案内部451の位置)が第2カム経路44の第5保持部44aに位置した状態(第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置が、位置θ0と位置θ1との間に位置した状態)の変速機TMを示している。
【0094】
図5は、
図2に示した状態から更に第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41が回転した状態の変速機TMを示している。具体的には、
図5では、第1カム機構32の作用位置が第1カム経路34の第2保持部34cに位置すると共に、第2カム機構42の作用位置が第2カム経路44の第5保持部44aに位置した状態(第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置が、位置θ2と位置θ3との間に位置した状態)となっている。
【0095】
図5に示すように、第1シフトドラム31が回転して、第1カム経路34の位相が中立位相P0から第1位相P1に変化するの従って、第1カムフォロア35が軸方向第1側L1に移動する。これに伴い、第1弾性部材38を介して第1支持部材39により軸方向第1側L1に押圧された支持部353が、第2規制部36bを介して第1伝達軸36を軸方向第1側L1に押圧する。これにより、第1伝達軸36に連結されたシフトフォーク37が軸方向第1側L1に移動し、切替部材SLを軸方向第1側L1へ移動させる。その結果、第3係合装置5が解放状態を維持しつつ、第1係合装置1が係合状態となる。なお、このとき、第2カム経路44の位相は解放位相Poffに保持されているため、第2係合装置2は解放状態を維持している。こうして、第1係合装置1が入力部材Iと出力部材Oとの間で走行駆動力を伝達する状態となり、変速機TMに第1変速段が形成される。なお、
図5における係合装置上に示された矢印は、走行駆動力の伝達経路を示しており、
図6から
図10についても同様とする。
【0096】
図6は、
図5に示した状態から更に第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41が回転した状態の変速機TMを示している。具体的には、
図6では、第1カム機構32の作用位置が第1カム経路34の第2遷移部34dに位置すると共に、第2カム機構42の作用位置が第2カム経路44の第5保持部44aに位置した状態(第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置が、位置θ3と位置θ4との間に位置した状態)となっている。
【0097】
図6に示すように、第1シフトドラム31が回転して、第1カム経路34の位相が第1位相P1から中立位相P0に変化するの従って、第1カムフォロア35が軸方向第2側L2に移動する。これに伴い、第1弾性部材38を介して支持部353により軸方向第2側L2に押圧された第1支持部材39が、第1規制部36aを介して第1伝達軸36を軸方向第2側L2に押圧する。しかし、本例では、回転電機MGから出力部材Oへ駆動力が伝達されて車両が走行している状態を想定しており、第1係合装置1は切替部材SLと第1係合歯T1との噛み合い部を介して比較的大きい駆動力を伝達している。そのため、第1弾性部材38の付勢力では第1係合装置1の噛み合いを解除できず、第1伝達軸36が軸方向第2側L2に移動しない。そのため、第1規制部36aによって軸方向第2側L2への移動が規制された第1支持部材39も、軸方向第2側L2に移動しない。このとき、第1支持部材39に対して支持部353が軸方向第2側L2に移動するのに伴い、第1弾性部材38は軸方向Lに圧縮された状態となる。こうして、本例では、第1カム経路34の位相が第1位相P1から中立位相P0に変化するの従って、第1カムフォロア35が軸方向第2側L2に移動しても、第1係合装置1の係合状態が維持されている。
【0098】
図7は、
図6に示した状態から更に第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41が回転した状態の変速機TMを示している。具体的には、
図7では、第1カム機構32の作用位置が第1カム経路34の第3保持部34eに位置すると共に、第2カム機構42の作用位置が第2カム経路44の第5遷移部44bに位置した状態(第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置が、位置θ4と位置θ5との間に位置した状態)となっている。
【0099】
