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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】微生物培養キット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
C12M1/00 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023025715
(22)【出願日】2023-02-22
(62)【分割の表示】P 2021508915の分割
【原出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2023054216
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019057730
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】高田 雅親
(72)【発明者】
【氏名】砂原 博文
(72)【発明者】
【氏名】青井 議輝
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-273399(JP,A)
【文献】特開2009-207394(JP,A)
【文献】特開2010-161979(JP,A)
【文献】特開2012-175973(JP,A)
【文献】特開2019-033678(JP,A)
【文献】特開平02-092270(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4個以上の枠体を備えており、
前記4個以上の枠体が、全て第1型枠体であり、又は、第1型枠体と第2型枠体とであり、
前記第1型枠体は、第1内部空間を囲む第1枠本体を備えており、前記第1枠本体には、前記第1内部空間へ流体を流入させるための流入路と、前記第1内部空間から流体を流出させるための流出路とが、共に開閉可能に設けられており、
前記第2型枠体は、第2内部空間を囲む第2枠本体を備えており、
前記4個以上の枠体は、相互に積層され且つ連結されて多層積層構造体を構成するようになっており、
基台及び蓋体を更に備えており、
前記基台は、最下層に配置された前記第1型枠体を前記第1内部空間を塞ぐように支持するようになっており、又は、最下層に配置された前記第2型枠体を前記第2内部空間を塞ぐように支持するようになっており、
前記蓋体は、最上層に配置された前記第1型枠体の前記第1内部空間を覆うように塞ぐようになっており、又は、最上層に配置された前記第2型枠体の前記第2内部空間を覆うように塞ぐようになっており、
前記第1枠本体は、環状の形態を有するとともに、内ネジを有する環状の外嵌部と外ネジを有する環状の内嵌部とを有しており、
前記第2枠本体は、環状の形態を有するとともに、内ネジを有する環状の外嵌部と外ネジを有する環状の内嵌部とを有しており、
前記第1枠本体の前記外嵌部は、前記第1枠本体の前記内嵌部に、及び、前記第2枠本体の前記内嵌部に、前記内ネジが前記外ネジに螺合することによって、外嵌可能であり、
前記第1枠本体の前記内嵌部は、前記第1枠本体の前記外嵌部に、及び、前記第2枠本体の前記外嵌部に、前記外ネジが前記内ネジに螺合することによって、内嵌可能であり、 前記第2枠本体の前記外嵌部は、前記第1枠本体の前記内嵌部に、及び、前記第2枠本体の前記内嵌部に、前記内ネジが前記外ネジに螺合することによって、外嵌可能であり、
前記第2枠本体の前記内嵌部は、前記第1枠本体の前記外嵌部に、及び、前記第2枠本体の前記外嵌部に、前記外ネジが前記内ネジに螺合することによって、内嵌可能であり、
前記基台は、上部に、外ネジを有する環状の内嵌部を有しており、前記内嵌部は、最下層に配置された前記第1型枠体又は前記第2型枠体の前記外嵌部に、内嵌可能であり、
前記蓋体は、下部に、内ネジを有する環状の外嵌部を有しており、前記外嵌部は、最上層に配置された前記第1型枠体又は前記第2型枠体の前記内嵌部に、外嵌可能である
ことを特徴とする微生物培養キット。
【請求項2】
前記第1型枠体は、前記流入路と前記流出路とが開いた状態では、前記第1内部空間に、栄養素含有気体又は栄養素含有液体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させることができるようになっており、前記流入路と前記流出路とが閉じた状態では、前記第1内部空間に、微生物含有培地又は栄養素含有材料又は環境成分含有材料を保持できるようになっており、
前記第2型枠体は、前記第2内部空間に、微生物含有培地又は栄養素含有材料又は環境成分含有材料を保持できるようになっている、
請求項1記載の微生物培養キット。
【請求項3】
前記第1型枠体は、前記流入路及び/又は前記流出路から外部に延びたパイプを、有している、
請求項1記載の微生物培養キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物培養装置をそれだけで構成できる微生物培養キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から行われている寒天平板表面塗抹法では、培養できる微生物は環境中の微生物の約1%であると言われている。その原因は、次のように考えられている。
(a)培養環境が閉鎖的であるために、微生物からの過剰な生成物質を系外へ排出できない。その結果、微生物の代謝産物や環境成分が、蓄積して、微生物の増殖を阻害する。
(b)固形培地において、目的微生物の成育に要求される栄養素濃度を維持するのが困難である。
【0003】
そこで、例えば特許文献1、2に示されるような培養技術が提案されている。特許文献1では、液体培地を連続的に供給しながら培養を行っている。特許文献2では、微生物を含有した固形培地を自然環境中に置いて培養を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-86654号公報
【文献】米国特許第7011957号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、培地成分のみを制御しているだけであるので、多様な培養条件を実現することができない。また、特許文献2の方法では、自然環境中の環境成分を供給しているので、安定した培養条件を実現することができない。
【0006】
しかも、特許文献1、2の培養装置は、簡素な構成を有しているとは言い難いものであった。それ故、特許文献1、2の培養装置では、培養作業も簡単ではなかった。
【0007】
本発明は、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる、簡素な構成を有する微生物培養装置を、それだけで簡単に構成できる微生物培養キットを、提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微生物培養キットは、
