(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】界磁巻線型回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 19/26 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
H02K19/26 Z
(21)【出願番号】P 2023506911
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007720
(87)【国際公開番号】W WO2022196285
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021045252
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 正弘
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140763(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010934(WO,A1)
【文献】特開2006-109663(JP,A)
【文献】特開平11-018337(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0035501(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コア(
51,151)及び多相の固定子巻線(
52,152)を有する固定子(
50,150)と、
回転子コア(
61,161)、周方向において所定間隔で設けられてかつ前記回転子コアから径方向に突出する主極部(
62,162)、及び前記主極部に巻回された界磁巻線(
70,170)を有し、前記界磁巻線に界磁電流が流れることにより周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成される回転子(
60,160)と、
を備え、
前記回転子は、径方向において前記固定子の外側に配置されており、
前記界磁巻線は、第1巻線部(
71a,171a)及び第2巻線部(
71b,171b)の直列接続体を有し、
前記第1巻線部及び前記第2巻線部のそれぞれが前記各主極部に巻回され、前記界磁巻線に界磁電流を誘起させるための高調波電流を前記固定子巻線に流す制御を行う制御部(30)と、
前記直列接続体の両端のうち、前記第1巻線部側に一端が接続され、前記第2巻線部側に他端が接続されたダイオード(
80,180)と、
前記第2巻線部に並列接続されたコンデンサ(
90,190)と、を備え、
前記第1巻線部及び前記コンデンサを含む直列共振回路と、前記第2巻線部及び前記コンデンサを含む並列共振回路とが構成されており、
前記回転子において径方向内側の周面のうち、径方向において前記固定子巻線のコイルサイドと対向する周面から軸方向の端部側にずれた周面に、前記ダイオード及び前記コンデンサが設けられている、界磁巻線型回転電機
(40)。
【請求項2】
前記固定子コア
(51)のうち径方向において前記回転子
(60)側の周面に前記固定子巻線
(52)が設けられており、
前記固定子コアから径方向において前記回転子側に突出するティースが設けられていない、請求項1に記載の界磁巻線型回転電
機。
【請求項3】
前記制御部は、前記高調波電流の周波数を、前記直列共振回路の共振周波数近傍の周波数、又は前記並列共振回路の共振周波数近傍の周波数に設定する、請求項
1又は2に記載の界磁巻線型回転電機。
【請求項4】
各相の前記固定子巻線は、軸方向に延びかつ周方向に離間して設けられる一対の中間導線部(52U+~52W-)と、軸方向一端側及び他端側に設けられ一対の前記中間導線部を環状に接続する渡り部(54)と、を有し、一対の前記中間導線部及び前記各渡り部にて導線材(CR)が多重に巻回されて構成されており、
前記中間導線部において、前記導線材の径方向の長さ寸法(E1)が、前記導線材の周方向の長さ寸法(E2)よりも大きい、請求項1~
3のいずれか1項に記載の界磁巻線型回転電機。
【請求項5】
各相の前記固定子巻線は、軸方向に延びかつ周方向に並べて設けられる中間導線部(52U+~52W-)を有し、
周方向に隣り合う前記中間導線部同士が当接している、請求項1~