図7に示すように、第2シフトドラム41が回転して、第2カム経路44の位相が解放位相Poffから係合位相Ponに変化するの従って、第2カムフォロア45が軸方向第2側L2に移動する。これに伴い、第2弾性部材48を介して第2摺動部452により軸方向第2側L2に押圧された第2支持部材49が、規制部46aを介して第2伝達軸46を軸方向第2側L2に押圧する。これにより、第2伝達軸46に保持された被保持部471が軸方向第2側L2に移動すると共に、当接部472が軸方向第1側L1に移動するように、ピストン駆動部材47が揺動支持部Pによって支持された部分を支点として揺動する。その結果、ピストン駆動部材47の当接部472が、軸受50及び押圧部材60を介して第2係合装置2のピストン22を軸方向第1側L1へ押圧することにより、第2係合装置2が係合状態となる。ここで、
図4に示すように、第5遷移部44bは、第2シフトドラム41の回転方向に伴って解放位相Poffから係合位相Ponへ向けて次第に位相が変化するように形成されている。そのため、第2シフトドラム41の回転方向に伴ってピストン22により摩擦部材21を押圧する力が次第に上昇し、第2係合装置2は、滑り係合状態で係合力が次第に上昇していく。
【0100】
このとき、第1カム経路34の位相は中立位相P0に保持されているが、上述したように、第1係合装置1の噛み合いが解除されていない。そのため、第2カムフォロア45が軸方向第2側L2に移動するのに伴って、上記のように摩擦式の第2係合装置2の係合力が次第に上昇すると、入力部材Iと出力部材Oとの間の走行駆動力の伝達経路が、第1係合装置1を介した経路から第2係合装置2を介した経路へと次第に移行する。そして、第2係合装置2による走行駆動力の伝達割合が一定以上となり、第1係合装置1を介して伝達される走行駆動力が低下した場合には、第1弾性部材38の付勢力により、切替部材SLを保持するシフトフォーク37が軸方向第2側L2に移動し、第1係合装置1が自動的に解放状態となる。こうして、第2係合装置2が入力部材Iと出力部材Oとの間で走行駆動力を伝達する状態となり、変速機TMに第2変速段が形成される。
【0101】
図8は、
図7に示した状態から更に第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41が回転した状態の変速機TMを示している。具体的には、
図8では、第1カム機構32の作用位置が第1カム経路34の第3遷移部34fに位置すると共に、第2カム機構42の作用位置が第2カム経路44の第6保持部44cに位置した状態(第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置が、位置θ5と位置θ6との間に位置した状態)となっている。
【0102】
図8に示すように、第1シフトドラム31が回転して、第1カム経路34の位相が中立位相P0から第2位相P2に変化するの従って、第1カムフォロア35が軸方向第2側L2に移動する。これに伴い、第1弾性部材38を介して支持部353により軸方向第2側L2に押圧された第1支持部材39が、第1規制部36aを介して第1伝達軸36を軸方向第2側L2に押圧する。これにより、第1伝達軸36に連結されたシフトフォーク37が軸方向第2側L2に移動し、切替部材SLを軸方向第2側L2へ移動させる。その結果、第1係合装置1が解放状態を維持しつつ、第3係合装置5が係合状態となる。なお、このとき、第2カム経路44の位相は係合位相Ponに保持されているため、第2係合装置2は係合状態を維持している。こうして、第2係合装置2及び第3係合装置5が入力部材Iと出力部材Oとの間で走行駆動力を伝達する状態となり、変速機TMの第2変速段が維持される。
【0103】
ところで、
図9に示すように、第1カム経路34の位相が中立位相P0から第2位相P2に変化するの従って、第1カムフォロア35が軸方向第2側L2に移動した場合であっても、噛み合い式の第3係合装置5の噛み合い部(切替部材SLと第2係合歯T2との噛み合い部)が適切に噛み合わず、係合状態とならない場合がある。しかし、このような場合であっても、第2係合装置2の係合状態は維持されているため、第3係合装置5が適切に噛み合って係合状態となるまで、第2変速段を維持して適切に走行することができる。
【0104】
図10は、
図8に示した状態から更に第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41が回転した状態の変速機TMを示している。具体的には、
図10では、第1カム機構32の作用位置が第1カム経路34の第4保持部34gに位置すると共に、第2カム機構42の作用位置が第2カム経路44の第5保持部44aに位置した状態(第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置が、位置θ8と位置θ9との間に位置した状態)となっている。
【0105】
