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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】機能層付きリフレクトアレイ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240611BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H05K1/02 N
H05K1/02 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023125559
(22)【出願日】2023-08-01
【審査請求日】2023-10-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 大輝
(72)【発明者】
【氏名】今井 順平
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎平
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/140193(WO,A1)
【文献】特開2022-119212(JP,A)
【文献】特開2022-155846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランド層と、誘電体層と、素子パターンを備え、
さらに前記素子パターンの少なくとも上面および側面を覆う付加機能層を備えたリフレクトアレイにおける素子パターンの良否識別方法であって
前記素子パターンの厚みL(μm)が以下の式(1)を満たし、

1.0≦L (1)
前記側面は、前記素子パターンの下面に接続されている第1端と、前記上面に接続されている第2端を有し、
断面において前記第1端と前記第2端とを結ぶ直線と、前記第2端から前記下面への垂線との角度α(°)が以下の式(2)を満たし、

α≧10 (2)
前記側面を、以下の式(3)から求めたNを用いて厚さ方向に等間隔にNの地点で分割し、前記第2端に最も近い分割地点を第1地点、前記第1端に最も近い分割地点を第N地点としたときに、断面において第(i-1)地点と第i地点を結ぶ直線と前記第2端から前記下面への垂線との角度βiが任意のi(i=1~N+1)で以下の式(4)を満たす

N=[L] (3)
(N=1、2・・)

βi≧0 (4)
(iは1≦i≦N+1を満たす整数。ただし第0地点は前記第2端に、第N+1地点は前記第1端に相当する。)
場合に良とする、リフレクトアレイにおける素子パターンの良否識別方法。
【請求項2】
密着向上層をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のリフレクトアレイにおける素子パターンの良否識別方法
【請求項3】
前記素子パターンの形状がクロスパッチである、請求項1または2に記載のリフレクトアレイにおける素子パターンの良否識別方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能層付きリフレクトアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
社会におけるデジタル化の進展により、無線通信におけるデータ通信速度が飛躍的に向上し、それに伴う電磁波の高周波化が進んでいる。しかし、電磁波は周波数が高くなるにつれて直進性が高くなるため、建物の影等に電磁波が回り込まず、通信ができない領域である不感地帯が生じやすい。
これらの理由から、広範囲における5G・6G通信を実現するためには、基地局数を増やす必要がある。しかし、基地局を増やすためには多額のコストを要するため、基地局の数を早急に増やすのは難しい状況にある。近年これらの課題を解決すべく、電磁波の方向を制御する技術としてリフレクトアレイが提案されている。
リフレクトアレイ(電磁波反射板)は、電磁波を反射させる部材であり、入射角と反射角が等しい対称反射をさせるものに限らず、入射角と反射角が異なる非対称反射をさせるものや、複数の方向に電磁波を散乱させるものや、特定の箇所に電磁波を集めるものを含む。リフレクトアレイについては特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2022/163813号
【文献】特許第7206571号公報
【文献】特開2022-119212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リフレクトアレイは一般に、基材層上に素子パターンが導電体層で形成され、さらに保護層などの付加機能層が導電体層に積層され覆う構成を有する。付加機能層を素子パターンに積層するプロセスにおいて素子パターンの周囲に泡が生じると、素子パターンの位置するセルにおける反射位相が設計値から大きく変化する。係る不具合の生じたセルが一定割合以上となると、不要反射の増大や所望方向への反射強度の低下といった悪影響を及ぼす。特許文献1または2のリフレクトアレイでは、そもそもこのような素子パターンにおける泡混入の問題と抑制に対する課題認識がなされていない。
【0005】
気泡は、液体、固体の内部や表面に生じる気体が包まれてなる粒であり、一層の界面活性剤層で覆われている。泡沫は、気泡の集合状態であり、二重の界面活性剤層で覆われていることがある。泡は、気泡と泡沫を含む総称である。気泡の粒は球体や楕円体など様々な形状をとり得る。泡の大きさ(泡径)は、泡の輪郭線上の2点を結ぶ線分の長さのうち、最も長い線分の長さで定義する(後述)。
【0006】
発明者は気泡の中でも泡径が1μmに満たない大きさのウルトラファインバブルは、中性の水中では負に帯電しているため気泡同士が反発しあい結合しない一方、泡径がおおよそ1μm以上の大きさのマイクロファブルは気泡同士が接触することで合一して、1つのより大きな気泡または泡沫を形成することから反射特性に対してより悪影響を及ぼすことに着目した。
【0007】
特許文献3はアンテナの技術でリフレクトアレイとは技術分野が異なるものの、導電体層の側面形状に傾斜面や湾曲面を設けて導電体層と付加機能層の間に隙間が生ずることを抑制することは記載されている。しかしながら気泡の大きさに応じた反射特性への影響に着目した課題認識がなく、特にマイクロファブルサイズの気泡を抑制することを目的とした素子パターン側面形状について明らかとはいえない。
このため、本発明はマイクロファブルサイズの気泡を抑制し得るリフレクトアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の機能層付きリフレクトアレイの一つは、グランド層と誘電体層と素子パターンを備え、素子パターンの少なくとも上面および側面を覆う付加機能層を備え、素子パターンの厚みL(μm)が式(1)を満たし、
