(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】防汚性繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D06M 15/277 20060101AFI20240611BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20240611BHJP
D06M 15/423 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
D06M15/277
D06M15/333
D06M15/423
(21)【出願番号】P 2023024842
(22)【出願日】2023-02-21
(62)【分割の表示】P 2018553493の分割
【原出願日】2018-10-04
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2017197318
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹下 将太
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恵司
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-330354(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006849(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147582(WO,A1)
【文献】特開昭50-94293(JP,A)
【文献】特開2008-163475(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105777977(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
A41D 31/00
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の少なくとも1部に、親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂、ポリビニルアルコールを含む樹脂被膜を有し、JIS L-1092スプレー試験で測定される撥水度が2
級であり、AATCC 118法で測定される撥油性が2級以上であ
り、該フッ素系撥油性樹脂が、下記一般式(I)で示されるフッ化ビニルモノマーから誘導される繰り返し単位を含み、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸含有量が検出限界未満であり、フッ素系撥油性樹脂とポリビニルアルコールの使用割合がフッ素系撥油性樹脂の固形分質量100に対して、ポリビニルアルコールの質量が20から40であることを特徴とする防汚性繊維構造物。
CH
2
=C(CH
3
)C(=O)OCH
2
CH
2
(CF
2
)
5
CF
3
(I)
【請求項2】
該フッ素系撥油性樹脂が、ポリオキシアルキレン基を含むフッ素系撥油性樹脂である請求項1に記載の防汚性繊維構造物。
【請求項3】
該ポリビニルアルコールの平均重合度が、200~1500である請求項1または2に記載の防汚性繊維構造物。
【請求項4】
該フッ素系撥油性樹脂と、ポリビニルアルコールと、トリアジン環含有樹脂が繊維構造物の表面に付与されてなることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
【請求項5】
該繊維構造物の押し込み汚れに対する汚れ除去性試験の汚れ除去性が、工業洗濯50回後まで3-4級以上である請求項1~
4のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の
防汚性繊維構造物を用いてなる衣料。
【請求項7】
親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂とポリビニルアルコールを含む処理液で繊維構造物を処理することを特徴とする
請求項1~5のいずれかに記載の防汚性繊維構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い防汚性を有する繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、織編物等布帛の繊維構造物の防汚性を改善する要求は高く、その防汚性を改善する方法が種々提案されている。一般に、繊維構造物に防汚性を付与する方法としては、繊維構造物に親水性樹脂を付与して洗浄液との親和性を上げて汚れを落とし易くする加工方法や、繊維構造物に撥水撥油樹脂を付与して繊維への汚れの付着を抑制する加工技術が検討されている。
【0003】
しかしながら、繊維構造物に親水性樹脂を付与する場合、水系汚れが付着するとそれが大きく拡がり易くなるという課題がある。また、繊維構造物に撥水撥油性樹脂を付与する場合では、撥水性により洗浄液と水系汚れとの親和性が低下するため、一旦汚れが付着した場合に洗濯除去がされにくく、再汚染などが起こりやすいという課題がある。
【0004】