図10に示すように、第2シフトドラム41が回転して、第2カム経路44の位相が係合位相Ponから解放位相Poffに変化するの従って、第2カムフォロア45が軸方向第1側L1に移動する。これに伴い、第2弾性部材48を介して第2摺動部452により軸方向第2側L2に押圧された第2支持部材49が、規制部46aを介して第2伝達軸46を軸方向第2側L2に押圧しなくなる。これにより、ピストン駆動部材47の当接部472が、第2係合装置2のピストン22によって、軸受50及び押圧部材60を介して軸方向第2側L2へ押圧される。その結果、第2伝達軸46に保持された被保持部471が軸方向第2側L2に移動すると共に、当接部472が軸方向第1側L1に移動するように、ピストン駆動部材47が揺動支持部Pによって支持された部分を支点として揺動する。そして、ピストン22が軸方向第2側L2に移動することにより、第2係合装置2が解放状態となる。なお、このとき、第1カム経路34の位相は第2位相P2に保持されているため、第3係合装置5は係合状態を維持している。こうして、第3係合装置5が入力部材Iと出力部材Oとの間で走行駆動力を伝達する状態となり、変速機TMの第2変速段が維持される。
【0106】
図10に示した状態から更に第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41が回転すると、変速機TMは、
図2に示した状態に戻る。
【0107】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置100について、
図11及び
図12を参照して説明する。本実施形態では、係合装置の構成が、上記第1の実施形態のものとは異なっている。また、本実施形態では、カム経路の構成が、上記第1の実施形態のものとは異なっている。以下では、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0108】
図11に示すように、本実施形態では、第3係合装置5が設けられていない。そのため、本実施形態では、第1係合装置1が解放状態、かつ、第2係合装置2が係合状態で、第2変速段が形成される。このように、本実施形態では、噛み合い式の第3係合装置5を用いることなく第2変速段が形成される。そのため、第2変速段を形成中、常に摩擦式の第2係合装置2の係合力を維持しておく必要がある。このような第2係合装置2の係合力は、第2カム機構42と第2弾性部材48によって押圧部材60に与えられる。一方、本実施形態では、第2変速段の形成の際に、第3係合装置5が適切に噛み合わずに係合状態とならないことがない。また、第2変速段から第1変速段に切り替える際に、第3係合装置5を係合状態から解放状態にする工程を省くことができるため、当該変速に要する時間を短縮することができる。なお、本実施形態でも、第1係合装置1が係合状態、かつ、第2係合装置2が解放状態で、第1変速段が形成される。
【0109】
図12に示すように、本実施形態では、第1カム経路34は、第1シフトドラム31の周方向の一部の領域に配置されている。また、第2カム経路44は、第2シフトドラム41の周方向の一部の領域に配置されている。つまり、本実施形態では、第1カム経路34及び第2カム経路44のそれぞれが始端部と終端部とを有している。そして、本実施形態では、第1シフトドラム31及び第2シフトドラム41は、第1カム機構32の作用位置及び第2カム機構42の作用位置のそれぞれが、位置θ0~θ6を記載の順に経由すると共に、位置θ6~θ0を記載の順に経由するように、2方向に回転駆動される。
【0110】
本実施形態では、第1カム経路34は、第3遷移部34f、第4保持部34g、及び第4遷移部34hを備えていない点で、上記第1の実施形態のものとは異なっている。本実施形態では、第1保持部34aは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ0から位置θ1まで形成されている。第1遷移部34bは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ1から位置θ2まで形成されている。第2保持部34cは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ2から位置θ3まで形成されている。第2遷移部34dは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ3から位置θ4まで形成されている。第3保持部34eは、第1シフトドラム31の回転方向における位置θ4から位置θ6まで形成されている。
【0111】
また、本実施形態では、第2カム経路44は、第6遷移部44dを備えていない点で、上記第1の実施形態のものとは異なっている。本実施形態では、第5保持部44aは、第2シフトドラム41の回転方向における、位置θ0から位置θ4まで形成されている。第5遷移部44bは、第2シフトドラム41の回転方向における位置θ4から位置θ5まで形成されている。第6保持部44cは、第2シフトドラム41の回転方向における位置θ5から位置θ6まで形成されている。