3のいずれか1項に記載の界磁巻線型回転電機。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年3月18日に出願された日本出願番号2021-045252号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、界磁巻線型回転電機に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、周方向において所定間隔で設けられてかつ回転子コアから径方向に突出する主極部と、主極部に巻回された界磁巻線とを有する回転子を備える界磁巻線型回転電機が知られている。界磁巻線に界磁電流が流れることにより、周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
回転電機は、径方向において回転子に対向して配置される固定子を備えている。固定子は、固定子コアと、周方向において所定間隔で設けられてかつ固定子コアから径方向において回転子側に突出するティースとを備えている。ティースには、固定子巻線が巻回されている。
【0006】
ティースが回転子側に突出している回転電機においては、固定子の磁路及び巻線スペースの確保のため、回転子の径方向における寸法が制約され得る。この場合、界磁巻線の配置スペースが制約され、界磁巻線の断面積が小さくなる。その結果、界磁巻線の抵抗値が大きくなり、界磁巻線で発生する損失が増加したり、磁極磁束の大きさが低下したりする懸念がある。
【0007】
本開示は、回転子の径方向における寸法の制約を極力解消できる界磁巻線型回転電機を提供することを主たる目的とする。
【0008】
本開示は、固定子コア及び多相の固定子巻線を有する固定子と、
回転子コア、周方向において所定間隔で設けられてかつ前記回転子コアから径方向に突出する主極部、及び前記主極部に巻回された界磁巻線を有し、前記界磁巻線に界磁電流が流れることにより周方向に極性が交互となる複数の磁極が形成される回転子と、
を備え、
前記固定子コアのうち径方向において前記回転子側の周面に前記固定子巻線が設けられており、
前記固定子コアから径方向において前記回転子側に突出するティースが設けられていない。
【0009】
本開示では、固定子コアのうち径方向において回転子側に固定子巻線が設けられており、固定子コアから径方向において回転子側に突出するティースが設けられていない。このため、回転子の径方向における寸法の制約を極力解消でき、界磁巻線の配置スペースの制約を極力解消できる。これにより、界磁巻線の断面積を大きくでき、界磁巻線で発生する損失を低減したり、磁極磁束の大きさを増加したりすることができる。
【0010】
また、ティースが設けられていないため、回転子の回転に伴って主極部にティースが対向したり対向しなくなったりすることがない。これにより、回転子及び固定子の磁気回路の磁気抵抗の変動を抑制でき、ひいては回転電機のトルクリップルを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。その図面は、
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る回転電機の制御システムの全体構成図であり、
【
図2】
図2は、インバータ及び回転電機の電気的構成を示す図であり、
【
図3】
図3は、ロータ及びステータの横断面図であり、
【
図4】
図4は、ロータに備えられる電気回路を示す図であり、
【
図5】
図5は、基本波電流及び高調波電流等の推移を示す図であり、
【
図7】
図7は、誘起電圧の発生パターンを示す図であり、
【
図8】
図8は、パターン2,3に対応する電気回路を示す図であり、
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る固定子巻線の構成を示す図であり、
【
図10】
図10は、第3実施形態に係るロータ及びステータの横断面図であり、
【
図12】
図12は、その他の実施形態に係るロータ及びステータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本開示に係る回転電機を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
まず、
図1を用いて、回転電機を備える制御システムについて説明する。制御システムは、直流電源10、インバータ20、制御部30及び回転電機40を備えている。回転電機40は、界磁巻線型の同期機である。本実施形態において、制御部30は、回転電機40が、電動機兼発電機であるISG(Integrated Starter Generator)又はMG(Motor Generator)として機能するように、回転電機40を制御する。例えば、回転電機40、インバータ20及び制御部30を備えて機電一体型駆動装置が構成されたり、回転電機40、インバータ20及び制御部30それぞれが各コンポーネントで構成されたりしている。