このような課題に対して、汚れの付きにくさや落とし易さの両方の性能を満足させるために、親水基を含有した撥水撥油樹脂の繊維への付与が検討されている。
【0005】
特許文献1、2には、親水性成分を有するフッ素系撥水剤の被膜を形成させた吸水撥油防汚加工方法が提案されている。
【0006】
特許文献3には、非ブロックタイプの水分散型イソシアネート架橋剤を用いてフッ素系撥水剤を繊維布帛に付与する撥水撥油防汚加工方法が提案されている。
【0007】
特許文献4には、単繊維表面に、トリアジン環含有重合性単量体からなる重合体と親水性成分を有するフッ素系撥水剤の混合された被膜を形成する撥水撥油防汚加工方法が提案されている。
【0008】
特許文献5には、酸素原子とフッ素原子の質量濃度比を調整した親水性成分を有するフッ素系撥水剤の被膜を形成させた弱撥水撥油防汚加工方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-152508号公報
【文献】特開2014-163030号公報
【文献】特開2013-36136号公報
【文献】特許5114946号公報
【文献】国際公開第2017/006849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1や、特許文献2に提案された加工方法では、親水性が高いため、一旦水系汚れが付着してしまうと汚れが拡散しやすくなるという問題がある。
【0011】
特許文献3に提案された加工方法では、高い撥水性を発現するため、洗濯時の洗浄液と水系汚れとの親和性を低下させ、洗濯による汚れ除去性を低下させる傾向があり、特に加工上がりの汚れ除去性が低いという問題がある。
【0012】
特許文献4に提案された加工方法では、トリアジン環含有重合性単量体からなる重合体を多量に使用していることから、フッ素樹脂や親水成分が埋もれてしまい、十分な防汚性を発揮できないという問題がある。
【0013】
特許文献5に提案された加工方法では、高い洗濯耐久性を有するが、加工上がりの防汚性が低い場合があるという問題がある。
【0014】
そこで本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、加工上がりから繰り返し洗濯後でも、水性汚れと油性汚れに対して高い付着抑制性と、汚れ除去性を同時に有する繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0016】
(1)繊維表面の少なくとも1部に、親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂、ポリビニルアルコールを含む被膜を有し、JIS L-1092スプレー試験で測定される撥水度が2級以下であり、AATCC 118法で測定される撥油性が2級以上であることを特徴とする防汚性繊維構造物。
【0017】
(2)該親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂が、ポリオキシアルキレン基を含むフッ素系撥油性樹脂である(1)に記載の防汚性繊維構造物。
【0018】
(3)該ポリビニルアルコールの平均重合度が、200から1500である(1)または(2)に記載の防汚性繊維構造物。
【0019】
(4)該フッ素系撥油性樹脂が、下記一般式(I)で示されるフッ化ビニルモノマーから誘導される繰り返し単位を含み、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸含有量が検出限界未満である(1)~(3)のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
CH2=C(CH3)C(=O)OCH2CH2(CF2)5CF3 (I)
【0020】
(5)該フッ素系撥油性樹脂と、ポリビニルアルコールと、トリアジン環含有樹脂とが繊維構造物の表面に付与されてなることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
【0021】
(6)該繊維構造物の押し込み汚れに対する汚れ除去性試験の汚れ除去性が、工業洗濯50回後まで3-4級以上である(1)~(5)のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
【0022】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の繊維構造物を用いてなる衣料。
【0023】
(8)親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂とポリビニルアルコールを含む処理液(以下「防汚性樹脂を含む処理液」と称する場合もある)で繊維構造物を処理することを特徴とする防汚性繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い防汚性を有する繊維構造物を安定に供給することができる。
【0025】