1.0≦L (1)
側面は素子パターンの下面に接続されている第1端と上面に接続されている第2端を有し、断面において第1端と第2端とを結ぶ直線と、第2端から下面への垂線との角度α(°)が式(2)を満たし、
α≧10 (2)
側面を式(3)から求めたNを用いて厚さ方向に等間隔にNの地点で分割したときに、断面において第(i-1)地点と第i地点を結ぶ直線と第2端から下面への垂線との角度βiが任意のiで式(4)を満たす、ことを特徴とするものである。
N=[L] (3)
βi≧0 (4)
(iは1≦i≦N+1を満たす整数。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイクロファブルサイズの気泡を抑制し得るリフレクトアレイを提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、反射制御領域部分を拡大して示した模式図の一例である。
図2図2は、素子パターン形状の例を示す図である。
図3A図3Aは、リフレクトアレイの層構成のバリエーションの例を示す模式図である。
図3B図3Bは、リフレクトアレイの層構成のバリエーションの例を示す模式図である。
図4図4は、光学顕微鏡を用いて機能層上面から素子パターンの一部分を観察した写真である。
図5図5は、素子パターンの側面を含むリフレクトアレイの基本層構成の一部を示す模式断面図である。
図6図6は、素子パターンの第1側面近傍の拡大模式図である。
図7A図7Aは、素子パターンの側面形状の分割と傾斜角度α、βiの例を示す模式図である。
図7B図7Bは、素子パターンの側面形状の分割と傾斜角度α、βiの例を示す模式図である。
図8図8は、実施例と比較例における反射角度と反射強度(バイスタティックRCS)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0012】
以下の説明において、xyz座標系を適用し、リフレクトアレイはxy平面上に形成するものとする。リフレクトアレイのxy平面における形状は任意であるが、以下の説明ではリフレクトアレイは最も単純な四角形を仮定し、リフレクトアレイの各辺がそれぞれx軸、y軸に平行となるよう形成されるとする。また、グランド層、誘電体層、素子パターン、機能層はz軸の正の方向に沿ってこの順で積層される。
【0013】
「面」とは、板状部材の面のみならず、板状部材に含まれる層について、板状部材の面と略平行な層の界面も指すことがある。また、「上面」、「下面」とは、板状部材や板状部材に含まれる層を図示した場合の、図面上の上方または下方に示される面を意味する。上方はz軸の正の向き、下方は負の向きを意味する。なお、「上面」、「下面」については、「第1面」、「第2面」などと番号を付して称することもある。
【0014】
「側面」とは、前記「上面」と「下面」を繋ぐ面を指す。また、側面の形状をテーパーと表す場合、構造体の側面全てに傾斜が付いていることを指す。また、側面の形状を順テーパーと表す場合、構造体の側面全てにおいて上面から下面にかけて外側に変位するように傾斜が付いていることを指す。
【0015】
「断面」とは、xyz座標系におけるx軸またはy軸に沿った任意の線上にてz軸方向にリフレクトアレイを切断した面の一部または全部を指す。
【0016】
xyz座標系におけるz軸方向の距離を「厚み」と称することがある。またz軸方向を厚み方向と称することもある。
【0017】
(反射制御領域)
反射制御領域は、リフレクトアレイを構成する領域の一部を指す。反射制御領域は、その領域に入射した電磁波を所定の方向へ反射させることができる最小の領域である。そして、リフレクトアレイは、反射制御領域を1つ以上組み合わせて構成される。反射制御領域という場合、電磁波が入射領域に平行な方向にある2次元の領域に加えて、領域に垂直な方向に形成される層構造をも含むものとする。
【0018】
また、単位セルは、反射制御領域を区分した領域を指す。単位セルには1つの素子パターンが含まれる。単位セルは、1つの反射制御領域内に2つ以上存在する。1つの単位セルのみの辺のx軸方向のサイズをUx、y軸方向のサイズをUyと定義する。1つの反射制御領域内において、複数の単位セルがx軸方向に並んでいる辺のサイズ(長さ)をSxと定義する。
【0019】
図1は、反射制御領域部分を拡大して示した模式図の一例である。図1(a)は反射制御領域の斜視図、図1(b)は反射制御領域をy方向Uy/2で切ったxz平面における断面図、そして図1(c)は反射制御領域の任意の単位セルをx方向Ux/2で切ったyz平面における断面図である。誘電体層2の一方のxy平面上には素子側面5を有する素子パターン1が形成されており、他方のxy平面上にグランド層3が形成されている。そして素子パターン1の素子側面5を含む全体を覆うように付加機能層4が形成されている。
単位セルが、反射制御領域を所定方向に沿って等間隔にn分割したものである場合、UxはSx/nである。ただし、nは2以上の整数である(図1の例ではx軸方向の長辺が3分割された3つの正方形の単位セル1、1、1で反射制御領域が構成されている。)。
【0020】
(リフレクトアレイの設計)
リフレクトアレイの設計は以下の手順に従って実施する。まず、反射制御領域の長辺の長さSxを以下の式(5)にて決定する。ここで、Sxは反射制御領域の長辺の長さ、λはリフレクトアレイに適用される電磁波の波長(以下、「動作(設計)周波数における波長」ともいう。)、θiは入射角、θrは反射角である。なお、入射角θiおよび反射角θrは、zx面において測定される値である。ここで、z軸と平行な方向をθi=θr=0°とし、x軸の正の方向に回転する角度をθi=0~90°、負の方向に回転する角度をθr=0~90°とする。
【数1】
【0021】
次いで、各反射制御領域において要求される反射位相を以下の式(6)で求める。
【数2】
ここでZs(x)は、反射制御領域のxy平面におけるx方向の表面インピーダンスの関数であり、損失のない反射を実現する場合を示す。また、120πは入射波のインピーダンスである。表面インピーダンスの式は以下の式(7)のとおりである。
【数3】
ここで、Φr(x)は、以下の式(8)で示される、反射係数の位相である反射位相を示す。
【数4】
各式から以下の式(9)に示される反射位相(Rの偏角)を満たすよう、セルの位置ごとに素子形状を決定する。つまり、入射角θi、反射角θr、電磁波の波長λを決定すれば、反射制御領域の長辺方向にある座標における反射位相の値を算出することができる。
【数5】
【0022】
