(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】物体検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/539 20060101AFI20240611BHJP
G01S 15/931 20200101ALI20240611BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20240611BHJP
B60W 40/06 20120101ALN20240611BHJP
【FI】
G01S7/539
G01S15/931
B60T8/00 Z
B60W40/06
(21)【出願番号】P 2022574002
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047986
(87)【国際公開番号】W WO2022149485
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021002369
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】井奈波 恒
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-001811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302258(US,A1)
【文献】国際公開第2015/162812(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 7/52 - G01S 7/64
G01S 13/00 - G01S 15/96
G01N 29/00 - G01N 29/52
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に向けて
複数の送信波を送信する送信
手段と、
前記送信波の物体での反射波を受信波として受信する受信部と、
複数の前記送信波のそれぞれについて、所定の検出タイミングで受信された前記受信波に基づく第1処理対象信号の値と、前記検出タイミングの前後の所定の区間において受信された前記受信波に基づく第2処理対象信号の値の平均値と、に基づくCFAR処理により、前記検出タイミングにおけるCFAR信号を取得するCFAR処理部と、
複数の前記CFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合いに基づいて、路面の種類を推定する推定部と、
を備える、物体検出装置。
【請求項2】
前記送信手段は、複数
の送信部を備えており、
複数の前記送信部のそれぞれは、同時に前記送信波を前記路面に向けて送信する、請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記推定部によって推定された前記路面の種類に応じて、前記CFAR信号に関する閾値を設定する閾値処理部を、さらに備える、請求項1または請求項2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記物体検出装置は、車両に搭載され、
前記推定部は、推定した前記路面の種類の情報を前記車両のブレーキ制御部に送信する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記閾値処理部は、前記路面の種類に対応する前記ばらつき度合いが大きいほど、前記閾値を大きく設定する、請求項3に記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記推定部は、路面の種類ごとの前記平均信号レベルおよび前記ばらつき度合いの実測値により予め領域を定義したマップに、前記第2処理対象信号の各々の平均値およびばらつき度合いをあてはめて、対応する路面の種類を推定する、請求項1に記載の物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波等の送受信に基づいて物体に関する情報を検出する技術がある。また、この技術において、検出対象ではない物体による反射に起因して発生するクラッタと呼ばれるノイズを低減するための処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理が知られている。
【0003】
CFAR処理によれば、受信波に基づく処理対象信号の値(信号レベル)の移動平均を利用して、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当するCFAR信号を取得することが可能である。また、CFAR信号を閾値と比較することで、物体を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、路面に向けて送信波を送信した場合のCFAR処理において、路面の種類を推定できない。路面の種類を推定できれば、設定閾値や物体検出等の精度が向上するので、有意義である。
【0006】
そこで、本開示の課題の一つは、CFAR処理によって路面の種類を推定することができる物体検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例としての物体検出装置は、路面に向けて送信波を送信する送信部と、前記送信波の物体での反射波を受信波として受信する受信部と、複数の前記送信波のそれぞれについて、所定の検出タイミングで受信された前記受信波に基づく第1処理対象信号の値と、前記検出タイミングの前後の所定の区間において受信された前記受信波に基づく第2処理対象信号の値の平均値と、に基づくCFAR処理により、前記検出タイミングにおけるCFAR信号を取得するCFAR処理部と、複数の前記CFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合いに基づいて、路面の種類を推定する推定部と、を備える。
【0008】
このような構成により、CFAR処理において、複数のCFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合いに基づいて、路面の種類を推定することができる。
【0009】
また、上述した物体検出装置において、複数の前記送信部を備えており、複数の前記送信部のそれぞれは、同時に前記送信波を前記路面に向けて送信する。
【0010】
このような構成により、複数の送信部から同時に送信波を路面に向けて送信することによって、車両の走行時にも路面の種類を高精度に推定できる。
【0011】
また、上述した物体検出装置において、前記推定部によって推定された前記路面の種類に応じて、前記CFAR信号に関する閾値を設定する閾値処理部を、さらに備える。
【0012】
このような構成により、推定した路面の種類に応じてCFAR信号に関する閾値を高精度に設定できる。