【0112】
3.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、第1伝達機構33が第1弾性部材38を備え、第2伝達機構43が第2弾性部材48を備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1伝達機構33及び第2伝達機構43の少なくとも一方が弾性部材を備えていない構成としても良い。
【0113】
(2)上記の実施形態では、第1弾性部材38及び第2弾性部材48のそれぞれが圧縮コイルばねである構成を例として説明したが、そのような構成に限定されない。例えば、弾性部材として、圧縮コイルばね以外に、引張コイルばね、皿ばね、ゴム又は合成樹脂製のワッシャ等、各種弾性部材を採用可能である。
【0114】
(3)上記の実施形態では、ピストン駆動部材47の当接部472が、軸受50及び押圧部材60を介して第2係合装置2のピストン22を押圧する構成を例として説明したが、そのような構成に限定されない。例えば、軸受50が設けられておらず、ピストン駆動部材47の当接部472が、押圧部材60を介してピストン22を押圧する構成としても良い。或いは、ピストン駆動部材47の当接部472が、ピストン22を直接押圧する構成としても良い。
【0115】
(4)上記第1及び第2の実施形態において、
図4及び
図12を用いて説明した、第1カム経路34及び第2カム経路44の構成は、単なる一例に過ぎない。車両用駆動伝達装置100によって実現したい走行モードや、その走行モードの移行順序等に応じて、各カム経路の構成は、適宜変更可能である。
【0116】
(5)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0117】
〔上記実施形態の概要〕
以下では、上記において説明した車両用駆動伝達装置(100)の概要について説明する。
【0118】
車両用駆動伝達装置(100)は、
車輪の駆動力源(MG)に駆動連結される入力部材(I)と、
前記車輪に駆動連結される出力部材(O)と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材(I)の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材(O)の側へ伝達する変速機(TM)と、を備え、
前記変速機(TM)は、噛み合い式の第1係合装置(1)と、摩擦式の第2係合装置(2)と、前記第1係合装置(1)を駆動する第1駆動装置(3)と、前記第2係合装置(2)を駆動する第2駆動装置(4)と、を備え、
前記第1係合装置(1)が係合状態、かつ、前記第2係合装置(2)が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置(1)が解放状態、かつ、前記第2係合装置(2)が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置(3)は、回転自在に支持された第1シフトドラム(31)と、前記第1シフトドラム(31)の回転運動を直線運動に変換する第1カム機構(32)と、前記第1カム機構(32)により直線運動を行う第1伝達機構(33)と、を備え、
前記第2駆動装置(4)は、回転自在に支持された第2シフトドラム(41)と、前記第2シフトドラム(41)の回転運動を直線運動に変換する第2カム機構(42)と、前記第2カム機構(42)により直線運動を行う第2伝達機構(43)と、を備え、
前記第1シフトドラム(31)と前記第2シフトドラム(41)とが、駆動軸(40a)を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸(40a)を駆動することで前記第1シフトドラム(31)及び前記第2シフトドラム(41)を回転させるドラム駆動源(40)を備えている。
【0119】
また、車両用駆動伝達装置(100)は、
車輪の駆動力源(MG)に駆動連結される入力部材(I)と、
前記車輪に駆動連結される出力部材(O)と、
第1変速段、及び当該第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段を含む複数の変速段を形成可能に構成され、前記入力部材(I)の側から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材(O)の側へ伝達する変速機(TM)と、を備え、
前記変速機(TM)は、噛み合い式の第1係合装置(1)と、摩擦式の第2係合装置(2)と、噛み合い式の第3係合装置(5)と、前記第1係合装置(1)を駆動する第1駆動装置(3)と、前記第2係合装置(2)を駆動する第2駆動装置(4)と、を備え、