4個以上の枠体を備えており、
前記4個以上の枠体が、全て第1型枠体であり、又は、第1型枠体と第2型枠体とであり、
前記第1型枠体は、第1内部空間を囲む第1枠本体を備えており、前記第1枠本体には、前記第1内部空間へ流体を流入させるための流入路と、前記第1内部空間から流体を流出させるための流出路とが、共に開閉可能に設けられており、
前記第2型枠体は、第2内部空間を囲む第2枠本体を備えており、
前記4個以上の枠体は、相互に積層され且つ連結されて多層積層構造体を構成するようになっており、
基台及び蓋体を更に備えており、
前記基台は、最下層に配置された前記第1型枠体を前記第1内部空間を塞ぐように支持するようになっており、又は、最下層に配置された前記第2型枠体を前記第2内部空間を塞ぐように支持するようになっており、
前記蓋体は、最上層に配置された前記第1型枠体の前記第1内部空間を覆うように塞ぐようになっており、又は、最上層に配置された前記第2型枠体の前記第2内部空間を覆うように塞ぐようになっている、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡素な構成の微生物培養装置を構成できる。そして、構成された微生物培養装置は、簡単な作業で微生物を培養できるので、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態の微生物培養キットを示す斜視図である。
図2】微生物培養キットの第1型枠体を示す平面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
図4】第1型枠体同士の連結作業を示す断面図である。
図5】バイブを示す一部断面側面図である。
図6図5のVI矢視図である。
図7】第1実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置を示す断面略図である。
図8】基台の斜視図である。
図9図8のIX矢視図である。
図10図9のX-X断面図である。
【0011】
図11】蓋体の底面図である。
図12図11のXII-XII断面図である。
図13】第1実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第1変形例を示す断面略図である。
図14】第1実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第2変形例を示す断面略図である。
図15】第1実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第3変形例を示す断面略図である。
図16】本発明の第2実施形態の微生物培養キットを示す斜視図である。
図17】微生物培養キットの第2型枠体を示す平面図である。
図18図17のXVIII-XVIII断面図である。
図19】第1型枠体と第2型枠体との連結作業を示す断面図である。
図20】第2実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第1変形例を示す断面略図である。
【0012】
図21】第2実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第2変形例を示す断面略図である。
図22】第2実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第3変形例を示す断面略図である。
図23】第2実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第4変形例を示す断面略図である。
図24】本発明の第3実施形態の微生物培養キットの一例を示す斜視図である。
図25】本発明の第3実施形態の微生物培養キットの別例を示す斜視図である。
図26図24の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置を示す断面略図である。
図27図24の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第1変形例を示す断面略図である。
図28図25の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置を示す断面略図である。
図29図25の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置の第1変形例を示す断面略図である。
図30】本発明の第5実施形態の微生物培養キットの一例を示す斜視図である。
【0013】
図31図30のXXXI矢視図である。
図32図30のXXXII矢視図(平面図)である。
図33図32のXXXIII-XXXIII断面図である。
図34図32に示される断面の斜視図である。
図35】第5実施形態の微生物培養キットによって構成された微生物培養装置を示す断面略図である。
図36】第2型枠体の変形例を示す斜視図である。
図37図36のXXXVII矢視図である。
図38図37のXXXVIII-XXXVIII断面図である。
図39図36の第2型枠体の断面斜視拡大図である。
図40】実施例で用いた微生物培養装置を示す断面略図である。
図41】実施例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の微生物培養キットの実施形態を、図を参照しながら説明する。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態の微生物培養キットは、相互に積層可能な2個の枠体を備えている。そして、図1に示されるように、本実施形態の微生物培養キット10Aでは、2個の枠体が、共に、第1型枠体1である。
【0016】
図2は、第1型枠体1の平面図である。図3は、図2のIII-III断面図である。第1型枠体1は、第1内部空間11を囲む環状の第1枠本体12を備えている。第1枠本体12は、図3に示されるように、下部に、内ネジ121を有する環状の外嵌部122を有しており、上部に、外ネジ123を有する環状の内嵌部124を有している。外嵌部122は、内嵌部124に外嵌可能な寸法を有している。内嵌部124は、外嵌部122に内嵌可能な寸法を有している。第1内部空間11は、外嵌部122で囲まれた内部空間111と、それ以外の内部空間112と、を有している。内嵌部124は、上面にOリング125を有している。
【0017】
2個の第1型枠体1は、図4に示されるように、上方に位置する第1型枠体1の内ネジ121を下方に位置する第1型枠体1の外ネジ123に螺合させることによって、積層され且つ連結されるようになっている。連結された2個の第1型枠体1は、Oリング125によってシールされる。
