(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】故障予兆検出システムおよび作業車
(51)【国際特許分類】
B66C 15/00 20060101AFI20240611BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20240611BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240611BHJP
【FI】
B66C15/00 A
H02P29/00
G01M99/00
(21)【出願番号】P 2023503973
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009436
(87)【国際公開番号】W WO2022186382
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021035622
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-260891(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220751(WO,A1)
【文献】特表2000-513097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 15/00
H02P 29/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームを有する作業車に搭載されたアクチュエータの故障の予兆を検出する故障予兆検出システムであって、
前記アクチュエータの正常時の特性を数理的に表した物理モデルを有する物理モデル部と、
前記物理モデル部の
理想出力
信号と前記アクチュエータの
実出力
信号との差分に基づいて重み係数を調整することにより前記アクチュエータの特性を学習する学習モデルを
有する学習モデル部と、
前記重み係数に基づいて前記故障の予兆を検出する故障予測部と、を備え、
前記学習モデル部は、前記アクチュエータ
に入力される実入力信号を入力として取得し、
前記実入力信号に基づいて前記アクチュエータの出力信号に対応する学習出力信号を算出し、算出した前記学習出力信号を変換して得た前記アクチュエータの入力信号に対応する学習入力信号を、前記物理モデル部に入力される入力信号を補正する補正信号
として出力し、
前記物理モデルは、前記アクチュエータへの入力信号が前記補正信号により補正された信号を入力として取得する、
故障予兆検出システム。
【請求項2】
前記物理モデル部は、前記作業車の制御装置により生成された前記アクチュエータを操作するための入力信号を前記物理モデルへの入力として取得し、
前記物理モデルは、前記入力に対応する理想出力信号を算出する、請求項1に記載の故障予兆検出システム。
【請求項3】
前記学習モデルは、前記アクチュエータの特性を表し、前記重み係数が設定された少なくとも一つのモデル伝達関数を含む、請求項1に記載の故障予兆検出システム。
【請求項4】
前記学習モデル部は、前記アクチュエータをフィードフォワード制御するフィードフォワード制御部であり、
前記フィードフォワード制御部は、
前
記実入力信号を入力として取得し、
取得した前記
実入力信号に基づいて、フィードフォワード補正信号を生成し、
生成した前記フィードフォワード補正信号により前記
実入力信号を補正する、
請求項1記載の故障予兆検出システム。
【請求項5】
前記故障予測部は、取得した前記重み係数を単位時間毎に記録する、または、外部のサーバーに送信する、請求項1に記載の故障予兆検出システム。
【請求項6】
前記故障予測部は、取得した前記重み係数の変化から、対応する前記アクチュエータのメンテナンス時期または故障時期を予測する、請求項1に記載の故障予兆検出システム。
【請求項7】
前記故障予測部は、前記故障の予兆を判定するための基準となる情報である故障判定情報を格納したデータベースを有し、前記学習モデルから取得した前記重み係数と前記故障判定情報とを比較することにより、前記故障の予兆の有無を判定する、請求項1に記載の故障予兆検出システム。
【請求項8】
請求項1に記載の故障予兆検出システムを備えた作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障予兆検出システムおよび作業車に関する。詳しくは、走行体に旋回台を介して起伏可能なブームが設けられた作業車の故障予兆検出システムおよび作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーン、建設機械等の作業車は、各アクチュエータの劣化および故障の発生を検出するための各種センサが設けられている。また、作業車各アクチュエータの劣化および故障の発生を抑制するために、各種センサによる各アクチュエータの状態の監視、定期的な点検、および部品の交換が実施されている。このような作業車において、アクチュエータ等の故障を積極的に発見するために故障診断モードを有する作業車(建設機械)が提案されている。作業車は、作業者によって故障診断モードが選択されると、対応するアクチュエータの作動状態から故障を判定する。例えば、特許文献1の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の建設機械のコントローラは、可変容量型ポンプの故障診断モードにおいて、可変容量型ポンプの故障診断用の制御指令と故障診断用のエンジン回転数とから故障診断モード時の可変容量型ポンプの理論ポンプ流量を算出する。さらに、コントローラは、故障診断モード時の実ポンプ流量と理論ポンプ流量に基づき可変容量型ポンプの故障判定を行う。このように構成することで、コントローラは、可変容量型ポンプの故障を判定するために最適なポンプ流量を可変容量型ポンプから油路に流すため、可変容量型ポンプの故障を簡易な構造にて精度良く判定することができる。
【0004】
しかし、特許文献1の技術は、作業者が故障診断モードを実施しなければアクチュエータの故障を検出できない。つまり、故障診断モードは、故障診断モードを実施した時点におけるアクチュエータの作動状態から故障の有無を判断する技術であって、故障の予兆を検出するものではない。また、故障診断モードは、特定の作動条件において故障判定を行うため、特定の作動条件以外の条件で生じる不具合を検出できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、作業車の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる故障予兆検出システムおよび作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、作業車の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる故障予兆検出システムおよび作業車について検討した。鋭意検討の結果、本発明者らは、以下のような構成に想到した。
【0008】
本発明の一実施形態に係る故障予兆検出システムは、
ブームを有する作業車に搭載されたアクチュエータの故障の予兆を検出する故障予兆検出システムであって、
アクチュエータの正常時の特性を数理的に表した物理モデルを有する物理モデル部と、
物理モデル部の理想出力信号とアクチュエータの実出力信号との差分に基づいて重み係数を調整することによりアクチュエータの特性を学習する学習モデルを有する学習モデル部と、
重み係数に基づいて故障の予兆を検出する故障予測部と、を備え、
学習モデル部は、アクチュエータに入力される実入力信号を入力として取得し、実入力信号に基づいてアクチュエータの出力信号に対応する学習出力信号を算出し、算出した学習出力信号を変換して得たアクチュエータの入力信号に対応する学習入力信号を、物理モデル部に入力される入力信号を補正する補正信号として出力し、
物理モデルは、アクチュエータへの入力信号が補正信号により補正された信号を入力として取得する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業車の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる故障予兆検出システムおよび作業車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、クレーンの全体構成を示す側面図である。
【
図2】