上記方法によって反射位相を求めた後、各単位セルにおける反射位相を満たすよう、素子パターンの形状を変化させ、シミュレーションを行い、素子パターンの形状の最適化を行う。素子パターンに電磁波が入射した場合に、素子パターンの形状と反射位相との間の関係は、例えば電磁解析ツール(High Frequency Structure Simulator:HFSS)等を用いたシミュレーションにより求めることができる。
【0023】
リフレクトアレイの構成要素に関しさらに詳細に説明する。
(素子パターン)
素子パターンは、入射してきた電磁波を非対称反射させ、対称反射とは異なる方向へ反射させるために設けられる。素子パターンの厚みは、例えば、10nm以上105μm以下である。
【0024】
素子パターンは、表面抵抗値が100Ω/□以下であることが好ましい。素子パターンに用いる材料としては、例えば、導電性を有する材料で構成されている。かかる材料としては、グランド層に用いられる材料と同じ材料を用いることが可能である。導電性を有する無機材料または有機材料を誘電体層上に製膜してもよい。柔軟性、成膜性、安定性、シート抵抗値および低コストの観点から、後述する形成方法として、蒸着法により製膜されたものを素子パターンとして用いることが好ましい。
【0025】
素子パターンの形状としてはクロスパッチが挙げられるがこれに限られるものではない。図2は、素子パターン形状の例を示す図である。図2に示すように、連続膜、メッシュ状、パンチング形状に代表される電波を反射する任意の形状の素子パターンでリフレクトアレイが形成されてよい。例えば、クロスパッチ(図2(a))の代わりに、立方体パッチ(図2(b))、円柱パッチ(図2(c))、三角柱パッチ(図2(d))、エルサレムクロスパッチ(図2(e))、並列的な複数の導電性パターン(図2(f))、リング状の導電性パターン(図2(g))、またはこれらを複数組合せた素子パターン(図2(h))が使用されてよい。
【0026】
素子パターンがクロスパッチの場合を説明する。クロスパッチは、xy平面において、2つの方形パッチが直交した形状を指す。クロスパッチの素子パターンの長さを素子長、クロスパッチの素子パターンの幅を素子幅とする。素子長および素子幅のどちらか、または両方を変化させ、単位セルの反射位相を制御する。素子長を固定する場合、素子長の値を単位セル内においてできるだけ大きく設定することが望ましい。大きく設定することにより、所望の反射位相特性を得ることが容易になる。また、素子幅を固定する場合、素子幅の値を単位セル内においてできるだけ大きく設定することが望ましい。素子幅の値を大きく設定することにより、反射位相の傾きが緩やかになる為、加工時の加工精度が広がる。なお、素子長は、クロスパッチの素子パターンに限定して設定されるものではなく、他の形状を有する素子パターンにも設定され得る。また、素子長は、反射制御領域において共通の長さを設定することも可能であるし、反射制御領域に含まれる素子パターンごとに異なる長さを設定することも可能である。
【0027】
素子パターンの形成方法として、誘電体層上に、導電性を有する材料を全面に形成し連続膜としたのち、加工により、素子パターンを形成する方法、または、直接、誘電体層上に素子パターン層を形成する方法をとることができる。
【0028】
誘電体層上に、導電性を有する材料を全面に連続膜として形成する方法として、金属であれば、スパッタ法や蒸着法などのドライコーティング、めっき処理や金属インキを用いるグラビアコーティング、ダイコーティングなどのウェットコーティング、等から選択することが可能である。または、金属板を圧延したものを誘電体層に貼り合せることができる。同様に無機酸化物材料であればドライコーティング、有機系材料であれば、ウェットコーティングにより、連続膜を形成することができる。また、塗装やスプレー法を用いてもよい。
形成した連続膜に対しては、ドライエッチングやウェットエッチング、切削などの除去加工を用いて不要部分を取り除くことにより、素子パターンが形成される。
【0029】
エッチング法にて除去加工を行う場合、リフレクトアレイを構成する素子パターンの端部にRがついたり(言い換えると、丸みを帯びた状態になったり)、ピンホールの発生、断面形状が順テーパー形状や逆テーパー形状となったり、アンダーカットまたはオーバーエッチングの発生などが起こりうる。こうした、エッチングの加工で形状変化が起きることが想定されるが、基本構成において反射した電磁波のうちメインビームの方向が設計した反射角度の±5°程度の範囲であれば反射位相特性として許容されるものとする。切削や印刷法、ドライコーティング、めっき処理、塗装やスプレー法で形成した場合も同様に許容される。
【0030】
なお、誘電体層上に素子パターンを直接形成する方法として、凸版印刷、平版印刷、凹版印刷、孔版印刷、転写印刷などを用いて印刷する方法や、誘電体層にマスキングテープやマスキング剤等で素子パターン部分以外をマスキング処理し、素子パターンをドライコーティングやめっき処理、塗装やスプレー法を用いることで、形成することもできる。
【0031】
素子パターンの断面形状は、上面から下面にかけて裾が広がるような形状である順テーパー形状であることが好ましい。順テーパー形状であることにより、素子パターンの表面積が大きくなり、後述する機能層の積層時に機能層との密着力を大きくし、気泡の混入を抑制することが可能となる。
【0032】
素子パターンの材料は、グランド層と同一のものを用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。なお、例えば、グランド層または素子パターンの少なくとも一方の層がCuもしくはAlによって形成されることとすることも可能である。Cuは導電性に優れるため、導体損失を低減することができる。Alは密度が小さく軽量でありまたコストが低いため、軽量かつ安価なリフレクトアレイを形成できる。
【0033】
素子パターンがメッシュ状である場合、メッシュの線幅は、5μm以上30μm以下が好ましく、6μm以上15μm以下がより好ましい。メッシュの線間隔は、50μm以上500μm以下が好ましく、100μm以上300μm以下がより好ましい。また、メッシュの線間隔は、動作周波数における波長をλとしたとき、0.5×λ以下であることが好ましく、0.1×λ以下であることがより好ましく、0.01×λ以下であることがさらに好ましい。メッシュの線間隔が0.5×λ以下であれば性能を担保することができる。また、メッシュの線間隔は、0.001×λ以上であってもよい。金属メッシュや透明導電材料を使用した場合、リフレクトアレイが可視光透過性を示し、設置後の景観を保つことを可能にする。
素子パターンがメッシュ状である場合や、透明導電材料を使用した場合、リフレクトアレイが可視光透過性を示し、設置後の景観を保つことを可能にする。
【0034】
素子パターンの形態が薄膜の場合、付加機能層および密着向上層との密着が向上する他、リフレクトアレイの可撓性を向上させることが可能であり、それにより曲面での使用やロールtoロールでの生産プロセスを実施することが可能となる。