【0013】
また、上述した物体検出装置において、前記物体検出装置は、車両に搭載され、前記推定部は、推定した前記路面の種類の情報を前記車両のブレーキ制御部に送信する。
【0014】
このような構成により、推定した路面の種類に応じて的確なブレーキ制御を実現できる。
【0015】
また、上述した物体検出装置において、前記閾値処理部は、前記路面の種類に対応する前記ばらつき度合いが大きい場合ほど、前記閾値を大きく設定する。
【0016】
このような構成により、路面の種類ごとに、具体的に適切な閾値を設定できる。
【0017】
また、上述した物体検出装置において、前記推定部は、路面の種類ごとの前記平均信号レベルおよび前記ばらつき度合いの実測値により予め領域を定義したマップに、前記第2処理対象信号の各々の平均値およびばらつき度合いをあてはめて、対応する路面の種類を推定する。
【0018】
このような構成により、予め作成した上述のマップを用いることで、路面の種類を高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態にかかる物体検出システムのハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態にかかるが物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態にかかる物体検出装置の機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態におけるCFAR信号の振幅と距離の関係を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態における路面の種類ごとのばらつきと平均信号レベルの情報を格納したテーブル情報の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態にかかる物体検出システムが実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【
図8】
図8は、第2実施形態にかかる物体検出システムが前方の路面の種類を推定するときに使用する第1のマップの例を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態にかかる物体検出システムが真下の路面の種類を推定するときに使用する第2のマップの例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態および変形例を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両1を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【0022】
以下に説明するように、第1実施形態にかかる物体検出システムは、音波(超音波)の送受信を行い、当該送受信の時間差などを取得することで、周囲に存在する人間を含む物体(例えば後述する
図2に示される障害物O)に関する情報を検知する車載センサシステムである。
【0023】
より具体的には、
図1に示されるように、第1実施形態にかかる物体検出システムは、車載制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100と、車載ソナーとしての物体検出装置201~204と、を備えている。ECU100は、一対の前輪3Fと一対の後輪3Rとを含んだ四輪の車両1の内部に搭載されており、物体検出装置201~204は、車両1の外装に搭載されている。
【0024】
図1に示される例では、一例として、物体検出装置201~204が、車両1の外装としての車体2の後端部(リヤバンパ)において、互いに異なる位置に設置されているが、物体検出装置201~204の設置位置は、
図1に示される例に制限されるものではない。例えば、物体検出装置201~204は、車体2の前端部(フロントバンパ)に設置されてもよいし、車体2の側面部に設置されてもよいし、後端部、前端部、および側面部のうち2つ以上に設置されてもよい。
【0025】
なお、第1実施形態において、物体検出装置201~204が有するハードウェア構成および機能は、それぞれ同一である。したがって、以下では、説明を簡潔にするために、物体検出装置201~204を総称して物体検出装置200と記載する場合がある。また、第1実施形態において、物体検出装置200の個数は、
図1に示されるような4つに制限されるものではない。
【0026】
図2は、第1実施形態にかかる物体検出システムのハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0027】
図2に示されるように、ECU100は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的には、ECU100は、入出力装置110と、記憶装置120と、プロセッサ130と、を備えている。
【0028】
入出力装置110は、ECU100と外部との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。例えば、
図2に示される例において、ECU100の通信相手は、物体検出装置200である。
【0029】
記憶装置120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、および/または、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を含んでいる。
【0030】
プロセッサ130は、ECU100において実行される各種の処理を司る。プロセッサ130は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算装置を含んでいる。プロセッサ130は、記憶装置120に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、例えば自動駐車などの各種の機能を実現する。
【0031】
また、
図2に示されるように、物体検出装置200は、送受波器210と、制御部220と、を備えている。
【0032】
送受波器210は、圧電素子などにより構成された振動子211を有しており、振動子211により、超音波の送受信を実行する。
【0033】
より具体的には、送受波器210は、振動子211の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波として送信された超音波が外部に存在する物体で反射されて戻ってくることでもたらされる振動子211の振動を受信波として受信する。
図2に示される例では、送受波器210からの超音波を反射する物体として、路面RS上に設置された障害物Oが例示されている。
【0034】
なお、