【0018】
更に、第1枠本体12は、内部空間11へ流体を流入させるための流入路13と、内部空間11から流体を流出させるための流出路14と、を有している。流入路13及び流出路14のそれぞれには、図5に示されるようなパイプ15、16が連結されて外部に向けて径方向に突出していることが、好ましい。なお、図5は、パイプ15の一部断面側面図であり、図6は、図5のVI矢視図である。流入路13及び流出路14は、パイプ15、16の代わりに栓17(図7)を詰めることによって閉じることができるようになっている。これによって、流入路13及び流出路14は、開閉可能となっている。
【0019】
第1型枠体1は、流入路13及び流出路14が開いた状態では、第1内部空間11に流体を流通させることができるようになっている。流体とは、栄養素含有気体又は栄養素含有液体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体である。また、第1型枠体1は、流入路13及び流出路14が閉じた状態では、第1内部空間11に、微生物含有培地又は栄養素含有材料又は環境成分含有材料を保持できるようになっている。
【0020】
本実施形態の微生物培養キット10Aは、次のように使用できる。すなわち、図7に示されるように、2個の第1型枠体1を積層することによって二層積層構造体を構成でき、この二層積層構造体を微生物培養装置100Aとして使用できる。この二層積層構造体では、流入路13及び流出路14が閉じた状態の第1型枠体1が下層に配置されており、流入路13及び流出路14が開いた状態の第1型枠体1が上層に配置されている。なお、上層の第1型枠体1と下層の第1型枠体1との間には、メンブレンフィルター(図示せず)を配置することが、好ましい。そして、微生物培養装置100Aでは、下層の第1型枠体1が、第1内部空間11に微生物含有培地を保持しており、上層の第1型枠体1が、第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させるようになっている。すなわち、微生物培養装置100Aは、微生物含有培地を保持した下層の第1型枠体1からなる層状の培養部Aと、培養部Aの第1表面A11に配置された上層の第1型枠体1からなり、培養部Aに栄養素を供給する、層状の栄養素供給部Bと、からなる二層積層構造を、有している。
【0021】
なお、下層の第1型枠体1は、基台8上に積層されることが、好ましい。図8図10は、基台8を示している。図8は、基台8の斜視図である。図9は、図8のIX矢視図である。図10は、図9のX-X断面図である。基台8は、平面視円形の板体であり、上部に、外ネジ81を有する内嵌部82を有している。内嵌部82は、第1枠本体1の外嵌部122に内嵌可能な寸法を、有している。
【0022】
また、上層の第1型枠体1は、第1内部空間11を覆うように蓋体7で塞がれていることが、好ましい。図11及び図12は、蓋体7を示している。図11は、蓋体7の底面図である。図12は、図11のXII-XII断面図である。蓋体7は、平面視円形の板体であり、下部に、内ネジ71を有する環状の外嵌部72を有している。外嵌部72は、第1枠本体12の内嵌部124に外嵌可能な寸法を、有している。
【0023】
上記構成の微生物培養装置100Aによれば、上層の第1型枠体1の第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させることにより、下層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、上側から栄養素を供給できるので、微生物を培養できる。
【0024】
なお、上層の第1型枠体1の第1内部空間11には、栄養素含有液体に代えて、栄養素含有気体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させてもよい。環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させた場合には、下層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、上側から環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0025】
このように、微生物培養装置100Aによれば、簡単な作業で微生物を培養でき、しかも、供給する栄養素又は環境成分の、種類又は濃度などを簡単に変更できる。したがって、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0026】
本実施形態の微生物培養キット10Aは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)図7に示されるような二層積層構造の微生物培養装置100Aを構成できる。
(b)第1型枠体1を2個備えるだけであるので、簡素な構成の微生物培養装置を実現できる。
(c)内ネジ及び外ネジを用いた螺合機構によって、2個の第1型枠体1を連結するだけで、微生物培養装置100Aを構成できるので、装置の生産性を向上でき、よって、微生物の培養作業に容易に着手できる。
(d)第1型枠体1は、第1内部空間11を囲む環状の第1枠本体12からなっているので、簡素な構成を有している。すなわち、本実施形態の微生物培養キット10Aは、簡素な構成部品からなっている。
【0027】
[第1実施形態の変形例]
(1)図13に示されるように、図7の装置に比して、上層と下層とが逆であってもよい。この場合には、上層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、下側から栄養素又は環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0028】
(2)一方の第1型枠体1が、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えていることが、好ましい。センサーは、温度センサー、pHセンサー、及びガス濃度センサーから、選択される。また、同じ一方の第1型枠体1には、微生物含有培地に外部から物理的刺激を付与する1種以上の刺激付与部が、付設されていることが、好ましい。なお、「一方の第1型枠体1」は、微生物含有培地を保持するのに使用される。
【0029】
例えば、図14に示される微生物培養装置100Aでは、下層の第1型枠体1が、温度センサー51、pHセンサー52、及び超音波発振器53を備えている。この場合には、温度センサー51及びpHセンサー52によって、微生物の培養状態を検知し、外部機器(図示せず)によってモニターできるので、培養状態を迅速且つ的確に判断できる。しかも、モニター結果に基づいて、上層の第1型枠体1に流通させる栄養素含有液体又は栄養素含有気体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できるので、培養の途中であっても、微生物に適した培養条件を容易に実現できる。