【0035】
素子パターンを薄膜を用いて形成する場合、その厚みは以下の式(10)から算出される表皮深さよりも大きいことが好ましい。ただし、dは表皮深さ、ωは角周波数、μは材料の透磁率、σは材料の導電率である。
【数6】
【0036】
電波の反射効率を高めるため、素子による電波損失を低減させることが挙げられる。そのため、素子の表面粗さは小さいほうが好ましい。
【0037】
(誘電体)
誘電体には、単体の樹脂の他に、紙やガラス繊維や炭素繊維などに樹脂を含侵させた複合材料の使用が挙げられる。
単体の樹脂には例えば、ポリエチレン(εr=2.2~2.4)、ポリプロピレン(εr=2.0~2.6)、ポリスチレン(εr=2.4~2.6)、ポリ塩化ビニル(εr=2.8~8.0)、AS樹脂(εr=2.6~3.1)、ABS樹脂(εr=2.4~4.1)、ポリエチレンテレフタレート(εr=2.9~3.0)、アクリル樹脂(εr=2.7~4.5)、ウレタン樹脂(εr=4.0~7.1)、エポキシ樹脂(εr=2.5~6.0)、ナイロン(εr=3.0~5.0)、ポリイミド(εr=2.4~2.7)、フッ素樹脂(εr=2.0~2.6)、ポリカーボネート(εr=2.9~8.9)、ポリフェニレンエーテル(εr=2.8~8.2)、ポリフェニレンサルファイド(εr=3.2~4.6)、ポリフッ化ビニリデン(εr=6.4~10.0)、ポリエチレンナフタレート(εr=2.9)、フェノール樹脂(εr=3.0~12.0)、シクロオレフィンポリマー(εr=2.3~2.5)等が挙げられる。ここで、εrは比誘電率を示す。とりわけ、安価で汎用性に優れている点から、ポリエチレン(PS)やポリエチレンテレフタレ一卜(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)などを用いることが好ましい。また、誘電体層は、単層あるいは複層とすることもできる。また、誘電体層は、上記材料を発泡化した発泡体を使用してもよい。また、発泡体としては、柔軟性の高い発泡体が好ましく用いられる。
複合材料には例えば、紙/フェノール樹脂、紙/エポキシ樹脂、ガラス/エポキシ樹脂、ガラス/フッ素樹脂の複合材料等が挙げられる。
他にも、誘電率調整の観点から、樹脂成分同士、あるいは誘電性化合物と樹脂成分とを含有する混合物の使用が挙げられる。混合物における比誘電率は誘電性化合物の選択及びその含有量に応じて調整可能である。
【0038】
混合物の比誘電率は例えば、Maxwell-Garnett則を用いて予測可能である。比誘電率εaの誘電体Aと、比誘電率εbの誘電体Bの混合物において、誘電体Aの体積分率がδaである場合、混合物の比誘電率εmは以下の式(11)の関係式によって示される。
【数7】
【0039】
誘電性化合物としては、例えばチタン酸バリウム(εr=250~20000)、酸化チタン(εr=83~183)、ジルコン酸チタン酸鉛、タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム、ビスマスフェライト等が挙げられる。
【0040】
透明性を有する誘電体を使用した場合、リフレクトアレイが可視光透過性を示し、設置後の景観を保つことを可能にする。
【0041】
誘電体層の比誘電率は、1以上20以下の範囲にあることが好ましく、1以上10以下の範囲にあることがより好ましく、2以上4以下の範囲にあることがさらに好ましい。比誘電率が上記範囲内であると、リフレクトアレイにおいて所望の反射位相特性を得やすい傾向にある。また、誘電正接は0.00005以上0.01以下の範囲にあることが好ましく、0.00005以上0.001以下の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であると、誘電損失の少ないリフレクトアレイを作製できる。
【0042】
誘電体層は、例えば、ダイコーティングやコンマコーティング、グラビアコーティングなどのウェットコーティング、Tダイ法やインフレーション法などの溶融押出法、カレンダー製膜法、溶液流延法、熱プレス法などを用いて形成することができる。また、複数の樹脂を多層に押し出してフィルムを製膜する共押出法を用いてもよい。
【0043】
誘電体層の厚みは、設計周波数により適宜選択される。設計周波数を28GHzとした場合、40μm以上250μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。薄すぎると反射位相の確保が困難となり、リフレクトアレイの設計が難しくなる。一方で、厚すぎても、反射位相の確保が困難となる、可撓性がなくなる、リフレクトアレイの総厚が厚くなるなどの傾向があり、省スペース化が難しくなる。このため、誘電体層の厚みは、250μm以下が好ましい。設計周波数を60GHzとした場合、誘電体層の厚みは10μm以上250μm以下であることが好ましい。設計周波数が100GHz以上になる場合、誘電体層の厚みを数μm以上100μm以下程度にすると、リフレクトアレイを設計しやすい。
【0044】
(グランド層)
グランド層は、リフレクトアレイに到達する電磁波を反射させるために設けられる。また、誘電体層を支持および保護するために用いられる。グランド層の材料として、無機酸化物材料、金属材料や導電性を有する有機材料など、導電性を有する材料が用いられる。グランド層の厚みは、例えば、10nm以上105μm以下である。
【0045】
例えば、無機酸化物材料および金属材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、酸化ガリウム亜鉛(GZO)、酸化スズアンチモン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-AuおよびNiなどが用いられる。また、これらの材料のうちの少なくとも1つを含むナノ粒子、またはナノワイヤーを用いてもよい。導電性を有する有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。特に材料コスト、導電性、製膜性の観点から、CuやAlが好ましい。また、電磁波を反射させるためにはグランド層の表面抵抗値が100Ω/□以下であることが望ましく、この条件を満たすことができればITOやポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との混合物(PEDOT/PSS)などを用いることによって、透明性を有するリフレクトアレイを作製することもできる。
【0046】
上記材料を用いる形態としては連続膜、メッシュ状、パンチング形状、周期性構造が挙げられる。