本発明の防汚性繊維構造物は、繊維表面の少なくとも1部に、親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂、ポリビニルアルコールを含む樹脂被膜を有することで、洗濯除去が困難な油汚れの繊維への付着を抑制すると共に、洗濯時の洗浄液との親和性を高めるため、加工上がりから繰り返し洗濯後でも、水性汚れと油性汚れに対して高い付着抑制性と、汚れ除去性を同時に有する繊維構造物を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の防汚性繊維構造物は、繊維表面の少なくとも1部に、親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂、ポリビニルアルコールを含む被膜を有し、JIS L-1092スプレー試験で測定される撥水度が2級以下であり、AATCC 118法で測定される撥油性が2級以上である。
【0027】
撥油性が2級以上であることで、十分な撥油性を有し、繊維に汚れが付着しにくくなる。さらに5級以上であることが好ましい。撥水度が2級以下であることで、十分な親水性を有し、繊維と洗浄液の親和性を保つことができ、洗濯時に洗浄液が弾かれることなく繊維構造物内部に入り込み、汚れと接触し、汚れを除去することができる。
【0028】
すなわち、本発明においては、撥水度を抑え、かつ撥油性を有する弱撥水撥油性の繊維構造物とすることで、高い防汚性を発現することができ、さらに撥水度をより適度な弱撥水領域に制御することで、洗濯耐久性をも改善し得るのである。
【0029】
なお上記繊維構造物の撥油性はAATCC 118法(2013年)、撥水度は、JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(2009年)に規定されたスプレー法により評価を行った値をいう。
【0030】
本発明の親水成分を有するフッ素系撥油性樹脂とポリビニルアルコールとしては、これらを含む被膜を繊維表面に形成した結果、撥油性が2級以上かつ撥水度が2級以下、となるものが好ましく用いられる。
【0031】
親水成分を有するフッ素系撥油性樹脂としては、パーフルオロアルキル基を有するビニルモノマーと、親水性官能基を有するビニルモノマー(親水性ビニルモノマー)から誘導された繰返単位を有する含フッ素共重合体であることが好ましい。
【0032】
パーフルオロアルキル基を有するビニルモノマーとしては、炭素数6以下のパーフルオロ基を有するビニルモノマーが好ましく用いられ、更に好ましくはCH2=C(CH3)C(=O)OCH2CH2(CF2)5CF3から誘導される繰り返し単位を含むものが用いられる。
【0033】
上記親水性ビニルモノマーとしては、スルホニル基、スルホニル塩基、カルボキシル基、カルボキシル塩基、アンモニウム基、アンモニウム塩基、オキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基等の親水性官能基を含むビニルモノマーが挙げられるが、中でも下記一般式(II)で表されるビニルモノマーが好ましい。
CH2=CR1C(=O)O-(R2O)n-R3 (II)
式中R1は通常Hもしくは炭素数1~4のアルキル基であり、HもしくはCH3であることが好ましい。-(R2O)n-はオキシアルキレン基あるいは、ポリオキシアルキレン基を示す。R2は通常、炭素数2~5のアルキレン基であることが好ましく、CH2CH2、CH2CH2CH2もしくはCH2(CH3)CH2であることが親水性を一層好ましい範囲に制御できる点でより好ましい。R3は通常HもしくはCH3を示す。nは重合度であり、1~20を示す。
【0034】
本発明で好ましく用いられるフッ素系撥油性樹脂としては、JIS L 1907-滴下法(2010年)で測定される吸水性が40秒以上で、撥水度が2級以下、撥油性が2級以上であるものが好ましく、さらには、吸水性が60秒以上であるような弱撥水性であると、押し込み汚れに対する汚れ除去性の洗濯耐久性が改良される点でより好ましい。また、撥油性は7級以下であることが、汚れのつきにくさと洗浄水との親和性とのバランスの点からより好ましい。
【0035】
上記好ましく用いられる含フッ素共重合体におけるパーフルオロアルキル基を有するビニルモノマーと親水性ビニルモノマーの比率としては、本発明で規定する範囲を満たす限り制限はないが、以下の方法で、弱撥水撥油性、吸水撥油性となるように制御するのがよい。その制御は以下の方法でおこなうことができる。すなわち親水性官能基を含むビニルモノマーの比率を増大させることで、撥水性を抑制することができ、撥油性を大きくするには、パーフルオロアルキル基を有するビニルモノマーの比率を増大させればよい。
【0036】
また、同じ比率であっても親水性官能基を含むビニルモノマーについて、親水性を上げればよい。その方法としては、親水性官能基の割合を増大させるか、親水性官能基として、より親水性の高い官能基を選択することで撥水性を下げることができる。親水性官能基としてオキシアルキレン基(より好ましくはオキシエチレン基)あるいはポリオキシアルキレン基(より好ましくはポリオキシエチレン基)であることが好ましい。ポリオキシアルキレン基を用いる場合、その重合度が大きい方が、親水性を上げることができる。
【0037】
またパーフルオロアルキル基を有するビニルモノマーにおけるパーフルオロアルキル基の炭素数を大きくすることで撥油性を挙げることも可能である。
【0038】
