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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/18 20060101AFI20240611BHJP
   B60B 27/00 20060101ALI20240611BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16C19/18
B60B27/00 A
B60B35/14 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023503547
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007738
(87)【国際公開番号】W WO2022185382
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白水 孝宜
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-161368(JP,A)
【文献】特開2013-177913(JP,A)
【文献】特開2004-345439(JP,A)
【文献】特開2017-128236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/18
B60B 27/00
B60B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一方側に車輪取付フランジを有するとともに軸方向他方側に複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記複列の内側軌道面に対向する複列の外側軌道面を有する外方部材と、
前記複列の内側軌道面のうちの軸方向一方側の第1内側軌道面と、前記複列の外側軌道面のうちの軸方向一方側の第1外側軌道面と、の間に介在する複数の第1玉と、
前記複列の内側軌道面のうちの軸方向他方側の第2内側軌道面と、前記複列の外側軌道面のうちの軸方向他方側の第2外側軌道面と、の間に介在する複数の第2玉と、を備え、
前記複数の第1玉と前記複数の第2玉とは同じ直径であり、
前記複数の第1玉の接触角が、前記複数の第2玉の接触角よりも小さく、
前記複数の第1玉に作用する荷重の第1作用線と前記複数の第2玉に作用する荷重の第2作用線との交点の軸方向位置が、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置と、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置し、
前記外方部材は、前記外方部材が車体に取り付けられるための車体取付フランジを外周に有し、
前記車体取付フランジの軸方向中央の軸方向位置は、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置と、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置し、
前記交点の軸方向位置は、前記車体取付フランジの軸方向中央の軸方向位置よりも軸方向一方側に位置する
車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記複数の第1玉のピッチ円直径が、前記複数の第2玉のピッチ円直径よりも大きい
請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記車体取付フランジの軸方向中央の軸方向位置が、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置よりも、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置に近い位置である
請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体に対して車輪を回転自在に支持するために、ハブユニットと呼ばれる車輪用軸受装置が用いられる。この車輪用軸受装置には、複列アンギュラ玉軸受が採用されることがある。
上記車輪用軸受装置は、軸方向一方側に車輪取付フランジを有する内方部材と、外方部材と、複列に配置されて両部材に介在する複数の玉とを有する。複数の玉は、複列のうちの軸方向一方側の列に配置される複数の第1玉と、軸方向他方側の列に配置される複数の第2玉と、を含む(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-31136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車輪が道路の側端に設けられた縁石に乗り上げたり、車輪の側面下側が前記縁石に衝突(側突)したりすることで、車輪の側面下側が縁石によって押圧されると、車輪用軸受装置には、過大なモーメント荷重が作用することがある。このモーメント荷重は、車輪取付フランジを介して内方部材に作用する。この荷重は、内方部材の軸方向一方側の端部を下方へ押圧するように作用する。
【0005】
このようなモーメント荷重が内方部材に作用すると、軸方向一方側(車輪側)に配置された複数の第1玉のうち、軸受装置の中心軸よりも下方に位置する第1玉に過大な荷重(転動体荷重)が作用する。このため、第1玉が転動する軸方向一方側の軌道面に圧痕を生じさせる可能性が高くなる。