ここで、メッシュとは、導体の平面に網目状の透孔(開口)が空いた状態をいう。導体がメッシュ状に形成される場合、メッシュの目は方形であってもよく、菱形であってもよい。メッシュの目を方形に形成する場合、メッシュの目は正方形であることが好ましい。メッシュの目が正方形であれば、意匠性が良い。また、自己組織化法によるランダム形状でもよい。ランダム形状にすることでモアレを防ぐことができる。金属をメッシュ状に加工する場合、金属板のパンチング加工、金属板のエッチング等の方法を採用することが可能である。
グランド層がメッシュ状である場合や、透明導電材料を使用した場合、リフレクトアレイが可視光透過性を示し、設置後の景観を保つことを可能にする。
【0047】
グランド層がメッシュ状である場合、メッシュの線幅は、5μm以上30μm以下が好ましく、6μm以上15μm以下がより好ましい。メッシュの線間隔は、50μm以上500μm以下が好ましく、100μm以上300μm以下がより好ましい。また、メッシュの線間隔は、動作周波数における波長をλとしたとき、0.5×λ以下であることが好ましく、0.1×λ以下であることがより好ましく、0.01×λ以下であることがさらに好ましい。メッシュの線間隔が0.5×λ以下であれば性能を担保することができる。また、メッシュの線間隔は、0.001×λ以上であってもよい。
【0048】
グランド層の形成方法として、金属材料を用いる場合であれば、スパッタ法や蒸着法などのドライコーティング、金属材料をインキ化することによりグラビアコーティング、ダイコーティングなどのウェットコーティング、めっき処理などの表面処理、等から選択することが可能である。または、グランド層として、金属板を圧延したものを用いてもよい。無機酸化物材料を用いる場合であれば、グランド層の形成方法として、ドライコーティングを選択することができる。有機材料を用いる場合であれば、グランド層の形成方法として、ウェットコーティングを選択することができる。また、塗装やスプレー法で形成してもよい。
【0049】
グランド層の形態がめっき処理や蒸着法等で形成された薄膜の場合、リフレクトアレイの可撓性を向上させることが可能であり、それにより曲面での使用やロールtoロールでの生産プロセスを実施することが可能となる。
【0050】
グランド層の形態が薄膜の場合、その厚みは素子パターンと同様に式(10)から算出される表皮深さよりも大きいことが好ましい。
また、電磁波の反射効率を高めるため、グランド層による損失を低減させることが挙げられる。そのため、グランド層の表面粗さは小さいほうが好ましい。
【0051】
グランド層の形態が周期性構造である場合、特定の周波数を選択的に反射または透過させる機能が発現し得る。例えば、パッチ状の導電パターンが周期的に配置された構造をグランド層として使用した場合、特定の周波数のみを反射させることが可能となるため、動作周波数以外の周波数を透過させる機能を付与することができる。また、導電材料が存在しない箇所をホールとして周期的に設けた構造を使用した場合、動作周波数を非対称反射させつつ、特定の周波数のみを透過させるリフレクトアレイを設計することが可能である。
【0052】
本開示においては、JIS-K-7194に準拠し、表面抵抗測定を行う。表面抵抗測定方法としては、四端子法、二端子法、四探針法、誘電体法、渦電流法など、測定法を適宜選択しうる。グランド層の表面抵抗値は、例えばロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定することができる。
【0053】
(付加機能層)
付加機能層は、必要に応じてその機能を選択することができる。付加される機能として、例えば、劣化防止性、意匠性、保護・耐擦傷性、防水性、ガス・水蒸気バリア性、難燃性、不燃性、自己消火性、耐候性、防汚、抗菌・抗ウィルス、耐薬品、消臭性、粘着・接着性などが挙げられる。これらの機能を1つ付加させてもよいし、複数を組み合わせてもよい。付加機能層の厚みは、例えば、5μm以上6mm以下である。
【0054】
シート状の付加機能層を積層する方法としては、ラミネート、押出ラミネートなどを用いることでの貼り合わせが挙げられ、液状の付加機能層を塗布する方法としては、印刷、コーティング、ドライラミネート、ウェットラミネートなどが挙げられるが、これに限るものではない。また、付加機能層に粘着性や接着性がない場合、密着向上層(接着剤)を用いてリフレクトアレイに密着させる方法がある。
【0055】
耐候性
リフレクトアレイの劣化の原因として、大気中に曝したことによる酸化や水蒸気の吸収、太陽光などの光(紫外線)による変質、が考えられる。酸素や水蒸気による劣化を防ぐために、リフレクトアレイの表面にバリアフィルム等のガスバリア性に優れた層を付与することが考えられる。また、特に酸素による劣化を防ぐには、機能層の酸素透過度が500cc/m・atm・day以下であることが好ましい。この条件を満たすことができれば、フィルムを積層してもよいし、オーバーコート層をドライコーティングまたはウェットコーティングにより付与してもよい。またこれらの層は単層でもよいし、複数を組み合わせたり、積層したりしてもよい。バリアフィルムとしては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合樹脂などの単体フィルム、共押出多層ナイロン(Ny)フィルム、塩化ビニリデン(PVDC)コートやポリビニルアルコール(PVA)コートのウェットコートフィルムなどが挙げられる。
【0056】
また、誘電体層の劣化を防ぐために、誘電体層の形成時に酸化防止剤や劣化防止剤、抗酸化素材を添加してもよい。同様に水蒸気による劣化を防ぐ場合、水蒸気透過度が300g/m・day以下である層を設けることが好ましい。太陽光などからの光を防ぐ場合、はUVカット性を有するフィルムや遮光性を有する層を付与することが考えられる。また、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤や光安定剤を添加してもよい。UVカットフィルムとしては、例えば、塩化ビニル系樹脂やポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0057】
意匠性
リフレクトアレイを例えば建物の外装または内装に設置する場合、空間との調和を持たせるために、意匠性を付与することが考えられる。具体的には、意匠を施したシート状の素材を接着剤を用いてリフレクトアレイに貼り合せる、または、シート状の素材を熱・圧力をかけてリフレクトアレイに溶着させて貼り付ける、等によって意匠性を付与することができる。例えば、基材シート、下地絵柄層、透明熱可塑性樹脂層をこの順に積層することにより印刷絵柄と表面エンボス模様が同調した化粧シートや、絵柄層、透明樹脂層および表面保護層をこの順に積層することにより本物の木材や石材に近い色味とした化粧シートなどが挙げられる。
【0058】
保護・耐擦傷性