上記を満たす親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂としては、繊維構造物に付与したときに、いわゆる撥水度2級以下(好ましくは1級)、撥油性2級以上、吸水性40秒未満の吸水撥油タイプ、撥水度2級以下、撥油性2級以上、吸水性40秒以上の弱撥水撥油タイプに分類される性能を発揮するものであることが好ましく、なかでも弱撥水撥油タイプに分類されるものが好ましい。市販品としては、弱撥水撥油タイプである“パラジン”KFS-100(京浜化成(株)製)、吸水撥油タイプである“パラジン”KFS-150(京浜化成(株)製)が挙げられる。なお、強撥水撥油タイプのフッ素系撥水樹脂であっても本発明で規定する範囲を満たす限り用い得るが、その撥水度や撥油性が強すぎると本発明で規定する範囲に制御しにくくなるので、注意が必要である。
【0039】
フッ素系撥油性樹脂としては、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸含有量が検出限界未満であることが好ましい。検出限界未満であるとは、下記に示す高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)によるパーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸と、それら前駆体、塩類のそれぞれの測定濃度が、いずれも5ng/g未満であることを指す。
装置:LC-MS/MSタンデム型質量分析計TSQ-7000(サーモエレクトロン)
高速液体クロマトグラフLC-10Avp(島津製作所)
カラム:Capcellpak C8 100mm×2mmi.d.(5μm)
移動層:A;0.5mmol/L酢酸アンモニウム B;アセトニトリル
流速:0.2mL/min
試料注入量:3μL
CP温度:220℃
イオン化電圧:4.5kv
イオンマルチ:1300v
イオン化法:ESI-Negative
ポリビニルアルコールの平均重合度としては、通常100から3500が挙げられるが、好ましくは200から1500が用いられる。
【0040】
ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルをケン化して製造されるものであってよい。ポリビニルアルコールのケン化度としては、通常70から99%が好ましく挙げられるが、80から95%がより好ましく用いられる。
【0041】
平均重合度とケン化度は、それぞれJIS K 6726(1994年)3.7項、3.5項に準じて測定して得られる値である。
【0042】
本発明で用いるフッ素系撥油性樹脂とポリビニルアルコールの使用割合いは、フッ素系撥油性樹脂の固形分質量100に対して、ポリビニルアルコールの質量が通常5から60、好ましくは10から40である。
【0043】
本発明で用いるポリビニルアルコールには水酸基、あるいはさらに酢酸基以外の官能基が含まれていてもよく、例えばアセトアセチル基、スルホニル基、スルホニル塩基、カルボキシル基、カルボキシル塩基、4級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基等が挙げられる。
【0044】
該フッ素撥油性樹脂とポリビニルアルコールの繊維に対する固形分固着量は、0.2から1.0質量%、好ましくは0.4から0.8質量%である。このように好ましい範囲であると、汚れ除去性能を充分に発現することができ、風合いも柔らかく、好ましい。
【0045】
本発明においては、上記親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂、ポリビニルアルコール以外に、その他の樹脂、化合物等の剤を併用することも可能である。
【0046】
上記樹脂としてトリアジン環含有樹脂を用いることが、防汚性の洗濯耐久性の点で特に好ましい。トリアジン環含有樹脂としては、メラミン樹脂、グアナミン樹脂およびビスマレイミドトリアジン樹脂などが挙げられ、メラミン樹脂が特に好ましく用いられる。
【0047】
トリアジン環含有樹脂としては、トリアジン環含有化合物を重合成分としてなる樹脂を意味し、トリアジン環含有化合物はトリアジン環を含有し、重合性官能基を少なくとも2個有する化合物であり、例えば、下記構造式で示されるトリアジン環含有化合物が挙げられる。
【0048】
【0049】
(式中、R4~R6は、H、OH、C6H5、Cn0H2n0+1(n0=1~2)、COOCn1H2n1+1(n1=1~20)、CONR7R8、NR7R8を表す。ただし、R7とR8は、H、OCn3H2n3+1(n3=1~20)、CH2COOCn3H2n3+1(n3=1~20)、CH2OH、CH2CH2OH、CONH2、CONHCH2-O-(X-O)n4-R9(X=C2H4、C3H6、C4H8;n4=1~1500;R9=H、CH3、C3H7)を表す)
【0050】
上記一般式で表されるトリアジン環含有化合物以外に、上記の化合物のエチレン尿素共重合化合物、ジメチロール尿素共重合化合物、ジメチロールチオ尿素共重合化合物および酸コロイド化合物なども使用することができる。
【0051】
トリアジン環含有樹脂の形成方法は次のとおりである。上記のトリアジン環含有化合物と、触媒からなる水系液を繊維上に付与した後、重合すべく熱処理を行う。
【0052】