図2は、クレーンの制御構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の制御装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、クレーンの逆動力学モデルを示す図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る第1実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る第1実施形態における制御システムの他の制御構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本発明に係る第2実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明に係る第3実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で、各実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同一部分には同一の符号を付して、その同一部分の説明は繰り返さない。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0012】
[実施形態1]
<全体構成>
以下に、
図1と
図2とを用いて、本発明の一実施形態に係るクレーン1について説明する。クレーン1は、作業車の一例に該当し、移動式クレーン(ラフテレーンクレーン)である。
図1は、クレーン1の全体構成を示す側面図である。
図2は、クレーン1の制御構成を示すブロック図である。なお、本実施形態においては、作業車としてクレーン1(ラフテレーンクレーン)ついて説明を行うが、オールテレーンクレーン、トラッククレーン、積載型トラッククレーン、高所作業車等でもよい。つまり、本発明は、走行体に旋回台を介して起伏可能なブームが設けられた作業車に適用可能である。
【0013】
以下の説明において、「(n)、(n+1)、(n+2)」は、単位時間t毎に取得される情報(例えばワイヤロープの繰り出し量)のうち、n番目、n+1番目、n+2番目に取得した情報を意味する。つまり、「(n)」は、情報の取得開始からn×t時間経過後に取得した情報を意味する。また、「(n+1)」は、情報の取得開始から(n+1)×t時間経過後に取得した情報を意味する。また、「(n+2)」は、情報の取得開始から(n+2)×t時間経過後に取得した情報を意味する。
【0014】
図1に示すように、クレーン1は、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンである。クレーン1は、車両2、作業装置であるクレーン装置6およびクレーン装置6を荷物W基準で操作可能な荷物移動操作具32(
図2参照)を有する。
【0015】
車両2は、クレーン装置6を搬送する走行体である。車両2は、複数の車輪3を有し、エンジン4を動力源として走行する。車両2には、アウトリガ5が設けられている。アウトリガ5は、車両2の幅方向両側に油圧によって延伸可能な張り出しビームと地面に垂直な方向に延伸可能な油圧式のジャッキシリンダとから構成されている。
【0016】
クレーン装置6は、荷物Wをワイヤロープによって吊り上げる作業装置である。クレーン装置6は、旋回台7、ブーム9、ジブ9a、メインフックブロック10、サブフックブロック11、起伏用油圧シリンダ12、メインウインチ13、メインワイヤロープ14、サブウインチ15、サブワイヤロープ16およびキャビン17等を具備する。クレーン装置6には、少なくとも一つのアクチュエータが設けられている。
【0017】
旋回台7は、クレーン装置6を旋回可能に構成する駆動装置である。旋回台7は、円環状の軸受を介して車両2のフレーム上に設けられる。旋回台7は、円環状の軸受の中心を回転中心として回転自在に構成されている。旋回台7には、アクチュエータである油圧式の旋回用油圧モータ8が設けられている。旋回用油圧モータ8は、電磁比例切換弁である旋回用バルブ23(
図2参照)によって回転操作されるアクチュエータである。旋回台7には、旋回台7の旋回角度θz(
図4参照)と旋回速度とを検出する旋回角度検出部である旋回用センサ27(
図2参照)が設けられている。
【0018】
旋回台カメラ7b(
図2参照)は、旋回台7の前方の左右両側および旋回台7の後方の左右両側に設けられている。旋回台カメラ7bは、一組のステレオカメラとして使用可能に構成されている。つまり、旋回台カメラ7bは、一組のステレオカメラとして使用することで吊り下げられている荷物Wの位置情報を検出することができる。なお、荷物Wの位置情報の検出は、ミリ波レーダー、加速度センサ、GNSS等の荷物Wの位置情報を検出できるものであればよい。
【0019】
ブーム9は、荷物Wを吊り上げ可能な状態にメインワイヤロープ14およびサブワイヤロープ16を支持する可動支柱である。ブーム9は、複数のブーム部材から構成されている。ブーム9は、ベースブーム部材の基端が旋回台7の略中央に揺動可能に設けられている。ブーム9は、各ブーム部材をアクチュエータである図示しない伸縮用油圧シリンダで移動させることで軸方向に伸縮自在に構成されている。伸縮用油圧シリンダは、電磁比例切換弁である伸縮用バルブ24(
図2参照)によって伸縮操作される。
【0020】
ブーム9には、ジブ9aおよびブームカメラ9b(
図2参照)が設けられている。また、ブーム9には、ブーム9の伸縮長さlb(n)を検出する伸縮用センサ28と、ブーム9の先端を中心とする方位を検出する方位センサ29(
図2参照)と、起伏角度θx(
図4参照)を検出する起伏用センサ30(
図2参照)が設けられている。
【0021】
メインフックブロック10とサブフックブロック11とは、荷物Wを吊る吊り具である。メインフックブロック10には、メインワイヤロープ14が巻き掛けられる複数のフックシーブと、荷物Wを吊るメインフック10aとが設けられている。サブフックブロック11には、荷物Wを吊るサブフック11aが設けられている。
【0022】
起伏用油圧シリンダ12は、ブーム9を起立および倒伏させ、ブーム9の姿勢を保持するアクチュエータである。起伏用油圧シリンダ12は、シリンダ部の端部が旋回台7に揺動自在に連結され、ロッド部の端部がブーム9のベースブーム部材に揺動自在に連結されている。起伏用油圧シリンダ12は、電磁比例切換弁である起伏用バルブ25(
図2参照)によって伸縮操作される。
【0023】
メインウインチ13とサブウインチ15とは、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16との繰り入れ(巻き上げ)および繰り出し(巻き下げ)を行う巻回装置である。メインウインチ13は、メインワイヤロープ14が巻きつけられるメインドラムを有する。メインドラムは、アクチュエータである図示しないメイン用油圧モータの動力に基づいて回転する。サブウインチ15は、サブワイヤロープ16が巻きつけられるサブドラムを有する。サブドラムは、アクチュエータである図示しないサブ用油圧モータの動力に基づいて回転する。
【0024】
メイン用油圧モータは、電磁比例切換弁であるメイン用バルブ26m(
図2参照)によって回転操作される。サブ用油圧モータは、電磁比例切換弁であるサブ用バルブ26s(
図2参照)によって回転操作される。メインウインチ13とサブウインチ15とには、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16の繰り出し量l(n)(
図4参照)をそれぞれ検出する巻回用センサ33(
図2参照)が設けられている。
【0025】
キャビン17は、筐体に覆われた操縦席である。キャビン17は、旋回台7に搭載されている。キャビン17には、車両2を走行操作するための操作具、クレーン装置6を操作するための旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21m、およびサブドラム操作具21s等が設けられている(
図2参照)。
【0026】
キャビン17には、荷物Wの移動方向と移動速さを入力する荷物移動操作部である荷物移動操作具32(
図2参照)が設けられている。荷物移動操作具32は、水平面において荷物Wの移動方向と速さについての指示を入力する操作具である。荷物移動操作具32は、操作スティックの傾倒方向とその傾倒量についての操作信号を制御装置31(
図2参照)に伝達するように構成されている。荷物移動操作具32は、操作信号を荷物Wが目標とする移動速度を示す目標移動速度信号Vdとして制御装置31に伝達する。
【0027】
例えば、ブーム9の先端が北を向いている状態において荷物移動操作具32が前方向に対して左方向に傾倒角度=45°の方向に任意の傾倒量だけ傾倒操作された場合、クレーン1は、北から傾倒角度=45°の方向である北西に、荷物移動操作具32の傾倒量に応じた速さで荷物Wを移動させる。
【0028】
図2に示すように、制御装置31は、各操作弁を介してクレーン装置6のアクチュエータを制御する制御装置31である。制御装置31は、実体的には、CPU、ROM、RAM、およびHDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。制御装置31には、各アクチュエータ、切換えバルブ、およびセンサ等の動作を制御するために種々のプログラム、データが格納されている。
【0029】
制御装置31は、旋回台カメラ7b、ブームカメラ9b、旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sに接続され、旋回台カメラ7bからの映像、ブームカメラ9bからの映像、を取得し、各操作具の操作量を取得することができる。