保護・耐擦傷性とは、リフレクトアレイに傷がつくことを防止したり、リフレクトアレイそのものの劣化を防止したりする機能のことである。このような機能を付与する方法として、リフレクトアレイにコーティング加工を施して表面硬度を高めたり、合成樹脂フィルムを積層したりすることができる。保護・耐擦傷性の評価として、JIS K5600-5-4にもとづく鉛筆硬度試験にて実施し、H以上であることが好ましい。また、スチールウール(#0000)を用いて荷重1,000gf/cmで擦った時に、往復摺動回数が1000回を超えるまでは傷が生じないことが好ましい。合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリフォルムアルデヒド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、AS樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0059】
難燃性、不燃性、自己消火性
リフレクトアレイに難燃性、不燃性を付与する方法として、建築基準法に規定される防火認定が適用された不燃材料、準不燃材料、難燃材料を積層することにより付与できる。例えば難燃繊維や難燃プラスチック、不燃塗料、難燃塗料などがある。難燃繊維としてハロゲン系化合物、リン系化合物、ビニロン繊維、ポリエーテルイミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、などがある。難燃プラスチックとして、プラスチック材料にハロゲン系、リン系、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機系難燃剤を添加したものがある。また、自己消火性を有する材料として、ナイロン、ポリカーボネート、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0060】
防汚、抗菌、抗ウィルス性
リフレクトアレイに防汚性を付与する方法として、親水性や撥水性を有する基材を積層したりコーティングしたりすることが感がられる。親水性を有する材料として、光触媒材料やシリカ系材料などを用いることができる。撥水性を有する材料として、フッ素樹脂系、シリコーン系などの材料を用いることができる。抗菌、抗ウィルス性材料として光触媒材料、塩素系、カチオンポリマーを成分とする有機系、銀や亜鉛など金属担持系などが含まれた材料を用いることができる。形成方法としては、これら材料フィルムとして積層するまたはコーティング加工に用いる、誘電体層の形成時に混合する、等の方法を採用することができる。
【0061】
(密着向上層)
密着向上層は、層同士を接着する接着力をもつ層である。密着向上層は、2層以上の層によって構成されるものでもよいし、複数材料を組み合わせた構成であってもよい。本実施形態において密着向上層は、グランド層と誘電体層、または誘電体層と素子パターン、または誘電体層および素子パターンと付加機能層を接着させるものであり、接着材から構成される。接着剤は、水分散系接着剤であってもよく、溶液系接着剤であってもよく、無溶剤系接着剤であってもよく、固体系接着剤であってもよい。接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、フェノール樹脂接着剤、酢酸ビニル系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ポリビニルアルコール樹脂系接着剤、シリコーンゴム系接着剤、スチレンブタジエンゴム系接着剤、ウレタン系接着剤などが挙げられる。なお、密着向上層は接着材に加え、任意の合成樹脂等の物質や任意の部材を含んでいてもよい。密着向上層の厚みは、例えば、5μm以上500μm以下である。
【0062】
付加機能層に粘着性や接着性がない場合、密着向上層を用いてリフレクトアレイに貼り合せることができる。
また機能層は、単層または複層の付加機能層、単層または複層の密着向上層、もしくは付加機能層と密着向上層を単数あるいは複数重ねた層を含む総称である。
【0063】
(設置層)
設置層はリフレクトアレイを支持体と固定するための層である。例えば、接着層や粘着層、支持体が金属製の場合マグネットの使用が挙げられる。マグネットを使用した場合、リフレクトアレイの位置や角度を容易に変えることができる。
【0064】
(支持体)
リフレクトアレイは支持体に設置される。支持体としては、新規にパネルやポールを設置しても構わないし、既存の看板や壁、天井等を用いても構わない。支持体には、リフレクトアレイの角度を上下あるいは左右方向に調節することができる機構を有することが好ましく、さらに、リフレクトアレイの位置を上下左右に動かす機構を有することがより好ましい。支持体にリフレクトアレイを設置し、リフレクトアレイ装置として用いられる。
【0065】
(層構成のバリエーション)
図3Aおよび図3B(以下、便宜上図3と総称する。)は、リフレクトアレイの層構成のバリエーションの例を示す模式図である。ただし層構成はこの例に限られるものではない。図3(a)は、グランド層3と誘電体層2と素子パターン1が積層した構成(以下、「基本構成」という。)の上面に付加機能層4が積層した構成において、隣接する素子パターン1の間は溝が形成された付加機能層4でつながっている態様を示している。
図3(b)は、隣接する素子パターン1の間は付加機能層4が存在しない隙間が形成されている他は図3(a)と同様の態様を示している。
図3(c)は、基本構成の上面および下面にそれぞれ付加機能層4が一様に積層された態様を示している。
図3(d)は、基本構成の上面および下面のみならず側面も覆うように付加機能層4が一様に積層された態様を示している。
【0066】
図3(e)は、基本構成の上面に密着向上層6と付加機能層4がそれぞれ一様に積層された態様を示している。
図3(f)は、隣接する素子パターン1の間は付加機能層4も密着向上層6も存在しない隙間が形成されている他は図3(e)と同様の態様を示している。
図3(g)は、基本構成の上面および下面にそれぞれ密着向上層6と付加機能層4が一様に積層された態様を示している。
図3(h)は、基本構成の上面に付加機能層4が一様に積層され、さらに誘電体層2と素子パターン1、誘電体層2とグランド層3の間に密着向上層6が積層された態様を示している。
【0067】
(気泡の混入)
基本構成のリフレクトアレイに機能層を積層した場合、機能層内に複数の泡を含んでいてもよいが、リフレクトアレイの見栄えと反射板性能に悪影響を及ぼすため泡は少ない方が好ましい。特に、素子パターン側面の泡は単位セルにおける反射位相を変化させ、不要反射の増大や所望方向の反射強度の低下といった悪影響を及ぼすことからその発生を抑制することが強く求められる。また、電波の波長に対して泡径が大きいほど、前述の悪影響は大きくなる。上記観点より、例えば1GHzから300GHz帯の電波を用いる場合に、素子側面の泡の泡径は100μm未満であることが好ましい。