【0030】
(3)2個の第1型枠体1を、共に、流入路13及び流出路14が閉じた状態で使用してもよい。図15に示される微生物培養装置100Aでは、流入路13及び流出路14が閉じた状態の第1型枠体1が、上層と下層とに配置されている。この場合には、一方(例えば下層)の第1型枠体1が微生物含有培地を保持しており、他方(例えば上層)の第1型枠体1が栄養素含有材料又は環境成分含有材料を保持している。これによっても、一方の第1型枠体1の第1内部空間1内の微生物に、他方の第1型枠体1から栄養素又は環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0031】
[第2実施形態]
本実施形態の微生物培養キットは、相互に積層可能な2個の枠体を備えている。そして、図16に示されるように、本実施形態の微生物培養キット10Bでは、2個の枠体が、第1型枠体1と第2型枠体2とである。
【0032】
図17は、第2型枠体2の平面図である。図18は、図17のXVIII-XVIII断面図である。第2型枠体2は、第2内部空間21を囲む環状の第2枠本体22を備えている。第2枠本体22は、図18に示されるように、下部に、内ネジ221を有する環状の外嵌部222を有しており、上部に、外ネジ223を有する環状の内嵌部224を有している。外嵌部222は、内嵌部224及び第1型枠体1の内嵌部124に外嵌可能な寸法を有している。内嵌部224は、外嵌部222及び第1型枠体1の外嵌部122に内嵌可能な寸法を有している。第2内部空間21は、外嵌部222で囲まれた内部空間211と、それ以外の内部空間212と、を有している。内嵌部224は、上面にOリング225を有している。
【0033】
第1型枠体1は、第1実施形態の第1型枠体1と同じである。なお、第1型枠体1の外嵌部122は、第2型枠体2の内嵌部224に外嵌可能な寸法を有しており、第1型枠体1の内嵌部124は、第2型枠体2の外嵌部222に内嵌可能な寸法を有している。
【0034】
第1型枠体1と第2型枠体とは、例えば図19に示されるように、上方に位置する第1型枠体1の内ネジ121を下方に位置する第2型枠体2の外ネジ223に螺合させることによって、積層され且つ連結されるようになっている。この場合、連結された第1型枠体1と第2型枠体2とは、Oリング225によってシールされる。
【0035】
そして、第2型枠体2は、第2内部空間21に微生物含有培地又は栄養素含有材料又は環境成分含有材料を保持できるようになっている。
【0036】
本実施形態の微生物培養キット10Bは、次のように使用できる。すなわち、図20に示されるように、第1型枠体1を第2型枠体2に積層することによって二層積層構造体を構成でき、この二層積層構造体を微生物培養装置100Bとして使用できる。この二層積層構造体では、第2型枠体2が下層に配置されており、流入路13及び流出路14が開いた状態の第1型枠体1が上層に配置されている。なお、上層の第1型枠体1と下層の第2型枠体2との間には、メンブレンフィルター(図示せず)を配置することが、好ましい。そして、微生物培養装置100Bでは、下層の第2型枠体2が、第2内部空間21に微生物含有培地を保持しており、上層の第1型枠体1が、第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させるようになっている。すなわち、微生物培養装置100Bは、微生物含有培地を保持した下層の第2型枠体2からなる層状の培養部Aと、培養部Aの第1表面A11に配置された上層の第1型枠体1からなり、培養部Aに栄養素を供給する、層状の栄養素供給部Bと、からなる二層積層構造を、有している。
【0037】
なお、下層の第2型枠体2は、基台8上に積層されることが、好ましい。また、上層の第1型枠体1は、蓋体7で塞がれていることが、好ましい。蓋体7及び基台8は、第1実施形態で用いる蓋体7及び基台8と同じである。なお、蓋体7の外嵌部72は、第2型枠体2の内嵌部224に外嵌可能な寸法を、有しており、基台8の内嵌部82は、第2型枠体2の外嵌部222に内嵌可能な寸法を、有している。
【0038】
上記構成の微生物培養装置100Bによれば、上層の第1型枠体1の第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させることにより、下層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、上側から栄養素を供給できるので、微生物を培養できる。
【0039】
なお、上層の第1型枠体1の第1内部空間11には、栄養素含有液体に代えて、栄養素含有気体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させてもよい。環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させた場合には、下層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、上側から環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0040】
このように、微生物培養装置100Bによれば、簡単な作業で微生物を培養でき、しかも、供給する栄養素又は環境成分の、種類又は濃度などを簡単に変更できる。したがって、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0041】
本実施形態の微生物培養キット10Bは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)図20に示されるような二層積層構造の微生物培養装置100Bを構成できる。
(b)第1型枠体1と第2型枠体2とを備えるだけであるで、簡素な構成の微生物培養装置を実現できる。
(c)内ネジ及び外ネジを用いた螺合機構によって、第1型枠体1と第2型枠体2とを連結するだけで、微生物培養装置100Bを構成できるので、装置の生産性を向上でき、よって、微生物の培養作業に容易に着手できる。
(d)第1型枠体1及び第2型枠体2は、内部空間を囲む環状の枠本体からなっているので、簡素な構成を有している。すなわち、本実施形態の微生物培養キット10Bは、簡素な構成部品からなっている。
【0042】
[第2実施形態の変形例]
(1)図21に示されるように、図20の装置に比して、上層と下層とが逆であってもよい。この場合には、上層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、下側から栄養素又は環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0043】