【0030】
制御装置31は、旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mおよびサブ用バルブ26sに接続され、各バルブに各アクチュエータを目標作動量まで作動させるための作動信号である目標作動信号Md(
図4参照)を伝達することができる。
【0031】
制御装置31は、旋回用センサ27、伸縮用センサ28、GNSS方式の方位センサ29、起伏用センサ30および巻回用センサ33に接続され、旋回台7の旋回角度θz、伸縮長さLb、起伏角度θx、メインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16(以下、単に「ワイヤロープ」と記す)の繰り出し量l(n)および方位を取得することができる。なお、方位センサ29は、旋回用センサ27を流用してもよい。
【0032】
制御装置31は、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sの操作量に基づいて各操作具に対応した目標作動信号Mdを生成する。
【0033】
制御装置31は、方位センサ29が取得したブーム9の先端の方位に基づいて、荷物Wを目標作動量まで作動させるための入力信号である目標軌道信号Pdα(
図3参照)を算出する。さらに、制御装置31は、目標軌道信号Pdαから荷物Wの目標位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。制御装置31は、目標位置座標p(n+1)に荷物Wを移動させる旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mおよびサブ用バルブ26sの目標作動信号Mdを生成する(
図3参照)。
【0034】
このように構成されるクレーン1は、車両2を走行させることで任意の位置にクレーン装置6を移動させることができる。また、クレーン1は、各操作具によってブーム9を任意の起伏角度、伸縮長さにすることでクレーン装置6の揚程、作業半径を拡大することができる。また、クレーン1は、旋回台7とブーム9の操作によって荷物Wを搬送することができる。クレーン1は、荷物移動操作具32の傾倒方向に向けて傾倒量に応じた速さで荷物Wを移動させる。
【0035】
<逆動力学モデルによる制御構成>
次に、
図3と
図4とを用いて、クレーン装置6の制御装置31における目標作動信号Mdを生成するための荷物Wの目標軌道信号Pdα、およびブーム9の先端の目標位置座標q(n+1)を算出する制御工程の一実施形態について説明する。
図3は、本発明に係る制御装置31の制御構成を示すブロック図である。
図4は、本発明に係るクレーン1の逆動力学モデルを示す図である。
【0036】
図3に示すように、制御装置31は、目標軌道算出部31a、ブーム位置算出部31b、および作動信号生成部31cを有している。また、制御装置31は、旋回台7の前方の左右両側の一組の旋回台カメラ7bによって荷物Wの現在位置情報を取得することができる。(
図2参照)。
【0037】
目標軌道算出部31aは、制御装置31の一部であり、荷物Wが目標とする移動速度を示す目標移動速度信号Vdを荷物Wの目標軌道信号Pdαに変換する。荷物Wの目標軌道信号Pdαは、荷物Wの移動方向および速さの情報を含む。目標軌道算出部31aは、荷物Wの示す目標移動速度信号Vdを荷物移動操作具32から単位時間t毎に取得することができる。また、目標軌道算出部31aは、取得した目標移動速度信号Vdを積分して単位時間t毎の荷物Wのx軸方向、y軸方向およびz軸方向の目標軌道信号Pdαを算出することができる。ここで、添え字αは、x軸方向、y軸方向およびz軸方向のいずれかを表す符号である。
【0038】
ブーム位置算出部31bは、制御装置31の一部であり、ブーム9の姿勢情報と荷物Wの目標軌道信号Pdαからブーム9の先端の位置座標を算出する。ブーム位置算出部31bは、目標軌道算出部31aから目標軌道信号Pdαを取得することができる。ブーム位置算出部31bは、旋回用センサ27から旋回台7の旋回角度θz(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、伸縮用センサ28から伸縮長さlb(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、起伏用センサ30から起伏角度θx(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、巻回用センサ33からメインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16(以下、単に「ワイヤロープ」と記す)の繰り出し量l(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、旋回台カメラ7bが撮影した荷物Wの画像から荷物Wの現在位置情報を取得する(
図2参照)。
【0039】
ブーム位置算出部31bは、取得した荷物Wの現在位置情報から荷物Wの現在位置座標p(n)を算出する。ブーム位置算出部31bは、取得した旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、および起伏角度θx(n)からブーム9の先端の現在位置であるブーム9の先端(ワイヤロープの繰り出し位置)の現在位置座標q(n)(以下、単に「ブーム9の現在位置座標q(n)」と記す)を算出する。また、ブーム位置算出部31bは、荷物Wの現在位置座標p(n)とブーム9の現在位置座標q(n)とからワイヤロープの繰り出し量l(n)を算出する。また、ブーム位置算出部31bは、目標軌道信号Pdαから単位時間t経過後の荷物Wの位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。さらに、ブーム位置算出部31bは、荷物Wの現在位置座標p(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)とから荷物Wが吊り下げられているワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)を算出する。ブーム位置算出部31bは、逆動力学モデルを用いて荷物Wの目標位置座標p(n+1)と、ワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)とから単位時間t経過後のブーム9の先端の位置であるブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する(
図4参照)。
【0040】
作動信号生成部31cは、制御装置31の一部であり、単位時間t経過後のブーム9を目標位置座標q(n+1)に移動させるための各アクチュエータの目標作動信号Md等を生成する。作動信号生成部31cは、ブーム位置算出部31bからブーム9の現在位置座標q(n)、単位時間t経過後の荷物Wの目標位置座標p(n+1)およびブーム9の目標位置座標q(n+1)を取得する。作動信号生成部31cは、ブーム9の現在位置座標q(n)、ブーム9の目標位置座標q(n+1)および荷物Wの目標位置座標p(n+1)から旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mまたはサブ用バルブ26sの目標作動信号Mdを生成するように構成されている。作動信号生成部31cは、生成した目標作動信号Mdをクレーン1の各アクチュエータに送信する(
図4参照)。
【0041】
次に、
図4を用いて、クレーン1の逆動力学モデルについて説明する。
図4に示すように、制御装置31は、荷物Wの現在位置座標p(n)、ブーム9の現在位置座標q(n)および単位時間t経過後の荷物Wの目標位置座標p(n+1)からブーム9の先端の目標位置座標q(n+1)を算出するためのクレーン1の逆動力学モデルを有している。逆動力学モデルは、XYZ座標系に定義され、原点Oをクレーン1の旋回中心とする。制御装置31は、逆動力学モデルにおいて、q、p、lb、θx、θz、l、fおよびeをそれぞれ定義する。qは、ブーム9の先端の現在位置座標q(n)を示し、pは、荷物Wの現在位置座標p(n)を示す。lbは、ブーム9の伸縮長さlb(n)示し、θxは、起伏角度θx(n)を示し、θzは、旋回角度θz(n)を示す。lは、ワイヤロープの繰り出し量l(n)を示し、fはワイヤロープの張力fを示し、eは、ワイヤロープの方向ベクトルe(n)を示す。
【0042】
このように定まる逆動力学モデルにおいてブーム9の先端の目標位置qと荷物Wの目標位置pとの関係が、荷物Wの目標位置pと荷物Wの質量mとワイヤロープのばね定数kfとから式(2)によって表され、ブーム9の先端の目標位置qが、荷物Wの時間の関数である式(3)によって算出される。
【数2】
【数3】
f:ワイヤロープの張力、kf:ばね定数、m:荷物Wの質量、q:ブーム9の先端の現在位置または目標位置、p:荷物Wの現在位置または目標位置、l:ワイヤロープの繰出し量、e:方向ベクトル、g:重力加速度