前記第1係合装置(1)が係合状態、かつ、前記第2係合装置(2)及び前記第3係合装置(5)の双方が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置(1)が解放状態、かつ、前記第2係合装置(2)及び前記第3係合装置(5)の少なくとも一方が係合状態で、前記第2変速段が形成され、
前記第1駆動装置(3)は、回転自在に支持された第1シフトドラム(31)と、前記第1シフトドラム(31)の回転運動を直線運動に変換する第1カム機構(32)と、前記第1カム機構(32)により直線運動を行う第1伝達機構(33)と、を備え、
前記第2駆動装置(4)は、回転自在に支持された第2シフトドラム(41)と、前記第2シフトドラム(41)の回転運動を直線運動に変換する第2カム機構(42)と、前記第2カム機構(42)により直線運動を行う第2伝達機構(43)と、を備え、
前記第1シフトドラム(31)と前記第2シフトドラム(41)とが、駆動軸(40a)を介して一体的に回転するように連結され、
前記駆動軸(40a)を駆動することで前記第1シフトドラム(31)及び前記第2シフトドラム(41)を回転させるドラム駆動源(40)を備えている。
【0120】
これらの構成によれば、第1係合装置(1)を駆動する第1駆動装置(3)の第1シフトドラム(31)と、第2係合装置(2)を駆動する第2駆動装置(4)の第2シフトドラム(41)とが、ドラム駆動源(40)により駆動される駆動軸(40a)を介して一体的に回転するように連結されている。これにより、変速機(TM)における変速段の形成及び切り替えを行うための、形式の異なる2つの係合装置(1,2)の駆動を、1つのドラム駆動源(40)の駆動により実現することができる。したがって、噛み合い式の第1係合装置(1)と、摩擦式の第2係合装置(2)とのそれぞれについて独立に駆動装置が設けられた構成と比べて、部品点数の削減を図ることができる。その結果、車両用駆動伝達装置(100)の大型化や高コスト化を抑制し易くなる。
また、本構成によれば、変速機(TM)の変速段を第1変速段から第2変速段に切り替える際に、摩擦式の第2係合装置(2)を係合状態とすることにより、噛み合い式の第1係合装置(1)が係合状態から解放状態となることに伴って入力部材(I)と出力部材(O)との間で動力伝達が遮断されることを回避できる。したがって、変速機(TM)の変速段を第1変速段から第2変速段に切り替える際に生じる車輪駆動力の変動を少なく抑えることができる。
【0121】
ここで、前記第1伝達機構(33)は、当該第1伝達機構(33)の直線運動の方向に弾性を有する第1弾性部材(38)を備え、前記第1カム機構(32)からの駆動力を、前記第1弾性部材(38)を介して前記第1係合装置(1)に伝達し、
前記第2伝達機構(43)は、当該第2伝達機構(43)の直線運動の方向に弾性を有する第2弾性部材(48)を備え、前記第2カム機構(42)からの駆動力を、前記第2弾性部材(48)を介して前記第2係合装置(2)に伝達すると好適である。
【0122】
この構成によれば、第1カム機構(32)の動作によって生じる振動が、第1係合装置(1)に到達するまでに、第1弾性部材(38)において減衰される。これにより、第1駆動装置(3)から第1係合装置(1)に伝達される振動を小さく抑えることができる。また、第2カム機構(42)の動作によって生じる振動が、第2係合装置(2)に到達するまでに、第2弾性部材(48)において減衰される。これにより、第2駆動装置(4)から第2係合装置(2)に伝達される振動を小さく抑えることができる。
また、噛み合い式の第1係合装置(1)については、車両の走行状態等によっては、噛合い部の位相が合っていないために直ぐに係合状態とならない場合も生じ得る。しかし、本構成によれば、第1係合装置(1)が直ぐに係合状態とならない場合であっても、第1カム機構(32)からの駆動力を第1弾性部材(38)の弾性力として第1係合装置(1)に作用させた状態のまま、車両の走行状態等が変化して第1係合装置(1)が係合するまで待機させることができる。したがって、噛み合い式の第1係合装置(1)を適切に係合させ易くなっている。
【0123】
また、前記変速機(TM)は、噛み合い式の第3係合装置(5)を更に備え、
前記第1伝達機構(33)の直線運動に沿う方向を第1方向(D1)として、
前記第3係合装置(5)は、前記第1係合装置(1)に対して前記第1方向(D1)に隣接して配置されていると共に、前記第1駆動装置(3)により駆動され、
前記第1係合装置(1)が係合状態、かつ、前記第2係合装置(2)及び前記第3係合装置(5)の双方が解放状態で、前記第1変速段が形成され、前記第1係合装置(1)が解放状態、かつ、前記第2係合装置(2)及び前記第3係合装置(5)の少なくとも一方が係合状態で、前記第2変速段が形成されると好適である。