【0014】
図1を用いて、回転電機40の概要について説明する。回転電機40は、ハウジング41と、ハウジング41内に収容される固定子50及び回転子60とを備えている。本実施形態の回転電機40は、回転子60が固定子50の径方向内側に配置されたインナロータ型のものである。
【0015】
固定子50は、固定子コア51と、固定子巻線52とを備えている。固定子巻線52は、例えば銅線で構成されており、電気角で互いに120°ずれた状態で配置されたU,V,W相巻線52U,52V,52Wを含む。
【0016】
回転子60は、回転子コア61と、界磁巻線70とを備えている。界磁巻線70は、例えば圧縮成形にて構成されている。これにより、占積率が向上し、界磁巻線70の組付性が向上する。なお、界磁巻線70は、例えばアルミ線で構成されていればよい。アルミ線は、比重が小さく、回転子60が回転する場合における遠心力を低減できる。また、アルミ線は、銅線に比べて強度及び硬さが低く、圧縮成形する場合に好適である。当然、銅線で構成してもよい。界磁巻線70については、後に詳述する。
【0017】
回転子コア61の中心孔には、回転軸32が挿通されている。回転軸32は、軸受42を介してハウジング41に回転可能に支持されている。
【0018】
図2に示すように、インバータ20は、U,V,W相上アームスイッチSUp,SVp,SWpと、U,V,W相下アームスイッチSUn,SVn,SWnとの直列接続体を備えている。U,V,W相上アームスイッチSUp,SVp,SWpと、U,V,W相下アームスイッチSUn,SVn,SWnとの接続点には、U,V,W相巻線52U,52V,52Wの第1端が接続されている。U,V,W相巻線52U,52V,52Wの第2端は、中性点で接続されている。すなわち、本実施形態において、U,V,W相巻線52U,52V,52Wは星形結線されている。なお、本実施形態において、各スイッチSUp~SWnは、IGBTである。各スイッチSUp~SWnには、フリーホイールダイオードが逆並列に接続されている。
【0019】
U,V,W相上アームスイッチSUp,SVp,SWpのコレクタには、直流電源10の正極端子が接続されている。U,V,W相下アームスイッチSUn,SVn,SWnのエミッタには、直流電源10の負極端子が接続されている。なお、直流電源10には、平滑コンデンサ11が並列接続されている。
【0020】
続いて、
図3を用いて、固定子50及び回転子60について説明する。
【0021】
固定子50及び回転子60は、いずれも回転軸32とともに同軸上に配置されている。以下の記載では、回転軸32が延びる方向を軸方向とし、回転軸32の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸32を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
【0022】
回転子60は、軟磁性体からなり、例えば積層鋼板により構成されている。回転子60は、円筒状の回転子コア61と、回転子コア61から径方向外側に向かって突出する複数の主極部62とを有している。本実施形態において、主極部62は、周方向において等間隔に8個設けられている。
【0023】
界磁巻線70は、第1巻線部71a及び第2巻線部71bを備えている。各主極部62において、径方向外側に第1巻線部71aが巻回され、第1巻線部71aよりも径方向内側に第2巻線部71bが巻回されている。各主極部62において、第1巻線部71a及び第2巻線部71bの巻方向は互いに同じになっている。また、周方向に隣り合う主極部62のうち、一方に巻回された各巻線部71a,71bの巻方向と、他方に巻回された各巻線部71a,71bの巻方向とが逆になっている。このため、周方向に隣り合う主極部62同士で互いに磁化方向が逆になる。
【0024】
図4に、共通の主極部62に巻回された各巻線部71a,71bを備える回転子60側の電気回路を示す。回転子60には、整流素子としてのダイオード80と、コンデンサ90とが設けられている。ダイオード80のカソードには、第1巻線部71aの第1端が接続され、第1巻線部71aの第2端には、第2巻線部71bの第1端が接続されている。第2巻線部71bの第2端には、ダイオード80のアノードが接続されている。第2巻線部71bには、コンデンサ90が並列接続されている。