【0043】
ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、以下の式(4)から算出される。ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、ブーム9の先端位置であるブーム9の現在位置座標q(n)と荷物Wの位置である荷物Wの現在位置座標p(n)の距離で定義される。
【0044】
【0045】
ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、以下の式(5)から算出される。ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、ワイヤロープの張力f(式(2)参照)の単位長さのベクトルである。ワイヤロープの張力fは、荷物Wの現在位置座標p(n)と単位時間t経過後の荷物Wの目標位置座標p(n+1)から算出される荷物Wの加速度から重力加速度を減算して算出される。
【0046】
【0047】
単位時間t経過後のブーム9の先端の目標位置であるブーム9の目標位置座標q(n+1)は、式(2)をnの関数で表した式(6)から算出される。ここで、αは、ブーム9の旋回角度θz(n)を示している。ブーム9の目標位置座標q(n+1)は、逆動力学を用いてワイヤロープの繰り出し量l(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)と方向ベクトルe(n+1)とから算出される。
【0048】
【0049】
なお、本実施形態において、制御装置31は、好ましい実施形態の一つとして荷物Wの目標軌道信号Pdα、およびブーム9の先端の目標位置座標q(n+1)を算出するために逆動力学モデルを用いている。しかしながら、制御装置31は、荷物移動操作具32の操作信号から各アクチュエータの入力量を算出する順動力学に基づいた制御でもよい。
【0050】
<故障予兆検出システムによる制御構成>
次に、
図5と
図6とを用いて、本発明の第1実施形態である故障予兆検出システム37を含む制御システム34による目標作動信号Mdの生成について説明する。
図5は、本発明に係る第1実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。
図6は、本発明に係る第1実施形態における制御システムの他の制御構成を示すブロック図である。
【0051】
制御システム34は、荷物移動操作具32、旋回用センサ27、起伏用センサ30、伸縮用センサ28、旋回台カメラ7b(
図2参照)、制御装置31に含まれる目標値フィルタ35、目標作動量算出部36および故障予兆検出システム37を含む。制御システム34は、各センサ、制御装置31の目標軌道算出部31a、ブーム位置算出部31bおよび作動信号生成部31cが協働することにより目標作動信号Md生成している。
【0052】
図5に示すように、制御装置31の目標軌道算出部31aにおいて構成される目標値フィルタ35は、所定の周波数以上の周波数を減衰させる。目標値フィルタ35には、荷物Wの目標位置までの制御信号である目標移動位置信号Pdが入力される。目標移動位置信号Pdは、荷物移動操作具32からの目標移動速度信号Vdを目標軌道算出部31aに含まれる積分器32aによって変換されたものである。目標値フィルタ35は、目標移動位置信号Pdから荷物Wの目標軌道信号Pdαを算出する。目標値フィルタ35が適用されることにより、その後の微分操作による特異点(急激な位置変動)の発生が抑制される。
【0053】
目標値フィルタ35は、式(1)の伝達関数G(s)からなる。伝達関数G(s)は、T1、T2、T3、T4、C1、C2、C3、C4を係数、sを微分要素として部分分数分解した形式で表現している。式(1)の伝達関数G(s)は、x軸、y軸およびz軸毎に設定されている。このように、伝達関数G(s)は、1次遅れの伝達関数を重ね合わせたものとして表現することができる。目標値フィルタ35は、荷物Wの目標移動位置信号Pdに伝達関数G(s)を乗算することで、目標移動位置信号Pdを目標軌道信号Pdαに変換する。
【0054】
【0055】
制御装置31のブーム位置算出部31bおよび作動信号生成部31cにおいて構成される目標作動量算出部36は、クレーン1の姿勢情報、荷物Wの現在位置情報および荷物Wの目標軌道信号Pdαから各アクチュエータを目標作動量まで作動させるための信号である目標作動信号Mdを生成する。目標作動量算出部36は、上述の逆動力学モデルを有する。目標作動量算出部36は、目標値フィルタ35に直列に接合されている。目標作動量算出部36は、逆動力学モデルを用いて目標値フィルタ35が算出した目標軌道信号PDα、荷物Wの現在位置情報から算出した荷物Wの現在位置座標p(n)および各センサから取得したクレーン1の姿勢情報(旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)、繰り出し量l(n))から逆動力学モデルを用いて単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する(
図4参照)。次に、目標作動量算出部36は、算出した目標位置座標q(n+1)から各アクチュエータの目標作動信号Mdを生成する。目標作動量算出部36は、生成した目標作動信号Mdを各アクチュエータに送信する。
【0056】
故障予兆検出システム37は、クレーン1の各アクチュエータの故障の予兆を検出するシステムである。故障予兆検出システム37は、制御装置31の作動信号生成部31cにおいて構成されている。故障予兆検出システム37は、物理モデル部38、学習モデル部40および故障予測部42から構成される。
【0057】
物理モデル部38は、理想状態のクレーン1において目標作動信号Mdに対する各アクチュエータの作動量である理想出力信号Mdiを生成する。理想状態のクレーン1とは、クレーン1の各アクチュエータ、可動部分、構造体、電気系統、制御装置等の全てに不具合がなく正常に動作可能な状態のクレーン1を意味する。物理モデル部38は、例えばクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性を示す少なくとも一つのモデル伝達関数を含む複数の特性をn個のサブシステムで表した物理モデルである逆動力学モデル39を有している。逆動力学モデル39は、理想状態のクレーン1の特性を有する物理モデルとして構成されている。つまり、逆動力学モデル39は、クレーン1のアクチュエータの正常時の特性を数理的に表した物理モデルである。物理モデル部38は、逆動力学モデル39を用いて、荷物Wの目標作動信号Mdから各アクチュエータの理想出力信号Mdiを生成する。クレーン1の特性とは、クレーン1を構成する少なくとも一つのアクチュエータの特性を含む。また、クレーン1の特性には、クレーン1を構成する少なくとも一つのアクチュエータの特性だけでなく、クレーン1を構成する構造体の剛性、摩擦等の特性を含んでいてもよい。
【0058】
物理モデル部38は、目標作動量算出部36の下流側に並列に接続されている。物理モデル部38は、目標作動量算出部36が生成した目標作動信号Mdを取得することができる。つまり、物理モデル部38は、制御装置31が生成した入力信号である目標作動信号Mdを取得することができる。また、物理モデル部38は、学習モデル部40に接続されている。物理モデル部38は、学習モデル部40から後述する補正信号Mdcを取得することができる。
【0059】
物理モデル部38の逆動力学モデル39は、それぞれクレーン1の特性を表すモデル伝達関数を含む複数の第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・第nサブシステムSMnが並列に結合されている。逆動力学モデル39の第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・および第nサブシステムSMnは、理想状態のクレーン1の特性を表している。つまり、逆動力学モデル39は、理想状態のクレーン1の特性を表している。物理モデル部38は、目標作動信号Mdと補正信号Mdcとを加えわせた信号に対する逆動力学モデル39の出力信号である理想出力信号Mdiを生成する。なお、本実施形態において、理想状態のクレーン1の特性を表すモデルは、逆動力学モデル39から構成されているが、2次の伝達関数等で表現されていてもよい。
【0060】
物理モデル部38は、目標作動量算出部36から取得した目標作動信号Md、荷物Wの現在位置情報から算出した荷物Wの現在位置座標p(n)および各センサから取得したクレーン1の姿勢情報(旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)、繰り出し量l(n))から逆動力学モデル39を用いて単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する(
図3、
図4参照)。次に、物理モデル部38は、算出した目標位置座標q(n+1)から各アクチュエータの理想出力信号Mdiを生成する。物理モデル部38は、生成した理想出力信号Mdiを学習モデル部40に送信する。