図2に示される例では、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有した単一の送受波器210により実現される構成が例示されている。しかしながら、第1実施形態の技術は、例えば、送信波の送信用の第1の振動子と受信波の受信用の第2の振動子とが別々に設けられた構成のような、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも適用可能である。
【0035】
制御部220は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的には、制御部220は、入出力装置221と、記憶装置222と、プロセッサ223と、を備えている。
【0036】
入出力装置221は、制御部220と外部(
図1に示される例ではECU100および送受波器210)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0037】
記憶装置222は、ROMやRAMなどの主記憶装置、および/または、HDDやSSDなどの補助記憶装置を含んでいる。
【0038】
プロセッサ223は、制御部220において実行される各種の処理を司る。プロセッサ223は、例えばCPUなどの演算装置を含んでいる。プロセッサ223は、記憶装置333に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、各種の機能を実現する。
【0039】
ここで、第1実施形態にかかる物体検出装置200は、いわゆるTOF(Time Of Flight)法と呼ばれる技術により、物体までの距離を検出する。以下に詳述するように、TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差を考慮して、物体までの距離を算出する技術である。
【0040】
図3は、第1実施形態にかかる物体検出装置200が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0041】
より具体的には、
図3は、第1実施形態にかかる物体検出装置200が送受信する超音波の信号レベル(例えば振幅)の時間変化をグラフ形式で例示的かつ模式的に示した図である。
図3に示されるグラフにおいて、横軸は、時間に対応し、縦軸は、物体検出装置200が送受波器210(振動子211)を介して送受信する信号の信号レベルに対応する。
【0042】
図3に示されるグラフにおいて、実線L11は、物体検出装置200が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子211の振動の度合の時間変化を表す包絡線の一例を表している。この実線L11からは、振動子211がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間は、慣性による振動子211の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。したがって、
図3に示されるグラフにおいては、時間Tbが、いわゆる残響時間に対応する。
【0043】
実線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子211の振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値Th1を超える(または以上になる)ピークを迎える。この閾値Th1は、振動子211の振動が、検知対象の物体(例えば
図2に示される障害物O)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、または、検体対象外の物体(例えば
図2に示される路面RS)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。
【0044】
なお、
図3には、閾値Th1が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、第1実施形態において、閾値Th1は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0045】
ここで、閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを有する振動は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。一方、閾値Th1以下の(または未満の)ピークを有する振動は、検知対象外の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。
【0046】
したがって、実線L11からは、タイミングt4における振動子211の振動が、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0047】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子211の振動が減衰している。したがって、タイミングt4は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。
【0048】
また、実線L11においては、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。したがって、実線L11においては、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0049】
上記を踏まえて、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と、受信波が受信され始めたタイミングt3と、の間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4と、の差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0050】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、物体検出装置200が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定などによって予め決められている。したがって、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、結局のところ、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4を特定することが重要となる。そして、当該タイミングt4を特定するためには、送信波と、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波と、の対応関係を精度良く検出することが重要となる。