図4において、L1は第1巻線部71aのインダクタンスを示し、L2は第2巻線部71bのインダクタンスを示し、Cはコンデンサ90の静電容量を示す。
【0025】
続いて、制御部30について説明する。なお、制御部30の各機能の一部又は全部は、例えば、1つ又は複数の集積回路等によりハードウェア的に構成されていてもよい。また、制御部30の各機能は、例えば、非遷移的実体的記録媒体に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータによって構成されていてもよい。
【0026】
制御部30は、インバータ20を構成する各スイッチSUp~SWnをオンオフする駆動信号を生成する。詳しくは、制御部30は、回転電機40を電動機として駆動させる場合、直流電源10から出力された直流電力を交流電力に変換してU,V,W相巻線52U,52V,52Wに供給すべく、各アームスイッチSUp~SWnをオンオフする駆動信号を生成し、生成した駆動信号を各アームスイッチSUp~SWnのゲートに供給する。一方、制御部30は、回転電機40を発電機として駆動させる場合、U,V,W相巻線52U,52V,52Wから出力された交流電力を直流電力に変換して直流電源10に供給すべく、各アームスイッチSUp~SWnをオンオフする駆動信号を生成する。
【0027】
制御部30は、各相巻線52U,52V,52Wに基本波電流及び高調波電流の合成電流を流すように各スイッチSUp~SWnをオンオフする。基本波電流は、
図5(a)に示すように、回転電機40にトルクを発生させることを主とする電流である。高調波電流は、
図5(b)に示すように、界磁巻線70を励磁することを主とする電流である。
図5(c)は、基本波電流と高調波電流との合成電流としての相電流を示す。
図5に示す縦軸の値は、
図5(a)~
図5(c)それぞれに示す波形の大きさの相対関係を示す。各相巻線52U,52V,52Wに流れる相電流IU,IV,IWは、
図6に示すように、電気角で120°ずつずれている。なお、高調波電流は、三角波の電流であってもよい。
【0028】
本実施形態では、
図5(a),(b)に示すように、高調波電流の包絡線が、基本波電流の1/2の周期を有している。包絡線を、
図5(b)に一点鎖線にて示す。そして、包絡線がそのピーク値となるタイミングが、基本波電流がそのピーク値となるタイミングからずれている。制御部30は、基本波電流及び高調波電流それぞれの振幅及び周期を独立に制御する。
図5(b)に示す高調波電流を流すことにより、各相巻線52U,52V,52Wに流れる相電流の最大値を低減でき、インバータ20の容量を増やさずに回転電機40のトルクを指令されたトルクにすることができる。
【0029】
ちなみに、高調波電流としては、
図5(b)に示すものに限らず、
図5(b)に示す高調波電流の位相をずらしたものであってもよい。例えば、高調波電流としては、
図5(b)に示す高調波電流の位相を、基本波電流の周期の1/4だけずらしたものであってもよい。
【0030】
本実施形態では、第1巻線部71a、コンデンサ90及びダイオード80からなる直列共振回路が構成され、第2巻線部71b及びコンデンサ90からなる並列共振回路が構成されている。直列共振回路の共振周波数である第1共振周波数をf1とし、並列共振回路の共振周波数である第2共振周波数をf2とする。各共振周波数f1,f2は、下式(eq1),(eq2)で表される。
【0031】
【0032】
【数2】
各相巻線52U,52V,52Wに高調波電流が流れると、周方向において隣り合う主極部62、回転子コア61及び固定子コア51を含む磁気回路に主磁束の高調波による変動が発生する。主磁束の変動が起きることにより、第1,第2巻線部71a,71bそれぞれに誘起電圧が発生し、第1,第2巻線部71a,71bに電流が誘起される。この際、
図7のパターン1,4に示すように、第1,第2巻線部71a,71bそれぞれに極性の同じ誘起電圧が発生する場合、第1,第2巻線部71a,71bそれぞれの誘起電流が相殺されないため、誘起電流が増加する。ダイオード80により、第1,第2巻線部71a,71bに流れる電流が一方向に整流される。これにより、ダイオード80により整流された方向に界磁巻線70に界磁電流が流れ、界磁巻線が励磁される。なお、
図8において、e1は第1巻線部71aに発生する誘起電圧を示し、e2は第2巻線部71bに発生する誘起電圧を示す。
【0033】