【0061】
学習モデル部40は、物理モデル部38の出力とアクチュエータの出力との差分に基づいて重み係数を調整することによりアクチュエータの特性を学習する学習モデル(後述の学習型逆動力学モデル41)を有する。また、学習モデル部40は、学習モデル(学習型逆動力学モデル41)の出力に基づいて物理モデル部38への入力を補正する。
【0062】
具体的には、学習モデル部40は、理想状態のクレーン1に対する現在のクレーン1の状態を検出する。学習モデル部40は、例えばクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性を示す少なくとも一つのモデル伝達関数を含む複数の特性をn個のサブシステムで表した学習モデルである学習型逆動力学モデル41を有している。モデル伝達関数にはそれぞれ、後述の重み係数が設定されている。学習型逆動力学モデル41は、現在のクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性に近似可能な学習型モデルとして構成されている。学習モデル部40は、学習型逆動力学モデル41を用いて、クレーン1の実出力信号Mdrと理想出力信号Mdiとの差分を縮小させるように学習型逆動力学モデル41を学習させる。また、学習モデル部40は、学習型逆動力学モデル41を用いて各アクチュエータの出力を算出する。更に、学習モデル部40は、各アクチュエータの出力を逆伝達関数40aによって各アクチュエータの入力信号に変換し、目標作動信号Mdを補正する補正信号Mdcとして出力する。つまり、学習モデル部40は、出力を入力に変換する逆システムとして機能している。
【0063】
学習モデル部40は、目標作動量算出部36の下流側に並列に接続されている。学習モデル部40は、目標作動量算出部36が生成した目標作動信号Mdを取得する。つまり、学習モデル部40は、制御装置31が生成した入力信号である目標作動信号Mdを取得する。また、学習モデル部40は、物理モデル部38に接続されている。学習モデル部40は、物理モデル部38から理想出力信号Mdiを取得する。また、学習モデル部40は、クレーン1の各センサに接続されている。学習モデル部40は、クレーン1の各センサから実出力信号Mdrを取得する。
【0064】
学習型逆動力学モデル41は、複数の第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・第nサブシステムSMnが並列に結合されている。学習型逆動力学モデル41は、第1サブシステムSM1に重み係数w1、第2サブシステムSM2に重み係数w2、第3サブシステムSM3に重み係数w3・・・および第nサブシステムSMnに重み係数wnが設定されている。学習型逆動力学モデル41は、学習型逆動力学モデル41の入力信号である目標作動信号Mdを第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・および第nサブシステムSMnに入力する。更に、学習型逆動力学モデル41は、第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・および第nサブシステムSMnよって算出された出力信号に第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・および第nサブシステムSMn毎の重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを乗算する。
【0065】
学習モデル部40は、取得した理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分が減少するように各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。学習モデル部40は、例えば取得した理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分がゼロになるように各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。このように構成することで、学習モデル部40は、経年変化等によって変化したクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性を有する学習型逆動力学モデル41を習得することができる。また、学習モデル部40は、理想状態のクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性に対する現実のクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性の差異を重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの変化量で示すことができる。
【0066】
学習モデル部40は、目標作動量算出部36から取得した目標作動信号Mdを取得する。学習モデル部40は、物理モデル部38から理想出力信号Mdiを取得する。また、学習モデル部40は、クレーン1の各センサから実出力信号Mdrを取得する。学習モデル部40は、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分に基づいて、各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。
【0067】
このように学習型逆動力学モデル41は、物理的な特性が明確な複数のサブシステムから構成されている。また、学習型逆動力学モデル41は、複数のサブシステムからの出力にそれぞれ重み係数を掛けることで1層のニューラルネットワークとみなすことができる。学習型逆動力学モデル41は、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分に基づいて重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを独立して調整することで、第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・第nサブシステムSMnの物理的な特性を実際のクレーン1が有する少なくとも一つのアクチュエータの特性に近似させることができる。
【0068】
また、制御システム34は、目標作動量算出部36に入力される目標軌道信号PDαを4次のローパスフィルタである目標値フィルタ35を介して生成しているので目標軌道信号Pdαにおける特異点の発生が抑制されている。従って、制御システム34は、特異点が抑制された目標軌道信号Pdαから目標作動量算出部36が生成した目標作動信号Mdを学習型逆動力学モデル41に入力することで、学習型逆動力学モデル41の学習の収束が促進される。これにより、制御システム34は、荷物Wを基準として各アクチュエータを制御する際に、荷物Wの揺れを抑制しつつ操縦者の意図に沿った態様で荷物Wを移動させることができる。
【0069】
なお、本実施形態において、制御システム34は、学習型逆動力学モデル41に入力される目標軌道信号Pdαを4次のローパスフィルタである目標値フィルタ35を介して生成している。しかしながら、制御システム34は、学習型逆動力学モデル41に含まれる微分要素が発散し、学習型逆動力学モデル41による学習が不安定化しないローパスフィルタを有していればよい。制御システム34は、例えば、1次以上のローパスフィルタとして構成される伝達関数を有していればよい。
【0070】
学習モデル部40は、目標作動量算出部36から取得した目標作動信号Md、荷物Wの現在位置情報から算出した荷物Wの現在位置座標p(n)および各センサから取得したクレーン1の姿勢情報(旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)、繰り出し量l(n))から学習型逆動力学モデル41を用いて単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する(
図3、
図4参照)。次に、学習モデル部40は、算出した目標位置座標q(n+1)から目標作動信号Mdを補正する補正信号Mdcを生成する。学習モデル部40は、生成した補正信号Mdcを物理モデル部38が取得する目標作動量算出部36に加え合わせる。
【0071】