【0006】
さらに、上記のような過大なモーメント荷重が内方部材に作用すると、前記中心軸よりも下方に位置する第1玉の接触角が一時的に大きくなる。逆に、前記中心軸よりも下方に位置する第2玉の接触角は、一時的に小さくなる。
【0007】
一般に、第1玉の接触角と第2玉の接触角とは同じ値に設定される。よって、上記のようなモーメント荷重が内方部材に作用すると、第1玉の接触角が第2玉の接触角よりも相対的に大きくなる。第1玉の接触角がより大きくなると、第1玉によるラジアル方向の許容負荷が相対的に低下し、第1玉に荷重が集中することで軸方向一方側の軌道面における圧痕の発生を助長させることとなる。
【0008】
軌道面に圧痕が生じると、異音や軌道面の剥離等の原因となる。このため、上記のような圧痕の発生を抑制する方策が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車輪用軸受装置は、軸方向一方側に車輪取付フランジを有するとともに軸方向他方側に複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記複列の内側軌道面に対向する複列の外側軌道面を有する外方部材と、前記複列の内側軌道面のうちの軸方向一方側の第1内側軌道面と、前記複列の外側軌道面のうちの軸方向一方側の第1外側軌道面と、の間に介在する複数の第1玉と、前記複列の内側軌道面のうちの軸方向他方側の第2内側軌道面と、前記複列の外側軌道面のうちの軸方向他方側の第2外側軌道面と、の間に介在する複数の第2玉と、を備え、前記複数の第1玉と前記複数の第2玉とは同じ直径であり、前記複数の第1玉の接触角が、前記複数の第2玉の接触角よりも小さい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、軌道面における圧痕の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、車輪用軸受装置の断面図である。
図2図2は、車体取付フランジを車両インナ側から中心軸に沿って見たときの図である。
図3図3は、軸受装置の要部断面図である。
図4図4は、車輪の側面下側が縁石に衝突した場合を説明するための車輪用軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
[実施形態の概要]
(1)実施形態である車輪用軸受装置は、軸方向一方側に車輪取付フランジを有するとともに軸方向他方側に複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記複列の内側軌道面に対向する複列の外側軌道面を有する外方部材と、前記複列の内側軌道面のうちの軸方向一方側の第1内側軌道面と、前記複列の外側軌道面のうちの軸方向一方側の第1外側軌道面と、の間に介在する複数の第1玉と、前記複列の内側軌道面のうちの軸方向他方側の第2内側軌道面と、前記複列の外側軌道面のうちの軸方向他方側の第2外側軌道面と、の間に介在する複数の第2玉と、を備え、前記複数の第1玉と前記複数の第2玉とは同じ直径であり、前記複数の第1玉の接触角が、前記複数の第2玉の接触角よりも小さい。
【0013】
上記構成によれば、車輪の側面下側が縁石に衝突し、過大なモーメント荷重が内方部材に作用し、第1玉の接触角が一時的に大きくなったとしても、複数の第1玉の接触角が、複数の第2玉の接触角よりも小さいので、第1玉の接触角と第2玉の接触角との差異が大きくなるのを抑制することができる。この結果、複数の第1玉によるラジアル方向の許容負荷の相対的な低下を抑制することができ、第1玉に荷重が集中するのを抑制でき、第1内側軌道面及び第1外側軌道面に圧痕が生じるのを抑制することができる。
【0014】
(2)上記車輪用軸受装置において、前記複数の第1玉のピッチ円直径が、前記複数の第2玉のピッチ円直径よりも大きいことが好ましく、この場合、複数の第1玉に作用する荷重に対する許容負荷を大きくすることができ、第1内側軌道面及び第1外側軌道面に圧痕が生じるのを効果的に抑制することができる。
また、複数の第1玉の接触角を小さくすれば、アキシャル荷重に対する許容負荷が低下し通常の使用による軸受としての寿命が低下するおそれがある。よって、複数の第1玉、第1外側軌道面、及び第1内側軌道面の軸受としての寿命が、複数の第2玉、第2外側軌道面、及び第2内側軌道面の寿命よりも低下するおそれがある。
この点、複数の第1玉のピッチ円直径を、複数の第2玉のピッチ円直径よりも大きくし、複数の第1玉に作用する荷重に対する許容負荷を大きくしたので、接触角の変更によって生じる複数の第1玉、第1外側軌道面、及び第1内側軌道面の相対的な寿命低下を補完することができる。この結果、車輪用軸受装置全体としての寿命低下を抑制することができる。
【0015】
(3)上記車輪用軸受装置において、前記複数の第1玉に作用する荷重の第1作用線と前記複数の第2玉に作用する荷重の第2作用線との交点の軸方向位置が、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置と、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置することが好ましい。