一方、高調波電流が流れると、主磁束の変動の他に、漏れ磁束が発生し易くなる。漏れ磁束は、周方向に隣り合う主極部62の一方から他方へと回転子コア61を介さずに横切るように流れ、界磁巻線70に鎖交する。この際、各巻線部71a,71bに鎖交する漏れ磁束も発生する。漏れ磁束が界磁巻線70に鎖交すると、第1巻線部71a内において、ある方向の誘起電圧が発生し、また、第2巻線部71b内においては異なる方向の誘起電圧が発生する場合がある。その結果、第1,第2巻線部71a,71bそれぞれに誘起される電流の合計値が減少し、ひいては界磁巻線70に流れる界磁電流が減少する。
【0034】
そこで、本実施形態では、第2巻線部71bにコンデンサ90が並列接続されている。このため、
図7のパターン2,3に示すように、第1,第2巻線部71a,71bそれぞれに発生する誘起電圧が逆極性となる場合であっても、コンデンサ90を介して誘起電流が流れるため、第1,第2巻線部71a,71bに流れる誘起電流は、互いに相殺されることがない。このため、
図8(a)に示すように、第1巻線部71aで誘起された電流と、第2巻線部71bで誘起された電流とがコンデンサ90を介してダイオード80のアノード側へと流れたり、
図8(b)に示すように、コンデンサ90から第2巻線部71bを介してダイオード80のアノード側へと電流が流れたりする。その結果、界磁巻線70に流れる界磁電流を増加させることができる。
【0035】
本実施形態において、制御部30は、高調波電流の周波数を第1共振周波数f1近傍の周波数、又は第2共振周波数f2近傍の周波数に設定する。これにより、励磁性を高めて高調波電流の振幅を低減でき、回転電機40のトルクリップルを低減できる。
【0036】
図3の説明に戻り、固定子50は、軟磁性体からなり、例えば積層鋼板により構成されている。固定子50は、円筒状の固定子コア51を備えている。本実施形態において、固定子50は、スロットを形成するためのティースを有していないティースレス構造のものである。このため、固定子コア51の径方向における内周面は、凹凸のない周面になっている。
【0037】
U相巻線52Uは、軸方向に延びかつ周方向に並べて設けられるコイルサイドとしてのU相中間導線部52U+,52U-を有し、V相巻線52Vは、軸方向に延びかつ周方向に並べて設けられるコイルサイドとしてのV相中間導線部52V+,52V-を有し、W相巻線52Wは、軸方向に延びかつ周方向に並べて設けられるコイルサイドとしてのW相中間導線部52W+,52W-を有している。各中間導線部の+,-の符号は、電流の流通方向が逆であることを示す。中間導線部において、径方向の長さ寸法は、周方向の長さ寸法よりも小さくなっている。また、本実施形態では、周方向に隣り合う中間導線部同士が当接している。
【0038】
以上詳述した本実施形態の効果について説明する。
【0039】
固定子コア51から径方向内側に突出するティースが設けられていない。このため、固定子50の内径寸法を小さくでき、回転子60の外径寸法を大きくできる。これにより、界磁巻線70の配置スペースを増やすことができ、界磁巻線70の断面積を大きくできる。その結果、界磁巻線70の電気抵抗値[Ω]を小さくでき、界磁巻線70で発生する損失を低減できる。
【0040】
また、上記電気抵抗値を小さくできることにより、界磁電流を増加させて磁極磁束を大きくできる。その結果、回転電機40のトルクを高めることができる。
【0041】
ティースが設けられていないため、回転子60の回転に伴って主極部62にティースが対向したり対向しなくなったりすることがない。これにより、回転子60及び固定子50の磁気回路の磁気抵抗の変動を抑制でき、ひいては回転電機40のトルクリップルを低減できる。
【0042】
ティースが設けられていないため、回転子60の外径を大きくでき、界磁磁束の作用面の面積と作用径を大きくでき、回転電機40のトルクを高めることができる。
固定子巻線52において、周方向に隣り合う中間導線部同士が当接している。このため、中間導線部の径方向における厚さ寸法を小さくでき、その分、回転子60の外径寸法を大きくできる。これにより、界磁巻線70の配置スペースを増やすことができ、界磁巻線70の断面積を大きくできる。その結果、界磁巻線70の抵抗値を小さくでき、界磁電流を増加させることができる。
【0043】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図9に示すように、固定子巻線52の構成が変更されている。
図9(a)は、固定子巻線52を構成するU相巻線52Uについて、周方向に展開して示した図である。