故障予測部42は、クレーン1の各アクチュエータの故障の予兆を検出する。故障予測部42は、クレーン1の稼働時間、アクチュエータ毎の稼働時間等を取得する。故障予測部42は、学習モデル部40に接続されている。故障予測部42は、学習モデル部40が有する学習型逆動力学モデル41から各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを単位時間t毎に取得する。故障予測部42は、取得した各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを記録する。つまり、制御システム34は、制御装置31の図示しない記憶装置よって各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを単位時間t毎に継続して記録している。故障予測部42は、各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの値、値の変化の度合い、変化の傾向等から故障部位、故障原因および故障時期を予測するためのデータベースDを有している。データベースDは、アクチュエータの故障の予兆を判定するための基準となる情報である故障判定情報を格納している。故障予測部42は、取得した各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの値、値の変化の度合い、変化の傾向等から故障の予兆が含まれるか否かを判断する。つまり、故障予測部42は、学習モデル部40から取得した重み係数とデータベースDに格納された故障判定情報とを比較することにより、アクチュエータの故障の予兆の有無を判定する。また、故障予測部42は、故障部位、故障原因および故障時期を予測する。
【0072】
このように構成される制御システム34は、荷物移動操作具32から取得した目標移動速度信号Vdを積分器32aによって荷物Wの目標移動位置信号Pdに変換する。制御システム34は、変換した目標移動位置信号Pdを目標値フィルタ35によって荷物Wの目標軌道信号Pdαに変換する。制御システム34は、変換した目標軌道信号Pdαから目標作動量算出部36によって目標作動信号Mdを生成する。制御システム34は、生成した目標作動信号Mdを各アクチュエータに送信する。また、制御システム34は、変換した目標作動信号Mdを故障予兆検出システム37の物理モデル部38および学習モデル部40に送信する。
【0073】
物理モデル部38は、取得した目標作動信号Mdから各アクチュエータの理想出力信号Mdiを生成する。学習モデル部40は、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとを取得し、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分に基づいて各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。さらに、学習モデル部40は、目標作動信号Mdを補正する補正信号Mdcを生成する。学習モデル部40は、生成した補正信号Mdcを物理モデル部38に送信される目標作動信号Mdに加算する。つまり、学習モデル部40は、学習型逆動力学モデル41によって生成された補正信号Mdcによって理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分がゼロになるように目標作動信号Mdを補正する。
【0074】
学習モデル部40は、実出力信号Mdrに物理モデル部38が出力する理想出力信号Mdiが近似するように学習型逆動力学モデル41の各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。つまり、学習型逆動力学モデル41は、理想状態のクレーン1を基準として各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを変化させることによって、経年変化等によって変化した実際のクレーン1の特性を学習する。
【0075】
故障予兆検出システム37の故障予測部42は、学習モデル部40から単位時間t毎に各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを取得し、記録する。故障予測部42は、既に記録している各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnとの比較において、重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの値、値の変化の度合い、変化の傾向から故障の予兆が含まれるか否かをデータベースDに基づいて判断する。故障予測部42は、故障の予兆が含まれると判断した場合、故障部位、故障原因および故障時期等を予測する。また、故障予測部42は、故障の予兆がある部品についてのメンテナンス時期を決定する。
【0076】
故障予測部42は、例えば、第nサブシステムSMnの重み係数wnの時系列の変化の度合い、変化の傾向が通常の経年変化による変動の範囲から外れている場合、第nサブシステムSMnによって示されるアクチュエータに故障の予兆が含まれると判断する。また、故障予測部42は、重み係数wnの時系列の変化の度合い、変化の傾向から故障原因、故障時期を予測する。故障予測部42は、経年変化による通常の劣化具合と予測した故障時期とに基づいてクレーン1の稼働状態に影響が出ない時期且つメンテナンスコストが最も低くなる時期をメンテナンス時期として決定する。故障予測部42は、このような決定を行うための基準となる情報をデータベースDに記憶していてもよい。故障予測部42は、故障に関する情報およびメンテナンスに関する情報を操縦者等に報知する。
【0077】
このように構成される故障予兆検出システム37は、故障予測部42によって各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの変化から各アクチュエータの故障の予兆を検出する。故障予兆検出システム37は、各重み係数の遷移から故障の予兆を検出する。つまり、故障予兆検出システム37は、クレーン1の作動中に様々な作動条件での各アクチュエータの作動状態の変化を単位時間t毎に取得する各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを通じて継続して検出している。これにより、故障予兆検出システム37は、クレーン1の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる。
【0078】
また、故障予兆検出システム37は、サブモデル毎に重み係数w1、w2、w3・・・およびwnが設定された学習型逆動力学モデル41を有している。故障予兆検出システム37は、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分に応じて各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnが調整されたクレーン1の学習型逆動力学モデル41によって各アクチュエータの補正信号Mdcが算出される。つまり、故障予兆検出システム37は、理想状態のクレーン1を基準として学習型逆動力学モデル41によって各アクチュエータの作動量を算出しつつ、クレーン1の各アクチュエータの特性を学習する。これにより、故障予兆検出システム37は、クレーン1の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる。
【0079】
また、故障予兆検出システム37を含む制御システム34は、クレーン1の特性を学習することによって、ロバスト性の高い制御が可能になる。制御システム34は、クレーン1の特性変化による荷物Wの揺れを抑制しつつ操縦者の意図に沿った態様で荷物Wを移動させることができる。
【0080】
また、故障予兆検出システム37は、各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを単位時間t毎に制御装置31内において記録するので、クレーン1の作動中において、様々な作動条件での各アクチュエータの作動状態の変化を各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの変化として継続的に蓄積している。故障予兆検出システム37は、各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの変化の傾向、変化の度合い等が通常の傾向の範囲と異なる変化の傾向を示し、または通常の変化の度合いの範囲を超えた変化の度合いである場合、故障の予兆を含むと判断し、故障部位、故障原因、故障時期等を予測する。これにより、故障予兆検出システム37は、クレーン1の作動状態に影響されることなく、蓄積した各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの情報から故障の予兆を検出することができる。
【0081】
故障予兆検出システム37を備えるクレーン1は、様々な作動条件における各アクチュエータの作動状態の変化を、学習モデル部40の各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを通じて継続して検出している。これにより、クレーン1は、故障予兆検出システム37によって作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる。
【0082】
<第1実施形態における他の実施形態>
なお、第1実施形態において、制御システム34は、目標軌道信号Pdαから目標作動量算出部36によって生成した目標作動信号Mdによって各アクチュエータを制御する。しかしながら、制御システム34は、目標作動信号Mdをフィードバック制御部43、フィードフォワード制御部45等によって補正する構成でもよい。