また、用いられる触媒としては、酢酸、蟻酸、アクリル酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フタル酸、硫酸、過硫酸、塩酸および燐酸などの酸類およびこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、およびマグネシウム塩などが挙げられ、これらの一種以上を使用することができる。中でも、触媒として、過硫酸アンモニウムと過硫酸カリウムが好ましく用いられる。触媒の量は、モノマーの使用量に対して0.1~20質量%で使用することが好ましい。
【0053】
このような重合のための熱処理は、好ましくは50~200℃、好ましくは80~150℃の温度で0.1~30分間の条件で乾熱処理および蒸熱処理するものである。トリアジン環含有樹脂の付着量は親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂、ポリビニルアルコールの総重量に対して好ましくは10から100質量%であり、より好ましくは20から60質量%である。
【0054】
本発明の防汚性繊維構造物は、JIS L 1919(2006年)「汚れ除去性試験」に規定された親油性汚染物質-3の成分を使用したC法に準じた「押し込み汚れに対する汚れ除去性試験」で実施した場合の汚れ除去性が、加工上がりから工業洗濯50回後で3-4級以上であることが好ましく、4級以上であることがより好ましい。
【0055】
本発明の防汚性繊維構造物で用いられる繊維素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどポリアルキレンテレフタレートからなる繊維や、これらに第3成分を共重合してなる芳香族ポリエステル系繊維、L-乳酸を主成分とするもので代表されるポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルからなる脂肪族ポリエステル系繊維、ナイロン6やナイロン66などのポリアミドからなるポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル系繊維、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンからなるポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維などの合成繊維、アセテートやレーヨンなどの半合成繊維、および木綿、絹および羊毛などの天然繊維などが挙げられる。本発明では、これらの繊維を単独または2種以上の混合物として使用することができる。なかでもポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維を主成分にした繊維もしくはポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維を主成分にした繊維と木綿、絹および羊毛などの天然繊維との混合物が好ましく使用される。ここで主成分とは、含まれる成分のうち、最も含有量が多い繊維をいい、好ましくは50質量%以上含まれることが好ましい。
【0056】
本発明の防汚性繊維構造物で用いられる繊維は、通常のフラットヤーン以外に、仮撚加工糸、撚糸、タスラン加工糸、ナノファイバー、太細糸および混繊糸等のフィラメントヤーンであってもよく、ステープルファイバー、トウおよび紡績糸など各種形態の繊維を用いることができる。好ましくは、フィラメントヤーンが用いられる。
【0057】
また本発明の防汚性繊維構造物で用いられる繊維の単繊維断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、多葉など各種形態の繊維を用いることができる。好ましくは丸型断面形状が用いられる。
【0058】
本発明の防汚性繊維構造物には、前記の繊維を使用してなる編物、織物および不織布などの布帛状物、および紐状物などが含まれる。好ましくは、編物、織物および不織布が用いられる。
【0059】
また前記布帛状物または紐状物には、蛍光染料や柔軟剤等、一般的な加工剤を付与しても良い。また防汚性繊維構造物の素材として、抗菌剤、制菌剤により内部改質された繊維を用いても良い。前記加工剤として、2-クロロ-6-トリクロロメチルピリジン、2-クロロ-4-トリクロロメチル-6-メトキシピリジン、2-クロロ-4-トリクロロメチル-6-(2-フリルメトキシ)ピリジン、ジ(4-クロロフェニル)ピリジルメタノール、2,3,5-トリクロロ-4-(n-プロピルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジルチオール-1-オキシド亜鉛、ジ(2-ピリジルチオール-1-オキシド)等のピリジン系化合物を用いることができる。
【0060】
また、前記布帛状物または紐状物には、素材として繊維上に親水性成分を有するフッ素系撥油性樹脂およびポリビニルアルコール等(以下総称して「防汚性樹脂」、それを含む皮膜を「防汚性樹脂層」と称する場合もある)以外の樹脂が付着している繊維を用いても良い。この場合、繊維上に防汚性樹脂以外の樹脂層が形成され、その後に形成される防汚性樹脂層と二層の樹脂層が繊維上に存在することになる。このような防汚性樹脂以外の樹脂としては、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂およびビスマレイミドトリアジン樹脂などが挙げられる。
【0061】