(2)第2型枠体2が、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えていることが、好ましい。センサーは、温度センサー、pHセンサー、及びガス濃度センサーから、選択される。また、第2型枠体2には、微生物含有培地に外部から物理的刺激を付与する1種以上の刺激付与部が、付設されていることが、好ましい。なお、第2型枠体2は、微生物含有培地を保持するのに使用される。
【0044】
例えば、図22に示される微生物培養装置100Bでは、下層の第2型枠体2が、温度センサー51、pHセンサー52、及び超音波発振器53を備えている。この場合には、温度センサー51及びpHセンサー52によって、微生物の培養状態を検知し、外部機器(図示せず)によってモニターできるので、培養状態を迅速且つ的確に判断できる。しかも、モニター結果に基づいて、上層の第1型枠体1に流通させる栄養素含有液体又は栄養素含有気体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できるので、培養の途中であっても、微生物に適した培養条件を容易に実現できる。
【0045】
なお、図23に示されるように、第1型枠体1を、流入路13及び流出路14が閉じた状態で使用することとし、第1型枠体1又は第2型枠体2の一方が微生物含有培地を保持し、第1型枠体1又は第2型枠体2の他方が栄養素含有材料又は環境成分含有材料を保持してもよい。第1型枠体1が微生物含有培地を保持する場合には、第1型枠体1が、温度センサー51、pHセンサー52、及び超音波発振器53を備えてもよい。
【0046】
[第3実施形態]
本実施形態の微生物培養キットは、第1実施形態の微生物培養キット10Aに、更に1個の枠体を追加したものである。そして、追加の1個の枠体は、第1型枠体1又は第2型枠体2である。すなわち、本実施形態の微生物培養キットは、図24に示されるように、3個の第1型枠体1を備えた微生物培養キット10Cと、図25に示されるように、2個の第1型枠体1と1個の第2型枠体2とを備えた微生物培養キット10Dと、を含んでいる。なお、第1型枠体1は第1実施形態の第1型枠体1と同じであり、第2型枠体2は第2実施形態の第2型枠体2と同じである。
【0047】
(微生物培養キット10C)
本実施形態の微生物培養キット10Cは、次のように使用できる。すなわち、図26に示されるように、3個の第1型枠体1を積層することによって三層積層構造体を構成でき、この三層積層構造体を微生物培養装置100Cとして使用できる。この三層積層構造体では、流入路13及び流出路14が開いた状態の第1型枠体1が上層と下層とに配置されており、流入路13及び流出路14が閉じた状態の第1型枠体1が中層に配置されている。なお、各層の間には、メンブレンフィルター(図示せず)を配置することが、好ましい。そして、微生物培養装置100Cでは、中層の第1型枠体1が、第1内部空間11に微生物含有培地を保持しており、上層の第1型枠体1が、第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させるようになっており、下層の第1型枠体1が、第1内部空間11に環境成分含有液体を流通させるようになっている。すなわち、微生物培養装置100Cは、微生物含有培地を保持した中層の第1型枠体1からなる層状の培養部Aと、培養部Aの第1表面A11に配置された上層の第1型枠体1からなり、培養部Aに栄養素を供給する、層状の栄養素供給部Bと、培養部Aの第2表面A12に配置された下層の第1型枠体1からなり、培養部Aに環境成分を供給する、層状の環境成分供給部Cと、からなる三層積層構造を、有している。
【0048】
3個の第1型枠体1の積層及び連結は、上方に位置する第1型枠体1の内ネジ121を下方に位置する第1型枠体1の外ネジ123に螺合させることによって、実行できる。連結された第1型枠体1同士は、Oリング125によってシールされる。
【0049】
なお、下層の第1型枠体1は、基台8上に積層されることが、好ましい。また、上層の第1型枠体1は、蓋体7で塞がれていることが、好ましい。蓋体7及び基台8は、第1実施形態及び第2実施形態で用いられる蓋体7及び基台8と同じである。
【0050】
上記構成の微生物培養装置100Cによれば、上層の第1型枠体1の第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させるとともに、下層の第1型枠体1の第1内部空間11に環境成分含有液体を流通させることにより、中層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、上側から栄養素を供給できるとともに下側から環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0051】
なお、上層の第1型枠体1の第1内部空間11には、栄養素含有液体に代えて、栄養素含有気体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させてもよい。環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させた場合には、中層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、上側からも環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0052】
また、下層の第1型枠体1の第1内部空間11には、環境成分含有液体に代えて、環境成分含有気体又は栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させてもよい。栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させた場合には、中層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、下側からも栄養素を供給できるので、微生物を培養できる。
【0053】
本実施形態の微生物培養キット10Cは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)図26に示されるような三層積層構造の微生物培養装置100Cを構成できる。
(b)第1型枠体1を3個備えるだけであるで、簡素な構成の微生物培養装置を実現できる。
(c)内ネジ及び外ネジを用いた螺合機構によって、3個の第1型枠体1を連結するだけで、微生物培養装置100Cを構成できるので、装置の生産性を向上でき、よって、微生物の培養作業に容易に着手できる。