【0068】
例えばリフレクトアレイ上の無作為に選択した素子パターン100個に対して、泡径が100μm以上の泡を側面に有する素子パターンが5個未満であることが好ましく、3個未満であることがより好ましく、0個であることがさらに好ましい。
【0069】
図4は、光学顕微鏡を用いて機能層上面から素子パターンの一部分を観察した写真である。素子パターン上面に透明もしくは半透明の密着向上層と不透明の付加機能層を有している場合には、密着向上層を残したまま、付加機能層を剥がす・削る・溶かす等の方法で除去し、密着向上層上面から素子パターンの全周を光学顕微鏡を用いて観察する。前述の方法で素子パターンを観察出来ない場合には、リフレクトアレイを厚さ方向に切断し、素子パターンの断面を、光学顕微鏡を用いて観察する。図4において素子パターン側面5の上方に泡の存在が観測されている。
【0070】
機能層付きリフレクトアレイにおける泡径の測定では、素子パターンの全周もしくは断面を、光学顕微鏡を用いて倍率50~400倍の範囲で観察することで、泡の泡径が求められる。尚、全周観察時の倍率は任意に設定し、断面観察時の倍率は、素子パターンの上面と下面が同時に1画面に映るように設定する。ここで、泡径を測定する際には、観察画像から鮮明に全体を観察可能な気泡のみを測定対象とし、泡の輪郭線上の2点を結ぶ線分の長さのうち、最も長い線分をその泡の径として測定する。
実測する際には、上述した泡の検出および泡径の測定をリフレクトアレイ上の無作為に選択した素子パターン(例えば100個)に対して行えばよい。
【0071】
(気泡の抑制)
次にマイクロファインバブルサイズの気泡の発生を効率よく抑制する構成について説明する。図5は、素子パターン1の側面を含むリフレクトアレイの基本層構成の一部を示す模式断面図である。ただし以下の説明は図5の層構成に限られず、図3に示された層構成や本発明の目的を逸脱しない範囲で他の層構成においても適用可能であることは言うまでもない。
【0072】
図5の層構成においては、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含むグランド層3と、前記第2面に対向する第3面と、前記第3面の反対側に位置する第4面を含む誘電体層2と、前記第4面と対向する第5面と、前記第5面の反対側に位置する第6面と、前記第5面と第6面の間に位置する素子パターン側面5(第1側面)とを含む素子パターン1と、前記第6面及び前記第1側面を覆う付加機能層4を備え、前記第1側面は、前記第5面に接続されている第1端と、前記第6面に接続されている第2端およびその間の中間地点を含む。
【0073】
図6は、素子パターン1の第1側面近傍の拡大模式図である。素子パターン1の厚さL(μm)は以下の式(1)を満たす。

1.0≦L (1)
泡径がおおよそ1μm以上の大きさのマイクロファブルの発生が問題になるのは厚さLが式(1)を満たす場合であると考えられることから、式(1)の規定によりマイクロファブルの抑制により特化した構成が可能となる。
【0074】
また第1端と第2端とを結ぶ直線と、第2端から第5面への垂線との角度(汎傾斜角度)α(°)が以下の式(2)を満たすよう規定する。

α≧10 (2)
このことにより素子パターン1の側面は上面(第6面)から下面(第5面)にかけて外側に変位するように広がる全体的構成をとる。
【0075】
次に素子パターン1の側面を、以下の式(3)から求めたNを用いて厚さ方向に等間隔にNの地点で分割し、第2端に最も近い分割地点を第1地点、前記第1端に最も近い分割地点を第N地点とする。

N=[L] (3)
(N=1、2・・)
ここにNはL(μm)を超えない最大の整数の値をとる。
【0076】
そして、第(i-1)地点と第i地点を結ぶ直線と前記第2端から前記下面への垂線との角度(地点傾斜角度)βi(°)が任意のi(i=1~N+1)で以下の式(4)を満たすよう規定する。

βi≧0 (4)
(iは1≦i≦N+1を満たす整数。ただし第0地点は第2端、第N+1地点は第1端に相当する。)
【0077】
図7Aおよび図7B(以下、便宜上図7と総称する。)は、素子パターンの側面形状の分割と傾斜角度α、βiの例を示す模式図である。図7(a)は、式(1)を満たさず、N=0(La<1.0)のときのαを表している。Laが1.0μm未満の厚さに関しては、α≧10であれば第1側面が任意の形状であっても空気層をかんでマイクロファブルサイズの泡が生じることはほとんどないものと考えられる。
【0078】
図7(b)は、N=1(1.0≦Lb<2.0)のときのβ1を表している。汎傾斜角度α≧10、および地点傾斜角度β1、β2≧0の条件が満たされれば、第1側面の2つの分割区間がそれぞれ任意の形状であっても空気層をかんでマイクロファブルサイズの泡が生じることはほとんどないものと考えられる。
【0079】
図7(c)は、N=2(2.0≦Lc<3.0)のときのβ2を表している。汎傾斜角度α≧10、および地点傾斜角度β1~β3≧0の条件が満たされれば、第1側面の3つの分割区間がそれぞれ任意の形状であっても空気層をかんでマイクロファブルサイズの泡が生じることはほとんどないものと考えられる。
【0080】
図7(d)は、N=3(3.0≦Ld<4.0)のときのβ3を表している。汎傾斜角度α≧10、および地点傾斜角度β1~β4≧0の条件が満たされれば、第1側面の4つの分割区間がそれぞれ任意の形状であっても空気層をかんでマイクロファブルサイズの泡が生じることはほとんどないものと考えられる。
【0081】
こうして素子パターン1の厚さが式(1)を満たす場合に、厚さに応じて式(3)によってN+1のほぼ1μmサイズにスケーリングした分割区間において、式(2)および式(4)の条件が満たされれば、第1側面のN+1の分割区間がそれぞれ任意の形状であっても、マイクロファブル以上の大きさの泡が入り込むような窪みは存在しないことから、気泡の発生を抑制することが可能となる。したがって泡径100μm以上の泡が多数成長することも効率的に抑えられる。
【0082】
実施例および比較例に関し説明する。使用したリフレクトアレイの構成の仕様に関し表1に示す。また図8は、実施例と比較例における反射角度と反射強度(バイスタティックRCS)を示すグラフである。
【表1】
【0083】
(実施例1)
素子パターンおよびグランド層に厚み0.018mm(L=18μm)の銅を、誘電体に厚み0.764mmのガラス/フッ素樹脂の複合材料を用いた基本構成に対し、素子パターン側に厚み0.098mmの付加機能層を積層し、リフレクトアレイを構成した。ただし、銅の導電率は5.8×10^7siemens/mとし、誘電体の比誘電率の実部は2.6、tanδは0.0025とし、付加機能層の比誘電率の実部は2.70、tanδは0.0060とした。