また、架橋改質された繊維を用いても良く、架橋改質に用いる架橋剤としては、セルロース系繊維を構成しているセルロース分子中の水酸基、とりわけ洗濯時のシワ、型くずれ、縮みの原因となる非晶領域にある水酸基と反応し、セルロース分子間および分子内に架橋構造を形成することが可能な化合物が好ましく用いられる。具体的にはホルムアルデヒドや、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールトリアゾン、ジメチロールウロン、ジメチロールグリオキザールモノウレイン、ジメチロールプロピレン尿素、これらのメチロール基の一部または全部をメトキシ化、エトキシ化したもの等の繊維素反応型樹脂、ポリカルボン酸類、イソシアネート類等があげられる。
【0062】
本発明において、繊維構造物への樹脂の固着は、防汚性樹脂、任意成分としてのトリアジン環含有樹脂あるいはそれを得るための重合性単量体、触媒等の原料を含む処理液で繊維構造物を処理することにより達成できる。具体的な処理方法としては、防汚性樹脂を含む処理液に繊維構造物を浸漬し、拡布の状態で一定の圧力で絞った後、熱処理するパッド・ドライ・キュア法や、防汚性樹脂を含む処理液に繊維構造物を浸漬し、拡布の状態で一定の圧力で絞った後、熱処理するパッド・キュア法、あるいは上記方法で浸漬後、蒸熱処理するパッド・スチーム法、または、上記の防汚性樹脂を含む処理液の中に繊維構造物を浸漬した状態で加熱する浴中法を用いることができる。なかでも防汚性樹脂を含む処理液に繊維構造物を浸漬した後、拡布の状態で一定の圧力で絞り、好ましくは80~170℃の温度で乾燥し、その後好ましくは170~200℃の温度で熱処理するパッド・ドライ・キュア法や、170~200℃の温度で一気に乾燥させるパッド・キュア法、80~110℃の温度で蒸熱処理するパッド・スチーム法、または、上記の防汚性樹脂を含む処理液の中に繊維構造物を浸漬した状態で、好ましくは50~130℃まで温度を上げる浴中法などが好ましく用いられる。さらには120℃~170℃の温度で乾燥し、その後170~200℃で熱処理するパッド・ドライ・キュア法が最も好ましく用いられる。
【0063】
かくして得られる防汚性繊維構造物は、ポリビニルアルコールを含む樹脂被膜を有することで、洗濯除去が困難な油汚れの繊維への付着を抑制すると共に、洗濯時の洗浄液との親和性を高めるため、加工上がりから繰り返し洗濯後でも、水性汚れと油性汚れに対して高い付着抑制性と、汚れ除去性とを同時に有するので、一般衣料品、作業用ユニフォーム、寝装品、医療用衣類、インテリア品および産業資材品等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の防汚性繊維構造物について、実施例に基づいて説明する。実施例における各種測定評価は、次のとおりである。
【0065】
(撥水度)
JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(2009年)に規定される方法により、スプレー法により評価を行い、撥水度について級判定した。級判定についてはn=3回の評価で実施した。撥水度の級は1級から5級まで有り、数値が大きいほど、撥水性が高いことを示す。判定基準はJIS L 1092に添付の判定写真により判別する。
【0066】
(撥油性)
AATCC 118法に規定される方法で測定し、撥油性について級判定した。撥油性の級は1級から8級まで有り、数値が大きいほど、撥油性が高いことを示す。判定基準はAATCC 118法に添付の判定写真により判別する。級判定についてはn=3回の評価の平均値とした。
【0067】
(汚れ除去性試験時の工業洗濯条件)
汚れ除去性試験時の洗濯耐久性および汚れ除去性の工業洗濯1回は以下の条件・順序で行った。
1.洗い(水温60℃、浴比1:10、時間15分)
洗剤:無リンダッシュ(ライオン(株)製) 2.0g/L
メタ珪酸ソーダ 2.0g/L
クレワットN(ナガセケムテックス(株)製) 1.0g/L
2.脱水(時間1分)
3.濯ぎ1(水温50℃、浴比1:10、時間3分)
4.脱水(時間1分)
5.濯ぎ2(水温35℃、浴比1:10、時間3分)
6.脱水(時間1分)
7.濯ぎ3(常水温、浴比1:10、時間3分)
8.脱水(時間1分)
9.タンブラー乾燥
【0068】
(押し込み汚れに対する汚れ除去性試験)
上記の条件による工業洗濯を50回行った後の繊維構造物と洗濯前の繊維構造物について、JIS L 1919「繊維製品の防汚性試験方法」(2006年)のC法に準じた押し込み方汚れ除去性能を評価した。JIS L 1919「繊維製品の防汚性試験方法」(2006年)のC法に規定されている親油性汚染物質-3の成分を使用した汚染物質(オイルレッド分率0.1%)を作製し、以下の手順で試験を実施した。
1.方形ろ紙の上にPETフィルムを置き、その上に8cm×8cmにカットした布帛をのせた。10cmの高さから油性汚れを0.1mL滴下し、30秒放置した。
2.汚染した布帛に布帛と同じ大きさにカットしたPETフィルムをのせ、その上から4g/cm2の荷重を30秒かけた。荷重とフィルムを外した後、円形ろ紙を乗せてろ紙の自重で汚れを吸い取った。さらに、ろ紙の位置をずらしてろ紙が汚れていない部分で再度汚れを吸い取った。ろ紙が汚れを吸い取らなくなるまでこの操作を繰り返した。ろ紙が汚染部分に触れない場合はろ紙の両端を持ち、なるべく加重をかけないようにろ紙と汚れを接触させて吸い取った。その後、温度20℃、相対湿度65%の条件下で24時間放置した。放置後、汚染した布帛を縫い合わせて、約40cm×40cmのサイズにし、洗濯を行った。汚染した布帛が足りない場合は、捨て布を縫い合わせた。