複数の第1玉に作用する荷重の第1作用線は、車輪用軸受装置の中心軸に垂直な平面との間で複数の第1玉の接触角を成す。また、前記複数の第2玉に作用する荷重の第2作用線は、車輪用軸受装置の中心軸に垂直な平面との間で複数の第2玉の接触角を成す。よって、第1作用線と第2作用線との交点の軸方向位置が、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置と、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置するようにすることで、複数の第1玉の接触角は、複数の第2玉の接触角よりも小さく設定される。
【0016】
(4)さらにこの場合、前記外方部材は、前記外方部材が車体に取り付けられるための車体取付フランジを外周に有し、前記車体取付フランジの軸方向中央の軸方向位置が、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置よりも、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置に近い位置であることが好ましい。
この場合、例えば、車体取付フランジを外方部材の軸方向他方側の端部に設けた場合と比較して、車体取付フランジの軸方向位置と、荷重が与えられる車輪取付フランジの軸方向位置とがより近くなる。よって、車輪の側面下側が縁石に衝突したときに車輪取付フランジを介して車輪用軸受装置全体に作用するモーメント荷重を低減することができ、第1内側軌道面及び第1外側軌道面に圧痕が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0017】
(5)また、前記外方部材は、前記外方部材が車体に取り付けられるための車体取付フランジを外周に有し、前記車体取付フランジの軸方向中央の軸方向位置は、前記第1外側軌道面の底部の軸方向位置と、前記第2外側軌道面の底部の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置していてもよい。
この場合も、車体取付フランジを外方部材の軸方向他方側の端部に設けた場合と比較して、車体取付フランジの軸方向位置と、荷重が与えられる車輪取付フランジの軸方向位置とがより近くなる。よって、車輪の側面下側が縁石に衝突したときに車輪取付フランジを介して車輪用軸受装置全体に作用するモーメント荷重を低減することができ、第1内側軌道面及び第1外側軌道面に圧痕が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0018】
(6)また、前記交点の軸方向位置は、前記車体取付フランジの軸方向中央の軸方向位置よりも軸方向一方側に位置することが好ましい。
この場合、車輪の側面下側が縁石に衝突し、第1玉の接触角が一時的に大きくなったときに、交点の軸方向位置が車体取付フランジの軸方向中央及び前記軸方向中心に近づく。よって、両玉を介して外方部材に伝わる荷重を、外方部材における車体取付フランジ及び軸受中心近傍で負担することができる。この結果、車輪の側面下側が縁石に衝突したことで生じる荷重が軸方向に偏って外方部材に負担されるのを抑制することができ、外方部材に伝わる荷重を適切に負担することができる。
【0019】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔軸受装置の全体構成〕
【0020】
図1は、車輪用軸受装置10の断面図である。車輪用軸受装置10(以下、単に軸受装置10ともいう。)は、自動車等の車両に用いられる軸受装置でありハブユニットとも呼ばれる。軸受装置10は、自動車の車体に設けられている懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する。
【0021】
軸受装置10は、外輪11(外方部材)と、内軸12(内方部材)と、複数の玉13と、保持器14と、シール部材15、16とを備えている。外輪11と内軸12とは同心状に配置されている。本実施形態では、外輪11に対して内軸12が中心軸C1回りに回転自在となっている。すなわち、外輪11が固定輪であり、内軸12が回転輪(回転軸)である。
【0022】
以下の説明においては、中心軸C1に沿う方向を「軸方向」という。軸方向には、中心軸C1に平行な方向も含まれる。軸受装置10が自動車の車体に設けられた状態において、車両アウタ側を軸方向一方側といい、車両インナ側を軸方向他方側という。軸方向に直交する方向を「径方向」という。内軸12が中心軸C1回りに回転する方向を「周方向」という。軸受装置10は、図示しない車輪やブレーキディスクが一体回転可能に固定される内軸12を、車体に対して回転自在に支持することができる。
【0023】
外輪11は、機械構造用炭素鋼等により形成されている。外輪11は、円筒形状であり、外周面11aに車体取付フランジ11bを有している。車体取付フランジ11bは、外輪11を車体に取り付けるための部材である。
【0024】
図2は、車体取付フランジ11bを車両インナ側から中心軸C1に沿って見たときの図である。
図2に示すように車体取付フランジ11bは、周方向に沿って設けられた複数の突起部11b1を有する。複数の突起部11b1(図例では4つ)は、外周面11aから突出している。
各突起部11b1は、中心軸C1に平行な貫通孔11b2を有する。貫通孔11b2には、外輪11を車体側の懸架装置に固定するためのボルトが挿通される。