(d)第1型枠体1は、内部空間を囲む環状の枠本体であるので、簡素な構成を有している。すなわち、本実施形態の微生物培養キット10Cは、簡素な構成部品からなっている。
【0054】
なお、微生物培養装置100Cにおいては、中層に配置する第1型枠体1だけに限らず、上層及び下層の少なくとも一方に配置する第1型枠体1を、流入路13及び流出路14が閉じた状態で使用してもよい。図27に示される微生物培養装置100Cでは、下層の第1型枠体1も、流入路13及び流出路14が閉じた状態で使用している。そして、中層の第1型枠体1が微生物含有培地を保持しており、上層の第1型枠体1が栄養素含有液体又は栄養素含有気体を流通させるようになっており、下層の第1型枠体1が環境成分含有材料を保持している。これによっても、中層の第1型枠体1の第1内部空間11内の微生物に、上側から栄養素を供給できるとともに下側から環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。なお、図27の場合、上層の第1型枠体1が環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させるようになっており、下層の第1型枠体1が栄養素含有材料を保持してもよい。
【0055】
(微生物培養キット10D)
本実施形態の微生物培養キット10Dは、次のように使用できる。すなわち、図28に示されるように、第2型枠体2の上下に第1型枠体1を積層することによって三層積層構造体を構成でき、この三層積層構造体を微生物培養装置100Dとして使用できる。この三層積層構造体では、流入路13及び流出路14が開いた状態の第1型枠体1が上層と下層とに配置されており、第2型枠体2が中層に配置されている。なお、各層の間には、メンブレンフィルター(図示せず)を配置することが、好ましい。そして、微生物培養装置100Dでは、中層の第2型枠体2が、第2内部空間21に微生物含有培地を保持しており、上層の第1型枠体1が、第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させるようになっており、下層の第1型枠体1が、第1内部空間11に環境成分含有液体を流通させるようになっている。すなわち、微生物培養装置100Dは、微生物含有培地を保持した中層の第2型枠体2からなる層状の培養部Aと、培養部Aの第1表面A11に配置された上層の第1型枠体1からなり、培養部Aに栄養素を供給する、層状の栄養素供給部Bと、培養部Aの第2表面A12に配置された下層の第1型枠体1からなり、培養部Aに環境成分を供給する、層状の環境成分供給部Cと、からなる三層積層構造を、有している。
【0056】
第1型枠体1と第2型枠体2との積層及び連結は、上方に位置する第1型枠体1の内ネジ121を下方に位置する第2型枠体2の外ネジ223に螺合させることによって、実行でき、両者はOリング225によってシールされ、また、第2型枠体2と第1型枠体1との積層及び連結は、上方に位置する第2型枠体2の内ネジ221を下方に位置する第1型枠体1の外ネジ123に螺合させることによって、実行でき、両者はOリング125によってシールされる。
【0057】
なお、下層の第1型枠体1は、基台8上に積層されることが、好ましい。また、上層の第1型枠体1は、蓋体7で塞がれていることが、好ましい。蓋体7及び基台8は、第1実施形態及び第2実施形態で用いられる蓋体7及び基台8と同じである。
【0058】
上記構成の微生物培養装置100Dによれば、上層の第1型枠体1の第1内部空間11に栄養素含有液体を流通させるとともに、下層の第1型枠体1の第1内部空間11に環境成分含有液体を流通させることにより、中層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、上側から栄養素を供給できるとともに下側から環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0059】
なお、上層の第1型枠体1の第1内部空間11には、栄養素含有液体に代えて、栄養素含有気体又は環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させてもよい。環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させた場合には、中層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、上側からも環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。
【0060】
また、下層の第1型枠体1の第1内部空間11には、環境成分含有液体に代えて、環境成分含有気体又は栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させてもよい。栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させた場合には、中層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、下側からも栄養素を供給できるので、微生物を培養できる。
【0061】
本実施形態の微生物培養キット10Dは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)図28に示されるような三層積層構造の微生物培養装置100Dを構成できる。
(b)2個の第1型枠体1と1個の第2型枠体2とを備えるだけであるで、簡素な構成の微生物培養装置を実現できる。
(c)内ネジ及び外ネジを用いた螺合機構によって、2個の第1型枠体1と1個の第2型枠体2とを連結するだけで、微生物培養装置100Dを構成できるので、装置の生産性を向上でき、よって、微生物の培養作業に容易に着手できる。
(d)第1型枠体1及び第2型枠体2は、内部空間を囲む環状の枠本体であるので、簡素な構成を有している。すなわち、本実施形態の微生物培養キット10Dは、簡素な構成部品からなっている。
【0062】
なお、微生物培養装置100Dにおいては、上層及び下層の少なくとも一方に配置する第1型枠体1を、流入路13及び流出路14が閉じた状態で使用してもよい。図29に示される微生物培養装置100Dでは、上層及び下層の第1型枠体1を、流入路13及び流出路14が閉じた状態で使用している。そして、中層の第2型枠体2が微生物含有培地を保持しており、上層の第1型枠体1が栄養素含有材料を保持しており、下層の第1型枠体1が環境成分含有材料を保持している。これによっても、中層の第2型枠体2の第2内部空間21内の微生物に、上側から栄養素を供給できるとともに下側から環境成分を供給できるので、微生物を培養できる。なお、図29の場合、上層の第1型枠体1が環境成分含有材料を保持し、下層の第1型枠体1が栄養素含有材料を保持してもよい。