図9(a)に示すように、U相巻線52Uは、集中巻された導線材CRからなる部分巻線PWが直列接続されて構成されている。以下、U相を例にして説明する。
【0044】
部分巻線PWは、軸方向に延びかつ周方向に離間して設けられる一対の導線部53と、軸方向一端側及び他端側に設けられ一対の導線部53を環状に接続する渡り部54とを有している。
図9(a)には、3つの部分巻線PWが示されている。周方向に隣り合う部分巻線PWのうち、図中矢印にて示すように、電流の流通方向が同じ導線部53により中間導線部52U+,52U-が構成されている。
図9(a),(b)に示す例では、電流の流通方向が第1方向である6つの導線部53により中間導線部52U+が構成され、電流の流通方向が第1方向とは逆の第2方向である6つの導線部53により中間導線部52U-が構成されている。
【0045】
図9(b)は、各相の中間導線部を周方向に展開して示した図であり、
図9(c)は、中間導線部52U+を構成する各導線材CRの横断面図である。
図9(b),(c)に示すように、コイルサイドであるU相の中間導線部において、導線材CRの径方向の長さ寸法E1は、導線材CRの周方向の長さ寸法E2よりも大きい。
【0046】
回転子60からの主磁束が中間導線部を鎖交する場合、導線材CRに流れる電流は、導線材CRの周方向端部に偏りやすい。この場合、導線材CRの見かけ上の電気抵抗値[Ω]が大きくなってしまう。この点、本実施形態では、中間導線部において、導線材CRの径方向の長さ寸法E1が、導線材CRの周方向の長さ寸法E2よりも大きい。これにより、電流が偏ったとしても、導線材CRの径方向に延びる部分を電流流通部分として確保でき、見かけ上の電気抵抗値の増加を抑制できる。その結果、固定子巻線で発生する損失を低減できる。
【0047】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図10及び
図11に示すように、回転電機は、回転子160が固定子150の径方向外側に配置されたアウタロータ型のものである。
【0048】
固定子150は、固定子コア151と、3相の固定子巻線152とを備えている。回転子160は、円筒状の回転子コア161と、界磁巻線170とを備えている。回転子コア161に対して回転電機の回転軸132が固定されている。回転子160及び固定子150は同軸に配置されている。なお、
図10及び
図11では、回転子コア161を回転軸132に対して固定するための部材の図示が省略されている。
【0049】
回転子160は、軟磁性体からなり、例えば積層鋼板により構成されている。回転子160は、円筒状の回転子コア161と、回転子コア161から径方向内側に向かって突出する複数の主極部162と、界磁巻線170とを有している。本実施形態において、主極部162は、周方向において等間隔に8個設けられている。
【0050】
界磁巻線170は、第1巻線部171a及び第2巻線部171bを備えている。第1巻線部171aは、第1実施形態の第1巻線部71aに対応し、第2巻線部171bは、第1実施形態の第2巻線部71bに対応している。各主極部162において、径方向内側に第1巻線部171aが巻回され、第1巻線部171aよりも径方向外側に第2巻線部171bが巻回されている。各主極部162において、第1巻線部171a及び第2巻線部171bの巻方向は互いに同じになっている。また、周方向に隣り合う主極部162のうち、一方に巻回された各巻線部171a,171bの巻方向と、他方に巻回された各巻線部171a,171bの巻方向とが逆になっている。このため、周方向に隣り合う主極部162同士で互いに磁化方向が逆になる。
【0051】
回転子160は、ダイオード180及びコンデンサ190を備えている。ダイオード180は、第1実施形態のダイオード80に対応し、コンデンサ190は、第1実施形態のコンデンサ90に対応している。界磁巻線170、ダイオード180及びコンデンサ190により構成された直列,並列共振回路を含む電気回路は、第1実施形態の
図4の回路と同じである。
【0052】
固定子150は、軸方向において、回転子160における主極部162に径方向に対向するコイルサイドに相当する部分と、そのコイルサイドの軸方向外側であるコイルエンドに相当する部分とを有している。この場合、固定子コア151は、軸方向においてコイルサイドに相当する範囲で設けられている。
【0053】