なお、本実施形態では、複数の突起部11b1は、上下方向に対称となるように設けられているが、周方向に等間隔で設けられていてもよい。また、突起部11b1の個数は、より多数であってもよいし、より少なくてもよい。
【0025】
図1に示すように、外輪11の内周面には、複列の外側軌道面17が設けられている。複列の外側軌道面17は、第1外側軌道面17aと、第2外側軌道面17bとを含む。第1外側軌道面17aは、第2外側軌道面17bよりも、軸方向一方側に設けられている。また、第1外側軌道面17aの外径は、第2外側軌道面17bの外径よりも大きい。
【0026】
内軸12は、機械構造用炭素鋼等により形成されている。内軸12は、軸部材18と、内輪19とを有している。軸部材18は、軸方向に沿って延びる本体部18aと、本体部18aから径方向外方に突出する車輪取付フランジ18bとを有している。本体部18aと車輪取付フランジ18bとは一体である。車輪取付フランジ18bは、本体部18aの軸方向一方側に設けられている。車輪取付フランジ18bには、車輪やブレーキディスク(図示せず)が取り付けられる。
【0027】
内輪19は、機械構造用炭素鋼等により形成される環状の部材である。内輪19は、軸部材18の軸方向他方側の端部に固定されている。
軸部材18の軸方向他方側には、本体部18aの他の部分よりも外径が小さい小径部18cが設けられる。内輪19は、小径部18cに軸方向他方側から圧入され、小径部18cの外周面に嵌合されている。軸部材18の軸方向他方側の端部18dは径方向外方へ塑性変形させることにより、かしめられている。これによって、内輪19は軸部材18に固定されている。
【0028】
内軸12の外周面には、複列の内側軌道面20が設けられている。複列の内側軌道面20は、第1内側軌道面20aと、第2内側軌道面20bとを含む。
第1内側軌道面20aは、軸部材18の本体部18aの外周面に設けられている。第1内側軌道面20aは、第1外側軌道面17aに対向している。
第2内側軌道面20bは、内輪19の外周面に設けられている。第2内側軌道面20bは、第2外側軌道面17bに対向している。
よって、第1内側軌道面20aは、第2内側軌道面20bよりも、軸方向一方側に設けられている。
【0029】
複数の玉13は、それぞれ軸受鋼等により形成されている玉である。複数の玉13は、複数の第1玉13aと、複数の第2玉13bとを含む。
複数の第1玉13aは、第1外側軌道面17aと、第1内側軌道面20aとの間に介在する。
複数の第2玉13bは、第2外側軌道面17bと、第2内側軌道面20bとの間に介在する。
複数の第1玉13aの直径と、複数の第2玉13bの直径とは、同じである。
【0030】
複数の玉13は、外側軌道面17a,b及び内側軌道面20a,20bに対して所定の接触角を有して点接触する。すなわち、軸受装置10は、複列のアンギュラ玉軸受を含み、外輪11及び内軸12が、それぞれ軌道輪を構成する。
【0031】
保持器14は、樹脂により形成されている環状の部材である。保持器14は、各列の複数の玉13を周方向に所定の間隔を空けて保持している。
シール部材15は、外輪11の軸方向一方側の端部と本体部18aとの間に取り付けられている。シール部材16は、外輪11の軸方向他方側の端部と内輪19との間に取り付けられている。シール部材15、16は、外輪11と内軸12との間に形成される環状空間に泥水等の異物が浸入するのを防ぎ、かつ環状空間内の潤滑剤が漏出しないように封止する役割を有している。
【0032】
図3は、軸受装置10の要部断面図である。
図3に示すように、複数の第1玉13aのピッチ円直径D1は、複数の第2玉13bのピッチ円直径D2よりも大きい。
【0033】
また、本実施形態では、複数の第1玉13aの接触角θaが30度、複数の第2玉13bの接触角θbが40度である。このように、複数の第1玉13aの接触角θaが、複数の第2玉13bの接触角θbよりも小さい。
なお、複数の第1玉13aの接触角θaは、25~35度の範囲で設定される。また、複数の第2玉13bの接触角θbは、35~45度の範囲で設定される。
ここで、玉13の接触角とは、中心軸C1に垂直な平面(ラジアル平面)と、外輪11及び内軸12によって玉13へ伝えられる力の合力の作用線と、がなす角度である。
第1玉13aに作用する荷重の第1作用線L1は、第1玉13aにおける第1外側軌道面17aに対する接触部分31、第1玉13aにおける第1内側軌道面20aに対する接触部分32、及び第1玉13aの中心33を通過する直線である。
第1玉13aの接触角θaは、第1作用線L1と、第1玉13aの中心33を通過しかつ中心軸C1と直交する直線L2とが成す角度である。
また、第2玉13bに作用する荷重の第2作用線L3は、第2玉13bにおける第2外側軌道面17bに対する接触部分41、第2玉13bにおける第2内側軌道面20bに対する接触部分42、及び第2玉13bの中心43を通過する直線である。
第2玉13bの接触角θbは、第2作用線L3と、第2玉13bの中心43を通過しかつ中心軸C1と直交する直線L4とが成す角度である。
【0034】
また、第1作用線L1と、第2作用線L3との交点P1の軸方向位置は、第1外側軌道面17aの軸方向位置と、第2外側軌道面17bの軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置する。