【0083】
図6に示すように、制御システム34は、フィードバック制御部43、フィードフォワード制御部45を更に備える。
【0084】
フィードバック制御部43は、目標作動信号Mdと実出力信号Mdrの差分に基づいて、各アクチュエータのフィードバック補正信号Md1を生成する。フィードバック制御部43は、目標作動信号Mdを補正するフィードバック制御器44を有する。フィードバック制御器44は、目標作動量算出部36に直列に接続されている。
【0085】
フィードバック制御部43は、目標作動量算出部36から荷物Wの目標作動信号Mdを取得する。また、フィードバック制御部43は、クレーン1の各センサから実出力信号Mdrを取得する。フィードバック制御部43は、取得した目標作動信号Mdに取得した実出力信号Mdrをフィードバック(ネガティブフィードバック)する。フィードバック制御部43は、目標作動信号Mdに対する実出力信号Mdrの差分に基づいてフィードバック制御器44によって目標作動信号Mdを補正し、フィードバック補正信号Md1を算出する。
【0086】
フィードフォワード制御部45は、目標軌道信号Pdαから各アクチュエータのフィードフォワード補正信号Md2を生成する。フィードフォワード制御部45は、目標作動信号Mdを補正するフィードフォワード制御器46を有する。。フィードフォワード制御器46は、フィードバック制御器44と並列に接続されている。
【0087】
フィードフォワード制御部45は、目標値フィルタ35から取得した目標軌道信号Pdαからフィードフォワード制御器46によって各アクチュエータのフィードフォワード補正信号Md2を生成する。フィードフォワード制御部45は、生成したフィードフォワード補正信号Md2をフィードバック補正信号Md1に加算する。
【0088】
制御システム34は、フィードバック制御部43が算出したフィードバック補正信号Md1とフィードフォワード制御部45が算出したフィードフォワード補正信号Md2とをクレーン1の各アクチュエータに送信する。制御システム34は、フィードバック補正信号Md1とフィードフォワード補正信号Md2とを各アクチュエータに送信後、クレーン1の各センサが検出した実出力信号Mdrをフィードバック制御部43によって目標作動信号Mdに減算する。
【0089】
[実施形態2]
次に、
図7を用いて、本発明の第2実施形態に係るクレーン1Aについて説明する。
図7は、本発明に係る第2実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。なお、以下の実施形態に係るクレーン1Aは、
図1から
図6に示すクレーン1が適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指す。よって、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0090】
図7に示すように、クレーン1Aの故障予兆検出システム48を含む制御システム47は、荷物移動操作具32、旋回用センサ27、起伏用センサ30、伸縮用センサ28、旋回台カメラ7b(
図2参照)、制御装置31に含まれる目標値フィルタ35、目標作動量算出部36および故障予兆検出システム48を含む。制御システム47は、制御装置31の目標軌道算出部31a、ブーム位置算出部31bおよび作動信号生成部31cが協働することにより目標作動信号Md生成している。
【0091】
故障予兆検出システム48の学習モデル部40は、目標作動量算出部36の下流側に接続されている。学習モデル部40は、生成した補正信号Mdcを物理モデル部38が取得する目標作動信号Mdに加え合わせることが可能である。また、学習モデル部40は、目標作動量算出部36から各アクチュエータに入力される目標作動信号Mdに補正信号Mdcを加え合わせることが可能である。つまり、学習モデル部40は、生成した補正信号Mdcを物理モデル部38だけでなくクレーン1Aの入力信号である目標作動信号Mdに加え合わせることでクレーン1Aを制御している。
【0092】
上述のように、故障予兆検出システム48は、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分を縮小させるために算出した補正信号Mdcを各アクチュエータに入力される入力信号である目標作動信号Mdに加え合わせる。このように構成することで、故障予兆検出システム48は、クレーン1Aの各アクチュエータを制御する制御装置としての機能を有する。つまり、故障予兆検出システム48は、算出した補正信号Mdcによって目標作動信号Mdを補正することでクレーン1Aの実出力信号Mdrを理想状態のクレーン1Aの理想出力信号Mdiに近似させつつ、学習モデル部40の学習型逆動力学モデル41の各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの変化から各アクチュエータの故障の予兆を検出する。これにより、故障予兆検出システム48は、クレーン1Aの作動状態を正常に保ちながら、故障の予兆を検出することができる。
【0093】
[実施形態3]
次に、
図8を用いて、本発明の第3実施形態に係るクレーン1Bについて説明する。
図8は、本発明に係る第3実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。
【0094】
図8に示すように、クレーン1Bの故障予兆検出システム50を含む制御システム49は、荷物移動操作具32、旋回用センサ27、起伏用センサ30、伸縮用センサ28、旋回台カメラ7b(
図2参照)、制御装置31に含まれる目標値フィルタ35、目標作動量算出部36、フィードバック制御部43、フィードフォワード制御部45および故障予兆検出システム50を含む。制御システム49は、制御装置31の目標軌道算出部31a、ブーム位置算出部31bおよび作動信号生成部31cが協働することにより目標作動信号Md生成している。
【0095】
制御システム49は、フィードフォワード制御部45のフィードフォワード制御器46を重み係数w1、w2、w3・・・およびwnがそれぞれ割り当てられた複数の第nサブシステムSMnを有する学習型逆動力学モデルとして構成されている。この場合、制御システム49は、フィードフォワード制御部45が故障予兆検出システム48の学習モデル部としても機能する。フィードフォワード制御部45は、フィードバック制御器44から取得したフィードバック補正信号Md1を取得する。フィードフォワード制御部45は、物理モデル部38から理想出力信号Mdiを取得する。また、フィードフォワード制御部45は、クレーン1の各センサから実出力信号Mdrを取得する。フィードフォワード制御部45は、理想出力信号Mdiと実出力信号Mdrとの差分に基づいて、各サブシステムの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。フィードフォワード制御部45は、単位時間t毎に重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを故障予兆検出システム48の故障予測部42に送信する。
【0096】
また、フィードフォワード制御部45は、フィードフォワード制御器46を用いて各アクチュエータの出力を算出する。更に、フィードフォワード制御部45は、各アクチュエータの出力を逆伝達関数45aによって各アクチュエータの入力信号に変換し、フィードバック補正信号Md1を補正する補正信号としてフィードフォワード補正信号Md2を出力する。また、フィードフォワード制御部45は、物理モデル部38にフィードフォワード補正信号Md2を送信する。これにより、故障予兆検出システム48は、フィードフォワード制御部45を利用して故障の予兆を検出することができる。
【0097】
<その他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0098】
故障予兆検出システム37・48・50の故障予測部42は、取得した各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを制御装置31において単位時間t毎に記録している。しかしながら、故障予兆検出システム37・48・50は、外部のサーバーに無線等を介して送信してもよい。この場合、故障予測部42は、取得した各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを一定期間分まとめて、または単位時間t毎にサーバーに送信するように構成されている。また、故障予測部42は、サーバーから故障の予兆に関する情報を取得するように構成してもよい。このように構成することで、故障予測部42は、サーバーに蓄積された複数のクレーン1の各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnに基づいて故障の予兆の有無の検出、故障部位、故障時期等を判断することができる。これにより、故障予兆検出システム48は、クレーン1の作動状態に影響されることなく、蓄積した多数のクレーン1の各重み係数w1、w2、w3・・・およびwnの情報から故障の予兆をより精度よく検出することができる。