【0084】
動作周波数を27.2GHzとし、狙いの反射特性をθi=33°、θr=0°に設定し、式(5)を使用して反射制御領域のx軸方向のサイズSxを20.238mmに決定した。
反射制御領域の分割数を3とし、単位セルのx軸方向およびy軸方向のサイズは6.746mmとした。素子の形状は、xy平面において、2つの方形パッチが直交したクロスパッチとした。ここで、反射制御領域内の各素子パターンの素子長は同じであり素子幅のみが異なる。
リフレクトアレイは、単位セルをx軸方向およびy軸方向に9個×9個で計81個配置しxy平面におけるサイズは60.714mm角とした。
【0085】
全素子パターンの汎傾斜角度α=10°かつ、側面形状が一様な平面(地点傾斜角度β1~β19=10°)として(β1~β19を総称して単にβと称することがある。)、4個の単位セルにおいて素子パターンの側面に0.1mmの空気層をかませた。y軸と平行の偏波をθix=33゜、θiy=0゜でリフレクトアレイに照射した際の反射特性について、HFSSを用いて解析した。
【0086】
xz平面における、リフレクトアレイの反射特性を表1に示す。θi=33゜で入射した電波が所望のθr=0゜方向に反射し、そのRCSは0.22dBsmであった。また反射角度と反射強度の関係については図5に示した。
【0087】
(実施例2)
実施例1と同様のリフレクトアレイにおいて、全素子パターンの汎傾斜角度α=15°かつ、側面形状が一様な平面(地点傾斜角度β1~β19=15°)として、2個の単位セルにおいて素子パターンの側面に0.1mmの空気層をかませた。y軸と平行の偏波をθix=33゜、θiy=0゜でリフレクトアレイに照射した際の反射特性について、HFSSを用いて解析した。
【0088】
xz平面における、リフレクトアレイの反射特性を表1に示す。θi=33゜で入射した電波が所望のθr=0゜方向に反射し、そのRCSは0.23dBsmであった。また反射角度と反射強度の関係については図5に示した。
【0089】
(実施例3)
実施例1と同様のリフレクトアレイにおいて、全素子パターンの汎傾斜角度α=30°かつ、側面形状が一様な平面(地点傾斜角度β1~β19=30°)として、0個の単位セルにおいて素子パターンの側面に0.1mmの空気層をかませた(気泡なし)。y軸と平行の偏波をθix=33゜、θiy=0゜でリフレクトアレイに照射した際の反射特性について、HFSSを用いて解析した。
【0090】
xz平面における、リフレクトアレイの反射特性を表1に示す。θi=33゜で入射した電波が所望のθr=0゜方向に反射し、そのRCSは0.25dBsmであった。また反射角度と反射強度の関係については図5に示した。
【0091】
(比較例1)
実施例1と同様のリフレクトアレイにおいて、全素子パターンの汎傾斜角度α=0°かつ、側面形状が一様な平面として、27個の単位セルにおいて素子パターンの側面に0.1mmの空気層をかませた。y軸と平行の偏波をθix=33゜、θiy=0゜でリフレクトアレイに照射した際の反射特性について、HFSSを用いて解析した。
【0092】
xz平面における、リフレクトアレイの反射特性を表1に示す。θi=33゜で入射した電波が所望のθr=0゜方向に反射し、そのRCSは-1.2dBsmであった。また反射角度と反射強度の関係については図5に示した。
【0093】
(比較例2)
実施例1と同様のリフレクトアレイにおいて、全素子パターンの汎傾斜角度α=0°かつ、側面形状が一様な平面として、27個の単位セルにおいて素子パターンの側面に0.1mmの空気層をかませた。y軸と平行の偏波をθix=33゜、θiy=0゜でリフレクトアレイに照射した際の反射特性について、HFSSを用いて解析した。
【0094】
xz平面における、リフレクトアレイの反射特性を表1に示す。θi=33゜で入射した電波が所望のθr=0゜方向に反射し、そのRCSは-1.18dBsmであった。また反射角度と反射強度の関係については図5に示した。
【0095】
(比較例3)
実施例1と同様のリフレクトアレイにおいて、全素子パターンの汎傾斜角度α=0°かつ、側面形状が一様な平面として、8個の単位セルにおいて素子パターンの側面に0.1mmの空気層をかませた。y軸と平行の偏波をθix=33゜、θiy=0゜でリフレクトアレイに照射した際の反射特性について、HFSSを用いて解析した。
【0096】
xz平面における、リフレクトアレイの反射特性を表1に示す。θi=33゜で入射した電波が所望のθr=0゜方向に反射し、そのRCSは-1.06dBsmであった。また反射角度と反射強度の関係については図5に示した。
【0097】
実施例1では傾斜角度α/β=10°で4個、実施例2では傾斜角度α/β=15°で2個、実施例3では傾斜角度α/β=30°で0個の気泡が素子パターンにかむ状態で、良好な反射強度と不要反射の抑制が可能であることが示された。一方比較例1~3はいずれも傾斜角度α/β=0°で、比較例1は27個、比較例2は27個、比較例3は8個の気泡が素子パターンにかむ状態で、反射板の裏側への不要反射が見られた。素子パターンにかむ気泡の数が一定数(4個)を超えると反射板の裏側への不要反射が増大し、所望の反射角度θr=0゜方向のRCSが低下する。
素子パターンの側面に汎傾斜角度αや地点傾斜角度βiが外側に変位する傾斜角度をつけることで付加機能層と素子パターン側面間への気泡の混入を低減することができ、不要反射の抑制を実現することができるものと考えられる。
【0098】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1…素子パターン、2…誘電体層、3…グランド層、4…付加機能層、5…素子パターン側面
【要約】      (修正有)
【課題】マイクロファブルサイズの気泡を抑制し得るリフレクトアレイを提供する。
【解決手段】リフレクトアレイは、グランド層と誘電体層と素子パターンを備え、素子パターンの少なくとも上面および側面を覆う付加機能層を備え、素子パターンの厚みL(μm)が下式(1)を満たし、、側面は素子パターンの下面に接続されている第1端と上面に接続されている第2端を有し、断面において第1端と第2端とを結ぶ直線と、第2端から下面への垂線との角度α(°)が下式(2)を満たし、、側面を下式(3)から求めたNを用いて厚さ方向に等間隔にNの地点で分割したときに、断面において第(i-1)地点と第i地点を結ぶ直線と第2端から下面への垂線との角度βiが任意のiで下式(4)を満たす。
1.0≦L・・・(1)、α≧10・・・(2)、N=[L]・・・(3)、βi≧0・・・(4)、iは1≦i≦N+1を満たす整数
【選択図】図6
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8