【0063】
[第4実施形態]
本実施形態の微生物培養キットは、第2実施形態の微生物培養キット10Bに、更に1個の枠体を追加したものである。そして、追加の1個の枠体は、第1型枠体1である。すなわち、本実施形態の微生物培養キットは、2個の第1型枠体1と1個の第2型枠体2とを備えている。したがって、本実施形態の微生物培養キットは、第3実施形態の微生物培養キット10Dと同じである。
【0064】
[第5実施形態]
本実施形態の微生物培養キットは、第1実施形態~第4実施形態の微生物培養キット10A~10Dを任意に複数選択して含んでいる。これによれば、4個以上の枠体を積層することによって多層積層構造体を構成でき、この多層積層構造体を微生物培養装置として使用できる。図30は、7個の枠体が積層された七層積層構造体からなる微生物培養装置100Eを示す斜視図である。図31は、図30のXXXI矢視図である。図32は、図30のXXXII矢視図(平面図)である。図33は、図32のXXXIII-XXXIII断面図である。図34は、図32に示される断面の斜視図である。
【0065】
この七層積層構造体では、最下層(第1層)が第1型枠体1であり、第2層~第6層が第2型枠体2であり、最上層(第7層)が第1型枠体1である。なお、第1層の第1型枠体1は、基台8上に積層されており、第7層の第1型枠体1は、蓋体7によって塞がれている。
【0066】
そして、微生物培養装置100Eでは、第1層の第1型枠体1が、環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させるようになっており、第2層~第4層及び第6層の第2型枠体2が、微生物含有培地を保持しており、第5層の第2型枠体2が、栄養素含有材料を保持しており、第7層の第1型枠体1は、栄養素含有液体又は栄養素含有気体を流通させるようになっている。
【0067】
すなわち、微生物培養装置100Eは、断面略図である図35に示されるように、微生物含有培地を保持した第2層~第4層及び第6層の第2型枠体2からなる4個の培養部Aと、培養部Aに栄養素を供給する第5層及び第7層の2個の栄養素供給部Bと、培養部Aに環境成分を供給する第1層の1個の環境成分供給部Cと、からなる七層積層構造を、有している。なお、第2層~第4層及び第6層の第2型枠体2には、それぞれ、温度センサー51、pHセンサー52、及び超音波発振器53が、設けられている。また、各層の間には、メンブレンフィルター55が配置されている。
【0068】
このような微生物培養装置100Eは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)第1層の第1型枠体1に環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させることにより、第2層~第4層の第2型枠体2内の微生物に、下側から環境成分を供給でき、上側からは栄養素を供給できるので、第2層~第4層の第2型枠体2内で微生物を培養できる。また、第7層の第1型枠体1に栄養素含有液体又は栄養素含有気体を流通させることにより、第6層の第2型枠体2内の微生物に、下側からも上側からも栄養素を供給できるので、第6層の第2型枠体2内で微生物を培養できる。
【0069】
(b)第1層~第5層の積層構造体と第5層~第7層の積層構造体とにおける培養条件が異なっているので、2通りの培養条件を実行できる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0070】
(c)第2層~第4層では、培養部Aが三層構造であるので、各層における培養条件が異なっている。例えば、供給される環境成分の濃度は、第2層が最も高くなり、第4層が最も低くなる。また、供給される栄養素の濃度は、第4層が最も高くなり、第2層が最も低くなる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0071】
(d)第1層に環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させるとともに第7層に栄養素含有液体又は栄養素含有気体を流通させるだけで微生物を培養できるので、微生物の培養を簡単に実行できる。したがって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0072】
(e)第1型枠体1と第2型枠体2とを相互に連結するだけで組み立てることができるので、装置の生産性を向上できる。
【0073】
(f)第1型枠体1及び第2型枠体2は、連結を解除することによって容易に取り外すことができ、代わりの別の第1型枠体1又は第2型枠体2を新たに連結できる。すなわち、各層は、容易に交換できる。したがって、培養条件を容易に変更でき、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。例えば、栄養素供給部である第5層及び/又は第7層を、別の栄養素供給部である第1型枠体1又は第2型枠体2と交換でき又は環境成分供給部である第1型枠体1又は第2型枠体2と交換できる。また、環境成分供給部である第1層を、別の環境成分供給部である第1型枠体1又は第2型枠体2と交換でき又は栄養素供給部である第1型枠体1又は第2型枠体2と交換できる。
【0074】
(g)層の数を増やすことによって、培養部Aの両面に栄養素供給部B及び/又は環境成分供給部Cを有する三層積層構造体の数を、増やすことができる。そして、それらの三層積層構造体毎に、培養条件を異ならせることができる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0075】
(h)第5層及び/又は第7層に流通させる栄養素含有液体又は栄養素含有気体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる。また、第1層に流通させる環境成分含有液体又は環境成分含有気体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる。したがって、多様な培養条件の実現を容易に行うことができ、微生物に適した培養条件の選定作業を容易に行うことができる。
【0076】
(i)温度センサー41及び/又はpHセンサー42によって、第2層~第4層及び第6層内の微生物の培養状態を検知してモニターできる。したがって、各層における培養状態を迅速且つ的確に判断できる。
【0077】
(j)モニター結果に基づいて、第5層及び/又は第7層に流通させる栄養素含有液体又は栄養素含有気体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更でき、また、第1層に流通させる環境成分含有液体又は環境成分含有気体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる。したがって、培養の途中であっても、微生物に適した培養条件を容易に実現できる。