【0124】
この構成によれば、第3係合装置(5)を係合状態とすることで、第2変速段が形成された状態を維持しつつ、第2係合装置(2)を解放状態とすることができる。これにより、摩擦式の第2係合装置(2)が、係合状態を維持するために駆動力を作用させ続ける必要がある場合には、当該駆動力を不要とすることができる。したがって、車両用駆動伝達装置(100)のエネルギ効率を高めることができる。
また、本構成によれば、第1係合装置(1)及び第3係合装置(5)が、互いに第1方向(D1)に隣接して配置されていると共に、共通の第1駆動装置(3)により駆動される。これにより、第1係合装置(1)と第3係合装置(5)との一部を共用する構成とすることが容易となる。したがって、第1係合装置(1)と第3係合装置(5)とが互いに独立して設けられた構成と比べて、第1係合装置(1)及び第3係合装置(5)を全体として小型化することが容易となる。
【0125】
前記変速機(TM)が前記第3係合装置(5)を備えた構成において、
前記第1カム機構(32)は、前記第1シフトドラム(31)の回転方向に沿って設けられて、前記第1シフトドラム(31)の回転に応じて位相が変化する第1カム経路(34)を備え、
前記第2カム機構(42)は、前記第2シフトドラム(41)の回転方向に沿って設けられて、前記第2シフトドラム(41)の回転に応じて位相が変化する第2カム経路(44)を備え、
前記第1伝達機構(33)は、前記第1カム経路(34)の位相に応じて直線運動を行うことで、前記第1係合装置(1)及び前記第3係合装置(5)を駆動し、
前記第2伝達機構(43)は、前記第2カム経路(44)の位相に応じて直線運動を行うことで、前記第2係合装置(2)を駆動し、
前記第1カム経路(34)は、中立位相(P0)を保持する第1保持部(34a)と、前記中立位相(P0)から第1位相(P1)に遷移する第1遷移部(34b)と、前記第1位相(P1)を保持する第2保持部(34c)と、前記第1位相(P1)から前記中立位相(P0)に遷移する第2遷移部(34d)と、前記中立位相(P0)を保持する第3保持部(34e)と、前記中立位相(P0)から第2位相(P2)に遷移する第3遷移部(34f)と、前記第2位相(P2)を保持する第4保持部(34g)と、前記第2位相(P2)から前記中立位相(P0)に遷移する第4遷移部(34h)とを、前記第1シフトドラム(31)の回転方向に沿って記載の順に備え、
前記中立位相(P0)では、前記第1伝達機構(33)が、前記第1係合装置(1)及び前記第3係合装置(5)の双方を解放状態とし、
前記第1位相(P1)では、前記第1伝達機構(33)が、前記第1係合装置(1)を係合状態とすると共に、前記第3係合装置(5)を解放状態とし、
前記第2位相(P2)では、前記第1伝達機構(33)が、前記第1係合装置(1)を解放状態とすると共に、前記第3係合装置(5)を係合状態とし、
前記第2カム経路(44)は、解放位相(Poff)を保持する第5保持部(44a)と、前記解放位相(Poff)から係合位相(Pon)に遷移する第5遷移部(44b)と、前記係合位相(Pon)を保持する第6保持部(44c)と、前記係合位相(Pon)から前記解放位相(Poff)に遷移する第6遷移部(44d)とを、前記第2シフトドラム(41)の回転方向に沿って記載の順に備え、
前記係合位相(Pon)では、前記第2伝達機構(43)が、前記第2係合装置(2)を係合状態とし、
前記解放位相(Poff)では、前記第2伝達機構(43)が、前記第2係合装置(2)を解放状態とし、
前記第1シフトドラム(31)の回転方向における前記第1カム機構(32)の作用位置と、前記第2シフトドラム(41)の回転方向における前記第2カム機構(42)の作用位置とを一致させた場合の前記第1カム経路(34)と前記第2カム経路(44)との位置関係において、前記第3保持部(34e)と前記第5遷移部(44b)とが重複して配置され、前記第3遷移部(34f)の全て及び前記第4保持部(34g)の開始点を含む一部と前記第6保持部(44c)とが重複して配置されていると好適である。
【0126】
この構成によれば、第1カム経路(34)が、第1保持部(34a)、第1遷移部(34b)、第2保持部(34c)、第2遷移部(34d)、第3保持部(34e)、第3遷移部(34f)、第4保持部(34g)、及び第4遷移部(34h)を、第1シフトドラム(31)の回転方向に沿って記載の順に備えている。そして、第2カム経路(44)が、第5保持部(44a)、第5遷移部(44b)、第6保持部(44c)、及び第6遷移部(44d)を、第2シフトドラム(41)の回転方向に沿って記載の順に備えている。これにより、駆動軸(40a)を1方向に回転させるだけで、変速機(TM)の変速段を第1変速段と第2変速段との間で適切に切り替えることができる。