固定子巻線152は、複数の相巻線を有し、各相の相巻線が周方向に所定順序で配置されることで円筒状に形成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の相巻線を用いることで、固定子巻線52が3相の相巻線を有する構成となっている。各相の固定子巻線152は、軸方向に延びるとともにコイルサイドを含む範囲に配置された中間導線部と、周方向に隣り合う同相の中間導線部同士を接続する渡り部とを有している。本実施形態では、周方向に隣り合う中間導線部同士が当接している。
【0054】
固定子コア151は、軟磁性体からなり、例えば積層鋼板で構成されている。固定子コア151は、円筒状をなしている。本実施形態において、固定子150は、スロットを形成するためのティースを有していないティースレス構造のものである。このため、固定子コア151の径方向における外周面は、凹凸のない周面になっている。これにより、例えば、界磁巻線170を固定するための部材が必要無くなり、界磁巻線170の配置スペースを増やすことができる。その結果、界磁巻線70の抵抗値を小さくでき、界磁巻線70で発生する損失を低減したり、界磁電流を増加させて磁極磁束を大きくしたりできる。
【0055】
本実施形態では、回転子コア161において径方向の内周面のうち、径方向において固定子巻線152のコイルサイドと対向する周面から軸方向の端部側にずれた周面に、ダイオード180及びコンデンサ190が設けられている。
【0056】
固定子巻線152への通電に伴い発生する磁束の影響は、回転子コア161の内周面のうち、径方向において固定子巻線152のコイルサイドと対向する周面において大きい。この点、本実施形態によれば、固定子巻線152への通電に伴い発生する磁束がダイオード180及びコンデンサ190に及ぼす影響を抑制できる。その結果、例えば各共振回路の共振周波数f1,f2が設計時に想定した周波数から大きくずれることを抑制でき、固定子巻線152への通電に伴い発生する磁束が界磁電流に及ぼす影響を好適に抑制できる。また、本実施形態によれば、界磁電流が流れることに伴い発生する界磁磁束がダイオード180及びコンデンサ190に及ぼす影響も抑制できる。
【0057】
ダイオード180及びコンデンサ190が回転子コア161の内周面に配置されている。このため、回転子160の回転に伴ってダイオード180及びコンデンサ190に遠心力が作用したとしても、ダイオード180及びコンデンサ190が回転子コア161から外れる等の不都合の発生を抑制できる。
【0058】
固定子巻線152及び界磁巻線170から離れた位置にダイオード180及びコンデンサ190を配置できるため、固定子巻線152及び界磁巻線170で発生する熱がダイオード180及びコンデンサ190に及ぼす影響を抑制できる。
【0059】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0060】
・回転電機としては、第3実施形態に例示したものに限らず、例えば
図12に示すものであってもよい。
図12において、先の
図10,
図11に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。回転電機は、円筒状をなす円筒部200と、円板状の端板部201とを備えている。円筒部200の径方向における内周面には、回転子コア161の径方向における外周面が固定されている。円筒部200の軸方向端部には、端板部201の一端が接続され、端板部201の他端には回転軸132が接続されている。円筒部200及び回転子160は同軸に配置されている。なお、円筒部200及び端板部201は、磁性材料であってもよいし、非磁性材料であってもよい。
【0061】
円筒部200において径方向の内周面のうち、径方向において固定子巻線152のコイルサイドと対向する周面から軸方向の端部側にずれた周面に、ダイオード180及びコンデンサ190が設けられている。この場合であっても、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0062】
・第3実施形態において、ティースが設けられている固定子150が用いられてもよい。
【0063】
・固定子コアの周面に、径方向に突出して、かつ、ティースとして機能しない凸部が設けられていてもよい。この場合、凸部の径方向における長さ寸法は、例えば、中間導線部の径方向における長さ寸法の1/2未満であればよい。
【0064】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0065】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。