【0051】
ところで、上述のように、従来技術では、路面に向けて送信波を送信した場合のCFAR処理において、路面の種類を推定できない。路面の種類を推定できれば、設定閾値や物体検出等の精度が向上するので、有意義である。
【0052】
そこで、第1実施形態では、物体検出装置200を以下に説明するように構成することで、CFAR処理によって路面の種類を推定することができる。以下、詳細に説明する。
【0053】
図4は、第1実施形態にかかる物体検出装置200の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0054】
なお、
図4には、送信側の構成と受信側の構成とが分離された状態で図示されているが、このような図示の態様は、あくまで説明の便宜のためのものである。したがって、第1実施形態では、前述したように、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の送受波器210により実現される。ただし、前述のように、第1実施形態の技術は、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも適用可能である。
【0055】
図4に示されるように、物体検出装置200は、送信側の構成として、送信部411を有している。また、物体検出装置200は、受信側の構成として、受信部421と、前処理部422と、CFAR処理部423と、閾値処理部424と、検出処理部425と、推定部426と、を有している。
【0056】
なお、第1実施形態において、
図4に示される構成のうち少なくとも一部は、ハードウェアとソフトウェアとの協働の結果、より具体的には、物体検出装置200のプロセッサ223が記憶装置222からコンピュータプログラムを読み出して実行した結果として実現される。ただし、第1実施形態では、
図4に示される構成のうち少なくとも一部が、専用のハードウェア(回路:circuitry)によって実現されてもよい。また、第1実施形態において、
図4に示される各構成は、物体検出装置200自身の制御部220による制御のもとで動作してもよいし、外部のECU100による制御のもとで動作してもよい。
【0057】
まず、送信側の構成について説明する。
【0058】
送信部411は、上述した振動子211を所定の送信間隔で振動させることにより路面を含む外部へ向けて送信波を送信する。送信間隔とは、送信波が送信されてから次に送信波が送信されるまでの時間間隔である。送信部411は、例えば、搬送波を生成する回路、搬送波に付与すべき識別情報に対応するパルス信号を生成する回路、パルス信号に応じて搬送波を変調する乗算器、および乗算器から出力された送信信号を増幅する増幅器などを利用して構成される。
【0059】
物体検出装置200は、例えば、複数の送信部411を備えている。例えば、物体検出装置201~204のそれぞれが送信部411を1つずつ備えていることで、4つの送信部411を用いることができる。そして、複数の送信部411のそれぞれは、同時に送信波を路面に向けて送信する。
【0060】
次に、受信側の構成について説明する。
【0061】
受信部421は、送信部411から送信された送信波の物体での反射波を受信波として、送信波が送信されてから所定の測定時間が経過するまで受信する。測定時間とは、送信波の送信後、当該送信波の反射波としての受信波を受信するために設定された待機時間である。
【0062】
前処理部422は、受信部421により受信された受信波に対応した受信信号をCFAR処理部423に入力すべき処理対象信号に変換するための前処理を行う。前処理は、例えば、受信波に対応する受信信号を増幅する増幅処理、増幅された受信信号に含まれるノイズを低減するフィルタ処理、送信信号と受信信号との類似度を示す相関値を取得する相関処理、および相関値の時間変化を示す波形の包絡線に基づく信号を処理対象信号として生成する包絡線処理などが含まれる。
【0063】
CFAR処理部423は、前処理部422から出力される処理対象信号に対してCFAR処理を施すことで、CFAR信号を取得する。前述したように、CFAR処理とは、処理対象信号の値(信号レベル)の移動平均を利用して、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当するCFAR信号を取得する処理である。
【0064】
例えば、CFAR処理部423は、複数の送信波のそれぞれについて、所定の検出タイミングで受信された受信波に基づく第1処理対象信号の値と、検出タイミングの前後の所定の区間において受信された受信波に基づく第2処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づくCFAR処理により、検出タイミングにおけるCFAR信号を取得する。
【0065】
そして、検出処理部425は、CFAR信号の値と、閾値処理部424により設定された閾値と、の比較に基づいて、CFAR信号の値が閾値を超える検出タイミングを特定する。CFAR信号の値が閾値を超える検出タイミングは、物体での反射により戻ってきた送信波としての受信波の信号レベルがピークを迎えるタイミングと一致するので、CFAR信号の値が閾値を超える検出タイミングを特定すれば、前述したTOF法により、物体までの距離を検出することができる。
【0066】
推定部426は、複数のCFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合い(例えば、標準偏差、分散等)に基づいて、路面の種類を推定する。
【0067】
ここで、
図5は、第1実施形態におけるCFAR信号の振幅と距離の関係を示した例示的かつ模式的な図である。例えば、4つの送信部411のそれぞれが同時に送信波を路面に向けて送信し、それぞれの送信波について、CFAR処理部423によって取得されたのがCFAR信号L1~L4である。
【0068】
CFAR信号L1~L4のばらつき度合いを、ばらつき度合いBと表す。また、CFAR信号L1~L4の平均信号レベルを、平均信号レベルAと表す。なお、
図5では図示の簡略化のためにCFAR信号L1~L4を線で表しているが、実際には点群なので、平均信号レベルAは、例えば、最小二乗法等を用いた処理により決定できる。
【0069】
そして、路面の種類によって、ばらつき度合いBと平均信号レベルAが異なる。これらが異なる原因としては、例えば、路面の種類ごとに、表面の粗さ、構成物質、色等の各要素が異なるためだと考えられる。
【0070】
ここで、
図6は、第1実施形態における路面の種類ごとのばらつき度合いBと平均信号レベルAの情報を格納したテーブル情報の一例を示した例示的かつ模式的な図である。このテーブル情報は、例えば、記憶装置222に格納される。
【0071】