【0078】
(k)超音波発振器43によって第2層~第4層及び第6層内の微生物に振動を付与することにより、培養を活性化させることができる。したがって、培養効率を向上できる。
【0079】
[別の実施形態]
(1)第1型枠体1及び第2型枠体2は、環状に限るものではなく、平面視で、三角形、四角形、その他の多角形、又は楕円形などの外形を、有してもよい。
【0080】
(2)第1型枠体1同士の連結、及び、第1型枠体1と第2型枠体2との連結は、内ネジ及び外ネジを用いた螺合機構に限るものではなく、例えば、スライド嵌合機構、凹凸嵌合機構、又は外部連結部材によって、実行できる。
【0081】
(3)図36図38は、別の第2型枠体2Aを示している。この第2型枠体2Aでは、第2内部空間21が多数個の貫通孔210で構成されている。図36は、第2型枠体2Aの斜視図である。図37は、図36のXXXVII矢視図である。図38は、図37のXXXVIII-XXXVIII断面図である。第2型枠体2Aは、下部に、内ネジ221を有する環状の外嵌部222を有しており、上部に、外ネジ223を有する内嵌部224Aを有している。第2内部空間21は、外嵌部222で囲まれた内部空間211と、それ以外の内部空間と、を有しており、「それ以外の内部空間」が多数の貫通孔210からなっている。この第2型枠体2Aでは、全ての貫通孔210に、微生物含有培地が充填される。
【0082】
(4)第2型枠体2Aは、図39に示されるように、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43を、備えてもよい。これらは、貫通孔210の一つ一つに設けられている。温度センサー41及びpHセンサー42は、貫通孔210に充填されている微生物含有培地の温度及びpHを検知するように、第2型枠体2Aの内部に配置されており、外部機器(図示せず)に接続されている。外部機器は、両センサー41、42を介して、微生物含有培地の温度及びpHをモニターできるようになっている。超音波発振器43は、貫通孔210に充填されている微生物含有培地に振動を付与できるように、第2型枠体2Aの内部に配置されている。
【0083】
(5)培養部Aを構成する第2型枠体2の内部空間212(図18)は、横方向に任意に仕切られた空間でもよく、又は、上下方向に任意に仕切られた空間でもよい。
【0084】
(6)第1型枠体1を、流入路13及び流出路14が閉じた状態で、培養部Aとして使用する場合には、第1内部空間11は、横方向に任意に仕切られた空間でもよく、又は、上下方向に任意に仕切られた空間でもよい。
【0085】
(7)流入路13及び流出路14の開閉機構は、栓17を用いる機構に限るものではなく、開閉蓋を用いる機構、逆止弁を用いる機構などでもよい。
【0086】
[実施例]
第5実施形態の微生物培養キットを用いて構成された微生物培養装置100Eを使用した。但し、図40に示されるように、第5層としては、第2型枠体2ではなく第1型枠体1を使用した。
【0087】
(各部の構成)
・栄養素供給部(第7層)
・基質A液
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 0.32g/100mL
純水 100mL
【0088】
・栄養素供給部(第5層)
・基質B液
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 0.032g/100mL
純水 100mL
【0089】
・環境成分供給部(第1層)
・土壌抽出液
・土壌5gに対して純水15gの割合で作製した。
【0090】
・培養部(第2層~第4層及び第6層)
・カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 1.5g/100mL
純水 95mL
・上記のカンテン水溶液を、オートクレーブ(121℃/20分間)処理し、60℃付近になったら土壌抽出希釈液5mLを添加し、攪拌後に培養部であるジャケットの内部空間に充填した。なお、土壌抽出希釈液は、土壌5gに純水15mLを加えて攪拌し、1時間放置後の上澄を、逐次希釈で10000倍に希釈して、作製した。
・各部の間には、メンブレンフィルターVCWP(メルクミリポア株式会社製 0.1μm)を配置した。
【0091】
(培養作業)
栄養素供給部(第7層)に基質A液を、栄養素供給部(第5層)に基質B液を、及び環境成分供給部(第1層)に土壌抽出液を、連続的に1週間流通させて、培養を行った。
【0092】
(解析作業)
培養後に、培養部に生成したコロニーを、回収し、テクノスルガ・ラボ株式会社において、遺伝子解析を行った。16SrDNAのV1~V4領域の約600塩基に関して、相同性解析を実施し、簡易分子系統樹を作成し、種の同定を行った。相同率は塩基配列の一致度を示し、相同率が98%よりも低い場合に、新種と判断した。
・DNA抽出 アクロモペプチダーゼ(富士フィルム和光純薬株式会社製)
・PCR増幅 PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)
・サイクルシーケンス BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems製)
・塩基配列決定 ChromasPro1.7(Technelysium製)
・データベース DB-BA12.0(テクノスルガ・ラボ株式会社製)
国際塩基配列データベース
検索日:2018年3月15日
【0093】
(比較例)
寒天平板表面塗抹法によってコロニーを生成し、同様の遺伝子解析を実施した。
【0094】
(解析結果)
図41は、遺伝子解析の結果を示す。図41において、Aは既知種100~98%を示し、Bは新種98~94%を示し、Cは新属94~91%を示し、Dは新目91%未満を示している。本実施例によれば、獲得できた微生物の約40%が新種相当であり、新目及び新属レベルの新しい微生物も獲得できた。よって、難培養微生物の獲得に非常に有効であることを、確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の微生物培養キットは、簡素な構成の微生物培養装置を構成できるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0096】
1 第1型枠体
11 第1内部空間
12 第1枠本体
121 内ネジ
123 外ネジ
13 流入路
14 流出路
15、16 パイプ
2 第2型枠体
21 第2内部空間
22 第2枠本体
221 内ネジ
223 外ネジ
7 蓋体
8 基台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41