【0099】
故障予兆検出システム37・48・50は、クレーン1、1A、1Bの制御装置31に含まれている。しかしながら、故障予兆検出システム37・48・50は、クレーン1、1A、1Bを遠隔操作可能な携帯端末に設けられていてもよい。
【0100】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【0101】
[付記]
上述のように、本発明に係る故障予兆検出システムは、走行体に旋回台を介して起伏可能なブームが設けられた作業車における少なくとも一つのアクチュエータの故障の予兆を検出する故障予兆検出システムである。
【0102】
本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、
理想状態の作業車の特性を有する物理モデルを具備し、作業車の制御装置が生成したアクチュエータの入力信号を取得し、物理モデルにおける入力信号に対する理想出力信号を算出する物理モデル部と、
作業車におけるアクチュエータの特性を表す少なくとも一つのモデル伝達関数を含み、モデル伝達関数に重み係数が設定され、モデル伝達関数によって算出された入力信号に対する出力信号に重み係数を乗算する学習モデルを具備し、入力信号と、理想出力信号と、入力信号によって作動したアクチュエータの実出力信号とを取得し、理想出力信号と実出力信号との差分に基づいて重み係数を調整して、理想出力信号と実出力信号との差分を縮小させる補正信号を生成し、物理モデル部に入力される入力信号に補正信号を加え合わせる学習モデル部と、
学習モデル部が調整した重み係数を取得し、重み係数の変化からアクチュエータの故障の予兆を検出する故障予測部と、を備える。
【0103】
上述のように、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、物理モデル部が算出したアクチュエータの入力信号に対する理想出力信号と、アクチュエータの入力信号に対する実出力信号と、の差分を縮小させる補正信号を学習モデル部によって生成する。この際、学習モデル部は、重み係数を変数として補正信号を生成する。故障予兆検出システムは、故障予測部によって重み係数の変化から各アクチュエータの故障の予兆を検出する。このように構成される故障予兆システムは、実出力信号を理想出力信号に近づけるように変更された重み係数の遷移から故障の予兆を検出する。つまり、故障予兆検出システムは、作業車の作動中に様々な作動条件におけるアクチュエータの作動状態の変化を、重み係数を通じて継続して検出している。これにより、故障予兆検出システムは、作業車の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる。
【0104】
他の観点によれば、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、以下の構成を含むことが好ましい。学習モデル部は、補正信号をアクチュエータに入力される入力信号に加え合わせることで作業車を制御する。
【0105】
上述のように、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、理想出力信号と実出力信号との差分を縮小させるために算出した補正信号をアクチュエータに入力される入力信号に加え合わせる。このように構成することで、故障予兆検出システムは、作業車のアクチュエータを制御する制御装置としての機能を有する。つまり、故障予兆検出システムは、算出した補正信号によって入力信号を補正することで実際の作業車の出力を理想状態の作業車の出力に近似させつつ、重み係数の変化からアクチュエータの故障の予兆を検出する。これにより、故障予兆検出システムは、作業車の作動状態を正常に保ちながら、故障の予兆を検出することができる。
【0106】
他の観点によれば、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、以下の構成を含むことが好ましい。学習モデル部は、補正信号をフィードフォワード補正信号としてアクチュエータに入力するフィードフォワード制御部として構成される。
【0107】
上述のように、本発明の故障予兆検出システムは、理想出力信号と実出力信号との差分を縮小させるために算出した補正信号をフィードフォワード補正信号としてアクチュエータに入力される入力信号に加え合わせる。このように構成することで、故障予兆検出システムは、作業車のアクチュエータを制御するフィードフォワード制御部としての機能を有する。つまり、故障予兆検出システムは、算出した補正信号によって入力信号を補正することで実際の作業車の出力を理想状態の作業車の出力に近似させつつ、重み係数の変化からアクチュエータの故障の予兆を検出する。これにより、故障予兆検出システムは、作業車の作動状態を正常に保ちながら、故障の予兆を検出することができる。
【0108】
他の観点によれば、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、以下の構成を含むことが好ましい。補正信号は、重み係数が乗算されたアクチュエータの出力信号を逆伝達関数によって変換したアクチュエータの入力信号である。
【0109】
上述のように、本発明の故障予兆検出システムは、重み係数が設定された学習型の逆システムを有している。このように構成することで、故障予兆検出システムは、理想出力信号と実出力信号との差分に応じて重み係数が調整された逆システムによってアクチュエータの補正信号が生成される。つまり、故障予兆検出システムは、アクチュエータの入力信号から作業車の特性を学習するとともに、学習モデルによるアクチュエータの出力信号をアクチュエータの補正信号としてアクチュエータに入力される。これにより、故障予兆検出システムは、簡易な構成で作業車の制御装置に組み込むことができる。
【0110】
他の観点によれば、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、以下の構成を含むことが好ましい。故障予測部は、取得した重み係数を単位時間毎に記録または外部のサーバーに送信する。
【0111】
上述のように、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、重み係数を単位時間毎に記録または外部のサーバーに送信するので、作業車の稼働中に様々な作動条件でのアクチュエータの作動状態の変化を重み係数の変化として継続的に蓄積している。これにより、故障予兆検出システムは、作業車の作動状態に影響されることなく、蓄積した重み係数の情報から故障の予兆を検出することができる。
【0112】
他の観点によれば、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、以下の構成を含むことが好ましい。故障予測部は、取得した重み係数の変化から、対応するアクチュエータのメンテナンス時期または故障時期を予測する。
【0113】
上述のように、本発明に係る故障予兆検出システムの一態様は、重み係数の変化の傾向、変化の度合い等が通常の傾向の範囲と異なる変化の傾向を示し、または通常の変化の度合いの範囲を超えた変化の度合いである場合、故障の予兆を含むと判断する。つまり、故障予兆検出システムは、重み係数の蓄積データに基づいて故障の予兆の有無、故障の部位、故障の時期を検出する。また、故障予兆検出システムは、経年変化による通常の劣化と予測した故障時期とに基づいて作業車の稼働状態に影響が出ない時期且つメンテナンスコストが最も低くなる時期をメンテナンス時期として決定する。作業車の作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる。
【0114】
本発明に係る作業車の一態様は、走行体に旋回台を介して起伏可能なブームが設けられた作業車であって、故障予兆検出システムを備える。このように構成される作業車は、様々な作動条件におけるアクチュエータの作動状態の変化を、故障予兆検出システムにおける学習モデル部の重み係数を通じて継続して検出している。これにより、作業車は、故障予兆検出システムによって作動状態に影響されることなく、故障の予兆を検出することができる。
【0115】
2021年3月5日出願の特願2021-35622の日本出願に含まれる明細書、図面、および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、移動式クレーンに限らず、種々の作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 クレーン
9 ブーム
31 制御装置
32 荷物移動操作具
34 制御システム
37 故障予兆検出システム
38 物理モデル部
39 逆動力学モデル
40 学習モデル部
41 学習型逆動力学モデル
42 故障予測部
W 荷物
Vd 目標移動速度信号
Pd 目標移動位置信号
Pdα 目標軌道信号
Mdr 実出力信号
Mdi 理想出力信号
w1、w2、w3、w4 重み係数