より具体的に、直線L2は、第1外側軌道面17aの底部51を通過している。また、直線L4は、第2外側軌道面17bの底部52を通過している。
図3中、軸方向中心線LCは、中心軸C1に直交するとともに、直線L2と直線L4との軸方向中心に位置する。交点P1は、軸方向中心線LCよりも軸方向一方側に位置する。
よって、交点P1の軸方向位置は、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置と、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置する。
【0035】
本実施形態の車体取付フランジ11bの軸方向位置は、直線L2と、直線L4との間に位置する。
より詳細に、車体取付フランジ11bの軸方向中央を示す直線LFは、中心軸C1に直交するとともに、車体取付フランジ11bの軸方向中央を通過する直線である。直線LFは、軸方向中心線LCよりも軸方向一方側に位置する。
よって、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置は、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置と、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置する。
言い換えると、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置は、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置よりも、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置に近い位置である。
【0036】
さらに、交点P1の軸方向位置は、直線LFよりも軸方向一方側に位置する。
よって、交点P1の軸方向位置は、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置よりも軸方向一方側に位置する。
【0037】
〔車輪の側面下側が縁石に衝突した場合について〕
図4は、車輪の側面下側が縁石に衝突した場合を説明するための車輪用軸受装置10の断面図である。
例えば、車輪Wの側面下側が縁石に衝突したとする。すると、内軸12には、車輪取付フランジ18bを介して矢印Y1に示す方向に過大なモーメント荷重が作用する。
このような過大なモーメント荷重が内軸12に作用すると、複数の第1玉13aのうち、中心軸C1よりも下方に位置する第1玉13a1に大きく荷重が作用する。
【0038】
さらに、上記のような過大なモーメント荷重が作用すると、第1玉13a1の接触角θaが一時的に大きくなる。逆に、複数の第2玉13bのうち中心軸C1よりも下方に位置する第2玉13b1の接触角θbは、一時的に小さくなる。
【0039】
上記のようなモーメント荷重が内軸12に作用し、第1玉13a1の接触角θaがより大きくなると、第1玉13a1によるラジアル方向の許容負荷が相対的に低下し、第1玉13a1に荷重が集中することで第1外側軌道面17aにおける圧痕の発生を助長させるおそれが生じる。
【0040】
この点、本実施形態では、複数の第1玉13aの接触角θaが、複数の第2玉13bの接触角θbよりも小さいので、車輪Wの側面下側が縁石に衝突し、第1玉13a1の接触角θaが一時的に大きくなったとしても、第1玉13aの接触角θaと第2玉13bの接触角θbとの差異が大きくなるのを抑制することができる。この結果、複数の第1玉13aによるラジアル方向の許容負荷の相対的な低下を抑制することができ、第1玉13aに荷重が集中するのを抑制でき、第1内側軌道面20a及び第1外側軌道面17aに圧痕が生じるのを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、複数の第1玉13aの接触角θaを、複数の第2玉13bの接触角θbよりも小さくしたことで、複数の第1玉13aと、第1外側軌道面17a及び第1内側軌道面20aと、の間で生じる滑りが抑制され、車輪用軸受装置10全体の昇温が抑制されるとともに、回転トルクの低減化を図ることができる。
【0042】
また、本実施形態では、複数の第1玉13aのピッチ円直径D1が、複数の第2玉13bのピッチ円直径D2よりも大きいので、複数の第1玉13aに作用する荷重に対する許容負荷が複数の第2玉13bに作用する荷重に対する許容負荷よりも大きくすることができる。
これにより、第1内側軌道面20a及び第1外側軌道面17aに圧痕が生じるのを効果的に抑制することができる。
また、複数の第1玉13aの接触角θaを小さくすれば、アキシャル荷重に対する許容負荷が低下し通常の使用による軸受としての寿命が低下するおそれがある。
よって、複数の第1玉13a及び軌道面17a、20aの軸受としての寿命が、複数の第2玉13b及び軌道面17b、20bの軸受としての寿命よりも低下するおそれがある。
この点、本実施形態では、複数の第1玉13aのピッチ円直径D1を、複数の第2玉13bのピッチ円直径D2よりも大きくし、複数の第1玉13aに作用する荷重に対する許容負荷を大きくしたので、接触角θaの変更によって生じる複数の第1玉13a及び軌道面17a、20aの相対的な寿命低下を補完することができる。この結果、車輪用軸受装置10全体としての寿命低下を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置(直線LF)が、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置と、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置する。