3. JIS L 0805(2005年)汚染色用グレースケールを用いて肉眼判定でSR性級判定を行った。1級から5級まであり、数値が大きいほど、防汚性が高いことを示す。以上の試験で使用する器材を表1に示す。
【0069】
【0070】
(汚れ押し込み後の汚れの広がり方の評価)
上記押し込み汚れに対する汚れ除去性試験で、汚れ付着後24時間経過した後の汚れの広がり方を目視で評価し、1~5級で判定した。
【0071】
1級:試験用布帛の内、汚れ押し込み部を除く部分の8割以上の面積に汚れが浸透した状態。
【0072】
2級:試験用布帛の内、汚れ押し込み部を除く部分の5割程度の面積に汚れが浸透した状態。
【0073】
3級:試験用布帛の内、汚れ押し込み部を除く部分の3割程度の面積に汚れが浸透した状態。
【0074】
4級:汚れ押し込み部以外にわずかに汚れが浸透した状態。
【0075】
5級:汚れ押し込み部以外に汚れの浸透が無い状態。
【0076】
以下の実施例9、実施例10は表中も含め、それぞれ比較例6、7と読み替えるものとする。
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート65%、綿35%からなる14番手の単糸をタテ糸、ヨコ
糸に使用して、ツイル織物を製織した。得られたツイル織物を95℃の温度で、連続式精
錬機で常法に従い精錬し湯水洗し、次いで130℃の温度で乾燥した。次いで、液流染色
機を用いて、130℃の温度で蛍光白色に染色し、常法により洗浄し湯水洗し乾燥して、
170℃の温度で加熱を行い、タテ密度86本/2.54cm、ヨコ密度55本/2.5
4cmの白色布帛を得た。
【0077】
次いで、後述の(A)90g/Lと、(B)18g/L、(H)4.5g/L、(I)0.75g/Lを溶解して処理液を調整し、これに上記で製造された白色布帛を拡布の状態で浸漬してマングルを用いて絞り率60%となるよう絞り、130℃の温度で乾燥し、その後、170℃の温度で加熱処理をし、防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級となった。
【0078】
(実施例2)
実施例1において、(B)を36g/Lとした以外は実施例1と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級となった。
【0079】
(実施例3)
実施例1において、ポリビニルアルコールとして(C)を18g/L使用した以外は実施例1と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級となった。
【0080】
(実施例4)
実施例1において、ポリビニルアルコールとして(D)を18g/L使用した以外は実施例1と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3級となった。
【0081】
(実施例5)
ポリエチレンテレフタレート65%、綿35%からなる48番手の単糸をタテ糸、ヨコ糸に使用して、平織物を製織した。得られた平織物を95℃の温度で、連続式精錬機で常法に従い精錬し湯水洗し、次いで130℃の温度で乾燥した。次いで、液流染色機を用いて、130℃の温度で蛍光白色に染色し、常法により洗浄し湯水洗し乾燥して、170℃の温度で加熱を行い、タテ密度138本/2.54cm、ヨコ密度72本/2.54cmの白色布帛を得た。
【0082】
次いで、実施例1と同様に防汚加工を行い、防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4-5級となった。
【0083】
(実施例6)
実施例5において、(B)を36g/Lとした以外は実施例5と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4-5級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級となった。
【0084】
(実施例7)
ポリエチレンテレフタレート55%、綿45%からなる48番手の単糸をタテ糸、ヨコ糸に使用して、平織物を製織した。得られた平織物を95℃の温度で、連続式精錬機で常法に従い精錬し湯水洗し、次いで130℃の温度で乾燥した。次いで、液流染色機を用いて、130℃の温度で蛍光白色に染色し、常法により洗浄し湯水洗し乾燥して、170℃の温度で加熱を行い、タテ密度115本/2.54cm、ヨコ密度72本/2.54cmの白色布帛を得た。
【0085】
次いで、実施例1と同様に防汚加工を行い、防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4-5級となった。
【0086】
(実施例8)
実施例7において、(B)を36g/Lとした以外は実施例7と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4-5級となった。
【0087】
(実施例9)
実施例1において、(B)の量を54g/Lとしたこと以外は実施例1と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で4-5級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2-3級となった。