このテーブル情報では、まず、路面の種類の例として、アスファルト、コンクリート、砂利、新雪、圧雪、氷の6種類が格納されている。そして、その6種類の路面のそれぞれについて、実験等により決定したばらつき度合いBと平均信号レベルAの情報が格納されている。
【0072】
したがって、推定部426は、例えば、このテーブル情報を参照して、複数のCFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合いに基づいて、路面の種類を推定する。
【0073】
図4に戻って、また、推定部426は、例えば、推定した路面の種類の情報を車両のブレーキ制御部に送信する。
【0074】
閾値処理部424は、推定部426によって推定された路面の種類に応じて、CFAR信号に関する閾値を設定する。閾値処理部424は、例えば、路面の種類に対応するばらつき度合いが大きい場合ほど、閾値を大きく設定する。
【0075】
例えば、一般に、アスファルトはコンクリートと比較して表面が粗くてばらつき度合いが大きいので、閾値処理部424は、アスファルトの閾値をコンクリートの閾値よりも大きい値に設定する。
【0076】
図7は、第1実施形態にかかる物体検出システムが実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0077】
図7に示されるように、第1実施形態では、まず、S801において、物体検出装置200の複数の送信部411は、送信波を送信する。
【0078】
次に、S802において、物体検出装置200の受信部421は、S801で送信された送信波に応じた受信波を受信する。
【0079】
次に、S803において、物体検出装置200の前処理部422は、S802で受信された受信波に対応した受信信号に対して、次のS804の処理のための前処理を行う。
【0080】
次に、S804において、物体検出装置200のCFAR処理部423は、S803での前処理を経て前処理部422から出力された処理対象信号に対してCFAR処理を実行し、CFAR信号を生成する。
【0081】
次に、S805において、推定部426は、複数のCFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合いに基づいて、路面の種類を推定する。
【0082】
次に、S806において、物体検出装置200の閾値処理部424は、S804で生成されたCFAR信号に関して、S805で推定された路面の種類に応じて閾値を設定する。
【0083】
次に、S807において、物体検出装置200の検出処理部425は、CFAR信号の値とS805で設定された閾値との比較に基づいて、物体までの距離を検出する。そして、処理が終了する。
【0084】
このように、第1実施形態の物体検出装置200によれば、CFAR処理において、複数のCFAR信号の平均信号レベル、および、ばらつき度合いに基づいて、路面の種類を推定することができる。つまり、超音波センサによる情報のみで、路面の種類を推定できる。
【0085】
また、複数の送信部411から同時に送信波を路面に向けて送信することによって、車両の走行時にも路面の種類を高精度に推定できる。
【0086】
また、推定した路面の種類に応じてCFAR信号に関する閾値を高精度に設定できる。
【0087】
また、推定した路面の種類に応じて的確なブレーキ制御を実現できる。
【0088】
また、路面の種類に対応するばらつき度合いが大きい場合ほど閾値を大きく設定することで、路面の種類ごとに、具体的に適切な閾値を設定できる。
【0089】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の事項については、重複する説明を適宜省略する。第2実施形態では、物体検出システムが、マップを用いて、前方の路面の種類を推定するときと、真下の路面の種類を推定するときについて説明する。
【0090】
図8は、第2実施形態にかかる物体検出システムが前方の路面の種類を推定するときに使用する第1のマップの例を模式的に示す図である。この第1のマップでは、横軸が平均信号レベルで、縦軸がばらつき度合いである。領域R11~R16と路面の種類との対応は、以下の通りである。
【0091】
領域R11:アスファルト
領域R12:砂利
領域R13:新雪/コンクリート/氷(凸凹無し)
領域R14:圧雪
領域R15:その他
領域R16:その他
【0092】
第1のマップにおけるこのような領域ごとの路面の種類との対応を、前方の路面からの反射波に関する平均信号レベルおよびばらつき度合いの実測値により予め定義しておく。そして、推定部426は、この第1のマップを参照して、前方の路面からの反射波に基づく第2処理対象信号の各々の平均値およびばらつき度合いをあてはめて、対応する路面の種類を推定する。このようにして、前方の路面の種類を高精度に推定できる。
【0093】
次に、
図9は、第2実施形態にかかる物体検出システムが真下の路面の種類を推定するときに使用する第2のマップの例を模式的に示す図である。この第2のマップでも、第1のマップと同様、横軸が平均信号レベルで、縦軸がばらつき度合いである。領域R21~R27と路面の種類との対応は、以下の通りである。
【0094】
領域R21:アスファルト
領域R22:コンクリート/氷(凸凹無し)
領域R23:砂利
領域R24:新雪
領域R25:圧雪
領域R26:氷(凸凹有り)
領域R27:その他
【0095】
第2のマップにおけるこのような領域ごとの路面の種類との対応を、真下の路面からの反射波に関する平均信号レベルおよびばらつき度合いの実測値により予め定義しておく。そして、推定部426は、この第2のマップを参照して、真下の路面からの反射波に基づく第2処理対象信号の各々の平均値およびばらつき度合いをあてはめて、対応する路面の種類を推定する。このようにして、真下の路面の種類を高精度に推定できる。
【0096】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、本開示の技術が、超音波の送受信によって物体までの距離を検出する構成に適用されている。しかしながら、本開示の技術は、音波、ミリ波、レーダ、および電磁波などのような、超音波以外の他の波動の送受信によって物体までの距離を検出する構成にも適用することが可能である。
【0097】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0098】
例えば、上述の実施形態では、複数の送信部411から同時に送信波を路面に向けて送信するものとしたが、これに限定されない。例えば、単一の送信部411が送信した複数の送信波に基づいて、路面の種類を推定するようにしてもよい。特に、車両が停車や低速走行している場合は、それでも充分に高精度な路面の種類の推定ができる。
【符号の説明】
【0099】
1 車両
100 ECU
200 物体検出装置
210 送受波器
411 送信部
421 受信部
423 CFAR処理部
424 閾値処理部
425 検出処理部
426 推定部