言い換えると、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置(直線LF)が、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置よりも、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置に近い位置である。
【0044】
これにより、例えば、車体取付フランジ11bを外輪11の車両インナ側の端部に設けた場合と比較して、車体取付フランジ11bの軸方向位置と、荷重が与えられる車輪取付フランジ18bの軸方向位置とがより近くなる。よって、車輪Wの側面下側が縁石に衝突したときに車輪取付フランジ18bを介して軸受装置10全体に作用するモーメント荷重を低減することができる。この結果、第1内側軌道面20a及び第1外側軌道面17aに圧痕が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0045】
さらに、車体取付フランジ11bを第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置に近い位置に設けることで、交点P1と、車体取付フランジ11bとを軸方向に近づけて設けることができる。これにより、車輪Wの側面下側が縁石に衝突したとき以外の場合において、内軸12から両玉13を介して外輪11に伝わる荷重を、外輪11における車体取付フランジ11bに近い位置で負担することができる。よって、車輪Wの側面下側が縁石に衝突したとき以外の場合において内軸12から両玉13を介して外輪11に伝わる荷重を適切に負担することができる。
【0046】
また、本実施形態では、交点P1の軸方向位置が、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置(直線LF)よりも軸方向一方側に位置するので、車輪Wの側面下側が縁石に衝突し、第1玉13a1の接触角θaが一時的に大きくなったときに、交点P1の軸方向位置が直線LF及び軸方向中心線LCに近づく。よって、両玉13a、13bを介して外輪11に伝わる荷重を、外輪11における車体取付フランジ11b及び軸方向中心線LC近傍で負担することができる。この結果、車輪Wの側面下側が縁石に衝突したことで生じる荷重が軸方向に偏って外輪11に負担されるのを抑制することができる。
【0047】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
例えば、本実施形態では、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置が、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置と、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置との軸方向中心よりも軸方向一方側に位置する場合を例示したが、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置は、第1外側軌道面17aの底部51の軸方向位置と、第2外側軌道面17bの底部52の軸方向位置との軸方向中心の軸方向他方側に位置していてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、交点P1の軸方向位置が、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置よりも軸方向一方側に位置する場合を例示したが、交点P1の軸方向位置は、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置よりも軸方向他方側に位置していてもよい。言い換えると、車体取付フランジ11bの軸方向中央の軸方向位置は、交点P1の軸方向位置よりも軸方向一方側に位置していてもよい。
【0049】
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0050】
10 車輪用軸受装置
11 外輪
11a 外周面
11b 車体取付フランジ
11b1 突起部
11b2 貫通孔
12 内軸
13 玉
13a,13a1 第1玉
13b,13b1 第2玉
14 保持器
15 シール部材
16 シール部材
17 外側軌道面
17a 第1外側軌道面
17b 第2外側軌道面
18 軸部材
18a 本体部
18b 車輪取付フランジ
18c 小径部
18d 端部
19 内輪
20 内側軌道面
20a 第1内側軌道面
20b 第2内側軌道面
31 接触部分
32 接触部分
33 中心
41 接触部分
42 接触部分
43 中心
51 底部
52 底部
C1 中心軸
D1 ピッチ円直径
D2 ピッチ円直径
L1 第1作用線
L2 直線
L3 第2作用線
L4 直線
LC 軸方向中心線
LF 直線
P1 交点
W 車輪
Y1 矢印
Y2 矢印
θa 接触角
θb 接触角
図1
図2
図3
図4