【0088】
(実施例10)
実施例1において、フッ素系撥油性樹脂として、(E)を90g/L使用した以外は実施例1と同様にして防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2-3級となった。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、(B)を使用しないこと以外は実施例1と同様にして弱撥水撥油性防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2-3級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級となった。
【0090】
(比較例2)
実施例1において、(A)を使用しないこと以外は実施例1と同様にして繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で1-2級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2級となった。
【0091】
(比較例3)
比較例1において、フッ素系撥油性樹脂として、(E)を90g/L使用した以外は比較例1と同様にして吸水撥油性防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3-4級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2-3級となった。実施例8と比較して、押し込み後の汚れの広がる範囲が大きい結果であった。
【0092】
(比較例4)
実施例1で得られた白色布帛へ、(F)45g/L、(H)15g/L、(J)3.0g/Lを溶解して調整した処理液を浸漬してマングルを用いて絞り率60%となるよう絞り、105℃の飽和水蒸気雰囲気中にて5分間の処理を行った。次いで炭酸ナトリウム1g/Lとした60℃の水溶液中で1分洗浄し、水洗し、130℃の温度で乾燥し、その後、170℃の温度で加熱処理をし、撥水撥油性防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で3級となった。
【0093】
(比較例5)
比較例1において、フッ素系撥油性樹脂(A)の代わりに(G)を90g/L使用した以外は比較例1と同様にして吸水吸油性防汚性繊維構造物を得た。得られた防汚性繊維構造物の加工上がりの押し込み汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2-3級、工業洗濯50回後の押し込み法汚れ除去性は汚染用グレースケール判定で2-3級となった。
(A)“パラジン”KFS-100(京浜化成(株)製、弱撥水撥油タイプのフッ素系撥油性樹脂、固形分10%、ポリオキシエチレン基含有、撥水性2級、撥油性6級、吸水性60秒以上)
(B)ポリビニルアルコール(固形分10%、平均重合度500、ケン化度90%)
(C)ポリビニルアルコール(固形分10%、平均重合度1500、ケン化度90%)
(D)ポリビニルアルコール(固形分10%、平均重合度2000、ケン化度90%)
(E)“パラジン”KFS-150(京浜化成(株)製、吸水撥油タイプのフッ素系樹脂、固形分10%、ポリオキシエチレン基含有、撥水性1級、撥油性6級、吸水性30秒)
(F)“アサヒガード“AG-1100(旭硝子(株)製、強撥水撥油タイプのフッ素系樹脂、固形分20%、ポリオキシエチレン基含有、撥水性3級、撥油性6級、吸水性60秒以上)
(G)“ブリアン”SR2100(松本油脂製薬(株)製、固形分10%、親水性ポリエステル樹脂、撥水性1級、撥油性0、吸水性1秒以下)
(H)“アミディア”M-3(DIC(株)製トリアジン環含有化合物:固形分80%)
(I)“キャタリスト”ACX(DIC(株)製 触媒 固形分35%)
(J)過硫酸アンモニウム
以上の実施例1から8、比較例1から5の処理液組成(A)~(J)と得られた繊維構造物の性能等の結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2から明らかなように、本発明の繊維構造物である実施例1から10においては、いずれも押し込み後の汚れをはじきやすく、また、汚れが広がる範囲が小さく、汚れがつきにくかった。また、押し込み汚れに対する汚れ除去性にも優れているのに対して、本発明の防汚性繊維構造物とは異なる比較例1から5においては、実施例に比べて押し込み汚れに対する汚れ除去性が劣っている。あるいは実施例9のポリビルアルコールの量を多くした例では、またポリビニルアルコールの添加量を最適化することで、防汚性の洗濯耐久性を向上させることができた。洗濯耐久性が向上することで繰り返し洗濯後でも機能性を保持し、衣服の寿命を延ばすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の防汚性繊維構造物は、水性汚れと油性汚れに対して高い付着抑制性と洗濯による汚れ除去性を同時に有するため、一般衣料品、作業用ユニフォーム、寝装品、医療用衣類、インテリア品および産業資材品等として好適に用いられる。中でも、洗濯で落ちにくいとされる油汚れなどが付着しやすく防汚性能のニーズがある作業用ユニフォームとして好適に用いられる。