【0127】
ここで、噛み合い式の第1係合装置(1)では、当該第1係合装置(1)が入力部材(I)と出力部材(O)との間で走行駆動力を伝達している状態では、第1駆動装置(3)により第1係合装置(1)を解放状態にしようとしても、第1係合装置(1)の噛み合いを解除することができず、解放状態にならない場合がある。しかし、本構成によれば、第1シフトドラム(31)の回転方向における第1カム機構(32)の作用位置と、第2シフトドラム(41)の回転方向における第2カム機構(42)の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路(34)と第2カム経路(44)との位置関係において、第1カム経路(34)の第3保持部(34e)と第2カム経路(44)の第5遷移部(44b)とが重複して配置されている。したがって、第1カム機構(32)により第1係合装置(1)を解放状態とする方向に駆動力を作用させた状態で待機させつつ、摩擦式の第2係合装置(2)の係合力を次第に上昇させ、入力部材(I)と出力部材(O)との間の走行駆動力の伝達経路を、第1係合装置(1)を介した経路から第2係合装置(2)を介した経路へと次第に移行させることができる。そして、第2係合装置(2)による走行駆動力の伝達割合が一定以上となり、第1係合装置(1)を介して伝達される走行駆動力が低下した場合には、第1係合装置(1)が自動的に解放状態となる。これにより、入力部材(I)と出力部材(O)との間での動力伝達が遮断されることを回避しつつ、第1変速段から第2変速段への移行を円滑に行うことができる。
【0128】
また、本構成によれば、第1シフトドラム(31)の回転方向における第1カム機構(32)の作用位置と、第2シフトドラム(41)の回転方向における第2カム機構(42)の作用位置とを一致させた場合の第1カム経路(34)と第2カム経路(44)との位置関係において、第1カム経路(34)の第3遷移部(34f)の全て及び第4保持部(34g)の開始点を含む一部と、第2カム経路(44)の第6保持部(44c)とが重複して配置されている。そのため、第1カム経路(34)の位相が、第3係合装置(5)を係合状態とするための第2位相(P2)となった後も、所定の期間、第2カム経路(44)の位相が、第2係合装置(2)を係合状態とするための係合位相(Pon)に保持される。これにより、噛み合い式の第3係合装置(5)において、噛合い部の位相が合っていないために直ぐに係合状態とならない場合であっても、第2係合装置(2)の係合状態を維持できるため、入力部材(I)と出力部材(O)との間で動力伝達が遮断されることを回避できる。また、第1カム経路(34)の位相が第2位相(P2)となった後であって、第2カム経路(44)の位相が係合位相(Pon)に保持された期間中に、第3係合装置(5)が適切に係合状態となっているか否かの判定を行うこともできる。
【0129】
また、前記第2係合装置(2)は、摩擦部材(21)と、前記摩擦部材(21)を押圧するピストン(22)と、を備え、
前記第2伝達機構(43)の直線運動に沿う方向を第2方向(D2)として、
前記第2伝達機構(43)は、前記ピストン(22)を駆動するピストン駆動部材(47)と、前記第2方向(D2)における前記ピストン(22)と前記ピストン駆動部材(47)との間に配置された軸受(50)と、を備え、
前記軸受(50)は、前記第2係合装置(2)が係合状態の場合に、前記ピストン(22)と前記ピストン駆動部材(47)とが相対的に回転するように、前記ピストン(22)と前記ピストン駆動部材(47)とを相対的に前記第2方向(D2)に支持すると好適である。
【0130】
この構成によれば、ピストン(22)とピストン駆動部材(47)とが相対的に回転可能な状態で、ピストン駆動部材(47)によりピストン(22)を駆動することができる。したがって、第2係合装置(2)の係合の状態を、簡易な構成で適切に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本開示に係る技術は、車輪の駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、入力部材の側から伝達される回転を変速して出力部材の側へ伝達する変速機と、を備えた車両用駆動伝達装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0132】
100:車両用駆動伝達装置、1:第1係合装置、2:第2係合装置、3:第1駆動装置、31:第1シフトドラム、32:第1カム機構、33:第1伝達機構、4:第2駆動装置、41:第2シフトドラム、42:第2カム機構、43:第2伝達機構、40:ドラム駆動源、40a:駆動軸、I:入力部材、O:出力部材、TM:変速機、MG:回転電機(駆動力源)